. 若き知
2023年11月29日「来年前半でのマイナス金利政策解除の可能性」

 日経新聞の電子版に「マイナス金利解除、日銀が地ならし ショック回避探る」との記事が掲載された。

 この記事によると、「日銀は春季労使交渉や個人消費などの動向を見極め、早ければ2024年前半にも解除を判断する」とある。

 その根拠のひとつとして、「10月下旬、日銀が水面下で金融機関に依頼したある調査」を挙げていた。その調査結果は12月にも公表されるそうで、それをみなければ何が根拠になるのかはわからないが、なかなか興味深い調査であった模様。

 もうひとつの根拠として、マイナス金利政策解除時期についてQUICKの月次調査(11月、外国為替市場)を挙げている。この調査によると、マイナス金利政策解除時期は「2024年4月」との回答が32%と最多で「2024年1月」も20%に上ったとある。

 ちなみに、QUICKの月次調査(11月、債券市場)では、2023年以内が3%、2024年1〜3月が42%、2024年4〜6月が39%となっており、6月までに8割程度、解除があると見込んでいる。

 マイナス金利解除については、この記事にもあったように、解除は「0.1%の利上げ」に相当するとの内田真一副総裁の以前の発言を出してきたように、日銀が頑なに拒んでいる金融政策の向きを変えることとなる。

 その背景には官邸が絡んでいるとされ、そうなれば、賃金云々もあるが、政治次第という側面がある。植田総裁は現政権から「当面は金融政策の転換と受け止められる動きは避けるように」と釘を刺されていたとも報じられていた。

 岸田政権の支持率低下などが日銀への働きかけにどう影響するのか。政治であるので、はっきり言って良くわからない面もある。

 しかし、今回のこの日経の記事のなかで、あれっと思う箇所があった。

 ある日銀関係者が、ビハインド・ザ・カーブのリスクが出てきたと警戒。別の関係者は、永遠に先延ばしはできない。解除後の金融政策の進め方も内部では当然検討はしていると話していたのである。

 これが果たして、以前のメディアに出ていた「事情に詳しい複数の関係者」たちなのであろうか。もしそうであれば、確かに動きがある可能性がある。しかしそうでなければそれで別の見方も必要になってくるように思われるのである。


2023年11月28日「アルゼンチンの新大統領は通貨をドルにした上で、中央銀行を廃止するとか」

 南米アルゼンチンの大統領選で急進右派のミレイ下院議員が勝利した。12月10日に就任する。少数野党で議員歴2年と経験は乏しいが、大胆な改革を訴えて既存政治に不満な民意の支持を得た。ただ経済のドル化や中央銀行の廃止といった過激な公約も目につく(27日付日本経済新聞社説より)。

 歴史的なインフレに苦しむアルゼンチンで、過激な言動を繰り返す経済学者で下院議員のハビエル・ミレイ氏が大統領に就任する。ミレイ氏は2015年ごろから経済評論家としてテレビ番組に出演し、辛口の政治批判が人気を博し、2021年に政界へと転じ、あっという間に大統領にまで登りつめた。

 「極右」「アルゼンチンのトランプ」とも報じられ、そのトランプ氏は、ミレイ氏に会うため「首都ブエノスアイレスを訪問する意向を伝えた」という。

 アルゼンチン中央銀行は政策金利を大幅に上げているが、物価高に歯止めはかからず国民の不満が高まる。こうした現状を背景に、ミレイ氏は「地球上に存在する最悪のゴミ」と中央銀行の廃止を掲げ、ドル化を訴える(東京新聞の記事より)。

 日経の社説では下記のようなリスクを指摘している。

 自国通貨としてペソに代わり米ドルを使う政策は、南米2位の経済規模に見合う外貨量を確保できるか見通せない。中銀を廃止すれば、自前の金融政策を放棄するだけでなく、金融機関が破綻に直面した際の「最後の貸し手」が不在になってしまう(27日付日本経済新聞社説より)。

 どうして中央銀行が必要なのか。銀行の銀行、政府の銀行、最後の貸し手としての銀行、さらには発券銀行、そして金融政策を担う。

 その金融政策に対して不満を持つ政治家は多い。典型的な例としてトルコのエルドアン大統領であろう。そのエルドアン大統領も、物価の高騰や通貨リラの下落により、緩和一辺倒の政策をあらためざるを得なくなった。

 アルゼンチンも新大統領の威勢が良いうちは、リスクが見えなくても次第に悪手であることが明らかになってくるとみられる。

 そういえば物価高や通貨安にもかかわらず、金融緩和一辺倒の中央銀行がほかにもあったような気がするが、こちらは本当に大丈夫なのであろうか。


2023年11月25日「金利上昇の経験のない市場参加者」

 銀行が預金獲得に向けて定期預金の金利を上げている。日本経済新聞社の集計で、少なくとも全国の地方銀行の4割を超える43行が引き上げたことが分かったと21日付日本経済新聞が伝えた。

 この記事のなかに興味深い指摘があった。2023年4〜9月期に地銀(グループ連結ベース)が支払った預金利息は前年同期に比べて2.5倍に増えている一方、銀行の収入となる貸出金利息は14%増にとどまったとあったのである。

 地銀では預金金利の引き上げがむしろ収益の圧迫となっているようである。貸出金利の引き上げ交渉があまり進まず、その一因に低金利環境が続き、営業現場では金利上昇を経験していない行員が多いとの指摘があったのである。

 今回の金利については短期金利ではなく長期金利を示している。日銀が長期金利コントロールの上限について1%という目途としたことで、長期金利が一時0.970%まで上昇し、これを受けて国債利回り全体が上昇してきた。

 短期金利については、いまだ日銀はマイナス金利政策を解除しておらず、マイナスのままであるが、国債の利回りについては全期間で利回りはプラスに転じている。

 さらに長期金利の推移をみると、1990年台に8%台をつけるなどしていたが、その後は低下基調が続くことになる。1998年末の運用部ショックなど一時的な国債利回りの上昇はあったが、トレンドが変化するほどてはなく、その運用部ショック後の長期金利は2%以内で推移することとなる。

 2010年あたりからは長期金利は1%割れとなり、2016年以降はマイナスに転じていた。それが2020年あたりから上昇基調に転じてきており、これは1985年に債券市場が国債売買を主体として機能しはじめて、はじめての金利上昇ともいえるg)h/y かもしれない。

 つまり日本の債券市場では。3年に及ぶような金利上昇は誰も経験していないともいえるのである。

 さらに1990年台の8%とかの高金利を経験した世代は、すでに現役を引退しているか、現場からは離れている人も多くなっている。高い利回りの経験もなく、ましてや金利が上昇してくる場面もはじめて経験する世代がほとんどということになり、現在の金利上昇局面においても対応が遅れがちとなっている。その典型がもしかすると銀行の銀行でもある日本銀行なのかもしれない。

 メガバンクの貸出金利息は大きく増加していたようだが、これは米国などの海外部門の貸出金利利息の増加が寄与していた。欧米ではある程度の金利は付いていたこともあり、今回の金利上昇局面は大きな収益チャンスと捉えていたとみられる。


2023年11月25日「10月の消費者物価指数は高水準を維持」

 総務省が24日に発表した10月の消費者物価指数(除く生鮮食料品、コア)の総合指数が106.4となり、前年同月比で2.9%上昇した。伸びは4か月ぶりに拡大した。コア指数の2%台は2022年4月以来19か月連続となった。

 生鮮食料品を含む総合指数は前年同月比は3.3%の上昇、生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数(コアコア)は同は4.0%の上昇となった。コアコアは4月以降、7か月連続での4%台乗せとなった。

 ちなみに10月の東京都区部消費者物価指数は、総合が同3.3%、コアが同2.7%、コアコアが3.8%の上昇となっていた。

 また、10月の企業物価指数は前年同月比0.8%の上昇となり、9月の同2.2%から大きく縮小していたが、消費者物価指数は高水準を維持していた。

 政府の負担軽減策による補助金が半減したことで「電気代」や「都市ガス代」の下落幅が縮小した。それでもまだ政府の負担軽減策による影響は大きく、総合やコア指数では実際の数値よりも小さく見えていることには注意が必要か。

 原材料価格の上昇は落ち着いてきたものの、生鮮食品を除く食料が去年の同じ月より7.6%上昇し高い水準が続いていること、さらに賃金の上昇によるサービス価格が高水準を維持していることも消費者物価指数が高水準で維持されている要因となっている。


2023年11月24日「日銀による国債買入の減額状況」

 22日の10時10分にオファーされた日銀による国債買入において、残存期間5年超10年以下のオファー額が5250億円となり、前回15日の同オファー額の5750億円から500億円減額されていた。15日も前回10日のオファー額6750億円から1000億円減額していた。

 別の期間がどうなっているのか、推移を追ってみた。

残存期間1年超3年以下 1回あたりオファー額 3500〜6500億円
6日 4250億円→10日 4250億円→15日 3750億円

残存期間3年超5年以下 1回あたりオファー額 4000〜7500億円
6日 4500億円→10日 4500億円→22日 4500億円

残存期間5年超10年以下 1回あたりオファー額 4500〜9000億円
6日 6750億円→15日 5750億円→22日 5250億円

残存期間10年超25年以下 1回あたりオファー額 1000〜5000億円
6日 2000億円→10日 2000億円→15日 2000億円

残存期間25年超 1回あたりオファー額 500〜3500億円 6日 1000億円→15日 1000億円→22日 750億円

 今月初めの6日に比べて、1年超3年以下は500億円の減額、3年超5年以下は変わらず、5年超10年以下は1500億円の減額、10年超25年以下は変わらず、25年超は250億円の減額となっている。

 国債買入の減額は当然のことと思うが、それぞれ当初日銀が設定した下限に近づいている。残存期間3年超5年以下の減額はなかったのは、6日時点で下限近くなっていたためとみることもできる。

 これでも巨額すぎる買入を続けていることに変わりない。途中でレンジの修正はしないとみられるが、12月の1回あたりオファー額のレンジは大きく引き下げても良いと思う。


2023年11月22日「貸出金利の引き上げ交渉が進んでいない理由」

 銀行が預金獲得に向けて定期預金の金利を上げている。日本経済新聞社の集計で、少なくとも全国の地方銀行の4割を超える43行が引き上げたことが分かった(21日付日本経済新聞)。

 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)傘下の三菱UFJ銀行は11月1日に、5−10年の定期預金金利を大幅に引き上げると発表。6日から適用する。10年定期の金利は現行の0.002%から0.2%と2012年以来の高水準になる。

 これに多くの銀行が追随した格好となった。長期金利が上昇し、いずれは金利を引き上げざるをみないとみていた矢先に三菱UFJ銀行が先導し、一斉に動いた格好となった。

 預金金利の上昇は銀行側としては負担増となるが、預金流出を防ぐには少なくとも金利の横並びは必要となる。

 金利が付かない状況では、銀行側の負担も大きくなり、預金が多少なら減少しても、それほど問題はなかった。ただしその分、ATMなどの手数料収入に頼らざるを得なかった。

 しかし、金利が付くようになるとその状況が一変する。銀行にとり大きな収益源となる利ざやが発生するためである。つまり、貸し出し金利と預金金利の差額分が収益となる。

 ただし今回の日経新聞の記事によると、地銀では預金金利の引き上げがむしろ収益の圧迫となっているようである。

 2023年4〜9月期に地銀(グループ連結ベース)が支払った預金利息は前年同期に比べて2.5倍に増えている一方、銀行の収入となる貸出金利息は14%増にとどまった(21日付日本経済新聞)。

 貸出金利の引き上げ交渉は進んでいないとの声が出ているようであり、その一因に低金利環境が続き、営業現場では金利上昇を経験していない行員が多いとの指摘があった。

 6%、7%、8%とかの金利を経験しているのはすでに引退したか、現場を離れた世代であり、現場にいるほとんどの世代は、たしかに金利上昇は経験していない。

 メガバンクの貸出金利息は大きく増加していたが、これは米国などの海外部門の貸出金利利息の増加が寄与していた。


2023年11月21日「1999年2月のゼロ金利政策決定の背景」

 今月の日本経済新聞の私の履歴書は前日本銀行総裁の黒田東彦氏が書いている。19日の「私の履歴書(18)デフレの始まり」のなかで次のような指摘があった。

 「1998年3月、速水優日銀総裁が就任した。速水氏はゼロ金利政策を導入し、不況と金融危機に対処した。だがデフレの状況が続いているにもかかわらず、日銀は2000年8月にゼロ金利政策を解除した。私はこの決定は間違っていると思った。」

 ここでいうところのゼロ金利政策とは1999年2月に導入されたものである。1998年5月にロシア危機が発生していた。ロシアの金融危機がユーロに影響を与え、またメキシコが大幅な金融引き締めをせざるを得なくなったように中南米へと影響が広がり、資金の貸し手となっていた欧米などの債権者は大きな損失を蒙った。これにより先進国で唯一景気がしっかりしていた米国にも影響が及んだ。

 ただし、このロシア危機による影響は金融危機と呼ばれるほどのそれほど直接的な影響は日本ではなかったはずである。ちなみに山一証券の自主廃業は1997年であった。経済情勢はたしかに良くはなかった。このため1998年9月に日本の長期金利が初の1%割れとなっていたこともたしかである。

 ただし、それらが1999年2月のゼロ金利政策の背景にあったのかといえば、それは違う。これは当時を知る債券市場関係者以外ではピンとこないかもしれない。日銀がゼロ金利政策を決定せざるを得なかった要因は、1998年末に起きた日本国債の暴落、いわゆる資金運用部ショックにあった。それを当時、財務省の国際金融局長の黒田氏が知らなかったとは思えないのである。

 つまりゼロ金利政策の導入の経緯を知っていれば、運用部ショックによる長期金利の上昇が収まれば、その解除に向かう動きは当然であった。当時とすればゼロ金利政策そのものが異次元緩和のようなものであったためである。いまはそれどころの緩和策ではないが。

 2000年8月のゼロ金利解除は、結果として時期尚早であったとの見方は、あとからみればそのように思われても不思議ではなかった。米国でいわゆるITバブルの崩壊が起きたためである。しかしそれをゼロ金利解除当時に見越していたことは考えづらい。


2023年11月20日「日本銀行の政策判断は何に基づいているのか」

 9日に10月30、31日に開催された金融政策決定会合における主な意見が公表された。このなかの「金融政策運営に関する意見」に関する議論で次のような発言があった。

 「イールドカーブ・コントロールの枠組みやマイナス金利は、少なくとも、2%の物価安定の目標を安定的に持続するために必要な時点まで継続する方針であり、その判断には、今後の賃上げ動向をはじめ、賃金と物価の好循環を、双方向からしっかりと確認していく必要がある。」

 イールドカーブ・コントロールの枠組みやマイナス金利は、少なくとも物価上昇の原動力とはなっていない。さらに消費者物価指数(除く生鮮)が18か月連続で、日銀の目標とする2%を超えている。いったい物価がどのような姿になれば、賃金と物価の好循環が生まれたといえるのか。欧米のように賃金上昇と物価上昇の悪循環が生まれてしまう懸念は無視しても良いというのであろうか。

 「賃金と物価の好循環を通じた2%目標の達成には未だ距離があるため、金融緩和の継続を通じて賃上げのモメンタムを支え続けることが重要である。こうした状況では、イールドカーブ・コントロールは運用を修正しつつも、枠組みとしては維持すべきである。」

 長期金利の1%を目途として実質的に長期金利コントロールは形骸化している。枠組みとしては維持するというのはなぜなのか。単純に金融政策の方向を変えたくないというのが本音なのではないか。

 「今回のイールドカーブ・コントロールの柔軟化は、投機的な動きを生じにくくすることにより、イールドカーブ・コントロールの耐性向上に繋がる。」

 投機的な動きがあって、指値オペの弊害が明らかとなり、結果としてイールドカーブ・コントロールの柔軟化に追い込まれたのではなかろうか。

 「市場において無用の憶測を生じさせないためには、日本銀行の政策判断は、経済・物価の見通しに基づいて行っていることを対外的にしっかりと説明することが重要である。」

 本当に日本銀行の政策判断は、経済・物価の見通しに基づいて行っているのであろうか。甚だ疑問である。

 「将来の出口を念頭に、市場機能を重視した価格形成や債券市場を中心とした流動性改善のほか、低金利が続いただけに「金利の存在する世界」への準備に向けた市場への情報発信を進めることが重要である。」

 これは同意であるが、日銀の現在の政策は「(政策)金利の存在しない世界」をいかに長く続けるかに向けているようにしか見えないのであるが。


2023年11月20日「経済界からの物価が野放図で円安も野放図との指摘」

 「岸田総理が来年の春闘でことしを上回る賃上げを要請したことに対し日本商工会議所の小林会頭は、賃上げしても物価の高騰がそれ以上で追い越すのは永遠に不可能な状況だとして、政府・日銀の物価対策を強く批判しました。」(テレビ朝日系)。

「賃上げで物価高を追い越すことは不可能」日商会頭が政府・日銀の物価対策を批判 https://news.yahoo.co.jp/articles/084fd7196413f1c87978898d8a7123da9cf8def0

 日本商工会議所の小林健会頭は三菱商事の社長、会長を務め、2022年11月に日商会頭・東商会頭に就任。

 日銀が政府の意向を受けて、異常ともいえる金融緩和を続けていることに対し、経済界からも強い非難の声が出てきた。

 日商・小林会頭「賃上げ努力してもね、物価の高騰がそれ以上に常になって、何というか賽の河原に石を積むような形で、賃上げすればそれに追っかけて物価が上がる。それでまた物価を追い越せということは、そういうスパイラルは永遠に不可能なわけですよね」(テレビ朝日系)

 不可能かどうかはさておき、それがこれまでの欧米の物価上昇ともなっていたとみられる。もしこのような状況となれば、それはデフレ脱却とかではなく、インフレ・スパイラルそのものとなってしまう。

 そのうえで小林会頭は、「物価が野放図で、円安は野放図で、値上がりしたものを『買え、買え』というのはちょっとおかしいんじゃないか」と政府・日銀の物価高対策や為替政策を厳しく批判しました。(テレビ朝日系)

 物価高に対して物価の番人の日銀は、静観どころか、さらに物価上昇を推し進めようと、異常な緩和を続け、正常化すら拒んでいる。

 これが欧米などの中央銀行との金融政策の方向性の違いを生んで円安要因となっている。それに対し政府はそれに異議を唱えるどころか、むしろ政府がいまの日銀の政策を推し進めるよう指示しているかのような状況となっているのである。


2023年11月17日「円が売られる通貨に、見透かされた日銀の異常な金融緩和策」

 ドル円は13日に一時151円92銭と昨年付けた151円94銭に接近したが、14日の米CPIを受けた米長期金利の低下によって151円を割り込んだが、すぐに回復し16日には再び151円台を回復している。

 ドル円については、152円近辺では介入警戒もあって、やや上値が重くなってはいるが、ユーロ円をみるとじりじりと上昇してきており(円安ユーロ高)、ユーロ円は164円台となり、およそ15年ぶりの円安ユーロ高水準を付けている。

 15日付日本経済新聞の『円「売る通貨」に定着 対ユーロやフランで下落続く』という記事によると、対スイスフランでは過去最安値を付けたようである。外為市場では円は「売る通貨」としての色彩を強め、低金利の通貨を借りて高金利通貨で運用する円キャリー取引が増えているとも。

 結局は金利差が円安の大きな原因となっている。円安は企業利益にプラスに働く面もあるが、物価高となっている日本にあって、さらなる物価上昇要因ともなる。

 日銀はしっかりデフレからの脱却を目指すとして、異常な非常時緩和を続けている。しかし、デフレからの脱却どころか、すでに物価は前年比3%、4%という状態にある。

 日銀が緩和方向ばかりに向いていることで、安心して円を売ることができる。中立方向に戻そうともしていない。

 YCCを修正して、いや修正せざるを得なくなったが、それでもこれは正常化ではないと言い張る。そんな金融政策があって良いのであろうか。たしかに以前にトルコに同様の事例はあったが、そのトルコも向きを変えざるを得なくなった。

 日銀もいずれ向きを変えざるを得なくなると思うが、追い込まれてからとなってしまうと、YCCの修正時のように日本の債券市場を機能不全にさせるような事態に陥りかねない。

 少なくとも普通の金融緩和に戻す姿勢を示すことは必要ではないか。それすらできないというのは、いったい何を恐れているというのであろうか。


2023年11月16日「金利上昇で潤うメガバンクと含み損が膨らむ地銀」

 5大銀行グループの2023年4?9月期決算が14日、出そろった。合計の連結純利益は前年同期比56%増の1兆9960億円と2005年度に3メガバンク体制になってから最高となった(14日付日本経済新聞)。

 利益を押し上げたのは調達金利と貸出金利の差である利ざやの改善となり、特に海外の金利上昇の恩恵が大きかった模様。

 ただし、3メガバンク平均の国内大企業向け貸出金利ざやは約0.56%とマイナス金利政策の導入後で最大となった。今後は日銀によるマイナス金利解除の可能性もなくはないため、短期金利が上昇すればさらなる収益拡大が予想される。

 国債利回りの上昇は、債券の含み損を拡大させることで、収益悪化の要因ともなるが、大手銀行は金利上昇への備えを進めていたことで、それによる影響はさほど大きくはなかったようである。

 日本国債の保有者に占める海外投資家の割合が3月末に初めて邦銀を上回ったことが財務省の集計で分かったと15日に日経新聞が報じていた。海外勢が日本国債の保有額を増やす一方、メガバンクを主体とする邦銀は国債残高を縮小させていた。

 ただし、主に日本国債で運用する地銀については債券含み損による影響が大きく、全国の地方銀行が保有する国内債券や外国債券、投資信託などの含み損が増え、地銀97行の含み損は2023年9月末時点で約2.8兆円と6月末から7割増えていた(15日付日本経済新聞)。


2023年11月15日「日銀のいうところのコストプッシュとは何か」

 9日に10月30、31日に開催された金融政策決定会合における主な意見が公表された。このなかの「物価」に関する議論で次のような発言があった。

「物価見通しは上振れているが、その主因はコストプッシュである。2%の持続的・安定的な実現には、コストプッシュがなくなった後も、自律的に賃金と物価の好循環が回り続けることが必要である。」

 インフレにはコストプッシュ型とディマンドプル型に分けられるという説がある。景気拡大によって需要(ディマンド)が増加することにより、物価が上昇する。需要サイドに起因する物価上昇をディマンドプル・インフレと呼んでいる。

 これに対し供給サイドである企業など生産者のコストが上昇した場合に起こるのが、コストプッシュ・インフレと呼ぶ。

 そもそも物価上昇要因をコストプッシュとディマンドプルに明確に区別はできない。

 さらに上記発言に矛盾があるのは、企業など生産者のコストが上昇した場合に起こるのが、コストプッシュであり、つまり賃金が上昇した場合に起こるのもコストプッシュに含まれている。

 日銀は消費者物価指数(除く生鮮)が18か月連続で、日銀の目標とする2%を超えているのに、物価上昇の主因はコストプッシュであるとして、正常化、つまり普通の金融緩和策に戻ることすら拒否している。

 さらに、金融政策の正常化となるイールドカーブ・コントロールとマイナス金利政策の解除は、どのような条件で行うのか、具体的な数値も示していない。

 その上、律的に賃金が上昇してもコストプッシュ型のインフレとなってしまうという矛盾をどのように解釈したら良いのかも示していない。


2023年11月14日「2023年度補正予算案では8兆8750億円の国債を追加発行」

 政府が経済対策の裏付けとする2023年度補正予算案では、8兆8750億円の国債を追加で発行する。

令和5年度国債発行予定額(財務省) https://www.mof.go.jp/jgbs/issuance_plan/fy2023/issuanceplan231110.pdf

 これによると建設国債の増額分は2兆5100億円、赤字国債の増額分は6兆3650億円となる。建設国債と赤字国債をあわせた2023年度の新規国債の発行額は44兆4980億円に増加する。

 また、GX経済移行債も当初予定に比べて1兆416億円増額される。

 ただし、これらによるカレンダーベースの国債発行額に変化はない。つまり今年度、これから発行される国債は年度当初の計画通りとなる。

 それでは増額分の国債の増額相当分はどのように捻出されるのか。

 令和5年度国債発行予定額をみると、財投債が当初の予定12兆円から5兆円に減額されており、これが大きい。ここで7兆円をカバーする。

 さらに借換債も2兆4611億円減額される。これは決算剰余金から1.3兆円程度、利払い費などの減額で1兆98億円を捻出する分などで減額が可能となる。また、復興債も当初予定の998億円の発行がなくなっている。

 これらの捻出によって、今回の補正に伴う前倒し発行による調整分(年度間調整分)は、9160億円で済んでいた。


2023年11月11日「日銀内部で意見の違いが明らかになりつつある」

 日銀は6日に9月21、22日らに開催された金融政策決定会合の議事要旨を公表した。このなかの「政策運営を巡るコミュニケーション」の部分を取り上げてみたい。

 委員は、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現が見通せる状況には至っておらず、日本銀行は粘り強く金融緩和を継続していく方針であることを伝えることが重要との認識で一致した。

 これが現在の日銀の基本的見解であり、つまり金融政策は緩和方向でしか見ていないことを示している。

 委員は、日本銀行は「賃金の上昇を伴う形で、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することを目指して」いるとしたうえで、イールドカーブ・コントロールの枠組みについて、「物価安定の目標」の安定的な実現に必要な時点まで継続すると対外公表文で約束していることを再確認した。

 YCCの修正はあっても撤廃は、物価水準からさらに大幅な賃金上昇を達成するという、数値上はかなりのインフレが起きるまではありえないと宣言している。

 一人の委員は、情勢判断については委員間で多様な見方があるのは当然だが、こうした政策反応関数、すなわち先行きの政策運営方針については、全員一致で議決し、公表していると指摘した。

 この意見にも疑問が残る。委員会制度をとっている限り、多様な意見が議決に反映されて当然であり、政策運営方針について全員一致で議決する必要などはない。

 複数の委員は、イールドカーブ・コントロールの枠組みの撤廃やマイナス金利の解除は、あくまで、2%の「物価安定の目標」の実現との関係で、その成功とセットで論じられるべきであると指摘した。

 何をもって成功というのか、具体的な数値で示すべきである。本来の2%の「物価安定の目標」はあくまで消費者物価指数(除く生鮮食料品)の前年比2%であったはずだが。

 一人の委員は、マイナス金利を解除するという判断は、マイナス金利よりゼロないしプラスの金利が望ましいと判断したということを意味するが、2%の「物価安定の目標」の実現が見通せないもとで、そうした判断に至ることは考えられないと付け加えた。

 マイナス金利よりゼロないしプラスの金利が望ましいのは当たり前のことではないのか。

 日銀の植田総裁は6日の名古屋での講演で、物価安定目標について「実現の確度が高まってきている」と発言している。

 この総裁発言からみても日銀は無理矢理に全員一致で異次元緩和を続けようとの姿勢をみせているが、総裁はそういった姿勢に疑問を抱いているようにも思える。


2023年11月11日「渋沢栄一の一万円札など新紙幣の原価が物価高によって上昇」

 1万円札など現行の紙幣は2022年夏ごろに製造を終了した。これによってなかなかピン札が手に入らないといったピン札不足が発生していたようである。

 現在は渋沢栄一の肖像画がデザインされた1万円札、津田梅子の5千円札、北里柴三郎の千円札り印刷が行われており、2024年7月をめどに、紙幣のデザインが刷新される予定となっている。

 その新しい紙幣であるが、8日に日本経済新聞に「新紙幣の製造費13%高 原料はネパール産、円安の余波も」と言う記事が掲載されていた。

 この記事によると、新デザインの紙幣の製造原価は、現在の紙幣よりも13%上がる見通しとなっているとか。

 紙の原料といえばパルプだが、和紙の原材料はコウゾ、ミツマタである。紙幣の製造にはミツマタが使われており、そのうち9割をネパールなどから輸入しているそうである。和紙の原材料を輸入に頼っているというのは知らなかった。

 ミツマタは徳島県や岡山県などで生産されてきたが、農家の減少とともに栽培面積も大幅に縮小したとか。

 ネパール現地のインフレや円安がミツマタの価格に反映され、新紙幣製造コストを押し上げる要因になっているようである。

 紙幣は国立印刷局によって刷られ、日銀が製造費用を払い、印刷局から引き取って発行される仕組みになっている。

 日銀によると、2023年度の「銀行券製造費」は619億円を見込んでいる。計30億3000万枚の紙幣を製造する予定で、原価は1枚当たりで約20.4円になる。現行デザインのみを製造していた2021年度は約18.1円だった。新デザインのほうが原価は13%高くなっている(9日付日本経済新聞)。

 物価高が意外なところにも現れていた。


2023年11月10日「日銀総裁は物価見通しの誤りを認める」

 日銀の植田和男総裁は8日の衆院財務金融委員会で、政府・日銀が掲げる物価2%目標の達成に向け、「物価と賃金の好循環が少しずつ起きている」との認識を示した。その上で「(好循環が)まだ少し弱いことを考えて現在の緩和政策を維持している」と述べた(8日付日本経済新聞)。

 植田総裁は「少し」を強調しているようにみえるが、むしろ「少し」という言葉を加えることで、金融緩和策をこれまで変えてこなかった姿勢の理由付けをしているかにもみえる。

 現在のイールドカーブ・コントロールやマイナス金利などの大規模緩和をいつまで続けるかについては、好循環の見通しが「ある程度の確度で持てる状態になるかだ」と強調した。

 そもそもその好循環に持っていくのに、長期金利のコントロールやマイナス金利がどうして必要となるのかの説明はない。

 総裁はこれについては6日の名古屋での講演で「イールドカーブ・コントロールの枠組みのもとで粘り強く金融緩和を継続することで、経済活動を支え、賃金が上昇しやすい環境を整えていくことが政策運営の基本となります」と説明している。

 粘り強く金融緩和を継続するのにどうしてイールドカーブ・コントロールの枠組みが必要なのか。マイナス金利を含め、欧米の中央銀行などとの金融政策のそもそもの方向性の違いが円安となり、それによってさらにコストプッシュ型の物価上昇を引き起こしてはいまいか。

 それがむしろ経済活動を阻害しているとはいえないであろうか。イールドカーブ・コントロールやマイナス金利を槐樹することで、金融政策の正常化を行う。それによって金融政策柔軟性と機動性を取り戻すことが何より重要ではないのか。

 総裁は衆院財務金融委員会で「実質賃金が必ずプラスに転じていなければいけないかというと、必ずしもそうではない」と話した。

 あたりまえといえばあたりまえで、いまの物価高に賃金上昇が加われば、本格的なインフレを起こしかねない。

 総裁は、日銀が消費者物価指数の見通しの上方修正を繰り返していることには、誤りがあったことは認めざるを得ないと発言した。

 これは見通しそのものに大きなバイアスが掛かっていたことが要因であった。2%の物価目標を掲げながら、その2%の物価目標が達成されたら困るので、見通しそのものを低く抑えているとみられても致し方ないのではなかろうか。それ以前に2%の物価目標は数値上はすでに達成されているのであるが。


2023年11月9日「長期金利が復活、債券村はベテラン勢の出番なのか」

 11月1日に10年国債の利回りは0.970%と2013年5月以来、約10年5か月ぶりの水準に上昇した。

 日銀は10月31日まで開いた金融政策決定会合でイールドカーブ・コントロールを再修正し、長期金利の上限を1%をめどとし、長期金利の1%超えを容認する姿勢を示した。これを受けて10年国債の利回りは0.970%まで上昇した。

 1日に付けた0.970%が目先の高値となり、その後は2日の10年国債入札が無難な結果となったことや、米長期金利がいったんピークアウトしたことで、その後の日本の10年債利回りは低下した。

 長期金利が1%に接近してきたことで、「金利ある世界」を知る債券市場のベテランの出番かとの声も出ている。しかし、1990年あたりまでの高金利を知る現役の市場参加者は少なくなっている。

 また、高い金利を知っているかといって今後の金利の動向に対応できるかといえば疑問も残る。

 長期金利が0.5%あたりの際に、1.0%までにはまだ距離があるという発言があったが、それに対して私は、距離なんかないよと思ったように、過去の金利上昇をみてきた経験が生かされることはあるかもしれない。

 1%や2%の金利が低すぎると思っていた時代の経験者の金利観は、もしかすると役立つ場面はあるかもしれない。しかし、金利を形成する要因そのものが昔と今は大きな違いがあり、ベテランだから金利が読めるかどうかとなるとやや疑問が残るのである。

 たとえば国債残高だけみてもまさに桁違いである。そこに日銀による関与の度合いなども異なる。物価をみても過去の物価上昇時は参考とはなっても、やはり原因などに違いがあり、なかなか先行きを見通しづらい面がある。

 だからこそ金利が上でも下でもフレキシブルに動けるようにする必要がある。これは日銀の金融政策についても同様となるはずなのだが、それを頑なに拒む日銀そのものが最大のリスク要因となっている。


2023年11月8日「個人向け国債の利率が3年固定と5年固定が2011年以来、10年変動初期利子は2012年4月以来の水準に」

 11月募集の個人向け国債の発行条件が発表された。変動10年0.60%、固定5年0.42%、固定3年0.19%となる。募集開始は11月7日。

 1日に三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)傘下の三菱UFJ銀行は、5−10年の定期預金金利を大幅に引き上げると発表。6日から適用する。10年定期の金利は現行の0.002%から0.2%と2012年以来の高水準になるとの記事が出ていた。

 今回の個人向け国債の金利をみると、この三菱UFJ銀行の10年物定期預金の金利に対し、固定3年はやや低いが、5年は倍以上、10年変動は3倍となる。

 むろん銀行の定期預金と個人向け国債では預金と投資という面が違いはある。ただし、個人向け国債は定期預金と同様に元本は保証されている。途中換金も可能であるが、個人向け国債は1年という売却できない期間が設けられており、それが金利面に反映されている面もある。

 2年固定の0.19%というのは2011年8月の0.21%以来となり、5年固定の0.42%は2011年4月の0.52%以来、そして10年変動の0.60%は2012年4月の0.57%以来となる。

 利率の面では現行の銀行の定期預金に比べてかなり優位となっていることに加え、もしこのまま長期金利が上昇しても10年へ変動であれば、それに応じて利率が変わる仕組みとなっている。

 個人的には日本の長期金利は本格的な上昇局面入りしつつあるとみている。その意味でも個人向け国債ま10年変動タイプはかなり魅力的なものと思う。


2023年11月7日「前回、阪神が優勝した1985年は日本国債にとっても転機の年だった」

プロ野球、日本シリーズの第7戦が5日夜、大阪市の京セラドーム大阪で行われ、阪神がオリックスに7対1で勝って対戦成績を4勝3敗とし、1985年以来となる38年ぶり2回目の日本一に輝いた。

 この1985年は日本国債にとっても転機の年といえた。転機というよりもそもそも国債を主体とした日本の債券市場、流通市場が本格的に稼働した年といえる。

 1985年6月に金融機関の債券のフルディーリングが開始された。国債を大量に保有している都銀などの銀行が国債市場に本格的に登場することで、公社債の売買高は急増したのである。

 この年の10月には東京証券取引所に日本で初めての金融先物市場が誕生。長期国債先物取引(債券先物取引)が開始されたのである。

 債券先物取引においては、東京証券取引所会員の証券会社だけではなく、国債を大量に保有している銀行の参入が、特別会員という資格で認められた。

 金融機関による国債のフルディーリングの開始と債券先物取引の開始により、国債は流動性が大幅に向上することとなり、日本の債券市場は急速に拡大したのである。

 1985年のプラザ合意後の急激な円高に対処するための、度重なる利下げによる未曾有の金融緩和に加え、公共事業拡大による財政出動が要因となり、結果として、日本のバブルが発生した。

 金融緩和や円売り介入などから資金は余剰となり、それは設備投資には向かわず、株や土地に向い典型的な資産インフレを引き起こした。円高対策のための日銀の金融緩和により、バブルを加速させる結果に。これを受けて国債の価格も大きく上昇した(国債利回りは低下)。

 その後のバブル崩壊と日銀の積極的な利上げによって1990年には長期金利が大きく上昇し8%台を付けた。ただし、これも長い目でみると一時的な長期金利の上昇といえた。

 つまりここにきての長期金利の上昇は、すでに2020年から3年程度経過しており、日本の債券市場が本格稼働してから、はじめての本格的に長期金利の上昇トレンドが形成されているとの見方ができるのである。


2023年11月3日「日銀は指値オペを柔軟化したが、これでイールドカーブコントロールは形骸化、それでも続ける金融緩和」

 10月30、31日に日銀の金融政策決定会合で、日銀は長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の再修正を決めた。10年国債の指し値オペの運用を見直し、長期金利の事実上の上限だった1%を「めど」とし、一定程度超えることを容認する。

 ただし、指値オペそのものは撤廃することはなく、必要に応じて、指値オペによる買入れを複数日に亘って行う旨を、予め公表する。これによって日銀は長期金利の上昇に対してブレーキを掛けることとなる。

 買入額については、上限を設けず必要な金額の長期国債を買い入れを行うともあり、各年限において。機動的に実施するとある。

 つまりこれは長期金利が1%を超えてきても、指値オペによって1%で無制限の買入を行うということはなく、日銀がこの水準でブレーキを掛けるという水準がきた際に、指値オペを実施することとなりそうだ。

 これは為替介入にも似た格好となり、市場ではどこで指値オペが出てくるのか疑心暗鬼となりながら、国債を売買する格好となる。いわば日銀との心理戦となるが、日銀といえど適切な相場観を持っているとはいえず、むしろ市場との対立姿勢を深めることになるとも限らない。

 今回の日銀の修正は7月の修正と同様に非常時緩和の延命策、時間稼ぎとなる。今回も声明文の最後は「必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる」となっており、ガイダンスの修正はなかった。

 長短金利操作の運用については賛成8反対1となっていたが、反対者は中村委員で、長短金利操作の運用をさらに柔軟化することについては賛成であるが、法人企業統計等で企業の稼ぐ力が高まったことを確認したうえで行う方が望ましいとして反対した。

 つまりこの反対票も緩和方向にしか向いていないこととなり、今回も日銀は、当面は金融政策の転換と受け止められる動きは避けるように、との官邸の意向を忠実に従ったというかたちとなった。

 発表された経済・物価情勢の展望(展望リポート)では、日銀の2%の物価目標でもある消費者物価指数(生鮮食品を除く)の前年度比上昇率の見通しを2023年度、24年度ともに2.8%に上方修正した。25年度も1.7%と小幅に引き上げとなった。

 この数値からみて、当然ながら非常時緩和を続ける必要性はない。賃金も上昇してきているが、これは日銀が緩和を続けているからではないため(10年かけてこれは日銀が立証している)、非常時の金融緩和を続ける意味はない。

 それにもかかわらず政権側の意向もあって、非常時緩和を続ける日銀の姿は奇異に映り、以前のトルコの金融政策に通じるところでもある。


2023年11月3日「FRBは政策金利を2会合連続で据え置き、市場では年内の追加利上げ無し観測で米長期金利が大きく低下」

米連邦準備理事会(FRB)は1日開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利を据え置いた。2022年3月のゼロ金利解除後で初めて2会合連続で利上げを見送った格好となった。

 FOMC後に記者会見したパウエル議長は「長期金利の上昇やドル高・株安などによる金融条件の引き締まりは、将来の金利決定にとって重要な意味を持つ可能性がある」と述べた。

 7月会合の後から債券市場で始まった長期金利の急上昇も、利上げを見送る一因になったようである。ただし、中央銀行がコントロール可能な短期金利を誘導することで、中央銀行の物価に対する意思を示すことが、まさに金融政策となるが、市場で形成される長期金利に金融政策の役割を負わせることについてはやや疑問も残る。まあ、その長期金利をコントロールしようとした中央銀行もあったわけではあるが。

 これを受けて1日の米長期金利は前日の4.93%から4.73%に大きく低下し、2日には4.66%に低下した。

 今回の据え置きは市場でも予想していたことであり、注目は今後の利上げの可能性にあった。これについてパウエル議長は会見で「インフレのさらなる進展は、さらなる引き締めを正当化する可能性がある」と言及した。

 しかし、市場では12月の利上げも見送られるとの見方が強まったようである。これを受けての米長期金利の急低下となっていた。

 ただし、FRBが重視する個人消費支出(PCE)物価指数は、9月の前年同月比上昇率が3.4%と目標の2%を大幅に上回っていることもあり、追加利上げの有無はさておき、政策金利が当分の間、高止まりする可能性は高い。


2023年11月2日「三菱UFJ銀行が定期預金金利、10年物は100倍の0.2%に引き上げたが、これはむしろ遅いくらい」

 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)傘下の三菱UFJ銀行は1日、5−10年の定期預金金利を大幅に引き上げると発表した。6日から適用する。10年定期の金利は現行の0.002%から0.2%と2012年以来の高水準になる(1日付ブルームバーグ)。

 この記事をみて、いまごろになって10年物金利を引き上げるのかとの思いもあったが、メガバンクがやっと長期金利の上昇に反応し始めたことがニュースとなったものとみられる。ちなみに三井住友銀行、みずほ銀行の10年定期預金金利は0.002%のままのようだが、三菱UFJ銀行の動きをみて同じような動きとなると予想される。

 そもそも10年国債の利回りが1日に0.970%と1%に接近しているなか、これまでメガバンクは0.002%で個人から借りて(個人は預金して)、それをたとえば2日の入札の10年国債で運用すれば1%近くで運用できるということになり、大きな利ざやが稼げることとなる。

 10年国債の利回りは年初にも0.5%近くに上昇していたが、それでも10年の定期預金金利を0.002%に据え置いていたことにも疑問がある。これに対して、固定の住宅ローン金利についてはいち早く10年国債の利回り上昇を反映していたはずである。

 100倍の0.2%でもまだまだ低いと思う。本日の10年国債の入札結果を受けて、明日条件が決まる10年変動タイプの個人向け国債の利率は前回の0.51%を上回ることが予想される。今後、さらに長期金利が上昇してもそれが反映されることもあり、こちらのほうが魅力的に映るのだが。


2023年11月1日「日銀はYCCの柔軟化で緩和策の維持を図る、物価高にあって緩和一方通行というおかしな金融政策はそのまま」

 日銀は10月31日の金融政策決定会合で、金融政策の方向を変えることはせず、むしろその維持を図ろうとして、イールドカーブ・コントロールの柔軟化を行った。

 決定会合の公表文のタイトルは「当面の金融政策運営について」となっており、今回も金融政策の変更ではなく、テクニカルな微調整との位置付けとなる。

 「日本銀行は、本日の政策委員会・金融政策決定会合において、長短金利操作の運用をさらに柔軟化することを決定した。具体的には、長期金利の目標を引き続きゼロ%程度としつつ、その上限の目途を 1.0%とし、大規模な国債買入れと機動的なオペ運営を中心に金利操作を行うこととする」

 つまり、長期金利の目標を引き続きゼロ%程度としつつ、その上限の目途を前回の0.5%から1.0%に引き上げて「目途」とすることで、かなり曖昧なターゲットにした。これにより、1%で何としても止めるということはしないことを示した。

 具体的には毎営業日連続の指値オペを修正した。必要に応じて、固定利回り方式の長期国債の買入れを複数日に亘って行う旨を予め公表するとすることで、毎営業日連続での指値オペのオファーはなくなることになる。実際に11月1日に指値オペのオファーはなかった。

 複数日に亘って行う指値オペでは、買入の量を無制限にするのかどうかは明らかではないが、無制限にしてしまうと公表文にあるように「副作用も大きくなりうる」ことになってしまう。

 これによって実質的に長期金利コントロールは形骸化する。

 植田総裁は、1%を大幅に上回るとはみていないと会見でコメントしたが、日銀の長期金利対する相場観は物価に対するものと同様に正確性を欠くことが多いため、むしろ1%を大きく上回る可能性も意識する必要があるかもしれない。

 公表文には「粘り強く金融緩和を継続する方針」、「必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる」という言葉があるように、頑として方向転換すらしない姿勢を示した。物価高にあって緩和一方通行というおかしな金融政策である。


2023年11月1日「指値オペの柔軟化観測」

 日銀は31日に開く金融政策決定会合で長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の再修正を議論する。現在1%としている長期金利の事実上の上限を柔軟にし、一定程度1%を超える金利上昇を容認する案が有力だ(10月30日 23:00 日本経済新聞)。

「日銀、金利操作を再修正へ 長期金利1%超え柔軟に」日本経済新聞

 ここでもし再修正をしておかないと、長期金利が1%を付けた際に再び、10年国債の新発債を発行額分買わざるを得ない状況となってしまう。これは量的緩和強化にもうつり、その結果、円安がさら進み、物価のさらなる上昇を引き起こしかねない。

 そのような事態を避けるため。日銀はYCCの再修正を議論するそうである。

 緩和策の継続を意識するのであれば、指値オペの水準を現在の1%から1.25%なり1.50%なりに引き上げて時間稼ぎをするのではとみていたが、どうもそうではないようである。

 7月の金融政策決定会合で、長短金利操作の運用については以下のようになっていた。

 長期金利の変動幅は「±0.5%程度」を目途とし、長短金利操作について、より柔軟に運用する。10 年物国債金利について 1.0%の利回りでの指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する。上記の金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、大規模な国債買入れを継続するとともに、各年限において、機動的に、買入れ額の増額や指値オペ、共通担保資金供給オペなどを実施する。

 長期金利の変動幅は「±0.5%程度」の目途そのものがすでに形骸化しており、指値オペの水準がターゲットになっていたが、毎営業日かつ無制限の買入を行う指値オペそのものを実施的に形骸化させてくる可能性がある。

 ここで注目すべきは、声明文の最後にある「必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる」というガイダンスの修正があるのかどうかとなる。

 岸田政権の意向を受けて、金融政策の転換と受け止められる動きは避けたいというのであれば、今回も修正なしの可能性がある(べき論では修正して当然であるのだが)。

 転換したくないというのであれば、YCCそのものは残すとみられる。長期金利の変動幅の「目途」を拡げるなりした上で、指値オペそのものは形骸化させた上で、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、大規模な国債買入れも継続し、各年限において機動的に、買入れ額の増額や、共通担保資金供給オペなどを実施するということにするのであろうか。

 今回、日経に続いてブルームバーグ、読売新聞も同様の記事を出していた。さらに日経の記事のタイミングで、金融市場ではサプライズというよりも狙い撃ち的な仕掛が入っていたとの観測がある。決定会合直前のこのような報道については、できれば避けてほしいと思う。うまく事前に市場に浸透させる「工夫」も求められよう。


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