. 若き知
2019年11月22日「FRBは利下げ停止を示唆、本当に停止はできるのか」

 FRBは20日、10月29、30日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨を公表した。この会合では政策金利のフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を1.50〜1.75%に0.25%引き下げることを8対2で決定した。

 7月、9月に続く3会合連続の利下げとなったが、議事要旨によると利下げの理由としては、景気下振れリスクに保険をかける必要があるとしていた。しかし、今後の政策金利は「景気見通しが大幅に下振れしない限り(現行水準が)継続される可能性が高い」と判断したとある。

 金融緩和はすでに十分で、これまでに実施した利下げの効果を見極めるべきだとして、利下げに反対した委員が複数いたようで、これは投票権をもない地区連銀総裁も含まれるとみられる。

 結果として、予防的な利下げはここでいったん停止し、その後は様子をみるというスタンスに変更したようである。

 米国株式市場の動きをみると11月に向けて主要株価3指数は上昇基調となり、過去最高値を更新するなどまさに絶好調といえる。これは米中の通商交渉の進展期待もあってのリスクオンの動きでもあったが、米雇用統計などからみても米国景気は思いの外しっかりとの認識も背景にあったかと思われる。

 ドイツなどでは懸念されたリセッションはひとまず回避され、日本も低速飛行ながらもプラス成長は維持している。

 とはいえ、想定以上の経済成長というわけではなく、米株などは期待で買われている側面もある。その期待のひとつとなっている米中の関係については、裏切られる公算も高まってきている。これまで繰り返されていたことではあるが、米国が半ば脅しをかけるようなかたちでディールを迫っても、中国がそう簡単に折れることは考えづらい。トランプ政権内にいる強行派が最後にまたちゃぶ台返しを薦める懸念も十分ありうる。

 英国についても総選挙の結果次第ではあるものの、総選挙を行うことでEU離脱がスムーズに行くという可能性が出るとは限らない。離脱を諦めるというのであれば、話は変わってこようが、そうでなければ、アイルランドの国境問題など完全に解決する道はみえてこない。

 世界経済の行方については安定成長が続くとの見方がもっとも可能性は高いのかもしれない。しかし、政治の混乱が市場を脅かし、再びFRBの利下げを政府と市場が要求してくるという構図は今後も十分ありえる。そうなると現在のFRBは断固拒否はできなくなるではなかろうか。FRBが利下げを停止したくとも、果たして環境が許すかどうかは不透明である。利下げで市場マインド以外、何かが変わるとも思えないのではあるが。


2019年11月21日「社債の発行額が過去最高額に迫る」

 今年の社債発行は9月までに10兆円を超えており、1998年の14兆円の年間記録更新が視野に入ってきている。1997年に起きた金融不安などから銀行による貸し渋りが起きたことなどから、1998年の社債発行額の増加となった。しかし、ここにきての社債の発行額の増加は、日銀のマイナス金利政策による金利の低下そのものが要因となっている。

 投資家からすればすでに10年を超える期間の国債利回りがマイナスに転じており、少しでもプラスの利回りが残る社債へのニーズが強まる。発行体からすれば超低金利での資金の借り入れが可能となる。

 今年は日清製粉グループ本社や東海カーボンなど初めて社債を発行する企業も出てきたそうである。社債を発行するには格付けを取る必要があるが、高い格付けを取得できれば低金利で社債が発行できるだけでなく、企業価値が外部から見やすくなるとともに、銀行の借り入れがしやすくなるなどの利点も得られる。

 また、50年債などなるべく長い期間の社債も発行されている。これは社債を発行する側にとってたとえば50年もの長きにわたり低金利で資金を借り入れられることになる。設備投資計画などによっては資金繰りの面ではかなり楽になる。社債の購入者にとって期間の長い債券は通常は短いものより期間リスクがあるので金利が高い。ほとんど金利が得られないなか、そこそこ高めの金利はほしいところとなろう。

 国債発行においても50年国債や60年国債などの発行も検討課題となろう。また、なるべく長めの金利を引き上げたい日銀にとっても50年国債の発行による影響なども意識はしているとみられる。しかし、国債発行については前倒し発行額がすでに50兆円を超えており、50年債の発行などよりもこちらをどのようにコントロールしていくのかも課題となっているのではなかろうか。


2019年11月20日「トランプ氏、FRB議長とマイナス金利も協議?」

 米国のトランプ大統領と米国の中央銀行にあたるFRBのパウエル議長が18日午前にホワイトハウスで会談した。会談はパウエル議長就任以降、今年2月に続き2回目。会談にはムニューシン財務長官も出席したそうである。

 日本でも安倍首相と黒田総裁が会談をすることがある。今年は2月と9月に首相官邸で行われていた。9月の会談後、黒田総裁は記者団の質問に答えるかたちで「私の方から従来申し上げていることを繰り返し、特別総理から話はなかった」とし、マイナス金利の深掘りの報道についても「そういうことは何も話していない」と語っていた。

 今回のトランプ大統領とパウエル議長の会談では、トランプ氏は「金利やマイナス金利、低水準のインフレ、金融緩和、ドル高と製造業への影響、中国や欧州連合(EU)との貿易などすべての問題について協議した」と述べたそうである。

 これに対して、パウエル議長は会談で「金融政策の先行きについては協議せず、政策の道筋はもっぱら今後入手される経済見通しに関する情報に基づくと強調した」という。さらに、トランプ大統領に示した見解は先週行った議会証言と「一致する」内容になったとも(ロイター)。

 どのような会話がなされたのかは当事者でなければわからないが、両者ともに一方的に話しをして、相手の話を一応頷きながら聞いていたのではなかろうか。さすがにFRB批判を繰り返しているトランプ大統領もあからさまに本人の前での批判は避けたのではなかろうか。トランプ氏がマイナス金利政策も通貨安のために必要だという話をしても、パウエル議長は大人の判断から無碍な否定をせず聞いていたという構図ではなかろうか。

 二人が会ったからといって関係性が変わるとは思えない。トランプ大統領は今後さらにFRB批判を強めることが予想され、パウエル議長はよほどのことがなければ利下げはいったん停止してくると予想される。

 今回のこの二人の様子をみて、中国と米国の通商問題についても、結果として同様の状態になるのではないかと危惧した。結論としてお互いの主張を曲げることはなく、安易な妥協は許さずとなれば、交渉が進展する可能性が本当にあるのであろうか。


2019年11月19日「大口注文を前に自らの注文を入れてしまう取引手法はいかがなものか」

 むかしむかし、株や債券の取引は人と人が行っていた時代があった。1980年代後半のバブル時代の動画にはよく東京証券取引所が映し出されていた。大きなホールにたくさんの人がいて紙吹雪が飛んでいた。これは東証のフロアーで証券会社の場立ちと呼ばれた売買担当者、その場立ちの注文を受ける実栄証券の担当者、そしてそれらの取引をチェックしている東証の担当者で構成されていた。

 証券会社の場立ちは支店などで受けた注文を執行する。ホールは罵声が飛びあい、大きな声を出してもなかなか通じない。このため手のサインで株の銘柄と数量を実栄証券のその担当者に伝える。これらの注文を照らし合わせて約定を行い約定が成立すると、東証の担当者がそれを確認し、外部に伝えられる。たぶんこんな仕組みではなかったかと思う。

 実は私も場立ちと同じ仕事をしていたのだが、債券市場は株式市場とは売買方式がやや異なっていた。取引所の債券取引で最も頻繁に売買されているのが、債券先物と称される長期国債先物であった。その売買方式は、私のような証券会社や債券先物の取引には準会員として参加できた銀行の担当者が、東証と直接繋がっている黒電話で注文を出す。取引所で注文を受けるのが実栄証券の担当者で、その実栄証券の担当者が扇形の階段形式のフロアーで直通黒電話の前に座り、受けた注文を扇方の要の位置にたっている取引所の担当者に伝えその注文を板に並べ、約定が成立する。

 この時代、証券会社には大手四社の存在力が大きかった。株式のフロアーでは、法人などの大口注文が来ると、場立ち達はそれをいち早く感じ取り、その注文の前に同様の注文を出して、大口注文が来たところで利食うといった短期のディーリングも行われていた。証券会社の担当者には委託注文を受けずに自己の判断で会社の資金で売買を行うものもいたことで、そのような取引も可能となっていた、もちろんそのようなさや取りばかりやっていたのではなく、相場勘とともに場の状況を見ながら売買を行って一定の売買益を稼いでいた。

 債券先物にも同様の短期のディーラーがおり、私もその一人であった。ただし、債券先物は黒電話でしか売買は出せない。このため、大口注文の前に自分の注文を出すようなことは難しかった。もちろんそんな手段だけでは安定した利益は出せないので、これは値動きなどから相場勘を磨くのが先決となっていた。

 債券の取引では現物債取引もあり、こちらは取引所よりも日本相互証券での売買が主流であった。こちらも直通電話を使って売買を行っていた。こちらも大口注文の前に自分の注文を入れるといったことはできなかった。ただし、証券会社の担当者は自己だけでなく委託注文も受けることがある。特に大手銀行から大きな委託注文が入るところもあり、知り合いの証券会社の担当者は、自分のポジションと反対の大口委託注文が入った際、自分の注文を相殺ドテンしたあと、大口の委託注文を入れたことがあると聞いたことがある。これは異例中の異例ではあった。

 これらはいまは昔の話である。いまは債券も株も取引はコンピュータ上で行われている。そのなかにあって、大口注文を前に自らの注文を入れてしまう手法があるという。それもひとつの手法であり、超高速で売買を繰り返すHFT(ハイ・フリークエンシー・トレード)という取引もそういった鞘狙いのものであろう。相場は相場勘で儲けるべきものであり、私はHFTみたいな取引で儲けるという手法は好きではない古い人間である。


2019年11月18日「10月30、31日開催の金融政策決定会合における主な意見より」

 10月30、31日開催の金融政策決定会合における主な意見が公表された。今回はこのなかから気になるところをピックアップしてみたい。

 金融経済情勢に関する意見の最後に下記のような意見が出ていた。

 「世界の投資家が少しでも利回りの高い債券を買い増すことで、世界的な低金利のスパイラルが起きていると考えられ、今後も金利の低下傾向が続く可能性がある。」

 たしかに決定会合が開かれた10月31日に債券先物は154円台に買い戻されていたが、10月に入ってからは日米欧の超金利ともに上昇してきており、チャート上からは大きな低下トレンドが終了しつつある。今後はむしろ特に長いところの金利は回復傾向に入る可能性がでてきている。

 物価については下記の意見が現実の見方に近いのではなかろうか。日本の消費者物価指数の前年は縮小傾向にあり、これをしっかり認識する必要がある。もちろんこれで追加緩和が必要と主張したいわけではない。

 「プラスの需給ギャップが物価上昇を支えているが、プラス幅は縮小している。経済の下振れリスクの顕在化によりプラス幅が一段と縮小するリスクに留意が必要である。」

 下記のような比較的素直な意見も出ていた。この意見にも同意である。

 「長短金利操作の導入以降、デフレに陥らないという意味では物価のモメンタムは維持されているが、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムが維持されているとは言えない。」

 そして、金融政策運営に関する意見では下記のような意見が出ていた。

 「長期金利が現状程度で長期間継続する場合、国民ニーズが高い終身保険や年金保険などの商品の提供を維持することが困難となり、生命保険業界としての社会的使命を果たせなくなる可能性がある。」

 「年金や投資信託は、円債運用において、金利が0.1%低下すると数百億円の収益減になる可能性がある」

 長期金利の低下による具体的な副作用に関する指摘である。日銀は追加緩和策として短期の政策金利の深掘りを考えているようだが、それは結果としてイールドカーブ全体のフラット化を招きかねない。国債買入での調節を行っても効果は一時的となろう。このため日銀の利下げによって長期金利も低下してくる可能性が高い。

 最初に指摘したが、日本を含めて欧米の長期金利はここにきて上昇トレンドに転じた可能性が出てきた。この背景には日米欧の中央銀行の緩和策に対する限界が意識されている。市場がそう認識し、長期金利が自然体で戻してくるのであれば、無理に日銀は緩和姿勢を強めるのではなく、長期金利の上昇をある程度容認することで、長期金利操作を含めた政策余地を拡げることも必要ではないかと思う。


2019年11月16日「FRBのパウエル議長は利下げ停止を示唆」

 FRBのパウエル議長は13日、上下両院合同経済委員会で証言し、トランプ大統領が求めるマイナス金利は持続的な成長や強固な労働市場、安定的なインフレを備える米経済にとって適切ではないと述べた(ロイター)。

 米経済にとってというあたりは、すでにマイナス金利政策を取っている欧州や日本に配慮したのかもしれないが、その欧州や日本でもここにきて景気の減速感は出ているものの、景気はそれほど悪化しているわけではなかった。

 また、14日、パウエル議長による下院予算委員会での証言では、「緩やかな成長の継続というのがわれわれの見通し、および期待だ」と指摘。「米経済はここ最近、スターエコノミーだ」とし、「リセッション(景気後退)の可能性が現時点で高まっていると考えられる理由は一切ない」と述べた(ブルームバーグ)。

 ずいぶんと強気の発言である。たしかに米国経済は欧州などと比較してリセッションに陥る可能性は現状低いといえる。かといってスターエコノミーと呼べるほどしっかりしているのかといえば、不安要素も多い。最も不安視されているのが米中の関税合戦ということになるのであるが。

 今回のパウエル議長の証言で最も注意すべきことは、景気拡大が続く見通しを示した上で「現在の金融政策が適切だ」とし当面の利下げ休止を表明したことかである。

 ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁も14日に講演で、突然の景気悪化がなければ、追加利下げは必要ないとの認識を示した。金融政策の効果が出始めるまでに1年かかることもあるため、FRBは長期的な視野で見ていると述べていた。これはパウエル議長の利下げ停止示唆をフォローしていたとみられる。

 このようにFRBは12月のFOMCでは利下げは行わず、現状維持とすることを念頭に置いているとみられる。しかし、もし米中の通商交渉がこじれたりして金融市場が動揺するようなことがあれば、追加利下げを検討せざるを得なくなる可能性は残る。


2019年11月15日「日本の7〜9月期のGDPはかろうじてプラスに」

 内閣府が14日に発表した2019年7〜9月期の国内総生産(GDP)速報値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比0.1%増、年率換算で0.2%増となった。4四半期連続のプラス成長となったものの、伸び率は予想を大きく下回った。

 個人消費は前期比で0.4%増え、2四半期連続のプラスとなったが、これは10月からスタートした消費増税前の駆け込み需要による影響が大きいとみられる。設備投資は0.9%増となり、4〜6月期の0.7%増から伸びていた。

 輸出は0.7%減となり2四半期ぶりに減少した。中国向けを中心にアジア向け輸出が弱かったこともあるが、サービスの輸出に算入される訪日外国人の国内消費が日韓関係の悪化などで減ったことも影響か。

 ただし、観光庁のサイトにアップされている訪日外国人消費動向調査でみると、2019年4〜6月期は前年同期比13.0%増の1兆2810億円、そして7〜9月期は前年同期比9.0%増の1兆2000億円となっており、それほど落ち込んではいなかった。ちなみにこのうち韓国は4〜6月期は1227億円、7〜9月期は915億円となっていた。

 7〜9月期GDPは消費増税前の駆け込み需要が発生して個人消費を押し上げたものの、米中の貿易摩擦などによる世界経済減速で、伸び悩んだ輸出の減少が相殺した格好となった。

 10月以降は消費増税の影響もあってマイナス成長に落ち込み、その後は回復基調になるとの予想となっているが、これも米中の通商協議の行方に影響を受けそうである。

 総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは前年同期比プラス0.6%。輸入品目の動きを除いた国内需要デフレーターは同0.2%のプラスとなっていた。


2019年11月14日「10月の国内企業物価指数は前年比でマイナス1.9%に」

 日銀が発表した10月の国内企業物価指数は前年同月比マイナス0.4%となった。ただし、これは10月からの消費増税を反映したものであり、消費税を除く国内企業物価指数は前年同月比でマイナス1.9%と前年比でかなり大幅な下落となっていた。

 国内企業物価指数は前年比で今年6月にマイナス0.2%となってマイナスに転じたあと、徐々にマイナス幅を拡大させている。

 10月にマイナス幅を拡大させたのは米中貿易摩擦を背景に、原油価格が下落したことなどが影響していた。それとともに前年比であることで、昨年9月の国内企業物価指数をみるとプラス3.0%と大きなプラス幅になっていた。これも石油価格の上昇を反映したものとみられ、それと比較したことでの大きなマイナスとなったものとみられる。

 企業物価指数は企業間で取引される商品の価格に焦点を当てた物価指数である。統計は「国内企業物価指数」「輸出物価指数」「輸入物価指数」から構成されているが、市場で注目されているのは「国内企業物価指数」で、前年同月比での伸び率が注目されている。

 商品の需給動向を敏感に反映する取引価格の動向が調査されているため、物価の情勢判断に使われる。この企業物価指数と、日銀の物価目標でもある消費者物価の数値そのものは少し乖離しており、この数字だけをみて日本の物価動向を判断しづらい面もある。ただし、企業間物価指数を川上、消費者物価指数を川下と呼んで比較されるなど、当然ながら影響がないわけではない。今回のように原油価格の下落が影響したとなれば、これは消費者物価指数にも影響を与えよう。

 9月の消費者物価指数(除く生鮮食料品)は前年同月比プラス0.3%となっていた。10月の数字は22日に公表されるが、消費増税の影響を除くとプラス幅をさらに縮小させてくる可能性がある。


2019年11月13日「日銀の物価目標は1%でも良いのではとの政府関係者からの指摘」

 自民党の甘利明税制調査会長は1日に都内で講演し、アベノミクスの物価目標2%の達成は非常に厳しいと指摘、個人的見解として「(物価)1%でも、デフレ脱却と言っていいのではないか」と述べた(ロイター)。

 甘利氏はアベノミクス推進派のひとりといえる。2014年3月27日のロイターによると、甘利明経済財政相(当時)は、ロイターとの26日のインタビューで、2%で2%の物価上昇率を目指す日銀の物価安定目標について、順調に進んでおり、達成は可能だとの見方を示した。

 日銀の物価目標は当初、総合指数であり、その後、コア指数と呼ばれる生鮮食料品を除く総合となった。そのコア指数でみてみると日銀の異次元緩和と呼ばれた量的質的金融緩和政策が決定された2013年4月は前年同月比でマイナス0.4%となっていた。それから1年後の2014年4月にはプラス1.5%に上昇していた。

 2014年3月27日の時点では2月の数字が確認できるかどうかであったと思われるが、2月ですでにプラス1.3%となっていたことで、日銀の物価安定目標について、順調に進んでおり、との発言となったものとみられる。

 しかし、2014年4月のプラス1.5%がピークとなり、2015年8月にはマイナスに転じた。これについては2014年4月の消費増税による影響を指摘する声も多いが、あくまでタイミングがそうであっただけとみている。消費増税によって駆け込み需要が後退し、便乗値上げなども一巡したことは確かだが、それで物価目標を阻害されたとみるのもおかしい。

 2014年4月以降の物価の低迷については、消費増税が即座に影響を与えたというよりも、原油価格の下落による影響が大きかったといえる。そもそもプラス1.5%まで引き上げられたことが、ある意味特殊要因による積み重なりとなっていた。2012年12月あたりからの円高調整や株価の反発などによる影響もあった。

 結果として日銀の2%の物価目標が達成されなかったことは確かである。2014年4月の消費増税がなかったとして2%が達成されたは考えづらい。結論としては、最近の甘利氏の発言のように、日本の場合には物価1%でも、デフレ脱却と言っていいのではないかと思われる。

 甘利氏は2014年3月27日のインタビューで、物価安定目標2%が高くてけしからんという話は国際的にはないと発言していた。これは国際的にはないかもしれないが、国内的にはあったということになろうか。

 いずれ日銀は2%と言う物価目標を修正する必要があると思われるが、それにはタイミングも重要となる。ただ、今回の甘利氏の発言からみても、政権側はすでに2%という物価目標は重要視していないということにもなるのではなかろうか。


2019年11月12日「そういえば1989年のバブル時には株より先に国債が下落していた」

 1986年頃から始まった地価や株価など資産価格の高騰はのちにバブルと呼ばれた。1989年に入ると日銀は公定歩合を数度に渡り引き上げ、完全に金融引締策へと転向した。それでも、バブルの勢いは年末まで続き、日経平均株価はその年の大納会の大引けで38915円を付け、これがそれ以降20年以上にわたる株価の最高値となった。

 1989年当時、私は債券ディーラーとなって3年目となっていた。ディーリング業務もだいぶ慣れ、1987年に起きたタテホショックも何とか乗り切り、ディーラー業務にもだいぶ慣れてきた。そのディーリング業務も主戦場が債券市場であったことで、株式市場に対してはやや距離を置いてみていた。

 債券先物は1989年のタテホショックで一時的に大きく下げていたが、その後切り返し1989年途中までは比較的しっかりした相場となっていた。しかし、日銀による公定歩合の引き上げなどを受けて下落基調となりつつあった。公定歩合とは何だろうという人もいるかもしれないが、当時の日銀の金融政策の政策目標は公定歩合という金利となっていたのである。

 国債価格の下落、つまり長期金利が上昇トレンドとなっていたにも関わらず、高値を更新し続けていた日経平均を見て、当時の私は、どうして何だろう、これはおかしくはないかと違和感を持っていた。それでも1989年の年末まで株は上がり続けた。

 しかし、1990年は債券安・株式安・円安のトリプル安でのスタートとなった。米国での金融緩和期待の後退、ソ連情勢の悪化、日銀による公定歩合の再引き上げ観測などが要因でなっていた。日銀は3月20日に1.00%という大幅な公定歩合の引き上げを実施し、5.25%まで引き上げた。バブル退治に本腰を入れた格好となったが、すでに調整入りしていた株、そして債券はこれを受けて売りを加速させることになった。

 1990年8月2日にイラク軍がクウェートに侵攻すると原油価格が急騰し、インフレ懸念が一段と高まった。その後、原油価格は下落したものの、物価上昇を気にしてか日銀は同月30日に公定歩合を0.50%引き上げ、年6.00%とする第五次公定歩合の引き上げを実施。これを受けて債券先物は急落し、9月27日には債券先物市場開設以来の安値となる87円8銭にまで下落した。株価も大きく下落し、10月1日に日経平均株価は2万円を割り込んだ。

 過去のことを引き出して何が言いたいのかと問われそうだが、現在の相場状況が当時と似ている気がしたため、当時の状況を確認してみたのである。もちろん市場を取り巻く状況は大きく異なる。しかも当時のバブルは日本だけで起きた特異な現象であり、国内での過去の出来事がいろいろと積み重なって生じたものといえる。

 今回については米国を中心に日米欧な株価の上昇と国債の価格上昇が重なっていた。米国の株価指数はファンダメンタルズからはやや乖離した格好で過去最高値を更新した。この背景には中央銀行の金融緩和が大きな影響を与えていた。

 株価が高値を更新し続けているなか、国債の価格が下落し始めた。ここからの中央銀行の追加緩和策はかなり限定されることも予想され、引き締めに転じることは仮になくても金融緩和で市場をフォローするにはどうやら限界も出てている。となれば財政政策となるかもしれないが、これは国債価格の下落に火に油を差すような事態ともなりかねない。

 これはあくまでひとつのリスクシナリオであり、不安を煽るつもりはない。今回の国債の下落もあくまで一時的な調整という見方が素直で、いずれ歯止めが掛かり、株式市場ではゴルディロックス相場が続くことも当然ありうる。

 ただ、今回の国債の下落相場をみて、ふと1989年当時の自分の記憶が蘇ったことで、このようなシナリオもありうるかと思った次第である。


2019年11月10日「最も安全な資産運用、個人向け国債は何が魅力なのか、特に10年変動タイプが好まれる理由」

 10月に募集された個人向け国債の発行額は、3年固定利付タイプが594億円、5年固定利付タイプが201億円、10年変動利付タイプが3748億円となった。合計で4543億円となり、4か月連続での4000億円台の発行額となっていた。

 個人向け国債が安定的に一定金額が発行されている理由として最も大きなものに最低保証金利がある。どのタイプのものも0.05%という最低保証金利が存在しており、10年を超す国債の利回りがマイナスとなるなか、0.05%でもその存在は大きい。これは預貯金金利と比較して、個人向け国債の最低保証金利の方が高いケースが多い。相対的に個人向け国債り金利が高いことがひとつの魅力となる。

 個人向け国債は発行されてから1年経過すると財務省が額面で買い取ってくれる。これはつまり金利の上げ下げによる金利変動リスク、これは裏を返せば価格変動リスクということになるが。これが個人向け国債にはない。有価証券などによる資産運用ではどうしても価格変動リスクに晒されるが、個人向け国債にはそのリスクかせない。裏を返せば儲かることもないとはいえるものの、価格下落による損失はないということになる。

 個人向け国債はその名の通り、個人しか買えない。つまり、販売している証券会社や銀行などは保有することができない。市場に出回ることもない。売却する際には証券会社などの販売会社を通じるが、そのまま財務省が買い取る仕組みとなっている。このため、売りたいときに売れないといった流動性リスクもない。売りたいときに売れないと言うリスクがない。

 このように有価証券などの3つのリスクのうちの価格変動リスクと流動性リスクが個人向け国債には存在しないのである。もうひとつの有価証券での資産運用時のリスク、信用リスクについては日本国債への信用度は個人によって違うかもしれないが、金融市場では国債はリスクフリー、つまりリスクはないものとの認識となっている。もちろん国のデフォルトリスクはゼロではないため、完全にノーリスクというわけではない。

 それでは何故、3年固定や5年固定より、期間の長い10年の発行量が多いのであろうか。これは将来の金利変動を意識したものと思われる。3年固定や5年固定は当初決められた利率が償還まで続く。現在では0.05%の最低金利となっている。10年変動も同様に初期利子は0.05%となっているが、今後10年国債の金利が最低保証金利の0.05%を上回ってくるようになれば、10年変動はそれに応じてもらえる金利が変動する。つまり0.05%を超える利子となる可能性が10年変動には存在する。これが10年変動タイプが好まれる理由のひとつとなっている。

 販売会社にとってもこれを理由に10年変動タイプを勧めているのではなかろうか。さらに10年変動の募集手数料が最も高いことも影響していよう。この募集手数料は財務省から販売会社に支払われるものであり、購入者から徴収されるものではない。手数料が取られないことも大きな利点となっている。


2019年11月9日「ここにきて日米欧の国債価格が急落、日本の債券先物の下落幅はリーマンショック後に匹敵」

 米10年債利回りは9月3日に一時1.42%まで低下し、過去最低の1.31%に接近した。その後は上げ下げを繰り返しながら、次第に上昇基調となり、11月7日に一時1.97%をつけ2%に接近した。

 欧州の国債利回りも回復基調となりつあり、9月にマイナス0.7%台をつけていたドイツの10年債利回りは11月7日にマイナス0.2%台にまで戻してきている。また、7月あたりからマイナス圏にあったフランスの10年債利回りは久しぶりにプラスに転じた。

 日本の10年債利回りも9月4日にマイナス0.295%とマイナス0.3%に迫ったが、ここから上昇に転じて11月8日にはマイナス0.045%をつけている。債券先物は25日に155円48銭まで上昇して、過去最高値を更新したが、11月8日には152円台に下落した。

 そして日経QUICKニュースによると債券先物の週ベースでみると11月5日から8日の週の前週比の下げ幅が1円49銭安となり、これは2008年10月14〜17日以来、約11年ぶりの大きさとなったそうである。毎営業日、債券先物主体に値動きを追ってきたが、週ベースでみることはあまりしてこなかったので、これには気がつかなかった。結果としてリーマンショック後の不安定相場に匹敵するほどの下げになっていたのである。

 ドイツやフランスの10年債利回りの推移をみると下方トレンドが終了し、あらたなトレンド入りしたことをうかがわせる。これは米国の10年債利回りや日本の10年債利回りの動きをみてもその可能性が強まったといえる。

 それではここにきての日米欧の長期金利上昇、裏を返せば国債価格の下落はどうして生じたのか。

 そもそも日本や欧州の国債利回りがファンダメンタルズと乖離して低下していたことでその反動が起きているといえる。ファンダメンタルズと乖離してまで低下していたのは、ECBや日銀への過度な金融緩和策への期待が背景にあった。FRBの利下げ観測も当然ながら後押しをしていた。たしかにECBは無理矢理ながら包括緩和を行い、FRBも市場の期待通りに利下げを行った。しかし、これによってむしろ金融緩和の打ち止め感が強まった。日本にいたっては無理な追加緩和はしなくても良いとの認識も強まりつつある。このため、ECBやFRBが追加緩和を行って日銀が動かずとも、市場はそれを悲観するような動きとはならなかった。ドル円もまったく日銀の金融政策は無視した格好となっている。無視というか材料としている比重が急速に薄れていたといえる。

 さらに欧米の追加緩和期待の背景にあった米中の関税合戦については、いったんブレーキが掛かりそうな雰囲気となってきた。これも、いわゆるリスク回避の反動を招き、その結果として欧米の長期金利が上昇し、日本の長期金利も追随した。

 加えて黒田日銀総裁の発言にもあったが、日銀としては短期の金利には引き下げ余地があるとしながらも、長めの金利は低すぎるとの認識を示していた。実際に国債の買入で超長期ゾーン主体に減額したり、カレントを対象としないなどしており、これも長期金利の上昇を補完した格好となっている。

 もちろんファンダメンタルズも影響している。日米欧の長期金利が低下していた際には、米中貿易摩擦による世界経済への影響が危惧され、予想を下回る景気指数に反応しやすくなっていた。しかし、ここにきては1日に発表された10月の米雇用統計など予想を上回る指数に反応しやすくなってきている。思いのほか景気は悪くはないとの見方も、異常な水準に低下していた長期金利を引き上げた要因となっていた。

 日米欧の長期金利はどこまで戻してくるのか。少なくとも異常な金利水準からは脱してくるとなれば、日本の10年債利回りのゼロ%あたりがひとまず意識されるのではなかろうか。米10年債利回りからは目先は2%が意識されるとみられる。物価がそれほど上昇していないことからも、国債への売りが一巡すればこのあたりで、いったん落ち着きどころを模索するのではなかろうか。


2019年11月8日「世界的に株価が上昇し、国債価格も同時に上昇していたのは、市場が狂っていたのか、それとも新たなフェーズなのか」

 11月4日にダウ工業株30種平均が続伸となり、2019年7月15日以来、約3か月半ぶりに史上最高値を更新した。ナスダック総合指数とS&P500種株価指数も連日での最高値更新となった。

 また、6日に欧州株式市場の主要株価指数であるストックス欧州600種指数は4年超ぶりの高値をつけ、2015年4月につけた過去最高値に迫ってきた。

 東京株式市場では代表的な株価指数である日経平均株価がここにきて年初来高値を更新しててきている。ただし、1989年末につけた38915円までにはまだ距離がある。東京株式市場が欧米の株価指数に比べて出遅れ感があるのは、バブルと呼ばれた1989年代後半に土地とともに株価が異常なペースで上昇し、その後その反動も大きかったこともひとつの要因であろう。

 景気そのものは米国もそれほど過熱感があるものではなく、これは欧州や日本も同様である。世界景気を引っ張り上げていた新興国の景気そのものもブレーキが掛かっている。

 それにも関わらずこの株高には違和感を持つ人も多いのではなかろうか。ゴルディロックス相場とも呼ばれる過熱感はないものの緩やかな景気拡大が続いている。株価が下げづらくなっているところに、好材料が出るとそれに反応して株価が積み上げられて過去最高値を更新してきたともみえなくもない。

 視線を金利に向けるとこちらも異常な状態となっている。株価が最高値を更新しているのと同時に債券価格も過去最高値水準にいる。日本や欧州の国債利回りはマイナスに転じている。債券の価格は利回りと反対に動く。つまり金利がマイナスにまで低下しているということは債券の価格は過去にないほどの値上がりとなってきているといえる。

 もちろんこの金利低下の背景には、日米欧の中央銀行による積極的な金融緩和策がある。ECBなど欧州の中央銀行と日本銀行はマイナス金利政策を打ち出した。さらに日米欧の中央銀行は積極的な資産買入を行ったことで国債の需給を極めてタイトにさせて、長期金利を大きく引き下げることになった。

 その結果、安全資産の代表の国債の価格とリスク資産であるはずの株価を同時に上昇させてきたのである。これはやはり異様な光景と言わざるを得ない。そもそも景気そのものはゴルディロックス相場とも呼ばれるぐらいに悪くはない。それにも関わらず、非常時の金融緩和がこの異常な光景を生み出している。

 これは市場が狂っているのか、それとも新たなフェーズなのか。市場がおかしい狂っているというのは、あくまで過去との対比による見方となる。むしろ市場は中央銀行の金融緩和などを受けて素直に動いているだけで、異常でもなんでもないとの見方も一方ではできる。あらたにフェーズに入っているだけだと。

 仮にそうだとしても、この株価と債券の価格上昇はいつか反動が来るであろうことも予想される。上がったものはいずれ下がる。これはフェーズが異なろうといつか起きることが確かなはずである。


2019年11月7日「中央銀行が発行するデジタル通貨とは何か」

 フェイスブックが導入を計画している暗号通貨(仮想通貨)「リブラ」に対し世界の規制当局が警戒感を示す中、欧州連合(EU)が欧州中央銀行(ECB)に対し、公的なデジタル通貨の発行を検討するよう提言することがロイターが入手した草案文書で明らかになった(ロイター)。

 フェイスブックが計画するリブラはステーブルコインと呼ばれる法定通貨を裏付けとしたデジタル通貨のだが、先月シントンで開いた財務相・中央銀行総裁会議では、ステーブルコインに対する厳格な規制を導入することで合意していた。

 フランスとドイツは共同声明で、リブラは金融部門に対するリスクとなるとし、欧州での認可を阻止する可能性を示すと同時に、代替となる公的な仮想通貨の創設に支持を表明した(ロイター)。

 そもそも公的なデジタル通貨とは何か。すでに我々の使っているお金の多くはデジタル化されており、現金保有の割合は極端に少ない状態にある。我々の保有しているお金はデジタル化されたものを現金化することができるが、デジタル通貨は現金化出来ない反面、海外送金などを容易にさせるあらたな決済システムということになるのであろうか。

 日本銀行のサイトの「教えて!にちぎん」というコーナー内に「中央銀行発行デジタル通貨とは何ですか?」というページがある。このなかで、中央銀行発行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)」とは、次の3つを満たすものであると言われているとしている。(1)デジタル化されていること、(2)円などの法定通貨建てであること、(3)中央銀行の債務として発行されること。

日本銀行「中央銀行発行デジタル通貨とは何ですか?」 https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/money/c28.htm/

 さらに、現金を代替するようなデジタル通貨を中央銀行が発行することについては、具体的な検討を行っている国もあるが、民間銀行の預金や資金仲介への影響など検討すべき点も多いことなどから、多くの主要中央銀行は慎重な姿勢を維持している。日本銀行も、現時点において、そうしたデジタル通貨を発行する計画はありませんとしている。

 その一方で、中央銀行の当座預金という既にデジタル化されている中央銀行の債務を、新しい情報技術を使ってより便利にできないかという議論もあるとして、日本銀行では、欧州中央銀行と共同で分散型台帳技術と呼ばれる新しい情報技術に関する調査(プロジェクト・ステラ)を実施している。

 このプロジェクト・ステラは、概念的な調査・実験を通して、分散型台帳技術(DLT)が金融市場インフラに対してもたらし得る潜在的な利点や課題を洗い出し、議論を促進することを目的としている。分散型台帳技術とはいわゆるブロックチェーンである。

 日銀のサイトには「Project Stella:日本銀行・欧州中央銀行による分散型台帳技術に関する共同調査報告書」もアップされている。ここでクロスボーダー取引における支払の同期化についてがアップされている。

「Project Stella:日本銀行・欧州中央銀行による分散型台帳技術に関する共同調査報告書(第3フェーズ)」 https://www.boj.or.jp/announcements/release_2019/rel190604a.htm/


2019年11月6日「米国株式市場でダウ平均は過去最高値更新、金利も回復傾向に」

 4日の米国株式市場では代表的な株価指数のひとつ、ダウ工業株30種平均が続伸となり、2019年7月15日以来、約3か月半ぶりに史上最高値を更新した。ナスダック総合指数とS&P500種株価指数も連日での最高値更新となった。

 1日に発表された10月の米雇用統計では非農業雇用者数が12.8万人増と予想を上回り、8月分と9月分もそれぞれ上方修正された。平均時給も順調な伸びとなったいた。これが好感されて、1日の米国株式市場は上昇した。

 日本が休日となっていた4日には、米当局者が中国との第1段階の通商合意に月内に署名する可能性があるとの見方を示し、ロス米商務長官が米国企業に中国通信機器大手ファーウェイへの部品販売を認めるライセンスをまもなく付与するとの見通しを示したことから、米中の貿易協議の進展への期待が強まった。これを受けて米株は続伸となり、ダウ平均も最高値を更新した。

 ただし、1日に発表された10月のISM製造業景況感指数は48.3と景気拡大・縮小の節目となる50を3か月連続で下回っていた。10月1日に発表された9月のISM製造業景況感指数が10年3か月ぶりの低水準となったことで、この日のダウ平均は343ドル安となっていた。しかし、今回のISM製造業景況感指数も50割れとなっていたにもかかわらず、ほとんど無視されたというか、雇用統計の良い数字に反応した格好となった。それだけ地合が良いということでもあろうか。

 米中の通商交渉についても、さらに悪化するという事態にいったんブレーキが掛かり、多少なりとも改善する方向に向いてきたことが好感されているだけである。ISM製造業景況感指数をみてもわかるが、これで景況感が改善されているわけでもない。

 ただし、米長期金利の動向をみても低下基調から上昇に転じようとしているようにもみえることから、市場関係者はそれほど景気に対して悲観的な見方をしているわけでもなさそうである。

 FRBも予防的な利下げはひとまず停止してくるものとみられ、それを意識した米長期金利の動きともみえなくもない。しかし、米国に限らずドイツや日本の長期金利も同様の動きとなっており、世界的に金利が少し回復してくるような兆しもみえている。

 米中の貿易摩擦などによる世界的な景気の減速懸念は燻る。しかし、この米国の株価や世界的な長期金利の動きを見る限り、あまり悲観的な見方をしていても方向を見誤る可能性があるのかもしれない。これはある意味、日銀にとっては良い状況のように思われる。


2019年11月4日「日米欧の長期金利が上昇局面入りか」

 9月3日に発表された8月のISM製造業景況指数が予想以上に低下したことから、米景気減速の懸念が強まった。この日の米10年債利回りは9月3日に一時1.42%まで低下し、過去最低の1.31%に接近した。

 その後、米中が10月初めに閣僚級の貿易協議をワシントンで開くことで合意したこともあり、リスク回避の巻き戻しの動きから、米債利回りは上昇基調となる。欧州の国債利回りもドイツなど主体に上昇してきた。

 12日のECB理事会では包括的な金融緩和策を決定した。

 13日に日本国債は急落した。これも何かしら市場の流れの変化を示唆するようなものとなった。このタイミングで日欧米の長期金利は再び低下基調となったのである。

 16日にはサウジの石油施設が攻撃を受けて原油価格が急騰し、中東の地政学的リスクも意識されて16日の欧米の国債利回りは低下した

 18日のFOMCでは予想された通り、政策金利を0.25%引き下げた。

 20日に日銀は国債買入で3本ともに減額した。これを受けて日本の国債はいったん売られるが、欧米の国債は10月初旬にむけて低下基調となり、日本の国債利回りもその後、それに合わせるように低下した。

 25日に日本の債券先物は155円48銭まで上昇して、過去最高値を更新してきた。この日、トランプ大統領は中国との貿易協議が想定より早く決着するだろうと述べていた。

 29日には米中の閣僚級協議を10月第2週に開くことを明らかに。これらを受けて米中対立への過度な懸念が後退してきた。しかし、1日発表の9月のISM製造業景況感指数が10年ぶりの低水準となったことなどから米国債の利回りはまだ低下していた。10月3日の米10年債利回りは1.53%に低下した。

 7日に中国は米国との通商協議では可能な部分で合意を取りまとめるとの観測から、米中の協議が進展するとの見方が強まり、このあたりから米国債の利回りはあらためて上昇基調となった。英国の合意なきEUからの離脱も回避されるとの見方も出てきたことから、欧州の国債利回りも上昇基調となってきたのである。

 28日にはS&P500種株価指数は3か月ぶりに過去最高値を更新。この日の米10年債利回りは一時1.86%まで上昇し、1.9%が視野に入ってきた。9月上旬にマイナス0.7%台に低下していたドイツの10年債利回りも10月28日にはマイナス0.3%台に上昇してきた。

 その後、米10年債利回りは一時1.7%割れとなったが、4日に10年債利回りは1.77%に上昇してきた。

 米国とドイツの10年債利回りのチャートをみると下向きのトレンドラインから上抜けてきた格好となっている。いわゆるダブルボトムを形成してきた。この動きから予想されるのは、さらなる国債利回りの上昇となる。これは日本の10年債利回りの動きからみても同様のことが言える。


2019年11月4日「日銀のフォワードガイダンスを読み解く」

 日銀は10月31日の金融政策決定会合で、現在の金融政策の維持を決定した。この際、新たな政策金利のフォワードガイダンスを決定した。

 フォワードガイダンスとは、非伝統的手段が講じられるなか、金融緩和の効果を強く及ぼすために、その緩和をいつまで行うという期間を明示したものとなる(拙著「図解入門ビジネス 最新中央銀行と金融政策がよくわかる本」より一部引用)。

 決定会合後の公表文には次の用に書かれていた。

 『金融政策決定会合において、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れについて、一段と高まる状況ではないものの、引き続き、注意が必要な情勢にあると判断した。こうした認識を明確にする観点から、以下のとおり、新たな政策金利のフォワードガイダンスを決定した』

 物価安定の目標に向けたモメンタムについて、今回日銀は別紙での説明も行っているが、とにかく基調としては、一段と高まる状況ではないから今回は現状維持としたものとみられる。ちなみにモメンタムとは方向性や勢いという意味となる。

 そのフォワードガイダンスがこちら

 『日本銀行は、政策金利については、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している。』

 これを見て最初に感じたことは当日のツイッターに書き込んだので、そのまま転記すると、

 『どうでも良いことながら、どうして「おそれ」を「惧れ」という漢字を使ったのかな。それはさておき、このガイダンス、モメンタムが損なわれる惧れに注意が必要なくなれば修正するよとも読める。これは追加緩和に前傾姿勢というよりも、引く準備もしていると読めなくもないのでは』

 この解釈に対してメディア各社は、ほぼ揃って、「将来的な追加緩和の可能性を示唆」と報じており、これは違和感を持った。

 「それを下回る水準で推移することを想定」という表現を捉えてのものであり、メディアが揃って追加緩和を示唆としていたが、そうなのかと個人的には思った次第。

 むしろ、モメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間は続けるよという点のほうにこそ、もう少し注意を向けるべきではなかったか。モメンタムが損なわれる惧れに注意が必要がなくなったらどうするのか、これは出口に向けた動きの可能性をも示唆するものではないかと個人的には捉えたためである。

 もちろん、表明文の最後には前回同様に、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じるとあり、やるときはやるよとの姿勢は見せてはいるが、今回のフォワードガイダンスの修正で、そのやる気の姿勢を強めたのかといえば、そうではないと私は解釈している。そもそも日銀による追加緩和は必要ないし、マーケットもそれを求めてもいない。東京株式市場や外為市場が日銀の決定会合の動向にほとんど無反応であった。


2019年11月1日「FRBは3回連続での利下げを決定、これでいったん利下げは打ち止めか」

 米国の中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)は30日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を年1.75〜2.00%から1.50〜1.75%に0.25%引き下げた。今年7月、9月に続く3会合連続の利下げとなる。

 投票メンバー10人のうち、前回、前々回の利下げ時と同様、カンザスシティー連銀のジョージ総裁とボストン連銀のローゼングレン総裁が金利据え置きを主張し、決定に反対票を投じた。前回のFOMCで0.5%の利下げを主張して反対票を投じたセントルイス地区連銀のブラード総裁は今回は賛成に転じた。

 今回の利下げは市場の予想通りというか、市場は利下げを完全に織り込んでいた。利下げそのものへの反対票が増えるのではとの観測もあったが、反対票は変わらずの2票であった。

 今回のFOMC声明からは、景気拡大を維持するために「適切に行動する」との文言が削除された。この文言は将来的な利下げを示すものと解釈されていたことで、ここでいったん利下げの打ち止め感を出したものとみられる。

 今回の利下げも貿易戦争で企業の先行き不安が強まっているための「予防的利下げ」とされる。

 パウエル議長は会合後の会見で、物価上昇が鈍いことなどを理由に「現時点では利上げを考えていない」と答えていた。また、「経済見通しの点検が必要な出来事が起これば、当然対応していく」とも指摘した。30日の米国市場ではこの発言を受けて、今後の追加利下げの可能性が大きく後退したわけではないとして、株式市場は上昇し、米長期金利は低下していた。

 ここでひとまず予防的利下げは終了し、年内は様子見となると思われるが、市場は引き続き米中の通商交渉の行方を注視しており、こちらの動向次第では、FRBに再び利下げ圧力が掛かる可能性はある。

 とはいえ米国の代表的な株価指数であるS&P500種株価指数が過去最高値を更新するなどしており、市場動向からみて金融緩和を必要する状況とは思えない。

 トランプ大統領は欧米の中央銀行のようなマイナス金利政策を望んでいるようだが、米国の実体経済からみて異常な金融緩和策を必要するとは思えない。これは欧米でも同様ではあるのだが。


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