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2025年7月5日「日銀短観、大企業製造業DIは2期ぶりに改善」

 日銀が1日発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、前回2025年3月調査のプラス12から小幅改善しプラス13となった。

 日銀短観は国内およそ9000社の企業を対象に3か月ごとに行われる。景気の現状について「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を差し引いた指数で景気を判断する。

 6月調査の回答期間は5月28日〜6月30日で回答率は99%となっていた。6月12日までにおおむね7割の回答があったという。

 米国のトランプ政権は4月5日に米国への全輸出国に基本税率10%の関税を発動した。このトランプ関税の影響を本格的に反映するのは今回の短観が初めてとなる。

 今回の結果を見る限りにおいて、トランプ関税はいまのところそれほど大きなマイナス要因とはなっていないようである。

 米国の通商政策を背景とした不確実性は業況の下押しとなる一方、価格転嫁の進展で企業収益が好調なことが全体を押し上げたとされている。

 先行きについては大企業製造業DIはプラス12と1ポイントの悪化と予想しており、中堅企業や中小企業も1ポイントの悪化とみている。

 さすがに米関税の行方が読み切れていない点にも注意が必要か。実際に自動車など交渉が行き詰まっている可能性がある。

 その自動車であるが、6月は8ポイントと前回から5ポイントの悪化となっていた。また金属製品についてもマイナス3と前回から6ポイントの悪化となっていた。

 輸出に関連する業種で景気判断の悪化が目立つ形となっていた。

 ただし、これを紙パルプ(11ポイント改善)や鉄鋼(15ポイント改善)などがカバーしていた格好となっていた。

 非製造業では大企業は34ポイントと前回の35ポイントから1ポイントの悪化となっていた。

 とはいえ、価格転嫁の動きやインバウンド需要などを背景に34年前の1991年以来の高い水準が続いていることも確かではある。

 インバウンド関連では、7月5日大災害説も出ていることで、一時的に控えられる可能性もある。ただし、何事もなければすぐに回復しよう。

 2025年度の設備投資計画は大企業・全産業で前年度比11.5%増となり、3月調査から上方修正された。

 企業の事業計画の前提となる2025年度の想定為替レートは全規模全産業で1ドル145円72銭となった。前回調査は147円06銭となっており、円高方向に修正された。


2025年7月5日「トランプ減税法可決で米国はさらなる財政悪化に」

 米国のトランプ政権の主要政策を盛り込んだ大型の減税・歳出法案が3日、賛成218、反対214の僅差で可決した。同法案は1日に上院を通過しており、トランプ大統領が4日に署名して成立する。

 今回は様々な公約を政権初となる大型法案1本に盛り込み、ギリギリの調整を経て与党・共和党内の反対を抑え込んだ。ある意味、トランプ政権の大きな勝利であったことは確か。

 「1つの大きく美しい法案(OBBB)」と名付けられたそうだが、別に美しくはないが、大きいことは確かで、それにより米国はさらなる財政悪化となる。

 今回の法案の目玉となったのは2017年の減税・雇用法(トランプ減税)の恒久化となる。

 この税制は所得税の最高税率を39.6%から37%に引き下げ、相続税や贈与税の基礎控除もほぼ倍増させた。25年末の期限を延長しなければ実質的な大増税になる懸念があった。

 州・地方税(SALT)の支払い分を連邦税から1万ドルまで控除できる仕組みも金額を拡大して延長された。

 ただし、いずれも納税額の多い高所得層が恩恵を受けることになる。トランプ政権の主要支持層である低所得層には恩恵どころか、財源捻出のために割を食うことになる。

 共和党のジョンソン下院議長は、この法案は「経済にとってのジェット燃料にあたる」と指摘したそうだが、

 トランプ減税の恒久化は10年間で3.8兆ドルの財政悪化要因となる。これまで適用されていた2017年の減税・雇用法(トランプ減税)を恒久化しただけであり、あらたな政策ということにはならないため、経済への影響は限定的となる。

 それよりも、財政悪化には歯止めがかからないことに注意が必要となる。可決した上院案が財政赤字を10年で3.4兆ドル増やすと試算もあるとか。

 政府債務は現行の法定上限である36.1兆ドルに達している。1日に可決した上院案はこれを5兆ドル引き上げる内容が盛り込まれた。

 いまのところ米国債はこれを受けて急落するといったことはなかった。

 しかし、今後はトランプ関税による影響に加え、FRBには利下げ圧力がかかるなど物価には上昇圧力が掛かりやすい。

 そのなかにあって財政への懸念も加わると米国債への売り圧力が強まりかねない。


2025年7月4日「英国で炭鉱のカナリアが鳴く、リーブス財務相の涙で英国債が売られる」

 英国では国防費の増額などを進めるスターマー政権が、財源に当て込んでいた福祉削減策を相次いで撤回し、財政不安が一気に高まった。

 与党・労働党の議員らが1日夜、福祉予算の50億ポンド(約9800億円)削減案を撤回に追い込んだことで、リーブス財務相が財政赤字を抑制することが一層困難になった。

 2日、議会下院で最大野党・保守党のベーデノック党首からリーブス氏の進退を問われたスターマー氏が回答を避けた。

 スターマー氏は議会での首相質疑で、リーブス氏を擁護するどころか、明確な支持を示さなかった。首相のそばに座っていたリーブス氏は動揺のあまり涙を流しているように見え、異様な光景となった(3日付ブルームバーグ)。

 首相府はその後、リーブス氏への支持を表明し、財務省は同氏が動揺を見せたのは個人的な問題が原因だと説明した。

 しかし市場では、財政規律を大幅に緩めるだろうとの観測が強まり、英国資産の売りを招いた。

 英国の10年国債の利回りは0.16%上昇し、4.61%となった。ロンドン株式市場も下落し、通貨ポンドも売られた。

 さすがにトラスショックとまではいかなかったが、英国市場は「財政規律」をかなり重視していることは窺える。

 北大西洋条約機構(NATO)は国防費や関連支出を2035年までに国内総生産(GDP)比で5%に引き上げる目標を決めた。

 加盟国で国防費が米独に次ぐ英国が財源をどう捻出するかめどはたっていない。これはユーロ圏の国々も同様であろう。

 「炭鉱のカナリア」は英国だけにいるわけではない。ユーロ圏の国々、さらには歳出圧力が強まっている米国にもいる。

 景気が悪化しているわけでもないのにデフレでも減税と金融緩和、インフレでも減税と金融緩和を求めるという摩訶不思議な国もある。

 ここの「炭鉱のカナリア」は中央銀行の金庫に無理矢理押し込められていたが、やっと解き放たれた、というより物価上昇で自ら脱出してきた。そのカナリアがこのまま静かにしていることも考えづらいのだが。


2025年7月3日「日米関税交渉の行方が市場の懸念材料に」

 トランプ大統領は1日、記者団に対し「日本は30%か35%の関税、もしくはわれわれが決定する関税を支払うことになる」と発言し、対日関税の引き上げを示唆した。

 日本は現在、措置が一時停止されている相互関税を含めても関税率は24%となっているが、今回のトランプ大統領の発言はこれを大きく上回る水準となり、日本との交渉内容に極めて強い不満を表明した形に。

 トランプ大統領は、日本はコメを必要としているにもかかわらずわれわれのコメを受け取らない。われわれの自動車も購入しないと述べたことから、カナダやメキシコと同様にフェンタニル関税が課せられるわけではない模様。

 日米関税閣僚級協議のため訪米していた赤沢亮正経済再生相は30日、 帰国後に記者団に対し、日本から輸入する自動車への追加関税の見直しに否定的なトランプ大統領の発言についてはコメントを控えるとし、自身が「五里霧中」と表現した関税交渉の状況は「変わらない」と述べた(30日付ロイター)。

 米側が相互関税の執行猶予期限としている7月9日は「交渉のひとつの山場」との見方を示した。

 日本としてもコメの取り扱いについては、かなり神経質とならざるを得ない面があるとともに、米国車の輸入についてもニーズがない以上、どうしようもない。

 政府関係者が利用するクルマを米国車に置き換えるといったことをしたとしても輸入台数は限られよう。整備等の問題も抱えることになりかねない。

 いずれにしても、国益守るため全力挙げるとしている赤沢経済再生相の姿勢は理解できる。しかし、相手がトランプ氏である以上、なかなか正攻法では解決も難しい。

 2日の東京株式市場では、前日の米国株式市場でダウ平均が400ドル高となっているにもかかわらず、大幅下落となり、日経平均は一時500円を超す下げとなっていた。

 これは米国株式市場でナスダックが166ポイント安と下落しており、日本株はダウよりもナスダックの影響を受けやすい面があるため、とともに日米関税交渉の行方が気掛かり材料となっている。このため自動車株などが売られていた。

 その後は下げ幅を縮小してきたが、積極的には買いづらい面もある。

 日米関税協議に何かしら日本は切り札を持っているのか。もしなければ30%か35%の関税が課せられる懸念は強まりそうである。もしそうなれば参院選にも影響を与えかねない。


2025年7月2日「日本の税収が過去最高を更新見通し」

 昨年度の国の税収は法人税や消費税の伸びを背景に75兆円台となり、5年連続で過去最高を更新する見通しとなった。

 好調な企業業績を背景に法人税収が伸びたほか、消費の拡大や物価の上昇などを反映して消費税収も増えた。賃上げの効果で所得税も堅調となった。

 2024年度の税収は補正予算を編成した昨年11月時点では73兆4350億円と見込んでいたことで、上振れた形となる。

 税収は伸びているのに、政府債務残高は依然として増え続けているのはどうしてなのか。

 国の歳出が税収を大きく上回る状況は続いている。税収が上振れしても、厳しい財政運営が続くことに変わりはない。

 税収が5年連続で過去最高を更新しても、債務残高も過去最高を更新している状況はある意味、異常な状態となる。

 税収の上振れ分は通常、国債の償還などに使われる。

 もし巨額債務がもしなければ、上振れた税収分を有効活用する必要があろう。

 むろんそれをパラマキなどに使うのではなく、古びたインフラの整備等に使うことで安全を確保することが最重要になるのではなかろうか。

 7月の参院選は消費税の在り方が大きな焦点ともなりそうである。ただし、消費税を引き下げればすべてうまく行くことなどは考えづらい。

 日銀が異次元の緩和を行えば自然に物価が上がり、景気が回復し税収も伸びるという仮定のもとに壮大な実験はうまく行かなかった。

 消費税減税についても根幹には同様の発想がある。

 ただし、これらには「国債の信認が維持されれば」という前提条件が付いていることを忘れるべきではない。

 その信認は確かに強固なものであり、そう簡単には崩れない。しかし、物価が上がり、金利が復活している現在、炭鉱のカナリアが復活してきていることも意識しなければならない。

 英国のトラスショックは他人事ではない。今年4月のトランプショックもある意味、米国債の信認を脅かすことになっていた。

 日本国債の信認を維持するには何をすべきなのか。判断を誤るとカナリアが鳴き出すことを忘れるべきではなかろう。


2025年7月1日「日本の超長期債の乱はすでに収まった可能性」

 「超長期金利」がここにきてメディアなどで取り上げられることが多くなってきた。

 これは日本の債券市場で特に4月から5月にかけて超長期国債と呼ばれる期間20年、30年、40年国債の利回りが大きく上昇したことで取り上げられたとみられる。

 30年国債の利回りでみると3月末に2.5%近辺であったものが、4月4日に2.3%あたりまで低下し、その後再び上昇して2.8%台に。5月に入るとあっさりと3%台に乗せてきた。

 5月末にむけて3%割れとなり、6月に入り2.9%近辺での小動きが続いた。

 この間の投資家別売買動向をみると大手銀行が超長期債を売り越していたが、その分を海外投資家が買い越していた。

 超長期債の売買高で海外投資家が半分以上占めるなど海外投資家の動きが目立っていた。

 4月の債券の乱高下はトランプショックによるものであり、一時的に日本の超長期国債を含めて欧米の国債とともに日本国債も買われたのは、リスク回避によるものである。

 その後は関税による物価上昇も意識され、日銀による追加利上げ観測の後退もあり、再び国債利回りの上昇圧力を強めた。

 この間、欧州など軍事費の拡大などを受けて財政への懸念も強まって、それも国債利回りの上昇圧力となっていたことも確かか。

 ただし、日本国債をみると何故か超長期債だけが独自の動きをしていたことも確かである。

 消費税減税などを意識した財政悪化を意識するとすれば、超長期債も売られるが、それよりも国債増発圧力がかかりやすい中短期債、そしてベンチマークたる長期債が本来売られてしかるべきであったはず。

 そして注意すべきは6月に入り、日本の異様な超長期債の動きがなくなったことである。

 これらから推測されるのは、4月はトランプショックの影響であったとしても、5月の動きは別な要因も絡んでいて、その要因がなくなったので6月に入り普通の動きに戻ったとみて良いかと思う。。

 5月はヘッジファンドの決算を6月に控え、黒い目の海外投資家などを含めて、かなり無理な売買が行われていたのではなかろうか。

 そうであれば、あまり財政への懸念とかは理由にはならなかったのではなかろうか。

 むろん、だから減税やバラマキを行っても問題ないということにはならない。財政悪化を懸念、つまり国債そのものへの信認低下などを理由に本丸というべき長期債が大きく売られるなどしたら、これに歯止めをかけるのは困難になろう。


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