. 若き知
2020年10月19日「菅政権の内閣官房参与にもリフレ派が任命される」

 加藤勝信官房長官は13日の記者会見で、宮家邦彦・立命館大客員教授、高橋洋一・嘉悦大教授ら6人を内閣官房参与に任命したと発表した。宮家氏は「外交」、高橋氏は「経済・財政政策」を担当する。このほかに任命されたのは、「感染症対策」で岡部信彦・川崎市健康安全研究所長。「経済・金融」で熊谷亮丸・大和総研チーフエコノミスト。「産業政策」で中村芳夫・経団連顧問、「デジタル政策」で村井純・慶応大教授。いずれも13日付(13日付朝日新聞)。

 この発表を受けて、市場ではやや動揺というかさざ波が立った。それはいわゆるリフレ派を代表すると思われるひとり、高橋洋一氏の名前が挙がったためである。

 リフレ派といえば、安倍政権時代にも内閣官房参与に浜田宏一氏や本田悦朗氏がやはり任命されていた。いわば高橋洋一氏はこの両者の後任のような格好となるのか。

 2012年末の衆院選での自公圧勝の圧勝による安倍政権の誕生とともに生まれたアベノミクスと呼ばれた政策には、当然ながら高橋洋一氏らのリフレ派の考え方が採られていたとみられる。

 2012年末の衆院選での自公圧勝の圧勝による安倍政権の官房長官となったのが、現在の菅総理であるが、すでに当時から菅官房長官と高橋洋一氏は頻繁に会っていたとみられている。この意味でもアベノミクスには菅官房長官を通じて高橋洋一氏が絡んでいた可能性は十分に考えられる。

 ただし、現在のリフレ派、特に高橋洋一氏は、日銀の異次元緩和でも物価が予定通りに上がらなかったのは、消費増税の影響であると主張している。それでも安倍政権時代に消費増税は延期はあったものの2度行っていた。

 菅氏が自民党総裁になった際にも将来の消費増税に言及はしていた。このあたり、麻生副総理兼財務相の影響力などもあったのかもしれないが、少なくとも消費減税に言及することはなかった。

 そうはいっても菅政権は安倍政権を引き継ぐと主張し、それは金融財政政策も同様ということになり、さらにリフレ色を強める可能性もある。

 すでに日銀は大規模の金融緩和策を7年に渡り続けている。まだ緩和の余地はあると黒田日銀総裁は主張するが、それは現実には限られたものとなろう。金融緩和の限界が見えてきたなかで、新型コロナウイルス感染拡大による経済への影響も大きくなり、その対応は財政に主軸が移っている。2020年度の歳出規模はすでに補正を含め、160兆円にも膨らんでいる。これは一時的なものとなるとはどうも言えなくなってきたようにも思われる。


2020年10月16日「金融機関における在宅勤務の今後」

 「金融機関における在宅勤務の拡がりとシステム・セキュリティ面の課題」というレポートが日銀のサイトにアップされたが、今回は金融機関における在宅勤務の今後について考えてみたい。

 国内での新型コロナウイルスの感染拡大を受け、感染拡大を防止する観点から人の移動の制限の一環として、政府よりテレワーク等の推進が呼びかけられ、これに伴い在宅勤務の利用が急速に拡がった。これは金融機関にとっても同様であった。

 インターネットやパソコンの普及によって、現場に赴く必要がない仕事に関しては、自宅で仕事が可能な環境は整いつつあった。私自身も10年前から自宅にてパソコンとインターネットを使って仕事をしていた。

 しかし、私のようなフリーランスはさておき、会社などに勤めている人にとっては仕事は会社で行うものという概念が蔓延していたというか、それが普通になっていた。しかし、その概念を新型コロンウイルスが大きく変えてきた。

 しかし、突然、在宅でテレワークを行うというのもなかなか無理があったと思う。インターネットの回線、無線LAN、パソコン、さらに家のなかで仕事を行う場所の確保が必要になる。このあたりの環境が整えられたとしても、金融機関に限らずセキュリティの問題などもあったはずである。

 しかし、そのような環境次第に整えられたようで、日銀が行った金融機関に対するアンケートでも、金融機関においても在宅勤務の導入が大きく進展したことが確認されたそうである。

 在宅勤務の推進によって、自宅で仕事をすることによる良い点、悪い点を社員や会社が認識しつつある。仕事の効率がどちらが上がるかという議論にあまり意味はない。まさに働き方改革として、仕事の場所の選択肢が増えたとともに、通勤というある意味、無駄な時間を有効活用することも可能となる。ちなみに10年間テレワークを行った結果、太ってしまったのだが、通勤はそれなりに良い運動であったという利点もあることを付け加えたい。

 それはさておき、金融機関でも自宅で仕事が可能となるとともに、ネット取引の拡大などにより、支店営業の在り方なども今後大きく変わってくる可能性がある。これは新型コロナウイルスの感染拡大が収まったとしても、この流れを変えることは出来ないと思う。


2020年10月16日「先進国の政府債務のGDP比は過去最大に」

 国際通貨基金(IMF)は14日公表した報告書で、2020年の世界全体の政府債務が、世界の国内総生産(GDP、約90兆ドル)にほぼ匹敵する規模になると予測した。GDP比で過去最大の98.7%となる(15日付日経新聞)。

 すでに日本でも過去最大規模となる第二次補正予算を含め、今年度の歳出額は160兆円規模となり、過去最大となっている。2020年度の当初の新規国債の発行額は約33兆円であった。しかし、第一次と第二次補正予算の編成による増発を受けて、新規財源債は90兆円に及ぶ。つまり約3倍近くに膨れ上がった。借換債などを含めた国債発行総額も当初の153兆円程度から第二次補正後は253兆円と100兆円もの増額となっている。

 日経新聞によると、IMFは2021年の先進国の政府債務はGDP比125%と予測しており、1880年代からの長期データでみると、第2次世界大戦直後の1946年(124%)を超えて過去最大となる。33年の大恐慌時(80%)や、2009年の金融危機直後(89%)を大きく上回る。

 しかしこれで収まるわけではない。欧米では新型コロナウイルスの感染が再拡大している。米国では大統領選挙を控えて、共和党と民主党はそれぞれ追加経済対策を打出しているが、大統領選挙までまとまる気配はない。しかし、大統領選挙が終われば、誰が大統領になろうとも大規模な経済対策が打ち出されるとみられる。むろんこの財源は国債発行によって賄われるであろう。

 日本国内でも自民党が40兆円規模の第三次補正予算を要求かとも報じられているが、そうなると2020年度の歳出規模は200兆円あまりとなる。この「第三次」を入力した際に「大惨事」と変換されたのだが、このようなペースで債務を増加させるといずれ「大惨事」を招きかねない。

 巨額債務を帳消しにするには急激なインフレや預金封鎖、新円切り換えなど結果として国民負担となる。日銀保有の国債は帳消しにするとなれば、その裏付け債務となる我々の預貯金や金融機関が日銀に預ける当座預金残高を帳消しにすることになる。つまりは、昔の国王などが行った債務の取り消しと同様の手段となる。

 補正予算の財源となる建設国債や赤字国債は将来の税収を担保に発行されるものである。もし第三次補正予算によって、今回も個人に5万円だか10万円とか支給されるとなった場合、その資金は自然に湧き出たものではなく、将来世代が負う債務となる。そう考えれば、無駄なバラマキはこのようなコロナ危機の状況であるならに特に避けねばならない。


2020年10月15日「イタリアやギリシャの10年債利回りが過去最低を更新中」

 ここにきて欧州の国債の利回りが低下しており、イタリアやギリシャの10年債利回りが過去最低を更新してきている。

 2010年の欧州で信用不安が吹き荒れていたそもそもの原因が、ギリシャやイタリアの国債の下落によるものであった。

 2010年1月に欧州委員会がギリシャの財政に関して統計上の不備を指摘し、ギリシャの財政状況の悪化が表面化した。これを受けて起きたのがギリシャ・ショックである。ギリシャは2009年10月にも政権交代が起きたが、パパンドレウ新政権に変わったことにより前政権が行ってきた財政赤字の隠蔽が明らかになった。

 これを受けて格付け会社は、相次いでギリシャ国債の格付けを引き下げ、ギリシャ国債は暴落した。ギリシャの10年債利回りは瞬間ながら45%近くまで上昇していたとされる。同様に債務状態が悪化しているイタリアやポルトガル、スペインなどにも飛び火した。これがユーロというシステムそのものへの危機となり、欧州の信用不安が拡大した。

 欧州の信用不安はイタリアなどに拡がりを見せ、イタリアの10年債利回りが7%台に上昇した。アイルランドやポルトガルも金融支援を余儀なくされた水準である長期金利7%という分岐点を突破した。

 ギリシャ議会は7月16日に、欧州連合(EU)から金融支援の条件として要求されていた財政改革法案を賛成多数で可決した。そしてギリシャは年金カットや増税などの緊縮実行を受け入れた。これにより、ギリシャのユーロ離脱という最悪の事態は回避された。ここからギリシャの長期金利は低下してきた。

 2012年9月のECB理事会では償還期間1〜3年の国債を無制限で買い入れることを決定し、FRBは12月に国債とMBSを月額850億ドル買い入れる政策を決定した(QE3)。このような積極的な政策により、欧州を主体とした世界的な市場の動揺は次第に収まってきた。

 欧州の信用不安の後退時期にアベノミクスが登場し、円高調整と株価の反発を促進させた格好となったが、それはさておき、その後のギリシャやイタリアの10年債利回りは低下基調となり、2019年7月に過去最低を更新した。

 ここにきてあらためてギリシャやイタリアの10年債利回りが過去最低を更新しつつあるのは、ECBの追加対策への期待もあるが、ECBや日銀のマイナス金利政策もあってそもそもプラスの利回りの国債が減少していることもある。より高い利回りを求めて、欧州の国債が買い進まれ、スペインとポルトガルの10年債利回りはゼロ%に接近しつつあり、イタリアやギリシャの国債も過去最低を更新してきているといえる。


2020年10月14日「イングランド銀行はマイナス金利を導入するのか」

 13日付ブルームバーグによると、イングランド銀行 (英中央銀行)のベイリー総裁は英国が受けた衝撃を考えれば、マイナス金利を排除するべきではないと言明する十分な理由がある。従って、取り得る手段の選択肢にはあるとしつつ、それを実際に活用するべきかという問題に、われわれはまだ取り組んでいない」と述べたそうである。

 イングランド銀行はこれに先立ち、マイナス金利を導入しても業務に支障を来すことなく対応できるか国内金融機関から情報を集めていると発表していた。

 すでにECBや日銀は金融政策の一つの手段として、マイナス金利政策を導入している。その結果、ドイツやフランス、そして日本の10年債利回りもマイナスに落ち込んでいる。

 マイナス金利政策は金融機関の収益源ともいえる利ざやを縮小させるだけでなく、債券などによる運用利回りの低下要因となりうる。この収益を補うために、預金者からの口座管理などによる手数料収入を考慮せざるを得ない。

 預金にマイナス金利を付与することも考えられなくはないが、預金離れを引き起こしかねないため、特に個人の預金口座でマイナス金利を付与することは難しい。

 つまりはマイナス金利政策は金融機関の体力を削ぐだけでなく、預金者に手数料というかたちで負担を強いる格好となる。

 それではマイナス金利にどのような効果があるのであろうか。金利は引き下げれば効果が出るという認識から、精査金利がゼロになってしまったあとはマイナス化が意識された。しかし、マイナス化によって物価や景気に大きな影響を与えたという実証例はいまのところ聞いたことがない。

 マイナス化をしなければ景気はもっと悪くなったという人がいるかもしれないが、それはどういう理由でそうなるのか、そもそも物価がびくとも動いていないという事実を含めて説明してほしいと思う。


2020年10月13日「日銀による中央銀行デジタル通貨の発行は本当に必要なのか」

日銀は10月9日に、「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」を公表した。この要旨の最初に下記のようにあった。

 「情報通信技術の急速な進歩を背景に、内外の様々な領域でデジタル化が進んでいる。技術革新のスピードの速さなどを踏まえると、今後、「中央銀行デジタル通貨」(Central Bank Digital Currency:以下「CBDC」)に対する社会のニーズが急激に高まる可能性もある。日本銀行では、現時点でCBDCを発行する計画はないが、決済システム全体の安定性と効率性を確保する観点から、今後の様々な環境変化に的確に対応できるよう、しっかり準備しておくことが重要であると考えている」

 あくまで「社会のニーズが急激に高まる可能性もあり」、「現時点でCBDCを発行する計画はない」という点に個人的には注意したいと思っている。ただし、実証実験の第1弾(基本的な機能を検証するフェーズ1)を、2021年度の早い時期に開始することを目指しているとした。あくまで基本的な機能を検証する実証実験であり、2021年から中銀デジタル通貨を発行するわけではない。

 今回の日銀のこの方針の発表はいくつかそれを要するようなタイミングであったためということがうかがえる。そのひとつが、FRBなど7つの主要な中央銀行と国際決済銀行(BIS)は9日、中銀デジタル通貨の「青写真」をまとめた報告書を発表したことによる。それを国内向けにも公表したということであろう。

 この報告書では中銀デジタル通貨の特性として、強靭で安全であること、無償あるいは低コストで利用できること、適切な基準や明確な法的枠組みに支えられていること、民間が適切な役割を負い、競争や革新性が促されることを挙げていた。

 特に強靭で安全であり、いつでもどこでも使える中銀デジタル通貨が必要となる。これはかなりの難題となろう。

 ただし、デジタル通貨発行を検討せざるを得ないと思われる国もある。そのひとつがSWISHと呼ばれる電子決済が進むスウェーデンである。現金通貨が減少し、一部デジタル通貨への移行が検討されている。

 デジタル通貨がどれだけ必要とされるるのかは国によって異なる。中国人民銀行は同国初となるデジタル人民元決済システムの公開テストとして、無作為に選ばれた5万人を対象に1000万人民元(150万ドル)相当のデジタル通貨を発行すると報じられた。

 中国も電子決済の割合が高い国であるとともに、現金そのもの使用度は比較的低く、デジタル通貨の発行に積極的と言われる。これはデジタル化の促進もあるかもしれないが、国民の通貨利用を監視する目的も垣間見られる。

 さらに日本では、自民党の新国際秩序創造戦略本部は年内に政府に示す提言の「中間とりまとめ」を策定しも中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)の導入を急ぐため、政府・日銀に関連法改正の準備を促したとも報じられた、

 このあたりも、今回の日銀の動きに影響を与えた可能性はある。しかし、いまなぜ日本でデジタル通貨が必要なのかはわからない。


2020年10月12日「債券市場参加者は7月からの国債増発をどう見ていたか」

 財務省は9月25日に開催された国債市場特別参加者会合(第90回)議事要旨を公表した。このなかから債券市場参加者が、7月からの国債の大量増発をどのようにみていたかを確認してみたい。

 「7月からの国債増額は3か月を経過したが、市場は日銀買入オペの量と回数の強化によって極めて安定した環境にある。」

 「安倍首相の辞任発表に際しては市場でも多少の変動が認められたものの、菅首相の下でも財政政策と金融政策の基本方針が維持されるとの見方から、安定性を取り戻している。」

 7月から過去最高規模ともいえる国債の増発が実施されたが、日銀による国債買い入れの影響も大きく、入札状況に一喜一憂するような場面はなく、淡々と落札されていた。8月28日の突然の安倍首相の辞任発表は、一時的に債券先物の売り要因とはなったが、債券先物はそれほど大きく崩れず、その後買い戻された。

 ただし、下記のような意見も出されていた。

 「8月以降、入札が流れやすくなっており、セカンダリー市場でも流動性が低下気味であることを懸念している。」

 「国債の大幅発行増額も8月の入札まではあまり影響がなかったが、今月(9月)に入ってからは多少テールが出るような結果が続いている。」

 10年債利回りはゼロ%が下値抵抗線となってはいるが、低位安定は続いている。消費者物価指数は前年比マイナスとなり、景気の回復度合いもそれほど強まらず、ファンダメンタルからみて債券市場にはフォローの環境ながら、やはりこれだけの国債の増発は重荷となりつつある。

 「7月から開始された国債発行増額については、現状大きな波乱なく吸収が出来ているように見受けられるが、1回毎の入札に対する警戒度は以前に比べ増していると見られる」

 国債の入札といえば債券市場にとって大きな注目材料となる。しかし、7月からというよりも、それ以前から債券市場における国債入札への注目度は低下していた。これを材料に相場が大きく動くようなことはなくなりつつあった。

 それだけ日銀の国債買い入れや長期金利コントロールの影響が大きいともいえる。それでも今後、この国債の発行圧力が意識されて、国債入札そのものが材料視される可能性もないわけではない。その意味で、下記のような意見にも注意したい。

 「但し年末までには、本邦追加補正予算と解散総選挙の行方、米大統領選挙とBREXIT交渉期限というイベントに加え、底流に流れるコロナ禍における不況、LIBOR停止に向けたデリバティブ市場の流動性低下と、金利が上下に大きく変動する可能性を相応に孕んでいる。」


2020年10月10日「東京大学が発行する大学債の人気が高い理由」

 東京大学は16日に国立大学として初めて200億円の大学債を発行すると発表した(9日付日経新聞)。

 今年6月に国立大学法人施行令の一部改正が閣議決定され、債券発行で調達した資金を教育研究などの活動に充てられるようになった。

 東京大学は財務基盤が強固であり、すでに格付投資情報センター(R&I)から「ダブルAプラス」の格付けを取得。さらにJCRから最上級の「トリプルA」の信用格付けを取得している。

 今回、東京大学が発行する200億円の大学債は、ソーシャルボンドとして発行する。ソーシャルボンドとは、「社会貢献債」とも呼ばれ、社会的課題の解決に資するプロジェクトの資金調達のために発行される債券である。

 今回の投資資金は、最先端大型研究施設の整備やウィズコロナ、ポストコロナ社会における知の価値化・共有化に適したキャンパス整備促進などのFSI(未来社会協創)事業に充てられるとされる。

 日経新聞によると、今回の東大債には政府保証はなく、年限は40年。利回りは年0.823%となり、国債に対する上乗せ金利(スプレッド)は0.18%と、直近の独立行政法人が発行する財投機関債と同水準となる。主幹事の大和証券によると、投資家からの需要は発行額の6倍強の1260億円に達した。ソーシャルボンドとして、日本格付研究所(JCR)から最上位評価である「ソーシャル1」を取得したとか。

 今回の国立大学として初めての大学債の購入希望額は発行予定額の6倍超にものぼるという。この人気の理由としては、まず「顔が良い」ということがあげられる。「顔が良い」というのは認知度・人気度が高いということを示す業界用語である。また、信用度という意味では、所得した格付けが高いことも人気の理由となる。

 さらにいま流行というか、投資家は環境を意識した投資に重点を置くようになっており、ソーシャルボンドとして発行されるのも好材料。

 期間は40年と長いのに対し、利回りは0.823%というのはやや低いと思われるかもしれないが、同年限の国債の利回りは0.18%ほど上回っており、長期の運用を行っている生保などのニーズはこの程度の利回りでも強いものがある。

 ただし、今回は生保のほか、NECやダイキン工業、住友林業や日本ペイントホールディングス、日本女子大学や吉本興業ホールディングスなど幅広い投資家が購入を希望したとも報じられている。

 はじめての東大債ということもあるが、ソーシャルボンドとしてのニーズは予想以上に高いようである。

 念の為、これは個人向けではない。個人は40年もの長い期間の債券はあまり購入しない。しかし、個人のニーズが強い2年、3年あたりの国債利回りはマイナスとなっており、格付けの高い一般債でも利回りは求められず、個人に向けた中期の東大債の発行は難しいと思われる。


2020年10月9日「大手銀行が口座管理手数料を設定するのはどうしてなのか」

 三井住友銀行は7日、長期間出入金がなく、インターネット取引を利用していない預金口座に対して新たな手数料を設定すると発表した(7日付共同通信)。

 朝日新聞によると、来年4月以降に預金口座を新たに開く18〜74歳の顧客のうち、ネットバンキングを使わない人から手数料をとる。残高1万円未満で入出金が2年以上ない口座から、年税込み1100円を徴収。紙の通帳発行は550円必要となる。取引のデジタル化を進めるねらいもあるようだ。

 多くの海外銀行では、口座残高が一定水準を下回ると口座維持手数料が必要になる。これに対して、日本の銀行では口座維持手数料や口座管理手数料は取るというケースは今のところ少ない。口座を作ることや維持することに対しては無料との認識も強い。

 しかし、日銀によるマイナス金利政策なども影響し、銀行など金融機関は運用などで収益を得ることが難しくなってきている。その上、送金手数料の引き下げなども求められていることで、あらたな収益源、もしくは費用の削減となるものを求めているとみられる。

 日本ではこれまで口座管理手数料の導入には慎重となっていたが、りそな銀行は2004年4月から普通預金口座の未利用口座について管理手数料を適用させている。

 今後は今回の三井住友銀行のようなかたちで口座管理手数料を取る銀行は増えてくる可能性がある。

 今回の三井住友銀行は、来年4月以降に開設する口座で、なおかつ長期間出入金がない口座のうち、インターネット取引を利用していない場合に新たな手数料を設定する。つまり、犯罪などに利用されないよう安易に口座開設ができないように心理的な障壁を設定し、さらにネット取引の利用を進めることで、経費とともに人件費などの節約も意識されたものか。

 インターネット取引の利用促進などは、政府のデジタル化政策にも歩調を合わせる格好となろう。

 このような動きは次第に広まってくることが予想される。ただし、インターネット取引の普及のためには、銀行のインターネット口座そのもののセキュリティを高める工夫も当然求められよう。


2020年10月7日「米追加の経済対策協議は大統領選まで棚上げとなるものの、一部は実施か。米国株式市場は右往左往」

 米国のトランプ大統領は6日、追加の新型コロナウイルス対策を巡る与野党協議を当面停止すると表明した。民主党の2兆ドル規模の対策案を「拒絶する」と主張し、11月の選挙に勝利すれば、独自の1兆ドル規模の経済対策を成立させるとした(7日付け日経新聞)。

 民主党の2.2兆ドル規模の対策案は下院で可決済みとなっているが、共和党が多数派の上院では可決のメドがたたない上に、下院は議会選挙を控えて事実上の休会に入っており、追加の経済対策の早期成立は困難な状況となっていた。

 ムニューシン財務長官とペロシ下院議長が協議を継続していたものの、ホワイトハウスに戻ったトランプ大統領は、大統領選挙に向けて戦術を練り直したとみられる。ひとまず追加の経済対策は置いといて、大統領選挙に専念する姿勢をみせた格好となる。

 ただし、トランプ大統領が協議停止を表明した数時間前に、FRBのパウエル議長が、十分な政府支援がなければ米景気回復は弱まると警告していた。そして「財政の崖」という問題も残る。

 中小企業の給与補填策は8月に申込期限が切れた。航空会社向けの雇用維持策も9月30日で失効。失業給付の積み増しはトランプ政権が大統領令で部分延長したものの、10月中にも資金が枯渇する可能性がある、的支援が相次いで切れることで、これが「財政の崖」と呼ばれる足かせとなっている。その意味では待ったなしの状態であるといえる。

 この「財政の崖」もあってか、今度はトランプ大統領は6日夜、議会の上下両院は250億ドルの空運会社の給与支援や1350億ドルの中小企業向け給与保護プログラムをすぐに承認すべきだとツイート、家計への1200ドルの現金給付も個別の法案として承認する方針を示した。これも米大統領選も意識した戦術なのか。

 その大統領選挙の行方だが、今回のトランプ大統領の新型コロナウイルスへの感染で、さらに支持率が低下している。体調が戻ったとはいえないなか、早期で退院したのは、大統領選挙を控えて、早期の回復をアピールしたかったものとみられる。しかしそれが支持率の回復には当然ながら繋がってはいない。

 追加の経済対策が遅れれば米国経済に多少なり影響を与える可能性がある。このため、6日の米株は下げたものの、7日は一部実施の可能性からそれ以上の反発となっていた。


2020年10月7日「中国による日本の国債購入が急増、その理由とは」

 6日付けの日経新聞によると、中国による日本の国債購入が急増しており、期間1年を超す中長期債の買越額は4〜7月に約1.4兆円と前年同期の3.6倍に膨らんだ。

 これは中国が意図的に日本国債を購入し、政治的に利用しようと企んでいるわけではない。

 元々、中国は外貨準備などの大半をドル建てで膨らませてきた。このため、ドル建てで最も安全資産であるところの米国債への投資がほとんどとなっていた。しかし、政治的配慮もあったのかどうかはさておき、リスク分散の意味でも、その資産を米国債以外にも振り向ける動きを強めていた。

 その一環として、日本国債へ投資も膨らんできたものとみられる。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、世界的なリスク回避動きで、米国債利回りも低下し、10年債利回りは1%を下回って推移している。

 日本の10年債利回りもゼロ%近傍にあるものの、この記事にもあるようにドルを円に交換する際の上乗せ金利も加味した利回りは1.2%台あたりとなる。このため、米国債のままで保有するより、ドルを円に換えた上で日本国債を購入すれば、米国債の利回りを上回ることになる。

 結果としては政治的な意図というよりも、分散投資とより利回りを追求した結果、中国は日本国債への投資を増加させたとみられる。日本の10年債利回りはゼロ%が大きな抵抗線となっており、米国債の利回りが今後も低位で推移するとなれば、中国による日本国債への投資が継続される可能性がある。


2020年10月6日「トランプ大統領のコロナ感染を金融市場はどうみていたのか」

 米国のトランプ大統領が、ツイッターで自らが新型コロナに感染したことを明らかにしたのが、日本時間2日の13時頃であった。

 現職の米国の大統領が新型コロナウイルスに感染というのは、当然ながらサプライズとなり、大統領選の行方以前に、米国のトップの感染ということで先行きの不透明感が強まった。

 これを受けての金融市場の動きとしては、東京株式市場や東京時間でも動いている米株価指数先物が下落した。外為市場では円がドルやユーロに対して買われた。そして債券先物も上昇した。金の先物も上昇し、原油は下落するなど、典型的なリスク回避の動きといえた。

 しかし、その動きは結果としては一時的なものとなった。2日の米国株式市場をみると、大統領選や経済政策への影響が警戒されていた上に、9月の米雇用統計で非農業雇用者数が66.1万増と予想を下回ったこともあり、ダウ平均は一時400ドルを超す下げとなった。400ドルは大きいようにみえるが、パニック的な動きというよりポジション調整程度の下げともいえる。

 その後、与野党が協議中の追加経済対策の合意期待などから押し目買いが入り、2日のダウ平均は134ドル安となった。2日の米10年債利回りは0.70%と前日の0.68%から上昇していた。

 一時105円を割り込んでいたドル円は5日の東京時間で105円台半ばまで回復していた。これは5日にもトランプ大統領が退院かと報じられたこともあり、リスク回避の反動ともいえる。

 トランプ大統領のコロナ感染がどのように金融市場に影響を与えたのかといえば、結論としては一時的なリスク回避の動きがあった程度といえる。

 ただし、タイミングとしては11月3日の米大統領選挙を控え、こちらへの影響が気になるところ。

 トランプ大統領が早期に復帰すれば、回復力をアピールできるかもしれないが、そもそも感染防止をあまりしていなかったことへの批判も強まることも予想され、大統領選に向けたスケジュールも大きく変わり、トランプ大統領にとって今回のコロナ感染は逆風となることが予想される。

 しかし、今回のことで大統領の健康が非常に重要であることが認識されると、トランプ大統領よりも年上のバイデン氏で大丈夫なのかという危惧も働く可能性がある。


2020年10月5日「難航している米経済対策はまとまるのか」

 米国の追加の経済対策を巡って、ムニューシン財務長官とペロシ下院議長が協議を継続しており、これが進展するのではとの期待から、1日の米国株式市場でダウ平均は一時、260ドル近く上昇した。しかし、今回の電話会談では、やはり主要部分の見解の相違は埋まらなかったことがわかり、ダウ平均の上げ幅は縮小した。ただし、両者は今後も協議を続けるようである。

 民主党は5月に3兆ドル規模の経済対策をとりまとめ、多数を占める下院ですでに可決している。ただ、共和党は5000億〜1兆ドルの歳出増にとどめたい考えで、隔たりが大きい。

 このため、ペロシ氏ら民主党指導部は歳出規模を圧縮して再提案することで、共和党側に妥協を促した。9月30日に民主党の議会指導部は、2.2兆ドル規模の追加の新型コロナウイルス対策をまとめた。

 しかし、共和党が多数派の上院は民主党の求める州・地方政府への資金支援に強く反対するなど、両者の隔たりは大きい。

 その後、ムニューシン財務長官とペロシ下院議長が妥協点を探るべく協議を続けている。しかし、大統領選挙を1か月後に控えていることもあり、両者ともに安易な妥協は許さないのではなかろうか。

 連邦議会は3月以降、3兆ドルを超す新型コロナ対策を発動したが、中小企業の給与補填策は8月に申込期限が切れ、航空会社向けの雇用維持策も9月30日で失効した。失業給付の積み増しはトランプ政権が大統領令で部分延長したものの、10月中にも資金が枯渇する可能性がある(1日付日経新聞電子版)。

 米国経済はコロナ禍からの回復過程にあるものの、上記のように公的支援が相次いで切れることで、これが「財政の崖」と呼ばれる足かせとなっている。その意味では待ったなしの状態といえなくもない。

 そもそもこれほど巨額の対策を相次いで打って米国の財政は大丈夫なのかとの疑問も残る。共和党は歳出増を控えたいとしているものの、トランプ大統領からすれば、より規模の大きな対策を望んでいるのではないかと勘ぐってしまう。

 いずれにしても、一定規模の経済対策は必要となるが、それをどこに重点を置いて、どの程度の規模とするのか。米中の貿易協議と似たような協議が、共和党と民主党の間で行われている。


2020年10月4日「コロナ禍にあっての経済回復への模索」

 9月16、17日に開催された日銀の金融政策決定会合の主な意見が29日に公表された。この会合では、金融政策そのものは現状維持を決定し、市場の予想通りであった。市場の注目度は低い会合ではあったが、特に景気動向についてどのようにみているのかを、主な意見から確認してみたい。

 「わが国の景気は、内外における新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、経済活動が徐々に再開するもとで、持ち直しつつある。」

 日本だけでなく欧米でも4〜6月期のGDPは過去に例のない減速となっていた。これは新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に対して、ロックダウンなどで対処しようとしたためである。

 日本でも政府は新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるため、4月7日に緊急事態宣言を出した。これが解除されたのが5月25日であり、この間に人や物の移動が制限され、個人消費を中心に幅広い経済活動が滞った。これにより個人消費は大きく減少したのである。

 特に4〜5月は政府による緊急事態宣言で個人消費が大幅に抑制されたが、6月にはその反動で回復していた。しかし、7月は再び落ち込んでいた。これは7月の天候不順も影響していたが、経済活動の再開後に新型コロナウイルスの感染が再拡大したことも影響した。

 これは欧米でも同様であり、新型コロナウイルスの感染が再び拡大しつつある。しかも、いまのところ新型ワクチンがすぐにでも接種可能な状況にもなってはいない。あくまで期待感のみ先行しているようにもみえる。

 「先行きの経済は、改善基調を辿るとみられるが、世界的に感染症の影響が残るなかで、そのペースは緩やかなものにとどまると考えられる。その後、感染症の影響が収束すれば、海外経済が着実な成長経路に復していくもとで、さらに改善を続けると予想される。」

 4〜6月期に比べれば7〜9月期は回復するであろうことは確かである。しかし、GDPが元の水準にまで戻るようなことは考えづらい。感染症の影響が収束すれば、改善を続けると予想されるが、その改善のめども立っていない。

 「当面は、感染症抑制と経済活動拡大の両立を模索しつつ、経済の回復ペースを慎重に点検することが肝要である。」

 まさに感染症抑制と経済活動拡大の両立を模索せざるを得ない状況にあることは確かである。景気のV字回復への期待よりも、感染をなるべく抑えながら、経済活動も元に戻して行かなければならないが、この両立はかなり困難を伴うものであろう。


2020年10月2日「日銀短観での景況感はやや改善も厳しい状況は続く」

 日銀は1日、9月の企業短期経済観測調査(短観)を発表した。日銀短観とは、日銀が年に4回、業況感に関しての調査表を直接企業の経営者に送り、それを記入してもらい、回収して経済観測をまとめたものとなる。短観は、サンプル数も多い上、日銀が相手ということもあって回収率も高く、数多くある経済指標の中でも注目されている。短観は他の経済指標に比べて、速報性に優れ、企業が認識している足元の業況判断とともに先行きの業況についてどのような予測をしているのかを見るためにもたいへん貴重な指標となる。

 9月の日銀短観では、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)がマイナス27となった。改善は2017年12月以来2年9カ月ぶりとなる。前回、6月の短観ではマイナス34と、リーマン危機後の2009年6月調査以来11年ぶりの低水準になっていたことで、その反動もあり、ここからはやや回復した格好に。先行きについてはマイナス17となり、さらなる改善を見込んでいる。

 6月の短観には新型コロナウイルス感染拡大とそれを防止するための緊急事態宣言などによる人や物の移動の制限による影響が反映されていた。日本経済にとっては、新型コロナウイルス感染拡大が当然ながら急ブレーキとなっていたことが、6月の短観の数字から読み取れた。

 それが9月はどうなったか。今回の調査は8月27日から9月30日にかけて実施された。緊急事態宣言は解除されたが、新型コロナウイルスの感染拡大は止まらず。しかし、政府は少しでも経済を回復させようとしているが、思うように景況感は回復してはいないことが示された格好に。

 大企業製造業の業種別で特に大きく悪化していたのが自動車であった。6月の短観ではマイナス72、今回はマイナス61となっており、改善はしつつも業況感はかなり悪化した状態にある。

 大企業非製造業DIはマイナス12と前回のプラス17からは、こちらも小幅改善となっていた。改善は1年3カ月ぶり。対個人サービスはマイナス65と前回のマイナス70からは改善、宿泊・飲食サービスもマイナス87と前回のマイナス91からは改善してはいるものの、マイナス幅は以前として大きい。

 中堅企業、中小企業は今回も大企業に比べて悪化していた。

 ある意味強制的に物や人の移動を制限したことで、各所に大きな影響を与えていたのは事実であり、その制限が緩和されても景況感はそれほど大きくは改善されていないことが示された。


2020年10月1日「中央銀行デジタル通貨について考える」

 ニッセイ基礎研究所のサイトに「中央銀行デジタル通貨の役割を根っこから考える」と題された興味深いレポートがアップされた。書き手は日本生命保険相互会社海外事業企画部審議役(前・日本銀行決済機構局長)の木村武氏である。

 冒頭、いきなり「決済システムの将来像を考える際に、ブロックチェーン技術の活用の有無といった技術論から中央銀行マネーの在り方を考えるのは適切ではない」とある。これを見て興味が沸いた。

 「決済システムの構造が大きくかわりつつある中で、中銀マネーにはいったいどのような役割が求められるのか、民間マネーとの違いは何か、という本質論を抜いたままでは、決済システムの将来像に関する議論が迷走してしまう。」ともある。

 そして「中央銀行デジタル通貨の検討を進める際には、デジタル社会における中銀マネーと民間マネーの交換可能性をどう確保していくか、という点を軸に理解を深めていくことが重要となる。」とあった。

 中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)は、中央銀行が発行するデジタルベースのマネーであり、利用主体が限定されることなく、企業や家計など広く一般に保有されるものとして定義されている。

 中銀リザーブと各銀行預金の交換機会を通して、いかなる銀行預金の価値も中銀マネーと同じく、「1円は1円」という確実性を経済に提供している、との指摘も重要となる。中央銀行は異なる種類のマネー間の交換を容易にすることにより、どのようなマネーも額面通りの価値を持つという「一様性」を生み出しており、この基本的特徴が重要とある。

 現金とは「誰もがいつでも、どこでも、安全、確実に、そして、安価に利用できる決済手段」であるとしている。それを支えているのが金融インフラの根幹を担う日銀である。

 このためBDCにも、「誰もがいつでも、どこでも、安全、確実に、そして、安価に利用できる、デジタルな決済手段」であることが求められると指摘している。これを民間ベースで提供することは当然ながら難しい。また災害時でも利用可能とするには、オンライン決済となるとこれも困難になる。

 オフライン決済機能を含め、決済システムの強靭性を確保することは重要な課題であろうと指摘しているが、特に自然災害の多い日本では、この課題を乗り越える必要がある。個人的にはsuicaのようにカードなりアプリが情報を持つ形式も一つの手段になるのではないかと思う。

 どのような状況でCBDCが必要となるのかという点について木村氏は、キャッシュレス社会において、決済システムや金融システムの効率性、安定性を維持するには、CBDCの発行が一つの選択肢となる都市的している。注意すべきはキャッシュレス化ありきではなく、現金の利用が減少し、危機的状況となって必要な現金が用意できないような状況は避けるためのひとつの手段としている点である。

 そして、中銀リザーブへのアクセスがCBDCの肝ともなりそうだが、これについては「各国において決済システムの将来像をどう描き、官民がどのような役割を担い、そしてどのような選択を行うかである」とある。

 日本での現金利用が多い理由のひとつに、「現金よりも魅力あるデジタル決済手段が存在しないという側面もあるとしているが、まさにそうであろう。また、「魅力ある」だけでなく「安全に」という側面も、特に最近は必要性を増しているように思われる。

 「中央銀行にとって、一国の決済システムの効率性や安全性を改善していくことは、重要な責務である。各国において、決済システムの発展形態や制度環境が異なる中で、デジタル社会における決済システムの将来像について、それぞれがあるべき姿を考えていく必要がある。」

 今後、キャッシュレス化はさらに進むことは予想される。そこにCBDCも検討課題になるかもしれない。それでも中国が始めるからとか、スウェーデンが導入を検討しているから、日本も乗り遅れるなというのは視点が違うと思う。

 スウェーデンはSwishという個人間送金サービスの拡大で一国のリテール決済が単独の民間プラットフォームに大きく依存することへの懸念から、CBDCの導入が検討されるなど、事情も存在する。

 中国も現金の発行・流通コストの削減や、銀行券の偽造、マネーロンダリング対策を目的としており、カンボジアやバハマなど決済インフラの未整備な国においては、CBDCの導入によってインフラ整備を一気に進めることを目的とする国もある、との指摘もあった。

 日本において、CBDCの検討を進める際に、こうした他国の事例が日本にあてはまるかどうかを考えるのではなく、日本のリテール決済システムの現状と課題を踏まえて対応を考える必要があると木村氏は指摘している。その通りか。

 何もスマホ決済だけがキャッシュレス化ではない。究極のキャッシュレス化を考えるには、CBDCの導入が必要になろう。いまそれが日本で必要とされているのか。むろん将来は必要とされる可能があるため、検討しておく必要はある。しかし、他国が導入を急ぐから日本も導入しろという議論は違うと思う。


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