「若き知」
「過去データは一番下に移行しました」


2010.10.29「事業仕分けは来年度の国債発行計画にも影響か」

現在、事業仕分け第三弾で特別会計についての仕分けが行われているが、この結果次第では来年度の国債発行計画にも微妙な影響を与えることが予想される。昨日は「国債整理基金特別会計」の仕分けが実施され、枠組みのあり方としては「現状の制度を継続、事務事業費については一般会計に移管し、国債整理基金特別会計は純粋な整理区分特別会計とするよう検討」するとした。

事務事業費については同特会から国債の広報活動のなど経費を支出しており、「国債の整理に特化すべきだ」との意見が相次ぎ、事業費を一般会計に移すよう検討が求められた(毎日新聞)。

また資金のあり方(積立金の取扱い)については、「現状維持、わが国の国債への信認向上につなげるべく、オペレーショナルリスクに十分配慮しつつ、繰上償還に充てることも含めた検討を行う」とした。

http://www.shiwake.go.jp/data/pdfs/302.pdf

積立金のあり方については、「オペレーショナルリスクに十分に配慮しつつ、国債の信認の一層の向上に資するのであれば繰り上げ償還に充てる、ということが適切かも含め、財政当局においてメニューのひとつとして検討してほしい。見直しの評価者もあくまで信認向上のひとつの方策として上記の検討を行うべきとのコメントとなっている。なお、一般会計への繰入れについては厳に慎むべき、とのコメントがあったことを付記する。」とある。

つまり、これは12兆円に達する積立金を国債の繰り上げ償還に充てることを検討するよう求める判定をしたこととなり(毎日新聞)、もしこれが実施されれば来年度の借換債の発行額がその分抑えられることが考えられる。ただし、実際に実現されるかどうかはまだ不透明ではある。

毎日新聞によると、今回の仕分けでは、複数の仕分け人が、積立金を満期が来ていない国債の前倒し償還に充てれば、債務残高が減り、長期的に見て金利負担が減らせると主張し、「残しておくと、埋蔵金として一般会計に充てる誘惑に駆られる」との意見も出たそうである。

ただし、財務省側からは、「災害などで国債が発行できなくなるなどの突発的事態に備える上で、積立金は必要」と主張。最終的に「突発的リスクに十分配慮する」とした上で、前倒し償還の検討を求める判定となった。積立金を「埋蔵金」として使うことは「厳に慎む」との意見を付言したそうである。

http://mainichi.jp/life/money/news/20101029k0000m020107000c.html

また、地方自治体へ交付金を配布する特別会計に国が借り入れた33兆円を超える借金があり、この特別会計の借金返済を今後どのように進めるのかについても議論されるとNHKで報じられているが、それによっては予算そのものに影響が出る可能性もある。

今後も財政投融資特別会計、外国為替資金特別会計などの事業仕分けの動向なども国債発行額に影響を与える可能性がある。


2010.10.28「FEDの神格化の崩壊の恐れと日銀の後ろ向きな予防線の危険性」

今回、FRBは明らかに大きなミスを犯した可能性がある。本来であれば市場参加者は中央銀行の動きを逐一追って、金融政策の行方についてコンセンサスを形成させる。このためにFEDウォッチャーや日銀ウォッチャーと呼ばれる人たちが存在する。そのコンセンサスの形成にあたっては、金融政策に関わる人物の発言などが重視されることは言うまでもない。つまり、その市場のコンセンサスをうまく誘導させることで市場に金融政策の影響を織り込ませ、それによる効果をもたらそうとする。

ただし、これにはかなり市場動向にも精通していることも必要となる。そうでなければ、市場のコンセンサスをうまく誘導するどころか、思わぬ方向に導いてしまうことにもなりかねない。今回のQE2と呼ばれる追加緩和観測については、FRBはこの誘導を明らかに間違えている。

12日に発表されたFOMCの議事要旨で、追加緩和の具体策として主に長期国債の追加購入と、インフレ期待に影響を与えうる施策が議論されていたことを明らかにした。バーナンキ議長は15日の講演で、FOMCの声明文にある超低金利政策を、長期間に渡って続けるとの文面を市場の期待以上に強化する考えを示した。加えて16日にはシカゴ連銀のエバンス総裁は、「FRBはインフレが目標を上回るのを当面大目に見ることで、低すぎる水準のインフレを容認できる水準に戻すことが可能になろう」と述べた。

足元のディスインフレがデフレに転じる前に、多少のインフレ覚悟で、積極的な追加緩和を行う姿勢を見せたわけだが、これを市場ではむしろ将来のインフレへの懸念と受け止めていった。FRB関係者からの発言内容がまちまちとなっていたことで、それがむしろ不透明感を強める結果となり、期待よりも不安を強めることとなった。

米10年債利回りは8日の2.33%を底に次第に上昇に転じ、27日には2.7%台をつけてきた。25日に実施された米5年物インフレ連動債入札において落札利回りが初のマイナスになったことが、インフレ懸念の強まりを示す象徴的な出来事となった。

さすがにここまで債券市場が不安定となったことで、FRBが国債購入規模予想で政府証券公認ディーラーに今後6か月間の資産購入規模の予想やその利回りへの影響について調査を行うという異例の事態に発展したのである。つまりこれは、FRBは市場を誘導するどころか、自らの金融政策の影響そのものの自信を喪失させたことの現れとも言える。このようなことはFRB議長が神格化されるほどの米国では考えられない異常事態と言える。

この動きを見る限り、11月2日から3日のFOMCでは国債の買入れは小出し作戦になるとみられ、物価水準目標などが同時に打ち出される可能性は大きく後退したと思われる。そして、FRBの威厳そのものも後退してしまう可能性がある。

そして、日銀はこのFOMCの結果による相場変動に備える意味からか、次回の金融政策決定会合を予定されていた11月15日から16日から11月4日から5日に前倒しすることを発表した。この理由として日銀はETFとREITの買入れを早期に実施できるよう基本要領の審議・決定等を行うためとしている。しかし、日銀の最高意思決定会議、つまりは日本で最も注目される重要会議のひとつである決定会合の日程を早める理由にしてはあまりに軽すぎる。特にここにきて株式市場や不動産市場が危険な動きを見せているわけでもない。しかも結果からすれば前倒しの日程はわずかに一週間後に迫る。それほどの緊急性を持った変更なのである。

この日程変更はどう考えても、FOMCを睨んでのものであろう。前回の8月10日のFOMCでのMBSの償還資金による国債への再投資という実質的な量的緩和策の導入を行ったが、当日の日銀の決定会合ではある程度FRBの動向は読めていたはずながら、この影響を読み間違えたのかこのタイミングで何もせず、それが円高を招いたとの批判を受けた。このトラウマも残ってか、今回はFOMCの動向を見てすぐのタイミングでの日程に、なぜか今になって変更したものと思われる。

市場が不安定になっていればこそ、ある意味、日銀は予防線を張ったとも思われるが、実はこれはこれで日銀にとっても正念場となる可能性がある。日銀はこれまでも政治家やマスコミなどからの批判も受けやすくなっていた。8月の汚名挽回とばかりに、10月5日には市場でもサプライズとなる包括緩和を実施した。これでやっと市場やFRBに対しても先手を取ったということともなろうか。この日銀の包括緩和が少なからずFRBの動向に影響を与えた可能性もある。通貨安競争のためにも、よりインパクトのあるQE2をと市場心理を顧みずにFRBが突き進んだ反動が今回出た可能性もある。

今回のFOMCは、史上稀に見る市場との心理戦になる可能性があり、今後のデフレ圧力も意識しながらもFRBは慎重に政策決定を行うであろう。それに対して市場がどのように反応するか、現時点での予測も難しい。つまり日銀は市場動向を読みながらという意味では、かなり不安定な状況下で決断を下す必要があり、FRBと同様に読み間違いをする懸念もありうる。たとえばもしFRBに追随して安易に追加緩和を行ってしまうと、それがまたFRBに跳ね返り、インフレ懸念を再燃させてしまう危険性もある。今回はかなり慎重に事を運ぶ必要がありそうである。


2010.10.28「展望レポートで2010年のコアCPIはプラス0.1%予想」

日銀は経済・物価情勢の展望(展望リポート)を公表した。注目された2011年度の消費者物価指数(除く生鮮食品)は委員の中心値で前年度比プラス0.1%と、7月中間評価の見通しを維持させた。また2012年度は同プラス0.6%上昇とした。また、GDPの見通し(中央値)は2011年度がプラス1.8%、2012年度がプラス2.1%とした。

基準年の変更による影響については、今回も注記で下記のような記述にとどまり、影響は予測値には加味されなかった。

「今回の消費者物価の見通しは、現行の2005 年基準の指数をベースにしているが、統計作成当局は、同指数について2011 年8月に2010 年基準の指数に切り替えるとともに、前年比計数を2011年1月分に遡って改定する予定であることを公表している。その際には、前年比上昇率が下方改定される可能性が高い。」

この注記にもあるように、前年比上昇率が下方改定される可能性が高く、前回の基準年改訂によるマイナス0.5%までの下方修正はなくとも、それに近い修正がはいる可能性があり、実際のコアCPIの物価の予測値は展望レポートの数値よりもさらに低下する可能性がある。


2010.10.28「日銀の基金オペの内容」

基金の総額は35兆円、その内訳として資産買入は5兆円、固定利付方式・共通担保資金供給オペで30兆円。買入資産毎の限度額は長期国債(1〜2年) 1.5兆円、国庫短期証券 2.0兆円、CP等 5千億円、社債等 5千億円、ETF 4千5百億円、J-REIT 5百億円。

買入は準備の整った資産から開始し、2011年末に残高が5兆円になるように実施する。

基本要領に基づく利付国債の買入残高は、「金融市場調節方針の変更に関する件」(平成13年3月19日付政委第40号)(案件)3.ただし書きに定める「日本銀行が保有する長期国債の残高(支配玉<現先売買を調整した実質保有分>ベース)」には算入しない。つまり日銀券ルールは適用されない。

国債の買入対象は、長期国債で残存期間1〜2年の既発債、国庫短期証券の既発債。コンベンショナル方式による入札となり、入札は下限利回り(0.1%)を設定し、当該利回りから利回り格差方式による。

共通の買入対象先を選定し、長期国債と国庫短期証券の別に買入れを実施する。

買入日、買入金額、買入対象銘柄、買入先その他買入れを行うために必要な具体的事項については、金融市場の情勢等を勘案して買入れのつど決定するものとする。


2010.10.28「次回の日銀の決定会合はFOMCの翌日に前倒し」

日銀は本日の金融政策決定会合において、金融政策は全員一致で現状維持とした。そして、資産買入れ等の基金について具体的な基本要領等を決定した。さらに、次回の金融政策決定会合を予定されていた11月15日から16日から、11月4日から5日に前倒しすることを発表した。この前倒しの理由だが、日銀はETFとREITの買入れを早期に実施できるよう基本要領の審議・決定等を行うためとしているが、これは11月2日から3日にかけて開かれるFOMCを意識したものと見ざるを得ない。

ブルームバーグによると、FRBが国債購入規模予想で政府証券公認ディーラーに今後6か月間の資産購入規模の予想やその利回りへの影響について調査を行った模様である。政策変更に当局が市場にお伺いを立てるという事態は極めて異例と言わざるをえない。ここにきての米債や為替市場の動きなどにかなり神経質になっているものと予想される。

日銀が日程を変更したのも、次回のFOMCでの内容によっては市場に大きな影響を与え兼ねず、その場合には機動的な対応を臨時会合を開くことなく行おうとしたものと思われる。それだけ日銀も今回のFOMCによる影響を注視しているものとみられる。

11月2日から3日にかけて開かれるFOMCにおいて、QE2と呼ばれる量的緩和策第二弾が実施されるとみられているが、ここにきての米債の下落が少なからず、その決定に影響を与える可能性が出てきた。本来ならば、目先の市場の動きが金融政策の舵取りに変化を与えることはないはずである。しかし、日銀が円高を気にして突然に追加緩和をするなどの例外もある。

FRB関係者はバーナンキ議長を含めて、追加緩和策の実施を市場にアピールしてきた。ただし、その中身はまちまちとなり、実際にどの程度の国債買入れが実施されるのか、市場は具体的なイメージを描けずにいる。しかし、問題なのはその金額よりも、追加緩和によるインフレ懸念の台頭である。

ピムコのビル・グロース氏は、FRBによる資産購入再開は30年に及んだ債券強気相場の終わりを告げる公算が大きいとの見方を示したが、その背景にあるのが将来のインフレへの懸念である。ビル・グロース氏の指摘はなくとも、すでに米債の利回りは上昇基調になってきており、10年債利回りは10月8日の2.3%台から27日には2.7%に上昇している。今回の米債の下落は円債にも影響し、日本の長期金利は上昇基調となっているが、日米ともに高値警戒による売りとも考えられる

需給面から言えば、FRBによる国債買入れは米国債にとり買い材料のはずである。さらに足元の物価はインフレどころかディスインフレを示している状況にある。しかし、FRBによる追加の量的緩和はいずれインフレに直結するとの市場認識のほうが上回ってきている。デフレに慣れきった日本とは違い、米国では潜在的なインフレ観測が強いように思われる。

これだけ債券市場でインフレが警戒されているとならば、市場予想を上回るようなサプライズ的な追加緩和はむしろ米債の急落を招く可能性がある。予想されたよりも規模を控えたほうが、まだ市場への影響が少なくなる可能性もあろう。それで市場はインフレ警戒を弱めるのか。それとも対策としては不十分といった反応を示すのか。優柔不断とも言える市場に対し、どうやらFRBも優柔不断な対応を示しそうで、それにさらに備える日銀は果たして何をしようとしているのであろうか。


2010.10.27「財政再建の勧め」

格付会社スタンダード&プアーズ(S&P)は26日に、現在AAA格の英国の格付けの見通しを「ネガティブ」から「安定的」に変更した。S&Pは積極的な歳出削減措置を実施する英政府の決意を評価したとしている

金融危機への対応やその後の景気対策により、英国の財政赤字は今年1550億ポンド(約19兆8千億円)に膨らんだ。政府債務残高は2〜3年後に9千億ポンド(約114兆9千億円)、国内総生産(GDP)の70%に達する見通しも出ている。

英国のオズボーン財務相はこの3か月もの間、各閣僚と協議を続け、10月20日に財政再建のため各省庁の歳出を最大で40%減らす「包括的歳出見直し」を公表した。これは「英国の歴史始まって以来」の大きな財政削減案と言える大胆なものである。2015年までに830億ポンド(約10兆6千億円)の赤字を削減する。192の特殊法人を廃止し、公的部門600万人中、49万人の人員を減らす。各省庁への削減は平均19%となるようだが、協議の途中、フォックス国防相がキャメロン首相に「国の安全をおざなりにできない」と直訴する騒ぎも起きたそうである(産経新聞)。

景気回復への影響を懸念する声もあるが、膨大な財政赤字が長期的に経済成長の妨げになるとして、国営医療制度(NHS)と途上国援助を除き各省庁の歳出が見直された。

労働党政権下で増殖した特殊法人についても192法人は不要不急として廃止を決めるなど、英国の事業仕分けは大胆かつ迅速に行われるようである。

削減幅が小さくて済んだのは教育省で管理費を1%減らすが、連立を組む自由民主党の政策を取り入れ、貧困児童への授業料補助を新設するなど教育現場への支出は拡充する。ノーベル賞受賞者を輩出する英国の研究能力は経済成長の将来のエンジンとして、科学予算は名目上維持する。

国防省は8%削減で人員は計4万2千人減。核ミサイル原子力潜水艦の退役を4年間先延ばしした。大なたがふるわれたのは法務省で23%削減。内務省も警察の効率化に取り組む。片方の親の年収が4万3875ポンド(約560万円)を超える家庭への子供手当の打ち切りや、財政的な余裕があるのに受給している就労不能給付にもメスを入れる(以上、産経新聞)。

財政再建で成功した例としては、1990年代でのカナダでの事例がある(以下、拙著「国債の基本とカラクリが良くわかる本」より)。

カナダの財政赤字は1970年代以降、景気低迷の中での歳出拡大、それに伴う国債費増大などにより大幅なものとなり、累積債務残高も急速に増加した。累積債務残高の対GDP比で、1991年度以降、カナダはG7各国の中でイタリアに次いで高い水準となっていた。

このため財政再建が重要課題となり、本格的に財政再建に取り組み始めたのが1993年11月に発足したクレティエン政権であった。同政権では財政赤字削減のために閣僚級のメンバーからなる特別委員会を設置し選挙公約である「3年以内に財政赤字の対GDP比を3%以内に抑える」という目標をもとに財政の立て直しを進めた。その結果、1994年度以降、財政再建は強力に進められ1997年度以降は単年度ベースで財政黒字を計上したのである。

クレティエン政権はプログラム・レビュー(Program Review Tests)を導入し、6つの基準を設定し、これに基づいて全ての既存政策について徹底した見直しを実施した。その6つの基準とは、国民に求められているのかという公共の利益の基準、政府が提供すべきなのかという政府の役割」の基準、連邦政府に適切な仕事なのか州政府の仕事なのかの基準、民間に任せることはできないのかという民営化の基準、効率を上げることはできないのかという効率性の基準、 その結果残った仕事についての費用負担の適切さの基準である。

州への交付金や州との権限関係の見直し、失業保険制度や年金制度の改革、産業補助金の削減、政府企業の民営化やエージェンシー(外局)化、連邦公務員の削減、内閣組織の簡素・効率化などが積極的にすすめられ、各省庁の予算を1994年度から4年間で平均22%も削減した。

歳入についても大規模法人税の税率引上げ、付加法人税の税率引上げ等が実施されたものの、カナダでの財政再建は主に歳出削減により進められていった。ただし、財政再建を進めた時期に、米国経済の回復によりその影響を受けやすいカナダ経済が回復したことも、カナダの財政再建を支えた要因として指摘されたが、カナダの経済に対する信任が国内外で厳しく問われたことで、そうした危機感が国民に共有されたことが、カナダの財政再建を成功させた大きな原動力になったことも確かである。

緊縮財政には経済成長を促す効果があると主張する学者もいる。ハーバード大学のイタリア人経済学者アルベルト・アレシナ教授である。また、増税を含めた財政再建と景気回復を同時に進めることを日本の菅首相が主張したことで物議を醸したこともある。

膨大な財政赤字が長期的に経済成長の妨げになることは確かであり、これは日本の事例を見ても明らかであり、緊縮財政にはいずれ経済成長を促す効果があるとみてしかるべきであろう。ただし、これにはタイミングも重要である。カナダの例では米国の景気回復が緩衝材の役割となり、今回の英国でも26日に発表された第3四半期(7-9月)GDPが予想を上回り、リセッションに落ち込む可能性があるとの懸念が後退していることが、財政再建を後押しさせるであろう。日本でも2000年代に小泉政権下で一時的に財政再建路線が取られたが、この際にも景気回復が後押しさせた面がある。

ただし、日本での財政再建はタイミングを見計らうほどの余裕はすでにない。日本の累積債務は膨らむ一方であり、いつそれが破裂するのかは破裂してみないとわからない状態にある。英国での財政再建は現在の日本にとっても良きモデルとなるはずである。景気回復の妨げとの懸念などよりも、積極的な歳出削減により財政再建を進め、将来の国民の不安を取り除くことこそが今は最重要である。


2010.10.27「イングランド銀行による量的緩和策」

2009年3月5日の金融政策委員会(MPC)において、イギリスの中央銀行であるイングランド銀行は、政策金利を0.5%に引き下げるとともに、量的緩和策として英国債を買い入れる方針を発表した。MPC声明文によると国債買入の目的は、中期的なインフレ率目標を達成するためにマネーと信用の供給量の拡大を通じて名目支出を拡大させることとした。

イングランド銀行はすでに広義の量的緩和の枠組みとして、CP、社債、国債を買い入れる制度を導入していたが、この制度の原資として保有していた英国債を銀行に売却していた。しかし、実質的な量的緩和の導入により、国債売却による資金吸収の必要がなくなった。さらにこのBOEの国債買い入れに対し政府は損失補償の契約を結んだのである。ちなみにイングランド銀行による国債の引受は明示的には禁止されていないが、実施されているわけでもない。ドイツやフランスなどはマーストリヒト条約により中央銀行による国債の直接引受を行うことはではない。

その後、追加緩和策により量的緩和策の拡大を計ってきたが、2010年2月4日にイングランド銀行は、2000億ポンド規模の資産買い取りプログラムを休止している。

1997年5月のブレア政権の誕生の際、ブラウン財務相は金融政策の大転換を行った。財務省から中央銀行であるイングランド銀行に金融政策の決定権を移し、独立性を高めるという大胆な改革に踏み切ったのである。

イングランド銀行は、第二次世界大戦後に成立した労働党のアトリー政権の下で「1946年イングランド銀行法」によって国営化され政策運営の独立性を失っていた。イングランド銀行に対する財務大臣の指示命令権を規定するなど、イングランド銀行を実質的に財務省の付属機関と位置づけていた。公定歩合政策と外国為替政策の決定権限は事実上、財務大臣に属し、イングランド銀行はその執行機関としての役割を担っているにすぎなかった。

しかし、ブレア政権によるイングランド銀行の改革により、イングランド銀行総裁、副総裁、理事、外部らの委員で構成される金融政策委員会へ政策運営権限が委譲され、外国為替市場介入権限を部分的にイングランド銀行へ委譲され、準備預金制度の法制化、銀行監督権限をイングランド銀行から分離し、新設された金融サービス機構(FSA)へ移管し、そして国債管理業務は財務省へ移管されたのである。金融政策に関しては、インフレーションの目標は政府が設定し、イングランド銀行はこれを達成するために必要な政策手段を決定するといった役割ともなっている。ただし、量的緩和策の導入やその拡大にあたっても財務相の了承が必要となっている。


2010.10.26「中央銀行による国債買入れの目的とその影響」

日銀は10月5日の金融政策決定会合において包括緩和策を導入し、これまでの国債買入れとは別枠で国債を買入れる方針を示した。

これまでの日銀による国債の買入れは、経済成長に伴って増加する通貨供給の主要な手段としていた。しかし、基金オペを通じて新たに行う国債を含む資産買入れは、長めの市場金利の低下と各種リスク・プレミアムの縮小を促していくことを目的とした。

11月2日から3日にかけて開催されるFOMCにおいて、国債買入れ増額を軸とする量的緩和の追加策(QE2)が実施されるとの観測が強まっている。

FRBが2009年3月18日のFOMCにおいて最大3000億ドル分の長期国債の買入れに踏み切った際に、バーナンキ議長はこれを信用緩和政策の一環であるとした。しかし、今年8月11日のFOMCにおいて、今後満期を迎える住宅ローン関連証券を米国債に再投資することを決定したことで、事実上の量的緩和策に転じたと言える。

日米の中央銀行がここにきて、ともに国債買入れを強化する政策を取ったが、日銀が信用緩和を含む政策を講じたのに対し、FRBは信用緩和から量的緩和へ傾斜していったことは対照的ではある。ただし、これは手段が限られてしまう中で対策を講じた結果、信用緩和と量的緩和の境界線の意味が薄れてしまったためとも言える。

国債買入れは今年5月からECBも行っている。ECBによる国債買入れは国債市場の安定化そのものが目的であり、金融政策の一環としている日銀などとは目的が異なっている。金融政策への影響を避けるために、国債買入とともに同額規模の資金吸収を行い不胎化している。

ここにきてECB内で国債買入れを巡り、トリシェECB総裁とウェーバー・ドイツ連銀総裁の意見の違いが明らかになってきた。ウェーバー総裁は、国債買い取りプログラムは所期の目的を達成できなかったとし、恒久的に廃止すべきだと述べたのである。ウェーバー総裁は来年10月に退任予定のトリシェ総裁の後任としての有力候補である。ECBが直ちに国債買入れを停止することはないと思われるが、ブレーキがかかる可能性はある。

国債買入れを増強している日銀とFRBに対して、このECBの動きも対照的である。国債買入れについて日銀の白川総裁は将来のインフレ予想が強まる懸念があることを指摘した。ここにきての日米の債券市場では将来のインフレリスクを嗅ぎとって、長い期間の債券主体に売り圧力が強まった。日銀とFRBによる国債買入れ増強は足元のデフレ抑制効果はあるかもしれないが、将来へのインフレリスクを強める結果となる可能性もあることに注意すべきであろう。


2010.10.25「2011年度のコアCPI見通しはマイナス回避かとの観測も」

28日に公表される経済・物価情勢の展望(展望リポート)において、2011年度の消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の前年比が包括緩和の効果を織り込んでマイナス見通しを回避する公算が大きいとブルームバーグが伝えた。

http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90900001&sid=atK2u1Csex.I

複数の日銀関係者によると、10月5日に決定した包括緩和の成長率と物価の押し上げ効果をこれまでの新型オペの拡充などよりも強めに織り込ませるほか、原油相場が再び上昇傾向にあること、10月からのたばこ税率の引き上げや高速道路無料化の遅れなど制度要因も物価の押し上げ要因に働くことなどが、円高による物価の押し下げ効果を相殺するという。このため、下方修正されてもゼロ%にとどまりマイナス転落を回避する見込みとのことである(ブルームバーグ)。

ただし、成長率そのものも下方修正される可能性も指摘されており、それも包括緩和の影響も加味して限定的なものにとどめるのであろうか。そもそも包括緩和がどの程度、景気や物価に影響するのかは今後の動向を見ない限りは明らかではないのではないか。

ただし、2011年度の物価見通しがマイナスに転じれば、日銀が昨年12月に「ゼロ%以下のマイナスは許容しない」と宣言したことや、政府が11年度のプラス転化を目標に掲げていることとの整合性を問われる可能性もあることも確かである(ブルームバーグ)。さらにマイナス転落を容認してしまうと包括緩和政策を実施した意味そのものが問われる可能性もある。

さらに2011年度のコアCPIの押し下げ要因ともなりうる基準年の変更については、その影響を織り込まず注記に留めるとの見方である。前回の基準年の変更の影響については、2006年4月の展望レポートで「前年比上昇率が若干下方改訂される可能性が高い」との注記があった。

また、今年4月における展望レポートでは下記のような注記があった。

「留意点として、消費者物価指数の基準改定がある。すなわち、現行指数は、基準年の2005 年から時間が経ってきたため、指数水準が大幅に低下した耐久消費財のマイナス寄与が小さめに出て、全体では前年比マイナス幅が小さめに出る傾向が強まりつつある。したがって、指数が2010年基準に切り替わった段階で、遡及改定の対象となる2011年1月以降の前年比が、今回の見通しから下方修正されうる。なお、2010年基準への改定時期は、通常どおりなら、2011年夏頃と予想される。その際、2010年12月以前の前年比は遡及改定されない見込みである。」

この基準年の変更については、20日の西村副総裁が講演で次のように触れている。

「消費者物価指数については、やや技術的ではありますが、基準改定の影響にも留意する必要があります。2005年から2010 年への基準年の変更は、来年夏に行われる予定です。一般に、消費者物価指数の前年比は、基準年から先に進むほど実勢よりも強めに算出されやすく、こうした統計上の歪みは、基準改定の際に修正される傾向があります。つまり、来年の基準改定で、消費者物価指数の前年比が下方に改定される可能性が高いということです。その改定幅を現段階で見積もるのは難しいのですが、後から振り返ってみると、消費者物価指数の下落幅は、思っていたよりも大きかったというようなことが起こる可能性は考慮しておく必要があります。」

また、会見では記者の質問に対して西村副総裁は次のように発言している

「基準改定を取り入れるか取り入れないかということですが、これは展望レポートの中で明らかにすることですので、私からは前回のケースについてご説明します。前回の場合は、基準改定が実際どのくらいの大きさになるのかに関して、信頼性の高い予測が難しかったということに加え、コミュニケーション上色々な難しさがあるのではないかとの懸念から、前回の基準改定の前の展望レポートには基準改定を取り入れませんでした。今回どうなるかについては、今回の展望レポートにおける政策委員の判断によるということになります」

過去の例からみて、今回、展望レポートにおける2011年度のCPI見通しには、基準年の変更による影響は取り入れない可能性はある。ただし、前回の2006年の際の基準年の変更による影響についてはこの年に量的緩和政策の解除(2006年3月)、またゼロ金利政策の解除(2006年7月)を行っていた点にも注意は必要となる。それぞれの解除要件を満たすためには基準年変更の影響は取り除いておく必要があった。

西村副総裁の発言からは、基準年変更の影響については政策委員の判断に委ねるとしており、「思っていたよりも大きかったというようなことが起こる可能性は考慮しておく必要がある」との発言からは、西村副総裁自らはその影響を取り入れる可能性があるのではないかと思われる。それに対して包括緩和の効果を見通しにも示す必要性を強く意識している日銀関係者もいるとみられ、このあたりの意見統一をどのようにはかるのか。それとも本当に基準年変更の影響は政策委員各自の判断に委ねるのか。このあたりの動きにも注目してみたい。


2010.10.21「時間軸の設定はさほど強固なものでない可能性も」

日銀は2001年3月に決定した量的緩和政策を、全国消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の前年同月比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで続けるとした。2003年10月には量的緩和政策継続のコミットメントをさらに明確化した。

具体的には「消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上」という条件について、第一に直近公表の消費者物価指数の前年比上昇率が単月でゼロ%以上となるだけでなく、基調的な動きとしてゼロ%以上であると判断できること(具体的には数ヶ月均してみて確認)、第二に消費者物価指数の前年比上昇率が先行きについても再びマイナスとなると見込まれない、日銀政策委員の多くが「展望レポート」における記述や政策委員の見通し等により、見通し期間において、消費者物価指数の前年比上昇率がゼロ%を超える見通しを有していること、さらに、これらが満たされても、経済・物価情勢によっては、量的緩和政策を継続することが適当であると判断する場合もあることを明らかにしたのである。

これに対して、2010年10月5日に日銀の金融政策決定会合にて決定した包括緩和政策においては、「中長期的な物価安定の理解」に基づき、物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで、実質ゼロ金利政策を継続していくとしたのである。ただし、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、問題が生じていないことを条件とした。

「中長期的な物価安定の理解」とは2006年3月に導入されたものであり、「金融政策運営に当たり、各政策委員が中長期的にみて物価が安定していると理解する物価上昇率」である。これは2009年12月18日の決定会合においてさらに明確化され「消費者物価指数の前年比で2%以下のプラスの領域にあり、委員の大勢は1%程度を中心と考えている。」としている。つまり中心は1%程度となる。

包括緩和政策によるゼロ金利政策の解除条件に関し、白川日銀総裁は10月5日の会見で次のように語っている。「こうした枠組みは、インフレーション・ターゲティングの長所と呼ばれるものを最大限取りこんだ上で、インフレーション・ターゲティングの短所と言われている物価以外の要素に対する配慮が行き届かないというところにも十分目配りをした」

今回の包括緩和策において、ゼロ金利解除の条件を中長期的な物価安定の理解(コアCPIの1%程度)に基づくものとしたことにより、前回の量的緩和政策の解除条件(基調的な動きとしてゼロ%以上)よりもハードルを高くしたと認識された。これはかなり強固な時間軸の設定と受け止められたのである。

しかし、前回の量的緩和解除には「消費者物価指数の前年比上昇率が先行きについても再びマイナスとなると見込まれない」などかなりの足かせをはめていたことに対し、今回のゼロ金利解除の条件は数字上は確かにハードルは引き上げられてはいるが、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し問題が生じていないことを条件とするなど逃げ道も作られている。

さらに西村副総裁は20日の広島県での講演で、以下のように述べている。

「先日の決定会合では中長期的にみてこの物価上昇率が見通せる状況になったと判断するまで、実質ゼロ金利政策を継続することを確認しました。ここで強調させて頂きたいことは、日本銀行は足もとの物価上昇率ではなく先行きに想定される物価上昇率の動きが、中長期的な物価安定の理解と整合的かを判断基準としているということです。」

前回の量的緩和解除の条件は足元のCPIの数字を使っていたのに対し、今回の解除の条件は「先行きに想定される物価上昇率の動き」としていたのである。日銀のサイトにアップされた西村副総裁の講演の要旨には、これについて次のような脚注があった。「これは、予測、英語でいえばフォーキャストですが、これが目標値に達するかどうかを判断基準とする「フォーキャスト・ターゲッティング」と呼ばれる考え方に近いといえます。」

白川総裁は5日の会見で、中長期的な物価安定の理解に関して次のようにも発言していた。「機械的な公式があり、この公式で金融政策が運営できるのであれば、そもそも中央銀行はいらないわけです。」

白川総裁と西村副総裁の発言内容からみる限り、今回のゼロ金利政策の解除についてはかなり裁量余地があるようである。西村副総裁は世界的な信用バブルの生成・崩壊において、金融面での不均衡の蓄積といった重大なリスクが見過ごされた結果、長い目でみた経済・物価の安定が損なわれた経験から学ぶことも大事と指摘したが、今回の包括緩和政策では量的緩和や信用緩和とともに、強力な時間軸の設定がバブル形成に繋がるリスクも配慮し、そのような気配が生じた際には、「機械的」にではなく「機動的」にゼロ金利政策の解除がありうることを示したものと思われる。

今後の消費者物価指数について見てみると、来年8月に発表される2011年7月分から基準年が2005年から2010年に変更される。前回の基準年の変更の際には0.5%の下方修正が行われたが、今回も0.3%から0.4%程度の下方シフトが起きる可能性が予想されている。また、来年の10月からは今年のタバコの増税によるプラス寄与が剥落してさらに0.2%下方シフトする見込みである。このため来年度のコアCPIはマイナスで推移する可能性が高い。足元コアCPIの1%超えによる機械的な解除は、少なくともあと数年は待たなければ難しいとみられているが、日銀はどうやらそれを待たずしてゼロ金利政策を解除する可能性を残していると思われる。


2010.10.21「消費者物価指数の基準年の変更による影響」

10月20日の西村清彦副総裁による広島県での講演の内容が日銀のサイトにアップされ、昨日はその脚注にあった「フォーキャスト・ターゲッティング」を取り上げたが、もうひとつ重要が箇所がやはり脚注に潜んでいた。これは消費者物価指数に関する以下の脚注である。

「消費者物価指数については、やや技術的ではありますが、基準改定の影響にも留意する必要があります。2005年から2010 年への基準年の変更は、来年夏に行われる予定です。一般に、消費者物価指数の前年比は、基準年から先に進むほど実勢よりも強めに算出されやすく、こうした統計上の歪みは、基準改定の際に修正される傾向があります。つまり、来年の基準改定で、消費者物価指数の前年比が下方に改定される可能性が高いということです。その改定幅を現段階で見積もるのは難しいのですが、後から振り返ってみると、消費者物価指数の下落幅は、思っていたよりも大きかったというようなことが起こる可能性は考慮しておく必要があります。」

この消費者物価指数の基準年の変更による影響については、岩田一政前副総裁が著作の「デフレとの闘い」で次のように述べている(221ページ)。

2006年8月の消費者物価指数の基準年の変更について「私は、過去において改定ごとに改訂幅が拡大傾向にあることに鑑みて、0.3-0.4%程度の下方修正を見込んでいた。日本銀行内部では0.2-0.3%の下方修正を見込む向きが多かったように思う。しかし、実際には。薄型テレビ、DVDレコーダ、携帯電話などデジタル製品が新たに採用され、品目ごとに価格指数を算出するモデル式の変更(電話料金関連での引き下げ)や品目別ウエートの変更(デジタル式カメラ)も重なり、結果的にはより大幅の0.5%の下方修正が行われた」

10月28日には展望レポートが発表されるが、この中で実質GDPが下方修正されるとともに、コアCPIについても下方修正されるとみられ、特にCPIについては基準年の変更による影響が加味されるのかどうかも注目される。なぜならば包括緩和の解除条件がCPIをターゲットにしているおり、見通しが下方修正されればその分、ハードルが引き上げられることになるためである。もちろん「フォーキャスト・ターゲッティング」となっている点に注意する必要もあるが。

みずほインベスターズ証券の落合チーフマーケットエコノミストは、この消費者物価指数の基準年の変更による影響等に関して以下のような分析を行っている。

「来年7月に発表される6月分までは2005年基準であり、4月分からは公立高校授業料無料化の影響が剥落して0.5%程度上方にシフトするため、瞬間的にコアCPIがプラスになる可能性が多少ある。しかし、8月に発表される7月分からは2010年基準が公表され、5年前の例に倣えば0.4%の下方シフトが起きてコアCPIは再びマイナス圏に沈む。さらに10月からタバコの増税によるプラス寄与が剥落してさらに0.2%下方シフトする。こうして、2011年後半には再び0.5%以上のマイナス圏で推移することとなり、物価安定の理解である1%を展望する状況には至らないだろう」

来年の消費者物価指数の基準年の変更による影響については、現状では0.3%から0.4%程度の下方シフトが起きる可能性が予想される。昨日の会見ではこれについて西村副総裁は、これを展望レポートの見通しに織り込むかどうか明確なことは言えないとし最終的には各委員の判断と述べたそうだが、政策委員によって織り込む織り込まないとバラバラとなっては整合性がとれないため、織り込むことを前提に見通しを出すのではないかと思われる。

ちなみに今年7月の展望レポートの中間レビューにおける2010〜2011年度の政策委員のコアCPIについての見通しは、2010年度がマイナス0.4%、2011年度がプラス0.1%となっていた。これには高校授業料無償化の影響(0.5%程度)は勘案されていない。少なくとも2011年度の見通しはマイナスとなる可能性は高いが、どの程度のマイナス幅となるのか。そのあたりのさじ加減(?)にも注目したい。


2010.10.2「埋蔵借金」

朝日新聞によると、政府の行政刷新会議(議長・菅直人首相)は、特別会計の借金のうち、農林水産省所管の「国有林野事業特会」など3特会の計3.8兆円について、返済見通しが立たないか、返済計画が超長期にわたる塩漬け状態にあるとして、原因を解明し特会自体の廃止も含めて検討する方針を決めた。7省所管の全18特会51勘定を対象に、すべての特会を事前調査した結果、この3.8兆円には一般会計よりも実態が見えづらく、無駄の温床ともいわれる特会の問題点が凝縮されていると判断した。

労働保険特会など8つの特会を財源とする48事業を重点仕分けとすることも決めたとし、特会の債務問題を浮き彫りにすることで、事業仕分けでの財源捻出に関する政府・与党の期待を牽制する思惑があるとしている。もしそうであるとすれば今年度の歳入の中にある「その他収入」に組み入れられた「埋蔵金」について、来年度についてはあまり期待しないよう牽制する狙いがあるのであろうか。

日経新聞では、返済見通しの立たない累積債務がどの程度あるかなどを調査し、一般会計と合わせた国全体の財務状況を把握するのが狙いとし、今度の事業仕分けでは返済見通しが不透明なものを抽出するとともに、一般会計と区分する理由のない特会は廃止し、一般会計化する方針とも伝えた。ただし、実際に特会を廃止するには特会法の改正が必要になるため、事業仕分けで廃止と判定されても、今国会での法案提出はされず来年度予算に反映されない。

国の一般会計のみならず特別会計を合わせての累積債務の把握は、今後の財政再建をはかる上でも必要なものであるはず。今回の特別会計における事業仕分けの動きはこれまで以上に注目すべきものとなりそうである。

ここであらためて特別会計とは何かについて見てみたい。財務省のサイトには「特別会計のはなし」というページがある。 「特別会計のはなし」 http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/tokkai2207.htm

この中で特別会計に関して次のような説明がある。

「国の会計は、毎会計年度における国の施策を網羅して通覧できるよう、単一の会計、つまり、「一般会計」で一体として整理することが、経理の明確化、財政の健全性を確保する見地からは望ましいものとされています。これを単一会計主義の原則と言います。しかしながら、現在のように、国の行政の活動が広範かつ複雑化してくると、受益と負担の関係や事業ごとの収支が不明確になり、また、その結果として、適正な受益者負担・事業収入の確保が難しくなるなど、単一の会計ではかえって国の各個の事業の成績計算、資金の運営実績等について適切な計算、整理ができない場合もあります。そこで、このような場合には、特別の会計を設け、一般会計と区分して経理を行っています。」

今回の事業仕分け第三弾では、特会を廃止して一般会計に移すことも検討されるようだが、ただ、一般会計化すれば借金を一般納税者の税金で返済することにつながるため、財務省は「受益と負担の関係が不明確となり、国民負担の増大に理解が得られない」と難色を示していると朝日新聞にあったが、まさに同様のことが上記にも記述されている。


2010.10.20「フォーキャスト・ターゲッティング」

日銀の西村清彦副総裁は広島県での講演において、先日の決定会合で決定した包括緩和における時間軸の強化に関して次のように発言した。(以下、日銀サイトより)

「先日の決定会合では、中長期的にみてこの物価上昇率が見通せる状況になったと判断するまで、実質ゼロ金利政策を継続することを確認しました。ここで強調させて頂きたいことは、日本銀行は、足もとの物価上昇率ではなく、先行きに想定される物価上昇率の動きが、「中長期的な物価安定の理解」と整合的かを判断基準としているということです。」

日銀のサイトにアップされた講演の要旨には、これについて次のような脚注があった。「これは、予測、英語でいえばフォーキャストですが、これが目標値に達するかどうかを判 断基準とする「フォーキャスト・ターゲッティング」と呼ばれる考え方に近いといえます。」

つまり今回の時間軸の設定はインフレ・ターゲットではなくフォーキャスト・ターゲット、つまり先行き予測の数値を目標値としていることを西村副総裁は強調したのである。今回の時間軸の強化により、中長期的な物価安定の理解、つまりそれはコアCPIの1%近辺を目標値として捉えることで前回の量的緩和の際の目標値であったゼロ近傍からハードルを上げてきたが、あくまでその数値が展望されるまでということであり、足元の数値が1%を超えるまで待つということではないことを意識した発言であろう。西村副総裁は下記のように続けている。

「長い目でみて物価安定を実現していくためには、金融政策の効果の浸透には時間がかかる事を考えれば、足もとの短期的な物価上昇率だけでなく、先行きの物価上昇率がどのように推移していくかを予測し、それと中長期的な物価安定の理解との整合性を考えていく必要があります。」

強力な時間軸の設定は、バブル形成とその後のデフレ圧力といったリスクを負うことも強調し、市場における過度な期待に注意を投げかけている。つまりこれは足元コアCPIが前年同月比で1%程度にならずとも、先行きその可能性が強まったとき、また株式市場などを通じてバブル的な動きを示すようなことが起きれば、包括緩和政策を解除する可能性を示している。つまりは具体的な数値に縛られているのではなく、政策変更にはある程度の裁量余地があることを示したものとも取れる。それは以下の発言からも読み取れる。

「さらには、今回の世界的な信用バブルの生成・崩壊において、金融面での不均衡の蓄積といった重大なリスクが見過ごされた結果、長い目でみた経済・物価の安定が損なわれた経験から学ぶことも大事です。つまり、足もとの物価が安定していることに安心し、「バブル」のような金融面の不均衡の蓄積を見過ごすことがあれば、「バブル」崩壊後に再び持続的な物価下落に直面するといった可能性もあります。今回の時間軸の明確化においても、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、問題が生じていないことを、実質ゼロ金利政策を継続する条件としています。」


2010.10.20「通貨安競争にブレーキがかかるのか」

22日から韓国の慶州で開く20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、通貨安競争回避に向けてフレームワークと呼ばれる政策協調の枠組みを検討すると伝えられている。このG20を前にして早速動きが出てきている。

ガイトナー米財務長官は18日にカリフォルニア州の講演で、米国は強いドルへの信認を維持するとし、通貨切り下げ競争に加わることはないと表明した。米国では11月のFOMCでの量的緩和策の拡大(QE2)観測が強まり、FRB関係者の講演内容などが注目されていたが、久しぶりに財務長官の発言が市場にインパクトを与えた。FRBの追加緩和もドル安政策の一貫とも捉えられることで、ガイトナー発言はG20を控えて、いまさらながらではあるが、米国が通貨安政策へ傾倒していないという姿勢を示したものと思われる。

そして、昨日、中国人民銀行は2007年12月以来となる利上げを実施した。8月の中国CPIが前年同月比で3.5%の上昇となるなどインフレ懸念をその理由としている。しかし、18日の講演でガイトナー財務長官は、中国の人民元は大幅に過小評価されているとして一段の切り上げ努力を求めていたが、G20を前にして利上げを行うことで米国からの人民元問題に対処したようにも取れる。

そしてユーロについても通貨安修正のような動きが見えた。ドイツ連銀のウェーバー総裁はECBによる国債購入は効果がないとして恒久的停止に向け段階的に縮小をと措置廃止を公然と要求したのである。こに対しトリシェECB総裁は「それは理事会の多数派の意見ではない」として突っぱねたそうである(10月20日付日経新聞)。

タカ派中のタカ派ともみられているウェーバー総裁は8月に、ECBの緊急融資措置を解除する時期を決定するのは、年末越えの流動性確保で市中銀行を支援した後の来年1〜3月にすべきと発言した。これは金融緩和策の長期化を示唆したと受け止められ、これによりユーロ安が進行した経緯があった。あのウェーバー総裁までもユーロ安政策に加担かともみられていたが、どうやらここにきて本来のタカ派の姿勢に軌道修正することで、通貨安政策への避難を逸らしてきた可能性がある。ちなみにウェーバー総裁は次期ECB総裁の有力候補である。

こういった一連の動きの中、白川日銀総裁は朝日新聞の単独インタビューで景気が悪化した場合は基金増額は有力な選択肢と述べ、追加の量的緩和に踏み切る考えを示唆した。G20を前にして各国がそれとなく通貨安政策回避の動きを示しているにもかかわらず、円高回避を意識しての追加緩和への姿勢を見せてしまったことは、少しタイミングが悪かったように思われる。ただし、各国の通貨安政策により最も被害を被ったのが日本でもありそれを考えれば致し方ないことかもしれない。また、昨日にFRBの複数の当局者も追加緩和、つまりQE2が近いことを示唆するなどしており、白川総裁だけを責めるわけにはいかないか。

いずれにせよ、今回のG20の動向には今後の為替の動き予測する意味でも、一段の注意が必要となりそうである。


2010.10.19「祝、債券先物上場25周年」

1985年10月19日に日本で最初の金融先物取引となる長期国債先物取引が上場した。いわゆる日本での債券先物の登場である。あれから今日でちょうど25年が経過した。日本で本格的なデリバティブ商品が登場して四半世紀を迎えるという記念すべき日である。

1985年といえばプラザ合意を思い出す方もいよう。1985年9月22日にニューヨークのプラザホテルに秘密裏にG5と呼ばれた国(日本、アメリカ、イギリス、フランス、西ドイツ)の蔵相・中央銀行総裁が集まり、アメリカの貿易赤字と財政赤字の「双子の赤字」問題を是正するため、ドルを引き下げる方向で合意したものである。

プラザ合意が発表される前のドル円相場は1ドル242円であった。そして、合意発表後に開いた23日のニュージーランド市場では1ドル234円程度まで円高ドル安が進行した。ところが、大蔵省と日銀が必死の努力でドルを売り、口先介入などを行っても、そこからなかなか進まなかったのである。

そこで日銀は、10月25日に短期金融市場を操作して「第二の公定歩合」といわれた短期金利の高め誘導を実施した。短期金利を高くすることで、ドル売り・円買いの動きを誘ったのだ。当時の政策金利である公定歩合をいったん引き上げてしまうと、引き下げには決定会合を開くなどして、しっかりと理由を示して実施する必要がある。その点、短期金利の高め誘導は一時的な処置であり、必要なくなればすぐに元に戻せる。日銀のオペで2カ月物の手形レートは0.5625%上昇して7.125%となり、コールレートも上昇した。

債券先物にとってこのタイミングは最悪であった。短期金利を無理やり上げたことで、長期金利にも上昇圧力が加わり、債券が売られる展開となった。債券先物には大量の売り注文が殺到。そうでなくてもJGB先物は始まったばかりで、ご祝儀による大量の買いポジションを抱える証券会社が多かった。このため売りが売りを呼ぶ展開となり2日間値がつかないという大混乱となったのである。10月24日のJGB先物は101円63銭で引けていたが、25日、26日は値が付かず、ストップ安で張り付いたままとなった。28日にようやく96円63銭で寄り付いたものの、その後も下げて、11月14日に安値89円82銭を付けて、ようやく底入れしたのである。実に12円近い下落であった。

「日本国債先物入門」より。

10月22日には、韓国でG20が開催される。この会合ではプラザ合意と同様に通貨問題が話し合われるとみられる。ただし、今回はドル安ではなく、世界的な通貨安競争に関して話し合いが行われる見通しとなっている。


2010.10.19「アップル VS アンドロイド」

アップルの7〜9月期決算は益と売上高がともに市場予想を上回った。これはiPhoneとiPadの需要が好調だったことが大きかったが、iPadについては出荷台数は420万台となっていたが、市場予想には届かなかった。

現在のスマートフォン市場はアップルのiPhoneが牽引していることは間違いない。また、iPadは新たな小型ノートパソコンとして需要を掘り起こしていることも確かである。しかし、現在のスマートフォン市場の動きを見ると、このiPhoneとiPadの天下が崩れる可能性がありそうである。

個人的にもMACは好きで、ネットが流行りだした1995年頃にはデスクトップ、そしてノートブックそれぞれマックを使っていた。当時のウインドウズのネット機能が貧弱でマックのほうが優れていたためであるが、それとともに洗練されたデザインも気に入っていた。しかし、その後はネット機能でもウインドウズがマックに迫り、さらに価格の低下、そしてなんといっても自由度の大きなウインドウズのほうが使い勝手が良くなり、次第にマックからは遠ざかった。

マックはその後、iPodで盛り返しその勢いに乗って、iPhoneとiPadというメガヒットに繋がっている。iPadに対してはソニーなどが対抗商品を出していたが結果、敵わなかった。これはiPodが音楽さらに動画機能に特化していたことが大きかった。つまり、対抗商品がデザイン等で優れるiPodに対抗しうる差別化できる機能を加えることができなかったためである。

しかし、iPhoneとiPadについてはPDAや小型パソコンと同様に多機能な端末である。差別化の難しい音楽や動画機能に絞ることが出来ない分、自由度に勝るウインドウズにシェアが奪われたと同様のことが起きる可能性がある。現実にここにきて着実にシェアを伸ばしつつあるアンドロイドがウインドウズと同様に、独り勝ちとなっているマックの牙城を取り崩しつつある。

果たしてアンドロイドがシェア拡大が図れるかどうかは、機能面での優越というよりも価格とアプリによるものと思われる。また、マックが単独でiPhoneとiPadを出しているため 、多様な種類のものを出すには限界がある。しかし、アンドロイドは多くの企業が参入していることで多様な種類のものがすでに出ており、低価格のものも出ている。つまり選択の余地が広がる。

さらにマックのアプリの審査は厳しいため、その分良質なアプリが多くなるものの、その半面、自由度は大きくない。たとえば、マックでは審査が通らないとみて、アンドロイドで個人が簡単に価格をつけて電子出版できるソフトを開発した技術者がいた。iPadで閲覧できる電子書籍を個人が気軽に作れることは現状は想像できないが、これがアンドロイドならば実現可能となっている。このあたりの自由度は多機能端末としてみれば、今後のシェア拡大に大きな影響を持つことが予想される。

ちなみに私が持っているのはXperiaである。


2010.10.18「FRBもインフレターゲットに近づく時間軸の強化を実施か」

10月5日に日銀が決定した包括緩和において最も影響が大きいものは、強力な時間軸効果と思われる。今回、日銀は実質的なゼロ金利に戻したが、この利下げによる効果は限定的である。 それよりも2006年3月まで実施された量的緩和政策の解除条件が消費者物価指数(除く生鮮)が安定的にゼロ%以上となることであったのに対して、今回のゼロ金利政策の解除の条件は「中期的な物価安定の理解」に基づく1%近辺となり、前回よりも解除に向けてのハードルをさらに上げてきたのである。

これは擬似的なインフレターゲット政策ともとれる。白川総裁は包括緩和を導入した5日の会見で、このインフレターゲットについて以下のように発言している。

「(今回の政策について)インフレーション・ターゲティングの長所と呼ばれるものを最大限取りこんだ上で、インフレーション・ターゲティングの短所と言われている、物価以外の要素に対する配慮が行き届かないというところにも十分目配りをした」

15日のボストンでの講演で、FRBのバーナンキ議長は、インフレターゲットに関する具体的な言及は避けたものの、次のような発言をしている。

Committee could consider, if conditions called for it, would be to modify the language of the statement in some way that indicates that the Committee expects to keep the target for the federal funds rate low for longer than markets expect. (FRBのサイトより引用)

これまでのFOMCの声明文には超低金利政策を、長期間に渡って(for an extended period)続けることを表明しているが、その文面を市場の期待以上に強化する考えをバーナンキ議長は示したのである。

さらに、16日のボストンでシカゴ連銀のエバンス総裁は「FRBはインフレが目標を上回るのを当面大目に見ることで、低すぎる水準のインフレを容認できる水準に戻すことが可能になろう」と述べている(WSJネット版より)。

具体的には「安定的な物価上昇率軌道が2%だとして、インフレ率がかなりの期間その水準を下回って推移するならば、安定軌道へ復帰するまでしばらくインフレ率が2%を上回るのを許容する」というもので、これはインフレターゲット導入を視野に入れた発言と言える。

インフレターゲットについては、白川総裁が指摘した短所、つまり「物価や通貨の安定を損ねる危険性」を持ち合わせていることで、バーナンキ議長は具体的な言及は避けたが、エバンス総裁はやや踏み込んだ発言をした。

バーナンキ議長、そしてエバンス総裁の発言からは、11月のFOMCでは市場が期待する国債の買入れとともに、インフレターゲットの長所を織り込むかたちで、時間軸効果をさらに強化する姿勢を示すことが推測される。つまり日銀の包括緩和に近い内容になるのではないかと推測される。日米ともに政策金利を低下させる余地のない中、過去にゼロ金利政策、さらに量的緩和政策を経験してきたいわば先駆者(?)である日銀の政策を、FRBはかなり意識していることは確かであろう。


2010.10.15「債券相場は引き続き超長期債の動向に注意」

10月8日に発表された9月の米雇用統計では、非農業雇用者数が9.5万人減と予想を大きく下回り、FRBによる追加緩和期待が強まった。8日の米国債券市場では2年債利回りが一時0.3351%、また5年債利回りも1.0686%とそれぞれ過去最低を更新し、10年債利回りも2.3302%まで低下した。12日に発表されたFOMCの議事要旨を受け、追加緩和観測がさらに高まるものの入札を控えて米債の上値は重くなった。12日の3年債、13日の10年債、さらに14日の30年入札はそれぞれ低調な結果となったことで、米債は超長期主体に売り圧力が強まり、14日に30年債利回りは3.9%台に、また10年債利回りも2.5%台に上昇。

日本でも14日に30年国債の入札が実施されたが、こちらはテールが10銭と前回の41銭から大きく縮小するなど無難な結果となった。しかし、8日に乱高下していた超長期債はその後も不安定な動きを見せており、上げ下げを繰り返しながら利回りは上昇基調となった。大手銀行が超長期債を売却し中長期債に資金をシフトしているとの見方もあったが、今後の財政悪化への懸念なども背景にあったものと思われる。債券先物も144円を割り込み143円70銭近辺まで売られ、10年債利回りも一時0.9%近辺に上昇してきた。しかし、この水準では投資家の押し目買いも控えており、やや下げ渋りの状況となった。

来週にかけては日米ともに超長期債の動向に注意したい。日銀の包括緩和、さらにFRBによるQE2とも呼ばれている追加の量的緩和期待により、中短期債の利回りは低下圧力が強まる半面、超長期債は将来のインフレへの懸念などを織り込んで売られ、イールドカーブはスティープ化している。

日本での超長期債への売りは大手銀行からのまとまった売りがきっかけと見られているが、その後は不安定な相場が続いており、本来の投資家層である生保なども投資に慎重となっている。また、米国債での超長期ゾーン主体の売りも円債の上値を重くさせている。その米国ではFRB関係者による講演が19日を中心に数多く予定されていることで、その発言内容も注目されよう。

また、日本国内では19日に5年国債、そして21日には20年国債の入札が予定されている。5年債入札は問題はなさそうだが、20年債の入札動向には市場関係者もかなり神経質となりそうである。特に20年ゾーンでの大手銀行の存在が大きくなりつつあるため、その動向が注目される。入札結果によっては相場の居所が変化してくる可能性がある。また、外為市場の動きにも警戒したい。ドル円は80円割れを試す可能性もあり、それを受けての株式市場動向などにも注意したい。


2010.10.14「奇跡の救出劇に学ぶこと」

チリ、サンホセ鉱山での落盤事故からの救出劇は世界中に注目を集めたが、無事に33人の作業員が救出された。救助ルートの掘削やフェニックスと呼ばれた救助カプセルによる救出活動も見事なものであったが、それ以前に落盤事故から33人の無事が確認される17日間、大きなパニックも起こさず少ない食料で耐え続けたこと自体が大きな奇跡とも言える。それには33人の強靭な精神力とともに、現場監督による強いリーダーシップが発揮されたことが大きかったようである。

日本でのリーダーシップは、欧米のリーダーのようにグイグイと引っ張り上げるよりも、協調性を重視して発揮されることが多い。日本の首相がまさに典型的な例かと思われる。与党を束ねるには何よりも協調性が必要のようである。しかし、その分、欧米諸国に比べると国のトップの決断による意思決定がみられず、特に民主党政権となってからは、尖閣諸島での問題など、トップが何を考え何を指示したのかすらわからないような状況となっている。

いずれ日本でも財政危機が起こるであろう。このまま巨額の債務残高が増え続ければどこかでギブアップとなる。しかし、それまでに国民に理解を求めて大幅な歳出削減なり、消費税増税を決断しなければならない。それにはサンホセ鉱山のリーダーのような存在が必要となるのではなかろうか。今後のエスペランサ(希望)を少しでも見出すためには、この決断は早ければ早いほど良い。


2010.10.13「中国による短期債大量売却の影響」

10月8日に財務省が発表した8月の国際収支統計によると、「本邦債券に対する対内証券投資(地域別内訳)」において、中国が8月に短期債を差引で2兆285億円売却していたことが明らかになった。中長期債については差引で103億円購入となっていた。今年の1月から7月にかけての累計買越額は2兆3157億円となっており、そのほとんどを8月単月で売却していたことになる。

外貨準備を管理する中国の国家外貨管理局は運用方針について「ドル、ユーロ、円など主要通貨のほか新興国の通貨で構成する」とし、2008年のリーマン・ショックをきっかけにドルに偏った外貨準備の運用を多様化する方針を表明し、それが結果としてユーロの比率を高めることとなった。しかし、ギリシャの財政問題により今年に入りユーロが下落したことで、外貨準備の増加分をユーロからドル、そして円に振り向けたことで、中国による日本国債購入の増加につながったとみられる。

ところが6月7日の1.1877ドルを目先の底に、ユーロドルが回復基調となったことから、円に振り向けていた資金を再びユーロなどに振り向けた可能性がある。つまり一時的にユーロから円に逃避していただけとも言える。また、円高が急激に進行していたことでそれに乗った上で、タイミングを計り利益確定売りが入った可能性もある。

尖閣列島問題などによる日中関係のこじれから政治的な背景があったのではとの憶測も出そうだが、そもそも尖閣列島での中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突したのは9月7日である。さらに何らかの政治目的で国債を売り買いするならば短期債では長期債に比べてあまりに影響が小さい。今回は政治的な意味での売却とは考えにくい。

今回の中国による日本国債のポジション調整を見る限り、安定した日本国債への海外投資家の参入として中国を捉えるべきではないと思われる。しかし、今後も為替動向によっては再び日本国債への資金シフトが起きることも考えられる。その際も当面は短期債主体となり、今後の政治的配慮を含めての長期債投資は控えられる可能性はある。ただし、方針がいきなり変わる可能性もないとは言えず、今後の日本国債の需給に少なからず中国が影響してくることも想定しておく必要はある。

今後、日本国債への海外投資家による保有増は、保有層の裾野を広げる意味で必要不可欠である。特に国内資金でカバーできる余裕が残り少なくなりつつある中、いずれは海外投資家にある程度頼らざるを得なくなることで、海外の保有比率の引き上げは大きな課題である。その中にあり、中国への期待も大きくなる可能性があるが、過剰な期待はどうやら禁物か。

そして、今回の中国による日本国債の売却で明らかになったものに為替への影響の度合いがある。中国による日本国債の購入を円高要因として指摘する声があったが、金額から見てもその影響は少ないと見ていた。実際に8月は単月で2兆円を超える売却を行っていても、それによる円売りの影響は限定的であったとみられ、為替市場でも中国による日本国債の売買に神経質になる必要はなさそうである。


2010.10.12「FRBによる国債買入れの過去とQE2」

米国の連邦準備制度理事会(FRB)は2009年3月18日の公開市場委員会(FOMC)において今後6か月間にわたり、最大3000億ドル分の長期国債の買い入れに踏み切った。これは信用緩和政策の一環と位置付けモーゲージ金利の低位安定を期待したエージェンシーMBSの購入等を補完することを目的としていた。

FRBによる国債の買入れは、1961年から1965年にツイスト・オペレーションというかたちで行って以来であった。このツイスト・オペとは、長期国債を購入するとともに短期国債を売却することにより、イールドカーブのフラット化を促すというものであった。この際の目的はリセッションと貿易赤字に同時に対応するためであった。金融政策という意味からは、ツイスト・オペは新たな資金が供給されるわけではないため、金融緩和政策とはならない。しかし、昨年2009年3月のFRBによる国債買入れは目的は信用緩和とは言え、結果からみれば追加的な資金供給ともなり、量的緩和とも言える。

ちなみに、それ以前のFRBによる国債買入れは1937年4月に「秩序ある市場を守るという観点から必要であろう」として行われている。(富田俊基氏「財務省・連銀によるアコードの検証」より http://www.nri.co.jp/opinion/chitekishisan/2004/pdf/cs20040108.pdf)

そして、市場では11月のFOMCでFRBによる国債の買入れ再開の可能性を織り込みにきている。この国債の買入れ再開のことをQE2と呼ぶ市場参加者もいる。これはもちろん豪華客船の名前ではなく、「Quantitative Easing 2」、つまり量的緩和策パート2ということである。

それならば、今回の日銀の包括緩和も、QE2もしくはゼロ金利政策パート3と表現しても良いかもしれない。映画ではパート3あたりで打ち止めのものが多いが、果たして続編もあるのかどうか。といったことはさておき、次回のFRBは本当に国債買入れの再開を行ってくるのかどうか。

日銀が予想以上の積極策に出たことで、FRBもこれをかなり意識せざるを得ないはずである。ただし、注目すべき為替レートはむしろ円高ドル安が進行していることを見る限り、日銀のようにできるものを無理やり詰め込むようなことをせず、ある程度市場の要求に応じれば良いとの認識になる可能性もある。

追加緩和については、2009年と同様にあらかじめ国債の購入枠と期間を設定する可能性とともに、購入額を徐々に増加させていく手法が取られる可能性についても指定されている。果たして11月にFRBはどのような結論を導くのか。さらに、その目的を何に置くのか。このあたりに注目してみたい。


2010.10.8「超長期債の動きに注意」

10月4日から5日にかけて開催された日銀の金融政策決定会合では、実質的なゼロ金利政策、時間軸の明確化、さらに国債を含めた資産買入等の基金創立を検討するという包括的な金融緩和策の実施が発表された。追加緩和は新型オペの拡充にとどまるとの見方が強かったことで、日銀の積極的な追加緩和を受け、現物債は中長期債主体に買い進まれた。

FRBによる大幅な追加緩和観測も出たことで米債も買い進まれ、5日に米10年債利回りは一時2.43%に低下した。米債高も加わり6日に債券先物は144円台に乗せ、一時144円31銭まで上昇した。10年債利回りも0.820%まで低下し、5年債利回りも0.200%と2003年6月以来の水準に低下。超長期債20年債の利回りも1.630%に低下した。

7日に実施された10年国債の入札はそこそこ無難な結果とはなったが、さすがに急ピッチの相場上昇の反動から週末にかけて超長期債主体に売り込まれた。8日に20年債利回は1.790%まで上昇し、30年債利回りも前日比15毛甘の1.975%まで急上昇した。銀行勢が外しにかかったとの見方もあるが、日銀の包括緩和により将来のインフレ懸念や、今後の財政の緩みなども懸念されて海外勢などが超長期債主体に大きく売ってきた可能性もある。

しかし、この日は引けにかけて今度は投資家の押し目買いが入り、30年債は1.9%割れ、20年債も1.7%割れとなり債券先物も143円98銭まで買い戻されるなど波乱含みの展開に。

日銀による予想外の包括緩和では、債券相場に対し実質ゼロ金利政策の影響は限定的ながら、強力な時間軸効果による影響は大きい。ゼロ金利政策の解除の条件を今回は中期的な物価安定の理解に基づいていることで、それが1%となり、解除に向けてのハードルはかなり高い。また残存期間期間が1〜2年、長期国債と国庫短期証券と合わせて合計3.5兆円程度の国債買入れも買い材料となる。

ただし、超過準備に対する付利を0.1%に据え置いたことで、国債の利回りも0.1%以下には下がりにくい。すでに2年債利回りは一時0.1%に低下したこともあり、中期ゾーンについては利回りの下げ余地は限定的となる。その分、10年債あたりまでの買いが入りやすくなり、いずれ2003年6月につけた史上最低利回りの0.43%を目安に低下基調となる可能性がある。

ただし、2003年6月の相場急落も経験しているため警戒感も強い。特に問題となるのは超長期ゾーンか。中期債の利回り低下余地が少なくなるため、利回りを求めて超長期債まで投資が広がる可能性がある。しかし、その半面、信用緩和や今後の財政悪化、さらに長い目で見たインフレリスクなども意識されて、超長期債には仕掛け的な売りも入りはじめており、14日の30年国債の入札も控えて、当面は波乱含みの展開となる可能性がある。


2010.10.7「日銀の長期国債の買入れについての認識」

10月5日に決定された日銀による包括緩和の中で、長期国債の買入れについて白川総裁は会見で次のように述べている。

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1010a.pdf

「先進各国の中央銀行は、いずれも資金供給オペレーションにあたっての基本的な考え方を明らかにしています。日本銀行の場合、長期国債の買入れを資金供給のための主力手段の1つとして大いに活用しており、バランスシート上も最大の資産項目となっています。従って、この長期国債の買入れに当たっての基本的な考え方を明らかにすることは、金融政策運営の透明性を確保する上でも非常に重要であると考えています。」

日銀による長期国債買入れの目的はあくまで、資金供給手段のひとつであるとの認識である。たとえばECBの場合には、国債市場の安定化、市場機能の正常化そのものが目的となっている。また、イングランド銀行の国債買入の目的は、中期的なインフレ率目標を達成するためにマネーと信用の供給量の拡大を通じて名目支出を拡大させることとしている。さらにFRBについては、国債買入は信用緩和政策の一環と位置付け、モーゲージ金利の低位安定を期待したエージェンシーMBSの購入等を補完することを目的としている。

「現在実施している長期国債の買入れは、経済の成長に伴う銀行券需要の趨勢的な増加に対応して、市場に対する安定的な資金供給を目的として行っており、買入れた国債は基本的に安定的に保有することを想定しています。このため、長期国債の保有残高は銀行券の残高を上限とする運営を行っています。また、こうした運営方式であることを予め公表することは、長期国債の買入れが財政ファイナンスを目的とするものではないという趣旨を明確化することによって、長期金利のリスク・プレミアムの上昇を予防する効果も有しています。その意味で、経済の成長に伴う銀行券需要の趨勢的な増加に対応する長期国債の買入れについては、従来同様の考え方で運営していく方針です。」

日銀が2001年3月に量的緩和政策を実施した際に、国債買入れについて「日銀券の発行残高」というキャップをつけた。2001年3月19日の決定会合の議事要旨には次のような記述がある。

「景気低迷が長引いた場合に、長期国債買い切りオペの増額を求める声が強くなるリスクがあることを複数の委員が指摘した。こうした事態に備える意味で、長期国債買い切りオペで成長通貨を供給するという従来からの方針を維持したうえで、これまでの銀行券のフローではなく、発行残高を上限とする歯止めを設けるべきとの方針で、概ね認識が一致した。」

その上で、「日本銀行が保有する長期国債の残高(支配玉<現先売買を調整した実質保有分>ベース)は、銀行券発行残高を上限とする。」と決定されたのである。これは法的に縛られるものではなく、あくまで日銀の内規である。

これについては前副総裁の武藤敏郎氏がダイヤモンド社とのインタビューで次のような発言をしている。

「日銀券ルールには、理論的に明確なものがあるわけではない。日銀があまり沢山の国債を市中から買い過ぎると、日銀が禁じられている直接引き受けと、実質的に変わらなくなるので、何らかの歯止めが必要で、そこにちょうど良い指標として日銀券発行額があったということだ。」

白川総裁も国債買入れについては、財政ファイナンスを目的とするものではないという趣旨を何度も繰り返している。そもそもそれでは財政法また、財政ファイナンスと市場が捉えれば、それにより長期金利の大幅な上昇を招くリスクを懸念している。

次に今回の包括緩和における国債買入れについて、白川総裁は次のように発言している。

「一方、今回の資産買入等の基金による長期国債の買入れについては、これは短期金利の追加的な引き下げ余地が限られているという現在の情勢を踏まえて、長めの市場金利の低下を促すことを目的として実施するものです。将来に亘って、経済・物価情勢の如何にかかわらず実施していくという措置ではありません。この点は、先程の銀行券需要増加に対応した長期国債のオペとは明らかに異なるものです。今回の措置は、この包括的な金融緩和政策の一環として導入した臨時異例の措置であり、そうした趣旨を明確にするため、バランスシート上も、新たに創設する資産買入等の基金に分別管理の上、保有することにしました。また、買入れ対象となる国債は、残存期間1〜2年程度のものに限定し、長期国債と国庫短期証券を合計した具体的な買入れ額も定める予定にしています。」

包括緩和における国債買入れの目的は「長めの市場金利の低下を促す」ことにあるとしている。ちなみに、日銀の「長めの金利」とはターム物金(期日物)利のことを指すことが多い。ターム物金利とは、取引期間が2営業日から1年程度の期間の金利である。

銀行券需要増加に対応した長期国債のオペとは異なり、臨時異例の措置であることを主張している。そのため、新たに創設する資産買入等の基金に分別管理される。しかし、日銀のバランスシートに加わることは確かであり、実質的には目的は異なれど日銀券ルールに縛られないかたちでの国債買入れの増額である。

ちなみに1967年(昭和42年)1月より日銀は買入債券の対象に発行後1年経過の「国債」を追加した。この際の理由は「成長通貨の供給を目的」としたのである。


2010.10.6「あなたがほしい国債アンケート」

財務省では先月募集され10月15日に発行される個人向け国債から、その応募額を公表することとなり、ネットでも掲載された。

http://www.mof.go.jp/jouhou/kokusai/kojinmuke/houdouhappyou/p221006.htm

これによると、個人向け利付国庫債券(固定3年)第4回債が308億円、固定5年第20回債が403億円、変動10年第32回債が155億円となった。合計で865億円となり、過去最低と応募額となった。5年と10年それぞれも過去最低となった。

個人は特に金利に敏感であり、国債の安全性そのものやデフレ下にあっての国債の優位性などよりも、利回りそのものを求める傾向があることで、これだけ国債が買い進まれている状況下、個人のニーズは低迷している。

財務省は個人向けの国債の販売促進のため、商品の多様化などについてホームページ上で「あなたが欲しい国債」というアンケート調査を行うこととなり、さっそく専用ページが作られた。

https://www2.mof.go.jp/enquete/kojin_opinion.php

これまでも個人向け国債については個人的な関心も強く、微力ながらも側面支援させていただいている。個人向け国債発行の際の国債課長であった村尾信尚さん(関西学院大学学長直属教授。ニュースキャスター)、そして現在、個人向け国債も担当されている齋藤国債業務課長には昔からたいへんお世話になっていることもあり、今回のアンケート調査にも協力させていたただいた。

アンケートにお答えいただく参考のため、米国の個人向け国債である貯蓄国債の仕組みをご紹介したい。

貯蓄国債で購入できるのはSeries EEとI Bondの2種類。Series EE などからの乗り換えのみが認められるSeries HHは2004年9月に新規発行が廃止された。Series EEは2005年5月のEE Bondの金利ルール変更で変動金利から固定金利となり、何年保有しても利率は変わらない。新規発行分の金利は毎年5月と11月に見直しが行われる。

インフレ連動型のI Bondはインフレ率に応じて利率が決まるインフレ対応型の債券である。利息は毎月計上されるが換金まで利息の支払いを受けることはできない。貯蓄国債の有利な点は、米国債でありながら少ない額(25ドルから)購入できる点、ちなみに日本の個人向け国債は1万円単位。

銀行やインターネットを通じたトレジャリーダイレクトで簡単に購入できることも魅力となっている。利回りも比較的有利になっており、さらに州税や市税が非課税なのも利点。ただし、連邦税は課税されるが換金まで払う必要はない。換金は発行月から1年を超えた次の月からできる。ただし、発行から5年以内に換金する場合は、換金日の直近の3か月間分の利息をペナルティとして取られる。

貯蓄国債は国が発行する債券であり信用度が高く小額での購入が可能な上、税制上のメリットもあり、教育資金に使う場合には利息が非課税になるという利点もある。

以上が米国の貯蓄国債の概要だが、日本ではインターネットを使った財務省からの直販システムについては決済のために使われる日銀との問題や、トレジャリーダイレクトで使われている社会保障制度の番号を利用した本人確認のためのシステムが必要になるため実現性はいまのところ薄い。

また、米国の貯蓄国債では教育資金に使う場合には利息が非課税になるなど税制面の魅力だが、これも日本ではなかなか難しいようである。

日本の個人向け国債の購入層は60歳以上の高齢者が中心とみられている。このため、期間はなるべく短期のものが好まれることで3年物が発行されたが、3年物の販売も低迷している。

ただし、1年物や2年物を検討してはどうかと個人的に考えている。この期間のものでは個人向け国債を販売しているゆうちょ銀行を含めた銀行の定期預金や定額預金と完全に競合してしまうが、デフレ下にあって預金に資金が集中しながらも貸出が伸びない状況であり、それほどの影響はないのではなかろうか。

そこで私は1年満期の固定利率、利率は0.1%以上、利払いは満期一括か割引方式、途中売却不可という個人向け国債を提案したい。個人は短期国債を購入できないが、短国と同様の性質をもつ個人向け国債に多少なりニーズはあるのではないかと思う。特に10月5日の日銀の包括緩和政策により、少なくとも期間2年あたりまでの金利は0.1%近くにかなりの期間張り付くことが予想される。同じ金利水準となれば安全性が高い国債に資金を振り向けようとする個人もそれなりにいるのではないかと想定される。また、以前に発行されていた3年や5年の割引国債のニーズはそれなりにあったことで、短国同様に割引方式とすればあらたなニーズが広がることも考えられる。

以上は私の個人的な意見であり、あくまで参考程度にしていただき、できれば皆様の貴重なご意見を、この「あなたが欲しい国債」というアンケート調査にお寄せいただければと思う。


2010.10.6「ゼロ金利政策は現状追認、影響が大きいのは時間軸」

今回の日銀の実質ゼロ金利政策では、誘導目標値はゼロ%ではなく0〜0.1%というかたちにして、レンジでの誘導値とした。すでに無担保コール翌日物金利は0.1%を割込むことが多くなっており、追認したものとも言える。さらに0.05%といった固定した水準にしなかったのは、多少なりとも金利に関する市場機能を残すためとみられる。

今回、補完当座預金制度の適用利率、つまり超過準備(準備預金制度に基づく所要準備を超える金額)に付く利率を0.1%に据え置いた。固定金利方式・共通担保資金供給オペの貸付利率および成長基盤強化を支援するための資金供給の貸付利率も引き続き0.1%に据え置かれている。

レンジでの誘導値は、すでにFRBが実質的なゼロ金利政策としながらも、FF金利の誘導目標は0〜0.25%としているのと同じである。また、FRBは超過準備に0.25%の金利を付与している。

米国では連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)など政府系住宅金融機関(GSE)は業態が銀行ではないため、FRBに超過準備を預け入れて利息を得ることができない。このため巨額の資金運用のためFF金利の低下を促す要因ともなっており、このためFRBは目標値をレンジにおいたとされている。

日本ではいわゆる付利預金ファシリティの恩恵を被れない業態である投資信託や生保、さらに海外中銀などの海外勢の資金量は米国のGSEほど大きくはない。しかし、無担保コール市場では銀行間の取引が限られている中で、これら預金ファシリティの恩恵を被れない業態の影響が大きく、そのため無担保コール翌日物金利が実質的に誘導目標値を下回っていた。このため、今回の実質ゼロ金利政策は実際には現状追認であることもあり、極端に無担保コール翌日物金利が下がることは考えづらいく、小幅な低下にとどまるものと予想される。

短期国債のレートなどは預金ファシリティの影響を受けることになり、0.1%以下には下がりづらくなる。このため実質ゼロ金利政策については、やはり強化した時間軸効果の影響が大きくなるとみられ、別枠基金での国債買入もあり2年債あたりの金利まで0.1%近辺に張り付くことが想定される。さらにそこから長い期間の金利も、CPIが1%を上回れるまでの期間が意識されることで、5年債さらには10年債あたりまでの買いを誘いやすくなる。


2010.10.5「包括緩和策の意味」

日銀は今回、量的緩和や信用緩和ではなく時間軸効果も取り入れて包括的な緩和策である「包括緩和」を実施した。この最大の目玉となるのは強力な時間軸効果かとみられる。実質的なゼロ金利に戻したがこの利下げ効果は限定的である。それよりも2001年3月から2006年3月にかけて実施された量的緩和政策の解除条件かが、CPIが安定的に0%以上となることであったのに対して、今回は中期的な物価安定の理解に基づいていることでそれが1%となり、解除に向けてのハードルを上げてきている。これは擬似的なインフレターゲット政策ともとれるが、この1%というのはデフレ下にある現状からみてそう簡単に達成できるものではない。これはこの先、少なくとも2〜3年は今回のゼロ金利政策を実施することになる可能性がある。

そして、すでに政策金利の目標値をゼロ近辺としてしまったことで、今後の追加緩和については量的緩和政策の際にターゲットとなった日銀の当座預金残高といったような別な数値目標が必要となる。それが今回の新たに設けられた35兆円規模の基金であろう。このうちの買入資産5兆円は国債とCP、社債、ETF、J-REITで構成される。もし今後、追加緩和を行う際にはこの基金の量、もしくは期間の延長を行ってくることが予想される。信用緩和策の強化が必要とされるとなれば、CP、社債、ETF、J-REITの買入規模を増額させてこよう。

問題は日銀券ルールに縛られない実質的な国債買入の増額である。今回は残存期間期間が1〜2年、長期国債と国庫短期証券と合わせて合計3.5兆円程度としているが、今後はその期間、規模ともに増加してくる可能性が高い、問題はこれ幸いと政府がこれをもって財政拡大を実施してきてしまうリスクである。

今後先々の国債需給を考えれば、国民の金融資産で購入できる国債はいずれ限界を迎える。この際に海外に頼ることはある程度の金利上昇を伴なう可能性があり、またギリシヤ国債を購入するとした中国との関係などのように、政治的な配慮も必要になる。海外に頼るよりも先に日銀の国債購入増額に期待が向かいやすいはずである。財政法で禁じられている直接引き受けも想定され、それはむしろ国債への信認失墜により長期金利の急上昇を招き兼ねない。それよりも早めに日銀が国債買入を増やすことでそのときのリスクを少しでも緩和させることが可能なのではないかと個人的に考えていた。ただし、それには政府による財政拡大は回避させなければならない。このあたりは日銀総裁も釘を指す必要もある。

いずれにせよ、今回の日銀は2001年3月には当時の速水日銀が実施した量的緩和策と同様に、日銀の金融政策の大きな変換を意味しよう。速水元総裁はこのとき、政府との遺恨も残るゼロ金利政策に戻すことをせずに一気に量的緩和政策に持っていった。そして今回の白川日銀は、自ら効果には疑問を投げかけていたリサーブターゲットによる量的緩和策を取らずに、ゼロ金利政策を含めての包括緩和策を実施してきた。実施の仕方はまったく異なるものの、それぞれ開き直っての歴史的な政策変更であったかと思う。


2010.10.5「日銀の包括的な金融緩和策の実施による影響」

日銀は10月4日から5日にかけて開催された金融政策決定会合において、8月30日の臨時会合に続いて追加の緩和策を決定した。金融緩和を一段と強力に推進するために、包括的な金融緩和策を実施することとなった。

政策金利である無担保コールレート翌日物金利をこれまでの0.1%から0〜0.1%前後に促すこととし、実質的なゼロ金利政策を再開することとなった。ゼロ金利政策が前回解除されたのは2006年7月であり、4年ぶりのゼロ金利政策となる。

また、「中期的な物価安定の理解」に基づき、物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで、実質ゼロ金利政策を継続していくとし、時間軸を明確化した。これによりより長い金利低下を促そうとするものである。ただし、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、問題が生じていないことを条件とするとしている。

さらに、国債、CP、社債、ETF、J-REITなど多様な金融資産の買入と固定金利方式・共通担保資金供給オペを行うため、臨時の措置として、バランスシート上に基金を創設することを検討することとした。議長は執行部に対して、資産買入等の基金創立についての検討を行うように指示を出した。基金の規模は買入資産については5兆円程度となる。買入開始から1年後を目処に、長期国債と国庫短期証券は合計3.5兆円程度。CP、ABCPと社債は合計1兆円程度となる。買い入れる長期国債と社債は残存期間1〜2年程度を対象とする

この基金による長期国債の買入は、現行の長期国債買入とは異なる目的のもとで臨時の措置として行うものとし、これにより買入れて保有する長期国債は、銀行券発行残高を上限に買い入れる長期国債と区分のうえ、異なる取り扱いとするとし、日銀券ルールには縛られないかたちでの国債買入を実施することとなる。

金融誘導目標値の変更については全員一致となったものの、須田委員は資産買入等の基金創立に際して、国債を検討対象することに対して反対した。

今回の包括的な金融緩和策を決定した理由として、成長率が下振れて推移する可能性が高く、米国経済を中心に不確実性の強い状況が続き、景気の下振れリスクにはなお注意が必要であり、日本経済が物価安定のもとでの持続的成長経路に復する時期は、後ずれする可能性が強まったことを要因としている。

事前予想では新型オペの拡充策を検討かとの観測が強まったが、市場予想を良い意味で裏切り、現時点で可能な限り打てる手を打ってきた。国債買入増額や量的緩和政策については白川総裁が講演などで否定的な発言をしていたが、基金を利用しさらに中短期債に限定することで、財政ファイナンスとの認識を避けようとしたものとみられる。

さらに時間軸効果を利用することも明確にした。この影響は前回の量的緩和時の時間軸効果よりも影響は大きいと思われる。前回の量的緩和の際には、消費者物価指数がゼロ%以上で推移するまでとしていたが、今回は中期的な物価安定の理解に基づいたものとしている。その、中長期的にみて物価が安定していると理解する物価上昇率の中心は1%程度となっているため、ゼロ金利解除のハードルは前回の量的緩和解除の際のハードルよりもさらに高くなっている。

これにより、より長めの金利低下を促すことになるとみられ、特に債券市場への影響も大きくなりそうである。すでに5年債利回は2003年6月の水準にまで低下していることを考えると、債券バブルを加速させる可能性もありうる。


2010.10.4「中国が国債購入などでギリシャ支援」

ウォール・ストリート・ジャーナルなどによると、中国の温家宝首相はギリシャを訪問した際に、同国の国債の購入継続と、同国海運業界が中国船舶を買えるように50億ドルの基金を設立することを明らかにしたそうである。これは国際的影響力を拡大するために、経済力を行使しようとする中国の意欲を反映したものと言える。

温家宝首相は「中国はユーロ建て債券の保有を減らさず、また安定したユーロを支持する」と強調し、またパパンドレウ・ギリシャ首相は「これらの中国との取り決めや、ギリシャ国債の購入を続けると中国が表明したことは、難しい舵取りを迫られているギリシャ経済への信任と見ることができる」と述べるとともに、「ギリシャでも中国でも言われるように、苦しいときにこそだれが友人であるか分かる」と強調した(ウォール・ストリート・ジャーナル)。

これにより中国が保有する外貨準備を政治的に利用することを明らかにしたと言える。中国は巨額の外貨準備の運用先をドル主体から、ユーロや円に広げつつある。ユーロで政治的な利用を考えているのならば、いずれ円、つまり日本国債についても同様のことを行ってくる可能性がある。

今回のギリシヤに対しては恩を売るかたちとなっているが、米国が中国が保有する米国債の売却に神経質になったことがあったように、これは諸刃の剣ともなる。日本国債も国内資金で賄うには限度があり、いずれは海外資金にある程度、頼らざるを得ない。現実に中国による日本の債券保有、そのほとんどは日本国債と見られるが、は短期債主体ながらも増加しつつある(次回の国際収支の発表は10月8日)。

中国が日本にとり、苦しいときに助けてくれる友人となりうるのかどうか。尖閣列島の問題などを見る限り、なかなか難しいものがありそうである。


2010.10.1「追加緩和での国庫短期証券(短期国債)買入増額の可能性」

9月29日に発表された日銀短観での業況判断指数の先行き見通しの大幅悪化などを受けて、日銀は10月4日から5日にかけての金融政策決定会合で追加緩和を行う可能性が強まっているが、可能性としては新型オペの再拡充が高そうだが、加えて国庫短期証券(短期国債)の買入増額の可能性も出てきている。

ちなみに2009年2月からは政府短期証券(FB)及び割引短期国庫債券(TB)は、国庫短期証券(Treasury Discount Bills)として統合発行されることとなったが、それ以前に日銀ではすでに割引短期国債および政府短期証券を合わせて短期国債と称している。

ここで少し国庫短期証券(短期国債)の歴史について振り返ってみることしたい。

短期国債のうちFBが最初に発行されたのが1886年7月で、当初は利付債であったものが1902年3月に割引形式となった。当初は日銀がほぼ全額を引き受けていた。1956年にFBの定率公募発行残額日銀引受方式に移行したものの、割引歩合が公定歩合を下回っていたことで、日銀がほぼ全額を引き受ける状態に変化はなかった。

しかし、1981年に日銀は新たな余剰資金の吸収手段としてFB売りオペを導入したことによって、次第に流動性が高まってきた。日銀による売却レートが実勢レートとなっていたことで、買い付ける金融機関が増え残高も増加した。

1970年代後半から国債の大量発行が続きました。当時は1972年に国債発行の中心となるものの年限が7年から10年に延長されており、1970年代後半の10年後には大量の国債償還・借換えに対応する必要が出てきた。

このためすでに中長期で発行されていた借換債に加え、1986年から借換債として6か月物の短期の国債が発行されました。これがTBである。1989年には3か月物が導入され、ほぼ毎月発行となった。さらに1999年に1年物が追加された。

1999年4月からFBの名称は政府短期証券とし、それぞれの根拠法により大蔵省証券、食糧証券及び外国為替資金証券に分かれていたものが統合されることになった。さらに政府短期証券の発行方式が定率公募残額日銀引受方式から、原則として公募入札方式に改められた。公募入札方式への移行に伴いTB・FBの償還差益に関しては発行時の源泉徴収は免除され、外国法人についても原則非課税とされたのである。

さらに2000年4月からFBは完全公募入札に移行し、この際に期間2か月程度のFBが発行されることになった。また財政融資資金法が2001年4月1日から施行されることに伴い、FB(政府短期証券)に財政融資資金証券が追加され、従来の財務省証券、食糧証券及び外国為替資金証券と統合して4つの証券が一体として発行することになった。

そして、注目のFBを使った日銀のオペについては、1955年からFBの売却というかたちで始まっている。1981年にはFBを短資会社の窓口経由で市中に売却するという形式のFBオペが実施された。

1990年に日銀はTBの発行量の増加などにより、これを対象として現先方式の買いオペを実施。ただし、これはTBの保有層が偏在していたことなどからあまり活用されなかった。

1999年4月に「短期国債の条件付売買基本要領」が実施された。これにより、売買対象がFB及びTBとなり、FBの公募入札方式の移行にあわせ、次第に短国現先売買オペが日銀の金融調節の中核となって行った。

1999年10月には現先方式ではなく買い切り、売り切りとなる短期国債の買入・売却オペが導入された(売戻条件または買戻条件を付さない売買であるためアウトライト・オペレーションと呼ばれる)の導入を決定した。この際に、実施の規模については、あらかじめ特定することなく、その時々の金融情勢に応じて随時、売買を行うこととしている。また、買い入れた短期国債は、原則として現金償還を受けること、市場に資金余剰が生じた場合には、アウトライトでの売却も行いうることとしたいとある。

これについては、日銀のサイトの「短期国債売買基本要領」でも確認できる。「売買日、売買金額、売買先、売買の対象とする短期国債の銘柄その他売買を行うために必要な具体的事項については、金融市場の情勢等を勘案して売買のつど決定するものとする。」とある。

また、短期国債の買入については、国債買入のように日銀券発行残高に縛られるといったルール(日銀内規)も存在しない。もし仮に今回の決定会合で、8月末で8兆円規模の買入残となっている短期国債の買入増額を具体的な数字で示すこととなれば自ら縛りをつけてしまうことにもなりかねず、むしろ金融市場の情勢等を勘案して売買ができづらくなるはずである

それでも政府による為替介入を意識して、次回の決定会合で短期国債のことに触れるならば、短期国債のアウトライトオペなどを積極的に活用し、潤沢な資金供給をはかるといった文面が追加される程度になるのではなかろうか。


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