2011.8.31「スペインは財政再建に向け憲法改正へ」
29日の民主党代表選挙では野田氏が決選投票で海江田氏を破り、民主党代表に選出され、昨日の衆参両院本会議で第95代の首相に指名された。
野田財務相は早くから代表選出馬の意向を示し、有力候補とみられていた。しかし、その代表選には野田氏を支援するとみられていた前原氏が出馬を表明し、小沢グループの支持を受けた海江田氏も立候補、さらに鹿野氏、馬渕氏も立候補したことで、むしろ野田氏は不利との見方が強まっていた。
しかし、結果として民主党は野田氏を代表に選出したわけであり、民主党も最終的には財政再建路線を選択せざるを得ないとの認識であったと思われる。もちろん、今回の選挙は小沢派と脱小沢派の駆け引きの場となるなど、政策論争とはまた別な次元での戦いのようではあったが、最初の投票で2位となったことは野田氏への期待がそれだけ強かったともいえようか。
これにより、野田新政権も方向性としては欧米と同様に財政再建を目指すことになろう。これだけの巨額債務を抱えながら日本だけが財政再建から距離を置くことはむしろできないはずであり、賢明な選択ではなかったかと思う。
その欧州における財政再建についても、あらたな動きが出ている。26日にスペインの2大政党は財政規律の原則を憲法で規定することで合意した。来年中に憲法を改正し、2020年以降の財政赤字上限をGDP比0.4%以内に設定する。
2012年に憲法を改正し、2020年以降は中央政府の赤字をGDP比0.26%、地方政府の赤字をGDP比0.14%以内とすることを規定する。これに年金財政の赤字などを加えた公的な赤字全体をGDP比0.4%以内に設定する。
これは与党である社会労働党が提案し、これに野党である国民党が同意したことで、もし仮に11月のスペインの総選挙で政権交代が起きても憲法改正は実現するとみられている(以上、日経新聞ネット版より一部引用)
スペインの財政赤字は2009年でGDP比11.1%、2010年で同9.2%、今年は同6%程度に縮小する見込みではあるが、欧州の信用不安はギリシャ・ポルトガルから、スペイン・イタリアに飛び火し、国債の利回りが上昇している。このため、市場の不安心理を沈めるとともに、ECBによる買い入れなどの支援も出ており、積極的に財政再建に向けた姿勢を示さざるを得なかったものとみられる。
16日のフランスとドイツの首脳会談で、ユーロ圏各国政府に財政赤字の上限を法で規定するよう求めていたが、まずこれにスペインが応えた格好となった。ドイツはすでに上限を憲法で規定しており、フランスでも憲法改正に向けた議論が進んでいるようである。
これに対し、イタリア政府は2013年の財政均衡化を目指す財政改革計画をめぐり、当初案に盛り込まれていた高所得者層に対する増税を撤廃し、地方政府への支出削減幅を縮小すると明らかにしたとのニュースが流れてきた。
どうやらイタリアでは財政改革を巡り、反発の声が強まり、政権内の亀裂も深まるなど、日本での増税論議と同様の事態を招いているようである。このイタリアとスペインの財政再建に向けた取り組みの温度差を市場がどのように反応するのか、注目しておく必要もありそうである。
2011.8.30「バーナンキ議長の講演に見る次の一手」
ワイオミング州ジャクソンホールで開催されたカンザスシティ連銀主催のシンポジウムにおけるバーナンキFRB議長の講演内容が注目された。これは昨年の同シンポジウムの講演で、バーナンキ議長がQE2を示唆したため、今回も何らかの追加緩和を示唆するのではないかとの期待があったためである。
過去の歴史を見ても、ジャクソンホールで開催されるカンザスシティ連銀主催のシンポジウムでは興味深い出来事が多く、そのために注目度が高い面もあった。その理由としてこのシンポジウムはある程度、マスコミ等から遮断されての意見交換の場もあるとみられ、著名学者などとともに、トリシェECB総裁や日銀の白川総裁も出席しており、金融関係者によるダボス会議のようなものになっているためではなかろうか。
たとえば、ロシア危機とヘッジファンド危機に見舞われた1998年に、当時のグリーンスパンFRB議長がこのカンザスシティ連銀主催のシンポジウムの合間に FRB理事や地区連銀総裁とひそかに接触し、その後の利下げの流れをつくったと言われた。
現在、FOMCメンバーでは、議長を含むFRB関係者と投票権を持つ地区連銀総裁との間で、意見の対立がある。前回のFOMCの会合では、いわゆる時間軸の明確化に対して、フィッシャー、コチャラコタ、そしてプロッサーの3人の地区連銀総裁が反対票を投じた。
FOMCのメンバーは、理事会からの7名の理事全員と地区連銀から5名の連銀総裁の12名によって本来は構成されるが、現在の理事会メンバーは、バーナンキFRB議長、イエレンFRB副議長、デュークFRB理事、ラスキンFRB理事、タルーロFRB理事と5名となり2人の理事が欠員状態となっている。そして、地区連銀からはニューヨーク連銀のダドリー総裁とともに、シカゴ連銀のエバンス総裁、フィラデルフィア連銀のプロッサー総裁、ダラス連銀のフィッシャー総裁、ミネアポリス連銀のコチャラコタ総裁が投票権を持つ。
FRB理事会のメンバーについては、最終的にはバーナンキ議長の政策を後押しする立場となっているとみられる。ただし、デュークFRB理事は過去に反対票を投じたことがある。また、ニューヨーク連銀のダドリー総裁やシカゴ連銀のエバンス総裁も議長を支持しているようである。それに対し、3人の地区連銀総裁はやや意見を異にするとみられていたが、現実に8月のFOMCでは反対票となって出てきたことになる。
今回のジャクソンホールでも、この反対派の地区連銀総裁などとバーナンキ議長が接触を持ったのかどうかは憶測の域を出ないものの、その可能性は十分にありうる。たとえば、今回のジャクソンホールで、バーナンキ議長は9月のFOMCの日程を、十分な議論が出来るよう1日ではなく、20日及び21日の2日間のスケジュールとすることを示した。この十分な議論をする相手が、主に反対票を投じた3人の総裁であろうことは容易に想像がつく。そして、追加緩和策についてメンバー全体の意見のすり合わせの時間が必要とされたのではなかろうか。
バーナンキ議長は8月のFOMCで示したものについて、あくまで経済物価情勢が低レベルで推移する限りの予測として示したことをあらためて説明している。2013年の半ばまで実質的なゼロ金利政策を続けるというのは、コミットメントではなく予測である。しかし、市場ではこれを時間軸の明確化や強化と取り、議長もその市場による判断を意識して打ち出したものであろう。今回の時間軸は約束ではなく、経済物価の動向次第ではその予測を取り下げることが容易なものであるが、それでも3人の地区連銀総裁が反対したという事実はかなり重いものである。
8月のFOMCでFRBは量から再び金利に視点を移している。これはQE2の反省に基づいたものであることも想像され、追加の国債購入といったQE3の可能性についてはよほどのことがない限り実現性は薄いのではなかろうか。このため、市場に期待感を残した次の一手も、金利、特に時間軸効果を意識したものになる可能性がある。市場ではFRBが保有する国債の残存年数の長期化なども予想されているが、そのあたりに落ち着くのではなかろうか。ただし、それについても3人の地区連銀総裁は反対票を投じてくる可能性はありうる。2日間に延長した9月のFOMCで、どのような議論が交わされるのか興味深い。
2011.8.29「民主党代表選の結果に見る、財政再建路線を継続せざるを得ない日本」
本日29日に行なわれた民主党の代表選挙は、決選投票の結果、野田財務相が215票、海江田経済産業相が177票となり、野田財務相が民主党代表に選出された。新代表は明日30日に衆院本会議で第95代、62人目の首相に任命される。
野田財務相は早くから代表選出馬の意向を示し、有力候補とみられていた。しかし、その代表選には野田氏を支援するとみられていた前原氏が出馬を表明し、小沢グループの支持を受けた海江田氏も立候補、さらに鹿野氏、馬渕氏も立候補したことで、むしろ野田氏は不利との見方が強まっていた。
5人の候補者の中で野田氏は唯一の財政再建論者であった。債券市場参加者にとり、野田氏以外の候補者がもし代表に選出されると大きなリスク要因になるため、かなり神経質になっていた。前原氏は国債の日銀引き受けを論じるし、海江田氏も無利子国債発行を唱えるとともに日銀法改正などを検討していいのではと指摘していた。民主党内にはデフレ脱却議連なるものも存在するが、党内にいわゆるリフレ派といわれる人達も多い。また、小沢元代表も民主党のマニフェストを重視するなど、財政再建と距離を置いていた。
このような状況下、野田氏までもが復興増税についてその時期を明確にせず、さらに円高とデフレ脱却について言及せざるを得ないような状況にあった。こうなると、むしろ日銀による国債引き受けを主張する人が首相になってもらい、それを実行することで日本国債への信任低下と、国債価格そのものの急落を招くことで、国民も目が覚めるのではないかと危険な発想をせざるを得なかったが、さすがに民主党は最終的には財政再建路線を選択せざるを得ないことを理解していたものと、今回の結果を見てそう受け止めたい。
とにかくも最初の投票で不利とみられた野田氏が100票以上獲得したことで、流れがほぼ決まった。野田陣営だけではとても届かない数であり、グループ以外からの票が数多く入っていたとみられる。小沢氏のグループは最大ではあるものの鳩山氏のグループとあわせても過半数には届かない。この結果、決戦投票が反小沢派と小沢派の対決となれば、反小沢派が数の上でも有利となることが予想されていたためである。
英国もユーロ圏の国々も、さらに米国も財政再建路線を進めているにも関わらず、日本は財政再建の姿勢は示すが増税等はずっと手付かずとなっている。今回はその財政再建路線すら危ぶまれるリスクがあったが、それは回避されることになりそうである。むろん、今度の財務相人事も注目されるが、野田氏がその後任に選ぶのは財政再建派であろうと推測されることで、問題はないと思われる。
何ゆえ日本も財政再建を進めねばならないのか。それはいままでの日本の歩みを見れば明らかである。ずっと付けで物を買っていながら、その付けを払おうとせず、さらに付け、つまり借金を増やして、デフレ脱却を進めるべきと考えている人達がいる。この人達は借金の重さが先行きを不安にしていることに気が付いていないのであろうか。金さえバラ撒けば景気が良くなるというのであるのならならば、政治家はいらない。日銀が国債を引受けたり、インフレターゲットを行なえば景気がよくなるというのも、政治家や学者にとりまったくの責任転嫁でしかない。日銀は決して打ちでの小槌などではない。物事はそんな単純なものでないことは、失われた20年の日本、そしてその日本化に陥りつつある米国などの動向を見ても明らかである。
野田氏以外の候補であれば、そのことを身をもって知ることになったかもしれないが、野田氏の勝利で残念ながらそうはいかずに、日本国債への信任は引き続き維持されよう。ただし、本格的に民主党政権で財政再建を行なえるのかは正直に言えば疑問符である。ここは新首相による強力なリーダーシップを望みたいところでもある。
2011.8.27「身動きの取りづらい日銀とFRB」
8月26日に発表された7月の全国消費者物価指数は、生鮮食料品を除くコア指数で前年同月比プラス0.1%となった。この7月発表分から基準年が2010年に変わったが、すでに6月の指数でコアCPIは、旧基準がプラス0.4%、新基準でマイナス0.2%と発表されていた。新基準の下では、今回2008年12月以来2年7か月ぶりのプラスとなった。
日銀は2010年10月5日に包括的な金融緩和策を実施することを決定したが、その中で「中期的な物価安定の理解」に基づき、物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで、実質ゼロ金利政策を継続していくとし、時間軸を明確化した。中長期的にみて物価が安定していると理解する物価上昇率の中心は1%程度となっているため、ゼロ金利解除のハードルは前回の量的緩和解除の際よりもさらに高く引き上げられている。
今回の基準年の変更による下方修正も加わり、今回はかろうじて前年比プラスとはなったものの、1%に届くにはかなりの長期間も必要になるとみられ、その間、日銀の実質的なゼロ金利政策が続けられる見込みとなっている。
そして米国では、FRBが8月9日のFOMCにおいて、現在の経済情勢が続く限りは少なくとも2013年半ばまで、政策金利であるFF金利を異例な低水準を継続する可能性があることを示した。
これについては、CPIなどの経済指標で金融政策運営の縛りをつけていわけではなく、あくまで経済の予測を示し、異例な低水準が長期間にわたり継続されることをFRBが予測したものであるため、日銀の時間軸政策とは異なるものではある。しかし、結果として市場参加者が長期にわたる超低金利政策の継続の予想を促し、より長い金利の低下に働きかけていることは確かと思われる。
日銀は包括緩和政策を決定したあと、2011年3月に震災の影響を鑑みて追加緩和を決定し、資産買い入れ基金を総額5兆円から10兆円に拡充した。さらに8月には、円高対策の一環として資産の買入れを10兆円から15兆円に、固定金利オペを5兆円から10兆円に拡大した。
すでに実質的なゼロ金利政策を行なっている日銀にとり、追加緩和については基金の拡大などで対処せざるを得ない。現在の金融政策については、アナウンスメント効果が意識されているため、その意味では多少の効果はあるかもしれないが、実質的な効果は限られる。もしも、積極的にデフレ解消を金融政策で行なうとなれば、円や日本国債の信任を毀損するような手段をとらざるを得ないのが現状であろう。
そして、FRBも積極的に動きづらくなっている。FRBのバーナンキ議長は26日、ワイオミング州ジャクソンホールで行われた講演で、追加緩和については9月のFOMCで検討することを明らかにし、日程も当初の1日から2日間に延長することも示唆した。昨年8月のジャクソンホールの講演でバーナンキ議長はQE2実施の意向を明らかにしていたことで、今年の同講演でのQE3への期待感もあったが、米国では物価が上昇するなど一時懸念されていたデフレ懸念は後退しており、FRB内部でもQE2の効果そのものに対し批判的な見方もあるなど、FRBが新たに国債を買い入れるといった政策はかなり困難であるのが実情である。ただし、市場ではFRBによる追加緩和への期待感も強いことも配慮し、バーナンキ議長は追加緩和を検討する可能性を残した。
金融政策は決して特効薬にはならず、あくまで景気や物価に対して過熱感を抑えたり、冷え込みを防止するためのものである。本来ならば景気対策には財政政策が有効となるが、日米共に財政が積極的に動ける状況になく、どうしても金融政策に比重が掛かってしまう。しかし、その金融政策にも手詰まり感が出ている。
それならば、世界的に信用不安が渦巻き、景気への影響が懸念されている中、何を行なうべきなのか。日米の中央銀行にとり、当面は粘り強く現在の超低金利政策を押しすすめることしかないのではなかろうか。さらに政府は民間企業の活力をそがずに後押しするような政策を行い、また国民による漠然とした将来への不安心理を沈めることも重要となろう。そのために特に日本では信用に値する政権作りも求められよう。
2011.8.26「ムーディーズによる日本国債格付けの変遷」
知り合いのクレジットアナリストの方のレポートによると、日本国債に対する海外の格付会社による評価は、古くは1930年代に始まるとされるそうである。第二次世界大戦後においては、日本政府が1959年に発行した米ドル建て国債に、S&PがB1+格(現在とは、格付けのスケール・符号が異なる)及びフィッチがBBB格を付与したものが、確認される最初とされる。
そして、S&Pの格付けがAAA格となったのは1975年2月であり、ムーディーズは1981年に日本政府の格付けをAaa格とした。
その後、長らく日本国債は最上級の格付けいわゆるAaa(トリプルA)を保持してきたわけであるが、1998年11月17日にムーディーズは、日本政府が発行もしくは保証する円建て債券の格付け、及び日本国の外貨建て債務及び預貯金に対するカントリーシーリングを、それぞれAaaからAa1に引き下げた。格付け見通しは引き続きネガティブとした。この格下げの大きな理由が公的部門の債務膨張であった。ちなみに日本の10年債利回りは0.9%近辺にあった。また、参考までに1998年度末の公債残高は295兆円であった。
これ以降、主にムーディーズを中心に日本国債の格付けの変遷について見てゆきたい。まず、2000年9月8日にムーディーズは、円建て国債の格付けをAa1からAa2に引き下げた。GDP比でみた債務残高が高水準であることを背景としている。10年債利回りは1.8%台、2000年度末の公債残高は368兆円であった。
2001年12月4日にムーディーズは、日本政府が発行もしくは保証する国内債券の格付けをAa2からAa3に引き下げた。見通しはネガティブに据え置かれた。このときの10年債利回りは1.4%近辺、2001年度末の公債残高は392兆円であった。
2002年5月31日にムーディーズは日本政府が発行もしくは保証する国内債券の格付けをAa3からA2に2段階引き下げた。見通しは安定的に変更された。これによりイスラエルやボツワナと同じ格付けとなったことが話題となった。このときの10年債利回りは1.4%近辺、2002年度末の公債残高は421兆円であった。ムーディーズの格下げの前に4月にS&Pが日本国債の格付けをAAからAA-に格下げしていたが、財務省は5月に欧米の格付け会社3社に対して、日本国債の格付けに関する意見書を送付している。
2007年の4月にS&Pが日本の長期ソブリン格付けと長期優先債券格付けをAA-からAAへ1ノッチ引き上げたことに続き、10月11日にはムーディーズが、日本政府の円建て国内債券の格付けをA2からA1に引き上げた。この理由としては、福田新政権下で財政方針が継続されるとの期待を反映したものと説明された。このときの10年債利回りは1.7%台、2007年度末の公債残高は541兆円であった。
そして、2008年6月30日にムーディーズは日本政府の円建て国内債券の格付をA1からAa3に引き上げた。格上げの理由としてムーディーズは、継続的な財政引き締めや再建への取り組みへの期待をあげていた。このときの10年債利回りは1.6%近辺、そして2008年度末の公債残高は546兆円であった。
2009年5月18日にムーディーズは日本政府の自国通貨建て債務格付けをAa3から引き上げる一方、外貨建て債務格付けをAaaから引き下げ、両者をAa2に統一すると発表した。政府債務格付けの見通しは安定的とした。この自国通貨建て債務格付けの格上げ理由についてムーディーズは、家計の貯蓄率が高く、国債の買い手が多いこと。金融危機による金融機関の損失が欧米に比べ小さく、財政への影響が限られること。2007年から08年の大量償還を順調に乗り越えるなど、国債管理政策が適正に実行されていることなどを挙げていた。このときの10年債利回りは1.4%近辺、そして2009年度末の公債残高は594兆円であった。
そして、2011年8月24日にムーディーズは、日本政府の自国通貨建て・外貨建て債務格付けをAa2からAa3に一段階引き下げ、見通しは安定的に変更したのである。このときの10年債利回りは1.0%近辺、そして2011年度末の公債残高(見込み)は668兆円である。
2011.8.25「ムーディーズによる格下げによる日本国債格への影響」
8月24日の8時頃に、米国の大手民間格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、日本政府の自国通貨建て・外貨建て債務格付けをAa2からAa3に一段階引き下げたと発表した。見通しは安定的に変更した。
ムーディーズは今年の5月31日に、日本政府の自国通貨建てと外貨建ての債務格付「Aa2」を引き下げ方向で見直しの対象にしており、向こう3か月程度をメドに、格下げするかどうか判断するとしていた。
このときの見直しの背景として、東日本大震災に関連する経済・財政コストが当初の予想をはるかに上回る規模となり、世界的な金融危機が財政と経済に与えたマイナス影響が、より拡大しつつあること。そして、今後も適切な時間軸で財政赤字削減を達成できないのではないかとの懸念。さらに、人口動態上の圧力の高まりや、危機後の不安定かつ不確実なグローバル経済環境において生じ得る新たなショックに対し、長期的財政再建戦略がぜい弱の3点を挙げていた。
見直しの際から格下げの前提となる背景に変化はなかったことで、ムーディーズは3か月という期限ぎりぎりのところで、格下げを発表したことになる。個人的には民主党代表選の結果をある程度確認してから格下げ発表かと考えていたが、それを待たずに格下げ発表に踏み切ったようである。
このムーディーズの日本国債の格下げによる債券市場への影響は、これまで通り、ほとんどなかったといえる。市場でこの格下げはかなり事前に予想されていたことに加え、二段階の格下げも警戒する声があったものの、それが一段階に止まった上に、見通しが安定的に変更されたことをむしろ好感する声も上がっていた。
今回の日本国債の格下げについてムーディーズは、過去5年にわたり首相が頻繁に交代したことが、長期的経済・財政戦略を効果的で一貫した政策として実行に移すうえでの妨げとなってきたこと、地震と津波、その後の福島原発の事故が2009年の世界的景気後退からの回復を遅らせ、デフレを悪化させ、経済成長見通しの弱さが、赤字削減目標の達成と「社会保障と税の一体改革成案」の実施を一層困難にしていることを理由にあげている。
その首相が頻繁に代わっている最中の2008年6月に、ムーディーズは自国通貨建ての債務格付けをA1からAa3に引き上げ、2009年5月には同格付けをAa3からAa2に引き上げていたのはどうしてであろうか。
2009年5月の際は自国通貨建て債務格付けをAa3からAa2に引き上げと同時に、日本の外貨建て債務格付けをAaaからAa2に引き下げたことで債務格付けをAa2に統一したためと理由付けられていた。しかし、結果としてはこの際に自国通貨建ての格付けは引き上げられたことは確かである。参考までに現在、外貨建ての日本国債は発行されていないが、外貨建ての日本政府保証債は存在している。
もし、ムーディーズが1998年の日本国債の引き下げ後、格下げを継続して行なっていたのならば一貫性はあるとみなされようが、途中でこのように引き上げに転じ、その後また引き下げを行なうなど一貫性はみられない。この間、日本政府の債務残高は減ることなく増加し続けているにもかかわらずである。
そして、今回ムーディーズは見通しを安定的に変更した理由として、弱まりをみせない日本の投資家の国内投資志向と国債選好を背景に、政府は財政赤字を補填する資金を世界で最低水準の名目金利で調達できることを根拠とした。
これは日本国内の格付け会社が最上位にある日本国債の格付けを維持している大きな理由であると思われる。また、海外格付け会社が日本国債をいくら格下げしても日本国債が売られない理由でもある。
格付けはあくまで信用度を測る上での、ひとつの民間会社の見方に過ぎない。その信用が揺ぎ無いものであるのならば、S&Pによる米国債の格下げや、今回のムーディーズによる日本国債の格下げに該当国の国債市場が影響を受けることない。しかし、その信用力に対して疑問符がつくとギリシャなどのように格下げが債券価格急落のきっかけともなりうる。その意味でも、今後も日本国債の市場からの信用を維持させることが重要である。
2011.8.24「民主党代表選による日本国債への悪影響」
民主党の代表選挙は27日に告示、29日午前の両院議員総会で投開票することが内定し、その結果、30日に菅内閣は総辞職し新首相が誕生する見込みである。
この代表選には野田財務相、そして前原前外務相が出馬する意向と伝えられている。また、海江田経済産業相も出馬への意欲を表明し、さらに馬淵澄夫前国土交通相、樽床伸二元国対委員長、小沢鋭仁元環境相、鹿野道彦農相なども意欲を示している。
市場関係者は野田氏が最も次期首相にふさわしいとの認識が、アンケート調査などからも示されているものの、その野田氏は18日の千葉市での講演で、震災復興財源となる臨時増税の実施時期について柔軟に対応する意向を示すなど、増税反対派に配慮するような姿勢を示した。
財政規律派の野田氏が首相となれば、債券市場には波風は立たないと思うものの、その野田氏がなったとしても財政再建の動きが後退する可能性が出てきた。
出馬に意欲を示す候補者のよる国債に関する発言を確認してみると、6月に前原誠司前外相から、どういう形であれ国債の引き受けを行うようなことをもう少しやってもいいのではないかと、インタビューで語っていた。
7月には馬淵澄夫前首相補佐官が通信社とのインタビューで、復興財源として発行する国債を日銀が引き受け、量的緩和策を導入すべきとの考えを示した。
海江田経済産業相は22日のニッポン放送の番組で、復興債の発行にあたり、利子が付かない代わりに相続税を軽減する無利子国債を検討する考えを示した。海江田氏は以前より無利子国債発行を唱えるとともに、日銀法改正などを検討していいのではと指摘している。
小沢鋭仁氏はデフレ脱却議連特別顧問だそうで、日銀による国債引受を支持しているいわゆるリフレ派と呼ばれる一人である。
樽床伸二氏も21日の茅ヶ崎市でのあいさつでインフレターゲット政策の導入を検討すべきだとの考えを示すなど、海江田などの意見に近いようである。
最終的には代表選の立候補者はある程度絞られると思うが、野田氏と前原氏、海江田氏あたりを軸に選挙戦を戦うことになると予想される。小沢グループの動向などによっては、財政規律派ではない人物が首相になる可能性が出てきた。
その際には債券市場に多少なり動揺が走る可能性がある。むろん立場が変われば、日銀による国債引き受けや日銀法改正などが非常にリスクをともなうことも理解されると思うが、その確証はない。少なくとも財政再建にブレーキが掛かることは間違いなさそうである。
本日、ムーディーズが日本国債をAa2からAa3に引き下げ、見通しは安定的に変更したが、それによる債券市場への影響はこれまでの格下げ時のように、限定的と思われる。ただし、今後は日本国内の大手格付会社が日本国債の格付けを引き下げる可能性もあるため注意も必要になる。
以前、このコラムでもしもリフレ派が首相になれば、あらためて財政再建の是非が国民の間で問われることになり、むしろねじれた政治がいっきに解消される可能性もないとは言えないと書いたが、それはそれでリスクもたいへん大きなものとなりかねない。
何かのきっかけで日本国債の信用が疑問視されるようなことになれば、ギリシャのみならずスペイン、イタリアの国債動向を見てもわかるとおり、取り返しの付かない事態に発生しかねない。ファンダメンタルズよりも日本国債へのクレディビリティーに疑問符がついて、それにより国債利回りがイタリアのように6%台を超えるようなことになれば、日本の巨額の債務残高を考えれば、かなり危機的な状況に陥りかねないことは明白である。
信用は移ろいやすい。しかも市場で不安心理が増大すれば何が起きるかは、現在の金融市場とそれに影響を受けた各国政府の状況を見てもあきらかである。日本発の信用不安は絶対ないとは言い切れないため、起こしてはならないことを候補者も肝に銘ずるべきである。
2011.8.23「今後の債券相場を見る上での注意点」
ここにきて世界的なリスク回避の動きが強まり、安全資産として米国債や英国債、そしてドイツ連邦債が買い進まれ、日本国債も直近の高値を試す展開となった。この背景としては、ユーロ圏の経済成長の鈍化や、米国景気のソフトパッチへの懸念などがある。
このため18日にはドイツ連邦債が2.03%近辺、英国債も2.23%近辺と過去最低水準まで低下し、米10年債利回りも一時、1.976%と記録的な低水準にまで低下した。イタリアやスペインの10年債利回りは、5%近辺で落ち着いていたことで、欧州諸国の債務不安が新たに再燃したような動きでもなかったものの、今度は欧州の金融機関に対しての懸念も強まりつつある。
米国債高や株安などから、日本国債も買われ、10年債利回りは1%を割り込んだ。しかし、利回りの低下ピッチは鈍かったといえる。円高などから介入観測とともに日銀の追加緩和期待も出ているが、すでにかなり低位にある日本国債の利回りは低下余地が限られている。10年債利回りが2006年3月につけた0.43%という最低水準まで低下するような気配はいまのところない。
これまでの日本の10年債利回りの推移を見てみると、1990年に8%台にあったものが、その後、ほぼ一本調子で低下し、1998年に1%を割り込んだ。その後は1%台を中心にしたレンジ相場が続いている。それに対して、英独米の10年債利回りは1990年から1998年にかけての日本のように低下の途中であるとも言えそうである。
ただし、2%というのは日本の10年債利回りも節目とされている水準であることから、日本の過去の10年債利回りの推移を見る限り、2%水準からの低下ピッチは鈍るのではないかと予想される。
今週は23日に流動性供給入札、25日に20年国債入札が予定されているが、相場の地合は悪くないものの、高値警戒などが出てくると投資家の購入意欲が鈍る懸念もあるため、この入札の動向についても注意が必要となる。
また、26日のジャクソンホールでのバーナンキFRB議長の講演も注目されている。ワイオミング州にあるジャクソンホールで、25日から27日の予定でカンザスシティー連銀が主催する経済シンポジウムが開催される。昨年のこの講演でバーナンキ議長はQE2について言及していたことから、今回も追加緩和策に言及するのではとの期待が高まっている。ただし、QE3まで踏み込むとの見方は少なくなってきている。
そして、民主党の代表選挙の行方も気掛かり材料となりうる。財政再建を進めようとしている野田佳彦財務相が代表となれば、債券市場は好感しよう。しかし、民主党代表選に出ないと思われていた前原前外務相が立候補に前向きな考えを示しており、代表選の行方が混沌としてきた。
この代表選の結果などを見た上での格付け会社の動きにも注意したい。特にムーディーズ・インベスターズ・サービスによる日本国債の格下げの可能性もありうる。ただし、格付投資情報センター(R&I)による日本国債の格下げについては、当面は回避されるのではないかとみている。
2011.8.22「ソブリン格付けの意味」
米国の大手民間の格付会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、8月6日に米国の長期格付けを最上位のAAAからAA+に1段階引き下げた。これに対しフィッチ・レーティングスは米国の長期信用格付けはAAAを維持し、アウトルック(見通し)を安定的とし、ムーディーズ・インベスターズ・サービスも米国格付けは最上位に据え置くと発表していたことで、今回はS&Pだけが格下げに動いた格好となった。
S&Pの格下げによる米国債への影響は限られ、むしろ米国債は質への逃避の動きから買い進まれた。これは、民間格付会社が格付けを1ノッチ引き下げたからといって、投資家が保有する大量の米国債をいきなり売却することは考えづらく、金融市場における信用度、そして流動性などを見ても、ほかに代替資産が見当たらないためである。 ただし、米国の格付会社が自国の国債の格付けを引き下げということは、ある意味、ショッキングな出来事でもあり、マスコミでも大きく取り上げられた。
そして、今度は日本国内の大手格付会社が日本国債の格付けを引き下げる可能性が出てきた。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、格付投資情報センター(R&I)のアナリストは、来年度の予算に想定以上の緊縮財政措置が盛り込まれない限り、年内にも日本国債の格付けを引き下げる可能性が高いと警告した。
日本国内の代表的な格付け会社に格付投資情報センター(R&I)と日本格付研究所(JCR)がある。このうちR&Iは2001年3月から日本国債格付けの見通しをネガティブとしていたが、格下げそのものは見送ってきていた。
ムーディーズやS&Pが日本国債の格下げを行なっても、ほとんど市場が動揺しなかったのは、国内格付会社が格下げをしてこなかったこともひとつの要因である。このため、もしR&Iが日本国債の格下げを行なうとすれば、国債を保有する投資家に動揺が走る可能性はある。
格付会社が国に付した格付けをソブリン格付けというが、その誕生は1920年代と格付けの歴史の中でもかなり古くからある。そして、日本国債に対する海外の格付会社による評価は、古くは1930年代に始まるとされている。
1998年11月にムーディーズ・インベスターズが日本国債を最上級のAaa格からAa1格に引き下げたことが大きな話題を呼んだが、その後、ムーディーズはA2格まで、S&PはAA−格までの引き下げを行った。
この背景には、日本政府の財政赤字が大幅に拡大したことがあるが、日本の大手格付会社であるR&I(格付投資情報センター)及びJCR(日本格付研究所)の2社は、日本の格付けをAAA格から引下げこなかった。
債務の拡大は続いていても自国の国債の格下げをしてこなかった米国と日本の格付け会社であるが、米国ではS&Pが米国債を格下げし、今度は日本の格付会社のR&Iが日本国債を格下げするとなれば、債券市場そのものへのインパクトは限定的であったとしても、ソブリン格付けのあり方があらためて問われることにもなりそうである。
2011.8.20「独英米の長期金利は過去最低水準に低下」
世界的な質への逃避の動きはさらに加速したことにより、ドイツ連邦債が2.03%近辺、英国債も2.23%近辺まで低下し過去最低を更新、米10年債利回りも一時1.976%まで低下した。米国の長期金利の史上最低は1940年代につけた1.6%台(1946年の1.665%?)との見方もあるため、史上最低ではないようだが、記録的な低水準をつけたことは確かなようである。
不安心理がいろいろなきっかけに高まったことで、リスク回避の動きが強まったことによるものと思われる。独英米の長期金利は低下基調が続いており、何かのきっかけでその動きが加速されやすい状況となっている。ちなみに、イタリアやスペインの10年債利回りも、5%近辺で落ち着いていたことで、欧州諸国の債務不安が新たに再燃したような動きでもなかった。もちろん、イタリアやスペインの国債はECBが購入していることで、買い支えられている面もある。
16日にドイツとフランスのトップがパリで首脳会談を開いたが、一部期待されていたユーロ共同債の導入や4400億ユーロ規模の救済基金の拡大は否定され、欧州全域での金融取引税導入を再提案することが明らかにされた。定期的に協議する新たな枠組みを設け、財政規律の厳格化を一段と推し進めていくことで一致したものの、この首脳会談で具体的な措置が打ち出されなかった。
このように政府が欧州の債務不安や景気対策に対して積極的に乗り出せないことも、市場は不安視している部分もある。米国債が格下げされたことで、米国はさらに財政健全化を意識せざるを得ない面もあり、それによる景気への影響も危惧されている。
英国債、ドイツ連邦債、そして米国債の10年債利回りは記録的な水準に低下したにも関わらず、日本の長期金利は1%は割り込むものの、その低下のピッチは鈍い。2006年3月につけた0.43%という最低水準まで低下するような気配はいまのところない。
日本の長期金利の推移を見てみると、1990年に8%台にあったものが、その後、ほぼ一本調子で低下し、1998年に1%を割り込んだ。その後は1%台を中心にした推移が続いている。それに対して、英独米の長期金利は1990年から1998年にかけての日本の長期金利のように低下の途中であるとも言えそうである。
ただし、2%というのは日本の長期金利も節目とされている水準であることから、日本の過去の長期金利の推移を見る限り、2%水準からの低下ピッチは鈍るのではないかと思われる。
いずれ英独米の長期金利は日本の長期金利のように1%台を中心に安定してくる可能性がある。いろいろなところで日本化が指摘されているが、どうやら長期金利についても、今後は日本化が進む可能性がありそうである。
2011.8.19「民主党代表選をきっかけとした政治改革への期待」
民主党は、菅総理退陣後の代表選挙の日程について、今月28日または29日に行う方向で調整に入ったと報じられている。
代表選の出馬を目指す候補には、野田佳彦財務相、馬淵澄夫前国土交通相、樽床伸二元国対委員長、小沢鋭仁元環境相、鹿野道彦農相、海江田経済産業相などの名前が挙がっている。
このうち野田佳彦財務相は、大連立構想を打ち出して選挙の争点にしようとの動きがあるが、震災復興に関わる増税が争点となる可能性もある。
市場関係者にとり、増税にも関わるが財政再建派か積極財政派かの違いも注目されよう。財政再建派としては野田佳彦財務相がいるが、積極財政派としては小沢鋭仁元環境相や馬淵澄夫前国土交通相がいる。
市場に対して波風を立てることがないのは野田佳彦財務相であるとみられ、市場関係者も野田氏が最も次期首相にふさわしいとの認識が、アンケート調査などからも示されている。
私個人も財政規律を意識している野田氏がふさわしいと思うものの、かといって野田氏が首相になって、財政再建策が積極的に進められるのかといえば、民主党内部での増税反対派も多いためかなり難しい状況にある。
国会がねじれ現象を起こしているだけでなく、民主党も自民党も内部がかなりねじれている。そのねじれを解消しないことには、財政再建を進めることは難しいことになる。このため、リフレ派と呼ばれるような候補が首相になったほうが、むしろ打開策になるとの見方も出ている。
つまり、デフレ脱却を最優先にし、積極的な国債増発による財政政策を行い、日銀の国債引き受けによりインフレ政策を実施する。さらに日銀法を改正し政治的な圧力を強めた上で、インフレターゲットを導入させ、物価上昇を促すとともに、それが行き過ぎた際にはブレーキをかけようとする首相の登場への期待(?)である。
このような発想の国会議員はかなり多い。今回は代表選への出馬の可能性は薄いと思われる前原氏も日銀による国債引き受けについて前向きの発言をしていた。その前原氏は野田氏を支援する可能性もあるようだが、政策の違いがネックとなる可能性がある。
もしもリフレ派と呼ばれるような候補が首相になり、立場が変わったとたんにそれまでの主張を取り下げるようなことなく、日銀による国債引き受けなどを本当に実施させようとすれば、今度は反リフレ派から猛烈な批判を受ける可能性がある。また、その際には日銀総裁をはじめ、日銀幹部が総辞職する可能性すらありうる。
また、財政再建に向けて努力している欧米諸国からは、巨額債務を抱えていながらも、財政再建には手を触れず欧米でも禁止されている中央銀行による国債引き受けを実施しようとする日本に対して、かなり批判が強まることも予想される。
国民世論も大きく分かれ、反リフレの声が高まれば、解散総選挙に追い込まれる可能性もある。財政再建の是非がそこで問われるとなれば、民主党対自民党という対立の構図はおかしい。むしろ、政党が再編されて、財政再建グループとデフレ脱却のグループに分かれてもらい、日本の将来にむけてどちらを選択すべきか国民に問いかけるべきである。
かなりリスクを伴うが、小沢鋭仁元環境相や馬淵澄夫前国土交通相が仮に首相となれば、むしろねじれた政治がいっきに解消される可能性もないとは言えない。もちろん、野田氏が首相になって強いリーダーシップを発揮し、財政再建路線を推し進めるという可能性もあり、そこに多少の期待もしたいところではあるのだが。
2011.8.18「国内格付会社による日本国債格下げの可能性」
米国の大手民間の格付会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、8月6日に米国の長期格付けを最上位のAAAからAA+に1段階引き下げた。これに対しフィッチ・レーティングスは米国の長期信用格付けはAAAを維持し、アウトルック(見通し)を安定的とし、ムーディーズ・インベスターズ・サービスも米国格付けは最上位に据え置くと発表していたことで、今回はS&Pだけが格下げに動いた格好となった。
S&Pの格下げによる米国債への影響は限られ、むしろ米国債は質への逃避の動きから買い進まれた。これは、民間格付会社が格付けを1ノッチ引き下げたからといって、投資家が保有する大量の米国債をいきなり売却することは考えづらく、金融市場における信用度、そして流動性などを見ても、ほかに代替資産が見当たらないためである。
ただし、米国の格付会社が自国の国債の格付けを引き下げということは、ある意味、ショッキングな出来事でもあり、マスコミでも大きく取り上げられた。
そして、今度は日本国内の大手格付会社が日本国債の格付けを引き下げる可能性が出てきた。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、格付投資情報センター(R&I)のアナリストは、来年度の予算に想定以上の緊縮財政措置が盛り込まれない限り、年内にも日本国債の格付けを引き下げる可能性が高いと警告した。
日本国内の代表的な格付け会社に格付投資情報センター(R&I)と日本格付研究所(JCR)がある。このうちR&Iは2001年3月から日本国債格付けの見通しをネガティブとしていたが、格下げそのものは見送ってきていた。
ムーディーズやS&Pが日本国債の格下げを行なっても、ほとんど市場が動揺しなかったのは、国内格付会社が格下げをしてこなかったこともひとつの要因である。このため、もしR&Iが日本国債の格下げを行なうとすれば、国債を保有する投資家に動揺が走る可能性はある。
ただし、米国債と同様にほかに代替資産がないことで、国内投資家が国内格付会社による日本国債の格下げで、保有する国債を売却することは考えづらく、ショックがあったとしても一時的なものにとどまるものと思われる。
R&Iは今年初め、日本国債格付けに下押し圧力が強まっているとしていたが、3月に発生した東日本大震災後、国会が日本の財政問題に取り組むために団結するのではないかとの期待から格下げは見送られた。しかし、この数カ月にみられた政治の駆け引きとともに、真剣に債務問題に取り組もうとする政治家の意思の欠如が、格下げの可能性を高めさせたようである。
このR&Iの見方には同意するものの、格下げをする理由としては、日本の債務が増加し続けていたにもかかわらず、長らく格下げを見送っていたことからみて、いささか薄いような気もする。ただし、新しい首相が反増税派となり財政再建路線から後退し、日銀による国債引き受けの可能性が少しでも高まるような事態となれば、国内格付会社による日本国債の格下げがあったとしてもおかしくはない。
格付会社によるソブリン格付けはあくまで国債投資のためのリスクを計るひとつの物差しでしかなく、絶対的なものではない。しかし、それが意味することを政治家はある程度意識することも必要であろう。
2011.8.17「高橋是清の言葉の意味」
8月16日付け日経新聞の「経済教室」は、「限界に近づく日本財政」との題で小黒一橋大学准教授が高橋財政を引き合いに出し、現在の危機的な日本の財政市場について考察している。
この中で、高橋是清蔵相の発言がいくつか引用されている。これは現在にもかなり通じるものがあり、日銀による国債引き受けを行なった高橋蔵相が、国債に対するリスクをしっかり把握していたことが伺える。
「多額の公債が発行されたにもかかわらず、いまだ弊害が表れずかえって金利の低下や景気回復に資せるところが少ないので、世間の一部にはどしどし公債を発行すべしと論じるもがあるが、これは欧州大戦後の各国の高価なる経験を無視するものである」(高橋是清)
これは小黒准教授も指摘していたが、現在の日本財政を巡る議論とまさにそっくりである。これだけ大量に国債が発行されても消化には問題ないどころか、長期金利は歴史的にも超低位のまま推移している状況にある。そして国債引き受け等により見事、昭和恐慌によるデフレを克服したと高橋是清を引き合いに出し、国債を大量に発行しそれを日銀に引受けさせて、現在のデフレをまず克服すべきとの声は、現在でも国会議員からも出ている。
しかし、その高橋是清は国債の大量発行による弊害も意識していた。特に第一次世界大戦後のドイツの状況を調べていたものと推測される。「どしどし公債を発行すべし」と論じる者は、約70年前の高橋蔵相の発言の意味をよく考える必要があろう。
「公債が一般金融機関等に消化されず日本銀行背負い込みとなるようなことがあれば、明らかに公債政策の行き詰まりであって悪性インフレーションの弊害が表れ、国民の生産力も消費力も共に減退し生活不安の状態を現出するであろう」(高橋是清)
高橋是清による日銀による国債引き受けは、国債市場が整備されていない当時、いったん日銀が引受けるが、それを銀行に売却するという手段を講じ、国債消化をスムーズにさせることで財政政策を行いやすくしたわけではある。しかし、日銀による国債引き受けというパンドラの箱を開けてしまったことは確かである。
高橋蔵相はそれでもデフレが解消し景気回復が達成できれば、国債発行を抑制するなど自らコントロールすることが可能と認識していたのかもしれない。しかし、いったん開いたパンドラの箱は閉じることはできなくなることを、自らが暗殺されてしまったことにより、歴史に示したといえる。
二二六事件による高橋蔵相暗殺後、国債発行と日銀引き受けのコントロールが効かなくなり、本格的な国債の日本銀行背負い込みが始まる。それは結果的に高橋蔵相が危惧していた悪性インフレーションを招くことになり、太平洋戦争による直接的な被害以上の損害を日本経済に与えることになる。
これだけ事情を把握していた高橋是清にすら、国債発行と日銀引き受けのコントロールが最終的にはできなかったものを、現在の政治家がうまくできるとは思えない。ましてやその物価上昇に対して、日銀がインフレターゲットを採用すれば押さえ込めるとの発想は、まったく現実的ではない。
高橋是清の危惧はまさに現在に通じるものであり、その言葉の意味をよく理解することが、特に国を治めるものには必要なのではないかと思われる。
2011.8.16「ニクソン・ショックから40年」
1969年1月に成立したニクソン政権はベトナム戦争などの影響で大幅な財政拡大政策をとり、連邦予算は1969年の30億ドルの黒字から、1971年には230億ドルの赤字を出すまでに膨張した。1971年春には猛烈な投機により外国中央銀行にはドルがあふれ、アメリカの金準備は大量に外国に流出することとなる。
その年の8月15日、リチャード・ニクソン大統領は、テレビとラジオで全米に向けて声明を発表した。主な要点は、税と歳出削減、雇用促進策、価格政策の発動、金ドル交換停止、10%の輸入課徴金の導入などである。このニクソン・ショックから40年が経過した。
この中で特に注目されたのが「金とドルの交換停止」であった。これによって第二次大戦後の通貨の枠組みであったブレトン・ウッズ体制が崩壊し、為替市場は新たな展開を迎えることになったのである。
人類の歴史上長く続いた金を中心とした貴金属と通貨の関係が完全に切り離され、通貨は通貨間の相対価値が基準になるという現在に続く変動相場制へと移行することになる。このニクソン大統領による声明は世界に大きなショックを与え、ニクソン・ショックやドル・ショックと呼ばれた。
ニクソン・ショックの同年12月に、ワシントンのスミソニアン博物館で10か国蔵相会議が開かれた。ニクソン大統領が発表した米国の新経済政策をうけて、通貨に関するいくつかの措置が合意された。これがスミソニアン合意と呼ばれるものである。
ドルを切り下げ、為替の変動幅を従来の上下1%から暫定的に2.25%に拡大された。円レートは16.88%切り上げられて308円に変更された。しかし、スミソニアン体制でも為替相場は安定せずにドル売りは止まらず、さらに1973年には第4次中東戦争の勃発による原油価格の急騰によるいわゆるオイル・ショックによるインフレ圧力も追い討ちをかける格好となる。
アメリカやイギリスの国際収支は改善されず、イギリスをはじめ各国がスミソニアン体制を放棄し、1973年に主要先進国は変動相場制に移行し、スミソニアン体制はわずか2年で崩壊した。
そのニクソン・ショックから40年が経過した。現在もまた通貨に対する信任が問われ、その裏返しのように、通貨の関係から切り離された金が値上がりをし続けているのはなんとも皮肉なことである。
そして、通貨と同様の信用力を持つ国債に対する信任が現在、最大の注目材料となっている。米国債が格下げされ、欧州の債務問題はフランスまで及ぼうとしている。日本の政府債務は1000兆円に達しようかとしている。
国の債務問題はそれぞれの国の問題ではあるが、金融経済がグローバルに結びついている以上、自国内と問題と片付けられない面もある。さらに、現在は米国にしろ日本にしろ政治そのものが、ねじれ現象を起こしているため、債務問題の解決をより難しくさせている。
通貨制度を根本から揺るがしたニクソン・ショックから40年経過し、あらためてこの40年間の金融市場の動きを振り返り、その上で、今後の対策を練ることも必要かと思われる。
2011.8.13「日本の債務危機を招かないための財政健全化のすすめ」
報道によると、政府は12日に「経済財政の中長期試算」をまとめ、閣議に提出した。
6月に政府・与党がまとめた「社会保障・税一体改革成案」では、消費税を原則として社会保障の目的税とすることを法律上、会計上も明確にし、将来的には、社会保障給付にかかる公費全体について、消費税収(国・地方)を主たる財源として安定財源を確保することによって、社会保障制度の一層の安定・強化につなげていくとしている。社会保障充実のための消費税引き上げについては、経済状況の好転を条件に、2010年代半ばまでに段階的に10%まで引き上げるとしている。
昨年6月に閣議決定された「財政運営戦略」において、国及び国・地方の基礎的財政収支赤字の対GDP比を、2015年度までに2010年度の水準から半減し、2020年度までに黒字化させた上で、2021年度以降において、国・地方の公債等残高の対GDP比を安定的に低下させることとされている。
2015年度までに消費税率を現行の5%から10%に段階的に引き上げた場合に、国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2010年度比で半減させる財政健全化目標を達成するとしている。しかし、2020年度までの黒字化目標の達成には、6%超の消費税率に相当する18兆円程度の赤字が残り、さらなる収支改善が必要としている。
政府の試算によると、財政健全化について「2020年度までの平均で名目1%台後半、実質1%強の成長」という「慎重シナリオ」を前提とした場合、東日本大震災の復旧・復興対策の経費や財源などを除いたベースで、2015年度の国と地方のプライマリーバランスは15.4兆円、対名目GDP比で3%の赤字になるとしている。2010年度のプライマリーバランスは28.6兆円、対名目GDP比で6%の赤字となっていたため、対GDP比での赤字を半減させるとの財政運営戦略で定めた財政健全化目標が達成できることになる。
ただし、2020年度までにプライマリーバランスを黒字化させる目標について試算では、2020年度のをプライマリーバランス17.6兆円の赤字を見込んでいるため、2015年度までに消費税率を10%に引き上げても届かない。内閣府によると黒字化目標の達成には、さらに6%を超える消費税率の引き上げが必要になる計算となるようである。
また、試算によると、2010年度に827.3兆円だった公債残高(国と地方の公債等残高の数値とみられ、財投債や政府短期証券は含まれていない)は、慎重シナリオで2016年度に1000兆円を突破し、2018年度に対名目GDP比で200%を超えるとしている。
このようにもし仮に消費税が、2010年代半ばまでに段階的に10%まで引き上げたとしても2020年度までにプライマリーバランスを黒字化できない状況にある中、民主党内でも消費税増税に反対する議員も多く、実際に10%の引き上げすらできない可能性がある。
今度の民主党代表選でもこの増税の是非が争点になるとの見方も強まっている。仮に反増税を主張する候補が次期民主党代表、つまり首相となれば、さらにプライマリーバランスの黒字化は遠のくことになりかねない。
国債を売買する債券市場の参加者は、政府による財政規律の姿勢が維持されることで安心して国債を購入できる。このためにも、2020年度までにプライマリーバランスを黒字化させるという財政健全化の動きは進めなければならない。しかし、消費税増税もできず、プライマリーバランスを黒字化が先送りされればされるほど、日本の債務危機は向かってくる。
日本国債の危機、つまり日本の債務危機そのものは、これまでの経緯を見てもわかるように格付会社の格下げや、参加者が限定され市場規模が小さなCDSなどでは示されない。日本国債の価格変動、それは利回りの推移ともなるが、そのもので示されるものである。
これまでは決して、日本の債務危機が国債価格(利回り)に直接影響するようなことはなかった。だから今後もないとは言い切れない。戦後、日本の国債が発行されてから、まだ50年も経過していない。しかも、国債の流動化が本格的に進んでからはまだ30年足らずしか経っていない。歴史も浅い中にあり、過去になかったから今後もないと言い切るにはあまりにリスクが大きい。これまでなかったからこそ、起きたときの衝撃は計り知れないものとなると可能性も十分にありうる。このあたりのことも次期首相には十分意識していただきたい。
2011.8.12「順調に増え続ける日本の政府債務残高」
10日に財務省は、6月末現在の「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」を発表した。このうち「国債及び借入金現在高」によると国債と借入金の合計額は943兆8096億円となり、3月末に比べ19兆4500億円増加した。
内訳を見ると内国債が767兆9443億円と3月末比9兆3753億円の増加となった。参考までに現在、外貨建てで発行されている日本国債は存在しない。このため外国債は存在せず、すべて内国債である。ただし、法律上、外貨建てでの日本国債発行は可能である。
内国債は普通国債と財政投融資特別会計国債でそのほとんどを占める。普通国債とは建設国債と赤字国債(特例国債)である。60年償還ルールで発行される借換債もここに含まれる。それに対して財政投融資特別会計国債(財投債)を別枠としているのは、償還財源が普通国債のように将来の税収等によるものではないためであり、区別されている。
いずれここに12.5兆円の復興債も加わることになる。復興債の財源は歳出見直しや臨時増税などで確保するとしているが、まだ具体化されていない。
国債と借入金の合計額が1000兆円を超すまでにはさほど時間はかからないであろう。日銀の資金循環統計によると、3月末の家計の純資産残高(金融資産・負債差額)は、1110兆1033億円となり、それほど時を置かずにこの数字に接近していくことが予想される。
家計の純資産残高を政府債務残高が上回れば、日本国債が国内資金で賄いきれなくなると単純にいえるものではないものの、ひとつの目安にはなりうる。
政府は来年度以降の歳出を決める中期財政フレームを12日にも閣議決定する。この財政フレームでは一般会計の国債費を除く政策経費を71兆円以下、新規国債発行額を44兆円以下に抑える方針が盛り込まれる見通しとなっている。
これは財政健全化にむけた枠ではあるが、そもそも新規国債発行額が40兆円規模となっていることが異常であるとの認識を持つべきであろう。しかし、その程度の規模の国債を発行しないと現在の日本の財政は成り立たない。それはつまり、政府債務の増加ペースは今後も決して衰えないということでもある。
欧州ではスペイン・イタリアから今度はフランスが市場の標的にされつつある。英国では緊縮財政も要因といえるような暴動が起きている。欧米の財政、債務、信用問題は日本ではまるで他人事のように扱われている節もあるが、もしそれが日本にも飛び火した際には、今回も狼少年の再来と片付けられるかどうかは甚だ疑問である。
2011.8.11「赤字国債発行法案の成立の目処が立ったあとの懸念」
民主、自民、公明の3党が民主党の主要政策見直しで合意する見通しとなり、赤字国債発行法案の今国会成立が確定的となった。これにより債券市場にとり、ひとつの懸念が払拭される格好となる。
今回の合意については、米国での債務上限引き上げを巡るごたごたで世界の金融市場を動揺させた面もあったことで、それを踏まえ責任を負いたくないという思惑も手伝って歩み寄った側面もある。
もしも今国会で成立しないようなことがあると、政府の資金繰りに支障をきたすばかりでなく、今後の国債発行スケジュールにも大きな影響を与える可能性があったが、その懸念はなくなる。
米国はぎりぎりのところでデフォルトを回避したが、日本はそれに比べれば、まだ若干の余裕はあったとはいえ、すでに今年度入りして4か月以上も経過してもなお、赤字国債発行法案が成立しなかったことで、財務省はかなり資金のやりくりに配慮しなければならなかった。余計な負担もかかっていたとみられることもあり、今後、赤字国債発行法案を政争の具にすることは今後、控えていただきたい。
ところで、赤字国債発行法案の成立の目処が立ったとなれば、いよいよ菅総理の辞任の条件がまたひとつ揃うこととなる。このため、菅首相の月内退陣論が強まりつつある。
財政規律を意識している野田氏が菅総理の後継になれば、日本国債に対する信用も維持されるとみられるものの、反増税派の人物、しかも日銀による国債引き受けを主張しているような人物が首相となり、本当に日銀に国債を引き受けさせるような事態が発生した際には、日本国債への信任が維持できるかどうかは甚だ疑問となる。
もちろん立場が変われば状況も変わるであろうから、事前にいくら日銀による国債引き受けを主張したとしても、財政や国債の問題を現場で直接向き合えば、何かできて何ができず、何をしてはいけないかは理解できるはずである。
たとえばインフレターゲットを持論としていたバーナンキ教授がFRB議長となり、現場の総責任者となった際、持論を封じ込めたのは何故なのか。それは現場に直接、携わったからである。
しかし、次期首相となる人物がそれでも自らの主張を変えることなく、日銀に財政ファイナンスをさせるようなことをすれば、日銀と政府との対立は避けられず、日本国債の信任低下を招き、その結果、日本発の金融危機を招く危険性すらありうる。
民主党代表選の争点は、増税か反増税かとなる可能性が高そうだが、それとともに国債を日銀に引き受けさせようとしているのかどうかにも、注目してみておく必要がある。現在、世界中の国債が注目されている中にあり、市場もかなり神経質になっているだけに、なおさら注意する必要がある。
2011.8.10「FRBによる時間軸強化とはどういうことなのか」
FRBは9日のFOMCにおいて、あらたな政策に乗り出した。FOMCの声明文には以下のような文面がある。
The Committee currently anticipates that economic conditions--including low rates of resource utilization and a subdued outlook for inflation over the medium run--are likely to warrant exceptionally low levels for the federal funds rate at least through mid-2013.
つまり、現在の経済情勢が続く限りは、少なくとも2013年半ばまで、政策金利であるFF金利を異例な低水準を継続する、つまり事実上のゼロ金利政策を続けることを宣言したのである。前回の文面にあった「for an extended period」が「at least through mid-2013」に変わったことにより、具体的な期間が示され、長期間にわたりゼロ金利政策を続けることを市場に知らしめた。
日本銀行もこれまで時間軸政策を何度か行なっているが、そもそも時間軸政策とか時間軸効果とは何であろうか。
中央銀行が操作している、もう少しはっきり言えば中央銀行が動かせる金利は極めて期間の短い金利である。FRBは民間銀行が連邦準備銀行に預けている準備預金であるフェデラル・ファンドの金利を操作目標にし、日銀は無担保コール翌日物の金利を操作目標、つまり政策金利としている。
それに対し期間が1年を超える長期金利については、市場で形成されることで中央銀行がそれを操作することはできない。大昔のような規制金利の時代ではなく、多種多様の市場参加者がそれぞれの事情や思惑で価格が形成されており、つまり価格の裏返しとなる金利が形成されている。しかし、中央銀行の金融操作は短期金利の誘導目標値を上げ下げすることにより、より長めの金利に働きかけようとしている。その働きかけを強化させるための政策のひとつが、時間軸を設定することである。
つまり、FRBが長期間渡ってと曖昧な表現から、具体的な日付を設定することで、これにより2年間ゼロ金利政策が継続されるとの予想が市場に広まれば、2年国債の金利などの低下圧力につながり、それがさらに長い期間の利回り低下を促すことになる。実際に9日に米国の2年債、3年債の利回りが過去最低水準をつけたのはこのためである(3年債入札が順調であったことも多少影響したが)。
日本では2001年3月からの量的緩和政策の解除のために3つの条件を挙げていた。生鮮食料品を除く消費者物価指数の前年比上昇率が基調的にゼロ%以上になる、消費者物価指数が先行きもマイナスにならない、経済・物価情勢を総合的に判断する条件であるが、「生鮮食料品を除く消費者物価指数の前年比上昇率が基調的にゼロ%以上になる」という具体的な数値目標を入れ、デフレが進行している状況下、プラスになるのはあと何年かかるかわからないように情勢下にあると、これがより長い期間の低下圧力につながり、これが時間軸効果と呼ばれているものである。
また、昨年10月に日銀は包括緩和政策を実施したが、その際に「中期的な物価安定の理解」に基づき、物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで、実質ゼロ金利政策を継続していくとし、時間軸を明確化した。これには具体的な数値が表面上入っていないが、中期的な物価安定の理解というのが曲者で、日銀が中長期的にみて物価が安定していると理解する物価上昇率の中心は1%程度となっていたことで、これは2001年3月からの量的緩和政策の解除条件よりもハードルが引き上げられ、時間軸をより強固なものとしたものであり、これは時間軸政策とも表現されている。
ただし、注意すべきは日米のゼロ金利政策の解除については、ある程度、中央銀行の裁量が働くことも意識しておく必要がある。経済や物価を取り巻く情勢が変化したとみれば、その期間や条件を完全に満たすことを待たず、日銀、FRBともにゼロ金利政策を解除する可能性もありうる。
2011.8.10「ECBによるイタリア、スペイン国債買入れ開始の背景」
8日にG7は緊急の電話会議を行ない、為替の過度な変動や無秩序な動きは金融安定に悪影響との認識が示されたが、これ先立ち欧州でも動きがあり、ECBも臨時会議を開いて、ここにきて売られているイタリア国債なども買い入れの対象とすることなどについて検討と伝えられた。
欧州の債務問題はギリシャ、ポルトガルなどから、スペインそしてイタリアへと広がっている。5日にスペインとイタリアの10年国債の利回りは6%台に乗せており、危機的水準とも言われる7%に接近しつつあった。
イタリアはユーロ圏での経済規模は3番目に大きく、もし仮にイタリアへの信用問題が深刻化すると欧州の債務問題は深刻の度を深める危険性がある。さらに市場ではベルギーやフランスにも及ぶのではないかとの懸念すら出てきていた。
9日の日経新聞によると、8日にECBは朝方からイタリアとスペインの国債の購入を開始し、購入額は合計で10億ユーロ以上に上るという。その後も断続的な買いが続き、購入額は20〜30億ユーロとの見方もある。このECBの買入れを受けて、イタリアとスペインの10年債利回りは、5.3%台に低下した。イタリアの国債利回りは、EUがギリシャの第二次支援を決定した7月21日の水準まで戻された格好となったのである。
ECBはすでにギリシャ国債など購入した結果、740億ユーロもの国債を保有しているが、ユーロ圏の中央銀行の資本金・資本準備金の810億円に迫りつつあり、これ以上の購入は資本を毀損しかないと買入れを休止していた。
しかし、それにも関わらずECBが、休止していた債券購入プログラムを再開し、しかもギリシャ、ポルトガルではなくイタリアとスペインの国債を何故、購入しなければならなかったのであろうか。現状、イタリアとスペインの支払い能力に問題があるわけではない。
その答えのひとつは、欧州の信用不安の連鎖をここで断ち切らなければ、スペインからイタリアもさらにベルギー、フランスまで及びかねないとの警戒心によるものであろう。
ただし、米国債格下げ騒動に紛れてしまった感があるが、5日の米国市場では予想より改善を示した米雇用統計よりも、イタリアのベルルスコーニ首相の発言が米株高・債券安の要因ともなっていた。ベルルスコーニ首相は、緊縮財政策を前倒しで実施し、計画より1年早い2013年の財政均衡を目指す方針を示唆していた。しかし、それを議会は許さないとの見方もあるなど、欧州各国の政府サイドの問題が影響している可能性がある。
つまり各国政府そのものの基盤が盤石ではない上、欧州連合内部でも意見調整が難しい状況下、すばやく行動できるのはECBしかなかったという面もあろう。
イタリアとスペインの国債にまで踏み込んでしまったECBは、再び債務への懸念が強まれば、国債の買入れを継続しなければならなくなる状況に追い込まれる。ECBの国債買入はあくまで危機対応ではあるが、いずれ中央銀行の信任そのものが揺らぐ懸念も出てくる可能性がある。
2011.8.9「米格下げによる米債への影響は限定的。イタリアの動向にも注意が必要に」
米国の大手民間の格付会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、6日、米国の長期格付けを最上位のAAAからAA+に1段階引き下げた。ムーディーズやフィッチは米国格付けは最上位に据え置くと発表していたことで、今回はS&Pだけが格下げに動いた格好だが、これは市場ではある程度その可能性は織り込んでいた。
参考までに、S&Pは米国の長期の信用格付けを引き下げたわけだが、この長期信用格付けは政府そのものとともに政府債務への信用度ともなるため、米国債の格下げとしても問題はない。たとえば日本での格下げの際には、日本の格下げという捉え方はあまりされておらず、日本国債の格下げとして大きく取り上げられていた。
1998年11月にムーディーズが日本国債を格下げした際に、市場への影響が限定的であったように、この米国格下げによる影響は限定的だと思われる。日本の場合にはそのほとんどを国内資産で賄われているために、売り手が限られるとの見方があった。そもそも日本国債の買い手にとり、その代わりとなるような巨額な残高を持つ安全資産がほかに見当たらないということも大きかった。
それと同様に米国債についても、民間格付会社が格付けを1ノッチ引き下げたからといって、投資家が保有する大量の米国債をいきなり売却することは考えづらい。金融市場における信用度、そして流動性などを見ても、ほかに代替資産が見当たらないためである。 また、日本国債同様に、いまのところはソルベンシー(支払い余力)に問題があるわけでもない。
ただし、米国債の格下げをきっかけに世界の金融市場全体に一時的な動揺が走る懸念があるため、8日のアジア市場が開く前に、先進7か国の財務相と中央銀行総裁が緊急の電話会議を行ない、為替の過度な変動や無秩序な動きは金融安定に悪影響との認識が示された。この声明そのものの影響はさておき、G7の積極的な動きは市場安定に作用するのではないかと思われたが、実際には8日の米国市場でダウ平均が634ドルとスカイツリーの高さほどの下落を見せるなど急落したことで、あまり効果はなかったとも言える。
そして、辞任の意向を示していたガイトナー米財務長官が、大統領の要請を受けて続投を決めたとも伝えられている。ガイトナー氏の辞任の意向は強かったのではないかと思われるものの、もしこのタイミングで辞任するとなると、市場に大きな影響を与えかねず、そのあたりも配慮しての続投かとみられる。これに対して、日本の野田財務相は民主党代表選に出馬するため、特例公債法案の成立直後に辞任する意向を固めたと伝えられ。野田さん辞任の意向による影響も注視しておく必要がある。
今回の騒動の発端のひとつS&Pは、米国の格付けが今後6か月から2年の間にさらに引き下げられる可能性は3分の1と、ABCの番組で述べたそうだが、みな火消しに走っている最中、また油を注いだ格好である。
民間の格付会社の格付けが世界の金融市場に多大な影響を与えるという構図については、やはり大きな問題を含む。政府への警告という観点からは格下げも意味があるとの見方もあるが、市場に対して必要以上に動揺させるようなことは、なるべく抑えることも必要であろう。今回の格下げにより格付会社と欧米の政府との間での対立の様相を強める可能性もある。実際に、米上院銀行委員会が今回の米国債の格付けを引き下げたことについて、調査を開始したとも伝えられている。
また、8日にはG7の動きに先立ち、すでに欧州でも動きがあり、ECBも臨時会議を開いて、ここにきて売られているイタリア国債なども買い入れの対象とすることなどについて検討と伝えらた。欧州の債務問題はギリシャ、ポルトガルなどから、スペインそしてイタリアへと広がっている。イタリアはユーロ圏での経済規模は3番目に大きく、仮にイタリアへの信用問題が深刻化すると欧州の債務問題は深刻の度を深める危険性がある。さらにベルギーやフランスにも及ぶ懸念すら出てきた。
昨日、そのECBはイタリアとスペインの国債を購入を始め、これを受けて両国債の利回りは、1999年のユーロ導入以来で最大の下げを演じた。5日に6%台となっていたイタリアとスペインの10年債利回りは、ECBの買い入れにより5.3%台に低下した。
米国債格下げ騒動に紛れてしまった感があるが、先週末の米国市場では予想より改善を示した米雇用統計よりも、イタリアのベルルスコーニ首相の発言が米株高・債券安の要因ともなっていた。ベルルスコーニ首相は、緊縮財政策を前倒しで実施し、計画より1年早い2013年の財政均衡を目指す方針を示唆していた。
ギリシャなどに比べ、イタリアの財政については健全とまでは言いがたいが、支払い余力等に差し迫った問題があるとは思えない。しかし、市場が懸念し、それによりイタリア国債の利回りがさらに上昇し、7%を上回ってくるようなことがあると利払い費用が増加するだけでなく、イタリア国債を保有する金融機関にも大きな影響を与えかねない。このあたり、マーケットの沈静化をはかる必要もあったものと思われる。
今回、米国債の格下げによっても米国債に影響が及ばないことがはっきりし、欧州の債務問題についても過剰な反応が後退すれば、今回の欧米主体のソブリン危機はいったん収束される可能性はある。
ただし、このソブリン危機の背景には、リーマン・ショック後の欧米諸国の債務悪化とともに、米国の議会内での与野党の対立や、経済規模や債務の支払い能力が異なる国の集合体となっているユーロのシステムそのものへの問題もある。これらについてはすぐに解消できるような問題ではないことで、今後も債務問題がく燻り続ける可能性がある。そして同様に財政が悪化している日本に債務問題が飛び火してくる可能性も、現在の日本の政治情勢などを見る限りにおいて、ないとは言えない。
2011.8.8「米国債の格下げで、米国債が買われる理由とは」
米国の大手民間の格付会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、6日、米国の長期格付けを最上位のAAAからAA+に1段階引き下げた。この米国債の格下げをきっかけに世界の金融市場全体に一時的な動揺が走る懸念があるため、今朝早くアジア市場が開く前に、先進7か国の財務相と中央銀行総裁が緊急の電話会議を行ない、為替の過度な変動や無秩序な動きは金融安定に悪影響との認識が示された。
8日の東京株式市場では、リスク回避の動きから売りが先行し、後場に入り200円を超える下げとなった。これは上海総合株価指数などアジア株の下落が影響している。その結果、安全資産として日本国債はあらためて買いが入り、債券先物は先週末比10銭程度の上昇となっているが、同様に買われている国債がある。米国債である。米10年債利回りは2.51%近辺に低下し、先週末の引け水準2.56%近辺から低下しているのである。
そもそも株式市場などでの動揺の原因は、米国債の格付けが下げられたからであるが、その米国債そのものはむしろ買われているのである。ちなみに、利回りが低下しているということは価格は上昇していることである。このあたり詳しく知りたい方は拙著、「債券と国債のしくみがわかる本」をお読みいただきたい。
つまり今回の米国債の格下げによる影響としては、米国債の価格下落が危惧されたというよりも、これによりリスクオフ、つまり安全資産に資金を移す動きが強まったことになる。その結果、米国債が買われるというなかなか不可解な状況を作り出している。
市場では、米国債の格下げによる米国債の価格下落などは念頭にはないようで、米国や中国の経済鈍化や、欧州の債務危機のほうに視線を移しているように思われる。さらに欧州では今度はイタリアの動向が注視されるとともに、次はフランスが標的にされるとの見方も出ている。
なぜ米国債の格下げで米国債が売られにくいのかについては、先日書いた「米国債の格下げの影響を考える」を読んでいただきたいが、米国債の格下げでなぜ米国債が買われるのかの理由については、理論立てての説明が難しい。しいて言えば、風が吹けば桶屋が儲かる、という連鎖的な反応ということになるが、裏返せばそれだけ米国債への信任は厚いともいえそうである。あまりに規模が大きすぎて、売るに売れないという後ろ向きの見方もあるのかもしれないが。
2011.8.8「金融緩和や為替介入にはサプライズも必要に」
日本時間で3日の夕方に、スイスの中央銀行であるスイス国立銀行は突然、声明を発表し、政策金利である3か月物LIBORの目標レンジを0.00-0.75%から、0.00-0.25%に引き下げ、さらに準備預金残高をこれまでの300億スイスフランから800億スイスフランに引き上げるとした。この日は金融政策を決定するための会合の予定はなく臨時会合で決定されたと思われるが、これはサプライズとなり、この発表を受けて、外為市場ではスイスフランがドルなどに対して下落した。
スイスフランの上昇に対して、スイスの中央銀行であるスイス国立銀行は昨年、大規模なスイスフラン売りユーロ買いの為替介入を実施したものの歯止めがかからず外貨資産で2600億スイスフランの損失を出していた。このため、今回のスイスフラン高に対しては、介入再開ではなく、まずは機動的でサプライズとなった金融緩和策でまず対応してきたものと思われる。このように市場にとって良いニュースとなるものはサプライズとなればその効果は大きくなる。
先週はじめに円高を是正するために政府・日銀は緊急策の検討に入り、政府は介入を準備、日銀は今週開かれる決定会合で追加緩和を検討すると伝えられた。米債務問題を巡って日米欧での電話による協議の中で、為替の動きに極めて強い懸念を表明し、日本側から必要に応じて円売り介入を断行する意思を伝えられ、それに対し米当局は了承したとも伝えられた。
しかし、このようなことを事前に漏らしてしまうと、市場は心の準備をしてしまうことで、実際の効果はかなり薄れてしまう。金融市場は市場参加者のマインドによって動いているということを認識すべきである。これはスイス国立銀行の昨年の為替介入を見てもしかるべきである。それでも何らかの手段で、円高などの動きを抑えようとするのならば、マーケットの心理状態を読みながら行なう必要がある。
実際に4日に政府・日銀は円買いドル売りの為替介入を行なった。結果として77円近辺から80円近辺までドルは戻したが、マーケットにサプライズを与えてドルが買われたというよりも、4.5兆円以上もの資金を使って力ずくで持ち上げたような格好となった。
また、日銀は、4日の午後から予定していた金融政策決定会合を午前11時15から前倒しで開催し、それも1日だけに短縮し、今日中に一段の金融緩和を決める見通しとも伝えられた。日銀は今年3月14、15日の会合も、震災を受けて1日短縮し14日の金融政策決定会合で追加緩和策を決定している
日銀の追加緩和策は、資産買入等の基金を40兆円から50兆円と10兆円追加した。このうち資産の買入れを10兆円から15兆円に、固定金利オペを5兆円から10兆円に拡大した。資産の買入れについては、長期国債を2兆円、国庫短期証券を1.5兆円、CP等を0.1兆円、社債等を0.9兆円、ETFを0.5兆円、REITを0.01兆円増額する。固定金利オペについては6か月物を5兆円増額する。
決定会合を1日に縮小するなどサプライズな面はあったものの、追加緩和の内容はすでに報じられていたものにとどまり、10年債利回りは一時1%割れまで低下する場面はあったものの、結局、前日の引け値よりも下落するなど、追加緩和による市場へのインパクトは一時的なものとなった。
政府や中央銀行による市場対策としてまず念頭に置く必要があるのは、マーケットが懸念しているようなものに対しては事前に織り込ませることが重要となり、マーケットが期待していることについてはサプライズ効果が重要となるということである。
金融緩和や為替介入については、その効果を高めるには3日のスイス国立銀行の金融緩和のように、前触れもなく突然発表されるほうが市場への影響は大きい。日銀は動くと事前認識されてしまえば、市場は身構えてしまうことも確かである。
これに対して市場に対する悪い材料は、サプライズとなることは極力避けて、なるべく早く知らしめ、市場に浸透させる必要がある。それに対してどうすればよいのか、むしろ市場参加者に投げかけるなどして、当局と市場参加者が問題を共有し、対策を練るなどすれば、市場への悪影響は限定的となる。これはたとえば国債の増発について突然発表するようなことはなく、国債市場特別参加者会合などで意見交換をして、その結果、市場に浸透させていることなどもひとつの良い事例となろう。
市場は悪いサプライズなことには極端に大きく反応する。ギリシャ・ショックもその例となろう。日本でも悪い材料に反応した事例のひとつとして、1998年の運用部ショックがある。こういった悪い材料に対するサプライズは、やり方次第では防げるものもあるため、極力避けるする努力が必要である。ただし、市場が望むようなことについてはサプライズも意識して行なうほうがある意味効率的でもある。
2011.8.7「米国債の格下げの影響を考える」
米国の大手民間の格付会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、6日、自国である米国の長期格付けを最上位のAAAからAA+に1段階引き下げた。S&Pは1941年に米国の格付けを最上級格のAAAを付与していたが、米国債の格下げは初めてとなる。もうひとつの大手民間格付会社のムーディーズは、すでに米債務上限引き上げの合意を受け、米国債の格付けを最上位のAAAに据え置くと発表しており、またフィッチ・レーティングスも2日に米国格付けは最上位に据え置くと発表している。今回はS&Pだけが格下げに動いたが、これは市場ではある程度その可能性は織り込んでいた。
1998年11月にムーディーズが日本国債を格下げした際に、市場への影響が限定的であったように、この米国格下げによる影響は限定的だと思われる。日本の場合にはその95%程度を国内資産で賄われているために、売り手が限られるとの見方があった。ただし、そもそも日本国債の買い手にとり、その代わりとなるような巨額な残高を持つ安全資産がほかに見当たらないということも大きかった。それと同様に米国債についても、ひとつの「民間会社」が格付けを1ノッチ引き下げたからといって、投資家が保有する大量の米国債をいきなり売却することは考えづらい。それというのも金融市場における信用度、そして流動性などを見ても、ほかに代替資産が見当たらないためである。
米国債を大量に保有する国として中国、そして日本がある。日本については政府保有のものを含めて格下げがあったからといって、それを売却することは考えづらい。政治上の問題も当然出てこよう。中国についてはすでにドル資産一辺倒から他の資産に比重を移しつつあり、それを多少加速させる可能性はあるものの、やはりひとつの民間格付会社の格下げに、中国政府が大きく反応することは考えづらい。
そして、もうひとつ今回の格下げには気になることも報じられている。S&Pが5日通告してきた米国債の格下げ方針に、米財務省が「待った」をかけていたそうなのである。格付け変更の際に格付会社は該当する国の関係省庁などに事前通告をしているようであるが、米財務省は今回、S&Pが提出した報告を精査し、その結果、財政赤字の算定で2兆ドルのミスを発見し、S&P側に指摘し格下げの再考を促したそうである。しかし、S&Pはそのまま格下げに踏み切った。
また、米議会と連邦規制当局は、金融システムにおける格付会社の影響力を低下させ、S&Pやムーディーズ・インベスターズ・サービス、フィッチ・レーティングスが支配する同業界の競争促進を図る対策を盛り込んだ金融規制改革法(ドッド・フランク法)の実施方法を検討しているとブルームバーグが報じていたが、今回の格下げにより格付会社と政府・議会の間での対立の様相を強める可能性がある。
7月8日には、欧州委員会のバローゾ委員長は格付会社を規制しようという機運が高まりつつあるとの認識を示し、格付会社の適切な規制となり得る点についてコンセンサスがまとまりつつあると述べ、寡占化よりも競争原理を持ち込むのは良いことだとのコメントがあった。
ギリシャを発端とする債務問題について、格付会社による格下げが国債利回りの急上昇を招く要因となっていたことは確かである。今回の米国の格下げをきっかけに、欧米を中心として格付け会社に対する問題がクローズアップされる可能性がある。日本でも2002年4月に格付会社に対して意見書を提出している。ちなみに当時の財務相は塩川氏、そして国債課長は現在、NEWS ZEROのキャスター村尾氏であった。
このように今回のS&Pによる米国債の格下げによる影響、特に米国債に対する影響は限定的と思われるが、格付会社そのものに対して政府側からの批判の声が強まる可能性がある。民間の格付会社の格付けが世界の金融市場に多大な影響を与えるという構図については、やはり大きな問題を含む。今後、日米欧の債務問題がさらにクローズアップされることも考えられ、政府への警告という観点からは格下げも意味があるとの見方もあるが、市場に対して必要以上に動揺させるようなことは、なるべく抑えることも必要であろう。市場に対する規制強化はあまり望ましくはないが、格付会社の在り方は特にソブリンの勝手格付けに関して再考する必要があるのではないかと思う。ただし、これは市場をあまり動揺させなければ良いことでもあり、マスコミなども必要以上に騒ぎ立てしなければ良い問題でもある。今回のS&Pによる米国債の格下げについては、NHKが夏の甲子園での開会式、選手宣誓のタイミングで臨時ニュースを流していた。
2011.8.6「リスクオフの動きが加速した背景」
米国の債務問題はとりあえず解消したが、米国経済のソフトパッチ(経済成長の一時的な鈍化)が懸念され、さらに欧州ではイタリアやスペインの債務問題が今度は浮上するなどしたことで、リスクオフの局面が続き、リスクが比較的高いとみられる金融資産から比較的リスクの低い資産への移行が続いている。
4日の欧米市場ではこのリスクオフの動きが加速し、米国株式市場ではダウが512ドル安となり、またS&P総合500種は60ポイントの下げと2009年2月以来で最大の下げとなった。米国債券市場では、2年債利回りが過去最低水準をつけ、米10年債利回りは2.4%近辺に低下。資金を預金にも移す動きが出ていたようである。
また、欧州では昨日の英国10年債利回りも過去最低を更新し、2.67%近辺に低下した。さらにECBは国債購入を再開したものの、アイルランドとポルトガル以外の国債の購入予定はないとし、イタリアとスペインの10年債利回りは、引き続き6%台で推移していたのに対し、ドイツ連邦債は買われ、10年債利回りは2.3%近辺に低下した。
外為市場では、リスクオフの動きからスイスフランや円が買い進まれていたが、この対応のため、3日にスイス国立銀行は突然、金融緩和策を発表するなど対策を打ってきた。
さらに4日に政府・日銀は円買いドル売りの為替介入を行ない、日銀は予定していた金融政策決定会合を午前11時15から前倒しで開催し、それも2日の予定から1日だけに短縮し、資産買入等の基金を40兆円から50兆円と10兆円追加するという追加緩和策を決定した。
ただし、スイスや日本が自国の通貨高を是正しようとも、今回のリスクオフの原因が、自国の要因によるものではないことで、あくまで一時的にブレーキとして作用する程度にしか過ぎない。
今回の世界的なリスク回避の動きの背景には、米国経済の鈍化も指摘されている。確かに最近、発表された経済指標には事前予想を下回るものが多いが、それにしては市場の反応があまりに大きすぎる。米国のソフトパッチによる世界経済への懸念は大きな要因であると思うが、市場の不安の根底には、米国をはじめ欧州、さらに日本も加えて、政府そのものへの信用の失墜、さらに財政悪化により有効な対策がとれなくなるという懸念が存在しているのではないかと思われる。
米国の債務問題はぎりぎりになって解消されたが、市場では政府の動向に翻弄されることにもなり、危機的状況となる一歩手前まで追い込まれ、政府に対する信用を失った可能性がある。政府債務上限引き上げの合意には、歳出削減が盛り込まれ、これが米経済に影響する側面がある。そもそも政府債務上限を引き上げなければならないほど、米国の債務そのものが膨れ上がっているという事実もある。
欧州についても債務問題がイタリアやスペインまで波及しているものの、なんら有効な手立ては打ち出せずにいる。このまま本当にイタリアまで債務危機が本格化すると、手の施しようがなくなる懸念がある。また、英国も含め、欧州各国が財政再建の動きを強めれば、それは景気に対してマイナスの影響ととらえられよう。
そして、日本も同様である。政府債務の大きさは言うまでもないが、加えて、赤字国債発行法案は依然として成立の目処はたっていないような状況にある。さらに辞任の可能性を示唆したはずの首相が居座り続け、政権そのものがレームダック状態にある。
安全資産として円は買われているが、円買いの理由は日本政府を信用しているからではなく、あくまでドルやユーロよりはましであるとの逃避的な買いであろう。
また、巨額債務を抱えているはずの米国や日本の国債が買い進まれているのは多少、矛盾するところはあるものの、世界的な景気への懸念とともに、あくまで資金の逃避先として買われている面が強いと思われる。
また、今回の日本の為替介入について、米当局者は米国は支持しなかったと述べ、ECBのトリシェ総裁も日本の介入は、多国間の合意に基づくものではないと述べている。震災後の介入とは異なり、今回の「単独介入」については欧米ではあまり快く思っておらず、このあたり不協和音も見え隠れしている。
このため、今回のリスクオフの動きに対処するためには、市場に対する日欧米の政府に対する信用そのものを取り戻すことが最優先なのではなかろうか。そうでなければ、小手先の対策はむしろ市場の失望を買うだけということになりかねない。ただし、政府債務の問題の解決は非常に難しい。それだけに、余計に市場が動揺しているともいえるのではなかろうか。
2011.8.5「昨日の牛さん熊さん本日の債券(引け後)より」
熊「日本時間で3日の夕方に、スイスの中央銀行であるスイス国立銀行は突然、声明を出して金融緩和策を発表した」
牛「まさか、このスイスに触発されたわけではないと思うが」
熊「政府・日銀は4日、東日本大震災直後の3月18日以来となる円売りドル買いの為替介入を実施」
牛「さらに日銀は、きょう午後から予定していた金融政策決定会合を午前11時15から前倒しで開催し」
熊「会合そのものも1日だけに短縮し、今日中に一段の金融緩和を決める見通しとも伝えられた」
牛「日銀は今年3月14、15日の会合も、震災を受けて1日短縮し14日の金融政策決定会合で追加緩和策を決定している」
熊「どうやら日銀はサプライズも含め、日程短縮というのもひとつの技にしているような気もするな」
牛「3日の欧米市場は、結果としてはさほど大きな動きはなかったことで」
熊「4日の債券先物は前日比3銭安の142円20銭で寄り付き後、142円16銭を安値にじりじりと切り返す格好に」
牛「そして10時あたりからの為替介入とともに、決定会合の前倒しのニュースが流れ」
熊「追加緩和期待により、10時過ぎあたりから債券先物は上昇ピッチを強め」
牛「債券先物は一時、前日比26銭高の142円49銭まで上昇した」
熊「そして、10年債利回りは1%を一時割り込んだ。1%割れは昨年11月12日以来となる」
牛「その後は、決定会合の結果待ちとなったんやが」
熊「14時過ぎに発表された追加の緩和策の内容は」
牛「資産の買入れを10兆円から15兆円に、固定金利オペを5兆円から10兆円に拡大するというもの」
熊「資産の買入れに内容は、長期国債を2兆円、国庫短期証券を1.5兆円となるなどしたが」
牛「これはある程度、事前予想の範囲内でもあり、特にサプライズもなく」
熊「日銀は淡々と政府の動きに歩調を合わせた、という印象」
牛「このためか、この発表を受けて債券市場ではむしろ利益確定売りが入り」
熊「1%割れとなっていた10年債利回りは、1.015%と前日比5糸甘に後退」
牛「0.325%まで買われた5年債も、やはり5糸甘の0.350%に後退した」
熊「そして1.720%まで買われていた20年債も、変わらずの1.755%に後退」
牛「債券先物も上値が重くなり、大引けは142円21銭とほぼ朝方の寄り付き水準に」
熊「4日の東京株式市場は、日立と三菱重工が経営統合かとのニュースもあり」
牛「また、為替介入によりドル円も79円半ばあたりまで円安ドル高が進んだが」
熊「結局、今日の日経平均は前日比22円高と小幅に上げにとどまった」
牛「5日の米雇用統計の発表も控えていることもあるが」
熊「為替介入や日銀の追加緩和も効果はあくまで限定的、という感じとなった」
2011.8.4「2001年3月19日の日銀金融政策決定会合議事録より(続き)」
2001年3月19日の日銀金融政策決定会合の議事録を見ると、量的緩和の効果について委員の間でやり取りがあったことが伺える。
植田委員は、「暫く経ってみると大して景気も良くならないし、場合によっては物価も下がり続けている。そしてさらなる緩和要求が来て・・・長国買いオペ増額と思う。それで期待インフレ率が上がって金利が上がってくれたり、景気が良くなってくれば良いが、ならないと地獄になる」と発言している。量的緩和後の状況を見るとその通りになったが、一点異なる点は、地獄とまではならなかった点ではなかろうか。
そのあと武富委員からも「地獄だ」とのコメントがあった。確かにその後も幾度かの追加緩和に追い込まれていたが、日銀にとって地獄の様相とまではならなかったのではないかと思う。特に福井日銀となってからは国債の買いオペ増額を封印しており、まさにアナウンスメント効果を重視した政策となっていた。
植田委員からは、「5兆円を6兆円、7兆円に変えても現状期待インフレ率に響く合理的な理由はあまり考え難いと思う」との発言もあり、また、山口副総裁からは「やってみないとわからない領域がわずかに残っている」との発言もあった。
この日の会合は9時01分にスタートし、終了したのは夕方の5時27分とかなり長時間にわたって議論が続けられていたことがわかる。公表文のかなり細かいところまで議論されていたこともわかる。このあたり細心の注意も払われていたのであろう。
ただ、意外だったのは量的緩和の導入に反対していた速水総裁がこの会合で自ら量的緩和策導入を積極的に推し進めていた点である。かなり開き直っていたのであろうか。速水総裁に比べて、むしろ山口副総裁がかなり慎重な立場をとっていたように思われる。また、植田委員はその後の日銀の量的緩和の姿をある程度、イメージしていたように思われる。
現在、日銀は量的緩和ではなく包括緩和政策を行なっている。量的緩和政策では実質的な効果はあまりなかったとも見られていたことで、包括緩和ではリスク資産の購入等も行なっている。しかし、10年前に植田委員の指摘していたように、今回で言えば基金規模を増額してそれがどのように期待インフレ率に働きかけるのかは、その効果のほどは、はっきりしていない。しかし、実質的なゼロ金利政策を採用し時間軸政策も同時に行なっている以上、基金の規模の増額による市場に対するアナウンスメント効果に期待するほかないことも確かか。
これにより日銀は金融緩和に対して踏み込みが足りない。これではデフレ脱却など無理との意見も出ている。それであるならば、財政法で禁じられた財政ファイナンスを目的とした国債引き受けを行なえば、期待インフレ率が高まり、景気は回復するというのであろうか。確かに結果として、物価上昇や一時的な景気回復を招く可能性は高いと思う。しかし、それは開けてはいけないパンドラの箱を開けた結果であり、それがその後、何を引き起こすのかは過去の歴史を振り返れば、容易に想像できることでもある。
2011.8.3「あまり効果の期待できない為替介入と追加緩和」
米国の債務問題は期限ぎりぎりになって合意に向かうこととなった。債務上限を少なくとも2.1兆ドル引き上げ、歳出を2.4兆ドル以上削減するという米国債務の合意案が下院を通過し、上院の通過も確実視されており、成立する可能性が強い。
民主・共和両党指導部による米債務上限引き上げの合意が報じられ、債務問題についての懸念が後退したものの、昨日のニューヨーク外為市場でドル円は一時76円29銭をつけ、震災後の3月17日につけた過去最高値76円25銭に接近した。また、ドルはスイス・フランに対して過去最安値をつけた。
このドル売りの要因としては、今回の合意案では歳出削減幅が少ないとして格付会社が米国債を格下げする懸念が残ることも指摘されているが、それよりも米国景気に対する懸念の強まりが大きく影響を与えている。ちなみに格下げで本来ならば最も影響を受けるはずの米国債は引き続き堅調となっており、格下げの可能性は仮にあったとしても、それほど懸念する必要はないと思われる。
1日の米株式市場ではダウ平均は、朝方に140ドル近い上昇となったものの、発表された7月のIMS製造業景況指数が予想を下回り、これを受けてダウ平均は一転して140ドル以上下げる場面もあった。最終的には10ドル安となったが、29日に発表した第2四半期(4-6月期)のGDP速報値は年率換算で前期比プラス1.3%となり事前の予想を下回るなどしたことで、米景気の先行きへの懸念が市場で強まっていることをうかがわせる。
つまり、今回の円高というよりドル安の背景には、米債務問題によるドル売り圧力が後退しても、歳出削減の影響も加わり、米景気減速によるドル売り圧力が控え、ドル安が継続しているためと思われる。
2日付けの日経新聞によると、この円高を是正するために政府・日銀は緊急策の検討に入り、政府は介入を準備、日銀は今週開かれる決定会合で追加緩和を検討するそうである。記事によると、米債務問題を巡って日米欧での電話による協議の中で、為替の動きに極めて強い懸念を表明し、日本側から必要に応じて円売り介入を断行する意思を伝えられ、それに対し米当局は円売りドル買いの市場介入を容認する姿勢を示していたそうである。
変動相場制、つまり為替の居所が市場で決定される中にあり、特に昔に比べ市場規模が非常に大きくなっている外為市場での介入効果は、一時的なものになることは、これまでの介入の例を見ても明らかである。アナウンスメント効果は大きいことで一時的に円高圧力が後退するものの、外部環境に大きな変化がなければ、時間の経過とともに再び円高圧力が強まることになる。
ただし、今週4、5日にはちょうど金融政策決定会合も開催されることで、政府・日銀が一丸となって対応する姿勢を示せるタイミングでもある。
しかし、日銀が基金規模の拡大などの追加緩和を行なっても実質的な効果は限られる。こちらもまたアナウンスメント効果を意識したものとならざるを得ない。しかも、このように事前に期待が強まると、相場に織り込まれてしまうことでインパクトは軽減される面もある。
今回の円高理由が日本に原因があるわけでない点も注意する必要がある。つまり、米国の債務問題であったり、米国の景気動向が背景にある。また、イタリアやスペインの国債利回りが上昇を続けるなどしており、欧州の債務問題が新たなステージに移行する懸念もあるように、ユーロに対しても円は買われやすい状況にある。
さらに米国のGDPでは米国の景気回復が鈍化していることを示していたが、特に個人消費が低迷しており、これには高い失業率なども影響しているとみられる。その意味では今週5日に発表される雇用統計にも注目が集まる。つまり、5日にもし日銀が追加緩和を行なったとしても、この日の米雇用統計の内容のほうに注目が集まることにより、その効果がそがれる懸念もありうる。
為替介入も追加緩和もそう何度も切れるカードではない。しかも、実質的な効果は限られ、アナウンスメント効果期待となるとなれば、そのタイミングを計ることが重要である。それには、むしろある程度のサプライズも必要となろう。その意味では今週はカードを温存しておくことも考えておく必要があるかと思う。
2011.8.2「米債務問題後の懸念材料」
オバマ米大統領はホワイトハウスで会見し、米債務上限引き上げの協議で民主・共和両党指導部が合意したと発表した。その合意案とは、債務上限を少なくとも2.1兆ドル引き上げ、歳出を2.4兆ドル以上削減するというものである。
米財務省は8月2日までに債務上限を引き上げなければ以降の借り入れは不可能としていたが、この合意により米国債のデフォルト、さらに政府の窓口封鎖といった可能性は後退した。ただし、歳出削減幅が少ないとして格付会社が米国債を格下げする懸念はまだ残るようである。
これにより大きな不透明材料が後退するわけであるが、今後は米債務上限引き上げ問題により覆われていた別の懸念材料がクローズアップされてくる可能性がある。そのひとつは米国の景気動向である。
米商務省が29日に発表した第2四半期(4-6月期)のGDP速報値は年率換算で前期比プラス1.3%となり事前の予想を下回った。さらに、第1四半期(1-3月期)のGDP改定値も速報値のプラス1.9%からプラス0.4%に大幅下方修正された。また、1日に発表された7月のIMS製造業景況指数も50.9と前月の55.3から低下し予想も下回った。
GDPは過去の数字ではあるが、米国の景気回復がかなり鈍化していることをこのGDPが裏付けた格好となった。特に個人消費が低迷しており、これには高い失業率なども影響しているとみられる。その意味では今週5日に発表される雇用統計に注目が集まろう。
そして欧州の債務問題も再び浮上してくる可能性がある。28日に実施されたイタリアの10年債入札は、落札利回りが5.77%と事前予想を上回るなど低調な結果となり、さらに29日に格付会社ムーディーズはスペインの格付けについて、引き下げ方向で見直しすると発表した。これらを受け週末に向けてユーロ圏の債券市場ではイタリアやスペインの国債が売られた。ギリシャなどと異なり、経済規模も大きなイタリアやスペインへの債務懸念が今後さらに強まると、欧州の債務問題があらたな段階に移行する可能性もある。
今後の日本の債券相場動向を見る上では、このように米国の景気動向や欧州の債務問題の行方に注目が集まりそうであるが、国内での赤字国債発行法案の行方や景気動向にもあらためて注意する必要がある。
赤字国債発行法案については子ども手当の見直しが焦点となっているが、自民党は子ども手当以外にも標準を置くなどさらに強硬姿勢を強めている。こちらは米国の債務上限引き上げ問題問題ほどは緊迫化してはいないものの、すでに今年度入りして4か月が経過しており、まだ多少の時間的猶予はあれど、早期に成立させて政府の資金繰りを円滑化させる必要があろう。
赤字国債発行法案が成立しない限りは、どうやら菅総理は退陣する意思はないとみられる。日経等の世論調査で内閣支持率は19%に低下し、すでにレイムダック化している現政権が継続すればするほど政府への信頼度は薄れ、震災復興や原発問題などを抱えた重要な時期に政府がまともに機能せず、これが日本の経済にも深刻な影響を与える可能性もある。
このように米債務問題後の懸念材料をピックアップすると、日本の債券市場にはフォローとなるものが多い。ただし、それには日本の国債への信任が続くことが前提となる。菅首相にはなるべく早く退陣してもらいたいところではあるが、仮に日銀による日本国債の引き受け等を主張しているような人が後任となるようなことになれば、日本国債の信任に傷がつきかねず、それにより今度は日本の債務問題が世界の金融市場を揺るがしかねない事態となる可能性も否定はできない。
2011.8.1「2001年3月19日の日銀金融政策決定会合議事録より」
日銀は本日、2001年1月〜6月に開催された金融政策決定会合議事録等を公開した。2001年3月19日の日銀金融政策決定会合で、日銀は量的緩和政策を決定した。この日、どのような議論が実際に交わされていたのか、たいへん興味深い。さっそく、この日の議事録の内容を確認してみた。
量的緩和策とは直接関係はないが、この日の出席者を見ると、政府からの出席者にのちの日銀副総裁となる岩田一政氏が内閣府から出席しており、また現日銀総裁の白川氏は日銀執行部の中で企画室審議役として名を連ねている。
当時は米国のITバブル崩壊が意識され、議事録でもイリュージョンという言葉が出てきている。さらにデフレスパイラルという言葉も出てくる。
そして当面の金融政策運営方針のところでは、いきなり最初の発言者である藤原副総裁から量的緩和策への提案がなされている。従来の伝統的な政策手段に限りがあの中では、一定の歯止めをかけたいわば未知の領域に足を踏み入れることも止むを得ないとして、金利水準の引き下げとともに、量をターゲットにする政策を提案している。さらに時間軸政策の導入、長期国債買い切りの増額、その際に日銀の長期国債保有額の上限を銀行券残高とするという日銀券ルールについても指摘していた。これらは藤原副総裁の私案ではなく、ある程度、事前に練り込まれていた案であったと思われる。
時間軸や長期国債買い切り増額については前回の会合で篠塚委員が提案していたが、その篠塚委員は、時間軸政策についてこの提案はインフレーション・ターゲッティングとは一線を画していると述べている。
そして最後となった山口副総裁は、リザーブ・ターゲッティング的な枠組みに転換するのかどうかの問題について、少し抵抗を持っており、我々が主張してきた政策の発想とは、少なくとも私の頭の中では相容れない部分があるとして、言葉は控えめであるが実際にはかなり反対していた節が伺える発言となっている。
山口副総裁は、銀行システムにリザーブを追加的に供給し続けていくことにどれ位実質的な意味があるのか、リザーブ・ターゲッティングに転換することによって追加的な緩和余地が大いに生まれてくるような、ある種のイリュージョンを与えることになりかねないと思うと述べている。期待という部分については認めていても、山口副総裁は余り積極的になれない方式であると指摘している。
これは私自身も量的緩和策導入時に同様の感想を持っていた。しかし、日銀は量的緩和政策導入後、積極的にイリュージョンに働きかけることとなり、どれほどの実質的な効果があったかはさておいて、特に市場の期待に働きかけるため、リザーブ・ターゲトを数度にわたり引きあけて行くことになるのである。
そして、最後に議長である速水総裁が、「私は今回日銀当座預金残高という量のコントロールを通じて。自然に市場金利の低下を実現するという新しい方法を採ってみたいと思う」と発言し、量的緩和策の導入が決定されるわけであるが、そこに行き着くまでにはもう少し議論が行なわれているが、それについては次回、検証してみたい。
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