. 若き知
2018年9月20日「米長期金利が再び3%超え、ドル円や日本の長期金利の上昇圧力に」

 9月18日の米国市場において米10年債利回り(米長期金利)は3.05%となり3%を再び超えてきた。

 18日の日本時間の朝方、にはトランプ政権が2000億ドル相当の中国製品への追加関税を24日から課すと発表し、これを受けて中国も報復措置として600億ドル相当の米国製品に関税を24日から課すと発表した。

 これに対して18日の東京株式市場は寄り付きこそ日経平均はマイナスとなったが、その後プラスに転じ、300円を超す上昇となった。中国株も同様に上海総合指数などは上昇していた。

 18日の米国株式市場もダウ平均は184ドル高、ナスダックも60ポイントの上昇となった。17日に売られていたハイテク株などに買い戻しの動きが入り、米長期金利の上昇から金融株が買われ、原油先物が上昇したことで石油関連株も買われた。

 トランプ大統領はさらなる追加関税も示唆したが、市場では米中を主体とした貿易戦争に対して冷めた目で見始めたとも言えるのかもしれない。税率が思ったよりも低いといった面もあったかもしれないが、そもそもこれによる米国経済への影響は限定的との見方もある。

 FRBのパウエルFRB議長は8月24日のジャクソンホールでの講演で、米経済の力強い成長が続くなかで、利上げペースを速めない姿勢を示唆していた。これもあり、米長期金利8月24日以降、じりじりと上昇し節目とされる3%を再び超えてきたと言える。

 さらに米長期金利の上昇を促すような材料も出てきた。日経新聞は19日、「米国内にインフレ圧力 対中関税5700品目追加で」という記事を伝えている。

 「トランプ米政権が示した対中制裁の第3弾では家具やカバンなどの消費財が多く加わった。また多くの自動車部品や電子部品、化学品も含まれ、米国内で完成品として生産される家電や自動車などもコスト上昇圧力にさらされる。」(日経新聞)

 今回の追加関税を受けての物価上昇圧力なども米長期金利がこれから織り込み始めるとなれば、米長期金利の3%という大きな壁から上抜けてくる可能性はないとはいえない。FRBも当面、利上げを続ける姿勢を示していることも米長期金利の上昇圧力ともなりうる。

 ただし、米国の足元の物価は落ち着いている。たとえば8月の米国の消費者物価指数は、変動の大きい食品・エネルギーを除くコア指数が市場予想に反して伸びが鈍化していた。これが米長期金利の上昇を抑制していた面もある。しかし、今後物価に上昇圧力が加わると、状況が変わる可能性がある。

 日本の長期金利が0.1%あたりで抑えられていることもあり、米長期金利の上昇は日米の長期金利差からみるとドル円にとっては上昇圧力となる。ドル円もここにきてじりじりと上昇してきているのも、米長期金利の上昇も影響していよう。そうなると、米長期金利の動き次第では、ドル円もあらためて戻りをトライする可能性もある。また、日本の長期金利もあらためて日銀のレンジの上限を試すようなことも予想される。


2018年9月17日「リーマン・ショックから10年。何故、世界的な金融危機が訪れたのか」

 10年前に発生したリーマン・ショックとは、ひとつの金融機関が破綻したことで、世界的な金融危機を生んだわけではない。潜在的なリスクが顕在化し、それが金融機関の経営を脅かし、多くの大手金融機関が危機的状況追い込まれた。その原因といえるのが、金余りといった現象だけでなく、金融機関の利益優先主義、さらにはリスクは自在に操れるという妄想があったと思う。今回はリーマン・ショックに至る経緯をみてみたい。

米国の住宅バブル

 米国経済は2000年のITバブルの崩壊などがあったものの、その後も個人消費に支えられ、高い成長率を維持した。この消費を支えたのが住宅バブルとなった。

 1990年代に移民の増加による人口の増加に加え、低所得層に対する住宅金融制度が整備され、返済方法についての規制緩和が行われたことなどから、低所得者層にも住宅ブームが波及した。また低金利に加え、持ち家比率の高まりなどが住宅価格の高騰を招いた。米国では住宅価格の値上がり分を担保による貸し出し(ホーム・エクイティ・ローン)が伸び、住宅価格の値上分がり分の消費が可能となり、消費を底上げした。

 低所得者向けの住宅ローン(サブプライム・ローン) は、そのリスクを減らすために証券化され、リスクをより分けるために金融理論で構築された価格と格付会社による高格付けを得て債務担保証券(CDO)という新たな金融商品に組成された。

 欧州や産油国だけでなく、中国や台湾といったアジア勢、そして日本からなどから大量の資金が米国に流入するなどの金余りブームも加わり、このような金融化商品へのニーズは高まり、サブプライム・ローンが組み込まれた証券化商品は世界各国の金融機関やファンドに売却された。

サブプライム・ローン問題

 2006年半ばに、それまで高騰を続けていた米国の住宅価格が下落に転じ、一部の住宅ローンが担保割れとなった。担保割れにより融資の回収不能リスクが高まることで、それを担保とした証券化商品の損失リスクが高まり、証券化商品そのものの価格が下がる結果となった。

 米国住宅バブルの崩壊により、信用力の低い個人向けの住宅資金貸し付けであるサブプライム・ローンで焦げ付きが増加した。格付会社がそれを組み入れた住宅ローン担保証券(RMBS)や債務担保証券(CDO)を格下げしたことで、時価評価の必要に迫られ、CDOなどを保有していた欧米の金融機関での巨額な損失が表面化した。

 サブプライム・ローン問題による最初の危機は欧州で発生した。2007年8月9日にドイツ連邦銀行は、IKB産業銀行がサププライムでの投資に伴う損失発生に対しての救済策を協議するため、緊急会合を開催。さらに同日、仏銀最大手BNPパリバは傘下ファンドの償還停止を発表し、次はどこかとの連想も加わり、欧州銀行向け資金の出し手が急速に限られてしまい、これはパリバ・ショックとも呼ばれた。

 米国のダウ平均は、2007年10月に過去最高値の14164ドルの高値をつけたが、危機の発生により、その後は下落基調となった。

 危機は資金繰りの困難化の問題から始まったことから、各国中央銀行は大量に資金供給を実施。2007年12月にFRBが欧州中央銀行(ECB)、スイス国民銀行(SNB)とスワップ取極を結んで欧州でのドル資金供給を始めた。

 証券化商品は欧米の大手金融機関が大量に保有していており、証券化商品格下げに伴い、評価損失が雪ダルマ式に膨れ上がった。これによって米国の大手金融機関のトップが相次いで辞任するといった事態となった。

リーマン・ショック

 2008年1月18日に、証券化商品を保証していたモノラインと呼ばれた金融保証会社が資本調達難から格下げされ、証券化商品全体の価格下落に拍車をかけた。世界的な株安連鎖による市場の混乱に対し、1月22日にFRBは0.75%の緊急利下げを実施し、さらに0.5%の追加利下げを実施しFF金利の誘導目標は年3%となった。

 3月14日に証券化商品を大量保有していた投資銀行のベア・スターンズが資本調達の失敗から資金繰りに行き詰まり、FRBの資金支援のもとJPモルガン・チェースに買収された。

 6月に入り米株式市場は金融機関の損失拡大への懸念や大手自動車メーカーなどの業績悪化見通しなどにより売り圧力を強めたことで、金融株に対して空売り規制が強化され、これをきっかけにヘッジファンドが組んでいた米金融株売り、原油先物買いといったポジションの撒き戻す動きが一気に強まった。このためニューヨーク原油先物価格は7月11日につけた147.27ドルをピークに急落。7月13日には政府系住宅金融公庫が経営危機に陥り、政府の資本注入などで経営再建を図ることになった。

 そして2008年9月15日に、証券化商品により大きな損失を抱えていた投資銀行のリーマン・ブラザーズが、資本調達や身売りに失敗し経営不安に陥り破綻した。リーマン・ブラザーズのような大規模金融機関が破綻し、世界の金融市場は極度の不安に陥り、これが「リーマン・ショック」と呼ばれた。金融市場では取引相手のリスク、いわゆるカウンター・パーティーリスクが強まり、各国の中央銀行は大量の資金供給を行った。

 リーマン・ショックにより、巨大金融機関の破綻がもたらす影響を懸念した米国政府は金融機関を破綻させない方針に転じ、FRBは9月16日に米国の大手保険会社AIGに対して緊急融資を行うことを表明した。

 金融機関の不良債権と資本不足の問題に対し、米国財務省は最大7千億ドルを投入して、幅広く金融機関の不良債権を買い取る「緊急経済安定化法案」を議会に提出したが、9月29日に下院で否決された。これは金融市場に再び大きなショックを与え、29日のダウ平均株価は終値で777ドル安と史上最大の下げ幅を記録した。

 欧州各国も預金の全額保護や金融機関の国有化・資本注入、短期債務保証など、様々な施策を迅速に打ち出した。金融グローバル化のもとで、問題解決に向けた国際協調も行われ各国中銀が一斉に利下げを行った。10月8日に欧米の中央銀行に加え一部新興国も含め、10の中央銀行が同時に0.5%の緊急利下げを実施した。

 実体経済への影響も深刻化し、特にアイスランド、ハンガリー、南アフリカなど、経済が米欧金融機関からの借入に過度に依存していた国では経済危機に陥り、IMFなどからの緊急融資を頼ることとなった。


2018年9月17日「米利上げはいつまで続くのか」

 9月7日に発表された8月の米雇用統計では、非農業雇用者数は20.1万人増となり、事前予想を上回った。失業率は3.9%で前月と変わらず。そして、平均時給は前年比で2.9%増と2009年6月以来の高い伸びとなり、これを受けて9月25〜26日に開催されるFOMCでの追加利上げがほぼ確実視された。

 ただし、雇用統計がよほど悪化しない限りは、9月のFOMCでの利上げはほぼ規定路線となっていた。これにより2018年は3月、6月のFOMCに続いて3回目の利上げとなる。さらに今年は9月に加え、12月のFOMCでの年内4度目となる利上げも予想されている。

 ただし、12月の利上げに関してはやや不透明な部分もある。米国のトランプ大統領は8月17日に共和党の資金集めのイベントで、あらためてFRBの利上げに不満を漏らしたとされる。トランプ大統領があからさまに利上げ阻止に動く可能性は少ないながらせも、11月の中間選挙の結果次第では米国の政局が変化してくる可能性もある。このため12月の利上げについてはやや流動的な面もあろう。

 仮に12月に利上げがあったとすれば、今年は議長会見の開かれるFOMCすべてで利上げが決定されることになる。昨年までも利上げが決定されたのは議長会見のあるFOMCにおいてであった。

ただし、FRBのパウエル議長は2019年1月のFOMCから毎回、記者会見を開くと表明している。このため来年の利上げに関しては、3月、6月、9月、12月のいずれかというパターンからは外れることも予想される。その分、利上げ決定のタイミングについてFRBの自由度が増すような格好となる。

 それではFRBはこれからあと何回利上げをする予定なのか。このままのペースが継続されると、2019年の2回程度の利上げで中立金利に到達することになる。ここでいったん利上げは終了となるとの見方が強い。

 そもそも今回のFRBによる利上げは、米国の景気や物価の過熱を阻止するためのものではない。非常時対応ともいえた異常な金融緩和策から正常モードへの移行が目的となっている。現在の米国の物価をみてもインフレ圧力が強まっているようには見えず、正常化が達せられたのならば、いわゆる金融引き締めとされるゾーンにまで踏み込むことは考えづらい。

 正常モードに移行したあとは、経済物価動向を見ながらの調節という本来の中央銀行の金融政策に戻ることが予想される。あまり糊代という言葉は使いたくはないものの、米国経済がピークアウトした際にもFRBは利下げという手段も取れることになり、これにより政策の自由度が大きくなることは確かである。


2018年9月16日「トルコ中銀はエルドアン大統領の意に反して大幅利上げを実施」

 トルコ中央銀行は13日、政策金利である1週間物レポ金利を6.25ポイント引き上げ24%とした。利上げはそのものは市場で予想されていたようだが、市場予想は3.25ポイントの利上げとなっており、実際には予想の倍の幅での利上げとなった。

 チェティンカヤ総裁率いるトルコ中央銀行の金融政策委員会は、ある意味危ない賭けに出たともいえる。トルコのエルドアン大統領は政策金利引き上げ発表の2時間ほど前に、金利を「引き下げる」べきだと発言していた。

 エルドアン大統領は今年の選挙前に、金融政策への関与を強める意向を表明したことから、トルコ中銀の独立性は疑問視されてきた。

 エルドアン大統領は同国政府系ファンド(SWF)の経営陣全員を更迭し、自らを会長に指名するなど独裁色を強めるような動きを見せていた。このような状況下、トルコ中銀のチェティンカヤ総裁はエルドアン大統領の意向は無視し、ある意味リスクを冒してまでインフレ退治に躍起になったといえる。

 米国でもトランプ大統領はFRBの利上げに対して懸念を示したとされるが、パウエル議長率いるFRBはそれを意に介さず、淡々と利上げを行う姿勢を示している。

 トルコ中銀とエルドアン大統領の対立色は今後さらに強まることも予想される。利上げによって簡単に物価上昇が抑えられるわけでもなく、トルコと米国との対立という根本的な問題、さらにはエルドアン大統領そのものがリスク要因となっていることで、トルコを巡る問題は根深いものとなっている。

 ただし、今回の事例をみても物価安定のためには為政者の意向を無視してでも、政府からは独立した組織として、断固たる処置を行うことは、ある意味中央銀行が行うべき姿かと思われる。

 これに対して政権の意向に強く支配されて、それが必要とされるタイミングではないにも関わらず、さらにそれによって効果で出るという保証もない異次元の金融緩和策を取らざるを得なかった中央銀行が存在する。非常時の緩和策というべきものをすでに5年以上も続けて、副作用も目に見えるようになっている。中央銀行は政府からは独立した組織であることをあらためて示すことも、トルコの例ではないが重要ではなかろうか。そろそろ軌道修正をしっかり行わないと、市場機能が債券だけでなく、いずれは株式市場も含めて失われかねない。


2018年9月14日「国債市場の機能が再び低下」

 9月に入ってからの日本の債券市場の動きを確認してみたい。9月3日の現物債はカレント(直近発行された国債)が、2年、5年、10年、20年、30年、40年ともに一本値となっていた。この日の先物の日中値幅(前後場のみ)は9銭。

 4日に日銀は3年超5年以下の国債買入を月額ベースで減少させたが、この日の2年債と5年債、そして10年債カレントは一本値となっていた。先物の値幅は11銭。

 5日の10年国債入札は順調名結果となり、10年債カレントは久しぶりに動いたもののレンジは0.110〜0.115%。5年債は一本値、2年債カレントは出合いなし。先物の値幅は10銭。

 6日に今度は日銀は5年超10年以下の国債買入を月額ベースで減額させた。この日の10年債カレントは一本値、2年債と5年債カレントも一本値。先物の値幅は10銭、

 7日は2年、5年、10年、40年カレントは一本値。先物の値幅は10銭。

 10日は月曜日で先物は中心限月の移行を控えていたこともあるが、2年と40年カレントは出合いなし。ほかのカレントは10年債含めて一本値。先物9月限の値幅は5銭となっていた。

 11日の30年債入札は順調な結果となっていたが、落札結果発表時間が何故か遅れていた。ただし市場への影響は限られ、2年と5年のカレントの出合いなく、10年と20年のカレントは一本値。先物値幅は実質的に中心限月となった12月限が7銭となっていた。

 12日は2年、5年のカレントは出合いなく、10年と20年カレントは一本値。先物の値幅は8銭。

 日銀は7月31日に政策の弾力化というか柔軟化を行った。それを受けて一時的に債券相場は動いたものの、再び膠着相場に戻りつつある。8月27日に債券先物の日中値幅が3銭と過去最低に並んだ。それ以降は10銭程度の値幅となっていたが、動きが乏しいことに変わりはない。

 現物債も2年と5年のカレントが出合わない日が多くなり、10年債カレントもかろうじて値がついている状況となっている。10年債カレントが出合わないとなれば一般のニュースともなってしまう懸念があり、なんとかそれは免れている格好となっている。

 日銀は長期金利の目標レンジをこれまでの±0.1%から±0.2%に拡げたとされる。さらに月額ベースの買入を減少させることで、10年債カレントの流動玉もそれなりに出てくることが予想されている。

 このように需給面では多少は緩和されているものの、それでも需給はタイトな状況に変わりなく、ある意味動きようがなくなっている。外部環境をみても米国10年債利回りが3%近くまで上昇してきたが、それもいまのところ材料視されず。10年債利回りはこの水準が居心地が良いのか、それとも中間決算期末なども意識して動きたくはないのか。ただし、このまま膠着相場が続くとも思えないのだが。


2018年9月13日「仮想通貨が通貨ではない理由」

 今年2月にマーシャル諸島共和国において、「世界初の政府発行仮想通貨を法定通貨にする」という法案が可決されたそうであるが、この発表に対してIMFが、「仮想通貨を法定通貨にするのは考え直すべきだ」と提言したそうである。

 そもそも、ビットコインなど仮想通貨と呼ばれているものは、果たして通貨と呼んで良いものなのかどうかをあらためて考察してみたい。

 現在の通貨や貨幣と呼ばれるものについては、本質的な価値があるわけではない。通常は紙や金属の塊を加工したものである。貨幣や通貨のもとになったものとして、大昔は希少な貝殻、もしくは貴金属などが使われた。石そのものが通貨として使われた例も実際にあったようである。

 貨幣そのものの価値というよりも、それを一定の価値のあるものとして流通させてきたのが、通貨の歴史となる。その信用の裏付けをするために、徳政令などで勝手に借金をなくしてしまいかねない国王の信用などではなく、徴税権などを担保にして発行されるようになった。

 狭いところであれば、たとえば刑務所内でタバコが貨幣となったりすることはできる。目に見える仲間内だけであれば、約束事が成り立つ。しかし、不特定多数が使うとなれば、政府なりが一定のルールを設けて通貨に信用を寄与する。ただし、通貨発行権のおいしさのあまり、シニョリッジを得ようとして通貨価値というか信用を毀損してしまう例も歴史上、多くあった。

 現在の通貨もあくまでその価値を認めているのは発行している中央銀行、さらには政府である。国に対する信認が得られている限り、法律で守られた貨幣価値が存在することになる(法定通貨)。

 これに対し、ビットコインなど仮想通貨と呼ばれているものは、ネットを使ってその信用を寄与しようとしたものではあるが、法律などによって守られているものではない。マーシャル諸島共和国の法案に関しても、自国の通貨として米ドルを使用しており、その代替として仮想通貨に目を付けたようだが、米国が信認を与えているドルに対し、仮想通貨は国などが信認を与えているものではない。

 仮想通貨はあくまで仕組み上で、発行形態や保有形式が整えられている。あくまでそれを売買している人達が価値があると信じて売り買いを行っているにすぎない。

 日本の中央銀行である日銀の仕事は、日銀法上では「日本銀行は、我が国の中央銀行として、銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うことを目的とする。」とあり、「日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。」とある。

 この場合の「物価の安定」とは「通貨価値の安定」である。それでは現在、通貨価値は不安定であろうか。2%と言う物価目標が達せられなければ、日本円の通貨価値は適正ではないのか、あらためて日銀に問いたいが、それは別のところで議論するとして、日銀は円という通貨価値を安定させることが仕事となっており、そのためにはいろいろな仕組みとともに信認を得るための努力が積み重ねられている。

 これに対し、ビットコインなど仮想通貨と呼ばれているものには、その価値が法律で守られたり、価値を安定されるための組織があるわけでもない。人々の思惑だけでその価値が乱高下している。その乱高下だけみても安定した通貨として使えるものとは言えない。

 いやいや、ビットコインなど仮想通貨は世界のいたるところでネット上で利用できる通貨であり、通貨の革命だ、との主張があるかもしれない。

 ひとつ気をつけなければならないのは、ネットでの決済は円などの法定通貨も利用できるため、仮想通貨だけに利点があるわけではない。QRコードなどを使ってネットでの決済に使われる通貨については、我々が銀行などの口座に置いてある法律で価値が守られた円である。

 仮想通貨の本源的価値についても、一定のルールはあり、機械的に作られていようが、それが一般に信用価値が認められているとは思えない。少なくとも金には金の価値はあり、チューリップにはチューリップの価値はあった。仮想通貨と呼ばれるものの価値はまさに仮想である。

 仮想通貨は仮想資産と呼ぶべきとの意見も出ている。そもそもコインとか仮想「通貨」と名付けられてしまったことで、円などと同様の通貨のように勘違いしてしまいかねないが、残念ながら通貨と呼べるものではない。


2018年9月12日「9月の日銀金融政策決定会合は現状維持か」

 9月18日から19日にかけて日銀の金融政策決定会合が開催される。前回7月30、31日の決定会合では金融政策の微調整が行われた。この際の公表文のタイトルは「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」となっていた。強力と強化という言葉が入り、金融緩和策の強化のようにみえたものの、この際の政策調整には、リフレ派代表といえる原田委員と片岡委員が反対票を投じていた。

 強化策のひとつともいえる「政策金利のフォワードガイダンス」について日銀は次のように説明していた。

 「日本銀行は、2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定している。」

 これに対して原田委員と片岡委員は、次のような反対理由を挙げていた。

 「原田委員は、物価目標との関係がより明確となるフォワードガイダンスを導入することが適当であるとして反対した。片岡委員は、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に達成する観点から、長短金利維持のコミットメントではなく、中長期の予想物価上昇率に関する現状評価が下方修正された場合には追加緩和手段を講じるとのコミットメントが適当であるとして反対した。」

 緩和強化としているにもかかわらず、リフレ派代表といえる原田委員と片岡委員が反対票を投じていることからも、これは緩和策により踏み込んだものではないことが窺える。これには「2019年10月に予定されている消費税率引き上げ」というさほど遠くないタイミングと「消費税率引き上げ」という意外な組み合わせのものを持ってきたことについて、リフレ派がやや懐疑的な見方をしていたとも言えるのかもしれない。

 さらに長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)についても、原田委員と片岡委員は反対票を投じている。

 「原田委員は、長期金利が上下にある程度変動しうるものとすることは、政策委員会の決定すべき金融市場調節方針として曖昧すぎるとして反対した。片岡委員は、物価が伸び悩む現状や今後のリスク要因を考慮すると、10年以上の幅広い国債金利を一段と引き下げるよう、金融緩和を強化することが望ましく、長期金利操作の弾力化は「ゼロ%程度」の誘導目標を不明確にするとして反対した。」

 原田委員と片岡委員は長期金利の操作目標の柔軟化には反対であり、むしろ長期金利の操作目標を引き下げて、金融緩和強化を主張している。債券市場の機能低下などたぶん眼中にはなく、長期金利を引き下げて、どのような経路で物価が上昇するという経路についても曖昧であるが、緩和ありきの姿勢を貫いている。

 それはさておき、9月18日、19日の日銀の金融政策決定会合では、金融政策は7月の修正の影響を見極めたいと現状維持となることが予想される。7月会合以降の長期金利は当初、乱高下したが、その後は落ち着いている。まだ柔軟化したレンジの上限を試すような動きも出ていない。このため、当面は様子をみるためとして現状維持が予想される。

 前回反対票を投じた原田委員と片岡委員は今回も反対票を投じるとみられる。


2018年9月11日「金利なき世界は健全といえるのか」

 シェアハウスへの不適切な融資を巡る問題で、スルガ銀行の第三者委員会が調査報告書をまとめた。審査資料の改ざんなど様々な不正に、支店長を含む多数の行員が関与、借り手の預金残高を改ざんして自己資金があるように装い、融資条件をクリアさせるなど悪質な手口が目立っていた(読売新聞)。

 銀行など金融機関にとって、本来その収益源となるのが金利である。しかし、日本の金利はデフレ脱却というか2%の物価目標を達成しなければならないとの政府の意向を受けた日銀による異次元の金融緩和策で押しつぶされている。短期金利とともに。市場で流通している中期債の利回りもマイナスとなっている。長期金利も0.1%程度に抑え込まれてしまっている。

 金融機関が金利で稼げないとなれば、よりリスクのある資産で運用するか、手数料収入を得るため投資信託の販売などを積極化する必要がある。本来であれば、融資などについてもかなり慎重であり、その運用も本来手堅いはずの銀行などの金融機関が、その収益を求めてかなりリスクのある運用や、結果として顧客にリスクを負わせるかたちでの収益増を求め、なかにはスルガ銀行のように違法な取引にも手を出す事例まで出てきてしまっている。

 銀行などが販売する投資信託で、顧客である個人がなかなか利益を挙げられないという事例も目立つようである。これは昔の証券会社が行っていたような途中売却と新規買入で回転させて手数料を得るようなこともあるのではなかろうか。個人向け国債についても、解約できない期間を過ぎると売却が目立つとされる。これも新規買入の際の募集手数料目当てではないかと勘ぐられてもいたしかたない。

 金利がない、もしくは金利がマイナスの状況下においては、金融機関が無理な営業をせざるを得なくなることはある意味、致し方ない面もあるかもしれない。しかし、決してこれは健全な姿とはいえない。個人にとっての、貯蓄から投資への動きへの阻害要因ともなりかねない。

 個人にとってもほとんど金利が付かない世界のなかで、より高い金利を求めるあまり、リスク商品に手を出して、収益どころか損失が発生している事例も多かろう。

 金利なきら買いの、おおもとの原因が日銀の政策だけにあるわけではない。しかし、ファンダメンタルズなどとは乖離し、我々が本来得られるはずの、金融機関にとっては利ざやとなるはずの、金利を無理矢理潰して、それが金融機関に、いや我々にも負担をしいていることは確かではなかろうか。それでいったい、政府債務リスクを覆い隠す以外のもので、何が得られているというのであろうか。


2018年9月8日「目にも止まらないスピードの取引による株式や債券市場への影響」

 株価指数先物30周年記念シンポジウムにおける日銀の黒田総裁の基調講演において、HFTに関しての指摘があった。日銀のサイトにアップされた講演要旨から見てみたい。

 「東京証券取引所の株式市場においては、2010年1月に稼働したアローヘッドと呼ばれる新取引システムにより、1000分の1秒という、人間の能力ではとても追い付かないスピードで注文処理を行うことが可能となりました。こうした技術革新を背景に、自動化されたアルゴリズムに従って、きわめて高速・高頻度で小口売買を繰り返す取引、いわゆるHFT(High Frequency Trading)を行うプレイヤーのプレゼンスが高まっています。」講演要旨より

 はっきり言って私は目に見えないようなスピードで先物が取引されることには反対である。金融市場は人と人が競い合って価格を形成するものと思っている。しかし、そんなことは言えなくなっているのがご時世であり、すでにHFTのシェアは米国では5割程度、欧州は4割程度に達しているとされる。東京証券取引所の株式市場において、コロケーションエリアからの約定件数は4割程度を占めているとされる。

 ちなみに、債券先物の場合は現物債の取引が外部から見づらく、業者間取引も取引所では日本相互証券で行っていることで、裁定取引なども難しく、さらにかなりドメスティックな市場であるため、HFTは入りづらいとされていたが、債券先物でも頻繁に取引されるようになってきたそうである。

 黒田総裁は市場流動性の向上などHFTの利点を述べるとともに、次のようにも述べている。

 「一方、アルゴリズムが想定しないような急激なショックが生じた場合において、HFTは市場流動性の供給を不安定化させ、むしろボラティリティの拡大を助長するとの見方があるのも事実です。さらに、アルゴリズムのヒューマンエラーなどをきっかけに、合理性を欠いた取引が大量に実行されてしまうリスクを懸念する声も聞かれます。」講演要旨より

 今回は株価指数先物の講演であるものの、HFTについては債券先物も同様のことが言える。その上で、それでは7月31日の債券先物が日銀の金融政策決定会合の結果を受けて大きく債券先物が反発したのは何故なのか。翌日から再び下げたのは何故だったのか。

 31日の債券先物の動きはHFTのように思えた。これはAIが決定会合の声明文のタイトル「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」と政策金利のフォワードガイダンスも導入したことで、追加緩和と勘違いしたためではなかったのか。しかし、実は柔軟化であったとの見方で再び売られたとしたら、アルゴリズムが想定できなかった事例とはなるまいか。


2018年9月8日「災害時に弱いキャッシュレス社会、現金が重要に。セイコーマートの事例より」

 我が家の近くにセイコーマートがある。セイコーマートは顧客満足度で毎年1位を取っているとされる北海道を拠点とするコンビニエンスストアチェーンである。道内を中心に約1100店を展開。茨城では84店、埼玉では9店が営業している。その茨城のうちのひとつの店舗に6日に昼食を買いに出かけたところ、レジに手書きの張り紙があった。

 これは交通系のICカードなど電子マネーなどでの決済に加え、公共料金の支払い、ゆうパックの受付が出来ない状態となっていることを知らせるものであった。

 この日の早朝3時に北海道で震度7の地震が発生していた。セイコーマートは北海道が拠点であり、これは地震とそれによる停電の影響と思われた。

 実際に朝日新聞がこれについて取材していたようで、セイコーマートの関東事業本部は取材に対し、「本社のホストコンピューターがダウンしたのが原因。お客さまには、しばらく不便をおかけすることになり、申し訳ない」と話したそうである。

 ただし、このセイコーマート、停電にもかかわらず北海道では奮闘していたことがツイッターなどで紹介されていた。

 道内のほとんどの地区で停電が発生し、食料品店なども休業をせざるを得ない状況が続いている中、セイコーマートの多くが営業していたのである。しかも普通のガソリン車のシガーソケットから給電するなどして、停電中も温かい食事を提供していたとか。会社側が普段から非常電源キットを各店舗に配布し、今回はそれを使い従業員の車などから電源を取ったとも報じられ、災害時の対応を準備していたようである。

 今回、個人的に注目したいのは、このようなセイコーマートの営業努力にもかかわらず、電子マネーの利用については道内だけでなく関東地方の支店でもできなかった点である。ちなみにセイコーマートのレジについてはオフラインでも使用可能で、災害時にも使えるものであったようである。

 レジはオフラインでも使えるというのは非常に大きい。東日本大震災の際、私も食料品を確保するため、かろうじて営業していた近くのコンビニ(この際はセイコーマートではない)に行ったのだが、レジが使えず手作業で決済を行っていた。営業してくれていたことには感謝だが、大混雑のなかの手作業で、かなり時間が掛かってしまっていた。

 この際にも当然ながらクレジットカードや電子マネーなどは使えない。これらは電気の問題だけでなく、ネットワークにアクセスできないと使い物にならないためである。

 これに対して現金についてはネットワークで確認する必要はないため、このような緊急時においても使うことができる。

 日銀は今回の北海道での地震に際に、「北海道胆振地方中東部を震源とする地震にかかる災害に対する金融上の措置について」というペーパーを発表し、金融機関(銀行、信用金庫、信用組合等)への要請として、預金証書、通帳を紛失した場合でも、災害被災者の被災状況等を踏まえた確認方法をもって預金者であることを確認して払戻しに応ずることとした。もちろんこの払い出しとは、必要となる現金のことである。

 日本ではなかなかキャッシュレス化が進まないとされるが、それは日本人が現金好きだからという面もあるかもしれないが、何かあったときに頼れるのが「現金」ということを、これまでの震災などの経験で学んでいたことも大きいのではなかろうか。

 セイコーマートが停電にもかかわらず通常営業が可能であったのは、本社のホストコンピューターがダウンしても、オフラインでも使えるレジを使っていたことも大きいのではなかろうか。

 キャッシュレス社会という現金を持たない生活も良いかもしれない。しかし、災害時のリスクを考えれば一定の現金を保有せざるを得ないこと、営業店舗にあっては電気がなくても営業は可能となる決済の仕組みを、特に地震などの災害の多い我が国においては必要なのではなかろうか。


2018年9月7日「日銀は実質的に長期ゾーンの国債買入を減額、市場はこれを織り込み済み」

 日銀は6日、10時10分に国債買入をオファーした。対象は5年超10年以下、オファー額は4500億円。前回の一回あたりのオファー額の4000億円から500億円増額した。月額ベースに引き直すと8月は同年限の買入は6回あり、総額2兆4000億円となっていた。これに対し9月は買入予定が5回であり、途中で金額の変更がなければ、4500億円5回の2兆2500億円となることで、実施的に月額ベースで1500億円の減額となる。

 日銀が8月31日の夕方に公表した「当面の長期国債等の買入れの運営について」では、いくつか前回から修正ポイントがあった。

 「日本銀行は、長期国債等の買入れについて、弾力的に実施することとしており、当面、以下のとおり運営することとしました(2018年9月3日より適用)。」

 今回は「弾力的に実施することとしており」という表現が入ってきているのである。7月の決定会合でも、「弾力的な買入れを実施する」との表現があった。念のため「弾力的」という単語の意味を確認したところ、状況に応じて柔軟に対応する」とあった。

 9月の国債買入の回数を中期と長期ゾーンについて、8月までの6回から5回に減らしたのは何故か。9月は三連休が2回あり、日銀の決定会合も予定されており、国債買入のスケジュールがかなりタイトになるためというのが表向きの理由と思われる。しかし、ここには「弾力化」つまり「柔軟化」の意味合いも込められていたのではなかろうか。

 それでは今回の日銀の国債買入による「弾力化」の目的とは何か。日銀はこれまでのように長期金利を完全に抑え込む姿勢から、多少なり変動できるように幅を拡大させてきた。この目的のひとつに債券市場の機能回復が挙げられる。

 日本取引所グループのサイトのデータによると8月の国債先物の取引代金は前年同月比49.4%増の134兆円となった。取引金額は8月としては2007年以来11年ぶりの水準だとか(日経新聞電子版)。

 ただし、盛り上がったのは一時的であり、その後再び債券市場の値動きは小さくなり、債券先物の日中値幅が過去最低の3銭となったり、10年債カレントの出合いのない日も出てきた。

 それでも国債買入の弾力化などにより、少しでも債券市場に動きが出るようにと今回の国債買入での修正が行われたのではないかと思われる。

 実質的な買入減額はステルステーパリングとも呼ばれているが、これはすでにGDP規模にまで膨らんでしまった日銀の資産規模に対する警戒も含まれていよう。物価目標達成は見通せず、このまま巨額の買入を続けていくと、債券市場の機能低下などの副作用の蓄積とともに出口政策がより困難になる。そのためには少しでも買入ペースをダウンさせる必要がある。出口戦略もなく突っ走しれば何が待ち構えていたかは歴史が証明している。

 それでは日銀としては長期金利の上昇の後押しをしているのかといえば、たしかに買入の実質減額はそのように見える。しかし、極端に狭いレンジ内に抑え込む必要性がなくなり、ある程度のテーパリングが必要となれば、多少の長期金利の動きは容認する構えなのではないかと思われる。ただし、米国債などの動向にも影響を受けることで、日銀の動きだけで長期金利の動きがすべて決まるわけでもない(はず)。長期金利の動きにもう少し幅を持たせたいととの意味合いも大きいのではないかと思われる。


2018年9月6日「日銀は国債買入を実施的に減額中、注目は本日の長期ゾーンの国債買入額」

 9月4日の日銀による国債買入オペレーションにおいて、中期ゾーンの買い入れ予定額は1年超3年以下を前回から500億円増額の3000億円、3年超5年以下を500億円増額の3500億円とした。つまりそれぞれ500億円増額した格好ながら、8月31日の夕方に公表した「当面の長期国債等の買入れの運営について」で明らかにされたように、カレンダースケジュールの都合もあってか買入の回数を8月の6回から5回に減少させていたことによる増額であった。

 「当面の長期国債等の買入れの運営について」で示された1年超3年以下の買入額は、2000〜4000億円程度となり、8月の2000〜3000程度から上限を1000億円増額した。市場参加者というか日銀もこの中央値を意識しているようで、8月の中央値が2500億円、9月の中央値が3000億円となり、増額もそれに沿ったものとなった。

 つまりこれにより、8月は2500億円が6回(1兆5000億円)から、9月は3000億円が5回(1兆5000億円)となり、1年超3年以下の買入額は総額は不変となった。

 これに対して3年超5年以下については、2500〜4500億円程度と、8月の2500〜3500億円程度からやはりレンジの上限を1000億円増額した。中央値については8月の3000億円から3500億円となり、やはり3年超5年以下についても中央値でのオファーとなった。

 これにより、3年超5年以下については8月が3000億円が6回(1兆8000億円)から3500億円が5回(1兆7500億円)となり、月額ベースでみれば500億円の「減額」となる。

 簡単な計算といえばそれまでだが、表面上は一回当たりの買入の増額となっているし、レンジも上限が引き上げられ、いかにも増額のように見えながらも、実質減額としている。ただし、500億円程度の減額という見方もできる。

 減額そのものは債券市場関係者はむしろ歓迎するであろう。これに対し、過去に日銀の国債買入減額に敏感に反応していた外為市場や、それをみて反応していた株式市場には、今回の実質減額はほとんど影響を与えなかった。それが目的かどうかは知らねども、今回の減額手段もなかなか巧妙といえば巧妙である。

 それはさておき、日銀は中期ゾーンだけでなく、長期ゾーンの買入回数も9月は減らしている。9月5日に10年国債の入札があり、6日には長期ゾーン(5年超10年以下)の国債買入が予定されている。

 中期ゾーンに習えば、長期ゾーンの8月の買入レンジ3000〜5000億円となり、中央値と買入額は4000億円となっていたところ、9月のレンジは3000〜6000億円となり、中央値は4500億円となる。

 もし6日の買入額が4500億円と一回あたりの買入額を500億円増額するとなれば、月額換算で4000億円6回(2兆4000億円)が、4500億円5回(2兆2500億円)となり、こちらは1500億円の減額となる。さすがに1500億円の減額となれば、それなりに影響も出るかもしれないが、こちらの動向も要注目となろう。


2018年9月5日「金融市場のインフルエンサー」

 このコラムでたぶん初めて「インフルエンサー」という言葉を取りあげたい。インフルエンザという言葉にも似た単語で個人的には、あまり好きではない用語であった(乃木坂46のファンからは怒られそうだが)。そもそもインフレエンサーとは何だ、という若者言葉を理解しない、したくない年寄りみたいな状態にいたのかもしれない。

 それはさておき、ネット時代になって、確かに誰かの発言や書き込みがひとつのきっかけとなって何かが流行するという現象は起きている。そもそもインフルエンサーという言葉は、プログが全盛の時代に生まれたようで、カリスマブロガーと呼ばれる人達が何かを取りあげるとそれが爆発的に流行し、取りあげた人をインフルエンサーと呼んだ。

 これはネットに限らず、テレビなどもそうであろう。マツコ・デラックスが美味しいと言ったり、NHKの「あさイチ」で取りあげられたものが、翌日のスーパーで売り切れとなることも良くあった。

 しかし、ツイッターなどの匿名主体のSNSなどからは具体的な人名はわからないものの、ある人の発言や投稿がきっかけとなり、社会現象を生み出すようなことがある。

 たとえば、夏の甲子園での金足農高フィーバーも準決勝あたりから、一気に盛り上がったが、これはツイッターで吉田投手がスポーツ新聞の記事の紹介のようなかたちで取りあげられ、それがリツイートされて、一気に拡がったことによる影響が大きいとみている。翌日の朝のワイドショーで取りあげられていたのも、ほとんどツイッターで話題になったものであった。

 何かしら面白いことが起きて、それが社会現象化する際には、そのもとになる記事なり書き込みなりかあって、さらにそれを取りあげて拡散する人達でいて、社会現象化するのではなかろうか。もちろんトランプ大統領のように自らの権力があまりに大きく、自らの書き込みで社会を騒がせる人もなかにはいるが、これは例外といえるのではなかろうか。

 過去の社会現象を生じさせるような情報と言えば、マスコミ経由のものが多く、それにはタイムロスがあった。新聞であれば一日遅れとなり、テレビのニュースやワイドショーではある程度社会現象化してからの後追いとなる。いまでは、それらに先んじて面白い情報を拡散する手段としてSNSがある。その意味では、特定できない個人のインフレエンサーが暗躍しているともいえるのではなかろうか。

 株式市場では「提灯買い」という言葉が昔からある。これは提灯行列に付いていくという言葉から来ているとも言われ、何かしらの情報に先に飛び乗った人がいて、それがちょっとした価格の変動を起こし、それを見て我も我もと付いて行き、大相場となるような意味である。これはひとつ間違うと価格操作などに使われてしまうケースもある。しかし値動きをみて、何かおかしな動きをしているぞと感じついて行き、相場には何かしらあとから材料が出てくることもある。

 金融市場にも、情報感覚が研ぎ澄まされた(もしくは情報を掴んでいる)インフレエンサーがいて、それによるちょっとした価格変動を見て、そけで何かを察知して動く察知能力に優れた別のインフルエンサーが存在しているように思われる。彼らの動きを見ながら(直接見る事はできないので値動きから)相場を張るということも必要だと、インフレエンサーになりきれなかった元ディーラーとしては思っている。


2018年9月4日「日銀は国債買入の回数を減少、その目的は何か」

 日銀が8月31日の夕方に公表した「当面の長期国債等の買入れの運営について」では、いくつか前回のものと異なるところがあった。

 前回の7月31日に公表した「当面の長期国債等の買入れの運営について」は、本来であれば公表時間が夕方17時予定であったものの、当日の金融政策決定会合後に発表されたことで発表時間が繰り上げられた。これはどうしてなのか。

 7月31日の金融政策の修正は、「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」というタイトルながら、実質的な柔軟化策を決定したといえよう。それが良く示されるのが、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)のところの長期金利の項目で、前回と次のように変わっていた。

 6月会合「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。買入れ額については、概ね現状程度の買入れペース(保有残高の増加額年間約80兆円)をめどとしつつ、金利操作方針を実現するよう運営する。」

 7月会合「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし 、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。」

 このように7月会合では「経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし」、「弾力的な買入れを実施する」としていた。

 ただし、引き締めスタンスに転じたわけではないことを示すためにも、17時ではなく決定会合後に、「当面の長期国債等の買入れの運営について」も公表し、すぐ日銀の国債買入スタンスに変化があるわけではいことを示した格好となった。

 そして、そのときに公表された「当面の長期国債等の買入れの運営について」の冒頭のコメントは次のようになっていた。

 「日本銀行は、長期国債等の買入れについて、当面、以下のとおり運営することとしました(2018年8月1日より適用)」

 これに対して、今回8月31日に公表した「当面の長期国債等の買入れの運営について」の冒頭のコメントは次のようになっていた。

 「日本銀行は、長期国債等の買入れについて、弾力的に実施することとしており、当面、以下のとおり運営することとしました(2018年9月3日より適用)。」

 今回はそれとなく「弾力的に実施することとしており」という表現が入ってきているのである。弾力的だから上もあるかもしれないが、目的は下であろうと推測される。

 8月31日と7月31日の「当面の長期国債等の買入れの運営について」では、1年超5年以下のオファーレンジの上限がそれぞれ1000億円引き上げられている。また、5年超10年以下も同様に上限が1000億円引き上げられている。

 その代わりに買入回数が、1年超5年以下と5年超10年以下が8月の6回から5回に減っているのである。これについては9月は3連休が2回あり、決定会合もあり、国債入札日を除く買入日が、かなりタイトになってしまうためとの見方もある。

 しかし、レンジの上限を増やそうが、一回あたりの買入額がきちんとその分増加させるのかどうかは不透明で、オペの買入額次第では、これは実施的な買入弾力化・柔軟化の一環とみることもできるかもしれない。

 7月31日の債券先物はこれを受けて素直に下げた。AIが改良されたのか、それともAIは日銀の政策読み込みが機械にとってはあまりに難解で撤退し、本来の人の手による売買で売られたのかはわからない。今回の日銀の「当面の長期国債等の買入れの運営について」の一部修正は債券先物にとっては売り材料と認識された。


2018年9月3日「日銀の柔軟化にる長期金利の上昇は一時的で、その後低下してしまったのは何故なのか」

 日銀は7月31日の金融政策決定会合で「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」を決定した。タイトルは一見すると、さらなる緩和策に踏み込んだように見えなくもない。政策金利のフォワードガイダンスも導入した。

 31日の債券市場ではこれを受けて、先物主体にショートカバーの動きを強め、債券先物は150円80銭まで上昇し、引けは25銭高の150円69銭となった。10年債利回りも0.090%から0.045%に低下した。

 日銀が金融政策の柔軟化を検討していることが、7月20日の夜11時頃に時事通信やロイターが報じ、債券市場はこれを受けて臨戦態勢に入っていた。30日に10年債利回りは後場に入り10年債利回りが0.110%に上昇。これに対し日銀は指し値オペをオファー。このときの応札額・落札額は1兆6403億円もあった。

 31日の債券相場の反発はこのショートカバーとの見方もあったが、それよりも債券先物にHFTと呼ばれるAIなどを使った仕掛け的な買いが入った可能性が高い。AIが勘違いして追加緩和のように解釈したのであろう。

 8月1日にはあらためて、10年債利回りの上限を試すような動きとなり、10年債利回りは0.120%に上昇した。また、日銀の国債補完供給(国債売現先)の状況などからみて、30日の指し値オペ1.6兆円はその多くは空売り(ショート)とみられた。

 このため2日の10年国債入札は大きなショートカバーも入ったはずであったが、入札結果そのものはやや低調となった。このため10年債利回りは0.145%まで上昇。14時に日銀は指し値オペではなく、通じよう形式の臨時の国債買入をオファーしてきた。これは長期金利の上昇ピッチの速さに対応したとみられるが、結局、この日につけた10年債利回りの0.145%が直近で最高値となった。市場では日銀はこの水準で上昇を止めたいのではとの見方も出ていたが、あくまで少しブレーキを掛けたかっただけと想われる。

 その後の債券相場は値を戻す展開となり、10年債利回りは0.1%近辺でのもみあいとなっていた。債券先物は150円台を回復し、じりじりと買い戻された。この債券先物の買い戻しの要因としては、米国債の利回りが低下していたことが要因としては大きかった。

 米中貿易摩擦の拡大懸念やトルコリラの下落により、リスク回避の動きが起きており、それによって米国債が買い進まれ、円債もジリ高基調となっていた。13日に日本の10年債利回りは0.1%を割り込み、17日には0.085%まで低下した。

 債券市場の商いは次第に低迷し、27日の債券先物の日中値幅は3銭と6月28日以来の過去最低値幅となった。日銀は7月31日の金融政策決定会合で長期金利の操作目標を拡大させたものの、結局、それ以前の動かない相場に戻ってしまった格好となった。

 日銀の柔軟化に対しての債券の反応は一時的なものとなっていた。今後は円債に売り材料が出た際にあらためて日銀の長期金利のレンジを探ることも予想されるものの、当面は膠着感を強めることが予想される。


2018年9月2日「新興国ショックにもご用心」

 8月30日の欧米市場はリスク回避のような動きとなっていた。これはトランプ米大統領が中国からの輸入品2000億ドル相当への関税を来週に公聴会が終了し次第、発動したい考えだと伝えられ、これを受けて米中貿易摩擦の激化懸念が再び強まったこともある。

 それだけではなく、新興国通貨下落によるリスク回避の動きでもあった。

 アルゼンチン中央銀行は30日、主要政策金利を45%から60%に引き上げた。31%を超えているインフレ率を制御すると同時に、自国通貨の一段の下落に歯止めをかけたい考えだが、大幅な利上げにもかかわらずアルゼンチンペソはこの日の取引で、終値ベースで最安値を更新した(ロイター)。

 トルコの通貨リラの急落に端を発した「トルコショック」が他の新興国にも影響を与え、新興国の通貨安が加速している。ブラジルやインドの通貨も過去最安値の水準に下落しており、通貨安に伴う輸入物価の上昇を受けて、新興国の債券も売られ、利回りが上昇している。

 30日の米国株式市場は下落していたものの、ここにきてナスダックやS&P500が過去最高値を更新するなどしており、いまのところ金融市場でのリスク回避の動きは一時的なものに止まっている。31日は新興国通貨の下げが一服しており、過度な警戒感は後退したようにもみえるが、油断は許さない状況となりつつある。

 新興国の債務の大きさなども気掛かり材料となっている。トルコの対外債務の約20兆円が1年以内に返済期限という米銀試算も報じられている(ロイター)。

 米国株式市場の地合いに変化が生じるようなことがあると、新興国リスクが大きく表面化してくる可能性もありうる。これが世界的な危機となることは、いまのところ考えづらいものの、まったく無視できる状況でもない。


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