. 若き知
2019年9月14日「無理矢理なドラギ総裁による包括緩和策は逆効果では」

 9月13日のECB理事会では、ドラギ総裁が「極めて強力なパッケージ」と語った金融緩和策を決定した。

 政策金利の下限金利である中銀預金金利を0.1%引き下げてマイナス0.5%とした。金利階層化を導入し、マイナス金利の深掘りが銀行に及ぼす影響を軽減する。11月から月額200億ユーロの債券買い入れを行うほか、銀行を対象とした長期資金供給オペ(TLTRO)の条件を緩和する。

 声明では、債券買い入れについて「金利政策の緩和効果が発揮されるよう、利上げを開始するまで必要なだけ継続する」と表明。その上で「インフレ期待が2%弱の水準まで確実に近づくまで金利は現在の水準以下にとどまる見通し」と述べた。いわゆるフォワードガイダンスの強化というものである。

 ドラギ総裁は会見で、ユーロ圏経済の脆弱性は一段と長期化しているほか、顕著な下振れリスクの継続や物価圧力の抑制がうかがえると指摘していたが、あくまで予防的なものとなる。

 できることは何でもすると豪語したドラギ総裁の有言実行ということになる。ただし、バイトマン・ドイツ連邦銀行総裁、クノット・オランダ中銀総裁、ホルツマン・オーストリア中銀総裁が直ちに量的緩和(QE)を再開する必要性に疑義を呈していた。

 今回の理事会では、これらに加えにフランス、オーストリア、エストニアなども反対し、複数の理事も反対する大荒れの協議となったとされる。

 ドラギ総裁は会見で、QEを巡り「さまざまな見解がある」ことは認めたものの、「最終的には極めて幅広い合意があったため採決の必要もなかった」と説明した。しかし、これは幅広い反対の意見があったため、議事録等に残る採決を見送ったということになるのではなかろうか。

 ドラギ総裁は10月末に退任する予定で、自らの花道として金融緩和策を決定したともいえる。しかし、過去の中央銀行総裁は引退前に物価の番人としてタカ派的な爪痕を残せるかどうかを自らの花道としていた。たとえばFRBのイエレン議長などが良い例となる。ところがドラギ総裁はあくまで「予防的」として、マイナス金利の深掘りやQEを再開することを決定したのである。

 そもそもそのような非伝統的手段が本当に物価や景気に好影響を与えてきたのか、まだ十分な検証は行われていない。しかし、リバーサルレートを持ち出すまでもなく、金融機関にとって良くない環境が続いていくことも確かである。無理に反対を押し切ってまで、平時にもかかわらず非伝統的金融緩和策を行ったことによる副作用に、後任のラガルドは向き合うことになろう。

 ちなみに今回のECBの包括的な緩和策に対し、市場の反応として、欧州の株式市場は上昇したものの、これは米中の緊張緩和によるところが大きい。面白いのはユーロと国債である。ECBは利下げしたがユーロは結果として買われた。そして、国債についてはQEに反対していた国の国債、つまりドイツやフランス、オランダなど中核国の国債が売られ、ドラギ総裁の出身国のイタリアなど周辺国の国債は買われた。これはどのように解釈すべきであろうか。


2019年9月13日「マイナス金利政策を求めたトランプ大統領」

 トランプ米大統領は11日、FRBが「(政策)金利をゼロかそれ以下に引き下げるべきだ」とツイッターで要求した。大幅利下げに動かないパウエル議長とFRBを「間抜け」とこき下ろした。トランプ氏は、低金利にすれば債務の利払い費を大幅に抑えられるとの持論を展開し、米国は常に最も低い金利であるべきだと投稿したそうである(時事通信)。

 これは日銀やECBなどの欧州諸国の政策金利がマイナスにあるのに、FRBは何度も「利上げ」をしてしまったことで政策金利がプラスにあることを批判したものであろう。

 そもそも米国だけが利上げをできるだけの環境に置かれていたとも言えるし、すでにリーマン・ショックやらギリシャ・ショックやらの非常時対応の必要性はなくなっており、景気そのものも回復基調にある。米国の物価は2%近傍で安定しているようにみえる。そのなかにあって何故、政策金利をマイナスにしなければならないのか。

 金融政策は財政を手助けするためのものではないし、本来助けるべき物ではない。どこの国でも財政ファイナンスは禁じられている。

 たしかに日銀の金融政策は財政を助けているようにみえるが、これは実情に合った本来の金融政策ではなく異端の政策を政権に押しつけられた結果ともいえる。これにより身動きが取れなくなり、FRBのような正常化に向けた出口戦略が取りづらくなった。

 欧州については景気減速が明らかになっていたことに加え、英国のEU離脱問題やイタリアの政局不安を抱え、こちらは正常化に向けた動きを阻害された。それよりもドラギ総裁自身が正常化に向けた動きにあきらかに慎重となっていたこともあろう。

 いまさらあの米国大統領のツイートに反論しても意味はないかもしれないが、財政を助け、株価をつり上げ、ドル安に誘導するのがFRBの仕事ではない。むしろ、そういった政治の動きから離れて、ファンダメンタルズに即した金融調節を行うのが中央銀行の使命となる。それも理解はしていないというか、理解する気もトランプ氏はなさそうである。


2019年9月12日「米欧の長期金利が反転上昇の兆し?」

 ここにきて欧米の長期金利が反転上昇してきている。欧州の国債利回りは過去最低を更新し、米10年債利回りも9月3日に一時1.42%まで低下し、過去最低の1.31%に接近後に反転上昇している。日本の10年債利回りも9月4日にマイナス0.295%まで低下して、2016年7月8日につけた過去最低のマイナス0.300%に迫った。大阪取引所に上場している債券先物も3日のナイトセッションで155円40銭をつけて過去最高値をつけていた。その後、長期金利は上昇し、債券先物は下落基調となった。

 日米欧の長期金利がボトムアウトしたとまだ結論づけることはできないが、欧米の長期金利がひとつの節目に差し掛かったところでの反転だけに、その可能性もありうる。

 どうやら今回のこの異常なまでの世界的な長期金利の低下には人為的な動きがあったようにも思われる。人為的というよりもコンピュータ的といっても良いかもしれない。昨年10月以来、ほぼ一方的に日米欧の長期金利は低下していた。これは金(ゴールド)の価格においても同様に、こちらは一方的に上昇していた。

 これらはリスク回避や中央銀行の追加緩和観測によるものとの見方もあり、それも当然ながらあったと思うが、それ以上にアルゴなどによるシステム的な動きが入っていた可能性もある。いわゆる仕掛け的な動きである。

 株式市場やリスク回避で動きやすい円が金利に連動していなかったことからも、それは窺える。すでにマイナス金利となっている日本や欧州では、債券を運用者にとって通常はマイナス金利では手は出しにくい。それにも関わらず、マイナス金利を深掘りしていたのは、短期的なさや取りの動きとの見方もできよう。

 仕掛け的な動きであれば、その反動も大きくなる可能性がある。英国の同意なき離脱が回避されるとの見方が強まり、米中の通商交渉の再開の見通しなどもきっかけに、長期金利は反発してきた。9日から10日にかけての欧米の長期金利は大きく上昇してきている。

 確かに今後の世界的な景気減速への懸念はあり、米中が急速に仲良くなったり、無事に英国がEUを離脱できたりする可能性は低いと言わざるを得ない。それでも足元のファンダメンタルズと金利の居所に整合性はなく、長期金利の低下が行き過ぎているとの判断も可能である。その調整が入ってもおかしくはない。ここからの日米欧の長期金利の動きにも注意する必要がある。


2019年9月11日「株や為替の動きと金利の動きが連携していないのは何故なのか」

 ここにきての市場の動きをみると、リスク回避の巻き戻しが起きているようにみえるが果たしてそうなのか。

 昨年10月あたりからの市場の動きをこると世界の金融市場はリスク回避の動きを強めていたようにみえる。昨年10月はじめ、日経平均はバブル後の最高値を更新していた。そして、米国の10年債利回りは3.23%まで上昇し、2011年5月以来の水準に上昇した。そのあたりから、雲行きが怪しくなってきた。

 この際に米長期金利の上昇が嫌気されて米株が下落との見方もあったが、その後の米長期金利は低下の一途を辿る。またダウ平均なども一時調整局面入りしており、金利低下と株安、さらにはこのあたりから金の価格も上昇しはじめており、これはリスク回避の動きと解釈された。

 この時期あたりから、米国と中国との関係悪化による影響が表面化しつつあり、これが金融市場でのリスク回避の動きを促したようにみえる。または見方を変えると、リスク回避というシナリオを基に、株売り、債券買いなどを仕掛けていた向きもあったのかもしれない。

 そのトレンドは2019年に入っても継続し、金利は一方的に低下基調となり、金は上昇していた。ただし、米国の株価はしっかりしており、東京株式市場も下落トレンドとはなっていなかった。また、リスク回避から条件反射的に円が買われることが多いが、一方的な円高ともなってはいない。

 金利と株と為替の動きが意外にちぐはぐとなっていたのである。金利については、FRBが正常化を停止し、その後予防的な利下げを行うなどしたことで、長期金利には低下圧力が掛かったとの解釈もできるが、それにしても欧州の国債利回りの低下が甚だしい。欧州の景気減速、物価の低迷が意識されたとしても、マイナス金利がさらに深掘りされるほどのファンダメンタルズの悪化となっていたわけではない。

 むしろ米国の経済が意外にしっかりしている面もあって、米国の株価が大きく下落していないともいえる。それが東京株式市場なども底堅くさせている。

 日本を含め、日米欧の長期金利の低下の背景にはいったい何かあるのか。金の価格上昇と比べれば、リスク回避といえるかもしれないが、株や為替の動きをみるとそう結論づけるわけにもいかなくなる。

 どちらの動きが正しいとか、そもそもそれぞれの要因で動いているので、無理矢理結びつけるなとの意見もあるかもしれない。しかし、ここまでのちぐはぐさは気になるところ。この背景のひとつにアルゴと呼ばれるシステムトレードが特に長期金利の低下に働きかけていたとの見方がある。

 世界的な長期金利の動きからみれば、中央銀行はそれに追随するかのような緩和策を取ってもおかしくはないようにみえる。しかし、本当に追加緩和は必要なのか。政治的な圧力、もしくは雰囲気に飲まれての緩和準備をしてはいまいか。

 ECBについても、どうもドラギ総裁が前傾姿勢過ぎる面もありそうで、ここにきてECBの追加緩和に対しても過剰な予想は後退しつつある。FRBも含めて、もう少し市場の動向やファンダメンタルズの動向を再確認した上で、金融政策は判断すべきではなかろうか。これは日銀にも当然ながら言えることである。


2019年9月10日「市場に促される中央銀行の金融政策で良いのか」

 FRBのパウエル議長は6日、スイス・チューリヒで行われた討論会で、米景気の基調は良好で「景気後退は予想しない」との見方を示しながら、「貿易問題の不確実性などがビジネスの重しになっている」との認識を示した。「世界的な景気減速や貿易政策を巡る不確実性、持続的な低インフレなどを含む大きなリスクは存在するため、それらを注視していく」とし、「我々は経済成長を持続するため適切に行動するだろう」と主張した。そのリスクに対処するための利下げを示唆したと受け止められた。

 9月17、18日のFOMCを控え、いわゆるブラックアウト期間前での最後のFRBの公式見解となることで、あえて利下げを示唆し、すでに0.25%の利下げを完全に織り込んでいる市場の動きを追認したような格好となった。

 米中の通商交渉の行方や英国のEU離脱の動きなど睨んで、市場ではリスクオフやリスクオンによる動きが代わる代わる起きている。通常であれば、米国市場に大きな影響を与えるはずの6日に発表された9月の雇用統計にもほとんど無反応となっていた。雇用統計については非農業雇用者数は前月比13万人増と予想を下回るが、平均時給の前年同月比の伸び率は市場予想を上回ったことで相殺された格好ながら、市場の反応度の低下も大きかったとみられる。これによりFRBの0.25%の利下げに向けた動きには影響なしとの見方もあったのかもしれない。

 18日のFOMCでは利下げが検討されるとみられるが。どれだけ反対票が入るのかも注目したい。市場に促される格好で利下げを検討する格好ながらも、米景気に対してそれほど悲観的な見方が強まっているわけではない。トランプ政権からの圧力回避も意識されているかもしれないが、政治に屈すると金融政策がわけがわからなくなるという事例もどこかに存在している気がする。

 FOMCの前、12日にはECB理事会が開催される。こちらでも市場からの緩和催促を受けた格好で金融緩和策が検討されるとみられる。ただし、量的緩和に対しては中核国を中心にすでに反対の声が出ており、利下げが検討されるのではないか。しかし、さらなるマイナス金利の深掘りは金融機関の弱体化などを通じた副作用も意識される。これは日銀も同様である。それでもドラギ総裁は緩和策を取りたいようであるが、それが果たして市場を通じてどのような効果をもたらすのか(金融政策は市場を通じて行われる)。市場安泰のための金融政策ではないと思うのだが。


2019年9月9日「量の面では正常化が進む日銀の金融政策」

 8月30日に日銀による国債買入において、残存5年超10年以下の国債買入を前回から500億円減額した。減額はあっても200億円か300億円との見方が強かったが、500億円という金額はサプライズであった。

 さらに9月2日の国債買入では、残存10年超25年以下のオファー額を前回の1400億円と前回の1600億円から200億円減額させてきた。

 日銀が2営業日連続で国債買入額を減少させてきた。これも債券市場ではサプライズとなった。しかし、市場参加者は比較的冷静に反応していた。日銀による国債買入額の減少は、ここにきての世界的な長期金利の低下にともなう国内の金利低下にブレーキを掛けようとしたと捉えられた。

 29日に10年債利回りはマイナス0.290%まで低下し、過去最低利回りとなるマイナス0.3%に迫った。ここからさらに低下を許せば、日銀は長期金利の操作レンジを拡大してきたと捉えられかねない。そこで利回り低下にブレーキをかけるため、日銀は国債買入を減額したとの見方ができる。

 今年度の国債発行額は昨年度に比べて減額されているため、日銀としてはどこかしらのタイミングで減額したい意向であったとみられる。これは国債の需給バランスというか、少しでも市場で流通する残高も残したいとの意向もあったとみられる。そうでないと国債需給にさらなる歪みが生じかねない。

 日銀による国債買入の減額は金融緩和の後退とみられるリスクもあった。しかし、すでに日銀の金融政策の目標は量から金利に移行している。次第に国債買入の微調整に対して市場は反応が薄れつつあった。

 今回の国債買入の減額により、2020年度の日銀による国債買入はこのペースで行われ、さらに国債の償還等も含めると前年度比の日銀保有の国債は10兆円程度の増加に止まる可能性がある。ETFなどの購入規模はいまのところ変更はないが、最も大きな国債買入についてはある意味、正常化が進んでいるともいえる。

 9月のFOMCでの利下げ、ECBでの追加緩和の可能性があるため、為替市場への影響、そして10月からの消費増税による景気への影響も意識しての予防的措置として、日銀も何らかの追加緩和に動くとみられている。

 それでも、あくまで動かすのは金利となろう。政策金利のマイナス幅を0.1%程度深掘りしてくることも予想される。それによる金融機関への悪影響を避けるために、なるべく負担の掛からないかたちで行われると予想される。いわば消費増税に対する軽減税率のようなものを加えるのではなかろうか。


2019年9月7日「日銀化しているECB」

 ECBのドラギ総裁は7月の理事会後の会見で、利下げと資産買い入れ策再開の可能性を示唆していた。

 これに対して、これまで沈黙を保ってきたフランス銀行のビルロワドガロー総裁が債券購入再開に懐疑的な見方を示唆した。仏誌ラジェフィとのインタビューでビルロワドガロー総裁は、ECBが既に蓄積した資産は「高水準」にあり、長期債利回りを大幅に押し下げているとの認識を示した。

 すでにバイトマン・ドイツ連邦銀行総裁、クノット・オランダ中銀総裁、ホルツマン・オーストリア中銀総裁が直ちに量的緩和(QE)を再開する必要性に疑義を呈していた。中核国を中心に資産買い入れ策再開に対して疑問の声が出されていたのである。

 ドラギ総裁にとり、退任まであと2回の理事会を残すのみとなっている。積極的な金融緩和政策により欧州の信用危機を脱することに成功したとの自負もあるとみられ、今回の世界的なリスク回避の動きに対処しようとしているが、それに待ったが掛けられている。

 ドラギ総裁は2012年に「何でもやる」と言っていたが、現実問題として「資産買い入れ」による効果は現在では薄れている。欧州の信用危機によりギリシャやスペイン、ポルトガルそしてイタリアなどの国債が大きく売られているときならば、中央銀行の買入によって市場の不安感をある程度取り除けるであろうが、いまはイタリアの長期金利が過去最低を更新している状況にあり、ここで国債を買い込んでも中央銀行の保有資産がただ増えるだけとなりかねない。

 これについては日銀も同様であり、黒田総裁はいくらでも手段はあると言っているが、長期金利が過去最低水準近くまで低下し、日銀はこつこつと「量」に対しては調整を図っているなか、ここであらためて国債買入の量を増やしてもほとんど市場への効果はない。市場がそれで安心するどころか、余計なことはやってくれるなということになろう。

 これは欧州も同様であると思われる。そして日銀と同様にマイナス金利政策まで導入してしまっているなか、ここで政策金利のマイナスを深掘りしても、その効果もないどころか、副作用が大きくなり、景気に対してマイナスとなる懸念すらありうる。このため、ベストな手段としては動かないことであると思われる。


2019年9月6日「日本の長期金利が過去最低に接近」

 4日に10年国債の利回りがマイナス0.295%まで低下し、2016年7月8日につけた過去最低のマイナス0.300%に迫った。

 2016年7月6日に10年債利回りが過去最低を記録しただけでなく、20年国債の利回りが初めてのマイナスとなっていた。この金利の低下は日本だけの現象ではなかった。6日の米国債券市場で米10年債利回りは一時1.31%をつけ過去最低を更新し、30年国債の利回りも過去最低を更新していた。ドイツの10年債利回りはマイナス0.2%台をつけ、スイスの50年債利回りが初のマイナスとなっていた。英国の10年債利回りも過去最低を更新していた。

 2016年に入って、原油安とその要因でもあった中国経済の減速に巻き込まれ、英国のEU離脱も加わり、リスク回避の動きから日米欧の長期金利は低下した。日欧の長期金利がマイナス圏へと落ちるなか、信用度が高い上、金利がついている米国債の魅力が高まり、それが結果として米国の長期金利までもが1.31%をつけて過去最低を更新するという事態となっていた。

 今回、日本の10年債利回り(長期金利)が過去最低に迫ったのも2016年と似た状況にある。当日の日本の消費者物価指数がマイナスとなっていたことで物価の低迷も当時は多少なり意識されていたかもしれないが、今回はリスク回避の面が大きい。

 いうまでもなく、今回は米中の関税合戦による世界経済への影響とともに超大国同士の対立姿勢が危機感を強めた。英国のEU離脱問題は2016年に発生したが、いまだに解決の糸口は見つからない。香港のデモは収束するのかどうか不透明感も強い。

 2016年7月頃の状況を確認すると、当時の米国大統領はトランプ氏ではなかったこともあり、FRBに対して過度の利下げ圧力などはなく、この年の12月のFOMCでは利下げではなく利上げを決定している。

 日銀は2016年9月に長短金利操作付き量的・質的金融緩和を決定しているが、これは追加緩和というよりもマイナス金利政策への批判をかわす政策ともいえるものであった。

 今回についてはトランプ大統領がFRBに利下げを求め、ECBも何らかの追加緩和を模索するなどしているようだが、予防的という表現が使われるようにファンダメンタルズの悪化を受けてのものとはいえない。

 日米欧の今回の長期金利の低下の背景に中央銀行の緩和期待がまったくないとはいえないものの、金利低下を促しているのは追加緩和期待ではなく2016年7月と同様にリスク回避の動きと捉えざるを得ない。そうであれば日銀による追加緩和などは必要ない。


2019年9月5日「ジョンソン首相に対して英国議会の逆襲、しかし問題の先送りに過ぎない」

 英議会下院は3日、欧州連合(EU)からの「合意なき離脱」を防ぐために離脱延期を政府に義務付ける法案の審議に入る動議を、野党などの賛成多数で可決した。動議には与党・保守党から約20人が造反して賛成に回った(日経新聞電子版)。

 これに先立ち、与党・保守党のフィリップ・リー議員がジョンソン氏の発言中、下院の議場を移動し、親欧州派の自由民主党の席に座った。つまり同党を離党して野党に移籍したことで、すでに与党・保守党は過半数を失っていた。

 この法案は4日にも下院で採決される。ジョンソン首相は動議の成立後、同法案が下院を通過すれば国民の信を問う解散総選挙の前倒しを提案する考えを示した。10月14日にも総選挙が実施される可能性が出てきた。ただし、選挙の前倒し実施には法律で下院の3分の2以上の同意が必要となるため、ジョンソン首相の意向どおりにはさせまいと、総選挙そのものを回避することも予想された。反ジョンソン派はとりあえず離脱日を10月末から2020年1月末に延ばすことを優先してくる可能性があった。

 実際に英議会下院はEUからの合意なき離脱を阻止する離脱延期法案を賛成多数で可決し、法案は上院に送られて成立する可能性が高くなった。そジョンソン首相は来月、総選挙を実施する動議を議会に提出したが、これは否決されたのである。

 米国と中国の通商交渉の行方についても、両国ともに交渉はしても妥協しない姿勢をさらに強めており、解決の糸口は見つからない。英国のEU離脱についても、アイルランドの国境問題などが解決する見込みもないなか、離脱を先延ばしするか合意なき離脱かという選択肢で争っている状況にある。

 9月に入り、FRBやECB、さらには日銀に対して追加緩和期待も強まっているが、少なくとも米中の通商問題や英国のEU離脱問題が解消されない限りは、先行きの不透明が強まり、リスク回避の動きが出やすくなる。

 このような不安が渦巻くなかにあって、中央銀行が追加緩和を行っても一時的な影響しか出ないことが予想される。中央銀行にとって、このような最中に貴重な緩和カードを切ってしまって良いものか。緩和の前に政治上の不安を解消させることを優先する必要があることを強調しても良いのではなかろうか。金融緩和だけでは何ら問題解決にはならない。


2019年9月4日「攻める日銀?」

 日銀は2日の国債買入にて、残存10年超25年以下のオファー額を前回の1400億円と前回の1600億円から200億円減額させてきた。残存25年超は400億円とこちらの買入予定額は前回から据え置かれた。

 先週30日の国債買入では、残存5年超10年以下の国債買入を前回から500億円減額した。減額はあっても200億円か300億円との見方が強かったが、500億円という金額はサプライズであった。同日夕方に発表された9月の国債買入予定でも、それが反映されたものとなった。しかし、超長期ゾーンの買入レンジ等は据え置かれていた。このため、長期ゾーンの大幅減額があったので、当面の国債買入は現状維持かと思っていたが、さらなる減額を連続して行ってきた。

 ここにきての金利低下を睨んで、まさに日銀は攻めてきているようにみえる。30日の長期ゾーンの国債買入減額も、2日の超長期ゾーンの減額も、債券先物は多少動いたものの、ドル円や日経平均に動揺はみられないどころか、ほとんど無視された格好となった。

 相場をみているとわかるが、市場はその時々で注目するものが変化する。材料に対する感応度の変化を体感できないと、少なくとも短期的なトレーディングはできない。日銀の国債買入に対する外為市場や株式市場の感応度はここにきて極度に低下しているといえる。再び日銀の金融政策への注目度が上がれば、反応は違ってくるかも知れないが、少なくとも日銀の金融政策の量に対しては以前に比べて関心は失われている。

 現在の日銀の金融政策の政策目標はマネタリーベースとか当座預金残高といった量ではない。短期金利と長期金利という金利となっている。このため、政策の変化はこの金利の動きが注目されている。

 それでも日銀はいまだに「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という看板と「(長期国債の)買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ」という表現は据え置いている。しかし、このペースだと来年の保有残高の増加額は80兆円に満たないどころか、このままのペースでは10兆円以下になる可能性がある。

 日銀は少なくとも量については非常時の対応から平時の対応に戻してきているといえる。あとはETFなどの買入もタイミングを見て削減したいところではあるが、こちらのタイミングは難しい。さらにオーバーシュート型コミットメントについても修正を加え、いずれマイナス金利そのものも修正すべきではあるが、こちらがあってこその量の調整が可能との見方もあるかもしれない。兼ね合いが難しいところでもある。


2019年9月3日「イタリアの政局の先行き不透明感は拭えない」

 イタリアの新興ポピュリズム政党「五つ星運動」と中道左派の「民主党」は28日、連立政権を樹立し、今月20日に辞表を提出したコンテ首相を再び首相に擁立することで合意した。マッタレッラ大統領は29日、コンテ氏を次期首相候補に指名し、両党を中心にした新内閣発足に向けた組閣作業を指示した(読売新聞)。

 イタリアのコンテ首相は20日に辞意を表明した。連立政権をつくる極右「同盟」と左派「五つ星運動」の対立が激化し、同盟が内閣不信任案を提出したことで政権運営は困難と判断したためである。

 コンテ首相の辞表を受け取ったマッタレッラ大統領は、新たな連立に向けた協議を開始すると述べた。議会の解散権を持っているのは大統領で、各党との協議が円滑に進まない場合、解散して総選挙を実施する可能性があった。

 今回、五つ星運動と民主党が連立政権を樹立することにより、ひとまず解散総選挙という事態は免れる可能性が出ていた。

 とはいえ、長年政権与党を担ってきた民主党と既存政党への不満層を支持基盤に勢力を拡大してきた五つ星はある意味、水と油ともいえることで課題も多い。

 イタリア左派「五つ星運動」のディマイオ党首は30日、中道左派の民主党との連立について、一連の政策課題で一致することが条件になると述べ、連立交渉で妥協しない考えを示唆した(ロイター)。

 イタリアの10年債利回りはECBの追加緩和観測に加え、リスク回避による世界的な長期金利の低下を受けて低下基調となっていた。新政権発足に向けた協議が進展し、総選挙のリスクが後退したこともフォローとなり、まだプラスの利回りとなっているイタリアの10年債利回りは1%割れとなり、過去最低を更新した。

 イタリアの政局の先行き不透明感は拭えない。いずれ解散総選挙という可能性もないとはいえないものの、イタリア発のあらたな世界的なリスクが生じる可能性はいまのところ大きくはない。このため、米中の貿易戦争によるリスク回避の動きなどによる影響のほうが当面大きくなることが予想され、利回りを求めてのイタリア国債への買いは続く可能性が高いとみられる。


2019年9月2日「タイムリーな日銀による長期ゾーン買入の減額」

 日銀は30日の国債買入において、残存期間5年超10年以下のオファーを前回23日の4500億円から今回は4000億円と500億円減額してきた。

 残存期間1年超3年以下は4000億円、残存期間3年超5年以下は3600億円とこちらはそれぞれ23日のオファー額と変わらずとなった。

 30日は当日夕方に「当面の長期国債等の買入れの運営について」を発表する。これは来月の日銀による国債買入のスケジュールとなるわけだが、このタイミングに合わせての減額ともいえる。

 すでに日銀の金融政策の政策目標は量から金利に戻している。量の調整については需給バランスに加え、相場の動向などを睨んで、日銀の金融市場局の判断で行っている。

 今回の減額については、国債発行を睨んでの調整ともみられ、需給面が配慮されたものと思われる。それに加え、米中の関税合戦や英国の合意なきEU離脱への懸念などから、リスク回避の動きが強まり、世界的な金利低下も意識されてのものとみられる。

 29日に10年債利回りはマイナス0.290%まで低下し、マイナス0.3%に迫った。ここでいったんブレーキを掛けようとの意図もあったのではなかろうか。今回の減額が300億円ではなく500億円と比較的多かったことからもそれが窺える。

 加えて、ここにきてのリスク回避の動きのなかで、それほど円高圧力が強まらなかったことも、今回の大幅な減額を可能にさせたともいえる。

 日銀とすればできるうちに長期や超長期の国債買入額を調整したいところとみられ、誘導ではないものの、できれば10年債利回りのマイナス幅の深掘りは避けたいとみられる。その意味でも今回のそれなりの額の減額はタイムリーであったように思われる。

 この日の夕方に発表された「当面の長期国債等の買入れの運営について」では、今回の減額が反映されて、残存期間5年超10年以下のオファーのレンジが8月の「3000〜6500程度」から9月は「2500〜5500程度」に減額された。回数は4回と変化なし。これをみても当面は一回あたり4000億円の買入となるものと予想される。


2019年9月1日「世界の金利が水没、今後はどうなる」

 ある著名なストラテジストが「いずれマイナス金利が普通になって、金利がプラスになっていた時代があったのかとなるかもしれません」と、ある場所での挨拶で述べられていた。

 「世界情勢においても、環境問題においても、背の中の変化が加速していて、体感としてはどうもおかしな方向に変わっている。そう感じている方は少なくないような気がします。ただ、それを止めなかったのも僕たちです。今の世界は僕たち自身が選択したものです」

 これは日本のある映画監督の自分の作品に対するコメントである。ネタバレともなりかねないので、映画の題名はひとまず伏せさせていただくが、その映画を見た方はこれがどういう状況を示しているのかはおわかりであろう。

 確かにいまの気候、ではなく、金利環境は異常としか言いようがない。経済や物価の状況が悪化しているわけではないのに、その不安から、たとえば欧州の国債の利回りはドイツなどが過去最低を更新している。

 米国では2年債と10年債の利回りが逆転するいわゆる逆イールドが形成されている。これは景気後退の前兆として意識されているようであるが、それだけ長い金利に低下圧力がかかっているといえる。

 日本でも債券先物は過去最高値を更新し、10年債利回りは過去最低に接近、20年債利回りがマイナスとなる可能性も出てきた。

 繰り返すが、経済環境からはこんな低い利回りとは整合性はない。それがどうして生じてしまったのか。

 リーマン・ショックや欧州の信用不安といった世界的な金融経済危機を迎えた結果、日米欧の中央銀行は、かつてない金融緩和策を実施した。日本ではそのリスクが後退しつつあるなかで異次元緩和が登場した。

 結果として市場や為政者は中央銀行の金融緩和策への依存度を強め、正常化に向かったFRBも途中で正常化にブレーキを掛けざるを得なくなった。正常化に向きを変えようとしていたECBもそれをストップ。日銀は正常化には見せないものの、量などでは調整を行っていたが、金利そのものはマイナスに放置せざるを得なかった。

 その結果、世界の長期金利が戻りきれないなかにあって、米中の貿易戦争などが起きてリスク回避の動きを強め、その結果、世界の金利が水没した。こんな異常な状況はいずれ解消されるはずと思っていたが、むしろ状況は悪化するばかり。中央銀行の金融緩和の依存度を強めさせたのはある意味、我々の責任でもあったのかもしれない。これが今後どのような結果を生むのか、いまは想像すらできない。


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