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2025年1月23日「11月の国別の米国債保有額」

 米財務省が17日に発表した2024年11月の対米証券投資統計によると、海外勢の米国債保有額は8兆6346億ドルで、10月の8兆5830億ドルから増加した。

11月の対米証券投資統計のなかの国別の米国債保有高 https://ticdata.treasury.gov/resource-center/data-chart-center/tic/Documents/slt_table5.html

参考 Treasury International Capital (TIC) System https://home.treasury.gov/data/treasury-international-capital-tic-system

 9月には8兆6718億円と過去最高水準を記録していた。

 国別ではトップが日本で米国債保有額は1兆988億ドル。10月は1兆1019億ドルから減少した。

 第2位は中国で保有額は7686億ドル、3位が英国で7656億ドル、4位がルクセンブルグの4245億ドル、5位がケイマン諸島の3970億ドルとなっていた。


2025年1月22日「24日の決定会合での利上げの可能性高まる。0.5%への利上げとなれば2007年2月の決定会合以来となる」

 日銀は23、24日の金融政策決定会合で利上げを決定する可能性が高まった。

 日銀の氷見野副総裁は14日の講演で「政策運営にあたってはタイミングの判断が難しくかつ重要です。来週の金融政策決定会合では、展望レポートにまとめる経済・物価の見通しを基礎に、利上げを行うかどうか政策委員の間で議論し、判断したいと思います」と語った。

 15日に植田総裁が全国地方銀行協会の新年の集いであいさつで、追加利上げを巡る判断は米国の政策や春闘の賃金動向次第だと改めて述べた上で、それらを精査し、来週の会合で利上げなどを行うか判断する考えを示した。24日の利上げの可能性に念を押したような格好となった。

 16日にはブルームバーグが、これらの動きに追い打ちを掛けるように「日銀が来週会合で利上げの公算大、米新政権の影響限定的なら−関係者」(伊藤純夫、藤岡徹)との記事を出した。

 「日本銀行は、来週予定されるトランプ米次期大統領の就任時の発言を受けて金融市場などで大きな混乱が起きなければ、23、24日の金融政策決定会合で追加利上げを決める公算が大きい。複数の関係者への取材で分かった」(16日付ブルームバーグ)。

 加藤勝信財務相は17日、経済環境を巡り「賃金や物価が上がらないというノルム(社会通念)を解消し、賃金と物価が上がり、金利が動くというのが経済の本来の姿」との認識を示すなど、政治家からもフォローする声が相次いでいた。

 そして20日にトランプ大統領が就任したが、懸念されたような日本への関税などに対する発言はいまのところなく、21日の東京市場市場での大きな混乱も現状は起きていない。

 これによって24日に日銀が利上げする環境が整った。24日に日銀は政策金利を0.25%引き上げて0.50%にすることを決定すると予想される。1人か2人の反対者が出る可能性はある。

 政策金利の0.5%への引き上げは、2007年2月の決定会合以来となる。


2025年1月21日「米長期金利やドル円の動きはトランプ氏次第?」

 トランプ氏の米大統領就任式が日本時間21日未明に行われた。ちなみにこの日の米国市場はキング牧師の生誕日となり、休場となる。ただし、外為市場は開いていた。

 トランプ氏が米大統領に就任して金融市場はどう動くのか。想像するのは難しい。関税引き上げ対象国に日本も含まれるなど想定外の事態になれば、日本株やドル円などが大きく揺れ動く可能性があった。ただし、それはひとまず回避された。

 ベッセント次期米財務長官は、円が弱すぎる、日銀の金融政策正常化が遅すぎるの2つを問題視しているという指摘があった。

 淡々と正常化に向けて動いている日銀にとってはフォローとなろう。さらに外為市場での円高要因となりうる。トランプ氏による円安は大惨事たといった発言もあった。

 ドル円は1月10日に158円80銭台まで上昇していたが、この背景には米長期金利が4.8%あたりまで上昇していたことがある。

 しかしその後の米長期金利はやや反落したことや、日銀の利上げ観測によってドル円は17日に一時154円台を付けていた。

 米長期金利の上昇の背景にあったのが、米国の物価がしっかりしていたことや雇用などを中心に景気の底堅さなどがある。

 それとともにトランプ政権による政策によって財政悪化とともにインフレを招く懸念があった。

 もしそういった懸念が後退すれば、米長期金利が低下してドル円も下落(円高ドル安)となることもある。

 こちらもトランプ政権の動き次第となることで、今後の米長期金利やドル円の動向を占う上でもトランプ氏の言動に注意する必要がある。


2025年1月20日「あらためて今週の日銀金融政策決定会合での利上げの可能性」

 日銀の氷見野副総裁は14日の講演で「政策運営にあたってはタイミングの判断が難しくかつ重要です。来週の金融政策決定会合では、展望レポートにまとめる経済・物価の見通しを基礎に、利上げを行うかどうか政策委員の間で議論し、判断したいと思います」と語った。

 ここでまず注目すべきは展望レポートか。

 1月10日の夕方にブルームバーグは「日銀が物価見通しを上方修正の公算大、コメ価格上昇と円安」との記事を出した。

 日銀が今月開く金融政策決定会合では、変動が大きい生鮮食品とエネルギーを除いた消費者物価(コアコア)について、2024年度と2025年度の見通しが上方修正となる公算が大きい。利上げの是非は直前まで見極める方針だ。事情に詳しい複数の関係者への取材で分かった(10日17時30分、ブルームバーグ)。

 日銀執行部との定例の会見の内容であったのかもしれないが、ここで注意すべきは、久しぶりに出てきた「事情に詳しい複数の関係者」ではなかろうか。

 コアコアCPI見通しの引き上げは、コメを中心とした食料品価格の上振れが主因となり、円安の進行や原油価格の上昇も押し上げ要因になるとしているが、このあたりはすでに想定されていたものであったはず。

 あえてそれを強調してきたのはどうしてなのか。

 氷見野副総裁の発言にもあった「展望レポートにまとめる経済・物価の見通しを基礎に」という部分との関係もありそうなものとなっている。

 これは1月23、24日の決定会合での利上げの可能性を意識したものではないかとの見方ができる。

 ただし、タイミングとしてはあまり良くはないようにも思われる。

 1月20日のトランプ大統領の就任直後であり、市場が混乱している可能性がある。

 すでに米長期金利が再上昇してきているが。これは足元の景気・物価が予想以上にしっかりしていたことでFRBによる利下げ観測が後退したことによる影響も大きい。

 しかし、トランプ氏の政策トランプ次期大統領が計画する関税拡大や減税、移民抑制といった政策による物価上昇懸念も影響している。

 この米長期金利の上昇もあり、日本の長期金利も上昇してきており、ここに日銀の利上げ観測も強まると、予想以上に長期金利が跳ね上がる懸念も出てくる。

 個人的には利上げは市場が落ちついている12月にしておくべきであったと考えている。

 赤沢経済再生相は14日の閣議後会見で、氷見野日銀副総裁が来週の金融政策決定会合で利上げ行うか議論をするとの発言に関し、日銀の利上げ検討と政府がデフレ脱却を目指すことに「矛盾することはない」と述べた。


2025年1月20日「政治家による日銀の金融政策に関する発言」

 日銀の金融政策に関して政治家からの発言がいくつか出ていたので、それをチェックしておきたい。

 「赤沢亮正経済再生相は14日の閣議後会見で、氷見野良三日銀副総裁が来週の金融政策決定会合で利上げ行うか議論をするとの発言に関し、日銀の利上げ検討と政府がデフレ脱却を目指すことに「矛盾することはない」と述べた」(14日付ロイター)。

 経済再生相は内閣府特命担当大臣(経済財政政策担当)を兼務することが慣例となっており、日銀の金融政策決定会合に大臣が参加することもある。

 「林芳正官房長官は16日午後の会見で、植田和男日銀総裁の発言を受けて来週の金融政策決定会合での追加利上げ決定の観測が高まっていることに関連し、「今後の利上げを含め、(金融政策の)具体的な手法は日銀に委ねられるべき」と述べ、政府としてのコメントは差し控えた」(16日付ロイター)。

 当然のことを言っているに過ぎないかにみえるが、具体的な手法は日銀に委ねられるべきとして官房長官が利上げに反対の姿勢を示していない点に注意する必要があろう。

 加藤勝信財務相は17日、経済環境を巡り「賃金や物価が上がらないというノルム(社会通念)を解消し、賃金と物価が上がり、金利が動くというのが経済の本来の姿」との認識を示した。都内での講演で語った(17日付ロイター)。

 こちらは会見ではなく、講演のなかでの発言となり、利上げを準備している(かと思われる)日銀への援護射撃のようにも。

 日銀が政策変更を行った際には、事前に日銀の金融政策に関係する政治家からそれをフォローするかのような発言が出てくることが何度かあった。

 今回もその事例となるのかどうか。24日の日銀の金融政策決定会合の結果に注目したい。


2025年1月17日「12月の企業物価指数は前年比3.8%の上昇に」

 日銀が16日に発表した2024年12月の国内企業物価指数は前年同月比で3.8%の上昇となった。前年比のプラス幅は前月と変わらず。

 国内企業物価指数は前年比でみると2021年3月にプラスに転じて、同年11月にはプラス9.2%まで上昇した。

 2022年は9%台の高い水準が続いた。消費者物価指数は2022年4月から前年比2%台の伸びとなっている。

 2022年12月のプラス10.6%がひとまずピークとなり、その後は上昇幅を縮小させ、2023年12月にはプラス0.3%とかろうじてプラスに止まった。

 その後、再びプラス幅を拡大させ、2024年5月に2.3%と2%台に、7月には3.1%と3%台を付け、8月は2.6%となったが、9月以降は3.1%、3.7%、3.8%、3.8%と比較的高い水準が続いている。

 コメを含む農林水産物の価格上昇や、電気・ガスに対する補助金の一時停止が押し上げに寄与したとみられる。

 2024年通年の企業物価指数は122.6となり、2023年を2.3%上回った。比較可能な1980年以降、3年連続の過去最高となる。


2025年1月16日「日銀は市場に来週の決定会合での利上げの可能性を浸透させようとしている」

 日銀は市場に来週の決定会合での利上げの可能性を浸透させようとしている。これは7月の利上げが市場にとってサプライズとなったことを踏まえての動きともうかがえる。

 1月10日の夕方にブルームバーグは「日銀が物価見通しを上方修正の公算大、コメ価格上昇と円安」との記事を出していた。

 「日本銀行が今月開く金融政策決定会合では、変動が大きい生鮮食品とエネルギーを除いた消費者物価(コアコアCPI)について、2024年度と25年度の見通しが上方修正となる公算が大きい。利上げの是非は直前まで見極める方針だ。事情に詳しい複数の関係者への取材で分かった」(伊藤純夫、藤岡徹)

 「事情に詳しい複数の関係者」が久しぶりに現れた。これは金融政策に極めて関係しているメンバーを指していると想定される。書いた記者にも注意したい。

 14日の氷見野副総裁は講演で「政策運営にあたってはタイミングの判断が難しくかつ重要です。来週の金融政策決定会合では、展望レポートにまとめる経済・物価の見通しを基礎に、利上げを行うかどうか政策委員の間で議論し、判断したいと思います」と語った。24日の決定会合での利上げ検討を示唆した。

 15日に植田総裁が全国地方銀行協会の新年の集いであいさつで、追加利上げを巡る判断は米国の政策や春闘の賃金動向次第だと改めて述べた上で、それらを精査し、来週の会合で利上げなどを行うか判断する考えを示した。24日の利上げの可能性に念を押したような格好となった。

 これを受けて市場参加者の多くが利上げの可能性意識し、15日に長期金利は一時1.255%に上昇し、円高も進んだ。

 16日にはブルームバーグが、これらの動きに追い打ちを掛けるように「日銀が来週会合で利上げの公算大、米新政権の影響限定的なら−関係者」(伊藤純夫、藤岡徹)との記事を出した。

 「日本銀行は、来週予定されるトランプ米次期大統領の就任時の発言を受けて金融市場などで大きな混乱が起きなければ、23、24日の金融政策決定会合で追加利上げを決める公算が大きい。複数の関係者への取材で分かった」(伊藤純夫、藤岡徹)。

 ブルームバーグの10日の記事の同じ記者が書いていたものであり、取材先が「複数の関係者」とあるが、これは10日の「事情に詳しい複数の関係者」と同一である可能性が高い。

 「来週予定されるトランプ米次期大統領の就任時の発言を受けて金融市場などで大きな混乱が起きなければ」という前提条件は当然のことであろう。それならば12月の方がと思ったが、政治日程などを考慮して12月は避けた可能性がある。


2025年1月16日「金融政策を巡るコミュニケーションのあり方」

 日銀の氷見野副総裁は14日の講演にて、「金融政策を巡るコミュニケーションのあり方」についても語っていた。

 「フォワードガイダンスについては、効果もある一方、政策転換が必要な局面になった場合には制約になってしまうのではないか、場合によっては政策変更を遅らせてしまいかねない弊害があるのではないか、という点も意識されるようになりました。このため、多くの中央銀行は、ゼロ金利制約から自由になった2022年の段階でフォワードガイダンスを取りやめました」

 2022年の段階で世界的な物価上昇が続き、欧米の中央銀行は利上げに転じた。日本でも2022年4月から日銀の物価目標でもある消費者物価指数(除く生鮮)が前年同月比2%台が続いていた。

 それにもかかわらず日銀は「日本銀行は、2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで長短金利操作付き量的・質的金融緩和を継続する。」としていた。さらに「必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。」との表現も2024年1月の決定会合まで続けていたのである。

 これはいわゆるビハインドザカーブ(Behind the curve)の典型例と言わざるを得ないと考える。フォワードガイダンスそのものが弊害となった事例ともいえよう。

 「現在では、多くの中央銀行のコミュニケーションでは、それぞれの決定会合の時点までに手に入ったデータの全体像をよく見て、会合ごとに判断していくという姿勢が基本線になっています。」

 基本線というか建前となっているといったほうが良いかと思う。

 「日銀が公表文から将来を縛る表現を落としたのは、他の諸国に遅れ昨年3月のことでした。したがって新しい時代に入ってまだ間がないわけですが、その前のフォワードガイダンスの時代とは局面が変わっている、という点をまず申し上げておきたいと思います」

 いやいや、他の諸国に遅れに遅れていたことで、その影響を見定めるといったことよりも、遅れを取り戻すことのほうが先決ではなかったではなかろうか。

 「金融政策が意図してサプライズを起こすことは、危機時などパーセプションを大きく転換すべき場面を除き、望ましいことではありません。」

 2024年7月の利上げが果たしてそれに該当するのかはわからないが、それも意識したものか。ただし、金融緩和はサプライズの方が特にマーケットに対して効果があるといった見方も存在する。

 「市場が金融政策に対して抱く予想が我々の考え方と乖離していると、そのギャップが解消される過程で市場が混乱することも考えられますので、ギャップの生じにくいコミュニケーションが望ましいことになります。」

 金融政策に対して抱く予想が日銀と市場で乖離しているといわゆるサプライズとなるが、ではどうすればその乖離をなくせるのか。

 「毎回の金融政策決定会合の結論について、事前に市場に完全に織り込んでもらえるようにコミュニケーションをとるべきだ、ということにはなりません。」

 これがやや矛盾する。

 金融政策に対して抱く予想が日銀と市場の乖離をなくすには、事前に市場に完全に織り込ませる必要もあろう。

 「政策は毎回政策委員の議論で決めるものですので、そのようなことは不可能です。」

 しかし、ある程度の流れを読ませる必要もある。

 「経済の動向よりも日銀の言いぶりの変化ばかりに市場の注目が集まることになりか ねず、それも決して望ましいこととは思いません。」

 これについても疑問を感じる。

 日銀がファンダメンタルズに即して金融政策を行っているのであれば、2022年あたりから政策変更をしていたはずである。しかし政治的な柵(しがらみ)などから、それが出来ずにいたことで、市場とのコミュニケーションが成り立たなくなってしまった。

 このため日銀が利上げに動こうとしても、市場はそれは無理だという先入観も働いてしまっていた。金融政策は経済動向より政治動向に左右されやすいといった先入観も働いてしまうことで、こちらも市場の予想とのギャップが生じている。

 このあたりのギャップを埋めるには、日銀がしっかり独立性を保持した上で、物価などに適切にかつタイムリーに対応していくということを実績でアピールしていく必要があると思う。


2025年1月15日「日銀総裁発言で利上げ観測がさらに強まり、日本国債は売られ、円高も進行」

 日銀の植田総裁は15日も全国地方銀行協会の新年の集いであいさつし、追加利上げを巡る判断は米国の政策や春闘の賃金動向次第だと改めて述べた上で、それらを精査し、来週の会合で利上げなどを行うか判断する考えを示した(15日付日本経済新聞)。

 日銀の氷見野副総裁は14日の講演で「政策運営にあたってはタイミングの判断が難しくかつ重要です。来週の金融政策決定会合では、展望レポートにまとめる経済・物価の見通しを基礎に、利上げを行うかどうか政策委員の間で議論し、判断したいと思います」と語った。

 1月10日の夕方にブルームバーグは「日銀が物価見通しを上方修正の公算大、コメ価格上昇と円安」との記事を出していた。

 日銀が今月開く金融政策決定会合では、変動が大きい生鮮食品とエネルギーを除いた消費者物価(コアコアXPI)について、2024年度と25年度の見通しが上方修正となる公算が大きい。利上げの是非は直前まで見極める方針だ。事情に詳しい複数の関係者への取材で分かった(10日17時30分、ブルームバーグ)。

 日銀執行部との定例の会見の内容であったのかもしれないが、ここで注意すべきは、久しぶりに出てきた「事情に詳しい複数の関係者」となろう。

 これらを受けて1月23、24日の日銀の金融政策決定会合での0.50%への利上げの可能性が出てきた。それに念を押すような格好となったのが、15日の植田総裁による発言である。

 副総裁に続いて、総裁も追加利上げを行うかどうか判断すると明言したことで、市場では決定会合での利上げ観測が一段と強まり、円高が進行。ドル円は15日の朝方に158円台を付けていたが、13時半あたりから円高が進み、ドル円は157円20銭近辺まで低下(円高ドル安)となった。

 日本の債券市場では国債利回りが一段と上昇(価格は下落)した。10年国債の利回りは14日に1.250%と13年9か月ぶりの水準に上昇したが、15日には1.255%に上昇した。15日に2年国債利回りは一時0.700%と2008年10月以来、約16年ぶりの高水準を付けた。30年国債利回りは2.355%と2009年8月以来15年5か月ぶりの水準に上昇したのである。

 市場では24日の利上げを急速に織り込みにきたことで、利上げ無しがサプライズともなりそうである。


2025年1月15日「10年国債の利回り1.2%は通過点」

 10日の引けあとに、10年国債の利回りが節目とされる1.200%を付けてきた。

 10日の債券市場では、FRBの利下げ鈍化観測に伴う米長期金利の先高観に加え、物価指数の高止まりもあり日銀の追加利上げ観測がくすぶっていることから、買い手がやや引いた状態となっており、戻り売りが入った。

 10日の債券先物は141円05銭まで売られて141円06銭で引けていた。10年国債の利回りは1.195%に上昇していた。

 債券先物の141円とともに10年国債の利回りの1.2%は心理的な節目とされていた。これは銀行など国内投資家が1.2%台に入ると買いを入れてくるとの観測も背景にあった。

 しかし引け後、ナイトセッションの債券先物は141円を割り込み、10年国債の利回りが1.200%を付けてきた。

 そこに売りに拍車を掛けるふたつの出来事があった。

 ひとつはブルームバーグの「日銀が物価見通しを上方修正の公算大、コメ価格上昇と円安」との記事である。

 日本銀行が今月開く金融政策決定会合では、変動が大きい生鮮食品とエネルギーを除いた消費者物価(コアコアXPI)について、2024年度と25年度の見通しが上方修正となる公算が大きい。利上げの是非は直前まで見極める方針だ。事情に詳しい複数の関係者への取材で分かった(10日17時30分、ブルームバーグ)。

 コアコアCPI見通しの引き上げは、コメを中心とした食料品価格の上振れが主因となり、円安の進行や原油価格の上昇も押し上げ要因になるとしているが、このあたりはすでに想定されていたものであったはず。

 注意すべきは、久しぶりに出てきた「事情に詳しい複数の関係者」である。これは1月23、24日の決定会合での利上げの可能性を意識したものではないかとの見方ができる。

 それに加え、10日に発表された12月の米雇用統計で非農業雇用者は前月比25.6万人増と予想の15.5万人を上回り、失業率は4.1%と11月の4.2%から低下した。

 これを受けてFRBの利下げペース鈍化が意識され、いや、利下げ停止まで意識され、米10年債利回りは一時4.79%と2023年11月以来およそ1年2か月ぶりの水準に上昇してきたのである。

 チャート上からは米10年債利回りが5%を目指して上昇してくる可能性が高まり、欧州の国債利回りも上昇してきた。

 これを受けてナイトセッションの債券先物は140円55銭まで下落したのである。14日の10年国債の利回りは1.240%で出合うなど、1.200%は通過点となってしまった。

 次の目処は1.250%あたりとなる(14日に1.250%まで上昇)。

 債券も本来は買われるスピードより売られるスピードのほうが早い。それはある意味、債券市場の機能が戻ってきたということにもなるか

 ただしあまり急ピッチの金利上昇は、政治家含めて嫌がる可能性も高い。その意味でも、1月ではなく市場も落ち着いていた12月に日銀は利上げはやっておくべきだったと個人的には思っているのだが。


2025年1月11日「常識的である」という強めの発言を行ったのは誰か

 日銀の植田総裁は6日、全国銀行協会の賀詞交歓会で挨拶し、「2025年も経済物価情勢の改善が続いていくのであれば政策金利を引き上げ、金融緩和度合いを調整していく」と語った。具体的な利上げの時期は「今後の経済・物価や金融情勢次第」としたうえで「様々なリスク要因を注視する必要がある」と説明した。

 12月の金融政策決定会合の主な意見でも「金融政策運営に関する意見」の筆頭につぎのような意見があった。

 「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、金融緩和の度合いを調整していく。そのうえで、金融緩和の度合いを調整するタイミングについては、様々なデータや情報を丹念に点検したうえで、判断していく必要がある。」

 この意見を言ったのは植田総裁であろう。意見そのものは変わっていない。

 6日の全国銀行協会の賀詞交歓会で挨拶では次のような発言もあったそうである。

 20日に米大統領に就任するトランプ氏の経済政策については「不確実性は大きい状況だ」と話し、慎重に見極めていく姿勢を見せた。

 12月の決定会合の主な意見でも、次のような意見が「金融政策運営に関する意見」の二番目にあった。

 「利上げ判断の焦点は、国内面では、賃金・サービス価格・個人消費の動き、海外では米国の経済と政策運営、そのもとでの金融資本市場の動向である。これらについては、賃金という面では春季労使交渉に向けた動きを、米国という面では新政権発足を確認していくのが常識的である。」

 「常識的である」という強めの発言を行ったのは誰かというのが市場関係者の話題となっていたようであるが、「米国という面では新政権発足を確認していくのが常識的である」という表現と「不確実性は大きい状況だ」との表現には整合性がある。

 「常識的である」という強めの発言を行ったのは、発言順からも執行部の可能性が高いとみている。

 ただし、12月の会合で利上げを見送ったのでその理由を示すため、あえてハト派とされる中村審議委員や野口審議委員の発言を前にしたとの見方もある。

 しかし植田総裁の「不確実性は大きい状況だ」との発言も含め、むしろ「常識的である」という強めの発言を行ったのは、執行部、つまり副総裁の可能性のほうがやはり高いとみている。

 私はこの発言をしたのはやはり内田副総裁ではないかと思う。複数の審議委員が利上げに前向きな姿勢を示していたこともあり、強めの表現をしてそれを抑制してきた可能性があったのではなかろうか。


2025年1月11日「長期金利の上昇を受けて、個人向け国債の発行額が増加中」

 12月の個人向け国債の発行額が5131億円となり、2020年4月の6200億円以来の大きさとなった。これは利回りの高さが意識されたものと思われる。

 1月発行の10年変動の初期利子は0.71%(税引き前)となり、2012年1月の0.72%以来の高さとなった。

 また、3年固定タイプの発行額が1002億円となり、こちらは2013年11月の1079億円以来の1000億円台乗せとなった。こちらの利率は0.60%となり、2010年7月に3年固定が発行されて以来、最も高い利率となった。

 5年固定タイプの発行額は1894億円となり、2017年3月の2076億円以来の多さとなった。利率は0.71%と、2009年7月の0.82%以来の高さとなった。

 昨年3月に日銀はマイナス金利政策の解除とともに長期金利コントロールを解除したことで、個人向け国債の持つ魅力がやっと出てきた格好か。

 1月に募集される個人向け国債の利子はさらに上昇しており、10年変動の初期利子は0.75%、5年固定の利子き0.77%、3年固定は0.62%となっている。

 単純に利子の高さから5年固定の方が売れる可能性はあるが、今後、長期金利(10年国債の利回り)が上昇してくると読むのであれば、10年変動タイプをお薦めしたい。

 ちなみに個人向け国債は投資入門としては最適だと考えているが、投資の勉強には不向きかもしれない。なぜならば投資には付きものの価格変動リスク、流動性リスク、そして信用リスクがほぼないためである。

 裏を返せば、それだけ有利な投資先となるということである。

 財務省は2026年度から個人向け国債の販売先を個人以外にも広げる。学校法人やマンション管理組合、中小規模の未上場企業などを検討していると報じられた。

 今後も利子の上昇が望める上、販売先の裾野が拡がることで、発行額がさらに増えることが期待される。


2025年1月10日「英国の長期金利がトラス・ショック時を超えた」

 8日の債券市場では長期金利の指標となる英10年物国債の利回りが前日比0.11%高の4.79%に上昇(価格は下落)した。2022年の「トラス・ショック」を超えて17年ぶりの高い水準となった。

 労働党のスターマー首相による予算案が財政拡大方針を掲げ、賃金上昇による根強いインフレでイングランド銀行の利下げペースが遅れることへの警戒感が出ている。政府の国債増発も重なって売られやすくなっていた。

 2022年9月に英国でトラスショックが起きたことを覚えているであろうか。

 英ポンドが対ドルで過去最安値を記録し、英国債が大きく売られたという出来事である。これがトラス・ショックと呼ばれた

 ジョンソンの党首辞任を受けて行われた保守党党首選挙で勝利し、2022年9月6日に首相に任命されたのがメアリー・エリザベス・トラス氏であった。英国で3人目の女性首相で、女王エリザベス2世に任命された最後の首相でもあった。

 トラス政権は1972年以来の大規模な減税を打ち出した。クワーテング財務相は不動産購入時の印紙税を削減。個人や企業が直面する光熱費の高騰に対し、今後6カ月間で600億ポンド(約9兆5000億円)を拠出して支援することを確認。高額所得者に対する45%の所得税最高税率を廃止し、基礎税率も20%から19%に引き下げる。ロンドンの金融街シティーに対する規制自由化も約束し、バンカーの賞与制限は撤廃する。

 英債務管理庁(DMO)は23日、2023会計年度(2022年4月〜2023年3月)の国債発行額が1939億ポンドに増額されると発表。4月時点では1315億ポンドを計画していた。

 イングランド銀行は22日に0.5%の利上げ決定を発表し、保有する英国債の市場での売却を始めると発表した。これを受けて英国債は22日に10年債利回りは3.49%と16日の3.31%から大きく上昇していたが、トラス政権の1972年以来の大型減税と国債増発を受けて、火に油が注がれた格好となった。

 23日のロンドン市場では英国債の利回りが急騰した。2年債利回りは前日より一時、0.4%あまり上昇して4%を上回り、2008年10月以来約14年ぶりの水準となった。政府債務増への懸念とともに、減税策がインフレをさらに加速させかねないとの懸念も強まったのである。


2025年1月8日「日銀の金融政策は長期金利を決めるひとつの要因に過ぎない、利上げなくても長期金利が跳ね上がっても何ら不思議ではない」

 自分が債券ディーラーだった時代(1986年から2000年)などは特に日銀の金融政策は相場を動かす材料のひとつに過ぎなかった。いまは日銀の長期金利コントロールの余波もあって日銀の動向が主要因のようにみえてしまうが、それはあくまで材料のひとつに過ぎない。

 極端な例を出すと、1998年には当時の政策金利の公定歩合が0.25%だったにもかかわらず年末に長期金利は上昇し翌年2月に2.440%を付けている(通称、運用部ショック)。本来、長期金利は日銀が決めるのではなく市場が決めるものである。

 1987年5月、大手証券のチーフディーラーが公定歩合(当時の政策金利)が高すぎると国債買いを仕掛けて長期金利が公定歩合(当時2.5%)に接近したことがあった。今回はもしや政策金利が低すぎるとして長期金利が想定以上に上昇するといったこともありうるのか。これも市場が決めることになる。行き過ぎはいずれ修正されるが、これも相場となる。

 米長期金利が5%に接近しつつあり、英国では30年物国債の利回りが1998年以来27年ぶりの高水準まで上昇した。さらに国内物価は2%台で高止まり。ファストリが新卒社員の初任給を33万円とし10%引き上げとなるなど大手企業を中心に予想以上の賃上げの動きも、円安とともにこれは物価上昇要因ともなる。

 国債の需給面では来年度のカレンダーベースでは5年国債の増額もある。日銀は淡々と国債買入を減額するなど、日本の長期金利については上昇要因が揃いつつある。日銀の政策金利が上がらずともイールドカーブがスティープ化することで長期金利が跳ね上がってもなんら不思議ではない。


2025年1月8日「長期金利は日銀が決めるのではなく市場で決まるという事実、欧米とともに日本の長期金利が上昇」

 今年に入ってからの債券市場は私にとって予想外の動きとなった。何があったのかといえば、円債が思ったよりも売られていたのである。大発会となった6日の朝に出した私の予想レンジは下記であった。

 債券先物中心限月 141円80銭〜142円30銭 10年国債利回り 1.050%〜1.100%

 ところが債券先物は141円81銭で寄り付き後、一時141円57銭まで下落したのである。そして、10年国債の利回りはこの日、1.125%まで上昇した。これは私にとっては想定外であり、これは年初からやってしまったと思った。

 この要因をいくつか考えて「日本の長期金利は1.135%に上昇、急に日銀の年内利上げを意識したかのような動きに」というコラムを書いたのだが、どうやらその見方も正しくはなかったようである。

 いまだに日銀の動向が長期金利を決めているという思い込み(ノルム)が、30年近く国債市場をみてきた私にも強く出てしまったのかもしれない。

 日銀は昨年3月に長期金利コントロールを止めている。これによって長期金利は市場で決まるという本来の姿に戻った。しかし、それでも日銀の動向を常に念頭に置くようになってしまった。

 日銀がいつ利上げするかで長期金利の動きも決まるという思い込みが強くなり、日銀は多分1月も利上げはしないはずなのに、どうして長期金利が上昇するのかという思い込みが出てしまっていた。

 もしや日銀総裁が年賀状で何か示唆でもしたのかとも思っていたが、ここにきての動きは日銀の利上げの行方といったん切り離してみるべきだと思う。

 日銀は「指値オペ」という手段は依然として保持している。だからいざとなれば日銀は長期金利を抑え込むとの見方はできるかもしれない。しかしそれは債券市場の機能を破壊するだけでなく、2022年以上に市場を混乱させかねない。

 今回の日本の長期金利の上昇要因は国外要因とし国内要因がある。国外要因としては欧米の長期金利の上昇がある。

 米長期金利は8日に一時4.73%と昨年4月25日以来の水準を付けた。5%を再びうかがうような動きとなっている。これはトランプ政権となってからのインフレや財政悪化が意識はされたものもあるが、そもそも米景気実態が悪いわけでもなく物価も高止まりしている。

 英国では30年物国債の利回りが27年ぶりの高水準まで上昇した。労働党のスターマー首相による予算案が財政拡大方針を掲げ、賃金上昇による根強いインフレでイングランド銀行の利下げペースが遅れることへの警戒感が出ている。

 いわばトラスショックに近い状況となる可能性も出てきたのである。8日の英10年債の利回りが4.79%とトラスショック時の4.5%を上回ってきている。

 これは英国ばかりではない。それが国内要因となる。

 我が国の2025年度の一般会計の総額がおよそ115兆5000億円となり、当初予算としては過去最大となっている。巨額の国債残存額も言うまでもない。

 物価も2022年4月から2%台と高止まりが続いている。これらから、いつ長期金利が跳ね上がってもおかしくはないのである。

 日銀が慎重すぎるあまり、円安ともなっていることで物価に上昇圧力が掛かりやすい。賃金も予想以上に上昇することも予想され、これも物価の上昇圧力となる。

 結果として内外の要因から日本の長期金利にも上昇圧力が掛かりやすくなっているのである。

 9日の日本の10年国債の利回りは1.185%に上昇してきたが、たぶんこんなものでは済まないのではなかろうか。

 それ以上に2年国債や5年国債の利回りが上昇しており、こちらからみれば日銀の追加利上げを織り込みにきているとの見方はたしかにできるかもしれない。

 むしろ日銀は利上げに追い込まれるとの見方も出ている可能性がある。長期金利(期間1年以上の金利)は日銀が決めるんじゃなく、市場で決めるものなのである。


2025年1月8日「2024年の金融市場を振り返る。7〜9月」

7月

 財務省は2日に入札される7月発行の10年国債(375回債)で表面利率を1.1%と6月までの0.8%から引き上げた。10年国債の利率が1%台を付けるのは2012年3月以来、1.1%となるのは2011年12月以来となる。やっと日本の10年国債の利率が1%台に戻ってきた。

 20年ぶりとなる新しい紙幣が3日に発行され、日銀から金融機関への引き渡しが始まった。紙幣のデザインの変更は、今の紙幣が発行された2004年以来、20年ぶり20年ぶり。一万円札に渋沢栄一、五千円札に津田梅子、千円札に北里柴三郎の肖像がデザインされている。

 3日に7月に募集される(7月4日〜31日)個人向け国債の発行条件等が発表された。変動10年の初回の利子の適用利率が0.72%(税引き前)となった。これは2012年1月の0.72%以来の高い水準となる。

 欧州の債券市場で長期金利が短期金利を下回る「逆イールド」が解消する動きが出始めた。9日に英国では2年債と10年債の利回りが約1年ぶりに逆転。フランスでも解消した

 11日のニューヨーク外国為替市場で、6月の米消費者物価指数の発表直後に急速に円安調整が起きて、ドル円は一時157円台半ばまで下落した。タイミングからみても介入が入ったとしてもおかしくはない。

 選挙演説中に銃撃されてけがをしたトランプ前大統領は、共和党の全国党大会で大統領候補に正式に指名され、事件後、初めて公の場で支持者の前に姿をみせた。

 岸田文雄首相は19日、長野県軽井沢町での経団連夏季フォーラムに出席した。「金融政策の正常化が経済ステージの移行を後押しする」と強調した。

 自民党の茂木敏充幹事長は22日の都内での講演で、日銀について「段階的な利上げの検討も含めて金融政策を正常化する方針をもっと明確に打ち出す必要がある」と語った。

 日銀は31日の金融政策決定会合で、政策金利である無担保コール翌日物の金利をこれまでのゼロから0.1%から、0.25%に引き上げた。実質的なゼロ金利解除ともいえる。国債の月額の買入額を2年かけて3兆円弱に引き下げることも決定した。

8月

 2日の東京株式市場では日経平均株価が2216円安となり、1987年10月20日のいわゆるブラックマンデーで3836円下げて以来の大幅な下げ幅となった。7月11日に42426円77銭まで上昇していたが、(引け値は42224円02銭)、2日のナイトセッションの日経平均先物は34800円となっており、高値から7000円近く下落した。

 5日の東京市場は強烈なポジション調整の動きに見舞われた。日経平均の引けは4451円安となり、ブラックマンデーの下げ幅を上回った。また円高も進行し、ドル円は一時141円近くまで下落した(円高ドル安)。さらに債券先物は一時前営業日比2円を超す上昇となって、9時20分にサーキットブレーカーが発動した。日経平均先物も後場にサーキットブレーカーが発動した。、10年債利回りは1%割れどころか0.75%に低下した。

 概算要求における国債の利払い費の計算に使う想定金利は2.1%にする方針とも伝えられた。2024年度予算の1.9%から引き上げる。

9月

 企業の間で使われている紙の約束手形や小切手の新たな発行を、大手銀行3行が来年度中に終了することになった。

 16日のアジア市場の取引時間帯にドル円は一時140円を割り込み、139円58銭近辺と2023年7月以来およそ1年2か月ぶりの円高ドル安水準を付けた。

 欧州中央銀行(ECB)は12日の理事会で政策金利を0.25%引き下げると決めた。利下げは6月に開始してから2会合ぶりとなる。

 米連邦準備理事会(FRB)は18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)において、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.5%引き下げ、4.75〜5.00%とした。

 日本国債の先物取引で相場操縦をしたとして、証券取引等監視委員会が25日、野村証券に2176万円の課徴金納付を命じるよう金融庁に勧告した。


2025年1月7日「日本の長期金利は1.135%に上昇、急に日銀の年内利上げを意識したかのような動きに」

 新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

 大発会の6日の債券市場では、私にとって予想外の動きとなった。ちなみに大発会とは証券取引所における年初の最初の取引日のことであり、主に株式市場で使われる表現ではある。しかし、債券先物は大阪取引所に上場されていることもあり、特に証券会社などでは債券市場関係者も「大発会」という表現を使っているかと思う。

 それで何があったのかといえば、円債が思ったよりも売られているのである。ちなみにこの日の朝に出した私の予想レンジは下記であった。

 債券先物中心限月 141円80銭〜142円30銭 10年国債利回り 1.050%〜1.100%  ところが債券先物は141円81銭で寄り付き後、一時141円57銭まで下落したのである。そして、10年国債の利回りはこの日、1.125%まで上昇した。これは私にとっては想定外であり、これは年初からやってしまったと思った。

 10年債利回りは27日の引け後に1.110%に上昇しており、2011年7月以来、13年5か月ぶりの水準となったが、その1.110%をあっさり抜いてきたのである。

 明日7日に10年国債の入札があるため、そのヘッジとの見方もできるかもしれないが、5年国債なども同様に売られていた。5年国債の利回りは一時0.780%と2009年6月以来およそ15年半ぶりの水準に上昇したのである(国債の価格が下落すると利回りが上昇する)。これは債券先物の下落に引きずられた面もあろうが、中期ゾーンの利回り上昇も気になるところとなった。

 円債の下落要因としては、7日の10年国債入札動向以外に、来年度のカレンダーベースの国債発行計画で5年国債が今年度と比べ1.2兆円増発されることなども嫌気かとの見方もあった。また、日銀の国債買入も5年超10年ゾーンが減額され、需給面が意識された可能性はある。ただし、これは昨年末には明らかとなっていた。何を今更感がないともいえない。

 また6火の東京時間の米10年債利回りが4.62%と3日の4.60%から上昇していたことも要因のひとつであったかもしれない。

 ただし、それよりもやはり日銀の金融政策に目が向けられているのではないかと私は思った。

 27日に10年国債が1.110%を付けたこともやや不可解な面があった。これは12月の金融政策決定会合の主な意見などから1月も利上げはスキップされる可能性があったためである。

 6日に日銀の植田総裁は講演で、『20日に米大統領に就任するトランプ氏の経済政策については「不確実性は大きい状況だ」と話し、慎重に見極めていく姿勢を見せた』。1月の決定会合は23、24日であり、米国政治の不確実性を考えれば、常識的には1月の会合での利上げは見送られると見ざるを得ない。だから市場で落ち着いていた12月むに利上げすべきと私は考えていたのだが。

 それでもここにきての債券市場の動きをみると、米長期金利は今後さらに上昇してくる可能性とともに、日銀が1月23、24日の決定会合での利上げの可能性を捨てきれずにいるとみていたほうが良いのかもしれない。もしくは債券市場が1月になくとも年内2回程度の利上げを織り込んできつつあるとみるべきなのか。

 7日の10年国債の利回りは1.135%に上昇した。債券先物の動きも不安定である。10年国債入札への懸念もあるとはいえ、いったい市場は何を気に掛けているのであろうか。


2024年12月29日「10月の日銀金融政策決定会合の議事要旨より」

 日銀は24日に、10月30、31日に開催された日銀金融政策決定会合の議事要旨を公表した。このなかの「金融政策運営に関する委員会の検討の概要」のところを確認してみたい。  この会合では全員一致で金融政策の現状維持を決めた。

 「一人の委員は、内外における不確実性の高まりを踏まえると、金融政策をより慎重に運営していく必要があり、今回は現状維持が適切と指摘した。」

 最初の意見者なので植田総裁の発言かと思われるが不確実性というのは常に高い。しかし、たとえば12月の決定会合前後では、その不確実性が後退していたとも思われるのだが。

 「何人かの委員は、これまでの政策金利引き上げの経済・物価への影響も見極める必要があると指摘した」

 米国ではFRBが2023年には1月、2月、3月、5月、7月に利上げを決定していたが、いったいどの程度の期間を掛けて見極める必要があるのか。

 「このうちの一人の委員は、過去30年間、0.5%を上回る政策金利を経験してこなかったわが国では、いわゆる金利のある世界への移行には、相応の不確実性があるため、政策金利引き上げの判断は時間をかけて慎重に行う必要があるとの見解を示した。」

 時間を掛ける必要性の理由はこれであろうが、慎重過ぎるのも市場に妙な安心感を与えかねず、たとえば予想以上に円安が進行するなどの副作用も出てくる。市場に対しては利上げの可能性ありという緊張感を与える必要もあるのではなかろうか。

 「この間、ある委員は、経済・物価が想定通り推移する場合、早ければ 2025年度後半に 1.0%の水準まで段階的に利上げしていくパスを前提とすれば、経済・物価の進捗を見守る時間が今回はあるとの認識を示した。」

 これは12月の決定会合で反対意見を出した田村委員の意見かもしれない。 2025年度後半に 1.0%の水準まで段階的に利上げしていくというパスを前提とすれば、12月の0.5%への利上げが適切であったはず。

 その後、2025年の前半に0.75%、夏の参院選を挟んで、後半に1.0%への引き上げが想定されたのだが。

 「別の一人の委員は、経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げていくというコアメッセージを、しっかりと発信していくことが、市場とのコミュニケーションという観点からも重要であるとの認識を示した。」

 コアメッセージというか「利上げ」をすることで、その姿勢を12月に示すべきであった。

 何故、12月のタイミングで利上げをしなかったのか。市場はこれで今後の利上げは困難との見方すら出ているのだが。もし来年、利上げをするのであればしっかりしたメッセージを伝える必要が出てくる。


2024年12月29日「どうして日銀は12月に利上げをしなかったのか、part2」

 18、19日に開催それた日銀の金融政策決定会合の主な意見が公表された。どうして今回、利上げが見送られたのかをこちらからも探ってみたい。

 「利上げ判断の焦点は、国内面では、賃金・サービス価格・個人消費の動き、海外では米国の経済と政策運営、そのもとでの金融資本市場の動向である。これらについては、賃金という面では春季労使交渉に向けた動きを、米国という面では新政権発足を確認していくのが常識的である。」

 これはたぶん内田副総裁からの意見であるかと思う。

「常識的である」という部分が気になるが、「賃金という面では春季労使交渉に向けた動き」、そして「米国という面では新政権発足を確認して」という点が強調されている。

 春季労使交渉については、集中回答日に当たる「ヤマ場」が3月中旬あたりとなる。また、次回の決定会合は1月23日、24日となり、トランプ大統領が就任する20日直後となる。

 このため、利上げが次回あるとしても1月ではなく、常識的であるの意見者からは、3月の可能性が高いということであろうか。

 「先行き、国内における税制・財政を巡る議論の行方や、来年初に米国で発足する新政権の政策スタンスに、大きな不確実性がある。そのため、リスクマネジメントという観点から、今回は、金融政策は現状維持とすることが適切だと考える。」

 これも12月に見送られた理由のひとつかもしれない。ただし、19日時点である程度、来年度予算編成の行方には目途が立っていた可能性はある。

 「物価のアップサイドリスクについては、現状では、利上げの切迫した理由にはなっていない。輸入物価は落ち着いており、円キャリーが積み上がる状況でもない。」

 どうもこの発言者、利上げは追い込まれないとしないものという認識なのかと。淡々と利上げはしていくものであり、12月は市場も落ち着いていたのでむしろチャンスだという認識が常識的ではないかと。

 「経済状況の進展がオントラックである場合、政策金利調整のタイミングは、目標達成時点から逆算した利上げペース配分と、それぞれの時点での上下リスク状況という二つの要因に依存すると考える。そうした観点からは、今回は現状維持が適当である。」

 そのタイミングは12月でもおかしくはなかったように思うのだが。この方はある程度のスケジュール感を持っているということであろうか。

 「大・中堅企業や比較的規模の大きい中小企業の労働分配率が低下し明るい兆しもみえるが、まだ多くの中小企業の稼ぐ力の改善は力強さに欠ける。また、海外経済は欧州・中国の回復の遅れ、米国の経済政策動向等、不確実性が高い。経済改善の進捗をデータで確認する必要があるため、当面は現状の金融政策を維持することが適当である。」

 要はオントラックではないということななのか。

 「経済と物価は、本年3月時点の見通しからオントラックである。海外経済を巡る不確実性も変わりなくあるが、金融緩和の度合いを調整することができる状況である。」

 こちらの方はオントラックだと。今回、利上げを提示した田村委員か。

 「ビハインドザカーブに陥るリスクは限定的だが、基調的な物価は着実に底上げされている。利上げを判断する局面は近いが、現段階では、米国経済の不確実性が一巡するのを今しばらく注視する辛抱強さも必要である。」

 もしかすると12月の利上げ賛同派がもうひとりいたのかもしれない。

 「金融政策のアクセルを少しだけ緩め、必要な場合に急ブレーキを避けつつ減速できるようにすることが必要な局面にある。」

 同一発言者の複数意見が掲載される場合もあると思うが、たぶん利上げ派はもう一人いたようだ、

 「経済・物価が見通しに沿って推移する中、物価上振れリスクが膨らんでおり、データやヒアリング情報に基づいてフォワードルッキングに、適時・段階的に金融緩和の度合いを調整していくことが、物価の安定を通じて、国民経済の健全な発展に資する。」

 さらにもう一人いたようだ。

 「物価上昇が3年続くなか、円安進行等に伴う輸入物価の上昇が、基調的な物価の一段の底上げや「物価安定の目標」実現に繋がるだけに、前もって金融緩和度合いの調整を行うことも必要である。」

 あれっ、さらにもう一人、、、。

 「現実的なスケジュールでの利上げによる本行財務の影響は限定的であり、本行財務の健全性は保たれることを示す必要がある。」

 利上げによる本行財務の影響は限定的であり、やらない理由にはならないと。

 どうやら主な意見を見る限り、2007年1月の金融政策決定会合と同様の雰囲気であったのかもしれない。

 2007年1月も0.5%への利上げ機運が高まり、審議委員3名が0.5%への利上げを議案提示したが否決された。今回も同様に審議委員の間に追加利上げ機運が高まるも執行部に「常識的判断」ではないと一蹴されてしまった可能性がある。

 利上げ賛成派がもしや半数近くいたとして、これで1月に利上げかとみるのか。「常識的である」の意見者(たぶん執行部)の意見からは1月ではなく3月を想定しているようにも思われる。1月の決定会合の結果が果然、面白くなってきた。


2024年12月27日「どうして日銀は12月に利上げをしなかったのか」

 12月19日の金融政策決定会合で日銀は8対1の賛成多数で、金融政策の現状維持を決定した。

 一時は市場参加者の多くが利上げありとみていたが、11日の夕のブルームバーグの日銀は利上げ急がずとの記事を受け、利下げ見送りかとの見方が強まり、実際に利上げは見送られた。

 私は7月の利上げを確認して次は12月かとみていたが、その予想は外れた。どうして日銀は12月に利上げを見送ったのか。

 これについては19日の植田総裁の会見でもその理由が述べられていたが、それを違う確度から探ってみたい。

 12月の会合では、これまでみられなかったことが一つ起きていた。田村委員が反対票を投じていたのである。

 正確に言えば田村委員は、経済・物価が見通しに沿って推移する中、物価上振れリスクが膨らんでいるとして、無担保コールレート(オーバーナイト物)を0.5%程度で推移するよう促すとする議案を提出し、反対多数で否決された。

 田村委員は0.5%への利上げを主張していたのである。実は同じようなことが2007年1月の金融政策決定会合で起きていた。

 議長案(当時の議長は福井総裁)が現状維持なのに対して、須田委員・水野委員・野田委員から、無担保コールレート翌日物を0.5%で推移するよう促すとの議案が提出された。つまり0.5%への利上げ案が出されたのである。このときも採決の結果、反対多数(3対6)で否決された。

 結局、次の2月の金融政策決定会合で0.5%への利上げが決定された。

 どうして田村委員は12月の会合で利上げを主張したのか。それは中立金利への見方が影響していた可能性がある。

 田村委員は9月の講演で、中立金利について、「私は、最低でも1%程度だろうとみており、したがって2026年度までの見通し期間の後半には少なくとも1%程度まで短期金利を引き上げておくことが、物価上振れリスクを抑え、物価安定の目標を持続的・安定的に達成する上で、必要だと考えています」と述べていた。

 中立金利について植田総裁は、25日の講演で図のように述べていた。

 「日本銀行は、2%目標の持続的・安定的な実現に向けた移行期にあたる現時点においては、景気・物価に中立的となる中立金利よりも政策金利を低くすることにより緩和的な金融環境を維持し、経済をしっかりとサポートしていく、ということです。」

 つまり現在の移行期には「中立金利よりも政策金利を低くすること」が必要になるのであれば、今回の利上げの到達点は中立金利が1%と仮定すると0.75%までという見方もできる。

 また、日銀が想定している中立金利は0.75%近辺かとの見方も出ている。

 そうであれば12月の利上げは見送って、2025年内に2回程度の利上げで0.75%に引き上げるとの見方も出てくる。

 田村委員は2026年度末までにとしていたが、少なくとも最低で1%程度まで政策金利を引き上げるのであれば、市場も落ち着いていた12月に行ってしかるべきとみていたのではなかろうか。


2024年12月26日「2024年の金融市場を振り返る。4〜6月」

4月

 4月12日に金(ゴールド)の国際価格が最高値を更新した。

 15日のニューヨーク市場で154円45銭まで上昇し、1990年6月以来、約34年ぶりの高値を更新した。つまり1990年6月以来の円安水準となった。

 日経平均株価は1989年末の最高値を34年ぶりに更新した。米国株式市場でも主要3指数が過去最高値を更新し、欧州の株式市場でも主要指数が過去最高値を更新していた。

 ユーロ円は一時166円90銭と2008年以来の円安ユーロ高水準を付けている。2008年のユーロ円の最高値は169円77銭とまだ多少距離はあるものの、そこを窺う可能性も出てきた。

 昭和の日の休日で東京市場が休場だった29日に、ドル円は一時160円24銭と1990年以来の高値を付けた。

5月

 FRBは1日、FOMCを開いて政策金利の据え置きを全会一致で決めた。金利据え置きは6会合連続となる。

 日本銀行の植田総裁は7日の夕方に、首相官邸で岸田首相と会談し、為替が経済物価に与える影響などについて議論した。

 日銀は13日の国債買い入れで一部のオファー額を減額した。残存期間5年超10年以下対象が4250億円と前回の4月24日の4750億円から500億円減額した。3月に日銀がイールドカーブ・コントロールを解除してから初めての買い入れ減額となった。

 20日のロンドン金属取引所(LME)の銅相場は一時、過去最高値を更新した。

 日銀は21日、社債の買い入れオペ(公開市場操作)を通知した。買い入れ額を250億円減額し、これまでの1000億円から750億円にした。

 22日に10年国債の利回り(長期金利)は、2013年5月以来およそ11年ぶりに1%を付けてきた。

6月

 欧州中央銀行(ECB)は6日に開いた理事会で、政策金利を0.25%引き下げることを決めた。利下げは2019年9月以来、4年9か月ぶりとなる。

 28日の9時50分過ぎに、ドル円が大きく動いた。160円70銭台から5分足らずの間に161円10銭台に上昇した。


2024年12月25日「9月末時点の日本国債の保有者」

 日銀は12月18日に2024年第3四半期の資金循環統計(速報)を発表した。

資金循環統計(速報)(2024年第3四半期) https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sj.htm

 9月末の個人の金融資産額は2179兆3763億円となり、9月末から減少し8四半期ぶりに減少した。個人の金融資産の内訳は現金・預金が前年比で0.3%増の約1116兆円。株式等は同7.2%増の約285兆円、投資信託は同23.3%増の約125兆円となっていた。

 これを基にして国債(短期を除く)の保有者別の内訳を算出してみた。2024年9月末時点の国債残高は1081兆4946億円となっていた(この統計では時価総額となっている)。保有者別の内訳は下記の通りとなる。

中央銀行(日銀)、569兆3306億円、52.6%
保険・年金基金、223兆8957億円、20.7%
預金取扱機関(銀行)、99兆1703億円、9.2%
海外、70兆4615億円、6.5%
公的年金、60兆9030億円、5.6%
家計、14兆5493億円、1.3%
その他、43兆1842億円、4.0%

 日銀の国債保有比率は52.6%と前回の53.2%から低下した。前期比での保有額そのものは約4.5兆円増となっていたが、統計が時価総額となっている点にも注意。

 海外が5.6兆円増、保険・年金基金が3.7兆円増、預金取扱機関が約1.7兆円増となっていた。

 短期債を含めた国債全体の数字でみると9月末の残高は約1224兆円。このうち日銀が約572兆円で46.7%のシェアに。海外勢の残高は約146兆円と短期債を含めると国債全体の12.0%のシェアとなっていた。

 日銀は7月31日の金融政策決定会合にて、長期国債買入れの減額について月間の長期国債の買入れ予定額を原則として毎四半期4000億円程度ずつ減額し、2026年1〜3月に3兆円程度とする計画を決定した。8月1日以降に減額がスタートしている。


2024年12月24日「1985年以降の日銀の金融政策の変更の回数」

1985年以降の日銀の金融政策の変更の回数
1986年
1月 日銀、公定歩合引下げ、0.5%引下げ4.5%に
3月 日銀、公定歩合引下げ、0.5%引下げ4.0%に
4月 日銀、公定歩合引下げ、0.5%引下げ3.5%に
11月 日銀、公定歩合引下げ、0.5%引下げ3.0%に

1987年
2月 日銀、公定歩合引下げ、0.5%引下げ2.5%に

1989年
5月 日銀、公定歩合を0.75%引上げ3.25%に
10月 日銀、公定歩合を0.5%引上げ3.75%に
12月 日銀、公定歩合を0.5%引上げ4.25%に

1990年
3月 日銀、公定歩合を1.0%引上げ5.25%に
8月 日銀、公定歩合を0.75%引上げ6.00%に

1991年
7月 日銀、公定歩合を0.5%引下げ5.5%に
11月 日銀、公定歩合を0.5%引下げ5.0%に
12月 日銀、公定歩合を0.5%引下げ4.5%に

1992年
4月 日銀、公定歩合を0.75%引下げ3.75%に
7月 日銀、公定歩合を0.5%引下げ3.25%に

1993年
2月 日銀、公定歩合を0.75%引下げ2.5%に
9月 日銀、公定歩合を0.75%引下げ1.75%に

1995年
4月 日銀、公定歩合を0.75%引下げ1.00%に
7月 日銀、当面の金融調節方針についてを発表
9月 日銀、公定歩合を0.5%引下げ0.5%に
   短期市場金利を新たな公定歩合をある程度下回る水準まで引き下げ

1999年
2月 日銀、ゼロ金利政策

2000年
8月 日銀ゼロ金利政策を解除

2001年
3月 日銀、日銀当座預金残高に操作目標を変更(量的緩和政策)

2006年
3月 日銀、量的緩和政策を解除
7月 日銀、ゼロ金利政策を解除。無担保コール翌時物金利の誘導目標0.25%に引き上げ

2007年
2月 日銀、無担保コール翌時物金利の誘導目標を0.50%に引き上げ

2008年
10月 日銀、無担保コール翌日物金利の誘導目標値を0.5%から0.3%に引き下げ
12月 日銀、無担保コール翌日物金利の誘導目標値を0.3%から0.1%に引き下げ

2009年
12月 日銀、臨時の金融政策決定会合を開き、追加の金融緩和策を決定

2010年
8月 日銀、臨時の金融政策決定会合を開催、新型オペの拡充策を決定
10月 日銀、包括緩和策を決定。実質的なゼロ金利政策を再開

2011年
3月 日銀は追加緩和を決定し資産買い入れ基金を総額5兆円から10兆円に拡充
8月 日銀は追加緩和を決定し資産の買入れを10兆円から15兆円に
10月 日銀は追加緩和を決定、資産買入れ等の基金を5兆円程度増額し55兆円程度に

2012年
2月 資産買入等の基金をこれまでの55兆円程度から65兆円程度に10兆円増額
4月 日銀は資産買入等の基金を5兆円程度増額し、国債買入は10兆円の増額に
9月 資産買入等の基金を70兆円程度から80兆円程度に10兆円程度増額
10月 日銀は資産買入等基金の規模を11兆円増額、貸出支援基金を設立、政府と日銀の共同文書を公表
12月 日銀は資産買入等の基金を101兆円程度に10兆円程度増額

2013年
4月 日銀は量的・質的金融緩和を導入

2014年
10月 日銀は量的・質的緩和の拡大を決定

2015年
12月 日銀の金融緩和の補完措置を決定

2016年
1月 日銀はマイナス金利付き量的・質的緩和の導入決定
9月 長短金利操作付き量的・質的金融緩和を決定

2020年
4月 日銀は追加緩和策を決定、CP・社債等の追加買入枠を大幅に拡大

2021年
3月 日銀は金融政策決定会合で、長期金利の変動幅は±0.25%程度であることを明確化

2022年
3月 日銀は追加の政策を実施。連続指し値オペを実施すると発表
4月 日銀の連続指し値オペの毎営業日化
12月 日銀は2長期金利の変動幅を従来の±0.25%程度から±0.50程度に拡大

2023年
7月 日銀は実質的に長期金利コントロールの上限を1%に引き上げ

2024年
3月 マイナス金利政策解除
7月 政策金利を0.25%に引き上げ

以上のデータから政策変更の回数
1月 2
2月 5
3月 8
4月 7
5月 1
6月 0
7月 6
8月 4
9月 4
10月 6
11月 2
12月 7

 一部修正が抜けていることや(前回量的緩和時)、2016年1月から決定会合の回数が8回に減少していることなども配慮する必要はある。


2024年12月23日「米長期金利が再上昇、5%が視野に」

 米10年債利回りは11月14日の4.45%が目先ピークとなり、その後は低下基調となっていた。12月6日には4.1%台に低下した。

 12月3日にクーグラーFRB理事は、インフレ率は2%への持続可能な道筋にあると述べた。シカゴ連銀総裁は来年にかけて金利は今より下がるだろうと従来の見方を示した。

 しかしその後は再び上昇し、16日には4.4%台にまで回復基調となっていた。

 3日に発表された米地区連銀経済報告(ベージュブック)では、11月に入って経済活動が若干拡大し、米企業は需要見通しについて楽観を強めたと指摘していた。

 6日に発表された11月の米雇用統計では、非農業雇用者数が前月比22.7万人増と予想を上回った。失業率は10月の4.1%から4.2%に上昇、平均時給の伸び率は予想を上回った。

 FRBのボウマン理事は政策金利の引き下げは緩やかかつ、慎重に進めたいと述べた。このあたりから米債の地合が変化してきた。

 11日に発表された11月の米消費者物価指数は、前年同月比の上昇率が2.7%となった。市場予想通りではあったが、2か月連続で加速。

 12日に発表された11月の米卸売物価指数は前年同月比3.0%上昇と前回の2.6%上昇から加速した。

 米雇用の改善とともに物価の高止まりが意識されてきた。これを受けて来年に入ってから、FRBは利下げをいったん停止するのではないかとの観測が強まった。

 さらにトランプ次期大統領の関税などの政策が、さらなる物価の上昇要因となることが予想される上に、米財政を悪化させるとの懸念を強めさせた。

 トランプ第1次政権時(2017年1月〜2021年1月)でも減税と関税の引き上げが行われたが、そのときは問題になるようなインフレの上昇は起こらなかった。

 だから今回も起こらないとの見方はむしろ危険である。2022年以降、世界的な物価上昇が引き起こされたことで物価そのものを取り巻く環境が変化した。

 さらに米経済も底堅い状況となっているなかで、やっと落ち着くかに見えた物価上昇が再燃するリスクはむしろ高いと思われる。

 米長期金利の上昇は、今後の物価上昇のリスクとともにFRBの利下げ中止を見込んでの動きとみられる。

 昨年10月に米長期金利は5%近くまで上昇したが、そこがピークとなって跳ね返された。今後再び米長期は金利が5%をトライしてくる可能性もないとはいえなくなってきた。

 物価上昇だけでなく、財政悪化も加わるとスパイラル的な米長期金利上昇が起きる懸念も出てくる。

 2022年秋に英国で当時のトラス政権が成長戦略を発表した際に発生した金融市場の混乱、いわゆるトラスショックの米国版が起きる懸念も出てこよう。


2024年12月23日「日銀は動かず、円安が進行」

 19日の日銀金融政策決定会合では、金融政策の現状維持を8対1の賛成多数で決定した。

 田村委員は経済・物価が見通しに沿って推移する中、物価上振れリスクが膨らんでいるとして、無担保コールレート(オーバーナイト物)を0.5%程度で推移するよう促すとする議案を提出し、反対多数で否決された。

 私は田村委員と同様に0.5%への利上げを望んでいたが、結果として多くの市場参加者が予想していたように現状維持となった。

 会合後の会見で植田総裁は、利上げにはもうワンノッチ必要と発言していた。そのワンノッチが本当は何であったのであろうか。

 市場参加者の多くは12月の利上げありとみていたが、11日のブルームバーグなどの日銀は利上げ急がずとの記事を受けて様相が変わった。

 これはブラックアウト期間前の記者レクによる記事とみられ、同様の記事が何社からか出ていた。

 結果として日銀は利上げに慎重となっていたのである。

 1月についてもトランプ就任直後であり、よりトランプリスクが高まりかねないことから今以上に不透明感を強めることが予想される。

 FRBが利下げに慎重となり、日銀が利上げに慎重となったことで、ドルを買って円を売る動きが強まった。植田総裁の会見中にドル円は11月につけた156円74銭近辺を突破した。

 チャート上からはドル円は再び160円台を目指すことも予想される。ある意味、日銀というか総裁会見の内容は、投機筋に燃料を投下したような格好となった。

 総務省が20日発表した11月の消費者物価指数は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が前年同月と比べて2.7%上昇した。

 3か月ぶりに伸び率が拡大した。要因として政府による電気・ガス代補助が縮小したエネルギーや生産コストが上がったコメの上昇があった。

 ただし、ここにきての物価の伸び率拡大は日本に限ったものではなく、欧米でも同様の動きとなっている。

 それがFRBの利下げ慎重姿勢のひとつの要因ともなっている。

 日本に関しては物価の高止まりにもかかわらず、日銀が利上げを躊躇していることで、円安圧力もかかり、当然これも物価に反映されることになる。

 「べき」論で言わせてもらえば、今回日銀は利上げをすべきであった。これを逃すと本当に利上げが困難となりかねない。

 金利が付かなければ、日銀に代わって国債保有を期待される銀行などの食指が動かなくなる懸念も出てこよう。


2024年12月20日「さてどうする日銀」

 FRBは18日開いたFOMCで政策金利である政策金利の指標であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を4.2〜4.5%とし0.25%引き下げた。利下げは3会合連続となる。

 決定は賛成が11人、反対が1人だった。クリーブランド連銀のハマック総裁は政策金利の据え置きを主張して反対票を投じた。

 この利下げについては市場予想の通りとなり、市場参加者が注目していたのは今後の利下げの行方となった。

 FOMC参加者による経済見通し(ドットチャート)の中央値は2025年の利下げ回数が前回見通しの0.25%の利下げを4回から2回に減った格好となった。

 パウエル議長は記者会見で「新しい局面に入った」と述べ、今後の利下げは慎重に判断していく姿勢を示した。

 市場参加者は来年の利下げ回数を4回から3回に減らすと見ていたようで、FRBが予想以上に利下げに慎重になるとの見方から、米債には売り圧力が掛かった。

 18日の米10年債の利回りは4.52%とあっさりと4.5%台を付け、目先の節目を上回ってきた。チャートからは次の節目は4.7%近辺となるが、再び5%をトライしてくる可能性も出てきた。

 この米長期金利の上昇もあり、外為市場ではドル円が155円に接近してきた。

 米国株式市場では、長期金利の上昇も嫌気されてダウ工業株30種平均は前日比1123ドル03セント安の4万2326ドル87セントで引けた。下げ幅は2022年9月以来、約2年3か月ぶり。10日続落は1974年以来、約50年ぶりとなった。

 NHKは19日の朝、「日銀としては、このあとの金融市場の反応しだいでは政策対応が必要になる可能性もあり、直前まで情勢を分析したうえで慎重に判断する見通しです」と伝えた。

 日銀としてはかなり難しい選択を迫られる可能性がある。

 個人的には今回、利上げありとみているが、市場では利上げ無しとのムードが強まっている。タイミングとすれば来年1月より今回すべきだと思う。時間を置くとさらに不透明感が強まることもありうる。

 ということで、昨日の米国市場の動きが日銀にどのような影響を与えうるのか。

  8月5日の株価急落が連想される可能性もある。

 ダウ平均の急落もあり、19日の東京株式市場も下落し日経平均は一時、700円を超す下げとなったが、円安もあってかその後下げ幅を縮小させている。

 さらに注目すべきは円安となる。

 FRBが利下げに慎重となる上、トランプ次期大統領の政策によってインフレが再加速し、さらに財政悪化が意識されると、米長期金利が予想以上に上昇してくる懸念もある。

 ここに日銀は利上げに慎重との意識も加わると、円安が加速され160円を目指すような動きともなりかねない。

 日銀が0.25%の利上げをしたところで大きな流れは止められないとの見方もあるかもしれない。しかし、日銀が着実に利上げを行う姿勢を示すことで、市場では円売りに慎重になることも考えられるのである。

 さてどうする日銀。


2024年12月19日「米ダウ平均は50年ぶりの10営業日連続下落」

 18日の米国株式市場でダウ工業株30種平均が10営業日連続で下落した。10日続落は1974年以来、50年ぶりとなった。

 今回、ダウ平均の下落が始まったのは12月5日からである。12月4日にダウ平均は初の45000ドル台乗せとなり、達成感が出たことなどからの利益確定売りがまず入ったものと思われる。

 このタイミングで米国の長期金利が再上昇してきたことも影響した。

 米10年債利回りは11月14日の4.45%が目先ピークとなり、その後は低下基調となっていた。12月6日には4.1%台に低下したがここが目先のボトムとなったのである。

 6日に発表された11月の米雇用統計では、非農業雇用者数が前月比22.7万人増と予想を上回った。失業率は10月の4.1%から4.2%に上昇、平均時給の伸び率は予想を上回った。

 FRBのボウマン理事は政策金利の引き下げは緩やかかつ、慎重に進めたいと述べた。このあたりから米債の地合が変化してきた。

 11日に発表された11月の米消費者物価指数は、前年同月比の上昇率が2.7%となった。市場予想通りではあったが、2か月連続で加速。

 12日に発表された11月の米卸売物価指数は前年同月比3.0%上昇と前回の2.6%上昇から加速した。

 米雇用の改善とともに物価の高止まりが意識されてきた。これを受けて来年に入ってから、FRBは利下げをいったん停止するのではないかとの観測が強まった。

 米長期金利は上昇を続け、17日にはFRBが来年の利下げに慎重姿勢を示したこともあり、4.5%台に上昇していた。

 また、米医療保険大手ユナイテッドヘルス・グループの株が大きく下落していたことが、ダウの下落要因ともなっていたのである。

 4日には保険会社ユナイテッドヘルスケアの最高経営責任者(CEO)だったブライアン・トンプソン氏が投資家向け経営戦略説明会の当日朝にニューヨーク・マンハッタンで射殺された。

 犯人の手記には保険業界に対する批判が記されていた。保険金請求の拒否件数増加や薬価・医療サービス価格の高騰は社会問題になっていたこともありこの事件を機に不満が噴出し、それが株価にも影響した。

 50年ぶりの10営業日の下落が何を意味するのか。たまたまであったのかもしれないが、株価指数が最高値を更新するなどしていたこともあり、FRBの来年の利下げ停止観測などもあり、いったん達成感が強まることも予想される。


2024年12月18日「何故、貸金庫に現金が」

 三菱UFJ銀行は16日午後、元行員が貸金庫から顧客の現金などを窃盗していた問題で記者会見を開いた。半沢淳一頭取は会見の冒頭で「ご迷惑、ご心配をおかけしたことを心よりおわび申し上げる」と陳謝(16日付日本経済新聞)。

 これまでに練馬支店と玉川支店でおよそ60人の顧客が被害にあった可能性が高いとしています。銀行が16日明らかにしたところによると、これらの顧客を除く練馬支店と玉川支店のおよそ1700人の顧客に貸金庫の中身の確認を依頼した結果、およそ7割の人が支店で直接確認を行い、このうち数十人から被害の可能性があるという申し出があった(16日付NHK)。

 むろん信用が根幹にある銀行業務であってはならないことであるが、この事件で興味深い点は貸金庫の中身であった。

 貸金庫に入れることができるのは株券などの有価証券のほか、預金通帳や権利書、それに宝石などの貴重品となっている。

 年間の使用料はボックスのサイズに応じて1万5000円から3万円程度となっている。ただし借りるのには審査が必要のようで、誰もが自由に使えるものではないらしい。

 今回問題となりそうなのはその中身である。

 東洋経済の記事に「関係者によると、元行員が盗み取った多くは現金だった」とあった。

 現金は通常、貸金庫に入れることができないはずである。しかし、銀行側としても何を入れているのかまでは完全にチェックしていないようで、現金が大量に保管されていた可能性がある。

 この事件を聞いて、思い浮かべたのが昭和61年の金丸脱税事件である。この際に使われていたのが「ワリコー」や「ワリシン」などと呼ばれた割引金融債であった。

 割引金融債とは当時の日本興業銀行などが発行していた額面金額から一定額を差し引いた価格で購入できる金融債のことである。発行する金融機関に行って購入するが、無記名のまま現物の証券を保有することができた(当時)。

 これを使って所得隠しを行っていたのが金丸脱税事件である。ただし、いまは券面の発行は行っておらず、税制等が変わったこともあり、この手段は使えない。

 その代替手段のひとつとして貸金庫が使われていた可能性もあるか。

 日本では数十兆円規模のタンス預金が存在すると言われている。利子も付かないので面倒な預金よりも現金で持つという人もいたかもしれないが、それにはそれで保管リスクが伴う。

 現金には割引金融債の券面と同様に匿名性があり盗まれると発見は困難になる。それはまた、現金の保有に至る経路の確認が難しくなるという側面もある。

 安全に、しかも匿名性を生かす手段として、安全性が高いはずの銀行の貸金庫が使われていた可能性がある。

 また、銀行預金では1金融機関ごとに預金者1人あたり元本1000万円までと破綻日までの利息等は保護されるが、それ以上の金額は保護されない。このため1000万円を超す金額は貸金庫を使っていたという可能性もある。

 今回そういった貸金庫内の現金が主に狙われたということではなかろうか。


2024年12月17日「2024年の金融市場を振り返る。1〜3月」

1月

 2024年1月1日午後4時10分ごろ、石川県能登地方を震源とする最大震度7の地震が発生し、大きな被害が出た。岸田首相(当時)は5日、能登半島地震の被災地支援のために2024年度予算案で予備費を積み増すよう財務相に指示した。

 1月11日の東京株式市場、日経平均株価は4日続伸となり、節目の35000円を一時上回って推移した。日経平均が取引時間中に35000円台をつけるのは1990年2月22日以来、33年11か月ぶりとなる。

 19日に公表された2023年平均の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)は前年比3.1%上昇となった。3.1%の上昇幅は1982年に並び41年ぶりの高い伸びとなった。

 19日の米国株式市場ではダウ工業株30種平均は続伸し、前日比395ドル19セント高の3万7863ドル80セントと1月2日以来の過去最高値更新となった。

 23日の日銀の金融政策決定会合の結果は予想通りの現状維持。公表文の「必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。」との、いわゆるフォワードガイダンスの修正もなし。

 ただし「角度が少しずつ高まっているという表現」が追加された。31日に公表された主な意見で正常化への地均しが意識され、3月の日銀決定会合でマイナス金利解除の可能性が強まった。

2月

 2月13日付の日本経済新聞の記事、「マイナス金利解除、政府に容認意見 脱デフレと切り分け」のなかで、政府内にマイナス金利解除を容認する考えが広がってきたとあった。

 財務省は14日、脱炭素資金を調達する「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」の10年債入札を初めて実施した。

 中国の10年物国債(ベンチマーク債)の利回りは、2月29日に一時2.341%まで低下(債券価格は上昇)した。LSEGでデータを取得できる範囲でこれまで過去最低だった2002年6月5日の2.352%を約22年ぶりに下回った。

3月

 日経平均は4日に初の4万円台に乗せた。

 日銀は19日の金融政策決定会合で、金融政策を異常な緩和状態から普通の緩和政策に戻すという、いわゆる正常化を決定した。

 今回の政策変更の柱は3つある。ひとつは政策金利を日銀当座預金の付利の一部に課せられたマイナス0.1%から、無担保コール翌日物の金利の戻しそれをゼロから0.1%とし、いわゆるマイナス金利を解除して、ゼロ金利政策となる。

 もうひとつは長期金利コントロールを含めたイールドカーブコントロールを廃止する。ただし、これまでと概ね同程度の金額3で長期国債の買入れを継続する。また、指値オペも残すようだが、こちらは早く引っ込めてほしい。

 3つめの柱が、長期国債以外の資産の買入れに関してで、ETFおよびJ-REITについて、新規の買入れを終了する。CP等および社債等について、買入れ額を段階的に減額し、1年後をめどに買入れを終了する。

 米連邦準備制度理事会(FRB)は19、20日に開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を5.25〜5.50%で据え置えおくことを決定した。据え置きは5会合連続となり、全会一致で決定された。


2024年12月16日「食料品の値上がりは続く」

 カレーの調理に必要な原材料や光熱費などの価格(全国平均)を基に算出した、カレーライス1食当たりのトータルコストを示す「カレーライス物価」は、2024年10月に371円となった。1年前の2023年10月(308円)から63円の大幅増となり、7カ月連続で最高値を更新した(帝国データバンク)。

 総務省が11月22日に発表した10月の消費者物価指数(除く生鮮)は前年同月と比べて2.3%の上昇となった。食品の値上がりは続いており、「生鮮食品を除く食料」は3.8%の上昇となっていた。なかでも「米類」は58.9%上昇し、比較できる1971年以降で上昇幅は最も大きくなっていた。

 コメの価格上昇が大きく影響していることは確かだが、他の食材も円安などの影響もあって上昇し、「カレーライス物価」を引き上げている。コメの価格上昇は一時的なものとは考えられず、当面は「カレーライス物価」も高い水準が継続すると予想される。

 食料品の値上がりによって、消費支出に占める食費の割合が上がっている。

 2024年1〜8月のエンゲル係数(2人以上世帯)は28.0%と、年平均と比較すると1982年以来の高い水準となった(10月18日付日本経済新聞)。

 エンゲル係数家族の総支出のうち、食物のための支出が占める割合となる。

 2022年以来、日本でも物価の上昇が続いており、なかでも食料品の値上げラッシュが続いている。

 帝国データバンクによると、主要な食品メーカー195社における家庭用を中心とした2025年の飲食料品値上げは3933品目を数えた。前年同時期に公表した24年の値上げ品目見通し(1596品目)を大幅に上回った。

 食料品の値上げは続いていても、食生活は大きく変わることは難しい。このため、物価上昇に賃金が追いつかないと値上げが家計に直接影響を与え、これによってエンゲル係数が上昇する。

 世界的な物価上昇そのものは収まりつつある。このため欧米の中央銀行は利上げを停止し、利下げに転じてきている。

 これに対し日本では小幅な利上げに止まっており、その分、円安ともなりやすく、これも物価を押し上げる要因となる。

 日銀は今後も利上げを行ってくると思われるが、それなりの時間を有することとみられる上に、積極的な利上げには抵抗も強くなることも予想される。

 日本の主食であるコメが現在、食料品価格の原動力ともなりつつある。エネルギー価格は政府の対策で無理矢理抑えている面もあり、実際の物価指数も抑えられている。

 利上げを急ぐ必要はないかもしれないが、淡々と日銀は利上げを行い、物価に応じた金利も形成させることで、我々のデフレマインドを解消させることが必要となろう。


2024年12月16日「短観は利上げを躊躇させるものとはならず」

 日銀が13日発表した企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)はプラス14ポイントとなり、前回の調査を1ポイント上回り、2期ぶりに改善した。先行き予測はプラス13。

 大企業非製造業DIは、前回9月調査のプラス34から小幅悪化のプラス33となった。2四半期ぶりに悪化とはなったものの、1991年以来の高水準は維持した。先行き予測はプラス28。

 企業のインフレ期待を示す「企業の物価見通し」は、消費者物価指数の前年比上昇率が平均で1年後2.4%、3年後2.3%、5年後2.2%といずれも前回調査から変わらずとなっていた。

 短観は18、19日に開催される日銀の金融政策決定会合で金融政策を決めるための判断材料のひとつとなる。

 植田総裁は11月の講演後の質疑応答で、12月の決定会合の結果を予測するのは困難とし「それまでの期間に非常に多くのデータや情報が利用可能となる」と述べていた。

 少なくとも、今回の短観をみると19日の決定会合で利上げを躊躇させるようなものとはならないと思われる。


2024年12月13日「日経平均株価は12日に一時4万円台を回復」

 12日の東京株式市場では、日経平均株価が一時4万円の大台を回復した。取引時間中としては10月15日以来2か月ぶりとなる。

 11日の米国株式市場では、超党派の議員グループが健康保険会社や薬剤給付管理会社を所有する企業に対して薬剤事業の売却を義務付ける法案の成立に向けて動いていると伝わったことで、、ユナイテッドヘルス・グループなどが大きく売られ、ダウ平均は下落した。

 当日発表された11月の米消費者物価指数がほぼ予想通りであったことで、利下げ期待が継続したのも好感し、ハイテク株を中心に買いが入った。

 アルファベットやメタプラットフォームズといった主力ハイテク株が買われ、テスラが大きく上昇し、株式分割を考慮した後で2021年11月以来となる上場来高値を更新した。

 ナスダックは347ポイント高となり、6日以来となる過去最高値を更新し、初めて2万の大台に乗せた。

 これを受けて12日の東京株式市場では、アドバンテストなど半導体・人工知能(AI)関連銘柄を中心に買われた。

 昨夕のブルームバーグによる「日銀は利上げ急がず、今月見送りでも物価加速リスク小さい−関係者」とのタイトルの記事を受けて、円安が進行、ドル円は152円台を付けたことも株式市場は好感した。

 ブルームバーグの記事については「追加利上げを急ぐ状況にはないと認識している」としながらも、「もっとも、今後公表されるデータや為替相場の動向次第では、来週の金融政策決定会合での実施の可能性もあるという」と「複数の関係者(「事情をよく知る」との表現はない)」からのコメントがあった。

 来週の日銀の利上げを完全に否定するものではない上、円安が加速されるとむしろ利上げの可能性が強まる気もするのだが。


2024年12月12日「企業物価指数は前年比で3.7%の上昇に」

 日銀が11日に発表した11月の国内企業物価指数は124.3と前年同月比で3.7%の上昇となり、2023年7月の3.6%以来の高い伸び率となった。

 企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。

 国内企業物価指数は2021年2月に前年比マイナス2.1%となってたが、同年3月にプラス1.2%とプラスに転じ、そこからプラス幅を急速に拡大させていった。

 新型コロナウイルスによる世界経済への影響とロシアによるウクライナ侵攻によって世界的な物価上昇が起き、日本も巻き込まれた格好となっていた。

 2022年10月にプラス10.3%と10%超えとなり、12月の10.6%をピークに今度は上昇幅を縮小させてきた。

 それが次第に落ち着きを取り戻し、2023年3月には前年比プラス0.3%まで上昇幅を縮小させていた。

 2024年4月にもプラス0.3%となり、ここが目先のボトムとなって、再び上昇幅を拡大させてきたのである。

 11月は政府補助金が縮小した電気代と都市ガス代が値上がりした影響が出たことに加え、コメの価格高騰も影響していた。


2024年12月11日「日銀の利上げは12月か1月か1月以降か」

 12月5日の中村審議委員による広島県金融経済懇談会における挨拶後に行われた記者会見の様子が日銀のサイトにアップされた。気になる利上げの行方について、中村審議委員は下記のように答えていた。

 「別に何というか、まだ12月とか1月とかもっと先かとかいうことを決めているわけではないので、データ次第と先ほどから申し上げているんですけど、どちらかというと市場がボラタイルになっていて、上がったり下がったりしているんですけど、それはアメリカでも同じようなことが起きているので、決して私と大きな変化が出ているのかどうかはちょっと分かりませんけど、もう少しきちんとデータをみてファクトに基づいて意思決定をしたいと考えているので、今の状況は別に12月でなくなったというわけではないし、12 月でやるということでもないし、もうちょっと時間が経って、経済データのファクトを確認しながら、いろいろ市場も動いて来るのではないかなと思いますので、私としてはまだニュートラルにいるということです。」

 「どちらかというと市場がボラタイルになっていて、上がったり下がったりしているんですけど」という状況がまさに9日から10日にかけて起きている。

 時事通信の報道も影響してか「日銀が利上げをまったく急いでいない」という観測が高まっていたようで、6日に円債は中期債主体に買われていた。

 これは米長期金利の低下などを受けて、ドル円が150円割れとなるなどしたことで、円安対応のための日銀の利上げは見送られるとの観測によるものとの見方が出ていた。

 ところがドル円は今度は151円台半ば、ユーロ円は160円台を回復するなど今度は円安が再び進行している。

 こちらは中国政府が2025年に積極的な財政政策と適度に緩和的な金融政策を進める方針を示し、中国の景気回復期待の高まりが影響しているとの見方もある。

 債券にしろ為替にしろ、中央銀行の金融政策だけによって動くものではない。このため、こういった動きとなっているのであろうが、中村氏の指摘しているように、市場がややボラタイルになっていて、上がったり下がったりしているのもたしかである。

 市場の金融政策見通しを反映するオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)では5日、12月18〜19日の会合で日銀が利上げする確率を37%織り込んでいる。11月29日の66%と比べると、市場関係者の利上げ観測は大幅に低下した格好だ(5日付ブルームバーグ)。

 OISというのは、市場参加者の肌感覚を数値化したものであり、これをもってどうのこうのという判断はできない。これは市場参加者の予想を数値化したものであり、これも揺れ動くものとなる。

 日銀の利上げは12月なのか、来年1月なのか、それとも1月以降なのか。

 これについては、いまのところ確定的な見方はできない状態にある。これは中村委員の下記の表現からも窺える。

 「今の状況は別に12月でなくなったというわけではないし、12月でやるということでもないし、もうちょっと時間が経って、経済データのファクトを確認しながら、いろいろ市場も動いて来るのではないかなと思います」

 個人的な予想としては、年内に政策金利を0.5%まで引き上げ、来年もタイミングを計りながら、0.25%の利上げを2回行うことで、政策金利を1%にすると引き続きみている。

 政策金利については0.50%への引き上げよりも、0.75%の引き上げの方が慎重さが必要となる。これは前回の2006年から2007年にかけての利上げが0.50%止まりとなっていたためである。

 来年度の予算編成などは気になるものの、12月の日銀の利上げを妨げるものは現状あまり見当たらない。市場もややボラタイルといっても今年8月あたりの荒れようとは異なり、むしろ落ち着いている。

 1月の金融政策決定会合の開催のタイミングが、トランプ次期米国大統領の就任直後ともなり不透明感の強まりにより、市場がボラタイルとなっている懸念もある。

 13日に発表される日銀短観などを確認の上、18日〜19日に開催される日銀金融政策決定会合にて0.50%への利上げを決めると個人的には予想しているのだが。


2024年12月7日「JR東日本のモバイルSuicaの活用法。自動改札機で精算なし、個人間送金を可能に、ビッグデータの活用」

 JR東日本は交通系ICサービス「モバイルSuica(スイカ)」の位置情報データを活用し、自動改札機で精算しなくても鉄道に乗れるようにする。スイカの個人間送金を可能にし決済機能も高める(9日付日本経済新聞)。

 モバイルSuica(モバイルスイカ)は、JR東日本が提供するアプリ。「おサイフケータイ」対応の携帯電話及びApple Pay・Google Pay対応機種を含んだスマートフォンにおいて利用できる。

 モバイルSuicaはカード形のSuicaと同様にIC乗車カードのほか電子マネーとしても利用することができる。

 JR東日本はこのモバイルSuicaの機能を発展させて、カードではできない携帯のアプリ機能を利用しての自動改札機で精算しなくても鉄道に乗れる機能を加える。

 記事には改札フリーは、モバイルスイカの位置情報にひも付く沿線上の移動データを基に、出発から到着駅までの運賃を徴収できる仕組みを想定するとあるが、これだけではどのようなシステムになるのかわからない。

 これは利用者の利便性というより、1台あたり数千万円かかるとされる改札機の更新や修繕にかかる維持管理コストの削減という意味合いが大きいようである。

 さらにこれまでせっかくの電子マネーの機能が生かされていなかったことから、スイカの個人間送金を可能にし決済機能も高めるようである。

 日経新聞によるとモバイルスイカの累計登録は3147万で、キャッシュレス決済ではPayPay(約6600万)やd払い(約6300万)を追うそうである。

 JR東日本のインターネット銀行「JRE BANK(JREバンク)」とも連携し利便性を高めれば、決済手段としてのスイカの魅力が高まる。ポイントなども加われば、登録数や決済頻度の向上を見込める。

 移動や決済のビッグデータの質と量が向上すれば、マーケティングなどに利用でき、こちらの価値はかなり大きなものとなるというか、そもそも電子マネーそのものの普及目的は、利用者からは現金を持たずとも良い上、利子相当ともされるポイントが貯まること。

 サービス提供者にとっては利用者のデータ活用が大きな目的となろう。

 JR東日本にとっては、まず交通系サービスが主目的であったが、電子マネーとしてのデータの活用を今後さらに探っていくものと思われる。

 ただし、JR東は2013年に移動データの外販サービスを試みた。JR東はスイカの利用履歴などに伴うビッグデータを日立製作所に販売していたが、2013年7月に「利用者への事前説明が不足していた」として継続的なデータ提供を中止した。

 たぶん「外販」というところが反発を受けたとみられるが、ビッグデータの活用には利用者も注意を向けているので、細心の注意も必要となろう。


2024年12月7日「ロシア、インド、中国などBRICSが共通通貨を発行を匂わす。トランプ氏は関税で対抗姿勢を示すが」

 ロシアのプーチン大統領が最近、新興国グループ「BRICS」加盟国の共通紙幣のように見えるものを手にして写真に写ったことで、米ドルを王座から引きずり降ろそうとするロシアの取り組みが話題となった(WSJ)。

 「BRICS」とは用語としては2001年らにゴールドマン・サックス社が2001年に発行したレポートで取り上げられたもので、一般にも広く使われるようになった。レポートでは、2050年にはBRICSの4か国がGDPで上位6か国に入る可能性があると記載された。

 2009年からBRIC4か国が首脳会議を開催し、2011年に南アフリカが首脳会議に参加した後は、5か国についてBRICSと総称される様になった。2011年からブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成されてきた。今年初めにイラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、エチオピア、エジプトが正式に加盟した。

 BRICSは、欧米主導の国際秩序や外交関係に対抗するための、経済・外交・環境面などで協調する外交グループとなる。新興・途上国のインフラ整備などへの金融支援を目的として、BRICS開発銀行も設立している。

 米ドル建てシステム以外でBRICS通貨と銀行ネットワークを利用するようになれば、ロシア、中国、イランなどの加盟国が西側諸国の制裁を回避できるようになる可能性がある。しかし、加盟国の経済的、地政学的な違いにより、新通貨が実際に誕生する可能性は低いとみられる(CNN)。

 とはいえ、その可能性はゼロではない。実際にプーチン大統領が共通紙幣のように見えるものを手にしての写真がアップされると、トランプ次期米大統領は、中国とロシアが支援する新興国グループ「BRICS」の加盟国に対し、自身の在任中に新たな通貨を創設しないよう求める考えを示した。この考えに反した場合100%の関税を課すとしている。 。

 この反応の視野差そのものが、これが米国にとって大きな脅威となりうることを示している。ただ、それに対して関税で対応するというところが、良くわからない。関税で対応できるようなものではになかろう。何でもかんでも関税を武器にディール(取引)に持ち込めば解決できるものでもない。

 現実問題として、ユーロのような共通通貨が「BRICS」加盟国で出来る可能性は確かに高くはない。しかし、ロシアのウクライナ侵攻、米中貿易摩擦などにより特にロシアや中国などがてを組む可能性がないとはいえず、そこにインドやブラジルと中東諸国が加わるのは脅威でしかないことも確か。


2024年12月7日「2006年から2007年にかけての日銀の利上げを振り返る」

 日銀は2023年3月の金融政策決定会合でマイナス金利政策を解除し、政策金利を日銀の当座預金の付利から無担保コール翌日物金利に戻し、それを0から0.1%程度で推移するよう促すとした(賛成7反対2、反対は中村委員、野口委員)。さらに長期金利コントロールも解除した。

 その後、同年7月に政策金利である無担保コール翌日物金利を0.25%に引き上げた賛成7反対2、反対は中村委員、野口委員)。

 前回の日銀による利上げは2006年から2007年にかけて行われた。今回はこのときの様子を振り返ってみたい。

 2006年3月9日の金融政策決定会合では、無担保コールレート翌日物を、概ねゼロ%で推移するよう促すとした。

 前回までの金融政策決定会合では、日銀当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行うとしており、3月に行われた修正は、日銀の金融政策の目標を、日銀の当預残高という「量」から、無担保コールレート翌日物という「金利」に戻すものであった。これは「量的緩和策の解除」と呼ばれた(賛成7反対1、反対は中原委員)。

 中原委員は、現状の景気判断においては、多数意見と基本的に相違はないものの、消費者物価指数の実績が安定的にプラスであると判断するには、もう少し検証する方が良いことなどとしていた。

 債券市場では福井日銀総裁(当時)の発言内容などから、3月9日もしくは遅くとも4月11日に解除されるとの見通しが強まっていた。このため、9日の解除決定発表後も大きな波乱もなく、落ち着いた値動きとなっていた。

 このあとの4月と5月の会合では全員一致での現状維持。

 7月14日の金融政策決定会合では、無担保コール翌日物金利を0.25%に引き上げ、いわゆるゼロ金利政策を解除した(全員一致)。

 3月と7月の金融政策決定会合には、企画局企画役の内田眞一氏(現副総裁)が参加していた。

 8月から12月にかけては全員一致での現状維持となったが、2007年1月の会合で異変が起きる。

 議長案(当時の議長は福井総裁)が現状維持なのに対して、須田委員・水野委員・野田委員から、無担保コールレート翌日物を0.5%で推移するよう促すとの議案が提出された。つまり0.5%への利上げ案が出されたのである。これは採決の結果、反対多数(3対6)で否決された。

 ただし、これで利上げの流れを作った格好ともなり、2007年2月の金融政策決定会合で、無担保コールレート翌日物を0.5%前後で推移するよう促すという利上げが8対1で決定されたのである。このとき反対したのは岩田副総裁(当時)であった。


2024年12月7日「実質賃金の意味」

 厚生労働省が6日発表した10月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)では、名目賃金から物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月比で横ばいだった。電気・ガス代の補助再開で物価の伸びが鈍化した上、最低賃金の引き上げによる賃上げが広がり3か月ぶりにマイナスから脱却した(6日付日本経済新聞)。

 どうもこの「実質賃金」というのもの違和感を持っている。この場合の実質賃金というのは、名目賃金から物価変動の影響を除いたものである。

 実際には消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)の伸び率と名目賃金を示す現金給与総額の前年比を比較したもので、それがプラスかマイナスかといったことが注目されている。

 しかし、注目すべきは実際に支払われている名目賃金ではなかろうか。

 名目賃金を示す現金給与総額は29万3401円で前年比2.6%増となっているが、まずはこちらの動きを重視すべきで、ここに物価を絡めたものでみると、賃金の上昇の状況がみえずらくなる。

 物価として使う指数にも注意しなければならない。消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)を使うにしても、ここには電気・ガス代の補助再開による影響が加味されている。

 人為的に物価が引き下げられていることで、この数値が正確な物価の状況を示しているのかといった問題がある。

 このため実質賃金としてプラスだマイナスだというよりも、現実に支払われている賃金をまず重視し、消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)と比較はあくまで参考値としたほうが良いのではないかと思う。


2024年12月6日「中央銀行マネーと民間マネー」

 日銀の植田総裁はFISC創立40周年記念講演会で「決済の未来と中央銀行の役割」と題する講演を行った。

 ちなみにFISCとは金融情報システムセンター(The Center for Financial Industry Information Systems)で、金融情報システムに関連する諸問題(技術、利活用、管理態勢、脅威と防衛策等)の国内外における現状、課題、将来への発展性とそのための方策等についての調査研究を行っている。

 このなかで「決済システムを中央銀行マネーと民間マネーという視点から捉えなおしてみましょう」とあった。

 「銀行預金や電子マネーについては、中央銀行マネーと同じレベルでの制度的な信認確保の仕組みがあるわけではありませんが、預金保険や供託等により一定金額が保護されている、規制監督されている、求めに応じて現金と交換できる、といった制度的な仕組みにより、安心して利用されている」

 信認の裏付けであるが、中央銀行マネーは日本銀行法に日本銀行が発行する銀行券は無制限に通用する(強制通用力)という規定があり、さらに日本国内いたるところで利用できる体制が整えられている。

 銀行預金や電子マネーについても制度的な仕組みは整えられているが、中央銀行マネーほど盤石ではない。

 「銀行預金については利子が付される、電子マネーでは様々なポイントが付されるといった経済的な魅力や、スマートフォンなどを通じていつでも利用できるといった利便性の高さが、その利用を促していると考えられます。」

 電子マネーのポイントを利子のように捉えているのが興味深い。今後は銀行預金の利子とポイントが比較対象されることが出てくるのかもしれない。

 「銀行預金にしても、電子マネーにしても、民間主体が発行する民間マネーは、現金や中央銀行当座預金といった中央銀行マネーの存在を前提とした支払手段」

 銀行預金や電子マネーは、それ単独で存立するのではなく、現金や中央銀行預金といった中央銀行マネーの利用可能性を前提にした支払手段との指摘にも注意する必要がある。

 銀行預金も電子マネーも金融機関や発行体の信用力がその背景にあるが、最終的には「円」としいう中央銀行マネーの利用可能性を前提にした支払手段であり、決済にあっては中央銀行マネーの信用力が背景にある。

 「信認・信頼性に重きをおく中央銀行マネーが決済手段に用いられる決済システムは、効率性に配慮しながらも安全性や頑健性を確保するために、利用実績が十分にある技術を用いて作られ、障害などの異例時対応に備えた稼動確認を十分に行ったうえで構築される傾向にあります。」

 中央銀行マネーについては、信認・信頼性に重点が置かれる。

 「経済活動のインフラとして利用されるシステムと、社会的な影響度が相対的に低いシステムとでは、求められるシステムの頑健性や代替機能の要求水準に差が生じえます。」

 中央銀行の電子マネーを考える場合にはこの点が非常に重要になる。民間の電子マネーとは比較にならないインフラの整備が求められる。

 たしかに電子マネーは便利な面も多い。しかし、中央銀行が発行する電子マネー、いわゆる中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)には、ここが大きな課題になると思われる。

 一時に比べ、中央銀行デジタル通貨の話題が出なくなったが、この課題がクリアー出来ない限り、その実現は難しい。とりあえず民間の電子マネーの普及は今後さらに進んでも、それを中央銀行デジタル通貨にとって変わる日が来ることは現状は考えづらい。


2024年12月5日「PayPay銀行、円とドル両方を預け入れたなら普通預金の金利を年2%に」

 PayPay銀行は4日から円と米ドルの両方を預け入れた場合の普通預金の金利を年2%にする(4日付日本経済新聞)。

 メガバンクの普通預金金利が0.10%なのでその20倍となるが、単純に比較すべきものではない。円金利だけでなく、ドル金利も含まれたものとなるためである。

 中央銀行の政策金利を比較すると日本は現在0.25%であり、とてもではないが2%とは巨利がある。12月に利上げがあっても0.50%の予想となっている。

 これに対して米国の政策金利は4.5%〜4.75%となっている。12月に利下げが行われても4.25%〜4.55%あたりとなろう。まだ4%台と高い位置にある。

 つまり円の金利とドルの金利を組み合わせることで、2%といった高い金利が可能となる。

 ここで注意すべきは、ドル金利に関しては、外国為替市場の動きによる影響を受ける、つまり為替変動リスクがあり、円ベースでは元本割れになる恐れがある点に注意が必要となる。

 金利ある世界が現実のものとなり、銀行では今後さらに預金獲得競争が強まることが予想される。

 0.001%とか0.01%といった、ほとんど見えなかった利子が、今後は1%や2%として、やっと数値としてみえてくることが予想される。そのための準備といった意味合いもあるのかもしれない。


2024年12月4日「ヤマダ積立預金騒動、何を読み間違えたのか。そもそもどうして18%もの金利を付けたのか」

 ヤマダホールディングス(HD)は2日、積立預金サービスで満期に10%のポイントを還元するキャンペーンを撤回したと発表した(2日付日本経済新聞)。

 ヤマダデンキは11月28日から積立預金のサービスを始め、記念キャンペーンとして早期の申込者に対して10%をポイント還元すると発表していた。

 満期時点の積立金額にポイントが付与されるため、毎月定額積み立てをすると「実質的な年利は約18%になる」としてSNSで話題になっていた(2日付日本経済新聞)。

 あくまでポイントではあるが、定額積み立てでの年利18%は高利回りとなり、普通に考えるとかなり危ない投資商品のように見えてしまう。

 単純に積み立て総額が預金保険制度適用の限度額となる1000万円ならば、180万円のポイント相当が手に入る。これがヤマダデンキで使えることになる。参考までにメガバンクの1年定期の金利は0.125%なので、1000万の的預金の1年間の金利は12500円にしかならない(税込み)。

 どうしてこれほどまで有利な積立預金サービスを行おうとしたのか。

 これはたぶん一定額を積み立てると満期にボーナス分が上乗せされる百貨店の「友の会」を参考にしたのではないかと思われる。

 満期に現金で戻るわけではなく、使い道は百貨店での買い物に限定されるが、利率は実質換算で最大年15%程度にもなる。高島屋などで実施されている。顧客の囲い込みのための制度ということになる。

 ヤマダデンキは、百貨店の「友の会」のようなものを想定したのではなかろうか。ただし、百貨店は店舗が限られ、若者などにすると敷居も高い。

 これに対してヤマダデンキは957もの店舗(2024年9月現在)があり、使い勝手が良い。扱っている商品も家電や家具などとともに一般家庭用品などの取り扱いもあるなど、ポイントがほぼ現金による買い物として利用できる。

 ポイントを利用する際の税金面をみると、特定の店が発行してその店でのみ使えるポイントは値引きとみなされ、経済的利益にはあたらず、確定申告が必要ないようである(要確認)。

 ちなみに利子所得は、原則として、その支払を受ける際、利子所得の金額に一律15.315%(他に地方税5%)の税率を乗じて算出した所得税・復興特別所得税が源泉徴収される。

 このように今回のヤマダデンキによる積立預金サービスは、百貨店の「友の会」とは異なり、ポイントの使い勝手の良さや税金面などから、資金運用としての活用が意識されてしまったのではなかろうか。

 それがネットを通じて急速に拡がったことで、「想定を遥かに上回るお客様からお申込みを頂き、また、一部の方からの大量のお申込みがあった」。そのため、客の囲い込みという目的よりも、元本保証の高利回り商品としての投資対象になってしまったことで、想定を超す資金が流入してくる可能性が出てきたことで、中止せざるを得なくなったものと思われる。


2024年12月3日「日銀の植田総裁発言をどう解釈すべきか、12月の利上げの有無」

 日銀の植田和男総裁は日本経済新聞のインタビューで、追加利上げの時期について「データがオントラック(想定通り)に推移しているという意味では近づいているといえる」と述べた(11月30日付日本経済新聞)。

 さらに植田和男総裁は日本経済新聞の取材で「一段の円安はリスクが大きい」との認識を示した。場合によっては政策変更で「対応しないといけなくなる」と強調した。

 これらを受けて、29日のニューヨーク外国為替市場では日銀による早期利上げが意識され、円が買われ、ドル円は150円割れとなった。

 29日の米債は買われていたが、ナイトセッションの債券先物は29銭高の142円79銭で引けるなど下落した。

 「2025年の春季労使交渉(春闘)がどういうモメンタムになるか。それはみたい」として、改めて賃金動向を注視する考えを示した。

 ちなみに連合は11月28日、千葉県浦安市で中央委員会を開き、来年、2025年の春闘ではベースアップ相当分として3%以上、定期昇給分をあわせて5%以上、中小企業の労働組合についてはさらに1%以上を上乗せし6%以上の賃上げを要求する方針を正式に決定した。

 植田和男総裁はトランプ前大統領の返り咲きによって「米国の経済政策の先行きがどうなるか、大きなクエスチョンマークがある」とも述べ、時期は慎重に判断する姿勢をのぞかせたとされる。

 これについてはトランプ氏が就任し、その後の政策判断を確認した上での世界経済の行方を確認してからでは、かなりの時間を要することとなる。

 「データがオントラック(想定通り)に推移していることで、時間を掛けながらも調整していく方針であるのであれば、トランプ氏の大統領就任の1月20日後の、1月23、24日の金融政策決定会合よりも、年内12月18、19日の決定会合で、政策金利を0.5%に引き上げたほうが個人的には良いと思う。

 その後、トラン大統領の就任後の状況を確認し、それによる金融市場の動向などもみながら、次の一手を探るほうが良いのではないかと思われる。

 今後の日銀の国債買入減額に際し、日銀に代わって引き受けてとなると予想される銀行などの金融機関にとって、政策金利の引き上げに伴う国債利回りの上昇は、むしろ歓迎されると思われる。むろん急激な変動は避けたいところではあるが。


2024年12月1日「経済学者47人による意見の場、極論のようなものがまかり通りるのを防ぐ役割も」

 日本経済新聞社と日本経済研究センターは経済学者に政策の評価を問う「エコノミクスパネル」の第1回調査の結果をまとめた(29日付日本経済新聞)。

 これは日経と日経センターが研究業績や発信力に優れた経済学者47人を専門家の助言を得て選び、重要な経済課題について問うていくものだそうである。

 欧米の大学や研究機関が有力な研究者を集めて実施しており、政策形成に一定の影響力を持っているそうで、その日本版というか日経版となる。

 これは良い試みというか、もっと早めにやってほしかったと思う。ネットなどでは一部偏った意見が広まりやすい傾向がある。

 ある意味、極論のようなものがまかり通り、メディアでの露出の多い経済学者などの意見が鵜呑みにされることがある、というかそれが多い。

 第一線にいる経済学者たちは本当はどう考えているのかが、あまり示されず、極論のみが拡がってしまう傾向もある。

 これもネットのひとつの弊害かと思われ、極論に対して、第一線にいる経済学者たちが果たして共感しているのか、それとも別な意見を持っているのか。それが確認出来る場となるのではないかと思う。

 第1回目の調査は石破政権の経済政策をテーマに15〜20日に実施し、46人から回答を得た。物価高対策に加えて「年収の壁」、最低賃金について質問したとか。

 まず、石破茂政権が経済対策に盛り込んだ電気・ガス料金への補助を「不適切」と答えた割合は77%に上った。

 これは意外と思われた人も多いのではなかろうか。政府が物価高対策を行うのは当然だろうと。

 しかし、「特定の財への補助は価格メカニズムを通じた適切な資源の配分をゆがめる」、「補助は物価抑制には逆効果で、環境保全にも悪影響を及ぼす」との指摘があった。

 補助による財政支出の拡大はむしろ物価を上げる要因ともなりうることで、補助を行えば良いというものではない。こういった指摘を確認出来る場が新たに設けられたことは良いことではなかろうか。


2024年12月1日「関税をディールに使うトランプ氏、市場ではトランプリスクを警戒」

 トランプ氏は大統領選挙で、大規模な減税や規制緩和などで米国経済の成長を優先させる方針を示していた。

 前政権時に導入した個人所得税などの「トランプ減税」を恒久化し、法人税率を現行の21%からさらに引き下げて15%にすると主張。

 安価な海外製品の流入から国内製造業を保護するため、広範囲にわたる関税の引き上げも打ち出していた。

 11月25日にトランプ氏は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、2025年1月20日の就任初日に中国製品に対して10%の追加関税をかけると表明した。メキシコとカナダへの関税も25%に引き上げるとした。トランプ氏は前回就任時と同様ら関税をディール(取引)に使うようである。

 麻薬や不法移民の流入が止まるまで、メキシコとカナダに25%の追加関税を課す。フェンタニルの流入が止まるまで中国製品に10%の追加関税を課すとも表明した。

 2023年の貿易統計によると、米国のモノの国別の輸入額でメキシコが中国を抜いて首位となった。3位はカナダ、4位はドイツ、5位は日本となっている。

 現在のバイデン政権は、トランプ前政権が発動した3700億ドル(約55兆円)相当の対中制裁関税の大部分を維持している。

 中国にはそこからさらに10%の追加関税、メキシコとカナダにも25%の追加関税を課すことになる。

 トランプ氏は先の大統領選で、米国への全ての輸入品に10〜20%の関税を課す方針を掲げており、日本も例外ではなくなる可能性は当然ある。

 米国の関税率は、今後1920年代末の世界恐慌以降に広がった保護主義期以来の水準になる可能性があるとの指摘もある。

 今回の発表もカナダへの追加関税以外はサプライズではないものの、通商を担当する米通商代表部(USTR)代表すら指名する前のトップダウンという劇場型の発表となり、市場を驚かせた。

 イエレン米財務長官は10月17日に、トランプ次期大統領が提案しているような高水準の関税による米経済の囲い込みは「大きな誤り」で、米国の消費者物価を押し上げるほか、企業の競争力低下につながるという見解を示していた。

 これはその通りであろう。関税の負担は企業なり、個人に掛かることで、物価の押し上げ要因となろう。

 物価の上昇によって個人消費が落ち込むことも予想され、景気にとってもマイナスとなることが予想される。

 追加関税の導入は国内物価を押し上げ、個人消費を悪化させるとなれば。米国経済は景気悪化と物価上昇が併存するスタグフレーションの様相を強めることも予想される。

 日本にとっても米景気の悪化による影響は大きくなる。さらに日本にも追加関税が課せられたり、防衛費の負担増が求められる可能性もある。今後はこういったトランプリスクにも注意する必要があろう。


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