2011.6.30「荻原重秀の政策への評価」
現在の日本の財政事情やデフレの状況にどのような手を打つべきなのか。もしくはどのような手を打ってはいけないのか。そのひとつの参考例として江戸時代の荻原重秀という人物が行った政策がある。
1639年に幕府はポルトガル船の入港を禁止し、いわゆる鎖国に入ったが、これにより日本の貿易高は減るどころかむしろ増加した。ライバルのポルトガルが日本市場から撤退し、これによりオランダは世界最初の株式会社である東インド会社を経由した日本との貿易で大きな収益をあげ、17世紀に欧州での繁栄を築き上げた。
ポルトガルは日本の銀を介在してのアジアでの三角貿易を行っていたが、オランダも同様に中国で購入した生糸などを日本に持ち込み、それを銀と交換したのである。これにより大量の生糸が日本に流入するとともに、大量の銀が海外に流出した。またオランダはインドとの貿易に金を使っていたことで、オランダ経由で大量の金も流出していたのである。
幕府は金銀の流出を防ぐために、金や銀の輸出禁止などの政策を打ち出すものの、国内に生糸や砂糖などの輸入品への需要が強く国産品では対応できなかったことで、結局、その対価として金銀が用いられたことにより、解禁せざるを得なくなり、金銀は流出し続けた。
日本の金銀の流出先としては、貨幣の材料として銀を必要としていた中国だけでなく、インドなどに流れ、また金貨についてはインドネシアのバタフィア(現在のジャカルタ)で日本の小判がそのまま流通しており、オランダ本国でもホーランド州の刻印の打たれた日本の金貨が使われた。
金銀の流出制限のため幕府は1685年に貞享例を施行し貿易額そのものを規制した。また、元禄の改鋳などにより金銀の質を低下させたことから、貿易の支払いに対しては、金銀に変わり、次第に俵物と呼ばれる加工食品とともに銅が使われるようになった。
金銀の海外流出とともに日本国内の金銀の産出量が低下した。米の生産高の向上や流通機構の整備などにより、国内経済が発展し貨幣需要が強まったものの、通貨供給量が増えなかったこともあり、米価は上昇せずデフレ圧力が強まることになる。
五代将軍綱吉は豪奢な生活を送っていたことに加え、寺社や湯島聖堂などを建立するとともに、明暦の大火や各地で発生した風水害などにより、慢性的な赤字を続けていた財政がさらに厳しくなり、幕府は1695年に貨幣の改鋳に踏み切った。
将軍綱吉は勘定吟味役の荻原重秀に幕府の財政の立直しを命じ、荻原重秀はそれまで流通していた慶長小判(金の含有率84-87%)から、大きさこそ変わらないものの金の含有率を約57%に引き下げた元禄小判を発行したのである。また銀貨の品位も80%から64%に引き下げられた。
しかし、金銀貨の品位引き下げが均衡を欠いていたことから、銀貨の対金貨相場が高騰し、一般物価も上昇した。このため1706年以降、銀貨が4回に渡り改鋳され、1711年の改鋳により銀貨の品位は20%と元禄銀貨の3分の1にまで引き下げられた。
金貨については1710年以降、品位を84%に引き上げたものの量目を約2分の1にとどめ、純金含有量が元禄小判をさらに下回る宝永小判を発行したのある。
これらの改鋳により幕府の財政は潤ったものの、これにより通貨の混乱とともに物価の急騰を招き、庶民の生活にも影響が出たのである。このように荻原重秀に関してはデフレ経済の脱却を成功させ元禄時代の好景気を迎えたとの見方もある一方、インフレを引き起こしたといった批判も強い。
荻原重秀は著作を残していないが「貨幣は国家が造る所、瓦礫を以てこれに代えるといえども、まさに行うべし」と述べたとも伝えられている。現在の管理通貨制度の本質を当時すでに見抜いていた人物でもあったと言える。
荻原重秀は、結果的に通貨価値を引下げ信用度を低下させ、インフレを招くことによるデフレ対策を行った。しかし、荻原重秀の財政金融政策はその後、新井白石などにより修正を余儀なくされるが、幕府の財政はむしろ危機的状況に陥ることになる。一度信用を失ったものを立て直すことが難しいことはその後の歴史を見ると確認できる。これは、高橋是清のあとに待っていた国債に対する歴史も同様であろう。
何故に日銀による国債引受や政府紙幣の発行をしてはいけないのか。それは海外の歴史だけではなく国内の歴史を振り返ることでも確認できるはずである。もしも信用と引換にデフレ脱却を行えば、修復不可能な事態が引き起こされることになる。
(拙著、「金融」のことがスラスラわかる本―歴史に学ぶ金融の基本、より一部引用)
2011.6.29「そろそろ国内要因にも目を向けるべきでは」
日本の長期金利は、ギリシャの債務問題や米国の景気減速懸念を背景とした米国やドイツの長期金利の低下に合わせるように低下基調となっている。この傾向は4月上旬あたりから続いており、イギリスやスイス、カナダの長期金利なども同様に低下してきている。
ただし、日本の長期金利は1.1%手前での滞空時間が長いなど、ほぼ一本調子で低下してきている米国やドイツなどとは長期金利のチャートの形状が異なっている。つまり日本では長期金利の低下に何かしら躊躇している様子にも見える。とは言うものの、債券相場の様子を見る限り、前日の米債やドイツ連邦債の動きに大きく影響されていることも確かである。だからこそ直近の高値圏での推移が続いている。
しかし、そろそろ国内要因に目を向けておく必要もあるのではなかろうか。特に首相の居座りにより、社会保障と税の一体改革が頓挫している上に、第2次補正予算、公債特例法案の行方がまったくわからなくなっている点に注意すべきである。
これらは第3次補正予算編成時期を遅らせることになるため、目先の国債増発が後退し増発観測のある超長期債などが買いやすくなるとの見方もある。しかし、いずれ復興債というかたちで増発されることは間違いはなく、むしろ後ずれすると一回あたりの発行量が増える懸念すらあるため警戒すべき問題でもあろう。
さらに民主党で菅政権を支える6人衆が、菅首相は退陣すべきだと結束を固めているのに対し、首相は人事権を使って最後の反抗を試みていることにも注意が必要になる。しかも、首相が頼みとしているのは国民新党の亀井氏であることを考えれば、このまま菅政権が継続した場合には国債増発圧力がさらに増す可能性すらありうる。
また、自民党の浜田和幸参院議員の政務官への就任は、亀井氏のアドバイスによる自民党参院議員の引き抜きが目的で、これによりねじれ国会を打破しようとの目論見にもみえるが、これはむしろ協力すべき自民党の反発を強めることになりかねない。
このような状況下、特例公債法案については強行に採決に持ち込めば自民党の反発を招かねず、衆院で再可決に必要な三分の二以上の勢力確保はかなり困難になる。60日ルールを念頭に置けば少なくとも7月2日までに特例公債法案の衆院通過が必要となるが、時間が迫る中、その目処すら立たない状況にある。
米国でも債務上限引き上げを巡り与野党の攻防が続いているが、日本では与党対野党だけではなく、首相対与党対野党というわけがわからない状況に追い込まれているため、なおさら収拾がつかないような状況にある。
格付会社のムーディーズは社会保障と税の一体改革の取りまとめが難航していることに対し、債務抑制につながる枠組みができなければ「日本政府の信用力にマイナス」として、今後の日本国債の格下げの可能性を視野に入れている。
格付会社に指摘されるまでもなく、今回の政治の混乱により債務抑制はむしろ厳しくなる可能性がある。日本政府そのものへの信用力が低下しつつあることも確かなのではなかろうか。
日本政府の信用力をバックに買い支えられている日本国債である以上、海外要因ばかりに目を向けるのではなく、このような国内要因にもう少し目を向けても良いのではないか。そろそろ、政府に市場が警告を与えることも必要になってきているようにすら思われるのである。
2011.6.27「日銀短観の予想とその影響」
7月1日に日銀短観が発表される。短観とは日銀が年に4回、業況感に関しての調査表を直接企業の経営者に送り、それを記入してもらい、回収して経済観測をまとめたものである。サンプル数も多い上、日銀が相手ということもあって回収率も高く、数多くある経済指標の中でも注目されている。
。
短観は他の経済指標に比べて、速報性に優れており、企業が認識している足元の業況判断とともに先行きの業況についてどのような予測をしているのかを見るためにも貴重な指標となっている。その意味でも震災後の企業の景況感を確認する上でも、注目の指標となる。
ちなみに前回の3月調査は基準日が、ちょうど大震災の発生当日だったことから、その影響がほとんど反映されていなかった。
また、今回の6月調査は従来通りの方法により、東北6県の企業(全規模合計で747社、全国に占める割合は6.8%)についても引き続き、調査対象企業としているが、被災された企業をはじめ一部で回答困難となることが予想される(日銀サイトの「2011年6月短観の実施方法等について」より)。
NHKの報道などによると民間の10の調査会社の予測では、大企業・製造業の業況判断DIは自動車や機械などの業種で生産が震災前と比べて低い水準にとどまっているなどとして、平均でマイナス6となり、プラス6だった前回と比べて12ポイントの大幅な悪化との予想となっている。東日本大震災により多くの設備がダメージを受け、サプライチェーンが分断され、電力不足などの影響が出ていると予想される。マイナス転落となると2010年3月調査以来、5四半期ぶりということになる。
ただし、先行きの判断については、自動車産業を中心にサプライチェーンの復旧が予想以上のピッチで進むなどしており、復興需要への期待感も加わり、プラスまたはゼロに改善すると予想している向きが多いようである。
短観と日経平均株価の動向を重ね合わせてみると、そのピークやボトムが一致しているケースが多い。日経平均株価は震災を受けて3月15日に8227円63銭まで急落したものの、その後は9000円台を回復している。ただし、1万円手前でのもみ合いともなっており、景気についてもいったんボトムをつけてはいるが、本格的な回復には至っていないように思われる。このあたりも短観により、ある程度確認できるのではないかとみられる。
短観による債券市場への影響については、予想と大きな乖離が出ない限りはあまりないとみている。足元の悪化はかなり織り込まれており、先行きDIの方が関心が高いように思われる。
現在の日本の債券市場は国内景気よりも、米国の景気減速や欧州の債務問題に絡んでの米国債やドイツ連邦債の動きに影響を受けやすくなっており、国内景気が予想以上のピッチで回復とでもならない限りは、材料視しにくい面がある。
2011.6.27「JGBCCを知っていますか」
2005年5月からは日本国債清算機関(JGBCC:Japan Government Bond Clearing Corporation)の業務が開始された。日本国債清算機関は、国債市場の主要プレーヤである証券会社・銀行・短資会社等の共同出資により2003年10月に設立されたものである。
現物国債のほとんどが店頭で取引されており、約定から決済への過程は、約定から照合、そして清算、決済といった流れとなっているが、清算機関が創設される以前は、清算がないまま各当事者が相互に日銀ネット上で決済を行なっていた。
しかし、清算機関が創設されたことにより、参加者同士の取引に関わる決済は、原則に日本国債清算機関に集約され、清算(ネッティング)を経て決済を行うことが可能となったのである。
つまり参加者は決済上の相手方リスクを負うことなく、ネッティングにより決済量を大幅に減少させた上で、安全かつ効率的に決済することが可能となっている(日本国債清算機関のサイトを参考)。
国債の決済に関して過去の動きを見てみると、1995年時点ですでにアメリカ、イギリスなどは約定日から起算して2営業日目(T+1)つまり翌日決済を行っていたが、当時日本ではまだ特定日決済の5・10日決済をおこなっていた。
特定日決済とはある期間に約定された取引の決済をすべて特定の日に行う決済である。これに対して取引を常に約定日から一定期間経過後に決済するのはローリング決済と呼ばれる。
その後、日本でも1996年9月19日の売買分より、約定日から起算して8営業日目(T+7)に決済を行うローリング決済に移行した。そして、1997年4月21日売買分からは約定日から起算して4営業日目(T+3)に決済を行うことになり、現在に至る。さらに、2014年4月23日約定分からは3営業日目(T+2)に決済を行う予定であるが、T+1に向けての検討も進められている。
国債など金融商品の決済期間の短縮は、未決済残高を減少させ、結果として決済リスクを削減するための有力な手段となる。たとえば急激な相場変動が起きた際にも決済不履行などの事故が生じる決済リスクを軽減させられる。
1994年には証券と資金の振替が同時に行われる決済方式であるDVP決済(DVP、Delivery versus Payment)が導入された。これは資金の受払いと国債の受渡を相互に条件付け、一方が行われない限り他方も行われないといった仕組みである。
さらに2001年からは国債決済にRTGS(即時グロス決済)(RTGS、 Real-Time GrossSettlement)が導入された。システミック・リスク(個別の金融機関の支払不能等や、特定の市場または決済システム等の機能不全が、他の金融機関や市場にもその影響が及び連鎖的に決済不能を引き起こし金融システム全体の機能が失われてしまうリスク)に対応するため、日銀ネットを使った決済については、1日の決まった時間に多くの受払いを、まとめて受払差額のみを決済する方式(時点ネット決済)から、個別に随時決済を行うRTGS(即時グロス決済)という方式に一本化したのである。
RTGSによる決済では、1件ずつ即時に決済を行うため、ある金融機関で決済不能が生じても、その影響を受けるのは取引相手の金融機関だけとなり、そこから連鎖的な決済不能といった事態は回避できる。
さらに日本国債清算機関(JGBCC)が登場したことにより、国債決済はさらに安全、効率化が進むことになる。現在、国債の決済(レポを含む)のうちJGBCCはおよそ4割程度のシェアを占めている。リーマン・ショックを受けて、クリアリング・ハウスの重要性も意識されたことから、、今後さらに拡大すると予想されている。
今後はT+2から、さらにT+1に向けて国債決済期間の短縮も進められる見通しであり、ここにはレポの問題も絡むため簡単ではなさそうであるが、国債の決済に関しても欧米と同様のシステムが構築されつつあるのである。
2011.6.25「長期金利の今後の行方を見る上での注目点」
6月23日の米国債券市場では、IEAが石油備蓄を協調放出すると発表し、これを受けてニューヨーク原油先物は急落し、一時90ドルを割り込んだ。ECBのトリシェ総裁は欧州債務危機が銀行に波及する恐れがあると指摘したことも影響し、米国株式市場ではダウ平均が一時、前日比230ドル近くまで下落した。
しかし、ギリシャ政府とIMF、欧州連合との間で緊縮財政5か年計画に関する合意が得られたとの報道を受け、ダウ平均は下げ幅を急速に縮小させて、結局、前日比59ドル安となった。しかし、2.9%近くまで利回りが低下した米10年債はその利回り水準を維持した。また、欧州の債券市場では10年物のドイツ連邦債も大きく買われて、2.9%を下回った。
これらを受けて6月24日の日本の債券市場では朝方から買い進まれ、10年債利回りは心理的な節目でもあった1.1%を割り込んできた。
債券先物のチャートを見ても、レンジの上限を突破してきた格好となり、今後は米債やドイツ連邦債の上昇に歩調をあわせる格好で、高値を探る展開が予想される。
今回の債券高の背景としては、ギリシャの債務問題が引き続き影響を与えている。ギリシャのパパンドレウ新内閣は信任されたものの、国民からの反発も強い緊縮財政が本当に可能であるのかは不透明である。
それに加え、ECBのトリシェ総裁が、欧州債務危機が銀行に波及する恐れがあることを指摘し、債務問題と銀行がリンクすることが欧州連合の金融安定性への最も深刻な脅威である考えを示した。これはギリシャ国債がデフォルトとされる懸念を意識しての発言と思われるが、日本でのバブル崩壊後の不良債権問題による金融機関への影響、さらに米国でのサブプライム・ショックなどによる金融機関の影響によりバランスシート調整が起きており、欧州でも同様の事態となる懸念もあろう。
さらに日本の震災などの影響から米国経済に対して減速懸念も強まっており、それが欧州経済にも影響を与える可能性があるため、米債やドイツ連邦債の利回りの低下要因となっている。
ただし、日本の経済については、比較的強気の見方も出ている。特に自動車産業などの回復が予想以上に早いことなどが好感されている。しかし、中国などを含め、海外での景気の減速傾向が強まるようだと日本経済の持ち直しの動きにも影響を与える可能性がある。このあたりは7月1日に発表される日銀短観の内容なども確認したいところである。
さらに日本ではこの大事なときに政局の行方が不透明となっていることが、景気回復の足枷となるとともに、日本の財政問題が今後さらに意識される懸念もあり、これは日本の債券市場にとり波乱要因となりうる。
最大の焦点となっている今年度の特例公債法案の行方もはっきりしておらず、税と社会保障の一体改革も棚上げされてしまっている。第3次補正予算の財源となる復興債についても、その償還財源の行方も不透明となるなど、将来の財政再建にむけての道筋などはまったく見えてこない。
また、復興債については10兆円規模の発行と予想されており、その一部は市中消化されることも確かである。増発が先送りされれば、増発される年限の国債の一回あたりの発行量が予想以上に大きくなる懸念もある。
ただし、国債の需給についてはいまのところそれほど懸念する必要はなく、復興債による市場への影響も限定的と見ている。それよりも当面は、欧州の債務問題や米国経済の動向を受けての、欧米の債券市場動向に日本の債券も影響を受けやすいとみている。
日本の長期金利が1.1%を割り込んだことで、今度の節目は1.0%ということになろうが、1%割れではさらに警戒感も強まることが想定される。これまでも長期金利の1%割れの滞空時間はあまり長くない。その間に地合いが大きく変わることも多い。今後は警戒しながらも、地合いに大きな変化が感じられない限りは、じりじりと長期金利の1%に向けて高値を試す展開が予想される。
2011.6.24「QE2は予定通りに終了、日本は運用部ショックの亡霊も」
QE2と呼ばれた、FRBによる2010年11月から2011年6月までの8か月間に渡り実施された6000億ドルの市場からの国債購入計画は、予定通り今月末で終了する。ちなみにQE2とは「Quantitative Easing 2」、つまり量的緩和策パート2ということであるが、バーナンキFRB議長などはQE2との表現は使っていない。
QE2の功罪についてはいろいろと指摘がある。米国の株価上昇や長期金利の低下を招く要因となった可能性があるとともに、市場に溢れたドル資金が新興国市場などに流れて資産バブルやインフレを誘発したとの指摘もある。
QE2によりFRBはこの時期に新規で発行された米国債の7割近くを購入するという最大の投資家となっていた。ちなみに日本での今年度の新規国債の発行額は44.3兆円だが、日銀は毎月1.8兆円ずつ国債を買い入れており、年間に直すと21.6兆円とその5割近くを市場を通じて購入している。これ以外に基金オペを通じて長期国債(1〜2年)を2011年6月末に向けて都合2兆円程度買入れる予定となっている。
今回のFOMCの声明文によると「保有証券の償還元本を再投資する既存方針を維持する」としており、FRBが保有する証券の規模は維持される見込みである。それでも大口買い手の存在がなくなるのは市場にも影響が出ても不思議はない。
しかし、米国債券市場を見る限り、10年債利回りは3%割れを維持するなど高値圏での推移が続いており、需給悪化が意識されているような様子もない。市場ではQE3への期待も一部にあったが、その期待感でここまで買い進まれていたわけでもないため、QE2終了を織り込んだ上での現在の相場であると考えられる。
日本では1998年末に、当時の国債の最大の買入れ主体でもあった大蔵省(当時)の資金運用部による国債買入れが停止されるとの報道をきっかけに国債価格が急落するという、運用部ショックがあった。これはまさに不意打ちの格好であったことで、市場参加者による不安が高まったことが国債価格下落の最大の要因であった。
この運用部ショックを経験していただけに、それ以降、たとえば日銀による国債買入れの金額を減額するようなことは難しいとの見方も強まった。現実に量的緩和導入後、日銀による国債の買入れは、増額はあっても減額されたことはなく、福井前総裁は量的緩和を進めても、国債買入れには手をつけていなかったぐらいである。
ただし、今回のQE2の終了により米国債市場にあまり影響が出ないとなれば、日銀による国債買入れの減額もそれほど市場にインパクトを与えない可能性もある。もちろん現時点で日銀による国債買入れの減額を想定できる状況にはないが、将来、いずれかの時点でそのような環境にならないとも限らない。その意味でもQE2終了後の米国債券市場動向に注目する必要がありそうである。
2011.6.23「復興債とは何か」
6月24日に施行される復興基本法には、東日本大震災からの復興のための資金確保のため、復興債の発行が盛り込まれた。復興基本法第8条に以下のようにある。
第8条 国は、東日本大震災からの復興に必要な資金を確保するため、別に法律で定めるところにより、公債(次項において「復興債」という)を発行するものとする。
2 国は、復興債についは、その他の公債と区分して管理するとともに、別に法律で定める措置その他の措置を講ずることにより、あらかじめ、その償還の道筋を明らかにするものとする。
このように復興債と呼ばれる国債は、他の国債とは区分して管理されるものである。念の為、この場合の他の国債とは何であるのか確認したい。
国債は2年、5年、10年といったように期間別に発行されている。たとえば6月1日に入札された10年国債について、財務省のサイトにある入札カレンダーの今月分の中から、10年国債利付国債(第315回)の入札結果を見てみると、発行根拠法律及びその条項として次のようにある。
財政法(昭和22年法律第34号)第4条第1項
及び平成22年度における財政運営のための公債の発行の特例等に関する法律(平成22年法律第7号)第2条第1項
並びに特別会計に関する法律(平成19年法律第23号)第46条第1項及び第62条第1項
この10年国債は、まず「財政法」第4条に基づいて発行される建設国債が入っている。
さらに、「平成22年度における財政運営のための公債の発行の特例等に関する法律」、つまり「特例国債(赤字国債)」も入っている。
現在、特例公債法案の行方が政争の具にされており、法律が成立していないのに発行しているのかと早合点する前に、良く確認すると「平成22年度」となっている。つまり、これは、昨年度発行分の出納整理期間内発行による特例国債であることがわかる。
もうひとつ「特別会計に関する法律」により発行されるのが「借換債」である。
このように国債は年限別の区分とともに、発行根拠法により建設国債、特例国債(赤字国債)、借換債、そして財投債に区分される。発行される際には上記の10年国債のようにミックスされて発行されることが多いが、その内訳の金額は財務省によって管理されており、トータルとして年度におけるそれぞれの発行額が満たされるようになっている。
つまり、復興債は発行根拠法別による国債の種類のひとつとなる。ちなみに建設国債や特例国債は将来の税収を担保に発行されるものである。借換債はあくまで建設国債と特例国債の60年償還ルールに基づいて発行されるものであり、元は建設国債であり特例国債である。これに対して、財投債はあくまで貸付金の原資となるものであるため、償還財源はその返済資金となる。
これらに対し、復興債については建設国債や特例国債同様に税収が償還財源となるものの、その償還財源は基幹税の臨時増税に特定される。しかし、それがどの税収に特定されるのかなどは、現時点でははっきりしていない。
この復興債は第3次補正予算の主要な財源となるとともに、一次補正で財源に転用された基礎年金の国庫負担割合(2分の1)を維持するための約2.5兆円の穴埋めに使われる可能性もある。
財務省はこの復興債の発行により、2011年度の国債発行を見直すことになる。今年度の第1次補正予算後の国債発行総額は171.6兆円であるが、ここにさらに10兆円規模の国債(復興債)が増発される見込みとなっている。
6月22日の日経新聞には、財務省は市場金利への影響を抑えるため、復興債の発行ではあらかじめ設けている約8兆円の国債の追加発行枠の一部を使う方針と伝えている。これはつまり、今年度分としてすでに発行されている前倒し債の調整分として計上している、8兆3893億円の一部を充てることになる。先日のコラムで指摘したように、今年度発行の前倒し債にはさらに2兆円分含まれることもあり、その分もバッファーとなることで、ある程度、国債の市中消化額の規模を抑えることが可能になろう。
2011.6.22「3次補正財源に2兆円のバッファー」
6月20日に財務省で開かれた国債市場特別参加者会合(第38回)の議事要旨によると、財務省から第2次補正予算に関して次のような説明があった。
「平成23年度第2次補正予算については、当面の復旧対策に万全を期すため、原発事故の賠償関係や二重ローン問題対策等に限定し、7月中のできるだけ早い時期に国会へ提出できるよう作業を進めている。」
「その財源については、平成22年度決算剰余金等の既存の財源により賄い、国債発行には依存しない方針である。」
「なお、平成22年度特例公債については、本年4月以降の出納整理期間中に2兆円の発行を予定していたが、税収動向・歳出不用等の状況を踏まえ、その発行をとりやめたところであり、今年度中に発行する前倒債の増加要因となる。」
この中で最後の部分に注目していただきたい。平成22年度、つまり昨年度の特例国債(赤字国債)については、出納整理期間中に発行を予定していた2兆円の発行を、税収の上振れ等によりとりやめたそうである。それは平成23年度、つまり今年度に発行される前倒債が増加されることになる。
以前にも出納整理期間内発行と前倒し発行について説明をしたことがあったが、再度確認してみたい。
国債発行については年度ベースとは言え12か月が基準になっていない点に注意しなければならない。前後3か月も加えて18か月で見ておく必要がある。国債には「出納整理期間内発行」と「前倒し発行」が絡んでいるためである。
「特例国債(赤字国債)」の発行にあたり、国会の議決を経た範囲内で、税収等の実績に応じ発行額を極力抑える必要がある。このため毎年度の税収の収納期限である翌年度の5月末までの税収実績等を勘案して特例国債の発行額を調整するために、特例国債の発行時期を翌年度の6月末までとする「出納整理期間発行」の制度が設けられている。
さらに、大量の国債発行を円滑に行うために、「借換債」は年度を越えて前年度に前倒して発行ができる前倒し発行が可能となっている。これは翌年度の国債発行額を多少なりとも減額させられるときには借換債を前倒しで発行し、国債の安定消化を図るように調整するためのものである。この前倒し発行額については、毎年度の予算総則であらかじめ国会の議決をうけた限度額の範囲内で発行されている。
このように昨年度予算における特例国債は今月末まで発行される予定となっていたが、その2兆円分の発行を、税収が予想以上に好調となっていたことでしなくて済むことになった。参考までに現在、政争の具と化している特例公債法案は今年度の分であるため、当然ではあるが昨年度の特例公債法において発行される分には影響しない。
ただし、これにより今年度の国債発行額がそのまま減額されるのではなく、その分は今年度に発行する借換債の前倒し債に置き換わる格好になる。参考までに借換債は発行限度額などについて国会の議決を受けることはないため、やはり今年度の特例公債法案等の成立には影響を受けることはない。
そしてこの2兆円の分は今後予定される第3次補正予算の財源分ともなりうる。10兆円以上と想定される第3次補正予算に絡んだ財源としての国債増発分のうち、新たに2兆円分のバッファーができることになるのである。
参考までに昨年度中に発行した今年度分の前倒し債は16兆9194億円である。また、今年度の国債発行計画(一次補正後)に盛り込んでいる前倒し債発行減額による調整分は8兆3893億円となっている。
2011.6.21「日本国債は誰が保有しているのか」
6月17日に発表された資金循環統計(速報)(1〜3月期)のデータを基にして、2010年度末における日本国債の保有者の内訳を見てみることにする。
日本国債の最大の保有者は、銀行など民間預金取扱機関である。ここにはゆうちょ銀行も含まれるが、286兆3280億円となり、全体に占めるシェアは39.4%とほぼ4割を占める。前回の2010年12月末(速報値)に比べて約3.6兆円の増加となった。
民間の保険・年金にはかんぽ生命も含まれるが、175兆3205億円となり、全体に占めるシェアは24.1%となり、全体の四分の一を占める。2010年12月末(速報値)に比べて0.9兆円の減少となった。
そして、公的年金は73兆8854億円となり、シェアは10.2%であり、2010年12月末(速報値)に比べてこちらも約1兆円の減少となった。
また、投信など金融仲介機関も35兆9482億円と4.9%のシェアとなっている。2010年12月末(速報値)に比べて約4.7兆円の減少となり、今回最も減少額が多かった。これは震災と原発事故による資金流出が影響していた可能性もある。
個人向け国債などを購入している個人は、家計として集計されており、31兆1209億円で4.3%のシェアとなっている。2010年12月末(速報値)に比べて約1.8兆円の減少となった。
このように銀行・保険・年金、さらに投信等や家計で、日本国債の83.0%と8割近くを占めており、個人の資金が預金や保険料、年金積立、投信などを通じ、さらに個人け国債などを通じて直接に国債投資に向かっており、日本国債を支える構図となっている。
その個人の資金、つまり家計の金融資産は2011年3月末現在、1476兆4036億円であり、金融資産と負債差額では1110兆1033億円である。それに対して資金循環統計上での国債残高は726兆2680億円となっている。
その他としては、海外が36兆5106億円でシェアは5.0%となった。2010年12月末(速報値)に比べて1.4兆円増加している。それでも日本国債における海外保有はわずかに5%でしかない。
日本銀行は60兆2695億円で8.3%のシェアとなっている。2010年12月末に比べて2.2兆円の増加となっている。これは日銀による国債買入れによって保有しているものである。さらにその他が26兆8849億円であり、3.7%のシェアとなっている。
このように、2011年3月末時点での国債の保有者を見ても、国内資金が国債を買い支える構図が続いている。まだ国内資金には余裕もあろう。だからこそ、現在でも国債を国内投資家は安心して購入している。
しかし、家計の金融資産は有限であり、その増加ペースは頭打ちになっているのに対して、国債残高は今後、さらに増加し続ける。いつか国内資金で国債を買い支えることが難しくなることが予想されるため、それを迎えることがないように、余裕のあるうちに国債残高の増加ペースは抑える必要がある。
2011.6.20「なぜ西村副総裁は独自議案を引っ込めたのか」
6月17日に5月19、20日に開催された金融政策決定会合の議事要旨が発表された。前回4月28日の金融政策決定会合では、西村副総裁より、資産買入等の基金を5兆円程度増額し、45兆円程度とする議案が提出され、反対多数(1対8)で否決されたが、5月の会合では西村副総裁からは同様の議案は出されなかった。その理由をあらためて、議事要旨から探ってみたい。
これについては議事要旨の「当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要」の中で、資産買入等の基金の運営について、ある委員は次のように語っており、これが西村副総裁の発言であることがわかる。
「前回会合時点では、原子力発電所事故等の展開を背景に将来に対する不安が増大し企業や家計のマインドが更に悪化するリスクが高まっており、基金の増額を図ることが望ましいタイミングだと判断して増額を提案したと述べた。」
要するに震災と原発事故の影響により、企業や家計のマインドの落ち込みを懸念しての基金増額の提案であったことが、わかるがそれをなぜ5月の会合で引っ込めたのか。それについては議事要旨に下記のようにあった。
「この委員は、その後、景気の先行きの見方に関する指標やヒアリング情報などにより、懸念していたマインドの更なる悪化の兆候がみられていないことなどを指摘したうえで、追加緩和の必要性は潜在的には大きいものの、現時点で基金の増額を行うメリットは大きくないとの見解を示した。」
4月28日から5月の会合までに発表された経済指標をみると、例えば、5月12日に発表された4月の景気ウォッチャー調査では景気の現状判断Diが28.3と前月比0.6ポイントの改善となり、2〜3カ月先を見る先行き判断DIは38.4と、前月比11.8ポイントと大きく上昇となっていた。また、16日に発表された3月機械受注統計では、船舶・電力を除いた民需の受注額は前月比プラスの2.9%と予想外のプラスとなった。
しかし、19日に発表された1〜3月期実質GDPは前期比マイナス0.9%、年率でマイナス3.7%と事前予想も大きく下回った。4-6月期についても大きく落ち込む可能性があるなど、福島原発の問題も絡んで震災等の影響が長期化し、企業や消費者マインドの悪化を通じて実体経済への悪影響が強まる懸念が、この短い間に後退したとは思えない。
基金の増額を行うメリットは大きくないとの見解ではあるが、追加緩和の必要性は「潜在的」には大きいというのであれば、前回の信念を貫いて、議事提案を行っても良かったのではなかろうか。
4月28日の会合では、もう一人、経済物価の見通しを踏まえると追加緩和の必要性は高まっているとの認識を示した委員がいた。この委員も5月の会合で次のように発言していた。
「別のある委員は、経済物価の見通しを踏まえると追加緩和の必要性は依然として存在しているものの、各緩和措置の効果波及経路と副作用などの検討を続けながら、適切なタイミングを見極めていくことが重要であると述べた。」
ちなみに野田審議委員は6月16日に任期満了で退任した。野田委員もかつて議長案に反対票を投じたことがある。このような議長の意見とは異なる意見もたいへん重要であることは間違いない。
4月28日の決定会合で独自議案を出した西村副総裁にはもう少し粘りも見せて欲しかった気もする。また、もう一人の委員も必要性を意識しているのであれば、西村案に賛成するなり、5月の会合で独自議案を出しても良かったのではないか。
日銀の金融政策決定会合が白川総裁とその素敵な仲間達とならぬよう、そしてスリーピングボード化しないようにするためにも、反対意見を持つのならばそれを票決でも示してほしいと思う。
2011.6.18「復興国債の日銀買い切りの問題点」
17日付けの日経新聞によると、民主党と公明党は一次補正で財源に転用された基礎年金の国庫負担割合(2分の1)を維持するための約2.5兆円の穴埋め方法について、東日本大震災復興債の発行で充当する方向で協議に入ったそうである。
年金給付に足りない分は年金積立金を取り崩して賄うとみられていたが、それでは年金制度への不安が増すとの公明党の批判などを受け、今年度については復興債の発行で手当する可能性が出てきた。
先日のコラムでも指摘したが、震災による復旧、復興のための国費部分は15〜20兆円規模が想定されているが、1次補正が4兆円、2次補正が2兆円規模であり、これを差し引いてもざっくりと10兆円から15兆円規模となることが予想される。そこに2.5兆円分がオンされる格好になるのであろうか。
この復興国債について、その償還財源を臨時増税で充てるとした政府の復興構想会議の提言案に対し、6党211人による超党派議員連盟の「増税によらない復興財源を求める会」はこの増税に反対した。その上で、当面の対応について「政府と日銀の間で政策協定(アコード)を締結し、必要な財源調達として政府が発行する震災国債を日銀が原則全額買い切りオペするよう求める」と提唱しているのである。
これは批判も強い日銀による国債引受とはしていないが、財政ファイナンスが目的であるため、たとえ買い切りオペであろうが、日銀の国債引受となんら変わりはないものである。日銀の国債引受による弊害については言うまでもないことながら、それを211人もの国会議員が賛同しているという事実に驚きである。
白川日銀総裁が「通貨、国債、中央銀行 ―信認の相互依存性―」と題する講演の中で述べているように、仮に中央銀行による国債買入れオペが財政ファイナンスや国債金利の安定を目的として行われていると受け止められるようになると、リスク・プレミアムが高まり、長期国債金利は上昇する。
震災の影響が残る中で増税反対なのは理解できなくもないが、それでなぜ日銀に国債を引き受けさせなければいけないのか、その理由がわからない。日本の市場にはまだ国債を消化する余地はあるはずである。もし将来の税収ですでに国債が賄いきれないというのであれば、来年度の新規国債の発行などできない状況にあるというのであろうか。
増税反対ならば、将来の税収増を見据えた政策を講じる必要がある。もしその手段が日銀による国債引受によるとするのならば、何のために国会議員は存在しているのであろうか。
2011.6.17「補正予算の財源問題」
第2次補正予算は1.5次的な補正予算の位置づけとなり、規模は2兆円程度と小規模となる見通しで、財源については税収の上振れなどによる1.4兆円程度の2010年度決算剰余金を全額充てることで、赤字国債や建設国債は増発しない方針のようである。
ただし、決算剰余金は財政法6条で、2分の1以上を国債などの償還財源に充てることが決まっている。(財政法 第6条 各会計年度において歳入歳出の決算上剰余を生じた場合においては、当該剰余金のうち、2分の1を下らない金額は、他の法律によるものの外、これを剰余金を生じた年度の翌翌年度までに、公債又は借入金の償還財源に充てなければならない。)
剰余金を全額繰り入れるには特例法を制定する必要がある。つまり、決算剰余金を財源として活用するためには、特例公債法案と同様の特例法を国会で通す必要がある。
15日に民主と自民そして公明3党が幹事長会談を開いたが、そこでは特例公債法案の成立へ向け、政調会長レベルの協議を始めることで合意とも伝えられている。もし、2次補正予算を成立させその財源も確保するには、今年度の特例公債法案も同時に成立させなければ理屈に合わない。
そして、今後予想される3次補正については10兆円以上の国費が必要にされると予想されている。震災による復旧、復興のための国費部分は15〜20兆円規模が想定されているが、1次補正が4兆円、2次補正が2兆円規模であり、これを差し引いてもざっくりと10兆円から15兆円規模となることが予想される。
この財源については臨時国債を発行し、所得、法人、消費税の基幹税を増税して償還するよう求める復興構想会議で提言がなされている。この臨時国債は復興国債とも呼ばれるものであり、通常の国債とは別のものとして発行されるものとなる。
1995年の阪神淡路大震災の際には10兆円近くの被害を受け、3回の補正予算が組まれ、支出総額は3兆2298億円に上っていた。この際には、8106億円の震災特例公債が発行され、3兆3337億円の減税特例公債も発行している。
この前の時期では、経済成長が持続しこの時期、一般歳出は抑制され続け財政再建策が取られていたことで、財政状況は大きく改善した結果、1990年度には特例国債依存から脱却し、1990年度から1993年度まで特例国債の発行停止が続いていた。このため、ある意味、現在に比べて財政の余裕はあったとも言える。ただし、これをきっかけに特例国債の発行が再開されたことも確かであった。
しかし、今回発行が見込まれる復興国債については、規模も大きいことからそれなりに市場への影響も大きくなることが想定される。ただし、実際の市中消化額は前倒し債の取り崩しによる発行余力分もあるため、それほど大きくはならないであろうとも予想される。いずれにせよ、早めに今年度の特例公債法案を国会で通し、2次補正の財源問題もクリアーにしておかないと先には進めない。これらがあまり先送りされてしまうと年度末に向けての国債発行額が予想以上に大きくなってしまう懸念も生じる。
2011.6.16「日銀の新たな貸付と景気判断」
日銀は14日の金融政策決定会合で出資や動産・債権担保融資など、不動産担保や人的保証に依存しないABLと呼ばれる融資を対象に、5000億円を上限として、年0.1%の金利で原則2年とし1回の借り換えを可能とした最長4年の貸し付けを行う新しい枠組みを決定した。
日銀は昨年3月から、成長分野への投資促進に向け、民間金融機関に政策金利の0.1%で貸付期間原則1年とし、貸付総額の残高上限は3兆円として資金を貸し出す「成長基盤強化を支援するための資金供給」制度を導入した。これまでに計4回実施され、すでに総貸付残高は約2兆9424億円と上限の3兆円にほぼ達している。
この資金供給は、金融機関の自主的な取り組みを進めるうえでの「呼び水」としての役割を果たしてきているが、成長基盤強化に向けた企業の取り組みをさらに後押しして行く観点から、資本性資金の供給や従来型の担保・保証に依存しない融資に着目し、今後これを支援していくことが適当と考え、あらたな貸付枠を設定することにしたようである(白川総裁会見より)。
白川総裁は、成長基盤強化を支援するための資金供給の上限を引き上げなかったことについては、「これまでやってきた成長基盤強化支援の枠を単純に増額することは、効果と副作用の面からみてそろそろ限界に近づいている」と述べた。
今回の新たな貸し付け制度もあくまで「呼び水」的な効果が期待されるもので、景気そのものへの影響は限定的であると思われる。ただし、「成長基盤強化を支援するための資金供給」制度を完全に打ち切ることはせず、内容を変えて貸し出しを継続させたものとみられる。
そして、14日の金融政策決定会合では足元の景気判断を、5月の「わが国の経済は、震災の影響により、生産面を中心に下押し圧力の強い状態にある」から、「わが国の経済は、震災の影響により、生産面を中心に下押し圧力が続いているが、持ち直しの動きもみられている」と修正されている。
5月には「震災による供給面の制約を背景に、生産活動は大きく低下している。この結果、輸出が大幅に減少し、また、企業や家計のマインド悪化の影響もあって、国内民間需要も弱い動きとなっている。」とかなり弱気な見方となっていたが、今回は「最近は供給面の制約が和らぎ始め、家計や企業のマインドも幾分改善しつつあるもとで、生産活動や国内民間需要に持ち直しの動きもみられている。」とやや強気の見通しに転じている。
確かに震災の影響による生産活動の低下はかなり大きなものであったが、自動車を含めて予想以上の回復をしていることも確かであり、特定の産業への依存度が高い日本経済のリスクがやや軽減したと判断したともみられ、この変更には違和感はない。西村副総裁が4月28日に基金の増額というに独自議案を出しながら、その後、引っ込めたのもこういったマインドの変化を意識してのものであろう。
2011.6.15「第2次補正予算は1.5次的補正の位置付けに」
野田財務相は14日の閣議後の会見で、菅首相から2次補正予算を編成し、7月初めに国会に提出するよう指示があったことを明らかにした。規模は10兆円を超えるようなものではなく小規模となる見通しで、財源については税収の上振れなどによる1.5兆円程度の2010年度決算剰余金などを充てることで、赤字国債や建設国債は増発しない方針のようである。
特例公債法案の行方が不透明であることに加え、首相の退陣のタイミングなども絡んで、その後、本格的な補正予算への繋ぎのような補正予算を編成するようである。
中途半端な規模といえど補正予算の成立までには時間も要する。本来であれば、これほど大きな災害を受けた以上、迅速な復旧、復興が求められるはずである。しかし、特例公債法案が政争の具にされたことや、首相の退陣問題も絡んで本格的な復興にむけた政府の対応は先送りされた格好になる。
ここには復興に向けての主導権争いなども影響してこよう。今後の10兆円を超える規模とみられる補正予算をどのように配分するのか。ある程度のグランドデザインを描いた上で、被災地の今後も見据えた復興対策が求められるところであるはずが、利権争いなどが絡んできては有効的な活用ができなくなる恐れもある。
日本人は我慢強いと言われるが、それでもこういった政府の対応に対しては異議を唱える必要もあろう。危機には危機の迅速な対応が求められる。それができないというのであれば、少なくともトップは早く交代して、状況を変えていく必要があると思う。
2011.6.14「原発全停止の可能性とその影響」
東京電力の福島第一原子力発電所における事故と、それにより多量の放射性物質が外部に放出されたことにより、原発そのものへの見直し機運が高まっている。原発再開の是非を問うイタリアの国民投票は、投票率が50%を超えて成立し、暫定開票結果では、原発凍結賛成票が約94.5%を占めた。国内世論に関しても今後、脱原発に向けて高まることが予想され、来年春には全ての原発が停止する可能性がある。
経済産業省所管の日本エネルギー経済研究所によると、すべての原子力発電所が運転停止し、火力発電所で発電を代行した場合、液化天然ガスや石炭など燃料調達費が増えるため、2012年度の毎月の標準家庭の電気料金が平均で1049円上昇するとの試算を発表した(読売新聞)。このように家計にも負担が掛かり個人消費にも影響が及ぶ可能性がある。この1千円のアップを高いと見るか安いとみるか、毎月1千円の節約で原発リスクをおさえられるならばとの見方も出てこよう。
中部電力は菅首相の要請を受けて、5月14日までに浜岡原子力発電所の全原子炉を停止した。現在の時点で、停止している原発は、福島第一、第二原発や浜岡原発、女川原発、のほか、定期点検中のものを含めると35基となり、営業運転しているのはわずか19基となっている。
原発は電気事業法により、ほぼ13か月おきに、原発を停止して検査を行うことになっている。通常の場合は、定期検査で停止した原発は地元の了解なしに運転を再開し、1か月程度の調整運転を経て、原子力安全・保安院の最終試験を実施し、営業運転に入ることになる。
しかし、今後は福島第1原発の事故を受け、地元への理解が必要となろう。枝野官房長官も5月の会見で、定期検査中の原発の運転再開について「各電力会社の緊急安全対策を、国がしっかり確認した上で、地元の意向を踏まえて検討していく」とコメントしている。
ただし、政府は浜岡原発を停止させたこともあり、原発再開に対して現時点で地元(原発を抱える14道県)の協力を得ることはかなり難しいであろう。今後の大きな余震発生の可能性も指摘される中で、原発再開へのリスクを地元住民もかなり警戒してくることが予想されるためである。
もし、随時原発が点検に入り、再開ができなくなれば来年には、国内のすべての原発が停止する可能性がある。全国の電力供給の3割を担う原発が止まれば、震災で大きな打撃を受けた日本経済にさらにマイナスの影響を与える可能性があり、生産拠点の海外移転による産業空洞化が加速される懸念もある。
国内原発がすべて停止されるとなれば、それに向けて電力の供給不足を補う方法とともに、需要を抑える必要性も出てこよう。これまでオイルショックなど大きなショックを乗り越えてきた日本だけに、今回も震災復興とともに新たな電力供給に向けての努力が行われるであろうが、その間、経済は影響を受けることになる。
オイルショックを乗り越えた日本ではあったが、その影響を受けた税収不足などのため特例法を制定しての赤字国債が発行されるなどしており、政府債務増加のひとつのきっかけともなっている。今回も震災と原発事故の影響で、政府債務がさらに拡大するとみられる。景気へのマイナスの影響は税収不足をもたらすことが予想される上、歳出の増加により、いわゆるワニの口はさらに開くことも想定される。その分、いわゆる臨界点は前倒しされることとなる。だからこそ、原発は再開すべきというわけではない。念の為、それによる影響もある程度、想定しておく必要もあると思うのである。
2011.6.13「AKB48の総選挙と民主党の代表選」
既に社会現象と化しているAKBの総選挙が6月9日の夕方に実施された。秋葉原のドン・キホーテの上にできたAKB48劇場をホームグラウンドとするAKB48がこれほどまで活躍するとは思わなかった。ただし、秋元康氏がプロジュースするということで、何か仕掛けてくるような予感だけはあった。
私自身、AKBのメンバーでも顔と名前が一致するのは数人である。それでも今回の総選挙には関心があった。たかが新曲のセンターを決めるのに武道館まで使うことはあるまいと思うが、その投票権ほしさにCDを買い求める人が続出し、その結果、売れ行き不信のCD業界にあって、投票権のついたCD「Everyday、カチューシャ」売上が133.4万枚に達したそうである。
それに対して、民主党のセンターを選ぶ代表選が7月にも行われる見通しが出てきている。しかし、すでに有力候補とみられていた岡田民主党幹事長や大連立を模索している仙谷官房副長官、さらに震災後に人気が高まっている枝野官房長官らは代表選に立候補しないことを表明した。
これは候補をある程度絞った上で、代表選を行うことを想定しているとみられ、その有力候補に野田財務相の名前が上がっている。
日本の政治は政党政治である以上は、自民党が政権を握っていた時代には自民党総裁選、そして民主党が政権を担ってからは民主党代表選が日本の首相を決める選挙となる。しかし、その選挙権は当然ながら党員にしか認められておらず、国民全体の声が反映されたものではない。
AKBの総選挙はまさに誰が最も人気が高いのかを決めるものであろう。それを例えば日本の首相を決める選挙と同列で考えるのはおかしいかもしれないが、それでもより国民の声を反映できるような首相の決め方はないものなのであろうか。さらに毎年恒例のようになってしまった首相交代もなくして、ある程度の長期政権を構えられるような工夫はできないものなのであろうか。
野田財務相が次期首相となれば、財政再建路線が引き継がれることになり、日本国債の信用度も維持されよう。しかし、新しい首相がその力を存分に発揮できるような組織づくりも必要であろう。しかし、現在の民主党からはそれも難しい面がある。内部分裂は回避されたものの、民主党がまとまっているようには思えない。また、自民党と連立を組むにしても相容れない部分も多く、たとえ震災復興のための限定的なものだとしても、まとまりそうはない。
本来であれば今回の大震災のような未曾有の危機が訪れた際には、政治が大きく変貌し、ひとつになって国難に立ち向かっていたはずである。しかし、それでも政治は動かず、いまだに政争を行なっている。あれだけの危機、さらに原発事故まで起きても、特例公債法案を政争の具にするような余裕があるということなのであろうか。
日本の政治を変えるほどの危機となれば、それは日本の債務危機が訪れたときと考えられる。国内資金が日本国債が賄えなくなることがはっきりした際に、政治は変わるのであろうか。しかし、それに気づいたときには対処の手段もないことになる。
日本にはこれまで蓄積されたものがあり、未曽有の危機であろうと、巨額債務であろうとなんとか乗り切ってきている。しかし、その余裕がいつまで持つのかはわからない。チーム日本のセンターに位置する者は、その余裕部分を使い切るのではなく、余裕のあるうちに本当の意味での危機を招かないための施策を講じる必要があるし、そのような政治の仕組みを作る必要もあろう。
2011.6.11「震災により国債を取り巻く環境の変化」
6月8日に発表された4月の国際収支統計では、経常収支は4056億円の黒字となり、大幅に減少した。この減少要因としては貿易収支が4175億円の赤字となったことに加え、サービス収支が4213億円の赤字となったことが大きい。
東日本大震災等の影響により輸出が減少した半面、輸入が増加したことにより、貿易収支は赤字に転じた。ちなみに4月の米貿易赤字が減少したが、この要因のひとつに震災の影響により日本からの輸入が減少したことが指摘されている。
さらにサービス収支も4213億円の赤字となっていたが、これは東日本大震災後に世界中で訪日自粛ムードが広がったことにより、入国者数の大幅減少を主因に旅行収支の赤字幅が拡大したことが大きく影響している。
ただし、所得収支が1兆3308億円の黒字となっていることから、貿易収支の赤字転換やサービス収支の赤字を相殺した格好となっていた。
このように国債需給にも影響を与えかねない経常収支の黒字幅の縮小は気掛かり材料ではあるが、所得収支が大きいことで当面の赤字転落は考えづらく、また生産の回復とともに輸出も回復することが予想され、貿易収支の改善も見込まれる。
しかし、震災をきっかけにサプライチェーンの問題が表面化し、また原発事故や、それによる電力供給不足の問題により、産業の空洞化リスクもある。これにより日本の貿易構造そのものが大きく変化し、貿易収支の改善が進まない可能性もありうる。
そして、震災や原発事故への対応により銀行貸出にも多少なり影響が出ており、8日に日銀が発表した銀行貸出においてマイナス幅が前月より0.2%縮小している。これについて日銀は「設備投資のための資金需給は引き続き弱いが、東日本大震災後に運転資金の需要が増えている」としている。
日本国債を買い支えているのは国内資金である。特にここにきては貸し出しの伸び悩みや、企業の手元資金の増加分が新規に発行される国債を買い支えてきた面がある。しかし、今後は震災の影響を受けて企業の運転資金の増加も見込まれることで、それに頼ることが出来なくなることも考えられる。
第二次補正予算においては国債増発が予想されている。財源を特定しての復興国債の発行となったとしても、来年度以降も将来の税収を担保に発行される巨額の新規財源債を発行しなければならない状況下ではあまり意味をなさず、その分、国内資金での国債消化余力を減少させることになる。
震災や原発事故による影響により、国債を取り巻く環境は悪い方向に向かう可能性がある。これですぐに国債需給に影響を与えるわけではない。実際に現在でも長期金利は1.1%台にあるなど低位安定している。しかし、少し長い目で見れば、決して安寧としてはいられないことも確かであろう。
2011.6.10「日本の中長期債の購入を増やしている中国」
5月20日に日本証券業協会が発表した公社債投資家別売買高によると、短期債を除いたものでみると外国人投資家が1兆7009億円の買い越しとなっていた。国債の投資家別売買高で見てみると、外国人投資家は中期債を2兆1362億円買い越しとなっていた。
そして、6月8日に財務省が発表した4月の国際収支によると、中国がネットで中長期債を1兆3300億円買い越し、短期債を1兆4887億円売り越していたことが明らかになった。
ちなみに財務省の発表した国際収支から、この中国の数値を拾うには、財務省のサイトの関連資料・データ、国際収支状況、報道発表資料(発表日別)に入り、平成23年の6月8日発表分の中の付表3(対外・対内 証券投資)のPDFを開く。そのPDFファイルの下の方に、対内証券投資(地域別内訳)があり、そこで確認できる。
中国の外貨準備は3月末で3兆447億ドルと3兆ドルを越えている。その運用先として米国債を主体とするドル資産から、他通貨の資産への乗換を行なっているとみられ、実際に中国の保有する米国債は減少傾向にある。
これは「MAJOR FOREIGN HOLDERS OF TREASURY SECURITIES」からも確認できる。中国による米国債の保有額は2010年8月に1兆1753億ドルあったものが、今年3月には1兆1449億ドルに減少している。
中国の巨額な外貨準備の運用先のひとつとして日本の債券(ほとんどが国債か)が選択されているとみられる。ただし、短期債では利回りが低いため、より高い利回りを求めて中期債あたりに比重を移している可能性がある。
日本国債への中国からの投資は政治的な意図はあまりないとみられ、為替市場で円が安定していることもあり、投資先として日本の債券が選択されるのは理にかなっている。ただし、今後も日本の債券を安定的に中国が購入してくるかどうかは不透明である。むしろ足の早い投資家、といった感じでみておくほうが良さそうである。
日銀の資金循環統計は今月17日に2011年3月末の数字が発表される予定であるが、2010年12月末の段階でも、資金循環統計から見た海外投資家による日本国債の保有比率は4.8%しかない。多少、中国の保有が増加してもこの保有比率は大きくは変わらないとみられる。
ただし、日本国債を売買する投資家として中国がそれなりに存在感を示しつつあることも確かなようである。中国が日本の債券動向に関する情報を求めているといった話も聞く。日本の債券相場に影響をあたえる投資家のひとつとして、中国が入ってきていることも確かなのではなかろうか。
2011.6.9「バーナンキ議長が語った財政再建策」
バーナンキ米連邦準備理事会議長は、6月7日のアトランタにおける講演の中では、財政問題にも触れていた。
景気回復には財政問題が制約となるものの、短期的で急激な財政再建策は、脆弱な経済に対して回復を妨げることにもなりかねない。このため、財政問題に関しては長期的な問題として認識する必要がある。適切な対応策としては、財政再建に向けた信頼に足る長期的な計画を迅速に実行することだとしている。
これにより景気回復を損なうような財政収縮を避けることが可能となる。それと同時に、信頼のおける財政再建策は長期的に見て経済を強めることになり、長期金利の低下を導き、消費者や経営者の信頼を得ることで、短期的にも恩恵をもたらすとしている。
これらの発言は米国だけではなく、日本にもまったく同様のことがあてはまる。日本の財政問題は、いまそこにある危機ではないものの、手遅れにならないうちに適格な対処をしておかなければ、財政の持続性そのものに問題を与えることになりかねない。
リーマン・ショックによる世界的な経済金融危機から立ち直りかけた矢先の大震災とそれに伴う原発事故により、日本経済は大きな痛手を受けた。このため、短期的で急激な財政再建策は、脆弱な日本経済に対して回復を妨げることにもなりかねない。
しかし、だからといって財政再建問題はもう先送りできるような状況にもない。このため政府も、税と社会保障の一体改革を進めようとしている。その内容について切り込みが足りないとの指摘もあろうが、とにかくもこれまで先送りし続けた消費税増税に道筋をつけることは必要であろう。
もちろん、震災の復旧・復興の最中に増税を行うことには無理がある。しかし、消費税増税にはある程度の期間が必要であり、タイムラグが存在する。実際に増税を行う頃には震災による経済への影響は、かなり後退していることが予想される。
むしろ、消費税増税を含めた財政再建策により、将来の財政の持続性に関するリスクが多少なり後退すれば、消費者や経営者のマインドに働きかけて、バーナンキ議長の言うように、短期的にも恩恵をもたらす可能性もある。
何がなんでも増税反対というのならば、それに変わる案を出す必要がある。日銀による国債引受や政府紙幣の発行、また政府保有の米国債の売却などにより巨額の財源を確保し、さらなる積極財政を行うというのであれば、それにより将来に向けて安定した税収増が見込め、財政再建も可能とするような政策を示す必要があろう。
しかし、単にデフレが解消されれば、すべての問題は解決するというような発想だけでは、あまりに付随するリスクが大きい上に、将来的な財政健全化に向けた努力まで後退させることが考えられる。それによりもし結果が出なければ、日本の債務危機が表面化してくる懸念がある。
2011.6.8「2012年のIMFと世銀の年次総会は48年ぶりの日本開催に」
国際通貨基金(IMF)と世界銀行の理事会は、2012年の合同年次総会を来年10月に東京で開催すると発表した。日本での開催は東京オリンピックが開かれた1964年以来、実に48年ぶりの開催となるそうである。
年次総会は通常、2年続けてワシントンDCのIMF及び世界銀行の本部で開催され、3年に一度加盟国で開催される。前回2009年はトルコのイスタンブールで開催され、約1万3千人が参加した。2006年はシンガポール、2003年はドバイ、そして2000年プラハで開催された。
来年10月の開催予定地は予定ではエジプトであったが、エジプトが今回の政情不安を理由に先送りする意向を表明したため、日本が年次総会を東京に誘致する方針を表明し、それが理事会で承認された。
IMFのサイトによると、国際通貨基金(IMF)と世界銀行グループの年次総会には毎年、中央銀行総裁、財務・開発大臣、民間企業の幹部、学会の専門家などが集まり、世界の経済の見通し、貧困撲滅、経済発展、そして援助の有効性など世界的な課題について話し合われるそうである。
経済金融に絡む世界の要人達が一同に会することで注目度も高く、日本政府が東日本大震災からの復興をアピールする絶好の場となりそうである。
IMFはストロスカーン専務理事が5月19日に辞任したが、その後任には、フランスのクリスティーヌ・ラガルド経済・財政・産業相が有力視されている。IMFは6月30日までに専務理事を選任する方針を示している。
これに対して、向かい入れる日本のトップは果たして誰になっているのであろうか。また、合同年次総会が開催される来年10月までに福島原発問題を含めて、震災復興に向けてどの程度、進展が進むのであろうか。
今回の震災や福島の原発事故により、日本の動向に対しては世界が注目している。この来年の年次総会に向けてIMF加盟187か国も、日本の動向に注視してこよう。
そのような時、首相が退陣するとかしないとか、党内の主導権争いなどをしている場合ではないはずである。来年になり、年次総会は日本で開催すべきでなかったなどと思われないためにも、この時期の無意味な権力抗争は早期に止めて、復興に向けて全力を傾けるべきときではなかろうか。
2011.6.7「ダイアモンド氏はFRB理事候補を辞退か」
2010年のノーベル経済学賞を受賞したピーター・ダイアモンド・マサチューセッツ工科大学教授は、FRB理事候補を辞退する考えを明らかにしたと報じられた。ニューヨーク・タイムズに掲載された同氏の「ノーベル賞が十分でない場合」と題したコラムで、「ホワイトハウスに伝えるつもりだが、辞退する時だと思う」との考えを示したそうである。
ダイアモンド氏のFRB理事就任は、上院銀行委員会で承認されたものの、シェルビー上院議員(共和党)などの反対で上院本会議での承認が拒否されている。理事就任の反対理由としてシェルビー上院議員は、同氏が金融政策分野での経験が浅いと批判しているようである。
日本でも2008年3月に日銀総裁の後任人事を巡り、ねじれ国会による民主党の反対により福井総裁の任期満了までに次期日銀総裁が決まらず総裁空席という異常事態を引き起こした。米国でも同様に、ねじれ国会の影響により、ノーベル経済学賞を受賞した教授がFRB理事候補を辞退するような事態を招いたようである。
もちろんノーベル賞を取ったからといってFRB理事として適任であるかどうかの判断は難しい。金融政策分野での経験の乏しさもマイナス要因かもしれないが、ダイアモンド氏は失業問題の権威であり金融政策にも十分に、その力を発揮できるのではないかと思われる。
2008年3月での武藤副総裁の総裁就任に対する反対理由として、当時、民主党の鳩山氏は「一言で言えば、日銀の独立性という観点だ。武藤氏はミスター財務省だ」などと語り、「財政と金融の分離」の観点から昇格は受け入れられない立場を説明していた。その民主党内から日銀の独立性を脅かすような発言をする議員が出ているが、そっちの方が問題であろう。それはさておいても財務省出身だから反対するというのは、あまり理由にはならない。財務省と日銀はある程度の連携も必要であり、その意味で武藤氏の就任はむしろ適切であったように思う。今更ではあるが。
ダイヤモンド氏は自らのFRB理事就任を巡る政治上のゴタゴタに嫌気が差して、自ら身を引くことにしたのであろうか。これでまだノーベル賞は受賞していないバーナンキ氏(現FRB議長)もホッとしている、なんていうことはないと思うが、ノーベル賞受賞者の理事というのも見てみたかった気がする。
ちなみに、連邦準備制度理事会(FRB)は、14年任期の理事7人によって構成されている。理事の中から議長・副議長が4年の任期で任命される。議長・副議長・理事は大統領が上院の助言と同意に基づいて任命する。ちなみに1935年の銀行法制定の際に連邦準備委員会は、現在の連邦準備制度理事会と名称が改められたが、現在使われている米1ドル札はこの1935年から発行されている。
2011年の理事会メンバーはバーナンキFRB議長、イエレンFRB副議長、デュークFRB理事、ラスキンFRB理事、タルーロFRB理事である。ウオーシュFRB理事が3月末で辞任したことで、現在の空席は2つとなっている。
連邦公開市場委員会 (FOMC) は、FRBが定期的に開く会合で、FRB理事7人(現在は5人、空席2人)と連邦準備銀行総裁5人(ニューヨーク連銀総裁と、持ち回りで選ばれる地区連銀の総裁4人)で構成される。本来ならば数の上ではワシントンの理事会メンバーだけで過半数の票が取れることで理事会の意向が反映されやすいとされているが、現状は数の上だけで見ると拮抗しており、そのような状況にはなっていない。ただし、バーナンキ議長の意向がかなり反映されていることは確かであると思われる。
2011.6.6「沈静化していない日銀による国債引き受け論」
復興国債の日銀引受に関する報道が一時期、あちこちで見られたが、それについては野田財務大臣や枝野官房長官による、政府では検討していないとの発言によりいったん収まった。それをマスコミに流したとされる政府関係者からも結局、日銀の国債引受に関する慎重論が出ていた。しかし、それが完全に収まったようには思えない。
また、これまで日銀による国債引受には慎重論を唱えていたとみられる人たちからも、日銀引受を行っても良いのではないかとの意見も垣間見れるようになってきたとも聞く。そのひとつとして、5月26日の大機小機の「無利子国債の日銀引受」がある。
ところがこのコラムの中では、10兆円規模の復興国債を発行し、それは「非常事態への対応策として、無利子国債の形式で日銀引き受けとすべきである」としている。「使途の特定、償還期限の順守を必須とすれば、この方策も十分配慮に値する」とある。
そもそも10兆円程度の国債をなぜ日銀に引受させなければいけないのか。今後も毎年度50兆円規模の新規国債の発行が予想されているのに、今の状況で10兆円の国債が民間で消化できないはずはない。もしも、消化できなかったならば、それこそ大きな問題となる。
しかし、この日銀による国債引受については、国債を良く知る人たちからも主張がなされている。国会議員にも日銀の国債引受を主張する者もおり、金融市場にも精通しているはずの国会議員から政府紙幣の発行を求めるような声も出ているという。
これまで格下げなどにより日本国債が売られるようなことはなかった。国内で消化できていたことももちろん要因であるが、それは日本国債への市場への信認が厚かったためでもある。しかし、日銀が国債を引受けることにより財政規律の弛緩が意識され、その信認が崩れたら何が起きるのか。これはやってみなければわからないものではあるが、ギリシャの例を見る限りリスクは大きすぎる。国債格下げにも敏感となり、国債利回りは急騰することが予想される。
ギリシャと日本では経済規模などからは比較にならないとの見方もあるかもしれないが、国債発行が「信認」に基づいて行われていることに変りなく、むしろ信認が失われても日本国債は安泰と考える事のほうが難しい。さらに国債残高の大きさを考えると、日本の長期金利が数%上昇するとそれだけで金利負担が膨大なものとなり、財政はさらに悪化するなどその状況はあまり想像したくはない。
大機小機での真和氏は「使途の特定、償還期限の順守を必須とすれば、この方策も十分配慮に値する」している。たとえ政府がそれを明確に打ち出したとしても、それ以降、国債引受が継続されるリスクの方が高い。そもそも国債を日銀に引受させるという行為そのものが財政規律を乱すものであり、いったん初めてしまえば、歯止めなど掛けたところでそれが守られると考える事のほうが困難である。
2011.6.5「日銀による国債引受けに関する白川日銀総裁発言」
日本銀行の白川方明総裁は5月28日開催された日本金融学会2011年度春季大会における、「通貨、国債、中央銀行 ―信認の相互依存性―」と題する講演の内容を再び見てみたい。
白川総裁は中央銀行と国債の役割に関することに触れ、「日本銀行は金融調節に当たって国債を大いに活用していますが、中央銀行による国債買入れオペは、銀行券の供給や金融政策の運営のために行われているものであり、財政ファイナンスや国債金利の安定を目的として行われているものではありません。仮に中央銀行による国債買入れオペが財政ファイナンスや国債金利の安定を目的として行われていると受け止められるようになると、リスク・プレミアムが高まり、長期国債金利は上昇します。」
このあたり、理解しづらい人もいるのかもしれない。リフレ派と呼ばれる人たちは理解しようともしていないように感じられる。日銀による国債の買入れも、国債の直接引受も結果から見れば、日銀の資産に国債が加わり、その分、市中にお金が出ていくことになんら変わりはない。だから、これはあくまで日銀は何のために国債を買い入れているのかが問題にされる。
日銀による国債の買入れはあくまで金融調節のひとつの手段であり、日銀は銀行券の発行残高を上限として、保有長期国債が将来にわたってその範囲に収まるように、買入れを行っている。いわゆる日銀券ルールを設けている。これは日銀が設けた行内ルールであり、それに縛られずにもっと買入れを増やすべきとの意見も聞かれる。
総裁は「多額の国債を買入れている中央銀行が、その買入れに当たっての基本原則も明らかにせずに行動すると、不確実性が増大し、リスク・プレミアムが発生する」ことを懸念している。現在の銀行券の発行残高は約 81兆円であり、現時点では長期国債の保有額60兆円は銀行券の発行残高を下回っているものの将来に向けては両者が接近してくるとみられており、国債の買入れそのものに慎重である。
ただし、日銀は包括的な緩和政策にて、この日銀券ルールに縛られないかたちでの国債買入れも行うなど、見方によればリスク・プレミアムが発生してもおかしくはない手段も講じている。しかし、これについてもある程度の規律に基づくものであり、しかも財政ファイナンスではないとの認識から、リスク・プレミアムが発生するようなことはなかった。いずれにしても、あくまで市場が日銀の行動をどのように受け止めているのか。最も重要なのはその点である。
そして、白川総裁は「日銀による国債引受け」の議論について、日銀の考えを説明している。
欧州では、中央銀行の国債引受けが明示的に禁止されているほか、新興国
を含め世界の多くの国で、中央銀行による国債引受けは認められておらず、日本でも財政法5条により日本銀行による国債引受けを禁じている。ちなみに米国も同様に連邦法14条(a)にて連銀による国債引受を禁止している。
これは「一旦中央銀行による国債引受けを始めると、初めは問題はなくても、やがて、通貨の増発に歯止めが効かなくなり、激しいインフレを招き、国民生活や経済活動に大きな打撃を与えたという歴史の教訓」が元になっている。
その教訓のひとつとして、高橋財政期の日本銀行による国債引受けについて触れているが、それに関して当時と現在の金融経済情勢はそもそも大きく異なっている事実について以下のような説明があった。
国債引受けの始まる前は金融引き締め期であり当時のコールレ−トは6.6%と高い水準であったのに対し、現在は 0.07%と極めて低い水準になっている。長期金利も当時の5.9%に対し、現在は1.1%台。高橋財政が始まる直前の国債発行残高の対GNP比率は 47.6%と、現在の対GDP比率の181.9%とは比較にならないほどの健全財政の状態にあった。
当時の国債引受けは資本移動規制の強化を伴い、これに対し現在は当時とは比較にならないほどに金融市場や経済のグローバル化が進んでおり、金融政策や財政政策が通貨の信認を壊すような方向で運営されると、長期金利にすぐ跳ね返る状況になっている。
当時の国内金融市場は現在に比べて規模が小さく、国債市場が発達していなかった。当時の国債発行は、民間金融機関が引受けシンジケート団を組成して引き受けるか、郵便貯金等を原資とする預金部が引き受けるかたちが中心であった。
そして、これはよく知られているように「当時、日本銀行は国債を引き受けても最初の数年間、すなわち高橋是清蔵相の存命中は速やかに売却をしており、日本銀行による国債の保有残高やマネタリーベースが大きく増加した訳ではない」。
高橋蔵相は軍部の予算膨張に歯止めをかけようとして凶弾に倒れ、結局はインフレを招いた。ただし、偶々軍部の予算膨張を抑えられなかったのではなく、「市場によるチェックを受けない引受け」という行為自体が最終的な予算膨張という帰結をもたらした面もあったのではないかと白川総裁は指摘している。つまり、引受けという「入り口」が予算膨張の抑制失敗という「出口」をもたらしたと解釈すべきではないかという。
高橋財政期の日銀による国債引受けはあくまでも「一時の便法」として始まっている。高橋蔵相は帝国議会での演説で、引受けによる国債の発行は一時的なものであることを述べているが、その後の歴史はこれが一時的なものではなかったことを示している、この点が非常に重要である。
中央銀行による国債の引受けは、初めは問題がなくてもやがて通貨の増発に歯止めが効かなくなり、激しいインフレを起こすことによって国民生活や経済活動を破壊する。日銀による国債引受については麻薬に例えられることも多い。
さらに財政バランスの改善は、インフレによって達成される課題ではないことも指摘している。完全にリフレ派を意識した総裁発言である。
財政バランスの改善には、歳出、歳入の見直しと成長率の引上げも重要である。そこで言う成長率の引上げとは実質成長率の引上げである。
「この点に関しては、しばしば名目成長率の引上げが必要だと言われますが、この言い方はややミスリーディングです。この言い方ですと、実質成長率の引上げでも物価上昇率の引上げであっても、全く同じように財政バランスが改善するかのような印象を与えますが、単に物価が上昇するだけでは財政バランスは改善しません。何よりも必要なことは実質成長率の引上げに向けた地道な努力です。」
まさしく正論であろう。日銀による国債引受では何ら問題は解決されない。それどころか、日本経済そのものを破壊する行為ともなりうる。さらに信用を失うことでインフレを招くことになれば、それに対するブレーキは効かない。インフレターゲットを設定してもインフレを止める手段、つまり信用を回復することができなければインフレは加速する。その結果、ハイパーインフレが生じて日本の債務問題が国民犠牲の上に解消する可能性はある。
2011.6.4「個人向け国債がリニューアル?」
6月3日から夏の個人向け国債の募集が開始された(6月30日まで)。今回から10年変動タイプの適用利率の算式がこれまでの「基準金利-0.80%」から、「基準金利×0.66」に変更されることもあり、いろいろとリニューアルが図られたようである。
財務省の個人向け国債のサイトを見ると、サイトそのものがリニューアルされている。また、そこではマウンテン変動10年、ゴーイング固定5年、マンスリー固定3年と個人向け国債にリングネームならぬニックネーム(愛称)がつけられていた。
ただし、商品性そのものは10年変動の利率の算式以外に変更はない。ちなみに固定5年物については、2012年4月から発行から2年間は中途換金できないルールを改めて、発行後1年経過すれば換金できるようになる予定である。
まずは、そのニックネーム(愛称)について見てみたい。マウンテン変動10年のマウンテンはどうやら金利の上り下りに利率が影響を受けることからきているようである。ゴーイング固定5年のゴーイングは想像するに、5年間利率が変わらずそのままということを示しているのであろうか。マンスリー固定3年のマンスリーは、四半期ごとに発行されるマウンテンやゴーイングとは違い、毎月発行されているためであろう。
テレビでも個人向け国債の新しいコマーシャルがスタートしている。さらにツイッターでも1日から「コクサイ先生」がつぶやきを開始している。このようにいろいろとリニューアルが図られた個人向け国債であるが、ここにきての販売低迷に対してテコ入れとなるかどうか。それはやはり利率次第とも言える。
今回の夏の個人向け国債の適用利率は、変動10年第35回債の初回の利子の適用利率が
年率0.77%(税引後0.616%)となる。基準金利は、1日の10年国債の入札結果から算出された金利1.17%であり、これまでの利率の方式ならば0.37%であったので、それに比べてかなり有利となる。
固定5年第23回債の利率は年率0.41%(税引後0.328%)、固定3年第13回債年率0.20%(税引後0.160%)であり、10年変動の有利性が目立つことで、今回は特にこのマウンテン変動10年の売れ行きに注目したい。
ちなみに、前回4月の際の個人向け国債の発行額は10年変動(初回利率0.51%)が126億円、5年固定(利率0.52%)が1434億円であった。
2011.6.2「ムーディーズ、日本国債の格付を引下げ見通しに」
格付会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは31日、日本政府の自国通貨建てと外貨建ての債務格付「Aa2」を引き下げ方向で見直しの対象にしたと発表した。ちなみに4月に格付会社S&Pは日本のアウトルックを「ネガティブ」に変更している。
報道によると、ムーディーズのシニアバイスプレジデント、トーマス・バーン氏は31日の記者会見で、格付けの見直しは3か月以内に完了するとし、こうした見直しの大半は格下げといった結果につながっていると語り、3か月以内での日本国債の格下げの可能性を示唆した。
ちなみにS&Pにしろムーディーズにしろ、国債の格付は依頼されているものではなく、勝手につけている勝手格付と呼ばれるものである。しかし、ギリシャなど欧州の債務問題ではこの格付会社の動きが大きな影響を与えるなどしており、関係者のみならずマスコミなども注目している。しかし、日本の場合には市場への影響、特に肝心要の日本国債がこの格付に関する動きでは、ビクともしないため、マスコミ以外での注目度は低いように感じる。
今回の日本国債の格付見通し変更の理由としては、日本政府が掲げる成長率目標ではプライマリーバランスの赤字解消に十分でないとし、赤字を解消するためには、新たな財政改革が必要となることは必至と指摘していたが、それは今に始まったことではない。むしろ、震災を受けたにもかかわらず、政府は税と社会保障の一体改革に向けた集中検討会議に、消費税の段階的な引き上げを打ち出した報告書を提出するなど、財政再建に向けた動きを進めようとしているぐらいである。
それにもかかわらず、なぜこのタイミングでムーディーズは見通し変更を発表したのか。穿った見方をすれば、自民党と公明党が菅政権に対する内閣不信任決議案を昨日、提出する方針を固めたことにより、政局が大きなヤマ場を迎えることが予想されるためとも見えなくもない。
マスコミは自らの報道が、結果として社会に対して大きな反響・影響を及ぼすことは大きな目的ともなっていよう。そして格付会社にとり、適切な格付情報を提供することにより、市場に対して注意を喚起するということは重要であろう。しかし、欧州の国債などの格付変更の際には、その発表のタイミングによっては、格下げそのものが材料となり、市場の警戒心を強めさせ、相場変動を加速させることも多い。つまり火のついている相場に油をかける状態に陥りさせることがある。
格付会社に向けた批判のようになってしまったが、格付そのものは債券市場にとり大変重要な役割を果たしていることは確かである。それはソブリン格付に関しても言えよう。これまでの日本国債の格下げに関しても、日本の財政状態を広く意識させる意味でも、それなりの役割を果たしている。ただし、格付会社の行動そのものが市場を動かすことも多いことで(除く日本国債)、発表のタイミングについても慎重に選ぶことも重要ではなかろうか。
2011.6.1「政局の行方と債券相場」
自民党と公明党は菅政権に対する内閣不信任決議案を今日にも提出する方針を固めたことにより、政局は大きなヤマ場を迎えることになる。
民主党内では小沢一郎元代表のグループは対決姿勢をさらに強めており、党分裂の可能性も出てきた。対する自民党内でも中堅・若手には早期の不信任案提出に慎重論も多く、一枚岩ではないという。
不信任案の可決には与党内から、少なくとも81人以上の賛成が必要になる。小沢グループの動向次第では可決される可能性は全くないとは言えない。小沢氏は不信任案に賛成することを示唆するような発言もしている。
見えないところでの駆け引きも行われていると思われ、政治の世界だけに、どのように転ぶかは予想が難しい。ただし、これにより与党民主党の動向に変化が生じる可能性がある。政局の行方そのものが読みづらく、それによる債券相場への影響も予想が難しい面もあるが、注意すべき点だけを上げておきたい。
財務省と内閣府は30日に、税と社会保障の一体改革に向けた集中検討会議に、消費税の段階的な引き上げを打ち出した報告書を提出した。政府はこれを参考に税率や増税時期など具体策の検討を進めるとしているが、現時点でも民主党内には増税への反対派も多い。政局が混乱すれば今回もまた消費税増税は絵に描いた餅になってしまう可能性も高い。これはすぐに影響するものではないが、今後の日本の債務持続性に影響を与える可能性がある。
そして、これは先行きというよりも目下の問題となるが、いまだ成立していない特例公債法案の行方にも影響が出る可能性がある。完全に政争の具とされた感もあり、政局が混迷すればさらに成立が遅れる懸念もある。解散総選挙となればなおさらである。いまのところなんとか8、9月、場合によれば11月あたりまではやり繰り可能とみられているが、早期に成立させないと、いずれ政府の資金繰りに支障も出る。それをきっかけに日本国債への信認が低下するようなことになれば、大きな問題が発生する。
東電の処理に関しても先行き不透明となっていることで、東電債などに影響を与える可能性がある。格付け会社スタンダード・アンド・プアーズは30日に東電の長期会社格付けを「B+(シングルBプラス)」に5段階引き下げ、長期優先債券格付けは2段階引き下げ「BB+(ダブルBプラス)」とした。いずれも従来は「BBB(トリプルB)」であった。この格下げの理由として、政府による損害賠償支援の内容や正式決定の時期などが依然として不透明である点も指摘された。
内閣不信任案の行方、さらに税と社会保障の一体改革に向けた動きなどによっては、日本国債に関する格付に影響が出る可能性もある。実際に昨日、格付会社ムーディーズは日本政府の自国通貨建てと外貨建ての債務格付「Aa2」を引き下げ方向で見直しの対象にしたと発表した。もちろん日本国債が格下げされても、今回も相場そのものへの影響は限定的とみている。
債券相場は5月6日あたりから債券先物の中心限月で140円50銭から141円のレンジ内での動きが続いている。昨日、発表された鉱工業生産指数は、足元4月の数字は前月比プラス1%となり予想を下回ったが、製造工業生産予測指数は5月が前月比プラス8.0%、6月が同プラス7.7%となっていた。まさにV字型回復となることが予想され、これを受けて昨日の債券先物は直近レンジの上限近辺をいったんつけてから、売りに押され下限を試す展開となっている。
このレンジ相場はあらたな材料が出ない限りはなかなか抜けだしそうにない。ただし、米債の動向などに加えて、日本の政局の動向がその材料になる可能性もあるだけに、今後の政局の行方にも、注意が必要となりそうである。
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