2017年4月25日「フランス大統領選挙の結果に市場は安堵」

 4月23日に実施されたフランス大統領選挙は、かなり混戦模様となっていたが、フランスの内務省によると、中道系独立候補のエマニュエル・マクロン元経済産業デジタル相(39歳)が得票率で首位、極右政党、国民戦線のマリーヌ・ルペン党首(48歳)が2位につけたようである。

 フランス大統領の選挙日程が2回予定されているのは、第1回目の投票で全体の過半数の票を取った候補が出ない際に、投票率の上位2名によって決選投票が行われるためである。1965年以降、第1回投票で大統領に決まった候補者はなく、今回も過半数を取った候補者がいなかったことで、5月7日にマクロン候補とルペン候補の決選投票が行われることになる。

 2002年の大統領選挙の際には1回目の投票で現職のシラク大統領に次いで、極右政党・国民戦線(FN)のジャンマリ・ルペン党首(マリーヌ・ルペン氏の父親)が2位で決選投票に進んでいた。決選投票では1回目の選挙で敗れた左派の社会党候補の支持者も、ルペン氏を当選させないために、ライバルであった保守系政党のシラク氏支持に回り、シラク氏が大差で勝利していたということもあった。

 今回もすでに敗北宣言をした共和党のフィヨン元首相と社会党のアモン前教育相が、それぞれの支持者に対してマクロン氏への投票を呼びかけるなど、2002年の決選投票と同様の動きになり、決選投票ではマクロン候補が勝利するとの予想となっている。しかし、選挙は水ものでもあり絶対の予想もない。これは昨年の英国の国民投票や米国大統領選挙で実証済みであり、5月7日の決選投票の結果も要注意となる。

 それでも今回の選挙で急進左派・左翼党のメランション氏とルペン氏という最悪の組み合わせは回避されたことで、金融市場ではリスク回避の反動のような動きとなっていた。メランション氏とルペン氏は両者ともに反EUを掲げていることで、いずれが大統領となっても、ユーロというシステムが揺るぎかねないことになる。しかし、マクロン候補とルペン候補の組み合わせならば、マクロン候補有利との見立てもあったことで、ひとまず市場は安堵したものとみられる。  外為市場ではリスク回避の反動で円安となり、ドル円は一時110円台を回復した。この円安もあり24日の東京株式市場は大きく上昇し、欧米の株式市場も上昇した。フランス国債が買い戻されて、ドイツや英国、そして米国債は下落した。反対にイタリアやスペイン、ポルトガルの国債が買われ、いわゆるリスクオフの動きとなった。金先物は下落した。


2017年4月24日「今週の債券市場を見る上での注意点」

 日本時間の21日から2日間開催されたワシントンのG20では為替等に対して新たな材料は出なかった。為替についてはこれまでの原則を確認するにとどめ、深入りを避けた格好となった。前回はムニューシン米財務長官が「保護主義への対抗」の文言を共同声明から外すよう強硬に主張し、これを受け文言が削除された。しかし、今回はムニューシン財務長官は静かであったようである。

 4月23日には注目のフランス大統領選挙が実施された。かなり混戦状態となっているようで、5月の決選投票がどの組み合わせとなるのか。それ次第では週明けの東京市場が波乱含みの展開となる可能性があった。フランスの内務省によると、中道系独立候補のエマニュエル・マクロン元経済産業デジタル相(39歳)が得票率で首位、極右政党、国民戦線のマリーヌ・ルペン党首(48歳)が2位につけたようである。急進左派・左翼党のメランション氏とルペン氏の最悪の組み合わせは回避されたことで、リスク回避の反動のような動きとなり、円安が進み、週明け24日の東京株式市場は買いが先行した。

 先週末のG20には日銀の黒田総裁も出席していたが、今週26、27日には金融政策決定会合が開催される。しかし、日銀への注目度はあまり高くはない。今回も金融政策の現状維持が予想され、国債の80兆円という数字も残されるものと予想される。今回は展望レポートも発表されるが、今年度の物価上昇率見通しを小幅下方修正する可能性がある。これもある程度想定済みか。

 債券市場関係者は28日の夕方に発表される「当面の長期国債等の買入れの運営について」の方を注目するかもしれない。5年超10年以下の減額の可能性も全くないとは言えない。

 国債の入札は25日に流動性供給入札、28日には2年国債の入札が予定されている。こちらは特に問題はなさそうである。日銀による国債買入は24日に中期と長期ゾーン、26日に中期と超長期ゾーンが予定されている。ゴールデンウイークを控え、次ぎの利付国債入札は5月9日の10年債となるため、何もなければ底堅い展開が予想される。フランス大統領選挙の結果を受けたリスク回避の反動の動きから、27日の債券先物は売りが先行したが、下値も限られたものとなりそうである。


2017年4月23日「連続ドラマ「ひよっこ」の時代に戦後初の国債発行を行った理由とは」

 NHKの朝の連続テレビ小説「ひよっこ」の舞台は茨城県である。私の両親が茨城出身であり、「ひよっこ」の時代(昭和39年、1964年)の頃の私は6歳、夏休みなど両親の実家に遊びに行ったが、まさにあの田舎の風景であり、あの茨城弁であった。ドラマにあった肉の代わりに魚肉ソーセージの入ったカレーライスも食べた記憶が残っている。

 「ひよっこ」の主人公の父親は東京に出稼ぎに言っている間に失踪してしまうが、当時の農家の長男は出稼ぎに行ったり、次男や三男は集団就職等で都会に働きに出ていた。当時の東京は東京オリンピックを控えて、新たなインフラが整備されて大きく変わろうとしていた。「ひよっこ」の主人公の父親は霞ヶ関のビル工事をしていたが、当時、東海道新幹線や首都高速道路、東京モノレール、そして黒四ダムといった大型の公共工事が次々に行われていたのである。高度成長を迎えたことで税収も増加し、むしろ需要超過傾向となっていたことで財政面からの刺激を与えないようにと、1965年当初予算までは均衡予算が組まれていた

 しかし、東京オリンピックが始まった1964年10月ごろから景気は急速に冷え込み、後退局面に入った。中小企業の倒産が増加し、株価も下落、企業収益も減少し、それが顕在化したのが1964年の後半となった。

 1965年に入ると、サンウエーブや山陽特殊製鋼など大手企業の破綻が相次ぎ、株価も急落し続け、信用不安も広がりをみせた。信用不安に対しては、山一證券への日銀特融が実行されたことで収まったものの、株価の下落は続いた。これがのちに40年不況と呼ばれたもので、日銀による金融緩和の効果もなく、結局、財政面からの公共事業が促進されることになり、戦後初めてとなる国債発行が準備された。

 1965年7月、佐藤栄作首相、福田赳夫蔵相のもと、政府は財政投融資の増額と、特例国債(赤字国債)発行を内容とする昭和40年度の補正予算を決定した。同時に昭和41年度の予算編成における建設国債の発行も決定した。

 こうして1966年1月に、戦後初めての国債が、期間7年、利率6.75%で2千億円発行されたのである。次いで1966年当初予算から本格的に国債が導入され、建設国債6750億円が発行された。3月からは大蔵省資金運用部による国債の引受も開始された。これにより歳入を全額、税収などの収入で賄えた均衡予算主義は崩れさり、この年以降、財政に国債が組み入れられる財政新時代を迎えることになったのである。


2017年4月22日「2016年度の海外投資家による日本国債の買越額は最大に」

 4月20日に日本証券業協会は3月の公社債投資家別売買高を発表した。公社債投資家別売買状況のデータは、全体の数字と短期債の数字となっているため、短期債を除く債券のデータについて全体から短期債を引いた。ここには国債入札で購入した分や日銀の国債買入分は入っていない。

公社債投資家別差し引き売買高
注意、マイナスが買い越し
単位・億円
()内は国債の投資家別売買高の超長期・長期・中期別

都市銀行 6603(-54、3819、1167)
地方銀行 7266(1852、4427、305)
信託銀行 -160(-1773、1044、2078)
農林系金融機関 -3662(-2511、239、-48)
第二地銀協加盟行 721(209、553、31)
信用金庫 -378(131、514、25)
その他金融機関 2174(-260、2079、755)
生保・損保 -5505(-5461、-458、-119)
投資信託 169(-153、381、517)
官公庁共済組合 -261(-178、0、0)
事業法人 -364(-19、-21、5)
その他法人 -1213(-28、-27、-533)
外国人 -17190(-4603、1222、-12886)
個人 254(-2、43、5)
その他 13781(9454、25、7387)
債券ディーラー -1256(117、-1409、88)

 3月の国債の投資家別売買高をみると都銀は6603億円の売り越しとなった。2か月連続の売り越し。売りは長期主体となった。また、地銀も7266億円の売り越しとなり、こちらも長期ゾーン主体に全般に売り越しとなった。2月地銀の売越額は8042億円と比較できる1998年以降最大となったが、3月(7266億円)もそれに近い売り越しとなった。さらに「その他」が中期と超長期主体に1兆3781億円もの売り越しとなった。ゆうちょ銀行の売りであろうか。

 海外投資家は中期債主体に1兆7190億円の買い越しとなっていた。ただし、海外投資家も長期ゾーンは売り越しとなっていた。2016年度全体では218兆1379億円の買い越し(短期債含む)となり、これは比較できる1998年度以降、最大であったようである(日経新聞)。

 3月の債券市場では米利上げ観測の強まりによる米債安から、一時調整局面となった。10年債利回りは0.1%近くまで上昇した。3月15日のFOMCでは追加利上げを賛成多数で決定した。今後の利上げペースは今回を含めて年3回とする中心シナリオを据え置いた。FRBの緩やかな利上げが意識され、米10年債利回りは前日の2.60%から2.49%に急低下し、日本の10年債利回りも0.055%あたりに低下した。

海外投資家の売買状況
月 売り越し買い越し(マイナスは買い越し)、(超長期、長期、中期)、国債売買高、うち中期

2016年 4月-36565(328、-9142、-27271)、294983、62513
5月-16775(1347、-6186、-10933)、246889、34315
6月-36565(328、-9142、-27271)、344055、65055
7月-16693(1860、-4453、-13200)、275366、61036
8月-16838(-1108、-5390、-9702)、302397、65718
9月-27674(-3320、-4283、-19310)、380542、102124
10月-5717(1051、-5636、166)、264616、62534
11月-11672(2275、-2448、-10674)、302551、48912
12月-26198(-970、2054、-26261)、317612、57609

2017年
1月-23784(-1153、-504、-19500)、294839、61994
2月-11210(-2687、3009、-10323)、292813、51127
3月-17190(-4603、1222、-12886)、312730、58810


2017年4月21日「日銀の審議委員に三菱東京UFJ系の二人が選出された理由」

 政府は18日に日銀審議委員に三菱UFJ&コンサルティングの片岡剛士上席主任研究員と三菱東京UFJ銀行の鈴木人司取締役を充てる人事案を国会に提示した。7月23日に任期が満了する木内登英氏と佐藤健裕氏の後任となる。片岡氏が木内登英氏、鈴木氏が佐藤健裕氏の後任となる。自民、公明の与党が過半数を占めるため、6月18日までの今国会中に衆参両院で承認される見通し。承認が得られれば、片岡氏と鈴木氏は9月20、21両日の金融政策決定会合から参加する

 何故、三菱東京UFJ銀行関係から同時に2人選出されたのか(出身大学も二人とも慶應義塾大学)。これはこれまでの審議委員の選出の過程等に影響されたもので偶然の部分がある。

 直近の日銀審議委員の人事は石田浩二審議委員の後任に政井貴子・新生銀行執行役員を充てるというものであった。この人事が今回の人事にも影響を与えることになる。

 石田委員の後任が政井氏となったことで、これにより新日銀法の下に組織された日銀の政策委員のなかの審議委員にあったメガバンクの席がなくなることになる。新日銀法が施行されてからは特に政策委員における産業枠や銀行枠など業界枠が明確になっているわけではない。しかし、石田委員までの前任者はすべてメガバンクからの出身者となっていた。

 なぜこの際にメガバンクから選出されなかったのであろうか。その前の人事で、白井さゆり委員の後任にはサクライ・アソシエイト国際金融研究センター代表の桜井真氏が就任したことにより、日銀の政策委員には女性が一人もいない状況となっていた。このため女性が優先されて選出する必要があった。また、順番から言えば次のメガバンク出身としては三菱東京UFJ銀行からとなるはずが、日銀と三菱東京UFJ銀行との関係がやや悪化していたとの見方もあった。このため、メガバンクを外すというより、ワンクッション置いた人事となったのではなかろうか。

 このために三菱東京UFJ銀行の副頭取でもあった鈴木人司氏が今回、時間遅れで選出されたものとみられる。この人事については事前からどうやら予想されていたようである。そしてエコノミスト枠として片岡剛士氏が官邸から推挙されたものとみられる。片岡氏は代表的なリフレ派であり、日銀の岩田副総裁や原田泰審議委員、さらには浜田宏一内閣官房参与や本田悦朗駐スイス大使らに意見が近い。

 これにより異次元緩和に対して異を述べていた佐藤氏と木内氏の後任には、リフレ推進派の片岡氏が入ることで、反対意見が一票少なくなることになる。ただし、片岡氏はマイナス金利には反対しているようで、その意見を主張してくるのかも気になるところ。

 鈴木人司取締役は銀行経営者であり、日銀という銀行の経営者でもある審議委員には最適の人物であろう。審議委員を含む政策委員は日銀の役員であり、金融政策だけを決めているわけではない。日銀そのものを経営する責任がある。さらに鈴木氏は市場部門の統括もされていたようで市場動向にも詳しいとみられる。今回の佐藤・木内両委員の後任人事で最も危惧していたのは市場、特に金利債券市場に精通した人物がいなくなってしまうことであったが、このあたりも鈴木氏がある程度カバーしてくれるものと期待したい。


2017年4月20日「英国のメイ首相の総選挙前倒し発言受けて、何故ポンドが買われ株は売られたのか」

 英国のメイ首相は18日、ロンドンの首相官邸で緊急会見を行い、2020年に予定されていた総選挙を前倒し、今年6月8日に実施したい意向を明らかにした。総選挙を前倒しして実施するには、議会の3分の2の賛成が必要となるが19日の英国議会下院では、最大野党の労働党も賛成したことで採決の結果、必要な3分の2を超える支持を得て、総選挙の前倒しが決まった。メイ首相の総選挙前倒しの意図とは何か。その前にメイ首相の発言を受けての金融市場の動きを確認してみたい。

 外為市場では、ポンドが主要通貨に対して大きく「上昇」した。英国は昨年6月の国民投票でEU離脱を決定した。今年3月にメイ首相がEUに離脱を通知し、原則2年間の交渉に入っていた。この間、ポンドはドルなどに対して下落した。これにはメイ首相のハードブレグジット(英国がEUから完全に離脱する強硬路線)・リスクが影響していたと思われる。

 ハードブレグジットとは移民抑制などを優先し、単一市場からの離脱もいとわない政策のことであり、リスク回避の動きとしてポンド売りとなったが、ロンドン株式市場はポンド安、つまり自国通貨安を好感して上昇するという現象も起きていた。為替市場と株式市場では英国の将来に対しての認識の違いもあったのかもしれない。

 今回のメイ首相の総選挙前倒し発言を受けてポンドが買われたのは、政権基盤が強固されるため不透明感の払拭も意識されていたようである。しかし、ロンドン株式市場は下落したがもこれはポンド高によるものとされた。つまり2012年11月の東京市場での円高株安修正のように大きなポジションの巻き返しが起きた可能性がある。また今回の外為市場やロンドン株式市場の動きを見ると、ハードブレグジットにわめリスクの後退を意識させるものとも見えなくもない。

 ここで問題となりそうなのが、メイ首相が総選挙を前倒ししたい理由となる。日本の2012年12月の総選挙は民主党政権が追い込まれて実施したものであったが、今回の英国の総選挙の前倒しはメイ首相が起死回生を狙ったものといえる。与党勢力を伸ばして政権基盤の安定を図ることが目的となろう。これでハードブレグジット路線をより強固なものにしたいものとみられる。ただし、現実路線(ソフトブレグジット)ら向けた修正を図っている可能性も指摘されている。

 元々メイ首相はソフトブレグジット路線を探っていたものの、EU側の強固な姿勢もあってハードブレグジットを選択せざるを得なくなった。このため与党保守党内でも分裂が生じた。またスコットランドでは独立の是非を問う2度目の住民投票の可能性も指摘されている。このタイミングで総選挙に打って、とりあえず勢力基盤の安定を図るにはチャンスとみていたと思われる。

 英国債の動きをみると今回は買い進まれ、18日の英国の10年債利回りは一時1.0%割れとなった。選挙は水物でもあり、英国の政治の先行き不透明感の強まりを考慮すると、リスク回避により英国債は売るべきか買うべきかは悩ましいところであろう(19日の英国債は売られている)。フランス国債は大統領選挙に向けた不安もあって売られる場面もあった。18日の英国債が買われた理由としては、リスク回避というよりも政権安定を意識した買いの可能性もある。

 ただし、18日のメイ首相の総選挙前倒し発言受けた市場の動きは一時的なものとなることもあるため、今後のポンドやロンドン株式市場、英国債の動向も注意したい。ちなみに英国債や米国債が買われたことで、19日に日本の10年債利回りはゼロ%に低下した。


2017年4月19日「ムニューシン米財務長官の強いドルは良いことだとの発言の意図」

 「強いドルは国益にかなう」という米国が伝統的に受け継いできた為替政策は、トランプ政権に変わってからも続いているようである。ムニューシン米財務長官は、17日のフィナンシャル・タイムズとのインタビューで、「長期的に見て強いドルは良いことだ」と語った。

 ムニューシン米財務長官は就任後、ドルの長期的な強さについて、米経済にとって最大の利益であり、世界の基軸通貨としての信頼を反映しているとの見解を繰り返し示していた。しかし、トランプ大統領が12日のウォールストリート・ジャーナルのインタビューでドル相場に関して強すぎるとの認識を示したことで、市場はトランプ政権はドル安誘導を意識しているのではないかと警戒し、北朝鮮などの地政学的リスクも相まって、ドル円は一時108円台前半にまで下落(円高が進行)していた。

 ムニューシン米財務長官は、FTとのインタビューで、「トランプ大統領は短期的なドルの強さについて事実に基づく発言を行った」と述べていた。つまり、トランプ大統領とムニューシン財務長官との間に、為替政策に対して意見の相違はなく、あくまで短期的にみるか、長期的に見るかとの違いに過ぎないことを強調した。

 米財務省は14日に公表した外国為替報告書で、中国を為替操作国として認定することを見送った。その理由についてトランプ大統領は北朝鮮を抑え込むために中国政府の協力を得られるためだと説明した。今回、為替操作国として認定した主要貿易相手国・地域はなかったが、同省は「監視リスト」に前回と同じく中国と韓国、日本、台湾、ドイツ、スイスの6か国・地域を指定した。

 「強いドルは国益にかなう」という米国の伝統的に受け継いできた為替政策については、本音は違うところにあるものの、表面上のスタンスはそのように見せざるを得ないというのが実情ではないかと思う。それは米国が為替操作国もしくは監視リストにいくつかの国を指定するとなれば、そもそも米国そのものが為替操作国ではないという前提でないとおかしいことになる。

 1985年のプラザ合意を持ち出さずとも米国はかなり自国のための為替操作を行ってきた国だと言える。それが結局、急激な円高ドル安を招くことになり、「有事のドル高」がいつの間にか「有事の円高」に変わったひとつの要因であろう。しかし、基軸通貨国としては、それを公に認めるわけにはいかない。このためムニューシン米財務長官から、強いドルは良いことだとの発言が出てきたものとみられる。


2017年4月18日「日本の長期金利は再びマイナスとなるのか」

 4月13日に日本国債の10年債利回りは0.005%に低下しゼロ%に接近した。10年国債の利回りは長期金利とも呼ばれる。日本の長期金利が初めてマイナスとなったのは、2016年2月9日のことであった。日銀は2016年1月29日の金融政策決定会合で「マイナス金利付き量的・質的緩和の導入」を決定した。これを受けて債券券市場では当座預金金利の一部のマイナス化によりイールドカーブの起点が引き下げられることや、超過準備に残すよりも国債保有のインセンティブも働くことになるため、国債の利回りが大きく低下してきた。その結果、マイナスに低下したのである。

 その後、2016年3月に長期金利はマイナス0.100%台まで低下し、7月27日にはマイナス0.295%まで低下した。これにはヘリコプターマネーへの思惑など強まり、日銀の追加緩和期待なども影響していた。しかし、7月28日の日銀金融政策決定会合では、金融政策の強化を決定、これはETFの買入を現行の3.3兆円から6兆円とすることや、企業・金融機関の外貨資金調達環境の安定のための措置に止まり、一部期待のあったマイナス金利の深掘りや国債買入の増加などは見送られた。ここでいったん長期金利のマイナス幅は縮小することになる。8月2日には10年国債入札などをきっかけに0.100%を割り込むが、この動きには日銀の次の一手に対する思惑も働いていた。銀行などからマイナス金利の弊害が指摘されはじめていたためである。

 9月21日の金融政策決定会合では、長短金利操作付き量的・質的金融緩和政策を決定した。これは長短金利の操作を行う「イールドカーブ・コントロール」と物価上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで資金供給拡大を継続する「オーバーシュート型コミットメント」が柱となった。従来、日銀自らコントロールできないとしていた長期金利をコントロール下に置くことになる。これの隠れた目的はイールドカーブのスティープニングにあった。

 21日に長期金利は0.005%を付け一時的にプラスに転じたがすぐにまたマイナスに戻ってしまった。それでも日銀の意図が次第に浸透するなか、超長期ゾーンの利回りが上昇し、10年債利回りもゼロ%に接近した。日本の長期金利が再びプラスに転じたのは、11月16日であり、これはトランプ大統領の誕生を受けての米長期金利の上昇も背景にあったといえる。その後、12月16日に日本の10年債利回りは0.1%をつける。市場参加者は日銀の長短金利操作の長期金利の目標値ゼロ%の範囲を意識し、これはプラスマイナス0.1%あたりとの認識を強め、これ以降はゼロ%から0.1%の間での推移となった。

 今年に入り、米10年債利回りは3月につけた2.6%台でいったんピークアウトした。トランプ政権への政策実行力に疑問符が付いたことや、欧州でのフランス大統領選挙への警戒、さらにFRBの年内複数回の利上げをすでに織り込み、むしろFRBの利上げに向けた慎重姿勢も好感されて、次第に米長期金利は低下した。ここに北朝鮮を巡る地政学的リスク等も意識されて、4月13日と17日に日本の長期金利が0.005%にまで低下したのである。

 日銀の国債買入での長期ゾーンの買入の減額観測もあるが、すでに長期金利が0.005%まで低下してきている以上、きっかけ次第では今後、ゼロ%やマイナスになる可能性はありうる。そのカギを握りそうなのは北朝鮮情勢や米長期金利の動向次第という面が強いと思われる。


2017年4月16日「日本の投資家が2月にフランスの国債を大量売却していた」

 財務省の国際収支の発表には付表として対外・対内直接投資、対外・対内証券投資が発表されている。ここから日本の投資家による海外の国債の売買を確認することができる。それは「主要国・地域ソブリン債への対外証券投資」というページで数字をチェックできる。通常はあまりこのページは意識されていないかもしれないが、今年2月分にある異変が起きていた。

「国際収支状況」 財務省 http://www.mof.go.jp/international_policy/reference/balance_of_payments/release_date.htm

 今年2月の主要国・地域ソブリン債への対外証券投資(速報ペース)によると、日本の投資家がフランスの国債を1兆5045億円売り越していたのである。この表には中期債と短期の数字も記載されており、これによると中期債は136億円の買い越しとなっていたため、中長期債は1兆5180億円の売り越しとなった。ブルームバーグによると、これは少なくとも2005年以来の大幅な規模となっていた。

 フランスの10年債利回りの推移をみると、昨年11月の米大統領選挙を受けての米10年債利回りと連動するかのようにフランスの10年債利回りも上昇してきた。米大統領選挙前に0.5%割れとなっていたフランスの10年債利回りは、今年1月末に1%台に乗せてきた。米10年債利回りが12月のFOMCでの利上げ決定を受けていったんピークアウトしていたにもかかわらず、フランスの10年債利回りは上昇を続けた。この背景にあったのは今年4月、5月のフランス大統領選挙に向けた思惑であった。

 今回のフランス大統領選挙で最も注目されているのが、極右政党、国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首である。ルペン党首はユーロ圏離脱や欧州連合(EU)離脱の国民投票実施を掲げている。英国のEU離脱や米国でのトランプ大統領の登場の流れがフランスでも強まるとなれば、このルペン党首が勢いづくことになる。その懸念でフランス国債が売られていたが、その売りには日本の投資家も参加していたのである。

 ただし、フランスの10年債利回りは、その後1.10%あたりが天井となって、上昇が抑えられた格好となっている。これにはフランス大統領選挙の第一回投票でルペン氏がトップとなっても、5月の2回目の投票ではもう一人の候補(いまのところマクロン前経済相か)に敗れるとの見立てになっているためと思われる。

 またFRBが年内複数回の利上げを示唆しているにも関わらず、米10年債利回りも2.6%あたりが天井となってこちらも戻りが抑えられていることも影響していよう。米仏に限らず、日本も含めて先進国の長期金利の上昇はかなり鈍い。地政学的リスクなども意識されて積極的には売り込みづらいことが影響しているようである。


2017年4月15日「イエレンFRB議長の去就に対するトランプ大統領の発言修正の背景」

 トランプ氏は大統領就任前に、自分が大統領に就任すれば、イエレン議長が共和党員でないというだけの理由で、自身のテレビ番組「アプレンティス」の決め台詞「おまえはクビだ」をイエレン氏に言い放つと主張していた(ロイターの記事より)。

 FRBは大統領が任命し上院の承認を受けた7名の理事から構成されている。理事の任期は14年。この7名の中から議長と副議長が選ばれる。議長と副議長の任期は4年で再任も可。

 第二次大戦後、今度はインフレ懸念の台頭により、FRBは国債価格を維持する政策の副作用に直面することになった。インフレリスクを防ぐために、1951年に財務省とFRBは「アコード」を取り交わし、国債価格維持を撤廃した。これによりFRBの判断で金融政策が行えるようになり、中央銀行による金融調節が重要性を増した。

 しかし、政府とFRBの対立はその後さらに激化することになる。特にマーチン議長は強い指導力を発揮し、ホワイトハウスから圧力に屈せずにFRBの独立性を守り抜いたとされる。強い影響力を保持したとされるポルカー議長時代も、レーガン大統領の息の掛かった理事が送りこまれ反乱が起きかけたケースもあった。政府がFRBに対して圧力を掛けないようにさせたのはクリントン時代のルービン財務長官の影響が大きかったとされている。

 その後のFRBは政府からの独立性を維持させてきたといえる。しかし、トランプ大統領はFRBのイエレン議長に対してクビ宣言をし、イエレン議長の再任はないと言い切っていた。

 ところがトランプ大統領は今月12日に、ホワイトハウスでのウォールストリート・ジャーナルとのインタビューで、イエレン議長に対し尊敬していると指摘した。現行の任期を迎える2018年で「おしまいになる訳ではない」とし、続投に含みを残したのである。

 つまりイエレン議長の意向次第ではあるが、再任の可能性が出てきた。これにはトランプ政権内部の変化が影響しているようである。

 トランプ氏の従来の過激路線を推進するバノン氏と、穏健路線を重視するクシュナー氏やコーン国家経済会議(NEC)委員長の対立が激化している。シリアへのミサイル攻撃は「穏健派」の主張を取り入れたものとなったことから、どうやら穏健派の影響力が強くなってきた。トランプ大統領はバノン大統領上級顧問・首席戦略官を更迭するのではないかとの観測も出ている。

 その穏健派の一人であるコーン米国家経済会議委員長は、3月12日にFOXニュースのインタビューで、FRBについて「独立性」を認めた上で権限を「尊重する」と述べていた。この際は3月15日の利上げを容認する姿勢を示した格好ながら、FRBの独立性についても触れている点にも注意が必要となる。つまりトランプ政権の穏健派は、ルービン時代から意識されたFRBの独立性を尊重する姿勢を示した。コーン委員長はゴールドマン・サックスの前社長だったこともあり、中央銀行が政府からの独立性を維持することで信用力を保てることが金融市場にとって非常に重要との認識を持っているものと思われる。


2017年4月14日「トランプ大統領によるドルが強すぎ発言の真意とは」

 米国のトランプ大統領は12日、ホワイトハウスでのウォールストリート・ジャーナルとのインタビューで、「ドルが強くなり過ぎている。これは人々が私を信頼しているためで、私のせいでもある。だが、結果的には打撃となる」と指摘した。

 トランプ大統領はまた中国は「為替操作国ではない」と言明し、今週財務省が公表する主要貿易相手国の為替報告書で、中国を為替操作国には認定しないと明らかにした。トランプ氏は選挙期間中、就任初日に中国を為替操作国に認定すると主張しており、この見解を180度転換した。これは北朝鮮への中国の関与を期待してのものともの見方もある。

 トランプ大統領はFRBが低金利を維持するのが好ましいとの見解も示した。さらにイエレン議長については、尊敬していると指摘し、現行の任期を迎える2018年で「おしまいになる訳ではない」とし、続投に含みを残した。こちらも以前にトランプ大統領は、イエレン議長の再任はないと言い切っていただけに方針が変わったようである。

 今回の金融に絡んだトランプ大統領の発言については、発言やツイートの内容が良く変わるトランプ大統領の発言とはいえ、注意する必要がある。

 シリア空軍基地へのミサイル攻撃を巡り、トランプ米政権内の内紛も表面化している。トランプ氏の最側近だったバノン大統領上級顧問・首席戦略官がシリア攻撃に反対する一方、トランプ氏の娘婿クシュナー大統領上級顧問が実施を求めたとされる。トランプ氏の従来の過激路線を推進するバノン氏と、穏健路線を重視するクシュナー氏やコーン国家経済会議(NEC)委員長の対立が激化しているなか、シリア攻撃は「穏健派」の主張を取り入れたものとなった。トランプ大統領はバノン大統領上級顧問・首席戦略官を更迭するのではないかとの観測も出ている。

 今回のトランプ大統領の発言も、このトランプ米政権内の過激派から穏健派への移行が影響している可能性がある。中国を為替操作国には認定しないとの発言などがそれを示している。減税などのトランプ氏の掲げた政策が進まないなか、経済政策の必要性から、ドル高の是正や低金利の維持に向けた発言をトランプ大統領が行ってきた可能性がある。雇用の回復などに対してはイエレン議長が主導しているFRBの金融政策による効果も大きいとの認識もあるのか、イエレン議長の再任についても含みを持たせる発言を行った。こちらも実は穏健派の主張を取り入れたものとの見方がある。

 FRBの正常化路線に関する発言はなかったようではあるが、正常化に向けたFRBの利上げはある程度容認しているものの、景気に悪影響を与えかねない程度までの利上げは望んではいないということであろうか。このあたりの舵取りはイエレン議長に任せても大丈夫という認識か。

 ちなみにドルが買われていたのは、市場参加者がトランプ大統領を信任しているためとの見方にはかなり違和感がある(本人も半ばジョークのつもりで言ったのかもしれないが)。まったくないとは言えないものの、ドル高の背景としてはFRBが正常化を進める程度に雇用を中心に景気が回復し、物価もFRBの想定近くに上昇してきていることによる影響が大きい。FRBの利上げもあってドルが買われている側面がある。もちろんトランプ大統領の経済政策への期待やそれによる物価上昇も意識されたかもしれないが、それはここにきてかなり裏切られた格好となっている。


2017年4月13日「北朝鮮への懸念で近隣国の日本の通貨が買われる不思議」

 昔の相場の格言に「有事のドル買い」というのがあった。これは戦争などが起こった場合、いわゆる有事の際に外国為替市場においてドルが買われやすいことを意味する。軍事大国である米国の通貨のため、安全性が高い上、ドルは最も流動性が高く、ほかの通貨よりも信用リスクや流動性リスクが低いことで、有事の際には買われやすいことを意味していた。

 しかし、この有事のドル買いという言葉は最近ではあまり通用しなくなった。もちろんドルが買われる場面はあるが、こと円に対してはドルが下落することが多い。

 6日に米軍がシリアに向けてミサイル攻撃を行った。そして間髪入れずに今度は、8日に原子力空母カール・ビンソンを中心とする第1空母打撃群がシンガポールから朝鮮半島に向けて出航した。

 米国のトランプ大統領は11日、ツイッターで「中国が北朝鮮問題を解決すれば、米国とより良い貿易取引ができるだろうと中国の習近平国家主席に説明した」と投稿した。さらに「中国が協力を決断するなら、それはすばらしいことだ。そうでなければ、中国抜きでわれわれが問題を解決する」とも投稿しており、中国が行動しないのであれば、米国が単独で対応する用意があるという考えを改めて示した(NHK)。

  海上自衛隊が、朝鮮半島の近海に向けて航行中の米空母カール・ビンソンと共同訓練を検討しているとも伝えられており、これも北朝鮮を刺激する可能性がある。今月は金日成主席の誕生日を15日に迎えるなど、北朝鮮で記念日が続くことで北朝鮮が新たな挑発行為に出る懸念もあり、一触即発のリスクも高まっている。

 金融市場動向をみると特に株式市場などでは、それほど動揺を示していないが、外為市場ではじわりじわりと円高が進行し、ドル円は昨年11月の110円割れとなった。リスク回避の動きから金の先物も買われ、ニューヨーク金先物相場は5か月ぶりの高値をつけている。

 金が買われるのは何となくわかるが、地政学的リスク回避の動きだからといって円が買われるというのは理屈に合わない。今回のリスク回避の動きの背景にはシリアという中東の国の問題というより、地理的に日本と非常に近い北朝鮮の問題である。何かしらの有事が発生した場合に、米国と日本への影響を考えると日本に対する影響の方が大きくなるはずである。それにも関わらず何故、円がドルに対しても買われるのであろうか。

 リスク回避の円買いは、理屈で動くというよりも長きにわたり市場で形成されてきた条件反射的な動きにも思える。たしかに先進国のなかで政治は安定しているようにみえる。しかし、安倍首相以前は毎年のように首相が替わっていた国である。しかも膨大な債務を抱え、中央銀行はやや無謀とも言える政策を続けている国である。これらは日本国債の潜在的なリスクを高めているともいえる。それでも円が買われるのは、日本への信認が維持されている裏返しでもあるのかもしれない。しかし、それでも北朝鮮における地政学的リスクの高まりに対しての円買いに対しては違和感を持たざるを得ない。


2017年4月12日「フランス大統領選は混戦模様となり、不透明感を強める」

 フランス第5共和政の第10回大統領選挙は2017年4月23日(日)と5月7日(日)に実施される。フランス国民による直接投票によって大統領が決まる。

 フランス大統領の選挙日程が2回予定されているのは、第1回目の投票で全体の過半数の票を取った候補が出ない際に、投票率の上位2名によって決選投票が行われるためである。1965年以降、第1回投票で大統領に決まった候補者はなく、今回もこれまでの世論調査などからも決選投票は不可避とみられている。

 今回の大統領選挙が最も注目されているのが、極右政党、国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首である。ルペン党首はユーロ圏離脱や欧州連合(EU)離脱の国民投票実施を掲げている。英国のEU離脱や米国でのトランプ大統領の登場の流れがフランスでも強まるとなれば、このルペン党首が勢いづくことになる。

 欧州でポピュリズムや極右の流れがさらに加速されるのかどうか。その試金石とされたのが3月15日に実施されたオランダの議会下院の選挙であった。

 オランダの議会下院の選挙では、ルッテ首相が率いる中道右派の与党・自由民主党が8議席減らすものの33議席を獲得し、第1党の座を維持した。ウィルダース氏が率いる極右政党の自由党は20議席を獲得したが、当初予想されていた倍増の30議席までには至らなかった。

 フランスの大統領選挙でも、ルペン党首の人気の高まりを懸念したEU残留派の有権者を中心に、オランド大統領のもとで経済相を務めたマクロン候補への支持に拡がりを見せている。このため、無所属のマクロン候補が有力候補となりつつある。39歳という若さもその魅力のひとつとなっている。ところがここにきた新たなダークホースが出てきた。

 オピニオンウェイが6日に公表した調査によると、4月23日の第1回投票でのルペン氏の支持率は25%、マクロン氏は24%となっていたが、共産主義の支持を集める急進左派のジャン・ルク・メランション氏が追い上げを見せて、1ポイント上昇して16%となったのである。ちなみに5月7日の決選投票予想はマクロン氏が60%で、ルペン氏の40%を上回った。(NEWSWEEK)。

 以前に与党・社会党など左派陣営のブノワ・アモン氏と共産主義の支持を集める急進左派のメランション氏が、協力の可能性をめぐり協議していることを明らかになったが、これは決裂したようである。

 2002年のフランス大統領選挙の際には1回目の投票で現職のシラク大統領に次いで、極右政党・国民戦線(FN)のジャンマリ・ルペン党首(マリーヌ・ルペン氏の父)が2位で決選投票に進んだ。決選投票では1回目の選挙で敗れた左派の社会党候補の支持者もルペン氏を当選させないために、ライバルであった保守系政党のシラク氏支持に回り、シラク氏が大差で勝利していたということもあった。

 今年のフランス大統領選挙では、ルペン氏が大統領選挙で勝つことはないだろうとの予想がいまのところ大勢を占めているが、この予想が昨年の米国大統領選挙の時のように覆されることとなれば、フランスのユーロ離脱も意識される可能性がある。いまのところその懸念は後退しつつある。しかし、今後の動向次第ではフランス大統領選挙が混戦模様となり、決選投票でのルペン氏敗退とのシナリオに不透明感が強まることもありうるため、注意が必要となる。


2017年4月11日「中東・アジアでの地政学的リスクの高まりに対して、市場の反応が鈍い理由」

 米国防総省は6日夜(日本時間7日午前)、米軍が巡航ミサイル「トマホーク」59発をシリアの同国軍施設に発射し、対シリア攻撃を開始したと発表した。

 このシリア空軍基地へのミサイル攻撃を巡り、トランプ米政権内の内紛も表面化している。トランプ氏の最側近だったバノン大統領上級顧問・首席戦略官がシリア攻撃に反対する一方、トランプ氏の娘婿クシュナー大統領上級顧問が実施を求めたとされる。

 トランプ氏の従来の過激路線を推進するバノン氏と、穏健路線を重視するクシュナー氏やコーン国家経済会議(NEC)委員長の対立が激化しているなか、今回のシリア攻撃は「穏健派」の主張を取り入れたものという、なんとも皮肉な結果となっている。

 そしてティラーソン米国務長官は9日放送のABCテレビの番組で、シリアへのミサイル攻撃は北朝鮮への警告の意味が込められていたと強調し「他国への脅威となるなら、対抗措置を取るだろう」と述べた(日経新聞電子版)。

 ただし、ティラーソン米国務長官は米国には北朝鮮の「レジーム・チェンジ(体制転換)」には関心がないとも述べている。

 米海軍当局者は8日に原子力空母カール・ビンソンを中心とする第1空母打撃群が、シンガポールから朝鮮半島に向け、同日出航したと明らかにした。空母打撃群は1隻の空母とそれを護衛する3隻のイージス艦、そして攻撃型原潜によって構成される。

 7日から8日にかけての市場の反応を見る限り、米軍によるシリア攻撃による影響は限定的と言える。7日に発表された3月の米雇用統計で非農業雇用者数が前月比9.8万人増となり、市場予想を大幅に下回ったことに影響を受けて、ドルやダウ平均が下落した面があった。しかし、非農業雇用者数については悪天候が一時的に影響したとの見方があり、3月の失業率は4.5%と2007年5月以来、約10年ぶりの水準に低下したていたことで、さほど悪材料とはならず、7日のダウ平均は小幅安での引けとなった。

 そもそもこの雇用統計が注目されている理由は、米国の景気動向をみる指標であるとともに、FRBの金融政策に大きく影響するためである。そのFRBの金融政策を巡っては、ニューヨーク連銀のダドリー総裁が興味深い発言をしていた。3月31日にダドリー総裁は、バランスシート縮小を開始すれば利上げを休止する可能性があるとしたが、ダドリー総裁は7日、この休止というのは既に非常に短い意味があり、短い休止を強調したのである。かなり苦しい言い訳にも聞こえるが、要するにバランスシート縮小開始は、利上げをそこで止めるわけではないということであった。このダドリー総裁の修正発言もあり、7日の米国債はリスク回避で買われるのではなく、むしろ売られていたのである。

 7日のドイツや英国の国債は、リスク回避の動きもあって買われていたのに対し、米国債はリスク回避よりもダドリー総裁発言に大きく影響を受けていた。現状、市場の感応度が地政学的リスクよりも、FRBの金融政策の方に対しての方が大きいことが伺える。

 米軍によるシリア攻撃に関してはロシアの反応が最大の注目点となっていた。ロシア政府は、米国によるシリア空軍基地へのミサイル攻撃について厳しく批判したものの、ティラーソン米国務長官のロシア訪問は予定通り進める見通しとなっている。ロシアが強攻策に出るようなことはなさそうであり、その意味で地政学的リスクがさらに高まる様子はいまのところみられない。このあたりも市場がさほど神経質とはなっていない要因とみられる。

 リスクとしては北朝鮮の方がむしろ高い可能性はある。米軍による第1空母打撃群の朝鮮半島の派遣が、北朝鮮への抑止効果となるのか、反対に北朝鮮がさらに過激な行動に出るのか。このあたりは米中首脳会談の最中にシリア攻撃を行っていたことも影響してこよう。

 つまりこちらは中国の出方がポイントとなる。これについても、米中首脳会談で何らかの協議が行われた可能性は当然ありうる。突発的なことが発生したとしても、中国は静観している可能性もある。ただし、その突発的なことが起きた際には、地理的にも近い東京市場には大きな影響が出ることが想定される。中朝国境付近に中国軍が15万人展開を始めたという情報がツイッターなどで飛び交っているようだが、北朝鮮で何らかの動きが起きた際にはリスク回避の動きから、一時的にせよ円高進行、株式市場の急落に加え、再び国債が買われることで長期金利が低下することもありうるか。


2017年4月9日「日本国債の基準値が決定される仕組み」

 国債を売買するにあたっての基準値は日本証券業協会が発表しているもの以外に、日本相互証券が発表しているものがある。また、プライマリー・ディーラーなどはそれぞれ独自の基準値を出している。

 そもそもこういった基準値はどのように決定されているのであろうか。債券の売買は店頭取引(つまり相対)で行われている以上、個々の売買がどのレートで行われているのかはわからない(当然、守秘義務も発生する)。

 このため日本証券業協会や日本相互証券は業者(主に証券会社)に聞き取り調査をすることで、その基準値(気配)を掴んでいる。それは主に15時現在の国債の利回りや価格となる。日本相互証券などが発表している気配表に基づいて、国債のポジションを抱えている金融機関は保有評価額を算出することになる。

 それでは業者はどのようにその日のトレード(売買)の際のレートを決定しているのであろうか。まず参考にするのは、前営業日の基準値となる。前営業日から当日の朝にかけて、海外市場動向などを元におおよその相場の居所を探る。そして、債券先物の寄り付きの位置などを見て、ある程度の相場の強弱を探るとともに、当日の財務省による国債入札や日銀による国債買入といったものも考慮し、投資家の需要などを元にしてイールドカーブの状況を推測する。それに基づいて、前日の基準値からどの程度利回りが乖離しているのかを探ることとなる。

 その上で、ディーラーなりの相場観に基づいて投資家との売買を行う。そして、投資家の売買により生じたポジションの調整などのため、日本相互証券などで売り買いを行う。もちろん日本相互証券での売買はディーラーの相場観による単純売買も行われている。この日本相互証券の端末は多くの証券会社や銀行にあり、そこで出合った利回りは外部から見ることができ、今度はそれが参考データとなる。

 日本相互証券ではカレント物と呼ばれる直近入札された2年、5年、10年、20年、30年債の売買が頻繁に行われることで、今度はその水準も参考にして、投資家との売買を行うことになるのである。

 また債券相場のおおよその流れは債券先物が参考になる。現物債に比べて常に価格が変動しており、その動向をチェックすることにより、相場の流れを掴み、現物債の売買の参考にされるのである。


2017年4月7日「FRBは年内にもバランスシート縮小開始か」

 FRBが5日に公表した3月14、15日開催のFOMC議事要旨には下記のような表現があった。

 「経済が想定通りに推移するとの前提に立って、大半の参加者はフェデラルファンド金利の緩やかな上昇が続くと見込んでおり、FOMCの再投資に関する政策の変更は年内にも適切になると判断した」(ロイター)。

 これはつまり、経済物価動向がFOMCメンバーが想定したように順調に回復するという前提のもと、今後も緩やかな利上げペースが想定されるなか、量的緩和政策による米国債やMBSの買入で膨らんだ4兆5000億ドル(約500兆円)ものFRBのバランスシートの縮小政策に踏み切る可能性を示唆した格好となった。

 すでに正常化に歩み始めているFRBではあったが、こと「量」については2013年12月から2014年10月にかけてテーパリングを行い、新規の買入は停止したものの、テーパリング終了時のバランスシートの規模を維持させていたのである。

 株式や為替などと異なり、債券には償還がある。つまりFRBの保有する米国債が償還を迎えると、その分バランスシートの規模が縮小することとなる。このため、FRBは償還分を米国債など新規購入することでバランスシートの規模を維持させ続けていたのである。

 個人的にはテーパリングを波乱なく無事終了させたのであれば、利上げと同時に償還分の手当など行わず自然体でのバランスシート規模の縮小を行っても良かったのではないかと思っていたが、この点についてはかなりFRBは慎重になっていた。今回のFOMC議事要旨でこのような表現を組み入れたのも、市場の波乱なくバランスシート縮小開始を織り込ませようとしたものと思われる。またFOMCでは下記のような表現もあった。

 「多くの参加者は、バランスシートの規模縮小は受動的かつ予測可能な方法で実施されるべきだと強調した」

 どのような形式で再投資を止めるのか。段階的なのか、それともどこかで再投資をすべてストップするのかといったことを、事前に市場に何らかのかたちで伝えることを想定しているようである。

 再投資を止めることによるFRBのバランスシート縮小ですら、これだけ神経を使っているため、とてもではないが米国債やMBSの「売りオペ」で残高を減らすなどということはまず不可能に近いといえる。以前にはFRBのバランスシート縮小など売りオペを使えば簡単にできるとの意見もあったが、現実には難しいといえよう。増やすのは簡単でも減らすのは極端に難しい作業ということであり、いまだバランスシート規模を増やし続けている某中央銀行は大丈夫であろうか。


2017年4月6日「FRBの情報漏洩問題、中央銀行の情報漏洩は何故起きるのか」

 リッチモンド連銀のラッカー総裁は4日、2012年の機密情報漏洩事件に関わったとして、即日辞任すると発表した。

 ラッカー総裁は声明で2012年10月2日に調査会社メドレー・グローバル・アドバイザーズのアナリストと話した際、その後のFRB内の会合で話し合われる予定の政策選択肢についてアナリストが詳細な情報を握っていることが分かったとした。だがアナリストとの会話でコメントを拒否しなかったため、その情報を確認もしくは事実と承認しているかのような印象を与えた可能性があると述べた(WSJ)。

 問題となったのはメドレー・グローバル・アドバイザーズの2012年10月の顧客向けリポートで、FRB内部の政策協議に関して市場を動かしかねない情報が含まれていたとされる。この問題を巡り下院共和党や連邦当局が調査を行っていた(WSJ)。

 メドレー・グローバル・アドバイザーの有料レポートはメドレー・レポートと呼ばれ、真偽のほどはとにかくも金融に関する特ダネが掲載されることがあり、それが市場を動かすということがあった。最近ではあまり聞かなくなったものの、私が債券ティーラーの現役時代はこのレポートの記事がよく話題となっていた。

 2012年10月当時の自分で書いたものを確認してみたが、メドレー・レポートに触れたものはなかった。しかし、それを探しているときに面白いものを見つけた。2012年10月31日の日銀の金融政策決定会合で追加緩和が決定されていたが、それについては私は下記のような事を書いていた。

 「日銀は31日の金融政策決定会合で、追加緩和策を決定した。事前に資産買入等基金の10兆円程度プラスリスク資産の増額は報じられていた。今回は政府による経済対策と歩調を合わせた格好となっており、この報道は日銀関係者というよりも政府関係者から漏れた可能性が高いと思われる。」

 憶測で書くなと言われそうではあるが、この際には決定会合の内容が事前に漏れていたことは確かであった。これはこの会合に限らずで、以前には決定会合の最中に決定内容が速報といった格好で報じられることもあった。かなり大昔となるが、日銀短観そのものが1週間前に漏洩して債券ディーラー間で回し読みされていたということもあったそうである。

 中央銀行の金融政策、大昔では公定歩合の上げ下げとかは報道関係者にとり、そのスクープを抜くことが大きな勲章のようなものになっていたとされている。これもあってか、やや金融政策に関する事前報道が加熱していた時期もあった。ところが、こと日銀に関しては黒田総裁が就任してからは、そういったことがほとんどなくなった。だからこそ黒田日銀の追加緩和がサプライズと称されたのである。黒田総裁の異次元緩和そのものについては個人的には批判的ながらも、この情報漏洩を完全に遮断している姿勢に対しては評価している。

 ただし、中央銀行が作為的に金融政策の情報を流すケースもあることにも注意する必要がある。いまのFRBがまさにそうである。年内複数回の利上げをするぞと関係者がコメントしている。これは当然ながら情報漏洩ではない。特に金融緩和ではなく、その反対方向に向かう際にはそれを市場に浸透させ、市場の動揺を押さえ込む必要があるためである。


2017年4月5日「マーケットの新たなリスク要因、米・中・北朝鮮に英・露」

 米国のトランプ大統領は3月24日に「オバマケア見直し法案」の下院本会議での採決を見送り、同法案を撤回した。また、トランプ大統領が指名した連邦最高裁判事候補者の上院における承認を巡り不透明感も強まっている。さらに複数の州がトランプ政権の省エネ規制適用見合わせを違法として法的措置も辞さない構えを表明するなど、トランプ氏には逆風が吹いており、ロシアとの疑惑などもあり、トランプ政権の政策運営能力を疑問視する声も出始めている。

 これに対してトランプ大統領は外交面で北朝鮮に対する強硬姿勢を示すことで、国民の目を背けさせているとの見方もある。トランプ大統領は北朝鮮の核・ミサイル開発を巡り、中国が協力しなければ単独行動も辞さない構えを示した。4月6、7日に南部フロリダ州の別荘で開催されるトランプ氏と習近平・中国国家主席の首脳会談を控え、警戒感が強まっている。中国としては北朝鮮問題は取り扱いの難しい問題であるが、米国の単独行動を許すとも思えず、米中首脳会談での北朝鮮問題をどのように取り扱うか、通商・為替政策を含めて注意する必要がある。米中首脳会談を睨んでか、北朝鮮は5日に弾道ミサイルを発射するという挑発行為に出た

 3月29日、英国のメイ首相はEU基本条約(リスボン条約)50条を発動し、EUに対して離脱を正式に通知したが、さっそく問題が生じている。イベリア半島南端にある英領ジブラルタルを巡っての問題である。スペイン継承戦争後、1713年のユトレヒト条約でジブラルタルは英国の領土となったが、ジブラルタルでは周辺のスペイン人住民約1万人が働いており、毎日境界を通って通勤しているとされる。スペインのダスティス外相は、英領ジブラルタルについて、英国がEUを離脱した後も「境界を閉じるつもりはない」と表明したが、いずれこれが火種になるのではとの懸念も出ている。

 そして4月3日にロシア第2の都市であるサンクトペテルブルクの地下鉄で爆発が発生し、多くの死傷者が出た。この日はプーチン大統領がベラルーシのルカシェンコ大統領との会談のためにサンクトペテルブルクに滞在中だったそうだが、ロシア連邦捜査委員会はテロの疑いがあるとして刑事捜査を開始したとされる。

 4月3日の欧米市場では、米国やドイツ、英国の国債が買い進まれた。つまり長期金利が低下したわけだが、この動きはリスク回避の動きのようにも見えた。3月の米国の自動車販売台数が予想を下回り、米国で長く続いた販売好調局面が勢いを失いつつある可能性も意識されたようだが、地政学的リスク等を含めたリスクに市場が再び敏感になりつつあるのかもしれない。


2017年4月4日「FRBが物価目標としているPCEデフレーターが4年10か月ぶりに2%越え」

 31日に発表された2月の個人消費支出(PCE)で、PCEデフレーターは前年同月比2.1%の上昇となり、上昇率はFRBの目標である2%を4年10か月ぶりに上回った。ただし、エネルギー・食品を除くコア指数は1.8%上昇となり、前月と変わらずとなった。

 ここであらためてFRBが物価目標としているはPCEデフレーターとは何かを確認してみたい。

 2012年1月25日のFOMCの終了後に発表された「長期目標と政策戦略」という声明文において、FRBは物価に対して特定の長期的な目標(ゴール)を置くこととし、それをPCEの物価指数(PCEデフレーター)の総合指数の2%とした。 

 米商務省が発表している個人所得(Personal income)、個人消費支出(Personal consumption expenditures)、PCEデフレーター(Personal Consumption Expenditure Deflator)は米国の経済指標の中にあって、注目されるもののひとつである。

 これは米国の個人の所得と消費について調査した指標であるが、このうち個人所得とは、社会保険料を控除し実際に個人が受け取った所得のこととなる。この個人所得は消費動向を決定付ける大きな要因ともみられている。賃金給与・賃貸・利子配当等といった所得の構成項目や、可処分所得・貯蓄率なども同時に発表される。

 個人消費支出(PCE)とは1か月間に実際に米国の個人が消費支出した金額について集計したものであり、米国のGDPの7割を占める個人消費の動向は米経済にも大きな影響を与えることで注目されている。特に名目個人消費支出の前月比などが注目される。

 名目個人消費支出(名目PCE)を実質個人消費支出(実質PCE)で割ったものが、個人消費支出(PCE)物価指数もしくはPCEデフレーターと呼ばれるものであり、これも同時に発表される。PCEデフレーター変化率がプラスであれば物価上昇、マイナスであれば物価下落と捉える。

 特に価格変動が激しいエネルギーと食品を除いたものを「コアPCEデフレーター」と呼び、FRBが物価指標の中で最も重要視している指標のひとつとなっている。その理由としては消費者物価指数に比べて、バイアスが生じにくいためとされている。

 しかし、FRBが目標とするのはコア指数ではなく総合指数である。これは足下物価動向を見るにはコア指数が良いが、長期的に見ると総合指数が適切と判断したものとされている。ただし、過去の事例をみるとFRBはコアPCEデフレーターが2%を越えてくると段階的に利上げを行っていた。

 参考までに日銀も2013年1月に2%の物価目標の導入を決定したが、この場合の物価目標は全国消費者物価指数の総合指数の前年同月比であった。ところが2016年9月の金融政策決定会合で長短金利操作付き量的・質的緩和を決定した際、この目標とする物価を総合から生鮮食料品を除くコア指数に置き換えている。


2017年4月3日「2017年度の日本国債の発行市場はどうなっているのか」

 2017年度の国債発行計画は、昨年12月22日の政府による来年度予算案の閣議決定のタイミングで発表されているが、あらためて確認しておきたい。

 2017年度の予算案での新規国債(建設国債と赤字国債)の発行額は34兆3698億円となり、2016年度当初予算からは622億円の減額、三次補正後では4兆6648億円の減額となる。

 2017年度の国債総発行額は153兆9633億円となり、これは2016年度当初からは8兆2395億円の減額、三次補正後でみると15兆8365億円もの減額となる。減額の理由は借換債が2016年度当初から3兆354億円減額され、財投債が4兆5000億円減額されるためである。

 2017年度の国債総発行額の153兆9633億円のうち入札等で発行される、いわゆるカレンダーベースの国債発行額は141兆2000億円となる。2016年度当初に比べると5兆8000億円の減額となる。2017年度の前倒債の発行限度額は56兆円(今年度の48兆円から大幅増額)となり、この分は今後の国債発行の調節を可能とするバッファーとなる。

 カレンダーベースの年限別の国債発行額をみてると、40年債が2016年度当初の4000億円6回から、来年度は5000億円6回と増額される。30年債は8000億円が12回と変わらず。20年債は2016年度の1.1兆円12回から1.0兆円12回に減額、10年債は2.4兆円が12回から2.3兆円12回に減額され、5年債は今年度の2.4兆円12回が2.2兆円12回に減額され、2年債は2.3兆円12回から2.2兆円12回に減額される。1年物短期国債も都合1.2兆円減額となる。10年物物価連動国債は4000億円の減額、流動性供給入札は1.2兆円増額となる。

 このように短期債から20年債に至るまで減額され、一部の増額もあり、差し引き全体では5.8兆円の減額となる。日銀の国債買入においては、減額されるゾーンを主体に減額の方向で調整を行っている。

 3月22日に財務省で開催された国債市場特別参加者会合では、2017年度の国債発行に際して、リオープン方式について財務省から説明があった。10年債については2015年度から、新発債の表面利率と入札日における市場実勢の乖離がおおむね30bps以内の場合に、リオープンによる発行としているが、それが継続される。

 20年債・30年債・40年債のリオープン方式及び40年債の入札方式については2016度と同様に20年債・30年債は年間4銘柄とし、40年債は年間1銘柄で利回りダッチ方式の入札とする方向のようである。

 また、国債市場特別参加者の応札責任を発行予定額の5%以上に引き上げることや、第1非価格競争入札の発行限度額を現行の発行予定額の10%から同20%に拡大する案も出された。これは7月以降に発行される国債の入札分から適用される予定である。


2017年4月1日「日銀のステルス・テーパリングとそれを忖度(そんたく)する市場」

 今年の流行語大賞に選ばれるであろう言葉に「忖度(そんたく)」がある。森友学園の問題で国有地売買において忖度があったのか、なかったのか、国会の与野党の議論でも飛びかっていた用語である。

 忖度とは、他人の気持をおしはかることと言う意味がある。森友学園の問題では、上司などの意向を推し量るといった意味合いで使われているとみられる。相手から直接言及されたり指示されたりされなくとも、相手が何をしたいのかを推量し、それに応ずるというのが忖度の意味ではないかと思われる。

 その意味では国債買入に対する日銀の姿勢についても、市場はまさに忖度しているとも言えるのではなかろうか。

 日銀は昨年9月に長短金利操作付き量的・質的緩和政策を導入した。操作目標を「量」から再び「金利」に戻し、フレームワークの変更を行った。これによりマネタリーベースの目標値はなくしたが、なぜか長期国債の買い入れに対する量については数字を残した。

 国債の買入れ額については、概ね現状程度の買入れペース(保有残高の増加額年間約80兆円)をめどとするとし、80兆円という数字を残したのである。

 しかし、現実には80兆円を維持するのは困難になりつつある。そのために、2015年12月に補完措置を導入し買入可能な国債の金額を増加させた。しかし、それでも2016年度は年間国債発行額に相当する金額を購入せざるを得ない。2017年度の国債発行額は2016年度に比べ、カレンダーベースで差し引き5.8兆円の減額となることもあり、現在の規模のままでの国債買入は金融機関保有の国債引き剥がしともなり、次第に困難になっていくことが予想される。

 この80兆円に関してはあまり意味はなくなりつつあり、減額可能な中期ゾーンなどを中心に一回あたりの買入額を修正する格好ですでに減額を行っている。これはステルステーパリングとも呼ぶ人もいる。

 米国のFRBは非伝統的な金融緩和手段としての量的緩和に際し、毎月の国債等の買入額そのものを目標値としていた。このため正常化の過程においてはその金額を減少させるという、テーパリングという作業が必要となった。

 これに対して2013年3月に決定した日銀の量的・質的緩和政策では、年間ベースでのマネタリーベースや国債買入額を目標水準としておき、それを達成するための毎月の国債買入額は特に数値目標化はされなかった。さらに昨年9月の長短金利操作付き量的・質的緩和の導入により、80兆円という数字も目標数字とはならず、あくまで長期金利をゼロ%に抑えるための目安(めやす)的なものとなっている。

 このため日銀が結果として毎月の国債買入額を減らしたとしても、現実にはこれはFRBのテーパリングとは違う意味合いとなる。しかし、現実には国債の買い入れ額は減らさざるを得ないし、80兆円という数字も形骸化しつつある。そのあたりの日銀の姿勢について、大胆な緩和政策を継続しているように見せているが、現状はちょっと違うということについて、市場参加者はまさに「忖度」していると言えるのではなかろうか。

 大胆な金融緩和を維持しているようで、現実にはブレーキが掛かっている。それでも長期金利は日銀の意向も意識して、ゼロ%近辺に維持させざるを得ない。果たしてこんな状況がいつまで継続可能なのであろうか。


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