2017年9月26日「8月の公社債売買高は回復」

 9月20日に発表された8月の公社債投資家別売買高によると海外投資家が3兆円近くの買い越しとなり、都銀、生保、投資信託なども小幅買い越しとなっていた。ただし、都銀の買い越しは675億円に止まった。同時に発表された国債の投資家別売買高をみると中期と超長期は買い越しとなっていたが、長期ゾーンは売り越しとなっていた。

 海外投資家の買い越し額は7月が7394億円、6月が7993億円と1兆円を割り込んでいたが、8月は大きく切り返した格好となった。中期を2兆円近く買い越し、長期も1兆円近い買い越しとなっていた。

 公社債投資家別売買状況の下記データは、全体の数字と短期債の数字となっているため、短期債を除く債券のデータについて全体から短期債を引いた。ここには国債入札で購入した分や日銀の国債買入分は入っていない。

公社債投資家別差し引き売買高
注意、マイナスが買い越し
単位・億円
()内は国債の投資家別売買高の超長期・長期・中期別

都市銀行 -675(-3879、7699、-6037)
地方銀行 7127(586、4949、-59)
信託銀行 1974(-712、16、1739)
農林系金融機関 207(-142、205、-39)
第二地銀協加盟行 1832(599、1216、10)
信用金庫 6091(2187、3109、0)
その他金融機関 1230(453、383、471)
生保・損保 -1193(-1196、435、-11)
投資信託 -588(-407、322、-100)
官公庁共済組合 107(55、74、73)
事業法人 -867(27、84、10)
その他法人 -382(139、-53、4)
外国人 -29837(-546、-9377、-19211)
個人 207(0、23、4)
その他 28159(5697、9978、15495)
債券ディーラー -740(-110、-243、-292)

 7月の全体の国債の売買高は174兆円程度と6月の212兆円程度から落ち込んでいたが、8月は195兆円となり、売買高は6月の水準には及ばなかったが増加した。

 7月は中期ゾーンの売買高が大きく落ち込んでいたが、こちらも回復し、7月の35兆円程度から8月は51兆円程度に回復した。7月の中期ゾーンの売買高を大きく減らしていたディーラーも中期ゾーンの売買高は7月の21兆円程度から33兆円程度に回復させた。ちなみに7月の債券ディーラーによる中期ゾーンの売買高も2004年4月以降、最低水準となっていた。

 7月に証券会社などの債券ディーリングでは、顧客向けのポジションを保有してのディーリングなどを極力縮小させ、日銀の買入に向けた国債入札の応札に止めていたのではないかとみられる。しかし、8月の数字を見る限り、これは一時的な現象とも思える。ただし、8月は米債が買われていたことなどから、円債も買い進まれ相場環境が良かったことも売買高の回復に繋がっていた。9月に入り、長期金利は再び上昇しつつあり、環境が変わってきていることで、売買高を維持できているのかも注意したい。


2017年9月24日「衆院解散総選挙を受けての国債の行方」

 安倍首相は公明党の山口代表に対し、今月28日に召集する方針の臨時国会で、衆議院の解散・総選挙に踏み切ることを排除しないという考えを伝えていたことが明らかになり、衆議院は、臨時国会の冒頭にも解散される可能性が強まった。

 解散の大義名分とかはさておき、なかなか絶妙なタイミングで解散に打って出る格好となった。11月初めに米国のトランプ大統領の日本訪問が予定されていることもあり、10月10日公示、22日投票の日程が想定されるようだが、野党に準備期間を与えず、安倍政権の支持率が回復してきたところだけに絶妙のタイミングといえる。

 勝利の行方に関しては、選挙は水物と言われるだけにどうなるかは蓋を開けるまでわからない。しかし、総選挙の勝敗ラインを自民党で過半数あたりとすれば、現時点では到達可能とみられ、そうなれば来年9月の自民党総裁選での3選の可能性を強めることになる。

 今度の衆院選で安倍首相は「全世代型の社会保障制度改革」を主要政策として訴える意向を固めたとも伝えられ、消費税率を10%に引き上げる際に使途を組み替え、教育財源を拡充する案を打ち出すという。

 すでに基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2020年度までに黒字化するという方針は、ほぼ達成不可能の状況となっている。財政再建に向けた姿勢は維持しているとの格好ではあるが、安倍政権はあまり積極的ではなく、財政政策などによって経済を活性化させることで税収を増加させ、それが結果として財政健全化に繋がるとの考えのようである。しかし、これまでの税収増はほぼ景気対策に使われていたように思われる。

 それでも日銀が国債を大量に購入しており、長期金利はとりあえずコントロールされている。欧米の長期金利が再び上昇しつつあり、解散総選挙そのものは政治の安定に繋がるとの思惑も手伝い、東京株式市場やドル円は上昇し、国債は少し売られた。それでも国債への信認が揺るいでいるわけではないため、今後の日本の長期金利の上昇もわずかなものに止まるとみられる。

 解散総選挙の結果、政権交代が起きたり、首相の交代があれば、国債を取り巻く環境が一変する可能性はある。しかし、それがない限りは10年国債利回りのゼロ%近辺での狭いレンジ内での動きが継続することになろう。日銀も可能な限り現在の政策を続けることが予想される。日銀の黒田総裁が再任される可能性も強まるかもしれない。


2017年9月23日「日銀は日本国債の4割を保有」

 日銀は9月21日に資金循環統計(4〜6月期速報値)を発表した。これによると個人の金融資産は6月末時点で約1832兆円となり、株価の上昇傾向などを背景に過去最高を更新した。3月末時点では約1808兆円となっていた(改定値)。個人の金融資産の内訳は、現金・預金が「前年比」で2.6%増の約945兆円となった。株式等が同22.5%増の約191兆円、投資信託も15.6%増の約100兆円となっていた。

 この資金循環統計を基に国債(短期債除く)の保有者別の内訳を算出してみた。

 残高トップの日銀の国債保有残高は401兆8899億円、41.3%のシェアとなった。前期比(速報値)からは15兆1143億円の増加。残高2位の保険・年金基金は233兆2975億円(24.0%)、6999億円減。残高3位は預金取扱機関(都銀や地銀など)で182兆1565億円(18.7%)、7兆8609億円減。4位が海外投資家で57兆3831億円(5.9%)、8147億円増。5位が公的年金の46兆8594億円(4.8%)、2兆1544億円減。6位が家計の12兆2544億円(1.3%)、2719億円減。その他が39兆586億円(4.0%)、3096億円増となっていた。

 2017年3月末に比べ国債(短期債除く)の残高は5兆2515億円増加し、972兆8994億円となった。

 3月末に比べて大きく増加したのは、国債を買い入れている日銀でシェアは4割を上回っている。今回も前期比で増加したのは「海外」と「その他」となっていた。

 3月末に比べて大きく減少したのは国内銀行で3兆7886億円の減少となっていた。また、中小企業金融機関等(ゆうちょ銀行含む)も減少させており、3兆5881億円の減少となった。

 短期債を含めた国債全体の数字でみると残高は約1085兆円となり、日銀が約437兆円で40.3%のシェアとなっていた。短期債を含めたもので40%を超えたのははじめてとなった。そして海外勢の残高は約117兆円と短期債を含めると国債全体の10.8%のシェアとなっていた。海外については、世界最大の政府系ファンドが日本国債の保有額を削減するとしており、今後保有シェアが後退する可能性がある。


2017年9月22日「FRBは正常化に向けた動きを本格化」

 9月19、20日に開催されたFOMCでは、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標は年1.00〜1.25%のまま据え置いた(全員一致)。そして、2008年〜14年に購入した米国債などの保有量を10月から段階的に減らすことを決定した。2008年の金融危機後の量的緩和政策を完全に終結し、大幅に膨らんだ保有資産の縮小を始める(日経新聞)。

 2008年から14年10月までのQEと市場で呼ばれた量的緩和で、FRBは米国債や住宅ローン担保証券(MBS)を大量に買い入れたことで、保有する資産量が9千億ドルから4.5兆ドルまで膨らんだ。10月以降は満期を迎えた債券や証券への再投資を取りやめる格好で資産圧縮に着手する。保有する米国債やMBSを10月から3か月の縮小幅は米国債が月60億ドル、MBSなどは40億ドル削減する。削減額の上限は段階的に増やし、いずれは月500億ドルまで引き上げる。

 FOMC後に公表した政策金利見通し(ドットチャート)では、参加者16人のうち11人が年末までに追加利上げを予測していることを明らかにした。利上げ回数の見通しは2018年が3回、2019年が2回、2020年は1回となった。長期の中立金利予測は前回の3%から2.75%に引き下げられた。

 10月からの資産縮小開始は事前にかなりアナウンスされていたことで予想通り。ただし、年内3回目の利上げについては市場参加者の間でも見方が分かれていたこともあり、20日の米国市場はこの利上げを織り込むような動きとなった。ただし、米10年債利回りの上昇はそれほど大きくはなく2.3%台には乗せてこなかった。

 FOMC後の会見でイエレン議長は、物価動向には「今後数年で2%の近辺に回復し、安定する」という見通しを変えなかった。しかし、数年前までの物価停滞は、労働市場のたるみやエネルギー価格の低迷といった「非常に納得できる理由があった」のに対し、「今年はこうした要素がなく、物価の2%割れは多分にミステリーだ」と発言していた。

 ドットチャートやイエレン議長の発言からは、12月のFOMCでの今年3回目の利上げの可能性は高いと見ざるを得ない。金融市場も落ち着いており、利上げ観測の再燃や資産圧縮に対する警戒感はそれほど強くはないことで、これもFRBの正常化をやりやすくさせよう。


2017年9月21日「世界最大の政府系ファンドが日本国債の保有額を削減か」

 世界最大の政府系ファンド(SWF)であるノルウェー政府年金基金は債券投資を縮小したうえで、運用通貨を絞り込む方針を打ち出した。日本国債をはじめ流動性の低い債券は投資対象から外れる可能性が高い(9月20日の日経新聞より)。

 8兆クローネ(約112兆円)のSWF資産を運用する同基金は今月初旬、運用方針の大幅な見直しを財務省に提案した。資産の約三分の一を投資する債券運用で、通貨をドル、ユーロ、ポンドの3通貨に限定するようである。日本国債には債券運用の6%強にあたる1690億クローネ(約2兆3700億円)を投資してきたが、保有比率を引き下げる方針のようである。

 日銀が年間発行相当額の規模で日本国債を買い入れている状況が続いているなか、2兆円程度の国債が仮に売却されても問題はないとの見方もできなくはない。

 しかし、今回のノルウェー政府年金基金などの政府系ファンド(SWF)の動きは、ほかの運用者にも影響を与えかねない。海外投資家による日本国債投資はここにきてやや減少しつつあるが、それに拍車を掛ける可能性がある。そうなると日本国債の流動性がさらに低下してくる懸念もありうる。

 日銀は長短金利操作付き量的・質的緩和政策により、大量の国債買いとそれを使っての長期金利のコントロールを行っているが、それは国債市場の流動性を大きく低下させている。日本の債券市場の規模は米国に次ぐ世界第2位ではあるが、この流動性の低下によって海外の大手運用会社の運用に値しないとなれば、さらに流動性を低下させ、その魅力を低下させかねない。また、日銀による大量の国債買入で金利そのものが低すぎてパフォーマンスを上げられなくなっていることも撤退要因となっていよう。

 こういった動きは日銀の出口政策をますます困難にさせかねない。日本国債の買い手として日銀の存在感がさらに大きくなりかねず、それはつまり財政ファイナンスとも見なされかねない。

 日銀は2%の物価目標を達成するまで異次元緩和を続けるつもりのようだが、それは日本国債の流動性とその市場機能低下との引き換えに行うことになる。物価目標達成という着地点も見えないだけに、今後さらなる市場機能の低下も予想され、市場参加者もますます減少しかねない。思わぬリスクで市場が動いたときなど対処のしようがなくなる懸念もある。市場が市場として機能しなくなったとき何が起きるのか。あまり想像したくないのも確かである。


2017年9月20日「米国債保有、中国がトップをキープ」

 米財務省が発表している米国債国別保有残高(MAJOR FOREIGN HOLDERS OF TREASURY SECURITIES)によると、7月の国別の米国債保有高のトップは2か月連続のトップとなり、日本は2位のままとなった。

「MAJOR FOREIGN HOLDERS OF TREASURY SECURITIES」 http://ticdata.treasury.gov/Publish/mfh.txt

 7月の中国(China、Mainland)の米国債保有高は1兆1660億ドルとなった。2位は日本で1兆1131億ドルの保有高となった。上位10か国は次の通り(単位、10億ドル)
中国(China, Mainland)  1166.0
日本(Japan)  1113.1
アイルランド(Ireland)  310.8
ブラジル(Brazil)  271.9
ケイマン諸島(Cayman Islands ) 259.2
スイス(Switzerland)  244.8
英国(United Kingdom) 229.7
ルクセンブルグ(Luxembourg )213.0
香港(Hong Kong)  199.1
台湾(Taiwan) 182.5

 ベスト10の顔ぶれは前回と同じで順位にも変化はなかった。日本は昨年10月に中国を抜いて米国債保有額でトップとなっていたが、今年6月に再び中国に抜かれ、7月も2位のままとなった。日本も中国も6月からそれぞれ2230億ドル、1950億ドル増加させたが順位に変動はなかった。

中国の外貨準備高は6か連続で増加し、7月には3兆ドルを突破し、3兆800億ドルに達した。これが中国による米国債買入の原資となっていることは確かである。為替介入(ドル売り元買い)が減少してきたことも影響しているようである。

 米10年債利回りの推移をみると7月7日の2.4%近辺をピークに低下(価格は上昇)傾向となり、9月8日頃に2%近くまで低下していた。このため、8月も引き続き米国債の保有額を日本、中国ともに増やしている可能性がある。問題は金利が上がりだした9月の動向になると思われる。


2017年9月19日「FRBのイエレン議長が会っていた意外な人物」

 FRBのイエレン議長は、ドナルド・トランプ大統領の長女で大統領補佐官を務めるイバンカ・トランプ氏と7月に会談していた。公表された同議長の月間の動静で明らかになったとWSJが伝えた。

 FRB議長の任期は4年で、イエレン議長は来年2月3日で任期満了となる。その後任を巡ってはコーン国家経済会議(NEC)委員長が有力とされていたが、トランプ大統領はコーン氏を次期議長の候補としないと伝えられた。このため、FRB議長の後任については不透明感を強め、イエレン議長の再任の可能性も浮上している。

 イエレン議長とイバンカ氏の朝食を取りながらの会談は、次期FRB議長を巡ってのものではない、と思われるものの、なかなか興味深い。

 そもそもFRB議長の毎日のスケジュールがこのように一定期間後に公開されていることに気がつかなかった。公開されたイエレン議長の今年に入っての動向(1月から7月まで)を確認してみた。
https://www.federalreserve.gov/foia/chairscalendar-012017.htm
https://www.federalreserve.gov/foia/chairscalendar-022017.htm
https://www.federalreserve.gov/foia/chairscalendar-032017.htm
https://www.federalreserve.gov/foia/chairscalendar-042017.htm
https://www.federalreserve.gov/foia/chairscalendar-052017.htm
https://www.federalreserve.gov/foia/chairscalendar-062017.htm
https://www.federalreserve.gov/foia/files/chair-yellen-calendar-072017.pdf

February 6, Monday 11:20 AM - 11:50 AM
Phone call with Governor Mark Carney, Bank of England

12:00 PM - 1:00 PM 12:00 PM - 1:00 PM
Lunch with Gary Cohn, National Economic Council

February 16, Thursday
9:45 AM - 10:00 AM
Phone call with Secretary Mnuchin

February 23, Thursday 12:00 PM - 1:00 PM
Lunch with Governor Mark Carney, Bank of England

February 27, Monday 9:00 AM - 10:00 AM
Meeting with Governor Agustin Carstens, Bank of Mexico

           2:30 PM - 3:25 PM
Meeting with Kiyohiko G. Nishimura, Former Deputy Governor, Bank of Japan

March 8, Wednesday 12:15 PM - 1:30 PM
Lunch with Secretary Mnuchin

March 22, Wednesday 10:15 AM - 11:15 AM
Meeting with Jamie Dimon, J P Morgan

April 19, Wednesday 9:00 AM - 10:00 AM
Meeting with Chairman Thomas Jordan, Swiss National Bank

May 16, Tuesday 10:45 AM - 11:30 AM
Meeting with Lord Mervyn King, former governor, Bank of England

12:00 PM - 1:00 PM
Lunch with Secretary Mnuchin

May 23, Tuesday 12:15 PM - 1:15 PM
Lunch with Secretary Mnuchin

May 30, Tuesday 8:00 AM - 9:00 AM
Breakfast with Secretary Mnuchin

June 21, Wednesday 8:00 AM - 9:00 AM
Breakfast with Secretary Mnuchin

July 17, Monday 8:00 AM - 9:00 AM
Breakfast with Ivanka Trump

July 18, Tuesday 4:00 PM - 5:00 PM
Meeting with Chris Giancarlo, Acting Chairman, U.S. Commodity Futures Trading Commission

July 27, Thursday 8:00 AM - 9:00 AM
Breakfast with Secretary Mnuchin

10:30 AM - 11:00 AM Phone call with Mr. Tharman Shanmugaratnam, Deputy Prime Minister of Singapore

12:30 PM - 1:30 PM Lunch with Gary Cohn, National Economic Council July 28, Friday
9:00 AM - 9:30 AM Meeting with Democratic Leader Nancy Pelosi

 朝食を挟んだり、電話で何度か会議をしていた相手として多かったのが、ムニューシン財務長官であった。財務長官と中央銀行のトップが相談し合うのは当然といえば当然に見えるが、果たして日本では麻生財務大臣と黒田日銀総裁は同様の会談を定期的に行っているのであろうか。

 他の中央銀行のトップとの会談で多かったのが、イングランド銀行のカーニー総裁であった。G7やG20などで会談する機会もあるとみられるが、それとは別に昼食を挟んだり、電話で会議をしていた。またキング前総裁とも会談していた。どうやら距離感からみるとECBや日銀よりも、FRBはイングランド銀行に近いように思える。

 ほかの中央銀行のトップとの会談はメキシコとスイスの中銀トップとの会談であった。たまたまかもしれないが、ドラギECB総裁や黒田日銀総裁とのランチを挟んだり、電話での会談はなかった。ただし、日銀の元副総裁の西村氏とは2月に会談していた。

 ほかにはコーンNEC委員長やJPモルガンのダイモンCEOとの会談もあった。次期FRB議長候補であったコーン委員長と、どのような話し合いがなされたのかも興味深い。人種差別問題を巡ってトランプ氏を批判したコーン委員長に対してトランプ大統領は反感を抱いており、コーン氏をFRB議長に指名しない公算が大きいとも伝えられている。コーン氏本人は意外にやる気であったのかもしれないが。

 先日、ビットコインを巡る発言が注目されたダイモンCEOであるが、このところのワシントン詣でが多くなったそうであり、その一環としてイエレン議長と会ったようである。ダイモンCEOはどうやら大統領の座も狙っているのではとの観測もある。


2017年9月17日「イングランド銀行も早期利上げが視野に」

 英国の中央銀行であるイングランド銀行は14日の金融政策委員会(MPC)で、政策金利を過去最低の0.25%で据え置くことを決めた。7対2の賛成多数での決定となり、マカファティー氏とソーンダース氏が前回会合に続き、0.25ポイントの利上げを主張した。今回からホッグ委員の後任のラムズデン委員が加わり3月以降で初めて、フルメンバーとなる9人での採決となった。

 市場では今回のMPCで利上げ主張派がひとり増えて6対3とすることで将来の利上げの可能性を示唆するのではとの観測も出ていた。しかしそうはならなかった。そのような回りくどいやり方ではなく、同時に発表した議事要旨で「経済が継続的な緩みの縮小や基調インフレ圧力の段階的な上昇の見通しと一致する経路をたどるなら、今後数か月(over the coming months)での一定の金融刺激策縮小は適切となる可能性があると、過半数の委員は判断した」とした。

 カーニー総裁もあらためて、向こう数か月で緩和縮小が必要になるかもしれないとを自らも判断していると発言していた。イングランド銀行は早ければ次回11月のMPCで利上げに踏み切る可能性を強く示唆した格好となった。

 さらにハト派と見なされていたブリハ委員も講演で「経済指標の動きは中銀が利上げをしなければならない瞬間に近づいていることをますます強く示唆するようになっている」と述べた(ロイター)。

 英政府統計局が12日に発表した8月の消費者物価指数は前年同月比2.9%上昇と7月の2.6%上昇から加速し、4年ぶり高水準となっていたこともあり、この物価上昇が継続すればそれを理由に利上げ、つまりFRBと同様に正常化に向けた動きを強めることになる。

 ECBも10月の理事会で国債買入の縮小などを決定するとみられている。ECBは今年12月末までは月600億ユーロペースで国債などの資産を買い入れていくことが決まっているが、来年以降はこのペースを徐々に落としていくことが予想される。利上げについては簡単には踏み込みそうにもないが、まずはテーパリングを視野に入れている。

 FRBは今月のFOMCで保有資産の縮小を決定するとみられている。年内あと一回とみられる利上げについてはやや不透明感を強めたが、14日に発表された8月の米消費者物価指数は前年同月比で1.9%の上昇と予想を上回っており、2%に届かなくてもこのあたりの水準であれば、利上げに支障は出ない可能性がある。ちなみに変動の大きい食品とエネルギーを除いたコア指数は同1.7%の上昇となっていた。


2017年9月15日「中央銀行による国債大量買いの時代は終焉」

 いわゆるリーマン・ショックとギリシャ・ショックと呼ばれた百年に一度のショックが続けておきたことによる世界的な金融経済危機は後退した。リーマン・ショックとはあくまでリーマンの破綻によるショックが大きかったことで象徴的なものとなっているが、その背景にあったのは米国のサブプライム問題と複雑化した金融商品が原因となっていた。住宅バブルや金余りによる金融資産バブルが崩壊し、欧米の金融機関を直撃したことによる金融不安である。

 ギリシャ・ショックもギリシャの財政に対する懸念が発端ながら、財政に不安を抱えた国をユーロ圏に止められるのかといった問題から、欧州の信用不安が強まり、ギリシャやポルトガル、イタリアなどの国債が急落し、これによって金融不安を招いた。

 この金融経済危機に対する財政面からの救済措置には限界もあった。金融危機は金融市場を通じて顕在化していたこともあり、市場参加者の不安を除去する必要もあった。そこで動いたのが中央銀行となる。政策金利の低下余地は限られたことで、日米欧の中央銀行が採用したのが、非伝統的な金融政策となった。その手段として取られたのがマイナス金利政策や、以前日銀が世界の中央銀行で初めて実施した量的緩和政策であった。

 米国のFRBやイングランド銀行はこの量的緩和を主眼に置いた。ECBは市場の正常化という目的のもとに国債の買入を行った。日銀も国債の買入を増額させていったが、このリスクに対しては長期国債の買入などには手をつけなかった。それでも長期金利は低位で推移していた。

 日米欧の非伝統的な金融緩和策、特にECBの政策が功を奏して市場はリスク回避の動きを後退させつつあったのが、日本でアベノミクスと呼ばれたものが登場したタイミングとなった。特段世界的なリスクが強まっていたわけでなく、むしろリスクが後退していたところに、日銀が異次元緩和を行ったことになる。アベノミクスの登場で円安株高が進んだが、あくまでそんなタイミングだからこその動きであり、巻き戻しの動きが一巡すれば落ち着いてしまうことも当然といえる。

 大きなリスクが後退したことで、今度は非常時の金融緩和から正常に戻る動きは当然といえる。英国のEU離脱や新興国の経済への不安等もあり、さらに正常化はつまり金融引き締めにも映ることで市場への影響も警戒され、なかなか踏み出せなかった。日銀はなぜか一層の金融緩和をせざるをえない状況に追い込まれていった。

 しかし、中央銀行が大量に国債を買い続けるにも限界があり、いつまでも緊急時の対応を続けるわけにもいかない。いち早くそこから脱してきたのは雇用がしっかりしていた米国である。それでもテーパリングとその後の利上げはかなり慎重に行った。ここにきてやっと資産の縮小に手を付けることが予想される。

 ECBも10月にも資産買入の縮小を検討するとみられる。イングランド銀行は新たな国債買入は行っておらず、まずは利上げを視野に入れている。日銀は物価目標を達成するとしてしまったため、出口政策は取れないながらも、政策目標を量から金利に置き換えた上で、国債の買入額を縮小しつつある。

 中央銀行による国債大量買いの時代は終焉しつつある。これは物価が上がってきているからではなく、あくまで大きな危機が去ったからであることを認識する必要があろう。


2017年9月14日「欧米の長期金利は再度上昇か」

 ここにきて欧米の長期金利が再び動意を見せつつある。日本の長期金利は日銀の金融政策に押さえ込まれているとはいえ、欧米の長期金利の動向に多少なり影響を受けることから、この欧米の長期金利の動向も注意しておく必要がある。

 日米欧の長期金利の推移をみてみると、7月7日の七夕あたりをピークに低下基調となっていた。この7月7日に10年債利回りは0.105%まで上昇し、0.110%で指し値オペが実施された。つまり日銀が国債利回りの上昇を抑制させたことがひとつのきっかけと言える。

 ただし、日銀の指し値オペで米国債が買われることはない。米国債が買われて利回りが低下したのは、7月11日の米下院金融委員会の公聴会で、FRBのイエレン議長は「FOMCは向こう数か月、インフレの動向を注視していく」と指摘したように、米国の物価の低迷が背景にあろう。今月のFOMCでバランスシート縮小を決定する可能性を市場はかなり織り込んでいるが、年内追加利上げに関しては不透明感を強めている。

 ECBも正常化に向けた動きはかなり慎重となっており、ドイツの10年債利回りも7月14日あたりから低下基調となっていた。

 足元物価が低迷し、FRBやECBの物価目標を下回っていたことで、それぞれ正常化に向けた動きが慎重になるのではとの思惑も働いた。そこに北朝鮮の核実験やミサイル発射により、地政学的リスクが意識され、米国では大型ハリケーンの被害なども警戒され、リスク回避の動きが出た。このため、7月に2.3%台となっていた米長期金利は2.0%近くまで低下したのである。

 ところが9日の建国記念日を迎えた北朝鮮がミサイル発射などの挑発行為に出なかった事やフロリダ州を直撃したハリケーン被害が警戒されたほど大きくないとの観測から、リスク回避の巻き戻しの動きが強まり、12日の米長期金利は2.16%近辺に戻してきている。ドイツの長期金利も7月の0.6%近辺から8日に0.3%近辺に低下後、12日には0.4%近辺に上昇した。英国の長期金利も7月に1.3%台まで上昇していたのが、9月7日に1%割れとなった。その後12日には1.1%台に上昇していた。

 12日に英国立統計局が発表した8月の英CPIは前年同月比2.9%の上昇と5年超ぶりの水準となり、イングランド銀行の利上げ観測が再燃したことも英国の長期金利の反発要因となっていた。

 北朝鮮リスクは完全に後退したわけではないが、少なくとも米国との軍事衝突という最悪の事態は回避されるであろうとの見方が強まった。今後は9月19、20日のFOMCを控え、再び中央銀行の金融政策の行方が注目材料となることも予想される。

 ここにきてのマインド変化にはECBの動向も影響している。9月7日のECB政策理事会では、金融政策の現状維持を決定したが、市場が注目していたのは、量的緩和縮小に関するドラギ総裁の会見内容となっていた。ドラギ総裁は「決定事項は多く、複雑で、向こう数週間、もしくは数か月で現実化する可能性のあるリスクを考慮するため、特定の期日の指定を巡り慎重さが出ている。大方、こうした決定の多くは10月になされる」と発言していた(ロイター)。

 この発言について市場は、ドラギ総裁は量的緩和縮小に関してかなり慎重と捉えた。しかしその後、7日のECB理事会では資産買い入れ縮小とすることで幅広い合意に達したとあらためて報じられた。量的緩和縮小に関してはすでに話し合いが行われ、10月のECB理事会で決定されるであろうことが再認識された。悲観的なマインドが強まっているときとそうでないときでは、同じ発言でも市場のとらえ方が異なることがある。ECBの動向は当初、長期金利の低下要因にみえたが、その後は上昇要因として意識されたように思われる。

 問題は米国となる。今月のFOMCでは資産縮小に向けた決定がなされると予想され、正常化に向けた動きが一段と進むことになる。ただし、12月のFOMCでの追加利上げが可能なのかは依然不透明であり、フィッシャー副議長の辞任も少なからず影響を与えよう。どの程度までの物価水準を容認するのか、9月のFOMCは議長会見も予定されていることで、イエレン議長の会見内容も今後の日米欧の長期金利の動向に影響を与えてこよう。


2017年9月12日「長期金利を下げると本当に我々に恩恵があるのか」

 現在、日銀が行っている長短金利操作付き量的・質的緩和という政策の目的は、大量の国債等の資産買入を維持させ、さらに短期金利だけでなく長期金利にも働きかけて金利を押さえ込むことになる。これによって金融緩和効果を発揮させようとするものである。

 とは言え、現実にこの「長短金利操作付き量的・質的緩和」が本当はどのような政策であるのかを理解することは難しいのではないかと思う。もちろん一見すると、とにかく緩和効果のありそうなものを詰め込んだパッケージに見える。しかし、これは想定通りに事が運ばなかったことによる修正に次ぐ修正の結果といえる。

 アベノミクスによって、日銀にリフレ政策が押しつけられ、その結果出てきたのが、2013年4月の量的・質的緩和政策である。金融市場調節の操作目標をマネタリーベースに変更した上で、期間の長い国債を含めて資産を金融機関などから大量に買い入れることで市場にインパクトを与え、その資金を市場に流入させることによって金融機関のポートフォリオリバランス等を狙ったものとなる。

 国債などの資産買入によって国債が買われて長期金利が低下し、ETF等の買入で株価の下支え要因となる。日銀の金融政策は直接、物価等に働きかけるものではない。中央銀行の金融政策はあくまで市場を通じて物価や経済に働きかけるものとなる。

 人々のインフレ予想に働きかけることも大きな目的としているが、人々が果たしてどれだけ日銀の金融政策を理解し、それで予想を変えうるのか。日銀が動けば我々の物価に対する予想が本当に変化するのか。日銀がインフレターゲットを行っているからといって商品価格を値上げする必要はないと言っていた消費関連大手の経営者の発言もあったが、それが本音であろう。

 日本の長期金利は確かに日銀の異次元緩和で下がった。しかし、物価はいっこうに上がらず、量的・質的緩和を拡大しても効果はなく、そこで打った手段がマイナス金利政策となったが、これが評判が悪かった。

 金利をなくしたりマイナスにしていったい誰が喜ぶのか。実体経済が悪くどうしようもない事態に対する緊急時の政策ならまだしも、景気はそれほど悪くはない。物価もむしろゼロ%近辺で安定している。それにも関わらず金利をマイナスにまでする必要はあったのか。

 これで助けられているのは巨額の債務を抱えた政府である。だから予算編成も大盤振る舞いできる。それがどれだけの経済政策になるのか。日銀が無理に抑えず、多少なり金利がつけば我々の利息就収入が増え、それにより消費を上向くことも予想される。つまりそれは我々の犠牲の上になりたっている政策ともいえる。

 日本の長期金利を抑えることで日米金利差が拡大しそれが円安を招き、株価にも影響を与えるとの意見もあるかもしれないが、為替は日米金利差だけで動くものではない。また、昔に比べて円安による日本への経済効果そのものも縮小しており、本当に日本の長期金利を押さえ込む必要があるのか。このあたりそろそろ再検証する必要もあると思う。


2017年9月12日「FRBのフィッシャー副議長が辞める理由」

 FRBは6日、フィッシャー副議長が辞表を提出したと発表した。「個人的な理由」という。FRB理事からも退くそうで、完全にFRBの職を辞することになる。

 スタンレー・フィッシャー氏は、米国とイスラエルの両国籍を持ち、昨年6月まではイスラエル銀行の総裁だった。バーナンキFRB議長やドラギECB総裁などを教えた大学教授だけでなく、世界銀行チーフエコノミスト、IMF筆頭副専務理事、民間銀行などで実務も経験している。指名した当時のオバマ大統領は、世界で最も優秀で経験豊かな経済政策の専門家のひとりとして広く認められていると語ったが、それに嘘偽りはないであろう。

 バーナンキ元FRB議長やドラギECB総裁が一目置く存在であるフィッシャー氏の存在は、イエレン次期議長を補佐するだけの立場には止まらなかったと思われる。

 FRBの舵取りはイエレン氏とフィッシャー氏が二人三脚で行ってきたとみられ、特に正常化の道筋をつけたのもフィッシャー副議長の働きが大きかったと予想される。そのフィッシャー氏が何故、任期を残してこのタイミングで退任するのであろうか。ちなみに任期は副議長としては2018年6月12日まで、理事としては2020年1月末となっていた。

 フィッシャー副議長は8月に英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙のインタビューに応じ、米国政府が銀行規制の緩和に取り組んでいることについて「危険であり、極めて近視眼的だ」と述べていた。

 FRBではタルーロ理事が今年4月に2022年1月まで5年の任期を残して途中辞任した。金融危機後に銀行規制担当の副議長を設置することが決定したもののオバマ政権は与野党対立のあおりで同ポストの任命を見送っていた。このため実質的にタルーロ氏が理事ポストのままで金融規制担当を担ってきた。ところがトランプ政権となり、同氏に対し共和党から反発も広がっていた。このため早期辞任となってしまったのである。

 トランプ政権は7月10日にFRB副議長に元財務次官のランダル・クオールズ氏を指名すると正式発表した。クオールズ氏は2005〜2006年のブッシュ政権下で国内金融担当の財務次官を務め、金融規制に精通しているとされる。しかし、タルーロ理事の辞任からもわかるように、クオールズ氏が就任すれば規制緩和へ路線転向を図ることになる。

 フッシャー氏とクオールズ氏が金融規制に関して意見の食い違いが生じることが予想された。しかし、それ以前にフィッシャー氏としてはトランプ政権による銀行規制の緩和そのものに反対であり、結果としてタルーロ理事と同様の早期辞任というかたち取らざるを得なくなったものとみられる。

 フッシャー氏が辞任となれば、まだクオールズ氏が議会の承認待ち状態となっていることもあり、7名の理事のうち空席が4という事態となる。イエレン議長にとっても強力な支持者を失うことになる。FRBの部屋はイエレン議長のとなりとされるブレイナード理事は正常化に向けた特に利上げに関しては極めて慎重である。ニューヨーク連銀のダドリー総裁もイエレン議長を支えてきた人物であるが、それでもフィッシャー氏の抜けた穴は大きすぎる。さらにはトランプ政権との対応に今後いっそう苦慮しかねない。イエレン議長が続投する可能性はこれでむしろ薄れた可能性もあるのではないか。


2017年9月11日「長期金利のマイナス化の背景」

 9月1日の債券市場では後場に入り債券先物が一段高となり、引けにかけて10年国債のカレント(直近発行された銘柄)である347回債がマイナス0.005%をつけた。10年国債のカレント物の利回りを日本では長期金利と呼んでおり、昨年11月16日以来の長期金利のマイナス化となった。

 何故、日本の長期金利が再びマイナスとなったのであろうか。日銀がさらなる金融緩和を行うような兆しはない。むしろ国債買入をここにきて少しずつ減額していたぐらいである。それでは何が日本の長期金利を押し下げたのか。ここには2つの要因が絡んでいるとみている。

 日本の10年債利回りの推移をみると、7月7日に日銀が指し値オペを実施したあたりから、低下基調となっている。この7月7日に10年債利回りは0.105%まで上昇し、0.110%で指し値オペが実施された。つまり日銀が国債利回りの上昇を抑制させたことがひとつのきっかけと言える。

 7月7日には指し値オペとともに国債買入で5年超10年を5000億円に増額し、7月12日には3年超5年以下を3300億円に300億円増額していた。その後の利回りの低下もあり、5年超10年以下は8月25日に300億円減額したことで今年1月27日前の水準の4100億円まで戻していた。また、9月1日には3年超5年以下を300億円減らして3000億円と7月7日以前の水準に戻している。

 それにも関わらず、なぜここにきて長期金利はさらに低下基調を強めているのか。それには日銀が7月7日に長期金利の上昇に指し値オペでストップをかけたタイミングで、米国の長期金利も低下基調となっていたことがある。

 日銀の指し値オペで米国債が買われることはない。米国債が買われて利回りが低下したのは、7月11日の米下院金融委員会の公聴会で、FRBのイエレン議長は「FOMCは向こう数か月、インフレの動向を注視していく」と指摘したように、米国の物価の低迷が背景にあろう。9月のFOMCでバランスシート縮小を決定する可能性を市場はかなり織り込んでいるが、年内追加利上げに関しては不透明感を強めている。ECBも正常化に向けた動きはかなり慎重となっており、ドイツの10年債利回りも7月14日あたりから低下基調となっている。

 このように米国の物価の低迷が米国債の利回りを低下させ、それによって日本の長期金利もマイナスにきで低下した。しかし、長い期間の国債利回りの低下は資金運用にとってもあまり好ましいものではないため、ここからのマイナス金利の深掘りは考えにくいことも確かである。


2017年9月9日「量的緩和政策の縮小にも慎重なECB」

 9月7日のECB政策理事会では、金融政策の現状維持を決定したが、市場が注目していたのは、量的緩和縮小に関するドラギ総裁の会見内容となっていた。

 7日の欧州市場では株式市場は上昇し、ユーロ圏の国債もイタリアやポルトガルなどを中心に買い進まれた。外為市場ではユーロがドルに対して買われユーロドルは1.2ドルを超えてきた。この動きをどう説明したら良いのか、ドラギ総裁の発言内容などから追ってみたい。

 欧州の株式市場はユーロ高などよりも、ECBが2017年の成長率見通しを2.2%と、6月時点の1.9%から上方修正したことを素直に好感したようである。

 ユーロ圏の国債が大きく買われたのは、量的緩和政策の縮小に着手することに関してのドラギ総裁の会見での発言によるものとみられる。結論としては2018年以降の資産買い入れの縮小について予備的な議論を始めたものの、これに関しての発言は極めて慎重となっていた。

 ドラギ総裁は「決定事項は多く、複雑で、向こう数週間、もしくは数か月で現実化する可能性のあるリスクを考慮するため、特定の期日の指定を巡り慎重さが出ている。大方、こうした決定の多くは10月になされる」と発言していた(ロイター)。

 10月に量的緩和政策の縮小に関して議論がスタートされることは市場もかなり織り込んでいたが、積極的に量的緩和縮小に向かって動いているというよりも、極めて緩和的な環境を維持することが重視されている雰囲気となっている。このあたり、FRBの正常化に向けた動きに比べてもかなり慎重になっている。これを受けてユーロ圏の国債が買い進まれたということになろうか。

 ユーロに関してドラギ総裁は、このところの為替相場のボラティリティーは不透明性の要因となっている、といったようにユーロを巡る懸念を繰り返し表明したものの、何かしらの対策を打つことは表明しなかった。そして予定通り10月にも量的緩和政策の縮小に関して議論がスタートするであろうとの見方が、ユーロ買いを誘ったのではないかとみられる。

 量的緩和政策の縮小に関しては正常化に向けた意味合いよりも、ECBにとっては日銀と同様に大規模な買入継続に対する限界が見えてきたことや、各国の財政規律を緩めてしまうとの懸念などがその大きな要因となっている可能性がある。


2017年9月8日「ハリケーンが米国の債務上限問題を進展させる結果に」

 米国のトランプ大統領と議会指導部はハリケーン「ハービー」の被害救済法案に、12月15日までの債務上限引き上げと政府運営資金の確保を抱き合わせることで合意したと伝えられた。

 テキサス州を直撃した大型ハリケーン「ハービー」は、進路に当たる地域に甚大な被害をもたらした。テキサス州のアボット知事は今回の被災地域は2005年の「カトリーナ」襲来時よりも大きいと述べていた(NEWSWEEK)。

 このハリケーンの被害救済が米国の政治に思わぬ影響を与えることとなった。今回のハリケーンの被害を受けて、トランプ政権は145.5億ドルの補正予算を議会に要請することとなり、うち78.5億ドルを2018年度の暫定予算に組み入れる方針と伝えられた。

 トランプ大統領は8月22日のアリゾナ州フェニックスで開かれた支持者の集会で、政府を閉鎖しなければならなくても壁を建設すると述べた。これにより政府閉鎖への懸念が強まった。もうひとつの問題がここに絡む。債務上限問題である。財務省は9月29日までに議会が債務上限を引き上げを要望している。いずれの法案も上院を通すには民主党の一部が支持しなければ可決できない。ここに民主党が反対するメキシコ国境の壁建設の予算を強引に求めると、かなりこじれ、政府機関の閉鎖やデフォルトが現実味を帯びてきたのである。

 しかし、ハリケーン「ハービー」による緊急事態に対処するため、ここで議会が動き、トランプ大統領も強行な発言を控えてきた。被害対策の補正予算を通すため、それぞれ妥協の必要が出てきたといえる。ここで主義主張を振りかざしては、国民からの批判がより強まることも予想されるためである。

 その結果が12月15日までの債務上限引き上げと政府運営資金の確保を抱き合わせることでの合意である。ただし、これは野党である民主党指導部が明らかにしたものである。

 共和党指導部と民主党指導部との会合で、共和党の指導部は18か月の債務上限引き上げを要請し、6か月引き上げ案も可能性として挙げた。しかし、民主党のペロシ下院院内総務、シューマー上院院内総務の両氏は6か月引き上げ案を拒否し、債務上限3か月の引き上げ案を出していた。

 ムニューシン財務長官ら共和党メンバー全員が、より長期間の債務上限引き上げを支持したが、トランプ大統領は結果として野党・民主党の債務上限3か月の引き上げ案を受け入れた格好となったのである。

 ちなみに上院(定数100)での可決には60の賛成票が必要となるが、上院の共和党議席は52で、民主党の一部が支持しなければ可決できない。

 共和党のライアン下院議長は民主党案に強く反発していたようだが、補正予算を早期に通すためには、民主党案を飲まざるを得なかったことも確かであろうが、これでまたトランプ大統領と共和党の議会首脳部との間に溝が拡がった可能性もある。しかし、市場で懸念されていた政府機関閉鎖の懸念とデフォルトの懸念がひとまず後退したことも確かである。


2017年9月7日「FRBの年内利上げに黄色信号」

 FRBのブレイナード理事は5日のニューヨークでの講演で、「物価上昇率が(2%の)目標達成に向けて軌道に乗っていると確信が持てるまで、追加利上げには慎重になるべきだ」と発言した。

 これを受けてFRBによる年内の利上げ観測が後退し、地政学的リスクやハリケーンのイルマが勢力を強めていることも意識され、5日に米債は買い進まれて、10年債利回りは2.06%と1日の2.16%から大きく低下した。

 格付け会社ムーディーズは米国がデフォルトに陥れば最上級の格付けを下げると表明したことも、リスク回避要因となっていた。米国債の格下げ観測で米債が買われるというのも興味深い。実際に2011年8月6日にS&Pが米国の長期格付けを最上位のAAAからAA+に1段階引き下げた際に米国債は売られるのではなくリスク回避の動きから買い進まれていた。

 それはさておき、ブレイナード理事は市場を動揺させるほどのサプライズなものではない。7月10日にもブレイナード理事は、バランスシート縮小について早期に進めることを支持した上で、追加利上げについては慎重な姿勢を示していた。

 元々ブレイナード理事はハト派とされ、利上げには慎重な姿勢を示すとみられていたことで違和感はない。ただし、このタイミングでの同じような発言が市場に多少なりインパクトを与えたのは、イエレン議長のこれまでの発言内容と足元物価の動向が影響していた。

 イエレン議長は、ここ数か月の物価指標が著しく低水準にとどまっていることは、FRBも確認しているものの、それは一時的要因が物価昇を抑制しているとの認識であった。ところが、米商務省が8月31日発表した7月の個人消費支出(PCE)統計によると、FRBが利上げ判断で重視するPCEデフレーターは前年同月比1.4%上昇にとどまり、目標の2%に届いていなかった。

 市場ではここにきての物価の低迷が一時的なものではないかもしれないとの見方も強めている。ジャクソンホールの講演でイエレン議長が金融政策に触れなかったことも、利上げについては慎重になっていたためではないかとの見方もできなくはない。

 9月のFOMCでのバランスシート縮小の決定については、むしろない方がサプライズとなっている。しかし、12月の利上げについてはFRB内部でも、また市場の観測でもかなり不透明感が強まっていることは事実なのかもしれない。


2017年9月6日「金融市場との対話が何故必要なのか」

 市場との対話というのは、たとえば財務省や日銀などがその政策を実施するにあたって市場参加者の意向も配慮するということになろうか。

 日本で金利が自由化されたのはそれほど大昔のことではない。国債が市場で積極的に売買されて国債の利回りが市場で決定されるようになったこともそれほど昔ではない。

 1985年に金利が市場の実勢で決められる大口定期預金が導入され、また金融機関によるフルディーリング開始されたのが1985年であり、このあたりから金利が市場で決定されるようになった。1994年に民間銀行の金利は完全に自由化される。

 財務省や日銀が市場との対話を本格化させるきっかけとなったのが1998年だと思われる。この年に改正日本銀行法が施行され、金融政策決定会合が始まった。これまでの日銀の金融政策の透明性は高くなかったのが、改正日銀法により独立性を強めるとともに、透明性も強め、それはつまり市場と直接向き合うようになった。政策金利も公定歩合(日銀貸出の基準金利)から市場で決定される無担保コール翌日物金利に変わった。

 1998年には大蔵省資金運用部の国債運用に関する報道をきっかけとした運用部ショックと呼ばれた国債急落が起きた。これをきっかけに当時の大蔵省は市場の対話を重視しながらの国債管理政策を進めることになる。その結果のひとつとして日本版プライマリーディーラー制度などが作られた。

 日銀も金融政策に関しては市場と直接向き合う必要がある。そもそも現在の金融政策は金融調整によって市場で形成される金利に働きかけて、経済や物価動向に影響を与えようとするものである。

 ところがアベノミクスによる政策によって状況が大きく変わった。まさに先祖返りとも言うべき状況となってしまっているのである。国債の大量発行などもあって金利は自由化された。ところが日銀の長短金利操作付き量的・質的緩和政策は日銀が国債を年間発行額分も買い込んで、さらにその長期金利も操作しようとするものであり、ここに市場の思惑等は入り込めなくなってしまっている。こうなると市場との対話は当然失われてしまうリスクが存在する。

 別に政府が大量に発行する国債をすべて日銀が購入するとなれば、市場などいらないということにもなる。しかし、このパターンは歴史上数々の悲劇を生んできたものであり、日本でも財政法で本来禁じられている中央銀行による国債引受となんら変わらないものとなる。現在のやり方がこのまま永久に続けられるとは思えない。

 市場もいずれ日銀も出口を模索することで、いまの財政ファイナンスに近い状況は解消されるはずと認識し、国債に対する信認は維持されている。しかし、本当に出口からすんなり出られるのかは、日銀と市場との対話に掛かっている。これに失敗することになると国債価格の急変という事態も招きかねない。もし出口から出られないとなれば、今度は国債への信認そのものが失われかねない。いずれこの市場との対話が大きなキーになることも予想されるのである。


2017年9月5日「日本の長期金利が再びマイナスに」

 9月1日の債券市場では、後場に入り先物が一段高となり、引けにかけて10年国債のカレント(直近発行された銘柄)である347回債がマイナス0.005%をつけ、昨年11月16日以来の長期金利のマイナス化となった。

 日本の長期金利は慣例で、10年国債のなかで最近発行されたカレント物の利回り(単利)を差している。実は10年国債のなかでもカレント以外のものはすでに利回りがマイナスとなっていたことで、カレントのマイナス化は時間の問題となっていた。

 日本の10年債利回りは7月7日に日銀が指し値オペを実施したあたりから、低下基調となっている。ちなみに7月7日に10年債利回りは0.105%まで上昇し、0.110%で指し値オペが実施されている。

 7月7日には指し値オペとともに国債買入で5年超10年を5000億円に増額し、7月12日には3年超5年以下を3300億円に300億円増額していた。その後の利回りの低下もあり、5年超10年以下は8月25日に300億円減額したことで今年1月27日前の水準の4100億円まで戻していた。また、9月1日には3年超5年以下を300億円減らして3000億円と7月7日以前の水準に戻している。

 これらの国債買入の減額は売り要因とはならず、むしろ国債は買い進まれている。それだけ地合が好転しているということであるが、その背景には米国の長期金利の低下がある。

 日銀が指し値オペを実施した7月7日あたりを天井として、米国の長期金利も低下基調となっていたのである。もちろん米国債が日銀のオペレーションの影響を直接受けて買われたわけではなく、物価上昇が抑制されていることもあり、FRBの正常化の動きがかなり慎重になるのではといった思惑もあろう。この米長期金利の低下もあって日本の国債利回りも低下基調となり、日本の長期金利も再びマイナスとなったといえる。

 しかし、日銀の長短金利操作付き量的・質的緩和の背景には、マイナス金利政策への金融界からの批判等があったことで、イールドカーブを立てることが目的としてあったはずである。そもそも20年債利回りまでマイナスとなってしまい運用難となっていたことが長期金利操作の要因となっていた。つまり市場としては、ここからさらなる10年債利回りのマイナス化は受け入れづらいはずであり、日銀としてもあまりマイナスが深掘りされたくはないのではなかろうか。

 とはいえ外部環境次第ではさらに10年債利回りが低下してしまう可能性はある。4日の債券市場では北朝鮮の核実験によるリスク回避の動きも手伝って、10年債利回りはマイナス0.010%をつけている。なぜ北朝鮮と地理的に近い日本の国債が、北朝鮮の地政学的リスクが意識されて買われるのかといえば、安全資産とされるものへの資金シフトの動きが連想されたためといえる。


2017年9月4日「米国の政府機関閉鎖の懸念と債務上限問題」

 トランプ大統領は8月22日のアリゾナ州フェニックスで開かれた支持者の集会で、政府を閉鎖しなければならなくても、壁を建設すると述べた。

 議会は会計年度が終了する9月末までに、新年度の歳出法案を成立させなければならない。しかし、議会で合意が得られない場合には、つなぎ予算案を承認しつつ、新年度の本予算の協議を続けることになる。今回のそのケースとなる可能性が高い。しかし、つなぎ予算と本予算のどちらも折り合いがつかないとなれば、政府機関の閉鎖という事態が発生する。

 政府機関閉鎖は過去何度か起きた。直近では2013年10月にオバマ前政権の医療保険制度改革法(オバマケア)向け支出を巡り、ねじれ状態となっている米国議会で次年度予算が成立せず、与野党の対立が解けないまま、およそ18年ぶりとなる政府機関の一部が閉鎖される事態が発生した。

 米国のムニューチン財務長官やポール・ライアン下院議長などは「連邦政府機能の一部閉鎖」という事態は発生させないと主張したものの、22日のトランプ大統領の発言により、政府閉鎖の可能性が現実化しつつある。

 トランプ大統領は選挙公約にメキシコ国境の壁建設を掲げていたが、2018年度の歳出法案には、この建設費用は含まれていない。上院(定数100)での可決には60の賛成票が必要となるが、上院の共和党議席は52で、民主党の一部が支持しなければ可決できない。

 そしてもうひとつの問題がここに絡む。債務上限問題である。財務省は9月29日までに議会が債務上限を引き上げてくれることを要望している。ただし財務省には緊急時の予備財源があり、デフォルトが起きるのは早くて10月半ば以降になる。

 いずれの法案も上院を通すには民主党の一部が支持しなければ可決できない。ここに民主党が反対するメキシコ国境の壁建設の予算を強引に求めると、かなりこじれ、政府機関の閉鎖やデフォルトが現実味を帯びる。

 トランプ大統領は高い支持を得ている退役軍人関連の法案に、債務上限引き上げ措置を盛り込むよう議会の共和党指導部に求めていたが、共和党上院院内総務と下院議長は両法案を抱き合わせにしない決定を下した。

 メキシコ国境の壁建設の費用を予算で捻出するため民主党からの賛同者を売るのは極めて難しい状況にある。トランプ大統領が壁抜きで共和党のまとめた予算案を受け入れず、拒否権を行使すれば、政府機関が閉鎖されるだけでなく、共和党議員との対立姿勢を強めることも予想される。今回は政府機関閉鎖が解かれる状況も見づらくなる。何らかの妥協が求められるがトランプ大統領がそれを行えるのかが注目点となろう。


2017年9月3日「FRBもECBも正常化に慎重?」

 31日に発表された7月の米個人消費支出(PCE)は前月比0.3%の増加となった。FRBの物価目標の基準とするPCEデフレーター(価格指数)は前年比1.4%の上昇と前月と同水準となった。市場が注目している食品とエネルギーを除くコアPCEデフレーターは前年比では1.4%の上昇に止まった。

 FRBのイエレン議長はここにきての物価の低迷が一時的なものかどうかを見極めて、追加利上げを検討するとしているが、この数字を見る限り一時的なものではない可能性もあり、30日の米国市場では年内利上げ観測がやや後退した。

 今月19、20日に開催されるFOMCにおいてバランスシートの縮小を決定するであろうことは、市場はかなり織り込んでいるため、こちらはその決定がない方がサプライズとなる。12月のFOMCでの利上げについてはかなり不透明感も残る。このあたり、次期FRB議長の後任人事なども微妙に絡んでくる可能性もある。

 31日には8月のユーロ圏消費者物価指数も発表されており、こちらも前年同期比1.5%上昇となり、コア指数は前月から変わらずの1.2%上昇にとどまった。

 ここにきての対ドルでの急激なユーロ高を懸念するECB当局者が増えており、資産買い入れ縮小が緩慢なペースとなる可能性が高まっているとロイターが伝えている。関係筋によると、2017年末までを期限としている量的緩和に関する討議は始まったばかりで、9月7日の次回理事会で何らかの決定をする可能性は非常に低いとしている。

 25日のジャクソンホールでの講演でイエレン議長もドラギ総裁も金融政策に関しては触れなかった。特にドラギ総裁は前回出席した2014年のジャクソンホール会議への出席時には政策変更の可能性を示唆していたので、3年ブリに出席した今回も政策変更の可能性を示唆するのではとの観測も出ていた。

 ECBが資産買い入れを段階的に縮小する方針を9月の政策理事会で示唆するのではとの見方も出ていたが、これも不透明感も出てきた。ただし、正常化という意味合いだけでなく、国債買入そのものに対しても限界が見え始めていることで、何らかの対応は必要となる。このあたりどのような検討をされるのか、まずは7日のECB理事会の検討内容にも注意しておく必要がありそうである。


2017年9月1日「物価のコントロールは金融政策では難しい」

 日銀の政井貴子審議委員は愛媛県での31日の講演で次のように述べていた(日銀のサイトにアップされた亜視察分より引用)

 「わが国では、1990年代の後半から15年以上にわたり消費者物価の前年比がゼロないし僅かなマイナスが続くデフレの状態が続いてきました。わが国において、所謂デフレ・マインドがなかなか払拭されない背景の1つには、わが国の家計および企業が、デフレ期の環境に順応してきたことがあると思います。これを踏まえると、「物価は毎年2%くらい上がってくるものだ」という物価観が人々の間にしっかりと根付いていくには、このようなコミットメントを通じて日本銀行の強い決意を示すことが重要だと考えています。」

 そもそも何故、1990年代の後半から、消費者物価の前年比がゼロないし僅かなマイナスが続くデフレの状態が続いてきたのか。日銀の異次元緩和の背景にあったリフレ的な発想からすれば、日銀の金融緩和が足りなかったからということになっていたが、大胆な金融緩和で消費者物価の前年比がゼロ近傍にある状況を変えることができないことを日銀は自ら証明するかたちとなってしまっている。

 これはつまり消費者物価の前年比がゼロ近傍にある状況が生み出された背景をしっかりと分析し、さらにその状況は本当に日本経済にとってマイナス要因となっているのかを含めた検証をする必要があるのではなかろうか。

 1990年台といえばバブルが弾けた時代であり、それに合わせて日本の雇用環境が大きく変わった。そして日本の債務残高が膨れあがっていく時代とも重なる。年功序列・終身雇用といったこれまでの体制が維持しづらくなり、それはつまり雇用環境を悪化させることになった。それは人々の将来を不安にさせることとなる。これは企業も同様であり、積極的に設備投資等を控えざるを得ない。これはつまり、資金は貯蓄から投資へではなく投資から貯蓄に向かうこととなる。

 物価の低迷は金利の低迷となり、安全資産として国債に資金が流入し、大量の国債が発行されてもそれは国内で消化可能となり、金利の低下で大量の債務を抱えた政府も利払い負担が軽減されることになる。これは財政リスクを覆い隠すことにもなっている。

 現在の日本における物価とそれに合わせた金利の環境は、このように日本の債務リスクを見えにくくさせるとともに、物価の安定がむしろ人々の満足度を高めるような状況ともなっている。

 中国などの新興国経済の成長が日本の景気を支える格好となった際も物価への影響は限定的となっていた。一時投機的な動きから原油価格が急騰し、日本の物価も2%を超える場面もあったが一時的なものであった。その後、今度は世界的な金融経済危機が度重なって景気も低迷したものの、危機の後退により欧米の景気も回復基調となり、日本も緩やかながら回復基調となっている。

 この間にあって日銀の金融政策が果たした役割はいったい何であったのか。日銀に限らず欧米の中央銀行も非伝統的手段を講じたが、これは景気物価に働きかけるというよりも、金融市場の不安感を取り除くことが大きな目的となっていた。その意味ではしっかりとその効果はあったと思われる。

 しかし、金融政策であたかも簡単に物価をコントロールできるかのような発想のもとに出てきたアベノミクスとそれを受けた日銀の異次元緩和は、物価上昇そのものが目的と化してしまった。このため身動きが取れなくなりつつある。人々のデフレマインドも含め、金融政策では簡単にはコントロールができないことを前提にしての金融政策というものを考えることも必要ではなかろうかと思う。


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