「若き知」
「過去データは一番下に移行しました」


2011.2.28「先週の債券相場と今週の予想」

先週の動き

 G20財務相・中央銀行総裁会議の内容も特に材料視されず、21日の債券市場は様子見気分を強めて10年債は1.3%近辺での閑散小動きとなった。22日に格付け会社のムーディーズは22日に、日本政府のAa2の債務格付けの見通しを安定的からネガティブに変更すると発表したが、債券相場への影響はほとんどなかった。また、この日実施された20年国債の入札は最低落札価格が予想をやや下回り、応札倍率も前回の4.46倍から2.64倍と低下しやや低調な結果となった。しかし、リビアでの政情不安の強まりなどにより中東の地政学的リスクが意識された結果、債券は買戻し圧力を強め、債券先物は買戻しの動きを強め、前日比60銭高の139円57銭まで上昇した。現物債も10年債主体にしっかりで、10年債利回りは前日比1.260%まで低下した。

 22日の米国市場でも中東情勢を睨んで質への逃避の動きにより米10年債利回りは大きく低下し3.47%近辺に。これを受けて23日の債券先物は一時139円79銭まで上昇した。また、株式市場も大きく下落するなどしていたことで、24日に債券先物は139円82銭まで上昇し、10年債利回りは1.220%まで低下した。しかし、次第に上値が重くなり、週末25日には戻り売りが現物債に入ったことで10年債利回りは1.245%に上昇し、債券先物は139円59銭の当日安値で引けた。

今週の予想

 カダフィ政権に対して抵抗運動が高まっているリビアなど中東情勢が引き続き注目される。主要な原油産油国のひとつであるリビアからの原油供給がストップするなどしていることで、原油価格は上昇した。原油高によるインフレ懸念の強まりよりも、原油高を受けての景気への悪影響が意識され、また安全資産としての買いが米国債や日本国債に入ったが、次第に上値も重くなってきている。株価がさらに一段安となるなどすれば、債券相場は戻りを試すことも考えられるが、反対に株価が回復を示すと、債券は戻り売りに押される可能性がある。

 3月1日には10年国債の入札が予定されている。相場の状況次第ながら利率は前回から0.1%引き上げられ1.3%となる可能性もある。しかし、22日の20年国債入札が低調な結果になるなど投資家は総じて慎重姿勢となるとみられ、この入札動向には注意も必要となりそうである。来年度の予算案は28日に採決されるとみられ、こちらの動向にも注意したい。また、バーナンキFRB議長の議会証言も予定されており、4日には米雇用統計が発表される。FRBによるQE2が停止される可能性があるのかどうかも注目されそうである。3日にはECB理事会も予定されており、こちらの動向にも注意したい。

予想レンジ 1.25〜1.35%


2011.2.26「商品価格の高騰の原因とその影響」

 先日のG20財務相・中央銀行総裁会議では、一次産品など国際商品市況上昇の背景と、マクロ経済・金融面に与える影響を分析するスタディグループを立ち上げることで合意し、そのスタディグループの議長に日銀の中曽宏理事が就くこととなったと伝えられた。今回の国際商品市況上昇は政治情勢も変化させ、また政治情勢の変化がさらに国際商品市況を上昇させるなど、非常に重大な問題となりつつある。

 今回の国際商品市況上昇の原因としては、新興国や資源国の需要の拡大があげられる。これは2007年8月にニューヨーク原油先物価格が147ドルの高値をつけた際と同様の要因によるものである。投機的な資金が流れ込んだことも要因ではあったものの、その背景には中国など新興国による強い需要があった。この際の商品市況の急騰は、リーマン・ショックなどによる世界的な金融経済危機により、いったんは収束に向かう。

 しかし、新興国の需要は衰えることはなく、2009年あたりから再び食料品価格や原油価格が上昇基調となった。それを加速させた要因として、米国を初めとする先進国の金融緩和に伴う投資資金が国際商品市場に流入していることも指摘された。

 さらにここにきて供給ショックによる原油価格の上昇という側面も出てきた。新興国などでは食料品価格の高騰などにより国民の不満が高まり、また雇用の悪化などから政権そのものへの不満が強まった。それが中東における民主化運動を引き起こし、チュニジアのジャスミン革命の動きがエジプト、リビアにも飛び火した。特に原油産出国であるリビアからの原油供給がストップするなど、中東情勢緊迫化により原油価格をさらに上昇させてきている。

 この国際商品市況の上昇が、先進国そして新興国・資源国の経済に対してどういうインパクトを与えるのかを探ることも重要であり、スタディグループの研究発表などにも注目したい。日本にとり新興国・資源国の需要の拡大による輸出増から景気に対してプラスの側面はあるものの、その価格の高騰そのものは景気に対してはマイナスに作用する。これは日本ばかりではなく、欧米諸国でも同様であろう。

 それとともに今回の商品価格の高騰が世界の政治情勢を一変させるほどの影響力を持っていることにも注意する必要がある。

 革命は伝播すると言われる。それは過去の歴史も示している。エジプトやリビアの長期政権がこのような短期間に崩れ去ることを誰が予見できたであろうか。しかも、これはまだ現在進行中であり、この革命の伝播がどこまで拡がるかとの懸念とともに、民主化後の政権の姿そのものもはっきりした形をとっておらず、先進国もその行方を見守るばかりである。

 民主化の流れが、たとえばサウジアラビアや中国に伝播する可能性もないとは言えない。もしそうなれば、原油価格のさらなる急騰を招きかねず、また現在の世界の景気を支えている新興国の景気そのものが落ち込むような危険性もある。リーマン・ショック、ギリシャ・ショック、そして今度はジャスミン・ショックが世界経済を揺るがす可能性がある。


2011.2.25「今後の消費者物価を見る上での注意点」

本日発表された1月の生鮮食品を除いた消費者物価(コアCPI)の前年比はマイナス0.2%となった。一時的な要因である高校授業料無償化の影響(マイナス0.5%程度)を除いてみると、前年比プラス0.3%となる。日本の生鮮食品を除いた消費者物価(コアCPI)の前年比は2009年8月にマイナス2.4%と大幅に下落した後、下落幅が着実に縮小してきている。

 日本の消費者物価は2007年10月あたりまで前年比でほぼゼロ近傍で推移していたものの、その後石油価格の上昇などを受けて2008年7月にプラス2.4%に上昇したが、ここがピークとなった。2008年9月のリーマン・ショックによる景気悪化などの影響により、2009年8月まで急激に落ち込んだのである。しかし、その後は世界的な需要刺激策などにより景気が回復してきたことで、日本のコアCPIもゼロ%近くまで戻ってきている。

 先行きについては、景気の回復期待も再び強まっていることに加え、原油などの国際商品市況が上昇基調にあることから、2012年度にかけては徐々にプラス幅を拡大させていく見込みとなっている(2月23日の山口日銀副総裁の講演要旨より)。

 ただし、注意しなければならないのは今年7月(発表は8月)の2005年から2010 年への基準年の変更である。一般に消費者物価指数の前年比は、基準年から先に進むほど実勢よりも強めに算出されやすく、こうした統計上の歪みは、基準改定の際に修正される傾向がある。つまり、来年の基準改定で消費者物価指数の前年比が下方に改定される可能性が高い。(昨年10月20日の西村日銀副総裁の講演より一部引用)。ちなみに前回の基準年の変更に際しては0.5%の下方修正が行われており、同様規模引下げられる可能性がある。

 問題は今年の夏場にかけてどの程度物価が上昇してくるかである。ここにきてはリビアの政情不安により原油価格の上昇ピッチがさらに強まる懸念も出てきている。2008年7月に向けてと同様の動きを示す可能性もないとは言い切れない。ただし、原油価格など国際商品市況の上昇を背景とした物価上昇圧力となれば、景気には足枷となる。

 いずれにしても、現在の水準であれば日本の消費者物価指数が債券相場などに影響を及ぼす可能性は少ない。しかし、基準年が変更される7月に向けてどの程度、コアCPIが上昇してくるのか注意しなければならない。また、その前に4月から高校授業料無償化の影響がなくなることで、現在のCPIの水準のままでも前年比プラスとなることが予想される。国際商品市況の上昇の影響とともに、4月と7月の数値が大きく変化することにも注意しておく必要がある。


2011.2.24「特例公債法案の年度内成立を断念、その影響は」

 23日付の読売新聞によると、政府・与党は2011年度予算関連法案の中核である特例公債法案の年度内の成立を断念し、衆院での採決についても4月以降に先送りする方向で調整に入った。

 同法案が早期に否決された場合には菅首相の退陣や衆院解散・総選挙が早まる可能性があるとみて、政府・与党は法案処理の先送りが必要と判断したためとも伝えられた。さらに4月の統一地方選後に改めて公明党などに協力を求め、成立の道筋を探る方向で検討に入ったそうである。特に東京都知事選の行方次第といった面もありそうである。

 しかし、政府・与党はかなり危険な賭けに出たと言わざるを得ない。もちろん反対した野党の責任も大きいが、いくら資金繰りからは6月末あたりまでは大丈夫とはいっても、予算執行に大きな影響を及ぼしかねない。

 2008年には民主党が野党として政府の予算案に反対する立場から、特例公債法案にも反対を続け、その結果、特例公債法案が年度内に可決されなかった。この時は衆院で与党の三分の二以上の多数で再可決され、成立したという経緯がある。しかし、今回は特例公債法案の再可決の目処すら立っておらず、成立そのものの目処も立たない状況になっている。

 債券市場では現状、特例公債法案の行方については特に材料視しておらず、むしろ予算執行に影響が出ることで景気の足枷ともなりうるため、株式市場が下落するようなことになれば、買い要因との見方もある。しかし、国債そのものの信認低下といった問題が出てくる可能性もありうる。

 それでは、もし新年度入りしても特例公債法案の成立の目処がまったく立たないような状況に追い込まれた際には、どのような状況に陥るのか。クリントン政権時の米国がひとつの事例として参考になるかもしれない、

 1995年、クリントン政権と野党共和党の対立は激しくなり、その結果、米国での新年度開始の10月になっても予算案が可決できなかった。このため政府職員を一時帰休させたり政府機関を数週間閉鎖するなど、政府が11月と12月に二度機能停止に追い込まれる事態となったのである。この際に悪役となってしまったのが、共和党のギングリッチ議長であるが、議長は徹底した歳出削減で均衡財政を目指そうとしたことで、クリントン政権も結局、それに歩み寄り歳出削減と一定の減税がはかられ、その後の財政再建に繋がる。

 今回の特例公債法案の可決先送りにより、もし可決の目処が立たないとなれば、政府の支出が抑えられるなどにより国民生活そのものに支障をきたすことが予想される。しかし、これにより問題か提起され、国民がむしろ財政再建を強く意識するようになれば、怪我の功名となることもありうる。ただし、それにはかなり大きなリスクも伴う。


2011.2.23「ムーディーズ、日本国債のアウトルックをネガティブに変更」

 格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスは22日に、日本政府のAa2の債務格付けの見通しを安定的からネガティブに変更すると発表した。2009年5月にムーディーズは、日本政府の自国通貨建て債務格付けをAa3からAa2に引き上げていたが、結局、それを元に戻す可能性が高まったことになる。もしくは、2段階程度の引下げの可能性も考慮に入れておく必要があるのかもしれない。

 1月27日には格付け会社のスタンダード&プアーズ・レーティングズ・サービシズ(S&P)が日本の外貨建て・自国通貨建ての長期ソブリン格付けをAAからAA-へ引き下げている。すでにS&PがムーディーズのAa3に相当する格付けに引き下げていたことで、今回のムーディーズによる日本国債のアウトルックの見直しによる債券市場への影響は、債券先物の値動きを見てもほとんど感じられないものであった。

 今回のアウトルックの変更についてムーディーズは、日本政府は短期から中期的には資金調達危機に陥るとは考えていないものの、日本の経済・財政政策が債務増加を抑制できるような状況にはないことを理由にあげているようである。

 22日の日経新聞の大機小機には、「見過ごせない国債格下げ」と題して、先月のS&Pによる日本国債格下げに絡め、日本の債務状態について注意を促している。特に注意すべきは日本国債が国内資金に賄われており、また消費税の引き上げ余地もあるため、他国並に国債依存度を引下げられる、もしくは国債の暴落は起き得ないとする考え方は危険であるという点である。

 貯蓄率の低下などもあり個人の金融資産の伸びは止まっており、国債の受け皿は縮小に向かっていることは確かである。しかし、新規国債発行額が税収を上回るような異常な状況は続いており、現在の政府の政策は債務増加を抑制できる状態にはなく、危機はじわりじわりと迫りつつある。

 民間会社の格下げやアウトルックの変更に一喜一憂する必要はないものの、それを疎ましく思わずに、ひとつの警告としてみることも必要であろう。ただし、2009年にムーディーズが日本国債の格付けを引き上げた理由も良くわかなかったが、そのアウトルックを見直さなければならない理由もよくわからない。日本の財務体質はムーディーズが最初に日本国債の格付けを引き下げた1998年あたりから、ほぼ悪化の一途を辿るばかりであり、改善するような兆しはほとんど見えていなかったのであるが。


2011.2.22「国債格下げリスクよりも地政学的リスク」

 格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスは22日に日本政府のAa2の債務格付けの見通しを安定的からネガティブに変更すると発表した。今後、ムーディーズによる日本国債の格下げ、それも複数段階の引下げの可能性も考慮に入れておく必要がある。

 1月27日にS&Pがすでに日本国債の格付けをムーディーズのAa3に相当する段階に引き下げていたこともあり、債券市場への影響限定的であった。むしろ、22日の債券相場は買いの動きを強めた結果、債券先物は2月3日から4日にかけて139円19銭から139円40銭にかけて空いていた窓を埋めてきた。

 22日に行われた20年国債の入札の結果は決して良くはなかったものの、それもあまり悪材料視されることはなかった。これは日本国債の格下げや入札結果よりも、中東における地政学的リスクが意識されたためと思われる。つまり「質への逃避」が意識されたと思われる。

 チュニジアのジャスミン革命の動きはエジプト、さらにリビアにも拡大した。41年間もトップに君臨したリビアの最高指導者カダフィ大佐がエジプトのムバラク大佐と同様に辞任に追い込まれる可能性も出てきている。

 さらに22日にはイラン海軍の艦艇2隻がスエズ運河に入ることが確認された。イラン軍艦のスエズ運河通過は1979年のイラン革命以来初めてとなり、特にイスラエルでは緊張を強めている。

 中東はかつて世界の火薬庫とも呼ばれ、紛争の絶えない地域であった。それがオイルショックのようなかたちで世界経済に影響し、イラク戦争を招いたりしたが、ここにきては比較的落ち着いていた。しかし、今回の民主化の動きはむしろ政権が数十年にも渡り安定していた国で起きている。しかも、エジプトも今後の政権の行方がはっきりしないなど、不安定な状況が続くとみられる中、またイランとイスラエルなどが衝突するようなことになると、原油価格などに大きな影響を及ぼしかねない。

 もし原油価格の上昇によりインフレリスクが意識され、それにより長い期間の米国債が売られるようなことになれば、今度は中東リスクが日本の債券市場にとり売り材料となる可能性もありうる。

 日本国内では特例公債法案が年度内に成立しない可能性も高まりつつあり、予算の財源そのものの裏付けがなくなることになり、事実上の債務不履行に陥る可能性すらある。しかし、そのようなリスクよりも海外でのリスクのほうが意識されやすく、それはムーディーズによる日本国債の格付け見通しの変更にも無反応であったことからもわかる。

 しかし、外ばかり気にしていると中のリスクが見えなくなってしまう危険性もある。日本の政局の不安定さは予算そのものにも影響するとともに、消費税増税なども先送りされ財政再建への道のりがさらに険しくなる可能性がある。相場はある程度市場のマインドで動いてしまうため、そのマインドに影響を与えやすいイベントに注目が集まってしまう。日本の債券市場では、もう少し日本の財政リスクを意識すべきであると思うが、どうやら債券市場参加者の視線は中東の地政学的リスクに傾きつつあるように思われる。


2011.2.22「中央銀行の金融政策は時代とともに大きく変化」

 「金融政策の世界では、1970年代、多くの先進諸国において、マネーストックの一定の伸びをターゲットにした政策運営がなされた。しかしながら、急速な金融イノベーションを受けて、マネーサプライとインフレの関係は不安定になり、最終的には活用されなくなってしまった。1990年代には、インフレーション・ターゲティングが金融政策の新しい枠組みとして登場したが、今回の金融危機に至る過程でバブルが生成されたように、同政策を有効に実施していくことの難しさが浮き彫りになってきた。」

 これは日銀の白川総裁が、フランス銀行の「Financial Stability Review」に寄稿した論文の邦訳の一部である。ここにあるように、マネーサプライとインフレの関係は不安定となった結果、現在、マネーサプライを金融政策を実施する際の指標として利用している中央銀行は少なくなっている。米FRBも2006年3月からマネーサプライ指標でM3の発表を取り止めたことについて、バーナンキ議長は政策立案者にとって有効性が無くなったことが理由だと説明している。

 日銀の金融政策決定会合の議事要旨などを見ても、マネーサプライに関する議論はほとんど見かけなくなっている。また、債券市場でも、昔はマネーサプライ統計(現在はマネー・ストック統計)の発表は、重要な経済指標のひとつとして注目されていた。しかし、現在それをチェックしている市場関係者はほとんどおらず、市場への影響も少ない。

 日銀の政策を批判する際に、デフレの要因としてマネーサプライの伸びが抑制されていたためとの意見も耳にするが、マネーサプライとインフレの関係が不透明になっている状況では、あまり説得力を持たない。

 インフレーション・ターゲティングについても、それを有効に実施していくことは難しく、学者としてインフレ・ターゲティングを推奨していたバーナンキFRB議長もいまだそれを取り入れていない。また、インフレ・ターゲティングを採用している英国のイングランド銀行は、現在の物価高により利上げを余儀なくされるとの見方も強いが、財政緊縮などにより景気の先行きにも不透明であり、ジレンマを抱えている。

 ただし、現在の日銀が行なっている包括緩和策には時間軸政策が取り入れられているなど、日銀でもインフレーション・ターゲティングに近い政策が取られていることも確かである。しかし、これをはっきりとインフレーション・ターゲティング政策としてしまうと自らの政策の自由度を失いかねない。金融政策にはある程度フレキシブルな対応も求められる。その点、現在の金融政策のかたちのほうが対応しやすい面もある。

 さらに日欧米の中央銀行の政策には、国債に関する政策が大きな比重を占めるなど、国の財政面との関わりも強まっている。つまり物価や景気動向、さらに雇用などに加えて、財政問題も金融政策に大きく影響するようになっている。

 今後、日銀を含めて主要な中央銀行の政策がどのように変化してくるのか予想をすることは難しい。中央銀行の金融政策は時代とともに大きく変化している。過去に使われた指標を元にして現在の政策について検証しても、あまり意味はない。日銀批判についてもこのあたりを注意してみておく必要がある。


2011.2.19「特例公債法案が年度内に成立しなかったならば」

 社民党は2011年度予算関連法案である特例公債法案について、反対する方向で調整に入ったと伝えられた。また、民主党の小沢氏に近い若手議員16人が、国会内の会派を離脱するとも伝えられた。これにより、特例公債法案などの予算関連法案の衆院再可決に必要な三分の二の議席に届かないという事態となる可能性が強まってきている。与党民主党内でも予算関連法案の成立と引き換えに菅直人首相の退陣やむなしとの声も出ている。

 特例公債法案を含めた予算関連法案が成立しなかった際の影響は十分に知った上で、それを人質にとって危険な賭けに出ているようにも見える。その結果がどうなるのかは政治の世界だけに読みづらいが、今回はもし特例公債法案が年度内に成立しなかった場合の政府の資金繰りについて考察したい。もちろん特例公債法案の成立そのものが成立しないという事態は想定できない。その場合には予算の財源そのものの裏付けがなくなることになり、事実上の債務不履行に陥る可能性すらあるためである。このため、あくまで年度内の成立がなかった場合の対応を想定する。

 国債には発行根拠法別に種類が分かれている。一般には新規国債と一括りで言われている国債は、建設国債と特例国債(赤字国債)に分けられる。財政法第四条に基づいて発行される建設国債は予算が通れば発行できる。しかし、特例国債(赤字国債)は、特例なので発行されるたびに特例公債法を制定しなければならない。

 特例国債は、建設国債の発行をしても歳入が不足すると見込まれる場合に、一般会計の財源不足を補うために発行される国債であり、主に社会保障、防衛費や人件費などの経常的経費を調達するために充てられている。しかし、人件費などの経常的経費は、将来世代に資産を残すことはなく、国債の元利償還のための租税負担というかたちでの費用負担だけを残すことになるため、財政法ではこのための国債発行は認めていない。そのために、特例法を制定して特例として発行している国債である。

 予算そのものは衆議院で議決されてしまえば、参議院の審議が終了しなくとも30日後には自動的に成立する。つまり、建設国債は予算が通れば発行できる。これは日本国憲法第60条2項に次のように定められているためである。「予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて30日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。」

 しかし、特例国債(赤字国債)は特例の国債であるため特例公債法が成立しなければ発行できない。特例公債法案などの予算関連法案は日本国憲法第59条にあるように、参議院で否決されれば、衆議院に差し戻され、そこで三分の二の賛成で可決されないと成立できない仕組みになっている。

 「平成23年度における財政運営のための公債の発行の特例等に関する法律案」(http://www.mof.go.jp/houan/177/zk230124g.htm)についてが財務省のサイトにアップされているが、これによると特例公債法は、特例公債の発行と特別会計からの繰入れ等のその他特例的な歳入措置の根拠となるものとなり、平成23年度予算では一般会計予算92.4兆円のうち40.7兆円(このうち特例国債は38.2兆円)がカバーされる。つまり、特例公債法が成立しないと40.7兆円分は財源のあてが無くなってしまうことになる。その分の予算が執行できないという事態となる。

 仮に特例公債法案が3月末日までに成立しなかった際には、政府は資金繰りに苦慮することとなる。予算総額の92兆円のうちの50兆円分は賄えるため、相当期間は大丈夫ではないかとの見方もあろうが、年度始めにはあまり税収が入ってこないという問題がある。昨年度と今年度の4〜6月期の税収(ネット)は11〜12兆円程度に対しての対民間支出は20兆円程度になっている。ちなみにこの期間は前年度分の出納整理期間にあたるため、そのほとんどは前年度分であり、新年度分税収は6月末で2兆円程度に過ぎない。

参考
「平成21年度第1・四半期国庫の状況」http://www.mof.go.jp/jouhou/sonota/kokko/h21/h211b.htm
「平成22年度第1・四半期国庫の状況」http://www.mof.go.jp/jouhou/sonota/kokko/h22/h221b.htm
「平成22年度 6月末租税及び印紙収入、収入額調」http://www.mof.go.jp/zeisyu/h2206.htm

 昨年度と今年度の4〜6月期には10〜11兆円規模で国庫内での振替(一般会計から特別会計への繰入れ)が行われている。これはつまり出納整理期間での前年度の税収部分にあたる金額を特別会計に繰り入れている金額となる。

参考
財政資金収支分析表(平成21年度第1・四半期国庫の状況報告書)http://www.mof.go.jp/jouhou/sonota/kokko/h21/h211g.htm
財政資金収支分析表(平成22年度第1・四半期国庫の状況報告書)http://www.mof.go.jp/jouhou/sonota/kokko/h22/h221g.htm

 つまりこの期間に不足する金額は、対民間での支出超過分と国庫内の繰入れを加えた20兆円規模となり、この不足分を国債や財務省証券の発行などにより調達することとなる。このうち新規国債(建設国債と特例国債)による調達額は上記の財政資金収支分析表にある「資金調達・返済」に記載されている新発債発行の部分で金額は11兆円前後となっている。

 それでも足りない部分は財務省証券発行で補われ、それは上記の財政資金収支分析表にある「特別会計等」の「その他」の「資金調達・返済」にある財務省証券発行で21年度は20兆円以上の発行(11兆円は期間内に償還)、22年度は7.7兆円の発行(4.1兆円は期間内に償還)となっている。

ちなみにこの財務省証券(FBと呼ばれる政府短期証券の種類のひとつ)は限度額が設けられている。来年度予算ではその予算総則に、「財政法第7条3項の規定による財務省証券及び一時借入金の最高額は20兆円とする」とあるが財務省証券の残高は下記のように昨年度は6月末の9.5兆円となり限度額の約半分近になっている。また、今年度は3.6兆円となっている。

参考
平成23年度度一般会計予算(予算総則の7ページ) http://www.bb.mof.go.jp/server/2011/dlpdf/DL201111001.pdf
政府短期証券増減及び現在高表(平成21年度第1・四半期国庫の状況報告書)http://www.mof.go.jp/jouhou/sonota/kokko/h21/h211h.htm
政府短期証券増減及び現在高表(平成22年度第1・四半期国庫の状況報告書)http://www.mof.go.jp/jouhou/sonota/kokko/h22/h221h.htm

 さらに特例国債が発行できないとなれば、新規国債(建設国債と特例国債)による調達額は建設国債の分、つまり来年度では6兆円程度しかできないため、11兆円前後のうち残りの5兆円程度は財務省証券の発行で補う必要がある。

 昨年度(平成21年度)のように、6月末までに不足する金額10兆円程度を財務省証券発行で補い、さらに特例国債が発行できない分も5兆円規模の財務省証券発行が補うとすれば、15兆円規模となり、残りの限度額は5兆円程度しかない可能性も出てくる。ちなみに予算総則にある20兆円という上限は、財務省証券と一時借入金を合わせた一般会計の資金繰りの上限であり、他にやりくりする手段はない。

 ロイターによると「6月までの必要経費は賄えるが、それ以降は厳しい」との財務省からの声も出ていたようだが、それはこの試算からも明らかである。つまり、6月あたりまでに特例公債法が成立しなければ、その後、必要経費が賄えなくなる事態が発生する可能性が高まることになる。これは他の予算関連法案の成立ができなくなることを含めて、国民生活に支障をきたす可能性がある。さらに、もし予算の半分程度が執行できなくなるという可能性があるとなれば、年度契約を結んでいるような支払いに対して、一括ではなく分割契約に変更しなければならなくなるなどの契約の見直しの必要性なども出てくるため、予算執行のコントロールなども難しい対応を迫られることになる。

 このように特例公債法案が年度内に成立しなかった場合は、6月末あたりまでは資金のやり繰りは可能と思われるが、その先はかなり厳しい状況になる上、契約などの問題を含めて各所に影響が出てくる可能性がある。


2011.2.18「財政健全化に関する白川日銀総裁のコメント」

 15日の金融政策決定会合後に行われた日銀の白川総裁の会見内容が、日銀のサイトにアップされた。この中の日本の財政健全化についてのコメント部分を中心に見てみたい。

 白川総裁はまず、日本の一般政府の債務残高が対名目GDP比率約200%と高いところにいることを指摘したが、「このグロスの数値は多少ミスリーディングな面もあり」として、金融資産を差し引いた純債務残高でのGDP対比約120%という数字を出している。

 OECDなどの国際機関が発表している各国の債務残高の対名目GDP比率については、総債務残高に対するものに加えて、政府が保有する金融資産を差し引いた純債務残高での数値も出している。

 ただし、純債務残高に関して財務省は「純債務残高で債務残高を比較する場合、政府の金融資産の過半は将来の社会保障給付を賄う積立金であり、すぐに取り崩して債務の償還や利払費の財源とすることができないこと等に留意する必要があります。」としている(財務省資料「財政事情の国際比較」の中の注釈)。

 どちらの数値が適切なのかというよりも、そもそもその国の債務状態を他の国と比較する際に、債務残高の対名目GDP比率で良いのかどうかという問題もある。あくまでこれは参考値としての認識の方が良い数値である。

 いずれにせよ非常に高いことには変わりがない。そして総裁は「将来の財政の持続可能性に対する信認が低下」すると、「金融市場の動揺を通じて実体経済も下押しされ、財政、金融システム、それから実体経済の間でマイナスの相乗作用が生じる」可能性を指摘した。かなり柔らかな表現ながら、大きなショックが起きることは確かである。

 それを防ぐためには、総裁はまず日本経済の成長力の引き上げが必要であるとしている。ただし、「財政バランスの改善は、インフレによる名目成長率の上昇によって達成される課題ではありません」とも釘をさしている。「重要なことは、実質成長率の引き上げを実現していくこと」としているが、そのための具体的な方法については述べていない。

 総裁はもうひとつ重要なこととして、「財政バランスの改善は、実質的に歳出を減らし、あるいは歳入を増やす改革」をあげている。二番目ながらも政府が財政再建策をすすめることの重要性をあげている。

 さらに、「財政問題に対する関心が高まる中にあっては、今申し上げた財政規律の確保に向けた努力と並んで、日本銀行が物価安定のもとでの持続的経済成長を目指して金融政策を行っていることに対する市場の信認を確保することが重要であること」を付け加えている。

 広義での国債管理政策は財務省ばかりの仕事ではない。政府や日銀なども一体となって日本国債の信認を維持させ、安定的な国債発行を可能にしなければならない。その意味で日銀の金融政策も大きな関わりを持つ。しかし、国債の需給に直接関与したりすれば、むしろ信認低下に繋がりかねない。このあたりのバランスの取り方も難しい問題である。


2011.2.1「財政再建に活かすべき戦後の教訓」

 大蔵省財務協会から出版されている「高橋是清暗殺後の日本」という本がある。あの戦争(太平洋戦争)が如何なるものであったのかを財政面から見たものである。たいへん読みやすい内容であり、現代史を違った視点で垣間見せてくれる。この本の107ページに戦後のインフレーションに関しての記述がある。

 「公債残高は敗戦時に1408億円、政府保証等の残高は960億円に上がっていた。その一方で、主要都市を焼け野原と化した無差別攻撃で生産設備が壊滅し我が国の生産力は大幅に低下していた。このようにして生じた大幅な需給関係のアンパランスは、当然のこととして激しいハイパー・インフレーションをもたらすことになったのである」

 日本での太平洋戦争での被害総額は653億円との記述もあり、それに比べて政府負債の大きさは約3倍以上もあった。その政府債務はハイパー・インフレにより帳消しとなったのである。つまり国民への被害は直接戦争によるものよりも、政府債務による帳消しのほうが規模は数倍大きかったことになる。

 卸売物価は昭和9年から11年に比べ、昭和24年には220倍にもなり、まさに国債は紙くずと化してしまったのである。これはつまり「国民からの実質的な金融資産の没収であり大増税に他ならなかった」のである。

 日露戦争では、高橋是清日銀副総裁の努力により外貨建て国債の発行で戦費を調達したが、あの戦争では、海外からの資金調達は困難であり、発行される国債は内国債であり資金のほとんどを国内から調達していた。つまり、その95%が国内資金で賄われているという現在置かれている日本国債を取り巻く状況に非常に似ている。

 金融恐慌後のデフレ脱却のためリフレ政策とも呼ばれる政策をとったのが、高橋是清蔵相であったが、デフレ脱却後のインフレを抑制しようとしたところ、軍部により暗殺されている。そしてその後の軍事費拡大、そしてあの戦争へと繋がっていくのである。

 現在の日本の債務状態も戦争直後の状況に類似している。この財政を立て直すためには、当然のことながら痛みを伴う。もちろんそれは国民の痛みである。もし一気に解決を図るのならば、インフレを引き起こす事もひとつの手段であろう。しかし、戦後の悲劇については、我々戦後世代もいろいろなかたちで聞き及んでいる。同じような悲劇は繰り返したくはないはずである。

 もしも現在に高橋是清翁がいたならば、政府にはどのようなアドバイスをしていたであろうか。自ら資金調達に走ったような外貨建て日本国債を提案してくるのであろうか。また、デフレ脱却に用いた巧みな日銀による国債引き受けを企画してくるのであろうか。しかし、その後のインフレ抑制のブレーキをどのようにかけてくるのであろうか。

 日本の現在の債務状況を改善せるためには、高橋是清が働きかけた政策やその後の悲劇などが良い意味でも悪い意味でも大きな事例となりうる。ただし、国民の痛みを最小限度に抑えた上で、国債の信認を維持できるだけの財政再建への働きかけは、早期に手を打つことが重要であることに間違いはない。すでに先送りすればするほど、結果として国民への痛みは増加していくことを認識する必要がある。


2011.2.16「景気回復と財政再建と金利のバランス」

 2月14日に発表された日本の2010年10〜12月期の実質国内総生産の速報値は前期比年率マイナス1.1%となった。予想のマイナス2%近辺ほど悪くはなかったものの、これによる市場への影響はあまりなかった。むしろ、今年1〜3月期での回復期待が強まっており、日経新聞によると前期比年率プラス1.8%近辺の予想となっているようである。

 日米ともに景気の回復期待などを背景に長期金利は上昇傾向となっており、米10年債利回りは一時3.77%に上昇し、日本の10年債利回りも1.35%に上昇する場面があった。

 ただし、バーナンキFRB議長は米国の景気回復は力強さを増している兆しが出ているものの、失業率は依然として高過ぎるとの認識を示すなど、警戒心を緩めていない。日銀も今回の決定会合で景気の総括判断を上方修正させたが、これを前回は見送るなどやはり慎重姿勢と取れなくもない。

 バーナンキ議長は9日の下院予算委員会での証言において、景気の回復がぜい弱な局面で一気に歳出を削減すれば、景気回復を脅かす恐れがあるとの認識を示した。長期的な財政健全化は必要としながらも、政府支出を急激に削減すれば、雇用が上向き始めたばかりの国内経済を危険にさらす恐れがあると発言している。

 これに対して、オバマ大統領は提出する予算教書において、政策的な経費の伸びを5年間、凍結する方針を示した。これは米国の財政赤字が過去最悪となっているためである。2011年度の財政赤字は約1兆6500億ドルに達し、2012年度も約1兆1000億円に達することで、米財政赤字は4年連続の1兆円超となる。このためオバマ大統領は、一部の歳出をカットし、今後10年間で1兆1000億ドルの財政赤字を削減するとしたのである。

 しかし、米国の財政状態は日本ほど悪化しておらず、財政再建を進めるにはある程度期間を置くにしてもその方向性を示しておけば信認は維持される。このため、景気悪化を招くような緊縮財政は取るべきでないとするのが、バーナンキ議長の考え方なのであろうか。FRBの金融政策も同様の認識で行うとすれば、現在の超緩和策を長期間維持するとの考え方であるとも伺える。また、財政再建に時間をかける必要があるとするならば、FRBによる側面支援の継続も視野に入り、6月末までの国債買入の延長の可能性も強まろう。

 日本では残念ながら、危機的な債務状態にありながら、大幅な歳出削減計画などはない。財政再建に向けた増税についても掛け声止まりとなっている。財政への危機感は日本に比べて米国や英国の方がより強いように感じられる。これは日本が政府債務を国民がカバーしているという特殊事情も影響しているのかもしれないが、上辺だけではない本当の危機意識が欠如しているようにも感じられる。

 景気回復は財政健全化に向けて税収増などから当然ながらプラス要因となる。このため、財政再建にはこの景気への配慮も必要であろう。ただし、この景気回復や物価上昇は金利の上昇要因ともなり、金利の上昇は債務が大きければ大きいほど、さらに債務を悪化させかねない。

 つまり日米の中央銀行にとり、景気・物価だけでなく財政の動向も金融政策に大きな影響を与えうる。景気回復と財政再建と金利のバランスを考慮して導きだされる結論とすれば、FRBも日銀もすでに出口政策には積極的には踏み込めない状況に追い込まれているということであろうか。


2011.2.15「個人向け国債販売に見る銀行と証券の違いなど」

 財務省のサイトに国債トップリテーラー会議(第8回)配付資料がアップされており、この中の「最近の販売状況について」のデータがなかなか興味深い。

 最初にあるのが、1月17日現在における個人向け国債の償還予定額(平成23年)である。1月に1兆387億円、4月に9157億円、7月に1兆1717億円、10月に8126億円となっている。途中売却の可能性はあるものの、今年は4兆円近く(3兆9387億円)もの個人向け国債が償還される見込みで、その資金の行き先も注目されている。

 今回はそれとともに「個人向け国債の銘柄別販売割合」などにも注目してみたい。明らかに証券会社と預金取扱機関(銀行)に違いがあった。

 かなり昔になるが、私が出演させていただいたNHKの番組で、個人向け国債は10年変動金利タイプが良いか5年固定金利タイプが良いのかというのを解説させていただいた。クワバタオハラさんがそれぞれの良い点悪い点を比較して、一般のご夫婦に決定してもらうというものであった。この際は結局、5年固定が良いという結果となったが、中立であるはずの私はどちらかというと10年変動を推していた。

 結論から言えば販売額そのものを見る限り、圧倒的に5年固定が優っていた。しかしこれを証券と銀行に分けてみると、意外にも証券では10年変動の割合が高いことがわかる。さすがにその割合は減少しつつあるとはいえ、今年1月でもまだ3割近くとなり、銀行の約1割に比べて割合が大きい。

 これは何が要因なのであろうか。証券会社の顧客層はそれなりに投資知識もあり、今後の金利上昇も意識しているということなのであろうか。また、銀行の顧客はより安全志向であり、あくまで預貯金との兼ね合いで期間のなるべく短い固定利付きのものを選択していたのであろうか。

 この資料には個人向け国債の年代別販売状況もあり、これを見ると10年変動は40歳台が最も多いのに対して、5年固定は60歳台、3年固定は70歳台が最も多い。40歳台主体の現役世代は現在の経済物価、日本の財政事情などを考えて、固定金利よりも変動金利を選択しているのであろうか。

 個人向け国債の投資家は高年齢層が多いのは、日本の個人の金融資産がその年代に集中していることからも当然ではある。高年齢層はその年代の高さゆえ、あまり期間の長いものを選択していないとの見方もある。しかし、件数そのものは少ないものの10年変動の1件あたりの平均販売額は80歳台が800万円に迫っているなど(5年固定は同年代400万円台)、どうも老い先を考えて期間の短いものを選択しているだけとは言い難い面もある。

 ある程度投資経験がある高年齢層の一部には、期間そのものよりも今後の金利上昇を意識している人がある程度存在しているのであろうか。ただし、これには80歳台といった高年齢層には証券会社の店頭でリスク商品は勧めづらいことなども関係している可能性もある。贈与なども想定した上で、発行から1年経過すれば額面で売却できることで、10年変動タイプの個人向け国債を購入した投資家もいたのかもしれない。

 ちなみに今年償還を迎えるのは5年固定タイプのものである。その購入の中心年代は60歳台主体が主体となっている。「個人向け国債の業態別販売割合」から見ても、今回の個人向け国債の購入元は銀行の割合が高いと思われる。そして、元の資金は退職金などが想定されることで、あまりその資金をリスク商品には傾けづらいはずである。ただし、個人向け国債の購入時よりも条件の悪いものには手が出しづらく、難しい選択に迫られているのではなかろうか。

 このため、やや商品性の異なる投資信託などへの流出は一部となり、今後の金利上昇のタイミングを狙っての待機資金として、買い付けた銀行の普通預金などにとどまる可能性が高いのでないかと思われる。


2011.2.11「日本国債が暴落した場合の対応策とは」

 9日に自民党でXデ―プロジェクト会合というのもあり、それについては9日の「牛さん熊さんの本日の債券」(牛熊メルマガで配信中)で次のように触れた。

熊「今日は自民党でXデ―プロジェクト会合というのもあった」
牛「主題歌は、中島みゆきさんの地上の星やな」
熊「そっちではなくて、日本国債が暴落するというXデ―に備えた会合だそうだ」
牛「備えると言っても、実際に日本国債が財政悪化で暴落して止められるものなのか」
熊「今回は財務省の主計局、理財局の担当者から日本の財政や国債市場に関する報告を受けたそうだ」
牛「そもそもどういった下げを想定しているのか、それにはかなり債券に関する専門知識も必要やろ」
熊「そういった下落を想定する以前に、それを起こさせないようにするのが政治家の役目のはず」

 今回のXデ―プロジェクト会合にはかなり違和感を覚えた。政治家が今頃になって、何ゆえに「日本国債が暴落した場合の対応策を協議」するのか。こんな日本の債務状態にしたのは誰の責任なのか、まずそのあたりから検証すべきであろう。

 このような状況に追い込まれたら最悪の事態も想定しなくてはいけないとの理由もわからなくはないが、残念ながら市場に対しての知識もなしに対処療法などを検討してもまったく意味はない。

 日本国債は過去何度か大きな相場下落を経験している。戦後で見ても1980年の利率6.1%の国債が12%近くまで利回りが上昇した「ロクイチ国の暴落」があり、1985年の債券先物の上場直後にはプラザ合意に伴う日銀による短期金利の高め誘導をきっかけに、債券先物に売りが殺到し売り気配のまま2日間値がつかないという急落もあった。

 また、債券市場でのディーリング相場の全盛期に買われた89回国債が1987年に2.55%をつけてからの急落は私も市場参加者として経験した。これはタテホ化学工業が債券先物で286億円もの損失を出したことをきっかけに債券相場が急落した「タテホ・ショック」を招き、9月3日から5日までの3日間で、89回債は1%あまりも上昇したのである。

 そして1998年には有名な(債券市場参加者限定で?)「資金運用部ショック」がある。国債の引き受け手として大きな存在であった大蔵省(当時)の資金運用部が国債の引き受けを急減させるとの報道をきっかけに、1998年10月に0.7%も割り込んでいた長期金利は1999年2月に2.440%まで上昇したのである。

 運用部ショックによる相場下落は、国債需給を嫌気したものであり、その意味ではこの運用部ショックによる国債暴落は良い事例研究対象にはなりうる。しかし、運用部ショックを経て国債管理政策が急ピッチで進められ、その後の長期金利の大きな抑制要因となっており、すでにかなりの手は打たれている。ちなみにこの国債急落で日銀に押し付けられたのがゼロ金利政策であったが、現在の日銀もゼロ金利政策をとっている状態にある。

 その後2003年に「VARショック」と呼ばれた急落を迎えたものの、これは銀行のリスク管理手法に問題があったことが影響し、10年債利回りが0.430%にまで低下してしまった反動によるものであった。

 このように過去には国債価格の急落は何度かあったものの、自民党のXデ―で想定される下落は過去に経験のあるものではない。しいて言えば運用部ショックによる相場下落が多少参考になる程度である。もしも日本国債が国内資金で賄えなくなった場合の市場の反応については想定することも難しい上に、はっきり言えば対処のしようがない。海外保有の比率を高めるのは困難であり、その結果、運用部ショックの際にも検討された日銀による国債の直接引き受けが議論されよう。それが実施された際には、のちほど大きな副作用が待っている。

 このような国債暴落に至らせないための注意喚起も意識してのXデ―プロジェクトなのかもしれないが、そんなことをするよりもその暴落を防ぐため、国会議員が必死に努力すべきではないのか。


2011.2.10「超低金利継続に対する過度の楽観論も後退か」

 2月7日の講演で日銀の白川総裁は、「やや気懸かりなのは、日本の社会において健全な楽観主義が後退していることです。過度の楽観主義がバブルを生むように、過度の悲観主義は経済の停滞の原因にもなります」との発言があったが、日本でもようやく景気に対して過度な悲観主義が後退しつつあるように思われる。

 日銀は14日から15日にかけて開く金融政策決定会合で、景気の総括判断を一歩進める方向と日経新聞が伝えている。すでに政府も1月21日に月例経済報告において、景気の基調判断を上方修正している。

 米国でもここにきての経済指標は景気回復を示すものが多くなり、市場も素直にそれに反応し、ダウ平均は8日までに7日続伸となり、米長期金利は3.7%台に乗せてきている。

 ダラス連銀のフィッシャー総裁は昨日の講演で、現行のQE2については予定通り完了する見通しを示したものの、一段の金融緩和には反対を表明した。また、リッチモンド連銀のラッカー総裁は、QE2の見直しを真剣に検討すべきとの考えを示した。

 フィッシャー総裁、ラッカー総裁ともにタカ派とみられており、これがFRBの総意とは言い切れない部分はあるものの、市場では今年6月末でのQE2に対して、継続されない可能性も意識し始めている。

 また、英国ではイングランド銀行が年内に利上げを余儀なくされるとの観測から2年債利回りは2年ぶりの高水準を付けている。

 さらに世界的に食料や原油などの商品価格の高騰によりインフレ懸念が強まり、それがチェニジアやエジプトの政変の原因ともなった。また、インフレ抑制のため中国人民銀行は8日に、金融機関の貸し出しと基準金利を9日から0.25%引き上げると発表したが、春節明け前という異例のタイミングでの利上げとなった。

 欧米、そして日本でも景気への過度な悲観論は後退し、インフレへのリスク(日本はデフレ解消への期待?)も強まりつつある。米国も日本同様のデフレに陥るとの見方も少しずつ後退している。日本でも楽観的すぎるのではとみられていた日銀の予測通りに、CPIは来年度に向けてプラスに向かう可能性がある(日銀の政策委員による2011年度コアCPI見通しの中央値はプラス0.3%)。

 日本の景気や物価に対しての過度な悲観論の後退は、それはつまり超低金利継続に対する過度の楽観論が後退することを意味する。

 ここにきての日本の長期金利の上昇は米国長期金利の上昇の影響によるところが大きい。しかし、中期債の利回りも上昇するなど、その背景には、ほとんど無限大に近いように思われていた心理的な時間軸(利上げ可能になるまでの期間)が、実は有限であったことを意識させられた可能性がある。


2011.2.9「白川日銀総裁発言への違和感」

 7日の日本外国特派員協会における白川日銀総裁の講演内容が日銀のサイトにアップされており、今回はこの内容を見てみたい。

 白川総裁は日本経済の短期的な動向として、最近のデータの動きから、踊り場から脱却する蓋然性が高まってきたとの判断を示した。これは前回の金融政策決定会合での総裁会見でも示している。そして白川総裁は今回の講演で、日本の財政バランスの悪化にもかかわらず、日本国債の金利が低位安定しているのかについて、その理由を述べている。日本の長期金利の低位安定の理由として低成長と低インフレであることに加え、根源的に次のような理由を指摘している。

 「日本は税制や社会保障制度の改革などを通じて、最終的には中長期的な財政健全化に取り組む意思があると投資家が認識しているからではないか」

 これについてはかなり違和感を覚える。市場参加者が現政権に対して、積極的に財政健全化に取り組む意思があると認識しているとは思えない。財政への不安はあるものの、とりあえず国債の需給バランスが崩れない限り、低成長と低インフレで国債を買わざるを得ないというのが、投資家の本音ではなかろうか。財政懸念による国債暴落という狼少年の声に耳を傾けてはいけないというのが、現在のところ日本国債投資に向けた鉄則になっている。

 さらに付け加えて「日本銀行の金融政策運営が、物価安定のもとでの持続的成長の実現という点において軸がしっかりしていることも、重要な要因だと思っています」との総裁発言もあったが、これはやや矛盾しているのではなかろうか。

 長期金利の上昇を日銀が抑えているわけではなく、結果としてデフレ脱却が困難なため、日銀は金融緩和を続けているだけであり、そのため長期金利も上昇していない。本来ならば日銀の金融政策、つまり現状の緩和策が効果を発揮すれば、長期金利は低位安定するのではなく、上昇しなくてはいけないはずである。もちろん日銀の金融政策だけでデフレ脱却が可能なわけではないが。

 総裁は「逆に言うと、そうした信認を大事にし、中長期的な財政健全化に取り組んでいく必要があることを意味しています」とも発言している。「逆に言うと」との表現はいかなるものかと思うものの、国債への信認を維持させることは最重要であることに間違いはない。そして、中期的な財政健全化に取り組むのは政府の仕事であるが、それを推し進めるように働きかけているのは、中央銀行の総裁として適切な発言であると思う。

 また白川総裁は、「やや気懸かりなのは、日本の社会において健全な楽観主義が後退していることです。過度の楽観主義がバブルを生むように、過度の悲観主義は経済の停滞の原因にもなります」との発言があったが、これは私も感じている。特に有識者と言われる人たちに現在の世界的な金融経済情勢について、かなり悲観的な見方をしている人が多い。もちろんそれには理由もあろうが、悪い面ばかり注目してしまうと、その行為そのものが経済低迷の要因ともなりかねないことも確かである。もちろん、理由なき楽観論は慎むべきではあろうが。

 今回の白川総裁の講演についてマスコミなどは、景気が悪化した際に「資産買取の増額なども考え得る」との部分を妙にクローズアップしていた。講演内容全体を見ればわかるが、それはあくまでひとつのリスクシナリオであり、そのことが講演の中心のテーマではない。これも、過度の悲観主義のひとつの現れではなかろうか。


2011.2.8「長期金利は1.3%台に上昇」

 米労働省が4日に発表した1月の雇用統計によると、失業率(季節調整値)は9.0%となり、前月に比べて0.4%の改善となった。これは2009年4月以来の低水準となり、市場予測の平均9.5%(日経調べ)を大きく下回った。

 また、非農業部門の雇用者数は前月比3.6万人増となり、市場予測の平均14.8万人(日経調べ)を大きく下回った。また、11月の数値が7.1万人増から9.3万人増に、12月の数値が10.3万人増から12.1万人増に、それぞれ過去の数値が上方修正された。

 今回の雇用統計については大雪などの影響が加味されているとみられ、受け取り方は難しい面もあるが、製造業主体に雇用が緩やかながらも改善していることを示す内容であった。バーナンキFRB議長による「近いうちに雇用者数の増加や失業率の低下をみることができるだろう」との発言通りの内容と言える。

 雇用統計は米債への売りを加速させる材料となり、4日の米10年債利回りは3.64%近辺に上昇し、一時3.66%と昨年5月4日以来の水準をつけた。これにより、米長期金利は今年に入ってから続いていたレンジ相場を上抜けた格好となったと言える。

 雇用統計はあくまで米長期金利上昇のひとつのきっかけであり、今回の米国の長期金利上昇の背景には、1月の米ISM製造業景気指数の改善などを受けた景気回復への期待、さらに原油などの商品市況の上昇などを背景としたインフレ懸念などがある。

 さすがにFRBによる利上げまでは織り込めないものの、6月末までとなっているFRBによる国債買入がここで停止される可能性もあり、国債需給への懸念が出てきてもおかしくはない。ただし、現実にはFRBのよる国債買入停止は難しいとみている。買入そのものが国債需給にかなり織り込まれてしまっており、現状のペースで買入を継続させるか、多少ペースを落としても買入は継続させるのではないかとみている。

 現在の日本の債券市場は米債の影響を非常に受けやすくなっており、日本の長期金利ももみ合いから上放れて再び上昇局面入りする可能性が高まった。実際に7日の東京市場では長期金利は一時1.300%をつけ、昨年の12月15日、16日につけた1.295%を上回ってきている。ただし、債券先物中心限月については12月16日につけた直近安値の138円16銭には届いていない。

 10年債利回りでの1.3%台ではいったん投資家の押し目買いも入るとみられるが、日米の債券がともにレンジ相場から脱しつつあるため、今後の動向を見極めたいとして投資家もしばらくは慎重姿勢で望むものとみられる。

 今後の動向を見る上では、国内要因よりも特に米債の動向が大きな変動要因となり、米債が下げ止まらなければ円債も下値模索の展開が続くことが予想される。今週は8日から10日にかけて総額720億ドルの3年と10年、30年債の米国債入札が予定されており、こちらの動向にも注意が必要となろう。


2011.2.6「中央銀行によるアクセルとブレーキの使い分け」

 2月3日のECB理事会では主要政策金利を過去最低の1.00%に据え置いた。ユーロ圏での1月のCPIが前年同月比でプラス2.4%と2か月連続で政策目標の2%未満を上回っているが、理事会後の記者会見でトリシェ総裁は、これについて「想定外のことではない」と述べた。  前回1月13日の会見ではトリシェ総裁は「短期的なインフレ圧力がある」と指摘し、ECBはいつでも利上げできると強調した。しかし、この発言でECBによる利上げ観測が強まり、為替市場ではユーロ高の要因となった。

 この市場の利上げ観測の強まりを抑えるために、トリシェ総裁は今回発言によってブレーキをかけたものと思われる。前回に比べて物価に対する認識がそれほど変わったわけではないと思われる。

 中央銀行はマーケットに対するアナウンスメント効果をかなり意識している。前回のトリシェ総裁はインフレに敏感なユーロ圏市場に配慮して物価上昇抑制を意識した発言をしたのであろうが、それが利上げ観測を強める結果となり、今回はそれを抑える発言をした。

 日銀もこのようにアクセルとブレーキを使い分けてくることがある。たとえば1月20日に日銀の門間調査統計局長は、日本経済について「輸出は1〜3月期に明るい方向に進む。冬のボーナスの増加や株価の回復があり、消費も悲観的に見る必要はない。日本経済は今年前半に踊り場から緩やかな回復局面に移行する」と発言した。かなり景気回復について前向きととらえられた。

 しかし、1月25日の日銀の金融政策決定会合における景気認識については「緩やかに回復しつつあるものの、改善の動きに一服感がみられる」との前回(12月21日)の表現を据え置いた。ここではいったん慎重な姿勢を見せたのである。しかし、そのあとの記者会見で白川総裁は、輸出は先行き再び緩やかに増加していく、情報関連財の在庫調整についても着実に進捗していくことが見込まれるとノベルなど、やや景気回復について前向きの姿勢を示している。

 この日銀のアクセルとブレーキのかけ方は非常に緩やかなものであったが、昨年のQE2に向けてのFOMC関係者のコメントはかなりアクセルもブレーキも踏み込みが強かった。

 昨日、バーナンキFRB議長は講演後の記者会見で「近いうちに雇用者数の増加や失業率の低下をみることができるだろう」と発言したが(日経新聞のサイトより)、6月末まで実施される国債買入に関して、その後も実施するのか、規模を縮小するのかといったことには言質を与えなかった。

 6月末までには時間はまだあるものの、市場ではその後の動向に注目している。FOMC関係者は雇用などを主体に景気動向や、ここにきてインフレ懸念も強めつつあるため物価動向を睨みながら、さらに市場参加者のセンチメントも意識して国債買入に関して議論し、また発言をしてくるものと思われる。その際には、市場のセンチメントを見極めるために引き続きアクセルなりブレーキなりをうまく使い分けてくるものと思われる。


2011.2.5「米雇用統計を受けて日米の長期金利は上昇局面入りか」

 米労働省が4日に発表した1月の雇用統計によると、失業率(季節調整値)は9.0%となり、前月に比べて0.4%の改善となった。これは2009年4月以来の低水準となり、市場予測の平均9.5%(日経調べ)を大きく下回った。

 また、非農業部門の雇用者数は前月比3.6万人増となり、こちらは市場予測の平均14.8万人(日経調べ)を大きく下回った。また、11月の数値が7.1万人増から9.3万人増に、12月の数値が10.3万人増から12.1万人増にそれぞれ過去の数値が上方修正されている。

 失業率の低下については、労働参加率の低下、つまり職探しを諦めているなどの人が増えていることも一因であり、特に今回は大雪などの影響で就職活動を休止した人も多かったのではとの推測もある。ただし、就業者比率の上昇による影響もあり、労働参加率の低下だけが要因ではないようだ。

 非農業部門の雇用者数が予想ほど増加しなかった背景にも、大雪の影響が出ていた可能性がある。建設や運輸倉庫といったセクターでの雇用が大幅に減っていることなどからそれを指摘する見方もある。製造工業は1998年8月以来の大幅な増加となっていることから、製造業中心の景気回復が雇用に波及しつつあることも示唆された格好となっている。

 今回の雇用統計については大雪などの影響が加味されているとみられ、受け取り方は難しい面もあるが、製造業主体に雇用が緩やかながらも改善していることを示す内容であった。バーナンキFRB議長による「近いうちに雇用者数の増加や失業率の低下をみることができるだろう」との発言通りの内容と言えそうである。

 この雇用統計の数値は米債への売り材料となり、4日の米国債券相場は5日続落となった。米10年債利回りは3.64%近辺に上昇し、一時3.66%と昨年5月4日以来の水準をつける場面があった。また2年債利回りは0.76%近辺に、30年債利回りは4.74%近辺にそれぞれ上昇した(ブルームバーグ)。

 これにより、米長期金利は今年に入ってから続いていたレンジ相場を上抜けた格好となった。今回の雇用統計はあくまでひとつのきっかけであり、今回の米国の長期金利上昇の背景には、1月の米ISM製造業景気指数の改善などを受けた景気回復への期待、さらに原油などの商品市況の上昇などを背景としたインフレ懸念などがある。

 さすがにFRBによる利上げまでは織り込めないものの、6月末までとなっているFRBによる国債買入がここで停止される可能性も出てくるとみられ、国債需給への懸念が出てきてもおかしくはない。8日から10日にかけて総額720億ドルの3年と10年、30年債の入札も予定されており、これも懸念材料とされる可能性がある。

 日本の債券市場はここにきて米債の影響を非常に受けやすくなっており、日本の長期金利ももみ合いから上放れて再び上昇局面入りする可能性が高まった。すでに4日の東京市場では長期金利は一時1.285%に上昇しており、今年に入ってからのレンジ相場を抜けつつある。その動きが7日以降、本格化する可能性がある。日本の長期金利での1.3%は通過点となる可能性が出てきた。

 4日の米国株式市場ではダウは29ドル高としっかり。また、外為市場では米長期金利の上昇などからドルが買われ、ドル円は82円台を回復するなど円高の動きも一服している。これらは週明けの東京株式市場にとり好材料視されるとみられ、債券市場にとりこれも上値を抑える要因となりうる。

 ただし、このまま日米の長期金利が大きく跳ね上がることは考えづらい。あくまで膠着相場から脱して、あらたな居所を探る展開となることが予想されることで、今回の日米の長期金利の上昇に対し、それほど懸念する必要はないと見ている。債券の投資家にとっても、絶好の押し目買いのチャンスとなるのではなかろうか。

 そうはいっても気をつけなければいけないのは、財政問題がこの金利上昇に拍車をかけるリスクである。市場では金利上昇への警戒心が高まることで、悪材料には敏感になりつつある。そんな中、来年度予算案の審議などをしっかり進めて行かなければ、長期金利の上昇が加速されるリスクがあろう。


2011.2.4「債券はレンジ相場から脱却か」

 ここにきて膠着感を強めつつある米国と日本の債券市場であるが、日足チャートなどから見て、そろそろレンジ相場を抜けだしてくる可能性がある。日本の債券先物は、いわゆる三角保合の頂点を形成しつつある。

 このレンジ相場を抜け出すきっかけとなりそうなのが、4日に発表される1月の米雇用統計か。1月の米ISM製造業景気指数が2004年5月以来の高水準となり、その内訳で雇用指数も改善しており、雇用統計そのものの数字も良くなれば景気回復への期待感も強まり、債券市場にとり売り材料となりうる。

 日本でも日銀の門間調査統計局長が日本経済は今年前半に踊り場から緩やかな回復局面に移行すると発言するなど、景気に対する強気の見方が広がりつつある。この背景には欧米の景気回復期待とともに、新興国の力強い経済成長がある。昨日発表された2010年の日本の鉄鋼輸出は2008年を超えて過去最高を記録したが、この背景には韓国や中国などの需要があった。

 そして、もうひとつ気になるのが商品市況であろう。特にエジプト情勢の緊迫化はさらなる原油価格の上昇要因となりうる。新興国の需要増もあり食料品やこの原油価格が値上がりしてきており、それは当然ながら物価全体にも波及しつつある。英国のイングランド銀行が年内に利上げを複数回行うのではないかとの観測も出ているが、その背景にはインフレ懸念がある。

 日本についてはインフレを懸念できるような状況には程遠いものの、それでもじわりじわりとCPIのマイナス幅が縮小してくることも考えられる。それに対し米国では日本に比べるとインフレへの懸念はかなり強いように思われる。

 最近の日本の債券相場は米債の動向に非常に影響を受けやすくなっているため、米債が雇用統計の発表などをきっかけに、もしレンジを下抜けてくれば、日本の債券市場も同様の動きを示すであろう。

 そして、日米ともに財政問題を抱えており、これも債券市場にとり上値を重くさせる要因となっている。来週は米国で総額720億ドルの3年と10年、30年債の入札も予定されており、これも懸念材料とされる可能性がある。

 このように債券がレンジ相場を脱却するとすれば、下抜ける可能性が高いとみられる。しかし、三角保合後はいったん抜け出すような動きを見せるが、それがいわゆるダマシとなることも多いことにも注意を払っておく必要がある。今週末から来週にかけて日米の債券市場がいかなる動きを見せてくるのかに注目したい。


2011.2.3「景気に対する悲観論は後退か」

 2月1日に発表された1月の米ISM製造業景気指数は、60.8と前月の58.5から上昇し、2004年5月以来の高水準となった。

 このISM製造業景気指数は、米供給管理協会が製造業約350社の購買担当役員にアンケート調査を実施し、1か月前と比較して、「良い」「同じ」「悪い」の三者択一の回答を元に、季節調整を加えた景気動向指数を作成したもので、景気転換の先行指標として重視されている(拙著「ネットで調べる経済指標」より)。

 内訳となる雇用指数や価格指数についても重視されているが、雇用指数は米国経済指標で最も注目されている指標のひとつである雇用統計の動向などをこの数字からも連想されるためであり、また価格指数は物価動向も見る上で参考にされる。

 その雇用指数については前月の58.9から61.7に、価格指数についても72.5から81.5に上昇している。これらはFRBの金融政策のスタンスを見極める意味でも注目されている指標のひとつでもあり、FRBの景気認識に影響を与える可能性がある。

 また、マークイットが1日に発表した1月のユーロ圏製造業購買担当者景気指数(PMI)改定値は57.3となり、速報値の56.9から上方改訂された。

 このように欧米については製造業を主体に景気が予想以上に回復を見せている兆しがある。日銀の白川総裁は1月26日の記者会見で、「海外経済は、新興国・資源国が高成長を続けているほか、一時期強まった米国経済の先行きに対する悲観的な見方も後退しており、海外経済の成長率が再び高まりつつあります」と述べている。これにより、輸出は、先行き再び緩やかに増加していくというのが日銀の判断である。

 2月14日に2010年10〜12月期の日本の国内総生産(GDP)の実質成長率が発表されるが、平均で0.5%のマイナス、年率換算で2.0%程度のマイナスとなり、5四半期ぶりのマイナス成長となることが予想されている。このマイナス要因のひとつに、半導体など情報関連財の在庫調整局面入りを背景とした輸出の伸び悩みが指摘されているが、「情報関連財の在庫調整についても、世界的にIT関連需要が堅調に推移するもとで、着実に進捗していくことが見込まれます」と白川総裁は会見でコメントしている。

 また、エコカー補助金の終了に伴う自動車の駆け込み需要の反動減の影響についても、白川総裁は「自動車の販売動向、生産指数の動き、企業からのヒアリング情報などを踏まえると、徐々に薄まっていく方向にあるとみられます」としている。

 このように、どうやら10〜12月期の景気の落ち込みは一時的なものとなりそうで、14日に発表されるGDPに対し、市場は過去の数値としてあまり反応しない可能性が高い。

 エジプトの政情不安にともなう原油高、さらに円高などが景気回復の足かせとなる懸念もあり、不透明感が強いことは確かである。しかし、日本の景気は欧米の景気回復とともに1月以降は回復を示す可能性が強まりつつあり、悲観論が徐々に後退しているように思われる。


2011.2.2「去年はギリシャ、今年はエジプト、いずれ日本も」

 昨年、世界の金融市場を揺るがしたのがギリシャ・ショックである。昨年1月に欧州委員会がギリシャの財政に関して統計上の不備を指摘し、ギリシャの財政状況の悪化が表面化した。ギリシャは2009年10月に政権交代が行われたが、パパンドレウ新政権に変わったことにより前政権が行ってきた財政赤字の隠蔽が明らかになったのである。これを受けて格付け会社は、相次いでギリシャ国債の格付けを引き下げ、ギリシャ国債は暴落したのである。

 昨年のギリシャ危機が生じたのは、その債務そのものの大きさよりも、政府がそれを隠蔽していたことで政府そのものへの信認が失墜したことが大きかったと言える。しかし、市場はギリシャの財政問題をクローズアップしたことにより、同様に債務状態が悪化しているポルトガルやスペインなどにも飛び火した。

 そして、今年もまた年初から世界を揺るがすようなショックが生じた。昨年10月にチュニジア国内で騒乱が発生し、23年間の長期政権を維持してきたベン・アリー大統領が国外に脱出するという事態が発生した。これはジャスミン革命とも呼ばれたが、これがエジプトに波及したのである。エジプトはムバラク大統領が29年もの長期政権を維持しているが、そのムバラク大統領は9月の次期大統領選には出馬しない意向を明らかにした。

 エジプトでは大規模な反政府デモが発生しており、その動向次第では中東諸国などに影響を与え兼ねず、またもスエズ運河の航行へのリスクも高まり原油価格は上昇し、北海ブレンド先物は昨日、1バレル100ドルを突破した。

 昨年がギリシャ・ショックで始まり、今年はどうやらエジプト問題が世界を揺るがせている。この2か国に共通しているのは、古代に文明が栄えた土地であり、それ故、観光収入が大きいことなどであろうか。

 ギリシャ問題はユーロ全般のソブリン危機を招くこととなったが、今度のエジプトの問題は、長期政権にともなう政治への不満などが大きな原因となっている。ギリシャ・ショックは金融市場を直撃したが、エジプトの問題は地政学的リスクや原油価格の高騰などにより、金融市場に影響を与えてきている。今後の情勢次第では中東やアフリカ諸国のパワー・バランスに変化が出てくる可能性があり、そうなると問題は米国などを巻き込み、かなり大きくなりかねない。

 もうひとつ、注意すべきはやはり古代文明の発祥国である中国への影響か。60年以上に渡り共産党の一党独裁政権が続いているが、エジプトなどに触発されて中国国内で独裁政権への不満が再び高まってくる可能性もある。

 いずれにせよ、昨年のギリシャにせよ、今年のエジプトにせよ国や政府に対する不信感がその問題の根底にある。日本では政府に対して国民は反発まではしていないものの、非常に冷めた目でみている。しかし、巨額の政府債務を抱えたまま、口先では財政健全化を唱えるものの、なんらその進展がない状況で果たしてこのまま国民は大人しくしているのであろうか。

 日本でも2009年に大きな政権交代が起きたが、それでわかったことは何も変わらないということであり、それを反省しているのは選んだ国民であろう。確かにギリシャやエジプトの国民に比べれば日本人は比較的豊かな生活を送れており、大きな不満はないのかもしれない。しかし、それは国の巨額な債務に基づいていることを、そろそろ気にしなければならないのではなかろうか。


2011.2.1「ミニJGB先物への取引増に期待」

 2009年3月から取引単位をJGB先物の10分の1としたミニJGB先物がスタートしたものの、、売買高は低迷しまさに開店休業状態となっている。しかし、今後は多少なり出来高が増加する可能性が出てきた。

 新聞などの報道によると、複数のオンライン証券がミニJGBなどのデリバティブ市場に参入することが明らかになったのである。このうちカブドットコム証券や岡三オンライン証券の発表によると、東京証券取引所の先物が「Tdex+(取引システム)」に移行する予定の2011年秋頃を目処にミニJGB先物の取扱いを開始するそうである。

 個人投資家による日本国債先物取引への潜在的なニーズはあると思われる。日本の財政悪化に対しての懸念も強まっているだけに、ヘッジ目的として先物を使う可能性も高い。しかし、JGB先物への参入にはいくつかの壁がある。

 そのひとつが個人投資家の債券市場への理解度の不足である。株式市場や外為市場に比べて、債券市場は個人投資家にとり、やや距離感があろう。値動きだけで売買もできなくはないが、動きの背景を知らないとなかなか利益を出すのも難しいだけに、債券や国債に対してある程度の知識が必要とされる。また、長期金利が低位安定していることで、債券相場そのものの動きが乏しいことも個人投資家の参入を阻んでいる可能性がある。

 しかし、今後、日本の財政悪化等を含めて何かしらの要因で債券相場が大きく動く可能性がないわけではない。その際にはヘッジ目的もしくは投機的な目的を含めて、個人が債券先物市場に参入する可能性は十分にありうる。

 今回のオンライン証券がミニJGBの取扱いを始めることは、投資家による債券先物取引参入への呼び水となる可能性もある。多少なり出来高も増えてくれば、ミニJGBに対する個人投資家の関心も次第に強まるのではなかろうか。

 あらためてミニJGBとはどのような取引であるのか、紹介したい。2009年3月23日に東証は売買単位を従来のJGB先物(ラージ)の10分の1としたミニ長期国債先物(ミニJGB)を上場した。このミニJGB先物は、取引単位が1000万円とラージの10分の1に小口化され、呼値の単位も、ラージが額面100円につき1銭に対して、ミニは額面100円につき5厘(0.5銭)と刻み幅(ティックのサイズ)が半分になった。しかも、ラージのように現物受渡はなく、ミニは差金決済となっている。

 証拠金に関しては、日本証券クリアリング機構によりSPAN(R)により計算される。参考までに2011年1月31日から2月4日までの単一商品の単一限月取引において1単位買い(売り)建てた場合の証拠金に相当するプライス・スキャンレンジは、90万円となる。ミニに関してはこの10分の1となるため、9万円となる。(参考、日本証券クリアリング機構トップページにあるSPANリスク・パラメーター・ファイルより)

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