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2025年5月20日「海外勢の米国債保有額、3月末時点で中国は2位から3位に転落していた。1位は日本、2位は英国に」

 米財務省が16日に発表した2025年3月末時点の対米証券投資統計によると、海外勢の米国債保有額は9兆500億ドルとなり、前月の8兆8100億ドルから約2330億ドル増加した。外国勢による米国債購入は2か月連続で拡大し、過去最高を更新した。

対米証券投資統計のなかの国別の米国債保有高 https://ticdata.treasury.gov/resource-center/data-chart-center/tic/Documents/slt_table5.html

 中国が2位から3位に転落し、その代わりに英国が2位に浮上した。

 2019年半ばに日本に抜かれるまで最大の米国債保有国となっていた中国は、2021年から2024年前半にかけて保有額を縮小させてきた。

 2025年3月の売買動向では190億ドルの米国債の売り越しとなった。長期債の売越額は275億ドルの売り越しとなり、比較可能な2023年2月以降で最大となっていた。

 英国の保有額は7793億ドルとなり、290億ドルの買い越しとなっていた。英国の保有については湾岸産油国の資金が多いとの観測もある。

 最大の米国債保有国である日本については前月比49億ドル増の1兆1308億ドルとなっていた。

 4月2日にトランプ米大統領が相互関税の全体像を発表すると世界の金融市場が混乱に陥った。

 8日の米国債券市場では米10年債利回りは4.29%に上昇していた。それに対してトランプ米政権による相互関税が発動した日本時間9日の東京時間に、4.52%近くまで利回りが急騰(価格は下落)していた。

 この売りは邦銀や中国からの売りとの観測も出ていたが、その後の統計などからみて、国内銀行や中国からの売りではないとの見方となっている。

 ただし、その前にすでに中国は淡々と保有する米国債の量を落としていた。それに対して日本は淡々と積み上げていた格好となった。

 5月19日の東京時間の米10年債利回りは4.48%となっていた。

 格付け会社のムーディーズ・レーティングスは5月16日、米国の信用格付けを最上位の「Aaa」から「Aa1」に一段階引き下げた。

 これによる影響も危惧されていたが、16日の米国債券市場では、この格下げを受けて売られてはいたが、10年債利回りの上昇は4.49%までとなり、パニック的な売りとはなってはいなかった。

 その後も落ちた付いた動きとなっているが、水準からみて大暴れしていた4月9日の東京時間に付けた水準に接近しており、今後さらに利回りの上昇圧力を強める可能性もチャートからみて否定はできない。

 トランプ政権は長期金利を含めた「金利」の動きにはかなり敏感になっていることがうかがえる。それだけに、今後の米10年債利回り(長期金利)の動向にも注意を払う必要がありそうである。


2025年5月17日「ムーディーズによる米国の信用格付けの格下げに対し、トランプ政権は批判」

 格付け会社のムーディーズ・レーティングスは16日、米国の信用格付けを最上位の「Aaa」から「Aa1」に一段階引き下げた。政府の債務の拡大や利払い費の増加などを理由に挙げた。見通しは「安定的」に変更。ムーディーズは唯一、米国に最上位の格付けを付与する主要格付け会社となっていた。これにより、米国に最上位の格付けを付与する主要格付け会社はなくなった。

 S&Pグローバル・レーティングスは2011年8月に、フィッチ・レーティングスは2023年8月に米国の格付けを最上位のトリプルAからダブルAプラスに1段階引き下げていた。

 この発表は米国債券市場の取引時間中であり、これを受けて米債は売られ、米10年債利回りは4.48%と前日の4.43%から上昇したが、パニック的な売りとはなってはいなかった。

 16日の米債は売りはそれほど大きくはなかったものの、米10年債利回りは4月11日につけていた直近の高い水準である4.59%に接近している。4.6%を抜けてくると利回り上昇が加速する恐れもある。  4月7日の東京時間に米10年債利回りが4.52%あたりまで上昇したことをきっかけに、トランプ政権が相互関税の上乗せ部分の一時停止に追い込まれたのは記憶に新しい。

 ムーディーズは、現在検討されている財政案によって義務的な歳出が複数年にわたり大幅に削減されるとは考えにくいとし、米国の財政状況は過去と比較して、また他の高格付け国と比較しても悪化する可能性が高いとの見方を示した。

 ムーディーズは、トランプ政権が掲げる関税措置で米国の長期的な経済成長に大きな影響が及ぶとは予想していないとしたが、これを受けてのトランプ政権の反応も気になるところではある。

 実際にこれを受けてトランプ政権は拒否反応を示した。

 ホワイトハウスのスティーブン・チャン広報部長はソーシャルメディアに投稿し、ムーディーズのエコノミストのマーク・ザンディ氏を批判。トランプ大統領の政敵だとした上で、「彼の『分析』を真に受ける者はいない。彼は何度も間違っていることが証明されている」とした(17日付ロイター)。

 ホワイトハウスは、ムーディーズによる米国経済の信用格付けの引き下げを拒否したとの観測もあるが、格付け会社による政府の信用格付けは、誰かに頼まれて行っているものではなく、いわゆる「勝手格付け」となる。それに対して政府による拒否権などはないはずだが。

 ちなみに日本では格付け会社による日本国債の格下げに対しては意見書を出経緯があった。

「外国格付け会社宛意見書要旨」財務省 https://www.mof.go.jp/about_mof/other/other/rating/p140430.htm


2025年5月17日「1〜3月期GDPはマイナス成長、それでも9月の利上げの可能性はあるとみたい」

 内閣府が16日に発表した1〜3月期の国内総生産速報値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.2%減、年率換算で0.7%減となった。民間予測の中心値の年率0.2%減を下回った。

 自動車メーカーの認証取得をめぐる不正の影響を受けた2024年1〜3月期以来、4四半期ぶりのマイナス成長となった。

 GDPの半分以上を占める個人消費は前四半期と比べた伸び率がプラス0.04%。物価高の影響で振わず。

 設備投資は、プラス1.4%と4期連続でプラスを維持。研究開発やソフトウエア向けの投資が目立った。

 輸出は0.6%減と4四半期ぶりにマイナスに転じた。知的財産権の使用料が減ったほか、24年10〜12月期に大型の案件があった研究開発サービスの反動減があらわれた(16日付日本経済新聞)。

 GDP成長率にはマイナス寄与となる輸入は2.9%増と大きく増加し、成長率を押し下げた。

 日銀は1日に発表した展望レポートで、政策委員の大勢見通しとして、GDPについて2025年度は1月のプラス1.1%からプラス0.5%に引き下げていた。2026年度についてはGDPは1月のプラス1.0%からプラス0.7%に引き下げていた。

 今回のGDPは日銀にとってもある程度、想定の範囲内か。

 米中の貿易協議が進展し、最悪の事態は避けられつつある。米国と日本などとの協議はこれからだが、90日という猶予期間を使って、調整が進められると予想される。

 自動車などを巡っては協議が難航すると予想されるものの、トランプ政権が関税ありきの姿勢から、現実的な姿勢にやや変わってきている。このため、米国を主体に世界的な経済ショックは避けられる可能性も出てきている。

 あまり楽観視はできないものの、極度に悲観的な見方もリスクが伴うような情勢となりつつある。

 日銀はトランプ・ショックを受けて、淡々と正常化を進める姿勢から、慎重姿勢に変わってきた。

 しかし、少なくとも物価は足元2%を上回っている。4月の企業物価指数は前年比でプラス4.0%となっていた。ここで正常化にブレーキ掛ける必要はないはずである。

 むろん少し様子をみる必要はあろう。6月の都議会選や7月の参院選もあるため、9月の利上げの可能性はあるとみたい。。


2025年5月17日「日銀の次回利上げは9月の決定会合か」

 5月13日に日銀は日銀金融政策決定会合における主な意見(4月30日・5月1日分)を公表した。このなかの「金融政策運営に関する意見」を確認したい。

 「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる。そのうえで、こうした見通しが実現していくかは、不確実性がきわめて高いことを踏まえ、予断を持たずに判断していくことが重要である」

 利上げ継続の方針には変化はないものの、トランプ関税などにより不確実性がきわめて高いことを踏まえ、次回の利上げには予断を持たずに判断していくことが示された。

 「米国の関税政策の展開がある程度落ち着くまでは様子見モードを続けざるを得ない。」ともあったが、これが正直な見方であろうと思う。

 「米国経済減速から利上げの一時休止局面となるが、米国の政策転換次第で追加的な利上げを行うなど、過度な悲観に陥ることなく、自由度を高めた柔軟かつ機動的な金融政策運営が求められる」

 この姿勢が必要であると思われる。

 トランプ米政権は5月12日に中国政府との間で90日間の関税引き下げに合意したと発表した。ベッセント米財務長官はスイスで開いた記者会見で「双方が関税を115%引き下げることで合意した」と述べた。

 関税は115%引き下げられ、中国への関税はことし2月と3月に発動したものと合わせ30%となる。中国側も同様の措置を取り、現在125%の対米追加関税を90日間にわたり10%にまで下げる。貿易規制など米国に打ち出した関税以外の対抗策も一時停止したり取りやめたりする。

 他国との協議も今後進むことが予想されるが、最大の懸念材料となっていた米中貿易摩擦がひとまず回避されることとなった。

 90日の期限明けとなる8月には、日本では参院選挙も予定されている。8月を過ぎたあたりである程度、関税などによる世界経済への影響も見えてくると思われる。

 米国の政策転換次第で追加的な利上げができる条件が整うことも予想される。

 国内でも参院選次第では多少、政局に動きは出るかもしれないが大きなイベント通過となる。

 このため、日銀の追加利上げのタイミングとしては現状、9月18日、19日の金融政策決定会合で決定されるのではないかとみている。

 もちろん物価などの動向次第では、その前に利上げを行う可能性もなくはない。それには外為市場での円安進行なども要因になりうるかもしれない。


2025年5月16日「米長期金利が再び上昇してきた」

 4月4日の米長期金利は一時、3.86%まで低下した。ここが目先のボトム(底)となった。

 4月7日の米債は買われていた反動もあって売りに押され、米長期金利は4.18%と前営業日の4.00%から大きく上昇し、ここから急騰することになる。このあたりから米株とともに米債も売られた格好となっていた。米国売りである。

 9日に関税が日本時間13時に発令された。この前に東京時間の米債が急落し米長期金利が一時4.51%まで上昇してきた。東京時間でこれほど米長期金利が動くことはあまりみたことがない。

 トランプ米大統領は9日午後、同日発動したばかりの相互関税の上乗せ部分について、一部の国・地域に90日間の一時停止を許可すると発表した。

 リスク回避による国債買いではなく、関税を受けた米国売りを受けての米債安となり、これを受けてベッセント財務長官がトランプ大統領に一時停止を進言したとされた。

 11日には米長期金利は一時、4.59%まで上昇し、9日の東京時間で付けていた4.51%を抜いてきた。ここで米長期金利はピークアウトした。

 米長期金利は低下基調となり、4月30日には4.15%あたりまで低下する。そこから再び米長期金利は上昇基調(米債価格は下落)となった。

 関税政策による貿易摩擦の激化などへの強い懸念がやや和らぎ、米国株式市場は上昇し、外為市場では売られていたドルも回復基調となった。

 これらは米国売りの反動ともいえるが、米債は米国売りの反動で買われるのではなく、普通の反応に戻り、株高などを受けてのリスクオフから売られることとなる。

 そして米長期金利は14日に4.54%と4月9日に東京時間で付けていた4.51%を上回り、11日に付けていた4.59%に接近してきたのである。

 今回は米国売りとはなっておらず、米政権も今回の米長期金利の上昇に対しては警戒感はいまのところ示してはいない。

 ただし、このままの勢いで上昇するとなれば、1月に付けていた4.80%あたりをうかがう可能性も出てきた。

 トランプ大統領はFRBに対し利下げを迫っているものの、FRBは関税などによる物価への影響など不透明要素も多々あるため、容易には利下げには踏み込めないでいる。

 4月の米消費者物価指数は前年同月比で2.3%上昇と予想を下回った。関税による影響はまだあまり見えてはいなかった。それでも今後の物価動向の予測は難しい。

 今回の米長期金利に対し、トランプ政権が何かしらの反応を示すのか。こちらにも注意しておく必要はあるのかもしれない。


2025年5月15日「日銀の追加利上げ観測が再燃」

 日銀が14日に発表した4月の企業物価指数速報によると、国内企業物価指数は前年比でプラス4.0%となった。前月比ではプラス0.2%と、前年比、前月比とも上昇率は前月を下回った。

 日銀担当者は、企業物価は落ち着いてきたが伸び幅は過去と比較しても依然高いレベルにあると指摘。今後も不確実性の高い国際市況や地政学リスクに注意が必要だとしている(ロイター)。

 4月30日、5月1日に開催された日銀の金融政策決定会合の主な意見でも、「見通しは2%の物価安定の目標を実現する姿となっており、実質金利は大幅なマイナスであるので、利上げしていく方針は不変である」との意見があった。

 ただし、「米国の関税政策の展開がある程度落ち着くまでは様子見モードを続けざるを得ない」との意見も出ていた。

 これについては12日にトランプ政権が、米国は中国の報復措置を理由に引き上げた部分の税率を撤回し相互関税率を当初の34%に戻したうえで、上乗せ部分の24%を90日間停止する。中国側も同様の措置を取り、現在125%の対米追加関税を90日間にわたり10%にまで下げると発表されたことで、やや関税政策については、過度な警戒モードは後退した。

 英国や中国以外の日本などとの本格交渉はこれからとなる。今回の中国との交渉をみても中国側が折れてきたというより、米国内のスーパーでの商品がなくなるといった関税の弊害が表面化されるのを避けようとした米国側が慌てて関税を戻したような格好となっていた。

 これからみても、他国との関税交渉についても、90日以内にある程度は進むことが予想される。

 これらを受けて、4月に一時10%に低下していた日銀による年内追加利上げの確率予想値は13日には79%に上昇していた。13日の円債は中長期債中心に売られ、特に中期ゾーンが売り込まれていたのは、日銀の利上げ観測の再燃によるものと予想される。

 13日には4月の米国の消費者物価指数が発表された。前年同月比の上昇率が2.3%となった。これを見る限り、関税政策の影響はまだ限定的とみられるが、今後はじわりじわりと影響してくることも予想される。

 FRBについてはトランプ氏のプレッシャーを撥ね付けて、利下げについては物価動向をみながら慎重姿勢を維持してくると予想される。

 外為市場では、米中の関税協議の進展をうけた米国売りの反動から、円安ドル高が進み、ドル円は一時148円台を付けてきた。

 日銀の利上げ観測の再燃もあり、14日のドル円は147円近辺まで下落してきたが、基調としては円安ドル高が強まり、150円を目指してもおかしくはない。

 円安が進行してくると、日銀への利上げ圧力が強まる可能性もある。


2025年5月14日「関税引き下げとともに気になる気になるトランプ米政権の薬価引き下げ要求」

 トランプ米政権は12日、中国政府との間で90日間の関税引き下げに合意したと発表した。ベッセント米財務長官はスイスで開いた記者会見で「双方が関税を115%引き下げることで合意した」と述べた(12日付日本経済新聞)。

 米中両政府の共同声明によると、米国は中国の報復措置を理由に引き上げた部分の税率を撤回。相互関税率を当初の34%に戻したうえで、上乗せ部分の24%を90日間停止する。

 結局、関税は115%引き下げられ、中国への関税はことし2月と3月に発動したものと合わせ30%となります。

 中国側も同様の措置を取り、現在125%の対米追加関税を90日間にわたり10%にまで下げる。貿易規制など米国に打ち出した関税以外の対抗策も一時停止したり取りやめたりする。

 12日の米国株式市場では、ハイテク株を中心に主要株は軒並み上昇した。中国へ依存度の高い一般消費財にも買いが入り、ダウ平均は1160ドル高、ナスダックは779ポイント高となった。

 ここで注意すべき事は、米国内の薬価引き下げは業界が懸念していたほど厳しい内容ではないとの見方が出ていたことである。

 トランプ大統領は12日、米国内の薬の価格を引き下げるための大統領令に署名した。外国に比べて米国内の薬価が「非常に高い」とし、30日以内に目標とする価格を製薬会社に伝えるよう指示した。

 トランプ氏は、製薬会社を交渉の場に引き出すことで薬価引き下げを図る構えだ。今回の大統領令では、製薬各社に対して自主的に値下げを求め、応じなければ規制措置を講じる可能性を示した(12日付ブルームバーグ)。

 これに対し、12日の米国株式市場では詳細が明らかになるにつれ、製薬株は総じて値上がりした。大統領令は製薬業界が懸念していたほど厳しい内容ではないとの見方が強まった。

 米国民が支払う医療費は世界で最も高いとされている。それがイノベーション(技術革新)を促し、製薬業界の成長を後押ししたともされている。

 米国では原則として国外からの医薬品輸入は違法とされているが、個人使用に限って例外が認められている。

 トランプ氏は米国の薬価を引き下げるべきだとの主張に加え、他国・地域がより多く支払うべきだとの考えも示した。

 ただし、米国での薬の価格が高いのは、国内の製薬企業を保護し、新薬の製造などにも力を入れるための政策ともなっている。

 米国内での薬の価格を下げるのであれば、そういった前提そのものを崩すほかはないと思われるのであるが。


2025年5月13日「金融市場を取り巻く地合が一気に好転する可能性」

 9日にドイツの代表的な株価指数であるDAX指数は上昇し、引け値としての最高値を更新した。これが結局、何かを示唆していたのかもしれない。

 4月はじめのトランプ関税をきっかけとした乱高下も4月中旬あたりから落ち着きを取り戻してきた。その後はじりじりと値を戻す動きとなっている。これは米国の代表的な株価指数のダウ平均も同様となっている。

 トランプ関税への対応を巡り、米中両政府がスイスで開いた初の閣僚級協議が、現地時間11日午後(日本時間12日未明)に終了した。出席したベッセント米財務長官は米メディアなどに「確かな進展があった。協議は生産的だった」と語った。

 ベッセント氏とともに交渉を行った米通商代表部(USTR)のグリア代表は、「これほど早く合意に達することができたということは、両国の隔たりは思ったほど大きくなかったということだろう」とコメントした。

 ある程度具体的な合意があった可能性があると思ったが、実際にベッセント米財務長官はスイスで開いた記者会見で「双方が関税を115%引き下げることで合意した」と述べた。

 そして、ウクライナとロシアの和平交渉についても、かすかながらも希望が見えてきた。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアのプーチン大統領が今月15日にトルコでウクライナ側との直接会談を提案したのに対し、「トルコでプーチンを待っている。戦争を終わらせるために話す用意がある」と述べ、プーチン大統領に会談を呼びかけた。

 プーチン大統領はこれまでゼレンスキー大統領は非合法な大統領だと一方的に主張し、交渉相手にならないという認識を繰り返し示してきた。

 果たして、ロシアのプーチン大統領がウクライナのゼレンスキー大統領の呼びかけに応じるのか注目される。さらにインドとパキスタン、そしてイスラエルとハマスの交渉が進む可能性も出てきている。こちらも進展すればリスクオンの動きを加速させることになる。

 米中との関税交渉が進展すれば、今後、日本を含む他の国との交渉進展にも期待が強まろう。

 さらに大きな地政学的リスクともなっているロシアによるウクライナ侵攻などについて和平が期待できるようになれば、金融市場を取り巻く地合が一気に好転する可能性もある。

 過剰な期待は禁物ながら、急速にリスク回避の反動の動きが出る可能性も意識しておく必要はあるのかもしれない。


2025年5月12日「米中双方による115%の関税引き下げはサプライズとなり、4月上旬の米国売りの反動に、株高・ドル高・債券安の様相に」

 トランプ米政権は12日、中国政府との間で90日間の関税引き下げに合意したと発表した。ベッセント米財務長官はスイスで開いた記者会見で「双方が関税を115%引き下げることで合意した」と述べた(12日付日本経済新聞)。

 何らかの合意があったとみられたが、90日間という期限が設けられたものの、115%の関税引き下げは金融市場にとってサプライズとなった。

 外国為替市場ではドルが買い戻されて、ドル円は148円台に急騰した。時間外取引でのダウ平均などの米株価指数先物も上昇しており、ナイトセッションの日経平均先物は500円高の38200円に上昇した。

 また、リスク回避の反動により、米債は売られ、米10年債利回りは4.45%に上昇した。9日の米10年債利回りは4.38%となっていた。また、日本の債券先物は引けが140円03銭だったのに対し、一時139円31銭まで下落し、72銭もの下落となっていた。

 トランプ米大統領は米中協議に先立ち「80%がよさそうだ」としていたが、それを上回る歩み寄りとなったが、これは米国側の事情も影響していたとの見方がある。

 対中関税でトランプ大統領は小売店大手のウォルマートやターゲットのCEOから、このままだと間もなく店舗の棚がほとんど空になると警告されて対中交渉に乗り出したとの観測である。

 ある推計によると、米国が4月初旬に中国に対し145%の追加関税を課して以来、貨物輸送量は最大60%も急減。米国にとって最大級の貿易相手国からの輸入急減はまだ多くの米国民に影響を及ぼしていないものの、間もなく顕在化することになる(4月28日付ブルームバーグ)。

 関税への懸念から、市民の間で商品の買い急ぎの動きも広がっていた。

 すでに支持率が低下していることに加え、関税による直接的な影響が顕在化すると、トランプ政権を支持するコア層も不安を強めかねない。

 米中両政府の共同声明によると、米国は中国の報復措置を理由に引き上げた部分の税率を撤回。相互関税率を当初の34%に戻したうえで、上乗せ部分の24%を90日間停止する。

 中国側も同様の措置を取り、現在125%の対米追加関税を90日間にわたり10%にまで下げる。貿易規制など米国に打ち出した関税以外の対抗策も一時停止したり取りやめたりする。

 これでは何のための関税であったのかともなるが、そもそもグローバルサプライチェーンが形成されており、これを受けて米国民も品物を安く手にすることができた。これをいきなり国内での製造にはできないし、したとしても急激な値上げとなる懸念も当然強い。

 トランプ政権はこれを交渉の成果とするのかもしれないが、関税戦争をふっかけておきながら、自らへの被害の方が大きそうなことに気が付いての休戦協定ということになる。これを受けて日本などの中国意外の国との関税交渉も進むというか、とにかく元に戻すことを強く望みたい。

 関税だけでなく、インドとパキスタン、ウクライナとロシア、そしてイスラエルとハマスの交渉が進む可能性も出てきている。こちらも進展すればリスクオンの動きを加速させることになる。

 4月上旬はトランプ関税によるリスク回避動きから、株とともに米債も売られ、ドルも下落するなどトリプル安というか米国売りが強まった。今度のその反動となる可能性もあり、今後の動向に注意が必要となる。


2025年5月10日「日本の超長期国債が売られている要因とは。30年国債の利回りは2004年8月以来の水準に上昇」

 7日の現物債の取引が奇妙なことが起きた。この日の日本相互証券では40年国債17回の付き値は、6毛甘の3.250%のみだったはずである。出来高も5億円の一本のみ(売買単位そのものが5億円単位の取引)。

 ところが、16時に発表される日本相互証券の気配表では、40年国債17回は14.5毛甘の3.335%となっていたのである。

 証券会社などの業者は、かなり利回りの高い(価格の低い)水準でないと、40年国債は買い入れられないことを示した。

 これには7日の日銀の国債買入で25年超で40年既発をかなり甘いところで入れたところがあったためとの指摘があった。

 7日に付けていた40年国債の3.250%そのものも、2007年の発行開始以来の最高水準を更新していたが、実際の気配はそれよりも0.1%以上も高くなっていた(価格は低い)。

 40年国債の取引そのものも少なくなっているのは、ボラティリティが高くなり、取引することで利回りが大きく上昇しかねない状況ともなっていたためである。

 どうして日本の超長期債が大きく売られていたのか。

 今回の日本の超長期国債の売りの直接の要因は、財政膨張を意識したものとの指摘があった。仮にそうであったとして、そうであれば増発圧力はまず中期債に掛かるはずではなかろうか。

 今回の超長期債への売りはすでに超長期債の売買高の半分を占めているとされる海外投資家、つまりヘッジファンドがアセットスワップのポジションを解かざるを得なくなって、超長期国債を投げた可能性が高い。  これを受けて市場での価格変動が大きくなり、いわゆるボラティリティが高まったことで、投資家・業者ともにリスク許容度が低下した可能性がある。簡単に言えば価格変動、特に下落リスクが大きくて保有しづらくなっている。

 本来であれば、利回りが上昇したこしで日本の生保などが押し目買いを入れても良いはずだが、国内投資家が買いづらい他の要因も存在する。

 それはロークーポン(低利率)の超長期国債の売却がしづらいためではないかと思われる。

 40年国債でいえば、利率0.4%の9回債、利率0.5%の12回、13回債、利率0.7%の14回債などの価格は100円額面で50円前後となっている。つまり100億円分購入した40年国債の価値は現在、50億円となってしまっている。これは利回りが上昇したことで、利率の低さを償還価格との現在価格の差額で埋める必要があるため、価格そのものが低下したのである(国債の利回りと価格が反対に動くのはこのため) 。

 高いクーポンの国債に入れ替えたくても、ロークーポンの国債は売却すると大きな損失が発生する。また、売ろうにもロークーポンの買い手は限られる。

 7日の日銀による国債買入で25年超で40年既発をかなり甘いところで入れたところ国内投資家がいたとされたが、これもロークーポンの銘柄であった可能性がある。

 ヘッジファンドのアセットスワップのストップロス絡みの超長期国債売りと超長期債のロークーポンものの処理の難しさなどが、超長期国債の売買をしづらくし、ボラティリティを上昇させている要因となっていると思われる。

 9日の債券市場では、40年国債の利回りは一時3.395%と40年国債としては過去最高を更新し、30年国債の利回りが2.910%と2004年8月以来の高水準をつけていた。

 13日には30年国債の入札が予定されている。利回りが3%に接近し投資家ニーズはありそうだが、ボラティリティの高さによるリスク許容度の低下や、ロークーポンとの入れ替えの困難さなどが、やや障害となる懸念もある。


2025年5月9日「トランプ大統領には屈せず、FRBは利下げ見送り」

 米連邦準備理事会(FRB)は7日開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利の指標であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標は4.25〜4.5%のまま据え置くことを決めた。

 これにより3会合連続で利下げを見送ったこととなる。

 声明では「景気見通しに関する不確実性は一段と増している」と指摘した。また、「失業増加とインフレ加速のリスクは高まったと判断している」とも指摘していた。

 パウエル議長は会合後の記者会見で、「発表された大幅な関税引き上げが維持されれば、インフレ加速と経済成長減速、そして失業増加をもたらす可能性が高い」と発言した。

 さらに「焦る必要はなく、忍耐強くいられると思う。データを見守るつもりだ」と重ねて早期利下げに慎重な見方を示した。

 米金融当局の金利据え置き継続にトランプ大統領は重ねて不満を表明し、パウエル議長を繰り返し批判していた。

 4月17日には米国のトランプ大統領は、FRBのパウエル議長の「解任は一刻も早く実現すべきだ!」と、自身のソーシャルメディア・プラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」に投稿した。

 ところが22日になって、トランプ大統領は、FRBのパウエル議長について「解任するつもりはない」と述べた。

 この際にトランプ氏は、スコット・ベッセント財務長官とハワード・ラトニック商務長官からの忠告を踏まえて判断を下したとされている。

 今回の現状維持の決定に対して、いまのところ批判めいたコメントは出されていない。FRBの独立性に配慮というよりも、市場の動向に配慮した格好か。4月の米長期金利の乱高下は記憶に新しいところとなる。

 足元の経済動向をみても、4月の米雇用統計では非農業部門の就業者は前月から17万7000人増えていた。個人消費は1〜3月期に前期比年率で1.8%増となっている。

 声明文でも現時点の米経済について「堅調なペースで拡大を続けている」との認識を維持した。

 いまのところ利下げを急ぐ必要はない。それどころか、関税による国内物価への影響の方をむしろ警戒すべきとなる。

 FRBが重視するとされる個人消費支出(PCE)物価指数は、エネルギーと食品を除くコア指数の前年同月比上昇率が3月は2.6%と目標の2%を上回る水準となっている。

 これがさらに上昇してくる懸念もある以上、このタイミングで利下げを行う必要はない。


2025年5月8日「トランプ関税で大荒れとなった4月の日米長期金利の動向を振り返る」

 3月27日に10年国債の利回り(以下、長期金利)は1.590%に上昇した。ここでいったんピークアウトした格好となった(手元のデータより)。その後の日本の長期金利は急低下し、4月7日に1.105%まで低下した。

 3月27日から4月7日にかけてどうして長期金利が低下したのか。

 そのひとつのきっかけが26日にトランプ米大統領が輸入自動車に25%の追加関税をかけると発表したことによる。これを受けての米10年国債(以下、米長期金利)の動向の影響を受けた。

 28日の米国株式市場はハイテク株などを主体に下落し、ダウ平均は715ドル安、ナスダックは481ポイント安となった。その後ダウ平均は一時持ち直していたが、4月に入って様相に変化が起きつつあった。

 トランプ政権が相互関税を4月2日に公表することとなり、市場は身構えた。

 4月2日にトランプ政権は世界各国・地域からの輸入品に相互関税をかける。中国は34%、欧州連合(EU)は20%、日本に対しては24%の追加関税を課す。3日から輸入自動車に対して25%の追加関税を実施することも改めて発表した。

 トランプ米大統領が発表した相互関税が市場の想定よりも厳しい内容となり、世界経済の悪化や貿易戦争への警戒が強まった。これを受けてのリスク回避の買いが米債に入った。

 中国政府は4日、米国からのすべての輸入品に34%の追加関税をかけると発表。報復の連鎖が米国だけでなく、世界経済の悪化につながるとの警戒が強まり、4日の米長期金利は一時、3.86%に低下した。しかし、ここが目先のボトム(底)となった。この日の引けは4.00%となり荒れた動きとなった。

 7日の日本の長期金利は1.105%に低下して、こちらもボトムを形成した。

 米国家経済会議(NEC)のハセット委員長が7日、トランプ米大統領が中国を除くすべての国・地域に対する関税を90日間、一時停止することを検討しているとの考えを示したと伝わった。ホワイトハウスがこの発言に対し、フェイクニュースだとの考えを示した。

 7日の米債はここにきて買われていた反動もあって売りに押され、米長期金利は4.18%と前営業日の4.00%から大きく上昇し、ここから急騰することになる。このあたりから米株とともに米債も売られた格好となっていた。米国売りである。

 8日の日本の国債も急落となり、長期金利も1.260%に上昇していた。

 米国株式相場の急落を受け、一部のヘッジファンドが、金融機関のマージンコールに対応するために換金売りを急いでいるとの観測や、昨日の米3年債入札がやや低調な結果となったことを受けて、8日の米債は売られ、米長期金利は4.29%と大きく上昇した。

 そして9日に関税が日本時間13時に発令された。この前に東京時間の米債が急落し米長期金利が一時4.51%まで上昇してきた。東京時間でこれほど米長期金利が動くことはあまりみたことがない。

 トランプ米大統領は9日午後、同日発動したばかりの相互関税の上乗せ部分について、一部の国・地域に90日間の一時停止を許可すると発表した。

 リスク回避による国債買いではなく、関税を受けた米国売りを受けての米債安となり、これを受けてベッセント財務長官がトランプ大統領に一時停止を進言したとされた。

 4日に米長期金利が3.86%を付けていたのが、11日には一時、4.59%まで上昇し、9日の東京時間で付けていた4.51%を抜いてきた。ここで米長期金利はピークアウトした。

 日本の長期金利も10日に1.400%まで上昇し、ここで目先、ピークアウトした格好となった。

 その後は米国債と日本国債の連動性がやや薄れるとともに、日本では中長期国債と超長期国債の方向性が反対を向くことが多くなった。債券市場はかなり動揺を示し、波乱含みの展開が4月末まで続くこととなった。


2025年5月4日「遅すぎる男と呼ばれたパウエルFRB議長は利下げをするのか?」

 4月17日、米国のトランプ大統領は、FRBのパウエル議長の「解任は一刻も早く実現すべきだ!」と、自身のソーシャルメディア・プラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」に投稿した。

 連邦準備法の10節2項に基づけば、大統領がFRB議長を含め理事を罷免するには正当な理由が必要とされる。

 「正当な理由の定義は規定されていない。裁判所は一般的に、正当な理由とは違法行為あるいは不適切な言動を意味すると解釈してきた。

 ところが22日になって、トランプ大統領は、FRBのパウエル議長について「解任するつもりはない」と述べた。

 この際にトランプ氏は、スコット・ベッセント財務長官とハワード・ラトニック商務長官からの忠告を踏まえて判断を下したとされている。

 両長官は解任を目指す動きが広範囲にわたる市場の混乱の引き金になり得ることと、厄介な法廷闘争につながり得ることをトランプ氏に警告したとされる。ある意味、当然のことであろう。

 次回のFOMCは5月6日、7日の開催が予定されている。「ミスター・トゥー・レイト」と呼ばれたパウエル議長が果たしてどのような決断を下すのか。

 16日にパウエル議長は「関税の引き上げは、予想をはるかに上回るものになっている。インフレ率の上昇や成長率の鈍化など経済に与える影響も同じような状況だ」とした上で「関税は少なくとも一時的にインフレを上昇させる可能性が非常に高い。インフレ効果がより持続的になる可能性もある」と発言した。

 関税の引き上げによる米国内の物価上昇を懸念しているが、トランプ関税により最も影響が出るのは、米国内の輸入物価となる。輸出国にとっても影響は出るが、それはあくまで関税分の値段上昇による米国内での需要後退への懸念となる。

 米国内の物価上昇が懸念されている際に、それに対して火に油を注ぎかねない「利下げ」は、当面は回避したいところであろう。

 また政治に屈したとされることもできれば避けたいところであろう。

 2日に発表された4月の米雇用統計では非農業雇用者数は前月比17万7000人増と予想を上回った。失業率は前月から横ばいの4.2%と、市場予想と一致した。この日の米債はFRBは利下げに慎重な姿勢を続けるとの観測が再燃したことで売られていた。

 ただし、24日にFRBのウォラー理事は、労働市場がひどく悪化し始めたことがわかれば、より多く、より早く利下げをすることになると語った。

 クリーブランド連銀総裁は説得力あるデータを得られれば、動くことはあるとも発言している。

 このようにもしかすると全員一致ではなく、一部のメンバーが現状維持に対し「利下げ」を主張して、反対票を投ずる可能性もある。

 政治との摩擦を多少なり緩和する意味でも、その可能性もなくはないか。ただし、そんなこともしたくはないと全員一致で政府の利下げ要求を撥ね付ける可能性もある。


2025年5月3日「日銀は金融政策の正常化にブレーキか?」

 日銀は5月1日の金融政策決定会合で、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針をこれまで通りの、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.5%程度で推移するよう促すことを全員一致で決定した。つまり金融政策の現状維持を決めた。

 2日に朝日新聞は日銀に関する記事で、「実は植田総裁はほんの2カ月前まで、この5月会合で政策金利を0.25%幅引き上げるシナリオを描いていた。トランプ・ショックでそれを放棄せざるを得なくなった」と報じていた。

 私も4月前までは5月1日の決定会合での0.25%の利上げの可能性は高いとしていた。しかし4月に入ってからのトランプ・ショックを受けて、その可能性は後退し、次回の利上げは早くて9月かとの認識となっていた。

 このため、今回の現状維持には違和感はなかったものの、展望レポートの記述や総裁会見にはやや違和感を持った。

 確かにトランプ大統領の関税によって市場の混乱だけでなく、世界経済にも大きな影響を与える懸念は強まった。それは確かに警戒する必要はある。とはいえ正常化は道半ばである。警戒しながらもそれを進めることも必要ではなかろうか。

 展望レポートの概要のなかで、1月にはあった「賃金と物価の好循環が引き続き強まり」との表現が、5月には削られていた。

 また、5月の展望レポートから、今後の見通しに2027年度が加えられたが、概要のなかのコメントの「見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。」との表現はそのまま使われた。

 つまり、「物価安定の目標」と概ね整合的な水準に到達するのは1月時点での2026年度までの後半から、5月時点では2027年度までの後半となり、先送りされたような格好となった。

 そもそも日銀は物価目標は消費者物価指数(除く生鮮)のはずなのに、いつのまにか違うものに置き換えている上に、それについての具体的な数字の発表は控えている。

 このあたり、政策に柔軟性を持たせるものとの解釈もできるが、漠然としていることも確かである。

 今回の展望レポートでは、政策委員の大勢見通しで、GDPについて2025年度は1月のプラス1.1%からプラス0.5%に、消費者物価(除く生鮮)は1月のプラス2.4%からプラス2.2%にそれぞれ引き下げていた。

 2026年度についてはGDPは1月のプラス1.0%からプラス0.7%に、消費者物価(除く生鮮)は1月のプラス2.0%からプラス1.7%にそれぞれ引き下げていた。

 いずれにしても日銀はトランプ・ショックを受けて、淡々と正常化を進める姿勢から、慎重姿勢に変わってきた。

 これまでも政策金利には0.5%の壁があったが、やはりここを突破しなければ正常化とは言えない。少なくとも物価は足元2%どころか3%と言う水準にある。ここで正常化にブレーキ掛ける必要はないはずである。

 むろん少し様子をみる必要はあろう。6月の都議会選や7月の参院選もあるため、9月の利上げの可能性はあるとみたい。


2025年5月2日「日銀法には書かれていない独立性との言葉」

 日銀法の第三条には、「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない」とある。

 これについて日銀による以下のような解説があった。そもそも平成10年4月の日銀法改正の最大の眼目は中央銀行としての「独立性」を法制度としても明確にすることである。

 「過去の各国の歴史を見ても、中央銀行の金融政策にはインフレ的な経済運営を求める圧力がかかりやすいことが示されています。物価の安定が確保されなければ、経済全体が機能不全に陥ることにも繋がりかねません。こうした事態を避けるためには、金融政策運営を、政府から独立した中央銀行という組織の中立的・専門的な判断に任せることが適当であるとの考えが、グローバルにみても支配的になってきています。新日銀法において、独立性確保がはかられているのは、こうした考えによるものです」

 第三条にある自主性は、つまり独立性を意味していると言うことになる。

 ECBなどでは「ECB及び各国中央銀行は、本条約及びESCB・ECB法により授与された権限の行使、任務の遂行にあたり、EU諸機関及び各国政府その他いかなる機関からも、指示を仰いだり、指示を受けたりしてはならない」とある。国を跨いだ中央銀行との違いはあるが、ECBは非常に強い独立性を持っている。

 これに対してイングランド銀行の独立性はあくまでも政策運営上の独立性に限定される。

 またFRBの独立性は特に明文化されていない。その意味では、自主性という言葉ながら日銀には法律上、独立性が与えられているとみて良いのかもしれない。

 しかし、日銀法四条には政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならないともある。2013年1月22日に発表した政府と日銀の共同宣言はこの四条に沿ったものと言える。

 ただし、政府と日銀の共同声明の作成を巡り、首相周辺に日銀総裁の解任権を政府が持つことを求める声が出ていたことには注意すべきか。しかし、日銀法の第二十五条にもあるように、一定の場合を除いて解任されることはないとされている。

 ニュージーランドでは、準備銀行法第49条で「準備銀行が、財務大臣との合意(PTA)に基づき決定された政策目標の達成を確保するにあたる総裁の実績が不十分であった」場合、総裁を罷免できるとされている。

 ただしこれは、ニュージーランドでは最終的に総裁一人が金融政策を決定しているという同国の体制によるものである。


2025年5月1日「2025年の食料品の値上げの品目数が前年超え予想、2022年並となることも」

 帝国データバンクは30日、2025年で値上がりする食品の品目数が、累計で1万4409品目となり、前年実績の1万2520品目を超えたと発表した。食品各社が既に発表した10月までの値上げ品目を集計した。(30日付共同通信)。

 2025年累計では最大2万品目の値上げを予想されているが、ラッシュが本格化した2022年実績の2万5768品目に並ぶ水準に達する可能性もあるとされる。

 18日に総務省が発表した3月の消費者物価指数(除く生鮮)は前年同月比3.2%の上昇となった。2月の同3.0%を上回り、2か月ぶりに伸びが拡大した。

 コメ類は92.1%上がり、比較可能な1971年1月以降で最大の上げ幅となった。参考までにオイルショックは1973年に起きていた。うるち米(コシヒカリを除く)も92.5%の上昇となり、1976年1月以降で最大の伸び率を更新した。

 コメに関連する品目では「おにぎり」が15.0%の上昇、外食の「すし」が4.7%の上昇となっていた。

 人件費や物流費の上昇で3月に価格改定されたハンバーガー(外食)は5.7%の上昇、チョコレートが29.6%の上昇、コーヒー豆が21.1%の大幅な上昇となった。

 原材料価格の高騰や人手不足に伴う人件費の増加なども影響し、2025年で値上がりする食品の品目数が増加している。

 帝国データバンクは、最近ではエネルギーコスト由来の値上げが急増し「要因の多様化が一層進んでいる」とも指摘した。

 値上げの要因がひとつではなく、いくつかの要因が重なり合っており、簡単にはこの流れが収まることも考えづらい。

 14〜20日に全国のスーパー約1千店で売られたコメ5キロの平均価格は税込み4220円で、前の週より3円高く、16週連続で上昇した。政府が備蓄米の放出を表明してから2か月超たっても、米価は高止まりが続く。

 コメについても単純に需給バランスだけでなく、価格上昇に複合的な要因が絡んでいることが考えられる。だから具体的にこれが要因との指摘はされていない。誰かが隠しているという指摘も正しくはないと考えられる。

 消費者物価は食品のみで構成されているわけではないが、大きな比重を占めている。また、食料品の値上げの大きな要因とされるエネルギーコスト由来については食料品以外にも影響を与えていると予想される。

 消費者物価指数(除く生鮮)はすでに3年も前年比2%を超えているが、この状況はまだまだ続くことが予想される。


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