. 若き知
2021年6月19日「米国の利上げ観測はバブル相場の終わりの始まりなのか」

 16日のFOMC後の会見でパウエル議長は、国債などを買い入れる量的緩和の縮小(テーパリング)の開始に関して、経済データを確認したうえで具体的な議論に入る考えを示した。そして。決定前に「市場と対話を重ねる」方針を訴えた。

 テーパリングについては、その検討をはじめることを検討といったかなり遠回しの表現となった。本格的なテーパリングの示唆は8月末のジャクソンホールで行われる会議で行われる可能性が高いというのがいまのところ市場参加者のコンセンサスではなかろうか。

 16日のFOMCで注目されたのは、テーパリングに関する発言よりも、ドットチャートであった。FOMCの参加者の先行きの見通しを示すドットチャートでは、参加者18人のうち13人が2023年内の利上げを予想し、2023年予想の政策金利の中央値は0.625%と年に2回(計0.5%)の利上げの見通しが示されていたのである。

 前回の見通しに比べて、利上げ時期が前倒しされたとの見方から、これを受けて16日の米債は売られ、10年債利回りは1.57%と前日の1.49%から大きく上昇した。ところが、17日の米債は中期ゾーンは利上げ観測で売られたものの、長期・超長期ゾーンはFRBの利上げによってインフレが抑制されるとの見方で買われたのである。17日の10年債利回りは1.50%に大きく低下した。

 この流れは18日も続き、やはり中短期債は売られたが、長い期間の米国債は買われ、米10年債利回りは1.44%に低下した。これにはセントルイス連銀のブラード総裁の発言が影響した。米CNBCに出演したブラード総裁は「インフレ加速でFRBは2022年にも最初の利上げをするだろう」との考えを示した。ドットチャートの見通しよりも前倒しでの利上げの可能性を指摘したのである。ブラード総裁はハト派とされ、意外感も手伝った模様。これを受けて米国の長短金利差がさらに縮小し、イールドカーブはフラット化圧力を強めた。

 ここにあらたな発言が飛び出した。ミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁は18日、労働市場が新型コロナウイルス禍前の力強さを取り戻せるよう、少なくとも2023年末まではゼロ金利を維持することが望ましいという考えを示したのである。

 マーケットがやや利上げに向けて傾斜姿勢を強めたことから、FRBはいったんブレーキを掛けたともいえる。それが目的のカシュカリ総裁の発言であったように思われる。今後、このような調整というか、パウエル議長のいうところの「市場と対話を重ねる」機会は多くなろう。

 いずれにしても再び大きなショックが起きない限り、FRBは正常化に向けた姿勢を示してきたことは確かであろう。

 前回の正常化のプロセスを踏まえれば、年内にテーパリングを決定し、年末もしくは来年初めからテーパリングを開始。1年程度の期間を設けてテーパリングを終了させ、2023年に利上げを行うというシナリオがみえてくる。物価などの動向次第ではこのスケジュールが前倒しされる可能性もみておく必要があると思っている。

 18日の米国株式市場では、ダウ平均は続落し533ドル安となっていた。週間では今年最大の下げ幅となった。ここにきて銀先物や銅先物、プラチナ先物など金属相場も軒並み下落していたが、リフレトレードの手じまいとの見方もあった。少なくともバブル相場と呼ばれるほどやや過熱した市場は、FRBの緩和修正がはっきりするにつれて、調整を迎える可能性が出てきたことは確かである。

 ただし、FRBは景気への配慮も必要となり、あくまで非常時対応からの正常化が可能となってきたことを示すことで、やや過熱気味の相場を少し冷やし、物価についてもオーバーシュートすることのないよう目を配る姿勢を示すとみられる。

 それでもテーパリングが実際に検討され、それが実施されるとなれば、少なくとも過剰流動性相場への期待感は後退しよう。買うから上がる、上がるから買うといった相場展開となっていたものが、大きく価格修正するひとつのきっかけとなる可能性は当然ありうる。

 米国債については、今回のフラット化はやや行き過ぎのようにもみえる。利上げ観測が強まると、短い期間の利回りに低下圧力が掛かるのは常である。しかし、今後は国債の買い入れを縮小する反面、大型の財政政策は継続される。米国の債務残高は膨れ上がっており、米長期金利の低下にも限界はあるとみている。


2021年6月19日「日銀は本気で日本の国債市場の機能改善を図ろうとしているのか」

 日本銀行は、国債市場の機能改善のために買い入れオペなどで追加措置を講じる必要は、現時点ではないとみている。事情に詳しい複数の関係者が語った。関係者によれば、日銀は3月に実施した長期金利(10年物国債金利)の変動幅の明確化後、金利に大きな動きがないのは外部環境の変化が乏しいためと分析。足元の金利低下も米金利動向と整合的で、変動幅の明確化に伴う市場機能の改善効果を判断するのは時期尚早と考えている(15日付ブルームバーグ)。

 日銀は3月19日の金融政策決定会合で、点検を行った結果として、金融政策の修正を行った。その修正では、金融仲介機能への影響に配慮しつつ、機動的に長短金利の引き下げを行うため、短期政策金利に連動する貸出促進付利制度を創設するとあった。

 そして、イールドカーブ・コントロールについて、柔軟な運営を行うため、長期金利の変動幅は±0.25%程度であることを明確化した。同時に、必要な場合に強力に金利の上限を画すため、「連続指値オペ制度」を導入した。

 この点検と政策修正の意図が良くわからなかった。3月の決定会合前に、雨宮副総裁は、イールドカーブ・コントロールの導入後、多くの指標が、国債市場の機能度が低下したことを示していると指摘し、長期金利の変動幅拡大を示唆した。

 これに対して黒田総裁は長期金利の変動幅について「私自身は、変動の幅を大きく拡大することが必要とも適当とも思っていない」と述べていた。

 少しでも国債市場の機能改善を行いたいのであれば、長期金利の変動幅は±0.30%程度として、少しでもレンジを拡げる必要はあった。しかし、変動幅は±0.25%程度に抑えられた上に、利下げ余地を拡げ、必要な場合に強力に金利の上限を画すため、「連続指値オペ制度」まで導入した。これは長期金利が跳ね上がるのを抑える強力な手段と捉えられた。

 日銀としては、市場機能の回復を意識していたはずが、結果として出てきたものは、予想よりも狭いレンジの変動幅と連続指値オペなどであった。

 長期金利コントロールの副作用を抑えるためには、少なくとも10年債利回りのマイナス化は避けたいというのが市場参加者と日銀の意向であろう。しかし、それとともに上昇も押さえ付けるとの意向ともみえる連続指値オペなど出されては動きようがなくなる。

 日銀は点検と修正の結果として、長期金利のレンジを拡げるのではなく、むしろ狭いレンジに長期金利を押さえ付けたいようにすら思われる。結果として債券市場の機能は停滞するばかりともなりかねないと思うのであるが。


2021年6月19日「欧米と比較して異様に低い日本の消費者物価指数」

 6月1日に欧州連合(EU)統計局が発表した5月のユーロ圏消費者物価指数は前年比2.0%上昇となり、前月の1.6%の上昇から伸びが加速した。

 米国労働省が6月10日に発表した米国の5月の消費者物価指数は前年同月比5.0%上昇し、2008年8月以来、約13年ぶりの大幅な伸びとなった。変動の大きいエネルギーと食料品を除いたコア指数は同3.8%上昇となった。

 英国立統計局が6月16日に発表した英国の5月の消費者物価指数は前年比2.1%上昇し、伸び率は2019年7月以来の大きさとなった。変動が大きい食品・エネルギーを除いたコアCPIは前年比2.0%の上昇。

 総務省が18日に発表した日本の5月の全国消費者物価指数は、総合で前年同月比マイナス0.1%、生鮮食料品を除く総合で同プラス0.1%、生鮮食品及びエネルギーを除く総合でマイナス0.2%となった。日銀の物価目標である生鮮食料品を除く総合が、前年比でプラス圏に浮上するのは、2020年3月以来となった。

 この欧米と比較した数字を見る限り、日本の消費者物価指数だけがデフレ圧力が強いようにみえてしまう。だから日銀は大胆な緩和を行ったともいえるのかもしれないが、その大胆な緩和を行ってから、はや8年が経過している。日銀の大胆な緩和でも物価は上がってこなかった。

 これからみても日本の消費者物価指数での2%という数値目標は本当に正しいものであったのかという疑問は残ろう。

 ちなみに日銀が6月10日発表した5月の国内企業物価指数は前年同月比で4.9%上昇となっていた。企業物価指数で見る限り、欧米の物価指数と比べて違和感はない。日本の企業が頑張って価格転嫁を抑えているからという見方もできるかもしれないが、本当にそういう見方で良いのであろうか。

 米労働省が15日に発表した5月の卸売物価指数は前年同月比伸6.6%の上昇となり、2010年11月以降で最大となっていた。

 それぞれ物価指数の算出の仕方は異なる面もあるが、日本の消費者物価指数だけが異様に低くみえるのは何故なのか。少なくとも日銀の緩和が足りないなどという理屈はもう通じないし、消費増税がいまだに影響しているという理屈も通じないはずである。


2021年6月18日「日銀金融政策決定会合で異例の棄権、日銀は気候変動問題にも関与」

 6月17、18日の日銀金融政策決定会合では長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)などの大規模な金融緩和策の現状維持を決定。そして。これも予想された通り、新型コロナウイルス対応の資金繰り支援策の期限を2022年3月末まで半年間延長することを決めた。しかし、この決定の際に異例の事態が起きていた。

 新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラムの延長の決定に対し、賛成8そして棄権1となっていたのである。それだけではない。公表文の採決に対しても棄権、資産買入方針についても棄権したのである。過去に決定会合での欠席などはあったが、棄権というのは私の記憶にはない。

 政井貴子審議委員の任期は、今年6月29日とまもなくに迫っている。このため、政井審議委員にとっては、今回が最後の会合となる。何かしらの事情があった可能性もあるが、意図的に棄権を表明した可能性も現時点ではありうる(総裁会見で説明があるとみられるが)。

 政井貴子氏は外資系銀行から新生銀行の執行役員を経て、2016年に日銀の審議委員に就任した。退任後は飛島建設の社外取締役に就任する予定だと報じられている。

 今回、日銀は気候変動対応投融資をバックファイナンスする新たな資金供給制度を導入することも決めた。7月会合で骨子を公表し、年内をめどに実施するそうである。4月22日から23日にかけて気候変動サミットが開催されたが、日本政府は温暖化ガスの排出量を2030年度までに2013年度比で46%削減すると表明しており、日銀もそれを支援する格好となる。

 FRBは地球温暖化が金融システムに突き付ける危険について、その特定と対応のための「金融安定気候委員会」を新設。「金融システムへの気候変動関連リスクを評価して、それに対処するプログラムを開発・実行」するのが同委設置の趣旨だとブレイナード理事は説明していた。

 ECBではデギンドス副総裁が、今後30年間の気候変動に伴う経済リスクを評価するため、ECBが経済全体のストレステスト(健全性審査)を実施していることを明らかにした。

 英国のイングランド銀行は6月8日、銀行及び保険会社を対象に実施予定の気候変動?ストレステストに関し、初回の分析で活用する気候変動シナリオを発表していた。


2021年6月18日「FRBは来年はテーパリング、再来年は利上げを模索か」

 16日のFOMCで注目されていたのはテーパリングについて、何かしらの示唆があるかどうかであったと思う。

 16日のFOMC後の会見でパウエル議長は、国債などを買い入れる量的緩和の縮小開始に関し、会合で経済情勢の進捗を議論したと説明。「今後の会合の中で(目標に向けた)進展が続くと参加者は期待している」とし、さらに経済データを確認したうえで具体的な議論に入る考えを示した。決定前に市場と対話を重ねる方針を訴えた(17日付日経新聞電子版)。

 テーパリングについては、その検討をはじめることを検討といったかなり遠回しの表現となった。本格的なテーパリングの示唆は8月末のジャクソンホールで行われる会議で行われる可能性が高いというのが市場参加者のコンセンサスではなかろうか。

 16日のFOMCで注目されたのは、テーパリングに関する発言よりも、ドットチャートであった。

 ドットチャートでは、参加者18人のうち13人が2023年内の利上げを予想し、2023年予想の政策金利の中央値は0.625%と年に2回(計0.5%)の利上げの見通しが示されていた。

 前回の見通しに比べて、利上げ時期が前倒しされたとの見方から、これを受けて16日の米債は売られ、10年債利回りは1.57%と前日の1.49%から大きく上昇した。

 米10年債利回りは5月19日に一時1.7%近くまで上昇したあとは低下基調となっていた。6月4日に発表された5月の米雇用統計では非農業雇用者数が前月比55.9万人増と市場予想を下回った。これを受けて、FRBが早期に金融引き締めに着手するとの観測が後退したようで、4日の米10年債利回りは1.55%に低下した。

 さらに6月10日に発表された5月の米消費者物価指数は、前年同月比5.0%の上昇となり、2008年8月以来、約13年ぶりの大幅な伸びとなった。米10年債利回りは一時1.53%に上昇したものの、買い戻され、10年債利回りは1.43%に低下していた。

 このあたりからややおかしな動きにもみえた。チャートを意識した動きともみえたが、ショートカバーを誘い込むような仕掛け的な買いが入っていたかのような動きであった。

 6月以降の物価動向をみたいとの意向もあったのかもしれないが、米国経済は正常化に向かいつつあり、物価も少なくとも1年程度はFRBの目標というか目安というか想定を上回る水準が続くことが予想される。

 16日にFRBが示した見通しでも、景気見通しを3月から0.5ポイント上方修正し、2021年10〜12月の実質GDPが前年同期比7.0%増えると予測していた。2022年は3.3%を見込んでいる。物価上昇率は2021年10〜12月期に前年同期比3.4%に達し、目標の2%を大きく上回るとみている。ただ2022年以降は2%強に落ち着くとみている。

 こういった予測であれば、当然ながら非常時対応の金融緩和策を修正し正常化を目指す動きが予想されよう。むろん2013年5月のバーナンキショックの再来は防ぎたいともみられ、どのように正常化を市場に浸透させるかが、バーナンキ議長にとっての課題ともなる。

 いずれにしても前回の正常化のプロセスを踏まえれば、年内にテーパリングを決定し、年末もしくは来年初めからテーパリングを開始。1年程度の期間を設けてテーパリングを終了させ、2023年に利上げを行うというシナリオがみえてくる。物価などの動向次第ではこのスケジュールが前倒しされる可能性もみておく必要があると思っている。

 16日の米債は大きく売られ、10年債利回りは1.57%に上昇した。ここにきての米10年債利回りの低下が一時的なものであり、今後は再び上昇基調に戻るとみている。しかし、果たしてそう素直に動くかどうか。17日の米国債券市場では中期債は売られたが、長い期間の国債は買われ、米10年債利回りは1.50%に低下していた。日本の投資家動向なども注意する必要はあるかもしれない。


2021年6月17日「パウエルショックは回避したい意向、テーパリングの本格検討示唆は8月のジャクソンホールか」

 米労働省が15日に発表した5月の卸売物価指数は前年同月比で6.6%上昇し、2010年11月以来10年6カ月ぶりの大きな伸びとなった。1年前の2020年5月は新型コロナウイルスの流行による経済活動の停滞で物価が下がったため、その比較で伸びが大きくなった。前年同月比は4月から0.4ポイント伸びた(15日付日経新聞)。

 製品が1.5%上昇し全体を押し上げた。製品のうち、食品が2.6%、エネルギーが2.2%それぞれ上昇したほか、食品とエネルギーを除いたコアも1.1%と大きく上昇した。

 これが一時的なものかどうかは見方は分かれている。いや、一時的に大きくなったことは誰もが認めるところであろうが、6月以降も比較的高い水準で推移するとの見方と、それほど高い水準ではなく、むしろ物価の上昇幅は大きく縮小するとの見方に分かれている。

 FRBは物価上昇は一時的との認識を前面に出してはいるものの、それなりにテーパリングの可能性もFOMC参加者が示すなど、物価の上昇基調を嫌ってというよりは、正常化を睨んだ動きとなっていた。ただし、バーナンキショックとかテーパータントラムと呼ばれた市場への影響を極力抑えようと気を使っているようにも思われる。

 16日のFOMC後の会見でパウエル議長は、国債などを買い入れる量的緩和の縮小開始に関し、会合で経済情勢の進捗を議論したと説明。「今後の会合の中で(目標に向けた)進展が続くと参加者は期待している」とし、さらに経済データを確認したうえで具体的な議論に入る考えを示した。決定前に市場と対話を重ねる方針を訴えた(17日付日経新聞電子版)。

 2013年5月にFRBの当時のバーナンキ議長がテーパリングを示唆したことにより、金融市場に予想以上の動揺が起きてしまった。これはバーナンキ・ショックとかテーパータントラムと呼ばれた。パウエル議長は、決定前に市場と対話を重ねる方針を訴えが、これの背景には、できればパウエルショックとかテーパータントラムの再来は避けたい意向があったとみられる。

 しかし、市場では4月、5月の物価の大きな上昇をみて、市場でもFRBのテーパリングはありうるのではとの見方となりつつあったはずである。米雇用統計で非農業雇用者数が予想を下回るなどしているものの、雇用環境がそれほど悪化しているわけではない。

 このため、市場に正式にテーパリングを示唆するタイミングを見計らっており、それには毎年8月末にジャクソンホールで行われる会議で行われるのではとの認識が強まっている。

 なぜジャクソンホールなのか。

 米国ワイオミング州ジャクソンホールで開催されるカンザスシティ連銀主催のシンポジウムは市場参加者にとり大きな注目材料となっている。今年は8月26日から28日にかけて対面で開催される予定となっている。

 過去の歴史を見ても、カンザスシティ連銀主催のシンポジウムでは主に金融政策に関わる興味深い出来事が多かった。このシンポジウムは、ある程度マスコミ等から遮断されての意見交換の場もあるとみられている。これには著名学者などとともに、各国の中央銀行首脳が多数出席することで、金融関係者によるダボス会議のようなものとなっている

 ロシア危機とヘッジファンド危機に見舞われた1998年に、当時のグリーンスパンFRB議長がこのカンザスシティ連銀主催のシンポジウムの合間に FRB理事や地区連銀総裁とひそかに接触し、その後の利下げの流れをつくったとされる。

 1999年には日銀の山口副総裁(当時)と、バーナンキ・プリンストン大学教授(当時)が、日本のバブルに対する日銀の金融政策の評価をめぐり、論争を行ったことでも知られる。

 さらに2010年8月27日にはバーナンキ議長(当時)がQE2を示唆する講演をジャクソンホールで行った。このシンポジウムに出席していた白川日銀総裁(当時)は予定を1日に早めて急遽帰国し、8月30日の9時から臨時の金融政策決定会合を開催し、新型オペの拡充策を決定している。

 ジャクソンホールでの発言が今後の金融政策の方向性を示唆することがあるのに対し、ここでの発言があまりに注目されるためもあって、本来なら出席してしかるべき人が今後の金融政策の方向性の言質を取られないようにするためなのか、出席しないことも多いとか。

 2013年5月22日にバーナンキ議長(当時)の会見でテーパリングの意向が明らかとなったことで、この年9月のFOMCでテーパリング開始が決定されるのではないかとの観測が強まっていた。しかし、この年のジャクソンホールにバーナンキ議長は異例とも言える欠席をしたのである。結局、テーパリングの開始を決定したのは9月ではなく12月となった。

 果たして今年はどうなるのか。8月のジャクソンホールで行われるカンザスシティ連銀主催のシンポジウムが注目されている。


2021年6月16日「債券の価格と利回りの関係、そして米国債の行方は」

 債券にかかわって最初に覚えなければならない知識として債券の価格と利回りの関係がある。国債など債券の価格が上がれば、利回りは低下する。債券の価格が下がれば利回りは上昇する。

 半年ごとに利息が支払われる利付債の価格と利回りの関係式は、少しややっこしいので、ここは単純化して考えてみたい。

 債券には利息が半年毎に支払われる利付債とは別に、利息が割引率で示される割引債というものがある。

 たとえば90円で発行されたものが、1年後に100円の償還価格で償還されれば価格差の10円が利息相当となる。この利回りは正確には10%ではないが、10%相当としよう。この割引債の発行価格が何かの弾みで90円ではなく100円に値上がりしてしまうと、どうであろう。

 発行と償還の価格差がゼロ、つまり利回りはゼロ%となる。発行価格が90円から100円に値上がりしてしまうと、利回りは10%相当がゼロ%に低下する。このように債券の価格が上がると利回りが低下するのである。

 何をいまさら債券の基本をおさらいする必要があるのか。どうもここにきての米国債の動きがおかしく見えたもので、まずは債券の価格と利回りの関係をおさらいしてみたのである。

 一般的に物価が上がると、債券は価格が下がり、利回りが上昇する。お金の価値より物価の価値が上がることや、中央銀行が物価上昇を抑制しようとして利上げをする可能性が高まるなどがその要因といえる。

 4月と5月の米国の物価は前年比で大きく上昇した。特に5月の消費者物価指数は前年比で5%という高い伸びとなった。そうであれば、米国債の価格は下がり、利回りは上がるというのが教科書的な見方であるが、そうはならなかった。

 それは何故なのか。実はこれについては正確な回答は出せない。個々の投資家や業者のポジションを正確に把握することはできないことや、そのポジションも複雑に入り組んでいるためである。

 このため推測とはなってしまうが、今回の動きは5月のCPIをみて、FRBがいずれ金融緩和策の修正に動くであろうことを先取りして米国債を売却していたり、先物などを使って空売り(ショート)をしていた市場参加者が多くおり、そのポジションが予想外に膨らんでしまっていたことが原因ではなかったろうか。

 5月のCPIは予想通り高かったが、短期ポジションが売りに傾いてしまっていたことで、むしろ買い戻されるという動きとなっていたものと思われるのである。

 15、16日にはFOMCが開催される。ここでの市場参加者のコンセンサスは、金融政策は現状維持。そして注目のテーパリングについては、その可能性を示唆する程度にし、本格的な検討示唆は8月末のジャクソンホールにて行われる。早ければ年内、前回時を参考にするならば来年はじめからテーパリングを開始するというものではなかろうかと思う。テーパリングは1年程度かけて行われ、利上げは2023年にスタートと。

 実際にこのコンセンサス通りになるかどうかは不透明ながら、いずれにしても米長期金利に関してはFRBの緩和修正を今後も織り込んでいくことが予想される。このため、再度上昇トレンドが形成される可能性が高いとみている。


2021年6月15日「日本の長期金利は0.025%に低下したものの、再びゼロ%の壁」

 10日に発表された米国の5月の消費者物価指数は、前年同月比5.0%の上昇となり、2008年8月以来、約13年ぶりの大幅な伸びとなった。これを受けて米10年債利回りは一時1.53%に上昇したものの、押し目買いというか買い戻しの動きから、1.43%と前日の1.49%から大きく低下していた。

 ある程度の5月のCPIの上昇は織り込まれていたとか、前月での伸び率が鈍化していたからとの見方もあったが、ショートカバーが入りやすい地合となっていたためと思われる。

 米10年債利回りやドイツの10年債利回りはそれぞれ1.7%近辺、マイナス0.1%近辺まで上昇したが、そこがいったんピークとなり、低下基調となっていた。米CPIに向けてショートポジションもある程度積み上がっていたとみられ、そのポジション調整の買い戻しとの動きであったとみられる。

 11日の米債はいったん1.42%まで低下したあと、1.45%に上昇し、14日の東京時間で1.46%をつけていた。ショートカバーの動きはひとまず終了した可能性がある。

 11日の日本の債券市場でも10年債や債券先物といった流動性が比較的高いものが買われていた。債券先物は中心限月の移行も絡んで比較的大きな動きとなり、10年債利回りは0.025%まで低下した。

 日本の10年債利回りは再びゼロ%に接近したが、ここは大きな壁となる。市場参加者、そして日銀にとっても日本の長期金利のマイナス化は避けたいところであろう。

 日本のCPIはまだ前年比マイナスであるが、日銀が10日に発表した5月の国内企業物価指数前年同月比で4.9%もの上昇となっていた。

 4月と5月については、前年同月に大きく落ち込んだ反動という側面もあり、やや大きく数字が出やすい。問題は6月以降となる。

 ここにきて原油先物価格はWTIで70ドルを回復している。コロナ禍以前の水準を回復すると見込まれる原油需要を満たすため、IEAはOPECプラスに対し、生産量を引き上げる必要があると指摘した。

 これは原油に限ったことではない。ワクチン接種の進む欧米では経済の正常化に向けて動きつつある。日本もワクチン接種は急速に進みつつある。

 もちろん変異種の感染拡大にも注意を払うべきではあるものの、経済そのものは回復に向けた動きを今後、強めることも予想される。それは物価や長期金利に反映される。

 それをFRBはどのようにみているのか。それが市場参加者にとっての今後の焦点となる。ECBは慎重姿勢を示したが、FRBの動向を確認したいという側面もあったのではなかろうか。

 FRB次第の面はあるが、米長期金利に再び上昇圧力が強まることも想定される。今回もたまたまそうなった面はあるものの、日本の長期金利はゼロ%近くに低下後、跳ね返されることも予想される。


2021年6月12日「インフレなどの大変化に備える必要」

 エコノミストのロジャー・ブートル氏は、インフレの終焉を宣言してから四半世紀がたった今、インフレ再燃の兆しを見ているとブルームバーグが7日に報じた。

 世界経済が新型コロナウイルスのパンデミックから回復し始める中、中古車や木材などの価格が上昇している。大半の金融当局者は物価上昇加速が一時的だとの見解に満足しているように見えるが、一部のエコノミストは警鐘を鳴らしている。その一人にキャピタル・エコノミクスの創業者で1996年出版の著書「デフレの恐怖」を執筆したブートル氏がいた。同氏は当時、何十年にもわたる高インフレが終わりを迎えたと主張している。

 ブートル氏は現在が「大変化の始まりだと言わざるを得ない。ただ、70年代から80年代初頭の強いインフレ状態に戻るということではない。しかし、少なくともここ数年続いてきたデフレ時代は終わりを迎えていると思う」と語った(7日付ブルームバーグ)。

 「デフレの恐怖」は私も買って読んだ記憶があるが、本棚の奥にしまってしまったようで、見えるところにはない。しかし、本のタイトルにもあったように、日本をはじめ欧米などでも物価が上がらないデフレの時代が2000年以降は続いていた。

 リーマン・ショック、そして欧州の信用不安、さらに新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって物価が上がらず、中央銀行の金融政策は物価動向とともに景気への影響も配慮して、強力な金融緩和策を取るざるを得ない状況が続くことになる。

 米国では一時、金融政策の正常化を進めていたが、コロナ禍によって振り出しに戻らざるを得なくなった。しかしここにきて、新型コロナウイルスのワクチン接種などによって、景気や物価を取り巻く状況に変化が生じてきたことは確かではなかろうか。

 ブートル氏は大変化の始まりだと指摘したが、その可能性はありうる。1970年代のような物価の上昇が起きるのではなく、少なくともデフレの時代から脱却してくる可能性がある。それはつまり金利が付く時代に戻ることにもなるということになる。

 そして、非常時の金融緩和策は正常時のものに戻す必要がある。しかし、それも躊躇することが予想され、巨額の財政政策も引っ込めることは難しくなろう。それはつまり予想以上の物価高をもたらすリスクを秘める。これは日本も例外とはいえないのではなかろうか。

 そのための心の準備が、特に中央銀行には必要になるのではなかろうか。急激な正常化は市場の動揺を招きかねない。しかし、金融政策等の正常化の必要性を市場参加者にも理解させ浸透させる必要がある。これは日銀も例外ではない。


2021年6月12日「5月の米国消費者物価指数は前年同月比で予想を上回るは5.0%の上昇に、しかし米債は買われたのは何故なのか」

 米労働省が10日発表した5月の消費者物価上昇率は前年同月比5.0%となり、2008年8月以来約13年ぶりの高さとなった。変動の大きい食品とエネルギーを除くコア指数の上昇率は5月に前年同月比3.8%とこちらは1992年6月以来の伸びとなった。

 物価上昇はかなり広範に見られ、特に中古車や家庭用調度品、航空運賃、衣料品のコストが着実に伸びた。全体の前月比上昇分の約3割を中古車・トラックが占めたと、米労働省は説明した(10日付ブルームバーグ)。

 前年同月の落ち込みの反動という側面があり、前月比での伸び率は4月に比べると鈍化していた。

 FRBは前年の低迷の反動などによる「一時的」な要因による物価上昇との認識を建前上はまだ変えていない。

 これを受けて米国債券市場ではいったん米債は売られ、米10年債利回りが一時1.53%に上昇した。しかし、すぐに買い戻されて1.43%に低下したのである。

 米長期金利が上昇することに掛けていたショートポジションを買い戻してきた可能性がある。ここにきて米長期金利の上昇は抑制されており、チャート上からは買い戻しが入りやすい状況となっていたことも影響したか。

 10日にはECB理事会も開催されていた。金融政策については現状維持を決定し、会合後の会見でラガルド総裁は、PEPPの出口については、いずれ討議されることになるが、現時点での討議は時期尚早だと発言していた。つまりPEPPの検討はタイミングが重要との認識を示したものと思われる。

 これはFRBに先駆けて行うと為替市場に影響を与えるためとの見方もあるが、市場の動揺を抑えたいためでもあろう。

 これはFRBも同様のようであり、少なくともFRB議長本人がテーパリングについてコメントするのは控えている。こちらもタイミングを重視し、市場にある程度織り込ませてからとなりそうである。これもポジション調整から米債が買い戻された要因となった可能性はある。しかし、こちらについては15日、16日に開催されるFOMCで何かしらの示唆がある可能性はありうる。

 これらに対し、今月にイングランド銀行のチーフエコノミストを退くアンディー・ホールデン氏は、「現在のセントラルバンカーはインフレ加速を抑える行動に出なければ、ひどい過ちを冒すリスクがあり、過去数十年で最も危険な局面にある」と発言していた。

 この意見に同調するセントラルバンカーはそれなりに多いとみられる。慎重を期すのも良いが早めに行動を起こすことも重要である。まもなく要職を退くので、言いやすかったこともあろうが、ホールデン氏の忠告にも耳を傾けるべきではなかろうかと思う。


2021年6月11日「銀行がビットコインを保有するならば、同等の金額以上を自己資本に積めとの厳しい規制を検討」

 金融機関の国際ルールを協議するバーゼル銀行監督委員会は10日、銀行によるビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)の保有を規制する案を公表した。銀行がビットコインなどの仮想通貨を保有する場合に、それにかかわるリスクウエートと呼ばれる数値を1250%という極めて高い水準に設定することを提案した。

 国際統一基準では、バーゼル合意に基づき、銀行が達成すべき自己資本比率を8%以上と定めている。この8%の最低所要自己資本比率に基づくと、リスクウエートが1250%ということは、銀行は1ドル相当のビットコインに対して1ドル以上の自己資本を保有しなければならないことになる。

 バーゼル委員会は暗号資産がマネーロンダリング(資金洗浄)に利用される可能性や銀行の評判に及ぼし得る影響、価格乱高下がデフォルトにつながるリスクなどを指摘し、極めて厳しい評価を下したということになる。

 この報道を受けてビットコインは一時大きく上昇した。ビットコインが銀行が保有できる資産と認定したとの解釈であったようであるが、むしろこれは銀行がビットコインなどをもし保有するのであれば、同等の金額の自己資本を保有、つまり全額ゼロになっても耐えられるようにしなければへならないとしたことになる。これはビットコインなどへの無理な投資は避けるべきと暗に示した格好となる。

 同じ仮想通貨であっても、法定通貨などを価値の裏付けとして発行するステーブルコインには新しいルールは適用されないそうであるが、ステーブルコインについても本当に資産の裏付けがあるのかという疑問も残ろう。

 バーゼル委は報告書で「暗号資産と関連サービスの拡大は金融安定への懸念と、銀行が直面するリスクの増大を引き起こす可能性がある」と指摘(10日付ブルームバーグ)。

 ビットコインなど暗号資産への注目度も高く、エルサルバドルがビットコインを法定通貨にすることを決めるなどの動きも出ている。バーゼル委員会はこれに対して、もし銀行が保有するのであれば厳しい条件を付けることで、銀行を保護しようとしているものと思われる。今回のバーゼル銀行監督委員会は提案は意見公募を経て発効するそうである。


2021年6月11日「エルサルバドルがビットコインを法定通貨にすることに対しIMFが懸念を示す。融資に影響も」

 中米エルサルバドルの議会は8日、代表的な暗号資産(仮想通貨)のビットコインを法定通貨にする法案を賛成多数で可決した。ビットコインの法定通貨の採用は世界で初となる(9日付日経新聞電子版)。

 エルサルバドルの面積は21040平方キロメートルと九州の約半分。人口は約664万人。GDP成長率は改善しつつあるが、中米地域でも低いレベルに留まっている。約250万人といわれる在米エルサルバドル人による家族送金は約59.18億ドル(2020年)にのぼり、GDPの23%に相当し、エルサルバドル経済の下支えとなっている(外務省のサイトより)。

 中南米地域の最貧国の一つである同国は財政が逼迫し、2001年以降は米ドルを正式な通貨としている。

 ブケレ大統領によるとエルサルバドル国民の約7割は銀行口座を持っておらず、在米エルサルバドル人による家族送金が経済の下支えとなっている面もあって、送金が容易なビットコインの活用も意識されたものとみられる。

 すべての経済主体はビットコインでの支払いを受け入れる必要があるものの、ビットコイン決済に対応できない場合は免除するそうである。

 法定通貨とは金銭債務の弁済手段として用いることができるよう法的効力を持たせた通貨のことで、一般に納税に使える通貨を指すとある。

 日本の資金決済法では仮想通貨の定義として「本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建て資産を除く」と明記されている。もしエルサルバドルがビットコインを法定通貨として認めた場合はこの定義に抵触し、法改正や政令、解釈の変更を含めた対応が必要となる可能性がある(8日付日経新聞)。

 南米諸国でも追随するような動きも出ているようだが、今回のエルサルバドルのビットコインの法定通貨の採用はひとつの実験ともなろう。

 そもそも発行体やそれを裏付けるもののない暗号資産(仮想通貨)が、通貨として成り立つのか。価格の変動が大きく、通貨としての利用はむしろ困難な状況で、単に送金が容易で費用負担が少ないというだけで、果たして利用が可能なのか。

 国際通貨基金(IMF)は10日、中米エルサルバドルが世界で初めて暗号資産(仮想通貨)ビットコインの法定通貨採用を承認したことについて、経済・法律面で多くの懸念があると発表した。IMFのライス報道官は定例会見で「ビットコインの法定通貨採用は、マクロ経済、金融、法律上の多くの問題を提起し、非常に慎重な分析を必要とする」と指摘した。(10日付ロイター)。

 これはある意味、当然のことであろう。エルサルバドルはIMFから10億ドル以上の融資獲得を目指しているそうだが、この融資にも影響が出てくる懸念も出てきた。IMFは10日にエルサルバドルのブケレ大統領と会談し、ビットコインの法定通貨採用に関する法律について協議するとか。


2021年6月10日「中国国債の海外勢の保有率が10%超え、誰が何のために買っているのか」

 外国人の中国国債の保有残高は5月末時点で約2.1兆元(約36兆円)と前年同月から46%増え、2か月連続で過去最高を更新。保有比率は10%超と3年で2倍になった(8日付日経新聞)。

 念の為、海外勢の日本国債の保有比率は短期債を除くもので7.2%、全体では13.3%となっている(資金循環統計、2020年10〜12月期速報値より)。

 中国と欧米諸国との間で政治的な緊張が高まる中、いったい誰が何のために中国の国債を購入しているのであろうか。

 日経新聞によると外国人の中国国債の保有額は2016年初めで2500億元程度だった。18年夏には1兆元を突破し、21年に入って2兆元を上回るなど急ピッチで拡大しているそうである。

 2017年7月から香港から中国本土への取引「北向通」が先行開始され、海外の機関投資家が香港の決済システムを使って中国本土の債券を売買できるようになった。これは債券通(ボンドコネクト)と呼ばれるもので、中国が債券市場に海外資金を呼び込もうと整備をしており、その結果として中国国債を海外勢が買いやすくなった。

 国際決済銀行(BIS)によると、中国の債券市場の規模は2018年に日本を抜き世界2位に浮上していたそうである。

 中国国債の格付けは格付会社S&PグローバルによるとシングルAプラスとなの、日本と同格となっている。利回りは中国の10年債で3%程度あることで、最大の魅力は格付けと比較しての利回りの高さにあろう。

 ただし、日本の投資家などは政治リスクを意識して購入をためらっているなど、政治リスクは意識されよう。しかし、比較的中国に近いロシアなどでは、積極的に中国国債を購入している可能性がある。

 さらに10月末からは英国の指数算出会社のFTSEラッセルの代表的な国債指数に中国国債が段階的に組み入れられるとか。その指数に応じて運用しているところは、指数にマッチさせるため、ある程度の中国国債を購入する必要性が出てくる。

 中国は米国と覇権争いをするほど国力を高めており、他の新興国よりも経済などについては安定性もある。これも中国国債に投資しやすい要因となっている。

 いずれ日本からも恐る恐るながら、利回りを求めて中国国債への投資を行う投資家が出てくるものと予想される。すでに生保の一部では投資を行っているようである。


2021年6月9日「マイクロストラテジー社のビットコイン購入のためのジャンク債に、予想を上回る応募があり発行額を5億ドルに引き上げ」

 米ナスダック上場企業マイクロストラテジー社(業務はビジネスデータ管理・分析サービス)は7日、4億ドル相当のビットコインの追加購入を行う計画を発表した。しかし、当初計画していた4億ドルではなく、追加購入金額を5億ドルに引き上げたとか。

 マイクロストラテジー社はビットコインの追加購入の原資を社債の発行によって行うことにしていた。そのビットコイン買い増しを目的とする担保付きジャンク債(投機的格付け債)について、多くのヘッジファンドが関心を寄せ、約16億ドル相当の応募があったそうである。このため追加購入の額を4億ドルから5億ドルに引き上げた。

 7日の募集開始までに旺盛な需要が確認され、事情に詳しい関係者によると、発行利回りは、仮条件(6.25ー6.5%)を下回る6.125%に設定されたとか(9日付ブルームバーグ)。

 リスクの大きなジャンク債だけに6%上回る利回りが設定されたわけだが、この社債の購入者はビットコインを直接購入するのと同じリスクを負うことなる。

 ここにきてビットコインの価格は再び下落基調となっている。米パイプラインのサイバー攻撃の身代金支払いでビットコインが使われたが、これをFRBなどの米当局が奪還に成功した。ビットコインはその匿名性や資金の流れの見えにくさにより犯罪の隠れ蓑にも使われていたが、FBIのポール・アバテ副長官が「どこに不正な資金を隠そうと、FBIの手の届かない場所はない」と語ったように、ビットコインなど暗号資産は隠れ蓑にならないことを示した。

 これによって不正に暗号資産を保有する人たちに動揺を与えたとみられ、今後換金売りが出る可能性も高い。匿名性や資金の流れの見えにくさなどに未来の通貨を夢見ていた人に疑問を投げかけることにもなろう。さらに米政府が奪還したビットコインは現金化しなければ身代金とし支払った金額を補完できない。

 もしビットコインの価格が最高値からの半値を下回るようなことになれば、いわゆるチャートを意識したテクニカルの売りも入りやすい。価格上昇を期待してビットコインなどを買っていた投機家も多いとみられ、価格の下落はその投機家を不安にさせかねない。

 このようにビットコインを巡る状況は決して良いとは言えないなか、16億ドルものマイクロストラテジー社のジャンク債への応募があったというのはある意味信じられない。マイクロストラテジー社が5億ドルも追加購入することで価格下落を防げると考えたのかもしれないが、不安は大きいはずである。それでも少しでも利回りを求め、さらに仮想通貨の未来に期待したものであったのか。しかし、これもやはりバブルを示すものにしか私には見えないのであるが。


2021年6月8日「日銀による5月のETFの購入額がゼロに、これが意味するものとは」

 5月の日銀によるETFの買入はゼロとなった。これは2013年に日銀が量的・質的緩和、いわゆる異次元緩和を導入してからは初のことになる。

 日銀は今年3月の金融政策決定会合において、ETFの原則で年6兆円としていた購入の目安は削除され、ETFの買い入れ対象はTOPIX連動型のみとし、日経平均株価連動型は外した。

 今後のETFの買入については「必要に応じて、買入れを行う」としていた。5月に入り、東京株式市場は11日から13日に掛けて大きく下落していた。しかし、この際も日銀によるETFの買入はなく、13日以降の東京株式市場は戻り歩調となっており、この間の買入もなかった。

 日銀は2016年9月21日の金融政策決定会合において、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」と名付けられた金融政策の新しい枠組みの導入を決めた。この際に日銀が金融政策における政策目標を「量」から「金利」に戻している。

 日銀の枠組み変更に「マネタリーベースの目標値」がなくなっており、その代わりにこれ以降は「金融市場調節方針は、長短金利の操作についての方針を示すこととする」とあり、このため量による縛りがなくなった。

 それ以前にすでに国債の買い入れそのものも柔軟化しており、実質的に減額していた。これは市場からの買入みに限界があったことも大きな要因であったと思う。さらに債券市場への日銀の影響度が過度に大きくなることも意識したかもしれない(実際には長期金利コントロールという手段が組み入れられたが)。

 そしてETFの買入の柔軟化も株式市場への日銀の影響度を少しでも軽減させようとする措置であるとみている。今後は突発的な株式市場の急落の際には買入を行うことも予想されるが、購入額ゼロの月も増えてくるのではなかろうか。これにより市場における日銀依存度も後退してくると期待したい。


2021年6月8日「米司法省はハッカーから数百万ドルのビットコインを奪還したと発表、これを受けてビットコインは動揺か」

 米最大の石油パイプラインを運営するコロニアル・パイプラインがランサムウエア(身代金要求型ウイルス)による攻撃を受けパイプラインを閉鎖していたが、同社はその後ハッカーらに身代金を支払っていたことが分かった。事情に詳しい関係者らが明らかにした。支払い後にコンピューターシステムのロックを解除するための解読ツールを入手したという(5月14日付WSJ)。

 米石油パイプライン会社にサイバー攻撃を仕掛けた犯罪集団「ダークサイド」が活動停止を表明していることが5月14日にわかったと米メディアが報じた。ダークサイドのサーバーが何者かに乗っ取られ暗号資産(仮想通貨)が盗まれたとの情報もあり、米国で燃料供給不安を引き起こした事件は新展開を迎えた(5月14日付日経新聞)。

 ダークサイドの解散表明に関して、米国政府が具体的にどのような役割を果たしたかは定かではなかった。バイデン政権はコロニアルの事件を深刻に捉え、ハッカーの活動拠点があるロシアの政府とも協議していたとされる。

 今回、米政府が具体的にどのような役割を果たしたのかが、明らかになった。

 5月にパイプライン運営大手コロニアル・パイプラインがハッカーに攻撃された事件で、米政府当局は仮想通貨にして440万ドル(約4億8000万円)相当の「身代金」のうち大半を取り戻したと、モナコ司法副長官が明らかにした。FBIのアベイト副長官は、法務執行当局は身代金支払いに使われたバーチャルウォレットを特定し、資金を奪還したと説明した(8日付ブルームバーグ)。

 米国当局が関与かと噂されていたが、実際に米司法当局とFBIが乗り出していた。コロニアル・パイプラインのブラウント氏は、ダークサイドに対処した経験のある専門家と協議した結果、身代金の支払いを決めたと言っており、その専門家がFBI関係者であった可能性もあるのではなかろうか。

 つまり、身代金を支払うことで相手の尻尾を掴み、身代金を奪還するという、まるでハリウッド映画のようなことが実際に行われていた可能性が高くなった。

 米司法省はハッカーから数百万ドルのビットコインを奪還したとのニュースを受けて、ビットコインの価格が下落している。暗号資産(仮想通貨)は匿名性や資金の流れがみ見えづらい点がひとつの魅力となっていた。それは裏返すと犯罪に使われやすいということになる。しかし、その匿名性や資金の流れが見えにくいという利点も当局が本気を出せば、突き止められることも明らかとなった。今回のビットコインの下落は犯罪者がリスクを避けて売った可能性もあるが、当局が奪還したビットコインの換金なども意識した動きであったのかもしれない。


2021年6月8日「イエレン米財務長官はやや金利が高い環境、つまり利上げを容認か」

 米国のイエレン財務長官は6日、ロンドンで開かれた主要7か国(G7)財務相会合の終了後、帰国途中にブルームバーグ・ニュースとのインタビューに応じ、「やや金利が高い環境になったとしても、社会の観点ならびに米金融当局の観点では、実際にはプラスになるだろう」と述べた。

 「われわれはあまりにも低過ぎるインフレ、およびあまりにも低過ぎる金利とここ10年にわたって闘ってきた」と同氏は説明。正常な金利環境に「戻ることをわれわれは望んでいる」とし、「状況を若干是正する一助になるのであれば、それは悪いことではない。むしろ良いことだ」と話した(7日付ブルームバーグ)。

 たしかに、あまりにも低過ぎるインフレ、およびあまりにも低過ぎる金利は決して良い環境ではない。正常な金利環境に戻るということは、正常な経済活動に戻ることを示している。

 イエレン長官らは現在の物価上昇は新型コロナウイルスのパンデミックで生じたサプライチェーンのボトルネックや経済再開に伴う支出増加といった一時的な異常が要因だと指摘する。それはそうであろう。そして、イエレン氏は経済対策による物価の「急上昇」があるとしても来年には徐々に弱まるとの見方を示した。

 米国の4月の物価指標は前年同月比で大きく上昇した。これは昨年が大きく落ち込んでいた反動に加え、ここにきてワクチン接種の拡大による経済活動の再開による影響も出ていた。前者は次第に落ち着くとみられるが、後者はこれからさらに拡大してくる可能性が高く、少なくとも年内の米国の物価には上昇圧力が強まる可能性は高い。

 今回のイエレン氏の発言は、やや金利が高い環境を容認した格好となった。つまり将来のFR$Bによる利上げも容認したように思われる。イエレン氏はFRB議長として2014年のテーパリングを行った。その後の利上げも主導していたが、新型コロナウイルスのパンデミックによってFRBは再び超緩和策に巻き戻されることになった。

 しかし、米国での経済正常化を受けて、イエレン氏は金利が上昇できる環境が整いつつあることを示した。これはFRBにとってはテーパリングを準備できる状況になったことを示すものとも言える。

 イエレン長官は、バイデン政権の歳出計画を年間ベースで見ると約4000億ドルとなり、行き過ぎたインフレを招くほどではないと強調していた。それはそうかもしれないが、バイデン政権の財政政策に対し、米国債券市場が注意しているのは、それによるインフレ圧力よりも、財政悪化ではなかろうか。これによる長期金利の上昇懸念についてはイエレン氏はどう見ているのであろうか。


2021年6月5日「渋沢栄一が関わった日本最古の銀行はどうして創立されたのか」

 2024年から1万円札の顔となる渋沢栄一は数多くの企業の設立に関わり、「日本の資本主義の父」と呼ばれている。約500の企業を育てたが、その創設したもののひとつに銀行があった。

 銀行の設立は明治政府にとり大きな課題となっていた、政府は大蔵少輔伊藤博文の建議に基づいて、米国のナショナル・バンク制度にならった発券銀行制度を導入することなった。

 米国での南北戦争の時代、北部政府はグリーンバックの増発によるインフレ抑制のため、1863年に国立銀行(national bank、国法銀行)を設立、国立銀行による銀行券発行について規定する全国通貨法が制定された。

 これによって南北戦争以前の複数通貨がグリーンバックと銀行券が流通する単一通貨の制度となった。この国立銀行制度を取り入れたのが日本から渡米し、現地視察を行った伊藤博文であった。

 この伊藤案に対して、イングランド銀行をモデルにした中央銀行制度を導入すべし、とした吉田清成との間で銀行論争が闘わされた。結局、井上馨の裁断によって、伊藤案が採用された。この伊藤案を起案した人の中に渋沢栄一がいた。

 1872年(明治5年)11月、国立銀行条例を制定。そして、国立銀行4行が設立され、銀行券発行が始まる。銀行券の発行条件が厳しかったことなどから、当初設立されたのは4行だけだったが、条例の改正などにより全国的に銀行設立ブームが起こり、153行もの国立銀行が誕生した。

 国立銀行という名称は、第一国立銀行の設立者であり、初代頭取となった渋沢栄一によりナショナル・バンク(連邦法に準拠して設立された銀行)の訳語として作られた。文字通りの国立の銀行ではなく、政府とは資本関係のない民間の銀行であった。

 1877年2月に西郷隆盛たちと政府が戦った西南戦争が勃発。明治政府はこの戦費を調達するため、大量の不換政府紙幣、不換国立銀行紙幣を発行。これにより貨幣の価値が急落し、激しいインフレーションが発生したのである。

 当時の大蔵卿(現在の財務大臣)は大隈重信。大隈は積極財政を主張したが、これに対し次官にあたる大蔵大輔の松方正義は、明治維新以来の政府による財政の膨張がインフレの根本原因であるとし、不換紙幣を回収することがインフレに対しての唯一の解決策であると主張した。

 松方の主張は大隈の財政政策を根幹から否定するものであり2人は対立。いったんは松方を内務卿にすることで財務部門から切り離した。しかし、1881年の「明治14年の政変」によって大隈が政府から追放されると、松方が大蔵卿に任命され、インフレ対策のために中央銀行制度が取り入れられたのである。


2021年6月5日「世界の食料価格は12か月連続の上昇となり、2011年9月以来の高水準に。これは一時的なのか」

 国連食糧農業機関(FAO)が算出する世界食料価格指数は先月、2011年9月以来の高水準となり、過去10年で最長となる12か月連続の上昇を記録した(3日付ブルームバーグ)。

FAO Food Price Index http://www.fao.org/worldfoodsituation/foodpricesindex/en/

 5月の上昇は、2010年10月以来最大の前月比の上昇となった模様。5月の急激な上昇は、油、砂糖、シリアルの価格の急上昇に加えて、肉と乳製品の価格上昇も反映していたようである。

 主要な穀物の中ではトウモロコシの国際価格が最も上昇していたが、ブラジルでは農作物の主要産地で干ばつが発生し、トウモロコシからコーヒーに至るまで収穫に影響が出ているという。加工食品などに使う植物油も値上がりが目立つ。

 日経新聞によると、食料価格の上昇の理由は他にもあり、新型コロナウイルス禍による移動制限で農作業の担い手である外国人労働者が不足していることも影響しているとか。これは日本でも指摘されている。

 食料価格の上昇は天候などの要因もあろうが、ワクチンの普及で想定以上に需要が急回復し、生産が追いつかずに価格が上がりやすくなっている側面もある。そうであれば、この傾向はこれからも続く可能性がある。

 これを受けて企業は価格転嫁を迫られている。米食品大手ゼネラル・ミルズは穀物相場の高騰で、シリアルなどの値上げに踏み切るとか。

 日清オイリオグループは5月25日、原料価格の高騰が続いていることを受け、8月1日納入分から家庭用食用油などの価格を引き上げると発表した。家庭用食用油の価格を1キログラムあたり50円以上引き上げる。すでに公表している4月と6月の納入分からの価格改定に続き、今年に入り3度目の値上げとなる。1回の価格改定の値上げ幅としては記録が残る2006年以降では過去最大の規模となる(5月25日付日経新聞)。

 欧米の4月の消費者物価指数は前年比で大きく上昇していた。これは一時的との見方がある一方、物価は当面高止まりするとの見方もある。これは今後の欧米の中央銀行の金融政策にも影響を与えることが予想される。


2021年6月4日「日本の国債市場が抱える大きなリスク」

 6月1日に10年国債の新発債(カレント物)が出合わないという極めて異例の事態が発生した。しかし、日本の債券市場の商いが減少しているのは、今に始まったことではない。それでも、この動かない日本の債券市場そのものは大きなリスクをはらんでいる。

 金融商品の値動きが止まってしまうと、それによって大きな影響を受けやすい取引がある。派生商品のひとつ、オプション取引である。値動きが荒いことをボラが高いといった表現をするが、そのボラとは魚の名前ではない。ボラティリティのことである。ボラティリティとは、一般的に価格変動の度合いを示す言葉で、オプション取引が開始されて市場参加者が良く使うようになった。

 オプション取引とはこのボラティリティを取引するようなものであり、価格そのものが動かなくなると取引のしようがなくなる。現実に大阪取引所に上昇されている先物オプション取引の売買高は大きく落ち込んでしまい、燦燦たる状況となっている。

 9月から権利行使価格の刻みを0.50円から0.25円に変更され、取引できる銘柄が増加されるが、ボラそのものが回復しないと取引高は簡単には増えないであろう。

 債券先物はHFTなどの取引も入っているようで、なんとか商いは出来ているが、値幅は日中で5銭しかないなど、こちらも参加者の厚みはなくなっている。

 これがいったい何をもたらすのか。日本の債券市場は国債の残高規模で言えば、米国債に次ぐ市場である。市場参加者はその値動きを予測しながら取引をする。これで経験を積むことになる。それにより相場感覚を養い、リスクに応じたリターンを得ようとする。

 価格変動の怖さは、ビットコインなどに投資した人たちは身にしみて感じたと思う。昨年4月の原油先物の急落、株式市場の乱高下などで価格変動時にいかに損失を減らし、むしろそこで利益が得られるか。これは価格変動の経験を積んで多少なり痛い目をみないと得られない。シミュレーションなどでは得られないものでもある。

 現在の円債市場は、この価格変動の経験が得られなくなってしまっている。相場が動かないと金融機関はなかなか儲けられず、市場から参加者も減っていこう。残った参加者も金利はほとんど付かない状態しか経験がない。

 それはつまり、もし日本国債が急に動き始めたら、第一線にいる人たちにとっては未知の世界となってしまう。金利が動いた時代を知っている我々の年代はすでに一線は退いてしまっている人が多い。

 日銀は早期に長期金利に打ち込んだ楔を解き放ち、経済や物価、国債の需給、海外金利の動向に応じて動く市場に戻さなければならない。そうでなければ、いざというときにオプション市場や現物債市場が機能しなくなってしまうというリスクを抱えたままになりかねない。


2021年6月3日「日本の国債市場が息してない、大丈夫か」

 6月1日の債券市場で10年国債の直近発行されたいわゆるカレントものと呼ばれる銘柄(この利回りが日本での長期金利)は、業者間売買を仲介する日本相互証券で一日を通して取引が成立しなかった。日中取引なしというのは、新発の10年国債としては2020年6月29日以来となる。

 この日は10年債のカレントだけでなく、5年債、20年債、40年債のカレントも出合いがなかった。つまり出合いがあった国債のカレントものは2年と30年だけという、きわめてレアケースとなった。

 この日の債券先物の値幅はわずかに5銭、とはいうものの、ここにきて日中の5銭近辺の値幅が続いていたことで、債券市場の指標とも言うべき債券先物で見る限り、突然商いが細くなったわけでない。

 そもそも国債の商いが細くなっていたところに、機関投資家などの週初めの会議等も多いとみられる月曜日は通常少ない。31日は米国市場はメモリアルデーのため、債券市場は休場となっており、米債が動いて翌日の円債も動くといった要因もなかった。

 31日に日銀が発表した6月の国債買い入れ予定が5月と回数、量ともに変わりなくこれも予想通りであり、いわゆる手掛かり材料難ということでもあった。

 円債については、長期金利コントロールを行っている日銀の意向が相場に反映されやすく、その日銀は長期金利を抑え込むことを目的としている。しかし、市場では長期金利のマイナス化は避けたい。日銀も金融機関へのマイナス金利政策の副作用を抑えようと、長い期間の金利は少し上げたい。それぞれの思惑によって長期金利がわずかなプラス状態に張り付き、その結果、動きそのものも鈍くなっていた。

 インフレ期待などで米長期金利が上昇していたが、それもここにきて少し収まってきたことで、これも日本の長期金利を安定化させていた。

 しかし、欧米では物価指数が大きく上昇しつつあり、FRBでのテーパリング観測も出ている。ECBでは市場のテーパリング観測を沈めようと躍起になっている状態にある。それに対して日本の物価、特に消費者物価指数は上がる兆しを見せない。それが2%に届かなければ日銀は引き締めに動くことは、少なくとも黒田総裁の任期中はない、というのも市場のコンセンサスとなりつつある。

 ということで、動かなくなった日本の国債市場のひとつの典型例として6月1日の10年を含む国債カレント銘柄の出合いなしとなったわけだが、これで日本の債券市場への不安感が特に強まったわけでもない。市場参加者も超閑散小動きは慣れたものであるが、今後、果たして経済の正常化が進んだとき、この慣れがむしろ大きな変動を招くとも限らない。そのあたり、警戒心を怠らないようにしたいとも思う。


2021年5月29日「仮想通貨の保証はないが自由さか、既存通貨の規制はあるが安定性か」

 ビットコインの価格が揺れ動いている。これだけ価格が変動するものに「通貨」としての役割は求められない。投機資産といった位置付けとなろう。それでも金融機関の専門家を含めて、暗号資産(仮想通貨)に飛びつく人が多いのは何故だろう。

 ビットコインなどの仮想通貨が生まれたのは、グローバルに成長したITテクノロジーが根幹にある。インターネットが普及し、誰もがスマホというかたちのコンピュータを所有し、これを使った金融取引が行われた。そこでネットのなかで通用する「通貨」を作ろうとしてできたのが仮想通貨である。

 この仮想通貨は既存の通貨と違い、規制に縛られない自由さが最大の特徴である。送金の手軽さや手数料の低さなども期待され、規制を嫌う人たちに大きな支持を得たものと思われる。FACEBOOKのリブラ構想もその一環であった。

 ただし、規制に縛られない自由さの裏返しとして、何かあったときは誰も守ってくれないという欠点が存在する。既存の通貨はいろいろと規制があるものの、その価値は中央銀行などが保証している。

 日本の場合、日本銀行法第46条第2項で、「日本銀行が発行する銀行券は、法貨として無制限に通用する」として、銀行券に無制限の強制通用力があることが定められている。

 これに対して、仮想通貨については何らかの法律によって守られているわけではない。また、裏付け資産があるわけでもない。

 既存通貨については、全国浦々で通用できような仕組みも出来ている。特に日本では中央銀行の日銀を中心として、金融機関と巨大なネットワークが構築され、これがインフラとなっている。

 日銀の支店があちらこちらにあるのは、自然災害時を想定してのものであった。つまりいついかなるときも通貨が使える仕組み整えられている。

 さらに民間企業である銀行などの金融機関に預けている預金も一定額は保証される仕組みも整えられている。

 これに対して、仮想通貨については規制がない分、新規参入するのも容易であり、もし盗難などがあった際の補償といった制度も整えられてはいない。また、規制がない分、犯罪にも利用されやすい側面もある。

 通貨制度の歴史も、ある意味、人類の経済史とともにあった。時代によって通貨制度も変わりうる。このため、仮想通貨を全面否定するつもりはない。中央銀行デジタル通貨の研究や実証実験も進んでいるように、電子通貨は今後普及してくる可能性はある。

 しかし、あらたな通貨制度が確立する前には混乱が起きていた事も多い。中央銀行を中心とした管理通貨制度は歴史を経て作られたものである。現在の通貨制度は、まだまだ不便な面も当然あり、ベストな制度ではないかもしれない。しかし、現状ではまだましな制度であることも確かではなかろうか。


2021年5月29日「FRBの目標(目安)とする物価指数は3%超えに」

 米商務省が28日に発表した4月の個人所得・消費統計では、食品・エネルギーを除くコア個人消費支出(PCE)価格指数が前年同月比3.1%上昇し、1992年7月以来の大幅な伸びを記録した。市場予想は2.9%上昇だった。総合でも前年比3.6%上昇した。(29日付ロイター)。

 米国の個人所得・消費統計とは、米国の個人の所得と消費について調査した指標である。このうち個人所得とは、社会保険料を控除し実際に個人が受け取った所得のこと。個人所得は消費動向を決定付ける大きな要因ともみられている。

 名目個人消費支出(名目PCE)を実質個人消費支出(実質PCE)で割ったものがPCE価格指数、もしくはPCEデフレーターと呼ばれるものである。

 市場の注目がFRBの金融政策の動向などに注目が集まっている際などは、個人消費や支出そのものよりもPCEデフレーターが注目される。

 PCEデフレーターは、名目PCEを実質化して実質PCEを計算して求める物価指数のひとつであり、PCEデフレーター変化率がプラスであれば物価上昇、マイナスであれば物価下落と捉える。

 特に価格変動が激しいエネルギーと食品を除いたものを「コアPCEデフレーター」と呼び、FRBが物価指標の中で最も重要視している指標のひとつとなっている。その理由としては消費者物価指数に比べて、バイアスが生じにくいためとされる。

 1月25日のFOMCの終了後に発表された「長期目標と政策戦略」という声明文において、FRBは物価に対して特定の長期的な目標(ゴール)を置くこととし、それをPCEの物価指数(PCEデフレーター)の2%とした。

 FRBは物価の目標(ゴール)を、PCEデフレーター(前年比)の2%に置いた。この際に、FRBがコア指数ではなく総合指数を使ったのは、足下物価動向を見るにはコア指数が良いが、長期的に見ると総合指数が適切と判断したものと思われる。

 市場ではコアPCEを注目しているが、総合でもコアでも今年4月の数値は3%を超えてきた。

 4月の米消費者物価指数も前年同月比の上昇率が4.2%と2008年9月以来の伸びを記録していたが、これは前年4月がコロナ禍で大きく落ち込んだことでその反動ともいえる。このため、FRBはこの物価上昇は一時的なものとみている。

 しかし、これに対してイングランド銀行のチーフエコノミストが数十年前にみられた賃金上昇と物価高の悪循環に陥る可能性があると警告するなど、今後インフレが加速するとの見方も出ている。これは英国についてのものではあるが、英国も同様に昨年大きく落ち込んだ反動が出ていた。

 英統計局が5月19日に発表した4月の英国の消費者物価指数(CPI)は前年同月に比べ1.5%の上昇となっていた。上昇率は前月の0.7%から急拡大し、2020年3月と並ぶ1年1カ月ぶりの大きさになっていた。

 この物価上昇は一時的なのか。昨年4月は原油先物がマイナスとなるなど異常な状況となっていたことで、それと比べれば大きく上昇してしかるべきである。しかし、経済の正常化が今後進むとなれば、ある程度の期間、物価が高止まりしてくる可能性もないとはいえないのではなかろうか。


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