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7月30、31日に開催された日銀の金融政策決定会合の議事要旨が公表された。この会合では現状維持を決定していたのだが、ある委員から次のような発言があった。
「ある委員は、今回の会合で、政策金利を 1.25%程度に引き上げることが望ましいとの見解を示した」
この会合では高田審議委員が無担保コールレート(オーバーナイト物)を、1.25%程度で推移するよう促すという議案提示をし、反対多数で否決されていた。つまりこれは利上げを主張していた高田委員の発言となる。
「この委員は、2024年と2025年は、わが国と海外の金融政策 の方向性が異なる中、 本行の利上げペースは年2回と緩やかであったが、足もとではグローバルな利上げ局面に転じる中、一定の利上げペースにとらわれず、海外の金融環境の転換にも応じた機動的対応や利上げ幅の議論が必要となる新たな局面に転換したとの認識を示した」
海外、特に欧米の中央銀行は2022年の世界的な物価上昇を受けていち早く、さらにスピード感ある利上げを行っていた。
日本の消費者物価指数(除く生鮮)は2022年4月から前年同月2%を超えてきた。それにもかかわらず日銀はすぐには動かなかった。
政府関係者などから日銀の金融政策の方向転換は「拙速」といわれたが、欧米はまさに「兵は拙速を尊ぶ」という格好となり、物価上昇にブレーキを掛けることを優先していたのである。
「そのうえで、この委員は、実体経済の下振れ不安が後退し、夏場以降、インフレ圧力が顕在化し得る状況下、従来の基調的物価の上昇を促すスタンスから一転し、海外発のディマンドショックによる物価の上振れを防ぐ意志を明確に市場に示す必要があると述べた」
結果として欧米の中央銀行の利上げが経済そのものに大きなブレーキを掛けることはなかった。一気に引き上げたあと物価がいったん落ち着いたところで、政策金利を引き下げてきていた。
ところが中東情勢は改善どころかさらに悪化する懸念も強まったこともあり、欧米の中央銀行は再び利上げに転じることとなる。
世界的なインフレ圧力はそれほど後退はしていないところに、あらためて原油価格などの上昇圧力が加わってきたためである。
これまでの日銀は慎重に正常化を進めていたが、従来の基調的物価の上昇を促すスタンスではなく、物価の上振れを防ぐ意志を明確に市場に示す必要が出てきたと高田委員は指摘していた。
日銀は9月17、18日の金融政策決定会合で政策金利を0.25%引き上げた。植田総裁は会見で「政策の局面が変化したと考えています」と発言していたが、この発言は7月の決定会合での高田委員の発言に沿ったものであったともいえる。
2010年から2012年あたりに欧州の信用不安が吹き荒れた。それから少し遅れて2017年あたりから欧州の国債利回りを毎営業日確認してメルマガに記載するようになった。
欧州の国債は次第に方向性が同一となり、利回りの動きの幅が多少違うぐらいとなってきた。各国の利回りを比較する意味はあるのかなと思いながら惰性(?)でチェックを続けていたが、ここにきておかしな動きをし始めた。
10月1日の欧州の国債だが、ドイツの10年債利回りは3.51%と前営業日の3.58%から低下し、オランダの10年債利回りも3.62%と前営業日の3.68%から低下していた。
これに対して、フランスの10年債利回りは4.92%と前営業日の4.85%から上昇し、イタリアの10年債利回りは4.69%と前営業日の4.61%から上昇していたのである。
たぶんこれほどの2極化の動きは久しぶりではなかろうか。
ドイツやオランダの国債利回りの低下は米国債が買われていたことなどが影響したと思われる。これに対してのフランスやイタリアの国債売りはリスク回避のように思われた。
フランスの10年債利回りは4.9%台と2002年以来の高い水準をつけている。同国財政の持続可能性に懸念が強いことが要因となっている。
イタリアも同様の理由で売られた可能性はあるが、イタリアは2023年あたりに付けた水準には届いていないのに対して、フランスはそれどころか2002年の水準に達している。水準そのものもイタリアの10年債利回りを上回っている。
今回のフランス国債の売りについてロイターは下記のように伝えていた。
「フランス政府は1日、財政赤字削減に向けて緊縮の色合いが濃い2027年度予算案を議会に提出した。大統領選を来年4〜5月に控えて与野党は対立を深めており、審議の難航は必至だ。過去に複数の首相が辞任に追い込まれる中、ルコルニュ首相も難しい議会運営を迫られそうだ。赤字削減の実現に懐疑的な受け止めが投資家に広がった」
政治的な不安定さも大きく影響しているようである。
そしてもうひとつ気になる動きがある。日本の長期国債先物のナイトセッション(夜間取引)である。
9月30日の夜間(1日朝6時まで)と10月1日の夜間(2日朝6時まで)の取引で、売買高がそれぞれ2兆円(2万枚)を超えていたのである。おそらくヘッジファンドなどによる動きが入ったとみられるが、1万枚を超えても多いぐらいに思っていたのが2万枚であった。
2日のナイトセッションで債券先物は124円13銭を安値に124円94銭まで買い戻されていたのである。
日本の債務状態も決してよくはないし、積極財政を政府は打ち出しているが、ヘッジファンドなどは政治の安定性を重視しての日本の債券先物の買いを仕掛けていたのであろうか。
いずれにしても仕掛的な動きが出てきたことは確かであり、今後の欧米そして日本の国債の動きに注意する必要がある。
9月17、18日の日銀金融政策決定会合では、政策金利を0.25%引き上げ1.25%とすることを7対2の賛成多数で決定した。この会合の「主な意見」が1日、日銀のサイトにアップされた。
このなかの「金融政策運営に関する意見」のなかの、特に反対者の意見をみてみたい。
「消費者物価の前年比が2%を下回っており、足もとの経済の状況も、必ずしも強いとはいえない状況にあることを踏まえると、今回の決定会合では政策金利を据え置くことが望ましいと考える」
「経済・物価情勢が、現時点ではこれまでと比べて大きく加速している状態にはないと考えられるもとで、このタイミングでの利上げは適切ではないと考える。」
8月の消費者物価指数消費者物価の前年同月比は確かに1.7%と伸び率は8カ月連続で2%を下回っていた。しかし、日銀が公表している様々な一時的要因や特殊要因の影響を取り除いた「コア指標」でみると2.6%となっていた。
さらに10月1日に日銀が発表した日銀短観では大企業製造業の景況感が6四半期連続改善となっていた。足もとの経済の状況は、必ずしも弱いとはいえない状況にある。
日銀は現在、金融政策の正常化を進めている段階にあり、その意味では経済・物価情勢が、現時点ではこれまでと比べて大きく加速しているから利上げをするということではなく、物価に応じた金利に戻そうとしているはずである。これについては下記の意見があった。
「今後の金融政策運営については、基調的な物価上昇率が2%に近づいている中、現在の金融環境が緩和的であることを踏まえると、経済・物価・金融情勢に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことが適当である」
この意見についても「基調的な物価上昇率が2%に近づいている」という点が甚だ疑問ではあるものの、金融環境が緩和的であることを踏まえるとまだまだ金融緩和の度合いを調整していく必要がある。
しかも正常化に止まらず、今後の物価の上昇が懸念されるなか、正常化から物価抑制に転じる必要が出てきている。これは下記発言にあった。
「これまでは、基調的な物価上昇率が2%より低いとみられる中で、それを上昇させることが政策の狙いだったが、現在は、基調的な物価上昇率が2%に接近しつつあるため、それが2%の「物価安定の目標」を超えて上振れていくリスクが顕在化し、その後の経済に悪影響を及ぼすことがないよう、基調的な物価上昇率を2%程度の水準で安定させていくという観点が重要になっている。その意味で、政策の局面が変化したと考えている」
政策の局面が変化してきたことは確かではなかろうか。これは18日の植田総裁の発言にも使われていた表現である。
そしてもうひとつ問題があった。政府からの参加者の下記意見である。
「日本銀行には、今回の決定につき説明責任を果たすとともに、既往の利上げが累積的に与える影響について十分点検していただきたい。今後は、日本銀行が推計した中立金利も踏まえて検討していく必要があるのではないかと考えている。景気や市場に過度な変動が生じた場合は日本銀行の主体的かつ適切な対応が重要である」
前回の利上げにも「説明責任」を求める意見が出ていた。発言者は同じであろう。
城内実経済財政相は25日の閣議後の記者会見で、高市早苗政権の経済財政運営について「リフレ政策ではない」との見方を示した。「金融を緩和し、財政も機動的に取り組むアベノミクス的なリフレ政策の局面は終わっている」と述べていた。
ところが主な意見を見る限り、金融を緩和し、財政も機動的に取り組むアベノミクス的なリフレ政策をいまだ取り入れようとしているようにしかみえない。18日から25日の間に何があったのかはわからないが、ひとまず「リフレ派」ではない宣言をする必要性があったのだろう。リフレ派でなくても積極的な財政政策と金融緩和を求める人達には変わりはないと思われる。
29日の米10年債利回りは一時、5.29%と2007年6月以来の水準に上昇した。米30年債利回りは一時5.62%に上昇し、02年6月以来の高水準を付けた。
ただし、原油先物の下落もあって結局、10年債利回りは前日比変わらずの5.23%となっていた。
29日のWTI先物11月限は3.22ドル安の1バレル89.38ドルと大きく下落していた。
先週時点でペルシャ湾岸地域からの原油輸送量が米国とイランの戦闘開始前の8割弱まで回復し、サウジアラビアやイラク、アラブ首長国連邦(UAE)を含む中東産油国による原油輸出量は2月以来の高水準になっていると報じられた。
原油先物が大きく下落した割には、これによる米債の反応がそれほど大きくはなかった。
欧州の国債をみてみるとドイツや英国の10年債利回りが低下していたものの、フランスやイタリアの10年債利回りは上昇していた。
これらからみて、どうやら原油価格の高止まりが欧米の長期金利を押し上げていたわけではなさそうである。むろん押し上げ要因のひとつとなっていたことは確かだが、他の要因も影響していたということになるのではなかろうか。
29日に米債が一時売られていた要因に、メディア大手パラマウント・スカイダンスがワーナー・ブラザーズ・ディスカバリーの買収資金を調達するために320億ドルの投資適格社債の発行手続きを進めていると伝わったことがあった。
今回はハイパースケーラーに絡んだ資金調達ではないが、国債市場を脅かすほどの大口の資金調達が多少なり影響を与えていることも確かではある。
しかし、今回の動きは金利を巡る局面そのものが変化していることが要因だとみている。
金利が低く抑えられていた時代から金利が存在する時代に移行しつつある。金利が1%や2%というのが歴史からみて異常であった。これが正常の状態に戻りつつあるということである。
問題は以前の正常化時代と政府債務の大きさなど状況が異なっていることにある。さらに低金利に慣れすぎてしまった弊害も存在する。
低金利であったならば当然のことが金利が付くと当然ではなくなる。キャリートレードの反動といったことも当然起こりうる。
しかし、それを理解せずに低金利時代のやり方を続けると、金利の上昇速度を早めかねない。そのリスクも意識した動きではなかろうか。