2011.4.29「日米の国債への信認と格付け」

 4月27日に格付け会社S&Pは日本の格付けのアウトルックをネガティブに変更した。S&Pは4月18日には米国の格付け見通しを安定的からネガティブに引き下げている。

 何故、このようなタイミングでアウトルックを引き下げたのか。その理由としてS&Pは、東日本大震災と、それに起因する福島第1原発の事故の影響をふまえ、震災の復旧・復興費用は30兆円前後生じ、増税などの財源措置がとられない場合、GDPに対する財政赤字の比率が、2013年度までに従来予想を3.7%上回る水準に達すると予想するためとしている。

 政府は4月22日に東日本大震災の被災地の復旧対策を中心とする2011年度第1次補正予算案を閣議決定したが、これによる財政支出額は4兆0153億円となる。これだけで阪神大震災の復旧・復興のため編成した3度の補正予算の計3兆2298億円を上回るが、今後は第二次、第三次の補正予算が編成されることも予想されている。

 この民間格付け会社によるソブリンの勝手格付け(依頼されたものではない格付け)は、たしかに警告として受け止める必要はある。しかし、だからといって、これを受けて市場参加者が動揺する必要はない。日本の債務状況や震災による影響については格付け担当者同様、いやそれ以上に把握しているはずである。このため、今回も日本の債券市場への影響は皆無と言って良いような状況であった。

 米国債の格付けのアウトルックに対しては、27日の定例記者会見でバーナンキFRB議長は次のように発言している。

 「ある意味で、S&Pの米格付け見通し引き下げがわれわれに伝えることは何もない。新聞を読む人なら誰でも米国が非常に深刻な長期的財政問題を抱えていることは知っている。」

 バーナンキ議長のこの指摘は的を射ていると思う。本来であれば、民間格付け会社の格付変更などに一喜一憂すべきものではない。ただし、ギリシャなどのように一度信用を失い市場が動揺している際などは、格付け会社の動きに敏感になってしまうことも多い。それだけ市場参加者が自らの判断そのものに自信を持てなくなっているためでもあろう。

 米国債も日本国債もこのような格付けに関する報道には、今後も影響を受けることはないと思われる。ただし、これには両国の国債に対する市場の信認が維持されていることが大前提となる。このあたりは日本の国会議員なども十分に認識しておく必要がある。日銀による国債引受などにより国債への信認が失われれば、民間格付け会社の勝手格付けと言えども、それをきっかけに長期金利を急騰させるきっかけとなりうるためである。


2011.4.28「初のFRB議長による定例記者会見」

 27日のFOMC後に、FRB議長による初めての定例記者会見が開催された。FOMCの声明発表は通常の午後2時15分ではなく午後0時半頃となり、そしてバーナンキFRB議長による会見は午後2時15分に変更された。ちなみに27日の米5年債の入札は、このFRB議長の定例記者会見の関係で、通常の午後1時ではなく午前11時半となった。

 金融政策は金融市場を通じて効果が発揮されるため、市場との対話が金融政策の効果を高める上では大変重要なものとなっている。FRBのバーナンキ議長も「市場の先行きの短期金利予想に最も直接的に働きかける手法は、トークである」と以前から発言していた。

 ところが日銀やECBが行なっている定例のトップによる記者会見については、「リアルタイムの透明性は非常に重要で価値があるものの、その一方で、当座の発言が誤解される恐れがあり、それにより望ましくない不必要な不透明性、金融市場における不必要な変動が起きかねない」(2月3日のバーナンキ議長の講演より)との理由などから、これまで行われてこなかった。しかし、バーナンキ議長本人による強い働きかけなどにより実現したものと思われる。

 今回の会見については、FOMCの終了予定時間だけでなく、国債入札の時間も変更されるなどかなり用意周到となっていることが伺える。WSJの記事では、「バーナンキ議長は自身の考えというよりも、FOMCでの決定の総括に力を入れるとともに、メンバーの一致した見方を優先する見込み」とある。そして、「記者団からの質問内容については事前には知らされない」そうである。

 バーナンキ議長はナショナル・プレスクラブでこれまで2回にわたり、報道陣の質問を受けているため、記者会見そのものの経験はある。しかし、今回はFOMCという金融政策を決定する会合に関する会見となることで、世間の注目度も高く雰囲気はやや異なるものとなったようである。実際の会見については、バーナンキ議長本人だけでなく質問する記者も緊張の色も隠せず、多少、固さも見える中、そつなくこなしたような印象だったようである。

 過去の日銀総裁の会見を見ると、総裁の個性の違いにより会見の状況もやや異なっていたかに思う。速水元総裁は日銀法の改正後に始められた総裁会見のスタイルを形作った総裁と言えるが、ある意味、頑な姿勢が垣間見えた。これに対して福井前総裁は柔軟な対応を示し、会見もそつなくこなされていた感じを受ける。そして、現在の白川総裁は一言で言えば、隙がない。ただし、その分、やや面白みに欠ける部分もあるかに思う。総裁会見に面白さは必要ないかもしれないが、その場を和ませる会見は聞き手にとってもやりやすいのではなかろうか。これはバーナンキ議長にも同様のことが言えそうである。


2011.4.27「国債を買い支える国内資産の伸びも頭打ち」

 日本国債はその95%が国内資金で賄われており、それが大きな強みになっていたが、すでに家計の金融資産が頭打ちになっていることにも注意が必要となる。これまでは国債残存額の増加に合わせるように家計の金融資産も増加していたが、その伸びはすでに鈍化している。

 たとえば、国債の買い手として大きな存在となっていたゆうちょ銀行とかんぽ生命の運用資産は2010年12月末で計289兆円弱と、2009年度末に比べ4.5兆円減少した。このうち国債の保有残高は約215兆円と、こちらは9兆円もの減少となっていた。運用資産に占める国債の割合は2009年度末の76%から74%余りに低下した。

 また、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は2001年の発足以来、日本国債の最大の買い手だったが、年金受給者の大幅な増加により、保険料収入よりも給付が多くなり2009年度から積立金を取り崩している。取崩額は2009年度が約4兆円、2010年度が6〜7兆円程度、そして2011年度は6.4兆円となる計画と4月24日の日経新聞が報じている。2010年度は国内債券などで約4兆円を現金化した。

 生命保険会社なども同様に今後、運用額が大きく増加することは考えづらい。ただし、大手銀行などが預金増とともに景気低迷による貸し出しの減少により、国債の増加分をカバーしてきている。しかし、今後も同様に銀行がカバーできるという保証があるわけではない。今回の震災がこのあたりの構図に影響を及ぼす可能性もある。

 いずれにしても国内資金で賄うにも限度があることは事実であり、その限界は2015年とか2020年あたりにやってくるとの見方も出ている。しかし、これについてはいろいろな前提条件も必要でかなり詳細な分析も必要となり、具体的にいつなのかは測定が難しい面がある。

 たとえば、銀行の貸出や生保や公的年金の外債投資分などを国債に回すとなれば、その分、余裕が生じるのも確かである。しかし、貸し出しを減少させれば当然、景気に悪影響が生じ、それは税収不足の要因にもなる。また、外債投資の抑制、もしくは保有する外債の売却については、1998年末の運用部ショックの経験から、米国政府あたりからの懸念が出て国債問題が国際問題に発展しかねない。

 原油も枯渇すると言われながらまだ潤沢に供給されているように、日本国債も大量に発行され続けていても、いまは安定的に消化されている。しかし、原油も国債を買い支えている国内資産もいつかは枯渇する。

 我々は枯渇後の世界観を漠然と持ちあわせてはいるが、それを具体的に描くことは難しい。代替エネルギーには今回の福島原発事故であらためてリスクの大きさが意識された原発を推進していくほかはないのか。そして、日本国債についてもリスクが大きい日銀引受にいずれ頼らざるを得なくなるのか。そうなる前に手は打つべきであろう。


2011.4.26「OECDの提言にみる震災の影響を加味した日本の債務問題」

 経済協力開発機構(OECD)は4月21日に日本経済の財政状況や経済見通しを分析した2011年版の「対日経済審査報告書」を公表した。これについて消費税20%の引き上げへの提言がマスコミで注目されたが、何故にこの提言が出されたのか、その要因についてOECDの報告書を元に見てみたい。

「OECD対日審査報告書 2011年版」 http://www.oecd.org/dataoecd/6/5/47651437.pdf

 1993年以来、18年連続して財政赤字が続いているが、その要因として、OECDは長期にわたる低い経済成長と減税による歳入抑制をあげている。ただし、並外れた水準の債務による影響は極めて低い長期金利により軽減されているとしている。

 その上で、「しかしながら、日本は、長期金利上昇のリスクを低減させるとともに、持続可能な財政の道筋に戻るための長期にわたるコストを低下させるため、財政健全化に向けた取組みを加速することが必要になるであろう。」としている。

 国債への信認維持のためには、持続可能性(サスティナビリティ)が最も重視される。すでに公的債務残高はグロスで200%(GDP比)、ネットで115%程度と OECD地域の中で最も高くなっている。この数値そのものが日本の財政破綻等を意味するものではないが、債務そのものが巨額となっている点には注意しなければならない。

 このため政府は、2010年6月に財政運営戦略を発表し、この中で国及び地方政府の基礎的財政収支赤字を 2010年度6.4%(GDP比)から 2015年度に3.2%に半減させ、遅くとも2020 年度までに黒字化することを目標とする目標を設定した。このために、国の一般会計歳出(債務償還費と利払費を除く)は、2011年度から 2013年度にかけて、2010年度当初予算の水準を超えないこととされ、この目標は2011年度予算案の中に取り入れられた。

「財政運営戦略」 http://www.kantei.go.jp/jp/kakugikettei/2010/100622_zaiseiunei-kakugikettei.pdf

 しかし、3月11日の東日本大震災の影響による歳出増により、すでにこれは2011年度から守られない可能性が生じている。これほどの未曾有の災害は当然ながら予期できるものではないため致し方のない面はある。ただし、これまでの日本の財政再建への動きは、1997年の金融危機や2008年のリーマン・ショックなどの影響で前進するどころか後退しており、それが政府債務を加速度的に増加させた要因になっている。これは、そもそも財政再建に向けた取り組みが中途半端であり、外的ショックに弱い日本の財務体質にこそ大きな問題があると私は見ている。

 OECDではその被害の規模を考慮する場合、地震と津波による被害を受けた地域における復興に向けた支出について、1995年の阪神・淡路大震災後、国による復興に向けた支出が、GDP比1%以上(6 年間にわたって)に達したことを指摘している。歳出の組み換えや、日本の人々の連帯感に訴えかけ、歳入の短期的な増加により復興に向けた支出を賄うことが重要であるとしながら、中期にわたり財政健全化は優先事項であり続けると指摘しているが、巨額の負債を抱え込んでしまっている以上、それは優先事項というよりも必要不可欠なものとなる。

 そのためには消費税増税を含む歳入改革とともに、大胆な社会福祉改革を中心とした歳出見直しが重要となる。それには国民の理解が必要である。震災復興のための増税ならば理解を求めやすいといったような意識ではなく、もっと長期的なスタンスで債務問題を考えなければいけない。震災復興による歳出増により、さらに日本の財政悪化が加速される恐れがあることで、日本国債が国内資金で賄えなくなるという最悪の状況を回避させるべく、財政再建に向けた具体的なシナリオを構築化する必要がある。それにはこれまで諸外国で行ってきた財政再建もモデルになろう。専門家を交えた具体的な対応策を講じる必要がある。

 ただし、このシナリオには日本国債の信認を揺るがす日銀による国債引受論のようなものは極力排除する必要があるのは言うまでもない。国債への信認が崩れ、長期金利が急上昇してしまえば、改革そのものが極めて困難になりかねない。

 消費税20%が適切であるのかどうかはさておき、これもひとつの提言として受け止める必要がある。これまで財政構造改革に向けて動こうとするたびにブレーキがかかってしまっていたことを踏まえ、具体的・現実的な財政再建策とそれに伴う景気の落ち込みをある程度抑えるような難しい政策について、知恵を出し合うことが重要である。残された時間はそれほど多くはない上に、その時間は今回の震災の影響で多少ながら短くなってしまうことも確かなのである。


2011.4.23「第1次補正予算等に絡んだ国債増発について」

 政府は4月22日に東日本大震災の被災地の復旧対策を中心とする2011年度第1次補正予算案を閣議決定した。財政支出額は4兆0153億円となる。これだけで阪神大震災の復旧・復興のため編成した3度の補正予算の計3兆2298億円を上回る。今回の補正のための財源には、基礎年金の国庫負担割合(2分の1)を維持するための2兆4897億円を流用するほか、民主党のマニフェスト施策を含む歳出見直しなどで確保する。

 また、日本政策金融公庫の危機対応融資や中小企業向け融資の拡充のため、2011年度当初の財政投融資計画(14兆9059億円)に4兆3220億円を追加し19兆2279億円とするそうである。22日に開催された国債市場特別参加者会合(PD懇)でも、冒頭の財務省の説明で「危機対応融資等の財政投融資の追加を検討しており、その半分を財投債の増発で、残りを財投FBの発行で調達することが検討されている」(議事要旨より)とあった。今回の財投に絡む対応により、財投債が2兆円と財政融資資金証券が2.3兆円追加発行される見込みである。

 以上の第一次補正予算等によるカレンダーベースでの市中消化における国債の増発はない。建設国債1.22兆円増、特例国債1.22兆円減という組み換えも行われるようであるが、今年度の新規財源債(建設国債と特例国債の合計)そのものは44.3兆円として変化はない。また、借換債の111.3兆円も変わらずとなるが、財投債は当初の14兆円から16兆円になる。このため今年度の国債発行総額は財投債の増額が2兆円加わり、当初の169.6兆円から171.6兆円に増額される。

 この財投債の増発については消化方式別発行額のうち「前倒債発行減額による調整分」で対応するようである。

 これに関しては21日のPD懇で、「22年度の前倒債の発行額は、年度当初は8.1兆円を見込んでいたところ、財投債の不用の発生(7.1兆円)や第U非価格競争入札での発行額が予定を上回ったこと(2.8兆円)などの一方、個人向け国債等の販売が下回ったこと(1.2兆円)などにより8.8兆円増え、16.9兆円となった。」「本年度当初計画では前倒債を6.4兆円取り崩すこととしていたが、これに先ほど説明した財投債の若干の増発分を増額することを検討している」との説明があった。

 つまり昨年度は発行が予定されていた財投債15.5兆円のうち7.1兆円分の発行が見送られたことなどもあり、今年度の国債発行額に加わる6兆3893億円を除き、結果として10兆5301億円もの発行余力を保持している。この分から2兆円の財投債の増発分を、この前倒債の取り崩しにより調整することになる。

 ただし、今後は二次補正の編成も視野に入る。これによる国債増発も想定されるが、市中発行増額をできるだけ抑制するためのさらなる前倒債の取崩しによる対応について、財務省から以下のような説明があった。

 「更に取り崩すに当たっては、24年度の発行計画への影響も含めて検討する必要がある。仮に前倒債の残額全てを今後の補正予算の財源に充てると、24年度発行計画においては前倒債の発行減額による調整分を活用することができなくなり、大幅な市中増発の要因となることに留意が必要である。」

 このように、さらなる前倒し債の取り崩しについては限度があるとみられ、二次補正についてはある程度の市中消化分に関わる国債増発は避けられないものとみられる。もちろんこれは二次補正の規模などが明らかにならないと、国債増発額がいくらになるのかはわからないところではあるのだが。


2011.4.22「日銀による景気や物価の見通し」

 日銀は4月28日に公表する「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)で2011年度の実質国内総生産(GDP)成長率を1月に発表した中間レビューにおける前年度比プラス1.6%から大幅に下方修正する見通しと伝えられている。

 日銀は4月と10月の年2回、「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)を作成して足元とともに先行き2年ほどの経済、物価の見通しを公表している。また7月と1月には中間レビューを行っている。

 GDP予想の下方修正は、当然ながら1月には予測しえなかった3月11日の東日本大震災の影響によるもので、サプライチェーンの寸断や電力供給不足に伴う生産低下などが要因である。IMFが先日発表した世界の経済見通しでは、2011年の日本の経済成長率を0.2%ポイント引き下げて1.4%にしているが、日銀は0%台半ばに下方修正する見通しと22日の毎日新聞は報じている。

 ただし、IMFは震災の影響は2〜3か月で収まり、その後は年後半にかけて持ち直しとの予想となっているようだが、やはり日銀も来年度にかけて景気は緩やかに回復していくという予測とみられる。14日の白川総裁の講演でも「第3四半期以降、GDP成長率は再びプラスに転じるという見方が民間エコノミストの多数説となっています」と民間の予想を引き合いに出しているが、日銀の予測もそれと大きな隔たりはないのではなかろうか。

 また、消費者物価指数(除く生鮮食品)については、原油価格など国際商品市況の高騰を反映し、1月の中間レビュー時の前年度比プラス0.3%の見通しをさらに引き上げる可能性があるとも報じられた。4月分からは公立高校授業料無料化の影響が剥落して0.5%程度上方にシフトするため、それによるプラス効果が存在しているが、さらに商品市況の上昇を加味しての上方修正される可能性がある。

 ちなみに今年8月には消費者物価指数の基準改定が予定されている。7月に発表される6月分までは2005年基準であるが、8月に発表される7月分からは2010年基準が公表され、5年前の例に倣えば0.4%程度の下方シフトが起きる。しかし、この改定の影響を加味しても2011年度末までにプラス基調が確認できるとの見通しが日銀内にはあるとも伝わっている。

 また、4月には「中長期的な物価安定の理解」についての点検も行われる。昨年4月30日に開催された決定会合の議事要旨には、これについて以下のような議論があったことが記載されている。

「多くの委員は1%程度を中心値として上下0.5%ないし1%の範囲内であるとの見解を示した。一人の委員は0.5%〜2%で、中心は1%より幾分上の値との見方を示した。一人の委員は、1%よりゼロ%に近いプラスを中心に考えているとした上で、中心値である1%を過度に強調するのは望ましくないのではないかと述べた」

 ゼロ%に近いプラスを中心に考えているとしたのは、3月末で退任した須田委員ともみられることで、その影響も若干ありそうだが、1%程度を中心値として上下0.5%ないし1%の範囲内との大方の見方には変化はないとみられる。

 いずれにせよ、東日本大震災を受けての今後の景気や物価に関する日銀の見方が28日にはっきりするわけであり、その内容に注目したい。


2011.4.21「原発事故の賠償金支払いのための基金に交付国債を交付か」

 NHKの報道などによると、福島の原発事故の賠償金支払いのため、国が賠償原資として数兆円規模の公的資金を用意し、このため必要に応じて現金にできる、交付国債を交付すると伝えられた。

 これは本来であれば東京電力が支払う必要があるものだが、損害額は数兆円規模とみられ東電だけでは負担しきれない。このため、政府は東京電力に資金支援を行う基金のような組織を新たに設立し、この組織の財務面の基盤を整えるため、政府は交付国債と呼ばれる、必要に応じて現金にできる国債を交付する。

 NHKの報道によると、東京電力はこの組織に対して優先株の配当を行うとともに、資金の返済を進める。東京電力に一度に賠償金を支払わせると電力の供給事業に支障が出かねないため、公的資金などの活用で支援する。ただし、東京電力が、電力供給事業で得られる収入から時間をかけて返済できるため、最終的には国の財政負担は招かないとしている。

 交付国債とは、戦没者などの遺族や強制引揚げを余儀なくされた引揚者などに対して、弔慰金、給付金などの金銭の支給に代えて交付されたが、その後、1997年の金融危機に際し、金融システム安定化策として30兆円の財政資金を用意された際に、その財源として交付国債10兆円と政府保証枠20兆円で賄われた。

 預金保険機構に交付される国債の発行等に関する省令によると、この国債の名称は、預金保険機構特例業務基金国庫債券とされ、償還の手続として「政府は、機構から国債の償還の請求を受けた場合において、当該請求に係る金額の償還を行うときは、その償還を行う金額を日本銀行における機構の勘定に払い込むものとする。」とある。

 また、一部の償還の請求を受けた場合の措置として「政府は、機構から国債について、その額面金額又は登録金額の一部につき償還の請求を受け、当該請求に係る金額の償還を行った場合には、国債証券にあっては、当該国債証券と引換えに、当該額面金額から当該償還金額を控除した金額を額面金額とする国債証券を機構に交付するものとし、登録国債にあっては、当該登録金額から当該償還金額を減額するものとする。」とある。

 交付国債とは、債券の発行による発行収入金を伴わず、出資金の払込、弔慰金の支払及び損失補償金等、国が金銭の給付に代えて交付するために発行する債券のことである。このため、債券の発行による発行収入金が発生しない。原則として利子が付けられず、必要に応じて現金化できるが、譲渡は禁じられているものである。

 つまり、今回で言えば政府はこの「基金のような組織」に対して現金を渡すのではなく、国債を交付する。この組織は現金が必要となった時点で保有する国債を償還し現金化するのである。政府は支払いを要求された時点ではじめて予算措置を行い、それに応ずるかたちとなる。


2011.4.20「米国債は格付け見通し引き下げよりも欧州問題を注視」

 米国の格付け会社スタンダード・アンド・プアーズは、米国債の格付け見通しを安定的からネガティブに引き下げた。これは米国の財政赤字の縮小や連邦債務の削減に関して中長期的に合意できないリスクを意識したものとみられる。大手のしかも米国の格付け会社が自国の国債の見通しを引き下げることは初めてとなる。ネガティブに引き下げとの意味についてS&Pは、今後2年以内に3分の1の確率で格下げの可能性があるとしている。

 オバマ政権は13日に、歳出削減と増税を通じて12年以内に累積赤字を4兆ドル削減すると表明したばかり。しかし、この思い切った債務削減策については、米議会も日本同様にねじれ国会となっており、与野党での財政再建への方法のくい違いなども弊害となってくる可能性がある。米国の連邦政府の債務上限引き上げ問題については、いまだ議会の争点ともなっている。

 S&Pによる米国格付け見通しの引下げを受けて、18日の米国市場で米債は長期債主体に売られたものの、それは一時的なものであった。日本国債も、これまで格下げなどが発表されても、それによる売りは一時的であった。これは日本国債はその95%が国内資金で賄われており、国内投資家が売らなければ下げも一時的なものになるためであるとともに、国債への信認が失われなければ、格付け等の変更による影響は限定的であったためである。

 米国債についてもある程度、格付け見通し引き下げは想定されていたものとみられ、それにより直ちに米国債への信認が低下するわけではない。むしろ信認低下が意識された欧州諸国の動向の方が影響を与えた格好となった。米債はギリシャなどの欧州の債務問題などが意識されて切り返したのである。  欧州ではギリシャのデフォルトは避けられないとの観測も強まりつつある。ギリシャ政府当局者は18日に債務再編のための協議を行っていないと表明したものの、ギリシャの2年債利回りは20%へと大きく上昇した。

 ちなみに債務再編(リストラクチャリング)とは、借り手が借金の返済や発行した債券の償還が難しくなった際に、貸し手と交渉し返済可能な内容に見直してもらうことであり、その方法には、支払い期限の繰り延べ(リスケジューリング)や、元利の一部の返済を免除するヘアカットなどがある。

 週末に実施されたフィンランドの議会選挙では、納税者がユーロ圏の救済措置への資金提供に反対する中、反EUの政党が票を延ばして第3党となるなどユーロ懐疑派が躍進した。ギリシャやポルトガルへの救済のための資金提供などを巡って、加盟国内での反EUの声も強まりつつある。これはユーロシステムそのものを揺るがす可能性も秘めており、通貨であるユーロそのものの信認低下に繋がりかねない状況となりつつある。


2011.4.19「信用・信認の重要さ」

 米国の格付け会社スタンダード・アンド・プアーズは、米国債の格付け見通しを安定的からネガティブに引き下げたが、これによる米債への影響は一時的であり、むしろ欧州の債務問題などが意識されて切り返している。これは米国債への信認そのものが失われなければ、格付けに関する市場への影響は限定的であったためともみられる。

 欧州の債務問題についてはギリシャが債務再編を検討すべきとの意見が出てきており、ギリシャはユーロ圏諸国に対しすべての債務の返済繰り延べを検討するよう要請したとの観測も出て(ギリシャ政府当局者は否定)ギリシャ国債は大きく下落しているが、そもそも、なぜギリシャの債務が問題視されたのか、記憶されているだろうか。

 ギリシャは2009年10月に政権交代が行われたが、パパンドレウ新政権に変わったことにより前政権が行ってきた財政赤字の隠蔽が明らかになった。そして、2010年1月に欧州委員会がギリシャの財政に関して統計上の不備を指摘し、ギリシャの財政状況の悪化が表面化した。ギリシャ危機が生じたのは、その債務そのものの大きさよりも、政府がそれを隠蔽していたことにより政府への信認が失墜したことが大きかったと言える。しかし、市場はギリシャの財政問題をクローズアップしたことにより、同様に債務状態が悪化しているポルトガルやスペインなどにも飛び火したのである。

 たしかにギリシャの政務状態は健全とは言い難い。しかし、ギリシャ・ショックそのものは財政赤字の隠蔽によりギリシャへの信用が低下し、それに格付け会社の格下げが追い打ちをかけた格好であった。

 信用が失われ、同様にショックを引き起こした事例は事欠かない。日本の歴史を辿っても、1927年3月14日に当時の片岡蔵相が「東京渡辺銀行が破綻した」との発言、いや実際には破綻はまぬがれていたことで失言と言えるが、これによりいわゆる金融恐慌が引き起こされた。

 それとこれは小さな事例ではあるが、天皇陛下御在位六十年記念硬貨が発行された際にも、通貨への信用が問題視された。この10万円金貨は発行枚数が1000万枚と巨額であった。また、1枚あたり20グラムの金を使用していたが当時の金価格が2000円前後であり、金そのものの価値は額面の半分以下であり、それが政府への財源を潤した。しかし、その後の偽造事件もあって、金貨保有者は銀行に日銀券と引換に走ったのである。実は私もその一人であった。額面10万円の価値は保証はされていたが、その信用度がやや失われた事例であろう。ただし、ここにきて金価格が4000円台に上昇しており、もしグラム5000円を超えると、今度はプレミアムが付く可能性も出てきた。

 ここで10万円金貨の例を持ってきたのは、これは政府紙幣の発行に近い事例でもあるためである。もし政府紙幣が発行されると、日銀券よりも当然利便性は低下するため、政府紙幣は日銀券に変える動きが強まることが予想される。このため、それよりも政府紙幣を日銀に引受させれば良いとの意見もある。しかし、そもそも財政悪化により発行された政府紙幣に対する信用が維持されることは考えづらい。それを日銀が保有するというだけで、日銀券そのものの信用が失われる。

 腐ったみかんが入っているだけで、すべてのみかんの信用度が落ちる。これは2007年のサブプライムローンを組み込んだ証券化商品が、その後のリーマン・ショックなど世界的な金融危機を招いた発端となったことからも明らかなものである。だからこそ、日銀は保有する資産を国債を中心になるべく安全な資産にしようとしている。確かに一部リスク資産の買入れも行ってはいるが、これは市場における日銀の信用度を低下させるほどのものではなかった。しかし、財政規律を失うことになる政府紙幣、もしくは日銀による国債の直接引き受けは、政府、さらに日銀への市場における信用を低下されることは確かである。その結果がどうなるのかは、ギリシャ国債の例などを出すまでもなく明らかなものであろう。


2011.4.16「ニューヨークでの白川日銀総裁講演より」

 G20・G7出席のため訪米した日本銀行の白川総裁は、14日にニューヨークで講演し、その講演内容が日銀のサイトにアップされた。震災後、海外での日銀総裁の発言でもあり、その内容については特に海外の関心は高かったのではないかと思われる。

 白川総裁は震災発生時、14日から開催予定の金融政策決定会合に向けて、スタッフによる報告を聞いている最中であった。巨大地震発生を受け、予ねてより用意していた非常時の手順に従い、白川総裁を本部長とする災害対策本部を地震発生から14分後に立ち上げたそうである。

 日銀はまず決済システムと金融市場の安定確保に務め、日本の資金決済と国債決済の根幹を成す決済システムである日銀ネットが正常に稼働していることなどを確認したとみられる。仮に日銀ネットに支障をきたすことがあれば、電力供給が立たれるのと同様、もしくはそれ以上の混乱が引き起これる懸念がある。それだけ日銀ネットは重要なインフラでもある。

 震災による日本経済への影響について総裁は、短期的には供給能力への打撃から、生産を中心に経済活動に大きな影響が及ぶことは必至との認識である。震災の被害が大きかった4県のGDPのシェアは約6%に過ぎないものの、地震の規模の大きさに津波の影響、それによる原発事故もあり、またサプライチェーンを通じた影響、発電設備が大きく毀損したことによる影響などがその要因となる。

 ただし、ボトルネックとなった部品や素材については最優先で復旧が進められており、また、道路や工場、住宅をはじめ、毀損した資本ストック(推定毀損額の対GDP比率は約 3〜5%)を復元するための需要も出てくることから、第3四半期以降、GDP成長率は再びプラスに転じるという見方が民間エコノミストの多数説となっていると総裁は指摘している。ここでなぜ、ある意味日本最高のシンクタンクであるはずの日銀の予測を示さず民間の予測を出したのであろうか。まだ正式に公表できる予測が出ていないということなのであろうか、

 そして復興に向けた課題とする中で、復興に必要な資金のファイナンスに関し日本は経常収支の黒字、すなわち、貯蓄超過状態が長く続いており、マクロ的にみてファイナンスが難しいという状況ではないと説明している。外貨の資金繰り能力という点でも、日本は対外純資産が2.9 兆ドルという世界最大の債権国である点も強調し、民間金融機関は、復興の資金需要の増加に十分応えられる状況にあるとしている。さらに国債の発行市場をみても、地震発生後も入札発行は順調に行われており、長期金利も諸外国に比べ低位で安定的に推移しているとしている。

 かなり回りくどい説明になっているようだが、結局、主張したかったのは、このあとの発言にある「この非常に安定的な国債市場を損なう理由はどこにもない。日銀が直接引き受ければ、円に対する信頼感も弱める恐れがある」との考え方であるとみられる。

 震災後の日銀の動きを見る限り、積極的な資金供給や追加緩和などにより、金融市場の安定化をはかり、それが結局、震災後の国債発行をスムーズにさせた一因ともなった。こと日銀に関しては、今回の震災により、その信認はむしろ高まったかとのような印象である。


2011.4.15「米国の踏み込んだ財政再建策」

 米国のオバマ大統領は、13日に赤字解消に向けた長期計画を発表し、この中で歳出削減と増税を通じて12年以内に累積赤字を4兆ドル削減すると表明した。また、年間の財政赤字を2015年までに対GDP比で2.5%に削減するとの目標を設定した。オバマ政権は、今後5年間に累積赤字が3.8兆ドルに拡大すると予想しており、向こう10年間では7.2兆ドルになるとしている。ちなみに、議会の争点ともなっている米国の連邦政府の債務上限は14.3兆ドルである。

 米国の今年の財政赤字は対JDP比で10.9%と予想されている。IMFの世界各国の財政状況に関する報告書「財政モニター」によると10.8%の予想となっている。これに対して日本では、内閣府に試算によると、2011年度の財政収支は38.8兆円の赤字であり、名目GDP比ではマイナス8.0%となっている。IMFの「財政モニター」での日本の2011年はマイナス9.1%の予想だが、暦年と年度の違いに注意が必要。

 現在取引可能な米国債は9兆1300億ドルに膨れ上がったとみられており、累積赤字の削減は国債発行額の抑制となる。また、国債発行額が削減される見通しとなれば、今年の6月末まで予定されているFRBによる米国債の買入れが停止されても、米国債の需給にはそれほど影響を及ぼさない可能性もある。

 徐々に増加してきた日本の政府債務に対し、米国はリーマン・ショックなどの金融経済危機に対応して、急激に債務を増加させてきた。このため、このような思い切った削減も日本に比べればやりやすいのかもしれない。しかし、今後の動向については注目して見てゆく必要があろう。日本同様にねじれ国会となっており、与野党での財政再建への方法のくい違いなども弊害となってくる可能性がある。15日の日経新聞によると、オバマ案が4兆ドルの削減のうち2兆ドルを歳出削減で、残りは債務削減による金利負担減と増税で1兆円ずつひねり出すものとなっているのに対し、共和党案は5.8兆ドルの歳出削減を目指し、それにより1兆ドルの個人・法人税減税なども同時に行うことで差引4.4兆円の削減を目指すというものになっている。日本と同様に増税の有無がひとつの焦点となっている。

 財政再建に向けて英国や米国が積極的に取り組む姿勢を見せる中、日本では今回の東日本大震災によりさらに財政再建が先延ばしされることになる。過去にも財政再建を進めようとした矢先にいろいろなショックが襲った結果、日本の債務残高は減少するどころか、その増加のスピードをむしろ早める結果となっている。今は政府もそれどころではないであろうが、震災復興後の日本の財政再建にむけた道のりについても、ある程度の青写真は必要なのではなかろうか。


2011.4.14「日本の債務の増加要因と震災による影響」

 財務省のサイトにアップされている「日本の財政関係資料」には、バブル崩壊後の1991〜2010年度の「失われた20年」で、国の社会保障費が累計で148兆円増える一方、税収は211兆円も減ったとする分析がまとめてあり、これを元にして何故、日本の債務残高がこれほどまでに増加したのか、その理由を探ってみたい。

 1990年度はバブル経済で税収が戦後最高の60.1兆円に達したことなどにより、特例国債(赤字国債)は発行されなかった。しかし、それは一時的であり、1991年以降、公債残高は増加し続けることになる。

 1991年度以降2010年度にかけて、国債発行残高増加額は約471兆円となっている。この中には旧国鉄債務の継承などによる増加分の53兆円も含まれるため、これらを除くと実質的な増加は361兆円になる。この471兆円のうち、歳出の増加分が約192兆円、税収等の減少要因が約169兆円となっている。

 歳出の増加には社会保障関係費が約148兆円、公共事業関係費が約62兆円増でこの2つで多くを占めている。年代毎にみてみると1990年代では経済対策のための公共事業などが増加要因となっていたが、2000年代あたりからは社会保障費が急激に増加していることがわかる。

 特にここ数年、社会保障費の増加が大きく、2010年度も高齢化に伴う自然増や基礎年金の国庫負担割合引き上げ、子ども手当の創設などが重なっての増加となった。社会保障関係費はほぼ一貫して増え続けているが、その半面、地方交付税や教育関係費、防衛費などをあわせたその他歳出は累計18兆円の減少となっている。

 税収など歳入面では、税収が211兆円も減少し、税外収入は41兆円増えた。税収減は景気低迷による影響に加え、度重なる減税も影響した。税外収入は特別会計の埋蔵金活用などで伸びているものの、税収減を補うには至っていない。

 このように政府債務残高の増加要因は、社会保障費の増加がその主因であり、そこに税収の落ち込みも影響していることがわかる。

 このように、日本の財政健全化を進めるには歳出と歳入両面での改革が必要になることがわかる。今後も伸びが予想される社会保障費に対して、税収がこのまま落ち込みを続ければ国債への依存度はますます大きくなりかねない。

 しかし、今回の東日本大震災による復旧・復興のため、これまで抑制されていた公共事業関係費が大きく増加することが想定される。13日付の日経新聞によると、国交省の調べでは3月末までの判明分だけで道路や港湾などの被害額は1.5兆円を超す。これに公共施設や住宅を加えれば失われた社会資本は16〜25兆円に達すると見られている。これらの復興については当然ながら必要なものであるが、注意すべきはこれをきっかけにしての過去のような公共事業の復活である。

 すでに巨額債務が存在している日本にとり、日経新聞も指摘しているように、不要不急の公共事業を行う余力はない。震災の影響により財政再建が遅れる可能性はあるものの、日本国債への信認を維持するためには、歳出と歳入両面での改革はそれほど先送りすることができないことも確かであろう。


2011.4.13「震災後に開催された決定会合の内容」

 2011年3月11日の東日本大震災を受けて週明けの14日の朝から日銀は動いた。まず、資金の出し手が資金放出を控える動きが広がり、コール市場での取引が成立しない状況がみられたことから、金融機関などの決済の安定性を確保するため、日銀は大量の資金供給を実施したのである。

 また、3月14日から15日にかけて開催予定の日銀の金融政策決定会合は、14日のみの開催としたが、これはできるだけ早く結論を出すための措置である。この決定会合で日銀は追加緩和を決定し、資産買い入れ基金を総額5兆円から10兆円に拡充した。

 この時の議事要旨が4月12日に発表された。今回はこの内容を確認してみたい。

 最初に執行部からの報告を見てみると、「日銀ネットのほか、主要金融機関の資金・決済システムは正常に稼働しており、資金・証券決済に大きな混乱は生じていない」とあった。日本で最も重要なシステムのひとつである日銀ネットは、今回の震災でも被害はなかった。これは重要なポイントである。そして、当面の課題としては関東大震災の際にもあったように損傷銀行券の引き換えなどに応じられる体制とともに、計画停電への対応などが挙げられていた。

 執行部からの報告における実態経済については「短期的には、経済に対して下押し圧力が加わる可能性が高い。東北地方は、情報通信や電子部品・デバイスの生産額における全国シェアが高い 。サプライチェーンの問題もあって 、現在、東北地方に限らず多くの工場が操業を停止しているほか、電力供給面の制約もかかるため、当面、生産活動に影響が生じるものとみられる 」とし、サプライチェーンの問題等を注視している姿勢が伺える。

 次に委員会での議論を見てみると、地震の影響について多くの委員は企業や家計のマインドが悪化する可能性にも注意が必要であるとの見方を示していた。複数の委員は、今回の地震が一段の国際商品市況高によっても交易条件の悪化が懸念される中で発生したことも、マインド面を通じた経済の下振れリスクをより高めていると指摘した。マインドの悪化は確かに大きな課題となりつつある。

 そして、多くの委員は、家計・企業のマインド面の悪化や市場におけるリスク回避姿勢の高まりが実体経済へ悪影響を与えることを未然に防止する観点から、リスク性資産を中心に資産買入等の基金を増額し金融緩和を一段と強化することが適当であるとの認識を共有し、その結果として、資産買い入れ基金を総額5兆円から10兆円に拡充したのである。

 ただし、基金を通じた国債買入の増額について、「一人の委員は、長めの金利が低下傾向にある中で実施すると、財政ファイナンスであるとの疑念を招く可能性があると指摘し、資産買入の増額は全てリスク性資産で行うべきであるとの意見を述べた」とある。この一人の委員は須田前委員であろう。この反対意見は貴重であると思う。

 また、政府の参加者からは、「リスク性資産の買入額を積み増し、金融緩和を進められることについては、感謝申し上げたい。」「日本銀行におかれては、既に迅速に対応頂いており、感謝を申し上げる」と、日銀に対する感謝の言葉が添えられている。多少、ギクシャクしているようにも感じられる政府と日銀との関係も、震災を機に関係修復の動きも出るのであろうか。


2011.4.12「日本の財政事情の再確認」

 東日本大震災で編成する第1次補正予算案について、政府は4兆円規模とする方向で調整を進めているが、野田財務大臣は第1次補正予算案の財源については国債の発行に頼らない方針を示している。ただし、菅総理大臣は第2次補正予算案の規模について、かなり大規模なものになるという見通しを示しており、2次補正以降については、ある程度の国債発行が必要になるものと予想される。

 内閣府試算では東日本大震災の被害総額は16兆円〜25兆円としており、これに原発事故や電力供給の制約の影響を加味すると被害額はさらに増加する可能性がある。このため、今年度は東日本大震災を受けて、複数回の補正予算が組まれる可能性があり、それにより日本の財政事情も変化してくる可能性がある。それがどのように変化するのを見極めるためにも、補正予算編成前における今年度の日本の財政事情がどのようなものであるのか、あらためて確認しておきたい。

 ここでは財務省のサイトにアップされている「日本の財政関係資料(平成23年度予算 補足資料)」と、内閣府が発表した「経済財政の中長期試算」などを元にして見て行きたい。

 今年度の歳入と歳出を確認すると、税収が40兆9270億円、その他収入が7兆1866億円、そして公債金(新規国債発行額)が44兆2980億円である。すでに2009年度で新規国債発行額が税収を上回ってから、2010年度、そして2011年度も同様の異常事態となっている。

 また、歳出は国債費が21兆5491億円、基礎的財政収支対象経費が70兆8625億円となっている。中期財政フレームでは、「少なくとも前年度当初予算の『基礎的財政収支対象経費』の規模を実質的に上回らない」としており、当初予算では確かに基礎的財政収支対象経費については前年度をわずかながら下回った。ちなみに、基礎的財政収支対象経費とは一般会計歳出のうち、国債費及び決算不足補てん繰戻しを除いたものを指す。

 内閣府に試算によると、2011年度の国と地方を合わせた基礎的財政収支(プライマリー・バランス)は27.1兆円の赤字であり名目GDP比ではマイナス5.6%となる。また、財政収支は38.8兆円の赤字であり、名目GDP比ではマイナス8.0%となる。公債等残高は858.1兆円となり、名目GDP比では177.4%になる。

 補正予算の編成により、今年度の一般会計予算規模はさらに大きく膨れ上がることが予想される。税収についても震災の影響により、一時的にせよ大きく落ち込むことが予想され、新規国債の発行増により、財政収支はさらに悪化する可能性がある。震災により未曾有の被害を受けた以上、政府による巨額の財政支出は必要なものであろうが、それにより、かなり悪化している財政が、より一層悪化するであろうことは避けられない。このあたりの影響についても、今後は注視しておく必要があろう。


2011.4.11「今週の債券相場の予想(4月11日〜15日)」

今週の動き
 5日に実施された10年国債の入札は、震災後の投資家動向を見る上でも注目されたが、比較的順調な結果となった。7日の日銀の金融政策決定会合では、金融政策そのものの変更はなかったが、被災地域金融機関を支援するための資金供給オペレーションを検討すると発表した。これについては事前に予想されていたことでもあり、市場への影響は限られた。

 外為市場ではECBの利上げ観測やFRBの年内利上げ観測も出たのに対し、日銀は震災の影響により超緩和策を継続との見方から外為市場では円安が進行した。東京株式市場では足元の景気悪化が意識されてはいたが、大きく崩れることもなく、むしろしっかり。週末にかけて日経平均は9800円近辺にまで値を戻してきた。

 復興のための今年度補正予算の編成の行方も注目されたが、第一次補正予算の規模は4兆円規模となると報じられた。これによる国債増発は避けられそうではあるが、二次補正以降での国債増発は避けられないものとみられ、これは債券市場の上値を抑える要因となった。

 債券相場は国債増発観測も手伝い、じりじりと下落し6日に債券先物は139円を割り込んた。その後も下げは止まらず、8日には138円38銭まで下落し、10年債利回りも1.325%に上昇した。しかし、現物押し目買いも入ったことで、8日の債券先物の大引けは138円62銭となった。

来週の予想
 7日のECB定例理事会では予想されたように政策金利を年1.0%から1.25%に引き上げた。これは資源価格を中心とする物価上昇圧力の強まりなどが影響した。FRBは予定通り6月末までQE2を実施されるとみられるが、その後の年内利上げ観測も強まりつつある。日本でも震災の影響で物価が上昇しやすい環境にあり、今後の国内の物価動向にも注意する必要がある。

 震災の影響により日本経済の大幅な落ち込みは避けられないとみられるが、世界経済は比較的しっかりしており、日本の景気の落ち込みも一時的との見方も強い。このあたりを見る上で11日に発表される日銀のさくらレポートの内容も確認したい。

 また、今後の補正予算編成に絡んだ国債増発観測により、比較的期間の長い債券に売り圧力がかかる可能性もあるため、12日の30年国債の入札動向に注目したい。また、銀行の期初の動きを見る上では14日の5年国債の入札動向もチェックする必要があろう。

 14日にはG20の開催が予定されており、震災を受けた日本への支援策などが焦点となる見込みとなっており、この内容などにも注意しておく必要がある。債券相場は国内外の景気・物価動向に加え、国債の需給動向など先行き不透明感も強く、積極的な買いも手控えられ、上値の重い展開となると予想している。

予想レンジ 1.25〜1.40%


2011.4.9「前倒し発行分の国債増発余力とは」

 7日のブルームバーグによると、昨年度中に今年度発行予定の借換債を前倒して発行していたため、復興財源として10兆円程度の国債増発余力があると伝えられた。財務省によると、昨年度中に発行した前倒し債は16兆9194億円となり、今年度の国債発行計画に盛り込んでいる前倒し債発行減額による調整分6兆3893億円を差し引くと、10兆5301億円の発行余力があることになる。

 この前倒し債発行分とは何であるのかご存知であろうか。たとえば、財務省のサイトにアップされている平成23年度の国債発行計画における国債発行予定額を見ると、確かに「前倒し債発行減額による調整分」として、6兆3893億円とある。

 さらに平成23年度の国債発行計画には、カレンダーベース市中発行額として各年限別の国債の発行額が記載されているが、そもそも何故、「カレンダーベース」という言葉を使っているのであろうか。

 国債発行については年度ベースとは言え12か月が基準になっていない点に注意しなければならない。前後3か月も加えて18か月で見ておく必要がある。国債には「出納整理期間内発行」と、この「前倒し発行」が絡んでいるためである。

 「特例国債(赤字国債)」の発行にあたり、国会の議決を経た範囲内で、税収等の実績に応じ発行額を極力抑える必要がある。このため毎年度の税収の収納期限である翌年度の5月末までの税収実績等を勘案して特例国債の発行額を調整するために、特例国債の発行時期を翌年度の6月末までとする「出納整理期間発行」の制度が設けられている。この出納整理期間発行は年度末の国債発行による市場への影響を緩和する効果もある。

 さらに、大量の国債発行を円滑に行うために、「借換債」は年度を越えて前年度に前倒して発行ができる前倒し発行が可能となっている。これは翌年度の国債発行額を多少なりとも減額させられるときには借換債を前倒しで発行し、国債の安定消化を図るように調整するためのものである。この前倒し発行額については、毎年度の予算総則であらかじめ国会の議決をうけた限度額の範囲内で発行されている。

 「特例国債」や「借換債」などについて、もし詳しくご存知ない方は拙著「国債の基本とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)などを参考にしてほしい。

 このように国債の発行は出納整理期間内発行と、前倒し発行があり、これを使ってある程度やりくりすることが可能となっている。

 昨年度は発行が予定されていた財投債15.5兆円のうち7.1兆円分の発行が見送られたことなどもあり、今年度の国債発行額に加わる6兆3893億円を除き、結果として10兆5301億円もの発行余力を保持している。ただし、この発行余力分については不測の事態に対応するためのバッファーともなりうる。たとえば東日本大震災規模の地震が首都圏を直撃した際には、一時的にせよ国債発行ができなくなることが想定される。1年TBから10年債は毎月一回あたり2兆円を越える入札を行っているため、それが複数回休債されるだけでもかなりの規模の国債が発行できなくなる恐れが生じる。そういった際にはこのバッファー分によって補うことが可能になる。

 このため、今回の復興財源に10兆円すべてを補うことはできないが、数兆円規模であれば使うことは可能であろう。その分、補正予算に絡んで国債増発を抑えることが可能となるのである。


2011.4.8「ポルトガルへの事例は日本の今後の参考に」

 6日にポルトガルのソクラテス首相はテレビ演説において、ポルトガル政府が欧州連合(EU)の行政執行機関である欧州委員会に金融支援を要請することを決めたと述べた。支援要請はこれにより、ギリシャとアイルランドに次いで3か国目となる。

 3月23日に議会が予算削減案を拒否したことで、ソクラテス首相は辞表を提出したが、 その後のポルトガル国債の利回りは上昇し、10年債利回りは6日に8.8%近辺に上昇していた。

 日経新聞によると、欧州メディアはポルトガルの大手銀行が自国の国債購入を停止する可能性を示し、ソクラテス首相率いる暫定政権に対して6月5日の総選挙を待たずに短期資金確保の道を探るよう求めたそうである。

 日本と同様にポルトガルも国内の大手銀行が国債の最大の買い手であったが、保有額の増加に対して利回りの急上昇による価格下落により、追加購入が困難となり、政府に対して最後通牒を突きつけた格好となった。また、ロイターによるとECBからの資金調達に過度に依存するようになったポルトガルの国内銀行に対して、ECBがポルトガル国債に対するエクスポージャーを減らすよう指示していたことが明らかになった。

 もし銀行が国債を購入しなくなれば、国内の年金基金や海外投資家に頼らざるを得なくなる。しかし、今後の国債発行を考慮すれば、銀行が買わないとなれば消化が困難となることが想定されるため、ソクラテス首相は欧州委員会への支援要請を決断したとみられる。

 このポルトガルの事例は、いずれ日本でも同様のことが起きる可能性もあるため、しっかりと記憶しておく必要がある。

 たとえば、スウェーデンにもひとつの事例がある。スウェーデンでは1990年代に景気後退とともに財政赤字が急増し、1994年7月に国内最大の生命保険会社であるスカンディアが「信頼できる財政再建計画ができるまで、国債の購入を停止する」と表明した。これにより長期金利が7.0%近辺から11%台に急上昇し、スウェーデン国債はデフォルトの危機に陥ったのである。これをきっかけに財政再建の必要性を国民が意識し、政府は増税と社会保険料の引上げ等の財政構造改革を行い、危機を脱出できたのである。国債を大量に保有する大手投資家が警告を発したことで、財政再建が進んだひとつの例である。

 ポルトガルの場合は銀行(その裏にECBがいた)が結果的に警告を発した結果、政府が動いた格好ではあるが、いずれにせよ投資家の行動が政府を後押ししたことに違いはない。

 日本においても、いずれ国内資金で国債が賄えなくなることが想定される。その際にはその危機が訪れる前に、スウェーデンのように大手投資家が警告を発してくるのか、それとも長期金利が2%の壁を大きく超えて上昇し、大量に国債を保有する銀行が価格下落に耐えられなくなり、ポルトガル同様に政府に対して最後通牒を突きつけてくるのかはわからない。しかし、そうした投資家の行動により、日本の債務危機が本当の意味で意識され、本格的な財政構造改革が進むことも考えられる。

 その前に日銀による国債引受が検討される可能性がある。しかし、過去のデフォルトに陥りそうになった国の事例を見ても、中央銀行による国債引受という選択肢をとった例はほとんどない。1997年の韓国においても、デフォルト寸前の状況にまで追い込まれたが、その際には中央銀行による国債引受という選択ではなく、IMFへの支援を求めている。

 日本でもし国内資金で国債が賄えなくなった際に、日銀による国債引受が開始されるとなれば、事態は改善されるどころか、さらに悪化することになる。そのような最悪の選択肢を選ぶ前に、投資家などからの警告により、国民に財政再建の必要性を強く意識させる必要があるのではないかと思う。


2011.4.7「対照的な震災国債の日銀引受に関する新聞の社説」

 東京新聞は5日の社説で「震災復興策を考える 青写真と手法を早く」と題し、東日本大震災の復興策を論じていたが、この中に日銀の国債引受に関する主張があった。

 国債の日銀引き受けに関して、まず財政法は国会議決があれば引き受けを禁じていないとし、その例として、日銀は財務省と合意のうえで償還期限が到来した保有国債について毎年、借換債を引き受けてきたとある。また、それでインフレになったわけではないとも指摘している。

 これは、以前にこのコラムの「禁じられた日銀の国債引受の例外」で解説したが、国債の日銀乗り換えのことであり、2011年度は11.8兆円を予定している。しかし、これはあくまで償還されるものの見合いで1年間だけ短期国債(借換債)を引受けるもので、中長期の国債を直接引き受けているわけではない。財政規律を意識したものであることで、これはインフレを誘発させるものでもない。これを行なっているから、日銀による国債引受は禁じ手ではないと主張するのはおかしい。

 さらにこの社説には「日銀が財政出動に伴う円高を避けるためにも、引き受けか市中国債の買い入れ増額を決断する。いまは、それほどの非常時である。」とある。「財政出動に伴う円高」とはどのような意味なのかがわからない。国債の市中消化が難しくなり、日銀による国債引受を行うしかないとなれば、急激な円安を伴うはずである。この東京新聞の社説の内容は、一部のリフレ論者がこれまで主張していた意見を色濃く反映しているものであるように思う。

 これに対して6日の毎日新聞の社説は、「震災国債 日銀引き受けを排す」と題したものであり、「非常時には平時とは違った対応が必要だ。それは分かるが、何をやってもいいということではない。日銀引き受けには反対だ。」としている。「国の財政が規律を喪失すれば国債は危険極まりない金融商品になる」との意見もあり、まったくその通りであると思う。

 ただし、最後の方に「いまのところ、与野党とも日銀引き受けに賛成する政治家は少数派らしい。」との表現があった。これは私も少数派とみられる、として断定的に判断はできない状態にあるが、政治家との接触も多いマスコミだけに、このあたりもう少し具体的に政治家にもヒアリングしてもらいたい。

 日銀による国債引受のように、かなり専門的な知識の伴う話題であり、非常にリスクの伴うことについて、新聞社の意見を述べる場の社説において主張するのであれば、マスコミの影響力の大きさから鑑みて、取扱には細心の注意と配慮を持って行ってほしいと思う。


2011.4.6「FRBや日銀による国債売却は可能か」

 米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は、量的緩和第二弾(QE2)として、2011年6月末までに6000億ドルの国債買入れを行う予定である。ここにきて、米国の景気回復などを背景に、規模を縮小すべきとの意見も出てくるなど、FRBは出口(超金融緩和政策の終了)を意識した動きを見せつつある。

 しかし、ニューヨーク連銀のダドリー総裁が、国債買い入れプログラムを完全に実施しなかった場合は驚きに値すると述べたことで、よほど米景気の回復基調や物価上昇圧力が強まらない限り、QE2は予定通り実施されると思われる。

 問題はむしろその後である。すでにQE2の早期終了まで言及されている状況下、7月以降もFRBが米国債を買い入れるというQE3の可能性はかなり低くなっている。もしFRBによる国債買入れが停止された際に、米国市場に与えるショックがどの程度のものであるのか注目したい。

 2010年3月にイングランド銀行が国債買入れを停止したが、それによる英国債への影響はそれほど大きなものではなかった。FRBもあくまで国債買入れは一時的な措置であるとの認識が市場で働いていれば、その影響は英国同様にさほど大きくはないのかもしれない。

 それでは日銀についてはどうであろう。日銀は資金供給手段として国債の買入れを行っており、2001年3月からの量的緩和政策導入後、段階的に買入れ額を増加させ、現在、日銀券ルールに縛りがあるもので毎月1.8兆円の国債買入れを行っており、またそれとは別枠で基金オペにより長期国債を、2兆円を限度とした買入れを行なっている。

 日銀の国債買入れを見てみると、量的緩和政策導入後は買入れ額を増やすことはあっても、それを減らすことはなかった。2006年3月の量的緩和政策の解除、7月のゼロ金利政策の解除、2007年2月の利上げの際にも国債買入れ額を減額することはなかったのである。

 つまり日本では債務残高が膨張する中にあり、大量の国債を消化するにあたり日銀による国債買入れは安定消化分として組み入れられてしまっていると考えられ、金融政策の変更等に関わらず、それを減額することは市場に大きな影響を与え兼ねないとみられている。

 日本では日銀の買入れそのものを停止することそのものが、ほぼ不可能な状態にある。仮にデフレが解消されても、国債発行額を大きく抑制出来ない限りはこの状態は続くものと考えられる。買入れそのものを減額できない以上、さらに進んで日銀による国債の売りオペは技術的には可能ではあるが、まずできるわけはないというのが現在の状況である。

 日本と米国では国債を巡る環境は異なり、少なくとも6月末での国債買入れ停止は米国では可能かもしれない。さらに今後はFRBが保有する米国債の売却も検討される可能性がある。これまでの日銀の動きを見てきたものとして、FRBによる国債売却などとても無理と思っていたが、景気や物価の状況次第ではそれも可能にしてしまうのであろうか。欧米の中央銀行は、リーマン・ショックなどにより、臨時の措置として日銀と同様に国債買入れを行ってきたが、結局、それを最後まで続けるのは日銀だけという状況になってしまうのかもしれない。


2011.4.5「震災を受けての日銀の今後の動き」

 4月6日から7日にかけて、日銀の金融政策決定会合が開かれる。日銀は今回の会合で、東日本大震災の被災地金融機関を対象に、復興支援のため低利の貸出制度の創設を検討すると一部報じられている。

 日銀は1995年1月の阪神大震災時にも被災地金融機関の復興融資を支援するため、同年7月から公定歩合(基準割引率および基準貸付利率)で期間1年(その後1年延長)、総額5000億円の貸出制度を創設していたことで、同様の対策を実施する可能性がある。

 また、今回の東日本大震災が阪神淡路大震災より影響が広域かつ多岐にわたっていることを受けて、中小金融機関を含む全金融機関を対象とし、貸し出し上限は当面1兆円程度とする方向で検討しているとの報道もあった。

 日銀は2011年3月11日の東日本大震災を受けて、週明けの14日の朝から日銀は動いた。まず、資金の出し手が資金放出を控える動きが広がり、コール市場での取引が成立しない状況がみられたことから、金融機関などの決済の安定性を確保するため、日銀は大量の資金供給を実施したのである。

 また、3月14日から15日にかけて開催予定の日銀の金融政策決定会合は、14日のみの開催とした。これはできるだけ早く結論を出すための措置である。この決定会合で日銀は追加緩和を決定し、資産買い入れ基金を総額5兆円から10兆円に拡充した。企業マインドの悪化や金融市場におけるリスク回避姿勢の高まりが実体経済に悪影響を与えることを未然に防止することが目的であり、リスク性資産を中心に資産買入れ等基金を増額した。

 このように日銀は震災を受けて、積極的な資金供給などを行ってきたわけであるが、今後は復興に向けた支援を主体として行ってくることが考えられる。また、4日に発表された震災発生後分を再集計した短観では大企業・製造業の業況判断DIで先行きが地震前でプラス3、地震後はマイナス2となるなど悪化を予想していた。しかし、原発事故や計画停電なども加味されると、この数値そのものもやや楽観的との見方もあり、震災による景気への影響も今後の大きな課題となる。

 そのためには、日銀による国債買入増額なども検討課題に入る可能性がある。念の為、国債引受ではなく国債買入である。日銀の金融調節手段のひとつに国債の買入がある。日銀は財政法の第5条により国債の引受を禁止されているが、金融調節のひとつとして国債の買い入れを行なっている。市中の金融機関や証券会社などが保有している中長期国債を日銀が買い入れるものである。


2011.4.4「一連の日銀による国債引受関係の報道に関して」

 4月3日付の日経新聞によると、政府・与党では、復興に向けた基本法案の策定や、2011年度補正予算の編成に向けた政府・与党の作業が今週から本格化すると伝えている。

 民主党では岡田幹事長が委員長を務める復旧・復興検討委員会の下、特別立法、歳出見直し、復興ビジョン、補正予算の4つの検討チームを設置し、東日本大震災の復旧・復興に向けた基本法案の策定などの作業を進めているそうである。

 問題は中川正春座長の特別立法チームがまとめた基本法案の素案(A4で11ページ)であり、この中に震災国債や復旧復興特別税の創設、日銀引き受けの検討などが盛り込まれていたようである。

 3月18日付の産経新聞では、東日本大震災を受け、政府は、復旧・復興のための補正予算編成に向け、主要財源として日銀が全額を直接引き受ける震災復興国債を緊急発行する方針を固めた。複数の政府筋が明らかにした、と伝えた。

 また、31日の日経の記事では、政府が東日本大震災の復旧・復興に向けて検討している基本法案の素案が明らかになり、復興財源を確保するため、復旧復興特別税の創設や震災国債の発行、日銀引き受けの検討を打ち出したとあった。

 さらに4月1日には遅れて毎日新聞が、「東日本大震災の復旧・復興対策事業費の財源確保策として、民主党内で復興税の導入や、国が発行する震災国債を日銀に直接引き受けさせる案が浮上している。」とある。

 3月31日の債券市場では、可能性は薄いとしながらも、この日銀による国債引受の可能性も懸念されて先物主導に売りが入るなど影響が出た。

 日銀の国債引受の是非について、私はこのコラムで何度か指摘してきたように、国債市場を長く見てきたものとして反対である。

 それよりも、これら一連の報道の姿勢についてやや問題がある。1日の毎日では「民主党内」としているが、18日の産経などでは「政府」としている点にある。この場合の政府との言葉は、報道用語等の使い方に詳しくない私を含めての市場関係者にとり、菅政権がその案を真剣に検討していると受取ってしまう。

 しかし、現実には日経が3日に報じたように、政府に上がる以前の党内の検討委員会、しかもその素案に盛り込まれていたに過ぎないものであった。それを政府との用語を使うことに問題はなかったのであろうか。確かに政府の案のための下地ではあろうが、それを政府が真剣に検討しているかのような報道はかなり違和感を感じる。

 実際に政府中枢にいるはずの枝野官房長官や野田財務相が「政府が検討している事実はない」と否定している。さらに基本法案の取りまとめをする立場にある岡田幹事長も、震災国債の日銀引き受け案について、「国債の増発は免れないが、反対だ」と否定的な見解を示し、その上で「日銀に引き受けさせることは、財政規律を失わせることになる。そういう議論をすること自体が、日本の国債に対する不信感を高めることになりかねない」と強調した(3日の産経)。

 これはいったいどういうことであろうか。政府は検討どころか真っ向から、日銀による国債引受反対の意思を表明しているのである。たしかに民主党の一部議員などから、日銀による国債引受を検討すべきとの意見があり、それを素案に盛り込ませたことが想像される。しかし、その素案の内容をこのように大きく取り上げて、しかも政府案かのように取り扱ったことには問題はないのであろうか。

 岡田幹事長の鶴の一声で、今回の日銀による国債引受論議は収拾しそうだが、市場での不信感は残る。相場は市場参加者のマインドにより大きく左右される。とくに日本国債への信認そのものを喪失させる可能性のある日銀による国債引受のような記事は、かなり慎重に取り扱う必要がある。この点についてマスコミ関係者も十分配慮していただきたいと思う。


2011.4.2「来年4月23日から国債取引の決済期間が短縮予定」

 3月31日に日本証券業協会が「国債取引の決済期間の短縮(アウトライト取引のT+2への移行)について」を発表した。これによると、国債取引の決済期間の短縮(アウトライト取引のT+3からT+2(売買約定日から起算して原則3営業日目の日に受渡し・決済を行う。)への移行)について、その移行予定日を平成24年4月23日(月)の約定分からとした。すでにT+2への移行については報じられていたが、具体的な日程が示された。

国債の決済に関しては、1995年時点ですでにアメリカ、イギリスなどは約定日から起算して2営業日目(T+1)、つまり翌日決済を行っていたが、当時の日本ではまだ特定日決済の5・10日決済をおこなっていた。特定日決済とはある期間に約定された取引の決済をすべて特定の日に行う決済である。これに対して取引を常に約定日から一定期間経過後に決済するのはローリング決済と呼ばれる。

 その後、日本でも1996年9月19日の売買分より、約定日から起算して8営業日目(T+7)に決済を行うローリング決済に移行した。そして、1997年4月21日売買分からは約定日から起算して4営業日目(T+3)に決済を行うことになり、現在に至る。そして上記にあるように、2012年4月23日約定分からは3営業日目(T+2)に決済を行う予定である。

 ちなみにT+2のTとは「Trade date」のことで証券の売買が成約された日、つまり約定日を意味する。慣行上、T+1は「ティ・プラスいち」、T+3は「ティ・プラスさん」といった呼び方をしている。

 国債など金融商品の決済期間の短縮は、未決済残高を減少させ、結果として決済リスクを削減するための有力な手段となる。たとえば急激な相場変動が起きた際にも決済不履行などの事故が生じる決済リスクを軽減させられる。

 T+2への移行については、特に大きな障害が発生することは考えづらい。移行に伴いレポ市場などでは1日減る分、忙しくなる可能性はあるが、大きな混乱が起きることは考えづらい。ただし、これがT+1になると、レポ市場の受け渡しをT+0に縮小する必要から負担が掛かる可能性もあり、ひとつの課題となりそうである。

 いずれにせよ、日本も15年ぶりに決済期間が短縮される。1日短縮するために、かなりの時間が掛かったことになる。これは、すでに日本では証券と資金の振替が同時に行われる決済方式であるDVP決済が1994年に導入され、2001年からは国債決済にRTGS(即時グロス決済)が導入され、さらに2005年5月からは日本国債清算機関の業務が開始されるなど、現在のT+3でもシステマティックリスクなどの国債の決済に対してのリスクはかなり軽減されていたためでもある。

、今後はT+1に向けての作業が進められるとみられるが、さらなる1日の縮小には、果たしてどの程度の期間がかかるのであろうか。


2011.4.1「須田美矢子日銀審議委員が任期満了」

 3月31日で日銀の須田美矢子審議委員が任期満了となった。後任は慶応義塾大学白井早由里氏。須田美矢子氏が日銀の審議委員となったのは2001年4月1日であり、2006年に再任され、合計10年間審議委員を務めたことになる。

 2001年3月に日銀は量的緩和政策を行なっている。過去の中央銀行で例のないような金融政策を行ない初めてまもなくの就任であった。2001年の9月には同時多発テロがあった。須田氏は日銀の審議委員として、9・11とともに今回の3月11日の東日本大震災も経験したことになる。

 その後、2006年3月に日銀は量的緩和政策を解除し、7月にはゼロ金利政策も解除した。ところが2008年のリーマン・ショックなどによる金融危機を受けて、10月と12月に利下げを行ない、2009年1月に企業金融支援特別オペレーションを開始、12月に新型オペを導入、2010年3月と8月に新型オペの拡充を行ない、10月には包括緩和を実施している。

 日銀金融政策決定会合の議事要旨を追ってみると、須田委員は2006年7月のゼロ金利解除を決定した際に、ゼロ金利解除そのものは賛成したが、基準割引率および基準貸付利率の変更に関する議案については、政策金利である無担保コールレートと補完貸付の適用金利とのスプレッドをある程度拡大すべきとして、水野委員や野田委員とともに反対した。

 2007年1月の会合では政策金利0.25%の据え置きとの議長案に対し、0.5%へ利上げすべきとして、やはり水野委員や野田委員とともに反対した。そして2月の会合では0.5%への追加利上げが決定されている。この際には岩田副総裁が反対票を投じた。

 2008年10月の0.5%から0.3%への利下げに際しては、利下げ幅を巡り水野委員、中村委員と亀崎委員とともに議長案に反対した。票決は4対4と真っ二つに別れ可否同数となったため議長が決するという異例の事態となった。

 2009年1月の会合では、「企業金融に係る金融商品の買入れについて」の決定に対して 社債の買入れは時期尚早として反対している。

 2010年3月には新型オペの拡充策に対して、追加の緩和措置を講じる明確な理由が見当 たらないとして野田委員とともに議長案に反対している。8月には期間6か月物の固定金利オペを新たに導入することに対し、為替対策と受け取られかねないことなどを理由に反対した。

 10月の包括緩和政策の決定に際しては、国債の買入れが財政ファイナンスとの誤解を生みかねないことなどを理由に買入資産に国債を加えることに反対した。また、この際には「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)にも異例の反対票を投じている。これは、物価の先行きを慎重にみていることや、消費者物価指数の基準改定などに伴う不確実性に一段と配慮した情報発信が必要と考えていることが理由であった。

 議長案に反対するということは、ある意味リスクを負うことになる。もちろん賛成票を投じることもリスクは負うことにはなるが、少数派として反対票を投じたことは記録に残り、それが適格な判断であったのかどうか判断されることになる。それだけにある意味、勇気ある行動でもある。

 常に議長案に賛成するというのであれば、そもそも委員会制度をとっている金融政策決定会合の意味を無くするものでもある。それぞれ専門分野を持ち、それに基づいて自らの意見を出すことも重要である。10年間の任期の中で、政策が大きく変わるタイミングで何度も反対票を投じた須田委員の行動は、決定会合がスリーピングボードではないことを示すものでもあった。少数意見が存在することにより、金融政策決定会合における討議のプロセスがより明確化され、それは金融政策の透明性も高めることにもなる。後任の白井氏にも自らの意見と異なるときには、ぜひ反対票を投じていただきたいと思う。


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