. 若き知
2024年7月26日「円高進行、ドル円は一時152円台に」

 7月11日のニューヨーク外国為替市場で、6月の米消費者物価指数の発表直後に急速に円安調整が起きて、ドル円は一時157円台半ばまで下落した。政府関係者は日本政府・日銀が円買い・ドル売りの為替介入を実施したと明らかにしたと伝えられた。

 このあたりから、外為市場では円安基調の様相が変わり、円高基調に転じてきた。米長期金利の動向も意識した絶妙なタイミングでの介入であった。

 個人的には介入そのものの効果は、特に逆張り(円安ドル高基調のときのドル売り介入)は、一時的な効果しかないと思っている。しかし、基調が反転するようなタイミングとなる順張りは、一定の効果が出ることはたしかである。

 その後の米長期金利の低下に加え、トランプ氏がドル高が米国の競争力を低下させていると発言したことなど複合的な要因が重なり、ドル円は7月3日に付けた161円台から、25日には152円台まで下落した(円高ドル安)。

 これは対ドルだけでなく対ユーロでも円高となり、ユーロ円は7月11日の175円台から、25日には165円台に下落している。

 ここにきての円高については、日銀が30、31日の金融政策決定会合で利上げを決定するのではとの観測も影響している。同日にFOMCが開催されるが、FRBは9月にも利下げを決定するとの観測が強まっている。

 日銀の利上げとFRBの利下げ観測により、金融政策の方向性の違いも意識されて、ドル売り円買いも入りやすくなっている。

 2021年あたりからはじまったドル円の上昇トレンドそのものに変化が生じるのかは、まだわからないが、その可能性が出てきたこともたしかである。もしドル円が150円を割り込むようだとチャート上はトレント変化と認識される可能性がある。


2024年7月25日「セイコーマートに北海道銀行のATMが設置されるとか」

 北海道銀行は23日、コンビニエンスストア「セイコーマート」(セコマ)の店舗に自行ATMを設置すると発表した。10月末までにセコマに計約600台のATMを置く。(23日付日本経済新聞)。

 セブンイレブンにはセブン銀行のATMを設置、ファミリーマートでは、E-net、ゆうちょATMを設置、ローソンにはローソン銀行ATMが設置されている。北海道を主力として店舗を展開しているセイコーマートには、バンクタイムATMが設置されていた。その一部が置き換わることとなる。

 都会で暮らす人にとっては、近くに銀行ATMがあって当然となっているかもしれないが、地方・郊外に暮らすものにとって、ATMはコンビニで利用する機会がどうしても多くなる。

 今回、セイコーマートはバンクタイムATMに替えて、地元の北海道銀行が自行ATMを多数展開するという珍しいケースとなる。道銀の顧客は自行店舗のATMと同様に、平日午前8時45分〜午後6時は無料で預金の引き出しや預け入れができる。

 セイコーマートを展開するセコマ(札幌市)の赤尾洋昭社長は「今回の協業で道民の利便性を拡充させることができる」と強調した(23日付日本経済新聞)。

 セイコーマートは多少、人口が少ないところでも出店しているとされている。北海道銀行とすれば、人口減少が進む北海道内でも金融サービス機能を維持するため、地場流通と連携するかたちとなる。

 北海道銀行の兼間頭取は「セコマのATM利用が増えれば、銀行店舗のATMを減らすこともあり得る」との見方も示した。道内だけで1093店(2024年6月末時点)あるセコマの半数以上の店舗を道銀の拠点として取り込んだ形となる。


2024年7月23日「今度は茂木幹事長から金融政策の正常化を促す発言が」

 19日の岸田首相による金融政策のさらなる中立化を促すとの発言に続いて、今度は茂木自民党幹事長からも日銀の正常化を促すような発言があった。

 自民党の茂木敏充幹事長は22日の都内での講演で、日銀について「段階的な利上げの検討も含めて金融政策を正常化する方針をもっと明確に打ち出す必要がある」と語った(22日付日本経済新聞)。

 政治から独立した立場にある日銀の対応に関し、自民党の執行部が公の場で注文をつけるのは異例だと、この記事にあった。しかし、アベノミクスと呼ばれた政策は首相が政治から独立した立場にある日銀に対して公の場で注文をつけていたと思うのだが。

 ただし、アベノミクス時とは方向性がまったく異なる。アベノミクスでは日銀に対して強力な緩和を実施するように求めていた。

 それに対して今回は、行き過ぎた金融緩和策が円安などの弊害を招いていることで、躊躇無く金融政策の正常化を実施するよう求めていたのである。

 こちらは政治の干渉というよりも、日銀は独立性を維持し、過去にとらわれず、本来あるべき政策に戻すことを求めている。

 (茂木氏は)円安の是正策として「(日銀が)金融政策の方向性をはっきり、ぶれずに示すことだ」と説明した。金融引き締めは「日本企業の経営からいって基本的に十分対応できる」と主張した(22日付日本経済新聞)。

 日銀の金融政策は円安のために行うものではない。しかし、結果として日銀が異常な緩和策を続け、そこからなかなか抜け出せなくなっている状況が円安を招いている。その異常な状況から脱するように求めているのである。

 金融引き締めといっても欧米の中央銀行のように政策金利を大きく引き上げろというわけではなく、少なくとも物価に見合った金利形成の必要があるということになる。

 今回でいえば、0.25%までの利上げをどうして躊躇しているのかと問うているようにもみえるのだが。


2024年7月23日「岸田首相による金融政策の正常化に関する発言」

 岸田文雄首相は19日、長野県軽井沢町での経団連夏季フォーラムに出席した。「金融政策の正常化が経済ステージの移行を後押しする」と強調した。デフレから成長型経済に移ることで「金融政策のさらなる中立化を促す」と話した(19日付日本経済新聞)。

 この首相発言は日銀が金融正常化を進めるのに追い風となるとみられると記事にあったが、そのように受け取れる発言であったと思われる。

 これに対して、同じ日本経済新聞の、『まだ出ぬ「脱デフレ宣言」 背後に国民の不満と日銀リスク』という記事のなかでは、下記のような発言が記されていた。

 内閣府幹部は「このタイミングで政府が脱デフレ宣言を出せば、日銀の利上げによる引き締めを容認しているととられかねない」と語る。

 首相が金融政策の正常化が経済ステージの移行を後押しすると言っているなか、金融政策の正常化に向けた利上げは容認していないかのような発言は矛盾している。

 さらにこの記事では下記のような発言も記されていた。

 財務省は「個人消費は力強さを欠いている」とけん制した。「日銀が利上げしようとするなら決定会合での議決延期請求権の行使だってあり得る」との強硬論も飛び交う。

 確かに総務省や財務省にはいろいろな意見を持っている人達がいる。しかし、大幅な利上げをくり返すようなことは想定しにくいなか、物価や賃金上昇に応じた金利形成に 反対するかのような発言はどういうことであろうか。

 財務省では財務官などが円安対応を行っているなか、その円安の根本原因のひとつである日銀の以上なまでの緩和姿勢の修正すら、議決延期請求権の行使まで掲げて阻止しようとするような姿勢もいかがなものであろうか。

 むろんこれらの意見が総務省や財務省の総意といったものではないと思われる。さらに最初の記事にあったように首相との意見の相違もうかがえる。

 仮に7月31日の日銀の金融政策決定会合で利上げが決定された際、議決延期請求権を行使する可能性はあるのか。

 過去に議決延期請求権が行使されたのは、2000年8月の金融政策決定会合で一度ある。この際もゼロ金利政策の解除を決定した。日銀にとって、長期金利上昇抑制対策としてのゼロ金利を解除するには、「利上げ」というかたちを取らざるをえず、これは政府の反発を招いた。

 しかし、今回は首相が金融政策の正常化に向けた発言を行っていることで、少なくとも官邸は正常化を容認しているようにみえる。このため、同じゼロ金利解除でも状況は2000年と現在では異なると思われるのだが。


2024年7月20日「トランプ・リスクに注意か」

 選挙演説中に銃撃されてけがをしたトランプ前大統領は、共和党の全国党大会で大統領候補に正式に指名され、事件後、初めて公の場で支持者の前に姿をみせた。

 トランプ前大統領は副大統領候補として中西部オハイオ州選出の上院議員のJ・D・バンス氏(39歳)を充てると発表した。

 バンス氏は2年前の中間選挙で、トランプ氏の全面支援を受けて初当選。ロシアの侵攻が続くウクライナへの支援の継続に反対している。

 11月の大統領選でトランプ氏が勝利すれば、のちに大統領になったニクソン氏の40歳と並んで過去2番目に若い副大統領になる。

 トランプ氏が大統領選で優位となるとの観測から、15日の米国株式市場では「トランプ・トレード」が加速した。

 減税と関税引き上げを掲げるトランプ氏の計画はインフレを引き起こし、米国の財政を悪化させるとの想定から、15日の米債は売られた。

 FRBは9月にも利下げを行うとの見方も強まり、米長期金利は低下しつつあった。その矢先にトランプ・トレードが起き、利下げよりも将来のインフレと財政悪化のダブルパンチによる金利上昇が意識されたのである。

 トランプ・トレードがこのまま続くかどうかはわからないが、あらたなリスクが米国債券市場では膨らみつつある。

 16日の東京株式市場でもトランプ・トレードが起きていた。

 三菱重工業、川崎重工業、IHIを中心に防衛関連の事業を手掛ける銘柄が買われた。トランプ氏はかねて同盟国に軍事費の負担増を求めており、日本の防衛関連企業の業績拡大につながるとの見方から買いが集まったようである。

 トランプ氏の再選が現実になれば米企業に生産拠点の国内回帰の動きがさらに強まるとみられ、北米事業の比率が大きいコマツや日立建機などインフラ整備関連も買われた(16日付日本経済新聞)。

 トランプ氏の政策による財政拡大の思惑で将来的に米長期金利の上昇基調が強まるとの見方から銀行株も上昇した。ただし、この日の円債はむしろ買われていたことから、やや矛盾した動きともいえた。

 円債が買われたのは、介入らしき動きがあり、円安にブレーキが掛かったことも影響したとの見方もあった。円安のために早期利上げをする必要がなくなったとの見方のようだが、むしろこのタイミングで利上げを行えば、円安対策ともみられなくなるので好都合の面もあろう。

 いずれにしても「もしトラ」が「ほんトラ」となる可能性が出てきたことで、金融市場の動きに変化が起きることが予想される。

 しかし、そんな市場の動きよりも「ほんトラ」はウクライナや中東情勢に大きな影響を与えかねず、こちらへの影響をもっと注視すべきではないかと思われる。


2024年7月20日「6月のコアCPIは前年同月比2.6%の上昇」

 総務省が19日に発表した6月の消費者物価指数は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数(コアCPI)が107.8となり、前年同月と比べて2.6%の上昇となった。5月の同2.5%から上昇幅をやや拡大させた。

 コアCPIが前年比で2%を超えたのは2022年4月以来、2年と3か月続いている。

 総合指数は同2.8%の上昇、生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数は同2.2%の上昇となった。

 政府が電気代やガス料金などの負担軽減策を縮小したことで、電気代やガス代が値上がりしたことが影響した。

 ちなみに政府補助による電気代の押し下げ効果はマイナス0.22ポイントあった。

 エネルギーにより総合の上昇幅が0.05ポイント拡大したが、生鮮食品を除く食料により総合の上昇幅が0.08ポイント縮小するなど食料品の値上がりには一服感もある。

 全品目をモノとサービスに分けたうち、サービスは1.7%の上昇となった。前月は1.6%で上昇幅は拡大した。持家の帰属家賃を除くサービスは2.4%の上昇となり、5月の2.2%の上昇から上昇幅を拡大させた。


2024年7月19日「どうして河野太郎デジタル相の利上げ発言が効いたのか」

 7月17日の後場に入り、ドル円はするすると下落し(円高ドル安)、156円台を付けてきた。18日には155円台に下落している。

 11日のニューヨーク外国為替市場で、6月の米消費者物価指数の発表直後に急速に円安調整が起きて、ドル円は一時157円台半ばまで下落した。どうやらこのタイミング、つまり米CPIを受けて米長期金利が低下したタイミングで、ドル売り円買い介入を行ったとみられる。

 12日にも介入が行われたとみられる。たしかにタイミングとして適切だったかもしれないが、それでも157円台までが精一杯といった状況となっていた。

 そのようななか救世主が現れた。

 河野太郎デジタル相は、17日、ブルームバーグテレビジョンに出演し、急激な円安がもたらす国内物価への影響などの問題を強調した。エネルギーや食料品のコストを引き下げるために政策金利を引き上げるよう日本銀行に求めた。

 このタイミングでの河野発言に市場はサプライズとなった。日本の政治家から金融緩和ではなく金融引き締めを要求する発言が新鮮に映ったのである。これで日銀は利上げがやりやすくなるといった見方も出たとみられる。

 そこに別なフォローも加わった。トランプ氏は16日公開の米ブルームバーグとのインタビューで「我々は大きな通貨問題を抱えている」として為替政策について踏み込んだ。強いドルが問題だと指摘し、人民元と円の弱さを名指しで批判したのである。

 これらを受けてドル円は155円台を付けてきたのである。この間、三度目の介入があったのではとの観測もあった。仮に介入があったとすれば、神田財務官は見事な相場師であると認めざるを得ないが。

 外為市場では円高となり、日本の債券市場では売り圧力が強まった。河野氏の発言を受けて、31日の日銀の金融政策決定会合での利上げ可能性を意識してきたといえる。

 30、31日の日銀金融政策決定会合では国債買入減額を決めるので手一杯のため、利上げはないとの見方もある。しかし、国債買入減額は金融政策とは切り離して検討されるものとなっており、金融政策の変更として、利上げが決定される可能性は高いとみている。


2024年7月18日「トランプ氏がFRBの利下げに反対する理由」

 11月の米大統領選でホワイトハウス返り咲きを狙うトランプ前大統領は、ブルームバーグ・ビジネスウィークとの単独インタビューで、パウエルFRB議長の任期満了前に解任を目指さない考えを示した(17日付ブルームバーグ)。

 パウエル氏の任期は2026年5月までとなる。パウエル議長は15日、ワシントンのエコノミック・クラブで開かれたイベントで、任期を全うするかとの質問に対し、「全うする」と答えた(16日付ロイター)。

 トランプ氏が大統領に返り咲くとなれば、中央銀行の政策に口を出しかねず、それが意識されていいたことで、こういった質問が出ていたとみられる。

 実際にトランプ氏は早速、FRBに対して口出しをしていた。

 トランプ氏は、米金融当局が11月の大統領選前に利下げして、それが経済およびバイデン大統領への追い風となることを控えるべきだと警告してきた。

 11月の米大統領選挙でトランプ氏は物価高による国民への影響を争点のひとつとしている。FRBが利下げをするとなれば、物価上昇を招きかねず、さらにドル安となることで、輸入物価への影響も加味して、利下げに反対してきた。

 通常、国民受けとして選挙などでは減税や金融緩和を掲げることが多くなる。しかし、いまは状況が異なるとの見立てか。

 これには違う見方もある。。トランプ氏は16日公開の米ブルームバーグとのインタビューで「我々は大きな通貨問題を抱えている」として為替政策について踏み込んだ。強いドルが問題だと指摘し、人民元と円の弱さを名指しで批判した。米国内の製造業復活を目指し、ドル高是正や関税引き上げを進める姿勢を鮮明にしたのである。

 そうであればどうしてFRBに利下げを大統領選まではするなと言ったのか。これについて18日の日本経済新聞は「バイデン氏を利するような利下げはできるだけ押さえ込み、自分が大統領になってから利下げを進めてほしいという考えがにじむ」とコメントしていた。

 政治的な圧力などは意識せず、中央銀行は独立性を意識して金融政策を行うべきだが、政治に雁字搦めにされてしまうケースも見受けられるのもたしかである。

 トランプ氏は台湾を中国の脅威から防衛することなど、長期にわたる米外交政策方針にも疑問を呈する姿勢も表明した。ウクライナ侵攻を巡ってロシアのプーチン大統領を罰する米国の取り組みにもクールな姿勢となっている。

 金融政策への影響よりも、むしろこちらの外交姿勢が大きく変化する可能性のほうが、よりリスクとなりかねないし、これは日本にも大きな影響を与える懸念もある。


2024年7月17日「トランプ・トレードが加速?、トランプ・トレードって何?」

 トランプ前大統領の銃撃事件を受け、15日の米国市場では同氏の大統領再選を織り込む「トランプ・トレード」が加速した。トランプ・トレードとは、もしトランプ氏が米大統領に返り咲いたら、どんな政策をしてきそうなのか、それを考慮した売買(トレード)である。

 15日の米国株式市場では、財政拡張や規制緩和の恩恵を得られそうな銘柄が買われた。キャタピラーやゴールドマン・サックスやJPモルガン・チェースなどが買われた。

 不法移民に対して厳しい姿勢をとるトランプ氏の再選で国境管理が厳しくなり、取り締まりが強化されるとの見方から刑務所運営のジオ・グループやコアシビックが買われたとか。

 トランプ氏が掲げる関税強化、減税による物価上昇や財政悪化が意識され、トランプ政権となった場合に米長期金利に上昇圧力がかかる可能性が強まったことから、15日の米債は売られた。

 トランプ氏が大統領に返り咲いた場合には、FRBの金融政策に干渉してくる可能性が強まる。

 通常であれば、金融緩和を推し進めようとかるであろうが、バイデン大統領の政策によって物価高となったとして、そこを争点としてくるのであれば、ドル安を促すこととなる金融緩和には躊躇してくることも予想され、こちらは良くわからない。

 経済においても再び混乱は招きそうだが、株式市場は好感してくる可能性がある。それに対して米債はどうなるのか。

 FRBの金融政策の行方には不透明感を強めそうだが、関税強化や減税などが意識されれば、米長期金利の上昇を促すことも予想される。

 米大統領選挙の行方については、まだまだ不透明要素も大きいが、金融市場への影響も少なからずあることで、こちらの動向にも注意したい。


2024年7月16日「賃金も上昇し日銀は利上げへ」

 過去にはそれほど注目されていなかったもので、ここにきて注目された経済指標が存在する。そのひとつが厚生労働省が公表している毎月勤労統計である。

 8日に公表された5月の毎月勤労統計(速報)によると、実質賃金は前年比1.4%減少した。前年比マイナスは26か月連続となると報じられた。

 どうも実質賃金ばかり注目されていることで、まったく賃金が伸びていないかのような報道となっている。しかし、日本の物価が2022年4月以降、急速に上昇し、それが続いていることで賃金がいかにも伸びていないかのように映っているだけである。

 5月の毎月勤労統計によると、基本給にあたる所定内給与は5月に前年同月比2.5%も増えていた。この伸び率は31年4か月ぶりの高さとなっていた。注目すべきは物価と切り離したこちらの数値ではなかろうか。

 8日の日銀の支店長会議での「各地域からみた景気の現状」という報告では賃金について下記のような報告が出ていた。

 「雇用・賃金面では、地域の中小企業における賃金改定について、多くの地域から、春季労使交渉における大企業を中心とした高水準の賃上げ妥結の動きが波及するとともに、人材の係留・確保の必要性や、物価上昇を受けた従業員の生活への配慮等から、昨年を上回るあるいは高水準であった昨年並みの賃上げの動きに広がりがみられる」

 日銀の金融政策の目標は「賃金」ではないが、物価目標が2%をすでに達成してしまっているなか、それを「賃金」に置き換えてしまった。このため、賃金が注目されているわけだが、この賃金すらも前年比2%を超える上昇となってきているのである。

 物価は今後さらに上昇していくというよりも、高い水準が続くとみていたほうが良いかと思われる。その要因のひとつとして賃金の上昇も加わろう。そうであれば、物価に応じた政策金利の修正も早期に行う必要がある。

 金利が動くことによって経済が動くことも当然予想される。金利が低ければ低いほど良い、などということは絶対にない。それは日銀の異次元緩和の結果をみても一目瞭然である。

 長期金利をも抑え込んで債券市場との無益な戦いを行い、債券市場の機能を破壊寸前に追い込むなどということは言語道断である。

 日銀は国内において適切な金利形成が行われる下地を作ることが求められているはずである。それが通貨の安定に繋がるとともに、通貨や国債の信認を維持させることにも繋がる。

 ということで、この毎月勤労統計をみても、日銀は早期に動く必要があると思われる。7月30、31日の金融政策決定会合にて政策金利を少なくとも0.25%に引き上げるべきであろう。


2024年7月16日「米長期金利低下のタイミングで為替介入か」

 11日のニューヨーク外国為替市場で、6月の米消費者物価指数の発表直後に急速に円安調整が起きて、ドル円は一時157円台半ばまで下落した。

 テレビ朝日は日本の政府関係者の話として、政府・日銀が為替介入を実施したと伝え、毎日新聞も、政府関係者は日本政府・日銀が円買い・ドル売りの為替介入を実施したと明らかにしたと伝えた。

 たしかにタイミングからみても介入が入ったとしてもおかしくはない。

 6月の米消費者物価指数は前月比0.1%低下となり、前月比でマイナスになるのは2020年5月以来となった。前年比は3.0%の上昇と、伸びは5月の3.3%から鈍化した。

 これを受けてFRBが9月に利下げに動くとの観測が強まり、米長期金利は一時4.16%に低下した(前日は4.29%)。

 米長期金利の低下に合わせて、順張り的に円買いドル売りを実施するというのは、タイミングとしては適切か(介入そのものが適切かどうかという疑問は残るが)。

 ただし、やや疑問も残った。時間帯からみてFRBやECBに代わりに実施してもらう委託介入となる可能性が高かったためである。もしや介入ではなかったのではないかと。その後、日銀が12日、為替介入の準備のために市場参加者に相場水準を尋ねる「レートチェック」を対ユーロで実施したことが関係者の話で分かったと、こちらは日本経済新聞が報じた。

 ドル円も160円という心理的な節目を抜けてきていたが、ユーロ円はこの日175円台前半まで上昇し(円安ユーロ高)、1999年以降の最安値を更新。つまりユーロ導入後の最高値(円でみると最安値)を更新していた。

 たしかに「レートチェック」も入ったようだが、日銀が12日公表した16日の当座預金残高の増減要因予想からみて介入そのものも実施された可能性が出ている。また12日にも追加の介入があった可能性がある。


2024年7月12日「日銀による国債買入減額の行方を占う」

 9日から10日にかけて日銀において「債券市場参加者会合」が開催された。定期的に開かれているが今回は臨時の会合との位置付けとなる。

 9日は銀行等グループと証券等グループ、そして10日はバイサイドグループと分けられて開催された。

 9日には「債券市場参加者会合」(第20回)金融市場局説明資料が日銀のサイトにアップされた。

「債券市場参加者会合」(第20回)金融市場局説明資料 https://www.boj.or.jp/paym/bond/mbond_list/mbond240709.pdf

 注目は減額される相応の「額」となる。これについては意見がバラバラとなっていたが、これはある程度予想されていたことである。このためこの資料から具体的な数値を導き出すのは難しい。

 最終的に減額の額を決定するのは日銀ではあるが、その額を決定するにはいくつかのポイントがある。

 ひとつのポイントとしては、2013年4月の量的・質的緩和以前の数値となる。

「オペレーション(月次公表分)一覧」日本銀行 https://www.boj.or.jp/statistics/boj/fm/ope/m_release/index.htm

 2013年3月の日銀による国債買入額は、1兆7400億円。 https://www.boj.or.jp/statistics/boj/fm/ope/m_release/2013/ope1303.pdf

 この数値がひとつの目安となる。ただし国債の発行量の違いなどもあり、2兆円規模というのはあくまでひとつの目安となる。

 そしてもうひとつのポイントが、保有者別の国債保有額となる。異次元緩和前と直近のそれぞれの国債の保有者は下記となる(日銀資金循環統計を基に筆者が算出)。

2013年3月末 国債残高は807兆1421億円
民間預金取扱機関(銀行)、314兆9018億円、39.0%
民間の保険・年金、222兆3979億円、27.6%
日本銀行、93兆8750億円、11.6%
公的年金、62兆9924億円、7.8%
海外、35兆2469億円、4.4%
投信など金融仲介機関 32兆1704億円、4.0%
家計、24兆2126億円、3.0%
財政融資資金 9034億円、0.1%
その他 20兆4417億円、2.5%

2024年3月末 国債残高は1082兆0506億円
中央銀行(日銀)、576兆1836億円、53.2%
保険・年金基金、229兆2653億円、21.2%
預金取扱機関(銀行)、100兆5589億円、9.3%
海外、70兆1344億円、6.5%
公的年金、54兆4970億円、5.0%
家計、13兆5410億円、1.3%
その他、37兆8704億円、3.5%

 この数値も目安となる。この数値からみて、日銀が落とすべき残高は2013年3月から2024年3月にかけて増加した部分の280億円相当となるとの見方もできよう。

 そしてそれをカバーできるのは民間預金取扱機関(銀行)となる。

 2013年3月末と2024年3月末では200兆円を数値上ではカバーできる。ただし、今後はIRRBB規制などもあり、すべてをカバー仕切れるとは考えづらい。それでもカバーする主体が銀行になることもたしかである。

 10日付のブルームバーグの記事によると、メガバンクを中心に日銀に積極的な減額を求める意見が出ていたとある。

 三菱UFJ銀行と三井住友銀行、みずほ銀行の3行のうち、1行が早い段階で大きく減額すべきだと発言。別の1行は最終的に月間1兆円への減額を主張し、もう1行は3兆円に減額すべきだと述べた(10日付ブルームバーグ)。

 民間預金取扱機関(銀行)においてこの3行は突出して大きな存在となっているが、3行ともに積極的な姿勢となっていることから、減額は少なくとも3兆円規模となるのではないかとの見方もできる。

 これにより時間は掛かるが、200兆円規模で日銀から民間預金取扱機関(銀行)へ保有額の移転も可能となるのではなかろうか。

 もうひとつ忘れてはいけないのが財務省の存在である。国債の担い手が変わるとなれば、国債発行の在り方にも変化が生じることが予想される。今後も安定的な国債発行をするためには、日銀の国債買入減額による影響も考慮する必要がある。

 個人的には2013年3月水準の月額2兆円規模程度までの減額が望ましいとみている。1年掛けて月額3兆円程度まで減額し、そのあと状況を踏まえ、残り1年掛けて月額買入を2兆円程度までに減額するのではないかと予想している。

 それと「指値オペ」は早期に取り払ってほしい。


2024年7月11日「逆イールドとリセッションの関係」

 欧州の債券市場で長期金利が短期金利を下回る「逆イールド」が解消する動きが出始めた。英国では2年債と10年債の利回りが約1年ぶりに逆転。フランスでも解消した(9日付日本経済新聞)。

 9日の英国債の利回りは2年債が4.10%、10年債が4.16%となっており、より長い期間の国債の利回りが短い期間の国債の利回りを上回る「順イールド」に戻っていた。

 イールドとは「利回り」のことである。通常の国債の利回りは期間が長いほど価格変動リスクが大きくなるなどすることから(期間が長いほど不確定要素が大きくなる)、より高い利回りが求められる。

 9日現在の日本の国債利回りは2年債が0.345%、5年債が0.605%、10年債が1.070%、20年債が1.940%、30年債が2.205%、40年債が2.445%となっている。

 このように日本の国債利回りは綺麗に順イールドとなっている。実は日本でも物価が上昇しているなか、これはこれでおかしい面もあるのだが。

 それはさておき、通常のイールドカーブ(期間毎の利回りを結んだ線がカーブを形成する)となっている。

 欧米では物価の高騰を受けて、素直に中央銀行が利上げを進めた結果、期間の短い2年債などの利回りが10年債利回りを超えるという「逆イールド」が発生した。

 サンフランシスコ地区連銀の2018年のリポートによると、1955年以降に起きた各リセッション(景気後退)の半年から2年前には2〜10年ゾーンで逆イールドが発生している。このうちシグナルが間違っていたのは1回だけという(2023年7月23日付ロイター)。

 このように「逆イールド」が発生すると、リセッションが発生するとの見方も強い。ただし注意すべきは「逆イールド」がリセッションを招くというのではなく、「逆イールド」となるような状況が景気悪化を招きやすいということである。

 逆イールドはリセッションが始まる直前に解消される傾向があるとの見方も存在する。

 欧州での逆イールドの解消は果たして、リセッションの兆候といえるのか。欧州では政局への不安も強まっていることもあり、リセッションが起きる可能性もあるかもしれない。しかし、逆イールドの解消だけから、リセッションは起きると決めつけるのも無理がある。


2024年7月10日「銀行の振込手数料引き下げの動き、金利復活とともに同様の手数料は引き下げられる方向に」

 三井住友銀行は10月、個人客向けのインターネットやATM、窓口の振込手数料を引き下げる。ATMでの三井住友銀内の口座への振込手数料を110円から無料にする。口座経由の他行向けは3万円以上の場合で330〜770円から220〜605円に下げる(9日付日本経済新聞)。

 こういった銀行の手数料は2016年の日銀のマイナス金利導入によって、採算を改善する必要が生じたため、上昇傾向が続いてきた。しかし、それにブレーキというか反転した動きがいよいよ出てきた。

 2024年3月の日銀金融政策決定会合において、日銀はマイナス金利政策と長期金利コントロールを解除した。

 日銀の政策金利は無担保コール翌日物の金利に戻してそれをゼロから0.1%としたが、政策金利の本格的な引き上げはこれからとなる。

 しかし、国債の利回りには上昇圧力が掛かり、2年国債の利回りは0.3%台、5年債利回りは0.5%台、10年債利回りは1%を超えるなど、やっと金利が付く時代が到来した。

 市場金利の上昇によって金利収入が増える可能性が高くなり、手数料の引き下げを通じて、預金を獲得していく戦略に銀行が転換してきた。

 三井住友銀行が振込手数料を引き下げに動けば、ほかのメガバンクも同様に引き下げてくることが予想される。

 これでほとんど利子が付かないのに、手数料だけ大きく引かれるといった状況が今後、改善されることが予想される。

 そもそも日銀は金利をマイナスに引き下げていったい何をしたかったのか。どうもそれによる効果(?)などよりも弊害の方が大きかったように思われるのだが。


2024年7月9日「米はお金だ!という時代があった」

 「米は力だ!」をキャッチコピーにしたアニメーションが始まった。タイトルは『天穂(てんすい)のサクナヒメ』。

 農作物の豊穣を司る神サクナヒメが大自然の中で仲間と共におこなう米作りを通じて、成長しながら、ヒノエ島を支配する鬼たちに立ち向かっていく爽快アクションストーリー。農林水産省のコラボも決定しているそうである。

 この米は私たち日本人にとっても大変重要なものである。過去には「米はお金だ!」という時代があった。

 日本における「金利」の起源は世界史の中の金利の起源と同様には稲の貸し借りとなる「出挙(すいこ)」だといわれている。

 貯蔵した初穂の稲を春に種籾として貸し出して、秋の収穫時に神へのお礼として五把の稲を利息の名目でお返しするというのが「出挙」で、これが日本における金利の起源である。

 中国では古くからこういった利子付き貸借の慣習が存在し、日本でも同様の慣習が行なわれていた。文献などでは、日本書紀に「貸稲」の語が登場し、これが出挙の前身ではないかとの見方もあるが、実際には757年に施行された養老令において「出挙」の語が現れ、これが制度化された日本の金利の起源だとみなされている。

 出挙という制度のそもそもの目的は、農民の生活を維持していくためのひとつの手段であった。出挙には国司が官稲を用いて行う「公出挙」と、個人が行う「私出挙」とがある。律令制のもと、出挙は繁雑な事務を行わなくとも、強制的な公出挙を行うことで、多額の収入を確保することができたことなどから、国家の重要な財源となっていった。金利に当たる雑税のことは「利稲」と呼ばれていたが、その利息は一般に公出挙で50%という高い利息であった。

 豊臣秀吉は太閤検地を行うことにより、米を経済の基礎とする石高制を取り入れ、年貢についても米納制の導入を図った。その後。天下統一を果たした徳川家康は全国支配を確固なものにするため、963年に皇朝十二銭の発行が停止されて以来となる中央政府による貨幣を鋳造し、貨幣の統一に着手した。

 ただし、武士の収入源はお金ではなく米であった。

 このため、それをあらためてお金に換える必要がある。大坂には諸藩が設けた蔵屋敷に年貢米が送られる。米の売却は蔵屋敷での競争入札で行う。落札した業者は代金の一分を支払い、蔵屋敷発行の米切手(米手形)を受け取り、一定期日以内に米切手と残銀を持参して蔵屋敷から米を受け取る仕組みとなっていた。

 この取引が時代とともに少しずつ変わり、米切手が転売されていくようになり、米切手そのものが米現物の需給に関係なく売買の対象となっていった。

 大阪の堂島米会所では、米切手を売買するいわゆる現物取引の「正米商い」に加えて、米の先物取引である「帳合米商い」が行われた。これが現在の金融取引における「先物」の元祖とされているものである。


2024年7月6日「日本の長期金利はどこまで上昇するのか。いずれ2%が視野に入ることも」

 財務省は2日に入札された7月発行の10年国債(375回債)で、表面利率を1.1%と6月までの0.8%から引き上げた。10年国債の利率が1%台を付けるのは2012年3月以来、1.1%となるのは2011年12月以来となる。

 10年国債は年間4銘柄(4・5・6月発行分は4月債、7・8・9月発行分は7月債、10・11・12月発行分は10月債、2023年1・2・3月発行分は1月債)でのリオープン発行となっており、7月債は回号とともに利率も実勢に応じて変わることから、1.1%に引き上げられた。

 10年国債の実勢利回りが1.1%に接近していた要因としては、ひとつは日銀による金融政策の正常化観測がある。

 7月30、31日の金融政策決定会合では、国債買入の減額の具体的な方針が決定される。それとともに0.25%までの利上げも検討される可能性が高い。

 これには円安による影響も大きいとみられる。ドル円は7月2日時点で161円74銭近辺と1986年12月以来およそ37年半ぶりの水準を付けた。

 これは欧米の長期金利が再び上昇してきたことも背景にある。

 米国や英国、ドイツの長期金利は6月10日あたりの水準に戻してきているが、フランスの10年債利回りは昨年10月の水準にまで上昇してきている。政局による財政悪化への懸念がフランスで強まり、それが他の欧州の国債にも伝播した。

 さらに米国での大統領候補と予想されるバイデン現大統領とトランプ元大統領のテレビ討論会をうけて、トランプ氏有利かとの見方が、米国の財政拡大への懸念を強めることになった。

 米国の物価も前年比の上昇幅は一時縮小したものの、その縮小ピッチは後退しつつある。FRBの利下げ観測も後退し、これらにより米長期金利には再び上昇圧力が強まって、円安とともに日本の長期金利の上昇圧力ともなってきた。

 これに対応するには日銀は物価に応じた利上げを急ぐ必要もある。

 神田財務官は7月末付けで退任するが、7月末の日銀の金融政策決定会合を経て、今後の円安対応は介入というよりも、日銀の金融政策にバトンタッチされる可能性もあるのではなかろうか。

 日銀の利上げと国債買入の減額により、日本の長期金利を引き上げ、国内金融機関による国債への購入意欲を高めるとともに、少しでも日米金利差を縮小することで円安にブレーキをかける。

 日銀の利上げは年内2回程度を予想している。7月の会合と12月あたりでの日銀の金融政策会合で無担保コール翌日物金利を0.5%程度まで引き上げるのではなかろうか。日本の長期金利は、1.5%あたりまで上昇してくる可能性はありうるとみている。

 しかし、日銀の利上げがそこが終了するとも考えづらい。さらなる利上げが視野に入るとともに、日銀の国債買入減額によって長期金利にさらなる上昇圧力が加わる可能性がある。日銀による国債買入によるストックとフローの効果によって長期金利は1%程度抑えられていると日銀は指摘している。その効果が後退することもあり、日本の長期金利の大きな節目といえる2%が視野に入る可能性もありうる。


2024年7月6日「どうして2千円札は新札とならなかったのか」

 7月3日から20年ぶりとなる新しい紙幣が発行された。一万円札に渋沢栄一、五千円札に津田梅子、千円札に北里柴三郎の肖像がデザインされている。

 しかし、ここに2千円札の新デザインはない。どうしてなのか。

 むろん答えは、2千円札そのものが沖縄県内などでは流通しているものの、他の地域ではほとんど使用されず、流通量が減少していたからにほかならない。

 守礼門が描かれた2千円札は、2000年に開催された九州・沖縄サミットを記念して発行された。このため、沖縄ではそこそこ流通しているものの、ほかの地域ではほとんど見かけなくなっている。このため、2004年以降は2千円札は増刷されていない。

 自動販売機での導入が進まず、出金を受け付けないATMが大半を占めている状態ともなり、使い勝手が悪い。ただし、沖縄銀行のATMでは「不要」ボタンを押さない限り出金されるそうである。 

 この二千札、表面は守礼門が描かれているが、裏面は源氏物語絵巻第38帖「鈴虫」の絵図ともなっている。まさに今年の大河ドラマの「光る君へ」にも関連している。これもあり、2千円札が脚光を浴びる日も、は少し難しいか。


2024年7月3日「7月募集の個人向け国債、変動10年初期利子は0.72%と2012年1月以来の高い水準に」

 3日に7月に募集される(7月4日〜31日)個人向け国債の発行条件等が発表された。

「個人向け国債の発行条件等」財務省 https://www.mof.go.jp/jgbs/individual/kojinmuke/houdouhappyou/p20240703.pdf

 これによると変動10年の初回の利子の適用利率が0.72%(税引き前)となった。これは2012年1月の0.72%以来の高い水準となる。

 固定5年の利率は0.61%(税引き前)となり、前回の0.59%から引き上げられた。こちらは2009年9月の0.82%以来の高い水準となる。

 固定3年の利率は0.38%(税引き前)と、前回の0.40%から引き下げられた。これは市場での7月の日銀の金融政策決定会合での利下げ観測がやや後退したためである。それにより2年、3年あたりの国債利回りが前月に比べてやや低下していた。

 三菱UFJ銀行の3年スーパー定期の利子が0.15%なので、それに比べると倍以上となる。銀行によっては条件付きながら0.38%を上回るところもある。しかし個人向け国債も資金運用先として魅力的であることも確かではなかろうか。

 個人的にはやはり10年変動をお薦めしたい。これは今後の日本の長期金利の動向を読む必要があるが、私は日銀は今後利上げを続けると予想しており、長期金利(10年国債利回り)もそれに応じて上昇するとみているためである。

 10年変動でも1年経過すると売却は可能であり、元金は保証されている。さらに国債であるため安全性は極めて高い。

 預金保証制度では預金者1人当たり元本1000万円までと破綻日までの利息等が保護されている。

 これに対して個人向け国債は法人が持つことができず、これは販売する証券会社等も同様である。

 つまり個人向け国債を買った人は証券会社等を通じてはいるが、財務省から購入したことになる。このため預金保証制度などに関係なく、1000万円を超えても国の信用の元に買い入れることが可能となる。


2024年7月3日「新1万円札が登場、新紙幣が必要となるのは偽造防止と、その技術継承のため」

 20年ぶりとなる新しい紙幣が3日に発行され、日銀から金融機関への引き渡しが始まった。東京日本橋にある日銀本店では、3日朝に新紙幣の発行にあわせて記念の式典が行われた。午前8時すぎに日銀から金融機関に新紙幣が引き渡され、束になった新紙幣が輸送車に積み込まれた。新紙幣は順次、金融機関に引き渡され、店舗で手にすることができるが、初日は多くの金融機関が新紙幣の取り扱いを一部の店舗に限定する見通し(3日付NHK)。

 銀行などの金融機関は個人や企業への支払に必要な分を用意するため、日銀の当座預金から引き出すことによって日銀券を日銀の窓口から受け取る。これよって日銀券が世の中に送り出され、お札の「発行」となる。

 紙幣のデザインの変更は、今の紙幣が発行された2004年以来、20年ぶり20年ぶり。一万円札に渋沢栄一、五千円札に津田梅子、千円札に北里柴三郎の肖像がデザインされている。

 どうして販売機の変更など費用負担も掛かる紙幣のデザインの変更を行っているのかといえば、紙幣の信用度を維持するためである。

 紙幣の発行は偽造との戦いである。貨幣が生まれてから常につきまとっているものである。このため、高度の印刷技術とその継承が大きな課題となる。次の継承者に引き継ぐ、世代交代をするためには20年以上期間を空けることはむずかしくなる。

 この偽造防止技術については日銀のサイトで詳しい説明がある。

「新しい一万円札について」 https://www.npb.go.jp/ja/n_banknote/design10/

 お札の肖像部分などの主な図柄は、凹版印刷という印刷方式が使われている。額面数字や識別マークには、特にインキを高く盛り上げる「深凹版印刷」が使われ、触るとざらざらした感じがある。

 また「すき入れ」と呼ばれる紙の厚さを変えることによって表現する偽造防止技術も使われている。いわゆる「すかし」である。

 現行の「すき入れ」に加えて、新たに高精細なすき入れ模様を採用。肖像の周囲に、緻密な画線で構成した連続模様が施されている。

 ストライプ型のホログラムを新たに採用。3Dで表現された肖像が回転する最先端技術を用いている。この技術の銀行券への採用は世界初とか。

 せっかくなので、もし新しい1万円札を手にした際には、これら偽造防止技術を確認してはどうかと思う。


2024年7月3日「欧米の長期金利が上昇、要因は物価と政局受けの財政悪化への懸念も。日本の長期金利も再上昇」

 ここにきて欧米の長期金利が再び上昇してきている。そのひとつの要因として物価の高止まりというか、前年比の上昇幅の縮小にブレーキが掛かっていることがあげられる。これによってFRBの利下げ観測の後退により、米長期金利に上昇圧力が加わった。

 WTI先物のチャートをみると6月4日に72ドル台を付けてから、こちらも上昇基調となっているなど物価面からも説明は可能となっている。

 しかし今回はそれだけでないというか、違う要因による影響も大きく受けている。

 米国や英国、ドイツの長期金利は6月10日あたりの水準に戻してきているが、フランスの10年債利回りは昨年10月の水準にまで上昇してきている。

 欧州議会選挙の結果を受けて、フランスのマクロン大統領は欧州議会選での極右RNの躍進と与党の劣勢を受けて、国民議会(下院)を解散すると発表した。

 投資家はこのマクロン大統領の突然の解散・総選挙決定に不安を抱いた。もし右政党の国民連合(RN)が勝利すれば、財政政策が放漫になりかねず、赤字を拡大させるリスクがあるとしたのである。フランス版のトラス・ショックを警戒したのである。

 6月30日に行われたフランス国民議会総選挙の第1回投票は、マリーヌ・ルペン氏の極右政党「国民連合(RN)」が得票率でトップとなった。一部の予想ほどは他の勢力を引き離せなかった。7日に決選投票が実施され、議席が最終確定する。

 一時ほどの懸念は後退したものの、政局による財政悪化への懸念がフランスで強まり、それが他の欧州の国債にも伝播した。

 さらに米国での大統領候補と予想されるバイデン現大統領とトランプ元大統領のテレビ討論会をうけて、トランプ氏有利かとの見方が、米国の財政拡大への懸念を強めることとなった。

 米長期金利は再び上昇トレンド入りとなれば、5月に付けた4.6%の節目も上回る可能性がある。物価がFRBの目標とする2%から上離れた状態が続くとともに、財政悪化への懸念も加われば、長期金利を引き上げる要因が増加する。

 これにより対ドルや対ユーロで円安が進むことが予想される。日本でも物価の高止まりが意識されれば、長期金利に上昇圧力が加わる。

 日銀は膨れ上がった国債保有残高を縮小しようとしており、さらに物価に応じた利上げも当然予想される。そこに欧米の長期金利の上昇も加わると予想外の日本の長期金利の上昇を招くことも可能性としてはありうる。10年債利回り(長期金利)は5月30日以来の1.100%に上昇してきている。

 次回の日銀の金融政策決定会合まで時間はあることで、欧米の状況が変化し長期金利上昇が落ち着く可能性もある。

 ただ、長期金利の上昇を嫌って、正常化にブレーキを掛けるとさらなる円安と、それによる物価高も招きかねない。原油価格が上昇していることも気にとめる必要もあろう。

 日銀は淡々と正常化を進める必要があり、多少の長期金利の乱高下もそれほど気にする必要はない。

 市場は行き過ぎる場合はあるが、それを指値オペで強制的に抑える必要はない。いずれそれは修復される。日銀が無理に指値オペを行うと国債買入減額と相反することとなり、量的緩和強化にも映りかねない。指値オペは手段としても封印することも考える必要があろう。


2024年7月2日「10年国債の利率が12年ぶりに1%台に引き上げられた」

 財務省は本日2日に入札される7月発行の10年国債(375回債)で表面利率を1.1%と6月までの0.8%から引き上げた。10年国債は3か月毎に回号がかわるとともに利率もかわる。10年国債の実勢利回りが1.1%に接近していたことで(2日の374回の利回りは1.080%近辺)、新発債の利率が1.1%に引き上げられた。

 10年国債の利率が1%台を付けるのは2012年3月以来、1.1%となるのは2011年12月以来となる。やっと日本の10年国債の利率が1%台に戻ってきた。今回の入札の結果から個人向け国債10年変動タイプの初期利子が決定されるが、こちらも引き上げられることが予想される。

 国債の各年限の国債はナンバリングされている。同じ10年債でも、発行時によって利率や残存期間が異なるため、それぞれに回号がつけられており、まったく別の銘柄として売買される。その回号については入札日に決められているが、回号が同じものが発行されることがあり、これは次のような理由による

 平成13年3月より、即時銘柄統合(即時リオープン)方式が導入された。これは、新たに発行する国債の元利払日と表面利率が、既に発行した国債と同一である場合、原則として、その既に発行した国債と同一銘柄の国債として追加発行(リオープン)することとし、この新たに発行する国債を、発行した時点から、その既に発行した国債と同一銘柄として取り扱う方式。

 10年、20年、30年、40年債については、即時銘柄統合方式より更に進めて、1銘柄当たりの市場流通量を確保するという観点から次の方式で発行される。

 10年債は金利が上下に大きく変動する場合(償還日が同一の国債を発行する場合で、かつ、前回債の表面利率と入札日の市場実勢利回りとの乖離がおおむね0.30%を超える場合)を除き、年間4銘柄(4・5・6月発行分は4月債、7・8・9月発行分は7月債、10・11・12月発行分は10月債、2023年1・2・3月発行分は1月債)でのリオープン発行とする。

 償還日が同じ国債の銘柄は統一される。例えば10年国債の374回債、375回債といった回号がひとつの銘柄となり、それは3回の入札で発行されたものが同一となる。これによって10年国債の流動性が確保されることとなった。


2024年7月2日「日銀短観、大企業製造業DIは改善、日銀の金融政策の正常化を後押しか」

 日銀が1日に発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)では、大企業製造業の業況判断指数(DI)は、前回3月調査のプラス11から2ポイント改善してプラス13となった。2四半期ぶりの改善となった。先行きについては1ポイント改善とみている。

 原材料高を価格に反映する動きが広がった。素材業種は5ポイント改善してプラス14となっていた。

 自動車は、ダイハツ工業の出荷停止の影響が緩和して生産が回復したものの、トヨタなどで新たに発覚した不正問題により関連産業に影響を与えている。自動車は足元で1ポイント悪化しプラス12となっていた。

 大企業・非製造業の業況判断指数(DI)はプラス33と前回3月のプラス34と1ポイント悪化し、2020年6月以来、4年ぶりの悪化となった。歴史的な円安水準による原材料高や、人件費の上昇が重しとなったと見られる。小売は原材料コストや賃上げの影響で景況感が12ポイント悪化してプラス19となった。

 先行きについては6ポイントの悪化とみている。先行きについては、インバウンド需要の持続性に対する懸念も出ているようである。

 企業の物価見通しは、全規模全産業で1年後は前年比2.4%、3年後は2.3%、5年後は2.2%といずれも日銀の物価目標の2%を超えている。

 今回の短観は日銀の金融政策の正常化を後押しするとみられる。


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