2017年11月22日「FRBのイエレン議長は理事ポストも辞すると発表」

 FRBのイエレン議長は20日、パウエル次期議長が就任した時点で、理事ポストも退任すると表明した(日経新聞電子版)

 トランプ大統領は11月2日に来年2月に任期満了を向かえるイエレンFRB議長の後任に、FRBのパウエル理事を指名した。これによりイエレン議長の再任はなくなった。イエレン氏は来年2月に議長職は失うが、これでイエレン氏がFRBを去るとは限られなかった。イエレン氏はFRBの理事としての任期が残されていたためである。

 FRB議長の任期は4年だが、FOMCで投票権を持つ理事職は任期が14年と長い。中央銀行の独立性を保つためとして、理事には長い任期が与えられている。イエレン氏は2010年にサンフランシスコ連邦準備銀行総裁からFRB副議長に就任した。このため、理事としては2024年まで任期が残っていた。

 このため、イエレン氏は議長職の任期が切れても理事としてFRBに残る可能性があったが、今回あらためて、トランプ大統領への書簡で、パウエル次期議長が正式に就任するのにあわせて理事職も退任する意向を伝えたのである。

 FRBはトランプ氏が指名した金融監督担当のクオールズ副議長がすでに就任しているが、フッシャー氏が10月に副議長職を辞しており、7席ある理事ポストのうち、現時点で既に3つが空席となっている。イエレン氏の退任により、これが4つとなる。

 さらにニューヨーク連銀のダドリー総裁も2018年半ばまでに退任する予定と伝えられている。FOMCの投票権のあるメンバーは理事会からの7名の理事全員と地区連銀から5名の連銀総裁で12名によって構成されている。連銀総裁の参加者のうち1名はニューヨーク連銀総裁が常任となり、残りの4名はその他の地区連銀総裁が1年交替で務める。決定された金融政策に基づいて金融政策を実行するのがニューヨーク連銀であるように、ニューヨーク連銀総裁も立場上は副議長クラスとなっている。

 つまりダドリー総裁も辞任するとなれば、FOMCの投票権を持つメンバーがもうひとつ減ることになる。FRB理事は大統領が任命し、上院の承認を受ける必要がある。これに対してニューヨ−クの総裁はニューヨーク連銀理事会が後任指名のための委員会を設置し候補者を指名するようである。

 いずれにしても今後、FOMCの投票権を持つメンバーにトランプ大統領が指名するとみられる4名の理事と、同じく投票権をもつニューヨーク連銀総裁も入れ替わる可能性が高い。これにより、FOMCの今後の勢力図にどのような変化が起きるのかも注意する必要がある。


2017年11月21日「10月の債券売買、都銀が大きく買い越しに」

 11月20日に発表された10月の公社債投資家別売買高によると、都銀は1兆2339億円の買い越しとなった。9月に都銀は1兆1532億円の売り越しとなっており、決算を意識した動きとみられる。都銀は9月に中期債を9050億円売り越していたが、10月には中期債を1兆5060億円買い越していた。

 海外投資家は10月に8963億円買い越しとなっていた。9月は2兆4042億円と久々に大きく買い越していたが、10月の買い越し額は7月以来の1兆円割れとなった。海外投資家は長期債を3366億円、中期債を4360億円買い越していた。

 公社債投資家別売買状況の下記データは、全体の数字と短期債の数字となっているため、短期債を除く債券のデータについて全体から短期債を引いた。ここには国債入札で購入した分や日銀の国債買入分は入っていない。

公社債投資家別差し引き売買高
注意、マイナスが買い越し
単位・億円
()内は国債の投資家別売買高の超長期・長期・中期別

都市銀行 -12339(2421、1054、-15060)
地方銀行 -4913(-440、-1258、-1342)
信託銀行 -946(-828、-3162、3866)
農林系金融機関 -4457(-2640、177、0)
第二地銀協加盟行 -1350(-560、-391、0)
信用金庫 -3802(-884、-619、20)
その他金融機関 -743(531、-241、4)
生保・損保 -4103(-2059、-10、-285)
投資信託 -1174(-222、6、-935)
官公庁共済組合 -226(-143、2、0)
事業法人 -750(-59、-4、2)
その他法人 -587(-164、-5、431)
外国人 -8963(496、-3366、-4360)
個人 237(0、22、3)
その他 4230(3274、-394、5094)
債券ディーラー 186(81、-8、209)

 10月の全体の国債売買高は183兆円程度となり、9月の201兆円程度から減少していた。全体の中期ゾーンの売買高は10月は51兆円程度となり、50兆円台を維持させているが、このうちの海外投資家は26兆円程度となり、9月の30兆円程度からは減少した。

 10月の債券相場は9月の下降トレンドがいったん収まり、債券先物で150円台前半主体のもみ合い相場となっていた。このなかで都銀などは決算を意識した売買を行っていたとみられ、相場そのものは膠着相場となっていたが、それなりに出来高も維持していた。


2017年11月20日「マネーの膨張は何を招くのか」

 日経新聞が11月14日から連載をはじめた「モネータ 女神の警告」という特集が面白い。14日の「第一部 異次元緩和の領域」ではいくつか興味深い指摘があった。

 そのひとつが、カンボジアでの通貨の流通のうち85%がドルであるとの指摘である。カンボジアの自国通貨のリエルは15%であるが、これは主に少額貨幣のセントが使えない分の代用になっているようである。カンボジアの地価は急騰し、バブルの様相を呈しており、FRBの出口戦略次第ではカンボジア経済に大きな影響を与えかねない状況になっている。

 もうひとつの興味深い指摘が、アップルの保有する1500億ドルもの社債である。保有社債そのものではなく、1500億ドルの余資を抱えている点に注意したい。余資は積み上がる一方となっている。これはもちろんアップルの業績好調による面が大きいものの、重厚長大産業のように巨額の設備投資が必要ないデジタル産業であることも大きい。米国経済を支えているのが、いわゆるハイテク産業であり、このような余資が積み上がりやすい環境となっている。

 さらに世界銀行の統計を基に2016年の通貨供給量が87.9調ドルと日本円で約1京円に膨らんでいる点も指摘している。2000年代半ばまでは、この世界全体のマネーの増加と世界全体のGDPがほぼ同じ規模で膨らんできた。ところが、リーマン危機後の日米欧の中銀による金融緩和策によって、マネーだけが膨らみ続けGDPを大きく上回る状況となってきた。

 特集のタイトルにあった「モネータ」とは英語のマネーの語源となったラテン語だそうだが、そのマネーには3つの機能がある。価値の保存機能、交換機能(決済機能)、価値の尺度機能である。

 日本など先進国では長寿社会となり老後に不安を抱えた個人とともに、企業なども余資を蓄えている。これはマネーの保存機能を重視していると言えよう。金利は極めて低い状態となっているが、積極的な投資というよりも価値の保存が優先されているように思われる。

 カンボジアなどではマネーの交換機能を重視するあまり、他国通貨への依存度を深め、それは自国内で調整が利かないリスクを孕むことになる。

 マネーの価値尺度という機能面では、これだけのマネーの流通量がありながら、その価値を維持し続けている。つまりインフレが抑制されている。

 日本の物価の低迷の要因を含めて、1990年あたりからマネーを巡る外部環境が大きく変化した。このあたりを認識しておかないと、いまの置かれた状況が読めなくなる。さらに今後、マネーの膨張にブレーキが掛かかることが予想され、その際に何が起きるのかも想定しておく必要がありそうである。


2017年11月18日「アベノミクス再考の必要性」

 2016年の伊勢志摩サミット後に安倍首相は、今年4月に予定されていた消費税率の10%への引き上げを延期すると表明した。

 伊勢志摩サミットで議長の安倍首相は機動的な財政戦略や構造改革を提案し、リーマン・ショックを引き合いに出して世界経済の危機(クライシス)に懸念を示したが、危機の度合いの表現をめぐって疑問も出たことから調整もあった。欧州の首脳らがかなり困惑したとも伝えられている。

 景況認識は民間エコノミストどころか霞が関内でも共有されていなかったと、11月17日の日経新聞の大機小機でもコメントがあった。

 何故に安倍首相は今年4月の消費税の10%の引き上げは先送りしたのか。現実にリーマン・ショック級の世界経済の危機など起きてはおらず、むしろ長きにわたり景気回復基調は継続し、株価はバブル崩壊後の高値を更新している。

 安倍首相が消費増税を2度に渡り先送りされた背景には、いわゆるリフレ派と呼ばれる人達の主張が影響していたとされる。アベノミクスの柱が異常な金融緩和策となっていたり、日銀の政策委員人事などをみて明らかである。さらに日銀の異次元緩和によって物価目標達成ができなかったことも2014年4月の消費増税を主犯としているくらいである。

 しかし、世界的な物価の低迷そのものが日本の消費増税による影響によるもののわけはなく、世界的な景気回復なども、日銀の異次元緩和によるものではない。株価の上昇など、多少の過剰流動性は生み出しているのかもしれないが、少なくとも異常な緩和が物価への刺激というバイパスを通じずに直接、雇用の回復に影響を与えているとの見方はおかしい。

 17日の日経新聞の大機小機では次のようなコメントがあった。

 「中央銀行の役割は「パーティーが盛況なときにカクテル入りのパンチボウルを片付けだす」ことにたとえられるが、今の日銀は相変わらず酒を出し続けているどころか、もういいといっている客にまだどうぞと杯を押しつけているようにさえ見える。」

 これがどのような副作用を招きかねないのか。日銀も総裁がその副作用に言及するようになってきた。首相官邸もこのあたりを十分意識しておく必要があり、日銀総裁人事などでもこの点に注意すべきではないかと思われる。


2017年11月17日「日銀総裁が金利下げすぎるの副作用にも言及」

 日銀の黒田総裁は13日の『「量的・質的金融緩和」と経済理論』と題するスイス・チューリッヒ大学における講演は、これまでの発言内容と比較して、やや様変わりとなってきたようにも思われた。それを示すものとして、「量的・質的金融緩和」の成果に加え、副作用についても言及していた点である。

 「最適なイールドカーブの把握」との部分では下記の説明があった。

 「金利の年限によって金利低下の効果が異なることも、最適なイールドカーブを考えるうえで考慮すべき一つのポイントです。経済や物価への影響という点では、一般的に、短期から中期の金利低下による効果が大きいと考えられます。企業や家計の資金調達に占めるこのゾーンのウエイトが大きいためです。」

 だからこそ、2013年4月の量的・質的緩和政策の導入まで、日銀による国債の買入は超短期ゾーンが主体であったはずである。また、短い国債の買入により、償還がすぐ来ることで全体の規模の調整が比較的しやすいメリットがある。つまり出口政策を容易比にさせる。2006年の3月の量的緩和策の解除にも、当座預金残高の削減はかなり短期間で可能とされていた。

 「一方、より長めの金利については、保険や年金といった金融の社会インフラの機能と強い関連があると考えられます。このため、長期・超長期金利の過度な低下は、これらの運用利回りに対する不安感などを惹起し、マインド面を通じて経済に影響を及ぼす可能性に留意する必要があります。」

 この点をあらためて総裁が指摘した意味は大きい。そのために導入したのが2016年9月の長短金利操作付き量的・質的金融緩和による、イールドカーブコントロール「YCC」であった。このYCCの目的はイールドカーブをスティープ化させることであった。それによってある程度「運用利回りに対する不安感」などを後退させることができる。

 「このほか、金融仲介機能への影響という点では、最近、「リバーサル・レート」の議論が注目を集めています。これは、金利を下げすぎると、預貸金利鞘の縮小を通じて銀行部門の自己資本制約がタイト化し、金融仲介機能が阻害されるため、かえって金融緩和の効果が反転(reverse)する可能性があるという考え方です。」

 リバーサル・レートとは米プリンストン大学のブルネルマイアー教授が考案した概念で、金利がある一定水準を下回ると、かえって貸し出しなど金融仲介機能に悪影響を与えるとの議論である(ロイターの記事より引用)。リバーサル・レートを引き合いに出して黒田総裁は、金利を下げすぎることによる副作用について、あらためて言及している。これなども今回の総裁発言のなかではあまり過去にはみられないものであった。

 今後、日銀がマイナス金利政策や長い期間の国債の大量買入を主体としている現在の大規模緩和策から調整を図ってくると期待したいところではあるが、市場への影響等を考慮するとそう簡単に修正できるものではない。しかし、それでも結果としてステルステーパリングを行うなど、これまでのかなり緩和に対する前傾守勢を修正しつつあることも確かなのかもしれない。また、これは追加緩和を主張している向きに対する牽制との見方もある。


2017年11月16日「災害時の金融機関などのパックアップ体制」

 先日、映画シンゴジラでゴジラが東京駅周辺の建物を破壊し、大手町や日本橋などに避難勧告が出された際の金融市場への影響を想定してみた。この際に日本取引所グループの取引所取引専門部会報告書なども参考にさせていただいたが、日銀をはじめ金融機関も災害時における対応は進めており、それをネットで公開されている資料からあらためて確認してみたい。

 「日本銀行の業務継続体制の整備状況とその評価」とのファイルが日銀のサイトにアップされている。ここで「日本銀行は、災害対策基本法等の関連法令等において、災害時等にも業務を継続すること等を求められている」とある。脚注には下記の説明があった。

 「日本銀行は、災害対策基本法(昭和37年施行)、武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(国民保護法)(平成16年施行)などにおいて「指定公共機関」とされており、業務にかかる防災計画を作成し、災害発生時には同計画を実施すること等が求められている。また、首都直下地震対策大綱(平成17年)では、「首都中枢機関(経済中枢)」として位置付けられており、重要な金融・決済機能の当日中の復旧等が求められている。」

 「日本銀行では、重要な経営資源が損なわれる場合に備えて、被災想定に応じた業務継続体制を整備している。具体的には、本店(東京都中央区)、システムセンター(東京都府中市)、役職員といった経営資源が機能不全になったケースに応じて、場合分けしている。そのうえで、大阪に所在するシステム・バックアップセンター、本店の代替業務拠点、大阪支店、業務継続要員などを活用することにより、業務継続を図る体制としている。」

 日銀本店が機能不全となった際には、大阪で代替業務を行うようである。

 日本取引所グループのBCPフォーラム(取引所取引専門部会報告書)によると、こちらも業務オフィスが利用不能になった場合、関東近郊に代替オフィスを確保しているようである。

 それでは民間金融機関はどのような準備をしているのか。これについては日銀による「業務継続体制の整備状況に関するアンケート(2014年9月)調査結果」という資料があった。

 このなかでバックアップオフィスに関する部分を確認してみると「全体の8割強の先が、被災時の重要業務遂行のためのバックアップオフィスを保有しており、保有しているバックアップオフィスの数は「3か所以上」、「1か所」とする先が3割程度、「2か所」の先が2割台半ばとなった」

 「バックアップオフィスで行う主な重要業務としては、「決済関連業務」を挙げる先が最も多く、「資金繰り業務」、「為替業務」等がこれに続く」ともあった。

 これらを見る限り、ゴジラによる首都圏中央部の災害が発生しても、バックアップ体制が機能するであろうと予想される。ただし、システムのパックアップと代替オフィスが準備されていても、問題は「人」であるかと思う。こちらはさすがに完全なパックアップ体制は構築できないため、非常時の課題となる可能性がある。


2017年11月15日「ウルグアイで法定デジタル通貨の運用が開始」

 11月13日付け日経新聞によると、南米ウルグアイの中央銀行はブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用した「法定デジタル通貨」の試験運用を開始したそうである。携帯電話のネットワークを通じ、店舗での支払いや個人間送金が可能になる。

 ブロックチェーン技術を活用した電子通貨といえば価格が乱高下しているビットコインなどがあるが、法定デジタル通貨は民間ではなく中銀など当局が発行するものである。紙幣や硬貨は法定通貨と呼ばれるが、これに対し紙幣や硬貨を使わず、主にネット上でやりとりビットコインなどは「仮想通貨」と呼ばれている。そして中央銀行が発行する仮想通貨は「法定デジタル通貨」と呼ばれている。

 法定デジタル通貨はスウェーデン中銀による「eクローナ」構想、中国人民銀行による「法定数字貨幣」の計画、オランダ「DNBcoin」の開発、カナダの「CAD-coin」など世界各国で研究が進むなか、実用化はウルグアイが初めてとされる。

 日経新聞によると、1万人を対象に、通貨ペソと同価値の法定デジタル通貨「eペソ」2000万ペソ(約7800万円)分を発行。利用希望者は専用サイトで登録し、携帯電話番号で管理するそうである。

「法定デジタル通貨」はどのような利点があるのか。これについては2016年11月に日銀が出していた「中央銀行発行デジタル通貨について」という日銀ビューに記載があった。

「中央銀行発行デジタル通貨について」
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2016/data/rev16j19.pdf

 中央銀行がデジタル通貨を発行することのメリットとして主張される内容のひとつは、「紙の銀行券のハンドリング・コストや保管コストがますます強く意識されるようになっている中、中央銀行が最新の情報技術を活用してデジタル通貨を発行することは、ユーザーの利便性に資するとの主張である」

 ウルグアイが世界に先駆けて法定デジタル通貨の発行に踏み切った背景には、デジタル化による紙幣の維持コスト削減という目的があった。脱税や資金洗浄(マネーロンダリング)の防止にも役立つとの指摘もある。

 「中央銀行が自らデジタル通貨を発行すれば、紙のコスト故に銀行券が仮想通貨に凌駕されるといった事態を避けることができるとの主張」

 これについては特に金融政策の有効性を確保できるとの主張である。ただし、金融政策の有効性とは何かという課題も現在の異次元緩和を継続させている日銀は抱えているようにも思われるが。

 「さらに、中央銀行が自らデジタル通貨を発行すれば、仮想通貨との競争を受けたシェア低下による通貨発行益(シニョレッジ)減少を防ぐことができるとの議論がある。」

 日銀は具体的に「法定デジタル通貨」の発行について言及はしていないものの、研究はしているとみられる。他国に比べて紙の通貨への信認が非常に厚い日本ではあるが、「法定」デジタル通貨であれば、それが開始されると一気に普及する可能性は秘めているのかもしれない。


2017年11月14日「シンゴジラによる金融への影響を想定してみた」

 11月12日の地上波で初放映されたシンゴジラは大きな反響を呼んだようである。平均視聴率は15.2%と高かったようだが、それよりもネットでの反響が大きかったようである。すでに映画館などで見た人も多かったはずだが、ツイッターで地上波実況を共有するなどして、ネットも使って視聴者が同時にテレビでのシンゴジラを楽しむという新たな楽しみ方も注目されよう。

 このシンゴジラは日本の首都を直撃した大きな災害に対してどのように政府が対処するのかという面についても、妙にリアリティーがあった。首相官邸地下にある危機管理センターや、立川にある緊急災害対策本部など、実際にある施設の使用が想定された。

 シンゴジラの中での金融に絡んだコメントは限られていた。ただし、証券取引所で株価が急落し、急激な円安が進行するとともに、日本国債が暴落しているというコメントが会話にあった。

 ゴジラの都心に向けた襲撃進路をみると、最終的な対策が取られたのが東京駅であり、その周辺も大きな被害を受けた格好となった。しかし、かろうじて東京証券取引所や日本銀行の建物への直接的な被害は免れた格好となっていた。

 しかし、あれだけの大規模作戦(ヤシオリ作戦)が敢行されたとなれば、東京証券取引所も日銀も避難対象となっていると想定され、東京証券取引所は休場となり、日銀も本店の機能は一時的に失われるものと思われる。これで果たして金融そのものにどのような影響を与えるのかもシミュレートしておく必要があるのかもしれない。

 東京証券取引所が休場となっても、その機能の一部は大阪取引所が担うことが予想される。ただし、大阪取引所は東京証券取引所との統合の結果、デリバティブを主体とした取引が中心となっているが、株式の取引においてはどの程度のバックアップが可能となっているのであろうか。

 これについては「取引所取引専門部会」が4月に報告書を出していた。有事の際にはバックアップ体制に速やかに切り替えることで、清算・決済機能についてはおおむね2時間以内、約定機能についてはリスクとなる事象が発現してからおおむね24時間以内に復旧・再開させることを目標とする体制を構築するよう報告がなされていた。

 参考、「BCPフォーラム取引所取引専門部会 第二次報告書」http://www.jpx.co.jp/corporate/about-jpx/crisis-management/bcp-forum/tvdivq0000007c9r-att/1-1.pdf

 そして日銀についてもバックアップ機能は当然考慮されているとみられ、少なくとも日銀ネットは機能することが予想される。それでも日銀本店が使えないとなれば、それなりに金融取引に支障が出る可能性はあるかもしれない。また、大手町にあるメガバンクの本店機能も一時的に喪失するとみられ、システムにはバックアップはあるとしてもある程度、金融取引に支障が出る可能性はある。

 国債を主体とした債券の取引についてはどうであろうか。国債の入札については日銀ネットが機能していたとしても、プライマリーディーラーの本店なども東京駅周辺にあるため、ある程度の期間は中止せざるをえないであろう。ただし、国債の休債分については、前倒し発行枠などあるため、ある程度の期間であれば休債は可能とみられる。

 国債の取引そのものについても、売買だけでなく決済にも支障が出ることが予想される。日本証券クリアリング機構も東京証券取引所内にある。このため国債の取引は一時的に中止せざるを得ないかもしれない。それでも上記の取引所取引専門部会の報告書にあるように、停止期間がそれほど長期にわたることがないとなれば、市場の混乱も一時的なものとなろう。


2017年11月13日「トランプ大統領がパウエル理事をFRB議長に指名した理由」

 米国のトランプ大統領は11月2日に来年2月に任期満了を向かえるイエレンFRB議長の後任に、FRBのパウエル理事を指名した。

 トランプ大統領は5人の候補に絞り込んだとされ、その候補にパウエルFRB理事、ウォーシュ元FRB理事、テイラー米スタンフォード大教授、コーン国家経済会議(NEC)委員長、そして現職のイエレン議長がいた。

 トランプ大統領は米国経済の回復や株価上昇の功労者とも言うべきイエレン議長の再任も考慮に入れていたようである。イエレン議長の前任のバーナンキ氏やその前のグリーンスパン氏は再任されており、イエレン議長の再任の可能性は十分にあった。

 しかし、ここにいくつかの壁が存在していたものとみられる。そのひとつが議会での承認の可能性である。イエレン議長は民主党政権下で米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めるなどリベラル色が強いとされている。それでなくても議会との衝突も多いトランプ大統領だけに、ここで議会ともめてしまうことは避けたいところであろう。

 そのあたりも考慮してか、ムニューシン財務長官が強くパウエル理事を推していたようである。トランプ大統領は最終的にムニューシン財務長官のアドバイスを受け入れた格好となった。

 イエレン議長とムニューシン財務長官は結構な頻度で会っており、特に反目し合っていたとは思えない。イエレン議長とパウエル理事の考え方も似ている。パウエル理事はイエレン議長の政策に対して表立って異を唱えることなく、むしろイエレン議長を支える立場にあった。ムニューシン財務長官は金融政策への考え方といったものではなく、政治上の理由なども配慮して大統領にアドバイスしたのではなかろうか。

 パウエル理事は歴代のFRB議長と違ってエコノミストではない。しかし、必ずしもFRB議長がエコノミストである必要はなく、すでに5年物間FRB理事を務めており、むしろその実務経験が役立つ可能性も高いのではなかろうか。

 パウエル理事がFRB議長となっても現在のFRBの正常化に向けた路線は継承されよう。むしろ問題となるのは、理事の空席かもしれない。副議長は2人体制となり、クォールズ氏が指名され、上院で承認された。しかし、フィッシャー副議長の辞任によりもうひとつが空席となっている。

 パウエル理事が議長に昇格し、イエレン議長が来年2月で退任するとなれば、理事の空席が増えることで、大きな入れ替わりも想定される。また、ニューヨーク連銀のダドリー総裁も2018年半ばで退任すると発表しており、体制が大きく変わることとなりそうである。


2017年11月10日「9日に日経平均が乱高下した理由」

 11月9日の東京株式市場は商いを伴って乱高下した。8日の米国株式市場は主要3指数が過去最高を更新し、9日の東京株式市場は買いが先行し、日経平均は75円高で寄った。その後、さらに上げ幅を拡大させて日経平均は400円を越す上昇となった。ただし、これだけ上昇するほどの材料は見当たらなかった。これは勢いに乗って株価をつり上げるような動きにもみえた。

 午後に入り地合は急転する。12時過ぎに利益確定売りに押され、いったん切り返したものの戻り切れず、13時過ぎあたりから再び売りが持ち込まれ、日経平均は高値から800円を超す下げとなった。

 その後、引けにかけては買い戻しの動きも入ったことで、日経平均の引けは45円安となった。9の東京株式市場の売買代金は5兆円近くとなり、2014年11月以来の高水準となった。

 9日の東京株式市場の動きは、何かしらの相場を動かす材料があってのものではなく、売り買いのポジションがぶつかり合う展開となっていた。相場上昇を牽引してきた海外投資家、特に短期売買を中心に行っているヘッジファンドによる仕掛け的な動きも絡んでいたものとみられる。

 相場が大きく動いているときには、相場感そのものがぶつかり合う。特に上昇相場が長く続き、25年ぶりの水準を更新となれば、新たなトレンド入りが意識される。それとともに、このまま上昇相場が続くとも思えず、高値警戒も当然でてくる。このあたりの不安心理を突くような仕掛け的な動きと言えなくもない。

 9日の米国株式市場では、米上院共和党が税制改革案で法人税減税を2019年に先送りすると報じられ、米税制改革の先行き不透明感が強まり、米国株式市場は利益確定売りに押された。こちらはそれなりの材料があっての売りとなっていた。

 外為市場では9日の日経平均の急反落でドル円が下落し、日経平均は少し戻していたが、ドル円は戻り切れていない。これもあって10日の東京株式市場は売りが先行した。

 しかし、今回の日経平均の乱高下は相場のピークアウトを示すものとは思えない。9月初めから始まった日経平均の上昇トレンドであるが、途中の調整がほとんど入っていなかった。その意味では今回の下落は買い方がいったん売却を行って一息つく、いわゆる調整局面とみられる。

 外部環境は特に大きな変化はない。米国の法人税減税についても、これが相場を持ち上げる主要因となっていたわけではない。今回の特に米国株式市場の上昇はトランプ相場と呼ぶ人もいるが、トランプ政権はいまだ公約すら実現していない。トランプ政権の政策が景気の回復をもたらしたわけではなく、景気の回復期にトランプ政権がたまたま誕生しただけとみた方が良い。

 米国の景気は雇用を主体に回復基調が継続している。これが続いている限りはまだ上昇相場は継続するとみておいた方が良いのではなかろうか。インフレの兆候がほとんど見えないことも、日米欧の中銀による緩和効果も意識され、今回の相場上昇が長続きする要因になると思われる。


2017年11月10日「日銀はサプライズ緩和政策からの方針変更か」

 11月9日に日銀は金融政策決定会合における主な意見(10月30・31日分)を公表した。このなかの「金融政策運営に関する意見」のところを確認してみたい。

 「現在の強力な金融緩和を粘り強く推進していくことが重要」、「金融市場調節方針を維持することにより」、「現在の金融政策は・・・政策効果の不確実性が最も小さく、最適な金融政策である」

 決定会合では現状維持が賛成多数で決定されていたため、現状維持が適切であるとする意見が出るのは当然ではあるが、物価目標達成にはかなりの距離はあるものの、それによって追加緩和を行う必要性はないと主張しているようにも思われる。意見のなかには次のようなコメントもあった。

 「政策変更の効果に確信が持てない限り、現状維持が適切である」。「目標達成を急ぐあまり極端な政策をとると、金融不均衡の蓄積や金融仲介機能の低下といった副作用が生じる恐れもある。」。「追加緩和に関しては、市場や金融機関への影響、政策の持続性等の観点から、プラスの効果より副作用の方が大きいとみている。」、「国債市場の流動性に加え、国内外投資家の動向や金融機関の保有有価証券ポートフォリオの中身について一層注視する必要がある。」 」

 どうやら副作用についてもかなり気配りをしているようにも思われる。「目標達成を急ぐあまり極端な政策をとると」との表現があったが、2013年4月の量的・質的緩和、2014年10月の量的・質的緩和の拡大、2016年1月のマイナス金利付き量的・質的緩和、同年9月の長短金利操作付き量的・質的金融緩和は、ある意味、目標達成を急ぐあまり取った極端な政策のようにも思えるのだが、日銀はそのようにサプライズ緩和政策から方針を変えてきているようにも思われる。

 しかし、なかには何を言っているのかわからない意見も出ている。

 「米欧の中央銀行が出口に向かっているので、日本銀行も同様に出口に向かうべきだという意見があるが、これらの国に比べて、金融緩和の開始時期が遅いため、出口に向かう時期が遅くなることについても不思議はない。」

 当たり前だが、日銀の緩和策は2013年4月の量的・質的緩和に始まったものではない。それまでの日銀の緩和策は緩和策とは言えないと言うのであろうか。

 米欧の中央銀行が出口に向かっているのは何故なのか。それは世界的な金融経済リスクの後退とそれによる世界経済の回復が要因のはず。そもそも金融緩和の開始時期の違いがあったとは思えず、日本だけ景気回復に取り残されているわけではない。むろんそれぞれの中央銀行は横並びに動く必要はなく、自国の経済物価状況に応じて行うものである。しかし、無理な物価目標を立ててしまって身動きを取れなくしてしまい、表だっては出口に向きを変えることすらできなくなってしまっているのが現在の日銀ではなかろうか。


2017年11月9日「日経平均がバブル崩壊後の高値更新、気をつけるべきリスクとは」

 11月7日の東京株式相場では日経平均株価が389円25銭高の22937円60銭で引けたことで、1996年6月に付けたバブル崩壊後の高値となる22666円80銭を抜け、1992年1月以来、25年ぶりの水準を回復させてきた。

 この背景にあるのは国内企業の業績回復などもあるが、海外株式市場の上昇による影響が大きい。米国株式市場ではダウ平均、ナスダック、S&P500の主要3指数が過去最高値を更新し続けており、ロンドン株式市場でもFTSE100種総合株価指数やフランクフルト株式市場でドイツ株式指数(DAX)も過去最高値を更新している。

 欧米の株式市場が過去最高値を更新している割に、日本の株価はやっとバブル崩壊後の高値を更新した程度ともいえるかもしれない。それでもやっとここにきて世界的な株価の上昇トレンドに東京株式市場も乗ってきた。

 実感なき景気回復と言われてはいるが、それでも企業の決算等は好調となるなど景気が回復していることは確かである。ただし、今回の世界の株高には物価上昇が伴っていないことも特色となっており、それが熱狂なき株高といえるような状況となっている。

 物価が上昇しないことで、日米欧の中央銀行の金融政策は異常ともいえる緩和策を継続させている。米国のFRBはいち早く出口政策をとってはいるが、それでもかなり慎重に進めており、膨れあがった買入資産の縮小にも慎重である。イングランド銀行は10年ぶりの利上げを決定したが、再利上げは予想以上の慎重姿勢を見せている。ECBもテーパリングではなくダウンサイジングとの表現を使うなど買入規模の縮小にも慎重姿勢となっている。日銀も出口との表現は封印せざるを得ない状況にある。

 この日米欧の中央銀行の慎重姿勢も手伝っていわゆる金融相場と業績相場が同時に起きるという状況となっている。

 リーマン・ショックやギリシャ・ショックに代表される大きな世界的な金融経済リスクが後退し、世界経済は回復基調となり企業業績は回復し、そこに大規模な緩和効果も残っていたことで、株価をつり上げている。

 現在の世界的株価の上昇はバブルなのかと言えば、いずれはバブルと呼ばれる可能性は高い。ただし、その頂点が見えているわけではない。日本のバブルも崩壊して初めてバブルと呼ばれた。

 ではどのようなタイミングで今回の株価の上昇トレンドが変化するのか。それもまた日米欧の中央銀行の行方に掛かっているような気がする。物価の低迷と中央銀行による大規模な国債を主体とした資産買入は特に日本で財政への懸念を覆い隠すかたちになっている。この好環境が崩れることになると、あらたなリスクが生じる可能性がある。その意味では東京オリンピックが開催される2020年は注意すべき年となるかもしれない。戦後初めて国債が発行されたのは、前回の東京オリンピック後であった。


2017年11月8日「原油価格が上昇すれば日銀の物価目標達成も?」

 ここにきて原油価格が再び上昇の兆しを見せ始めている。11月6日の原油先物市場では、サウジアラビア政府が数十人の王族や閣僚を汚職容疑で拘束したとのニュースや、そのサウジアラビアはイエメンの反体制派が首都リヤドに向けた弾道ミサイルを迎撃したことなど、中東情勢の緊迫化を受けて原油価格が上昇したとされた。

 協調減産延長への期待も原油価格上昇の背景にあり、WTI先物は57ドル台となり、終値で2015年6月以来の高値をつけた。このまま上昇トレンドが続けば、2015年6月以来の60ドル台回復の可能性もある。チャート上は60ドル近辺が目先の天井になるとみられるが、ここを大きく抜けると80ドルあたりまで大きな節目はない。いまのところ、ここまで急伸することは現実的ではないが、中東情勢が緊迫化するなどした場合には絶対にないとは言い切れない。

 ここ数年の原油先物の推移をみてみると、2014年7月あたりまで上昇基調となっており、WTIは100ドル台をつけていた。しかし、2014年7月あたりから年末にかけて大きく下げ、2016年には30ドルあたりまで下落した。

 2013年4月あたりからのコアCPIの予想以上の上昇ペースの背景には、アベノミクスをきっかけとした急速な円高調整による円安効果と、消費増税にむけた駆け込み需要、さらには福島原発問題の影響が残るなかでのエネルギー価格の上昇による影響が大きかった。これにより消費増税の影響を除いたコアCPIは前年比1.5%半ばあたりまで上昇し、異次元緩和効果で2%の目標に向けて順調に上昇しているかのように見えた。

 しかし、日銀の異次元緩和が直接物価に働きかけていたわけではないことを2014年5月以降のCPIの前年比の低下が示すことになる。原油価格が2014年7月あたりから急速に下落基調となっていただけでなく、ドル円が110円台から105円台となるなど円安調整も加わってのコアCPIの前年比の落ち込みとなった。2015年2月にはゼロ%となり、同年8月にはマイナスとなっている。このCPIの落ち込みは消費増税によるものとの指摘もあったようだが、原油価格や為替の動向に影響を受けていたとみる方が自然であろう。

 ここにきての原油先物価格の上昇とドル円の上昇も加わって、コアCPIは前年比プラス0.7%あたりまで回復してきている。これは決して日銀の緩和政策によるものではなく、原油価格やドル円の推移で説明可能であろう。そうであれば、今後のCPIの行方を占う上ではWTIが60ドルの壁を破ってくるのかが注目される。もし突破してくるとなればコアCPIの1%台回復も見えてくる。もしまた1.5%あたりまで、たまたま上昇した際には、そのあたりで日銀も手を打ってはどうであろうかとは個人的に思うのであるが。


2017年11月7日「英中銀が10年ぶりの利上げ、再利上げは慎重の構え」

 英国の中央銀行であるイングランド銀行は11月2日の金融政策委員会(MPC)で、10年ぶりとなる利上げを決定した。7対2の賛成多数で政策金利を過去最低の0.25%から0.50%に引き上げることを決めた。カンリフ副総裁とラムスデン副総裁が、賃金の伸びは低く現時点で利上げを正当化できないとして利上げに反対し、据え置きを主張した。

 利上げは2007年7月以来、10年4か月ぶりとなる。ただし、金利と並ぶ政策の柱のもうひとつ量については、英国債の保有枠を4350億ポンドで据え置いた。

 カーニー総裁は、10年ぶりに利上げを決めた理由について、「利上げをしなければ、物価の上昇率を目標とする2%に保つのが難しい。経済が堅調なことから、利上げすべきタイミングだと判断した」と説明した。ただし、イギリス経済にとってEUからの離脱を決めたことによる影響は大きいとして、「今後の利上げのペースは緩やかで限定的にとどまる」と述べた(NHK)。

 そして会合後に発表した声明から、「前回声明に盛り込まれていた市場が見込んでいるよりも大幅な利上げが必要となる可能性がある」との文言が削除された。

 今後の利上げに関してカーニー総裁は、2020年末までに25ベーシスポイントの追加利上げを2回行うという投資家らの見方と同じと説明した。つまりFRBに比べてかなり慎重な利上げペースになることを示した。

 これを受けて2日のロンドン市場ではポンドが下落し、英国債は買い進まれた。英国債に関しては観測で売って、実際の利上げを決定したことで買い戻すような動きにも見えるが、再利上げは予想以上に慎重との見方も英国債の買い戻しやポンド売りを誘ったものと思われる。

 今回、いわゆる執行部である総裁と副総裁の票が割れたが、これはイングランド銀行では珍しいことではない。また、金利ではなく量についてはイングランド銀行はあらかじめ保有枠の拡大幅と期間を設けて一定期間に買入を行っていたことで、FRBのように毎月の購入額を決めて購入し続けるというパターンではないため、テーパリングの必要はない。今後、イングランド銀行が国債等の保有枠の削減を行ってくるのかは、はっきりしないが、こちらもかなり慎重に行ってくるであろうと予想される。


2017年11月5日「日銀は物価見通しを何故間違えたのか」

 10月30日に発表された経済・物価情勢の展望、いわゆる展望レポートによると、2017年度の物価見通しは前回7月時点の見通しの前年比プラス1.1%からプラス0.8%に下方修正された。

 この場合の物価とは、日銀の物価目標となっている消費者物価指数(除く生鮮食品)であり、数字は政策委員見通しの中央値である。今回の下方修正は9月の消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比がプラス0.7%に止まるなどしたことによる修正とみられる。

 2018年度については前年比プラス1.4%(7月時点でプラス1.5%)、2019年度については前年比プラス1.8%(7月時点でプラス1.8%)となっている(2018年度は消費税率引き上げの影響を除くケース)。展望レポートによると2%程度に達する時期は、2019年度頃になる可能性が高いとしている。

 それでは2年前の2015年10月に発表された展望レポートの予測を確認してたみたい。2015年度の見通しがプラス0.1%、2016年度がプラス1.4%、2017年度がプラス1.8%となっていた。予測は大きく外れていると見ざるを得ない。2015年10月のレポートでの物価についての見通しでは下記のような説明があった。

 「2%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されるが、同価格が現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016年度後半頃になると予想される。」

 参考までに2015年10月末の原油価格を代表する指標としてのWTI先物は46.22ドルであった。それが1年後の10月末に49.78ドル、今年10月30日現在は54ドル近辺となっており、大幅に上昇はしていないが緩やかには回復している。

 2015年10月現在の物価を巡る状況については、「原油価格下落の影響が剥落するに伴って、物価安定の目標である2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる」と物価予測を誤った要因として原油価格を挙げていた。

 たしかに原油価格は緩やかに上昇し、コアCPIは足元で前年比プラス0.7%にまで回復している。コアCPIに関しては原油価格の影響が大きいことは確かである。ところが、この原油価格の影響を除いた生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコア)でみると今年9月は前年比プラス0.2%に止まっている。これをみても原油価格の押し下げだけが物価を抑制していたわけではないということになる。

 日銀の物価見通しは何故間違えたのか。本来、日銀は物価の予測を含めた調査機関としても日本有数の組織である。展望レポートの数字はあくまで政策委員の予測であるが、データ等の背景説明は受けているはずである。今の日銀には2%の物価目標達成というバイアスが掛かりすぎてしまっていることが、このような予測にも影響を与えているのではないかと思われる。


2017年11月4日「日銀片岡審議委員の提案の意図は何か」

 10月31日の日銀金融政策決定会合では、8対1の賛成多数によって現在の緩和策を次回会合まで継続することを決定した。今回反対票を投じたのは、7月に審議委員に就任したばかりの片岡剛士委員であった。

 片岡委員は、「オーバーシュート型コミットメントを強化する観点から、国内要因により「物価安定の目標」の達成時期が後ずれする場合には、追加緩和手段を講じることが適当であり、これを本文中に記述することが必要として反対した。」

 日銀はアベノミクスの主軸として大胆な緩和策を実施してきたが、物価目標の到達予想時期を後ずれさせてきた。31日の展望レポートでは「(物価目標の)2%程度に達する時期は、2019年度頃になる可能性が高い」としているが、これもかなり怪しいものとなっている。時期が進むに従ってさらに後ずれする可能性は非常に高い。

 これについて「国内要因により」物価安定の目標の達成時期が後ずれする場合には、追加緩和手段を講じる必要があると片岡委員は主張した。「国内要因」を除くとなれば、為替や原油価格などの要因を除いてということになろうか。そうなると消費者物価指数はほぼゼロ近傍が続いていることで、追加緩和策が今後も常に必要になるということになろう。

 そもそもこれまでの異次元緩和で何故、物価目標を達成できなかったのか。追加緩和で物価上がる保証はあるのか。どのような追加緩和ならどういう経路で物価が上がるのかといった説明も当然必要になる。

 今回、片岡委員は長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)についても反対票を投じている。これについては「イールドカーブにおけるより長期の金利を引き下げる観点から、15年物国債金利が 0.2%未満で推移するよう、長期国債の買入れを行うことが適当である」との説明があった。

 日銀が現在行っている金融緩和策は長短金利操作付き量的・質的緩和であり、操作目標は量から金利に戻している。片岡委員は政策目標の量への回帰といった修正ではなく、金利目標の修正を提案してきた。しかし、それが何故15年物国債金利で0.2%なのか。

 日本の債券市場での国債の売買は主にカレント物と呼ばれる直近発行された2年、5年、10年、20年、30年の国債に集中している。現在、15年の利付き国債の新発債は発行されていない。このため15年国債となると20年の国債が発行されて5年目の国債などということになるが、流通量は非常に少ないゾーンであり、その国債を日銀が買い入れるとなると大きく変動する可能性がある。というよりそもそも買入自体が難しい。もし15年の金利操作を10年債と20年債のカレントを使って行うのであれば、わざわざ15年にするのではなく20年の金利をターゲットにした方が良いのではなかろうか。

 そもそも、日銀が長短金利操作付き量的・質的緩和を決定した本当の理由は足元の金利はマイナスに置いても、長い期間の国債の利回りを引き上げてイールドカーブをスティープさせることであったはず。ここで長めの金利を引き下げたり、10年の目標金利をマイナスにしてしまうと再び日銀に対して金融機関の批判も高まることが予想される。だから15年金利を少しだけ引き下げるというのかもしれないが、それで物価目標を達成できるとも到底思えないのではあるが。


2017年11月3日「FOMCは現状維持、12月の利上げ示唆」

 11月1日に開催されたFOMCでは、投票メンバー9人の全員一致で政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標値を年1.00〜1.25%のまま据え置いた。9月の前回会合では量的緩和で膨らんだ保有資産の縮小開始を決めた。次のステップは再利上げとなったが、そのタイミングは12月となるようである。

 今回の会合後に公表した声明文のなかでは「緩やかな利上げのもとで、経済の改善が続く」との見通しを示したことで、12月の次回会合での追加利上げを示唆した格好となった。足元経済がしっかりしているのであれば今回の会合で利上げを決定してもおかしくはない。

 今回の会合で利上げを見送ったのは保有資産の縮小による影響を見定めたいとの要因もあったのかもしれないが、ある程度のタイムスケジュールを意識したものとも言えなくもない。

 特に緩和策ではなく結果として引き締め策となる正常化は市場の動揺を抑え、できるだけ事前にそれを織り込ませる必要がある。これに対して緩和策は市場がそれを期待しているタイミングで行う方が効果が出る。ただし、この効果とは実態経済への効果というよりも市場の動揺を抑えることが目的となる。

 利上げのタイミングを12月としているのは、12月のFOMCでは議長会見が予定されていることも影響している。正常化のステップの際の政策変更は、これまでも議長会見が予定されているFOMCで行われていた。政策変更について会合直後に市場に議長自ら説明することで、市場への理解を求めることも意識されているとみられる。

 まもなく米国大統領による次期FRB議長の指名が行われるとみられる。パウエルFRB理事の議長指名が有力とされている。パウエル理事となれば、イエレン議長の路線を継承するとみられ、正常化に向けたステップも維持され、政策変更のタイミングも同じようなものになると予想される。


2017年11月2日「日銀の異次元緩和は本当に必要であったのか」

 総務省が10月27日に発表した9月の全国消費者物価指数は総合前年比プラス0.7%と8月と変わらず、生鮮食品を除く総合指数(コア)で前年比プラス0.7%とこちらも8月と変わらず。生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコア)で前年比プラス0.2%とこちらも8月と変わらずとなった。

 コア指数は9か月連続で前年比プラスとなったものの、いまだ日銀の物価目標の2%に届く気配はない。生鮮食品及びエネルギーを除く総合がプラス0.2%程度に低迷していることからもわかるように、コア指数を引き上げているのは引き続きエネルギー価格の上昇によるものであり、ここに日銀の異次元緩和の影響が出ているわけではない。

 エネルギー関連では電気代、ガス代、灯油、ガソリンなどの上昇が影響を与えている。コア指数に関してはこのようにエネルギー価格の影響を受けやすいことがわかる。当然ながら、日銀が大量に国債やETFを購入すれば原油価格が上昇するわけではない。

 2012年12月の衆院選で出てきたアベノミクスは、急激な円安と株高のきっかけとなったことは確かであり、円安効果も加わりその後の消費者物価指数の上昇も招いた。しかし、それが円安や消費増税に伴う駆け込み需要による一過性のものであったことも確かであった。

 さらに日銀は異次元緩和によって円安を招いて物価を上昇させるとの見方について、総裁自身がそれは目的としていないことを断言している。ドル円の125円が黒田ラインと呼ばれているのも、それが影響している。

 大胆な緩和策が物価上昇を招いて、雇用など含めて景気も回復するというのが、そもそものアベノミクスの目的であったはずである。ところが物価はいつまで経っても目標には届かず、しかし雇用は回復し低成長ながらも景気も回復基調となっている。これは米国などの景気回復に助けられている面も当然ある。日銀の異次元緩和がなければ、ここまで日本の景気は回復しなかったとの意見もあるが、異次元緩和の効果のほどは物価を見る限りは疑わしい。果たして物価を上昇させられなかった日銀の異次元緩和は本当に必要であったのか。


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