. 若き知
2019年5月22日「ファーウェイ騒動にみる米中貿易戦争の行方」

 中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)に対する米国の制裁措置による影響であるが、20日のロイターの記事により、グーグルがファーウェイへのソフトの提供など一部ビジネスを停止することが明らかとなった。

 ファーウェイの主力は通信基地局であり、こちらは一時世界一のシェアを誇っていた。また、出荷台数が世界で2番目に多いスマホメーカーでもある。私もiPhoneのサブとして、「HUAWEI nova lite 3」を使っている。このため、今回の米国による中国への制裁措置による影響、特にOSとして使われているアンドロイドがどうなるのか気になっていた。

 米商務省によるとファーウェイが既存ネットワークの保守や既存のスマートフォン向けのソフトウエア更新を行えるようにする一時的な措置を発表した。これはファーウェイの既存顧客を支援するための措置で、米政府が前週発表した同社への規制を緩和するものとなる。一時的措置は8月19日まで認められる(ロイター)。

 どうやら8月19日までは既存の機種のアンドロイドの更新などは可能なようである。すでに販売されたもののグーグルなどのアプリも利用は可能のようである。しかし、今後新たに販売されるファーウェイのスマホにはアンドロイドが乗せられなくなる可能性がある。そして、8月19日以降は既存機種もアンドロイドの更新などができなくなる恐れがある。

 ファーウェイのスマホの半分程度は日本を含む中国外で販売されているようであるが、OSにアンドロイドが乗せられないとなれば、利用価値は減少しよう。販売台数にも影響が出るとみられ、部品をファーウェイに供給しているメーカーにも影響が及ぶことが予想される。

 いろいろと問題が指摘されているファーウェイのスマホではあるが、その性能は高く、価格も抑えられていることでコストパフォーマンスが良い。ファーウェイのスマホが使えなくなっても、代わりはいくらでもあろうが、低価格で高性能という端末はなかなか出てこないのも事実である。

 ファーウェイについては端末だけでなく基地局も使えなくなるなど、部品などを供給している日本にも少なからず影響が出てくることが予想される。これはそれだけ中国の技術が向上しており、覇者であった米国も対抗措置を取らざるを得なくなったということでもあろう。

 トランプ政権はやや極端に走りがちではあるが、これが違う大統領であっても中国への対抗措置は取らざるを得なかった可能性がある。覇権争いのため、米中の貿易摩擦はいずれにしても避けられないものであったのではなかろうか。

 そうであれば、この問題は一時的なものというよりもかなり根深いものとなる。ただし、関税を掛けるだけではいずれ体力勝負となってしまう。世界経済にも悪影響を及ぼしかねない。お互いがうまく共存できる道を探る必要もあるが、これもなかなか容易ではなさそうである。


2019年5月21日「日本でも高額紙幣となる1万円札を廃止すべきか、インドの事例も参考に」

 日本でも高額紙幣となる1万円札を廃止すべきとの意見がある。現金はマネーローンダリングに使われ、脱税としても利用されている。特に日本では現金の流通量が多いことから、1万円札を廃止することにより、脱税を阻止するとともに、キャッシュレス化を進められるとの意見である。

 これについては良い例が存在している。インドで2016年11月、「ブラックマネー(不正蓄財)をあぶり出す」として、モディ政権が突然、高額紙幣の廃止を宣言したのである。廃止されたのは、当時の最高額紙幣だった1千ルピー(約1600円)札と500ルピー(約800円)札で、現金全体の86%に当たる15兆4千億ルピー(約24兆円)に上った。

 それから2年以上経過しており、その効果というか影響についてもすでに明らかとなっている。

 インドでの高額紙幣の廃止は、かなりの社会混乱を招いたことは確かであり、インド経済にも悪影響が出たとされる。しかし、これをきっかけに一時的ながらキャッシュレス化が進行したことも確かなようである。

 インド準備銀行(中央銀行)が発表した報告書によれば、紙幣廃止で金融機関に持ち込まれた旧紙幣は15兆2800億ルピー(約26兆3千億円)に達したが、これは流通量の99.8%に相当するそうである。少なくとも3兆ルピーが表に出ることなく破棄されると見込まれていただけに「不正資金の撲滅とはほど遠い結果となったとされている。(2018年8月の朝日新聞より)。

 高額紙幣廃止の政策が電子マネーの普及、キャッシュレス化に貢献したとされてはいるが、一時的な現金の待避先となったようで、インドの現金の流通量はその後、徐々に回復してきている。現地ではいまだ現金決済が普通に行われているようで、高額紙幣の廃止で一気にキャッシュレス化となったわけではないようである。

 景気に対する悪影響なども考慮すると、インドの高額紙幣の廃止は、当初の目的となったブラックマネーのあぶり出しやキャッシュレス化の促進には、それほど寄与していなかった。

 もし日本で1万円札の廃止を行えば、インド以上の混乱を招く可能性がある。結果としてタンス預金が通常の銀行預金に置き換わるだけとなることが予想される。これでキャッシュレス化が一気に進むことも考えづらい。タンス預金が銀行預金に置き換われば、個人資産が可視化されて徴税が容易になる可能性はあるが、そのためだけに1万円札を廃止するというのは、ややリスクが大きすぎるように思われる。


2019年5月20日「トランプ大統領のニューディール政策?」

 1933年3月4日に米国大統領に就任したルーズベルトは、議会に働きかけて矢継ぎ早に景気回復や雇用確保の新政策を審議させ、最初の100日間でこれらを制定させた。ルーズベルト大統領が打ち出したこれらの政策はニューディール政策と呼ばれ、これにより米国経済は徐々に立ち直りを見せるようになった。ちなみにニューディールとは、トランプゲームの際に親がカードを配りなおすことである。

 現在の米国のトランプ大統領が好きな言葉というか、ツイートのなかで良くみられる言葉がディールである。このため、トランプ大統領による他国の交渉はある意味、新たなディール政策とも、ややこじつけながら言えるのではなかろうか。

 たとえば5月9日の米中の閣僚級での通商会議を前にしてトランプ大統領は次のような発言をしていた。

 「あすには(劉鶴)副首相がワシントン入りするが、彼らはディールを破った。それはしてはならないことだ。代償を払うことになる。仮にディールが成立せず、(米国が)年間1000億ドル超を得ることになっても全く異論はない」と語った(ロイター)。

 これを受けて米中通商交渉は土壇場になってひっくり返された。まさにニューディール(カードの配り直し)とならざるを得なくなったのである。

 今回、米国の態度を硬化させたのは、中国の産業補助金を巡る問題とされている。中国は米国側がある程度譲歩すると読んでいたのではとの節もあった。中国側としては改革案を明記することを控えようとしたものの、これに米国側からの怒りを買ったとされている。

 中国に対する強硬派とされるライトハイザー通商代表部(USTR)代表が、米中通商交渉で中国側が姿勢を後退させたと大統領に報告し、これが上記のトランプ大統領のツイートによる関税引き上げ警告につながったともされている。

 外交は確かに駆け引きであり、ディールという言葉が使われてもおかしくはない。しかし、それでもディールという言葉にやや違和感もある。お互いに強気を通そうとしても、引くところは引くということがないと駆け引きにならない。無理矢理妥協を求めてもこじれるばかりとなる。

 16日には、中国の商務部の報道官が16日に通商交渉に対して米政権を強く批判し、CNBCテレビが米中の貿易協議が一時中断しているもようと報じた。

 金融市場では、いずれ米中の通商交渉はうまくいくという楽観的な見方もある。トランプ大統領も、うまくいく気がすると語ったようだが、少なくともライトハイザー氏らが妥協するとも思えない。これはディールというよりも、勝つか負けるかという取引(ディール)にも見えてしまう。これでは交渉も平行線を辿るほかはないように思われるのだが。


2019年5月18日「中国による米国債保有額が減少、米中貿易戦争との関連は?」

 米国の財務省が発表している米国債国別保有残高(MAJOR FOREIGN HOLDERS OF TREASURY SECURITIES、http://www.ustreas.gov/tic/mfh.txt)によると、3月末時点の米国債保有国のトップは引き続き中国となっていたが、保有額そのものは前月比で、104億ドル減少していた。

国、米国債保有額、前月比(単位、10億ドル)
中国(China, Mainland) 1120.5 -10.4
日本(Japan) 1078.1 +5.7
英国(United Kingdom) 317.1 33.3
ブラジル(Brazil) 311.7 +4
アイルランド(Ireland) 277.6 +3.5
ルクセンブルク(Luxembourg) 230.2 +3.4
スイス(Switzerland) 226.4 +0.5
ケイマン諸島(Cayman Islands) 219.5 +9.4
香港(Hong Kong) 207.6 +5.2
ベルギー(Belgium) 186.6 +4.6

 海外による米国債保有額全体は増加しているなかにあって、中国の減少幅が目立っていることは確かである。3月時点では米国と中国の貿易摩擦が表面化していたわけではない、しかし、中国の外貨準備高は3月末時点で3兆988億ドルと前月末比85億8000万ドル増え、5か月連続での外貨準備高増加となったことを考慮すると、何かしらの要因によって中国が米国債の保有比率を減少させていた可能性はある。

 これは中国の保有資産の分散化の一環とも考えられ、中国の金の保有額など増加していることで、別な資産に資金を振り向けていると予想される。

 しかし、5月に米中の通商交渉がいったん物別れに終わったこともあり、米国の強硬姿勢に対抗するため、中国が今後、米国債の売却を急ぐ可能性も否定はできない。ただし、これを交渉の切り札にすることにもリスクはあり、米国債市場への影響も出てくることで自分で自分の首を絞めかねないことになることも確かではある。

 2位は日本で変わりはなく、日本は前月比で57億ドル増加させていた。実は中国より注目すべきは今回は英国であったかもしれない。英国は前月比で333億ドルも米国債保有を増加させていたのである。英国のEU離脱を控え、保有資産をより安全な米国債に移管させてきた可能性もある。


2019年5月17日「令和がスタートして日経平均は7日目にしてやっとプラスに、対照的な平成のスタート」

 10連休明けの5月7日が令和となってからの金融市場のスタートとなったが、日経平均株価はこの7日から14日までの6営業日は前日比マイナスとなっていた。15日に前日比121円高となり、令和となってからはじめてのプラスとなった。

 10連休前の4月26日も日経平均は前日比マイナスとなっていたことから、5月14日まで日経平均は7営業日続落となっており、これは2016年3月29日〜4月6日以来、約3年1か月ぶりのこととなる。

 今回の下落は国内要因というよりも、米中の貿易摩擦が意識された株式市場の下落であったが、米国の株価指数が高値圏にいたことでの調整売りとの見方もできよう。

 年号が変わったことで市場参加者の心理状態に何かしら影響を与えることは考えづらい。令和がスタートしての日経平均の連続安はたまたまと見た方が良いとは思うが、念のため、平成のときはどうであったのかを確認しておきたい。

 平成がスタートしたのは、1989年1月8日であるが、この日は日曜日であり、金融市場がスタートしたのは1月9日となる。この日の日経平均株価の終値は30678円39銭となり、前日比で500円近い上昇となり、過去最高値を更新しての平成相場のスタートとなった。9日から13日まで日経平均は上昇していたが、翌週の17日はマイナスとなった。

 この年の株価の基調は上昇トレンドとなっていた。日経平均が3万円台になっていたことからもおわかりのとおり、ここから1989年の年末に向けて、株価は上昇を続けることとなる。同時に地価も上昇を続けており、いわゆるバブルの真っ最中であった。この年の大納会となる12月29日の日経平均の引けの38915円87銭が引け値としての過去最高値を記録し現在に至る。

 現在がバブルであるとは誰も考えていないとは思うものの、米国株式市場をみるとS&P500やナスダックは4月末にかけて過去最高値を更新しており、株価で見る限りは高い位置にいることは確かである。ただし、日本株はだいぶ出遅れ感もあり、日経平均は戻ったとはいってもまだ22000円台あたりとなっていた。

 ここからの株価の動向を予測することは難しい。米中の通商交渉の行方も読めない。中東も、ややきな臭くなっており、あらたなテールリスクが起きる可能性も否定はできない。

 ただ、日本では令和の時代となり、6月には大阪でG20サミットが開催され、来年は東京オリンピック・パラリンピックが開催される。2025年には大阪万博も開催されることで、国際色豊かなお祭りムードが続くことが予想される。

 このため国内の金融市場も、特に大きなリスクに見舞われない限りは、楽観的な見方も出やすいかもしれない。ただし、リスクは忘れた頃にやってくる。日銀による非常時対応のはずの緩和策は継続しており、金融市場では見えないところで歪みが生じつつあることも確かではなかろうか。


2019年5月16日「キャッシュレス化が進むオーストラリアの紙幣にスペルミス発覚」

 オーストラリアの新しい50豪ドル札にスペルミスがあることが発覚し、中央銀行のオーストラリア準備銀行(RBA)が9日、今後の発行分で修正すると発表した。RBAが昨年10月から発行を始めた新しい50豪ドル紙幣の細かい印字の部分で、「responsibility(責任)」が「responsibilty」と最後の「i」が抜けた状態で書かれていることが明らかになった。この誤植の入った新紙幣はこれまでに約4600万枚、国内で流通している(BBS)。

 新紙幣は偽造防止と使いやすさ向上を目的に、昨年秋から導入されたもので、RBAによると、50豪ドル札は同国で最も広く流通しており、他の紙幣の半分近くを占めているそうである。同行の最新の年次報告書によると、2017/2018年度に50豪ドルの新紙幣約1億8400万枚を含む、2億2700万枚の紙幣が発行された。(ロイターの記事より)。

 すでに出回っている紙幣を回収する予定はなく、次回印刷分から訂正するそうであるが、かなりの流通枚数ともなっているので、スペルミスの紙幣はレア物としての価値がそれほど上がらないかもしれない。

 ちなみにオーストラリアの人口は約2500万人なので、キャッシュレス先進国ともされるオーストラリアでも、それなりのキャッシュが出回っているようである。

 オーストラリアではクレジットカードやデビットカードが普及しており、特に非接触式で決済されていることが多く、非接触式のクレジットカード、デビットカードによる決済は世界で最も多く利用されているとされる。

 オーストラリアではATMにも非接触式も導入されており、ATMに銀行カードを挿入するのではなく、端末へのTAPと暗証番号の入力で現金を引き出すことができるとか。この形式だと磁気ストライプからスキミングされる心配もない。

 日本でも非接触式のカードとしてはSuicaなどが発行されている。交通系カードとしてはオーストラリアでもシドニーで、非接触式ICプリペイドカード「Opal Card」が利用できる。ただし、このカードは買い物などには利用できない。クレジットカードやデビットカードが使えるので、使い分けられているようである。

 キャッシュレス先進国ともされるオーストラリアでも、それなりにキャッシュも使われていることは、今回の50豪ドル札のスペルミスの記事からも明らかである。我々にとって使い勝手の良く便利なキャッシュレス化は大歓迎ではあるが、まずはキャッシュレスありきとの考え方はどうかと思う。日本は災害も多い国でもあり、現金とのうまい共存も考慮に入れてのキャッシュレス化を意識してほしいと思う。


2019年5月15日「米中の通商交渉、6月末に大阪で開催されるG20サミットにも注目か」

 米国のトランプ大統領はホワイトハウスでのイベントで、中国との協議が成功すると感じている、成功かは3〜4週間以内に分かるだろうと発言したそうである。また、米中貿易摩擦は、ささいな口げんかで、中国との通商協議は決裂していないと述べたようである。

 確かに米中の通商交渉は続けるとしており、中国側からは北京での開催も示唆されたようである。これに対して米国サイドはまだ返事をしていないと報じられていたが、閣僚級会議の日程を詰めているようで、米財務省はムニューシン長官がある時点で中国で通商協議を計画することも明らかにした。

 トランプ大統領は成功かどうかわかるのか3〜4週間以内としたが、これは6月28、29日に大阪で開催されるG20首脳会合(サミット)も意識したものである可能性がある。トランプ大統領はG20サミットで、中国の習近平国家主席やロシアのプーチン大統領と会談することを明らかにしたおり、習近平国家主席と会談して貿易問題について話し合うことを明らかにした。

 このトランプ大統領と習近平国家主席との会談で最終合意するというのが、シナリオなのかもしれないが、どちらがどのように妥協してくるのかはまったく読めず、合意が可能となるのかは依然、不透明なままとなる。

 トランプ大統領はその前に今月25日から28日までの日程で、国賓として来日する。トランプ大統領による国技館での大相撲観戦も予定されているようだが、中国との交渉状況などが、安倍首相との会談などから多少なり明らかにされる可能性もある。

 G20サミットにおける米中首脳会談についても日本国内で行われることもあり、日本を舞台に駆け引きが行われることも予想される。

 ちなみにG20サミットの前に、6月8日から9日にかけて、福岡市で財務大臣・中央銀行総裁会議とつくば市において貿易・デジタル経済大臣会合が開催される予定となっており、こちらの動向にも念のため注意しておきたい。


2019年5月14日「米中協議は続くものの、関税「競技」も継続中、世界の株式市場が動揺を示す」

 米中の通商交渉における閣僚級協議は9日から10日までワシントンで行われたが、結局合意には至らなかった。

 米国のムニューシン財務長官は、建設的な議論だったと述べ、中国の劉鶴副首相も、協議は極めて良好だったと語った。そして、トランプ大統領も会話は今後も続くとツイッターに投稿したが、交渉がまとまるようには見えず、問題を先送りしただけとなった。

 確かに協議は続けるとしており、中国側から北京での開催も示唆されたようである。しかし、いまのところ具体的な日程は示されていない。6月に大阪で開催されるG20で、米中首脳会議の可能性もありうるが、閣僚級会議でまとまらなかったものをトップ会談でまとめられるかも不透明である。お互いに妥協できない背景もあり、具体的に国内経済への悪影響が出たり、米大統領選挙に不利に働くとの読みでもなければ意地の張り合いは続くものと予想される。

 トランプ政権が10日に2000億ドル分の中国製品への制裁関税を引き上げたのを受け、中国政府は昨秋に5〜10%の追加関税をかけた600億ドル分の米国製品について、6月1日から税率を5〜25%に引き上げると発表した。中国の交渉責任者を務める劉鶴副首相は米国の第3弾の関税引き上げに対する対抗措置として「必ず報復する」と述べていた。

 さらにトランプ政権は、中国との貿易交渉で歩み寄りが見られなかったとして、まだ関税を上乗せしていない約3000億ドル分の輸入品についても新たに上乗せする手続きを始めた。この第四弾が実行されれば、通商法301条に基づいて知的財産権の侵害を理由にした関税の上乗せは中国からのすべての輸入品が対象となる。

 金融市場にとっては協議がまとまる、いやまとまらないとの観測が右往左往していたが、ひとまず「合意なし」との結果が出た。しかし、依然として不透明感は払拭できない。米中協議は続くものの、関税「競技」も継続することとなり、これは世界経済にはマイナスに働くことも予想される。

 中国政府による対抗措置の発表が13日の米国市場が開く前というタイミングも影響してか、13日の米国市場は動揺を隠せず、ダウ平均は617ドル安となり、リスク回避から米債は買い進まれ、円高も進行しドル円は109円近くに下落した(円高進行)。欧州の株式市場も下落し、欧州の債券市場ではドイツなど中核国の国債が買われ、イタリアなど周辺国が売られるなど、まさにリスク回避の動きとなった。

 ちなみに令和となってからの東京株式市場は日経平均でみると13日まで前日比でプラスがない。令和の時代はどうやら先が見えづらい時代となるのかもしれない。


2019年5月13日「イングランド銀行とECBの次期総裁選びの行方」

 英国の財務省は2020年1月末で退任する予定のカーニー英イングランド銀行(中央銀行)総裁の後任を選ぶ採用活動に着手したとか。カーニー氏を選んだ前回12年と同じく、一般から幅広く探す公募の形式を取るそうである。

 英国政府は2012年11月26日に、英国の中央銀行であるイングランド銀行のキング総裁の後任にカナダの中央銀行であるカナダ銀行のマーク・カーニー総裁を任命した。総裁の任期は最大8年だが、カーニー総裁は早期の退任を前提に就任していた。EU離脱をめぐる混迷が深まるなかで退任時期を2度延期していたが、2020年1月31日には退任し、カーニー総裁はこれ以上の延長はないとしている。

 カーニー氏の後任を巡っては、金融行為監督機構(FCA)のアンドリュー・ベイリー長官が最有力との見方があるそうだが、イングランド銀行のブロードベント副総裁も有力候補の一人だとか。一部に女性の総裁の可能性も指摘されている。

 現在の英国のハモンド財務相の意中の人はいったい誰なのか。英国のEU離脱問題は解決されるどころか、問題が先送りされただけであり、イングランド銀行の舵取りも非常に困難となるとみられ、総裁選びには今回も苦慮することも予想される。

 そして、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁の任期は今年10月となっており、こちらもこれから次期総裁選びが本格化するとみられる。

 ドラギ総裁の後任はドイツからというのが暗黙の了解となっているようである。ただし、以前にドイツのメルケル首相は、今年トップが交代する欧州委員会委員長と欧州中央銀行(ECB)総裁について、ドイツ出身者が獲得できる可能性としては欧州委員長ポストの方が高いと認識し、優先的に働きかけを行っているとの観測もあった。

 ECBの次期総裁候補として、タカ派で知られるドイツ連銀のバイトマン総裁の名前が挙がっているが、バイトマン氏のECB総裁就任について南欧諸国などは、あまり好ましくはないとされている。

 5月4日に欧州委員会のユンケル委員長が、ECB総裁の後任としてバイトマン独連銀総裁はふさわしい候補だと、欧州委員会のユンケル委員長が述べたと独紙ハンデルスブラットが報じた。ただし、ユンケル氏はこの人事で大きな決定権は持たない。それでもルクセンブルク首相やユーログループ議長を歴任したユンケル氏の発言は注目に値するされている。

 欧州委員会の委員長人事と絡んで、さらには南欧諸国のドイツ出身者のECB総裁就任への警戒もあり、次期ECB総裁がタカ派とされるドイツ連銀のバイトマン総裁が就任するのか、今後の動向に注意していきたい。


2019年5月11日「中東情勢の緊迫化にも注意が必要か、原油価格に影響等も」

 原油価格のベンチマークのひとつであるニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物は、4月23日に66ドル台に上昇したあと、戻り売りに押され、5月に入り60ドル近くまで下落したところで、もみあいとなっている。

 市場では米中の通商交渉の行方に目が向けられており、原油先物もそれを睨んだ動きとなっているが、念のため中東情勢にも目を向けておく必要があると思われる。

 トランプ米大統領は1年前、イランと米英など6か国が2015年に交わした核合意からの離脱を表明。さらに米政府は今年の4月末にイラン産原油輸入禁止の適用除外を打ち切ると発表した。

 イランの軍幹部は同国産原油の全面禁輸を米国が発表する前に、ホルムズ海峡の利用を妨げられるならイランが海峡を閉鎖すると述べていた。

 欧州を歴訪中であった米国のポンペイオ国務長官は5月7日のドイツのメルケル首相との会談を「緊急の要件」があるとして突然中止し、その後、イラクのバグダッドを電撃訪問。当然ながらこれはイランの動向を睨んだものといえる。

 米国のボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)は5日夜に中東に空母打撃群と爆撃部隊を派遣すると発表していた。イランが関係するとした「幾つかの不穏なエスカレートの兆候」に言及し、「明確なメッセージ」を同国の政権に伝えることが派遣の目的だと説明している(ブルームバーグ)。

 新たに派遣されたのは「空母打撃群」と呼ばれる海軍部隊となり、原子力空母やミサイル巡洋艦、ミサイル駆逐艦、原子力空母などで編成される。今回はエーブラハム・リンカーンを中心とする空母打撃群が、戦略爆撃機「B-52 ストラトフォートレス」とともに中東を目指している。

 米中の通商交渉の行方はひとまず9日、10日の閣僚級会議の結果ではっきりする。何らかの譲歩をして追加関税は免れるのか、それとも関税引き上げとなっても即時発動ではないことでこれを利用しての時間稼ぎをするのか、はたまた決裂するのかはわからないが、何らかの決着はつく。

 その後あらためためて、きな臭くなっている中東情勢に市場の目が向けられる可能性もあり、米国やイランの動向、さらにそれによる原油価格への影響等にも注意しておく必要がありそうである。


2019年5月10日「米中両国による追加関税の応酬の可能性が高まっているが、そもそも関税(tariff)とは何か」

 米国のトランプ大統領は中国からの輸入品2000億ドル相当に賦課する関税率を、東部時間10日午前0時1分(日本時間同午後1時分)にこれまでの10%から25%に引き上げると明らかにし、米通商代表部(USTR)は連邦公報のウェブサイトに正式な通知文書を掲載した。

 これに対して、中国も米国が計画する対中関税引き上げが発効すれば、報復措置に出る方針を表明した。

 ただし、トランプ大統領は8日の朝、中国の代表団が訪米するのは「合意を成立させるためだ」と同国が伝えてきたとツイート、ホワイトハウスのサンダース報道官は記者団に対し、「中国から、合意に前向きな示唆があった。米国の交渉団は明日、中国側と協議する。結果を見守る」と述べたそうである(以上、ブルームバーグの9日の記事より引用)。

 9日からのワシントンでの米中協議でぎりぎりの交渉が行われる。今回、米国の態度を硬化させたのは、中国の産業補助金を巡る問題とされているが、中国は米国側がある程度譲歩すると読んでいたのではとの見方もあった。中国の補助金は産業育成策「中国製造2025」の骨格といえるものであり、中国側としては撤廃することは難しい。このため改革案を明記することも控えようとしたものの、これに米国側からの怒りを買った、米国側はここは譲ることができないものであったといえる。今後、どのように決着するのか、決着できるのかは不透明ながら、お互い何らかの譲歩をしてくる可能性は確かに皆無ではない。

 ところで、いまさらではあるが、今回、市場を揺るがしているタリフマン(関税男)のタリフ(tariff=関税)とは何であるのかを確認してみたい。

 関税とは何か。これについては「税関」のサイトに説明がある。

「関税のしくみ」http://www.customs.go.jp/shiryo/kanzei_shikumi.htm

関税とは

 「関税は、歴史的には古代都市国家における手数料に始まり、内国関税、国境関税というような変遷を経てきましたが、今日では一般に「輸入品に課される税」として定義されています。」

 関税といってもかなり複雑であり、詳しくは上記のサイトを確認していだきたいが、今回問題となっているのは「特殊関税」と呼ばれるものとなっているようである。

特殊関税

 「特殊関税とは、WTO協定で認められたルールとして、不公正な貿易取引や輸入の急増など特別の事情がある場合に、自国の産業を一時的に救済するため、通常課されている関税に追加的に課される割増関税で、不当廉売関税、相殺関税、報復関税及び緊急関税(セーフガード)などがあります。その他、各経済連携協定に基づく二国間セーフガードがあります。」

 上記は日本の関税に関するものではあるが、今回米国政府が発行しようとしているものも、この特殊関税にあたるものとなろう。中国が不公正な貿易取引を行っているとして、自国の産業を一時的に救済するため、通常課されている関税に追加的に課すものとなる。

 関税のサイトの特殊関税の説明には、「制度の濫用や恣意的な運用は避けつつも、適切に活用されることが重要です」とある。トランプ大統領の今回の対中関税引き上げは、この制度の乱用とも捉えかねず、政治的な利用ともいえる。また、関税を上乗せすることによって米国政府の税収がその分増えても、米国内の景気に悪影響を与えることも予想される。このため米国株式市場などにも悪影響を与え、それが日本の金融市場にも影響を及ぼしているのが現状である。


2019年5月9日「日銀の金融政策への素朴な疑問、現行の緩和政策をいつまで続ける気なのか」

 日銀は8日に3月14,15日に開催された金融政策決定会合議事要旨を公表した。今回は金融政策の基本的な運営スタンスについて議論をみてみたい。

 「大方の委員は、「物価安定の目標」の実現には時間がかかるものの、2%に向けたモメンタムは維持されていることから、現在の金融市場調節方針のもとで、強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが適切であるとの認識を共有した。」

 まず最初の疑問点であるが、日銀は何故「2%」という物価目標を定めたのか。それが日本にあって消費者物価指数(生鮮食料品を除く)の適正値であるのか。グローバルスタンダードだからというだけで、2%という数字に具体的な根拠などはない。それに縛られることによって金融政策そのものが歪められてしまっている。

 「一人の委員は、「物価安定の目標」の実現に資するため、現在の金融政策の運営方針を粘り強く続け、経済の好循環を息長く支えていくべきであると述べた。」

 すでに6年以上も粘り強く進めた結果、物価目標の達成はまったく見えてこない。さらに債券市場の機能不全、政府債務リスクの希薄化、中小金融機関主体の経営への影響などの副作用が確実に積み上がっている。

 「多くの委員は、物価上昇の原動力であるプラスの需給ギャップができるだけ長く持続するよう、経済・物価・金融情勢をバランスよく踏まえつつ、現在の政策のもとで、きわめて緩和的な金融環境を維持していくことが必要であると述べた。」

 そもそも現在の金融緩和政策で需給ギャップがどのように能動的に改善されるのか、その道筋を具体的に示してほしい。

 「ある委員は、当面は、景気動向を慎重に見極めつつ、金融機関や市場機能に与える副作用についてこれまで以上に留意して、現行の金融緩和政策を維持する必要があるとの見解を示した。」

 副作用について留意しなければならないことは、その通り。

 「一人の委員は、現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は、市場の状況に応じて対応できる一定の柔軟性を有しており、市場環境が変化するもとでも、市場機能に与える副作用を軽減しつつ、緩和的な金融環境を維持しやすい政策であると指摘した。」

 量の縛りをなくしたことでの柔軟性を持ったことは確かであろうが、金利操作という柔軟性については政策委員の判断というより、現場の判断に委ねられているようにみえるが、それも金融政策の柔軟性ということで良いのであろうか。

 「この間、ある委員は、現時点では、内外経済の動向についてデータの蓄積を待つ必要があり、現在の政策を継続することが適当であるが、経済・物価を巡る下方リスクが顕在化しているのであれば、政策対応の準備をしておくべきとの認識を示した。」

 物価目標の縛りがあるため、このような意見が出てくる。景気などの下方リスクに追加緩和で対処するしかなくなっているのが、現在の日銀の異常な政策となってしまっている。つまり柔軟性はない。

 「また、ある委員は、低下した予想物価上昇率を再び高めることの難しさなどを考慮すれば、経済・物価情勢の局面変化に際しては、先制的に政策対応することが重要であると述べた。」

 我が国の経済情勢は緩やかに拡大しているとの見方で一致しているようなので、経済・物価情勢の良い方の局面変化に際して、先制的に政策対応する必要はないのか。2%の物価目標が達成されていないから当然という理屈があろうが、2%という物価目標が間違いであったとしたら見方は異なってくる。

 「これに対し、ある委員は、2%の実現に向けた経済・物価情勢のメインシナリオは現時点で変わっていないとしたうえで、金融政策は、景気指標の短期的な変動に逐一、機械的に対応するものではなく、こうした基調判断に基づいて運営していく必要があるとの認識を示した。」

 2%の実現に向けた経済・物価情勢のメインシナリオは現時点で変わっていないという前提はさておき、確かに金融政策は景気指標の短期的な変動に逐一、機械的に対応する必要はなく、長期的な視野が見込まれる。しかし、市場や政治家は特に急激な株価の下落や円高に対して、日銀の政策に過度な期待をすることも多い。

 「別の一人の委員は、需給ギャップのプラス基調に変調がない中にあっては、現行の緩和政策を維持し、景気動向を慎重に見守ることが適当であるとの意見を述べた。」

 正論であろうが、現行の緩和政策をいつまで続ける気なのか。


2019年5月8日「タリフマン・ショック 米中の通商交渉は暗雲垂れ込め、金融市場は不安定に」

 トランプ政権の貿易交渉を率いるライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は、先週の米中通商交渉で中国側が姿勢を後退させたと大統領に報告し、これが5日のトランプ大統領のツイートによる関税引き上げ警告につながったようである。

 8日付け日経新聞によると、米国は協定の案文に、中国が国有企業への補助金制度の改革案を明記することで合意していたと考えていた。しかし中国は協定に明記せず、国内の法改正で対応すると後退したとみられる。ライトハイザー氏が、中国に強硬な姿勢を取るようにトランプ氏を説得したとされている。

 貿易協議では知財権保護を含めた制度づくりなどをめぐり、米国がさらに厳しい要求を突き付けていることや、中国側が一度認めていた知財保護等に関する法的措置導入を撤回したことが背景になっているともされている。中国は先週北京で行った貿易協議で、新たな法整備などを必要とする協定には同意できないとの考えを示している。

 ライトハイザー代表は、「われわれは何らかの合意に向かっているとの感触を持っていたとも発言していたが、市場も今回の米中の通商交渉については楽観的な見方が広がっていたように思われる。しかし、ぎりぎりのところでちゃぶ台返しが起こっていた。これは以前の米朝首脳会談でも同様の出来事があったように思われる。

 今後の動向は皆目見当がつかないものの、米国政府は中国からの輸入品2000億ドル相当に対する追加関税を10日に10%から25%へ引き上げる方針であり、中国の劉鶴副首相が率いる交渉団は米国との貿易協議のため、9日からワシントンを訪れる見通しとなっている。

 交渉は継続されるものの、ひとまず関税は課すということになるのか。トランプ大統領は自らをタリフマン(関税男)と呼んでいるそうであるが、まさにタリフマンとしての本領を発揮し、東京市場を含めて世界の金融市場にタリフマン・ショックを引き起こした。

 中国商務省は7日、劉鶴副首相が訪米し、9〜10日に貿易協議にのぞむと発表した。9日のワシントンでの米中通商交渉がまさに政治の駆け引きの場となる。いずれにしても、米中通商交渉がすんなりとまとまるという期待は持てそうにない。市場は新たな不安材料を抱えることとなり、東京市場を含めて不安定な相場が当面続くことが予想される。


2019年5月7日「トランプ大統領のツイートで金融市場が一変、令和としての最初の明日の東京市場はどうやら波乱の幕開けか」

 米国のトランプ大統領は日本時間の6日の深夜に下記のようなツイートをした。

 For 10 months, China has been paying Tariffs to the USA of 25% on 50 Billion Dollars of High Tech, and 10% on 200 Billion Dollars of other goods. These payments are partially responsible for our great economic results. The 10% will go up to 25% on Friday. 325 Billions Dollars of additional goods sent to us by China remain untaxed, but will be shortly, at a rate of 25%. The Tariffs paid to the USA have had little impact on product cost, mostly borne by China. The Trade Deal with China continues, but too slowly, as they attempt to renegotiate. No!

 中国の知的財産権侵害などを理由に2000億ドル分の同国製品に課す関税を、10日の金曜日から現在の10%から25%に引き上げる。さらに関税を課していない3250億ドル分の中国製品にも「速やかに25%の関税を課すとした。「中国の協議は遅すぎる」とも指摘している。

 日本が10連休中の間の欧米市場は、それほど大きな動きはなかったが最終日に市場を揺るがすようなツイートが来た。たしかに進展はみられなかったものの、米中の通商協議は続いており、8日からはワシントンで米中の通商交渉が再開される予定であった。

 ただし、1日にWSJが米国の要求する包括的な合意に至らない可能性があると報じていたように、実際の交渉は暗礁に乗り上げていた可能性があり、それに業を煮やしたトランプ大統領が直接ツイッターで、交渉決裂を示唆したような呟きを行った可能性もある。

 トランプ大統領が直接ツイッターで重要事項となりそうな呟きを行うのは、何も今回が初めてではない。しかし、広報やスポークスマンなどを通ぜずに、自らツイートするというのはある意味、大きなリスクも伴うとも言わざるを得ない。世界の政治や軍事、金融市場などに多大な影響を及ぼしかねない米国の大統領の安易な発言や意見の発信は本来控えるべきものであろう。

 中国は今週に予定していた劉鶴副首相のワシントン訪問の中止を検討していると米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が報じた。中国側は大統領の発言に驚いたとWSJ紙は匿名の関係者を引用して伝えている。中国は脅迫を受けながらの交渉を望んでいないとも同紙は報じた(ブルームバーグ)。

 今回のトランプ大統領のツイートは脅しのようにもみえるだけに、中国側がこのような反応をするのも当然のことのように思われる。

 日本の連休中にそれほど大きな波乱がなかった金融市場はこの米国大統領のツイートを受けて、大きく動揺した。3日のダウ平均は26500ドル台で引けていたが、日本時間の6日午前のダウ平均の先物は一時26000ドルを割り込んでいる。CMEの日経平均先物も22000円を一時割り込んでいる。ドル円も一時110円20銭台に下落するなど円高も進み、米債は買われるなどリスク回避の動きとなっている。

 今日のニューヨーク市場動向次第ではあるが、10連休明け、令和としての最初の明日の東京市場はどうやら波乱の幕開けとなりそうである。


2019年5月7日「ECBのドラギ総裁の後任は誰になるのか」

 欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁の任期は今年10月となっており、これから次期総裁選びが本格化するとみられる。

 ECBはユーロ参加国で構成されるユーロ圏の金融政策を担っている。米国は連邦制度となっていたことから、連邦準備制度という形式での中央銀行を作ったが、ユーロ圏の経済統合の結果、ユーロシステムを構成しているそれぞれの国の中央銀行は、その役割を欧州中央銀行というひとつの銀行に委ねた。

 欧州の通貨統合により単一通貨であるユーロが導入され、ユーロ圏の金融政策は欧州中央銀行が行うこととなった。 これにより、米国のFRBと並んで大きな影響を与えてきたドイツのブンデスバンクをはじめ、フランス、イタリア、オランダ、ベルギーなどの中央銀行は、欧州中央銀行に対しての調査や銀行監督などの支援業務が中心となったのである。

 マーストリヒト条約では、総裁を含むECB役員会メンバーは、ユーロ圏の国籍を持ち、金融に精通した専門家の中から選ばれる。ECB総裁の人事についてはドイツとフランスの駆け引きが行われており、初代のECB総裁はどちらにも属さないオランダ出身のドイセンベルグ氏が就任した。しかし、ドイセンベルグ氏は任期半ばで予定通りに辞任し、そのあと現在のフランス出身のトリシェ氏に引き継がれた。

 3代目の総裁としてはドイツ出身者が就任するであろうことが暗黙の了解のようになっていた。しかし、トリシェECB総裁の後任として本命視されていたドイツ連邦銀行のウェーバー総裁が「個人的な理由」で4月末に辞任し、ドイツのメルケル首相の目論見が狂った。ドイツ内ではほかに有力候補はいなかったこともあり、メルケル首相もドラギ氏支持に回らざるを得なかった。

 上記の過程もあり、ドラギ総裁の後任はドイツからというのが今回も暗黙の了解となっているようである。ただし、以前にドイツのメルケル首相は、今年トップが交代する欧州委員会委員長と欧州中央銀行(ECB)総裁について、ドイツ出身者が獲得できる可能性としては欧州委員長ポストの方が高いと認識し、優先的に働きかけを行っているとの観測もあった。

 ECBの次期総裁候補として、タカ派で知られるドイツ連銀のバイトマン総裁の名前が挙がっているが、バイトマン氏のECB総裁就任は南欧諸国などは、あまり好ましくはないとされている。現在のイタリア出身のドラギ総裁は極めて慎重に出口政策を進めているものの、バイトマン氏はこのやり方は生ぬるいとみている。

 5月4日に欧州委員会のユンケル委員長が、ECB総裁の後任としてバイトマン独連銀総裁はふさわしい候補だと、欧州委員会のユンケル委員長が述べたと独紙ハンデルスブラットが報じた。ただし、ユンケル氏はこの人事で大きな決定権は持たない。次期ECB総裁は欧州議会選挙後、政治的な駆け引きの上でEU首脳が選出する見通しで、次期欧州委員長の人選もこの一環で決定する(ブルームバーグ)。

 それでもルクセンブルク首相やユーログループ議長を歴任したユンケル氏の発言は注目に値するされている。欧州委員会の委員長人事と絡んで、さらには南欧諸国のドイツ出身者のECB総裁就任への警戒もあり、次期ECB総裁がタカ派とされるドイツ連銀のバイトマン総裁が就任するのか、今後の動向に注意していきたい。


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