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日銀は4月30日と5月1日に金融政策決定会合を開く。政策金利は0.5%のまま据え置く方針だと日経新聞などが報じた。
「トランプ関税の影響をめぐって日銀内では、関税の方針そのものや経済に与える影響は依然として見極めにくいものの、経済成長率へのマイナスの影響は避けられない、との見方が大勢を占めています」(日テレNEWS)。
「日銀内」との表現があるように、これらはリークとかではなく、最終的には政策委員の判断に委ねられるものの、事情に詳しい日銀関係者の現状での認識がマスコミに伝えられたことで、それが報じられたものとみられる。
少なくとも現状は利上げが多数派を占めることはないとみられ、全員一致での現状維持が決定される可能性が高いか。
NHKでは下記ように報じられた。
「日銀は今月30日から金融政策を決める会合を開きます。今回の会合では再来年度=2027年度までの経済・物価について最新の見通しを示しますが、日銀内には、トランプ政権の関税措置の発動を受けて成長率、物価上昇率とも従来の予測より下がるのではないかという意見が多くなっています。」
NHKは政策金利についての言及は避け、「展望レポート」における最新の見通しを重視した格好となっている。
1月時点での展望レポートでは、実質GDPの見通し(9人の政策委員の中央値)は2025年度で前年度比1.1%、2026年度は1.0%。消費者物価指数(除く生鮮食品)の上昇率は2025年度で2.4%、2026年度で2.0%だった。今回は2027年度の見通しも新たに示す。
「日銀内にはトランプ政権の関税措置で先行きの不確実性が高くなり、輸出や設備投資などで慎重な動きが広がる可能性もあることから、成長率、物価上昇率とも従来の予測より下がるのではないかという意見が多くなっています」
もう少し具体的には、想定する関税の影響を踏まえ、2025〜2026年度の実質GDPの前年度比は1%を下回る水準に、2025年度の消費者物価指数(除く生鮮食品)も2%程度に下方修正する可能性があるとも報じられた。
4月の金融市場がトランプ政権の関税策を巡り、大荒れとなっていたことも踏まえ、先行き不透明感が極度に強まった、この背景もあり、4月30日、5月1日の金融政策決定会合では利上げが見送られると予想される。
5月6日、7日にはFOMCが開催される。トランプ大統領はパウエル議長を解任するつもりは全くないと述べたものの、利下げに関して「もう少し積極的」になってほしいとも述べていた。
こちらも現状維持が予想されてはいるが、利下げすべきとの反対者が何人か出る可能性があるかもしれない。
米国のトランプ大統領はFRBのパウエル議長の解任を示唆するような発言をするなどしていることで、FRBの独立性が脅かされている。。
FRBの独立性については特に明文化はされていない。FRBの独立性は実績の積み重ねとともに、政府サイドにいた中央銀行制度の理解者により築き上げられた。
米国のFRB議長、副議長、理事の任命においては、大統領が自ら人事案を公表し、上院銀行・住宅・都市問題委員会が候補者を招いた公聴会を開催し、それを踏まえた上で、同委員会が任命を承認する。その後、それを上院本会議で承認します(連邦準備法10条1)。このように、政治はFRB議長などの任命において深く関与している。
FRB理事の任期は14年(議長、副議長職は4年、再任可)、FRB理事の罷免には連邦議会の弾劾手続きが必要とされている。
FRBの独立性を高めるうえで、FRB議長として実績を上げたポール・ボルカー、18年6か月とFRB議長としては史上最長の在任期間を記録したアラン・グリーンスパンの功績が大きいとされている。
ルービン元財務長官の回顧録によると、グリーンスパンFRB議長とクリントン元大統領の関係は良好だったとか。1993年までは大統領と財務長官がFRBの政策について度々口を挟み、圧力をかけていたのだが、クリントン大統領は公の場でFRBの政策について発言をしないという原則を守った。
これはルービン元財務長官が大統領や政権幹部に対し、金融政策を公の場で批判しないほうがよいとアドバイスしたことによるとされている。
「金融政策に言及することを政権が一貫して拒否し、FRBの独立性に無限のサポートを与えることは、金融政策の信認を高め、政権への尊敬を高めることができる」、「真の中央銀行の独立性は、われわれの経済にとって明らかに最適なレジームだと私は考えている」とルービン氏は語った。
このようにFRB議長の功績により、FRBは政権交代による影響を受けにくい体制が出来上ってきた。さらにFRB議長は大統領に次ぐ権力者とも言われるようになる。
グリーンスパン議長は、共和党のロナルド・レーガン大統領が最初に任命したが、その後、共和党ジョージ・H・W・ブッシュ大統領、民主党ビル・クリントン大統領、そして最後は共和党ジョージ・W・ブッシュ大統領と4名の大統領に再任された。
その前任のポール・ボルカー議長は、民主党ジミー・カーター大統領に任命され、その後、共和党レーガン大統領に再任された。
このようにして、FRBの独立性は、成文法で明示することなく、慣習法的に定着したとされている。
債券のイールドカーブがどのようにして決まるのかを説明する代表的な仮説が3つある。純粋期待仮説、流動性プレミアム仮説、市場分断仮説。
純粋期待仮説とは現在の金利の基幹構造は、将来の金利の期待値つまり予測値によって決定されるという考え方。例えば、右肩上がりのイールドカーブは、市場参加者が「将来、金利が上昇する」と予測していることを示す。
流動性プレミアム仮説とは期間の長い債券ほど価格変動リスクが大きいため、ほかの条件が同じであれば、その分だけ長期金利は短期金利に比べてプレミアムがつき、高くなるという説。
そして、市場分断仮説とは債券市場は市場参加者、この場合は主に投資家の投資する資金の性格によって、買い付ける債券の期間がある程度決定されるため、イールドカーブは投資家の需給関係で決まるという理論となる。
ここにきての日本の債券市場のイールドカーブはかなり不安定なものとなっている。
4月17日の各年限の利回りは下記となっていた。
2年471回 0.645%(+0.035%)、〜%
5年178回 0.865%(+0.030%)、0.840〜0.875%
10年378回 1.305%(+0.015%)、1.290〜1.320%
20年192回 2.235%(-0.005%)、2.190〜2.240%
30年86回 2.660%(-0.045%)、2.645〜2.705%
40年17回 3.040%(-0.075%)、3.040〜3.115%
翌18日は下記のとおり
2年471回 %(%)、〜%
5年178回 0.835%(-0.025%)、0.830〜0.855%
10年378回 1.285%(-0.020%)、1.285〜1.305%
20年192回 2.245%(+0.015%)、2.245〜2.260%
30年86回 2.710%(+0.055%)、2.710〜2.725%
40年17回 3.115%(+0.075%)、〜%
国債利回りは純粋期待仮説によれば、物価や景気動向、それらを意識しての日銀の金融政策の行方などを予想して動くため、各年限の方向は同じ向きになることが多い。
ところが、ここにきての各年限の利回りの動きは中長期債と超長期債が反対方向を向くだけでなく、日によって動きが正反対となったりしている。
中長期債と超長期債が反対方向を向いているのはある意味、市場分断仮説が有効にみえるが、そもそもの参加者が違ってきている可能性もある。
この不安定な国債利回りの要因は、むろん米国のトランプ大統領による朝令暮改の政策変更とそれに振り回されている金融市場の影響を大きく受けている。
ここにきては米国債との連動性も失いつつあるなど、より不安定さが増している。株価動向に応じて動くこともあるが、動きそのものの説明も難しくなりつつある。
日銀の金融政策についても、とにかく当面は動けないとの予測しかできない。結果として政策金利は0.5%までとなってしまうとの見方もあるが、物価はもう3年も2%を超えたままの状態が続いており、過去の経験で決めつけるわけにもいかないであろう。
いずれにしても落ち着くのを待つしか無いが、トランプ政権が続く限り、落ち着くことはないのかもしれないという不安もある。
ベッセント米財務長官は23日、日本との通商交渉で為替水準の直接的な是正を促す目標を求めるのかとの質問に対し、「通貨目標は一切ない」と言明した。「G7合意を尊重することを日本には期待している」と語った。
イエレン前財務長官も日本の為替政策について問われた際には、「市場で決定される為替レート」に関するG7の合意を引用していたことから、その方針に変化がないことを示した格好となる。
G7合意という表現からは通貨安誘導を目的とした為替操作には歯止めをかけた格好ともなる。
ベッセント財務長官はワシントンで加藤財務相と会談する予定で、為替レートが主要議題の一つになると見られている。円安を調整させるようなこととはならず、日銀に早期の利上げを促すようなこともないと考えられる。
ベッセント財務長官は23日の講演で、国際金融システムの枠組み変更を目指すと表明した。IMF・世銀改革で米国が「強いリーダーシップの役割を受け入れる」と強調したうえで、国際収支の不均衡の是正を最重要課題と位置づけた。
このあたりはトランプ大統領の意向を意識したものとなる。ただし、その不均衡そのものが結果として米国の繁栄にも繋がっているとの見方もできるのではなかろうか。
ベッセント財務長官は「IMFは中国のように数十年にわたり世界経済をゆがめる政策や不透明な為替政策を追求してきた国々を批判すべきだ」とし、「世界第2位の経済規模を誇る中国を『発展途上国』として扱うことは荒唐無稽だ」と批判した。
この発言には一理ある。中国の経済規模はすでに日本を上回っている。
また、の近年のIMFは気候変動やジェンダー、社会問題に過度に関わっていると批判した。これについては気候変動問題を、国際金融機関の重要課題にすえたバイデン前政権とは180度の方針転換となる。
これについては考え方が極端に異なることで、一気に方向転換することには無理があろうし、一部修正に止めるべきかと思う。
トランプ米大統領は22日、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長について「解任するつもりはない」と述べた。退任を要求した自身の発言が株価の下落につながったこともあり、わずか5日で撤回した(23日付日本経済新聞)。
米国家経済会議(NEC)のハセット委員長はパウエルFRB議長について、解任できるかどうか、トランプ大統領とそのチームが検討し続けていると述べていた。
さらにトランプ大統領は『予防的利下げ』が多くの人から求められていると述べ、パウエルFRB議長を判断が遅すぎる男と非難したうえで、今すぐ政策金利を引き下げない限り、経済は減速するかもしれないと決めつけた。
ところが金融市場では、中央銀行の独立性を揺るがせる事態は米国に対する信認を傷つけることなるとして株安・米債安・ドル安とトリプル安の状況となったことで、解任に否定的な発言をしたとみられる。
ただし、「政策金利を引き下げるというアイデアに、もう少し積極的になってほしい」と利下げ要求は続けた。
いつまた気が変わらないとも限らないが、ひとまず最悪の事態は後退した。というか最悪の事態が常に起こりうる環境そのものをどうにかしてほしい気もする。
ベッセント米財務長官は22日、関税を巡る中国との対立は米中にとって持続不可能で、緊張緩和の道筋を見つけなければならないと述べ、緊張緩和は近く実現するとの見方を示した。JPモルガン・チェース主催の投資家会合で発言した(23日付ブルームバーグ)。
トランプ大統領はこの日、記者団からベッセント氏のコメントについて問われ、米国は「中国とうまくやっている」とし、「厳しい交渉」になるとは考えていないと発言。中国に対する追加関税率は現行の145%から「大幅」に下がるだろうがゼロにはならないだろうと述べた。
そして、22日にロシアのプーチン大統領は現在の前線に沿ってウクライナへの侵攻を停止することを提案してきた。
ウクライナ情勢の和平交渉をめぐってロシアのプーチン大統領が現在の戦闘の前線に沿って侵攻を停止し、掌握していない地域の領有は放棄できるとの考えをアメリカ側に伝えたとフィナンシャルタイムズが報じた。
21日にプーチン大統領は、ロシア国営テレビとのインタビューでは「われわれは常にいかなる平和イニシアチブに対しても肯定的な態度を持っている。ウクライナ政権の代表も同じ考えになることを望む」と明らかにした。その後ロシア大統領府のペスコフ報道官はプーチン大統領がゼレンスキー大統領との両者会談の可能性に言及したものと確認した。
これまでプーチン大統領はゼレンスキー大統領ではなく新たにウクライナ大統領を選出し対話しなければならないと主張してきたが、何かしらの変化があったようである。
過度な期待は禁物ながら、ウクライナ情勢を巡っての和平交渉が進行する可能性も出てきた。
22日の米国株式市場では、ダウ平均の前日比の下げ幅が一時1100ドルを超える場面もあったが、ベッセント米財務長官の発言などを受けて、急回復し、ダウ平均は1016ドル高となった。
ある意味、ここが転換点となる可能性もあるか。
米国の中央銀行であるFRBの使命(目的)はデュアル・マンデートとも呼ばれ、物価の安定(stable prices)と雇用の最大化(maximum employment)となっている。
もうひとつ適度な長期金利(moderate long-term interest rates)も最後に加えられている。
デュアル・マンデートがFRBの使命となったのは、1977年の連邦準備改正法の成立によるものですが、その源流には1946年の雇用法があるとされている。
連邦準備制度(Federal Reserve System,FRS)とは、連邦準備法によって創設された米国の中央銀行制度。連邦準備制度(FRS)の元で動く組織は、連邦準備理事会(FRB)、連邦準備銀行、連邦公開市場委員会(FOMC)と3つの諮問委員会(連邦準備制度理事会諮問委員会、消費者諮問委員会、貯蓄金融機関諮問委員会)によって構成されている。
連邦準備制度(FRS)の中心として動いているのが、連邦準備制度理事会(FRB)。
FRBは連邦準備銀行を束ねる中央機関の役割を担っている。FRBは米国内に12行ある連邦準備銀行を束ねる政府の中央機関であり、銀行ではない。
日本の中央銀行である日本銀行はその名の通りの銀行である。ここが米国の中央銀行制度と日本の中央銀行制度の大きな違いとなる。
このため日銀のトップは総裁(Governor)と呼ばれるのに対し、FRBのトップは理事会での議長(Chairman)となる。
FRBは金融政策の策定と実施を任務としており、また連邦準備制度の活動の最終責任を負っている。本部はワシントン。任期14年の7名の専任理事により構成される。
金融政策の一貫性を保つことや大統領の圧力を防ぐために理事の任期は14年という長い期間になっている。原則1期だが、任期途中で辞めた理事の後任は、残り任期を務めた後に再任が可能となっている。
理事については産業的、地域的に偏らないことが求められている。専任理事は米国大統領に任命され、上院によって承認される。大統領が理事の中から議長・副議長を任命する。4年の任期で再任も可能。
FRBは連邦議会の下にある政府機関だが、予算の割当や人事の干渉を受けない格好となっている。
FRB議長は、大統領に対して、政府機関の中で最も強い独立性を有するとされ、世界の金融経済に対する影響力が大きいことで、「米国において大統領に次ぐ権力者」とされている。
連邦準備法の10節2項に基づけば、大統領がFRB議長を含め理事を罷免するには正当な理由が必要とされる。
また、理事の罷免については議会による弾劾(impeachment、非行を行った文官の罷免)によるともされている。
18日に総務省が発表した3月の消費者物価指数(除く生鮮)は110.2となり、前年同月比3.2%の上昇となった。2月の同3.0%を上回り、2か月ぶりに伸びが拡大した。2%を上回るのは2022年3月以来、36か月連続となる。
総合指数は同3.6%の上昇、生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数は同2.9%の上昇となる。
政府による電気・ガス代補助でエネルギー関連の伸びは抑制された。
その一方で、コメ類は92.1%上がり、比較可能な1971年1月以降で最大の上げ幅となった。参考までにオイルショックは1973年に起きていた。うるち米(コシヒカリを除く)も92.5%の上昇となり、1976年1月以降で最大の伸び率を更新した。
コメに関連する品目では「おにぎり」が15.0%の上昇、外食の「すし」が4.7%の上昇となっていた。
人件費や物流費の上昇で3月に価格改定されたハンバーガー(外食)は5.7%の上昇、チョコレートが29.6%の上昇、コーヒー豆が21.1%の大幅な上昇となった。鳥インフルエンザの影響で鶏卵は5.6%の上昇となっていた。
食料以外の品目も上昇しており、ルームエアコンが16.2%、電気代が8.7%、宿泊料が6.6%、ガソリンが6.0%、都市ガス代が2.0%の上昇などとなっていた。
持家の帰属家賃を除くサービスは2月と同じく1.9%の上昇となっていた。
3月までの数値が出そろったことで、2024年度平均の全国消費者物価指数も発表され、生鮮食品を除く総合指数が108.7と、前年度比2.7%の上昇となった。
プラスは4年連続となる。歴史的な高騰が続くコメなど食料品の値上がりが主な要因となっている。伸び幅は前年度の2.8%からは小幅に縮小した。
2024年度の食料全体の伸び率は前年度比5.0%の上昇となった。このうち米類は46.6%の上昇と、1971度以降で最大の伸びを記録した。野菜や果物の値上がりも目立ち、キャベツが62.5%、みかんが26.0%に上昇していた。
参考までに1971年度の全国消費者物価指数(除く生鮮)は前年比6.5%の上昇、1972年度は同5.8%、1973年度は14.9%、1974年度は20.9%、1975年度は10.1%となっていた。
2013年1月にドイツ連銀のバイトマン総裁はドイツ証券取引所が主催するイベントで講演しそのなかで、日本政府が日銀にさらなる金融緩和を迫ったことは、ハンガリー政府の同国中銀に対する行為と同様、日銀の独立性を危険にさらしていると指摘した。
ここでハンガリー政府の行った行為とは何であったのか。
2011年12月にハンガリー中央銀行の独立性を脅かす新たな国立銀行法が可決された。この新法では金融政策を決める政策委員会のメンバーを拡大し、副総裁を2人から3人に増やすことを定めた。議会は憲法を改正し、中銀と他の金融規制当局を統合し、シモール中銀総裁を統合後の新機関の副総裁に降格させることも可能にした。
この法案可決を受けてハンガリー通貨フォリントは急落し、ハンガリーの国債も急落。2012年1月5日のハンガリーでの国債入札では、1年物証券の発行が入札額が発行額に届かない未達となった。
この日、ハンガリー政府はIMFおよびEUからの提案について協議し、受け入れる用意があるとし、7月6日に国立銀行法の修正案を賛成多数で可決した。通貨や国債の下落、入札の状況を見てハンガリー中央銀行の独立性を脅かす国立銀行法は、さすがにまずいと考えたものと思われる。
修正案では、金融政策委員会の会合に政府の代表者を参加させることができるという条項、会合前に議事案を政府に提出しなければならないという条項は削除された。
このようにハンガリーでは、中央銀行の独立性を奪うリスクが意識されていたものの、日本ではその後、政府の意向を受けた中央銀行総裁の元、異次元緩和策が導入されることとなる。
今回、米国で中央銀行の独立性を脅かすような出来事が起きつつある。
米国のトランプ大統領が米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長への退任要求に踏み込んだ。17日にはSNSに「一刻も早く解雇すべきだ」と投稿した。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は17日、トランプ氏がパウエル氏を解任し、元FRB理事のケビン・ウォーシュ氏を後任とする構想を練っていると報じた。
これらの動きに対して、 ベッセント米財務長官が、パウエル議長の解任は金融市場の不安定化を招くリスクがあるとして、ホワイトハウス当局者らに繰り返し警告していることが分かったとロイターが伝えた。
トランプ政権の自身の高関税政策によって景気悪化懸念が急速に高まるなか、矛先をFRBに向けようとするトランプ氏に対し、中央銀行の独立性を脅かすことによ米国の信認低下などを懸念して、 ベッセント米財務長官はそれを牽制している。
結果としてパウエル議長はどうなるのかはわからない。
ただし、この動きは他人事ではない。いったん独立性を脅かされた中央銀行が、普通の金融政策に戻すためだけにも、大変な努力が必要となっている事例をみても、独立性の維持は重要であると思う。
トランプ米政権による相互関税が日本時間9日午後1時1分(米東部時間9日午前0時1分)に発動したが、その約1時間前に債券市場である出来事があった。
9日の東京時間の昼の12時過ぎあたりから、時間外取引となる米国債が突如売られ始めたのである。
8日の米国債券市場では米10年債利回りは4.29%に上昇していた。それに対して9日の東京時間に4.51%まで利回りが急騰(価格は下落)したのである。
同時に日本国債も超長期債主体に同様に大きく売られていた。30年国債の利回りは一時前日比0.29%もの上昇となっていた。
どうして、どこが、このタイミングで日米の国債を売却したのか。ストップロスなのか、期初の売りなのかはわからない。
東京時間は米国債市場にとっては時間外取引であり、参加者は極めて少ない。米国債券市場が開いている時間帯のほうが当然、売りやすいはずであった。
私はこのタイミングで米国債の利回り変化を追っていたが、頻繁にレートが変わるなどかなり売買が活発であったことが窺える。しかし、通常はこの時間に米国債が頻繁に売買されることはないはずであった。
9日の東京時間の昼の米債売りについては、一部邦銀が米国債を売却したのではとの観測が出ていた。
邦銀という言葉からか市場では「農林中金」が連想されたようだが、4月1日に就任した農林中央金庫の北林太郎理事長は市場で臆測が流れていた米相互関税導入時の米国債大量売却について「事実はない」と否定した。
財務省が17日発表した「対外及び対内証券売買契約等の状況」によると、4月6〜12日の1週間で国内投資家は海外の国債など中長期債を5120億円売り越した。トランプ米政権の関税政策を巡る混乱の中で米長期金利が上昇。国内勢が米国債を大量に売却したとの見方があったが、金利上昇局面でも大規模売却に動かなかったとみられる(17日付日本経済新聞)。
9日の売りは中国による売りかとの観測が出ていたが、ベッセント米財務長官は14日、外国勢が保有する米国債を投げ売りしているとの臆測をはねつけた。
ヘッジファンド出身のベッセント米財務長官は「非常に大きなレバレッジをかけた取引をしていたプレーヤーがおり、こうした投資家が損失を被り、デレバレッジを余儀なくされている」と解説した。
結果としてこの米国債の下落をみたベッセント財務長官がトランプ大統領への説得を試みたとの見方が出ている。
NBCニュースはベッセント財務長官とラトニック商務長官の2人が、債券市場の動きを見て関税を一時停止するよう大統領に呼びかけたと伝えていた。
トランプ米大統領は9日午後に同日発動したばかりの相互関税の上乗せ部分について、一部の国・地域に90日間の一時停止を許可すると発表した。
いまのところ、この際の米国債の大量の売却はも海外の「ヘッジファンド」がアセットスワップの大きなポジションを一気にアンワインドしたとの観測が出ている。
ただし、では何故、東京時間の昼過ぎという妙な時間帯に大量に米国債を売ったのかの説明はつかない。
結果として世界経済にとっては最悪の事態を回避させた出来事でもあっただけに、何か裏があってもおかしくないとみるのは、あまりに陰謀論的になってしまうのであろうか。
そういえばベッセント財務長官は元々、イングランド銀行を負かし、アベノミクスの円安で大儲けをしたとされるヘッジファンド、ジョージ・ソロス氏のソロス・ファンド・マネジメントで最高投資責任者(CIO)を務めていた。また、アベノミクスが登場した際に、円売りでかなり稼いだともされている人物である。市場にはかなり精通している人物であることか窺える。
16日に発表された3月の米国の小売売上高(季節調整済み)は、自動車や建材、家電などがけん引して前月比1.4%の大幅増となった。
Advance Monthly Sales for Retail and Food Services https://www.census.gov/retail/sales.html
トランプ米政権の関税の本格導入を前に、全米の小売り現場で駆け込み消費が鮮明になっている(17日付日本経済新聞)。
3月3日に国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき、中国に対する追加関税率を10%から20%に引き上げる大統領令を発表。
3月4日にはメキシコ、カナダへ追加関税が賦課された。国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき、メキシコ原産品に対しては一律25%、カナダ原産品に対しては、エネルギー・同資源に10%、それ以外の産品に25%の追加関税が課される。
4月3日には安全保障上の脅威を理由に、輸入車(完成車)に25%の追加関税を発動。これは日本も含まれる。
自動車部品は5月3日までに適用を始めるとしている。カナダやメキシコとの貿易協定の基準を満たした部品は当面、免除されるが、態勢が整えば、非米国製の割合に応じて関税を課すとしている。
4月5日にはすべての国や地域を対象に一律で10%の関税を課す措置が発動された。
そして4月9日に相互関税の第2弾として、米国の貿易赤字が大きい約60か国・地域を対象に、一律10%に税率を上乗せした追加関税を発動する。日本には計24%の関税が新たに課される。
しかし、トランプ米大統領は9日午後に、同日発動したばかりの相互関税の上乗せ部分について、一部の国・地域に90日間の一時停止を許可すると発表した。
5日に課した10%の一律関税は維持。日本も含まれ、即時実施される。一方で報復措置を打ち出した中国に対しては、関税を125%に引き上げた。
これら一連の関税の動きに対して、米国民もさすがに関税分の値上げを意識しての駆け込み消費をおこなったようである。
これらの動きは日本における2014年4月の消費税の引き上げ前にもみられた動きでもある。
3月の米国の小売売上高の増加には自動車販売の急増が寄与した。トランプ大統領が完成車に25%の追加関税を賦課する前に、車の購入ラッシュが起きていたようである。特にSUVや大型ハイブリッド車など高価な車が売れていた。
相互関税の上乗せについても撤廃されたわけではなく、あくまで90日間の一時停止であり、停止期間が過ぎたあとに発動される可能性も当然ある。
16日の債券市場では前日の米債高を受けて買いが先行し、債券先物は19銭高の140円64銭で寄り付いた。その後、さらに買い進まれて9時15分に141円04銭まで上昇した。
現物債は5年国債が3.5毛強(前日比-0.035%)の0.845%、20年国債が6.5毛強(-0.065%)、そして30年国債が一時11毛強(-0.110%)の2.705%まで上昇した。
10年国債は10時過ぎに出合ったようで、こちらは5毛強(-0.050%)の1.315%となっていた。
久しぶりに中長期債、超長期債ともに同じ方向に動いてきた。
買われた背景には米国債が買われたことに加え、財政拡張に伴う国債増発への懸念が後退したことが要因との見方があった。
16日付の日本経済新聞朝刊は自民党幹部が「今国会では2025年度補正予算案を提出しない方針だと明らかにした」と報じた。
与野党の一部が主張している消費税の減税案にも否定的だとか。補正予算の編成が国債増発につながるとの見方が後退し、それが国内債の買いを誘ったとの見立てである。
ただし、ここにきての超長期債の売りが、この財政拡張に伴う国債増発への懸念によるものとの見方は適切ではない。
こちらはアセットスワップに絡んだポジションのアンワインドの動きであったとも予想されている。
仮に補正による国債増発の可能性が出たとしても、超長期債よりも中長期債でまず対応する可能性が高い。そもそも国債増発そのものが抑制される可能性もあり、超長期債の増発というのは優先順位がかなり低い。
ただし、財政拡張に伴う国債増発への懸念は売る材料とはならずとも、買わない要因にはなりうる。ここにきての米国債の急落もやはり買い手を躊躇させたのではなかろうか。
しかし、今週に入り米国市場は米債を含めて落ち着きを取り戻してきた。そして、補正予算そのものへの懸念も後退した。
そこで買い控えていた投資家が16日の朝に国債を買ってきたとの見立てができる。特に買い進まれていたのが30年国債であるところをみると、国内生保の買いではなかろうか。買い一巡後は戻り売りに押されたが、地合そのものは改善しつつあるように思われる。
米商務省は14日、半導体と医薬品について関税導入に向けた調査を始めたと明らかにした。半導体はスマートフォンなど電子機器を含めたサプライチェーン(供給網)も対象とし、安全保障上の懸念がないか調べる(15日付日本経済新聞)。
何を今更感が強い。このようなことは関税を掛ける以前に調査すべきものではなかろうか。
単純に半導体といっても、半導体を製造するために必要な装置を開発・販売する企業としてはオランダに本社をおくASMLがEUV装置の製造では圧倒的な世界シェアを誇る。
広島・呉で創業した日本の会社ディスコはシリコンウェーハの表裏面を研削・研磨する装置が約60〜70%の世界シェアを保有しているとされる。
CPU(中央演算処理装置)の層間絶縁材に用いられているABFと呼ばれる絶縁フィルムは現在では全世界のおよそ100%に近いパソコンに導入されているが、これを開発したのは「味の素」である。
また、半導体そのものも自動車などを初めていたるところで使われており。だからこそ産業のコメといった呼び方もされる。
世界的なサプライチェーンが構築された結果、それぞれの得意分野を生かす格好で、圧倒的なシェアを持つ企業も多い。
それにも関わらず、それらをすべて米国だけで賄うということは現実的ではない。これは自動車やパソコン、スマートフォン、そして通常の家電などでもそうである。
薬に関しても世界の医薬品総額のうち米国がトップシェアを誇っているが、それでもすべての医薬品をカバーできるわけではない。
単純に課税を課せば、他国が言うことを聞くかと言えばそうはいかない。民間企業にもそれぞれの事情もあり、課税されたから米国に工場を建てるといった単純な発想にはならないであろう。
課税されたらされたで、米国への輸出分を他国に振り分けるなどすることも予想され、決して米国にはプラスにはならない。
関税が課せられて、実際にその関税分を支払うのは米国民である。米国の輸入業者が関税分を米国政府に支払うことになる。当然、関税分は値上げで対処することになり、それは物価の上昇圧力となる。
FRBのウォラー理事は14日、ウォラー氏は製造業の国内回帰には「3年よりはるかに長い期間が必要」とし、政権がこの水準の関税を長期間維持した場合のシナリオを描いた。インフレ率は早ければ今後数か月で5%近くに達する可能性もあるが、その影響は一時的だと見通した(15日付日本経済新聞)。
11日のニューヨーク債券市場で米10年債の利回りは一時、4.59%まで上昇し、9日の東京時間に付けた4.51%を超えてきた。結局、前日比0.07%高の4.49%で引けた。
米10年債利回りは4日に一時、3.86%に低下したが、ここが目先のボトムとなり、ここから急速に切り返してきた。つまり米国債は売られた。
この背景には米国株式相場の急落を受け、一部のヘッジファンドが、金融機関のマージンコールに対応するために換金売りを急いでいるとの観測があった。
また、日本に次いで米国債を保有している中国が、保有している米国債を売却したとの観測もあった。
米10年債の利回りは一時、4.59%まで上昇したことで、いったんカツンと目先の天井を打った可能性はある。
しかし再び上昇基調となり、4.75%や4.80%といった節目にトライしてくる可能性は残る。
ここで気掛かりなのが、米長期金利の上昇にもかかわらず、外為市場ではドルも下落していたことである。
11日のニューヨーク外為市場では、一時142円20銭近辺と2024年9月以来の円高ドル安水準を付けた。
米長期金利が上昇していたにもかかわらず、ドルが下落していた。この日の米国株式市場は上昇していたことでトリプル安とはならなかったが、米国債とドルが同時に売られていた格好となる。
ドル円はその後、144円台にまで切り返していたが、再び下落基調(円高ドル安)となり、14日の東京時間に再び142円台に付けている。
トランプ関税に関して市場は異常なまでに警戒している。それが株式市場を乱高下させ、米国債売りやドル売りの材料となっている。
トランプ米大統領は9日午後、同日発動したばかりの相互関税の上乗せ部分について、一部の国・地域に90日間の一時停止を許可すると発表した。
これにより最悪の事態は回避されたが、5日に課した10%の一律関税は維持している。日本も含まれ、即時実施される。一方で報復措置を打ち出した中国に対しては、関税を125%に引き上げた。
11日遅くに発表された今回の上乗せ関税の除外措置では、中国からの輸入品への125%の関税および、ほぼ全ての国・地域に対する基本税率10%の関税の対象から一部の電子機器が外れた。
これについては米国の貿易を再構築するという包括的な取り組みにおける手続き上のステップに過ぎないとして、スマートフォンやコンピューターといった電子機器に対して引き続き関税を課すと改めて表明した。
ラトニック米商務長官は13日、トランプ米政権が11日夜に相互関税の対象から除外したスマートフォンなど電子関連製品について、半導体関連に焦点を絞った新たな分野別関税の対象になると明らかにした。1〜2カ月後に打ち出される可能性が高いとの見通しも示した。
ナバロ大統領上級顧問は13日、新型コロナウイルス禍のような半導体不足に陥らないよう国内生産を回復するための分野別関税が必要だと前提を説明した。
関税の対象から一部の電子機器が外れたことで、ほっとした向きも多かったのではないかと思うが、まだまだ状況は流動的というか、場当たり的な対応であることが透けて見える。
あまり専門家の意見には耳を貸さず、一部の人間だけ、国家的な重要問題を協議しているようにもみえることで、市場が懐疑的となってしまうのも当然か。
このような状況が続く限り、ドル売りや米国債売りが止まることはないかもしれない。それに対してFRBに対応を求めるのも筋違いであろう。
日銀による追加利上げは早ければ4月30日、5月1日の金融政策決定会合でと予想していた。しかし、トランプ関税による世界経済への影響が懸念されて4月に入ってからの金融市場が大荒れの状態となった。このため、4月30日、5月1日の金融政策決定会合では金融政策の現状維持を決定する可能性が高くなったとみており、次回の利上げ時期は以前の予想の9月18日、19日の決定会合においてと修正したい。
トランプ関税の行方やそれによる影響は読みづらいなか、少なくとも日本の物価がこれによって急激に低下することは考えづらい。米国の国内物価の上昇要因とはなろうが、日本の物価への直接的な影響は限られる。
むろん、米国経済がおかしくなり、世界経済そのものが下振れするようであれば、日本の経済や物価にも影響は出る。
日本企業の業績にも影響を及ぼすことも予想されるが、それを確認するにはある程度の時間も必要となる。
関税が米国経済そのものを悪化させることになれば、米国内の世論なども急速に変化してくることも予想され、トランプ政権の政策を擁護しきれなくなる可能性も当然ある。
あまり楽観視も禁物ながら、トランプ政権が最も気にしているのは選挙であり、それはトランプ政権の支持層が盤石であることが基本となろう。そこが変調を来せば、いくら自らの最たる目標であった関税についても見直さざるを得なくなるのではなかろうか。
米国の関税といえば比較に出される1820年代や1920年代などと違い、現在はグローバル化が進んでおり、それに最も恩恵を受けているのが米国そのものである。
ただし、その恩恵は一部の富裕層だけが受けていることで、それが受けられない中間層などがトランプ政権の支持層となっているとみられる。
関税は結局、その中間層などに対しても物価高等によって影響を与えることになる。米国経済そのものが落ち込めば、その影響も被る。
いずれにしても9月になればトランプ関税による嵐が収まっている可能性がある。
日本では6月の東京都議会選挙、7月に参院選が予定されていることもあり、このタイミングでの日銀の政策変更は考えづらい。
選挙結果次第では石破政権が継続するかどうかも不透明になりかねない。もし首相が替わることになれば、日銀の利上げにブレーキを掛ける人物がトップとなる懸念も存在する。ただし、再びアベノミクスのようなものが復活することも考えづらい。
これらを含め、関税の嵐が落ち着くことも前提ながら、日銀の次回の追加利上げは9月の金融政策決定会合との予想に修正したい。
10日に「邦銀の米国債売りが世界を救ったのかもしれない」と書いたが、正確には最悪の事態は免れただけであり、状況が改善したわけではない。
ホワイトハウスは10日、中国への追加関税がすでに課した20%と合わせて145%になると明らかにした。中国側も報復として10日、米国製品に84%の追加関税を発動した。
日本をみても、3日には日本を含むすべての国や地域から輸入される自動車が対象に25%の関税が課せられており、5日にはすべての国や地域を対象に一律で10%の関税を課す措置が発動されており、日本も10%の関税を課せられている。
米中の貿易戦争が一段と激化するとの懸念も強まり、10日の米国株式市場は大幅反落となった。ダウ平均は1014ドル安、ナスダックは737ポイントの下落となった。半導体大手エヌビディアやアップルなどハイテク株を主体に売られていた。11日はダウ平均は619ドル高、ナスダックは337ポイント高とやや切り返してはいた。
10日の米10年債利回りは4.42%と前営業日の4.33%から上昇していた。3月の米CPIの前年同月比上昇率は2.4%と予想を下回り、30年債入札は好調な結果にもかかわらずである。一部のヘッジファンドが、金融機関のマージンコールに対応するために換金売りを急いでいるとの観測もあらためて出ていた。 11日の米10年債利回りは一時、4.59%まで上昇し、9日の東京時間で付けていた4.51%を抜いてきた。結局、米10年物債利回りは前日比0.07%高い4.49%で引けた。
外為市場ではドル売り圧力が強まり、11日にドル円は142円台を付けてきた。主要通貨に対してドルが下落した。
10日だけでみるとの米国株式市場が下落し、米債も売られ、ドルも下落と、米国からみてのトリプル安となっていた。
米中の貿易戦争が激化するとの危惧も強く、また関税による米国経済や物価への影響が懸念されるとともに、トランプ政権のスタンスそのものへの警戒感によるリスク回避の動きとなっている可能性がある。
トランプ米大統領は9日午後、同日発動したばかりの相互関税の上乗せ部分について、一部の国・地域に90日間の一時停止を許可すると発表した。しかし、あくまで90日間の猶予であるとともに、突然また関税を持ち出してくるリスクも当然ある。
これから米国ではベッセント財務長官が中心となって日本などとの交渉が開始されようが、交渉がうまく行くとの保証はない。
さすがに相手が関税強硬派のナバロ氏などではなく、穏健派とされるベッセント財務長官だけに、交渉が決裂といったことは考えづらいが、トランプ大統領を納得させるトレードとなるかどうかも不透明である。
金融市場があらためて不安定なものとなりつつあり、10日に米国株式市場は一時的に持ち直していたが、不安定な動きそのものに変化はないと見ざるを得ない。
トランプ米大統領は9日午後、同日発動したばかりの相互関税の上乗せ部分について、一部の国・地域に90日間の一時停止を許可すると発表した。5日に課した10%の一律関税は維持する。日本も含まれ、即時実施される。一方で報復措置を打ち出した中国に対しては、関税を125%に引き上げる(10日付日本経済新聞)。
ホワイトハウスではトランプ氏の投稿とはほぼ同時刻にベッセント米財務長官が大統領報道官とともに記者説明を行った。関税政策の説明で財務長官が前面に出るのは初めてとなる。
これまでの関税引き上げは強硬派のナバロ大統領上級顧問などトランプ氏の側近が主導しているとの見方があったが、ここで穏健派とされるベッセント氏が出てきたことに注意したい。
この結果から見る限り、ベッセント氏がナバロ氏などを抑えて、トランプ氏に相互関税の上乗せ部分の90日間の一時停止を迫ったと考えられる。
実は「90日間の一時停止」については、米国家経済会議(NEC)のハセット委員長が7日に、トランプ米大統領が中国を除くすべての国・地域に対する関税を90日間、一時停止することを検討しているとの考えを示したと伝わっていた。つまりその可能性はあったことになる。
しかし、ホワイトハウスがこの発言に対し、フェイクニュースだとの考えを示した。ナバロ大統領上級顧問などが否定コメントを出させたのではないかとみられる。
ではどうして今回、ベッセント財務長官が押し切れたのか。その要因として9日の東京市場での奇妙な出来事が関係していた可能性がある。
9日の東京時間の昼の12時過ぎあたりから、時間外取引となる米国債が突如売られ始めたのである。
8日の米国債券市場では、米10年債利回りは4.29%に上昇していた。それに対して9日の東京時間に4.51%まで利回りが急騰(価格は下落)したのである。
米債が時間外でこれほど動くのはみたことがない。やや異常ともいえる動きであった。この際に米債が売られた要因としていくつかの指摘があった。
米10年債利回りは8日に4.29%に上昇していたのは、ここにきての米国株式相場の急落を受け、一部のヘッジファンドが、金融機関のマージンコールに対応するために換金売りを急いでいるとの観測があった。そういった換金売りとの見方がひとつあった。
さらにトランプ米政権による相互関税を受けて、中国が保有する米国債を売却したのではとの観測も出ていた。実際に9日の米10年債入札には中国は参加しなかったとの観測もあった。
そして、トランプ大統領の経済担当長官が米国金融資産の外国人保有に、課税する計画を明らかにしたとの観測があった。それをみてヘッジファンドなどが売ってきた可能性はあった。
ただし、売られたのが東京時間であったこと、そして同じようなタイミングで日本国債にも超長期債を主体に売りが入り、超長期国債の利回りが米国債と同様に0.2%を超えるような急激な上昇となっていた。これもまた極めて異例な動きであった。
これらを考慮すると日本の投資家の売りであった可能性が高いとみざるを得ない。
実際に9日の東京時間の昼の米債売りについては、一部邦銀が米国債を売却したのではとの観測が出ていた。
時間帯からみてもその可能性は高い。同時に日本国債も超長期債主体に同様に大きく売られており、米国債とともに日本国債も同じところ(邦銀?)が売却していたとみざるを得ない。
ではどうしてこのタイミングで日米の国債を売却したのか。ストップロスなのか、期初の売りなのかはわからない。
しかも時間外取引であり、板そのものは極めて薄い。米国債券市場が開いた時間帯のほうが売りやすいはずであり、ある程度のロットであっても利回りが急騰する事態はさけられたはずである。
これは日本国債にもいえる。日本の債券市場は少しずつ金利上昇になれてきたとはいえ、いまだ正常化に向けてのリハビリ中である。特に超長期債の板はまだそれほど厚くない。にもかかわらず無理矢理売ってきて0.2%を大きく超えるような利回り上昇となっていた。
どうして無理矢理売ってきたのであろうか。もしや無理に利回りを引き上げようとしたと、穿った見方も出てきてもおかしくない売り方であった。
ただし、結果としてこの米国債の下落をみたベッセント財務長官がトランプ大統領への説得を試みたとの見方が出ている。
NBCニュースはベッセント財務長官とルートニック商務長官の2人が、債券市場の動きを鑑みて、関税を一時停止するよう大統領に呼びかけたと政権高官は述べたと伝えている。
株の下落よりも米国債の暴落を恐れた格好となるが、とにかくもこれもきっかけとなって急遽、関税上乗せ部分の90日間の一時停止となったと可能性がある。
実際に誰が何の目的で米国債を9日の東京時間に売却したのであろうかはわからない。でも、もしかすると売ったとされる邦銀が結果として世界を救ったのかもしれない。
そういえばベッセント氏は1992年のポンド危機を主導した一人であり、イギリス・ポンドを暴落させ、イングランド銀行を打ち負かした一人であった。ある意味、金融市場を知り抜いている人物である。まさかとは思うが。
4月新年度入りしてからの金融市場はかつてないほどの激震が走っている。その原因は米国のトランプ政権による関税策である。相互関税との表現があるが、ほぼ一方的に高率の関税を掛けようとしている。
3月3日に国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき、中国に対する追加関税率を10%から20%に引き上げる大統領令を発表した。
3月4日にはメキシコ、カナダへ追加関税が賦課された。国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき、メキシコ原産品に対しては一律25%、カナダ原産品に対しては、エネルギー・同資源に10%、それ以外の産品に25%の追加関税が課される。
4月5日にはすべての国や地域を対象に一律で10%の関税を課す措置が発動された。
そして4月9日に相互関税の第2弾として、米国の貿易赤字が大きい約60か国・地域を対象に、一律10%に税率を上乗せした追加関税を発動する。日本には計24%の関税が新たに課される。
中国が相互関税への対抗措置として米国からの輸入品に34%の追加関税を課すと発表したことに対し、トランプ大統領は8日までに撤回しなければ、米国は9日から中国からの輸入品に50%の追加関税を課すとの方針を表明した。
いまのところ中国が撤回する様子はないため、中国に対し単純合算で計104%の追加関税が課せられる可能性となっている。
第一次トランプ政権下でも中国に対し大規模な関税が課せられた。2018年7月から計4回にわたり段階的に関税の引き上げを実施し、合計約3600億ドル分の中国からの輸入品に10〜25%の追加関税を課した。
しかし、第二次トランプ政権下での関税の規模は第一次政権時と比べ、対象国の数、関税率ともにその比どころではない。
すでに株式市場、債券市場、外為市場ともに大きな動揺を示しているが、関税そのものは9日から本格的に課せられることになる。
グローバル経済と呼ばれたものの根幹に大きな障壁が出来ることになる。
コロナ禍でサプライチェーン問題などが発生したが、今回は物理的な障壁ではなく、金額面での障壁が発生する。
トランプ大統領は一時的な痛みとしているが、たぶん問題の本質は理解していないと思われる。
イーロン・マスク氏はトランプ政権の打ち出した関税政策を撤回するよう、トランプ氏に直訴した。マスク氏は8日、ナバロ氏は「本当にバカだ」とXに投稿した。
ホワイトハウスの報道官はマスクとナヴァロの不和を認め、「男の子だからしょうがない」と評価したそうだが、どうもそういった男の子たちがホワイトハウスで政治をしているようである。
そして今度はトランプ氏が自身のSNSに、米国に対して報復措置を取っていない国に対し、90日間の猶予期間を設けると投稿。猶予期間中は相互関税を大幅に引き下げ、10%とする措置を即座に発効するとした。
まさに「朝令暮改」とはこういうことを言うのであろう。これを受けて9日の米国株式市場ではダウ平均の上げ幅は2962ドルとダウ平均の算出開始以来、最大となった。どこまで市場を翻弄させるのであろうか。
あらためて今回の相場変動について考えてみたい。
債券先物は過去には急激な下落相場は何度かあった。ストップ安が3日連続で続いたというのも経験している。ただし、今回のような踏み上げ(ショートカバー)が連続して起きたというものは、あまり記憶にない。
債券先物は1985年10月に上場してからまもなくして急落した。原因はプラザ合意にありました。日銀はプラザ合意を受け、11月24日に短期金利の高め誘導を実施。
この日銀による短期金利の高め誘導のために債券先物は急落し、大量の売り注文により2日間値がつかないという混乱を招いた。債券先物はスタートしたばかりで大量の買いポジションを持った証券会社も多かったことで、その売りが売りを呼ぶ展開となってしまった。
1985年10月24日の債券先物の引けは101円63銭で25日、26日は値がつかずストップ安のままとなり28日に96円63銭で寄り付いた。
1987年5月14日に89回債は10年債でありながら2.55%に利回りが低下し、2.5%の公定歩合に接近。日本相互証券の端末において89回債の売りが、2.555%に約3千億円、2.55%には約2千億円もまとまって並んでいたが、それが一気に買い上げられた。これを全部買ったのが、「公定歩合が高すぎる」というコメントをした大手証券のチーフディーラーとも言われた。結局、ここで債券バブルは終焉し、この2.55%が当時の10年国債の最低利回りとして記録された。
債券バブルの崩壊により、金融機関のみならず、事業法人でも債券相場において大きな損失が発生。いわゆる「タテホショック」が起きた。債券相場は暴落。9月3日から5日までの3日間で89回債の利回りは1%あまりも上昇した。
1989年の運用部ショックの際には、12月22日の債券先物は1998年8月以来のストップ安となった。当時のストップ安とは前日の引け値から2円下落したことになる。先物がストップ安となったことで、現物債はさらに一段と売り込まれた。
2003年6月にVARショックと呼ばれた国債の急落があったが、急落前の債券先物はじりじりと上昇していた。むしろ急激な上昇でなかった分、金融機関のリスク許容度が拡大してポジションが膨らみすぎて、それが崩壊した格好となっていた。
相場格言のひとつに「上げ100日、下げ3日」というものがあり、上記の事例はまさにそれであった。しかし、今回はその反対の「下げ100日、上げ3日」となっていたのである。
これは特に今年に入ってからの債券の価格でみた場合であり、利回りでみると「上げ100日、下げ3日」となっていたことは確かなのであるが。
今回の円債の急騰の背景には、今年に入ってからの国債利回りの上昇の反動となったことは確かである。
日銀による金融政策の正常化によって金利が復活し、長期金利はさらに先を読んでの上昇基調となっていた最中に、その反対売買を強制させるような出来事(トランプ関税によるリスク回避)が起きた。
「上げ100日、下げ3日」というのは買い方が前提の投資スタンスにて起きる。
しかし、債券先物などは売りも買いも同様に扱える。ただし、現物債はショートは可能ながらも、どこで買い戻す必要がある。ロングは償還まで当然保持できる。このため、売りはしづらい面もあり、先物のように売り買いが平等にできかといえば、そうではない。
だからこそ「上げ100日、下げ3日」は起きても「下げ100日、上げ3日」という場面はあまり想定できなかったのであり、今回の動きは極めて異例といえる。
むろんトランプ関税ショックがきっかけではあったが、円債そのものが過去にはない動きをしていたことも考えられる。
国債利回りは2019年あたりを底にして、長期間にわたり上昇基調を維持させてきた。2022年の日銀の金融政策の正常化の動きはから、それに拍車が掛かった。これによって長期間にわたり、ある程度のショートポジションといえるようなものが膨らんでいたとも考えられる。
ただし、債券先物の建玉などからみると6月限は3月限に比べて数兆円減少している格好となっており、ショートポジションが膨らんでいたとは判断しづらい面もある。
日銀の植田総裁は1月6日に全国銀行協会の賀詞交歓会で挨拶し、「2025年も経済物価情勢の改善が続いていくのであれば政策金利を引き上げ、金融緩和度合いを調整していく」と語った。
8日に英国の10年物国債の利回りが前日比0.11%高の4.79%に上昇した。2022年の「トラス・ショック」を超えて17年ぶりの高い水準となった。
10日の引けあとに10年国債の利回りが節目とされる1.200%を付けてきた。ブルームバーグは「日銀が物価見通しを上方修正の公算大、コメ価格上昇と円安」との記事を出した。
14日に日銀の氷見野副総裁は講演で「政策運営にあたってはタイミングの判断が難しくかつ重要です。来週の金融政策決定会合では、展望レポートにまとめる経済・物価の見通しを基礎に、利上げを行うかどうか政策委員の間で議論し、判断したいと思います」と語った。
日銀の植田総裁は15日、全国地方銀行協会の新年の集いであいさつし、追加利上げを巡る判断は米国の政策や春闘の賃金動向次第だと改めて述べた上で、それらを精査し、利上げなどを行うか判断する考えを示した。
加藤財務相は17日、「賃金や物価が上がらないというノルムを解消し、賃金と物価が上がり、金利が動くというのが経済の本来の姿」との認識を示した。
24日に発表した2024年12月の消費者物価指数(除く生鮮)は前年同月比3.0%の上昇となった。上昇率が3%台の水準となるのは1年4か月ぶり。
日銀は24日の金融政策決定会合にて、政策金利である無担保コールレート(オーバーナイト物)を、これまでの0.25%から0.50%程度で推移するよう促す事を賛成多数で決めた。
29日のFOMCでは政策金利を4.25〜4.5%で据え置くことを決定。
米国のトランプ大統領は2月1日、カナダとメキシコからの輸入品に25%の関税、中国からの輸入品に10%の追加関税を4日から課す大統領令に署名した。
28日の日経平均株価は1400円を超す下落となった。
3月6日に日本の10年国債の利回りが1.5%台に上昇してきた。1.5%台を付けるのは2009年6月以来15年9か月ぶりとなる。
欧州中央銀行(ECB)は6日の政策理事会で、政策金利である中銀預金金利を0.25%引き下げ、2.50%とした。
3月に募集される個人向け国債の5年固定利付の利率が1.03%(税込み)となった。1%台となるのは2008年7月以来。
10日に10年国債の利回りが1.575%に上昇した。2008年10月以来16年5か月ぶりの高水準となる。
7日の債券市場では40年国債の利回りが一時、3.00%に上昇した。2007年11月に40年国債の発行が開始されて以来の最高水準を付けた。
企業間の決済手段として広く利用されてきた手形と小切手が、2026年度末で全て廃止される見通しになった。
26日に小枝淳子氏が日銀の審議委員に就任した。
米10年債利回りは3月27日に一時4.40%まで上昇した。それまで徐々に切り上がっていたが、ここでいったんピークアウトした。その後の米10年債利回りは低下基調となり、4月3日には一時4.00%まで低下した。
米国の物価指数が高止まりするなどしていたことから、FRBによる利下げ観測がいったん後退し、米10年債利回りは切り上がっていたのだが、今度は急速な低下基調となった。
3月26日にトランプ米大統領は輸入自動車に25%の追加関税をかけると発表し、関税の引き上げで、米国内の物価を押し上げる圧力が高まるとの見方が強まった。
消費者の景況感の悪化などもあって米10年債利回りは低下してきた。また、トランプ政権が相互関税を4月2日に公表するのを控え、関税が米国経済に対する影響が懸念されて米債は買われた。
4月1日に発表された3月のISM製造業景況指数は49.0と以上に悪化し、2月の米雇用動態調査(JOLTS)で求人件数が1月から減少し、米10年債利回りは一時4.13%に低下した。ここでいったんカツンときたかなと思ったが、そうはならなかった。
2日にトランプ政権は世界各国・地域からの輸入品に相互関税をかける。中国は34%、欧州連合(EU)は20%、日本に対しては24%の追加関税を課す。3日から輸入自動車に対して25%の追加関税を実施することも改めて発表。米景気悪化や貿易戦争への懸念が強まり、米債は買われ、米10年債利回りは4.13%にあらためて低下した。
3日のダウ平均は1679ドル安、ナスダックは1050ポイント安となり、この株安もあり、リスク回避の買いも米債には入った。米10年債利回りは一時4.00%まで低下し4.03%となった。
いまのところFRBの早期の利下げ観測が強まっているわけではないが、欧州ではECBやイングランド銀行による利下げ期待が強まっている。
これに対して日本の債券市場では期が変わるタイミングで、いろいろとポジション調整なども入っていたとみられることから、国債利回りが予想以上の低下をみせていた。
日銀が早ければ5月1日にも追加利上げを行うのではとの観測も強まりつつあっただけに、債券先物のショートポジションが膨らんでいた可能性がある。
日本の10年国債の利回りは3月27日に1.590%に上昇していた。そして米債と時を同じくしてその後は急速に低下してきた。
28日は1.540%に、31日には1.5%を割り込んできた。4月2日には1.470%まで低下、3日の10年国債の入札は無難な結果となり、10年国債の利回りは1.325%に低下した。そして4日には1.160%に低下したのである。
米国のトランプ米大統領は2日、ホワイトハウスの中庭「ローズガーデン」で演説し、世界各国からの輸入品に対して「相互関税」をかけるとした。「2025年4月2日は米国の『解放の日』として永遠に記憶される」と話し、相互関税を実施するための大統領令に署名した。
国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく措置としており、原則、各国に10%の関税をかけたうえで、国・地域ごとに異なる税率を上乗せする。
トランプ政権は非関税障壁などを含めると、日本は実質的に米国に46%の関税をかけているに等しいと認定。46%のおよそ半分にあたる24%の税率を適用するとした。
関税率は対中国が34%、欧州連合(EU)は20%、日本は24%、ベトナムは46%となる。このほか韓国は25%、インドは26%、カンボジアは49%、台湾は32%などとなっている。
トランプ氏がかねて不公正だと不満を表明してきた世界の経済システムに対し、これまでで最大の攻勢を仕掛けることになる(3日付ブルームバーグ)。
これは金融市場にとってサプライズとなった。
トランプ大統領の演説は米国株式市場の引け後であった。このため2日の米国株式市場はダウ平均は235ドル高、ナスダックは151ポイント高となったが、関税発表後には時間外取引で株価指数先物は急落した。
日本時間の3日朝6時まで取引が行われていた大阪取引所のナイトセッションの日経平均先物は930円安となっていた。また、3日の取引開始直後には先物は一時2000円を超す下げとなっていた。
3日の日経平均そのものは一時1600円を超す下げとなった。
株式市場とともに債券市場も動揺を示した。2日の米10年債利回りは4.13%と前営業日の4.17%から低下していた。
株安もあり債券先物も買い戻しが入った。2日の引けは138円58銭。ナイトセッションは138円91銭。
債券先物は139円台もあるかなぐらいにみていたが、3日の寄り付きがすでに139円50銭となった。これは日経平均先物が予想以上に下落した影響もあったか。
債券先物が想定以上に買い戻されたことで、債券先物をショートしていた向きのストップロスなども入ったとみられ、債券先物は一時140円ちょうどまで上昇した。
大阪取引所は先物の売買を一時的に停止する「ダイナミック・サーキット・ブレーカー(即時約定可能値幅制度)」を発動した。
トランプ関税による世界経済への影響が危惧されて、日銀の早期利上げ観測が後退したともみられ、現物債も中期債を含めて買い進まれた。
10年国債の利回りは一時1.340%に低下と前日比で0.130%低下した。5年国債の利回りは0.980%(-0.095%)、2年国債の利回りは0.775%(-0.055%)。20年国債の利回りは2.085%(-0.100%)、30年国債の利回りは2.415%(-0.055%)、40年国債の利回りは2.695%(-0.050%)に低下していた。
3日には10年国債の入札が予定されている。利回りの急低下を受けて、投資家ニーズに不透明感が強まることも予想され、こちらの結果にも注意したい。
前回、政策金利が0.5%となっていたのは2007年2月から2008年9月であった。当時の様子を確認してみたい。
2007年2月21日の日銀金融政策決定会合では8対1の賛成多数で追加利上げが決定され、無担保コール翌日物の誘導目標値は0.25%から0.5%に引き上げられ即日実施された。
反対したのは岩田副総裁(当時)であった。新日銀法による現在の金融政策決定会合の仕組みが出来てから、総裁と副総裁のいわゆる執行部の賛否が割れたのは初めてのケースとなった。
21日の国債利回りを確認してみると、2年債0.750%、5年債1.180%、10年債1.675%、20年債2.135%、30年債2.385%。
20255年4月1日と比較してみたい。2年債0.855%、5年債1.105%、10年債1.500%、20年債2.230%、30年債2.540%。
居所としてはそれほど違いはないといえる(いずれも手元のデータを基にしている)。
物価を確認してみると2007年2月の消費者物価指数(除く生鮮)は前年比マイナス0.1%となっていた。9月までマイナスが続き、10月にプラスに転じた。2008年2月にプラス1.0%となり、7月から9月にかけて一時的に2%台を付けていた。
当時は世界経済や金融市場を揺るがす2つの大きな要因が重なっていた。そのひとつが中国など新興国り経済成長である。
これにより原油需要が拡大すると見込んだ仕掛的な買いが原油先物に入ったことで、一時的に日本の消費者物価が2%を超えてきたのである。
しかし、同時に金融市場をサブプライム・ローン問題を起点とする金融不安がじわりじわりと襲っていた。
2007年8月にフランス銀行の最大手BNPパリバは傘下ファンドの償還停止を発表し、次はどこかとの連想も加わり、欧州銀行向け資金の出し手が急速に限られてしまい、これはパリバ・ショックと呼ばれた。
2008年3月に欧米での信用収縮への懸念が強まりから、FRB、ECB、そしてイングランド銀行、スイス中銀、カナダ中銀は短期金融市場で資金供給を拡大するとの緊急声明を発表。
米欧の流動性供給にもかかわらず、ヘッジファンドが倒産の危機に瀕しているとの懸念などから、ドル円は1995年12月以来約12年ぶりに101円を割り込む。債券先物は中心限月としては2005年7月29日以来の140円台乗せとなった。現物債は10年290回の利回りが2005年7月以来の1.3%割れとなる。
原油など商品価格が上昇基調を強めたことにより、今度はインフレへの警戒が強まり、債券先物は一時132円近くまで下落。10年債利回りも1.895%まで上昇するなどかなり波乱含みの展開となっていた。
9月15日にリーマン・ブラザーズが破綻し、大規模金融機関が破綻したことで金融市場は極度の不安に陥り、これはリーマン・ショックと呼ばれた。
2008年10月に日銀は無担保コール翌日物金利の誘導目標値を0.5%から0.3%に引き下げたのである。
日銀が1日に発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)では、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、前回2024年12月調査のプラス14から2ポイント悪化のプラス12となった。4期ぶりの悪化となる。先行きはプラス12と横ばいの予測となっている。
米国のトランプ政権は3月に鉄鋼・アルミニウム製品に対して25%の追加関税を導入した。これを受けて鉄鋼などの業種で大きく景況感が悪化した(鉄鋼は10ポイントの悪化)。また、繊維が前回から23ポイントの悪化、石油・石炭製品が17ポイントの悪化となっていた。
大企業非製造業DIは、前回2024年12月調査のプラス33から2ポイント改善のプラス35となった。これは1991年8月以来の高い水準となった。しかし、先行きはプラス28と低下の予測となっている。
企業のインフレ期待を示す「企業の物価見通し」は、企業が想定する消費者物価指数(CPI)の前年比上昇率が平均で1年後2.5%、3年後2.4%、5年後2.3%といずれも前回調査から0.1ポイント上昇していた。
「販売価格の見通し」をみても1年後2.9%(前回2.8%)、3年後4.4%(前回4.2%)、5年後5.2%(前回5.0%)といずれも前回見通しを上回った。
2025年度の設備投資計画では設備投資(含む土地投資額)の大企業・全産業で前年度比3.1%増となっていた。
2025年度の想定為替レートはドル円が147円06銭、ユーロ円は157円45銭となっていた。
大企業製造業DIは若干の悪化との予想となっていたことで、ほぼ予想通りの内容であった。ただし、先行きについてはかなり不透明感が強まる。
米国のトランプ大統領は4月2日に関税政策の柱である「相互関税」の全体像を明らかにする予定。
すべての国を対象に実施した場合には、世界全体で110兆円を超える国内総生産(GDP)が消失するとの試算もある(1日付日本経済新聞)。
関税は日本も対象になり、3日からは自動車・自動車部品への25%の追加関税が発動となる見込み。
大企業製造業の自動車は足元が13ポイントと前回の8ポイントから改善したが、先行きは4ポイントの悪化の予測となっている。
関税の行方次第ではさらに落ち込む可能性もあるが、むしろプラスとなるとの見方もあり、その影響そのものは読みづらい面もある。
ただし、トランプ関税が米国を主体に世界経済にも大きな影響を与える懸念も強まっていることもあり、実際の日本への影響は極めて不透明となっている。
31日の東京株式市場で日経平均株価は大幅続落し、前週末比一時1500円を超える下落となった。
28日に発表された2月の米個人消費支出(PCE)は、前月比0.4%増と市場予想の0.5%増を下回った。3月ミシガン大学消費者態度指数確報値は57.0と速報値57.9から下方修正された。また、PCE物価指数はコア指数が前年同月比2.8%上昇し市場予想の2.7%上昇を上回った。
物価高が続く中で消費支出が鈍り始めたとの見方などから。28日の米国株式市場ではハイテク株などを主体に下落し、ダウ平均は715ドル安、ナスダックは481ポイント安となっていた。
ナイトセッションの日経平均先物は710円安となっており、ある程度下げることは予想されたが、1500円を超す下げとなったのはややサプライズとなった。
3月31日は決算期末でもあり、カレンダー的な要因もあり、買いが入りづらいなか、売りに押された可能性もある。
むろん、米国株式市場が下落した大きな要因でもあるのが「関税」であり、こちらは不透明感が強い。
トランプ米大統領は4月2日に「相互関税」の公表を予告している。ただしこの詳細については明らかとなっていない。そもそもまだ決められていない可能性すらある。
この相互関税については、さすがに米国や世界経済に大きな影響を与える可能性は考えにくいとの見方は強いものの、こればかりはわからないのがトランプ政権でもある。
今回、日経平均が1500円を超す下げとなったが、実は2月末にも日経平均は一時1400円を超す下げとなっていた。
この際には米国のトランプ大統領が2月27日に発動を延期していたカナダとメキシコへの25%の関税を予定通り3月4日から課すと表明した。中国にも10%の追加関税を課すとした。
関税を巡る不安に加え、これまで旺盛だったAI投資の持続性を巡る不透明感も出ていた。このため2月27日の米国株式市場ではエヌビディアなど半導体関連株やAI関連銘柄の一角に売りが出た。
これを受けて東京株式市場もアドバンテストや東京エレクトロンといった半導体関連銘柄が売られ、ソフトバンクグループなども下落した。その結果、2月28日の日経平均株価は1400円を超す下落となった。
実は今回も売りの主役がなぜかハイテク株であったのである。グーグル親会社のアルファベットやメタ、そして半導体大手エヌビディアなどが売られていた。
たまたま月末であったのかもしれないし、トランプ大統領が関税を課すとするのが翌月の初めとなっていたためだったかもしれないが、本当にたまたまであったのであろうか。