. 若き知
2019年7月19日「リブラは世界統一通貨の布石となるか、統一通貨のユーロ誕生との比較」

 フランスで開催されていた主要7か国(G7)財務相・中央銀行総裁会議では、米フェイスブックが計画するデジタル通貨「リブラ」の規制のあり方について議論し、早急な対応を取る必要があるとの認識で一致した。規制の枠組み作りに向けて、主要国が動き出した(18日の日経新聞電子版)。

 これをみてもフェイスブックが計画するデジタル通貨「リブラ」に対して、各国が脅威として警戒感を持っていることがわかる。もちろん脅威というより、セキュリティやマネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金への悪用の警戒なども当然あろう。

 SFの世界では宇宙人が攻めてきたことなどをきっかけに世界統一政府ができて、通貨も統合されるといったことが描かれることがある。フェイスブックは世界の約24億人が利用していることで、リブラが普及するようなことがあると、これをきっかけにリブラが実質的な世界の統一通貨になるのではという期待も多少なり、あるのかもしれない。

 現実的には通貨への信用度の高い国でのリブラの通貨としての利用は考えづらく、信用度の低い国では政府が警戒を強めることも予想され、通貨としての普及は難しいのではないかと予想される。それでもこれをきっかけに統一通貨の可能性も多少なり考慮しても良いかもしれない。統一通貨といえばユーロという成功事例が存在することで、それとの比較も面白いのではなかろうか。

 ちなみにイタリアでユーロ導入前に使われていた通貨単位のリラの語源は、古代ローマ帝国での「計り」を意味した「リブラ」と言われている。

 欧州では欧州通貨統合の機運の高まりにより、1972年に欧州為替相場同盟、1979年には欧州通貨制度を創設した。これに合わせてあわせて欧州通貨単位が導入された。これがEuropean Currency Unit、つまりECU(エキュー)であった。これは加盟国の為替レートを固定し、将来的には通貨統合をおこなう目的で導入された。1979年3月から1998年12月までヨーロッパ共同体 (EC) および欧州連合 (EU) で使われていた「バスケット通貨」となる。ちなみにリブラも「バスケット通貨」といえるものである。

 ECU(エキュー)が統一通貨の名称にもなるとされていたが、この名称がフランスの銀貨「エキュ」と酷似していたことで、ドイツが統一通貨の名称として難色を示し、その結果として誕生した名称が「ユーロ」であった。

 当時のユーロ参加予定国のそれぞれの通貨とユーロとの為替レートが固定され、1999年1月に欧州の通貨統合により単一通貨であるユーロが導入された。当時のユーロ参加予定国の通貨とユーロとの為替レートが固定された。ユーロの導入に伴って、ECUという欧州連合の公式通貨バスケットは消滅。ただしこの時点では、ユーロは銀行間取引など非現金取引を対象に導入されてものであり、いわば決済用仮想通貨として導入された格好となっていた。

 2001年9月からドイツでユーロが民間銀行に配付され、銀行ではドイツマルクを回収してユーロを供給することで切り替え作業が進められた。ユーロを導入した国ではそれぞれで2002年の2月あるいは6月までを移行期間として、代金の支払にユーロか旧通貨の使用が認められ、移行期間後は旧通貨の法的効力は消滅した(その後も引き換えは可能となっていた)。

 国そのものが動かない限りは、リブラが世界の統一通貨になることは考えづらい。しかし、リブラはユーロまでの移行途中のECU(エキュー)や決済用仮想通貨のような性質を持っているともいえる。実際に2020年のリブラの発行が可能なのかも不透明ながら、リブラが世界の通貨システムに対し、何らかの影響を与えかねないことも確かなのではなかろうか。


2019年7月18日「5月末の米国債保有、中国は減少、日本は大きく増加」

 米国の財務省が発表している米財務省が16日発表した5月の国際資本収支統計における米国債国別保有残高(MAJOR FOREIGN HOLDERS OF TREASURY SECURITIES)によると、5月末時点の米国債保有国のトップは引き続き中国となっていた。保有額は1兆1102億ドルとなり、前月比で28億ドル減少していた。

国、米国債保有額、前月比(単位、10億ドル)
中国(China, Mainland) 1110.2 -7.5
日本(Japan) 1101.0 +37.0
英国(United Kingdom) 323.1 +22.3
ブラジル(Brazil) 305.7 -1
アイルランド(Ireland) 270.7 +1
スイス(Switzerland) 231.4 +4.5
ルクセンブルク(Luxembourg) 229.6 +5.9
ケイマン諸島(Cayman Islands) 216.1 -1.1
香港(Hong Kong) 204.0 -1.9
ベルギー(Belgium) 190.5 +10.7

 5月には米中の通商交渉がいったん物別れに終わった。米国の強硬姿勢に対抗するため、中国が今後、米国債の売却を行った可能性は否定できない。ただし、これを交渉の切り札にすることにはリスクがあり、FRBの利下げ期待で堅調な動きとなっている米国債市場への影響も出てくることが考えられる。中国の米国債の保有高は多少減少しようと巨額であることにかわりはなく、中国による米国債の売却で米債の価格を下落させてしまうと自分で自分の首を絞めかねないことも事実であろう。

 ちなみに中国人民銀行(中央銀行)が発表した外貨準備高は6月末時点で3兆1190億ドル、5月末は3兆1010億ドル、4月末は3兆950億ドルとなっていた。外貨準備高が増加傾向にあったことを考えると、中国は分散投資という名目で米債投資を減少させていた可能性はある。

 第二位となっている日本は4月に比べて5月は370億ドル増加していた。これは2017年8月以来の高水準となる。増加幅は2013年7月以来の大きさとなっていた。4月に日本では年度が替わり、米債に対して利益確定売りが入っていた可能性がある。しかし、その後の米国債相場が回復基調となっていたこともあり、あらためて残高を積み増していたのではなかろうか。

 英国は前月比で223億ドル増加させていたが、こちらも相場の動きなどをみての売買のように思われる。


2019年7月17日「フェイスブックの暗号資産、リブラへの警戒感が強まる。G7でも議題に」

 イギリスの新しい50ポンド紙幣の肖像に、コンピュータ科学の先駆者で暗号解読者のアラン・チューリングが採用されることが明らかになったそうである。紙幣とコンピュータ、そして暗号との繋がりというと、ここにきて世間を騒がせている、フェイスブックの暗号資産(仮想通貨)のリブラがある。

 米国のムニューシン財務長官は15日、交流サイト最大手の米フェイスブック(FB)が2020年に発行を計画する「リブラ」などのデジタル通貨について、犯罪に悪用される可能性があり、「国家安全保障上の問題だ」と強い懸念を表明した(時事通信)。

 暗号資産(仮想通貨)の基盤技術を用いたリブラには規制対応などで大きな課題があり、実用化までは「かなり遠い」ともムニューシン財務長官は強調していた。これまでの暗号資産(仮想通貨)をみても、流出といった犯罪行為が起きており、マネーロンダリング(資金洗浄)などの犯罪に使われた可能性も指摘されていた。

 さらにフェイスブックは個人データの不正流用問題を巡って既に米議会から非難されているなど、どうしてもセキュリティへの不安がつきまとうことも確かである。「リブラ」については、フェイスブック単独ではなく、マスターカードやイーベイなど多くの企業が参画している。だから問題はないということではなく、むしろセキュリティへの責任の所在がはっきりしなくなるリスクもある。

 リブラのプロジェクトの担当グループがジュネーブに本部を構える予定とされ、このためスイス金融市場監督機構(FINMA)がリブラの規制主体になるとか。スイス金融市場監督機構としても米国などによる懸念が残るとなれば、容易にその発行を認めることはしづらいのではなかろうか。

 フランスで17、18日に開かれるG7財務相・中央銀行総裁会議では、暗号資産をめぐる課題が主要議題になる。

 自由でどこの規制もかからない通貨というのはひとつの理想かもしれない。しかし、コンピュータ技術を使い、仮想空間上にそのような通貨を作っても、現実社会の商取引に持ち込むには大きな壁がある。決済は人と人が行うわけであり、そこには信用が必要になる。紙切れが通貨として流通しているのは、政府がそれに信用力を与えているためであり、その信用を構築し維持するために膨大な労力が使われている。強固なインフラが整備されているといえる。それは費用面だけの問題ではない。仮想通貨ならばATMなどの費用は削減できるかもしれないが、それだけで仮想通貨が現実通貨に対し優位性を持てるものでもない。


2019年7月14日「あのギリシャの長期金利が過去最低を記録」

 7月8日にギリシャの長期金利は2.014%に低下し、過去最低利回りを更新した。

 この背景のひとつにギリシャの4年ぶり政権交代があった。ギリシャ総選挙が7日、投開票され、最大野党で中道右派の新民主主義党(ND)の議席が単独過半数を獲得した。2015年に反緊縮財政を掲げて登場したチプラス首相は、欧州連合(EU)との対立で世界の金融市場を動揺させた。そのチプラス首相が退陣することになった。

 欧州圏の国債利回りが全般に低下傾向にあったことも、ギリシャの長期金利が過去最低を更新した要因となった。FRBによる利下げ観測に加え、ECBも緩和策に動くのではとの期待が強まり、ドイツやフランス、ベルギー、さらにスペインやポルトガルの長期金利も過去最低を更新していた。これを受けてギリシャの長期金利も低下し、総選挙の結果も加わって過去最低を更新した。

 2010年1月に欧州委員会がギリシャの財政に関して統計上の不備を指摘し、ギリシャの財政状況の悪化が表面化した。これを受けて起きたのがギリシャ・ショックである。ギリシャは2009年10月にも政権交代が起きたが、パパンドレウ新政権に変わったことにより前政権が行ってきた財政赤字の隠蔽が明らかになった。これを受けて格付け会社は、相次いでギリシャ国債の格付けを引き下げ、ギリシャ国債は暴落した。同様に債務状態が悪化しているポルトガルやスペインなどにも飛び火した。これがユーロというシステムそのものへの危機となり、欧州の信用不安が拡大した。

 ECBの緩和策などもあって欧州の信用危機は後退した。しかし、2015年1月のギリシャでの総選挙において「反緊縮財政」を化掛けたチプラス首相が誕生したことで、EUとの対立色を強めることになる。このため2015年7月に向けてあらためてギリシャ・ショックが再発した。7月にギリシャの長期金利は15%近くにまで上昇した。

 ギリシャのユーロ離脱の可能性も強まったが、ギリシャ議会は7月16日に、欧州連合(EU)から金融支援の条件として要求されていた財政改革法案を賛成多数で可決した。そしてギリシャは年金カットや増税などの緊縮実行を受け入れた。これにより、ギリシャのユーロ離脱という最悪に事態は回避された。ここからギリシャの長期金利は低下してきた。

ギリシャの新民主主義党(ND)は今年5月の欧州議会選で第1党になっていた。これを受けて政権交代の可能性が高まり、ギリシャの長期金利は3%を下回り、ユーロ導入後の最低を記録していた。そして今回のギリシャの総選挙の結果を受けての過去最低利回りの更新となったのである。


2019年7月13日「米国の利下げは本当に必要なのかという声も」

 7月11日の欧米市場はどこか気迷い気分を強めたような格好となっていた。

 ここにきての金融市場を取り巻く最大の焦点は7月30、31日でのFOMCでの利下げの有無であったと思う。パウエルFRB議長は10日の米下院委員会の証言で、より緩和的な金融政策の必要性が高まっているとの認識を示した。さらに11日の上院銀行委員会での証言で、米当局が追加緩和にオープンであることを示唆した。これを受けて次回のFOMCでは0.25%の利下げを実施されるであろうことを市場は織り込んできた。

 ただし、31日のFOMCの利下げについて疑問を抱いている人達もいる。リッチモンド地区連銀総裁は11日、利下げの根拠は乏しいとの認識を示した。アトランタ連銀総裁も11日、物価見通しが悪化している明確な兆候はないとし、利下げに反対する姿勢を示した。

 これに対してニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は11日、米経済の重しとなっている不確実性や弱いインフレ率を受け、利下げの根拠が強まっていると述べた。ニューヨーク連銀総裁は執行部と言ってもよい立場にあり、これはパウエル議長意向を組んだものとの見方もできよう。

 ただし、11日発表された6月の米消費者物価指数は前年同月比1.6%上昇に止まったのに対し、エネルギーと食品を除いたコア指数は2.1%上昇となり、予想を上回る伸びとなった。FRBの物価目標はCPIではなくPCEデフレータではあるものの、注目される物価指数のひとつが2%を上回っているという事実も無視はできない。

 11日の米債は30年債入札が低調だったこともあるが、コアCPIも意識されて売られ、米10年債利回りは2.14%と前日の2.06%から大きく上昇していた。2%がひとつの抵抗ラインとなりつつある。

 さらに欧州の国債もイタリアなど除いて総じて売られている。7月4日にドイツの10年債利回りはマイナス0.40%とECBの中銀預金金利であるマイナス0.4%と同水準にまで低下した。ここでドイツの国債利回りはボトムアウトした可能性もある。11日のドイツの10年債利回りはマイナス0.23%とマイナス幅を縮小させてきている。

 欧米の株式市場も11日はまちまちとなっており、ダウ平均227ドル高となり、S&P500も買われて最高値を更新したが、ハイテク株は売られ、ナスダックは6ポイント安となった。欧州の株式市場はロンドン株式市場を含めて続落となっている。

 これらの動きについては、それぞれ説明は可能かも知れない。11日の欧米の株式市場では米政権が医療費削減に向けた計画を撤回したことも材料視されていたが、少なくともFRBの月内の0.25%程度の利下げは織り込んできたが、それによるインパクトも織り込み済みといったところなのか。

 市場ではその先を読み出しているのかもしれない。リッチモンドやアトランタだけでなくダラス、フィラデルフィア、クリーブランドの各連銀総裁も利下げの必要性を疑問視している。これは5日の米雇用統計、さらに11日のCPIをみても足元の景気や物価がしっかりしていることをうかがわせるため、当然といえよう。

 そのようななかにあって、市場に促されるように利下げを模索するパウエル議長の動きについて警戒感を強めているようにも思える。利下げを求めるトランプ政権に弱腰の姿勢を示しているのではともとらえかねない。このため7月31日の金融政策の決定について、全員一致での利下げ決定は考えづらい。

 金融政策を決める上で、イングランド銀行では総裁案が通らなかった事例があり、日銀でも同数となったこともあった。果たして31日のFOMCではどのようなかたちで金融政策が決定されるのかは、いまのところ予断は許さない。市場の多くはパウエル議長などの執行部を応援するかもしれないが、足元のファンダメンタルズや株価指数などを見る限り、本当に利下げは必要なのかと疑問視するむきも当然いるはずである。


2019年7月12日「FRBの利下げ観測が強まる」

 FRBのパウエル議長は下院金融委員会での半年に一度の証言において、「貿易問題での緊張を巡る不確実性と、世界経済の強さに対する懸念が引き続き重しとなっている」と語った。そしてこれらに対処するため「必要に応じて行動する」と述べた。6月の雇用統計を受けても米金融当局の見通しは変わらなかったとした。つまり、今後の利下げの可能性を示唆した格好となった。

 この日に発表されたFOMC議事要旨(6月18、19日開催)では、景気先行きの「不確実さと下振れリスクが著しく高まった」との見方で一致していた。そして数名が、見通しが一段と悪化した場合には緩和政策が必要と主張していた。

 これを受けて今月30、31日に開催されるFOMCでは0.25%程度の利下げが賛成多数で決定される可能性が高まった。利上げを主張していた参加者もいるため、全員一致とはならないと予想される。また、予防的措置であれば、0.50%の利下げはないと予想される。

 ただし、今回のパウエル議長の発言を受けて、年内複数回の利下げを市場は読み込んできているようである。たしかに過去のFRBの金融政策はいったん方向を変えるとある程度、そちらの方向で段階的に金融政策を変更している。問題はペースとなろうか。

 正常化に向けた利上げについては2015年12月に開始されたが、その次の利上げは2016年12月となり1年間は動かさなかった。その後はFRBの議長会見が行われるFOMCにて段階的な引き上げが実施されてきた。

 今回についても足元景気が悪化してきているわけではなく、予防的な利上げとなるのであれば、その効果を確認したいとの理由で次回までの利上げには、ある程度の猶予期間を設けることも予想される。今年に入ってからFRB議長の会見は、毎回のFOMCで実施されることになり、議長会見と政策変更が紐付けるされることもなくなる。

 今月の利下げが行われたとして、その背景にトランプ大統領など政権への配慮がなされたとの見方も否定はできない。トランプ大統領としては来年の大統領選挙を見据えて、景気というか株価を引き上げたい意向も強いようである。ただし、大統領選挙期間中などは、金融政策の変更は行わないのが通例となっているようである。FRBがどういったスケジュール感を持って利下げを行ってくるのかも注意する必要がある。


2019年7月11日「企業物価指数にみる物価下落の可能性」

 日銀が10日発表した6月の国内企業物価指数は前年同月比0.1%下落となり、2年6か月ぶりに前年比マイナスとなった。ガソリン、軽油、灯油など石油・石炭製品の下落などが影響した。

 本来であれば、川上にある企業物価指数が、川下といえる消費者物価指数に影響を与えることが多い。しかし、現状はそれほど連動性が高いわけではない。特に企業物価指数が上昇しても、企業は消費の停滞を恐れ、それを価格転嫁しつずらいとも言われていた。

 ただし、今回は方向性は反対となり、物価の抑制圧力が強まっていることを示している。米中貿易摩擦などによる影響もあり、世界的な景気減速懸念も強まっている。その影響が日本の国内企業物価指数にも出ているということであろうか。

 ここにきての消費者物価指数は前年比で1%に満たない水準で推移している。直近発表された5月分では前年比プラス0.8%となっていた。

 日銀の雨宮副総裁は5日の講演で、「今の段階では、標準シナリオは維持している。ただ、さまざまな下方リスクがある。そうした下方リスクで物価安定目標に向けたモメンタムが損なわれる状況になれば、ちゅうちょなく追加緩和を検討していく方針」と述べた。

 これが日銀の現在のスタンスであろう。しかし、今回の企業物価指数をみると今後、2%という物価安定目標に向けたモメンタムが損なわれる状況となる可能性もありうる。もしこのままコアCPIの前年比のプラス幅が縮小傾向となった場合に日銀はどのような行動をとるのであろうか。

 ただし、雨宮副総裁の「下方リスク」、「ちゅうちょなく」との表現からは、自然体での物価の下落を想定しているのではなく、何らかのテールリスクにより、金融市場に大きなインパクトが与えられ、経済物価といったファンダメンタルズに影響が確実に出ることが予想された際には、「ちゅうちょなく」行動するとも解釈できるか。


2019年7月11日「原油先物は戻り基調、65ドルあたりを伺う動きに」

 原油価格のベンチマークともいえるニューヨーク商業取引所のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物の価格の動きを振り返ってみたい。

 WTIのチャートをみると今年の4月あたりまで上昇トレンドを形成していた。これは米株価指数も同様でありナスダックは最高値更新した。日経平均も4月24日あたりまで上昇基調となっていた。

 WTIの上昇の背景は、株価の上昇にもみられたように世界的な景気回復が背景にあったと思われる。しかし5月に入り、米国のトランプ大統領が中国の協議は遅すぎるとして、2000億ドル分の中国製品に課す関税を10日から25%に引き上げると表明したあたりから、この上昇トレンドが崩れてきた。13日に中国は米国からの600億ドル分の輸入品への追加関税を5〜25%に引き上げると発表したことで、米中の貿易戦争の激化が意識された。

 16日にはトランプ政権がファーウェイを標的とした引き締め措置を発表した。ファーウェイとの取引を原則禁じる米政府の制裁措置に対応し、グーグルがアンドロイドの供給を停止する見通しと伝わったことなどから、同措置が米中貿易摩擦の激化につながるとの懸念が強まった。

 中国当局の報道官が、米国が貿易交渉を続けたいなら、誤った措置を真摯にただすべきだ、などと述べたと伝わった。米中貿易交渉は行き詰まるとの懸念が強まり、23日の原油先物は大きく下落し、WTI先物7月限は3.51ドルもの下げとなって57.91ドルと節目とされる60ドルを割り込んだ。米国とメキシコの貿易摩擦も警戒され、30日のWTI先物7月限は2.22ドル安の56.59ドルとなった。31日も大幅続落となり、WTI先物7月限は3.09ドル安の53.50ドルに。

 この原油先物が下げ止まるのが、6月の初旬から中旬にかけてとなった。米国のダウ平均も6月3日あたりから回復基調となり、原油先物は戻りが鈍かったが、こちらも次第に戻り基調となってきた。米国がメキシコ製品への関税発動を見送ったことや、FRBの利下げ観測、さらにはECBも緩和策を検討かとの報道などが買い戻しの要因となった。

 WTIは6月下旬に60ドル近くまで戻ったところでもみあいとなった。WTIのチャートからは三角持ち合いとなりつつあり、60ドル近辺がちょうど居所としては良いところとなる。ここからどちらに向かうのか。米株価指数などの動きを見る限り、いったん戻りを試す展開が予想され、原油先物も65ドルあたりを伺う動きとなるのではと予想される。


2019年7月10日「市場からの過剰な期待に中央銀行は応える必要があるのか」

 シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループが公表する「フェド・ウオッチ」というものがある。これはFRBの金融政策の誘導目標値となっているフェデラルファンド(FF)レート先物を基に算出される市場が織り込むFRBによる年内の利下げ確率となる。先物の水準から逆算して、市場が予想しているFRBの政策変更を読み取ろうとするものである。

 日本にもOIS(Overnight Index Swap)取引と呼ばれる、一定期間の無担保コールレート(オーバーナイト物)と固定金利を交換する金利スワップ取引があり、ここから日銀の金融政策の行方を読み取ろうとするものである。

 金融市場の現場を体験してきた自分としては、何故このようなものが必要となるのかという疑問を持っていた。債券市場の現場に携わっている人達は、当然ながら肌感覚で中央銀行のスタンスを嗅ぎ分けようとしている。このような指標など必要はないと思っていた。ただし、市場の肌感覚から一歩離れて、市場における中央銀行の今後の予想を数値化してみるためのメディア関係者などに向けたツールなのかとも思っていた。

 FRBの金融政策の今後のスタンスを示すものとしていわゆるドットチャートと呼ばれるFOMC参加者の予想の集計がある。ただし、これはあくまで予想の集計であり、それが政策変更を意味しているものではないはず。ただし、FRBが今後の動きを示唆するツールとして利用しているのではないかとの見方もある。

 これに対して「フェド・ウオッチ」は、あくまで市場参加者の予想を数値化したものであったはずが、これがどうやら市場関係者が中央銀行に対してプレッシャーを掛ける手段のようなものとなりつつある。

 7月5日に発表された米雇用統計を受けて、このフェド・ウオッチによると7月のFOMCでの0.5%の利下げの可能性が後退し、0.25%の利下げとの予想になったようである。市場が0.5%もの利下げを織り込んでいたというのは、どうみても期待しすぎであろう。

 米国の物価はそれほど低迷しておらず、足元景気についても堅調さが継続している。なんといっても3日の米株主要3指数は揃って過去最高値を更新していた。そのようななかで利下げが行われること自体、本来であれば考えづらい。

 たしかに米中貿易摩擦の懸念などから世界的な景気減速への懸念が出てきた。自分で巻いた種にもかかわらず、トランプ大統領はFRBに利下げを要求してきた。市場もそれに乗っかる格好で利下げをフェド・ウオッチというかたちで要求してきたかに思える。

 FRBとしても景況感の悪化は無視できない。正常化に向けたステップは停止せざるを得なかった。そこに多少の景況感の悪化で市場は利下げを要求し、利下げならば株は買いと最高値を更新させてきたかのような動きとなっている。

 米株主要3指数は揃って過去最高値を更新するなかでの金融緩和という状況はやはり異常と見ざるを得ない。本当に景気が悪化した際に、FRBが切れるカードを失ってしまっている可能性も出てくることになる。まあ、金融緩和策は計算上は無限にあるとの見方もなくはないが。

 7月30、31日のFOMCで0.25%程度の利下げが決定されることはないとは言えない。しかし、ここで利下げカードを切ると、市場はさらなる利下げを要求してこよう。金融政策というのは経済実態に即したものとならなくてはならない。予防的措置も必要であろうが、それも金融市場が先読みして環境が悪化しているような場合に限ろう。株価が過去最高値を更新するなかで利下げする必要性が本当にあるのであろうか。


2019年7月9日「次期ECB総裁に指名されたラガルドIMF専務理事への期待」

 欧州連合(EU)は2日ブリュッセルで開いた臨時首脳会議で、欧州中央銀行(ECB)総裁にフランスのクリスティーヌ・ラガルド国際通貨基金(IMF)専務理事、EUトップの欧州委員長にドイツのウルズラ・フォンデアライエン国防相を指名した(3日付日経新聞)。

 6月30日夜から3日間続いたマラソン協議の末、欧州トップ人事がようやく決着したともされたが、どうもその落としどころは事前に決定していたのではないかとの見方もある。実際にドイツのメルケル首相はドイツ出身者をECB総裁ではなく、欧州委員長に充てたい意向を示していた。

 結果として、メルケル首相の意向通りに欧州委員長にはドイツ出身者でメルケル首相を支えてきた人物を充てることができた。これに対してユンケル欧州委員長(ルクセンブルグ出身)は自らの後任候補にフォンデアライエン独国防相が指名されたことについて、決定の過程が透明ではなかったと指摘した。3日間続いたマラソン協議では、独仏以外の国を納得させられるかが課題になった可能性もある。密室で決められたとの観測もあって欧州委員長の決定に必要な議会の承認には不透明な面も残っているとされる。

 メルケル首相の意向が欧州委員長に反映されたとすれば、ECB総裁についてはマクロン大統領の意向が反映されたと思われる。しかし、それがまだ任期途中であり、その功績も評価されているクリスティーヌ・ラガルド国際通貨基金(IMF)専務理事に白羽の矢が立つことは予想できなかった。

 各国の中央銀行を跨ぐ格好となっているECBの総裁に、中央銀行での勤務経験がない人物が起用されて問題はないのかとの見方もあった。しかし、これについては例えば日本の中央銀行総裁人事をみても問題はないように思われる。現在の黒田総裁は財務省出身である。ちなみにラガルド氏もIMF専務理事の前はフランスの財務大臣であった。

 フランスのマクロン大統領としては、2つの重要ポストに女性を充てることもひとつの目的とされたが、それとともにドイツのバイトマン連銀総裁などドイツ出身者をECB総裁に充てることは避けたかった可能性もある。現在のECBの緩和的なスタンスを継続してほしいとの意向もあったとみられ、その意味ではこれまでのECBの緩和策を評価してきたラガルドIMF専務理事は実績、知名度、さらにメルケル首相との関係も考慮すると最適としたのではなかろうか。

 市場ではラガルドIMF専務理事のECB総裁の指名を受けて、ECBの現在の緩和路線が継続されるとの見方から、欧州の国債利回りは一段と低下した。ただし、注意すべきは現在のドラギ総裁がより緩和に前向きであったのに比べ、ドラギ総裁と比較してフランス出身のラガルド氏は比較的冷静に見てくるのではないかということである。また、IMF専務理事として日本を含めてG7なども通じて財務大臣や中央銀行総裁との人的交流もかなりあるとみられ、その経験が生かされる可能性も当然ある。


2019年7月6日「日本のキャッシュレス化は本当に18.4%でしかないのか」

 今年10月の消費税率10%への引き上げにあわせて「酒類及び外食を除く飲食料品」と「定期購読契約が結ばれた週2回以上発行される新聞」に限り、税率を8%に据え置く「軽減税率」が導入される。その際にキャッシュレス決済で買い物をした人に対してポイントで還元する制度の導入も検討されている。

 「酒類及び外食を除く飲食料品」の区分けの面倒さや何故新聞が、という疑問はさておき、キャッシュレス決済でのポイント還元というのにも違和感というか無理矢理感がある

 どうもキャッシュレス化促進ありきで、我々のニーズや店側の事情などは置いといて、進められている気がしてならない。日本におけるキャッシュレス決済は他国に比べて本当に遅れているのかという疑問もある。キャッシュレス化の主役となりつつあるFelicaやQRコードはもともと日本の技術である。

 経済産業省が発表したキャッシュレスビジョンによると、世界各国のキャッシュレス決済比率(2015年)の比較を行うと、韓国の89.1%を始め、キャッシュレスが進展している国では軒並み40%〜60%台であるのに対して、我が国は18.4%にとどまるとしている。このため、2025年までに日本の「キャッシュレス決済比率」を40%程度とし、将来的には世界最高水準の80%を目指すとしている。

 この18.4%という数字そのものに疑問を持たざるを得ない、キャッシュレスについての範囲の決め方によってこういった数字が出ることも予想されるが、この数字が一人歩きしてしまっている。その結果、消費増税のポイント還元に合わせ、取り急ぎブームにみえるQRコード決済がここにきて乱立し、急いだあまり、セキュリティーに問題が生じるなどの事例も出てきたのではあるまいか。

 キャッシュレス化を進めるには、使う側のインセンティブを引き出す必要があり、ある意味強制的に拡げようとしても無理があろう。それ以前に日本でのキャッシュレス化は本当に他国に比べそんなに劣っているのか。もう少しキャッシュレスの範囲を拡大するなどして、再比較する必要もあるのではなかろうか。

 年金の2000万円問題もそうであるが、数字がまず一人歩きしてしまうことがある。2%の物価目標もそのひとつかもしれない。日本のキャッシュレス化は本当に18.4%で、韓国の四分の一以下でしかないのか。このあたりを再度、確認した上で、日本のキャッシュレス化について考える必要があるのではなかろうか。


2019年7月5日「キャッシュレス化の促進にQRコード決済は必要なのか」

 今回の「7Pay」における不正利用問題により、QRコード決済に対する問題点がいくつか浮上した。QRコード決済は特別な端末など必要なくスマホがあれば簡単に決済ができるというのが利点のひとつと思われるが、そこにはセキュリティという大きな障壁が存在していた。これをどの程度強固なものにする必要があるのか。今回の不正利用はここを付かれた可能性が高い。

 そもそもクレジットカードそのものがキャッシュレス化をもたらすものであるにも関わらず、別なキャッシュレス化のためにそれを使うということに違和感がある。カードではなくて、スマホを使うのがスマートなキャッシュレス化だということなのであろうか。

 QRコード決済はひとつのブームのようになって乱立してきたが、それを使いたいと思わせるインセンティブは、私の見る限り現金などの還元セールでしかない。中国でのQRコード決済の普及には、それがいたるところで使えるというのも利点とされた。それに対して日本ではキャッシュレス化が遅れていたわけではない。それはかなり浸透し、すでにその基盤はできていた、このため、QRコード決済の普及が日本でのキャッシュレス化を促進するということにはならない。

 電車の乗り降り、スーパーやコンビニでもFelicaと呼ばれるソニーが開発した技術によるキャッシュレス化によるカード利用は広まっている。クレジットカードもかなりのところで利用が可能となっている。ただし、日本ではスマホを使ったキャッシュレスのアプリの利用が広がっていなかっただけである。念のため、FelicaだけでなくQRコードも日本の技術である。

 おサイフケータイという機能が生まれて15周年だそうだが、そういった機能を備えたスマホが昔から存在していた。それにも関わらずスマホを使ったキャッシュレス化が進まなかったのは、やはりセキュリティに対する問題が意識され、さらにはスマホのアプリ内での現金に対する信頼性が、クレジットカードなどに比べて低かったためではないかと思われる。それを覆するほど魅力的な利用法もスマホのアプリ決済ではいまのところ出てこなかった。

 我々は現金の利用について特に不安を持つことはない。それだけ強固なインフラが備わっているためといえる。クレジットカードについても時間をかけて信用を培ってきた。それに対してスマホを使ったキャッシュレスに対しては、やや不安を持っていたと思われる。今回の7Payにおける不正利用問題も含め、いわゆるQRコード決済で出てきた問題は、その不安をさらに高めることにもなりかねない。

 QRコード決済そのものが今後どのようになっていくのかは見通せない。まだ始まったばかりであり、今回のような問題を解決していくうちに利用が広がる可能性もありうる。しかし、それでもスマホのアプリで決済を行うことへの不安はなかなか拭えないのではなかろうか。


2019年7月4日「欧州の国債利回りが軒並み過去最低を更新、金利なき異常世界へ誘う金融緩和は本当に必要なのか」

 2日にイングランド銀行のカーニー総裁は、保護主義の台頭が世界経済にもたらす悪影響について警告。経済は「広い範囲で減速」し、大規模な政策対応が必要になる可能性があると述べた(ブルームバーグ)。

 これを受けて2日の英国の10年債利回りは0.72%に低下し、3日は0.69%とさらに低下した、米債も連れ高となり、2日の米10年債利回りは1.97%と再び2%を割り込んだ。3日には1.95%に低下した。

 ECBの次期総裁にフランスのクリスティーヌ・ラガルド国際通貨基金(IMF)専務理事が指名された。ラガルト氏がECBの次期総裁となれば、タカ派のバイトマン・ドイツ連銀総裁の就任の可能性がなくなり、これまでのドラギ総裁の緩和路線を引き継ぐことが予想され、これにより欧州の国債は買い進まれた。

 2019年予算を巡りイタリア政府と欧州委員会が合意するとの期待が強まったことから、欧州の債券市場では特にイタリアの国債が買い進まれた。イタリアの10年債利回りは1.84%と28日の1.96%から大きく低下し、3日には1.58%とさらに大きく低下した。

 ドイツの10年債利回りは3日にマイナス0.39%と過去最低を更新し、フランスの10年債利回りもマイナス0.11%に低下した。スペインやポルトガルの10年債利回りも過去最低を更新。ベルギーの10年債利回りは初めてマイナスを付けた

 6月29日の米中首脳会談では通商交渉の継続で合意した。通商交渉の行方に予断は許さないものの、決裂は回避したことで市場はひとまず安堵した。しかし、今度は米通商代表部(USTR)が欧州連合(EU)への発動を検討している追加関税の対象規模を拡大すると発表した。EUが航空機大手エアバスに支給する補助金をやめるよう圧力を強める構えとされ、これであらためて米欧の貿易摩擦が一段と激しくなることが予想される。

 英国によるEUからの合意なき離脱の可能性も高まっていることや、欧米の貿易摩擦への懸念もあって今回のイングランド銀行のカーニー総裁の発言であったとは思う。また、為替市場も意識したものであった可能性もある。

 金融政策は為替誘導が目的ではないものの、結果として金利差が意識されて為替が動くことが想定される。しかし、この状況下で中央銀行が緩和競争を始める必要はあるのか。カーニー総裁もあくまで景気の減速への懸念としていたが、現実に景気後退となった際には、どのような手段を講ずるというのか。

 あまり安易に緩和というカードを切ってしまうと、いろいろと副作用やら、緩和効果への疑問やらも生じてこよう。市場は確かに緩和という文字だけで反応してしまいがちであり、中央銀行もそれを利用しようとしているようにみえる。あまりに安易に使い過ぎると金利そのものが消失し、それが経済実態に負の作用を与える可能性も意識する必要があるのではあるまいか。ちなみに3日の米国株式市場ではダウ平均など主要3指数が過去最高値を記録している。いくら利下げへの期待感が強まっているとはいえ、これはどこかおかしいと思わざるを得ない。株価は中央銀行の政策だけで動いているわけではあるまい。


2019年7月4日「7Payにおいて不正利用があった模様、念のためご注意を」

 7月1日から利用が始まったセブン‐イレブンの7Payにおいて不正利用があったようで、セブン‐イレブンはサイトで注意喚起を行っていた。

 これによると、現在、一部のアカウントが第三者にアクセスされる被害が確認されており、お客様には改めてご自身のログインID・パスワード、認証パスワードの管理についてご注意くださいますよう、お願い申し上げます、とある。

 7payの履歴画面に身に覚えのない利用履歴がある場合など、7payお客様サポートセンター緊急ダイヤル(0570-012-113)に連絡してくださいとあった。

 これはすでにツイッターなどで報告事例が相次いでいた。これらのツイートによると7Payの登録を行った人のなかで、3日の朝7時頃から一定時間の間で、数万円単位での不正チャージが行われていた模様である。そのチャージ後に都内のセブン‐イレブンの店舗で、高額の決済、つまり乗っ取られたアカウントが利用されて高額の商品(たとえばプリペイドカードなどが予想される)を何者かが購入したものとみられる。

 この被害に遭ったケースとして、クレジットだけでなくデビットカードも含め、カード登録時に設定する認証パスワードとログインID・パスワードが同一のものになっている場合などとあるが、いまのところどういった経緯でパスワードが見抜かれたのかはわかってはいないようである。

 「7Pay」を登録し、クレジットカードやデビットカードを紐付けされた方は、念のため7payの履歴などを確認しておいたほうが良いかもしれない。また、パスワードを使い回している人も注意したほうが良さそうである。


2019年7月3日「フェイスブックの仮想通貨リブラは使えるのか」

 米国のフェイスブックは、独自の仮想通貨(暗号資産)である「Libra(リブラ)」を発表した。リブラのブロックチェーンの構築と運営は、スイスに本拠を置く非営利団体「リブラ協会」が行うそうで、これにはさまざまな業界の企業が参加している。

 リブラは基本的に国が発行する法定通貨など従来の金融資産を担保とする「ステーブルコイン」となり、価格が比較的安定するとみられている。

 利用者は登録の際に各国政府が発行したIDが必要で、銀行口座やデビットカードを使ってリブラを購入する。瞬時に送金したり、米ドルなどの法定通貨に交換したりできる。手数料は、ほぼかからないとみられている(NEEWSWEEKの6月29日の記事より)。

 このようにリブラは投機資産と化しているビットコインなどの仮想通貨(暗号資産)と違って、決済手段を目的として設計されているようである。

 GAFAの一角を占めるフェイスブックが、独自の通貨構想を打ち出した。これで現在の通貨システムに大きな変化が訪れるのではとの見方も出ていたが、それは現状、懐疑的と言わざるを得ない。

 ビットコインなどの仮想通貨(暗号資産)が魅力的に映ったのは、ネットを使ったあらたな通貨としてへの期待が当初あった。しかし、価格が乱高下することで通貨としての機能は疑問視された。その反面、価格の上昇などから投機的な資金が入り、投機対象となっていた。また資金流出事件もあり、その信用度に疑問も生じた。

 これに対してリブラはステーブルコインとして設計されていることで、価格は比較的安定する。その分、投機対象となることはない。その利用は決済に利用されることになる。そうなるとリブラと比較されるものは法定通貨ということになる。リブラと法定通貨、どちらの使い勝手が良いものとなるのか。

 これについては仮想通貨が出てきたときにも起きた現象であるが、その国の通貨への信用度の低い国での利用が活発化する可能性がある。その反面、法定通貨への信用度が高いところ、それがしっかり中央銀行などで維持されているところでは、よほど何かしらの利用価値がない限り、普及が進むことは考えづらい。

 たとえばリブラはデータがしっかり管理されるのかという疑問が残る。通貨価値を安定させその信認を維持させるには、目に見えないところで費用も掛かり、手間もかかる。気軽に使えるということはその反面、気軽に使えるような強固なシステム、インフラが存在していることを忘れてはいけない。

 それ以前に、マネーローンダリングなどへの警戒などもあり、それぞれの国がリブラの利用に制限を掛けることも想定される。

 日本でもしリブラが使えるようになった場合に、その利用のひとつとして円に対するリブラの価格変動を利用することなどもありそうである。つまり、日本で円ではなくドルを持つようなかたちでリブラに変える。また、海外での両替などをリブラを通して行うなどの利用も考えられる。しかし、それもリブラへの絶対的な信用が存在しなければ、利用は控えられよう。


2019年7月2日「サプライズ的な米朝首脳会談などを市場はどう評価してくるか」

 6月30日に板門店の韓国側施設「自由の家」で、事実上の3回目の米朝首脳会談が行われた。今回の会談は何もかもが異例尽くしとなっていた。大阪でのG20サミット終了後にトランプ大統領は韓国を訪問することは予定されていた。これまで米国大統領が韓国訪問時に訪れることの多かった板門店に訪れることも予定されていたように思う。しかし、そのタイミングで北朝鮮の金正恩委員長を呼び出すというのは、形式などにとらわれないトランプ大統領ならではとも言えた。それに金正恩委員長もしっかり答え、まさかの米朝首脳会談の開催となった。

 もちろんこれは米国の大統領選挙を睨んだパフォーマンスとの捉え方もできよう。29日には米中首脳会談も予定通り行われた。こちらでは通商交渉の再開することで合意し、トランプ大統領は3000億ドル相当の中国製品への追加関税発動を先送りすると述べた。両者とも決裂は望んでおらず、最低の落としどころで合意した格好となった。これだけでは市場は想定の範囲内との反応を示した可能性があった。

 ところがここに予想もされなかった米朝首脳会談が加わった。いや米国のシークレットサービスなどでは、それもあるかと事前準備を行っていたとか、米中首脳会談で習主席に金正恩委員長との会談の可能性を問い合わせていたのではとの観測もあった。それでも相手が果たして会談に同意するのかは不透明な部分はあったのではないかと思われる。

 米中の通商交渉の行方については依然として不透明であり、お互いの妥協点を探る展開となることが予想される。しかし、米国側もファーウェイに対する禁輸措置を緩和するなどやや柔軟姿勢を見せている。2020年11月の大統領選挙に向けてある程度譲歩し、なんらかの妥協点に落ち着き、通商交渉を推し進める可能性はありうる。

 そこにアジアの地政学的リスクに関わる状況にもあらためて変化が出てきた。いったんあきらめかけていた米国と北朝鮮の対話が再開されるであろうことは間違いない。これは市場に蔓延していたリスクを多少なり軽減させることになろう。むろん米国とイランとの緊張関係などは残ることになる。

 ここで注意すべきは、今回のサプライズ的な米朝首脳会談と交渉再開で合意した米朝首脳会談をどのように市場が評価してくるかである。市場がというよりもFRBがどう評価してくるのか、なのかもしれない。FRBのパウエル議長も将来の利下げの可能性を示唆していたが、その要因として景況感の悪化を指摘していた。今回の2つの首脳会談により、この景況感が改善してくる可能性がある。それが株価などにも反映するとなれば、米株価指数が再び過去最高値を更新してくる可能性がある(1日のS&P500は最高値を更新した)。そのような状況下で、利下げというカードをFRBが切ることは考えづらい。利下げ観測が後退して株価がどう反応するのか。仮に一時的に売られることがあっても、米国の景況感が回復傾向にあれば、自然と株価も上昇してくるはずである。


2019年7月1日「世界的な長期金利の低下の要因と2016年7月の金利低下時との類似性」

 6月21日に日本の10年債の利回りはマイナス0.195%まで低下し、日銀の誘導目標の下限とされるマイナス0.2%に接近した。債券先物は154円13銭まで上昇し、中心限月としては過去最高値を更新した。

 それまでの債券先物の最高値は2016年7月27日の引け後のナイトセッションでつけた154円01銭であった。

 6月21日の債券先物の高値更新は、先物主体の仕掛け的な動きともみられていた。そのきっかけには20日の日銀の金融政策決定会合後の会見で、黒田総裁が長期金利の変動容認幅について、過度に厳格に捉える必要はないと発言し、長期金利が変動容認幅の下限マイナス0.2%を下回っても日銀は容認かとの思惑が広がったこともあった。

 2年前の2016年7月6日に日本の20年国債の利回りは初めてのマイナスとなった。10年国債の利回りもマイナス0.285%と過去最低を更新した。この金利の低下は日本だけの現象ではなかった。6日の米国債券市場で米10年債利回りは一時1.31%台をつけ過去最低を更新し、ドイツの10年債利回りはマイナス0.2%台をつけた。

 今回と比較してみると日本の20年債利回りはプラスの0.2%近辺となっており、マイナスにはなってはいない。10年債利回りもマイナス0.195%までとなっていた。そして米国の10年債利回りは低下していたものの2%近辺となっている。ただし、ドイツの10年債利回りはマイナス0.3%台となるなど欧州の国債利回りは過去最低を更新しているところがある。

 2016年7月と今回の長期金利の低下は、欧米の金利低下を受けてのものといえる。2016年7月の世界的金利低下のきっかけは、6月23日の英国の国民投票でEU離脱が決まったことによるリスク回避の動きがあった。しかし、2016年は年初から株価が急落するなど、中国を主体とした景気の減速懸念や物価の低迷などがすでにあった。これに対し、今回の日米欧の金利低下の背景としては、米国の中国の貿易摩擦の拡大などによる景況感の悪化があり、それを背景としたFRBなどの利下げ観測があった。

 2016年といえば1月に日銀はマイナス金利政策を導入し、9月に長短金利操作付き量的・質的金融緩和を決定した。これにより金融緩和による副作用も問題視されるようになっていった。

 今回も日本では市場が日銀に追加緩和を催促しているような状況になっている。FRBが利下げするようなことになると円高となる可能性もあり、日銀としては為替の動きが気になるだろうが、ここは2016年の教訓を生かして、動かないという選択肢を採ることもありかと思う。


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