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2025年11月16日「責任ある積極財政とは何か」

 高市早苗総理は10月24日の所信表明演説で「責任ある積極財政」で暮らしや未来への不安を希望に変え、強い経済を作る決意を強調した。

 積極財政で所得を増やし、消費マインドを改善し、事業収益が上がり、税率を上げなくても税収を増加させる道筋を示したそうである。

 責任あるとは何を示すのか。責任を持って強い経済を作るという意味なのであろうか。

 ここでは、積極財政を行うことによる債務悪化に対しても責任を持って対処するという意味ではどうやらなさそうである。

 高市首相は7日の衆院予算委員会で、2025〜2026年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化するとの財政健全化目標について、単年度ごとに達成状況を見るのでなく「数年単位でバランスを確認する」方針に転換する意向を示した(ロイター)。

 プライマリーバランスという財政健全化目標を無くすわけではなさそうなので、これをもって債務リスクを無視しているというわけではないが、縛りを少し緩めるということであろう。

 首相はアベノミクスについて「デフレでない状況を作り出した」と評価しつつ、「第三の矢」の成長戦略は不十分だったと指摘した。

 「デフレでない状況を作り出した」のはアベノミクスではない。

 2022年4月から消費者物価指数の2%超えが続いているのは、新型コロナウイルスの世界的な感染とそれへの対策とともに、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけとした世界的な物価上昇によるものである。

 アベノミクスの主要戦略となっていたのは、日銀による異次元緩和によるものとなっていた。いわば責任を日銀に押しつけた積極緩和であった。

 2013年4月にはじめた日銀による異次元緩和はまったく効かなかった。そのため、さらに緩和策を深掘りせざるを得なくなった。

 その結果、マイナス金利政策と長期金利コントロールという、いわば禁じ手のような政策に踏み込まざるを得なくなった。

 しかし、物価が外的要因をきっかけに上昇してきたことで、金融政策の禁じ手による副作用が顕在化した。

 結果として短期金融市場と債券市場の機能を停止させかねない状況に陥ったのである。その責任は誰がとるのか。

 しかも長きにわたり低金利が継続したことで、政策金利の引き上げそのものも慎重となり時間を掛け過ぎることになった。

 これは円安などを招くことで、物価上昇圧力をさらに増すことになる。物価に応じて政策金利を引き上げるのは、物価の番人たる日銀の最たる仕事ではなかったのか。

 責任ある積極財政を唱えた人達は、日銀に責任を押しつけた積極緩和を唱えていた。果たして本当に誰がどういった責任を取るというのであろうか。


2025年11月15日「2000年前後のITバブルの崩壊とは」

 13日の米国株式市場は利下げ観測の後退などからハイテク株主体に売られたことから、ダウ平均は797ドル安、ナスダックは536ポイント安となった。

 ここにきてナスダックがやや弱含みの展開となっていたこともあり、上昇を先導していたハイテク株主体に利益確定売りに押された格好か。

 足元の株価の動きと2000年前後のITバブル期の相似を指摘する声も出始めた。そのITバブルの崩壊とはいかなるものであったのかを振り返ってみたい。

 1990年代後半に米国市場を中心にITバブルが発生した。

 1995年にマイクロソフトが販売したウインドウズ95により、パソコンが一般の職場や家庭に普及し、さらにインターネットの普及も相まって新たな企業が生み出され、1995年にはアマゾン・ドットコムやヤフーなどの起業や、ネットスケープ社がNASDAQの株式公開を成功させた。

 日本を含む欧米各国の株式市場では、パソコンやインターネット関連企業の株式公開が相次ぎ、まだ利益を上げていない企業の株価も急騰するなど、株式市場は過熱した。1999年3月にダウ工業株30種平均は初めて1万ドルの大台に乗せた。

 米国ではこのIT革命を起爆剤にした好景気が続き、GDP成長率は1997年が4.4%、1998年が4.3%、1999年には4.1%と、3%前後とみられていた潜在成長率を上回った。

 冷戦の終焉により1990年代に国防費を大幅に削減した上に、所得税収の累積が財政収支改善に繋がり、1998年には米国は財政赤字から財政黒字に転じた。

 FRBはインフレ抑制のため1999年6月から2000年5月にかけて政策金利を4.75%から6.5%に引き上げた。

 2000年に入りFRBの利上げに加え、原油価格の高騰などから、米国経済にブレーキがかかり、3月頃から年末にかけてナスダック総合株価指数は50%も下落し、ITバブルは崩壊した。

 これにより米国の景気は加速度的に悪化し、FRBはインフレ警戒型から景気重視型に舵を切り、2001年1月には臨時のFOMCを開催し政策金利を6.5%から0.5%引き下げた。

 2001年1月に発足したブッシュ政権は大型減税による景気刺激策を打ち出した。経済調査局(NBER)は、アメリカの経済は2001年3月にリセッション入りしたと発表し、1990年春から10年に及んだ好景気が終焉した。


2025年11月14日「米政府閉鎖が終了へ、金融市場への影響は」

 米連邦議会下院が12日、政府閉鎖を終えるための「つなぎ予算案」を採決する。通過すればトランプ米大統領が同日夜に署名して成立する。

 49日間と過去最長となった米政府閉鎖が12日で終わる見通しとなった。連邦政府の職員は13日朝から通常勤務に戻るようである。

 金融市場にとっての注目点のひとつが、政府閉鎖によって公表が延期されていた雇用統計などの経済指標の行方となる。

 閉鎖前に集計がほぼ終わっていた9月分の雇用統計は来週にも1か月半遅れで発表される可能性があり、7〜9月期の国内総生産の公表は12月初めになるとの観測もあるとか。

 ホワイトハウスのレビット報道官は12日、政府機関の閉鎖による影響で10月分の雇用統計と消費者物価指数は公表されない可能性が高いと述べた。

 米国家経済会議(NEC)のハセット委員長は13日、政府閉鎖の影響で公表が遅れていた10月の雇用統計について、失業率なしで発表されると明らかにした。

 未払いとなっている公務員給与は遡って支払われるそうではあるが、それでも米国経済への影響も当然出てこよう。

 政府閉鎖が11月12日に終わった場合に10〜12月期の経済成長率が1.5ポイント下押しされると試算もある。

 とにかくも大きな懸念材料がこれでいったな払拭されることは確かである。

 12日の米国株式市場では、景気敏感株など主体に買いが入り、ダウ平均は326ドル高で最高値を更新していた。しかし、ナスダックは61ポイント安となっていた。

 外為市場では、これが好感されてドルが円に対して買われ、155円台を付けてきた。しかし、円は対ユーロでも下落していることから、ドル買いというより、日銀の正常化の遅れなどをみた円安であった可能性が高い。

 12月9〜10日に開かれる米連邦公開市場委員会(FOMC)にも、10月分の消費者物価指数や雇用統計が発表されないことによる影響はありそうである。

 パウエル議長は10月のFOMC後の会見で「不確実性が非常に高い状況下では、今後の動きについて慎重な姿勢が求められる」と慎重な姿勢を示していた。


2025年11月13日「円安の大きな要因は日銀正常化の遅れにあり」

 円安が続いている。

 ドル円は155円台に乗せて、直近の高値となる154円50銭近辺を抜けてきた。155円台は2月4日以来、およそ9カ月ぶりとなる。

 ユーロ円は179円70銭台となり、1999年に単一通貨ユーロが誕生して以降の最高値を更新した。

 この円安の背景として、日本における物価水準と政策金利の乖離があげられよう。つまり、日銀の金融政策の正常化の遅れである。

 日本の消費者物価指数は2022年4月以降、前年比で2%を超える状態が継続している。それにもかかわらず、政策金利はいまだ0.5%の水準に止まる。

 高市早苗首相は11日の衆院予算委員会で、現状に関して「デフレを脱却したとは言えない」と言及していた。

 また、デフレ脱却の宣言発出を「目指す」と明言していた。

 それでいて首相は2025年度補正予算案について「物価高」を踏まえ「国民生活を少しでも楽にするという意味からそれなりの規模を想定している」と岡本氏に答弁していた。

 物価高なのにデフレを脱却したとは言えないというのはかなり矛盾している。

 物価高ならば政策金利を引き上げて、それを少しでも抑え込むというのが金融政策の在り方ではなかろうか。

 物価高だがデフレから脱却していないから、日銀の利上げはおかしいという考え方がそもそもおかしい。

 ここにきての円安の背景として、政治を意識するあまり、金利引き上げのペースが遅れに遅れていることも大きな要因であろう。

 そこに「責任ある積極財政」も加わって、日本の債務への懸念も円安の背景となる。

 現状、円を買う理由に乏しいように思うし、円売りを仕掛けやすい環境ともなる。

 ただし、いずれ日銀は利上げをすると予想はされている。12月の決定会合での可能性は当然ある。それでも政策金利は1%にすら届かない。

 円安そのものが物価上昇をもたらすこともあり、物価と政策金利の乖離は続く。政策金利の引き上げがあまりに時間を掛けすぎると、さらに円安圧力が強まるという連鎖に陥ることも予想される。

 この連鎖を断ち切るには、政府はデフレ脱却を宣言し、日銀が金融政策の正常化を進めやすい環境とし、日銀は物価に応じた政策金利の引き上げを断固として行う必要があるのではなかろうか。


2025年11月12日「5年国債利回りが前回1.265%を付けていた当時の状況」

 10日に日本の5年国債の利回りが一時1.265%と2008年7月以来約17年4か月ぶりの水準に上昇した。

 自分で書いて残しておいたものを確認したところ、2008年7月7日に1.295%を付けていた。

 2008年(平成20年)当時の状況を確認してみたい。

 2006年半ばに、それまで高騰を続けていた米国の住宅価格が下落に転じ、一部の住宅ローンが担保割れとなった。担保割れにより融資の回収不能リスクが高まることで、それを担保とした証券化商品の損失リスクが高まり、証券化商品そのものの価格が下がる結果となった。

 米国の住宅バブルの崩壊により、信用力の低い個人向けの住宅資金貸し付けであるサブプライム・ローンで焦げ付きが増加した。さらに格付会社がそれを組み入れた住宅ローン担保証券(RMBS)や債務担保証券(CDO)を格下げしたことで、時価評価の必要に迫られ、CDOなどを保有していた欧米の金融機関での巨額な損失が表面化した。

 サブプライム・ローン問題による最初の危機は欧州で発生した。2007年8月9日にドイツ連邦銀行は、IKB産業銀行がサププライムでの投資に伴う損失発生に対しての救済策を協議するため、緊急会合を開催。さらに同日、仏銀最大手BNPパリバは傘下ファンドの償還停止を発表し、次はどこかとの連想も加わり、欧州銀行向け資金の出し手が急速に限られてしまい、これはパリバ・ショックとも呼ばれた。

 ダウ平均は、2007年10月に過去最高値の14164ドルの高値をつけたが、危機の発生により、その後は下落基調となった。

 危機は資金繰りの困難化の問題から始まったことから、各国中央銀行は大量に資金供給を実施。2007年12月にFRBが欧州中央銀行(ECB)、スイス国民銀行(SNB)とスワップ取極を結んで欧州でのドル資金供給を始めた。

 証券化商品は欧米の大手金融機関が大量に保有していており、証券化商品格下げにともなって、評価損失が雪ダルマ式に膨れ上がった。これによって米国の大手金融機関のトップが相次いで辞任するといった事態となった。

 2008年1月18日に、証券化商品を保証していたモノラインと呼ばれた金融保証会社が資本調達難から格下げされ、証券化商品全体の価格下落に拍車をかけた。 世界的な株安連鎖による市場の混乱に対し、1月22日にFRBは0.75%の緊急利下げを実施し、さらに0.5%の追加利下げを実施しFF金利の誘導目標は年3%となった。

 3月14日に証券化商品を大量保有していた投資銀行のベア・スターンズが資本調達の失敗から資金繰りに行き詰まり、FRBの資金支援のもとJPモルガン・チェースに買収された。

 6月に入り米株式市場は金融機関の損失拡大への懸念や大手自動車メーカーなどの業績悪化見通しなどにより売り圧力を強めたことで、金融株に対して空売り規制が強化され、これをきっかけに、ヘッジファンドが組んでいた米金融株売り、原油先物買いといったポジションの撒き戻す動きが一気に強まった。

 このためニューヨーク原油先物価格は7月11日につけた147.27ドルをピークに急落。7月13日には政府系住宅金融公庫が経営危機に陥り、政府の資本注入などで経営再建を図ることになった。

 このように2008年7月当時は世界的なショックが発生していたのである。

 そして、同年9月15日、証券化商品により大きな損失を抱えていた投資銀行のリーマン・ブラザーズが、資本調達や身売りに失敗し経営不安に陥り破綻した。


2025年11月11日「どうみても利上げ派多数にみえる、主な意見」

 9月29、30日に開催された日銀金融政策決定会合の主な意見が公表された。このなかの「金融政策運営に関する意見」を確認したい。

 「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる。そのうえで、こうした見通しが実現していくかは、不確実性がなお高い状況が続いていることを踏まえ、予断を持たずに判断していくことが重要である。」

 不確実性は常にあるのだが、とにかくも植田総裁のいつもの意見である。慎重さが意識される。

 「先行きの政策判断に当たっては、15%の関税率を前提とした各社の収益計画が早晩固まってくることから、これに基づいた企業の賃金設定行動、特に、来年の春季労使交渉に向けた初動のモメンタムが重要である。」

 物価は2022年4月からずっと2%を上回っているのだから、春闘などをいまさら気にする必要は本当にあるのか。実質賃金が政策目標になっているわけではないし、そもそも賃金引き上げに政策金利がどれだけ影響するのか。

 「先行きの政策運営に当たっては、引き続き、1.各国通商政策の世界経済への影響、2.米国の金融政策と為替相場の方向性、3.国内の物価と賃金の見通しの3点を注視していく必要がある。特に、わが国企業が、関税の影響や米国をはじめとする世界経済の動向についての不確実性を踏まえたうえで、積極的な賃金設定行動を維持するかが重要である。」

 順番からみて、以上の2つは両副総裁の意見かと思われる。利上げの文字はない。むしろ利上げしなかった理由を説明しているかにみえる。

 「来年の賃上げ期待はあるものの、物価上昇による消費行動の変容や、資材価格や人件費などの建設コストや住宅価格の上昇、それに伴う住宅着工件数の減少などから、生活者への負担が増していることが窺われる。また、足もとの銀行貸出の伸びにも注意を払っている。今後、先行きの不透明感は残るが、経済・物価の見通しと達成確度次第で金利を調整すべき環境になると考える。」

 利上げの文字はないが、金利を調整すべき環境というのは利上げを意識させるものとなる。

 「米欧と異なってわが国の政策金利は中立金利を下回っている。株式市場などの金融資本市場が不安定化する可能性もある。足もとは急ぐ状況ではないかもしれないが、適切な情報発信を続けながらタイミングを逃さずに利上げを行うべきである。」

 タイミングを逃さずに利上げを行うべきである、本当にそう思う。

 「金利の正常化をもう一歩進める上では、条件が整いつつあるとみている。もっとも、基調的な物価上昇率については、その定着度合いも確認する必要がある。」

 金利の正常化をもう一歩進める上では、条件が整いつつあるとみている。つまり利上げしても良いということとなろう。

 「関税政策の影響が表れるのが遅れている中にあって、次回利上げはなお緩和の範囲内での調整であることを踏まえると、世界経済や金融市場で悪いニュースがないことを前提に、春季労使交渉に向けた初期段階の労使双方の動きなどから、企業の積極的な賃金設定行動が維持される見通しを確認できれば、政策変更につながると考える。」

 こちらもやや慎重ながらも利上げするなら賛成するよということになろう。

 「米国で所得税還付などにより景気が過熱し、円安などを通じてわが国の物価が大きく上押しされるリスクを考えれば、早めの利上げが望ましいともいえるが、米国の労働市場の「奇妙なバランス」が崩れ始め、資本市場も調整局面を迎え、わが国の物価や景気に想定以上に下押し圧力がかかるリスクもまだ否定しきれない。このため、今しばらく見極めて判断する方が適当である。」

 執行部寄りの意見のようにみえるが、早めの利上げが望ましいとも指摘。

 「利上げを行うべきタイミングが近づいているものの、足もと、米国の関税政策をめぐる不確実性が依然として高いことや、わが国新政権の経済政策の方向性がまだ十分に明らかでないことなどを勘案し、状況をもう少しだけ見極めることが適当と考える。」

 こちらも執行部を意識した意見か。「もう少し」というのはどの程度の期間を示すのか聞きたいところ。

 「将来の急激な利上げショックを避けるため、金融緩和度合いを調整して、中立金利にもう少し近付けるべきである。」

 あとあとの事も考えて、利上げしようぜと言っている。

 「現段階での利上げは、将来のためにも経済のゆがみを抑制し、政策金利を緩やかに均衡状態に戻していくという、金利正常化のプロセスと考えられる。」

 とにかく利上げしようぜと言っている。

 「金融政策は、消費者物価指数が2.0%より上か下かではなく、その背後にある特殊要因やメカニズム(需給状況、賃金、予想インフレ率等)も踏まえて判断することを丁寧に説明すべきである。」

 いまさら何を言っているのか。

 「縮小均衡マインドが残存する下では、ヘッドライン物価と基調的物価を区別した議論が必要であったが、人々のノルムが転換する中、ヘッドラインを重視したシンプルなコミュニケーションが望ましい。」

 ヘッドライン物価を重視したシンプルなコミュニケーションというのはつまり利上げか。

 ということで12個の意見があり、9名の政策委員なので、一人で複数意見が記載されている委員が3名程度いる。

 最初の3つの意見を除くと、9件のなかで利上げしようぜが4件、やや慎重ながらも利上するなら賛同するよにみえる意見が4件、その他1件となる。

 この結果、審議委員のほとんどが利上げに前向きであることがうかがえる。あとは慎重になっている執行部(総裁と副総裁)次第ということになろう。

 数の上では田村委員と高田委員の0.75%への利上げ提案に対して、あと3名加われば利上げは可能だが、今回は慎重な執行部に合わせたということになるのか。


2025年11月9日「物価、円安対応に日銀の正常化が必要に」

 日銀が現状維持を決めた翌日である10月31日、片山さつき財務相は円安進行について「足元でかなり一方的、急激な動きがみられる」と指摘すると同時に、日銀の判断に関しては「現在の諸般の状況を鑑みれば、極めてリーズナブルな決定だ」と評価した。

 これに対して、ベッセント米財務長官は「政府が日銀に政策運営の裁量を認める意思が、インフレ期待を安定させ、為替相場の過度な変動を防ぐ上で鍵となる」と、X(旧ツイッター)に投稿し、これが日銀の利上げを改めて促したと受け止められた。

 ここにきて外国為替市場では円安が加速しており、円の対ドル相場は過去1か月間の下落率が5%に近づきつつある。

 円安ドル高の大きな要因として、日米の金融政策のスタンスの違いがある。

 日銀は利上げをすべきタイミングで、利上げを躊躇した。10月の決定会合に向けて利上げの準備は整っていたはずである。

 田村審議委員と高田審議委員が10月の会合でも0.75%への利上げを求めて、現状維持に反対票を投じた。

 ここに執行部の総裁と副総裁2人が加われば、5名となり過半数で利上げを決定できる。当然ながら執行部が動けば他の審議委員のほとんども利上げ賛成に回ることも想定される。

 それなのにどうして利上げを躊躇するのか。これは新政権とのコミュニケーション不足も影響していた可能性がある。

 以前の高市氏の発言や、ここにきての片山財務相の発言などから、このタイミングで利上げを行うと新政権との摩擦も生じかねないとみたのだろうか。

 これに対してFRBは28日、29日のFOMCで0.25%の利下げを決定したものの、パウエル議長は「不確実性が非常に高い状況下では、今後の動きについて慎重な姿勢が求められる」と述べ、十分なデータがないなかで利下げを続けることに対して、ためらいを見せた。

 これが今回の円安ドル高の要因ではあるが、FRBはトランプ政権の意向を無視しても、利下げをここで停止する可能性がある。

 これに対し、日本では物価が2%を超えて上昇するなか、政策金利は0.5%に止まる。新政権の課題のひとつが物価対策ながら、最も効果的な対応の利上げについては極めてリーズナブルとはみていないようだ。

 円安にブレーキを掛けたいのであれば、新政権は日銀の利上げというか正常化を促すべきではなかろうか。

 3%近い物価上昇となっているなかにあり、少なくとも政策金利を1%超えまで早期に引き上げるべきであろう。

 政策金利を物価に合わせた必要水準に引き上げたあとであれば追加利上げに慎重になることは理解できる。

 しかし、そこにも達していないのに躊躇する必要はない。日銀は少し時間を掛けすぎていると思う。


2025年11月9日「個人向け国債、10年固定の初期利子が1.10%に」

 11月に募集される(募集期間11月7日から28日)個人向け国債の3年固定、5年固定、10年変動の利子が発表された。

 固定3年の利率は0.99%(税込み)と前回10月募集の1.08%から低下した。10月募集の1.08%は2010年7月の発行開始以来、最も高い水準を更新していたが、今回は1%割れに。

 固定5年の利率は1.19%(税込み)と前回10月募集の1.22%(税込み)から低下した。

 10年変動利付の利率が1.10%と前回10月募集の1.08%(税込み)から上昇し、2006年7月の1.10%以来の高い水準となった。

 ここにきて個人向け国債の利率が上昇してきたのは、日銀が金融政策の正常化に乗り出し、政策金利を引き上げ、それとともに国債利回りも上昇してきたことによる。

 10月の日銀の金融政策決定会合での利上げ観測が一時強まっていたが、高市政権の発足もあって10月30日の利上げは見送られた。

 これもあって3年固定と5年固定の利率が前回から低下した。

 しかし、高市政権は「責任ある積極財政」を掲げており、財政拡大への懸念から超長期債には利回りの上昇圧力が強まり、それが10年国債の利回りにも波及した。

 その結果、10年国定の初期利子は前回よりも引く上げられた。

 消費者物価指数は2%を超える状態が続き、実質金利はマイナスの状態となるなか、日銀の利上げは継続すると予想されており、政策金利をどこかのタイミングで0.75%に引き上げると予想されている。

 高市氏は昨年、「金利をいま上げるのはアホやと思う」と発言していただけに、日銀の早期利上げ観測が急速に後退したと認識された。

 ただし物価対策を掲げる高市政権にとって、財政政策による物価の影響を抑えようとする政策はむしろ物価上昇要因となりかねない。また円安を抑える意味でも日銀による金融政策の正常化は必須となろう。

 今回も個人向け国債は購入のタイミングとしては面白いのではないかと思う。

 個人向け国債には1年経てば財務省が額面で買い取るなど国債にもかかわらず流動性リスクや価格変動リスクがない。

 その分、一般の国債に比べて金利はやや抑えられるが、さすがに1%近辺となれば、個人投資家の食指も動いてくるのではなかろうか。

 今後も金利は上がり続けると予想しており、今回は10年変動をお薦めしたい。


2025年11月7日「6日の日経平均は一時1000円以上切り返す」

 10月のADP全米雇用リポートで非農業雇用者数(政府部門除く)が予想を上回った。また、10月ISM非製造業景況指数は52.4と予想を上回り、2月以来の高水準となった。

 5日の米国株式市場では米経済の底堅さを示す指標を好感したことに加え、半導体のアドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)が売り先行後に上昇に転汁など、ハイテク株も持ち直したことから、ダウ平均は反発し225ドル高、ナスダックは151ポイント高となった。

 これを受けて6日の東京株式市場も反発となり、日経平均は1000円を超す上昇となった。

 日経平均は10月に月間で7478円高と歴史的な上昇となった。この背景には米国株式市場の上昇があった。

 ただし、11月に入りさすがにブレーキが掛かり、上値が重くなっていた。

 そんなところに、大手金融機関の首脳陣の発言をきっかけに4日の米国株式市場が下落したことで、5日の東京株式市場は大きく下落した。

 ゴールドマン・サックスのデービッド・ソロモンCEOは「テック株のバリュエーションが高い。今後12〜24か月の間に株式市場は10〜20%下落する可能性が高い」とコメントした。

 米モルガン・スタンレーのテッド・ピックCEOも、マクロ経済上の衝撃で市場全体に売りが広がる「マクロの崖」のような要因に起因しない10〜15%の調整の可能性は歓迎すべきだと述べた。

 2008年の金融危機前に住宅市場の崩壊に賭けた「世紀の空売り」で有名になったマイケル・バーリ氏が率いるヘッジファンド会社サイオン・アセット・マネジメントが、エヌビディアとパランティアの株価下落で利益を得られるプットオプションを購入していたことも明らかとなった。

 5日の日経平均は一時、2300円を超す下げとなった。ただし、売り一巡後は押し目買いも入り、日経平均の引けは1284円安の50212円となった。

 ローソク足の日足チャートでは大きな下ひげが出来た格好となり、チャートが崩れた格好とはならなかった。

 実際に5日の米国株式市場が反発していたことで、6日の東京株式市場は、ほぼ前日の下げ分を帳消しするかのような動きとなっていた。

 だからといって、今回の調整が一時的かどうかはわからない。

 大手金融機関の首脳陣などに言われるまでもなく、やや相場に過熱感があることも確かではなかろうか。

 特に日経平均はソフトバンクグループ、アドバンテスト、東京エレクトロンの3銘柄で指数を大きく押し上げたり、押し下げたりしており、かなり歪な格好ともなっている。

 ある程度のガス抜きも必要と思われるため、一時的な調整はむしろ必要なのかもしれない。


2025年11月6日「ウォール街の著名な経営者や投資家による警告」

 5日の東京株式市場では日経平均株価が急落し、下げ幅は一時1500円を超え、5万円を割り込んだ(10時過ぎ現在)。この要因に4日の米株の下落があり、それはウォール街の著名な経営者や投資家による警告が大きな要因となっていた。

 4日の米国株式市場ではここにきての相場の過熱感や高値警戒感が意識されやすいなか、大手金融機関の首脳陣の発言も市場心理の重荷となり、ハイテク株を中心に売りが広がった。ダウ平均は続落し251ドル安、ナスダックは486ポイント安となった。

 大手金融機関の首脳陣の発言とされるのは、ひとつは米ゴールドマン・サックスのデービッド・ソロモン最高経営責任者(CEO)は4日の発言となる。

 デービッド・ソロモン氏は「テック株のバリュエーションが高い。今後12〜24か月の間に株式市場は10〜20%下落する可能性が高い」とコメントした。

 米モルガン・スタンレーのテッド・ピックCEOも、マクロ経済上の衝撃で市場全体に売りが広がる「マクロの崖」のような要因に起因しない10〜15%の調整の可能性は歓迎すべきだと述べた。

 2008年の金融危機前に住宅市場の崩壊に賭けた「世紀の空売り」で有名になったマイケル・バーリ氏が率いるヘッジファンド会社サイオン・アセット・マネジメントが、エヌビディアとパランティアの株価下落で利益を得られるプットオプションを購入していたことが明らかとなった。

 JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン(CEO)も先月、向こう半年から2年の間に大きな調整が入る可能性が高まっていると警告していた。

 ここにきてのハイテク株を中心とした米国株式市場の上げ方を見る限り、こういった懸念が強まるのは当然のことかと思う。

 これは当然ながら、ソフトバンクやアドバンテスト、東京エレクトロンなどを主体に相場が上昇していた東京株式市場も同様であろう。

 ただし、相場がいつ本格調整を迎えるのかは予測することは難しい。とはいえ、そろそろいったんピークアウトしてくる可能性もあるのかもしれない。


2025年11月5日「利上げを求める新聞の社説が続々と」

 ここにきて新聞の社説で日銀の金融政策に関するものがいくつか出ていた。

 10月30日の日本経済新聞の社説のタイトルは、「物価高の抑制は日銀の役割だ」となっていた。

 「新政権と日銀が協調するうえでは、焦点である物価高への対応で日銀が大きな役割を担う点を確認すべきだろう。日銀も、適切なタイミングでの利上げへの理解を得るよう努力してほしい」

 10月31日の東京新聞の社説のタイトルは、「日銀の金融政策 物価を守る気迫足りぬ」。

 「物価高に苦しむ国民の姿を見れば、円安に歯止めをかけて輸入物価を抑制し、物価全体を押し下げる効果が見込める利上げの実施は当然の判断だったはずだ」

 10月31日の信濃毎日新聞の社説のタイトルは「日銀の金融政策独立性損なわずに判断を」。

 「かじ取りが一段と難しさを増す中でも、時機を見誤らず適切な政策を取ることが求められる」

 11月2日の読売新聞の社説のタイトルは、「日銀と高市内閣 円安にも配慮した金融政策を」。

 「高市政権の最大の課題は物価高だ。デフレからの完全脱却を目指したアベノミクスとは処方箋が異なる。その前提で、政府・日銀は政策を進める必要があろう」

 11月3日の中国新聞の社説のタイトルは「日銀と高市政権 適切な距離感が重要だ」。

 「日本の目下の課題は物価高だ。利上げなくしては、さらに物価高が進むリスクが大きい」

 11月4日の朝日新聞の社説のタイトルは「高市政権と日銀 物価安定へ独立尊重を」。

 「日銀は昨春に大規模緩和を終え、その後、政策金利を0・5%まで引き上げた。それでも2%を超える消費者物価を考えれば、政策金利は極めて緩和的な水準だ。これを徐々に引き上げていくことは理にかなう。車を停止線で止めるのに、前もってブレーキの加減が要るのと同じだ」

 あきらかにメディアの論調に変化というか、日銀の今回の対応に疑問を呈するような見方が強まってきたようにもみうけられる。

 10月29、30日の金融政策決定会合では、日銀は利上げを見送った。利上げの準備を淡々と行っていたようにもみえたが、結果として見送る結果となった。

 ただし、これを続けているとさらに円安が加速するなど物価の上昇圧力が強まる懸念も当然ある。

 2%を超す物価上昇に対しての政策金利の0.5%はあまりに低すぎる。

 物価の番人である日銀は淡々と利上げを継続し、物価に応じた金利形成が行われる状況を作る義務もあるのではないかと思う。


2025年11月2日「米長期金利4%割れ、その後の行方は」

 10月9日にトランプ米大統領は中国に対し既存の税率に100%の追加関税を上乗せすると投稿。米国による対中関税の大幅な引き上げとそれに伴う両国の関係悪化が懸念され、リスク回避の買いから、米10年債利回りは4.03%と前営業日の4.14%から低下した。

 ベッセント米財務長官は13日朝の米FOXビジネスのインタビューで調整中の米中首脳会談が予定通り行われるとの認識を示し、米中対立が激しくなることへの懸念が和らいだ。

 米政府機関の一部閉鎖も尽くなか、14日、15日の米10年債利回りは4.03%と変わらずとなっていた。

 16日にはザイオンズ・バンコーポレーションとウエスタン・アライアンス・バンコープの米地銀の2行が融資に関する不正行為を巡って訴訟を起こしていたことが明らかになった。

 地銀の不良債権が拡大している可能性が意識されリスク回避から米債は買われ、16日の米10年債利回りは3.97%に低下し、節目の4%を割り込んだ。

 トランプ大統領は17日のインタビューで対中関税の大幅な上乗せについて、持続可能ではないとの認識を示した。

 米地銀を取り巻く信用リスクを巡る懸念が後退したこともあり、17日の米債は売られ、米10年債利回りは4.01%と再び4%台を回復。

 28日、29日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げを決めるとの観測も強く、20日の米10年債利回りは3.98%と再び4%割れとなった。

 市場で12月と来年1月も0.25%の利下げを決めると予想する確率も高まりつつあり、21日の米10年債利回りは3.96%に低下した。

 23日には原油先物相場が大幅に上昇したことからインフレ懸念が意識されて、米債は売られ、米10年債利回りは4.00%と再び4%台に。

 24日の米10年債利回りは一時3.96%まで低下したが、その後、4.00%に戻され前日とほぼ変わらずとなるなど、4%を挟んでのもみあいが続いた。

 チャート上からは米10年債利回りの4%は大きな節目となっており、ここを大きく下回ってくると3.6%あたりまでの低下が予想される。

 10月だけでなく12月、さらには1月も続けて0.25%の利下げをするとの期待感も出ている。本当に連続利下げがあるのであれば、3.6%あたりまでの利回り低下はありうる。

 ところが、9月の米消費者物価は前年同月比3%となるなど、インフレ率はFRBが政策目標とする2%を明確に上回っている。

 トランプ政権による利下げ圧力も強いが、FRBとしては利下げも慎重になる可能性はある。

 このために、米10年債利回りが節目の4%割れとなっても、ここから大きく低下することには慎重になっているとの見方もできるのではなかろうか。


2025年11月2日「物価高に対して極めてリーズナブルな政策は日銀の金融政策の正常化ではなかろうか」

 日銀は30日の金融政策決定会合において、政策金利である無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.5%程度で推移するよう促すとして、金融政策の現状維持を決めた。

 9人の政策委員のうち高田創審議委員と田村直樹審議委員が金利の据え置きに反対した。

 高田委員は、物価が上がらないノルムが転換し、「物価安定の目標」の実現が概ね達成されたとして、田村委員は、物価上振れリスクが膨らんでいる中、中立金利にもう少し近づけるためとして、無担保コールレート(オーバーナイト物)を0.75%程度で推移するよう促すとする議案を提出し、反対多数で否決された。

 今年1月の決定会合で0.5%への利上げを決めた後は、6会合連続で金利を維持している。

 現状維持としたのは米高関税の影響や来春の労使交渉に向けた初動の勢いをデータで確認するためとしている。

 しかし、状況が悪化しているわけではなく、あとはタイミング次第であり、お膳立ても整いつつあったとみれば、そのタイミングがいまではないとの判断であったか。

 利上げに慎重といわれる高市政権がスタートして時間がなかったことで、高市政権とのコミュニケーションをもう少し取る必要もあったのかもしれない。

 それでもベッセント財務長官が「政府が日銀に政策運営の裁量を認める意思が、インフレ期待を安定させ、為替相場の過度な変動を防ぐ上で鍵となる」と、X(旧ツイッター)に投稿し、これが日銀の利上げを改めて促したと受け止められた。

 外圧というわけではないが、日銀が利上げを決断するにあたっての渡りに船になるのではとの期待もしていた。

 ただし、ベッセント発言に対し、片山さつき財務相は28日、ベセント米財務長官の発言として米財務省が公表した声明を巡り、「(日銀による利上げを)促すというようなことではなかったのではないかと思う」との認識を示していた。

 今回の日銀の現状維持に対しても、片山さつき財務相は30日、今回の金融政策決定会合で利上げを見送った日銀の判断を妥当と評価した。

 「現在の景気情勢などを総合的に勘案して、極めてリーズナブルな判断だと思う」と語ったそうである。

 本当にリーズナブルな判断であったのか。物価に比べて極めて低い金利は円安などを招くことで、物価にさらなる上昇圧力を加えることとなる。

 高市政権にとってまず取り組まなければいけないのは物価高対策ではなかったのか。物価高に対して極めてリーズナブルな政策は日銀の金融政策の正常化ではなかろうか。


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