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2024年9月14日「ブラジルの即時決済システムのピックス(PIX)が普及した理由、中央銀行が関与」

 ブラジルの決済会社イーバンクスが9月9日公表した調査結果によると、同国の即時決済システム「ピックス」は来年にも国内オンライン決済市場のシェアがクレジットカードを上回る見通しだ(9月10日付ロイター)。

 ピックス(PIX)は2020年末にブラジル中央銀行によって導入された。このシステムは、スマートフォンなどによる支払い、振り込み、送金などを低コストで、24時間365日実施できる。銀行は各々の口座をこのシステムに対応させることが義務付けられた。

 中央銀行がシステムの保有、運用や規制を担い、処理速度や効率、そして銀行口座との全面的な統合を保障するという方式は画期的である。

 現金に代わる決済手段として普及させるべく、ブラジル中央銀行によって監督されている。これにより高いセキュリティ基準が適用されていることで、ブラジルレアルと同様の信頼性もある。

 利用者は既に持っている銀行のアプリなどで、納税者番号や携帯電話番号を使って個人の「ピックス・キー」を作成する。電話番号を入力したりQRコードを読み込むことで、支払いを済ませることができる。

 個人の送金手数料は無料となり、企業の場合は取引金額の 0.33%相当と安価となっている。

 従来の決済手続きではその構造上、仲介事業者が多くなり、送金手数料で高額な費用がかかる。これが小規模企業の参入を阻んでいたが、「ピックス」の導入により仲介事業者が減り、コスト面の障壁が低くなる。

 クレジットカードの大きなメリットである複数月の分割払いについても、「ピックス・ギャランティド」と呼ばれる新機能によって可能となる。

 長期の分割払いの利用が多いブラジルでは、ピックスの登場後も高額決済ではクレジットカードが利用されてきた。さらにブラジルの政策金利は10%を上回っており、分割払いの利子もかなりの負担となるが、これも軽減される。

 中央銀行デジタル通貨については日銀でも研究等を行っているが、それなりにハードルは高い。

 これに対して中央銀行がシステムの保有、運用や規制を担う即時決済システムの導入は、このブラジルの例もあるようにハードルは低い。

 日本では、ほぼ全員が銀行口座を保有している。このため、即時決済としてはデビットカードなどの普及が進めば、同様の決済は可能となる。しかし、日本ではその普及は拡がらなかった。

 もしブラジルのように日本でも日銀が関与して銀行口座と直結したシステムを導入するとなれば、決済の電子化が一気に進む可能性もある。それをブラジルでのピックスの普及が示しているように思われる。


2024年9月14日「日銀の政策金利は2026年に向けて1%まで引き上げか」

 日銀の田村審議委員は12日の岡山県金融経済懇談会における挨拶で次のように述べていた。

 「物価安定の目標と概ね整合的な水準で推移するというのが私どもの見通しです。こうした見通しが実現していく場合、2026年度までの見通し期間の後半には、政策金利である短期金利は経済・物価に対して中立的な水準、すなわち名目の中立金利まで上昇していることが必要と考えています。」

 これが田村委員の、というよりも現在の日銀の基本姿勢であると思われる。

 中立金利については具体的なに算出するのは難しい。田村委員は中立金利について、私は、最低でも1%程度だろうとみているとしており、これもある程度のコンセンサスになっている。

 「したがって2026年度までの見通し期間の後半には少なくとも1%程度まで短期金利を引き上げておくことが、物価上振れリスクを抑え、物価安定の目標を持続的・安定的に達成する上で、必要だと考えています」

 いかにもタカ派的な見方と考える人もいるかもしれないが、これが本来の日銀の姿勢だと思われる。

 今年3月に日銀は異常な金融緩和からの方向転換を行っており、本来の日銀の金融政策の姿に戻ろうとしている。これが基本路線であることを念頭に今後の日銀の金融政策の行方を考える必要があろう。

 「私としては、金融市場の動向にも十分に配意しつつ、経済・物価の反応を確認しな がら、適時かつ段階的に利上げしていく必要があると考えています」

 2024年3月にマイナス金利と長期金利コントロールを解除、7月に政策金利を0.25%に引き上げ、国債の買入減額を決定した。

 次は中立金利を意識しての0.50%への利上げが予想される。これは政治のスケジュールなども考慮して、市場のコンセンサスは12月の決定会合との見方が強まっている。

 来年のうちにあと2回の0.25%の利上げを行うことで、政策金利を1%に引き上げることが予想される。これは以前からの自分のスケジュール感でもあった。

 短期金利を引き上げていくことの各経済主体への影響についても田村委員は指摘している。

 「安定した受取利息が増加すればマインドの改善に繋がる可能性が高い」

 「付加価値の高いビジネスに経営資源を集中させていく必要に迫られ、結果として、ビジネスの新陳代謝が促され、生産性が上昇するということも期待されます」

 このあたりの指摘もたしかであり、正常化に向けた金利上昇が、景気を悪化させたり、デフレに戻ったりさせることはむしろ考えづらい。


2024年9月13日「紙の手形・小切手から電子決済サービスへ、歴史ある手形がなくなる日」

 企業の間で使われている紙の約束手形や小切手の新たな発行を、大手銀行3行が来年度中に終了することになった。

 三井住友銀行は既存の顧客向けの新たな発行を来年9月末で終了すると発表し。発行済みのものについても再来年、2026年の9月末で決済手続きを終了する。

 みずほ銀行は新たな発行を2026年3月末で終了し、決済の手続きは2027年3月末までに終えるよう利用者に呼びかけるほか、三菱UFJ銀行も2026年3月までに新たな発行を終了する予定(12日付NHK)

 手形と呼ばれる制度には歴史がある。

 手形とは、将来の特定の日に特定の金額を支払う旨を約束した有価証券である。元々は、土地の売買などに絡んだ法律的な文書や宗教的な文書である原文に押されていた文字通りの「手形」であった。

 その後、証文の印としての「手形」を押す習慣はなくなったが、手形が押されていた証文などを指す言葉として「手形」という用語が残った。

 現在のような手形制度は、中世に地中海沿岸の都市で発達した両替商が発行した手形に始まるとされているが、日本でも鎌倉時代にはすでに、割符屋を通じて、金銭を割符と呼ばれる手形で決済をする取引も行われた。

 江戸時代には特に大阪(大坂)を中心に手形で決済をする慣習ができ上がっていた。幕府による大阪の御金蔵から江戸への公金輸送や、諸大名の大阪の蔵屋敷から江戸の大名屋敷の送金などにも手形が使われていた。

 この歴史ある手形の制度ではあるが、政府は2026年までの約束手形の利用廃止、小切手の全面的な電子化の方針を示していた。

 金融業界も2026年度末までに紙の手形・小切手からの電子決済サービスへの移行を推進しており、その時期についても明確化したとみられる。


2024年9月12日「ドル円は一時141円割れ、今後再び円高が加速する可能性も」

 金融市場では、ときおりコツンと音がすることがある。典型例のひとつに8月5日の東京市場での動きがそうであった。

 5日のドル円の動きをみると、一時141円70銭まで大きく下落(円高ドル安)となったが、その後143円台を回復した。

 コツンというのは、日足のローソク足で直近の安値を瞬間つけながら、その後戻すことによって、それなりの下髭をつけて引けたことを指す。

 こういう際にはトレンドがいったん変化して、相場が回復してくることが多い。ただし、より長い目でみての相場転換に見えない場合には、一時的な戻りとなることもある。その後、瞬間付けた安値を下回り、再び下落トレンドを形成する。

 9月6日の米国債券市場では米10年債利回りは一時3.64%と2023年6月上旬以来、約1年か月ぶりの水準に低下した。その後下げ幅を縮小させ米10年債利回りは3.71%となった。

 この日の外為市場では、この米長期金利の低下を受けてドル円は一時141円78銭と8月5日につけた141円70銭に接近した。その後142円台を回復した。

 ここでコツンという音が聞こえた気がしたが、どうもそれほど大きな音ではなかったようだ。

 9月10日の米10年債利回りは一時3.63%と6日の3.64%を下回り、2023年6月以来の水準に低下した。引け3.64%となり、大きな下髭とはならなかった。

 そしてドル円も11日の10時半あたりから再び円買いドル売りが強まり、あっさりと142円を割り込んできた。さらに8月5日につけた141円70銭をも下回り、141円50銭近辺を付けてきた(10時40分現在)。

 タイミングとしては米大統領選の候補者討論会が始まっていたが、日銀の中川審議委員が講演で、「見通しが実現していけば緩和度合いを調整していく」と発言したことも影響した可能性はある。ただし、債券先物は売られるどころかむしろ買われていたのだが。

 とにかくも、ドル円が141円70銭割れとなったことで、チャート上からは再び円高が加速する可能性が出てきた。

 大きなトレンドとして、ここにきてのドル円は低下トレンドを形成しつつある(円高ドル安)。次の下値の目途は140円となるが、ここもあっさりと下回ってくる可能性がある。

 米10年債利回りも同様に低下トレンドを形成しており、次の節目は3.5%あたりとなりそうだ。


2024年9月11日「円高ドル安が進行、ドル円は141円を割り込み、昨年末の水準に、その要因とは何か」

 ドル円は11日の10時半あたりから円買いドル売りが強まり、8月5日につけた141円70銭を下回ってきた。141円70銭はテクニカル的にも重要なポイントとなっていた。

 10時過ぎには米大統領選の候補者討論会が始まっていたが、日銀の中川審議委員が講演で、「見通しが実現していけば緩和度合いを調整していく」と発言したことも円買いドル売りを招いた可能性はある。しかし、チャートを意識したテクニカルな動きを誘発させる仕掛であった可能性が高い。

 今年8月5日に日経平均は過去最大の下げ幅を記録していたが、この日のドル円は大きく下落(円高ドル安)しており、一時141円70銭を付けてきた。しかし、その後弗は買い戻されて143円台を回復した。つまりこの日のドル円は日足で141円70銭を底として、大きな下髭をつけたこととなる。

 その後、ドル円は150円近くまで戻す場面もあったが、9月11日あたりから米長期金利の低下に促されるように円高基調となった。そして11日にドル円は142円を割り込み、ポイントとなる141円70銭割れとなったのである。これにより円高ドル安が再開し、チャート上からは再び円高が加速する可能性が出てきた。

 実際に11日の後場に入り141円も割り込んできた。目先の下値の目途は、昨年末に付けた140円70銭あたりとなるが、ここもあっさりと抜けてきそうである。また大きな節目の140円も見えてきた。

 今回の円高ドル安の背景のひとつは日米金利差の縮小にあろう。

 FRBは9月に利下げを行う可能性が高い。利下げ幅は0.25%もしくし0.50%が予想されている。それに対して日銀は9月は現状維持となりそうだが、10月もしくは12月の決定会合で、「見通しが実現していけば緩和度合いを調整していく」可能性が高い。

 10月では日本では新政権発足して間もないことや、11月の塀大統領選の結果を確認して、12月の金融政策決定会合で0.25%の利上げを日銀は決定すると予想している。このように日米の中央銀行が反対方向に動くことで日銀の政策金利差は縮小することになる。これも円高ドル安の要因となろう。  また、米長期金利が低下基調となっていたことも大きく影響している。11日の東京時間の米10年債利回りは3.62%に低下していた。

 そもそも物価対策での円安修正を政府も意識し、神田前財務官はタイムリーな為替介入を行ったこともあって、円安ドル高トレンドを修正させることになった。ここに米長期金利の低下や日銀の政策修正も加わって、ドル円は昨年末の水準に接近しつつある。政府としてもこのあたりまでの修正は想定の範囲内ということではなかろうか。


2024年9月11日「自民党総裁選による市場への影響」

 9月12日告示・27日開票の自民党総裁選は、すでに8人が立候補しており、最終的には10人程度が立候補する模様となっている。その行方については、不透明感が強い。

 QUICKが9日発表した9月の株式月次調査では、「当選する可能性が高いのは誰か」の質問では、78%の回答が小泉氏に集中したそうである。

 これに対しQUICKによる8月の債券月次調査では、小泉氏が45%、石破氏が26%と続いていた。

 自民党総裁選の結果は債券市場にどの程度影響を与えると思いますかと言う問いについては、ほとんどないが52%、少し与えるが40%となっていた。

 個別の意見のなかには、「財政拡大、金融緩和を唱える旧安倍派の流れをくむ首相になった場合、市場が拒否反応を起こす可能性がある。」との指摘があった。

 これに対して株式市場では、総裁に望ましい人を聞いたところ、高市早苗経済安全保障相との回答が29%を占めてトップだった。安倍晋三元首相に近く「アベノミクス」の継続に期待する声があった(10日付日本経済新聞)。

 個人的にも自民党総裁選については誰が勝利するかというよりも、旧安倍派の流れをくむ人物であるかどうかが、大きな焦点になると考えている。金利の正常化を妨げるような人物にはなってほしくはない。


2024年9月10日「米長期金利低下と円高ドル安にいったんブレーキか?」

 6日に発表された8月の米雇用統計は非農業雇用者数が前月比14万2000人増と市場予想に届かなかった。6〜7月分も下方修正された。一方、失業率は4.2%と前月から改善、平均時給の伸びが市場予想を上回った。

 非農業雇用者数は予想を下回るも雇用は改善、平均時給の伸びが市場予想を上回り物価に上昇圧力が加わる可能性も。

 これを受けての米債はいったん買い進まれ、米10年債利回りは一時3.64%と2023年6月上旬以来、約1年か月ぶりの水準に低下した。

 しかし、9月のFOMCでの0.50%の大幅利下げの予想確率が低下するなど、目先の大幅利下げ観測が後退したことで、米債も戻り売りに押されて、結局、米10年債利回りは3.71%と前営業日の3.73%から小幅低下に止まった。

 利回りは上昇したのではなく低下していた。ただし、3.64%まで低下していたことでいったんコツンと底を付けた可能性があるような動きではあった。

 これはドル円も同様で、いったん141円76銭まで下落し(円高ドル安)、8月5日につけた141円70銭に迫ったところでブレーキがかかった。その後ドル円は142円台を回復。

 ナイトセッションの債券先物は145円41銭まで買われた後、144円81銭まで下落した。その後145円20銭台まで買われた後、結局、6日の引けから20銭安の144円98銭で引けている。

 債券先物は12日の9月限の取引最終日を控えた限月移行も意識した動き、いわばポジション調整であった可能性はある。それでも米債は売られてはいなかったにも関わらず、欧州の国債も買われていたのに、債券先物は20銭安というのはどうしてか。

 あらためて日銀の利上げが意識されての水準調整の可能性はあるものの、特にそれを促すような材料はみあたらなかった。

 6日に日銀の高田審議委員の会見内容が日銀のサイトにアップされたが、追加利上げの可能性を強く示した様子はなく、むしろ慎重さが意識された内容としなっていたと思うのだが。

 いずれにしても債券先物については目先、9月限から12月限への中心限月の移行、いわゆるロールオーバー主体の動きとなることが予想される。

 米長期金利とドル円については、いったんコツンと目先の底を付けた感はある。しかし、大きな流れからみて、少しもみあったあと、あらためて低下の余地を探ることが予想さされる。

 米長期金利は3.5%近辺、ドル円は140円が次の目標値となりそうである。


2024年9月7日「需給バランスの歪みが生じ、金融市場で価格変動を招く事例」

 2023年の猛暑による影響や、インバウンド観光客の増加でコメ消費量が増えたことにより、全国的に「コメ不足」が発生、「令和のコメ騒動」だと話題になっている。

 しかし、特に都心のスーパーなどでの米不足は、2023年の猛暑による影響や、インバウンド観光客の増加が主たる要因とは考えづらい。

 毎年7月〜8月は、前年に採れた古米と、今年採れる新米のちょうど端境期にあたり、もともと需給が逼迫しやすい。そこに南海トラフ地震が警戒されて、防災用具などとともに、災害に向けた備蓄用の米が買われ、需給バランスが崩れたことが主たる要因とみられる。

 金融市場でも需給バランスに歪みが生じ、大きな価格変動を招くことがある。

 金融市場では需給バランスに歪みが生じている状況にあるなか、何かしらのきっかけで、その歪みが解消されるとともに、大きな価格変動が起きるケースも多い。

 今年8月5日の東京市場がそのひとつの事例かと思われる。

 7月中旬あたりから米国株式市場が調整局面となり、米長期金利が低下してきた。それによってドル円の下落に拍車がかかった。

 7月31日に日銀は0.25%への利上げを決定し、FRBは現状維持としながらも9月の利上げの可能性を示唆した。

 特にドル円は7月3日に162円近くまで上昇(円安ドル高)したあと急速に下落し、7月31日に150円割れとなるなどスピード調整が入った。

 今後の日米金利差の縮小も意識されて、ドル円はさらに下落ピッチを速めた。これを受けて、円キャリートレードを行っていたヘッジファンドが、そのポジションの解消を行った。

 持っていたポジション、その主体は東京株式市場であったとみられ、それを売却した。日本国債については、日銀の利上げによる価格下落を睨んでか、ショートポジションを持っていたとみられ日本国債は買い戻された。10年債利回りは0.750%に低下した。

 東京株式市場では日経平均が急落となったことで、ほかのヘッジファンドなどもロスカットせざるを得ないところも多く出た。その結果、過去最大の下落幅となった。ドル円は141円台にまで下落した。

 こちらは大きなポジションの解消が急激な価格変動を招いた事例ともいえる。ただし、そのポジション解消後は、米国株式市場や東京株式市場は急落前の水準に値を戻していた。

 ドル円も戻したが147円あたりまで。日本国債も再度売られたが、10年債利回りは1%にも届かずと、株価の戻りに対して戻り切れていない面もある。こちにはまだ需給バランスの歪みは解消されていないのかもしれない。


2024年9月7日「円安トレンドが修正される可能性、結果からみた神田砲(為替介入)の凄まじさ」

 9月5日のニューヨーク外国為替市場で対ドルの円相場が上昇し、142円台後半と1か月ぶりの円高ドル安水準を付けた。

 8月5日にドル円は一時、141円70銭を付けたが、これは日経平均が過去最大の下げ幅となるなどしたこともあり、一時的なものとなった。

 その後、ドル円は切り返して7月3日に161円94銭まで戻した。しかし、162円近くでピークアウトした。その後、米長期金利の低下とともにドル円も下落し、再び一時141円台を付けてきたのである。

 ドル円は6日のニューヨーク市場で141円78銭を付け、8月5日につけた141円70銭が視野に入ってきた。

 もしこの水準まで再び下落するとなるとチャート上からは、大きなトレンドが修正される可能性が出てきた。

 今度はドル円の日足ではなく月足をみてみると、2021年1月の102円台から上昇基調となっている。それが7月3日に161円94銭を付けてピークアウトしたかたちとなった。

 再び141円台を付けてきたこともあり、2021年からのドル円の上昇相場が終焉を迎える可能性がチャート上出てきたのである。

 7月11日のニューヨーク外国為替市場で、6月の米消費者物価指数の発表直後に急速に円安調整が起きて、ドル円は一時157円台半ばまで下落した。

 7月12日にも一気にドル安・円高に振れる場面があり、2日続けての為替介入が行われた可能性が高い。

 ここに米長期金利低下も重なっての円安修正の動きが強まった結果、大きなトレンドそのものが終了する可能性も出てきた。

 私は為替介入で相場の向きを変えることは難しい、特に逆張りでの介入に効果はないと主張し続けてきた。しかし、今回はうまく米長期金利の低下に合わせる格好で介入を行った結果、トレンド修正まで促すような結果になったともいえるかもしれない。

 いまさらながら、神田前財務官の介入、神田砲の凄まじさを感じた次第である。


2024年9月6日「ノルウェー通貨クローネが下落」

 ノルウェー通貨クローネが対ドルや対ドルで下落しており、コロナ禍に付けた史上最安値に近づいている。

 ノルウェーは欧州で最も豊かな国とされ、失業率も最も低く、ファンダメンタルズは強いとされている。それにもかかわらず通貨安となっているのはどうしてなのか。

 ノルウェーは西欧最大の産油国でもあり、原油価格の影響を受けやすいともされているが、それだけではなかなか説明にならない。

 欧州中央銀行(ECB)やスウェーデンのリクスバンク(中銀)、スイス国立銀行(中銀)と異なり、今会合でもノルウェー銀行は利下げは行っていない。

 ノルウェーの現在のインフレ率は2年ぶりの低水準となっているとはいえ、7月のインフレ率は3.3%と中銀目標の2%を依然として大きく上回り、米欧諸国の中で最も高い。

 そこに通貨安もあり、ノルウェー銀行は政策金利を4.5%に据え置いている。

 クローネの下落が止まらないことから、ユーロとの固定相場制の導入という過激な提を元閣僚が行ったとか。

 通貨安定のためのスウェーデンとともにユーロ加盟論も再燃しているそうである。


2024年9月5日「株式市場はチャートからはピークアウト感が強まる可能性も」

 3日の米国株式市場ではダウ工業株30種平均は前週末比626ドル安の4万936ドルで引けた。ダウ平均が1000ドル超下落した8月5日以来の下げ幅を記録した。

 ダウ平均採用銘柄ではないものの、半導体最大手のエヌビディアの株価がは9.5%安となり、4月中旬以来の下落率となった。

 エヌビディアが米司法省から反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いで情報提供を命じられたとの報道もあり、警戒感が強まった。

 エヌビディアの時価総額は前週末比で約2830億ドル(約41兆1000億円)減少。米国上場銘柄の1日における時価総額減少額で史上最大を記録したとか。

 米国株式市場はエヌビディアを中心に半導体関連などハイテク株が買い進まれたことで、ダウ平均やナスダックなどが過去最高値を記録していた。

 しかし、7月11日あたりから調整局面入りし、8月5日に日経平均株価が過去最大の下げ幅となるなどしたことしで、ここでいったんボトムアウトした。

 そこから米国のダウ平均は再び過去最高値を更新するなどしたが、ナスダックやS&P500などは戻り切れていなかった。これは日経平均も同様で39000円台を乗せたあたりで上値が重くなっていた。

 ドル円も8月5日に141円台に下落したあと、ドルが買い戻されたが、こちらも150円には届かず、戻りが鈍くなっていた。

 ナスダックや日経平均の日足チャートをみると、今回の下げによってダブルトップが形成される可能性が出てきた。

 6日に発表される米8月の雇用統計の内容次第では、FRBによる9月の大幅な利下げ観測が再び強まる可能性はある。しかし、チャート上からは、むしろピークアウト感が強まる可能性は否定できない。


2024年9月4日「今回も株式市場急落の影にインテル入ってる?」

 9月4日の日経平均株価は一時前日比1800円超の下げ幅となり3万7000円を下回った。引けは1638円安の3万7047円となり、下げ幅は歴代5番目の大きさとなった。

 この下落の要因として3日の米国株式市場で半導体大手エヌビディアの株価が急落したことが挙げられている。

 エヌビディアの株価急落の要因としては、エヌビディアが米司法省から反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いで情報提供を命じられたとの報道があり、警戒感が強まったことなどが指摘された。

 エヌビディアの株価急落を受けて米国株式市場でハイテク株が軒並み売られ、ダウ平均は反落し626ドル安、ナスダックは577ポイント安となった。

 これを受けて、4日の東京株式市場では、東京エレクトロン、アドバンテストなど半導体関連株などが大きく売られたのである。

 さらに半導体絡みで注意すべき別のニュースが流れていた。

 3日のロイターによると、7月の世界全体(全社)の半導体売り上げが前月比11.1%減少したというIBSセキュリティーズのリポートを嫌気して、3日の米市場では半導体株が大きく売られたと。

  この半導体株のなかには米半導体大手インテルも入っており、インテル株も急落した。急落したというか8月29日以降戻り掛けていたが、再び下落してしまったというべきか。

 インテル株は年初から約60%下落してダウ平均構成銘柄の中で下落率が最大となっていた。

 この株価低迷によって、ダウ工業株30種平均の構成銘柄から外されるとの観測が高まっていると(3日付ロイター)。

 インテルの株価下落による全体の株価に与える影響はエヌビディアの比ではないかもしれない。しかし、「インテル」そのものが「半導体」の中心となっているCPUそのものを指す用語ともなっているように、象徴的な企業であるひとは間違いない。

 実はこのインテルの株価が8月1日から2日にかけてストンと下落したことが、8月5日のクラッシュのひとつの要因となっていた可能性がある。

 インテルの株価が8日2日の米株式市場で前日終値に比べ約26%下落。2日の相場下落の要因は雇用統計を受けての景気への不安だけでなく、インテル・ショックによる半導体株が下落し、ハイテク株全波に売りが入ったことも影響した。

 8月3日付の日本経済新聞によると、『前日に発表した業績悪化と1万5000人の人員削減を受け、売りが広がった。同社の時価総額は1日で4分の3に目減りし、株式市場全体で売りが膨らむなか「インテル・ショック」とも言える状況になっている』。

 今回のインフル株の下落による影響はそれほど大きくなかったかもしれないが、インテルがダウ工業株30種平均の構成銘柄から外されるとの観測による影響はそれなりに心理的に大きかったのではなかろうか。今回も株式市場急落の影にインテルが入っていた可能性がある。


2024年9月4日「次の日銀の追加利上げは12月との予想」

 QUICKが2日発表した8月の債券月次調査によると、日銀が追加利上げに踏み切るのは「2024年12月」との予想が最も多かった(2日付日本経済新聞)。

 これには意外感があった。自分の日銀の政策変更予測と合致していたためである。過去の予測では私は少数派に属していた。

 QUICKの調査結果からは、次の日銀の利上げの時期について、9月が1人、10月が5人、12月が53人、2025年1月が35人、3月が6人、4月が5人、6月が3人、7月が1人、10月が1人となっていた(合計110人)。

 日銀は2024年3月にマイナス金利政策と長期金利コントロールを解除した。そして7月に政策金利を0.25%に引き上げた。

 これから窺えることは、ひとつは展望レポートが発表されるタイミングではなかったということ。

 実は場合によると6月の会合での利上げの可能性もあったのではと読んでいた。しかし、6月は国債減額について7月に正式決定することを決定していた。そして、それは金融政策と切り離して行うことも言及した。

 7月は国債買入減額と利上げの両方を決めるのは無理との見方も出ていた。しかし金融政策として決めるべきものは利上げの有無であり、国債買入減額は市場参加者の意見を聞いた上で、ある程度の規模については会合までにすり合わせていたのではなかろうか。

 3月から7月と4か月かけての利上げ。ただし、3月は実質的に0.2%の利上げ(マイナス0.1%からプラス0.1%)、7月は実質的に0.15%の利上げ(0.1%から0.25%)であった。

 次回の利上げは、0.25%から0.5%への利上げが予想される。過去2回に比べると幅がやや拡がる。このため時間を少しかけて、2か月後の9月や3か月後の10月ではなく、5か月後の12月では、との見方はやや根拠は薄いか。

 ここは政治日程を意識する必要があろう。

 9月の自民党総裁選、新政権の発足のタイミング、さらに衆院選の可能性、そして米大統領選挙の行方などを確認した上での、12月の会合での利上げというのが私の予想の根拠となっている。

 植田総裁発言などから、利上げは急いでいるわけではないが、中立金利に向けて淡々と行うことが予想される。できれば年内に大きな節目ともなる政策金利0.5%への引き上げを行い、来年中に1%台への引き上げを検討しているのではないかとみている。


2024年9月3日「我々は新たな金利の世界に備える必要がある」

 2024年3月19日、日銀は金融政策決定会合において「無担保コールレート(オーバーナイト物)を0〜0.1%程度で推移するよう促す」ことを決めた。

 これが何を意味するのか。

 これは日銀にとっては金融政策の大転換であった。日銀は異次元の緩和策から、普通の金融政策に歩を進めることができたのである。

 日銀は大胆な金融緩和策から方向を変えることすらできないと、市場参加者の多くもみていた。それだけ日銀は金融政策の自由度を失っていたといえる。その呪縛から解き放たれたのが、2024年3月なのであった。

 マイナス金利政策はデンマークやユーロ圏、スイス、スウェーデンなどでも実施されていたが、極めて異例の金融政策であった。

 スウェーデンは2019年12月、2022年7月に欧州中央銀行(ECB)、同年9月にスイスとデンマークがそれぞれマイナス金利政策を解除した。

 日本でも2022年4月から日銀の物価目標である消費者物価指数(除く生鮮)が、目標値の2%を超えてきたにもかかわらず、日銀はビクとも動かなかったのである。

 そして2024年3月19日にマイナス金利政策そのものを解除した。そしてもうひとつ、長期金利コントロールも解除された。

 2023年4月9日から植田和男氏が日銀総裁に就任したが、この際にも安倍派の有力議員から、金融政策の方向は変えるなという指摘を国会などで受けていた。

 2023年7月28日に開催された日銀の金融政策決定会合では、イールドカーブコントロールの修正が行われた。長期金利コントロールのレンジを0.5%を目途として残しつつ、1.0%まで引き上げたのである。

 この念頭にあったのは円安対応と、日銀ができる範囲の物価への対応であり、債券市場の機能回復が主目的ではなかった。これも日銀が方向転換をしたのでなく、あくまで微調整としていた。

 2024年3月19日の金融政策決定会合において長期金利コントロールを解除したのである。

 これによって長期金利の形成は再び本来のあるべき姿である市場に委ねられた。しかし、日銀の無理矢理な長期金利コントロール、特に無期限・無制限の指値オペによる国債買入の後遺症は残ることとなる。

 いずれにしても、2024年3月のマイナス金利政策と長期金利の解除は、ある意味、当然のことで遅すぎたぐらいである。これは金融緩和の調整と日銀は表現したが完全な方向転換であった。

 どうして方向転換ができたのか。

 これには政権側の意向もあった。物価の上昇が続き、欧米の中央銀行が利上げを行い、日銀が動けないとみたヘッジファンドなど、円売りドル買いを仕掛けるなどしていたことで、日銀の政策修正を岸田政権が求めていた。

 さらにアベノミクスという政策を続けるよう求める旧安倍派が政治資金問題によって解体し、その幹部の影響力が後退していた。日銀へのプレッシャーが後退していたことも影響していたといえる。

 2024年3月に日銀は方向転換が出来た。これが日銀が金融政策の正常化を進める足がかりとなり、それをさらにすすめるべく、その体制作りも進んだ。

 今後はさらなる政策金利の引き上げが視野に入る。

 1999年以降、日銀の政策金利の引き上げは2000年にゼロ金利政策の解除、2006年から2007年にかけて0.5%への引き上げのみである。1999年以降の政策金利はゼロ近傍もしくはマイナスの状態が続いていた。そしてそれがあたり前のようになってしまった。

 前回利上げのあった2000年や2006年、2007年は結局、一時的なものとなったのではないか。その後ITバブルの崩壊やリーマン・ショックなどが起きてまた金利は引き下げられており、今回も同様に利上げをしても一時的ではないかとの見方もあろう。

 しかし、2024年3月のマイナス金利政策の解除とし7月の0.25%への利上げにより、日銀が金融政策の正常化に向けて本格的に動き出してきたといえるのである。

 注意すべき点は前回利上げのあった2000年や2006年、2007年当時の消費者物価指数はゼロ近傍となり、現在の2%を超えている状況とは異なることである。このため物価などに応じて政策金利を引き上げることが予想されるのである。

 日銀はまず0.5%への利上げの準備を行ってこよう。さらに2025年中にも1%台に引き上げることが予想される。そうなれば長期金利が、こちらも1999年以降の上限となっていた2%を超えてくる可能性が出てくる。

 金利の1%や2%程度で、本格的な金利回復といえるのかどうかはわからないが、とにかくここ25年ぐらいの間にはなかった新たな金利の世界が出現する可能性が出てきた。

 25年前と現在では国債の発行量、残存量が大きく異なる点にも注意が必要となろう。長期金利の上昇は財政にも影響を与えることになる。

 我々は新たな金利の世界に備える必要があろう。


2024年9月2日「どうして日銀による国債買入減額決定で、1998年末の運用部ショックような国債価格の急落が起きなかったのか」

 日銀は7月31日の金融政策決定会合において、政策金利を0.25%に引き上げるとともに、国債買入減額の計画を決定した。

、月間の長期国債の買入れ予定額を原則として毎四半期4000億円程度ずつ減額し、2026 年1〜3月に3兆円程度とする計画となった。

 政策金利を0.25%に引き上げについては、ややサプライズとなった。これは市場参加者の7割が予想していなかったためであろうか。とはいえ利上げは時間の問題との見方ともなっており、予想外といったものでもなかった。

 むしろ債券市場にとっては需給バランスが意識される国債買入減額のほうが、影響を与える可能性があった。

 だからこそ日銀は、6月の金融政策決定会合において、市場参加者の意見も確認し、次回金融政策決定会合において、今後1〜2年程度の具体的な減額計画を決定するとし、時間を置いたのである。

 これによって債券市場参加者にある程度の規模の削減があることを認識させた。それとともにその金額について議論することで、市場ではある程度の減額をすでに織り込むことになった。

 これについては、もしかすると1998年末の資金運用部ショックの教訓が生きた可能性がある。

 当時の資金運用部は現在の日銀のように国債の最大規模の買い手となっていた。そこの国債買入が停止されるといった記事が、国債のパニック売りを招くことになった。

 当初、市場参加者にとっては、資金運用部の買入停止が何を意味するのかが、良くわからなかった。大口の買い手がどうやら国債買入を減少させるであろうことはわかった。しかし、どの程度の規模になるのか、需給バランスにどのような影響が出るのか。

 情報不足もあり、債券市場では「運用部ショック」と呼ばれたほどのパニック売りを招くこととなった。これによって長期金利は1%近辺から2%台に跳ね上がったのである。

 日銀は国債買入減額による国債市場への影響を試算していたが、ストックというよりフローへの影響によって1%程度の利回り上昇は起こりうることを示した格好ともなった。

 ここで必要だったもののひとつが情報の共有化であったのではなかろうか。たとえ国債買入が減少しようとも、どの程度の規模となり、それに対してどのような策が可能なのか。それがみえていれば、パニックは回避可能となったかもしれない。

 今回の日銀による国債買入減額で債券市場がほとんど動揺しなかったのは情報の共有化が進んでいたことも大きな要因であろう。それどころか8月5日には東京株式市場のクラッシュなどから、日本の10年債利回りは0.750%まで低下してしまったぐらいであった。


2024年9月2日「8月の東京都区部の消費者物価指数」

 総務省が30日に発表した8月の東京都区部の消費者物価指数(除く生鮮食品)は107.9と前年同期比で2.4%の上昇となった。7月の2.2%を上回り、予想も上回った。

 総合は前年同月比2.6%の上昇、生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数は1.6%の上昇となった。

 エネルギー価格の上昇率は17.4%となり、前月の14.5%から拡大。電気代は24.2%上昇、都市ガス代は16.9%の上昇といずれも前月の伸び率を上回った。

 政府の電気・ガス価格激変緩和対策事業に伴う押し下げ効果が7月分からなくなっており、それによる影響が出たというか、こちらが実態に近い数値となる。

 燃油激変緩和措置は、年内に限り継続することをあらためて決定しており、電気・ガスは、8月使用分・9月使用分・10月使用分の料金は値引きされる。

 生鮮食品を除く食料は2.7%上昇。昨年の猛暑による生育不良や外食需要の高まりにより、うるち米(コシヒカリを除く)が28.2%の上昇となっていた。牛肉(輸入品)も14.7%の上昇に。

 またサービスは前年同月比0.7%の上昇となり、7月の同0.5%を上回った。


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