2017年7月26日「日銀の5年超10年以下の国債買入減額に市場は動揺せず」

 日銀は7月24日の国債買入で、5年超10年以下の買入予定額を前回の5000億円から300億円減額し4700億円とした。今回はこの5年超10年以下の国債買入額の変遷を確認してみたい。

 2016年当初は5年超10年以下の毎回の買入額が4500億円程度であったものが、7月に4300億円に減額した。この時期に世界の長期金利が過去最低を更新するなどしており、7月6日には日本の20年債利回りも一時マイナスとなった。この金利低下のペースをダウンさせる意味もあっての減額であり、超長期ゾーンも同時に減額していた。

 そして2016年9月30日にも残存5年超10年以下の買入予定額を4100億円とし前回の4300億円から200億円減額した。この日の10年国債の利回りはマイナス0.090%に低下していた。そして数日前にはマイナス0.095%にまとまった売りが入るなどしていた。日銀の長期金利の操作目標についてはある程度の幅があると予想されており、市場はそのレンジを見定めようとしていた。その下限がマイナス0.1%であろうとの認識であったが、それが日銀が国債の買い入れを減額することで裏付けられた格好となった。

 今年1月27日に日銀は残存5年超10年以下の買入予定額を4500億円と400億円増額させてきた。これは25日の国債買入での中期ゾーンスキップの代わりに、5年超10年以下を増額したとも見えた。中期ゾーンの国債買入の減額による影響を抑えるために長期ゾーンの買入を増やしたとも捉えられた。

 しかし、1月末に発表された「当面の長期国債等の買入れの運営について」で残存5年超10年以下の買入予定額の2月初回買入は4100億円と元に戻されていた。

 ところが、2月3日には残存5年超10年以下の買入予定額を4500億円に戻していた。この際に市場は日銀のイールドカーブコントロールによる長期金利の居所を改めて探りに来ていた。2月2日の14時前に市場は日銀が想定するとみていた長期金利の上限の0.100%を試しにいった。2日の10年債利回りは0.115%まで上昇していた。

 これに対し3日に日銀は残存5年超10年以下の買入予定額を4500億円に増額したものの、市場は元に戻しただけとの読みとなった。ある程度の10年債利回りの上昇を日銀は容認していると解釈され、債券先物が大きく売られることになった。この急激な利回り上昇を受けて、日銀はこの日の12時半というイレギュラーな時間帯に指し値オペをオファーした。残存期間5年超10年以下の固定利回格差は0.006%。この結果10年利付国債345回の買入利回りは、0.110%となった。

 日銀は今月7日、欧米の国債が売られ10年債利回りが0.105%まで上昇したのに対し、5年超10年以下の額を4500億円から5000億円に増額、指し値オペもオファーした。

 その後欧米の長期金利の上昇は落ち着いたことから、5年超10年以下の買入予定額を4700億円に減額し再調整した。ただし減額は300億円に止め、来月の国債買入予定発表日である28日での減額も避けるなど、市場にも配した格好となった。実際に債券市場は以前のように細かい修正に大きく反応するようなことはなくなり、今回の減額による影響はほとんどなかった。


2017年7月25日「議論は秋に行うとのECBのドラギ総裁発言の意図」

 7月20日のECB理事会で主要政策金利であるところの、リファイナンス金利は0.00%に、限界貸出金利は0.25%に、中銀預金金利はマイナス0.40%にそれぞれ据え置いた。

 ドラギ総裁は20日の理事会後の記者会見で「(声明文の変更などの)議論は秋に行う」と明言した。ただし、将来的な変更について討議する具体的な日程は設定しないことで、全会一致している。つまり討議は秋に実施されると単に言ったに過ぎないとも発言している。

 秋に議論しようとしていることは認めているが、その時点までに入手可能なあらゆる情報を得る必要があるため、具体的な日程は設定していないとしている。しかし、これをそのまま鵜呑みにすることはできない。

 たしかに緩和バイアスの解除を明確に示してしまうと、市場に対して、特に外為市場に大きな影響を与えかねない。実際にこれだけ慎重な発言をしていたにも関わらず、外為市場ではユーロは買い進まれている。

 ドラギ総裁は今年のジャクソンホール会合に3年ぶりに出席することそのものが、何かしらの政策変更の示唆があるに違いないとの観測を市場は抱いている。そこに「議論は秋に行う」と示した以上、緩和バイアスの解除に向けたスケジュールは存在しているとみた方が素直となろう。

 外為市場でユーロ高が進んでいるにも関わらず、ドイツやフランスなどユーロ圏の国債利回りの上昇は抑えられている。ドイツの10年債利回りは7月半ばに0.60%まで上昇後、伸び悩んでいる。

 これは昔、FRBのグリーンスパン議長の言った「Conundrum」ではないが、やや謎めいた動きといえる。しかし、ユーロ圏の長期金利の伸び悩みは、ユーロ圏の物価指数が伸び悩んでいることも背景にある。

 6月のユーロ圏消費者物価指数(CPI)速報値は前年同月比1.3%上昇となった。5月の1.4%上昇、4月の1.9%上昇から伸びが鈍化した。2%の目標に達成しておらず、それでECBは緩和バイアスの解除を行えるかとの意見もあるかもしれない。しかし、リフレ色の強すぎる日銀とは異なり、欧米の中央銀行はこのあたりは柔軟である。

 欧州の国債利回り、さらには米債利回りの上昇もかなり緩やかなものになっているのは、物価そのものがそれほど大きく上昇していないことが要因のひとつにある。さらに今回のFRBやECBの動きそのものが金融引き締めというよりも正常化にあることも影響していよう。

 ECBのメルシュECB専務理事は「状況が正常化する中で、非伝統的政策が引き続き必要になる可能性は低い」と発言していた。世界の危機的状況は後退してきており、過剰とも言える金融緩和策を修正する必要があり、金利もファンダメンタルに即した水準に戻る必要性がある。その金利水準はそれほど高いところにあるわけではなく、それが長期金利の上昇を抑制している面もあろう。


2017年7月24日「スウェーデン中央銀行(リクスバンク)も緩和バイアスを解除」

 7月4日のスウェーデン中央銀行(リクスバンク)は、政策金利のレポ金利をマイナス0.5%で据え置いた。また、当面の追加利下げの可能性を否定し、政策金利は2018年半ばまで現行水準にとどまるとの見通しを示した。

 声明では「インフレ率が最近、予想を若干上回る上昇を続けていることと、海外からの悪影響のリスクが低下したと考えられることから、政策金利のレポ金利をさらに引き下げる可能性は目先後退した」と説明した(ブルームバーグ)。

 リクスバンクのイングベス総裁は記者会見で「緩和政策の縮小や利上げは時期尚早」と発言したものの、ECBと同様に追加緩和に向けた前傾姿勢から普通の姿勢に戻したといえよう。

 カナダ銀行(中央銀行)は7月12日の政策決定会合で、政策金利である翌日物金利の誘導目標を0.25%引き上げ、年0.75%とした。カナダ銀行の利上げは2010年9月以来、6年10か月ぶりとなる。

 6月27日にポルトガルで開催されたECBの年次政策フォーラムで、ECBのドラギ総裁は景気回復に即した緩和策の調整、つまり景気が順調に回復するのであれば、緩和効果を一定に保つための政策修正の可能性を指摘した。つまりECBが年内にも理事会で政策修正を検討する可能性が出てきた。

 また、ドラギ総裁は今年のジャクソンホール会合に3年ぶりに出席すると伝えられた。ECBは資産買い入れを段階的に縮小する方針を9月の政策理事会で示唆するのではとの観測が出ている。

 このように、ここにきて欧米の中央銀行は、FRBを筆頭に緩和政策を解除しての正常化、もしくは緩和バイアスを解除する方向で足並みを揃えてきているように見受けられる。これは6月27日にポルトガルで開催されたECBの年次政策フォーラムにおいて、為替に影響を与えることのないように、なんらかの密約があったのではとの観測も出ていた。

 BISによる直近の年次報告書によると、金融政策正常化の議論をしていたことが示されていたが、それが徐々に実行に移されているように見受けられる。報告書では「インフレ率が上がらなくとも、長期にわたり金利を低過ぎる水準に維持すれば、金融安定とマクロ経済のリスクを将来的に高めかねない。債務は引き続き累積し、金融市場のリスクテークは勢いを増すことになる」と指摘していた。

 ただし、この動きのなか、緩和バイアスの解除もできずにいるのが日銀となっている。それでもいまのところ円安の動きは緩やかなものとなっている。しかし、日銀と欧米中銀の金融政策の方向性の違いが、あらためて為替市場で材料視され、大きく円安が進むようなことになると、日本に対して海外から批判が出てくるようなこともありえよう。


2017年7月22日「6月の債券市場では都銀が大量買い越しに」

 7月20日に日本証券業協会は6月の公社債投資家別売買高を発表した。公社債投資家別売買状況のデータは、全体の数字と短期債の数字となっているため、短期債を除く債券のデータについて全体から短期債を引いた。ここには国債入札で購入した分や日銀の国債買入分は入っていない。
公社債投資家別差し引き売買高
注意、マイナスが買い越し
単位・億円
()内は国債の投資家別売買高の超長期・長期・中期別

都市銀行 -22512(-2198、-4472、-15574)
地方銀行 -2533(918、-937、-806)
信託銀行 -4465(-2127、-116、-1862)
農林系金融機関 -2729(-1938、-299、-150)
第二地銀協加盟行 109(192、-236、360)
信用金庫 -4584(-557、-722、20)
その他金融機関 -1035(-294、99、-40)
生保・損保 -2211(-1627、-152、67)
投資信託 -1621(339、-527、-760)
官公庁共済組合 -63(-120、3、0)
事業法人 -414(63、9、4)
その他法人 -628(47、36、5)
外国人 -7993(-3809、557、-3745)
個人 167(1、14、3)
その他 6742(4592、-2422、9218)
債券ディーラー -493(-138、271、-583)

 6月の国債の投資家別売買高をみると第二地銀、個人、その他を除いて総じて買い越しとなっていた。

 特に都銀は2兆2512億円と大幅買い越しとなっていた。これは2年7か月ぶりの水準に。先月は1兆4782億円の買い越しとなっていたが、さらに買いポジションを膨らませた格好に。特に中期ゾーンの買い越し額が大きい。6月は5年債利回りがマイナス0.1%を割り込むなど債券相場は下落基調(利回りは上昇基調)となっており、国内投資家は一般債含めて押し目買いを入れていたようである。

 先月までの買越額トップだった海外投資家は買い越しではあったものの、7993億円の買い越しに止まった。買越額が1兆円を割り込んだのは昨年10月の5717億円の買い越し以来となる。海外投資家の買い圧力の後退で中期ゾーンのマイナスの利回り幅が縮小し、付利の0.1%割れで銀行などの買いが入りやすくなっていたものとみられる。

投資家全体の売買状況 全体 超長期 長期 中期
1月1996647、303116、412877、588101
2月1958526、340593、481039、496524
3月2041609、385293、472883、558183
4月1914346、373287、391855、488680
5月1707093、320073、345208、435486
6月2124250、448132、436196、565359

海外投資家の売買状況
月 売り越し買い越し(マイナスは買い越し)、(超長期、長期、中期)、国債売買高、うち中期

2016年
4月-36565(328、-9142、-27271)、294983、62513
5月-16775(1347、-6186、-10933)、246889、34315
6月-36565(328、-9142、-27271)、344055、65055
7月-16693(1860、-4453、-13200)、275366、61036
8月-16838(-1108、-5390、-9702)、302397、65718
9月-27674(-3320、-4283、-19310)、380542、102124
10月-5717(1051、-5636、166)、264616、62534
11月-11672(2275、-2448、-10674)、302551、48912
12月-26198(-970、2054、-26261)、317612、57609

2017年
1月-23784(-1153、-504、-19500)、294839、61994
2月-11210(-2687、3009、-10323)、292813、51127
3月-17190(-4603、1222、-12886)、312730、58810
4月-21075(-3562、-4623、-11957)、321272、43951
5月-19887(-803、-6541、-11738)、269888、47170
6月-7993(-3809、557、-3745)、286134、45447


2017年7月21日「日銀決定会合で反対者がいなくなる日」

 7月19、20日の日銀金融政策決定会合では、今回も賛成多数で現状維持が決定された。今回も長短金利操作、資産買入れ方針ともに7対2の賛成多数となっていたが、反対したのはいずれも佐藤審議委員と木内審議委員である。

 長短金利操作について、佐藤委員は、短期政策金利をマイナス0.1%、10 年金利の目標をゼロ%程度とすることは期間10年までの金利をマイナス圏で固定することにつながりかねず、金融仲介機能に悪影響を及ぼすとして反対した。木内委員は、国債市場や金融仲介機能の安定の観点から、短期政策金利はプラス0.1%が妥当であり、長期金利操作目標は国債買入れペースの一段の拡大を強いられるリスクがあるとして反対した(日銀「当面の金融政策運営について」より)。

 資産買入れ方針については、佐藤委員は約6兆円のETF買入れは、市場の価格形成や日本銀行の財務健全性に及ぼす悪影響などを踏まえると過大であるとして反対した。なお、木内委員より、資産買入れ額を操作目標とする枠組みとしたうえで、長期国債保有残高が年間約45兆円、ETFが約1兆円に相当するペースで増加するよう買入れを行うなどの議案が提出された(日銀「当面の金融政策運営について」より)。

 佐藤健裕審議委員と木内登英審議委員の任期は7月23日までとなり、今回の会合が最後となる。

 上記の反対理由については、至極もっともであるが、反対理由はあくまで、金融仲介機能に悪影響、国債買入れペースの一段の拡大懸念、日本銀行の財務健全性に及ぼす悪影響などとなっている。それ以前に異次元緩和が効果を及ぼしていないという事実が含まれていない。これを含めて本来であれば、長短金利操作付き量的・質的緩和というタイトルだけが長くなっている緩和策を再検証すべきものではなかろうか。

 すでに欧米の中央銀行は正常化に向けて舵を取りつつある。そんななか、日銀だけが取り残されそうな雰囲気にある。この状況下で正論ともいえる意見を言い続けた二人の委員がいなくなってしまうと、日銀はますます異質な政策を一丸となって続けるような印象も与えかねない。

 政府との共同文書や物価目標、さらにはリフレ政策を日銀に押しつけた政権にそもそも問題があり、日銀審議委員の人事も官邸が行っている以上、このようなことになってしまうのは当然ではあるが、それが日銀の異質さをさらに際立てしまう懸念がある。

 佐藤委員と木内委員の後任は三菱UFJ&コンサルティングの片岡剛士上席主任研究員と三菱東京UFJ銀行の鈴木人司取締役となる。リフレ派である片岡氏はさておき、鈴木氏にはあらためてこの現状をしっかり認識していただき、的確な意見を述べていただきたい。これはほかの政策委員にも希望したい。もしこのまま全員一致で現状維持を続けることになれば、その政策についてますます疑問符が付いてしまうことになりかねないのではなかろうか。


2017年7月20日「トランプ政権のレームダック化を市場は織り込み済みか」

 米上院共和党による医療保険制度改革(オバマケア)改廃への取り組みが頓挫した。オバマケア)改廃に対し民主党は反対し、共和党は上院(定数100)で52議席を占めるが2人を超える反対者が出たことで賛成票は過半数に届かず、早期採決を事実上断念することになった。上院がオバマケア代替法案の採決を断念するのは6月に続いて2回目となる。

 上院共和トップのマコネル院内総務はオバマケアの廃止法案の採決をまず優先し、2年程度かけて代替制度を検討しようと提案した。しかし、医療保険の代替制度がないままオバマケアを廃止すれば、多くの米国民が健康保険を失うことが予想され、大きな混乱を招きかねない。

 トランプ大統領はオバマケアの改廃を大統領選での公約に掲げていた。しかし、可決に必要な過半数を与党共和党が確保できないことが確実となり、少なくとも早期成立は困難となる。オバマケアを見直して、減税の財源に充てようと目論んでいたこともあり、オバマケアの改廃を軸に進められていたトランプ政権の政策の行方がさらに不透明感を強めることになる。

 ただし、市場はすでにトランプ大統領の政策に過大な期待は持っていないように思われる。18日の米国株式市場でダウは下落したが、アップルなど主力IT株が買われ、ナスダックは上昇し最高値を更新している。S&P500種株価指数も取引終盤にプラス圏に転じて、こちらも過去最高値を更新した。オバマケア改廃への取り組みの頓挫はそれほど売り材料視されていない。

 それに対して米債は買い進まれていたが、これはトランプ政権の経済政策への期待の反動というよりも、年内あと一回とされる利上げに不透明感が出てきていることにあるのではなかろうか。

 外為市場ではドルがユーロに対して1年2か月ぶり安値を付けた下落した。米長期金利の低下に加え、ECBが今後緩和バイアスを解除してくると予想されることもあり、対ユーロでのドル安が進行した面もある。ただし、ドル円も一時111円69銭と3週間ぶりの安値を付けるなどしており、トランプ政権の政策不透明感が外為市場では少なからず影響していた可能性はある。

 いずれにしてもトランプ政権のレームダック化は、市場ではすでにかなり織り込まれていることが予想される。トランプ政権に対して過度な期待はすでになく、むしろ景気の足を引っ張るようなことがなければそれで良しとの認識も強いのではなかろうか。


2017年7月19日「ECBは9月の理事会でテーパリング計画発表か」

 6月27日にポルトガルで開催されたECBの年次政策フォーラムで、ECBのドラギ総裁は景気回復に即した緩和策の調整、つまり景気が順調に回復するのであれば、緩和効果を一定に保つための利上げの可能性を指摘した。つまりECBが年内にも理事会で政策修正を検討する可能性が出てきた。

 また、ドラギ総裁は今年のジャクソンホール会合に3年ぶりに出席すると伝えられた。

 8月24日から26日にかけて末に米国ワイオミング州ジャクソンホールで開催されるカンザスシティ連銀主催のシンポジウムは市場参加者にとり大きな注目材料となっている。これには著名学者などとともに、日銀の黒田総裁など各国の中央銀行首脳が多数出席することで、金融関係者によるダボス会議のようなものとなっている。

 2010年8月27日にはバーナンキ議長(当時)がQE2を示唆する講演をジャクソンホールで行った。このシンポジウムに出席していた白川日銀総裁(当時)は予定を1日に早めて急遽帰国し、8月30日の9時から臨時の金融政策決定会合を開催し、新型オペの拡充策を決定した。

 2012年のジャクソンホールでは、ECBのドラギ総裁は9月1日にECBのパネルディスカッションの出席も予定されていたにも関わらず、直前になってシンポジウムへの参加を取りやめた。その理由として向こう数日に多忙を極めると予想されるためとECB報道官は語っていたが、9月6日のECBの政策理事会では新国債買い切りプログラム(OMT)を決定していたのである。

 2014年8月22日のジャクソンホール会合でECBのドラギ総裁は、ユーロ圏のインフレ期待が「大幅な低下を示した」と発言した。この発言は講演原稿にはなく同総裁の「アドリブ」であった。さらに政策姿勢を一段と調整する用意がある、とした講演原稿の中でも「必要になった場合は」の文言が省かれていた。これらはドラギ総裁は資産購入プログラムの導入を示唆したとされる。その後、9月4日のECB政策理事会では現状維持との大方の市場参加者の予想に反して、利下げとともに、10月からの資産買入れを決定した。

 2015年と2016年のジャクソンホール会合にはドラギ総裁は出席しなかったが、今年の会合には参加すると発表された。前回出席した2014年のジャクソンホール会合への出席時にドラギ総裁は政策変更の可能性を示唆していたので今回も政策変更の可能性を示唆するのではとの観測が強まった。

 さらにWSJはECBが資産買い入れを段階的に縮小する方針を9月の政策理事会で示唆かと報じている。資産購入規模を現行各月600億ユーロ規模から徐々に縮小する計画を発表すると見られている。


2017年7月16日「海外中銀の日銀当座預金口座にマイナス金利を適用」

 日銀は日本銀行法第41条に基づき、外国の中央銀行等や国際機関との間で、これらの先による円貨資産の運用や円資金の調達に協力するため、預り金業務、債券等保管業務、国債買取り等業務を行っている(日銀サイトの「教えて!にちぎん」より引用)

 外貨準備を運用する目的で、海外の中央銀行は日銀にも円建ての当座預金口座を開いている。合計で93口座あるそうで、全ての口座の預金残高の合計は13兆6000億円(3月末時点)となっている(日経新聞の記事より引用)。

 日銀はこれまで、海外中銀の預金に利子はつけていなかった。しかし、6月5日以降は、それぞれの海外中銀の預金の一定額を超える預け入り金について、現金担保付き債券貸借(レポ)金利から算出する短期の実勢金利から0.05%を引いた利率を付けることにした。現在この短期金利はマイナス圏で推移しており、その結果、この付利金利もマイナス金利となる。

 欧州中央銀行(ECB)も海外中銀の預金口座にマイナス金利を適用しているようで、日銀もこれに習った格好となるが、何故このタイミングではじめたのであろうか。システムなどの対応に時間が掛かった可能性もある。

 ちなみに日銀が2016年1月に決定したマイナス金利政策におけるマイナス金利適用に際しても、金融機関の日銀当座預金の一部にマイナス金利が適用される仕組みとなっている。

 民間金融機関が日銀に預けている当座預金残高を年平均残高となる「基礎残高」、所要準備額と貸出支援制度などの利用額に基礎残高の一定割合となるマクロ加算額を加えた「マクロ加算残高」、当座預金残高から上記の2つの残高を除いた「政策金利残高」の3段階に分類し、このうちの「政策金利残高」の部分にマイナス金利が適用される格好となっている。

 海外中銀の当座預金口座にマイナス金利を適用することによる影響としては、マイナス金利の適用を嫌って一部の資金が日銀の当座預金から流出する可能性はある。しかし、中銀預金などによる日銀への資金の預け入れは、資金運用というよりも必要に応じてのものとなっているとみられる。たとえば日銀が外国の中央銀行等との間で行う通貨スワップ取引の決済などにも預り金口座が利用されるなどしている。

 このため今回の海外中銀の当座預金口座の一部にマイナス金利を付利することにより、日銀の当座預金から資金が大きく流出するような事態が生じることはないとみられる。


2017年7月16日「カナダ銀行が7年ぶりの利上げを決定、その意味するところ」

 カナダ銀行(中央銀行)は7月12日の政策決定会合で、政策金利である翌日物金利の誘導目標を0.25%引き上げ、年0.75%とした。カナダ銀行の利上げは2010年9月以来、6年10か月ぶりとなる。

 イングランド銀行やECBも緩和路線からの方向転換を模索するなか、すでに正常化に向けて舵を切ったFRBに追随した最初の中央銀行となる。

 カナダの場合、資源国でもあり特に原油価格の動向に影響を受けやすい。特に2014年以降の原油価格の下落により、エネルギー産業が打撃を受け、2015年に二度の利下げを行い政策金利を0.50%まで引き下げた。

 またトランプ大統領の登場で、今年はじめにもカナダ銀行は利下げを検討かと伝えられた。しかし、トランプ大統領登場に伴う警戒感は後退し、原油価格が下げ止まったこと、トルドー首相の経済政策などから、今年1〜3月期にカナダの成長率は年率換算で3.7%に達した。物価は2%をやや下回って推移しているものの、今後も輸出と投資が上向くとの見通しから、カナダ銀行は利上げに踏み切ったものとみられる。

 今回の利上げの背景には、移民の増加や中国からの投資マネーの流入でバンクーバーなどの都市部で住宅価格が高騰しており、住宅バブルなども意識された可能性もある。

 今後については、金利の先行きは指標次第とし、追加利上げの軌道を定めない立場を表明した。しかし、「雇用と賃金の増加に支えられ、家計の消費は今後数カ月堅調だろう」と声明文では先行きにも自信を示しており、年内にも追加利上げを検討する可能性がある。

 ECBのドラギ総裁は今年は3年ぶりにジャクソンホール会合に出席すると伝えられた。前回のジャクソンホール会合への出席時には、ドラギ総裁はECBの大規模な資産買い入れ実施を示唆していたので今回も政策変更の可能性を示唆するのではとの観測が強まった。

 タイミング良く、WSJはECBが資産買い入れを段階的に縮小する方針を次回9月の理事会で示唆かと報じた。これについてジャクソンホールでも示唆してくる可能性が出てきた。

 イングランド銀行も今後、利上げを検討すると伝えられており、欧米の中央銀行の正常化に向けた動きは今後本格化してくることが予想される。日銀との金融政策の方向性の違いが更に意識されてくるとみられる。


2017年7月14日「市場はFRBのイエレン議長の花道も意識か」

 7月11日に半期に一度行われる米下院金融委員会の公聴会で、FRBのイエレン議長は「FOMCは向こう数か月、インフレの動向を注視していく」と指摘した。ただその上で、金利水準が引き続き雇用増加や所得の伸びを支え、それにより消費が後押しされるというのが基本的な見通しだとも説明した。

 政策金利については、経済における需要と供給の適度なバランスを保つ水準にする上で、「今後はそれほど大きく引き上げる必要はない」と指摘した。この発言が意識されてか、11日の米国市場では今後の利上げペースはより緩やかなものとなるとして、米債は買われ、ダウ平均も上昇した。

 しかし、11日のイエレン議長の発言はこれまでの発言内容に即したものとなっており、軌道修正をしたものではない。ただし、前日にFRBのブレイナード理事が、バランスシート縮小について早期に進めることを支持した上で、追加利上げについては慎重な姿勢を示していたこともあり、今後の利上げは慎重になるのではとの期待感も出ていたのかもしれない。

 ここ数か月の物価指標が著しく低水準にとどまっていることは、FRBも確認しているものの、それは一時的要因が物価昇を抑制しているとの認識に変わりはない。それでも、もし一時的な要因でなければ、今後のFRBの利上げペースは予定通りに行かないリスクは確かに存在する。

 しかし、今回の議長発言をみても、FRBの金融政策の正常化スケジュールを変更するようなものではないことも確かである。ただ、ここにひとつ不確定要素が存在している。

 イエレン議長は今回の公聴会で、今回が最後の議会証言かと問われ「来年2月に任期が切れるので、そうかもしれない」と答えた。2期目の続投に強い意欲は示さず「現在の任期を全うする」と繰り返した(日経新聞電子版)。

 FRB議長の任期は4年だが、前任のバーナンキ氏やグリーンスパン氏は2期8年以上議長を務めた。もちろんこれは任期満了時の政権が再指名したことで長期体制となったわけだが、イエレン議長をトランプ政権が再任する可能性はあまり高くはないように思われる。また、イエレン氏は6月末に一時入院するなど健康面も問題視される可能性もある。

 FRBの正常化に向けた歩みは当初かなり慎重となっていた。これは非伝統的手段からの出口戦略が特に市場と対話を進めながら行うにはかなりの慎重さが必要になったためとみられる。正常化の動きがいったん軌道に乗ればそのピッチを早めてもしかるべきながら、一昨年と昨年の利上げが1回、今年はそれが3回の予定、来年と再来年も3回の予定と予想以上のピッチの見込みとなっている。現在の物価水準からみても、長期の中立金利見通しである3%に達成させる必要性があるのかという疑問も残る。

 もし仮にイエレン議長は自ら再任の可能性は意識しておらず、異常ともいえた緩和政策からの正常化への道筋をつけることで自らの花道にしたいと考えているのであれば、今年3回の利上げペースとバランスシート縮小への着手は納得できるような気がする。ただし、そのあとを後任に託すとなれば、2018年以降の利上げに関しては不透明感も出てくることになる。市場はそのあたりも意識し始めているということなのであろうか。


2017年7月13日「FRB副議長にクオールズ氏を指名」

 トランプ米政権は10日、FRB副議長に元財務次官のランダル・クオールズ氏を指名すると正式発表した。クオールズ氏は2005〜2006年のブッシュ政権下で国内金融担当の財務次官を務め、金融規制に精通しているそうである(日経新聞)。

 FOMCでは7名の理事と5名の地区連銀総裁の計12名が投票権を有する。このうち理事とニューヨーク地区連銀総裁は常任メンバーで、残りのメンバーはその他の地区連銀総裁が輪番制で1年間担当する。

 現在のFRB理事の布陣は年初、ジャネット・イエレン議長、スタンレー・フィッシャー副議長、ダニエル・タルーロ理事、ジェローム・パウエル理事、ラエル・ブレイナード理事の5名であった。

 ところがタルーロ理事が4月に2022年1月まで5年の任期を残して途中辞任してしまった。

 金融危機後に銀行規制担当の副議長を設置することが決定したもののオバマ政権は与野党対立のあおりで同ポストの任命を見送っていた。このため実質的にタルーロ氏が理事ポストのままで金融規制担当を担ってきた。ところがトランプ政権となり、同氏に対し共和党から反発も広がっていた。このため早期辞任となってしまい、FRBの7名の理事のうち3名が空席という異常事態となっていた。

 このため、まずはこれまで見送っていた銀行規制担当の「副議長」として、ランダル・クオールズ氏を指名したものとみられる。

 タルーロ理事の辞任からもわかるように、クオールズ氏が就任すれば規制緩和へ路線転向を図ることになろう。ただし、金融政策そのものについてはクオールズ氏はテイラー・ルールの支持者ともされ、現在の利上げを含む正常化路線には理解を示すとされている。


2017年7月12日「今度は中期ゾーンでの指し値オペ観測も出たが日銀は動かず」

 日銀は7月7日に10年国債を対象とした指し値オペを実施した。これは10年国債利回り(長期金利)が、0.105%に上昇したことが原因とみられる。

 今年2月3日に市場は日銀の長期金利コントロールのゼロ%の範囲を探るような動きを見せ、通常の国債買入での増額がなかったことを確認後、10年債利回りは0.150%まで上昇した。これに対し日銀は変則的な時間帯の12時半に(オペタイムは午前は10時10分、午後は通常14時)指し値オペを実施した。その水準が10年債利回りの0.110%であった。

 2月3日の指し値オペの水準が0.110%であったことで、7月7日はその水準を試しにきた。0.110%はつけなかったものの、日銀は予防線を張った。7日の国債買入で5年超10年以下のオファー額をこれまでの4500億円から5000億円に増額し、さらに日銀は日銀は通常のオペと同時に固定利回り方式での残存期間5年超10年以下の国債買入もオファーした。「指し値オペ」である。固定利回較差は0.015%。この結果、10年利付国債347回の買入利回りは、0.110%となった。日銀としては0.110%が絶対防衛ラインということを示し、それを付ける前にストッパーを入れてきた。0.110%以上はつけていなかったために、この指し値オペに応札する業者はおらず、日銀はほとんど実弾を伴わず(通常のオペのプラス500億円のみ)、利回り上昇を抑えつけた。

 しかし、これで日本の債券相場の下落(利回り上昇)が抑えられたわけではない。今年2月3日の指し値オペのあとも10年債利回りは抑えられても超長期ゾーン主体に利回りは上昇していた。

 今回も11日の5年債入札を控え、10日に5年国債の利回りがマイナス0.035%まで上昇してきた。これは日銀が初めて指し値オペを実施してきた昨年11月の利回り水準を上回ってきたことになる。

 日銀が初めて指し値オペを実施したのは昨年11月17日で対象は何故か中期債であった。17日は20年国債の入札日であるにも関わらず、異例の国債買入、しかも初の国債の指し値オペを中期ゾーン対象にオファーしてきた。この背景には16日の債券相場の動きがあった。トランプ相場によるところの米長期金利の上昇を受けての日本の国債利回り上昇も中期債主体に上昇し、10年債利回りは16日の引け後にプラス0.035%まで上昇、2年債利回りはマイナス0.095%、5年債利回りはマイナス0.040%に上昇したのである。

 日銀によるオペの指し値が、2年利付国債370回の買入利回りでマイナス0.090%、5年利付国債129回の買入利回りはマイナス0.040%となった。しかし、実勢利回りが指し値よりも低下したため、11月17日の初の国債指し値オペの応札はゼロとなった。実弾を使わず空砲で利回り上昇を押さえ込む格好となっていた。

 この昨年11月17日の初の指し値オペの水準であるところの5年国債でのマイナス0.040%を、10日にマイナス0.035%をつけて利回り水準が上回ってきたことで、11日の日銀の対応が注目された。

 11日は国債の入札日ということで、通常の国債買入の予定はない。しかし、5年国債の入札が低調となり、ここからさらに5年債利回りが上昇するとかなれば、昨年11月17日と同様に国債入札日にもかかわらず、指し値オペ等を実施する可能性はないとはいえなかった

 さらに市場が動揺を示すようなことがない限り、日銀の本来の操作対象(短期と長期)ではないはずの中期も一定水準で押さえ込んでくるのかは疑問である。市場では中短期ゾーンの海外投資家からの需要の後退、日銀の買入削減などから、ゼロ%あたりまでの上昇は黙認するのではとの見方もある。

 しかし、その反面、日銀の支店長会議の総裁挨拶をみても日銀のスタンスに変化なく、7日の10年債と同様の対応を行ってくる可能性が全くないとはいえなかった。結果は11日の5年国債入札そのものが順調な結果となったこともあり、日銀は動きを見せなかった。


2017年7月11日「日銀のスタンスに変化なし、日銀支店長会議総裁挨拶より」

 7月10日の日銀支店長会議での黒田総裁の挨拶が日銀のサイトにアップされた。これを前回4月の支店長会議の挨拶文と比較してみたい。

 「わが国の景気は、緩やかな拡大に転じつつある。先行きについては、緩やかな拡大を続けると考えられる(7月)」

 「わが国の景気は、緩やかな回復基調を続けている。先行きについては、緩やかな拡大に転じていくと考えられる(4月)」

 足元の景気判断は「緩やかな回復基調を続けている」から「緩やかな拡大に転じつつある」に上方修正している。これは3日に発表された日銀短観などを確認してのものとみられる。短観の業況判断指数(DI)は全規模全産業でプラス12となり、2014年3月調査と並び、リーマン・ショック後で最高となったように、企業の景況感の回復に広がりが出ていることが示されていた。

 「物価面をみると、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%台前半となっている。先行きについては、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、プラス幅の拡大基調を続け、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる(7月)」

 「物価面をみると、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。先行きについては、エネルギー価格の動きを反映して0%程度から小幅のプラスに転じたあと、マクロ的な需給バランスが改善し、中長期的な予想物価上昇率も高まるにつれて、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる(4月)」

 消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、4月は「0%程度」であったものが、7月は「0%台前半」に多少の上方修正となっている。直近に発表された5月のコアCPIは前年比で4月の0.3%から0.4%となっていたことなどを反映か。

 4月にはあった「エネルギー価格の動きを反映して0%程度から小幅のプラスに転じたあと」が除かれている。あらたな段階に移行したということであろうか。「プラス幅の拡大基調を続け」ても、さすがに2%には届かないとの予想が多いことも確かではあるが。

 「わが国の金融システムは、安定性を維持している。金融環境は、きわめて緩和した状態にある(7月)」

 「わが国の金融システムは、安定性を維持している。金融環境は、きわめて緩和した状態にある(4月)」

 安定していないと困ることも確かである。

 「金融政策運営については、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する。今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う(7月)」

 「金融政策運営については、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する。今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う(4月)」

 こちらもまったく文面はまったく変えていない。欧米の中央銀行がECBを含めて、緩和バイアスの解除を模索しているが、日銀は2%という身の丈に合わない物価目標を掲げ、しかもそれを金融緩和でなんとかしようとするあまり、自らを縛りつけてしまい、戻るに戻れなくなってしまっている。この状況が変わるには何かしらのショックが生じるか、何かの弾みで物価が2%をワンタッチするようなことがなければ難しいのであろうか。


2017年7月10日「欧米の中央銀行による金融政策の正常化に向けた動きの背景」

 ここにきて欧米の中央銀行のトップから相次いで正常化に向けた動きを進めるような発言が相次いでいる。そのひとつのきっかけがBISの年次報告書にあった。

 国際決済銀行(BIS)とは、1930年に設立された中央銀行をメンバーとする組織で、スイスのバーゼルに本部がある。ドイツの第1次大戦賠償支払に関する事務を取り扱っていたことが行名の由来だが、それ以外にも当初から中央銀行間の協力促進のための場を提供しているほか、中央銀行からの預金の受入れ等の銀行業務も行っている(日銀のサイトより引用)。

 そのBISによる直近の年次報告書のなかで、金融政策正常化の議論をしていたことが示されている。「インフレ率が上がらなくとも、長期にわたり金利を低過ぎる水準に維持すれば、金融安定とマクロ経済のリスクを将来的に高めかねない。債務は引き続き累積し、金融市場のリスクテークは勢いを増すことになる」と指摘していた。

 すでに正常化に向けて歩みをはじめているFRBは利上げとともにバランスシート縮小も進めることが予想されている。保有証券縮小計画については9月のFOMCで決定される可能性が高い。そして年内あと一回の利上げは12月のFOMCで決定されるとの予想になっている。

 27日にポルトガルで開催されたECBの年次政策フォーラムで、ECBのドラギ総裁は景気回復に即した緩和策の調整、つまり景気が順調に回復するのであれば、緩和効果を一定に保つための利上げの可能性を指摘した。つまりECBが年内にも理事会で利上げを検討する可能性が出てきた。ただし、いまのところ具体的な日程が示されているわけではない。

 イングランド銀行のカーニー総裁も同フォーラムで、中銀は利上げを実施する必要が出てくる可能性があり、金融政策委員会(MPC)はこの件について向こう数か月以内に討議すると述べていた。MPCでフォーブス委員だけが利上げを主張していたが、前回からマカファーティー、ソーンダーズ両委員が利上げ派に加わった。さらにチーフエコノミストのアンディ・ホールデン理事からも政策引き締めを遅らせ過ぎることのリスクが高まっているとの認識が示された。年内のMPCは8月、9月、11月、12月に予定されている。やはり9月と12月のMPCに特に注意したい。

 イングランド銀行にとっては英国のEU離脱による影響も危惧されようが、それによるポンド安と物価高も無視できなくなりつつある。ユーロ圏については金融機関等への問題やギリシャの財政問題等も残るが、少なくとも金融危機のリスクは後退というか沈静化したというのが、共通認識となっているのではなかろうか。

 いわゆるBISビューで正常化に向けた議論が行われていた意味は大きいように思われる。6月29日〜7月2日の日程でスイスのバーゼルで開かれた国際決済銀行(BIS)国際会議には日銀からは中曽宏副総裁が出席していた。正常化向けた動きに取り残されている日銀が今後、どのような動きをみせてくるのかも注目したい。


2017年7月7日「日銀は長期金利の上昇に対し指し値オペで阻止、これは何のため?」

 7月7日に日本の10年国債利回り(長期金利)は0.105%に上昇した。これを受けて日銀は指し値オペを実施し、これ以上の長期金利の上昇を阻止した。なぜ日本の長期金利が上昇し、それをどうして日銀が押さえ込む必要があったのか。まずは日本の長期金利上昇の背景から見てみたい。

 27日にポルトガルで開催された欧州中央銀行(ECB)の年次政策フォーラムで、ECBのドラギ総裁は景気回復に即した緩和策の調整、つまり景気が順調に回復するのであれば、緩和効果を一定に保つための利上げの可能性を指摘した。

 FRBが正常化に向けた歩みを進めるなか、英国の中央銀行であるイングランド銀行も利上げ向けた討議を進めるとされ、カナダ銀行(中央銀行)も利上げの可能性を指摘するなど欧米の中央銀行が正常化に向けた動きをみせはじめた。そのなかにあって正常化とは距離があるとみられたECBも緩和バイアス解除を意識させる動きを見せ始めたのである。

 6日に公表された6月のECB理事会の議事要旨では、必要に応じて資産買い入れを拡大するとの従来の文言について当局者が削除することを協議していたことが明らかになった。これに伴う市場の混乱を強く警戒し、行動を急がない公算が大きいとも指摘してはいたが、ECBの方向性は追加緩和にはないことがはっきり示された。

 欧米の中央銀行が正常化に向けて舵を切りつつあり、これを受けて欧州の国債利回りが上昇し、FRBが利上げを行っても反応の鈍かった米国債利回りも欧州国債の利回り上昇を受けてあらためて上昇しはじめた。

 ECB理事会の議事要旨の内容受けて、7月6日のドイツの10年債利回りは0.56%に上昇した。6月22日には0.25%近辺にいたことから、そこから倍以上の利回り上昇となった。フランスの10年債利回り0.91%と6月26日には0.60%近辺にいたがこちらも一気に上昇している。英国の10年債利回りも1.31%と6月20日頃は1%近辺にいたがそこから0.3%程度の上昇となっていた。この欧州の国債の売りは米国債にも波及し、米10年債利回りは6日に2.36%に上昇した。米10年債利回りも6月26日に2.13%近辺におり、ここから欧州の国債利回りと一緒大きく上昇していた。

 この海外での金利上昇を受けて7日の日本の10年債利回りは0.105%に上昇した。これにどう日銀が対処するのかが注目された。

 今年2月3日に市場は日銀の長期金利コントロールのゼロ%の範囲を探るような動きを見せ、通常の国債買入での増額がなかったことを確認後、10年債利回りは0.150%まで上昇した。これに対し日銀は変則的な時間帯の12時半に(オペタイムは午前は10時10分、午後は通常14時)指し値オペを実施した。その水準が10年債利回りの0.110%となっていた。

 7日に10年債利回りは2月3日の指し値オペの水準に接近したことで、日銀は10時10分という通常の時間帯で予定通りに長期と超長期ゾーンのオペをオファーし、その際に5年超10年以下のオファー額をこれまでの4500億円から5000億円に増額した。市場はこれはある程度予測していたようである。指し値オペについては見方は可能性は薄いかとの見方が強かったように思われる。

 ところが日銀は通常のオペと同時に固定利回り方式での残存期間5年超10年以下の国債買入もオファーした。つまり天下の宝刀といえる「指し値オペ」である。固定利回較差は0.015%。この結果、10年利付国債347回の買入利回りは、0.110%となった。つまり日銀としては0.110%が絶対防衛ラインということを示した格好となった。。

 この日の10年債利回りで0.110%はつけていたわけではなく、今回は2月3日の実弾(10年債利回り水準が0.140%近辺となっていた)ではなかった。通常オペで増額した上にストッパーも入れてきた。ただし、利回り水準がそこまで上がっていなかったため、応札する業者はいなかった。まさに来るなら来い的なオペレーションといえた。

 これを受けて10年債利回りはいったん0.085%に低下した。しかし市場も慣れてきたのか、昨年11月や今年2月の指し値オペほどのインパクトはない。ある程度、この日銀の動きは想定されていたともみられる。ただし、外為市場ではこれをみて日銀と欧米の中央銀行の金融政策の方向性の違いが意識されて、ドル円は一時114円台をつけていた。

 しかし、欧米の中央銀行が緩和バイアス解除に向かうなか、頑なに異次元緩和に固執する日銀の姿のほうが異様にみえる。長期金利をここで止めて、どのようにして物価が上がるというのであろうか。債券市場の機能喪失と引き換えに長期金利コントロール含めた異常な緩和策を進める日銀に対して、疑問を感じる人達も次第に増えつつあるように思われる。

 今回日銀が0.110%で指し値オペを入れたのは、2月3日の同水準とすることで長期金利のコントロール範囲の上限は0.110%であることを市場に意識させようとしたものとみられる。むしろ、ここで行動を取らなければ市場は日銀も緩和バイアス解除を意識しているのではと勘ぐってしまうことを恐れた可能性もある。しかし、これはつまり日銀だけが正常化に向けた動きから取り残されることになる。

 日銀が物価目標を達成していない以上は当然だ、とのご意見がもしかするとあるかもしれない。しかし、日銀は異次元緩和で物価そのものを簡単な動かせないことを4年以上掛けて示してきた。欧米の物価も目標値に届いていないケースもあれど、2%近くにいることは確かである。ただし、これは欧米の中央銀行の金融政策に追うところというよりも、そもそも欧米の物価は2%近くに収斂しやすく性質がある。それが日本の消費者物価指数では2%ではなくゼロ近傍にある。

 デフレ脱却云々の前にこういった物価指標の性格も意識しなければならず、少なくとも日銀が長期金利を0.110%に押さえつければ、消費者物価指数が2%に上昇するという理屈は成り立たない。これにより債券市場の価格発見機能はますます失われ、取引量の減少や既存の市場参加者の退出という形で機能度の低下に繋がっている。押さえつける意味があまりないにも関わらず、海外の長期金利の上昇ばかりでなく、3日の日銀短観などをみても本来、ある程度上昇するのが自然に見えるき長期金利を無理矢理抑えて、日銀は何をしたいのか。あらためて問いたい。


2017年7月7日「日銀 vs 債券市場参加者」

 日銀で行われた第5回「債券市場参加者会合」の議事要旨が5日、日銀のサイトにアップされた。この中から市場参加者による「債券市場の機能度・流動性についての見方」を見てみたい。

 「イールドカーブ・コントロールの導入以降、長期ゾーンを中心にボラティリティが低下し、価格変動に対する安心感が広がっている。」

 最初はひとまず日銀の政策の効果について好意的な意見が載せられているが、

 「ボラティリティの低下は、一見機能度改善にも見えるが、実際には取引量の減少や既存の市場参加者の退出という形で機能度の低下に繋がっている。」

 こちらが本音の部分といえよう。取引量の減少も無視できないが、既存の市場参加者の退出は、今後の市場の大きな不安要因となりかねない。

 「現在の市場は、日本銀行のコントロールの下で安定しているが、金利水準もボラティリティも極端に低い市場環境の下で、これまでの日本国債のプレーヤーが市場から退出するなど、参加者層が薄くなっている。」

 金融市場への直接参加者は金融業界全体からみるとそれほど多くはない。しかもここでは経験が重要な要素となる。日銀の異次元緩和は債券市場の参加者を減らすばかりか、金利が動くという経験もさせなくさせている。このため下記のような意見も出ている。

 「中長期的に金利を市場に委ねるとなった際に、市場参加者の厚みが足りないが故にボラティリティが急に上昇することを懸念。参加者層の厚みや多様性も市場機能の一つだと思うので、引き続き留意して欲しい」

 今の日銀にとって金融政策の正常化の動きは「他人事」かもしれないが、政権の行方等次第で状況も変わりうる。また、何かのきっかけで金利が大きく動く懸念は現在の日銀のコントロール下であっても存在する。

 「良くコントロールされていると思うが、一方で債券市場の価格発見機能は失われている。株価は上昇し、日本経済の状況も良くなっているなかで、長期金利が殆ど反応しないという状況は健全ではない。」

 このあたりの歪みも知らず知らずに蓄積されている可能性がある。価格発見機能は失われているのではなく、日銀が力尽くで見せなくさせているだけである。

 「現状、市場機能が低下しているとすると、調節運営のなかでもう少し変動幅を許容するようにしないと、実際にマーケットで金利が動き始めた際に市場が対応できないのではないかと危惧している。」

 少しでも市場参加者の経験を積み上げることも大事であり、日銀もある程度、長期金利の変動幅を許容したほうが、マーケットの機能は多少なり回復しよう。日銀はマイナス金利を残したいのであれば、長期金利の目標値をもう少しフレキシブルにしてプラス0.5%あたりまで許容するなりすれば、債券市場の機能がある程度改善してくるのではなかろうか。本来市場に委ねていたはずの長期金利である以上、変動幅の許容範囲をある程度大きく持っても問題はないのではなかろうか。それが今日の日銀の国債買入等で試される。


2017年7月6日「北朝鮮のICBM発射実験による地政学的リスクの行方」

 7月4日に北朝鮮は、弾道ミサイル1発を日本海に向かって発射し、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験に成功したと発表した。ミサイルは核弾頭が搭載可能で3段式とみられ、核弾頭爆発装置の大気圏再突入に成功したとした。

 北朝鮮がICBMの発射実験に成功したとなれば、レッドラインを越えたとの見方もでき、朝鮮半島で緊張が高まり、再び地政学的リスクが意識される。ただし、米政府がすぐに軍事作戦に踏み切るような可能性はいまのところ低く、当面はさらなる制裁の強化など外交的な努力を続ける方針とされている。週末にはドイツでG20首脳会議が予定されている。

 ただし、今回の北朝鮮によるICBMの発射実験の成功は、日本や米国だけでなく、当然ながら韓国にも影響を与えよう。

 ムン・ジェイン大統領は先日の米国のトランプ大統領との会談で、北朝鮮に自制を求めていたが、全くの徒労に終わった格好となる。ムン・ジェイン大統領は北朝鮮との融和を求めているようだが、それがいかに困難なものであるのかが示された。

 北朝鮮によるICBMの発射実験の成功は、隣接する中国やロシアにとっても全く無視できるものではない。こちらも緊張が高まる可能性がある。ドイツでG20首脳会議ではトランプ大統領とプーチン大統領の初めての会談も予定されている。

 北朝鮮によるICBMの発射実験はいずれ行われるであろうとの見方は出ていた。それによって米軍が直ちに軍事行動を起こすことはないとの認識も強かったようで、いまのところ金融市場への影響、たとえば地政学的リスクの増大によるリスクオフのような動きは限定的なものとなった。

 ここにきての市場の注目材料としては、正常化に向けた動きを示し始めた欧米を中心とした中央銀行の今後の金融政策の行方となっている。イングランド銀行やECBは本当に正常化は可能なのか。正常化に向けた動きはかなり慎重になることも予想されるが、それでも欧米の国債利回りが上昇基調となっており、こちらの動向に注目が集まっている。

 もし今後あらためて朝鮮半島の緊張が高まるようなことになれば、リスクオフ、つまり欧米の国債などは買い戻しの動きを強めることが予想され、その動きは日本国債にも多少ながら及ぶ可能性がある。ただし、いまところは欧米の国債利回り上昇に応じる格好で日本国債はやや売られている。ドル円もひとまず113円台で落ち着いた動きとなっているなどリスクオフの動きは見えていない。


2017年7月5日「都議選受けての安倍政権の行方が日銀にも影響か」

 7月2日の東京都議会選挙の結果は、小池知事の支持勢力が79議席を獲得し圧勝となった。自民党は選挙前の57議席から23議席となり、歴史的な敗北を期した。都知事選の勢いにのって新党を立ち上げ、新人候補を中心に大量の当選者を獲得するというパターンは、今年のフランスの大統領選挙でのマクロン氏の勝利とその後の国民議会(下院)選挙でマクロン大統領の新党「共和国前進」グループが大勝した流れにも通じる。

 都議会議員選挙の結果がそのまま国政選挙にも影響するのか。今回の都議選を見る限り、受け皿さえあれば安倍一強と言われた安倍政権を揺るがす可能性があることを示した。現在の自民党政権の強さは、野党の敵失の面も大きく、野党よりもまだましな政権なのでとの認識も強いための支持ではなかろうか。しかし、ここにきてその支持率も低下基調となっており、都議選の結果がその傾向を顕著に示すことになった。

 今後は安倍政権の求心力の低下により、じわりじわりと影響が出てくることが予想される。安倍政権の支持率低下が自民党の支持率低下に影響を及ぼすことになれば、自民党内で対策を講じる必要性が意識されるかもしれない。フランスで若手の大統領が出たように、日本でも若い首相の誕生を期待する声も上がるかもしれない。あくまでいまのところは憶測に過ぎないが。

 今後の安倍政権の求心力の低下が金融市場にどのような影響を及ぼすのか。安倍首相は都議選の結果を受けて、初心に帰ると発言していた。まさか2012年11月の輪転機発言に戻るわけではないと思うが、新アベノミクスを掲げるのではないかとの期待もあるようである。

 すでに日銀は使えそうなあらゆる手段を講じてしまった。ここで政権による意向でさらに強力な金融緩和策を依頼されても、それに答えることは難しい。マイナス金利の深掘りもできなくはないが、旗艦の長い国債利回りが再びマイナス化してしまうと、以前に増しての金融機関からの反発が予想される。国債をさらに大量に買い入れることも数字上はありうるとしても現実的ではない。それ以前に、あれだけの緩和をしておきながら、物価目標達成がいっこうに見えない原因についてしっかり説明しなければ、追加緩和の必要性を納得させられまい。

 それでは金融政策がだめなら財政政策か。国債残高が1000兆円に膨れあがったのは何が要因だったのか。これは特に自民党政権下での度重なる経済政策による影響が大きかったはずであり、社会保障費の抜本改革を進めなかったことによるものではなかったのか。

 ここでさらなる財政政策を講じるのであれば、かなり効果的なものを打ち出さなければ、日本の財政悪化による悪影響の方がクローズアップされる懸念がある。いずれにしても新アベノミクスというよりも、当初のアベノミクスが何であり、その効果が具体的にあったのかを立証する必要も出てこよう。

 安倍政権の求心力が落ちるとなれば、日銀にとっては突貫工事で作り上げたバベルの塔のような金融政策、「長短金利操作付き量的・質的緩和」を調整するチャンスなのかもしれない。欧米の中央銀行も出口に向けて歩き始めており、日銀も早めにリフレ的な発想を排除し、より現実的な政策に戻し、市場と向き合う必要があるのではなかろうか。


2017年7月4日「FRBの物価目標のPCEデフレータ、5月はプラス1.4%」

 6月30日に発表された5月の米個人消費支出(PCE)コアデフレータは、前年比プラス1.4%と5月のブラス1.5%から縮小した。これによる米債への影響は限られた。FRBのイエレン議長がここにきての物価の低迷は一時的との発言も影響していたためとみられる。

 FRBの物価目標(正確には目安か)は、市場が注目しているPCEの食料とエネルギーを除いたコアデフレータではなく、総合指数の方である。ただし、こちらも5月分は前年比プラス1.4%となっていた。今年に入ってからの総合とコアのPCEデータは下記の通り(1月から5月分)。

PCE               1.9 2.1 1.8 1.7 1.4
PCE, excluding food and energy 1.8 1.8 1.6 1.5 1.4

 米商務省が発表している個人所得(Personal income)、個人消費支出(Personal consumption expenditures)、PCEデフレータ(Personal Consumption Expenditure Deflator)についてもう少し説明を加えてみたい。

 これは米国の個人の所得と消費について調査した指標であるが、このうち個人所得とは、社会保険料を控除し実際に個人が受け取った所得のこととなる。この個人所得は消費動向を決定付ける大きな要因ともみられている。賃金給与・賃貸・利子配当等といった所得の構成項目や、可処分所得・貯蓄率なども同時に発表される。

 個人消費支出(PCE)とは1か月間に実際に米国の個人が消費支出した金額について集計したものであり、米国のGDPの7割を占める個人消費の動向は米経済にも大きな影響を与えることで注目されている。特に名目個人消費支出の前月比などが注目される。

 名目個人消費支出(名目PCE)を実質個人消費支出(実質PCE)で割ったものが、個人消費支出(PCE)物価指数もしくはPCEデフレータと呼ばれるものであり、これも同時に発表される。PCEデフレータ変化率がプラスであれば物価上昇、マイナスであれば物価下落と捉える。

 特に価格変動が激しいエネルギーと食品を除いたものを「コアPCEデフレータ」と呼び、FRBが物価指標の中で最も重要視している指標のひとつとなっている。その理由としては消費者物価指数に比べて、バイアスが生じにくいためといわれている。 FRBはコアPCEでみた物価見通しも公表している。

 実は日銀の物価目標も当初は消費者物価指数の総合の前年比での2%であったが、展望レポートでの予測は消費者物価指数(除く生鮮)、つまり日本版コア指数で行っていた。2016年9月の長短金利操作付き量的・質的金融緩和を決定、物価目標を総合からコアに置き換えて統一させている。

 ということで今後のPCEデフレータがイエレン議長の言うように一時的なものなのかによっては今後の利上げスケジュールに影響を与える可能性もある。ただし、その数値が常に2%を超えていなければ利上げは無理というのではなく、2%近くにいれば利上げの支障とはならないとみられる。


2017年7月2日「日銀の政策リスクは出口にあるのではなく出口がないこと」

 6月30日に発表された5月の日本の消費者物価指数は総合で前年同月比プラス0.4%となった。日銀の物価目標となっている生鮮食料品を除く総合(コア)でも前年比プラス0.4%となっていた。ちなみに生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコア)と、エネルギーまで除いてしまうと前年比プラスゼロ%となっていた。

 日銀は原油先物の下落による物価低下圧力を意識するあまり、基調的なインフレ率を捕捉するための指標(速報)として消費者物価指数の「除く生鮮食品・エネルギー(新コアコア)」を独自に算出しているが、原油価格の上昇分が反映されるようなことになると、むしろ原油価格が回復すると、前年比では上昇幅が失われてしまう結果となる。

 これをみるまでもなく、日本の消費者物価指数はエネルギー価格に影響を受けやすい。もちろん外為市場の動向の影響も受ける。それらの影響を除いてしまうと結局はゼロ近傍に収斂しやすい性質を持っていると見ざるを得ない。

 日銀は1999年にゼロ金利政策、2001年に量的緩和政策、2006年にいったん量的緩和とゼロ金利政策を解除するが、2010年に包括緩和政策、2013年にはこれまでの緩和策は踏み込み不足とばかりに量的・質的緩和、2014年にはその拡大、2016年2月にはマイナス金利政策も加え、9月には長期金利操作も加えて、長短金利操作付き量的・質的緩和政策を打ち出してきた。

 その間の消費者物価指数の変遷をみると、途中の上げ下げはあったものの、ほぼコアCPIの前年比はゼロ近傍で推移している。特に2013年の量的・質的緩和導入以降、マネタリーベスや日銀の国債保有額は大きく増え続けているが、それがCPIに影響しているとは考えられない。

 物価は上がらなくても雇用環境は改善され、景気も回復基調を続けていることでアベノミクスは成功しているとの意見もある。しかし、アベノミクスの唯一の柱というべき日銀の異次元緩和は物価に影響を与えていない。物価改善ありきでの景気回復ではなかったのか。国民にとっては物価が上がらずに景気や雇用が改善してくれたほうがありがたい。ここには賃金が上がらないという問題も出てこようが、金融政策で賃金がどうにかなるものでもあるまい。

 欧米の中央銀行が出口に向かいはじめているなか、日銀は2%の物価目標達成という看板を掲げてしまったことにより、身動きがとれなくなっている。物価目標を達成した際に日銀の財務状態が心配だとの意見もある。しかし、そもそも金融政策で物価は動かせないことを見事に証明してしまったが、それも認めることは当然できず、とにかくがむしゃらに、付け加えられるものを付け加えてしまったバベルの塔のような政策を続けて行くしかないということにリスクはあるまいか。日銀の政策リスクは出口にあるのではなく、出口がないことにある。


2017年7月1日「日本の物価が日銀の目標2%に届かない理由」

 今回、講演用の資料を作るため日本と米国の消費者物価指数のデータをエクセルに入れそれぞれを比較するグラフを作成してみた。日銀とFRBの物価目標との比較をしてみたかったこともあり、日米ともにコアと呼ばれる指数で比較した。

 注意すべき点として、日本のコアCPIは値動きの大きな生鮮食料品を除いたものであり、米国のコアCPIは食品とエネルギーを除いたものであるという違いがある。また、日銀とFRBの物価目標は、日銀がコアCPIそのものであるのに対し、FRBはPCEデフレーターであるという違いもある。

 ここではあくまで日米の物価の動きのクセのようなものを見るために比較してみたのである。手元のデータが2004年1月以降であったため、もっと長いスパンの分析とはならなかったが、それでも過去13年以上のデータの比較となった。

 これにより一目瞭然なのが、米国のコアCPIが2004年から2017年にかけて、途中の上げ下げはあってもいずれ前年比で2%あたりに収斂するというものであった。これに対し日本ではゼロ近傍に収斂していることがわかる。

 データを見ると、2004年1月から2017年4月までの日本のコアCPI前年比は最大値でプラス2.4%、最低値でマイナス2.4%、平均は前年比0.0%となっていた。それに対して米国は最大値でプラス2.9%、最低値でプラス0.6%、平均値で1.93%とほぼ2%となっていた。念のため、これは無理矢理数字を揃えたいので2004年以降にしたわけではない。

 日銀が政府の意向も汲んで物価目標をCPIの前年比で2%に設定したのが2013年1月であり、同年4月に量的・質的緩和を決定し、2年程度で物価目標を達成するとした。しかし、その目標は達成されずゼロ近傍にいるのは何故なのか。  それは中央銀行の金融政策に関わらず、原油価格や外為市場などの動向により多少の上げ下げはあっても日本の場合はコアCPIはゼロ近傍に収斂してしまう性質がある。それは米国では2%であった。そもそも設定目標に無理があったのではなかろうか。  2006年に日銀が量的緩和政策の解除にあたって条件としたのが、消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるとしていたが、この数字こそ今振り返っても適切であったように思われる。  だからこそ長きにわたるデフレを退治するため日本の物価の水準を無理矢理にでも2%に引き上げて欧米並みにすべきという意見もあるかもしれない。しかし、そもそも日本の消費者物価指数は帰属家賃等もあり、簡単には水準修正は難しいし、一時的に上昇しても消費者物価指数の構成等を変えない限りはゼロ近傍に収斂してしまう。それを日銀のマネタリーベースの増加とか長期金利の低下で動かせるものではない。2004年から2017年にかけては日銀の緩和策が実験場のように繰り返されたが、消費者物価指数はびくともしていない。これは実は米国の物価も同様であった。日銀にとっては物価目標の達成はいつになっても見通せないのは、金融政策で物価は引き上げられない上に、現在のゼロ%近くの低成長下では物価もゼロ近傍となってしまうためであろう。


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