2011.7.31「日本ではティー・パーティーは開かれないのか」
米連邦債務の法定上限引き上げをめぐる協議が難航している要因として、ティー・パーティーの存在があげられている。
ベイナー下院議長が出した案に対して、下院共和党保守派のリーダーのジム・ジョーダン議員が、党内の十分な支持が集まらず成立は困難との見方を明らかにした。このジョーダン議員は下院共和党議員240名のうち178人が所属するというグループのリーダーであり、このグループには昨年秋の中間選挙に旋風を巻き起こしたティー・パーティ(茶会)の支援で当選した90人近い新人の多くが参加している。つまり、このティー・パーティの圧力が、共和党での不協和音を作り出しているといえる。
この茶会運動は政治とは関係ないところが発端となった。昨年2月に米CNBCのリポーター、リック・サンテリ氏が、シカゴ・マーカンタイル取引所のフロアからの実況中継中に、「オバマ政権が住宅ローンの救済までするのは間違っている。政府に反対する現代版ティー・パーティを開こうじゃないか」と発言したことに共感が集まり、それがひとつの政治運動化していったのである。
ティー・パーティは茶会党とも訳されるが、もちろん党ではない。あくまで小さな政府を志向し、増税に反対を主張する人たちの集まりといえる。しかし、それが昨年秋の中間選挙に大きな影響を与え、ティー・パーティの支援を受けた議員が大量に出現したことで、米国の政治そのものにも影響を与え、今回の債務上限の引き上げ問題に対してもその影響が及んでいる。
もともとのティー・パーティとは、米国の独立戦争につながった「ボストン茶会事件」に由来するものである。ボストン茶会事件とは、米国が植民地だった1773年に、英国による広範囲に及ぶ課税に強く反発していたボストン市民が、港に停泊中のイギリス船に侵入し、イギリス東インド会社の船荷の紅茶箱をボストン湾に投棄した事件であり、アメリカ独立革命の象徴的事件の一つである。
新たなティー・パーティは、サンテリ氏の発言を聞いて、オバマ政権の景気刺激策や医療保険制度改革に不満を持つ保守系市民が茶会党を企画したもので、ウェブサイトやインターネットやソーシャルネットワーキング・ツールを活用し、瞬く間に全米各地に広がった。昨年の中間選挙では、茶会党の支持を受けた共和党候補が次々に当選を決め、米国の共和党内における中心的勢力となりつつある。
インターネットやソーシャルネットワーキング・ツールを活用した市民運動は米国ばかりでなく、チュニジアで起こったジャスミン革命なども同様である。しかし、インターネットが発達している日本では、このような動きは表立っては見えてこない。
しかし、現在の政権に対する不満はかなり高まっていることも確かであり、福島原発事故により市民の不安は増加していよう。また、政府債務は増え続けており、それに対して問題解決の糸口すら見出せていない。
これはきっかけ次第では、日本でも米国のティー・パーティのような動きが出てくる可能性もありうる。いや、むしろそういった動きも必要なのではなかろうか。このままでは日本の将来に対する不安は募るばかりであり、現在の政治のシステムでは問題解決はできないとなれば、あらたなムーブメントが必要なのではなかろうか。
2011.7.29「米債務問題におけるティー・パーティの影響」
米連邦債務の法定上限引き上げをめぐる協議は、いまだに決着をみせず、8月2日の期限が迫りつつある。共和党のベイナー下院議長は財政赤字削減案の改訂版を提示した。
当初のベイナー案は政府歳出を向こう10年間で最低3兆ドル削る一方、債務上限を最大1兆ドルと1.6兆ドルの2段階で引き上げる内容となっていた。今度の改訂版では、当初の債務上限引き上げ幅を9000億ドルと当初案の1兆ドルから縮小し、向こう10年の歳出削減規模は9170億ドルと当初案の1.2兆ドルから縮小させた。改訂版ではその後さらに1.8兆ドルの歳出削減を検討するとしている。
一方、民主党のリード上院院内総務の案は、上限引き上げ額を一気に2.7兆ドル引き上げ2012年末までそれ以上の引き上げの必要をなくす代わりに、ほぼ同額の歳出削減を断行するというものであるが、この案についても修正が加えられているようである。
ベイナー下院議長の当初案に対しては、下院共和党保守派のリーダーのジム・ジョーダン議員が、党内の十分な支持が集まらず成立は困難との見方を明らかにしている。ベイナー下院議長の提案は27日に採決の予定だったが、民主党の反対に加え、ティー・パーティなど身内の抵抗も強いことで28日に延期され、その28日の採決も当初予定していた時間から延期されたようである。
ジョーダン議員は下院共和党議員240名のうち178人が所属するというグループのリーダーであり、このグループには昨年秋の中間選挙に旋風を巻き起こしたティー・パーティ(茶会)の支援で当選した90人近い新人の多くが参加している。つまり、このティー・パーティの圧力が、党内での不協和音を作り出しているといえる。
この茶会運動は政治とは関係ないところが発端となった。昨年2月に米CNBCのリポーター、リック・サンテリ氏が、シカゴ・マーカンタイル取引所のフロアからの実況中継中に、「オバマ政権が住宅ローンの救済までするのは間違っている。政府に反対する現代版ティー・パーティを開こうじゃないか」と発言したことに共感が集まり、それがひとつの政治運動化していった。
ティー・パーティは茶会党とも訳されるが、もちろん党ではない。あくまで小さな政府を志向し、増税に反対を主張する人たちの集まりといえる。しかし、それが昨年秋の中間選挙に大きな影響を与え、ティー・パーティの支援を受けた議員が大量に出現したことで、米国の政治そのものにも影響を与え、今回の債務上限の引き上げ問題に対してもその影響が及んでいる。
米財務省は8月2日までに債務上限を引き上げなければ以降の借り入れは不可能とし、すべての支払いを履行できるか保証できないと主張している。そうなれば米国債のデフォルト、格下げ、さらに政府の窓口封鎖といった可能性が出てくる。残された時間は少ないが、ティー・パーティの強硬姿勢も影響し、2日までにはなんとかなるとの楽観的な見通しそのものが後退してくる可能性もありうる。
2011.7.28「震災復興に関わる増税の必要性」
26日の閣議後の記者会見で、玄葉光一郎国家戦略担当相は、今後3年間の国の歳出・歳入の大枠を示す「中期財政フレーム」について、東日本大震災の復興対策に必要な歳出・歳入を「別枠化」した上で、数値目標を維持する考えを示した。
昨年6月にまとめた2011〜2013年度の中期財政フレームでは、「歳出の大枠71兆円以下、新規国債発行額44兆円以下」との枠組みを打ち出しており、2011年度の当初予算はこの枠内で編成された。震災復興に必要な歳出・歳入を別枠化することにより、来年度についてもこの数値目標を維持するようである。
玄葉担当相は、復興経費については別途財源を確保し、多年度で収入と支出を完結させる仕組みを作り上げると説明した。
歳出の大枠71兆円以下、新規国債発行額44兆円以下という数字そのものもかなり大きなものであるが、歳出や国債発行額を拡大させない姿勢がまず重要であろう。
政府は東日本大震災からの復興に向け、今後5年間で総額19兆円の規模で復興対策を行うようである。政府はすでに財源が決まっている補正予算分を除いた13兆円のうち、3兆円程度を歳出削減などによって確保し、残りの10兆円余りについては復興債と呼ばれる赤字国債で調達するとしている。
復興債の発行額は10.5兆円程度となるようで、このための償還財源として、臨時増税が10.3兆円程度、税外収入が0.2兆円程度としている。さらに今年度の基礎年金の国庫負担分(約2.5兆円)を臨時増税で補てんする場合は復興債・臨時増税の規模に2.5兆円が加算されることになる。また、これとは別にB型肝炎訴訟の和解金1.1兆円に充てる資金も必要となる。
この臨時増税については、所得税、法人税を念頭に現行税額に一定割合を上乗せするという定率増税を実施するとしている。消費税については社会保障費の充当のための引き上げも予想されており、今後は基幹3税すべて増税される可能性が出てきた。
ただし、法人税が引き上げられると、それでなくても電力不足や電力料金の引き上げにより産業の空洞化が懸念されている中、その動きを加速しかねない。
景気に対してマイナス要因ともなりうる増税については民主党内でも反対の声が強い。ただし、それで復興債を日銀に引受けさせろとの議論はあまりにリスクが高い上に、日銀に引受けさせようが市中消化させようが、その償還財源は必要になるはずである。
震災復興に関わる経費は当然ながら必要となり、その借金をどのように返済していくのか筋道を立てることは重要である。ある程度の増税については避けられないものの、それとともに産業の空洞化などにも配慮する必要もあろう。
今後の政府債務全体のことを考えれば、先送りし続けた消費税増税も早期に実施する必要があろう。もちろん歳出削減努力も必要となる。
欧米で財政問題が深刻化しているが、日本はそれ以上に債務悪化を深刻に受け止める必要がある。国債が安定消化されているために危機感は薄いようにも感じるが、いったん危機が認識されて国債価格に影響が及ぶと取り返しがつかなくなる。そのあたりのリスクを考えれば、国債の信用を今後も維持させるためにも、この増税については受け入れざるを得ないと思われる。
2011.7.27「震災復興の財源問題と日銀による国債引き受け」
政府は東日本大震災からの復興に向け、今後5年間で総額19兆円の規模で復興対策を行うようである。政府はすでに財源が決まっている補正予算分を除いた13兆円のうち、3兆円程度を歳出削減などによって確保し、残りの10兆円余りについては復興債と呼ばれる赤字国債で調達するとしている。
この復興債の償還期限がひとつの焦点となり、25日に野田財務大臣や片山総務大臣、与謝野経済財政担当大臣ら関係閣僚が協議した結果、復興債の償還期限は「5年間を基本に、最長10年」とする方針を固めた。
その後の報道によると、復興債の発行額は10.5兆円規模となり、償還財源は臨時増税が10.3兆円程度、税外収入が0.2兆円程度となる。また、今年度の基礎年金の国庫負担分(約2.5兆円)を臨時増税で補てんする場合は復興債・臨時増税の規模に2.5兆円が加算されることになる。
民主党内では増税が伴う財源の議論は景気に悪影響を及ぼすとして、否定的な意見も強く調整が難航することも予想されている。
7月5日に民主党の馬淵澄夫前首相補佐官は通信社とのインタビューで、復興財源として発行する国債を日銀が引き受け、量的緩和策を導入すべきとの考えを示している。6月には、民主党の前原誠司前外相からもどういう形であれ国債の引き受けを行うようなことをもう少しやってもいいのではないかと、インタビューで語っていた。
国債を市中消化しようが、日銀引受にしようが、それはいずれ償還されるものであり、そのための財源が必要になるはずである。日銀が引き受ければ、増税などによる国民負担は避けられる、というものではない。馬淵発言も前原発言も日銀によって引き受けられた国債はそのままロールオーバーし続けさせるという前提で話をしているのであろうか。
日銀による国債引き受けについては、馬淵氏や前原氏のようにいまだにそれを主張する声も少なくない。このためか、日銀の白川総裁もあらためて7月26日の講演で、そのリスクについて解説しており、その部分を確認したい。
「欧州でも、ソブリン・リスク問題が顕在化している諸国に限らず、多くの国で財政バランスが悪化しています。米国でも、政府債務の上限到達時期をギリギリに控え、緊迫した状況が続いています。こうした状況の下、今後、何らかのきっかけで世界的に国債金利が上昇し始め、とくに財政運営が脆弱な国に、大きな影響が及ぶ可能性があることは意識しておく必要があります。財政に関連しては、震災後、国債の日銀引き受けや、復興財源捻出のための日銀による国債の買いオペといった提案が聞かれることがありますが、中央銀行が財政ファイナンスを目的として金融政策を運営していると見なされると、長期金利は上昇し、日本経済に悪影響を与えます。」
「震災後、様々なリスクが「想定外」であったのかどうかを巡って活発な議論が行われていますが、中央銀行による国債の引き受けや実質的な引き受けによって起こる問題は、「想定外」の話ではなく、今の時点で十分認識できるリスクです。」
7月26日の日本時間で10時から、オバマ米大統領がテレビで米国の債務上限の引き上げ問題について演説したが、8月2日の期限を控えて緊迫した状況は続いている。米国の債務問題はギリシャの債務問題などとは異なることで、これをきっかけにたとえば米国国債が急落するといったことは考えづらい。
しかし、ギリシャのように何かをきっかけに信用不安が生じる可能性はある。「とくに財政運営が脆弱な国」、これは当然、日本も含まれるが、そういった国にとり、その可能性は高いはずである。
中央銀行による国債の引き受けや実質的な引き受けによって何か起きるかは、かなり予想がつく。だからこそ市場ではそこまで踏み込むようなことはしないであろうとの安心感もあるが、その期待がもし裏切られるようなことになれば、大きなリスクを抱え込むことになりかねない。
2011.7.26「米国債のデフォルトの影響を考える」
オバマ米大統領と議会指導部は、8月2日が期限となる債務上限引き上げと財政赤字削減に関する協議で合意に至らず、米国債のデフォルトのリスクが高まってきた。まだ数日残されているため、ぎりぎりのところでデフォルトが回避される可能性はあるものの予断を許さない状況にある。
仮に米国債がデフォルトしてしまうと、短期的ながらも世界の金融市場を揺るがす懸念はある。ただし、過去の相場の経験則からみると、事前に予測しうる事態が生じた際には、市場はある程度、心の準備も進んでおり、現実のショックはそれほど大きくはないことが多い。市場を大きく揺るがすようなショックが起きるのは、予想できなかった事態が発生した時である。
しかも、今回もし米国債のデフォルトが発生したとしても、それはギリシャなどで懸念されているデフォルトとはまったく性質が異なるものである。米国の債務問題は、あくまで技術的なものであり、政治的な駆け引きに使われていることが明白で、米国債の信用力が低下し需給そのものへの懸念が出ているわけでも、米国債の利回りが急騰しているわけでもない。
格付会社による格下げが、もし仮にあったとしてもこれも市場への影響は限定的なものとなると予想する。格下げ理由が明白であるだけに、米国債の格下げをもって米国債の信用が失われることは想像しづらい。確かに安全資産として世界各国が保有し、担保として活用されている米国債だけに、格下げによる技術的な影響は一部に出るかもしれない。しかし、デフォルトは起こったとしてもあくまで短期的なものと考えられることもあり、仮に格下げがあったとしても米国債ほど規模も大きな安全資産は他に見当たらないことも確かであり、たとえばドイツ連邦債で肩代わりできるものではないであろう。
規模という面では米国債に引けを取らない日本国債があるが、それでなくても低利回りでもあり、海外投資家から敬遠されている(正確には国内投資家だけで間に合ってしまっている)日本国債を米国債の肩代わりに海外投資家が購入することは考えづらい。ただし、これをきっかけにわずか5%しかない日本国債の海外保有比率が少しでも高まれば良いことではあるが。
このように、米国債のデフォルトが仮に発生してしまったとしても、それによる影響は限定的であると予想する。しかし、そうは言っても市場に余計な不安を与えるようなことは、やはりすべきではないであろう。国債を人質にとり、政争の具にすべきではない。これは何も米国に限ったことではない。いまだに赤字国債発行法案成立の兆しのみえない日本も同様であろう。
2011.7.23「債券と国債のしくみがわかる本」
今回は新刊の紹介をさせていただきます。7月21日に私の13冊目の本となる「債券と国債のしくみがわかる本」が技術評論社より発売されました。
そういえば、昔、「日本国債は危なくない」という本を文春新書で出させていただいた際には、その発売日に初めて10年国債の未達というか札割れが発生しました。なんというタイミングとかなり驚いた記憶もあります。参考までに今回、7月21日に20年国債入札がありましたが、無難な結果となっております。
この本の執筆のお話をいただいた際に、あくまで対象は債券のことをほとんど知らない方で、わかりやすさを重視してほしいと言うことでした。これまで債券や国債に関する本を何冊か書かせていただきましたが、それとは差別化するためにも、とにかくわかりやすさを重視し、わかりにくいことは何回も繰り返してもかまわないとの指摘を編集者の方からいただきました。
書き上げた原稿に対して編集者から、分かりにくい点を指摘され、そこをさらに噛み砕くという作業も行いました。そうして出来上がったのが本書です。まず入り口から難いものとなっては、初心者は読みづらいということで、証券会社の債券部に勤務する熊課長、牛主任、そして新人の猫さんという人物を登場させ、この登場人物たちによる会話を通じて、債券に関するいろいろな疑問点を明らかにするという形式を取りました。牛さんと熊さんの会話でしたら、ある意味得意分野です。そこに新人の猫さんを絡ませることで、親しみやすさも意識しました。イラストの猫さん、なかなかチャーミングです。
この本を読んでいただきたい方としては、投資や金融商品への知識を深めるために債券のことを知りたいと思っている方、そして金融関係で働きたいと考えている学生の方、また、債券に関わる業務に携わることになった方などを想定しています。もちろんまったく知識はないが、少し関心があるという方にも、ぜひ読んでいただきたいと思います。
私のメルマガをご購読いただいている方の多くは、債券に直接・間接に関わっていらっしゃる方が多いと思います(実際にどなたにご購入いただいているかはまぐまぐさんでしか把握されていません)。このため、メルマガをとっていただいている方には、この本はあまり参考にはならないかもしれません。しかし、あらたに債券関連部署に来られた方などに、債券とはいかなるものなのかを知るには、この本がお役にたつのではないかと思います。
ご存知のように債券には債券特有の考え方があり、専門用語も多いのが特徴です。そのあたりにも配慮し専門用語をなるべく控えるか、用語の解説を加えています。わかりにくいと言われる債券と金利との関係についてもやさしく解説しました。さらに世界有数となっている日本の債券市場のこと、その市場では誰が債券を売買しているのか、そして何故、債券の価格は動くのかといったことに関しても解説しています。
このためこれを読むだけで基本的な債券の知識はある程度、身につくと思います。ただし、債券は奥が深いことも確かです。この本で解説しきれない部分も多く、それについては他の専門書に譲り、あくまでこの本で債券に多くの方に関心を持っていただくための入門書になってくれればと思って書きました。
もしよろしければ、お近くの書店にて、「債券と国債のしくみがわかる本」を手にとっていただき、内容を確認して面白そうと思われましたら、ぜひお知り合いの方にもお勧めいただけるとうれしいです。
2011.7.22「ソブリン問題の難しいところ」
7月20日の長野県の講演で、日銀の山口副総裁はソブリン問題について以下のように述べていた。
「ソブリン問題の難しいところは、一度問題が深刻化した国は、そこからなかなか抜け出せない、という点にあります。」
「財政緊縮は景気を落ち込ませ、税収がますます減少します。また、国債価格の下落などにより金融機関に多額の損失が発生すれば、実体経済にも悪影響が及びますし、金融機関の資本を財政資金で補強する必要が出てきます。」
「このように、財政の悪化、景気の落ち込み、金融システムの弱体化、という3つの要素の間には、相互に負の影響を及ぼし合う悪循環が働きやすく、そのことが問題の解決を遅らせます。」
「こうした問題の性格を踏まえますと、欧州のソブリン問題は、長期間にわたって、世界経済の波乱要因であり続ける可能性が高いと考えられます。 」
20日にギリシャの2年国債の利回りが40%を越えた。ソブリン危機は山口副総裁の指摘するように、いったん始まってしまうと負の連鎖が生じ、底なし沼のような状態になり、問題解決を難しくさせる。特に今回のギリシャ・ショックはまだ進行中ではあるが、良い事例とも言えよう。
政府の債務問題は慢性的な病気にも例えられるように、その危険性は感じながらも日常生活、政府で言えばその資金調達に支障がなければ、多少の節制など、生活改善は心がけるが、本格治療まで施すことはない。しかし、何がしかのきっかけにより、いきなり債務問題が深刻化することがある。
政府に対する信用に懸念が生じることで、それは国債利回りの上昇を招くことになるが、その利回り上昇は格付会社の格下げなどにより加速しかねず、国債利回りの上昇が政府の資金調達をさらに困難にさせる。
金利の上昇そのものが経済を悪化させるとともに、政府の資金調達に支障が出ることでデフォルトのリスクが高まれば緊縮財政とせざるを得なくなり、それも経済に悪影響を与える。
また、国債を大量に保有する金融機関にも大きな影響を与える。急激な国債の利回り上昇は、裏をかえせば国債価格の急落を意味することで、保有する国債により巨額の損失を被りかねない。金融システムの弱体化がさらに経済に悪影響を与え兼ねない。
このような負の連鎖が始まってしまうと、止めることは容易でないのは現在の欧州の状況を見れば明白である。米国でも債務問題が浮上しているが、いまのところそれはあくまで政治上の駆け引きに使われているもので技術的な問題にすぎない。しかし、それがデフォルトを引き起こし、米国債が格下げされ、あらためて米国の巨額債務に対しての懸念が生じれば、それをきっかけに負の連鎖が始まらないとも限らない。
巨額債務を抱え、その債務が増え続けている日本でもいずれ何かしらのきっかけで、政府債務への懸念が表面化する恐れがある。これまでは政府債務が年々増加しようが、格付会社による格下げがあろうが、公債特例法案が成立しまいが、首相が毎年のように変わろうが、それはきっかけにはならなかった。それにより、日本はギリシャなどとは違う。いくら巨額債務を抱えようが、未来永劫、日本の債務問題により国債利回りが急騰することはない、と結論づけることができるであろうか。
このようなきっかけは事前に予想されないかたちでやってくることが多い。ギリシャの債務問題もしかり。つまり、何がきっかけになるかを事前に予想することはできない。このため、そのきっかけを完全に摘むことは困難である。さらに、いったん負の連鎖が始まってしまうと、それを止めることは非常に難しくなる。このため、それを想定して事前に策を考えていても、現実には一時的な対処療法でしかなくなる。
もし日本で債務問題が浮上しないようにするためには、健全な財政を目指すしかない。それができないのならば、いずれ深刻な状況に陥る危険性を秘めていると言えよう。
「お知らせ」
私の新著「債券と国債のしくみがわかる本」(技術評論社)が発売されました。熊課長、牛主任、そして債券部に配属されたばかりの猫さんの会話を元に、すんなりと債券の基礎知識が得られる本です。債券や国債に関心ある方、債券部に配属されたばかりの方、金融関係に就職希望の学生さん等々にぜひ読んでいただければと思います。
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2011.7.21「お知らせ」
本日21日に、私の新著「債券と国債のしくみがわかる本」(技術評論社)が全国書店にて発売されます。熊課長、牛主任、そして債券部に配属されたばかりの猫さんの会話を元に、すんなりと債券の基礎知識が得られる本です。債券や国債に関心ある方、債券部に配属されたばかりの方、金融関係に就職希望の学生さん等々にぜひ読んでいただければと思います。
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2011.7.21「債務問題は欧米で過敏な反応、それに対して鈍感な日本」
8月2日が期限となっている米国の債務上限引き上げ問題は、下院共和党が19日に歳出抑制に関する新たな法案を提出し、それがかなり強硬案であったことで、オバマ大統領は拒否権を発動すると発表するなど、与野党の妥協に向けて不透明感が強まった。
その一方で、デフォルト回避の動きも本格化し、超党派議員6人が出した10年間で債務を約3.7兆ドル削減する計画に対し、オバマ大統領が「政権が取り組んでいるアプローチにおおむね一致している」と支持を表明し、警戒心が和らぐ面もあった。また、両党の議会首脳との協議がホワイトハウスで今週再開される可能性があるなどデフォルトが回避される可能性も出てきている。
そして、欧州の債務危機問題はすでにギリシャだけでなく、ポルトガルからスペイン、そしてイタリアまで飛び火しており、金融市場に大きな影響を与えている。
21日に欧州の首脳会談が予定されており、ギリシャに対する第2次支援策について話し合われる。民間投資家が負担をする包括的な解決策が検討されているが、これに対してはECBなどが強硬な反対姿勢を示すなどしており、その支援策の内容も玉虫色のものとなるのではないかとみられている。
これに対して米国と同様に、今年度予算のための赤字国債が発行できないような状況となっており、さらに債務そのものがイタリアなどに比べ悪化している日本では、国内の債務問題は市場にほとんど影響を与えていない。
これは日本経済そのものが安定し、さらに政治も非常に安定しており、日本の債務問題を不安視するような環境にはないため、ということでは全くない。むしろ震災や原発問題などもあり今後の経済については不透明感も強く、さらに政治は不安定極まりないような状況にある。
このような中でも、日本の債務問題が不安材料とならないことがむしろ不思議である。赤字国債発行法案についても、いまだに通過する見通しは立っていない。野田財務相は「早ければ10月中、遅くとも11月中には建設公債を財源とする事業を除く累積の支出額が48.4兆円に到達する見込みだ」との見通しを示し、今国会の会期末(8月31日)までに特例公債法が成立しない事態になれば、9月以降、円滑な予算執行が困難になると訴えた。
確かにまだ8月末にむけて時間的な余裕があるとみて、市場では材料視していないのかもしれない。もしくは、赤字国債発行法案はぎりぎりでも成立させるであろうと思っているから、無視しているのかもしれない。しかし、米国と日本の状況は似通っている面もあり、その危機意識は共通してしかるべきものであるはずである。
日本の債務問題については、こんなに巨額であってもこれまでなんとかやってきたので、今後もなんとかなるであろうとの楽観的な見方が広く占めているのもひとつの要因かもしれない。少なくとも国債発行は円滑に行われており、欧州の債務危機により、むしろ安全資産として日本国債は買われ、長期金利も低位安定している。
日本の債務リスクを意識して、日本国債を売ると今回もオオカミ少年となって損失を被りかねない。日本国債を売るほうが、リスクが高い状況となっていることも確かである。
しかし、このような状況は果たしていつまで続くのか。本当に市場は日本の債務問題を無視し続けて良いのか。ラインハート氏とロゴフ教授は「現在の低い借り入れコストに安心するのは愚かであり、債務をさらに膨らませても全く問題ないとのシグナルだと解釈するのはもっと愚かなことだ」 、「市場金利は天気のように移ろいやすい。それとは対照的に債務水準はすぐに低下しないものだ」 と述べたそうだが、市場心理も移ろいやすいものである。いずれ日本の債務が市場の標的にされる可能性は十分ありうる。
現在は日本の債務問題に対して市場は鈍感ではあるが、このような状況はいつまでも続かないであろうことも意識しておく必要があろう。
2011.7.20「公共政策に関する白川日銀総裁のコメント」
日銀の白川総裁は京都大学で「公共政策を遂行するという仕事」という講演を行い、その内容が日銀のサイトにアップされている。
この中で、白川総裁は過去四半世紀の間に日本の成長率が低下した要因として3つ指摘している。そのひとつが、バブル崩壊による直接的な影響である。
もうひとつが日本の企業の経営の仕方や日本の経済や社会の仕組みが過去四半世紀の間における世界経済の大きな変化に対し迅速に適合することができなかったことである。
その変化のひとつに情報通信革命の進展を指摘し、象徴的な例として、iPhone を取り上げている。1台500ドルのiPhoneの販売価格の中の部品コストは173ドル、組み立てコスト6.5ドルに対し、粗利益は321ドルにも上っているとの調査研究を例に出し、iPhoneという製品のアイデアを考え出し、これを製品化することの付加価値がいかに大きいかということを示した。
これはつまり、技術力だけでは、情報通信革命の波に乗ることはできず、そこに適切な付加価値を乗せることが経済成長を促す要因となると言うことであろうか。
そして、日本の成長率の低下要因としては、急速な高齢化の進行という人口動態の変化もあげている。
これらの要因への対応について総裁は、バブル期に新しい時代の到来を理解しない保守的な議論を日銀がしているとして金融引き締めに遅れたことや、バブル崩壊後しばらくの間、不良債権問題がマクロ経済に与える深刻な影響についての認識が薄く対応が遅れた点などを指摘している。
第2の原因として取り上げた世界経済の変化への不適合については、日本の企業が過去の成功の記憶に囚われ、グローバル経済に生じた大きな変化への対応が遅れた点を指摘した。制度面の対応も遅れ、法律、規制、税制が現実の経済の変化に十分追い付いていない点を指摘している。
この指摘は適切だと思うが、ただしそれでiPhoneのような戦略製品を生み出す環境が整うのかといえば、それだけでは無理なのではないかと個人的には思う。iPhoneには時代の流れを読むスティーブン・ジョブズという天才の存在が大きかったように思うのだが。
そして、第3の原因である急速な高齢化や人口減少の問題については、これまで人口減少が経済に与える影響の深刻さが認識されなかったことや、必要な行動をとることが容易ではない点を指摘している。特に年金や社会保障の改革を進め財政を将来に亘って維持
可能なものにすることが不可欠なのだが、それは容易ではないとしている。
正しい公共政策を適切なタイミングで実行することが難しい理由として、「現状を放置した場合に、将来どのような状態になるかを予測することは決して容易ではないこと」、「望ましい状態を実現するために必要な政策を設計すること自体が容易ではないこと」、「たとえ正しい政策が分かっている場合でも、それを実行することには多くの政治的ないし社会的困難を伴うこと」を指摘している。
これについて白川総裁は具体的な言及は控えたが、これはそのまま財政再建にむけた政策運営にもあてはめられよう。日本の債務残高は増え続けているがこれが続くと将来、何が起きるのか、具体的なものをイメージすることは難しい。財政再建については必要な政策はある程度明らかではあるものの、それを実行するにはかなり政治的・社会的困難を伴うことは、それが一向に進んでいないことからも明白である。
次に総裁は公共政策を適切に運営する上で重要と考えていることを、日本銀行の金融政策に即して説明しているが、ここではマクロとミクロの情報収集の重要性に加え、理論モデルを適切に活用することの重要性、そして歴史的洞察の重要性をあげている。
特に最後の歴史的洞察の重要性について、バブル期には、いつも「今回は違う」(This time is different)という見方が登場し、「バブルの歴史から引き出せる教訓は、人間はバブルの経験からは学ばないものだ」という皮肉な感想があることを指摘している。
それに対して十分ではないが、歴史の教訓から学ぶ賢明さも備えていることを、先進国はもとより新興国でも中央銀行による国債引受けは認められていないことを引き合いに出して指摘している。総裁は「政策の遂行に当たっては、人間の行動の織りなす社会の動きについても認識する必要がありますが、この点で歴史的事例は実に貴重な洞察を提供しています」としている。
このあたり過去の歴史を見れば頷けるものがある。しかし、日銀による国債引受を主張する人たちが、「今のデフレ下にある日本は違う」というのは、過去の経験、歴史の教訓を無視した考え方であると思うのだが。
そして、公共政策を適切に運営する上で重要なものとして実務執行の重要性を取り上げている。そして中央銀行は金融政策だけではなく、銀行業務を行っている組織であるという視点が希薄なことも指摘している。
日銀の組織や人の配置などを確認すると、金融政策に関わっているのは実は一握りであることを実感する。総裁は「実務的な検証を伴わない壮大な政策論は、意味をなしません」としているが、たしかに銀行業務という実務の上でなければ、金融政策は成り立たないであろう。
政策に携わる専門家は、常にこうした実務家の視点を兼ね備えていなければならないとの白川総裁の信念は、まさに的を射たものであろう。これは金融政策のみならずということは言うまでもない。
2011.7.20「ラインハートとロゴフの警告」
「国家は破綻する−金融危機の800年−」(日経BP社)の共同執筆者、カーメン・ラインハート氏とハーバード大学のケネス・ロゴフ教授はブルーム・バーグのコラムにおいて次のようにコメントしたそうである。
「現在の低い借り入れコストに安心するのは愚かであり、債務をさらに膨らませても全く問題ないとのシグナルだと解釈するのはもっと愚かなことだ」
「市場金利は天気のように移ろいやすい。それとは対照的に債務水準はすぐに低下しないものだ」
これは特に日本のことを示しているわけではなく、米国なども念頭においたコメントとみられる。
欧州の債務危機により、安全資産として米国債やドイツ連邦債、さらに日本国債が買われ、その結果、それぞれの国の金利は低下している。金利が低下しているということは、国は低い金利で借入が可能となることになる。
通常ならば借入は低金利の際に行うべきものであるが、だからといって積極的な財政政策に打って出るという主張はリスクを伴う。特に日本のように債務残高が年々膨れ上がっている国にとり、低金利だからこそ利払い費用が抑えられ、その分、財政悪化が抑えられている面がある。むしろ低金利のうちに債務残高を少しでも軽減し、いずれ来るであろう金利上昇に備えておく必要がある。
800年という金融の歴史をあらためてデータで追って、これだけの大著をまとめた2人が、このような警告を発するのは、歴史は繰り返されていることを確認したからであろう。「国家は破綻する−金融危機の800年−」の原題は、「THIS TIME IS DIFFERENT」である。このタイトルは逆説的なものであり、内容は今回は違う、なんていうことはないことをデータを元に示したものである。
今回の東日本大震災についても、過去、同じように大津波が発生し多くの犠牲者が出ていたことは歴史が示していた。「THIS TIME IS DIFFERENT」という災害ではなかったのである。ただし、その過去は検証はされていても、それがこのタイミングが起きることは予想されず、大きな被害をもたらすことになった。
現在の日本はデフレの状態にある。しかも、失われた10年が20年になるなど長期に渡り、その状態が続いた結果、物価が上昇するような事態は想像するのが難しくなる。どうしても現状がまだまだ続くと見てしまいがちであるが、むしろこの状態が未来永劫続くと考えることの方が間違いである。
たとえば1990年以前に、日本がこのようなデフレに陥ると誰が想像したであろう。もしそんな仮説を唱えていれば、物事が良くわかっていない人と捉えられてしまったのではなかろうか。つまり、この先、想像できないような状況、たとえば物価で見ればインフレとなる可能性がないとは言えない。現在は大きなうねりの中で、物価の波が低いところに留まって、いずれ上昇を待っているような状況にあるとも言える。
市場金利は天気のように移ろいやすいことは、ギリシャなどの金利を見れば明らかである。それとは対照的に債務水準はすぐに低下しないため、ギリシャなどはかなり難しい状況に置かれているのである。
日本でも、金利が上昇するようなことになれば、あまりにその債務が大きいために、さらに財政を悪化させ、大変困難な状況に置かれる。しかし、金利は上昇しないことを前提に物事を想定するのはたいへん危険であるため、金利が上昇したときの対応を常に考えておく必要がある。
いずれ日本の金融を揺るがすような金利上昇、つまり国債価格の下落が何かのきっかけで起こる可能性がある。その際に被害を最小に食い止めるにはどうすべきであるのか。国家を揺るがす大きなリスクとして、それに備える準備も進めておく必要がある。
2011.7.15「欧州危機のイタリアへの伝播」
7月11日の欧州市場では、欧州の債務危機がイタリアにも波及するのではとの懸念が強まり、イタリアの10年物国債の利回りは5.7%台、スペインの10年国債利回りも6%台に上昇、イタリアの株式市場も急落した。12日にイタリアの10年国債利回りは一時、6%を上回り1997年以来の水準をつけた。
11日からブリュッセルで欧州首脳の緊急会合が開催されたが、この会合にはトリシェECB総裁や、ユンケル・ユーログループ議長、バローゾ欧州委員長なども出席したが、ギリシャ支援を巡る関係国などとの調整が難航し、債務問題がイタリアなどにも波及するとの思惑も出たようである。12日にイタリアのトレモンティ経済・財務相は、会議を中座して帰国したが、この理由として財政再建計画を仕上げるためと説明した。
11日から12日にかけてのイタリア国債の利回り上昇を受けて、イタリア上院は14日に政府の財政再建計画を賛成多数で承認し、15日には下院で可決された。財政赤字の削減額は当初の470億ユーロの1.5倍の700億ユーロ強に引き上げる。
2011年のイタリアの財政赤字はGDP比で3.9%に達する見通しであるが、財政再建計画実行後は2014年にも黒字化する見込みである。野党は当初、緊縮財政が国民生活を圧迫するとして今回の財政再建計画に反対であったが承認が遅れれば、国債への信用が一段と低下しかねないとして。再建計画に賛成する方向で修正した(7月15日付日経新聞より)。
イタリア国債の利回り上昇により背中を押される格好となり、財政再建計画を推し進めることになったが、それでは何故、急に欧州の債務問題がイタリアにまで波及したのであろうか。
欧州で債務問題を抱える国として、PIIGSという言葉が使われることがある。これは当初PIGSとして、ポルトガル (Portugal)、イタリア (Italy)、ギリシャ (Greece)、およびスペイン (Spain) を指していた。のちに、これにアイルランド(Ireland)を加えてPIIGSと呼ばれるようになった。
しかし、2009年末末からはイタリアを除いたポルトガル、アイルランド、ギリシャ、スペインの組み合わせでPIGSと呼ばれるなど、債務問題を抱える南欧諸国にあっては、イタリアは比較的優等生であったはずである。
ところが、5日に格付会社のムーディーズがポルトガルの格付を投機的等に引き下げたことを受け、ポルトガル国債が急落し、次はスペイン、そしてイタリアかとの連想を招いた。
また、イタリアでは与野党での債務削減を巡る対立に加え、ベルルスコーニ首相のスキャンダルも与野党での争点となり、財政再建の旗振り役でありトレモンティ経済・財政相と首相との対立も問題を複雑化させた。
さらにトレモンティ経済・財政相自身も、収賄に関する疑惑が浮上し、それにより市場からの信頼が厚いトレモンティ氏の更迭の噂も流れ、これもイタリア国債急落のひとつの要因とされている。
市場では11日から12日にかけてのイタリア国債の下落や株の下落は、中国からの売りがあったとの噂もあったようだが、これは確認できていない。ポルトガルの格下げからスペイン、そしてイタリアの債務悪化が意識され、そこにトレモンティ氏の更迭の噂が火をつけた可能性がありそうである。
トレモンティ氏と首相はその後、和解したと伝えられ、また議会による当初の規模を上回る財政再建計画への承認期待から、6%台に乗せたイタリアの10年債の金利は5%台半ばまでいったん低下した。14日に実施されたイタリアの5年と15年物国債入札は無事消化されたが、まだ不安は燻り続けている。
2011.7.15「欧州の財政状況を受けての日本への教訓」
一般の方に対して債券や国債に対する認知度を少しでも高めてほしいと思い、このたび本を出すことになりました。7月21日に発売される本のタイトルは、「債券と国債のしくみがわかる本」(技術評論社刊)です。
ここでは熊課長、牛主任、そして債券部に配属されたばかりの猫さんが登場します。新人の猫さんに債券や国債のことを知ってもらおうと熊さんや牛さんが一生懸命に解説をしています。
この本のご紹介も兼ねて今回のコラムでは、この3人による会話を聞いてから、解説するというスタイルを取ってみたいと思います。
熊課長「ギリシャからポルトガルと来て、今度はスペイン、イタリアか」
牛主任「それって海外旅行の話ではなくて、欧州の債務問題の再燃の話ですよね」
猫さん「あのう課長、それについてなのですが、欧州の債務が問題にされると何故、日本の国債は買われるのですか」
熊課長「米国やドイツの国債が安全資産として買われるように、日本の国債も安全資産とみなされているからだ」
猫さん「でも、日本の債務残高ってかなり大きいので、心配ではないのですか」
牛主任「日本国債にはしっかり買い手も存在しているし、信認も厚く、いまのところ心配はないが、安心とも言い切れない面もある」
熊課長「これについては、7月12日の日銀の白川総裁が会見で話をしているので、それを見てみるといいぞ」
ということで、7月12日の金融政策決定会合後の白川総裁の会見から、欧州の財政状況を受けての日本にとっての教訓に関してコメントしている部分を確認してみましょう。
白川総裁はギリシャの場合について、2009年秋頃までは国債の金利はそれほど上昇していなかったものの、その後の急激に上昇したことについて、「何らかのきっかけで、突然、市場参加者の信認が非連続的に低下する可能性がある」と指摘しています。
実は日本でも1998年末に同様なことが起きています。これは債券市場関係者以外の人にはあまり知られていませんが、「資金運用部ショック」と呼ばれた急激な長期金利の上昇が発生しました。国債に対する不安が非連続的に増加する可能性は当然ながら日本国債にもありえます。
さらに白川総裁は、「いったん財政の持続可能性に対する信認が低下し、金融市場が動揺すると、実体経済も下押しされ、財政、金融システム、実体経済の間で負の相乗作用が生じ」その結果、「最終的に必要となる財政の緊縮が、急激で厳しいものになってしまう」という可能性を指摘しています。
そして、日本の長期国債金利が低位で安定していることの解釈を2つ挙げており、1つ目として「日本の財政バランスは大変厳しい状況にあるわけですが、いずれ必ず財政バランスの改善に向けた取り組みが進められるはずであると市場で受け止められている」との解釈を取り上げています。
これについては市場関係者が本当にそう思っているのかは疑問です。現在の不安定な政権が財政再建を進められるのか疑問視している参加者も多いはずです。ただし、基本路線としては財政再建は進めざるを得ないというのが共通認識かと思います。
そしてもうひとつの解釈として、「金利はこれまで安定してきたのだから、これからも安定していると市場が漠然と予想している」という解釈を取り上げています。これは漠然とした解釈ではありますが、この解釈はかなり的を射ていると思われます。この2つの解釈を述べた上で、総裁は次のように語っています。
「前者の場合ですと、わが国として、市場からの信認を裏切らないことが大切ですし、また、後者であれば、そうした漠然とした予想がいつまでも続く保証はありません。いずれにせよ、できるだけ早期に財政健全化への取り組みを実際に開始する、あるいはその道筋を明確に示していく必要があることを示していると思っています。」
猫さん「なるほど、市場参加者は漠然としながらも、財政健全化はいずれ行われると期待し、現在の低金利は続くと考えているのですね」
牛主任「国債価格の急落は避けたいので、そうなっていてほしいという期待感から信認が継続している面もあるのかもしれないが」
熊課長「その期待が何かのきっかけで裏切られるようなことがあれば、ギリシャのような事態は十分に起こりうるということでもある」
2011.7.14「ハイパーインフレの恐さ」
「買おうと思っていた商品を、買おうと思っていた値段で、財布のなかにある紙幣で買えることが、どんなに幸せかわからないだろう。」
2011年3月11日の日本を襲った大震災により、いろいろな物の見方が変わってきたと思う。それは「ありえない」と思っていたことが現実にはありうることを再認識させた。それは自然災害であり、原発による被害でもあった。
それだけではない。人との結びつきが強く意識されたり、それを見直したりと人生観まで変わってしまった人も多かったようである。電気、ガス、そして水というインフラのありがたさを再確認した人も多いであろう。
我が家も大きな被害はなかったものの茨城というとりあえず被災地であり、短期間ではあったが電気や水道のない生活を送らざるを得なかった。そのなかで感じたことのひとつが、最初の言葉にあったように、ガソリンや水を「買いたくても買えない」状況であった。これは一時的な物不足に過ぎなかったとは言え、その時に抱いた恐怖心のようなものは忘れられない。
最初の言葉は、文面からもわかるように今回の震災を受けて書かれたものではない。この文章の前に次のような文書がある。
「通貨価値の急落に愕然とした経験のない主婦には、通貨の安定がどんなにありがたいのかは、わからないだろう」
これは第一次世界大戦後のドイツのハイパーインフレについて書かれた「ハイパーインフレの悪夢」(アダム・ファーガソン著)の一節である。
ひとつ問題を出したい。インフレやデフレを人為的に創りだすことは可能であろうか。つまり意図的にインフレにしたり、デフレにしたりすることである。
中央銀行の金融政策はまさにその物価を上げ下げすることが目的ではないかと言われるかもしれない。しかし、日銀の金融政策の目的は「物価の上げ下げ」にあるのではない。「物価の安定」が目的である。
何が違うのか。そもそも中央銀行には物価を上げ下げする手段は持たない。あくまで物価の上昇を金融引き締めによりブレーキを掛けたり、デフレに対しては金融緩和によりその流れを少しでも食い止めようとするものである。中央銀行は直接、物価に働きかける手段は持っていない。
いや、厳密に言えば手段はある。たとえばインフレにするには、日銀券や同様の信用力を持っている国債の信用を低下させれば良い。日銀に国債を引受させることで、日銀が財政をファイナンスする仕組みが出来上がる。とりあえず政治家はそれに限度額を講ずることで歯止めがかかるとするであろうが、目的が財政ファイナンスであれば、それは絵に描いた餅であり、歯止めはかけられず国債の信用力は低下しよう。
発行される国債が日銀引受により安定消化されるようになると、いったん財政への懸念は後退するとともに、積極的な財政政策により景気が上向くことも予想される。物価も上昇し、税収も回復するであろう。そして、ある程度、物価の上昇が意識されたところで、ブレーキは掛けられるであろうか。
景気が良ければ貸し出しも伸びてくることで、銀行が余剰資金を振り向けるようなことをしなくなる。物価上昇とともに長期金利は上昇することで、それにより海外からの日本国債への投資を招くかもしれない。しかし、中央銀行しか買い手がないような国債に手を出すような海外投資家はいないであろう。
長期金利の上昇は国債の利払い負担を増加させ、ある程度税収が回復してもそれを相殺してしまう。さらに物価上昇は金利の急騰を招くことになり、それでなくても信用力を失った国債の利回りは大きく上昇することが予想される。市場金利である国債の利回りを抑えこむことは、現在のギリシャの金利を抑えこむのと同様に困難極まりなくなる。
国債そして円に対しての信用力の低下は、物価の上昇を招くことになり、それがハイパーインフレに繋がる危険性が強まる。その結果生じるのが、第一次世界大戦後のドイツや第二次世界大戦後の日本で見られたハイパーインフレである。これまで日本国債を買い支えていたのが国内資金であるだけに、その価値の実質的な目減りは国民生活を直撃しよう。
通貨価値が安定しないという状況は、今回の震災後にみられた物不足のパニックがまるで些細なことであったように感じさせることになろう。今度は物があってもそれが財布の中の円では買えなくなってしまう。
そんなことが起きるはずがないと言うかもしれない。現在の政府や日銀がそんなことを許すわけがないと言うかもしれない。しかし、デフレを解消しさえすればすべてはうまく行くという主張が、国会議員からも出されているような状況にあることを良く考えてみる必要がある。ハイパーインフレは決して過去の遺物ではない。
2011.7.13「CPI基準年改定による影響は大きなものに」
日銀は本日の金融政策決定会合で、4月に発表した展望レポートの中間評価(中間レビュー)を行うが、その際に東日本大震災の影響により、2011年度の「実質GDP」は4月見通しのプラス0.6%から下方修正されるとみられる。
しかし、消費者物価指数(除く生鮮)の見込みについては、大きな修正はないとみられる。4月時点での消費者物価指数(除く生鮮)は前年比プラス0.7%の見込みである。ただし、これは現行の2005年基準の指数をベースにしている数値である。
来月8月26日に発表される7月の全国消費者物価指数からは、基準年が現行の2005年から2010年に改定される。前回の2000年から2005年の改定の際と同様に0.5%近辺下方修正されるのではないかとみられていたが、その修正幅が大きくなる可能性が出てきた。
先週7月8日に、総務省は「平成22基準 消費者物価指数ウエイト」を発表したが、これによるとエコポイントや地デジ化にともない販売額が伸び、さらに価格低下の大きな液晶テレビの影響が大きくなるため、当初想定されていた0.5%近辺のマイナス修正が、0.8%近辺のマイナス修正となる可能性が強まった。
そうなれば展望レポートのCPI予測が基準年の変更による要因を含まずにプラス0.7%となっているだけに、マイナス0.8%近辺の修正が入れば結局、マイナス圏となる可能性がある。
基準年の変更によるマイナスは、エコポイントなどの特殊要因も絡んだものであり、これを持ってデフレからの脱却が余計困難になると結論づけるわけにはいかないものの、なかなか物価が上昇しにくい環境が続いていることは明らかである。
日銀は4月の展望レポートの際には、「中長期的な物価安定の理解」に基づいて物価の安定が展望できる情勢になったと判断されるにはなお時間を要するとしているが、基準年の変更によりさらに時間が必要となる可能性が高まる。
つまり、それは現在のゼロ金利政策を続ける時間軸をさらに長期化させることとなり、これは長期金利にとり低位安定させるひとつの要因とはなろう。
もちろん、現在の物価を取り巻く環境に大きく変化が生じないとの前提の上での見方であり、今後、資源価格の高騰といった状況などが発生すれば状況が変わる可能性はある。
2011.7.13「債券や国債に対する認知度」
ある程度、専門に特化してしまうとその仲間内では通じることも、外部の人が聞くと何を言っているのかわからないことがある。福島原発の事故による放射性物質の拡散についても、たとえばマイクロシーベルトといった専門用語が何を示しているのかすらさえ当初はわからないような状況にあった。
専門用語は専門家が理解できれば通常は済むものである。専門外の人はよほどの好奇心からか、もしくは何かの必要に迫られでもしなければ、その専門知識は必要にはならない。
それぞれの分野に精通してそれを解説する専門家が存在する。債券関係で言えば、ストラテジスト、アナリスト、エコノミストと言われる人たちであるが、その解説する対象は一般向けというよりも、その専門家向けである。
専門分野を必要に応じて一般向けに解説しているのは、これらの専門家の話を聞いて伝えるマスコミとなるが、よほど世間で騒がれるようなことがない限り、専門的な話をマスコミが取り上げることはない。
つまり、たとえば金融市場にあって、世間一般が注目する株式市場や外為市場の動きは、それなりに解説されることはあっても、債券や国債については原発事故前の原子力関係の知識のように、世間一般からはあまり関心をもたれるものではない。
特に債券に関しては、その市場が存在していることすらあまり認知されていないように思われる。日本国債が暴落するとか、格下げで海外投資家が国債を売ると漠然と考えていても、それがどこでどのように売られるのかを具体的にイメージしているわけではないのではなかろうか。
海外投資家といってもいったい誰なのか。そもそも国債暴落とはどのようなことを指すのか。それ以前に、どのような理由で国債価格が上げ下げしているのか、それすら理解せずに、国債は全く問題がないとか、国債は危険だとかを、あまり市場そのものを知らない人たちが騒ぎ立てていることも多い。
国債のリスクも原発のリスクも、それぞれ極論が先走ってしまっている感もあるが、それを一番良く理解しているのは現場にいる人達のはずである。債券についても市場の動き、またそのリスクを一番理解しているのは、日々その売買に携わっている人たちであろう。
現在は確かに世間一般からの債券や国債に対する認知度は低いと思う。しかし、原発のリスクが福島原発の事故で明らかになり、また国の財政に対するリスクがギリシャ・ショックなどで明らかになるなど、いずれ日本国債のリスクが何かのきっかけで顕在化する可能性がある。
それに備えておくためには、ある程度、基礎的な債券市場そのものの知識も得て置く必要もあるのではなかろうか。デフレ解消のために国債をどんどん発行して日銀に引受させてでも、物価を上昇させれば日本経済は回復すると説く人たちがいる。しかし、その人達には巨額の国債を発行するためにどれだけ神経が使われているのか。何故、それが安定消化されているのか、そういった根本的な理解が欠如していると思う。そのような意見に惑わされず、冷静な見方をするためにも、世間一般における債券や国債に対する認知度を少しでも高められればと思っている。
2011.7.11「日本国債の買い手」
6月17日に発表された資金循環統計(速報)(1〜3月期)のデータから日本国債の保有者の内訳がわかる。
日本国債の最大の保有者は、銀行など民間預金取扱機関である。ここにはゆうちょ銀行も含まれるが、286兆3280億円となり、全体に占めるシェアは39.4%とほぼ4割を占める。
民間の保険・年金にはかんぽ生命も含まれるが、175兆3205億円となり、全体に占めるシェアは24.1%となり、全体の四分の一を占める。
そして、公的年金は73兆8854億円となり、シェアは10.2%である。また、投信など金融仲介機関も35兆9482億円と4.9%のシェアとなっている。
個人向け国債などを購入している個人は、家計として集計されており、31兆1209億円で4.3%のシェアとなっている。
このように銀行・保険・年金、さらに投信等や家計で、日本国債の83.0%と8割近くを占めており、個人の資金が預金や保険料、年金積立、投信などを通じ、さらに個人け国債などを通じて直接に国債投資に向かっており、日本国債を支える構図となっている。
この中でも大きなシェアを占めているのが、銀行と生命保険会社といえる。7月2日付けの日経新聞によると、日銀調べで国内民間銀行の国債保有残高は4月末に前年同月比16%増の約158兆7791億円となった。5年前の約100兆6700億円に比べて58%増、さらに10年前の79兆3740億円に比べて約2倍となっている。
保有額を大きく増加させたのはいわゆるメガバンクであり、この理由としては預金の振り向け先が見当たらないためである。預金がどれだけ貸し出しに回ったのかをみる預貸率は3月末で71%と過去最低となった。さらにバーゼル3など銀行に対する規制強化の動きも影響している。
こういった動きは銀行ばかりでなく、生保も同様であり、7月8日付けの日経新聞では今年3月末の生命保険会社の運用資産に占める国債の比率は41.3%となり、5年連続で過去最高を更新した。これと対照的に1980年代まで5割を超えていた融資比率は13.7%と過去最低水準となっているのである。
生命保険協会によると、国内で営業する生保47社の運用資産は3月末で313兆円で、そのうち国債が132兆円となっている。生保も銀行と同様にその他の資産での運用が難しくなっている上に財務の健全性を示すソルベンシーマージン比率の算定基準が2012年3月期から厳しくなることも影響している。
この動きは当面続くものと予想される。リーマン・ショックなどを受けての金融機関への規制強化や財務の健全性は今後も求められるとみられる上、今後も貸し出しが大きく伸びることは期待しづらい。
今後の国債需給だけを考えれば、これは国債の安定消化につながるものではある。しかし、それは日本全体でみればデフレ圧力の強まりや景気の低迷が背景となるため、決してプラス要因ではない。この状況は何らかのかたちで打破しなければいけないが、その際には国債の新たな買い手を探すことも必要となろう。
2011.7.9「欧州委員会のバローゾ委員長による格付会社批判」
5日に格付会社ムーディーズは、ポルトガル国債の格付けをBaa1から投機的等級のBa2に4段階引き下げたが、欧州委員会のバローゾ委員長は信用不安を煽る恐れもあるとして、格付会社の対応を強く批判した。
バローゾ委員長は「ある格付け会社による決定は、何かをより明確にするものではなく、むしろ現況に新たな投機的な要素を加えるものでしかなかった」とし、ムーディーズによる格下げは金融市場における投機的な動きを助長させているとの見方を示したのである。
バローゾ氏は現在、ヨーロッパ連合の執行機関であるヨーロッパ委員会の委員長であるが、2002年4月6日から2004年6月29日までポルトガル首相を務めていた。ヨーロッパ委員会が個々の格付け会社の対応を批判するのは異例とされるが、自国の格下げに対するものであったこともあり、強い批判につながった可能性もある。
バローゾ委員長はまた、「欧州からの格付け会社が1つもないのは奇妙なことだ。これは、欧州のある特定の問題に対する評価に関して、市場である一定の偏見がある可能性を示している」と述べ、欧州各国が主に米国に本拠を置く格付け会社への依存からの脱却を検討しており欧州の格付け機関設立も示唆している。さらに法的な手段を通した是正の可能性も探っていることを明らかにした。
さらに欧州中央銀行のトリシェ総裁は7日の理事会後の会見において、「国際金融のレベルでの小さなグループ、小さな寡占的体制は恐らく望ましくない」とした、格付会社の機能は最適ではないとも語っている。
日本国債がムーディーズやS&Pの格下げで動揺を示さなかったひとつの要因として、国内では格付投資情報センター(R&I)、日本格付研究所(JCR)など国内の格付会社が日本国債に対して格付を変更してこなかったことも影響している。
このため、一部の格付会社による小さな寡占的体制を打破するため、欧州の格付け機関設立もそのひとつの手段ともなろう。国債に対する格付けそのものは1920年代にはじまったとされ、実は歴史が古いものである。しかし、過去の歴史を見ても国債がデフォルトとなった事例は多くない。しかも1960年代以降、国債のデフォルトはアルゼンチンやロシア等発展途上の国家ばかりあり、先進国での例はない。
今回のギリシャの事例についても過去に例のないものであり、それについて一部の格付け会社だけの見方だけを取り上げてよいものであろうか。日本国債の例を見ても、それが適切であったかどうか疑問も残るところだけに、格付け会社による格付けの取り扱いは慎重にすべきものであろう。
バローゾ委員長は自国の格付けが下げられただけに、余計に格付け会社に対する強い批判となってしまった側面はあろう。しかし、格付けそのものに対する市場の過剰な反応をある程度押さえ込むために、なんらかの手段を講じる必要はあると考える。
2011.7.8「個人向け国債の販売額が大幅に増加した要因とは」
6日に財務省は6月に募集した個人向け国債の応募額を発表した。これによると個人向け利付国庫債券(変動10年:第35回)は2319億円、個人向け利付国庫債券(固定5年:第23回)は1688億円、個人向け利付国庫債券(固定3年:第13回)は501億円となった。
変動10年タイプの応募額は前回の126億円から大幅に増加し、2007年7月の3713億円以来の水準となった。また、全体でも前回の3月募集の2399億円から4508億円に増加した。これは2009年7月の4873億円以来の多さとなる。
今回、なぜこのように急激に10年変動タイプの個人向け国債が売れたのかといえば、今回から10年変動タイプの適用利率の算式が、これまでの「基準金利-0.80%」から、「基準金利×0.66」に変更されたことが最大の要因であろう。
今回の個人向け国債の適用利率は、変動10年第35回債の初回の利子の適用利率が年率0.77%(税引後0.616%)となった。基準金利は6月1日の10年国債の入札結果から算出された金利1.17%であり、これまでの利率の方式ならば0.37%であったので、それに比べてかなり有利となった。
また、固定5年第23回債の利率は年率0.41%(税引後0.328%)、固定3年第13回債年率0.20%(税引後0.160%)であり、10年変動の有利性が目立つ格好となった。
さらに今回から個人向け国債の広告がリニューアルされ、ツイッターでもコクサイ先生のつぶやきが開始されるなどしたことも販売増に影響した可能性がある。ボーナス時期と重なったことも要因であろう。
とは言うものの、今回の個人向け国債の販売額の増加の主因は、10年変動タイプの利率設定の変更によるところが大きいことは間違いない。過去の個人向け国債の売り行き状況を見ても、初期利子や利率が高くなっているときに販売額が増加しており、今回の販売額の増加についても、個人による国債投資は利率がポイントとなっていることを裏付ける格好となった。
個人向け国債は、10年変動タイプが良いのか5年固定タイプが良いのかについて、昔、NHKのテレビ番組で解説させていただいたことがある。その際には利率の設定のわかりやすさなどから5年固定タイプに軍配が上がった。しかし、今回の販売状況を見ると、個人は利率の設定がわかりにくい変動タイプだから敬遠していたとも言えず、やはり利率、初期利子の高さの違いが単純に販売額に結びついていた可能性がある。
ここにきて販売が低迷していた個人向け国債であるが、今回の販売額の回復が今後も継続していくのかも注目したい。2011年は5年固定タイプの償還が始まり、約4兆円規模とみられる資金の行き先が注目されている。個人向け国債を購入する資金は安全性が配慮されるが、利率の低い個人向け国債ではなく、とりあえず預貯金に向かうであろうとみられた。しかし、今回の販売額の回復を見る限り、ある程度、個人向け国債のまま滞留する可能性がある。
今年度の国債発行計画によると、個人向け国債の販売額として2兆円とある。すでに4月から7月にかけての4か月間で個人向け国債は8545億円の販売額となっており、このままのペースで行けば予定販売額を上回る可能性がある。そうなると第3次補正予算による国債増発による市中消化額を多少なり緩和させる可能性もある。今後の個人向け国債の販売状況についても注意して見ておく必要がありそうである。
2011.7.7「格付会社に振り回される金融市場」
5日に格付会社ムーディーズは、ポルトガル国債の格付けをBaa1から投機的等級のBa2に4段階引き下げた。格付の見通しはネガティブとした。ムーディーズがユーロ圏加盟国に投資不適格級の格付けを付与するのはギリシャに次いでポルトガルで2か国目となる。
ムーディーズは、資本市場から資金を調達できるようになる前に、第2次金融支援が必要になるリスクが高まっているとしている。4日にS&Pがギリシャ国債のロールオーバーは、選択的デフォルトの状態とする可能性があるとの見解を示したが、ポルトガルも同様の状況となる可能性があるということか。
また、ムーディーズは今回の格下げの要因として、ポルトガルが2013年7〜12月とそれ以降に資本市場で借り入れを維持可能なコストで実施できなくなる確率が高まっていることや、同国が財政赤字削減の目標を完全には達成できないリスクも根拠としたようである。
ただし、このような格付会社の格下げにより、格下げされた国債の価格がさらに下落することにより、当事国の資金調達を困難にさせるという悪循環をもたらす懸念も存在する。
もちろん格付会社による国債の勝手格付も、警鐘を鳴らす上では必要なことかもしれないが、市場の不安心理を増幅させることにより、負の連鎖を加速させてしまうと債務問題の解決をさらに困難にさせかねない。
ロイターによると、欧州委員会のバローゾ委員長は「前日のある格付け会社による決定は、何かをより明確にするものではなく、むしろ現況に新たな投機的な要素を加えるものでしかなかった」と述べたそうで、ムーディーズによる格下げは金融市場における投機的な動きを助長させているとの見方を示した。
日本国債については、このような格付会社の格付により市場が動揺するようなことはなく、政府の資金繰りに影響を与えることはこれまでなかった。これは日本国債がその95%を国内資金で賄われていることに加え、日本国債への信任の厚さも影響していると思われる。
さらに国内の格付会社が日本国債に対して格付を変更してこなかったことも影響している可能性がある。日本の格付会社のひとつR&Iは、2月に日本国債格付け(AAA/格付けの方向性はネガティブ)について、引き下げまでの距離が縮まっているとの認識を示してはいたが、その後、東日本大震災が発生し日本の財政状態はさらに悪化する懸念が強まったものの、現在のところ日本国債の格下げには至っていない。
この点についても、欧州委員会のバローゾ委員長は、「欧州からの格付け会社が1つもないのは奇妙なことだ。これは、欧州のある特定の問題に対する評価に関して、市場である一定の偏見がある可能性を示している」と述べ、欧州各国が主に米国に本拠を置く格付け会社への依存からの脱却を検討しており、法的な手段を通した是正の可能性を探っていることを明らかにしたそうである(ロイター)。
日本国債についてはムーディーズやS&Pの認識が正しいのか、それとも国内格付会社の認識が正しいのか。国債価格の推移などを見る限り、格付を変更してこなかった国内格付会社の認識の方が適切であったとと思われるが、日本の債務残高の増加状況をみる限り、海外格付会社の格付がある意味正しかったようにも思える。ただし、債務残高は膨らみ続けていた中で、海外格付会社は途中で格付を引き上げるなど一貫していない面もあった。
いずれにせよ格付会社の見方は絶対的なものではない。しかし、投資家の債券保有には格付の影響は大きいことで、国債の格下げは問題を複雑化させ、さらに市場を混乱させる要因ともなりうる。大手格付会社の格付変更はあくまで警鐘との意味合いにとどめ、市場の混乱を増強させることがないようにさせることはできないものであろうか。
2011.7.6「9月以降、政府機関の一時封鎖の可能性」
報道によると、赤字国債の発行に必要な特例公債法案がこのまま成立しなければ、早ければ10月中に財源の裏付けのある約48兆円分の予算を使い切ってしまうとの見通しを、政府がまとめたそうである。政府の見通しによると、現在のペースでは、執行額が早ければ10月中、遅くとも11月中に税収と税外収入で確保できる48兆4千億円分に達するとしている。
野田財務相によると、第2四半期の支出見込み額を含む9月末の累積支出見込み額は約46.7兆円。このうち、建設公債を財源とする事業の執行分を除くと9月末の支出見込み額は約42.2兆円となる。10月の支出額は例年5兆円〜6兆円とみられ10月末で48兆円程度となることが予想される。
他方、歳入面では、特例公債法が成立しなければ、第一次補正後予算総額から特例公債発行額を除く55.7兆円しか確保できず、建設公債発行額7.3兆円を除く48.4兆円が歳出の許容額となる。
この結果、野田財務相は「早ければ10月中、遅くとも11月中には建設公債を財源とする事業を除く累積の支出額が48.4兆円に到達する見込みだ」との見通しを示し、今会期内に特例公債法が成立しない事態になれば、9月以降、円滑な予算執行が困難になると訴えた(以上、ロイター等)。
ちなみに「平成23年度における財政運営のための公債の発行の特例等に関する法律案」によると特例公債法は特例公債の発行と、特別会計からの繰入れ等のその他特例的な歳入措置の根拠となるものとなり、平成23年度予算では一般会計予算92.4兆円のうち40.7兆円(このうち特例国債は38.2兆円)がカバーされる。
すでに新年度入りして3か月以上が経過しており、いろいろとやり繰りした結果、10月あたりまではなんとかなるものの、その先については見通しが立たない状態にある。このため、それ以降の予算執行が停止するだけでなく、9月以降の執行を抑制せざるを得ない状況となるようである。つまり今国会の会期末(8月31日)までに成立しない場合には、いずれ政府機関の一時封鎖(シャットダウン)の可能性すら出てくる。
民主党の岡田克也幹事長は3日にテレビで、特例公債法案について「できれば11年度第2次補正予算案の審議の前に成立させてほしい」と述べ、野党側に協力を求めたそうである。これに対し、自民党の石原伸晃幹事長は子ども手当に所得制限を設け、民主党のマニフェストはできないと謝るべきだと主張するなど、まだ与野党間の隔たりがある。
米国でも債務上限引き上げを巡り与野党の攻防が続いており、米財務省は債務上限を引き上げなければ8月2日に同国の債務の履行が不可能になるとの見通しを示している。こちらもぎりぎりの攻防が続いているが、現在のところ日米ともに予算執行のための財源確保ができない状態にある。
財源確保ができなくなるという異常事態はなんとしても回避すべきであり、もし政府機関の一時封鎖(シャットダウン)などという事態が起きれば、国民生活にも支障が出るだけでなく日本国債への信用そのものに影響する可能性がある。
日米ともにさすがに最悪の事態は回避させるべく、最終的な落ち着きどころを探る展開が続きそうだが、それぞれタイムリミットも近づいている。日本では震災復興については待ったなしの状況にもある。ねじれ国会により、もし予算執行を妨げるとなれば、与野党ともに責任を負うこととなる。特例公債法案は政争の具にされているが、それが政争の愚とならぬよう、早期に成立をはかるべきである。
2011.7.5「日銀の国債引受に関する石田日銀審議委員の発言」
6月30日に日銀審議委員に就任した石田浩二氏の就任会見の内容が日銀のサイトにアップされているが、今回はその中から気になる点をピックアップしてみたい。
会見要旨を読んでの印象としては、特にタカ派、ハト派的なコメントは見えず、日本経済の現状などはこれまでの日銀のシナリオを世襲している感じである。ただし、日銀の国債引受についての発言に違和感を覚えた。
記者から「復興に絡んだ財源として、増税によらずに、日銀の国債引受けで対応する、あるいは全額の買いオペレーションで対応するように求める声が一部であります。こういった日銀の国債引受け論については、どのようにお考えでしょうか。」との質問に対して、石田審議委員は下記のように答えている。
「両面の議論があろうかと思いますが、私自身は今まで検討する立場になかったので深い考えはありません。ただ、長年に亘り実務の世界にいると、今までやっていなかった日銀引受けをした場合に、どのようにマーケットは捉えるだろうかという事については考えられます。」
まず、両論の議論があろう、との発言であるが、総裁を含め日銀にいる現場の関係者からの発言について、これまで両論、特に反対側にある日銀による国債引受容認論については、私の知る限り聞いたことがない。ある程度、今回の会見については日銀の関係者とともに事前に想定問答を準備していたと思うが、それでも「両論」との言葉を使ったということは、今まで検討する立場になく初めての会見という面はあったにしろ、本人には日銀による国債引受を完全に拒否する意思はなかったのではないかとも思われるのである。
「マーケットには、非常に微妙なところ、保守的なところがあります。諸外国でも日本でも今までやっていなかったことが起こると認識した場合、マーケットはネガティブに反応する可能性が強いと思います。」
日銀引受はこれまでやったことがないからマーケットがそれで反応して困るようなものではない。マーケットは確かに保守的な面があることは認めるが、だから過去やったことがないものをやると過剰反応するから問題とするのには違和感がある。そもそもやってはいけないことをやるかどうかを問題視すべきものであろう。今回のコメントには財政法について触れていないのも気掛かりである。
「また、格付機関等もネガティブな反応をするだろうと思います。そうすると、例えば国債の格付けが下がると、それにつれて日本の主要企業の格付けも下がる可能性が高い。この前そのようなことが起きました。そうすると日本の企業の国際競争力にも問題が生じます。そういう意味では、避けるべきことかなというのが実務的にみた場合の反応です。」
たしかにギリシャの債務問題は格付機関による格下げが問題をさらに深刻化させた面があり、格下げを危惧する気持ちはわからなくはない。しかし、日銀の国債引受の実施に伴って、格下げ、それも日本企業の格下げへの影響を心配すべきものであるのか、これもやや筋違いのように感じる。
私自身、財政法で禁じられている日本国債の日銀引受については絶対にするべきではないと認識しているため、日銀の新審議委員がこのように国債引受を完全に拒否しなかったことに警戒しすぎている面もあるかもしれない。
しかし、国債をよく知る人達からも日銀による国債引受容認論が出てきていることも確かであり、個人的にはこのような動きをかなり警戒している。このため実際に国債引受をどのように認識しているのか、今後の石田審議委員の発言内容にも注意していきたいと思う。
2011.7.4「国家は破綻する」
ギリシャの債務問題の深刻化などを受けて、ソブリン・リスクに対する関心は高まっており、それに関する本も何冊も出版されている。もちろん巨額債務を抱えた日本の債務リスクに対する関心もそれなりに高いとみられ、それに関する本も出ている。
その中でも、ソブリン・リスクに少しでも関心がある方にお薦めしたいのが、日経BP社から出ている「国家は破綻する」である。原題は「This Time Is Different」であり、「今回は違う」という言葉は適切ではないことを、過去800年に及ぶ膨大なデータを元に検証したものである。その結論のひとつは、この本の帯にある「債務が膨れ上がった国は、悲劇に向かっている」というものである。
この本の中では、特に公的国内債務に関する研究に注目したい。国内債務そのものの歴史が無視されてきたため、当然ながらその不履行も研究対象とされていなかったとこの本では指摘している。我が国は対外債務は少ないものの国内債務は膨大なものとなっているが、国内債務であるためデフォルトは起きることはないとの主張が決して的確ではないことをこの本は実証している。
また、この本が書かれたのはギリシャ・ショック以前であったが、まさにギリシャ・ショックのようなことが起きるであろうことを予測したものとも言える。いずれ欧州の債務危機もおおきな実証研究として組み入れられることであろう。
さらに国内債務の巨額な国がどのような破綻事例となるのか、日本の情勢についても筆者の一人であるロゴフ教授はその行く末を注意深く見ているのではなかろうか。
現在の日本の債務状態は異常であることは間違いない。しかし、「日本は違う」との認識の元、財政再建に向けての消費税増税の動きについて常にブレーキを踏み続け、その結果、先送りの状況が続いている。今回の社会保障と税の一体改革に向けての動きも同様である。6月30日に決定された社会保障と税の一体改革も消費税の引き上げ時期は明記されず、それよりも閣議決定もできないような状況にあるなど、今後の財政再建に向けた動きは不透明である
日本が財政破綻すると決め付けることはおかしいとの見方もある。現在、日本の国債は問題なく消化されている。過去のデフォルトの事例は現在の日本には当てはまらない。しかし、「今回は違う」との主張に、何らその裏付けとなるものは存在しない。日本もこのまま行けばかならず行き詰まるであろうことは確かである。
「国家は破綻する」は大作である。実際に手にとって持つとずっしり重い。カバンに持ち込んで電車の中で読むのも難しいし、寝転んで読むと手がその重さに耐えられなくなる。これはある意味、日本の債務の大きさそのものを本の重量で表しているかのようである。この本は机の上で読むことをお勧めする。じっくりと過去の金融と国家に関する歴史を机の上で確認していただきたい。
2011.7.2「長期金利低下の流れに変化」
先週末の時点では、ギリシャの債務問題や米国経済に対する減速懸念を背景に、米国やドイツの長期金利の低下に歩調をあわせる格好で日本の長期金利もじりじりと1%に向けて低下するのではないかとみていたが、少し様相が変わりつつある。
先週末には2.8%台にあった米長期金利は1日に3.22%近辺まで上昇しており、ドイツ連邦債利回りも同様に2.8%台から3%台に上昇している。これにより4月上旬から始まった米国やドイツの長期金利の低下トレンドにブレーキが掛かった格好になった。
29日にギリシャ議会は緊縮財政案を可決したのに続き、30日には実施方法を定めた関連法案が可決された。これによりEUとIMFから第5弾の融資として120億ユーロを受け取る条件が満たされたことになり、ギリシャのデフォルトは一旦、回避されることになる。
ギリシャがデフォルトとなった場合の影響を考えれば、質への逃避として米債やドイツ連邦債などに資金が向かわざるを得ない面もあったが、それが回避されるとなればその反動が入ることは避けられない。
また、米国経済に対する減速懸念についても、経済指標によっては、30日に発表された6月のシカゴ地区の製造業景況指数や1日に発表された6月のISM製造業部門景気指数がそれぞれ予想外の上昇となるなど、良い指標も見受けられることで、あまり悲観的に見過ぎることもリスクが伴うことになる。
このように、欧米の長期金利の低下要因が剥落しつつある中、あらためて米国での法定債務上限の引き上げ問題や、QE2の終了による米国債需給への影響がクローズアップされてくる可能性も出てきた。
米国での法定債務上限の引き上げ問題に絡んで、ガイトナー米財務長官が辞任観測が出ている。米債務上限の引き上げを巡っては、オバマ米大統領や上院民主党議員が一時的な引き上げ案を検討との観測もあるが、債務上限引き上げと財政赤字削減で合意した際にガイトナー長官は辞任する可能性があることを関係者が指摘している。法定債務上限の引き上げ問題が解決すれば大きな不透明要因が後退することになるが、それによりガイトナー米財務長官が辞任となればあらたな不透明要因ともなりうる。
さらにQE2後の米国債の需給についても、これまではあまり問題視はされてこなかったが、相場の地合いが悪化すれば意識されることも考えられ、不安要因となる可能性もある。現実に大口の買い手がいなくなる影響は大きいはずである。
以上は特に米国債を中心としての不安要因であるが、国内に目を向けてもいくつか不安要因が存在する。30日に決定された社会保障と税の一体改革も消費税の引き上げ時期は明記されず、それよりも閣議決定もできないような状況にあるなど、今後の財政再建に向けた動きは不透明であることが、日本国債の足枷となる可能性がある。
もちろん首相の居座りにより、第2次補正予算や公債特例法案の行方がまったくわからなくなっている点にも注意すべきである。
米国やドイツ、そして日本の債券市場は一時的な調整局面を迎えただけなのか、それとも大きな流れに変化が生じるのか、それについては今後の動きをもう少し見定める必要がありそうである。
2011.7.1「IMFトップとなるラガルド氏」
IMFは6月28日に次の専務理事にフランスのラガルド経済財政産業相が選出されたと発表した。女性がIMFのトップに就任するのは初めてとなる。
次期専務理事候補としてはラガルド氏のほか、メキシコの中央銀行のカルステンス総裁が立候補していたが、ラガルド氏が欧州や新興国の中国に加え、最大の出資国の米国、それに次ぐ日本の支持を得て選出された。
IMFは現在、ギリシャの債務危機に直面するなどしており、ラガルド氏は就任直後からその手腕が早速問われることになるが、これまでフランスの経済財政産業相としての実績からもその調整能力は高く評価されているようである。
ラガルド氏は弁護士出身で、農業・漁業相などを経て2007年6月に経済財政相(財務相に相当)に就任したが、G8では初めての女性財務相でもある。ちなみに、日本で過去、女性が大蔵大臣もしくは財務相に就任した例はない。
ラガルド氏はアメリカで働いた経験もあるようで、テレビ番組に出演した際にも完璧な英語でのやり取りをしたと伝えられている。また、30日の日経新聞ではその人柄について、女性政治家として成功しながらエリート臭がなく飾らない性格と伝えており、フランス国民に親しまれているそうである。
財務相として2007年から4年間務めていたということはサブプライム・ショック、リーマン・ショック、ギリシャ・ショックなどで混乱した欧州の財政金融問題での舵取りに対して重要な働きをしてきたことになる。これに対し金融市場関係者の間からも、ラガルド氏に対する批判めいたコメントはあまりみられず、調整能力を中心としてのその手腕に対する評価は高いようである。
今後、ラガルド氏はIMFのトップとしてEUやECBと協議を行いながらギリシャなどの債務問題について難しいかじ取りを行わなければならないが、欧州の債務問題を抱えたIMFのトップとしては適任ではないかと思われる。
日本に関しては、この人事による直接的な影響はないように思われる。しかし、いずれIMFが日本の債務問題に関与してくる可能性がないとは言えない。ただし、日本の場合にはその債務残高が大きすぎてIMFでも対処できないとの見方もある。とにかくラガルド氏をトップとするIMFが日本に関与する前に、自らの債務問題を解消すべきであると思うが、どうも流れはその反対方向に向かっているようにも感じるのである。
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