2018年7月17日「円安が進行する不思議」

 ドル円は今年初めの113円台から、3月にかけて下落基調となり、104円台まで下落した。その後は上昇トレンドを形成し、7月13日には112円台後半に上昇している。今年初めの水準に戻るのは時間の問題となってきた。

 ドルがほぼ全面高となり、これはドルが貿易戦争の恩恵を受けるとの見方によるものとされているが、円はドルだけでなくユーロやポンドに対しても下落していることで、円が売られているとの見方もできる。

 ドル円については日米の長期金利スプレッドが動く要因のひとつとなっているが、日米の長期金利のスプレッドは日本がほぼゼロ%に張り付いているので、米長期金利次第となる。こちらは戻りが鈍く、2.8%台で推移が続いており、日米金利差がドル円の押し上げ要因とはなっていない。

 12日に発表された6月の米消費者物価指数は前月比0.1%上昇、前年比で2.9%上昇となった。食品とエネルギーを除いたコア指数は前月比0.2%、前年比で2.3%上昇。総合の前年比では2012年2月以来の伸びとなった。物価も為替に影響を与えるが、通常は長期金利の動向を通じてのものとなる。12日の米10年債利回りはこのCPIが事前予想を下回ったとして、むしろ低下していた。

 FRBの正常化について、今年の利上げは4回との見方が強まっており、これもドルの押し上げ要因となるが、やはり長期金利が上がっていないことで、FRBの利上げそのものがここにきての上昇の主要因と判断しづらい。

 以前では日銀の金融調節に外為市場は敏感になっていたが、ここにきて日銀による国債買入の減額もほとんど材料視していない。ただし、7月の決定会合での物価が上がらないことに対する点検を受けて、8月以降、何かしらの調整を行うのではとの観測も一部に出ている。これはドル円にとっては下落要因、つまり円高要因となるはずである。しかし、これもある程度、織り込んだ上での円安の動きとなっているのか。

 ドル円は実需的な動きとの見方もある。また、トランプ政権の強引なやり方は、まさにアメリカンファーストの象徴となり、それはつまり外為市場でのドルファーストということになるのであろうか、

 それでは円の下落をどう見たら良いのか。アベノミクスの効果が出ての円安との見方は、ここにきての日銀の動きからもそうではないと見ざるを得ない。円安は安倍政権にとって好都合なのかもしれないが、果たして日本経済にとってもそうなのであろうか。

 日経平均や円債の動向を見る限りは、日本売りになっているわけではない。あくまで相対的にドルが高く、円が安い状態となっている。いまのところこの理由の説明は難しい。このままドル円のトレンドが継続するとなれば、115円が見えてくる。


2018年7月13日「日銀は異次元緩和による副作用の軽減策を検討か、日銀の英断を期待したい」

 日銀の雨宮副総裁は以前、朝日新聞のインタビューで「物価上昇率2%」について、「簡単に機械的に達成することは難しくなっている」と認め、7月の金融政策決定会合で要因を再点検する方針を示した。

 「もう一度物価が上がりにくい理由、物価観の形成の仕方などを点検する。物価動向について何が起きているのかをきちんと詰める」とも語っていた。

 その結果次第では簡単には物価目標は達成できず、このままの状態では半永久的に異次元緩和を続けざるを得ない状況に陥る可能性もあるのではなかろうか。そうなると懸念さけるのが、異次元緩和による副作用となる。

 副作用のひとつが国債市場への影響となる。すでに債券先物は日中、数銭しか動かず、現物債もカレント物と呼ばれる直近発行された国債までもが日本相互証券で出合わない日が何日も出てきている。相場が動かなければ、債券市場関係者はファンダメンタルなどに応じた金利の調整といった経験を積めないばかりか、人材も流出しつつある。また膨大な国債を抱えていてもそれによるリスクへの意識がかなり薄れてきていると言わざるを得ない。国債利回りの上昇に耐えうる市場でなくなってきている。

 雨宮副総裁は「副作用が緩和のメリットをひっくり返す大きさにはなっていない」としつつ、「(副作用が)知らないうちにたまっていることもあるので、注意深く見ていく必要がある」と指摘していた。その副作用としては金融機関の体力を奪っていることもある。

 6月14、15日に開催された金融政策決定会合における主な意見で、ある委員から「金融機関では、保有有価証券の評価損益の悪化に加え、低収益店舗の減損リスクも生じてきている。」との意見が出ていた。

 国際決済銀行(BIS)の関連組織は5日公表した報告書の中で、低金利の長期化が銀行収益の下押しなどを通じ「金融システムの脆弱性の原因になりうる」と警鐘を鳴らした(日経新聞)。これは日本に限ったことではないものの、異次元緩和による日本の金融機関への影響も危惧すべきものとなる。

 時事通信は「日銀は大規模な金融緩和が長期化する中、金融機関の収益悪化や国債取引の低迷など緩和がもたらす副作用の軽減に向け本格検討に入る。」と伝えている。

 「今月末の金融政策決定会合でまとめる経済・物価情勢の展望(展望リポート)では、物価見通しを下方修正する見込み。現在の大規模緩和策を抜け出す「出口」が見えない中、政策委員の一部でも、副作用への警戒感が広がっており、会合では突っ込んだ議論となりそうだ。」(時事)。

 この時事通信の記事は気になるところ。7月の決定会合で物価が上がらない要因を再点検し、このまま異次元緩和を続けて行くことによる副作用についても検討し、副作用を軽減しつつも大胆な緩和を継続するための政策について検討してくる可能性がある。

 ここにきて日銀の国債買入の減額などに為替市場が過剰反応してこなくなるなど、微調整イコール円高との認識が後退してきている状況も修正を行いやすくしているのではなかろうか。

 これにより、8月には何らかの調整を日銀が行ってくる可能性がある。国債やETFの買入額の柔軟化、そして長期金利コントロールの柔軟化などが候補となるのではないかと思われる。金融機関の収益など考慮するとマイナス金利政策をまず止めるべきと思われるが、これについてはややハードルは高いのではなかろうか。いずれにしても日銀の英断を期待したいところである。


2018年7月12日「国内投資家は5月に米国債主体に外債を売り越しに」

 9日に財務省は5月の国際収支状況(速報)を発表した。この中で、財務省のサイトにアップされた付表3にある対外・対内証券投資のうちの対内証券投資(地域別内訳)から日本の投資家がどのような海外資産を購入していたのかを確認してみたい。

「国際収支状況」財務省 http://www.mof.go.jp/international_policy/reference/balance_of_payments/release_date.htm

 対外証券投資で日本国内の投資家は、海外の中長期債をネットで1兆4543億円の売り越しとなっていた。売り越しは2月以来となる。ちなみに4月は2兆2888億円買い越しとなっていた。これを地域別内訳で確認してみたい。

 米債については2兆710億円の売り越しとなり、4月の7026億円の買い越しから売り越しに。ドイツ債については7121億円の売り越し、4月も6722億円の売り越しとなっていた。フランス債は1571億円の売り超し、4月は2980億円の買い越し、オランダ債は1329億円の買い越し、4月は3060億円の買い越しとなっていた。そして、イタリア債は854億円の売り越し、4月は1691億円の買い越し。スペイン債を387億円の買い越し、4月は3499億円の買い越しとなっていた。英国債は3971億円の買い越し、4月は196億円の買い越し。

 昨年10月以降、日本の投資家はドルヘッジコストの高騰を嫌気して、欧州債へのシフトを進めてきたとされる(ロイター)。日本の投資家がユーロを介して欧州の国債などを購入すると一定の利回りが確保できたためとも言える。特にイタリアやスペインなど周辺国の国債利回りは、ドイツなど中核国の国債の利回りに比べて高い。

 5月にはイタリアの政情不安が意識され、リスク回避の動きを強めた。米国債やドイツ国債などが買い進まれたことで、利益確定売りを国内投資家が行っていたものとみられる。

 6月の対外及び対内証券売買契約等の状況(指定報告機関ベース)によると、居住者が外債(中長期債)を1兆591億円買い越していた。6月に入り米債はいったん売られていたことで、そのタイミングで国内投資家は押し目買いを入れてきた可能性がある。


2018年7月11日「英国の外相辞任でも英国市場は動揺せず」

 サッカーのワールドカップロシア大会のベスト4には、フランスとベルギー、クロアチアとイングランドが進出し、準決勝は10日(日本時間11日)と11日(同12日)に行われる。イングランドは1990年のイタリア大会以来7大会ぶりの4強入りとなったが、準々決勝の試合会場には、英国の閣僚や英国王室メンバーの姿はなかった。

 これは英国南西部のソールズベリーでの元ロシア人スパイの毒殺未遂事件を受け、ワールドカップへの閣僚などのボイコットを決めたためである。しかし、イングランドが準決勝まで進んだことで、ボイコットを決めたメイ首相への風当たりも強まっている。

 もともとメイ首相はあまりサッカーには関心はなかったともされているが、政治的にもメイ首相はいま英国を離れるわけにはいかないような状況に追い込まれている。

 メイ首相が欧州連合(EU)離脱を巡って、EUとの関係を重視する穏健離脱の方針を打ち出したことに反発し、強硬派とされ、EUとの交渉の責任者であるデービスEU離脱担当相が8日に辞任した。9日にはやはり強硬派とされるジョンソン外相が辞任した。

 これを受けて外為市場ではポンドがドルに対して下落した。しかし、その下落も落ち着き、いまのところ英国発の金融市場でのリスクオフといった動きにはなってはいない。それどころかロンドン株式市場では、ポンド安を「好感」し、代表的な株価指数であるFTSE100種は続伸となっていた。ただし、英国債は買われ、10年債利回りは1.25%と先週末の1.27%から低下しており、多少はリスクオフの動きが出ていた可能性もある。

 確かに外相辞任により、英国のEU離脱の先行きが不透明になるものの、いまのところ離脱支持派の議員らはメイ首相に退陣を迫るようなことはなく、首相に対する不信任投票の動きも出ていない。

 現実として英国はメイ首相の穏健路線を取らざるを得ないと思われ、むしろ閣僚から強硬派の二人が辞任したことで、穏健路線を進めるきっかけになる可能性はある。ジョンソン外相の後任に指名されたジェレミー・ハント保健・社会福祉相は、元々はEU残留派だった。

 ただ、メイ首相にとってロシアとの関係悪化がなければ、ワールドカップの貴賓席に座り、イングランドチームの躍進を自らの追い風にできるチャンスもあったはず。もしこのままイングランドが決勝に進むようなことがあれば、国民の支持を得るためとして、ボイコットの方針を覆す必要が出てくるかもしれない。


2018年7月10日「米長期金利は低迷し、3%台回復は遠のくのか」

 米労働省が6日に発表した6月の雇用統計では、非農業雇用者数が前月比21.3万人増と予想の19.5万人増を上回った。失業率は18年ぶりの低水準である前月の3.8%から4.0%に上昇したが、雇用環境の改善により、多くの人が職を探し始めたことが要因となった。1時間当たりの賃金は前月から0.2%上昇と5月の0.3%から伸びがやや鈍化した。

 6日に米政府は340億ドル規模の中国製品に対する追加関税を予定通り発動し、中国商務省はその直後に声明を発表し、直ちに対抗せざるを得ないと表明し同額相当の米製品に関税を課すことを示唆した。

 貿易戦争が拡大してきたわけだが、6日の米国株式市場はこれについては比較的冷静に反応したようである。これはすでに予定されていたことで株価にはある程度織り込まれていたためとみられる。市場は予想されていたことについては、噂で売って事実で買い戻すような動きを示す。今後注意すべきは、市場の予想を超えて貿易戦争が拡大するようなことであるが、これについては予想も難しい。

 6日の米国債券市場では、米雇用統計を受けての米景気拡大が意識されての株高を嫌気したものの、賃金の伸び率鈍化により、インフレ拡大の懸念が後退したことで、むしろ買われて米10年債利回りは2.82%と前日の2.83%から小幅低下していた。

 米10年債利回りの推移をみると、5月半ばに一時3%台に乗せてから、その後低下して現在は2.8%台にいる。米長期金利の低下の要因としては、米国と中国など貿易相手国に対する関税の発動とそれに対する対抗措置による貿易摩擦拡大の懸念があった。また、イタリアでの五つ星運動と同盟による連立政権が発足も懸念材料とされた。

 6月13日のFOMCでは予想通り、政策金利を年1.50〜1.75%から1.75〜2.00%に引き上げられた。また、今年の利上げ回数の見通しは、これまでの3回から計4回となった。しかし、これによる米長期金利への影響も限定的であった。

 米商務省が6月29日に発表した5月の個人消費支出(PCE)価格指数で、FRBの物価の目安としている、変動の大きい食品とエネルギーを除いたコア指数は前年同月2.0%の上昇となり、6年ぶりにFRBの物価目標である2%を達成した。しかし、これに対しての米長期金利の反応も限られていた。

 さらに物価に影響を与える原油価格もあらためて上昇しつつあり、7月に入りWTI先物8月限は一時75ドル台に上昇した。しかし、これによる米債への影響もいまのところ限定的となっていた。

 トランプ政権がさらにいろいろと仕掛けてくる可能性もあり、先行きが不透明な分、米長期金利の戻りが抑制されている面はあるかもしれないが、それにしても米長期金利の戻りは鈍く、それはドル円の上値も重くさせている。

 もう少し様子を見る必要はあるものの、米長期金利の低迷はいつまで続くのか。3%への戻りは今後、かなり厳しくなるのか。もし米長期金利がこのままの状態が続き、FRBの利上げが継続すると、さらに米国の長短金利のスプレッドは縮小することになる。


2018年7月9日「日本のキャッシュレス化に必要なのは、仮想通貨などではなくデビット決済の普及か」

 ビットコインなど仮想通貨が出現し、ネット上で生み出された仮想通貨が法定通貨に置き換わり、これにより日本でもキャッシュレス社会が到来するのではとの見方が出ていた。しかし、仮想通貨の価格が乱高下したことにより通貨としての機能が疑問視された上に、巨額の不正流出事件などもあり、それが法定通貨に置き換わる可能性はないとみた方が良い。

 ケネス・S・ロゴフの「現金の呪い」などから、日本でも高額紙幣を廃止すべきとの声も出ていた。Finance(金融)とTechnology(技術)を組み合わせたFintechという造語も生み出され、日本の高額紙幣廃止議論にIT技術を絡めて、キャッシュレス化を進めるべき議論と仮想通貨への期待が混ざり合い、日本でどのようにしてキャッシュレス化を進めるべきかという議論が置き去りにされてしまった感がある。

 そもそも高額紙幣廃止議論とキャッシュレス化は特に日本では議論の本質が異なる。犯罪防止のために日本で高額紙幣を廃止すべきという議論はロゴフ氏の著書にもあったが、あまりに日本の現金利用が多いのは犯罪に使われているに違いないとの認識が前提にあったように思う。これについては税金等に絡んでまったくないとは言い切れないが、たとえば日本円が巨額のマネーロンダリングに利用されているようなことは考えづらい。

 ここですべき議論は、日本が海外に比べて特に小額取引のキャッシュレス化が遅れているように見えるが、それは何故なのかという点ではなかろうか。そもそもキャッシュレス化は店舗側を含めて使う人達に利便性はあるのかと言う議論から始めなければならないと思う。

 なぜ日本で現金利用比率が高いのかについては、日本円への信頼度の高さ、ATMなどを使った利便性の高さ、偽札の少なさ、治安の良さなど挙げられているが、日銀を中心に現金を使える高度のインフラが整備されているためである。

 中国などが現金を飛び越えてスマホ決済の普及が拡大したのは、自国通貨の使いにくさがむしろ背景にあった。一般電話の普及が遅れていたところが、家庭電話でなく携帯電話が一気に普及したようなものである。

 それでは日本でもキャッシュレス化は必要なのかと問われれば、費用の問題も含めて必要だと思われる。ただし、キャッシュレス化の浸透については国ごとに理由も異なる事は確かである。それでは何が日本でのキャッシュレス化を阻んでいるのか。ここに面白い事例がある。オランダである。ユーロ圏ではスウェーデンなどの北欧に次いでキャッシュレス化が進んでいる。

 オランダも日本と同様にデビット決済の普及が進んでいなかった。ちなみにデビット決済とは自分の銀行口座に紐付けされたカードなどで、口座の資金を店舗での支払いに充てることができるものである。

 オランダではデビット決済を普及させるため、銀行間の提携が図られ、さらに特に店舗側で、現金利用よりもデビット決済の方が費用が軽減できることを中央銀行での議論などを通じて広めた。これらをきっかけに急速にデビット決済の普及が進み、それがオランダでのキャッシュレス化普及の原動力となった。

 日銀はレポートで日本においてデビットカードの利用が広まっていない理由として次のような説明をしていた。

 「米国では銀行業界が、大量の小切手処理に伴うコスト削減の観点から、小切手を代替するデビットカードの普及に努めたのに対し、日本ではもともと小口決済において小切手の利用が普及していなかったことや、クレジットカードの発行に伴う審査が諸外国に比べ厳しくなく、比較的多くの人々がクレジットカードを持てること、さらには、このようなクレジットカードが利用される際、一回払いが選択される場合が多く、機能的にはもともとデビットカードに類似した使われ方がなされていることなどが挙げられる。」(日銀レポートより)

 たしかにこのような理由もあろうが、そもそもデビット決済に馴染みがないことも大きい。中国やスウェーデン、さらに韓国のキャッシュレス化をみても、そのキーとなっているのがデビット決済を主体とした銀行と紐付けされた決済となっている。日本でスマホ決済を主体としてキャッシュレス化を浸透させるためには、デビット決済のような銀行と紐付けされた決済が必要になる。

 そのためにはオランダの事例のように銀行間の提携と、店舗側に対してデビット決済が費用面などで有利なことを認識してもらうこと、その有利さを出すためには多種多様の方式ではなく、単一の決済方式に集約することなどが求められるのではなかろうか。

 スマホ決済などの利用については、その利用状況そのものが利用価値の大きな情報データとなりうることで、このあたりも注意しながら、政府や中央銀行などが先導役となり、進めて行く必要もあるのではなかろうか。


2018年7月8日「物価が低迷している謎を解き明かせるのか」

 日銀は7月30、31日に開催される金融政策決定会合で、物価動向を再検証する。雨宮副総裁は朝日新聞のインタビューで、「もう一度物価が上がりにくい理由、物価観の形成の仕方などを点検する。物価動向について何が起きているのかをきちんと詰める」と語っていた。今回は検証ではなく点検という位置づけである。

 このインタビューで雨宮副総裁は、物価の伸び悩みは先進国に共通するとし、「『アマゾン・エフェクト』と呼ばれるネット販売の物価引き下げ効果」などを理由に挙げた。日本では人手不足でも賃上げは非正規雇用が中心で、正規雇用では雇用安定を重視する傾向が強いとも指摘。「労働需給の引き締まりが賃金上昇に及ぶのに時間がかかる」と述べていた。

 日銀はアマゾンなどのインターネット通販の拡大に伴って、消費者物価指数(除く生鮮食品、エネルギー)の伸び率が0.1〜0.2%程度押し下げられるとする試算結果を公表している。ネット通販との競合度が高いとみられる日用品や衣類には、0.3%程度の押し下げ効果があるとの結果も出している。

 日経新聞の記事によるとドラッグストアーが医薬品だけでなく食品でも安値をけん引していることで、消費者物価指数を0.1%ほど押し下げているとの試算も出ていた。

 企業業績が上向いているにも関わらず、それが賃上げには回りづらくなっていることも確かで、例えば日銀が27日に発表した資金循環統計(速報)によると、2017年度の民間企業(金融を除く)の資金余剰が27兆6672億円となり、2016年度から10兆円あまり増え、7年ぶりの高水準となった(日経新聞)。

 世界経済の拡大基調が寄与して国内企業の業績も伸びてはいるものの、余剰資金は賃上げや設備投資には向かわず、今後のリスクも意識してか内部にため込まれている。日本企業は自力で収益を上げているというよりも、欧米を主体とする景気拡大という他力によって、業績が向上していることもいえることで、無理に勝負に出ることはせずに、国内でのポール回しに徹しているようにもみえる。

 これらの状況を打破するために、果たして日銀の異次元緩和はどれだけ有効なのか。そして、グローバルスタンダードとされる物価目標の2%という数字は適切なのかも本来であれば、再検証する必要はないのか。

 日銀が2013年4月に異次元緩和を決定してからの物価の動向も検証する必要があろう。日銀の緩和策が強力に物価に働きかけるのであれば、他の要因によってそれが阻害されることは考えづらい。2014年4月の消費増税が物価低迷の要因と指摘する声も出ているが、これについても検証してほしいところではある。


2018年7月6日「中国でのスマホ決済事情からみた日本のキャッシュレス化に必要なこと」

 中国では支付宝(アリペイ)などスマホ決済を手掛ける事業者に対し、利用者が前払いしたお金のすべてを、中国人民銀行(中央銀行)に預けるよう義務づけると4日の日経新聞が報じた。アリババ集団とスマホ決済市場を二分する騰訊控股(テンセント)の両社にとって影響は避けられない見通しとなった。

 これは何が問題となっているのか。アリババ集団のAlipay(支付宝)とテンセントのWeChat Pay(財付通)が中国でのスマホ決済の2強とされる。中国でのスマホ決済の普及はこの両社が競って拡がった面もあるが、それぞれ銀行ではない。それではどのような形式で両社は決済を行っているのか。

 アリババは電子商取引サイトなどを通じて多数のユーザーを獲得し、中国版のLINEとされるするメッセンジャーサービスのWeChatも中国で高いシェアを誇っていたが、こちらもネットを通じた電子商取引を行っていた。

 2002年に金融企業「銀聯」が設立されたが、これは中国の銀行カード産業の発展を目的としている。クレジットカードというよりも多くはデビットカードとして発行されている。銀聯は店舗に銀聯カードが使えるように、POS連動可能なカード読取機を貸し出し、カードは急速に普及することになる。これにより中国でのキャッシュレス化が進むわけだが、中国政府はさらに第三者決済機関に清算業務への参入を認可することになる。

 これを受けてアリババ集団のAlipayとテンセントのWeChat Payが店舗での決済業務に進出することができるようになった。しかも銀行と紐付けすることによって登録したカードの口座から即座に引き落とすことが可能となった。さらにプリペイドカードのようにアプリ内に事前にチャージした金額から支払うことが可能となったのである。今回、問題となったのが後者のチャージである。

 アリババやテンセントは、前払い金を預かっても利用者への利息はゼロである一方、滞留資金を銀行に預けるなどして金利収入を得ていた。アリババなどが受け取っている金利は市場推定で1%台半ばとされる。滞留資金は現時点で5000億元(約8兆3000億円強)規模にのぼり、年換算で1000億円超の金利収入を得ている計算となる。これが2019年以降、この利息収入はほぼゼロになる見込み(前述の日経新聞の記事より)。

 AlipayやWeChat Payを利用する際に、店舗側が支払う手数料は原則ゼロとされているようである。これは滞留資金による利息収入などにより利益を挙げていたためとみられ、今回の措置によりこのビジネスモデルが崩れる可能性がある。

 ちなみに日本ですでに行われているスマホ決済については、決済に関しては主にクレジットカードが使われている。これでは清算から決済に至るまで数社が絡むことになり、費用負担も大きくなり、店舗側の負担も大きくなってしまうことになる。日本でのキャッシュレス化を普及させるには、このスマホ決済が鍵となりそうだが、それには店舗側の費用負担の軽減も課題となる。

 スウェーデンのスマホ決済のSWISHは携帯電話の電話番号とBank IDと呼ばれる番号を利用することにより銀行と紐づけされることによって決済が可能となる。日本でのスマホ決済の普及については、この銀行との紐付けがひとつのポイントとなるのではなかろうか。ただし、銀行と紐付けされることについては、どうして日本ではデビットカードの普及が進まなかったのかということも検討課題となりそうである。


2018年7月5日「住宅ローンは変動型にすべきか固定型にすべきか、それは日銀次第!?」

 住宅ローンを変動型金利で借りる人が急速に増えていると3日に日経新聞が伝えた。住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)によるアンケート調査によると、変動型の割合が固定型を5年ぶりに上回ったそうである。

 このアンケート調査によると、変動型金利で借りている人の割合は、10年前は2〜3割だったが、その後2011〜2012年度に5割を上回った。しかし、日銀が異次元緩和に踏み込んだ2013年4月以降は物価上昇に伴う将来の利上げを警戒する心理が働き、固定型の金利で借りる人が増えたとしている(日経新聞)。

 お金を借りる際に固定金利タイプにするか、変動金利タイプにするのか。特に住宅ローンのように長期間に渡り、個人にとっては巨額の資金を借り入れる際には、なかなか悩ましいところとなる。これは資金を貸すと言う点で裏返しとなるものの、個人向け国債を購入する際に5年か3年の固定金利タイプにするのか、10年の変動タイプにするのかという選択と似たところがある。

 通常であれば、金利が低いときには将来の金利上昇に備えて固定タイプで借りるということになる。住宅ローンを借りるタイミングを金利の動向に合わせてというのは難しく、ローンを組んで住宅を建てる際の金利動向を見ながらの選択となる。

 変動型金利で借りている人の割合が10年前は2〜3割だったが、その後2011〜2012年度に5割を上回ったというのは、リーマン・ショックや欧州の信用不安を受け、欧米の中央銀行や日銀も含め、強力な金融緩和政策を推し進めることになった。日本の長期金利は低下し1%を割り込むが、日銀の政策金利はほぼゼロ%近くに低下した。

 住宅ローンの変動タイプは主に短期金利に連動することから、固定金利より変動金利の金利の低さ、さらに金融不安が簡単には解消しないとの見方も変動タイプを選択させたのではないかと思われる。

 しかし、世界的なリスクの後退局面で、日銀は2013年4月に異次元緩和を決定し、物価を上げようとする姿勢を強めてきた。急激な円高調整と世界的なリスク後退のタイミングでもあったことで株価も大きく戻してきた。債券市場関係者はさておき、一般には物価と金利の先高感が強まっていたとしてもおかしくはない。現実に消費者物価指数はプラスに転じるなどしたこともあり、金利の低いうちに固定金利で借りようとの動きが強まったと思われる。

 しかし、日銀が結果として長短金利操作付き量的・質的緩和といういろいろな合わせ技で金融緩和策を講じても物価はいっこうに上がらず、短期金利はマイナスとなり、これがいつまで続くのか検討が付かなくなっているのが現状となり、そうなると現在の日銀がそう簡単に政策金利を引き上げることはできないとの認識も強まる。将来の金利上昇の可能性はあるかもしれないが、低い変動金利で借りていても問題はないのではとの認識も働いて、再び変動金利型が増えてきているのではなかろうか。

 日経新聞はもう一つの要因としてローンの借り換えが増えていることも指摘している。ローンの借り換えとなれば期間はさほど長くはなく、金利上昇リスクは低いとの認識とみられる。

 それでは現状、住宅ローンは固定で借りた方が良いのか、変動で借りた方が良いのか。これは日銀次第ということになる。いまの日銀が行っている金融政策は、長短金利操作付き量的・質的緩和であり、主な変動金利に影響を与える短期金利と、主な固定金利に影響を与える長期金利の両方を操作しているのが日銀である。

 いったい日銀はこの政策をいつまで続けるのか。それは政治の問題とも絡んでくることもあり、かなり不透明感も強く、現状は多少の微調整はあっても、金利を大きく引き上げることはできないとの見方も強い。それでも10年、20年先の金利まで見通せるわけではなく、将来的な金利上昇リスクを考慮すれば、固定の方が安心ではある。

 ちなみに私は個人向け国債について固定タイプと変動タイプのどちらが良いのかという選択について、それが発行された当初から、将来の長期金利の上昇を期待して変動タイプが良いと答えてきたが、結果として長期金利の上昇は限られ、変動タイプは金利がディスカウントされる分、結果として固定タイプの方が有利となったケースが多かったのではないかと思われる。つまり裏返すと、15年あたり前からみると、現状は住宅ローンは変動タイプで借りた方が良かったのではということになる。

 しかし、現状の長短金利差は、ローン金利なので短期のマイナスはありえないとして、0.1%少々となり微々たる差である。将来、金利が上昇する可能性は十分ありうることを考慮すれば固定タイプの方が安心であるとは思う。これも結局は日銀次第ということになるのだが。


2018年7月4日「マネタリーベースの月末残が500兆円超え、さらに増やす意味はあるのか」

 7月3日に日銀が発表した6月のマネタリーベースによると、6月の月末残のマネタリーベースが502兆9173億円と初めて500兆円を超えてきた。

 2013年4月に日銀は量的・質的緩和政策、いわゆる異次元緩和を決定した。この際にマネタリーベース・コントロールを採用し、マネタリーベースおよび長期国債・ETFの保有額を2年間で2倍に拡大するなどして、消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現するとした。

 量的・質的緩和政策を決定した2013年4月末のマネタリーベースは155兆2803億円となっていた。その2年後の2015年4月末マネタリーベースは305兆8771億円とほぼ2倍近くなっていた。消費者物価指数(除く生鮮、コアCPI)でみると2013年4月が前年比マイナス0.4%、2015年4月が同ゼロ%となっていた。

 その後もマネタリーベースは増加し続けるものの、コアCPIは再び前年比マイナスとなった。2016年1月に日銀はマイナス金利付き量的・質的緩和を導入、同年9月に長短金利操作付き量的・質的金融緩和を決定した。

 マネタリーベースは2016年6月に400兆円を超えてきた。この月のコアCPIは前年比マイナス0.4%となった。

 そして2018年7月にマネタリーベースの月末残が500兆円超えてきた。コアCPIは2018年2月に前年比1.0%と一時1%台に乗せてきたものの、ここにきてプラス0.7%とやや低迷している。

 これを見るまでもなく、マネタリーベースを急激に増加させても消費者物価を押し上げる効果があるようには見えない。

 日銀は2016年9月に決定した長短金利操作付き量的・質的金融緩和により、操作目標を量から再び金利に戻している。これにより長期国債の買入ペースをやや落としてきてはいるものの、大量の国債などの買入は続けており、その結果としてマネタリーベースも増え続けている。

 大量の国債買入とマイナス金利政策により金融機関の収益を圧迫するばかりでなく、債券市場の機能も急激に低下しつつある。見えない副作用が蓄積されるなかで、マネタリーベースをここから更に増加させる意味があるのか。あらためて問う必要もあるのではなかろうか。


2018年7月3日「米国は今頃になって物価目標を達成」

 米商務省が29日に発表した5月の個人消費支出(PCE)価格指数は前年同月比で2.3%の上昇となり、2012年3月以来6年2か月ぶりの大幅な伸びとなった。

 そしてFRBの物価の目安としている、変動の大きい食品とエネルギーを除いたコア指数は前年同月2.0%の上昇となり、6年ぶりにFRBの物価目標である2%を達成した。

 2012年1月25日のFOMCの終了後に発表された「長期目標と政策戦略」という声明文において、FRBは物価に対して特定の長期的な目標(ゴール)を置くこととし、それをPCEの物価指数(PCEデフレーター)の2%とした。

 米商務省が発表している個人所得(Personal income)、個人消費支出(Personal consumption expenditures)、PCEデフレーター(Personal Consumption Expenditure Deflator)は米国の経済指標の中にあって、注目されるもののひとつである。

 これらは米国の個人の所得と消費について調査した指標であるが、このうち個人所得とは、社会保険料を控除し実際に個人が受け取った所得となる。個人消費支出(PCE)とは1か月間に実際に米国の個人が消費支出した金額について集計したもの。

 名目個人消費支出(名目PCE)を実質個人消費支出(実質PCE)で割ったものが、個人消費支出(PCE)物価指数もしくはPCEデフレーターと呼ばれるものである。

 2012年1月にFRBが物価目標目安としてコアPCEデフレーターの2%という数字を置いた後、コアPCEデフレーターは同年3月に前年比2.0%と目標値をつけたが、その後は2%を下回る月が続き、2013年3月に前年比1.1%となった。そしてやっとここにきてFRBの物価の目安が達成されたということになる。

 目安とか目標という表現が混在しているが、これは日銀が掲げた物価目標とは異なり、おおよその目安といった意識のあるもので、その分柔軟性があり、このため目標は達成していなくても、FRBは正常化を進めてきているのである。

 FRBは2014年にテーパリングを終了させて、2015年12月から利上げを開始した。FRBの金融政策の推移とコアPCEデフレーターの推移をみてもかならずしもリンクしていない。FRBが正常化路線を進めるほどに、世界的なリスクが後退し、景気は拡大、それによって物価も回復してきたとみた方が良いのではかろうか。

 これはFRBの金融政策の効果がないと言っているわけではない。リーマン・ショックや欧州の信用リスクに対する金融市場のリスクを後退させるためには、FRBの大胆な緩和策がそれなりの効果があったと思われる。ただし、それにも関わらず、世界的なリスク後退局面で、2%という絶対的な物価目標を政府の意向により掲げさせられ、そこから異次元緩和を実施した中央銀行があったように思うが、何をしたかったのであろうか。


2018年7月1日「日本でのキャッシュレス化を普及させために必要なこと」

 以前に日本の現金利用率の高さには何かしらの原因があるため、電子マネーへの移行を促進する必要があるとの主張があった。現金保有の高さの原因として、マネーローンダリングや脱税に使われているためとの見方があった。

 マネーローンダリングや脱税に全く使われていないとは確かに断言はできない。持ち主不明の多額の現金が見つかることもある。ただし、これは年配者がその存在そのものを忘れていたというケースもあるとみられ、一概に脱税のための現金とは言えない。

 そもそも日本の現金保有率の高さの原因としては、その使い勝手の良さが挙げられる。治安が良いこと、偽札が少ないこと、日本全国どこでも利用できることなど利便性の良いところが、日本人による現金利用の高さの背景にある。

 ただし、小額利用については今後、中国などのようにQRコード決済を使った電子決済が普及してくる可能性がある。日本のキャッシュレス化を推進するために経済産業省はQRコードを使った決済の規格統一に乗り出すとされているる。ただし、すでにヤフーや楽天やOrigamiなどはQRコード決済サービスを展開し、セブンイレブンも独自のスマホ決済を導入。NTTドコモ、KDDI、JCB、さらにメガバンクなどもQRコード決済サービスを進める計画とされておりおり、様々な形式のサービスが登場しつつある。

 このままだと利用者にとっては、各種のQRコード決済を使い分けなくてはならず、財布のなかのポイントカードのごとく、スマートフォンにアプリが溢れてしまうような事態にもなりかねない。

 中国ではAlipay、WeChat Payが、スウェーデンでは大手行などが共同で開発した単一のモバイル決済スウィッシュによってキャッシュレス化が進行する要因となっていた。台湾でも台湾政府が主導して生まれた台湾Payが昨年スタートしている。

 日本でこのまま多種多様のQRコードを使ったモバイル決済が存在するとなれば、それはモバイル決済の普及を妨げる可能性もあるのではなかろうか。とはいえ、ここまで多種多様の方式がすでに生まれていることもあり、経済産業省が率先して独占化を進めるのも難しいかもしれない。ある程度は市場原理に委ねる必要もある。それでも日本でキャッシュレス化を普及させるためには、スウェーデンや台湾のように独占的な決済方式にまとめることも必要となるのではないかと思う。

 また、このQRコードのセキュリティについて、神戸大学の森井昌克教授らのグループが検証したところ、コードを作成する際に不正な操作を加えると、本来の情報に加えて、偽の情報を仕込むことができることがわかったそうである。今後、日本でもQRコードを使った電子決済が急速に拡大する可能性があることから、このようなセキュリティ上の弱点が存在することも前もって認識しておく必要があろう。


2018年7月1日「日銀は異次元緩和の副作用を意識、政策の微調整はあるのか」

 現在の異次元緩和のキーパーソンともいえる日銀の雨宮正佳副総裁が相次いでメディアのインタビューに応じていた。

 朝日新聞のインタビュー記事をみると、雨宮副総裁は、「物価上昇率2%」について、「簡単に機械的に達成することは難しくなっている」と認め、7月の金融政策決定会合で要因を再点検する方針を示した。これについては黒田日銀総裁も会見で示唆していた。

 これについて雨宮副総裁は、「もう一度物価が上がりにくい理由、物価観の形成の仕方などを点検する。物価動向について何が起きているのかをきちんと詰める」と語っていた。

 これまでのリフレ派の主張をそのまま取り込んだような政策から軌道修正を行う可能性がある。

 雨宮氏は「副作用が緩和のメリットをひっくり返す大きさにはなっていない」としつつ、「(副作用が)知らないうちにたまっていることもあるので、注意深く見ていく必要がある」とした(朝日新聞)。

 ブルームバーグでのインタビューでも、「だんだん累積的にたまっていくものなので注意深く見ていく」と説明している。

 副作用については、6月14、15日に開催された金融政策決定会合における主な意見で、ある委員から「金融機関では、保有有価証券の評価損益の悪化に加え、低収益店舗の減損リスクも生じてきている。金融政策の継続にあたっては、その効果と副作用の二つの時間軸を意識し、副作用が顕在化する前から対応を検討しておくことが必要となる。」との意見が出されていた。

 そして注目すべきは 今後の緩和策の修正に関しての雨宮副総裁の説明となる。

 「物価目標を安定的に達成するために必要なら、調整はあり得るし、排除してはいけないと思う」と述べ、修正するかは「物価や経済の状況、副作用の総合判断」とした(朝日新聞)。

 「必要な政策の調整は排除すべきではない」(ブルームバーグ)

 雨宮副総裁から、インタビューを通じて緩和策の修正に関する発言が出たことは注目すべきと思う。もちろんこれで、すぐにも微調整があるということではないが、その準備も進めている可能性がありうる。

 すでに日銀は国債の買入額を修正しつつある。これは今後もタイミングを見ながら進めてくるとみられる。そして、債券市場の機能低下という問題に対して、長期金利の目標値を若干引き上げるか、もしくはターゲットのレンジを拡げるなどしてくる可能性がある。

 金融機関への影響を考慮するとマイナス金利政策も止めるべきではあるが、こちらの判断は黒田総裁次第とみられ、ややハードルが高いかもしれない。

 さらに日銀のETFなどの買入についても、日銀が実質的な筆頭株主になっていることや、本来市場に委ねるべき相場形成への影響についても危惧されつつある。こちらは株式市場への影響が大きいだけに慎重に行う必要はありながら、ストック効果を強調しつつ、いずれ新規の買入を減額もしくは停止すべきと考える。


2018年7月1日「日本の国債市場の機能低下に対する市場からの悲痛な声」

 25日に開催された国債市場特別参加者会合の議事要旨が財務省のサイトにアップされている。国債市場特別参加者はプライマリー・ディーラーとも呼ばれ国債入札に参加する主要な業者となる。

 国債市場特別参加者会合での「最近の国債市場の状況と今後の見通しについて」に関しては次のような意見が出されていた。

 「市場機能が落ちてきていると言わざるを得ないとの認識を持っている。また、入札後のパフォーマンスがよくない中で、証券会社の体力が落ちており、市中での売買もかなり減少している。このような状況がこのまま継続してしまうことに危機感を抱いている。

 「市場機能が失われ、市場参加者が減ってしまうと、何かイベントが起きたときに、受け皿になるような参加者がいなくなり、大きなボラティリティを生み出すのではないかと懸念している。市場機能をいかに残していくのかということを真剣に考えていかなくてはならないとの問題意識を持っている。」

 「ボラティリティが非常に低い状況がこのまま続いていくと、債券部門における収益が低下し、同部門に割り当てられるバランスシートの金額も減少する。こうした低金利・低ボラティリティ・低収益の状況が続くことにより、金利が動いたときの受け皿となるマーケットの深みが失われることを懸念しており、当局においても注視してほしい。」

 「外部環境に関係なく、日銀買入オペに依存した取引が中心になっており、マーケットとして重要な価格発見機能が失われていると考えている。また、ファンダメンタルズからかけ離れた低金利と低ボラティティの長期化によって、収益性が乏しくなった国債売買への興味が大きく低下しており、市場参加者も減少している。」

 「業者間のカレント銘柄の売買がほとんど行われておらず、このような状況が続くことによって、収益性が低下し、バランスシート・資本・人員といった面で債券部門への割り当てを考え直さざるを得なくなってきている。」

 これをみてもわかるように市場参加者は国債市場の機能低下に対してかなりの危機感を抱いている。2年国債や5年国債のカレントは出合いのない日も多く、10年国債カレントも出合っても1本値という状態が続いている。28日の債券先物の日中値幅はわずか3銭しかなく、記録的な小ささとなってしまっている。

 この状態が続くと投資先としての国債の魅力が失われ、国債市場への関心も後退することで、ますます日銀の出口政策をやりにくくさせかねない。日銀は異次元緩和策の枠内で、もう少し長期金利が動くようにレンジを調節するなりの対応が求められよう。しかもできるだけ早く。それほど国債の市場機能は低下してしまっていると言わざるを得ない。


2018年7月1日「長期国債先物を対象にした相場操縦で2億円を超える課徴金、いったい何があったのか」

 証券取引等監視委員会は29日、三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社に対し、長期国債先物に係る相場操縦を行ったとして、2億1837万円の課徴金納付を命じるよう金融庁に勧告したと発表した。

 証券会社による長期国債先物を対象にした相場操縦は初めてとなる。また、デリバティブ(金融派生商品)に限ると、過去最大の課徴金額になるそうである。

 さすがにこれはびっくりした。私自身、長期国債先物(債券先物)に関わりたくて債券ディーラーとなったぐらいであり、1985年の債券先物の上場以来、15年程度は直接関わり、その後も間接的ながら関わってきた。

 はっきり言って、何を今更という気がしなくもない。私が債券ディーラー時代には、今回の処罰の対象となった「見せ玉」のようなものは、ある意味日常茶飯事であったように思う。寄り付き前とかに大きな板を入れたり、出したりするのが普通にあった(と思う)。

 それでもこれまで今回のような相場操縦の疑いで課徴金が課せられることがなかったのは、それがプロ同士の世界であったからだと勝手に解釈していた。ところが、債券先物が上場して33年目にして、見せ玉による相場操縦で課徴金が課せられたというのは、いったい何があったのか。

 しかも、それが三菱UFJモルガン・スタンレー証券ということで二度びっくりである。取引所での債券先物については株の取引と異なり、銀行が準会員として取引に参加している。それだけ都銀を中心とした銀行は債券市場に大きな影響力を持っている。そのなかでも特に三菱銀行は一目置かれた存在ともいえた。その三菱銀行(いまは三菱UFJ銀行)の系列の証券会社に課徴金が課せられたのである。

 証券取引等監視委員会がサイトにアップした「三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社による長期国債先物に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の勧告について」によると、相場操縦が行われたのは昨年8月25日午後6時34分頃から同日午後7時9分頃までの間。

 債券先物は前後場と呼ばれる日中の商いが終了したあと、ナイトセッションという取引が15時半から翌日の5時半まで行われている。今回、見せ玉が行われたのは売買高が少ないナイトセッションで行われたものである。

 手元のデータによると8月25日のナイトセッションの債券先物の売買高は5426億円となっていた。ちなみに25日の日中の商いは2兆4731億円となっており、ナイトセッションの売買高の少なさがわかろう。値動きも日中は150円95銭から151円10銭と15銭動いていたのに対し、ナイトセッションは151円07銭から151円17銭と10銭しかなかった。

 現在のほうが債券先物は日中3銭しか動かないなど、さらに膠着相場となっているが、昨年8月あたりも15銭しか動かない、との感覚であったろうと思う。

 それで動かなさに嫌気が差して?見せ玉を使って、151円13銭で177枚ショート(売)して、151円12銭で見せ玉を使って158枚をカバー(買い戻し)したのであろうか。158枚を1銭抜いたので158万円の利益である。どうやらこれを行ったのは一人のディーラーだったようで、見せ玉で商いを作って、158万円の利益のために、結果として2億円を超える課徴金が課せられたことになる。


2018年7月1日「アマゾンが米国で医薬品事業に本格参入、新たな物価引き下げ要因(アマゾン・エフェクト)に」

アマゾン・ドット・コムは28日、処方薬のインターネット販売を手掛けるピルパックを買収すると発表した。これにより医薬品の販売に本格参入する。ピルパックは全米への医薬品配送を規制当局から許可されており、ネットで処方箋を受け付け、1回の服用分を小分けに包装して配送している。米小売り最大手のウォルマートもピルパック買収に関心を示していたが、アマゾンが競り勝ったようである。

 28日の米国株式市場では、これを受けて26日にダウ平均の構成銘柄に採用されたばかりのドラッグストアー大手、ウォルグリーン・ブーツ・アライアンスの株価が大きく下落し、この一銘柄だけで、ダウ平均を44ドルあまり押し下げた。買収によりアマゾンがハワイを除く49州で処方箋薬を販売できるようになることなどが警戒されたようである。

 ちなみに28日の米国株式市場では、ゴールドマン・サックスやJPモルガン・チェースなどが買われ、アマゾンなどハイテク株にも押し目買いが入ったことからダウ平均は98ドル高となっていた。

 日銀の雨宮副総裁は朝日新聞の単独インタビューで、物価の伸び悩みは先進国に共通するとし、「アマゾン・エフェクト」と呼ばれるネット販売の物価引き下げ効果などを理由に挙げた。

 また日銀はアマゾンなどのインターネット通販の拡大に伴って、消費者物価指数(除く生鮮食品、エネルギー)の伸び率が0.1〜0.2%程度押し下げられるとする試算結果を公表している。ネット通販との競合度が高いとみられる日用品や衣類には、0.3%程度の押し下げ効果があるとの結果も出している。

 そして日本でのドラッグストアーであるが、日経新聞の記事によると医薬品だけでなく食品でも安値をけん引していることで、消費者物価指数を0.1%ほど押し下げているとの試算が出ているそうである。

 日本でアマゾンが米医薬品事業に本格参入することはいまのところは考えづらい。しかし、可能性がまったくないわけではない。

 物価の押し下げ要因となっているドラッグストアーにとって、今度はアマゾンが脅威となり、アマゾン・エフェクトによって物価はさらに押し下げられるといった構図も生まれそうである。

 米国のトランプ政権は先月に薬価引き下げ計画を公表したものの、これまでに発言に見合った成果をほとんど挙げていない。しかし、それをトランプ大統領の宿敵とされるベゾス氏率いるアマゾンが実施しそうという皮肉な結果となりつつある。


2018年7月1日「欧州や日本での炭酸ガス不足でビールやコーラ、ドライアイスへの供給に影響が」

地球温暖化により問題視されている炭酸ガス(CO2)であるが、欧州において供給不足が発生し、サッカー・ワールドカップ開催中という需要期にビールや炭酸飲料の供給に影響がでる可能性がでてきた。

 FTによると、食品に利用する炭酸ガスで、欧州最大の供給源の一つとなってきたのがアンモニアプラント。炭酸ガスの不足は、欧州北部各地にある少なくとも5つのガス生産会社が初夏の数カ月間、メンテナンスで工場を閉鎖しているためだとしている。

 CNNも欧州では全土で炭酸ガス不足が深刻化して、食品製造業を脅かしていると伝えた。欧州で複数の大手アンモニア工場がメンテナンスのために操業を停止したことから、炭酸ガスの不足につながったとしている。

 欧州でのビールや炭酸飲料のメーカーにとって今回の炭酸ガス不足は、夏の暑さとワールドカップ開催で需要が急増する最悪のタイミングと重なった(CNN)。英国ではビール供給が割り当て制になっているとか。

 同じようなタイミングで、日本ではドライアイスの深刻な品不足が発生し、メーカーが大規模な出荷制限に動き出した。ドライアイスについては、原油を精製してガソリンなどを生産する過程で生じる炭酸ガスから製造している。29日の日経新聞によると、今年は製油所で小規模なものも含めて30件前後のトラブルが発生し、炭酸ガスの供給が減ったとされる。

 欧州と日本で、同じようなタイミングで、炭酸ガスの供給に支障がでたということなのであろうか。しかも、日本でのドライアイス不足も夏本番を迎え、宅配や食品業界への影響が懸念されている。ドライアイスは6月末からお盆にかけて需要の6割が集中するとされている。

 ドライアイスの供給が集中するのは一時期ということもあり、供給不足が値上げには結びついていないようだが、関係者からは今後は値上げのお願いもあり得るとの声もでているとか。

 ここにきて原油先物価格が再び上昇してきており、28日にWTI先物8月限は73.45ドルと2014年11月以来の高値をつけてきた。今後はガソリン価格の上昇も予想され、こちらは物価に直接影響を与える可能性がある。

 炭酸ガスの供給不足による物価や個人消費への直接的な影響はいまのところそれほど大きくはないかもしれないが、タイミングがやや悪いこともあり、このまま炭酸ガスの供給不足が続くとなれば、影響が拡がる恐れもあり、注意も必要か。


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