. 若き知
2018年11月15日「原油先物価格が急落、世界経済の減速懸念も背景に」

 13日のニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で原油先物相場は12日続落となった。12日続落は過去最長の模様。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)12月物は前日比4.24ドル安の1バレル55.69ドルで引けた。WTI先物の1日の下落率としては、ここ3年で最大となったようである。

 下落要因はさておき、チャートから見た、いわゆるテクニカルによる分析からは、これだけの下げはそうそう起きるものではない。仕掛け的な売りも当然入っていようが、買い方の投げが主要ともいえそうな動きとなる。

 13日の大幅下落の要因としては、減産を検討しているサウジアラビアなどに対して12日に米国のトランプ大統領が減産しないよう要求し、「原油価格はもっと低いはず」と主張したことがひとつの要因とされた。

 また、OPECが13日発表した月報で、世界経済の減速や非加盟国の予想以上の増産により2019年には供給過剰になる可能性があると指摘したことも下げ要因になった。

 それにしてはWTIの4ドルもの下げというのは、下げ方が大きすぎると言える。その理由のひとつにはチャートを意識したテクニカル的な売りも入っていたと推測される。

 ただし、OPECも指摘していたように中国を主体とした世界的な景気減速観測もあることで、買い方の不安を助長させて、下げが加速された面もあったかもしれない。

 WTIが60ドルを割り込んだことで、チャート上からは下値が見えなくなってきた。上昇相場の出発点となった30ドル台あたりまで下落する可能性もチャート上からはありうるか。

 もちろんWTIで70ドル台を維持させたいとするサウジアラビアなどが、あらためて減産等を行ってくる可能性はある。しかし、それはあくまでそれなりの需要があることが前提となる。現実に世界経済が後退局面となれば、原油価格を高値で維持されることは難しくなる。


2018年11月14日「12日の米株急落の要因となったアップルとゴールドマン」

 11月12日の米国株式市場ではダウ平均は602ドル安と大きく下落した。iPhoneに販売減速の懸念が浮上したアップルが急落したことに加え、ゴールドマン・サックスも急落したことが大きな要因となっていた。

 iPhoneに顔認証用のセンサーを供給しているルメンタム・ホールディングスが12日、大口顧客から出荷を大幅に削減するよう要請されたことを公表した。ルメンタム側は顧客の企業名を明かさなかったが、大口顧客とはアップルであろうとの見方が広がった(日経新聞)。

 また台湾のエコノミックデイリーが、匿名筋の話として、アップルがiPhoneXの今四半期の販売見通しを下方修正すると報じたことも要因となっていたようである。

 そして、ゴールドマン・サックスであるが、こちらは米司法省がマレーシアの政府系ファンド「1MDB」による巨額の資金流用に関与したとして、ゴールドマン・サックス・グループ元行員2人を起訴したと発表したことが要因となっている。

 1MDBはマレーシアのナジブ前政権の汚職の中心舞台となった政府系ファンドであるが、総額45億ドル以上の不正流用の疑いが浮上している。

 司法省によると、ゴールドマンは2012年から13年にかけて60億ドルを超える1MDBの債券発行を引き受け、約6億ドルの手数料を得た。ゴールドマン・サックス・グループ元行員2人がこの引受を行うにあたって、政府高官への贈賄を支払ったことに加え、数十億ドルにのぼる1MDBの資金洗浄を企てたとされる。これに当時の最高幹部が1MDB事件の主犯格との会合に出席していた可能性も浮上し、組織的な関与が疑われる事態となっている(日経新聞)。

 アップルについては、米国の景気拡大に大きく寄与していた主要ハイテク株の業績への懸念が強まることで12日の米株の大幅下落はアップルが主因ともされているが、今回のゴールドマン・サックスに関する疑惑も注意が必要になるのではないかと思われる。

 マレーシア汚職にゴールドマン・サックスが組織としての関与が認定されるかどうかが大きな焦点となる。仮に組織としての関与が認定されなかったとしても、金融界にとっては大きな存在となっているゴールドマン・サックスへの批判があらためて強まる可能性がある。

 株式市場で大きな調整が起きる際には、その主要因はさておき、何かしらのきっかけや兆しがある。今回の米株の大きな調整が本格的な相場下落に繋がるかどうかはわからない。しかし、今回のアップルやゴールドマンがそのきっかけになる可能性もないとは言えない。念のためこちらの動向にも十分注意を払う必要がある。


2018年11月13日「見方を変えると日本のキャッシュレス化は進んでいた?」

 金融庁が9日、国内のキャッシュレス決済に関する独自の試算結果を明らかにした。三菱UFJ、三井住友、みずほの3銀行の個人給与受取口座を対象に、1年間に出金された85兆円の行き先を分析したところ、クレジットカードや家賃、公共料金、ローン返済金などが口座から自動に引き落とされる口座振替が32%。さらにインターネットバンキングやATMなどによる振り込みが22%強。実際に現金を引き出さずに決済・出金する「キャッシュレス」比率は54%に上った(9日付け日経新聞)。

 経済産業省が今年3月に発表したキャッシュレスビジョンによると、世界各国のキャッシュレス決済比率(2015年)の比較を行うと、韓国の89.1%を始め、キャッシュレスが進展している国では軒並み40%〜60%台であるのに対して、我が国は18.4%にとどまるとしている。このため、2025年までに日本の「キャッシュレス決済比率」を40%程度とし、将来的には世界最高水準の80%を目指すとしている。

「キャッシュレスビジョン(要約版)」経済産業省 http://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180411001/20180411001-2.pdf

 上記のキャッシュレスの主な支払手段として、電子マネー、デビットカード、モバイルウォレット、クレジットカードが挙げられている。

 これに対して金融庁の試算は、銀行口座を利用した口座振替なども加味したもので、経産省のキャッシュレスビジョンと視点は異なるものの、現金を使わないという意味ではキャッシュレス決済であることに変わりはない。

 日本では国民のほとんどが銀行口座を保有しているとされる。さらにそこからクレジットカードの決済を含め、公共料金等の自動引き落としなどキャッシュレスでの決済が行われている。

 我が家をみてみると、口座をひとつにまとめきれていない面もあって、いったん現金化している部分はあるが、それをもしまとめれば現金の利用はかなり限られることとなる。しかも、食料品などではスーパー系の電子カードを利用することが多く、それもキャッシュレス決済と見なせば、たしかに現金の決済比率はかなり低下する。日用品や書籍などは主にアマゾンでの利用も多く、こちらはクレジットカード決済となる。電車等の利用時も電子カードを使う。そうなると純粋な現金決済は主に私のお酒の代金などに限られるような気もする。

 たしかに電子マネー、デビットカード、モバイルウォレット、クレジットカードの利用では海外に比べて、日本の普及比率は相対的に低いかもしれない。しかし、電子決済化という面では、むしろ進んでいるとの見方もできるのではなかろうか。


2018年11月11日「FRBの今後の利上げペースの予想」

 11月8日に開かれたFOMCでは、全員一致で金融政策の現状維持を決定した。つまり、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利誘導目標を2.00〜2.25%のレンジで維持することを決定した。

 これは市場でも予想されていたことで、市場への影響は限られた。注目は12月のFOMCで予想通りの利上げが実施されるかどうかという点であった。これについては会合後に発表された声明で、一段の利上げが正当化されるとの表現を維持しており、12月のFOMCで利上げは実施されるであろうとの見方が強い。

 何故、11月ではなく12月のFOMCで利上げを行うと予想されているのか。もちろんリーマン並みの世界的なショック等が発生すれば別ではあるが、FRBはある程度のスケジュール観を持って正常化を進めているとみられているためである。

 これは正常化を進めるにあたり、あまり場当たり的な政策変更は行わず、市場での利上げ等の金融政策修正の織り込みを重視していたためである。特に注意していたのは説明責任と思われ、正常化に向けた政策変更時は、常に議長会見が予定されているFOMCとなっていた。このため議長会見のない11月は現状維持、そして今年は年4回の利上げを市場では認識していたことで、12月に利上げが実施されるであろうとの読みとなった。

 ただし、注意すべきは来年のFRBの動向となる。来年からはすべてのFOMCで議長会見が予定されているためである。つまり議長会見のないFOMCは今回で最後ということになる。

 今後についてはあと3回か4回の利上げの可能性はありうる。そして今年のように四半期毎といったペースも守られるのではないかと予想される。

 トランプ大統領からの圧力も気になるところではある。ただし、米国の景気拡大が続く限り、それに沿った利上げは、トランプ氏個人の意見はさておき、米政府はある程度容認してくるのではないかと思われる。それでも世界的な景気減速への懸念はあるため、場合によると利上げがペースが修正されたり、場合によっては利上げそのものが打ち止めとなる可能性もありうるか。


2018年11月11日「日本のキャッシュレス化はカードによる電子マネーが主導しても良いのでは」

 日本のキャッシュレス化はカードによる電子マネーが主導しても良いのでは、とのタイトルではあるが、何を今更と指摘されるかもしれない。それほど実は日本でもカードでの電子マネーを使ったキャッシュレス化は浸透している。しかし、それでも現金利用の比率が大きいことや、中国などではQRコードとスマートフォンを使った決済が進んでいることなどから、日本でもキャッシュレス化が遅れていると指摘されている。

 しかし、海外でのキャッシュレス化はQRコードを使ったものだけが浸透しているわけではない。韓国ではデビットカードが主流とされており、香港では日本の電子マネーと同じ機能を持つオクトパスカードの利用が進んでいる。香港のオクトパスカードはタクシー以外の乗り物、さらにはスーパーやコンビニ、ファーストフード店、自販機などあらゆるところで使える。

 日本でもQRコード決済利用には躊躇しても、カードを使った電子マネーは交通機関やコンビニ、スーパーなどでも頻繁に利用されている。問題は発行体がバラバラであり、香港のオクトパスカードのような単一化が進んでいない点である。このため財布やカード入れがパンパンになってしまっている人も多いのではなかろうか。

 それでも日本でのカード型の電子マネーの利用がさらに便利になりつつある。たとえばセブン銀行ATMにて10月15日からSuicaやICOCAなどの交通系電子マネーと、楽天Edyなどへのチャージ・残高確認のサービスが開始された。チャージは1000円単位となり、交通系電子マネーでは最大2万円までチャージが可能となり、おつりが発生する金額指定のチャージもできるそうである、

 さらに東京ディズニーリゾートでも交通系電子マネーのSuicaやPASMOなど、さらにはQUICPayやiDを使った決済が一部の店舗で利用できるようになったそうである。

 日本でQRコードを使ったスマホ決済を拡大させることは現状、なかなか難しい面がある。しかし、カードを使った電子マネーならば年配者を含めて利用経験者はかなり多いのでなかろうか。ただし、それぞれのカードによって利用できるものが限られることで、何枚も持ち歩くか、特定のカードだけで利用しているケースも多いのではなかろうか。

 2018年に経済産業省が策定した「キャッシュレス・ビジョン」では、2025年までにキャッシュレス決済比率を40%程度とし、将来的には世界最高水準の80%を目指すとしている。このためには、すでに使われているカード型の電子マネーを香港のように統一した上で、端末の普及を政府なりが支援するのが、意外に手っ取り早いかもしれない。


2018年11月9日「原油先物の上昇トレンドが崩れる。世界的な景気減速の兆候なのか」

 原油先物のベンチマークといえるWTI先物のチャートをみてみると、今年7月3日に75ドル台まで上昇したあと調整売りが入り、8月中旬に65ドル近辺まで下落した。これには米国による対中追加関税措置の発動なども影響していたと思われる。中国が米国産原油に関税を課すことなどへの懸念も出ていた。

 しかし、その後は米国株式市場の上昇に歩調を合わせるような格好となり、原油先物もじりじりと回復し、WTI先物は70ドル台を回復した。10月3日に77ドルに接近したところでピークアウトした。米国株式市場のダウ平均も10月3日に27000ドルに接近したところで同じくピークアウトしている。

 その後のWTI先物はダウ平均と同様に下落し、10月23日に66ドル台に下落した。チャート上からは、このあたりが正念場となっていた。8月につけた65ドル近辺を大きく割り込むようであれば、上昇トレンドがいったん崩れる格好となる。

 上記は10月に書いた「原油先物価格にみる適温相場の変調」から引用したものだが、足元のWTI先物は61ドル台に下落しており、チャートからは上昇トレンドが崩れたかたちになっている。

 ここにきて原油先物価格が下落していたのは、イラン産原油の供給混乱に対する懸念が後退したことなどが指摘されている。しかし、原油そのものの需要が後退している可能性もあるのではなかろうか。また、サウジアラビアと米国の関係悪化など政治上の問題も絡んできている可能性もある。

 米中間選挙という大きなイベントが終了し、米国の株式市場が大きく戻してるが、この原油先物価格の動きを見る限り、再び米国株の上昇トレンドが回復するかどうかは疑わしい面もある。

 来年は世界経済を牽引していた米国経済についても減速してくるのではとの見方も出てきている。米国と中国との貿易摩擦による影響も次第に出てくることも予想される。株価の復活シナリオが完全になくなったわけではないものの、原油価格の動きを見る限り、リスクシナリオも意識しておいた方が良いのかもしれない。


2018年11月8日「日銀は異常な緩和策からの軌道修正を行うべき」

 NHKのサイトに「退任から5年半 白川前日銀総裁が思うのは」というタイトルの特集がアップされていた。

NHK「退任から5年半 白川前日銀総裁が思うのは」 https://www3.nhk.or.jp/news/business_tokushu/2018_1106.html

 白川前日銀総裁は10月に「中央銀行」という著書を出版している。私も購入したが厚くて重そうなので電子版で購入し読み始めている。日銀の金融政策に興味のある方は是非読んで欲しい本である。

 NHKでのインタビューのなかで、白川氏は何故この本を出版しようと思い立ったのかについて次の用に語っている。

 「金融政策をめぐって内外でいろんな議論が行われ、意見が鋭く対立するケースが過去にもありました。なぜ意見の違いが生じるのかと考えると、中央銀行の役割について、人々の理解のしかたが違うことに起因していると感じたのです」(白川氏)

 遠回しながらもこれはリフレ派と呼ばれる人達に向けて、その考え方は果たして正しいのかと説いているようにも思われる。そして金融緩和については次の用なコメントをしている。

 「金融緩和策とは、経済に大きなショックが加わったときに、できるだけ経済の変動を小さくするために行う政策です。この政策自体は本質的には将来の需要を現在に持ってくるという政策なんですね。需要の先食いですから数年間は頼れるけれど、ずっとは頼れないのです」

 特に大胆な金融緩和策は、安倍首相の言うところのリーマン並みのショックが起きたときに行うべきものであり、歴史的なショックが解消しつつあるようなタイミングでおこなうべきものではなかったはずである。

 大胆な緩和で物価上昇を目指そうとしても、それが適わなかったからといってさらに追加緩和なり緩和の修正を行ってきたこの5年間はいったい何だったのであろうか。

 白川氏のいうところの需要の先食いを大胆にしてしまったことで、それは将来に対する不安を生じさせかねないものとなる。いまだ追加緩和を主張する審議委員もいるようだが、それに何の意味があるのか。しかもそれでうまくいく保証もなければ、需要の先食いをさらに行うこととなり、そのあとの処理をさらに困難にさせかねない。

 そろそろというか、なるべく早く日銀は、平時にも関わらず行ってしまっている非常時対応のはずの異常な緩和策からの軌道修正を行うべきではないかと思う。


2018年11月7日「アベノミクスの柱であった日銀の異次元緩和からの脱却」

 日銀の黒田総裁は11月5日の名古屋での講演において以下のような発言があった(講演要旨から引用)。

 「かつてのように、デフレ克服のため、大規模な政策を思い切って実施することが最適な政策運営と判断された経済・物価情勢ではなくなっています。」

 これは日銀の金融政策の大きな方向転換を示すものと見ざるを得ない。日銀が掲げた物価目標の2%は達成されてはいない。しかし、「既にわが国は、物価が持続的に下落するという意味でのデフレではなくなっています。」との黒田総裁のコメント通り、デフレという状況下にはない。

 7月の金融政策決定会合では、政策の持続性を強化するための措置を決定し、その効果を黒田総裁は強調している。しかし、「フォワードガイダンス」の導入は、「金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうること」としたもののバーターというか、引き締め策に転じたわけではないことを示すためのものと私は受け取っている。

 「金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうること」としたことで、黒田総裁はそれによる効果は既に表れていると指摘するが、債券市場の日々の動きを追う限りにおいて、現実にはそれほど債券市場の機能が回復しているようには見えない。

 債券市場の機能回復とともに、強力な金融緩和がもたらす影響(副作用)として「金融機関の収益や金融仲介機能との関係も、しばしば議論の対象となる」と指摘している。遠回しの表現ながら日銀も当然、銀行の銀行であり、銀行収益に与える影響は大きな懸念材料としてみていても不思議ではない。

 その上で総裁は、大規模な政策を思い切って実施することが最適な政策運営と判断された経済・物価情勢ではなくなっていると断じている。これはアベノミクスの一丁目一番地ともいわれた日銀の異次元緩和からの脱却を意識した発言と私は見ている。

 それでは今後、この脱却に向けてどのような修正を日銀は行ってくるのか。これについては、以前にも指摘し、繰り返しとなるが、下記のようなことが予想されうる。

 現在の日銀の保有資産はすでに名目GDPを上回っている。この量による効果を維持させることで、異次元の緩和効果を維持させることをアピールする。マイナス金利政策を止めて短期金利もプラスとし、短期金融市場を活性化させる。さらに長期金利のコントロールも止めることで債券市場の機能も回復させ、金利が動くことによって企業の設備投資などにも刺激を与える。

 将来にわたって低金利が続くと予想すれば、金利が低いうちに資金を借りたいとのインセンティブが働きにくくなる。金利は今後上がる可能性が出てくるとなれば、寝ていた資金が多少なり動いてきても不思議ではない。

 日銀としては、これらは緩和策からの後退ではなく、大規模な緩和効果は維持しつつ、金利がファンダメンタルに応じた動きに戻すことを目的とする。利上げは当面行うことはないと強調し、正常化という表現には表面上距離を置くことで、外為市場などでの急激な円高などを防ぐ。

 本格的な債券市場の機能回復と、金融機関が正常な資産運用をするためには、マイナス金利政策と長期金利コントロールから手を引くことが大きな前提条件となる。それを市場に動揺を与えずにどのように行うのかは大きな課題となる。少なくとも短期金融市場と債券市場の国内の参加者はこれらの動きを当然ながら好感しよう。問題は外為市場と株式市場、そして海外投資家の見方となるのではなかろうか。


2018年11月6日「英国のEU離脱問題が難航しているのは何故なのか」

 英国の欧州連合(EU)離脱を巡り、英首相府は、英国全土を対象とした関税の枠組みが、法的拘束力を持つ離脱協定に盛り込まれる、との新聞報道を「憶測」として否定した(ロイター)。

 英国のEU離脱問題が難航しているとされているが、いったい何が問題となっているのか。上記記事ではその内容が良くわからない。問題点を少し整理してみたい。

 英国のEU離脱は2019年3月29日と決まっている。欧州連合(EU)と英国はこれに向け条件や手続きを定める離脱協定を交渉している。合意しても正式に協定を結ぶにはともに議会などの同意が必要で、時間を要するため10月中の協定合意を目指してきたが、いまだ合意はできていない。

 何がいったいこの合意を阻んでいるのか。そこに存在しているのが、関税の問題となる。離脱協定なしに離脱すると関税を巡り混乱する恐れがある。しかし、勝手に抜けだそうとする英国に対し関税面で優遇措置をEUとしても与えづらい。そこにアイルランドの問題が絡んできている。

 英国の正式名称は、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国である。アイルランドと英国領である北アイルランドには国境が当然ある。しかし、英領北アイルランドと接するアイルランドは関税同盟と単一市場に参加しており、現在、国境には検問所や税関がない。英国とEUはこの国境開放を維持することで一致しているが、国境を管理しないでいかに通関手続きを行うことが可能なのかがネックとなっているのである。

 欧州連合(EU)は北アイルランドだけを関税同盟に残すことを提案したが、メイ首相は国の一体性が損なわれると反発した。

 11月4日付の英紙サンデー・タイムズは、英国の欧州連合(EU)からの離脱交渉で焦点となっている英アイルランド国境問題を巡り、メイ英首相が問題の解決につながる「譲歩」をEUから引き出したと関係筋の話として伝えた(産経新聞)。

 最初のロイターの記事はこの観測を否定したとのものであった。英国のEU離脱後も英国全体をEU関税同盟に残すことが可能になれば交渉は一気に進む可能性はあるものの、それを本当にEU側が許すのか。

 ただし、時間は限られていることは確かであり、11月17〜18日に予定されている臨時首脳会議までに合意する、いや合意しないとの観測が入り乱れている。実質的な交渉期限は「11月まで」から「クリスマス」に延びているともされた。ただし、ここにきてやや進展もみられるようで、英国のラーブ英離脱担当相は議員に宛てた書簡で、EUとの離脱交渉が11月21日までに妥結することを示唆した。


2018年11月5日「日銀の異次元緩和の修正シミュレーション」

 日銀が異次元緩和と呼ばれた量的・質的緩和を決定したのが2013年4月。あれから5年と半年が経過した。当初、2年で2%の物価目標を達成するとしていたが、物価は目標には届かず、日銀の異次元緩和はさらに踏み込み、長短金利操作付き量的・質的緩和となって現在にいたる。しかし、日銀の物価目標となっている消費者物価指数(除く生鮮食料品)の前年比は直近発表の9月分で前年比プラス1.0%と2%にはまだ距離がある。

 大胆な緩和策を5年続け、マイナス金利や長期金利コントロールまで加えたこともあり、金融機関の収益悪化や債券市場の機能低下などの副作用の懸念も強まってきている。

 海外をみてみるとFRBはいち早く大規模な緩和策からの脱却を目指し正常化に向けて着々と歩みを進めている。イングランド銀行も歩みは遅いながらも正常化に向けた動きとなっている。ECBは年内にも新規の資産買入を停止する見込みで、来年には利上げも視野に入れつつある。

 このようななか、日銀は2%という絶対的な物価目標を置いてしまったことで、景気そのものの拡大基調は継続しても、身動きが取れない状況となっている。しかし、そろそろ日銀は物価目標を長期的な目標とすることで、より柔軟な政策に方向転換すべきかと思われる。

 雇用については9月の有効求人倍率が1974年1月以来の高水準となり、この好環境はまた継続するとみられている。賃金がなかなか上がらず、これも物価が上がらない要因となっているが、雇用の回復を阻害しない程度に、異次元緩和の修正は進められないものであろうか。

 たとえば、現在の日銀の保有資産はすでに名目GDPを上回っている。この量による効果を維持させることで、異次元の緩和効果を維持させることをアピールする。マイナス金利政策を止めて短期金利もプラスとし、短期金融市場を活性化させる。さらに長期金利のコントロールも止めることで債券市場の機能も回復させ、金利が動くことによって企業の設備投資などにも刺激を与える。

 これは緩和策からの後退ではなく、大規模な緩和効果は維持しつつ、金利がファンダメンタルに応じた動きに戻すことが目的とする。利上げは当面行うことはないと強調し、正常化という表現には距離を置くことで、外為市場などでの急激な円高などを防ぐ。

 これでもかなり市場の動意を抑えるのは難しいかもしれない。これは実質的に出口政策にほかならないものの、そのあたりは強調せずに押し進める必要もあろう。そろそろこのような異次元緩和の修正シミュレーションを実行に移すタイミングではないかと考える。


2018年11月4日「金融市場を揺るがしている不安材料の行方、米中間選挙やG20、そして英国のEU離脱」」

 米国のトランプ大統領はツイッターへの投稿で「習主席と長く、非常に良い対話を持った。貿易問題を中心に多くの懸案事項について話をした」とし、「アルゼンチンで開催されるG20で予定される会談で、こうした対話は首尾良く続けられる。北朝鮮問題についても協議した」とツイートしたそうである(ロイター)。

 実はその前にブルームバーグが、トランプ米政権が、11月末からの国際会議に合わせて開く予定の米中首脳会談が不調に終われば、12月初旬にも、中国からの全輸入品に制裁関税を拡大する措置を公表する準備をしていると報じていた。

 米中首脳会談は、11月末からアルゼンチンのブエノスアイレスで開かれる20か国・地域(G20)首脳会合に合わせて開く方向で調整が進められている、とされている。

 トランプ政権による中国に対する強硬姿勢の背景には、11月6日の米国での中間選挙が大きく影響している。この結果次第では中国への強硬姿勢を緩めてくるのか、それともさらに関税を拡大する措置を取るのかが判断されるのではなかろうか。選挙の行方については事前の予想が大きく外れるケースも出ており、いまのところ結果が出るまでは何とも言えない。

 いずれにしても11月6日の米国の中間選挙や11月末からのG20の行方が金融市場にとって大きな焦点となる。

 そして、英国のEU離脱の行方も注目材料となる。英国とEU間の離脱交渉では10月中旬のEU首脳会議で目立った進展はなく、実質的な交渉期限も「11月まで」から「クリスマス」に延びていた。ただし、ここにきてやや進展もみられるようである。英国のラーブ英離脱担当相は議員に宛てた書簡で、EUとの離脱交渉が11月21日までに妥結することを示唆した(日経新聞)。

 こちらの交渉も今月がどうやら山場となりそうで、もし離脱交渉が11月21日までに妥結することになれば、懸念材料がとりあえずひとつ払拭することになる。

 イタリアの財政問題、サウジアラビアの問題など不安材料はあるものの、いまのところ世界経済を揺るがすほどの問題とはなっていない。ただし、こういった懸念材料が重なり、リスク回避の動きなども加わって、米国の株式市場を主体に大きな調整を迎えたともいえる。


2018年11月3日「キャッシュレス化で失われる現金の匿名性」

 日本でキャッシュレス化が遅れているのは、通貨への信認が高く、また全国どこでも気軽に使えるインフラが整備されていることなどがあげられる。さらに現金にある匿名性も影響しているのではなかろうか。

 我々が現金を使うときには、使った紙幣の保有者が特定されるようなことはない。クレジットカードを利用すれば、当然ながら記録が残る。預金口座からの引き出しもその金融機関のデータは残るが、その現金をどこで何に使ったまではトレースできない。ただし、ポイントカードなどを使用すると誰が何を購入したのかのデータが残る。

 アマゾンを頻繁に利用している人も多いと思われるが、そのではすべての購買データが残っている。それはアマゾンの画面上で簡単に調べることができる。アマゾンとしては個人の購買データが蓄積され、それがいわゆるビッグデータとなり、利用価値の高いものとなる。

 アマゾンで配送料が低く抑えられているのは、膨大が数量を扱えることや、アマゾンプライムの会費なども原資となっていると思われるが、蓄積される消費のビックデータも大きな価値を持ってきているためといえるのではなかろうか。

 中国などでのQRコードを使った決済は、現金取引に制限があったそりすることで急速に拡大した。それとともにそのキャッシュレス決済がもたらすビッグデータの価値そのものが大きく、その分、店舗の手数料を引き下げるなどしたことで拡大した面もある。

 このようにキャッシュレス化によってもたらされるビックデータの価値によってもキャッシュレス化による手数料等の負担は軽減できる。しかし、それはつまり我々の商取引データが使われることになる。それに対して現金はそもそも手数料は発生しない上に、常に匿名性が維持される。

 日銀の雨宮副総裁は10月20日の「マネーの将来」と題する講演で次のようなコメントがあった。

 「現在、多くの巨大IT企業がキャッシュレス決済の分野に参入するとともに、これらのサービスを安価、ないし時に無料で提供できているのは、企業側が支払決済サービスをデータ収集のプラットフォームと捉え、集めたビッグデータを様々な用途に活用できるためと考えられます。これらのサービスのユーザーは、サービス利用の対価を、自らのデータを提供する形で支払っているとみることもできます。」

 我々は現金決済の匿名性を重視するのか、それともデータ利用を承知の上で匿名性を捨ててキャッシュレス決済にするのか。日本でのキャッシュレス化の浸透には、匿名性を失うことによる何かしらの対価も必要となるのではなかろうか。


2018年11月2日「日銀による国債買入の修正点、中期ゾーンの買入は実質減額に」

 10月31日の17時に日銀が発表した「当面の長期国債等の買入れの運営について」では、いくつかの修正が加えられた。

 1年超5年以下の国債買入の回数が10月の5回から11月は4回に削減された。その上で、1回当たりオファー金額のレンジが、1年超3年以下の分で、10月の2000〜4000億円程度から11月は2500〜4500億円程度に増額された。3年超5年以下は、10月の2500〜4500億円程度から3000〜5500億円程度程度に増額された。

 直近の1年超5年以下の国債買入は10月30日に行われており、この際には残存期間1年超3年以下の買入額は3000億円、残存期間3年超5年以下の買入額は3500億円となっていた。それぞれ3000億円が5回の1兆5000億円、3500億円が5回の17500億円となる。これが4回となればそれぞれ一回当たりは3750億円、4375億円となる。

 日銀は9月の国債買入の回数を中期と長期ゾーンについて、8月までの6回から5回に減らした。その上で月額ベースでの買入額を縮小しており、今回も同様に一回当たりの買入額は3750億円、4375億円から削減されることが予想される。これは2日の同ゾーンの買入額で確認したい。ということで2日の国債買入オファーにて確認したところ、残存期間1年超3年以下の買入額は3500億円、残存期間3年超5年以下の買入額は4000億円となり、月額ベースでは実質減額となる見込み。

 そしてもう一点、日程について変更が加えられた。10月の国債入札スケジュールと日銀の国債買入をみてみると10月2日の10年国債入札の翌日3日にその10年債新発も該当銘柄となる5年超10年以下の買入が行われた。同様に11日の30年国債入札の翌12日に超長期ゾーンの買入が行われ、16日の5年国債の入札日の翌17日に中期ゾーンの買入と、国債の入札日の翌日に入札された銘柄を含む国債買入が組まれていた。

 これに対して11月1日の10年国債の入札に関しては、翌2日に該当銘柄となる5年超10年以下の買入が予定されているものの、それ以降については、13日の30年債入札日のあとは翌日の14日ではなく16日に超長期の買入が予定されている。15日の5年国債の入札日のあと19日に中期ゾーンの買入が組まれるなど、これまでの翌日の国債買入というパターンがなくなった。

 11月1日の10年国債の入札日の翌日の買入に関しては、入札が発表日翌日ということが配慮されたのではないかと思われる。12月からは10年国債についても翌日買入というパターンではなくなるのではなかろうか。

 これらの国債買入の修正は事前にある程度報じられていたこともあり、これを受けて債券先物は少し売られたがそれほど大きく崩れたわけではない。これにより実質的な国債買入減額とともに、タイトなスケジュールがやや緩和されるような格好となるのではなかろうか。


2018年11月1日「株が波乱含みのなか米長期金利やドル円がしっかりな理由」

 ここにきて米国株式市場は調整色を強め、値動きも大きくなり、波乱含みの様相を強めている。米長期金利の動向や中国の株価指数の動向、米中の貿易摩擦の行方なども懸念材料となっている。

 チャート上からは特にナスダック指数などをみるとゴルディロックス(適温)相場といわれた相場が変調をきたしているようにみえる。ただし、これで大きな上昇相場がピークアウトしたのか、それとも一時的な調整なのかは判断しづらい。

 これを確認するためには、11月6日の米国の中間選挙、さらにブエノスアイレスで11月30日〜12月1日に開かれるG20会合の動向などもひとつの焦点となろう。

 11月6日の米国の中間選挙も、その結果は蓋を開けるまではわからない。与党共和党が優位かとも伝えられているが、トランプ大統領の支持率がここにきて低下するなどしている。

 株式市場にとっては共和党が結果として勝利したほうが、好材料と捉えるのではなかろうか。そうとなれば、トランプ政権はあらためて中国との関係改善を図る可能性も多少ながらありうるか。11月のG20で米中首脳会談が開催されるのかどうかも試金石となろう。

 このようなイベントリスクを控えて、東京株式市場を含めて世界的な株式市場は調整局面を向かえているのだが、外為市場では円に関してみるとリスク回避による円買いとはそれほどなっていない。

 ドル円は10月3日につけた114円台半ばから10月26日には111円台半ばあたりに確かに下落したものの、そこから切り返して113円台を回復している。

 この背景としては米長期金利の底堅さがある。米10年債利回り(長期金利)は、10月5日に3.2%台に乗せたあと26日に3.07%あたりまで低下した。これは確かにリスク回避による米国債への買いが要因であろうが、3%台を維持していた。その後、再び3.1%台に戻している。この背景にはFRBの利上げ継続姿勢等もあろうが、その根拠ともなる米国経済の拡大傾向が維持されているとの見方もできる。

 日本の長期金利はほぼ0.1%あたりに抑えられている手前、日米の長期金利差は米長期金利の動向次第となる。米長期金利が3%台を維持している以上、この金利差は大きくは縮まらず、金利差という面からはドル円が底堅い動きとなることになる。

 外国為替市場は金利差だけで動くわけではない。しかし、米長期金利とドル円の動きをみると、それほどリスク回避の動きとはなっていないことがわかる。もしこの動きが継続するのであれば、今回の米国市場を主体とした株価の下落は一時的な調整とみることもできるのだが。


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