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8日に新発10年国債の利回り(長期金利に相当)は1.965%に上昇し、いよいよ2%が大きな節目となる見えてきた。
長期金利の2%が過去の動きからみて節目であることは確かだが、だからといって今回もここで止まることは考えていない。
これまでも2%をトライしたときにどうして2%で止まるんだと思いながらみていた。
1986年10月に債券ディーラーとなったが、主に日計り商い、スペックのディーラーであったことで、ある程度の値動きがないと仕事にならなかった。
1999年頃までの債券市場はかなりの値動きがあったが、1999年以降の10年国債の動きを見る限り、スペックのディーラーとしては商売上がったりとなっていたのである。
そこに立ちはだかっていたのが2%の壁であった。
1998年末に起きた運用部ショックにより1999年2月に長期金利が2.440%をつけて以来、長期金利は2%が大きな壁となった。
1999年8月に2.040%をつけたときには当時の小渕首相が1999年度第二次補正予算の編成を柱に積極的に景気を下支えしていく考えを打ち出したことなどが要因となっていた。
2000年9月につけた1.990%は、8月に日銀がゼロ金利政策を解除したあとだけにやや神経質となったことでつけた。
2006年4月に2.000%をつけたのは、3月に日銀が量的緩和政策を解除したことなどがあった。
そして2006年5月に2.005%をつけ、この際に一時2%を超えてきた。しかし、それは一時的なものとなり、その後は2%へのトライはなくなった。
この際は日銀によるゼロ金利解除の可能性が強まっていた事などが要因となった。日銀は翌7月にゼロ金利政策を解除した。
2007年6月に1.985%をつけたのは米長期金利が5%台に乗せてきたことなどが材料視された。
そして今回、ついに2%トライが見えてきた。その大きな背景にあるのは物価の上昇と、それに伴う日銀の金融政策の正常化にある。
ただし、私が債券ディーラー時代は、いまほど日銀の金融政策を注視していなかった。 むろん利上げ、利下げをまったく無視していたわけではないが、それはいくつもある材料のひとつに過ぎなかった。
ここにきて超長期国債の利回りに長期国債の利回りが鞘寄せしてきたのも、金融政策の正常化だけでなく、ほかの要因に影響を受けたとみるべきと思う。
それは積極財政による債務拡大への懸念であるのはたしかであろう。
三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)は短期国債を中心に運用するマネー・マネージメント・ファンド(MMF)を10年ぶりに復活させると4日に日本経済新聞が報じた。
マネー・マネージメント・ファンドとは、いわば日本版のマネー・マーケット・ファンドである。
マネー・マネージメント・ファンドは投資信託の一種で、短期国債や社債など格付けの高い資産で運用する。
基準価額が1口=1円(1万口=1万円)となるように運用される。運用で発生する利益(分配金)を毎日計上し、分配金は1カ月分をまとめて月末の残高に加える。
低リスクで普通預金よりも利回りが高い。
日本でMMFが登場したのは1992年で、純資産総額のピークは2000年ごろで20兆円を超えていた。
ただし、2016年2月の日銀のマイナス金利政策の導入を受け運用が困難となっことで全運用会社が繰り上げ償還を行ったことから、国内金融機関はマネー・マネージメント・ファンドの販売を停止していた。
マネー・マネージメント・ファンドの年換算利回りは、2008年ごろは0.5%程度だったようで、当時の銀行の預金金利よりもおおむね0.3%程度高かった。
8日現在の預金金利は平均で約0.2%のため、現在の水準でMMFが復活すれば0.5%近辺になる可能性がある。
また18、19日の日銀金融政策決定会合では、0.25%の利上げも予想されており、さらに金利が引き上げられることが予想される。
今回は三菱UFJアセットマネジメントがファンドを設定し、三菱UFJモルガン・スタンレー証券が顧客に販売する形で、2026年にも商品化する。
販売再開に踏み切るのは三菱UFJアセットが初めてとなり、さらに従来のMMFと違い、ブロックチェーン(分散型台帳)技術で管理できるようにするとか。
金利が復活し、国債利回りも上昇しており、こういった商品への潜在ニーズはかなり大きいと予想される。
今年度の補正予算にともなう国債増発は中短期債となっていたが、中短期国債へのあらたなニーズも膨らむことが予想され、国債消化先のひとつとして期待される。
金利の復活は経済の妨げになるとか、株価急落をもたらすといった意見も聞かれるが、少なくとも金利の正常化は経済回復の妨げになるどころかその原動力となりうる。
金利の利下げや回復によって金融機関の収益回復も期待される。むろん、保有国債の損失をカバーできるだけの体力も必要だが。さらに金利そのものが景気に刺激を与えることになる。
12月2日の日本経済新聞の『2%迫る長期金利、試金石の入札「順調」も買いは抑制的』との記事のなかに下記の指摘があった。
「過去を振り返ると、前回利上げ局面にあった07年には、無担保コール翌日物金利(TONA)と新発10年物国債利回りのスプレッド(利回り差)は平均で1.3%程度だった」
自分の手元のデータ(月末の長期金利と政策金利の比較)で確認したところ、2007年の政策金利と長期金利のスプレッドは、1.0%程度から1.4%あたりとなっていた。
果たして政策金利と長期金利のスプレッドに適正値なるものがあるのかかという疑問が個人的にはある。
私か債券ディーラーとなり、債券先物や10年国債の指標を売買していたころ、その時代は金利が大きく動いていた時代でもあったが、いまほど政策金利の動向には着目していなかった。
むろん中短期債などには影響があるが、長期債や債券先物は金融政策に縛られるようなことはなかった。
しかし、金利そのものが失われ、日銀が長期金利コントロールまで持ち出したことで、長期金利にも日銀の金融政策の影響が強まった。というよりも日銀が長期金利そのものをコントロール下に置こうとしていた。
その日銀の長期金利コントロールが2024年3月に外れても、金融政策への依存は色濃く残っていた。
それがやっとここにきて外れてきつつある。
長期金利が2%に向けて上昇してきたのは、日銀の利上げそのものとともに、政府の財政政策や物価水準を睨んでのものとの見方ができよう。
とはいえ、過去の政策金利と長期金利のスプレッドについても、念の為確認してみても良いかもしれない。
私の手元のデータはあくまで月次(月末営業日の15時現在)の長期金利と政策金利のスプレッドであり、全営業日を網羅したものではないが、おおよそのことはわかるはず。
ちなみに手元のデータは1986年1月から2025年11月までのものとなる。
その間のスプレッドの平均値は1.156%となっていた。そして最小値が2019年8月のマイナス0.180%、最大値は私のディーラー時代でもある1987年9月の4.230%。
仮に平均値を使った場合には1.150%として、政策金利が0.75%に引き上げられた場合には1.900%という数値が出てくる。
12月2日に長期金利は1.880%まで上昇して1.855%となっており、政策金利0.5%とのスプレッドは1.355%となる。
スプレッドを1.3%とすれば、政策金利が0.75%となれば、長期金利は大きな節目でもある2%を超える。
また、日銀の利上げが0.75%で終了するということも考えづらい。
これらからみても、やはり今回は長期金利の2%はあくまで通過点ということになりそうなのは確かである。
12月に募集される(募集期間12月4日から30日)個人向け国債の3年固定、5年固定、10年変動の利子が発表された。
固定3年の利率は1.10%(税込み)と前回10月募集の0.99%から上昇した。
固定5年の利率は1.35%(税込み)となり2007年7月募集の1.50%以来の高い水準となった。
10年変動利付の利率は1.23%と前回10月募集の1.08%(税込み)から上昇し、2006年7月の1.10%を抜いて、2003年2月の募集開始以来、過去最高の高さとなった。
個人向け国債の利率が上昇してきたのは、日銀が金融政策の正常化に乗り出し、政策金利を引き上げ、それとともに国債利回りも上昇してきたことによる。
12月18、19日の日銀金融政策決定会合での利上げ観測が強まっていることに加え、高市政権は「責任ある積極財政」を掲げており、財政拡大への懸念から超長期債には利回りの上昇圧力が強まり、それが10年国債の利回りにも波及した。
その結果、10年国定の初期利子は過去最高水準となった。
利上げ観測が再燃したことで、3年固定と5年固定の利率も前回から上昇した。
消費者物価指数は2%を超える状態が続いていることで実質金利はマイナスの状態となるなか、日銀の利上げは12月で打ち止めとはならず、継続すると予想している。
いずれ政策金利は1%台に引き上げられるとみている。政策金利は12月に0.75%に、2026年の4月から7月あたりに1.00%へ引き上げ、2027年中に1.5%まで引き上げると現状は個人的に予想している。
高市首相は今回の利上げについて容認していると報じられた。片山財務相も具体的な金融政策運営は「日銀にお任せしている」と発言していた。
今回も個人向け国債は購入のタイミングとしては面白いのではないかと思う。
個人向け国債には1年経てば財務省が額面で買い取るなど、国債にもかかわらず流動性リスクや価格変動リスクがない。
その分、一般の国債に比べて金利はやや抑えられるが、さすがに1%を超えてとなれば、個人投資家の食指も動いてくるのではなかろうか。
今後も国債利回りは上がり続けると予想しており、今回も特に10年変動をお薦めしたい。
12月4日に新発10年国債の利回り(長期金利)が、1.935%まで上昇した。これは、2007年7月以来およそ18年ぶりの高水準となり、いよいよ大きな節目といえる2%が見えてきた。
ここにきて長期金利の上昇ピッチが速まりつつある。その背景のひとつが12月18、19日の金融政策決定会合での利上げ観測がある。
さらに植田総裁は1日の会見で、利上げをしても「まだ緩和的な状況だ」との認識を示すなど、今回の利上げで打ち止め感を出さない配慮もしつつある。
それを示すものとして、日銀の植田和男総裁が1日の講演で示した実質金利のデータのグラフがあった。
実質金利の算出にあたり、インフレ率の基準を従来使用してきた日銀推計の予想物価から消費者物価指数(除く生鮮食品)に置き換えたていたのである。
日銀の物価目標が消費者物価指数(除く生鮮食品)であるため、これが本来示すべき数値であったかと思うが、何故かこれまで日銀推計の予想物価が使われていた。
今回、消費者物価指数(除く生鮮食品)を使うことでスッキリしたグラフとなるとともに、物価と政策金利の乖離がより明確となった。
日銀の利上げに打ち止め感が出ず、政策金利の1%を超える水準への利上げが、ある程度の時間をかける(半年毎あたりのタームか)としても、見込まれることで、長期金利の上昇を促している。
中短期の国債利回りは日銀の政策金利の影響を受けやすいことは確かだが、長期、超長期の国債利回りはそれ以外の要因による影響も受けやすい。
そのひとつとして、財政への懸念もある。
責任ある積極財政のもと、補正予算については、新規国債(建設国債と赤字国債)を11兆6960億円も発行する。
この流れで来年度予算編成も行われるとなれば、債務への懸念も出てくることになる。
このため超長期国債の利回りに上昇圧力が掛かり、それが素直に長期金利にも波及しだしたのが、ここにきての動きとなろう。
消費者物価の水準そのものが前年比で3%水準にあることもあり、長期金利の2%は大きな壁ではあるが、あくまで通過点との見方もできよう。
12月1日に日銀の植田総裁は日本銀行の金融政策運営に関して、12月18日、19日に予定されております次回の決定会合に向けて、様々なデータや情報をもとに点検・議論し、利上げの是非について、適切に判断したいと考えていますと発言した。
これは19日の決定会合で利上げを検討することを示唆した格好となる。
すでに日銀の審議委員6名のほとんどが利上げに向けた発言をするなどしており、あとは執行部(総裁と副総裁)の出方次第となっていた。このため、19日に利上げが決定される可能性が高まった。
12月9日、10日にはFOMCが予定されている。ここでは利下げが検討されるとし予想されている。
これによって米国の利下げと日本の利上げが予定されることとなり、日米の政策金利の縮小が予想されることとなる。
外為市場の材料は金利差だけでは当然ないが、金利動向がかなり影響していることもたしかである。
そうであれば、政策金利の格差縮小はドル円にとっては、円買いドル売りとなることが予想された。
実際に12月1日に植田発言を受けて、ドル円は一時154円台に下落(円高ドル安)となる場面はあったが、そこから切り返し156円台を回復するなど、円高ドル安の流れとはなってはいない。
これはどうしてなのか。
そのひとつの要因として、FRBについては今回利下げを決定しても、ここでいったん打ち止め感が出るのではとの見方がある。
そして日銀については、ここで0.25%の利上げをして政策金利を0.75%にしてもまだまだ低すぎる、これは特に物価と比較してともなるが。
FRBはさらなる利下げには慎重、日銀は今回利上げしてもさらなる追加利上げにもそれなりの時間を要さざるを得ないとの見方が、ドル売り円買いを躊躇させている側面がある。
むろん、外為市場での変動要因は金利だけではない。
トランプ政権についても関税による不透明感は多少後退したとしても、多様なリスクも存在する。
日本についても、さすがに高圧経済はおかしいとの認識も強まってきている。
今回の補正予算についてもその規模が本当に必要なのか。それよりもインフレ下においての積極財政がさらなる物価上昇要因となる可能性も当然ある。
積極的にドルも買いづらいが、同様に円も買いづらい状況にあることも確かである。
12月1日の名古屋での経済界代表者との懇談における挨拶で、日銀の植田総裁は日本銀行の金融政策運営に関して下記の発言をした。
「現在、日本銀行では、12月18日、19日に予定されております次回の決定会合に向けて、本支店を通じ、企業の賃上げスタンスに関して精力的に情報収集しているところです。決定会合においては、この点を含めて、内外経済・物価情勢や金融資本市場の動向を、様々なデータや情報をもとに点検・議論し、利上げの是非について、適切に判断したいと考えています。」
これを受けて12月の決定会合での利上げ観測があらためて強まり、1日の東京市場では、債券が売られた。
2年国債の利回りは17年半ぶりに節目の1%を超え、10年国債の利回りは1.875%に上昇、債券先物は134円38銭まで下落し、ともに2008年6月以来の水準に。
ドル円も売られて円高が進行、これを受けて日経平均は一時1000円を超す下げとなった。
これまで日銀の審議委員の発言などからも早期の利上げを示唆するような発言があったが、これまで特に慎重とみられていた植田総裁からも利上げを示唆する発言が出た。
今年1月に氷見野副総裁は会合直前に日程と利上げに触れて議論すると明言していた。その後の決定会合で0.5%への利上げが決定されていた。これを連想した市場参加者も多かったようだ。
今回の植田総裁の挨拶のなかで、注意すべきところがもうひとつあった。
「政策金利を引き上げるといっても、緩和的な金融環境の中での調整であり、例えて言えば、景気にブレーキをかけるものではなく、安定した経済・物価の実現に向けて、アクセルをうまく緩めていくプロセスだと考えています。」
1日の記者会見の場でも、この意見がくり返されていた。過去にも同様の発言はあったかもしれないが、政権側に利上げの了承を求める際にも使われたのではないかと推測している。
その政府側の反応であるが、市場に12月利上げへの備えを求める日銀に対し、政権側からは目立った反発は出ていないとされている。
木原稔官房長官は1日の記者会見で「今後の利上げを含め金融政策の具体的な手法は日銀に委ねられるべきで、(同日の)日銀総裁の発言などへのコメントは差し控える」と述べた(2日付日本経済新聞)。
高市首相も金融政策の手法については日銀に委ねられるべきものだとも述べていた。ただし、その「手法」には金融政策、つまり今回でいえば利上げも含まれているのか、個人的には疑問を抱いていた。
場合によっては金融政策の方向性は政府が決めるが、そのための手段は日銀に委ねるとの見方もあったためである。
木原稔官房長官の言からは、金融政策の具体的な手法には「利上げ」が含まれるとしており、ここは個人的に安堵した部分でもあった。
問題は19日に0.25%の利上げが決定されるかどうかというよりも、そこで打ち止め感を出さないようにするにはどうすべきかであると考えている。
物価に応じて、アクセルをうまく緩めていくプロセスは、当然、0.75%程度の政策金利で終わりとは考えられないためである。
植田総裁は1日の会見で、利上げをしても「まだ緩和的な状況だ」との認識を示していた。
財務省は28日閣議決定された2025年度補正予算に基づき、国債発行計画を変更した。
「令和7年度国債発行計画等を変更しました」財務省 https://www.mof.go.jp/jgbs/issuance_plan/fy2025/20251128.html
補正予算による国債の増発額は、12兆7301億円となる。
内訳は新規国債(建設国債と赤字国債)が11兆6960億円増、財投債が2兆円増、GX経済移行債が6283億円増、半導体・AI債が256億円増となる。これに対して借換債を1兆4987 億円減額することで、都合12兆7301億円増となる。
カレンダーベースの市中発行額は、6月変更後と比べて69000億円の増額となる。
内訳は5年国債を残り3回(2026年1月〜3月)で各1000億円増額、2年国債をやはり3回分を1000億円ずつ増額し、この2銘柄で6000億円の増額となる。
残りの6兆3000億円は割引短期国債で補われる。
10年長期債と20年、30年、40年については現状維持となる。
27日の国債市場特別参加者会合(PD懇)と国債投資家懇談会(投資家懇)で、今年度発行計画では、TDB、2年国債、5年国債を増額との当局案が示されており、この内容通りとなった。
今回、2年国債と5年国債をそれぞれ1000億円ずつ増額したのは、来年度の国債発行計画も睨んだものともいえる。
今回の増発で毎月の発行額は2年国債が2.8兆円、5年国債が2.5兆円となった。これが来年度予算にかかわる国債発行計画における基準となろう。
国債市場特別参加者会合(PD懇)では参加者から、超長期債の減額、長期・中期・短期の増額が示されていたそうである。
予算規模そのものがこれからであり、実際の増減はそれが決まってからのことになる。
ただし今後、さらなる日銀の利上げが期待できるのであれば、中期債や長期債のニーズが高まることも予想される。
2年国債の利回りが1%に接近しつつあり、ここからさらに上昇するとなれば、以前に存在していた中期国債ファンドのようなものの復活も期待できる。
これに対して、超長期債の取り扱いについてはやや神経質なものとなろう。投資家の潜在ニーズがどの程度あるのかを探りながらとなる。
来年度から発行計画を半期ごとに見直す案も出ていたようだが、これも投資家ニーズを探った上での修正を意識したものであろうか。
日銀の植田総裁は12月1日の「名古屋での経済界代表者との懇談における挨拶」において、以下のように指摘した。
「現在、日本銀行では、12月18日、19日に予定されております次回の決定会合に向けて、本支店を通じ、企業の賃上げスタンスに関して精力的に情報収集しているところです。決定会合においては、この点を含めて、内外経済・物価情勢や金融資本市場の動向を、様々なデータや情報をもとに点検・議論し、利上げの是非について、適切に判断したいと考えています。」
これは12月18、19日の金融政策決定会合での利上げを示唆したと受け止められた。これを上毛手1日の債券市場では2年国債の利回りが17年半ぶりに節目の1%を超えた。10年国債利回りはも1.850%と2008年6月以来17年半ぶりの高水準をつけた。
植田総裁そのものがこれまで利上げにはかなり慎重とみられていたことで、その慎重姿勢が継続しているのか、それとも今回こそは利上げに向けて動くのかが注目された。
市場では日銀の審議委員の発言などから、12月の決定会合での利上げ観測を強めていた。このため、今回の総裁発言が注目されていた。
たとえば、日本銀行の増一行審議委員(元三菱商事常務執行役員)は、11月20日に日本経済新聞のインタビューを受けた。7月の就任後、報道機関の単独インタビューを受けるのは初めだとか。
増一行審議委員は、このインタビューで「経済や物価の情勢を見ると、利上げをしていい環境は整ってきていると思う」と述べた。
日銀の利上げについて「何月かは言えないが距離感としては近いところにいる」と指摘した。
日本の政策金利は中立金利より低い。早くそこから抜けたいと強く思っているとも発言していた。
20日には日本銀行の小枝淳子審議委員は、新潟市で開いた金融経済懇談会の講演で、「金利の正常化を進めることが、将来に意図せざるゆがみをもたらさないためにも必要だ」と主張した。
名目金利からインフレ率の見通しを差し引いた実質金利が極めて低いことをふまえ、緩和を続けるリスクを指摘した。
小枝審議委員は今年3月、増審議委員は今年7月に日銀の審議委員に就任した。いわゆるハト派なのかタカ派なのかということよりも、金融政策の正常化を意識している委員であった。
9月と10月の日銀金融政策決定会合では、いずれも政策金利の現状維持を賛成多数で決定した。この際に2回とも高田委員と田村委員が、政策金利の0.75%への利上げを主張して現状維持に反対した。
10月29、30日の金融政策決定会合の主な意見をみると下記のような意見が出ていた。
「今後、先行きの不透明感は残るが、経済・物価の見通しと達成確度次第で金利を調整すべき環境になると考える」
「適切な情報発信を続けながらタイミングを逃さずに利上げを行うべきである」
「金利の正常化をもう一歩進める上では、条件が整いつつあるとみている」
「将来の急激な利上げショックを避けるため、金融緩和度合いを調整して、中立金利にもう少し近付けるべきである」
「現段階での利上げは、将来のためにも経済のゆがみを抑制し、政策金利を緩やかに均衡状態に戻していくという、金利正常化のプロセスと考えられる」
執行部(総裁・副総裁)からはやや慎重な意見が出されていたが、審議委員からは2名どころか、4名か5名から利上げに前向きな意見が出ていたように思われる。
あとは執行部の三名の決断次第となる。高市政権も為替を睨んで、利上げはアホとは言えなくなっている。
以上のことから、12月の利上げの可能性は高いとみている。
前回利上げから1年近く経過していることもあり、どうせなら政策金利を0.75%ではなく1.0%に引き上げても良いのではなかろうか。
28日の日本経済新聞では、「マンデル・フレミング・モデル」に関する記事もあった。
マンデル・フレミング・モデルとは「積極的に財政出動すると、国債増発への思惑や将来の成長期待で金利が上昇する。その結果、海外から投資資金が入り、通貨高を招く」という流れだとか。
「財政拡張により内需が拡大することで金利が上昇し、円高になる」という指摘については、かなり疑問がある。
まず財政拡張そのものだが、ドイツのように政府債務がそれほど膨らんでなければ、それほど問題視されないかもしれない。
しかし、日本の債務残高はかなり膨れ上がっている。
そこにさらなる財政拡張、さらに従来の財政健全化目標の取り下げなどが加われば、政府債務への懸念が当然生じる。
加えて「内需が拡大することで金利が上昇し」との部分も、バラマキ型の財政政策の効果はあっても一時的、場合によっては砂漠に水をまくようなことになりかねず、内需が拡大するという保証はない。ここに以下の加藤氏の3点セットのひとつ、「中央銀行の利上げへの不寛容な姿勢」が加わる可能性がある。
東短リサーチ社長の加藤出氏は日本経済新聞とのインタビューで、日銀の利上げについて、12月に利上げする可能性が2026年1月をやや上回ってきたとみるとして、さらに下記のように指摘していた。
「仮に1月も利上げできない状況になれば、政府による財政拡張の志向、従来の財政健全化目標の取り下げ、中央銀行の利上げへの不寛容な姿勢という3点セットがそろうことになる」
この3点セットが揃うと、一層の円安進行と長期金利の上昇につながる恐れがあると指摘した。
そもそもアベノミクスは金融緩和が大きな柱であり、高市氏も以前、利上げはアホ発言をしていた。
日銀も利上げは慎重に進めざるを得なくなっていることで、容易に金利は上がらない状況となるなか、内需が拡大することで金利が上昇するという状況が抑えられてしまっているのではないか。
むろん債務不安などで国債が下落してしまう懸念も出てくるが、それは国債だけでなく通貨の円の信認も毀損することとなり、加藤氏の指摘するように、円高どころか円安を加速させかねないのではなかろうか。