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日銀が現状維持を決めた翌日である10月31日、片山さつき財務相は円安進行について「足元でかなり一方的、急激な動きがみられる」と指摘すると同時に、日銀の判断に関しては「現在の諸般の状況を鑑みれば、極めてリーズナブルな決定だ」と評価した。
これに対して、ベッセント米財務長官は「政府が日銀に政策運営の裁量を認める意思が、インフレ期待を安定させ、為替相場の過度な変動を防ぐ上で鍵となる」と、X(旧ツイッター)に投稿し、これが日銀の利上げを改めて促したと受け止められた。
ここにきて外国為替市場では円安が加速しており、円の対ドル相場は過去1か月間の下落率が5%に近づきつつある。
円安ドル高の大きな要因として、日米の金融政策のスタンスの違いがある。
日銀は利上げをすべきタイミングで、利上げを躊躇した。10月の決定会合に向けて利上げの準備は整っていたはずである。
田村審議委員と高田審議委員が10月の会合でも0.75%への利上げを求めて、現状維持に反対票を投じた。
ここに執行部の総裁と副総裁2人が加われば、5名となり過半数で利上げを決定できる。当然ながら執行部が動けば他の審議委員のほとんども利上げ賛成に回ることも想定される。
それなのにどうして利上げを躊躇するのか。これは新政権とのコミュニケーション不足も影響していた可能性がある。
以前の高市氏の発言や、ここにきての片山財務相の発言などから、このタイミングで利上げを行うと新政権との摩擦も生じかねないとみたのだろうか。
これに対してFRBは28日、29日のFOMCで0.25%の利下げを決定したものの、パウエル議長は「不確実性が非常に高い状況下では、今後の動きについて慎重な姿勢が求められる」と述べ、十分なデータがないなかで利下げを続けることに対して、ためらいを見せた。
これが今回の円安ドル高の要因ではあるが、FRBはトランプ政権の意向を無視しても、利下げをここで停止する可能性がある。
これに対し、日本では物価が2%を超えて上昇するなか、政策金利は0.5%に止まる。新政権の課題のひとつが物価対策ながら、最も効果的な対応の利上げについては極めてリーズナブルとはみていないようだ。
円安にブレーキを掛けたいのであれば、新政権は日銀の利上げというか正常化を促すべきではなかろうか。
3%近い物価上昇となっているなかにあり、少なくとも政策金利を1%超えまで早期に引き上げるべきであろう。
政策金利を物価に合わせた必要水準に引き上げたあとであれば追加利上げに慎重になることは理解できる。
しかし、そこにも達していないのに躊躇する必要はない。日銀は少し時間を掛けすぎていると思う。
11月に募集される(募集期間11月7日から28日)個人向け国債の3年固定、5年固定、10年変動の利子が発表された。
固定3年の利率は0.99%(税込み)と前回10月募集の1.08%から低下した。10月募集の1.08%は2010年7月の発行開始以来、最も高い水準を更新していたが、今回は1%割れに。
固定5年の利率は1.19%(税込み)と前回10月募集の1.22%(税込み)から低下した。
10年変動利付の利率が1.10%と前回10月募集の1.08%(税込み)から上昇し、2006年7月の1.10%以来の高い水準となった。
ここにきて個人向け国債の利率が上昇してきたのは、日銀が金融政策の正常化に乗り出し、政策金利を引き上げ、それとともに国債利回りも上昇してきたことによる。
10月の日銀の金融政策決定会合での利上げ観測が一時強まっていたが、高市政権の発足もあって10月30日の利上げは見送られた。
これもあって3年固定と5年固定の利率が前回から低下した。
しかし、高市政権は「責任ある積極財政」を掲げており、財政拡大への懸念から超長期債には利回りの上昇圧力が強まり、それが10年国債の利回りにも波及した。
その結果、10年国定の初期利子は前回よりも引く上げられた。
消費者物価指数は2%を超える状態が続き、実質金利はマイナスの状態となるなか、日銀の利上げは継続すると予想されており、政策金利をどこかのタイミングで0.75%に引き上げると予想されている。
高市氏は昨年、「金利をいま上げるのはアホやと思う」と発言していただけに、日銀の早期利上げ観測が急速に後退したと認識された。
ただし物価対策を掲げる高市政権にとって、財政政策による物価の影響を抑えようとする政策はむしろ物価上昇要因となりかねない。また円安を抑える意味でも日銀による金融政策の正常化は必須となろう。
今回も個人向け国債は購入のタイミングとしては面白いのではないかと思う。
個人向け国債には1年経てば財務省が額面で買い取るなど国債にもかかわらず流動性リスクや価格変動リスクがない。
その分、一般の国債に比べて金利はやや抑えられるが、さすがに1%近辺となれば、個人投資家の食指も動いてくるのではなかろうか。
今後も金利は上がり続けると予想しており、今回は10年変動をお薦めしたい。
10月のADP全米雇用リポートで非農業雇用者数(政府部門除く)が予想を上回った。また、10月ISM非製造業景況指数は52.4と予想を上回り、2月以来の高水準となった。
5日の米国株式市場では米経済の底堅さを示す指標を好感したことに加え、半導体のアドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)が売り先行後に上昇に転汁など、ハイテク株も持ち直したことから、ダウ平均は反発し225ドル高、ナスダックは151ポイント高となった。
これを受けて6日の東京株式市場も反発となり、日経平均は1000円を超す上昇となった。
日経平均は10月に月間で7478円高と歴史的な上昇となった。この背景には米国株式市場の上昇があった。
ただし、11月に入りさすがにブレーキが掛かり、上値が重くなっていた。
そんなところに、大手金融機関の首脳陣の発言をきっかけに4日の米国株式市場が下落したことで、5日の東京株式市場は大きく下落した。
ゴールドマン・サックスのデービッド・ソロモンCEOは「テック株のバリュエーションが高い。今後12〜24か月の間に株式市場は10〜20%下落する可能性が高い」とコメントした。
米モルガン・スタンレーのテッド・ピックCEOも、マクロ経済上の衝撃で市場全体に売りが広がる「マクロの崖」のような要因に起因しない10〜15%の調整の可能性は歓迎すべきだと述べた。
2008年の金融危機前に住宅市場の崩壊に賭けた「世紀の空売り」で有名になったマイケル・バーリ氏が率いるヘッジファンド会社サイオン・アセット・マネジメントが、エヌビディアとパランティアの株価下落で利益を得られるプットオプションを購入していたことも明らかとなった。
5日の日経平均は一時、2300円を超す下げとなった。ただし、売り一巡後は押し目買いも入り、日経平均の引けは1284円安の50212円となった。
ローソク足の日足チャートでは大きな下ひげが出来た格好となり、チャートが崩れた格好とはならなかった。
実際に5日の米国株式市場が反発していたことで、6日の東京株式市場は、ほぼ前日の下げ分を帳消しするかのような動きとなっていた。
だからといって、今回の調整が一時的かどうかはわからない。
大手金融機関の首脳陣などに言われるまでもなく、やや相場に過熱感があることも確かではなかろうか。
特に日経平均はソフトバンクグループ、アドバンテスト、東京エレクトロンの3銘柄で指数を大きく押し上げたり、押し下げたりしており、かなり歪な格好ともなっている。
ある程度のガス抜きも必要と思われるため、一時的な調整はむしろ必要なのかもしれない。
5日の東京株式市場では日経平均株価が急落し、下げ幅は一時1500円を超え、5万円を割り込んだ(10時過ぎ現在)。この要因に4日の米株の下落があり、それはウォール街の著名な経営者や投資家による警告が大きな要因となっていた。
4日の米国株式市場ではここにきての相場の過熱感や高値警戒感が意識されやすいなか、大手金融機関の首脳陣の発言も市場心理の重荷となり、ハイテク株を中心に売りが広がった。ダウ平均は続落し251ドル安、ナスダックは486ポイント安となった。
大手金融機関の首脳陣の発言とされるのは、ひとつは米ゴールドマン・サックスのデービッド・ソロモン最高経営責任者(CEO)は4日の発言となる。
デービッド・ソロモン氏は「テック株のバリュエーションが高い。今後12〜24か月の間に株式市場は10〜20%下落する可能性が高い」とコメントした。
米モルガン・スタンレーのテッド・ピックCEOも、マクロ経済上の衝撃で市場全体に売りが広がる「マクロの崖」のような要因に起因しない10〜15%の調整の可能性は歓迎すべきだと述べた。
2008年の金融危機前に住宅市場の崩壊に賭けた「世紀の空売り」で有名になったマイケル・バーリ氏が率いるヘッジファンド会社サイオン・アセット・マネジメントが、エヌビディアとパランティアの株価下落で利益を得られるプットオプションを購入していたことが明らかとなった。
JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン(CEO)も先月、向こう半年から2年の間に大きな調整が入る可能性が高まっていると警告していた。
ここにきてのハイテク株を中心とした米国株式市場の上げ方を見る限り、こういった懸念が強まるのは当然のことかと思う。
これは当然ながら、ソフトバンクやアドバンテスト、東京エレクトロンなどを主体に相場が上昇していた東京株式市場も同様であろう。
ただし、相場がいつ本格調整を迎えるのかは予測することは難しい。とはいえ、そろそろいったんピークアウトしてくる可能性もあるのかもしれない。
ここにきて新聞の社説で日銀の金融政策に関するものがいくつか出ていた。
10月30日の日本経済新聞の社説のタイトルは、「物価高の抑制は日銀の役割だ」となっていた。
「新政権と日銀が協調するうえでは、焦点である物価高への対応で日銀が大きな役割を担う点を確認すべきだろう。日銀も、適切なタイミングでの利上げへの理解を得るよう努力してほしい」
10月31日の東京新聞の社説のタイトルは、「日銀の金融政策 物価を守る気迫足りぬ」。
「物価高に苦しむ国民の姿を見れば、円安に歯止めをかけて輸入物価を抑制し、物価全体を押し下げる効果が見込める利上げの実施は当然の判断だったはずだ」
10月31日の信濃毎日新聞の社説のタイトルは「日銀の金融政策独立性損なわずに判断を」。
「かじ取りが一段と難しさを増す中でも、時機を見誤らず適切な政策を取ることが求められる」
11月2日の読売新聞の社説のタイトルは、「日銀と高市内閣 円安にも配慮した金融政策を」。
「高市政権の最大の課題は物価高だ。デフレからの完全脱却を目指したアベノミクスとは処方箋が異なる。その前提で、政府・日銀は政策を進める必要があろう」
11月3日の中国新聞の社説のタイトルは「日銀と高市政権 適切な距離感が重要だ」。
「日本の目下の課題は物価高だ。利上げなくしては、さらに物価高が進むリスクが大きい」
11月4日の朝日新聞の社説のタイトルは「高市政権と日銀 物価安定へ独立尊重を」。
「日銀は昨春に大規模緩和を終え、その後、政策金利を0・5%まで引き上げた。それでも2%を超える消費者物価を考えれば、政策金利は極めて緩和的な水準だ。これを徐々に引き上げていくことは理にかなう。車を停止線で止めるのに、前もってブレーキの加減が要るのと同じだ」
あきらかにメディアの論調に変化というか、日銀の今回の対応に疑問を呈するような見方が強まってきたようにもみうけられる。
10月29、30日の金融政策決定会合では、日銀は利上げを見送った。利上げの準備を淡々と行っていたようにもみえたが、結果として見送る結果となった。
ただし、これを続けているとさらに円安が加速するなど物価の上昇圧力が強まる懸念も当然ある。
2%を超す物価上昇に対しての政策金利の0.5%はあまりに低すぎる。
物価の番人である日銀は淡々と利上げを継続し、物価に応じた金利形成が行われる状況を作る義務もあるのではないかと思う。
10月9日にトランプ米大統領は中国に対し既存の税率に100%の追加関税を上乗せすると投稿。米国による対中関税の大幅な引き上げとそれに伴う両国の関係悪化が懸念され、リスク回避の買いから、米10年債利回りは4.03%と前営業日の4.14%から低下した。
ベッセント米財務長官は13日朝の米FOXビジネスのインタビューで調整中の米中首脳会談が予定通り行われるとの認識を示し、米中対立が激しくなることへの懸念が和らいだ。
米政府機関の一部閉鎖も尽くなか、14日、15日の米10年債利回りは4.03%と変わらずとなっていた。
16日にはザイオンズ・バンコーポレーションとウエスタン・アライアンス・バンコープの米地銀の2行が融資に関する不正行為を巡って訴訟を起こしていたことが明らかになった。
地銀の不良債権が拡大している可能性が意識されリスク回避から米債は買われ、16日の米10年債利回りは3.97%に低下し、節目の4%を割り込んだ。
トランプ大統領は17日のインタビューで対中関税の大幅な上乗せについて、持続可能ではないとの認識を示した。
米地銀を取り巻く信用リスクを巡る懸念が後退したこともあり、17日の米債は売られ、米10年債利回りは4.01%と再び4%台を回復。
28日、29日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げを決めるとの観測も強く、20日の米10年債利回りは3.98%と再び4%割れとなった。
市場で12月と来年1月も0.25%の利下げを決めると予想する確率も高まりつつあり、21日の米10年債利回りは3.96%に低下した。
23日には原油先物相場が大幅に上昇したことからインフレ懸念が意識されて、米債は売られ、米10年債利回りは4.00%と再び4%台に。
24日の米10年債利回りは一時3.96%まで低下したが、その後、4.00%に戻され前日とほぼ変わらずとなるなど、4%を挟んでのもみあいが続いた。
チャート上からは米10年債利回りの4%は大きな節目となっており、ここを大きく下回ってくると3.6%あたりまでの低下が予想される。
10月だけでなく12月、さらには1月も続けて0.25%の利下げをするとの期待感も出ている。本当に連続利下げがあるのであれば、3.6%あたりまでの利回り低下はありうる。
ところが、9月の米消費者物価は前年同月比3%となるなど、インフレ率はFRBが政策目標とする2%を明確に上回っている。
トランプ政権による利下げ圧力も強いが、FRBとしては利下げも慎重になる可能性はある。
このために、米10年債利回りが節目の4%割れとなっても、ここから大きく低下することには慎重になっているとの見方もできるのではなかろうか。
日銀は30日の金融政策決定会合において、政策金利である無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.5%程度で推移するよう促すとして、金融政策の現状維持を決めた。
9人の政策委員のうち高田創審議委員と田村直樹審議委員が金利の据え置きに反対した。
高田委員は、物価が上がらないノルムが転換し、「物価安定の目標」の実現が概ね達成されたとして、田村委員は、物価上振れリスクが膨らんでいる中、中立金利にもう少し近づけるためとして、無担保コールレート(オーバーナイト物)を0.75%程度で推移するよう促すとする議案を提出し、反対多数で否決された。
今年1月の決定会合で0.5%への利上げを決めた後は、6会合連続で金利を維持している。
現状維持としたのは米高関税の影響や来春の労使交渉に向けた初動の勢いをデータで確認するためとしている。
しかし、状況が悪化しているわけではなく、あとはタイミング次第であり、お膳立ても整いつつあったとみれば、そのタイミングがいまではないとの判断であったか。
利上げに慎重といわれる高市政権がスタートして時間がなかったことで、高市政権とのコミュニケーションをもう少し取る必要もあったのかもしれない。
それでもベッセント財務長官が「政府が日銀に政策運営の裁量を認める意思が、インフレ期待を安定させ、為替相場の過度な変動を防ぐ上で鍵となる」と、X(旧ツイッター)に投稿し、これが日銀の利上げを改めて促したと受け止められた。
外圧というわけではないが、日銀が利上げを決断するにあたっての渡りに船になるのではとの期待もしていた。
ただし、ベッセント発言に対し、片山さつき財務相は28日、ベセント米財務長官の発言として米財務省が公表した声明を巡り、「(日銀による利上げを)促すというようなことではなかったのではないかと思う」との認識を示していた。
今回の日銀の現状維持に対しても、片山さつき財務相は30日、今回の金融政策決定会合で利上げを見送った日銀の判断を妥当と評価した。
「現在の景気情勢などを総合的に勘案して、極めてリーズナブルな判断だと思う」と語ったそうである。
本当にリーズナブルな判断であったのか。物価に比べて極めて低い金利は円安などを招くことで、物価にさらなる上昇圧力を加えることとなる。
高市政権にとってまず取り組まなければいけないのは物価高対策ではなかったのか。物価高に対して極めてリーズナブルな政策は日銀の金融政策の正常化ではなかろうか。