2018年5月18日「イタリアが政府債務を帳消しにするようECBに要請?」

 イタリアでは、ポピュリズム(大衆迎合主義)政党の「五つ星運動」と反移民を掲げる「同盟」が13日、新政権樹立へ包括的な合意に達したと明らかにした(WSJ)。

 両党は15%の均一税率や新たな社会保障の導入のほか、不評な年金改革を撤回することを提唱している。

 政府の政策草案とされているものによると、加盟国にユーロ離脱を認める域内での手続き導入が提案されているほか、2500億ユーロ(約32兆5300億円)のイタリア政府の債務を帳消しにするよう欧州中央銀行(ECB)に要請する方針が盛り込まれていた(WSJ)。

 市場では最悪のシナリオとなっていた「五つ星運動」と「同盟」の連立政権が樹立しても、ユーロ離脱に向けた動きは出ないとの見方も強かった。ところが、今回の政策草案とされているものが明らかになったことを受けて、16日のイタリアの株式市場は銀行株主体に下落した。

 ユーロ圏の債券市場では、イタリア政府の債務帳消しを求めるという奇想天外な要請に驚き、16日のイタリアの10年債利回りは前日比0.16%上昇の2.11%と大きく上昇した。これを受けて、スペインやポルトガルの国債も連れ安となったが、ドイツなど中核国の国債はリスク回避の動きから反対に買われていた。

 リフレ派の影響が強く残っている日本ではなく、イタリアがECBに対して政府債務を帳消しにするよう求めるなどということが、本当に起こりえるのか。日本で、もし日銀保有の日本国債をなかったものとしたらどうなるであろうか。日銀のバランスシートからみれば、我々のもつ現金や金融機関の当座預金の価値もゼロとなることになる。それ以前に、日本国債への信認が急落し、持っていても償還金や利子が支払われない懸念がある日本国債を保有する投資家が競って売却に走る可能性がある。

 今回のイタリア国債の急落もこういった思惑が背景であろうが、それでもこの程度に収まったのは、債務帳消しの実現性に疑問を持っていたからと思われる。実際に五つ星運動と同盟は16日、草案は古い情報で、詳細は著しく変わったと釈明した。最近の協議では、ユーロ残留に疑問が呈されることはなかったと説明している。当然、イタリア政府の債務を帳消しにすることも実現性は後退したとの見方はできる。

 しかし、それでもこの最悪の組み合わせ政党が、財政再建に力を注ぐことは考えづらい。債務が拡大するであろう懸念は強まることも予想される。それは債務比率が制限されているユーロ残留の条件を無視することにもなりかねず、イタリアのユーロ離脱のリスクは今後も意識せざるを得なくなりそうである。


2018年5月16日「ドル円は110円の壁を抜け、米長期金利は3%の節目を抜けてきた。今後の動きと円債への影響」

 5月15日の米国市場では、米10年債利回り(以下、米長期金利)は一時3.09%と2011年7月以来の水準に上昇し、3%の壁を上抜けた。15日に発表された4月の米小売売上高は前月比0.3%増えたことが要因とされたが、数字は予想通りであり、それほどインパクトのあるものではない。すでに15日の東京時間で米債は売られており、3%という水準を試すような動きとなっていたことで、節目の3%を抜いてテクニカル的に米債売りを誘うような動きと言えた。16日に米長期金利は一時3.10%まで上昇した。

 米長期金利の上昇要因としては、もうひとつ原油価格の上昇もあった。イランを巡る中東情勢が不透明感を強めなか、15日の原油先物市場でWTI先物6月限は35セント高の71.31ドルとなった。こちらも70ドルが目先の節目となっていたが、ここを抜いてサウジアラビアの目標ともされる80ドルへの上昇の可能性も見えてきた。16日のWTI先物6月限は18セント高の71.49ドルとなった。

 15日の米国株式市場は米長期金利の上昇を嫌気して売られたとされるが、この解釈も難しいところがある。地合が良いときには、これまで米長期金利が上昇すると金融機関の業績改善が意識されて銀行株など買われ、買い材料ともなっていた。3%という水準を上回ると想定外との面もあるのか、米国株式市場はやや警戒して売られた面はある。しかし、米長期金利上昇の背景には米国経済の拡大とそれによるFRBの利上げがある。一概に売り要因とは言えない面もあり、ダウ平均は14日まで8連騰となっていただけに、調整売りも入りやすかった面もあるのではなかろうか。実際に16日の米国株式市場では、米長期金利がさらに上昇したものの、ダウ平均は反発し62ドル高、ナスダックも46ポイントの上昇となっていた。

 米長期金利の上昇によって外為市場では、これも大きく節目とされたドル円の110円を突破してきた。直近でも一時的に110円を超す場面はあったが、すぐに押し戻されていた。しかし、15日には110円半ばまで上昇したことで目先の壁となっていた110円を破ってきた。これにより次のターゲットは113円近辺となり、ドル円は上昇トレンドが再開するものと思われる。ただし、北朝鮮が米朝首脳会談の中止を警告するなどしたことで、リスク回避の円買いも入り、ドル円の上昇基調はいったんブレーキが掛かっている。

 米長期金利、原油先物そしてドル円とそれぞれ節目、ターゲットとみられていた水準を抜いてきた。これらは円債にとっては本来であれば売り要因ともなる。円債は米債に連動しやすく、原油価格の上昇は物価の上昇要因となり、円安も同様である。16日の債券先物は売られたものの、150円60銭台と大きく崩れたわけではない。円債の下値が限られる背景にあるのが、日銀による国債の大量買入とイールドカーブコントロールである。しかし、今後は次第にファンダメンタルズや海外の金利動向との乖離が大きくなってくる可能性がある。その際に生じる歪みが、何らかの影響を円債市場に与える可能性も出てくるかもしれないので注意も必要になりそうである。


2018年5月16日「機能停止状態に陥りつつある日本の債券市場」

 5月に入り、債券市場が膠着感をより強めてきた。そのひとつの要因が5月1日からの国債の決済のT+1始動がある。特にレポ市場への影響などを見極めたいとして、市場参加者が売買を控え、様子見気分を強めた面はあった。

 ただし、その国債の決済のT+1がスタートした大型連休の狭間でもある5月1日と2日の債券先物の出来高が両日とも2.9兆円程度出来ており、値幅は1日が16銭、2日が15銭となっていた。現物債の商いも1日が3500億円程度、2日には6500億円程度あった。それほど多いわけでもないが、先物もそこそこ動いて、現物債もそこそこ出合いがあったといえる。

 ところが、大型連休明けとなった5月7日の債券先物の出来高は1.5兆円程度に減少し、値幅は6銭しかなく、現物債の出合いは1100億円程度しかなかった(15時現在)。通常の休み明けとなる月曜日は閑散相場となることが多く、個人的に「月曜相場」と呼んでいる。これが大型連休明けということで、投資家にとっては会議等が入り、商いが細くなるのはいたしかたないと見ていた。ところがである。

 翌8日の債券先物の出来高も2.1兆円程度、値幅6銭、現物商いは2200億円程度しかなかった。9日の債券先物の出来高1.9兆円程度、値幅7銭、現物商いは1900億円程度。10日にいたっては先物出来高1.4兆円程度、値幅6銭、現物商い2400億円。11日は先物出来高1.4兆円程度、値幅5銭、現物商い3000億円程度。

 そして週が変わって14日の現物債は、前場にカレントと呼ばれる直近発行された2年、5年、10年、20年、30年、40年の新発国債がすべて出合いなしという異例と事態となった。この日の債券先物の出来高は1.2兆円程度、値幅6銭、現物債の商いは1600億円程度となっていた。15日はやや増えて債券先物の出来高は2.8兆円程度、値幅9銭、現物債の商いは500億円程度となっていた

 日銀の異次元緩和により、国債が大量に日銀在庫として積み上がり、イールドカーブコントロールまで導入して、長期金利をコントロールするという異例の政策によって、債券市場の機能は低下しつつあったが、ここにきてそれが顕著に現れてきたようにも思われる。

 今年度入りした4月から国債の市中での発行額が減額されているが、日銀の買入ペースは変わらず、それが市場での流通玉を減少させている面もある。かろうじて商いが続いていた日本の債券市場が、このまま干上がってしまう懸念すらある。

 黒田総裁の会見等をみても、日銀としては意地でも物価目標の看板は下ろすつもりはないようであるが、物価目標達成の前に債券市場の機能停止が先に達成してしまう可能性もある。そこまでして物価目標を達成する必要かあるのか。そもそも国債市場を機能停止状態にしてまで中央銀行が国債を買い入れて、それで本当に日本経済にとって良い物価上昇に繋がる保証があるのか。ここにきての債券市場の機能低下は、もしかすると債券市場参加者が気付かぬうちにストライキ行動を起こしていると言えるのかもしれない。


2018年5月15日「ドル円は110円の壁を突破できるのか」

 外為市場での円の動きについては、ドルやユーロに対して円が買われた際を円高、反対に円が売られた際を円安と呼んでいる。ただし、例えば円安が進み、ドルは円に対して売られドル/円は110円台をつけたとニュースなどでは報じられる。しかし、数字上からみると例えばドル/円が109円80銭から110円台に上昇することを円安が進行すると表現することになり、数字の高い安いという方向性と言葉の表現が異なることになる。このため、個人的には円安ではあるものの、あくまで円に対するドルの価値として、ドル円は110円に上昇したとの表現を使っている。

 これについては債券の利回りと価格の表現も同様に混乱してしまうものではある。債券の場合は、利回りをベースに見ることになるため、債券は売られ10年債利回りは上昇したとの表現となる。このあたり、多少の慣れも必要なところとなる。それはさておき、ここにきてドル円が110円手前で足踏み状態にある。

 東京時間外でドル円は110円を超す場面はあったが、東京時間ではいまのところ110円は突破していない。だからといってここでドル円がピークアウトして、下落トレンドに転じたわけでもなく、109円台でのもみ合いとなっている。

 ドル円が動く理由としては、いろいろな要因が絡み合うが、為替を動かしている市場参加者がどの要因に比重を置いて見ているのかを捉える必要がある。政治なのか物価なのか、特定の経済指標なのか、中央銀行の動向なのか、株や債券の動きなのか。

 いまのドル円の動きをみると、とりあえず北朝鮮の問題はリスク回避からその巻き戻しに転じ、ドル円にとっての売り要因(円高)から買い戻し(円安)の要因とされた。米朝首脳会談が大きなイベントとなるが、ドル円の買い戻しの動きはとりあえず一巡した可能性はある。

 ここにきてドル円を110円近くまで押し上げたのは、米国の長期金利の上昇、つまりは日本の長期金利がほぼ固定されているので、日米金利格差の拡がりによってドル円も買われたとの見方ができる。その米長期金利が3%台に一時乗せたものの、やはり3%が壁のようになり、いったん跳ね返され、ドル円も同様に110円が壁となったようにみえる。

 米長期金利の上昇の背景としては、FRBの正常化に伴う利上げもあるが、これは相当程度織り込んでおり、利上げが加速されるのかどうかが焦点となっている。いまのところFRBが利上げを急ぐような姿勢は見せていない。

 注意すべきは原油価格の動向となる。WTIは70ドル台に上昇し、この原油価格の上昇に伴う物価上昇観測が、ここにきての米長期金利の押し上げ要因となっている。それがドル円の押し上げ要因ともなっていた。このため、もしこのままWTIが70ドルを大きく超えて80ドル台に向けて上昇してくるとなれば、米長期金利が3%の壁を突破し、ドル円も110円の壁を大きく抜けて可能性が出てくるとみている。


2018年5月11日「メガバンクがATMを共通化と報じられたが、その目的とは」

 5月11日に共同通信が「三菱UFJ銀行など3メガバンクが、現金自動預払機(ATM)の開発や管理を共通化する検討に入ったことが11日、分かった」と報じた。長引く低金利で経営環境の厳しさが増しており、ATM業務を合理化するそうである。

 これはもちろんATMの設置費用、メンテナンス費用を軽減化させることが目的と思われるが、何故、このタイミングなのか。

 日銀の異次元緩和は長引いて、金利は低位に抑えつけられ、2016年にはマイナス金利まで導入してしまったことから、金融機関はかなり苦しい経営環境に置かれていることは間違いない。金融機関にとってはシステム管理の費用がかなり負担となっており、ATMについても窓口の人件費の節約となっても、設置費用やメンテナンス費用は巨額の負担となっている。

 これを共通化することによって、負担を軽減できることは確かである。日本ではなかなかキャッシュレス化が進まないが、その理由のひとつに現金への信用度や利用度の高さが上げられている。利用度については銀行のATMの普及度も一役を担っているため、ATMへの投資はどうしても必要となる。

 もちろんキャッシュレス化についてメガバンクも手を拱いているわけではない。三菱東京UFJ、三井住友、みずほのメガバンク3行が、スマートフォンなどで手軽に支払いができるQRコード決済で規格を統一し、連携する方針を固めたと報じられている。

 メガバンク3行がキャッシュレス化に向けて連携するだけでなく、ATMについても共通化するとの動きは歓迎したい。できれば利用者目線でも考慮していただき、メガバンクのATMであれば、他行でも手数料負担を軽減するなどしてもらえるとうれしい。

 今後はメガバンクだけでなく、これをきっかけに、この動きが他の銀行にも波及してほしいようにも思う。国内銀行の多くがATMを共通化するとともに、QRコード決済で規格を統一するとなれば、国内でのキャッシュレス化が一気に普及する可能性もある。そうなればATMの設置負担も今後軽減されることも考えられる。我々利用者としてもいったんATMで現金を引き出して物を買うより、銀行口座から代金が直接引き落とされたほうが便利であり、現金保有のリスクも軽減される。


2018年5月11日「日銀が金利を上げれば金融機関は打撃を受けるのか」

 日銀は4月26、27日に開催された金融政策決定会合における主な意見を公表した。この会合から副総裁が替わっての新体制となったこともあり、ニュアンスがどのように変化したのかに興味があった。

 金融政策運営に関する意見においては、「強力な金融緩和を粘り強く進めていくことが適当である」、「物価安定の目標の趣旨について広く社会との共有を進めるべきである」との意見が出ていた。

 また、「需給のバランスや金融システム面への影響にも配意しながら」との注意喚起もあった。「長期実質金利の低下に伴う経済・物価への緩和効果は小さくなっている可能性がある」という意見もあった。「政策効果と考え得る副作用についてあらゆる角度から検討を続けるべきである」との意見も出ていた。

 そして今回も前回の会合と同様に、「えっ」となる意見が出ていた。

 「市場は金利の早期引き上げを求めていると言われることがあるが、実際に金利を引き上げれば、債券価格と株価が下落し、円高で企業の経営が悪化し、信用コストが増大し、金融機関は大きな打撃を受けるだろう。また、短期金利を上げても長期金利が上がるとは限らず、長短スプレッドはむしろ縮小してしまう可能性もある。これは2006年以降の日本で起きたことである。」

 「市場は金利の早期引き上げを求めていると言われることがあるが」という点についてだが、確かに経済実態に応じた金利にすべきとは私も主張していることではあるが、いきなり米国のような利上げペースにすべきとは主張はしていない。べき論としては、金融機関に負の影響をもたらすマイナス金利を止めるべきで、そして長期金利コントロールについてはもう少し柔軟なものにすべきと私は主張している。

 「実際に金利を引き上げれば、債券価格と株価が下落し、円高で企業の経営が悪化し、信用コストが増大し、金融機関は大きな打撃を受けるだろう。」とのご意見も最もらしいように聞こえるが、米国の正常化による利上げを受けて、米長期金利が上がると銀行株は「買われ」、米株もしっかりしている。ドルは多少高くはなっているものの急激に上昇してはおらず、株価や景気実態にマイナスの影響を及ぼしているようには思えない。

 米国と日本は状況は違うとい言うのかも知れないが、日本も無理矢理な金融緩和よりも、経済実態に即した金融政策のほうが、むしろ株式市場には好材料となる可能性がある。

 2006年のことを持ち出したのは2月の量的緩和解除と7月のゼロ金利解除に伴っての長短スプレッドの縮小を示しているとみられる。しかし、2006年の日経平均の動きをみても大きく下落したわけではない。たしかにその後の米国のサブプライムローン問題をきっかけとした世界的な金融経済ショックが起きたことで、2006年の利上げは早すぎたとの見方はある(その後のリーマン・ショックまで予測しての利上げが早急すぎたとのご意見に対しては、決定会合には未来予知が必要となってしまうことになる)。しかし、この際の利上げによって金融機関が大きな打撃を受けたわけではない。むしろ仮死状態にあった短期金融市場が正常化したこともあり、金融機関にはプラス要因となった面も大きかったのではなかろうか。


2018年5月10日「ポンペオ米国務長官の動向が原油価格や米長期金利、ドル円に影響、イランや北朝鮮問題に関わるキーパーソンか」

 解任されたティラーソン米国務長官の後任となったのが、ポンペオ米中央情報局(CIA)長官である。ポンペオ氏は陸軍出身で、2010年下院選で保守派草の根運動「茶会」(ティーパーティー)の支持を受けて当選した。

 強硬派として知られ、下院議員時代にはイラン核合意の破棄を主張していた。また、北朝鮮の体制転覆に含みを持たせたこともあった。ティラーソン国務長官が突然解任されたのも、北朝鮮に対して強硬路線を貫くためではとみられていた。

 ところが、そのポンペオ氏がCIA長官だった今年3月末〜4月初頭に極秘訪朝していたのである。史上初の米朝首脳会談のお膳立てをしたのは韓国の文在寅大統領であったかもしれないが、対北朝鮮強硬派であったはずのポンペオ氏も大きく関与していた。

 トランプ大統領は8日、ホワイトハウスで記者団に対し、ポンペオ国務長官を米朝首脳会談の準備のため北朝鮮に派遣したことを明らかにした。46年前の1971年に米中和解の道筋をつけたキッシンジャー大統領特別補佐官のような役割を演じているようにも思える。

 史上初の米朝首脳会談が成功するとなれば、北朝鮮リスクが大きく後退することになる。北朝鮮の核開発やミサイル試射によって北朝鮮の地政学的リスクが意されて安全資産として買われていた米国債は、戻り売りに押されることになり、米10年債利回りは3%台に乗せる場面があった。

 そして、今度はイランの問題がここにきて再燃した。これにも当然ながらポンペオ国務長官の影響が及んでいると思われる。トランプ大統領は8日、イランと欧米など6か国が2015年に締結した核合意から離脱し、対イラン経済制裁を再開すると発表した。

 イランの核開発問題とは、イランが自国の核関連施設で原子爆弾の製造のために高濃縮ウランの製造を行っているのではとの疑惑である。これに対して2015年にイランは、米英仏独中露の6か国協議で、核開発施設の縮小や条件付き軍事施設査察などの履行を含む最終合意を締結した。その代わりに、経済制裁を解除するという内容だった。

 米国がイランへの経済制裁を再開するとなれば、中東の地政学的リスクが高まることも予想されるが、それ以上にイランからの原油の供給への影響も危惧されている。米国が対イラン経済制裁を再開するとの懸念から、原油先物価格は上昇しWTIは70ドルの大台を回復させた。

 北朝鮮の地政学的リスクの後退によるリスク回避の巻き戻し、原油価格上昇による物価への影響から、米国債利回りには上昇圧力が掛かる可能性がある。米10年債利回りは3%台に乗せたあとイラン問題でリスク回避の動きからいったん買い戻されたが、原油価格の上昇から再び3%台に乗せてきた。そうなれば日本の長期金利は日銀に抑えられていることで、日米金利差の拡大を受けて、外為市場ではドル円の上昇要因ともなりうる。ドル円の110円台乗せや、米長期金利の4%に向けた上昇といったことも想定される。


2018年5月9日「原油先物が70ドル突破、80ドル台へ押し上げもありうるか」

 5月7日に原油価格のベンチマーク(指標)となっているニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)に上昇している原油先物のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は、期近の6月物で1.01ドル高の1バレル70.73ドルで引けた。引け値でも70ドルの大台を突破した。

 年初に、WTIの100ドル台を正当化しうる材料も見当たらないため、あくまでこれはいまのところ初夢というか、仮定・想定の話ではあると書いたが、WTIの100ドル台乗せもあながち奇想天外な予想ではなくなりつつある。

 ここにきての原油価格の上昇にはイランを巡る動きが関係している。米英仏など6か国が2015年に結んだ合意はイランにウラン濃縮活動などを大きく制限する代わりに、経済制裁を解除する内容だった。

 トランプ米政権は同合意を「最悪のディール」と批判し、抜本的な見直しがされない限り、対イラン制裁解除の是非を再検討する期限である12日に合意から離脱する方針を示しており、その期限が接近している。仮に米国がこの制裁を再発動すれば、原油に依存するイラン経済だけでなく、世界の原油市場への影響は大きい。世界の消費量の1%にあたる100万バレル前後の供給が減るとされる(日経新聞の記事より引用)。

 そして、産油国であるベネズエラの経済混乱による影響も出ている。ベネズエラは財政悪化による資金不足で産油量が落ち込んでいるのである。

 ただし、これらの影響も大きいとはいえ、ここにきての原油価格の上昇の背景には、価格下落を危惧した石油輸出国機構(OPEC)諸国とロシアなどが昨年初めから協調して減産したことによる影響が大きい。

 サウジアラビアの政府高官は、原油価格について「サウジアラビアには上昇を止める意向は一切ない」と発言しているようだが、サウジアラビアは今年、原油価格を少なくとも1バレル=80ドルに押し上げようとしている(WSJ)。

 さらに世界的な景気拡大による需要増も相まって原油価格の反発基調が続いている格好となっている。WTIは2014年7月から2015年1月あたりにかけて急落し、その急落相場から立ち直りかけているところである。チャート上からはWTIは66ドルあたりを上抜けると100ドルあたりまで節目らしい節目はない。テクニカル的にみても80ドルや100ドル台乗せは十分ありうる。

 いまのところ、この原油価格の上昇が景気の足を引っ張るような状況にはなってはいないようだが、今後、企業業績に影響が及び、価格転嫁によって家計にも影響を与える可能性がある。個人的にもガソリン代の値上げはあまりうれしくはない。

 しかし、原油価格の上昇は消費者物価指数に押し上げ要因ともなることで、WTIが80ドル台、100ドル台へと上昇してくれば、当然ながら日銀の物価目標としている消費者物価指数の押し上げ要因となりうる。


2018年5月8日「金融政策に関する情報発信のあり方を巡り、リフレ派との温度差も」

 3月8、9日に開催された日銀金融政策議事要旨が7日に公表された。この会合でも金融政策は現状維持となり、政策変更はなかった。議事要旨の内容も前回と大きな変化はなかったが、この会合では、金融政策運営に関する情報発信のあり方について議論が行われており、その部分を取りあげてみたい。

 「何人かの委員は、最近の為替市場や株式市場における不安定な動きについては、国際金融市場の変動に加え、わが国でも経済・物価情勢の改善が続く中、今後の金融政策運営の方向性を巡り、市場参加者の関心が高まっていることも影響しているとの見方を示した。」

 この場合の「為替市場や株式市場における不安定な動き」というのは、ドル円や株の乱高下というより、当時の動きからみて、円高の進行とそれも影響しての株安のことを指しているようにも思われる。たしかに日銀の金融政策の行方に過度に神経質となっていたようだが、この円高株安の動きは3月下旬あたりから反転しつつある。

 「何人かの委員は、市場に誤解が生じないよう、日本銀行としては、「物価安定の目標」の実現までにはなお距離があることを踏まえ、引き続き、現在の強力な金融緩和を粘り強く進める方針にあり、いわゆる「出口」のタイミングやその際の対応を検討する局面には至っていないと考えていることを、丁寧に説明していくことが重要であると指摘した。」

 この発言をみても日銀が過度に神経質になっていたように思われる。国債買入の微調整が行えないような状況にあったのかと個人的には勘ぐってしまう。

 「そのうえで、このうちの一人の委員は、将来的には、金融緩和の度合いを次第に縮小していくという意味での「正常化」を検討していくことになるが、それがなお金融緩和の領域にあり、需給ギャップの縮小を狙った「金融引き締め」とは異なることを、市場参加者にきちんと理解されるよう説明していくことも必要であると述べた。」

 実はこの発言が一番気になった。これは以前、量的緩和の解除を行ったときと同様の表現であり、日銀出身者からの発言ではなかろうか。そうであれば、唯一該当するのが、この会合が任期最後となった中曽副総裁からの発言ではなかろうか。

 「別のある委員は、企業の価格設定スタンスの強まりがネガティブに捉えられることのないよう、デフレ脱却の意義について人々の理解を得つつ、「物価安定の目標」の実現を図っていくことが重要であるとの認識を示した。」

 この発言者も気になる。その内容からリフレ派からの発言ではなさそう。

 「この間、一人の委員は、追加的な金融緩和の余地が大きくない中、デフレ脱却を確実にするためには、財政政策の協力が必要になるとの見解を示した。そのうえで、この委員は、プライマリー・バランスの黒字化については、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、適切な定量的目標を定めて、柔軟に運営していくことが望ましいと述べた。」

 リフレ派からの発言である。これはやはりこの会合が最後となる岩田副総裁であろうか。そもそもアベノミクスと呼ばれたものは金融政策と財政政策に成長戦略を組み合わせた3本の矢であったはずで、何をいまさらの財政政策なのか。

 「このほか、ある委員は、「量的・質的金融緩和」の経済への効果が小さいとみていた人の中には、強力な金融緩和のもとで経済が大きく改善したことを受けて、将来必ず経済は悪化すると強調することで自己の主張と現実とのバランスを取ろうとする向きもみられると指摘した。」

 何故、金融政策決定会合という金融政策を決める会合において、自分の意見とそぐわない他者への非難を行わなければならないのか。しかも、リフレ派への非難は当然出てはいるが、「将来必ず経済は悪化すると強調」しているのはあまり聞いたことがない。

 これはむしろ、量的・質的金融緩和の物価への効果が大きいとみていた人の中には、強力な金融緩和のもとで物価が大きく改善しないことを受けても、将来必ず物価は改善すると強調することで、自己の主張と現実とのバランスを取ろうとしているようにも思われる。

 ちなみに3月の決定会合後に公表された「主な意見」では同様の意見を言っていたとみられる委員がこの部分と思われる箇所について、下記のようにまとめていた。

 「量的・質的金融緩和」への反対意見の中には、心理学で認知的不協和と言われるものがある。これは、自分の認識と新しい事実が矛盾することを快く思わないことである。「量的・質的金融緩和」で経済は良くならないという自分の認識に対し、経済が改善しているという事実を認識したとき、その事実を否定、または、今は良くても将来必ず悪化すると主張して、不快感を軽減しようとしている。」


2018年5月7日「日銀の国債買入れペース80兆円という数字は削除されるのか」

 4月27日の日銀の金融政策決定会合では、資産買入れ方針については全員一致で現状維持、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)については賛成8反対1となり、今回も片岡委員が反対票を投じた。今回から副総裁が替わったが、注目された若田部副総裁は異を唱えることなく前任の岩田副総裁と同様に執行部として賛成票を投じた格好となった。

 これは事前の予想通りであったが、サプライズが展望レポートにあった。展望レポートの「物価の中心的な見通し」で、前回の2017年10月分にあった次の箇所が変更されていたのである。

 「2%程度に達する時期は、2019年度頃になる可能性が高い。」

 上記の文面があった箇所が今回は下記のようになっていた。

 「2019年度までの物価見通しを従来の見通しと比べると、概ね不変である。」

 つまり、2%程度という日銀の物価目標の達成時期の文面が削除されていたのである。当然ながら市場もこれに関心を抱き、27日の総裁会見でも質問が集中した。

 黒田体制の2期目がスタートし、そのタイミングで日銀は微妙な軌道修正を行った。ただし、政策そのものを変えたわけではない。あくまで展望レポートにあった達成予定時期の表記をなくし、未達成ならば追加緩和との見方が出ないようにするためと思われる。

 市場では日銀による金融政策の微調整の可能性も意識しはじめているが、今回の修正はそれに向けたものとは思われない。すでに6回ほど達成時期の先送りをしている現状、これを残す必要性もなくなったともいえる。

 それではもうひとつ、現状と乖離した部分が、こちらは「当面の金融政策運営について」に残っているが、これはどうするつもりなのであろう。その部分とは下記のところである。

 「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。買入れ額については、概ね現状程度の買入れペース(保有残高の増加額年間約80兆円)をめどとしつつ、金利操作方針を実現するよう運営する。」

 この保有残高の増加額年間約80兆円という数字はすでに現実的ではない。2016年10月の決定会合で導入した長短金利操作付き量的・質的緩和政策により、政策目標は量から金利に戻しており、国債買い入れペースも年間60兆円台あたりとなっている。80兆円はすでに絶対目標とはなっていないこともあり、いずれこの数字も削除してくる可能性はある。ただし、これについては若田部副総裁あたりから反対意見が出ることも予想され、そう簡単なものではないのかもしれない。


2018年5月3日「国債の決済T+1が始動、これにより日銀の国債買入がさらにスムーズに」

 国債など有価証券の取引には約定日(売買した日)と決済日(資金と証券の受渡日)が存在している。この関係は国債の入札日と発行日の関係にもあたる。つまり売買を行った日と別に決済日・発行日が存在している。

 国債の決済に関しては、2012年4月23日約定分から「T+2」に決済を行うようになった。つまり売買約定日から起算して原則3営業日目の日に受渡し決済を行っていた。

 この決済期間が5月1日から「T+1」に短縮された。つまり約定日から起算して原則2営業日目の日に受渡し決済を行うことになる。

 なぜ国債の決済期間を短縮しなければならなかったのか。これについては主導した日本証券業協会のサイトなどでも確認できる。大きな要因としては「リーマン・ショックで顕在化した国債決済リスクの削減」ということになる。また、「国債市場・短期金融市場の流動性・安定性・効率性の向上」も目的としている。さらに「国際標準手法の導入を通じ国債のグローバル化に対応」ともある。簡単にいえば最も流動性の高い米国債の決済がT+1であり、日本国債もそれに揃えようとの動きと言えた。

 国債の入札も財務省と業者の国債の売買契約となるため約定日ということになり、それとは別に発行日(受渡日)が設けられている。これは約定日と決済日の関係と同じである。今回の国債の決済期間の短縮によって、国債の入札から発行までの期間も短縮される。

 これまで5年債、10年債、20年債、30年債については入札日を含めた3営業日目の日(T+2)が発行日となっていた。これがT+1となる。ただし、3月、6月、9月、12月のいわゆる国債の償還月については、20日が発行日となっていた(20日が休日の場合は翌営業日)。償還月の発行日が20日となっているのは、償還を迎えた国債への再投資を円滑に進めるなどの理由があった。ただし、これだと入札日から発行日までの期間が大きく空いてしまうことになる。

 償還月の発行日が20日となっていることで、実は日銀の国債買入にも影響が出ていた。日銀は発行されていない国債を購入することはできない。つまり発行日を過ぎないと買入対象とならないのである。償還月に際しては20日まで日銀が買入対象にできないため、国債を入札した業者は期間リスクを負うことになる。

 しかし、今後は償還月でも発行日は入札翌営業日となることで、業者の負担が軽減される。ただし、2年債についは5月入札分(31日入札)から翌月1日発行とし、現状(翌月15日)から約2週間程度前倒しされる。


2018年5月2日「日銀が物価目標達成時期の表記を削除、この目的とは何か」

 4月27日の日銀の金融政策決定会合では、資産買入れ方針については全員一致で現状維持、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)については賛成8反対1となり、今回も片岡委員が反対票を投じた。今回から副総裁が替わったが、注目された若田部副総裁は異を唱えることなく前任の岩田副総裁と同様に執行部として賛成票を投じた格好となった。

 これは事前の予想通りであったが、サプライズが展望レポートにあった。展望レポートの「物価の中心的な見通し」で、前回の2017年10月分にあった次の箇所が変更されていたのである。

 「2%程度に達する時期は、2019年度頃になる可能性が高い。」

 上記の文面があった箇所が今回は下記のようになっていた。

 「2019年度までの物価見通しを従来の見通しと比べると、概ね不変である。」

 つまり、2%程度という日銀の物価目標の達成時期の文面が削除されていたのである。当然ながら市場もこれに関心を抱き、27日の総裁会見でも質問が集中した。

 総裁会見での総裁のコメントはさておき、そもそもこの目標達成時期の表記については、日銀と政府の間でかなりの確執があった部分である。

 日銀としては金融政策で自由に物価をコントロールできるといった発想はそもそもなかったはずである。インフレを抑えるのではなく、デフレ予防を金融政策で行うとなれば、あくまでも物価が上昇しやすい環境を整えることが重要となる。金融政策は補助的な道具に過ぎない。

 しかし、リフレ派の意向を組んだ安倍政権は日銀にプレッシャを与え続け、その結果として2013年1月に日銀(当時の総裁は白川氏)は2%の物価目標の導入を決定し、政府・日銀は共同文書(アコードではない)を発表した。そのなかで目標達成時期については下記のような表現となっていた。

 「日本銀行は、上記の物価安定の目標の下、金融緩和を推進し、これをできるだけ早期に実現することを目指す。」

 この時点では、具体的な時期については表記されていない。日銀は2%は飲んだものの、具体的な時期の表明の表記は拒んだ格好となっていた。

 しかし、総裁が安倍政権が選んだ黒田氏に変わったこともあり、日銀としては政府の意向を時期についても飲まざるを得なくなった。むしろ積極的なリフレ政策を掲げるというある意味、ひとつの賭けに出ざるを得なくなった。

 黒田総裁の就任後まもなくの決定会合で、日銀は量的・質的金融緩和を導入し、2%という物価目標に対しては、「2年程度の期間」を念頭に置いて、早期に実現するとしたのである。

 この決定会合後に発表された展望レポートでは、本文だけではなく最初の概要部分にも「2%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されるが、現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016年度前半頃になると予想される。」とあった。

 日本の消費者物価指数は量的・質的金融緩和を導入した2013年4月の前年比マイナス0.4%から、1年後の2014年4月にプラス1.5%に上昇したが、ここがピークとなった。

 一見、日銀の金融政策が物価を動かしているようにみえるが、急激な円高修正とその円安による株価の上昇に加え、2014年4月の消費増税に向けた駆け込み需要や便乗値上げなどの影響が大きかった。

 リフレ派はこの消費増税によって個人消費が停滞して物価上昇を抑制したというが、その後も景気そのものは拡大している。消費税で物価がコントロールできるのであれば、そもそも物価安定のための金融政策は必要ないというのであろうか。

 それはさておき、その後の物価の動向はご存じの通り。なぜ物価目標が達成できないのかはすでに日銀が一番良くわかっているものだと思う。それでも目標達成時期の表記は続き、達成時期は先送りされた。

 そして2016年10月に日銀は長短金利操作付き量的・質的金融緩和を決定し、政策目標をリフレが主張していたような物価を動かすはずであった量から、金利に戻している。このタイミングで、日銀は展望レポートの概要に表記されていた物価目標達成時期を本文だけとした。さらに今回、本文中の物価目標達成時期も削除した。

 これで何か変わったわけではないが、注目されやすく、何度も先送りしていた物価目標達成時期を残す意味はそもそもなかった。異次元緩和の効果はすでに5年以上経過して薄れているが、さらに無理しての追加緩和で物価を引き上げられる可能性は極めて低い。市場に追加緩和の期待を抱かせるようなことになりかねない部分は削除し、とりあえず淡々と現在の政策を継続する姿勢を示すことが現状では重要となるとの判断ではなかろうかと思われる。


Copyright 牛熊 1996-2015