2012.2.29「プロの投資家とは」

 28日の日経新聞によると、AIJ投資顧問が運用を受託した企業年金資産の大半が消失した問題を受け、金融庁は多くの企業年金を「プロ投資家」と扱う現行の仕組みを見直す検討に入るそうである。資産規模が小さく運用体制が不自由分な場合は「一般投資家(アマ)」と見なし、金融商品を提案する際にはきめ細かい説明を金融機関に求める方向であるとか。

 2007年施行の金融取引法では、リスクのある金融商品の販売方法を厳しく規制する一方で、投資家を資産規模などに応じて一般投資家(アマチュア)と特定投資家(プロ)に分類している。

 法人投資家の場合、地方公共団体、政府系機関、上場会社、資本金の額が5億円以上の株式会社等、個人投資家の場合、取引の状況等から合理的に判断して純資産額及び投資性のある金融資産が3億円以上と見込まれ、かつ、最初の契約を締結してから1年を経過している者が特定投資家、つまりプロの投資家と認定される。

 相手がプロであるならば、複雑な書類を使った説明を受ける手間が省ける上に、プロ限定の私募投資信託に投資できるなどの「利点」があるそうである。つまり、AIJの問題に対して金融庁は、規制強化ではなく現行の規制の対象を見直すことで対応するとしている。

 AIJ投資顧問の問題については、運用益が出たのは最初の1年だけで、その後は損失を出し続けていたとの同社幹部による証言もあったようだが、これではそもそも資金運用者がプロとは言えまい。損失を隠していたことはプロとかアマという以前の問題であり、これも金融機関のプロとは決して言えない。

 投資家のプロとアマの線引きをすることそのものが、たいへん難しい問題であり、アマチュアだから詳しく説明をすれば良いという問題でもそもそもなかろう。

 投資家のプロというのは、投資のリスクを理解した上で、自らの判断で資金運用ができるものであろうが、そこにひとつ重要な要素がある。それは経験と知識である。だから、個人については「1年を経過している者」という条件が付いていると思うが、これはあくまで自ら相場に直接関わった経験でなければならないはず。他人に運用を任せていては、現場での相場感覚は身につかず、投資のプロとは言えまい。

 さらにもうひとつ必要なのが金融知識である。ある程度の金融知識と相場経験があれば、いくら巧妙に隠していたとはいえ、AIJの投資手法に疑問を感じる部分があったのではなかろうか。投資のプロであれば投資先の運用手法についても、ある程度は把握していなければならないはずである。それがわからなければ運用は任せるべきではない。結果の数字だけで判断するのでは、プロの投資家とは言えまい。

 投資家のプロの理想像を追い求めるわけではないが、会社の規模や資産額などでプロとアマを区別することには、やはり疑問を感じる。少額の個人投資家でも、投資のプロはいるとみられ、AIJのように本来はプロ中のプロのような法人投資家でも、アマチュアのような投資家が存在する。自分のディーラー経験からも、いろいろなプロの投資家が存在するのを見てきた。中には、今回のAIJのように犯罪に手を染めた者もいた。もちろん、安定的に利益を出せるディーラーもわずかながら存在していたことも確かではある。

 投資にはリスクが伴うというよりも、投資により利益を生み出すことそのものが容易ではない。プロの投資家であれば、まず知っておかなければいけないのは、この部分ではなかろうか。




2012.2.25「野田首相と白川日銀総裁の差しでの会談の意味」

 24日付けの日経新聞によると、野田首相は23日の衆院予算委員会で白川日銀総裁との会談について、「定期的というよりは随時、頻繁に会う」と表明したそうである。そして、記事によると首相と白川総裁は14日の金融政策決定会合の翌日、都内で二人きりで朝食をともにしたという。

 15日の会談については当日にベンダーなどで伝えられていたが、野田首相と白川日銀総裁の二人きりでの朝食であったという点が少し気になった。たとえば、米FRB議長がFOMC後に財務長官ではなく大統領に直接報告をしに行くであろうか。米国と比較するな、と言われそうだが、「14日の決定会合」の翌日に首相が日銀総裁と2人で朝食をともにして、いったい何を話したのか非常に関心がある。

 14日の金融政策決定会合では、中長期的に持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率として「中長期的な物価安定の目途(Goal)」を示すことにすることを決定し、実質的なインフレ目標を導入した。さらに資産買入等の基金をこれまでの55兆円程度から65兆円程度に10兆円増額することも決定した。これは日銀にとっては大きな政策転換であったと個人的には思っているが、マーケットでもこれが好感され円安株高をさらに進行させることとなった。

 野田氏は首相になる前2010年6月8日から2011年9月2日にかけて財務大臣に就任していた。2008年4月に日銀総裁に就任した白川氏とは、G7やG20などでは当然ながら同席し、旧知の間柄であったはずである。

 ただし、日銀総裁が議員として出席する経済財政諮問会議は政権交代後、凍結状態となり、政府と日銀の意見交換の場は失われていた。これについて首相は、「総裁、副総裁と関係閣僚との会合は定期的にすることも検討したい」と述べる一方で、白川総裁との2人きりの会談に対しては「随時、頻繁」と別に開く考えを示したという(日経新聞)。

 財務大臣などを交えずに、首相と日銀総裁が差しでしかも頻繁に話をするというのは異例ではなかろうか。

 野田首相は、たとえば先月27日の衆院本会議の各党代表質問でデフレ脱却に関し、「日本銀行と一体となって速やかに安定的な物価上昇を実現することを目指して取り組む」と表明するなど、これまでも日銀をかなり意識した発言を行っていた。

 2月14日の日銀によるインフレ目途政策というか実質的なインフレ目標政策の設定とともに追加緩和を行った背景には、政治的な圧力があったのではないかとの見方があった。これについては圧力はさておき、翌日に首相と朝食を2人でとったということは、その報告も兼ねてか、もしくは首相が前日の日銀の動きを評価してのものと考えてもおかしくはないのではなかろうか。

 このようにデフレ脱却に向けて政府と日銀が一丸となって取り組む姿勢は好感されよう。しかも、野田首相ではトップ同士での直談判というか、直接の意見交換を重視する姿勢を示した。これは日本の政治でのやり方としては極めて異例にも感じるが、その効果等を考えれば、方法としては正しいのかもしれない。




2012.2.24「物価に対する理解・目途・目標の違い」

 2月17日の白川日銀総裁の講演内容から、あらためて物価に対する「理解」と「目途」、「目標」の違いについて探ってみたい。

 各国中銀の各国の中央銀行の物価安定の数値表現については、イングランド銀行は目標(target)」、欧州中央銀行やスイス国民銀行は定義(definition)、FRBはこれまで採用していた物価の長期的な見通し(longer-run projection)を、1月25日に長期的な目標(longer-run goal)に変更している。そして日銀はこれまでの物価安定の理解(understanding)から物価安定の目処(goal)に変更している。

 日銀の言う「理解」とは、物価が安定していると各政策委員が理解している物価上昇率を個別に提示し、それらを包含する範囲での数値表現、つまり各委員の見解の集合体という位置づけと、総裁は説明しているが、これは「固定的なイメージ」の強い「インフレ目標」とは一線を画すために、このような表現にしたのではないかと、私は推測している。

 ところがFRBが1月25日にインフレ目標に近いかたちを示したことで、日銀もさらに踏み込んだ対応を行うことを検討したと思われる。ちなみにFRBが長期的な目標設定を発表する直前に開催された日銀の金融政策決定会合では次のような発言があったことが、議事要旨(1月23日・24日)に記されていた。

 「政策金利を巡る時間軸について、委員は、中長期的な物価安定の理解に基づき、物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで、実質ゼロ金利政策を継続していくとの方針を、これまで以上に粘り強く対外的に説明していくことがきわめて重要との認識を共有した。何人かの委員は、こうした時間軸の示し方は、現下の日本経済の情勢等を踏まえると、金融政策の透明性や有効性の観点から適切であるが、米国FRBがコミュニケーション政策を見直していることもあり、情報発信のあり方については不断に点検を続けていくことが重要であると付け加えた」

 「これまで以上に粘り強く対外的に説明していく」、「情報発信のあり方については不断に点検を続けていく」との発言は、2月14日の会合での理解を目処に変更したことに繋がっていったものと推測される。

 そして中長期的な物価安定の目途について、これまでの理解との違いを白川総裁は講演で説明している。第1として今回の「目途」は「各政策委員の見解」ではなく、「日本銀行としての判断」であるということを指摘している。そして第2として、物価安定の領域として「消費者物価の前年比上昇率で2%以下のプラス」としたうえで、「当面は1%を目途とする」ことを明確にしたとする。

 それではなぜ「目標」あるいは「ターゲット」という表現を使わなかったのかという点について総裁は、「今回の目途は、中央銀行の使命と整合的な物価上昇率を数値的に示し、それを中長期的に目指していくという点では、ターゲットという表現を使っている国の中央銀行と、考え方そのものに大きな違いはありません。しかし、わが国では、インフレ目標という言葉が、一定の物価上昇率と関係づけて機械的に金融政策を運営することと同義に使われることも未だ多いように思われます」

 つまり、1%という目途というか目標を設定した以上、それを達成するために無理矢理物価上昇を促すような政策を取るというのではなく、中長期的にみた物価や経済の安定を重視して行われる政策が重要であるとしている。

 その上で、「そうした金融政策運営の実態にもっとも相応しい日本語の言葉は、中長期的な物価安定の目途であると判断しました。」とある。しかし、本当に「目処」という表現で良かったのかどうか。私は、あまりぱっとしない表現と感じてしまったのだが。ただし、ゴールという英語の表現は使いづらく、また目標とすると機械的なインタゲとも捉えられかねず、「固定的なイメージ」も強い。このため、目処という言葉の選択は、苦肉の策というか苦肉の表現であったと推測される。

 いずれにせよ、昔、バーナンキ教授が主張していた「固定的なイメージ」に近いインフレのターゲットと、今回、FRBや日銀が採用したインフレのゴールとはやはり別物であるとの認識であろう。ただし、インフレ目標の定義そのものが、物価上昇(インフレ)率の目標値(または範囲)を設定・公表して、その達成に向けて中央銀行が「金融政策運営を実施する」という金融政策の「枠組み」とするならば、まさにFRBも日銀も実質的なインフレ目標を設定したと言えよう。




2012.2.23「個人向け復興応援国債の概要が明らかに」

 21日に財務省は、個人向け復興応援国債(「個人向け利付国庫債券(変動10年)」第801回債)の発行条件等を発表した。新型の個人向け復興国債といえる個人向け復興応援国債は変動金利型の10年債であるが、当初3年間の金利は年0.05%(税引後0.04%)と通常の変動金利型より低い変わりに、購入から3年間に中途換金しなければ金額に応じて復興記念の金貨や銀貨がもらえるというものである。4年目からの適用利率は「基準金利×0.66(下限は0.05%)」として、通常型と同じ金利になる。2012度にも四半期毎に複数回の募集を予定しているそうである。

 第801回債の募集期間は3月5日から3月30日まで。発行日は4月16日。利払い日は毎年4月15日及び10月15日の年2回、償還期限は2022年4月15日となる。中途換金等については、これまでの個人向け国債の変動10年と同じ条件となり、第2期利子支払日(発行から1年経過)以後であれば、いつでも中途換金可能となる。ただし、直前2回分の各利子(税引前)相当額×0.79685が差し引かれる。

 財務省の発表によると、復興応援国債の発行の日から3年目に当たる利払日(15日)を基準日として、基準日に「100万円以上の残高を有している方」を対象に、残高1000万円毎に一万円金貨を1枚、100万円毎に千円銀貨1枚を、国債購入者限定特製ケースに入れて財務省または取扱金融機関から発送するそうである。

 そして今回、記念貨幣の形式等についての発表もあり、金貨と銀貨のデザインも発表された。金貨と銀貨の共通面として、津波に耐えた高田松原の一本松がデザインされている。個別面として金貨は、東北地方の地図とともにハトが飛んでいるデザインとなり、銀貨については「たわわに実る稲穂」と「大漁旗を掲げた船」がデザインされた。この記念貨幣のデザインは、各回号(募集月)毎に異なり、一つの回号(募集月)につき金貨・銀貨各々一種類となるそうである。

 また、この記念貨幣の一部は造幣局から抽選販売される予定とも伝えられたが、かなりの競争率となることも予想され、確実に金貨と銀貨を1枚ずつ入手するためには1100万円の個人向け復興応援国債を購入した上で、最低3年間途中換金しないことが条件となる。

 金貨の額面は1万円であっても純金であり、その重さは15.6グラム(二分の一トロイオンス)とその価値は金価格の変動により変わるがプレミアムが付く。銀貨も31.1グラムの純銀である。現在での金や銀の価格を考えれば、1000万円の資金は他の個人向け国債等に投じた方が利息そのものは多いかもしれないが、復興支援であり、プレミアム付きの記念貨幣を確実に入手できるとなれば、ニーズはあると思われる。

 個人向け国債の購入者の多くは年配者であり、また1000万円以上の金額を3年間寝かせておけるのもやはり年配者が多くなると予想される。銀行に預金保険の対象となる1000万円まで預け、それ以上の資金は個人向け国債を購入しているという個人投資家もいるようである。金額に応じて記念貨幣がもらえる個人向け復興応援国債にどの程度のニーズが存在するのかはやや不透明ながら、個人向け国債が個人向け復興債となって販売額が大きく増加したように、今回の個人向け復興応援国債も意外と人気化するのではないかと予想している。




2012.2.22「意外に興味深いカード利用の国際比較」

 ツイッターでクレジットカードで決済される金額の国際比較みたいなものはないかとのツイートを見て、そういえば「金融の基本とカラクリがよーくわかる本」を書いた際に、日銀の小口決済に関わるレポートを参考にした記憶があり、検索したところ、面白いレポートが日銀のサイトにアップされていた。今回はこの内容をご紹介したい。ちなみに、拙著の「金融の基本とカラクリがよーくわかる本」は、もうすぐ改訂版が出る予定でもあり、こちらもよろしくお願いしたい。

 その日銀のレポートの題名は「最近のリテール決済を巡る動向」というもので、昨年12月15日に日銀の決済機構局が出したものである。

「最近のリテール決済を巡る動向」 http://www.boj.or.jp/announcements/release_2011/data/rel111222a5.pdf

 ここで興味深いのは「小口決済手段の国際比較」の箇所である。まず、「クレジットカード」年間決済金額を名目GDPで割った数値を米国と英国、そしてドイツと日本を比べた結果、やはり米国がトップであった。しかし米国は2008年から2009年にかけやや減少しており、これはリーマン・ショックなどの影響が出ていたものと推測される。これに対し日本はこの期間を含めて右肩上がりになっていた。このため、クレジットカード年間決済金額/名目GDPでは、すでに英国を抜いている。



 また、この数値ではドイツに関してはゼロに近い状態が続いている。ドイツ人がクレジットカードは全く使わないということは考えづらい。そこで調べて見ると、ドイツではECカードと呼ばれる多機能なICカードがクレジットカード以上に使われているようである。つまり、それはデビットカードと呼ばれるものである。  ちなみに、デビットカード(Debit Card)とは、1取引毎に銀行の口座から(即時に)引き落とされる決済サービスの総称名であり、日本ではJ-Debitサービスというサービスがある。

 そのデビットカードの年間決済金額/名目GDPというのもこの資料で確認できる。それによると、英国が右肩上がりで上昇しており、英国はクレジットカードよりデビットカードを利用する人が増えているようである。米国でもデビットカードを利用する人が増加しているようで、ドイツでもある程度利用されていることが伺える。それに対して日本ではグラフ上ではほぼゼロに近い状態となっている。

 欧米ではクレジットカードよりもデビットカードの利用が増加している。できるだけ借金しての買い物は控えようということなのであろうか。それに対して日本でのクレジットカードの利用額の伸びは、米国のように借金しても物を買うという消費構造に向かっているというよりも、クレジットカードが利用できる場所の増加で利用する機会が増えたためではないかと推測される。

 そして、電子マネー年間決済金額/名目GDPというグラフもある。これをみるとシンガポールが非常に高い数字となっている。シンガポールでは「ez-link Card」と呼ばれる電子マネーが普及しているようで、人口を遙かに超える枚数が発行されているそうである。ただし、そのシンガポールは2009年から2010年にかけてはやや落ち込んでいる。これに対して急速に伸びているのが日本である。これはスイカやパスモなどの普及が大きく影響していると思われる。また、韓国も伸びている。これに対してドイツやフランスではほぼゼロの状態にある。

 そして、もうひとつ現金流通残高/名目GDPというグラフを見ると、ユーロ圏、米国、英国に比べてダントツに高いのが日本である。電子マネーやクレジットカードの利用が伸びてはいるものの、やはり現金そのものを日本人は持ち歩いていることが伺える。東日本大震災の際に、現金しか利用できない状況を私も経験しており、今後も日本人の財布の中から現金が消えることは考えづらい。

 このようにリテール決済の状況は、いろいろと国ごとに特色があるようで、これは現地に滞在したことのある人は知っているかもしれないが、意外と実情を知らない人も多いのではなかろうか。このようなリテール決済の動向が景気に直接影響するようなことはないかもしれないが、それぞれの国の特色を知っておくと、消費動向をみる上でも参考になるのではなかろうか。




2012.2.21「1月の公社債投資家別売買高より」

 20日に日本証券業協会は1月の公社債投資家別売買高を発表した。短期証券を除いた公社債売買高でみるとほぼ全業態で買い越しとなっていた。

 短期証券を除いた公社債売買高で、都市銀行は7717億円の買い越しとなり、12月は2兆5724億円の売り越しに転じていたが再び買い越しとなった。都市銀行は2011年3月以降は売り越しと買い越しが交互に繰り返されており、今回も同様となった。国債の投資家別売買高でみると超長期を4670億円、長期を3310億円買い越したが、中期債は582億円の買い越しにとどまり、国庫短期証券は1兆5731億円の売り越しとなっていた。

 地方銀行、信託銀行、農林系金融機関はそれぞれ6955億円、7101億円、7616億円の買い越しに。国債でみると地銀は中長期、信託と農林系は超長期と中期主体に買い越しとなっていた。

 信金は4724億円、そして生損保は4110億円の買い越しに。信金は長期債主体、そして生損保は超長期主体での買い越しとなった。ただし、生損保の超長期主体での国債の買い越し額は1695億円と2009年5月以来の低さとなっており、これが一時的なものであるのかどうかも注意したい。

 そして海外投資家は4459億円の買い越しとなっており、国債でみると中期債を4715億円買い越していた。また、国庫短期証券は11兆8048億円の買い越しとなった。今年に入りユーロ圏の信用不安はやや後退したかに見えたが、海外投資家による中短期債主体の日本国債への買いは継続しているようである。直近の国庫短期証券への海外投資家の買い越し額をみると、昨年10月が10兆1447億円、11月が14兆3241億円、12月10兆6589億円、そして今年1月が11兆8048億円となっている。ただし、2月に入ってからは多少なり、海外投資家による短期債への投資は後退しているように思われる。




2012.2.19「物価安定の目途(ゴール)とはインタゲなのか」

 2月14日の日銀の金融政策決定会合では、中長期的に持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率として「中長期的な物価安定の目途(The Price Stability Goal in the Medium to Long Term)」を示すことにすることを決定した。「中長期的な物価安定の目処」とは、消費者物価指数の前年比上昇率で2%以下のプラス領域にあるとある程度幅を持って示すこととした。その上で、「当面は1%を目途(Goal)」として、金融政策運営において目指す物価上昇率を明確にした。

 この物価安定の目処について、白川総裁は会見で次のように述べている。

 「この数字(物価安定の理解)は、個々の委員の数字を集めているもので、必ずしも、日本銀行という組織、日本銀行政策委員会としての意思、判断を表すものになっていないのではないかという批判がありました。これに対し、今回の「目途」という数字は、日本銀行政策委員会としての判断を示したものであり、そこが大きな違いです。」

 「物価安定と整合的な物価上昇率をどのような言葉で呼ぶかは、それぞれの中央銀行の置かれた状況によって異なると思います。FRBは、今回、「longer-run goal(長期的な目標)」という言葉を導入しました。ECBあるいはスイス国民銀行は「definition(定義)」という言葉を使っています。BOEは「ターゲット」という言葉を使っています。日本銀行は「目途」という言葉を使っています。」

 「わが国ではインフレ目標という言葉が、目標物価上昇率との関係で金融政策を機械的に運用することと同義に使われることが――もちろんそれだけではありませんが――多いように思います。」

 「実際の金融政策運営は、いわゆるインフレーション・ターゲティングを採用している国を含めて、物価の変動と目標との関係で機械的に金融政策を運営するのではなく、今は、中長期的にみた物価や経済の安定を重視した政策運営をするようになっています。日本銀行は、そうした金融政策の運営の仕方を表すのに最も相応しい言葉は何かを考え、中長期的な物価安定の目途という言葉を今回使いました。」

 白川総裁は、インフレ目標もしくはインフレ・ターゲットという言葉が、目標物価上昇率との関係で金融政策を「機械的に運用する」ことと捉えてほしくなかったために、あえて目処という表現をし、さらにその英訳では目途(Goal)とすることで、FRBが1月25日に発表した政策に似ていることを示したのではなかろうか。これについては下記のような発言も白川総裁からあった。

 「日本国内の新聞各紙の報道を見ても、随分、日本語の用語が異なっていたわけですが、バーナンキ議長は、longer-run goalという言葉を使った上で、記者会見でインフレーション・ターゲティングではないと、はっきりとおっしゃっています。」

 物価目標を設定し何が何でもそこに向けて政策を行うということではないことを、あらためて示したものであろう。しかし、それではこれまでの物価安定の理解とほとんど変わりのないもので、単に表現を変えたものでしかないことになる。そこで、総裁は次のような発言もしている。

 「ただ、本人(バーナンキ議長)の否定にも拘わらず、仮に今回のFRBの金融政策運営の枠組みをインフレーション・ターゲティングと呼ぶのであれば、日本銀行の今回の金融政策運営の枠組みは、FRBの金融政策運営の枠組みに近いということは言えるように思います。」

 このあたりに本音が隠れているかに思える。今回の日銀の政策変換はかなり大きなものであったと思う。それはまさにこれまでその採用を見送っていたインフレーション・ターゲティングを実質的に日銀が採用したと思われるためである。しかし、それを強調してしまうと、その目標数値に縛られかねない。現在、インタゲを採用している国も、たとえばイングランド銀行しかり、しゃかりきにその目標値に物価を調整させようとしているわけではない。ただし、インタゲはインタゲであろう。

 インフレ・ターゲットとは、物価上昇(インフレ)率の目標値(または範囲)を設定・公表して、その達成に向けて中央銀行が金融政策運営を実施するという金融政策の「枠組み」とのひとつの定義がある。日銀は今回、「当面は1%を目途」として、金融政策運営において目指す物価上昇率を明確にした、としている。これはまさに、実質的なインフレ・ターゲットという枠組みを導入したということになろう。




2012.2.18「米国債保有額のツートップ、日本と中国の保有額が接近」

 米財務省が2月15日に発表した2011年12月の米国債国別保有残高(MAJOR FOREIGN HOLDERS OF TREASURY SECURITIES、http://www.ustreas.gov/tic/mfh.txt)によると、日本の米国債(短期債含む)は、1兆424億ドルとなり2か月連続で1兆ドルを超えた。

 国別でのトップは引き続き中国で、12月は1兆1007億ドルとなっていたが、前月の1兆1326億ドルからさらに減少し、日本の保有額との差がさらに縮まった。

 上位10か国は次の通り(単位、10億ドル)。中国(China, Mainland)1100.7 、日本(Japan)1042.4、英国(United Kingdom) 414.8、石油輸出国(Oil Exporters) 233.5、ブラジル(Brazil)206.9、カリブ海の金融センター(Carib Bnkng Ctrs)174.8、台湾(Taiwan)149.2、スイス(Switzerland)116.2、香港(Hong Kong)112.0、カナダ(Canada )96.6。

 11月に比べて英国やカリブ海の金融センターが保有額を減少させており、ユーロ圏諸国の信用不安による米国債投資の動きが幾分か和らいだようである。そして今回10位となり、ロシアと入れ替わったカナダがここにきてじりじりと米国債の保有額を増加させつつある。ただし、中国と日本のツートップの金額が突出していることは確かであり、この2か国でトータルの4兆7321億ドルの45%と約半分近くを占めていることに変わりはない。

 11月に統計がさかのぼれる2000年以降はじめて日本の米国債保有が1兆ドル超えとなったが、この要因としては、昨年10月末の大規模介入によって得たドル資金を米国債に振り向けているとみられ、その動きが継続しているものと思われる。

 ちなみに財務省が2月7日に発表した2011年10〜12月の外国為替平衡操作の実施状況によると、10月31日の8兆722億円に続き、政府・日銀は11月1日に2826億円、2日に2279億円、3日に2028億円、4日に3062億円のドル買い円売り介入を行っていたことが明らかになっている。

 財務省が2月7日に発表した1月末の外貨準備高は、昨年12月末に比べ、108億2700万ドル増の1兆3066億6800万ドルとなり、これは昨年11月末の1兆3047億ドルを超えて2か月ぶりに過去最高を更新した。12月末の外貨準備高は1兆2958億ドルと11月末に比べてやや減少していたが、その後の米国の長期金利低下により保有している米国債の価格が上昇したことや、対ドルでユーロが上昇して評価額が増えたことなどが主な要因と指摘されている。また、また外貨準備に占める預金が減少しており、昨年の大規模介入で得た米ドルを米国債の購入に充てた可能性もある。

 中国は外貨準備の多様化を進めていることなどから、今後も米国債の保有額は頭打ちとなるとみられ、日本の米国債の保有額は上記の理由などから今年に入っても増加しているものと思われる。いずれかの段階で日本が再び米国債保有の国別トップに返り咲く可能性がありそうである。




2012.2.17「14日の決定会合での全員一致には違和感」

 2月14日の日銀の金融政策決定会合では、中長期的に持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率として「中長期的な物価安定の目途」を示すことにすることを決定した。さらに緩和強化をはかるため、日銀は基金の増額も行った。この決定の採決については、委員全員が賛成した。

 今回の日銀による政策変更は「中長期的な物価安定の理解」から「中長期的な物価安定の目途」と言葉を換えただけに過ぎないとの見方は適切ではなかろう。これは、「当面は1%を目途として、金融政策運営において目指す物価上昇率を明確にした」との「中長期的な物価安定の目途」に関する表明文からも明らかである。

 インフレ・ターゲットの定義・解釈はいろいろとあるかもしれないが、インフレ・ターゲットとは、物価上昇(インフレ)率の目標値(または範囲)を設定・公表して、その達成に向けて中央銀行が金融政策運営を実施するという金融政策の「枠組み」であるとの見方があり、今回はまさに日銀はこれに沿った格好での政策変更を行ったともいえる。さらにこの政策変更は表現の変更だけに止めず、予想外ともいえる基金の増額も実施した。ここにきての外為市場や株式市場での、円安株高の動きなどからみて、市場参加者の多くはここまでの動きは想定していなかったと思われる。

 実質的なインフレ・ターゲット政策ともいえる今回の政策変更に際して、政策委員が全員一致で賛成したことに対しては疑問が残る。もちろん大きな政策変更であるから、全員一丸となって政策を取り決めたとの姿勢も重要かもしれないが、まったく反対意見はなかったのであろうか。

 FRBが物価に対して特定の長期的な目標(Goal)を置くこととし、結果としては日銀もそれに追随した格好となった。これは政治的な圧力も見据えての動きととられても致し方がない。このあたり、タイミングからも反対する意見はなかったのか。少なくとも日銀内部にはインタゲに対して過去には否定的な意見もあったはずであり、全員一致というのは、むしろ腑に落ちない。

 以前にも指摘したが、出身母体も異なる9人の委員がまったく同じ意見であるということは考えづらい。もちろん会合内での意見の対立があった可能性は十分にある。しかし、それが採決そのものに反映されていないとなれば、やはり委員会制度となっている政策委員会が形骸化しているのではないか、とみられてもおかしくはない。

 自分がもしも政策委員であったならば、今回の政策変更については反対していたと思う。このタイミングで、何故に日銀とすれば大きな政策変更とも言える、実質的なインフレ・ターゲットを採用しなければならないのか、その理由がはっきりしないためである。デフレに対して強力に対応するとするのなら、今までいったい日銀は何をしていたとのか、ということにもなりかねない。また、ここにきて急激にデフレ圧力が強まっているわけでもない。今回の政策変更の理由が納得できないとの理由での反対はおかしいであろうか。




2012.2.16「資産買入等の基金の増額による日銀の国債保有額への影響」

 2月14日の日銀の金融政策決定会合では、中長期的に持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率として「中長期的な物価安定の目途」を示すことにすることを決定した。さらに緩和強化をはかるため、日銀は基金の増額も行った。

 資産買入等の基金をこれまでの55兆円程度から65兆円程度に10兆円増額し、その増額対象は長期国債(期間1〜2年)とすることを決定した。資産買入の中での長期国債(期間1〜2年)の買入額は従来の9兆円から19兆円に増額される。これにより日銀の国債保有額はさらに増加する。

 日銀券ルールという縛りがある日銀による国債買入は毎月1.8兆円ずつ行われ、年間で21.6兆円の買入が行われている。

 現在、資産買入等の基金の残高は43兆円程度であるため、今回の増額分と併せ2012年末までに残高は22兆円程度増加することになる。資産買入の中での長期国債(期間1〜2年)の残高規模は19兆円とする予定だが、2月10日現在の基金国債買入の残高は3.8兆円しかない。

営業毎旬報告(平成24年2月10日現在)
http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2012/ac120210.htm/

 つまり、今年12月末までにあと15.2兆円買い入れる必要があり、およそ毎月1.5兆円規模の買入が行われることになる(今年途中で資産買入等の基金増額があった場合にはさらに増加も)。

 15日の日経新聞には、資産買入基金の増額により、日銀による長期国債の買い入れ額は年間で40兆円規模となるとあったが、これは毎月の通常の国債買入(日銀券ルール縛りあり)1.8兆円と基金による国債買入1.5兆円の3.3兆円を12か月買い入れた場合の合計金額39.6兆円規模を示したものと思われる。40兆円規模となれば、来年度の新規国債の発行額の44.2兆円近くを買い入れる規模となり、発行総額174兆円の23%程度を占めることになる。

 日銀は2010年6月に日銀は包括緩和策を決定し、実質的なゼロ金利政策を再開し、時間軸政策とともに基金オペの実施を決定した。その基金オペ中で、長期国債と国庫短期証券を合計3.5兆円程度買い入れることにしたが、この基金による長期国債の買入は、現行の長期国債買入とは異なる目的のもとで臨時の措置として行うものとし、これにより買入れて保有する長期国債は、日銀券ルールには縛られない国債買入とした。その後、2011年3月に資産買い入れ基金を増額し、その中には長期国債と短国の増額も含まれた。また、8月と10月にも基金の増額を実施した。

 日銀の国債保有額は2011年11月には再び90兆円の大台に乗せていたが、直近では83兆円規模となっている。今回の日銀による資産買入基金の増額により、日銀保有の国債残高はさらに増加し、いずれ2004年3月以来の100兆円台に乗せることも予想される。昨年は海外投資家による国債保有が増加していたが、今後さらに日銀による国債保有の増加が見込まれ、国債市場ではさらに需給面で好条件が加わることになる。




2012.2.15「ムーディーズによるユーロ圏6か国の格下げと仏・英の見通しの引下げの影響」

 格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスは、13日にイタリアやスペイン、ポルトガルの格付けをそれぞれ引き下げ、フランスや英国の格付け見通しを引き下げると発表した。それぞれの変更の内容は下記の通り。

格付け変更
イタリア Italy: downgraded to A3 from A2, negative outlook
マルタ Malta: downgraded to A3 from A2, negative outlook
ポルトガル Portugal: downgraded to Ba3 from Ba2, negative outlook
スロバキア Slovakia: downgraded to A2 from A1, negative outlook
スロベニア Slovenia: downgraded to A2 from A1, negative outlook
スペイン Spain: downgraded to A3 from A1, negative outlook

格付け見通しの変更
オーストリア Austria: outlook on Aaa rating changed to negative
フランス France: outlook on Aaa rating changed to negative
英国 United Kingdom: outlook on Aaa rating changed to negative

参考、ムーディーズの格付け記号(高い順)
Aaa、Aa1、Aa2、Aa3、A1、A2、A3、Baa1、Baa2、Baa3、Ba1、Ba2、Ba3、B1、B2、B3、Caa1、Caa2、Caa3、Ca1、Ca2、Ca3、C+、C、C-、D+、D、D-

 イタリアとマルタがA2からA3に、そしてスペインはA1から2段階引き下げられてA3に、スロバキアとスロベニアはA1からA2に、ポルトガルはBa2からBa3に引き下げられた。そして、Aaaのオーストリアとフランス、さらに英国の格付け見通しをネガティブ(弱含み)に変更した。

 1月13日にスタンダード&プアーズ(S&P)は、ユーロ圏9か国の格付けを一斉に引き下げた。その際に、フランス、オーストリア、マルタ、スロバキア、スロベニアの5か国がそれぞれ1段階引き下げられ、ポルトガル、イタリア、スペイン、キプロスの4か国は2段階の引き下げとなった。また、欧州16か国のうちその他7か国の格付けも再確認し、ドイツとスロバキアを除くすべての格付け見通しを「ネガティブ」としている。

 今回のムーディーズの欧州諸国の格付け変更は、フランスやオーストリアなどユーロ圏のAaaの国については見通しの引き下げに止めていたが、この見通し変更に英国も加えているのが今回の特徴といえば特徴か。

 今回の欧州諸国の格付けの変更理由についてムーディーズは、ユーロ圏の財政・経済の枠組みの機構改革の先行きや危機対応で利用可能な資金の問題の不透明性、さらに欧州諸国の緊縮財政プログラムの実施に関して欧州経済見通しの悪化が必要な構造改革を脅かしている点などを挙げている。

 今回のムーディーズによる格付け変更の発表は意表を突く感じではあったが、発表のタイミングをかなり意識していたことも感じさせる。つまり、ギリシャの財政緊縮法案が議会で可決される前であれば、市場心理が不安定なタイミングの発表となり、マーケットが過剰に反応する恐れがあった。このため、ギリシャの財政緊縮法案の可決を待って、マーケットが落ち着いたタイミングで発表した可能性がある。しかも、S&Pとは異なり、EFSFの格付けに影響しそうなフランスのAaaの格付けは維持しており、見通し変更にとどめている。ちなみに今回、ムーディーズはEFSFの格付けもAaaに据え置き、見通しもステーブルとしている。

 S&Pによるユーロ圏9か国の格下げは、材料出尽くし感も強め、欧州の信用不安はそれをきっかけにむしろ後退した感があった。今回のムーディーズによる欧州諸国の格付け変更等の影響も限定的となり、これをきっかけに再びユーロ圏の信用不安が強まるようなことはないものと思われる。




2012.2.14「日銀は実質的なインフレ・ターゲット政策を導入」

 2月14日の日銀の金融政策決定会合では、中長期的に持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率として「中長期的な物価安定の目途(The Price Stability Goal in the Medium to Long Term)」を示すことにすることを決定した。「中長期的な物価安定の目処」とは、消費者物価指数の前年比上昇率で2%以下のプラス領域にあるとある程度幅を持って示すこととした。その上で、「当面は1%を目途(Goal)」として、金融政策運営において目指す物価上昇率を明確にした。

 インフレ・ターゲットとは、物価上昇(インフレ)率の目標値(または範囲)を設定・公表して、その達成に向けて中央銀行が金融政策運営を実施するという金融政策の「枠組み」である。つまり、日銀は今回、「当面は1%を目処」として、金融政策運営において目指す物価上昇率を明確にしたということは、実質的なインフレ・ターゲットという枠組みを導入したということになる。

 当面、消費氏や物価の前年比上昇率1%を目指して、それが見通せるようになるまで、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入措置により、強力に金融緩和を推進していく。ただし、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、経済の持続的な成長を確保する観点から、問題が生じないことを条件とするとした。

 また、資産買入等の基金をこれまでの55兆円程度から65兆円程度に10兆円増額することも決定した。この買入の対象は長期国債とするとしたが、インフレ・ターゲットを導入したことにより、日銀は今回、日本の経済のデフレ脱却と物価安定のもとでの持続的な成長の実現に向けて、日銀の政策姿勢をより明確化するとともに、金融緩和を一段と強化することを決定した。

 そして、デフレからの脱却は、成長力強化の努力と「金融面からの後押し」を通じて実現されていくものであるとし民間企業、金融機関、そして政府、日銀がそれぞれり役割に即して取り組みを続けていくことが重要である、としている。

 前回の日銀の金融政策決定会合以降、FRB、BOEそしてECBは動きを見せた。まず、1月25日のFOMCで、FRBは物価に対して特定の長期的な目標(Goal)を置くこととし、それをPCEの物価指数(PCEデフレーター)の2%とした。また、「異例に低いFF誘導水準の維持が2014年後半まで続く事が正当化されるとFOMCは予想している」とした。つまり、事実上のゼロ金利政策を解除する時期を、これまで公表してきた来年の半ばから1年余り先延ばしし、少なくとも2014年の遅い時期まで続ける方針を示したのである。

 2月9日のイングランド銀行のMPCでは、資産買い取りプログラムの規模を500億ポンド拡大することを決めた。その際に購入対象となる償還期限を変更し、従来よりも3〜7年物の購入を増やすことにした。2月9日のECB理事会では政策金利は据え置かれたが、今月の3年物資金供給オペで、7か国の中銀が受け入れ担保の基準を引き下げることを明らかにした。

 これら一連の動き、なかでもFRBによる物価目標の設定と時間軸の長期化は日銀にも大きな影響を与えたものと思われる。日銀はこれまで、消費者物価での前年比で2%以下のプラスの領域、中心値としては 1%程度になることが中長期的にみての物価の安定であるという「物価安定の理解」を示していた。FRBが導入したコミュニケーションの方法と、日銀の「中長期的な物価の安定の理解」を示しながら政策の構えを示す方法は、考え方において基本的に変わりはないとしながらも、日銀の物価安定の理解がわかりづらいとの指摘があった。というよりも物価目標も意識したFRBに対して、日銀に対してもう少し明確な目標として設定してはどうかとの意見も出ていた。このため、今回日銀は政府によるデフレ脱却に向けた動きと呼応し、政策そのものを大きく変換させインフレ・ターゲットを導入したと思われる。

 さらにインフレ・ターゲットの設定とともに緩和強化をはかり、基金の増額も行ってきた。政府のデフレ脱却に向けての姿勢なども意識され、資産買入等の基金をこれまでの55兆円程度から65兆円程度に10兆円増額し、その増額対象は長期国債(期間1〜2年)とすることも決定した。これにより、資産買入の中での長期国債(期間1〜2年)の買入額は従来の9兆円から19兆円に増額される。これでさらに日銀の国債保有額は増加することになる。




2012.2.14「日米欧の預金増などによる国債への影響」

 2月12日の日経新聞によると、日米欧の現預金の残高は昨年9月末で2500兆円と過去最大規模になったそうである。これは日米欧の各中央銀行がまとめた統計で、家計と企業の現預金を現在の為替レートで計算すると、日本が1030兆円、米国が750兆円、ユーロ圏が740兆円となり、日米欧の合計で1年間で4%、2007年末で比べると1割増えたそうである。特に家計部門で、株式などから安全性の高い現預金に資産を移す動きが、日米欧で加速しているという。そして、預金は増えても貸出は伸びず、日本の金融機関の昨年10〜12月期の貸出は前年比0.2%の伸びにとどまり、欧州でもドイツを中心に貸出が伸び悩んでいるという。

 日本ではデフレなどの要因で、貸出が抑制され伸び悩み、個人や企業からの預金増により、預金残高から貸出残高を差し引いたいわゆる「預貸ギャップ」が拡大している。日本と同様に米国でも銀行の預金は貸し出しを上回る状態となっており、それは昨年の段階ですでに過去最高に達していたようである。

 銀行の預貸ギャップの拡大は、国債投資を促すこととなり、その結果、米国債やドイツ連邦債が買われ、それぞれ10年債利回りが2%を割り込む要因となった。同様に日本国債も買われた結果、日本の10年国債利回りも1%割れで推移している。

 さらにECB、そして日銀もそれぞれ国債買入を行っていることで、さらに国債の需給はタイトとなり、FRBもツイストオペなどが長期金利の低下圧力を強める要因となっている。

 FRBは超低金利政策を、これまで公表してきた来年の半ばから1年余り先延ばしし、少なくとも2014年の遅い時期まで続ける方針を示しており、それも米国債の低下圧力を促している。日銀も包括緩和政策により時間軸強化を進め、現在のデフレの状況に変化がない限りは超低金利政策が続けられると予想され、これも日本の中短期から長期の金利低下を促す要因ともなっている。

 13日にギリシャ議会は緊縮関連法案を可決し、大きなヤマ場は超えた。欧州の信用不安は今後、少しずつでも後退してくる可能性がある。昨年の欧州の債務危機の状況から見て、今年はだいぶ懸念が後退したように思われる。しかしそれでも米国債や、ドイツ国債、さらに日本国債の利回り上昇は限定的となっている。その背景にはこの預貸ギャップや中央銀行の政策が大きく影響していると思われる。




2012.2.13「そもそもインフレ・ターゲティングとは何か」

 インフレーション・ターゲティングとは、物価上昇(インフレ)率の目標値(または範囲)を設定・公表して、その達成に向けて中央銀行が金融政策運営を実施するという金融政策の「枠組み」である。

 インフレ・ターゲティングとは、金融政策の最終的な目標である「物価の安定(pricestability)」を達成するにあたり、「物価の安定」を客観的に観測可能な物価指標(例:消費者物価指数)を用いて具体的数値(インフレ率や物価水準の目標値・範囲)で定義した上で明示し、その達成に向けた金融政策運営にコミットすることにより、金融政策の透明性(transparency)や説明責任(accountability)を高め、金融政策に対する国民の信認(credibility)を高める、という金融政策運営の枠組みである(財務省、武内良樹氏のレポートより、「インフレ・ターゲティング」 http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_1004555_po_f1607b.pdf?contentNo=1)

 1931年から1937年までスウェーデンでは、price-level target(物価水準目標)政策を採用した。 これを除くと過去にインフレーション・ターゲティングを採用したのは、1988年4月のニュージーランドが最初と言われる。その後、1992年10月に英国、1993年の北欧2国等と導入が続いた。

 ニュージーランドの中央銀行であるニュージーランド準備銀行は,年度始めに政府側の代表である財務大臣との間で法律に基づいて物価安定のために金融政策を実行するという契約書を取り交わすが、これがPTA(Policy Targets Agreement)と呼ばれる政策目標協定で、この中で目標インフレ率を設定する。そして、同国の準備銀行法第49条では「準備銀行が、財務大臣との合意(PTA)に基づき決定された政策目標の達成を確保するにあたる総裁の実績が不十分であった」場合、総裁を罷免できるとされている。ただし、総裁罷免権が実際に行使されたことはない。

 また、イギリスにおける金融政策の目標は、物価の安定を維持すること及び、成長及び雇用目的を含む政府の政策を支持することと規定されている(改正法第11条)。そして財務省が「物価の安定」の内容を決定し、政府の経済政策を具体化する責任を負っている。インフレ目標値から1ポイント以上乖離した際にイングランド銀行総裁は、金融政策委員会の議長として財務相あて公開書簡を作成しなければならない。具体的にはインフレーション目標は毎年の予算教書で明示されている。それは、2004年1月以降は消費者物価指数(CPI)で2%とされている。

 制度として説明責任を明確に課している国々としては、英国、ニュージーランド以外ではタイ、ブラジル、南アフリカ等の国々がある。

 そして米国であるが、米国の中央銀行制度では、物価安定と雇用最大化を促すというデュアル・マンデートとも呼ばれるFRBの2つの使命(目的)を持っている。このため、そもそもインフレ・ターゲティングは採用できないとしていた。2つの任務を与えられている中で、物価についてのみ具体的な数値目標を示すことは、雇用を軽視するスタンスと受け取られ、議会との関係でも受け入れられないとのことであった。このあたり、1月にインフレ目標をFRBが設定する際には、バーナンキ議長などが議会に根回しをしていたとの観測もあった。

 FRBの金融政策には柔軟性が必要であり、インフレ・ターゲティングの採用自体はステートメントに過ぎず、かえってショックに対する機動的な金融政策の妨げとなることから、現行の方法で上手く行っている中で敢えて採用する必要はないとの意見もFRB内にはあったようである。

 ECBが物価安定の数量的定義を示しながらも、インフレ・ターゲティングを採用していない理由は、ユーロ圏という新しく不均一かつ構造の変化の激しい経済圏においてインフレ率だけを見て金融政策を行うことにはそもそも無理があるためとされた。

 日銀の山口副総裁は2月3日の記者会見において次のように語っている。

「彼らは物価の目標だけを掲げて政策運営を行うのではなく、いわゆるデュアルマンデートのもとで、雇用にも目配りしながら物価の安定も図っていくという立場であることを、バーナンキ議長自身が明確に語っています。私どもも、中長期的にみて物価が安定している状態について明確に表現すると同時に、金融的な不均衡その他のリスク要因を抱え込むことがないかどうかをチェックしながら、物価の安定を図っていくという考え方を示しています。」

 FRBが今回導入したインフレ目標に対して日銀の山口副総裁は、「類似点も実は結構あります。1つは、彼らは物価の目標だけを掲げて政策運営を行うのではなく、いわゆるデュアルマンデートのもとで、雇用にも目配りしながら物価の安定も図っていくという立場であることを、バーナンキ議長自身が明確に語っています。私どもも、中長期的にみて物価が安定している状態について明確に表現すると同時に、金融的な不均衡その他のリスク要因を抱え込むことがないかどうかをチェックしながら、物価の安定を図っていくという考え方を示しています。」 と指摘している。

 つまり、コミュニケーションの方法と、日銀の中長期的な物価の安定の理解を示しながら政策の構えを示す方法は、考え方において基本的に変わりはないと指摘しているのである。

 ニュージーランドや英国のインフレ・ターゲットと今回のFRBのインフレ目標が同じ物であるのかどうか。これは「経済や金融市場の状況、制度的・歴史的な背景などにより、国によって様々である」(白川日銀総裁)であるため、一概に決めつけられないが、FRBは法的拘束力などは、明確なコミットメントもないことで、どちらかといえば、日銀の物価安定の理解に近いと思われる。ただし、日銀の物価安定の理解そのものも、ひとつのインフレ目標のかたちであると言えなくもない。




2012.2.12「日本国債は大丈夫か」

 「日本国債は大丈夫か」、という題で話しをさせていただくことになった。大丈夫なのかどうか、自分なりの意見をまとめてみた。

 2002年9月の日本の10年国債入札で初の札割れが発生したその日、拙著「日本国債は危なくない」(文春新書、現在絶版)が発売された。

 この本では、実はどこにも日本国債は危なくない、との表現はなく、編集者が内容を吟味し最終的に付けたタイトルであったが、あとで振り返れば、2002年当時は実際に日本国債は危ないという状況にはなかった。

 日本国債を消化するだけの資金が十分に国内に存在していたためである。需給への懸念以外には、日本国債を売るような要因はなかった。デフレや日銀による量的緩和政策など、むしろ国債を買う材料の方が多かった。

 2002年9月の10年国債の札割れは、買い手が引いてしまったというよりも、日銀による金融機関の株式購入や、通常はないはずの金曜日の入札といった条件が重なってしまった結果であった。だから、このときの国債相場の下落は一時的であり、すぐに値を戻している。

 1990年代では経済対策のための公共事業などが歳出の増加要因となっていたが、2000年代あたりからは社会保障費が急激に増加したことが影響した。それに加え景気の悪化や減税による税収の落ち込みにより、その後も国債の大量発行は続くことになる。

 この場合の国債発行とは、新規国債の発行を示す。大量に発行される新規の国債を購入できるだけの余裕資金が国内に存在すれば需給面では問題はない。

 ただし、国債を買い支えてきていた生損保や年金、さらにゆうちょ銀行などの国債保有額は頭打ちになってきた。しかし、それをカバーしてきたのが銀行であり、預金増に対して融資が伸びず、その分国債に資金が向かうことになる。当初は個人の預金増などが影響していたと思うが、ここ数年では企業による預金の増額分がかなり国債をカバーしている。さらに最近では、海外投資家による日本国債の保有が増加するなどしており、いまのところ国債需給に問題はない。

 1998年末の資金運用部ショックをきっかけに、財務省と市場参加者との意思疎通が図られるなど国債管理政策が進められた結果、毎年度の国債増発に関しても相場への影響は極めて小さくなっている。

 それでは本当に日本国債は大丈夫なのかと問われれば、大きなリスクを孕んでいると答えざるを得ない。そのリスクについて考えさせられたのが、2010年からのギリシャを発端とする欧州の信用不安である。

 これは何かしらのきっかけで、国債の信用が失われ、それが利回り上昇を招き、その結果、あらたな国債発行を困難にし、政府の資金繰りを悪化させ、さらに金融機関にも影響を与え、問題を深刻化させる事態を見せつけられた。

 これはユーロというシステムに内在する問題とは片付けられない。ギリシャの問題も財政赤字を操作していたというきっかけで信用が失われ、それがポルトガルやスペインを経由し、イタリア、さらにフランスまで及んだ。これには格付け会社による格下げが、火に油を注ぐことになったが国債の信用が毀損し、国債の利回りが上昇することで、何か起きるのかを我々に見せてくれたのである。

 つまり、日本国債も今回のギリシャというよりもイタリアのような金利上昇が起きる可能性がある。その要因となりそうなのものに、経常収支の黒字の減少がある。貯蓄率の低下等を含めて、国内の資金が日本国債がいずれカバー仕切れなくなるであろうとの観測である。国内の個人の金融資産は無尽蔵にあるわけではなく1500兆円程度である。国債の残高が増えなければ問題はないものの、毎年度40兆円を超す新規の国債が発行され、それはまだこれからも続くことが予想される。単純にあと10年で400〜500兆円の新規国債が発行されるとしてそれを消化するだけの国内資金があるのかどうか。金融機関もすべての資金を国債に振り向けることはできない。

 むしろ、国内で消化が難しくなるであるとの予想だけでも相場は先んじて動く。大手銀行なども、いまそこにあるリスクではないものの、将来のリスクはかなり気にしていることも確かであろう。

 それではその懸念により、国債に売り圧力がかかった場合に何が起きるのか。巨額の資金を国債以外に振り向け先はなく、日本国債が売られることはないと考えるのは早計である。他人よりも早くそのリスクを回避すべきとばかり、流動性の大きい債券先物などに大量売りがもしも国内大手銀行などから持ち込まれれば、それだけで市場は動揺し、長期金利は跳ね上がる。そして、その長期金利の上昇が、2%という大きな節目を突破したとき、その動揺はさらに広がる。2%の節目を突破した際に利回り上昇ピッチが早まり、4〜5%近辺に跳ね上がる可能性がある。

 日本国債の場合に発行額が余りに大きいため、1%の利回り上昇による影響は非常に大きくなる。利払費用の増加によりさらに財政を悪化させ、大量に日本国債を保有する金融機関にダメージを与える。

 このような懸念が存在する以上、日本国債は絶対に大丈夫と言うことはできない。ただし、いつ、何をきっかけに日本国債の利回り、つまり長期金利が跳ね上がるのかは予想が難しい。

 そのようなリスクを押さえ込むこともできなくはない。まずは膨れあがる債務の増加を抑える必要がある。そのためには現在、欧州各国が取り組んでいるような財政再建を行う必要がある。そうしなければ、現在、ギリシャが行っているような財政緊縮策が求められることになる。ただし、日本の場合あまりに債務が大きすぎて、IMFなどは口は出しても金は出せないことになろう。

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2012.2.11「来週の決定会合で日銀は動くのか」

 1月25日のFOMCで、FRBは物価に対して特定の長期的な目標(ゴール)を置くこととし、それをPCEの物価指数(PCEデフレーター)の2%とした。また、「異例に低いFF誘導水準の維持が2014年後半まで続く事が正当化されるとFOMCは予想している」とした。つまり、事実上のゼロ金利政策を解除する時期を、これまで公表してきた来年の半ばから1年余り先延ばしし、少なくとも2014年の遅い時期まで続ける方針を示したのである。

 2月9日のイングランド銀行のMPCでは、資産買い取りプログラムの規模を500億ポンド拡大することを決めた。その際に購入対象となる償還期限を変更し、従来よりも3〜7年物の購入を増やすことにした。

 2月9日のECB理事会では政策金利は据え置かれたが、今月の3年物資金供給オペで、7か国の中銀が受け入れ担保の基準を引き下げることを明らかにした。

 そして2月13日から14日にかけて日銀の金融政策決定会合が開催される。

 9日にギリシャ政府と連立与党はEUやIMFが次期金融支援の条件として求めている緊縮策を受け入れることで合意し、ギリシャが債務不履行に陥るという最悪の事態は回避される公算が強まった。

 これを受けて、9日の欧米の外為市場では主要通貨に対してユーロが急伸し、ユーロ円は103円台をつけ、円はドルに対しても売られドル円は77円60銭台をつけるなど円安が進んだ。ここにきての東京株式市場は、米株の堅調さや円安などを背景に買い進まれ、日経平均は一時9000円台を回復した。

 足下の動きを見る限り、欧州の信用不安は後退し、その結果として円安株高ともなり、日銀が追加緩和を行うというような環境にはない。しかし、日銀としても次回会合で何もなし、という状況でもなさそうである。

 10日の読売新聞にもあったが、与党内での日銀への追加緩和圧力が強まっているという。この与党内というのはどのような人達を示すのかは定かではないが、いわゆるリフレ派と呼ばれる人達だけというわけでもなさそうである。

 9日の衆院予算委員会で野田総理は、名目3%、実質2%という成長率目標の達成に向けて、日銀と問題意識を固く共有していきたいと述べ、また、民主党の前原誠司政調会長は、金融緩和が必要だとして、資産買入基金の拡大を求めたそうである。

 さらに米国が2%というインフレ目標値を置いたことで、日銀の「物価安定の理解」が具体性に欠けている上に、その中心値が1%程度となっており、欧米の中銀の目標とされる数字と乖離している点なども指摘されている。

 ちなみに日銀は、中長期的な物価安定の理解、つまり消費者物価指数の前年比で 2%以下のプラスの領域にあり、中心は1%程度、に基づき、物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで、実質ゼロ金利政策を継続していく方針を打ち出しているが、この数字は毎年4月に点検される。

 前回の日銀の決定会合以降、FRB、BOE、ECBそれぞれが動きを示している以上、13日から14日にかけての決定会合で日銀は何もせず、ゼロ回答というわけにも行かないのかもしれない。日銀が動かないことで、再度円安になるのかどうかはさておき、また、基金の増額などの追加緩和についてもカードは温存すべきと思う。ただし、物価安定の理解などに対しては、わかりやすさを重視するためにもう一工夫するなどの対応を行っても良いのではないかと思う。




2012.2.10「英国のインタゲとは」

 以前から1997年にブレア政権が誕生した直後のイングランド銀行の改革に関心があったのだが、あらためてネットで調べたところ1999年に立脇和夫氏が書かれたレポートがアップされており、このレポートも参考に、イングランド銀行の改革を振り返ってみたい。

 1997年5月にブレア政権が誕生し、それからわずか4日目に金融政策の大転換を行い、財務省から中央銀行であるイングランド銀行に金融政策の決定権を移し、「独立性」を高めるという大胆な改革に踏み切った。

 この改革とは、イングランド銀行総裁、副総裁、理事、外部らの委員で構成される金融政策委員会(MPC)へ政策運営権限を委譲すること、外国為替市場介入権限を部分的にイングランド銀行へ委譲すること、準備預金制度の法制化、銀行監督権限をイングランド銀行から分離し新設された金融監督庁へ移管すること、そして国債管理業務の財務省への移管などである。

 なぜブレア政権は誕生直後にこのような大胆な改革に踏み切ったのか。それは、中央銀行の独立を強化する目的で中央銀行法を改正する国が相次いでいたこともあるが(参考までに改正日本銀行法施行は1998年4月)、将来、英国が欧州通貨統合に参加する場合に必要とされる中央銀行の独立性確保を念頭においたもの、との見方もあった。

 第二次大戦後イングランド銀行は,アトリー政権下に制定された「1946年イングランド銀行法」によって国有化され、同時に政策運営の独立性を失った。同法はイングランド銀行に対する大蔵大臣の指示命令権を規定し、実質的に大蔵省の付属機関と位置付けていたのである。ちなみに1988年4月のニュージーランドが初めてインフレーション・ターゲティングを導入後、1992年10月に英国も導入した。

 新設された金融政策委員会は「政策運営上の独立性」(Operational Independence)を与えられた。ただし、ここでいう政策運営上の独立性とは政府が定めるインフレーション目標を達成するための政策手段の決定を行う権限を意味しており、政策方針そのものの決定は政府の手に留保されている点を見落してはならないと、立脇氏は指摘している。

 イングランド銀行(BOE)の金融政策委員会(MPC) は、毎月上旬の水曜日の午後と木曜日の午前中に開かれる。MPCのメンバーは総裁1名、副総裁2名、理事2名と、財務大臣により任命された外部委員4名の合計9名である。イングランド銀行総裁及び財務大臣の任命する委員(任命委員)6名の任期は3年で毎年2名ずつ交替する。財務省代表は政策委員会へ出席し発言はできるが議決権は有していない。

 イギリスにおける金融政策の目標は、物価の安定を維持すること及び、成長及び雇用目的を含む政府の政策を支持することと規定されている(改正法第11条)。そして財務省が「物価の安定」の内容を決定し、政府の経済政策を具体化する責任を負っている。量的緩和策の導入やその拡大にあたっても財務相の了承が必要とされる。

 インフレ目標値から1ポイント以上乖離した際にイングランド銀行総裁は、金融政策委員会の議長として財務相あて公開書簡を作成しなければならない。改正法にはインフレーション目標に関する詳細な規定が設けられ、それによれば財務省は一年に1回、物価安定目標値及び政府の経済政策に関するステートメントを公表しなければならない。具体的にはインフレーション目標は毎年の予算教書で明示されている。それは、2004年1月以降は消費者物価指数(CPI)で2%とされている。

 財務省は金融政策に関し、イングランド銀行に対して指示を行う権限を留保しているが、これはそれが公共の利益に照らし、かつ「異常な経済情勢」の下でそれが必要であると財務大臣が判断した場合に限られる、と改正法では規定されている。いわば緊急時の対応ということになろう。

 以上がイングランド銀行の改革に伴った動きとともに、英国でのインフレ目標の状況である。これを見る限り、FRBによる物価に対するゴールとイングランド銀行の物価目標には違いがあることがわかる。1月25日のFOMCの終了後に発表された「長期目標と政策戦略」という声明文において、FRBは物価に対して特定の長期的な目標(ゴール)を置くこととし、それをPCEの物価指数(PCEデフレーター)の2%とした。しかし、その目標から乖離しても何ら罰則等が設けられているわけではない。ただし、イングランド銀行もあくまで書簡を作成すれば良いだけとも言えるし、キング総裁は何通も書簡をすでに送っている状態にある。このあたりあまり厳格化してしまうと、金融政策の舵取りが難しくなる面もあろう。ちなみに9日、イングランド銀行のMPCでは、資産買い取りプログラムの規模を500億ポンド拡大することを決めた




2012.2.9「再び拡大している日銀による国債保有額」

 昭和40年代に発行された国債は、国債引受シンジケート団と大蔵省資金運用部によって引き受けられていた。シ団引受の一部は市中消化されたが、ほとんどはシ団メンバーの金融機関が保有した。金融機関が引き受けた国債の市場売却は、事実上自粛されていたが、1967年1月より日銀は買入債券の対象に発行後1年経過の国債を追加したことで、金融機関の保有する国債はほぼ全額このオペによって吸収されたのである。これが日銀の国債買入の始まりである。

 日銀は2001年3月19日の金融政策決定会合において、量的緩和政策を決定した。金融機関が日銀に預けている平均4兆円程度ある当座預金残高を5兆円になるように促すことが決定され、また国債買い切りの額を4千億円から増額することとしたのである。しかし、これは歯止めがなければ擬似的な日銀による国債引き受けともなりうるために、日銀券の発行残高を上限とするキャップを内規として設定した。

 日銀サイトにある国債保有額を日銀勘定の資産・国債からデータを抽出したところ、量的緩和政策を導入した2001年3月時点で58兆円程度(短期国債含む)であった。8月の決定会合で長期国債買入を月々4千億円から6千億円を決定したが、その8月時点で78兆円の保有額となっていた。

 2001年12月には長期国債買入を月々6千億円から8千億円ペースに増額した。さらに2002年2月の政府の総合デフレ対策をフォローするために、日銀はさらなる追加緩和を決定し、長期国債の買入を月1兆円ペースに増額した。これにより、日銀による国債保有額は2002年2月に約84兆円と80兆円を超えてきた。

 2002年1月に日銀は国債買入れオペ対象を、それまでの1年ルールを撤廃し、発行年限別の直近発行2銘柄を除くに拡大した。2002年10月にも政府の総合デフレ対策に呼応して追加緩和策を決定し、国債の買入れ額を月1兆円から1兆2千億円に増額した。2003年3月に日銀総裁が福井俊彦氏に変わってからは、毎月の国債買入額そのものは据え置かれたが、2003年9月には保有額が90兆円台に達し、2004年3月に100兆円台に乗せたところでピークアウトした。

 2006年3月9日の金融政策決定会合で日銀は量的緩和策を解除し、2006年7月14日にはゼロ金利政策も解除した。2006年3月時点での国債保有額は約93兆円、7月には約84兆円と減少してきており、2008年12月には約63兆円まで減少した。

 これは毎月の買入額に変化がなくとも、それ以上に国債償還額が大きくなると残高そのものは減少するためである。反対に買入額よりも償還額が少なければ保有額は増加することになる。日銀は量的緩和時において、保有する国債の平均残存期間を短縮化していたこともあり、これも日銀の国債保有額の減少に影響したとみられる。

 しかし、2008年12月の決定会合で長期国債の買入額を月1.2兆円から1.4兆円に増額した。この際に、買入れ対象に30年債、変動利付国債、物価連動国債を追加、さらに残存期間別の買入方式(残存1年以下、1年超から10年以下、10年超)を導入した。このため、その後の日銀の国債保有額は再び増加する。2009年3月に長期国債の買入れを月1.4兆円から1.8兆に増額し、2009年10月に国債保有額は再び70兆円台を回復したのである。

 2010年6月に日銀は包括緩和策を決定し、実質的なゼロ金利政策を再開し、時間軸政策とともに基金オペの実施を決定した。買入開始から1年後を目処に、基金により長期国債と国庫短期証券を合計3.5兆円程度買い入れることとした。この基金による長期国債の買入は、現行の長期国債買入とは異なる目的のもとで臨時の措置として行うものとし、これにより買入れて保有する長期国債は、日銀券ルールには縛られないかたちでの国債買入としたのである。

 また、2011年3月に資産買い入れ基金を増額し、その中には長期国債と短国の増額も含まれた。また、8月と10月にも基金の増額を実施した。その結果、日銀の国債保有額は増加し、2011年11月には再び90兆円の大台に乗せてきたのである。




2012.2.9「何故、イタリアやベルギーの国債が売られたのか」

 ギリシャの債務削減交渉が大詰めを迎える中、イタリアなどの国債利回りの動きを見ると、急速に信用不安が収まってきた様子がうかがえる。イタリアの10年債利回りのグラフからは、二度にわたり、7%台に乗せた後、現在は5%台に低下している。スペインの10年債も、6%台半ばあたりから、一時、5%割れまで低下した。そして、ベルギーの10年債も一時6%近くに上昇したが、今度は4%割れとなっている。

 いったいイタリアやスペイン、ベルギーについては何故、それほどまで利回りが上昇しなければならなかったのか。

 今回の利回り低下の背景としては、ECBによる資金供給のよる影響が大きかったとの見方が強いが、それでイタリアの信用が戻ったわけではないはずである。ECBによる資金供給は国債需給面で多少、影響はあったかもしれないが、今回のこれらの国の金利低下は、欧州の信用不安そのものが後退したためである。

 ギリシャは確かに問題を抱えているのは確かであるが、イタリアにそれほど大きな財政上の問題があったのか。イタリアのプライマリー・バランスは黒字であり、ベルギーは経常黒字の国である。今回の欧州の信用不安は、まさに不安の連鎖であり、その不安を沈めることが最大の問題解決法であった。

 いまはたぶんそれに成功しつつあるのではないかと思う。これにはドイツやフランスのトップが何度も協議を繰り返し、またユーロ首脳会議でも真剣に時間をかけて協議を行い なんとしてもユーロというシステムを守ろうと不断の努力を行ってきたことを、市場も理解し始めたのではなかろうか。

 信用は移ろいやすい。だからこそ、ソブリンリスクが国債の利回りの変化を促し、火が付いたところに格付け会社が油を注いだ。しかし、火が消え去れば油を注いでも、もう燃え広がらない。

 これで欧州の信用不安が解消されたというのは早計かもしれないが、ヤマ場は超えたのは確かであろう。周辺国の利回り上昇が落ち着けば、金融機関への影響もその分、減少する。もちろんギリシャの問題の影響は今後も残るが、損失額が明らかになれば、不透明感も払拭される。

 市場にとって先が見えないことほど恐いものはない。これは市場に限らずそうであろう。だからこそ、イタリアやスペイン、ベルギーの国債利回りも以上なほど上昇したのであろう。しかし、先々がある程度見えるようになれば、不安は急速に収まる。それが今の姿かと思う。

 国債に対する信用不安が生じた際に、どのようなことが起きるのか。今回のユーロ圏諸国の国債の動きは、たいへん貴重な事例になろう。米国債もあと15年か20年で危機を迎えるといった見方もあるが、それより前に危機を迎えるであろう国の国債もある。このためにも、貴重な事例研究として今回のユーロ圏の動きはたいへん参考になるのではなかろうか。




2012.2.8「相場が変化する兆候を見逃すな」

 相場が大きく変化する際には何かしらの兆候が出る場合がある。地震で言えば前震のようなものであろうか。巨大地震が来るかどうかを前震だけで判断するのは難しい。相場の変動の際も、ある兆候が意味するものを、その場では理解できずとも、あとになってあれが兆候であったのかと認識することがある。しかし、いずれ相場が変動するであろうとアンテナを広げていると些細なことでも、相場変動を事前にキャッチすることも可能となる。

 自分の債券ディーラー時代の経験での中でも、そのような兆候らしきものを感じたケースは過去にいくつかあった。たとえばそれは1989年の年末にかけての株式市場の上昇であった。この動きに対し非常に違和感を覚えた。日経平均株価の1989年の大納会の引け値は、38915円と4万円に迫り、これが過去最高値となった。これは結果論で言っているのであろうと言われるかもしれないが、私に限らず債券市場関係者はこの株高を非常に冷めた目で見ていたはずである。日銀による公定歩合の度重なる引き上げを受け、債券相場は1989年にはすでに伸び悩みの状態となっていたためである。つまり、日銀の利上げに無反応な株式市場に違和感を覚えていたのである。

 そして、1998年末の運用部ショックの際にも、兆候というかきっかけがあった。1998年11月20日の日経新聞に「大蔵省は1998年度の第3次補正予算で、新規発行する国債12兆5千億円のうち、10兆円以上を市中消化する方針」といった本当に小さな囲み記事が、その後の国債急落の兆候、もしくはきっかけとなったと私は思っている。当時は現在よりも不透明感も強く、その分、情報が小出しされたことで、むしろ不安感が増幅しその後の急落を招いた可能性もある。

 2003年4月の7607円がバブル崩壊後の安値となり、その後上昇基調を強めた東京株式市場であったが、このときには「りそな銀行」への約2兆円の資本注入が大きなきっかけとなった。りそな銀行に対する資本注入によって、政府は大手銀行は潰さないといった見方が強まり、それまでの不良債権問題における不安感増幅とは別の様相を見せた。これについては市場の地合の変化をかぎ取っていないと相場変化にはついて行けなかったと思われる。

 その後の2003年6月には、債券市場でVARショックと呼ばれる急落が起きた。この際の兆候となったのが、6月17日に実施された20年国債の入札であった。20年国債の利率が1%割れのとなり、生保大手が超長期国債の購入を手控えたことが明らかになり、それをきっかけにして、その後、債券相場が急落したのである。このあたりも地合そのものの変化をかぎつけていないと、相場急落に備えることは難しかったのかもしれない。

 このように相場の急変には、何かしらの兆候、もしくはきっかけとなるものがある。しかし、それに気がつくためには相場の地合の変化そのものをかぎ取る必要がある。この兆候については、もう少し細かいものを含めて市場に現れていた可能性もあり、それを私が気がつかなかっただけなのかもしれない。ただし、全体として微妙な地合の変化を感じていれば、もしもの時の備えにもなる。そのためには日々の相場の動向は常にチェックしておく必要がある。ということで、日本国債の相場変動への備えとしては、ぜひ「牛さん熊さんの本日の債券」もご利用いただきたい。




2012.2.7「日本国債のケースD、第二回 国債の信用を見るには」

(糸川教授)日本国債の現状について、小川君から説明してもらったが、それでは次に日本国債の信用度について考えみたい。今回は日本国債の信用度は何を元にしたら良いのかというのが、ひとつの課題となる。これについてはゼミ生の意見を聞いてみたい。各自、思うところの意見を出してほしい。

(ゼミ生、森岡)債券の信用を計るとすれば、やはり格付け会社による格付けではないでしょうか。国債についてもソブリン格付けというかたちで格付けされているので、それで信用度を見ることができると思います。

(ゼミ生、鮫島)格付け会社の格付けは、あくまで格付け会社の意見であり、絶対に正しいというわけではないと思います。実際にソブリン格付けについては、過去のデフォルトの事例なども限られているので、企業の格付けなどに比べて正確性に問題ありと思います。

(ゼミ生、岡野)それではCDSはどうでしょうか。債券がデフォルトに陥るリスクに備える保証料を示すCDSスプレッドも信用リスクを見るための参考になると思います。

(ゼミ生、宮間)そのCDSスプレッドなのですが、マスコミなどで良く取り上げられることも多く、私たちにも信用を見る上で参考にできるものと思うのですが、以前、債券市場の参加者に話を聞いたところ、CDS市場そのものの規模は日本の国債市場に比較して極端に小さく、参加者も極めて限定的であるので、あくまで参考程度にしかならないと言ってました。

(糸川教授)いくつか意見が出てきたが、ここでひとつ基本的な事を聞きたい。国債ではなく社債などは、信用度というか価値はどのような形で表現されているのか、説明できる者はいるかな。

(岡野)それは同じ残存期間の国債の利回りに上乗せされる金利で表されていると思います。

(糸川教授)その通り。債券の発行体などに対してどの程度信用できるかはその上乗せ金利、つまり利回りのスプレッドで表現される。これはあくまで国債がリスク・フリー資産であるということが前提となっているが。

(小川)国債がリスク・フリーの資産であるかどうかについては、米国債も格下げされるなどしたことで疑問も生じていますが、それを考えるとややっこしくなりそうなのですね。

(ゼミ生、沢)なるほど、教授のおっしゃりたいのは金利ですね。国債の利回りは市場で決定されるわけであり、そこには市場参加者の信用度も価格形成に影響しているはずなので、利回りが信用度を測る物差しになると思います。

(糸川)さすが沢君に読まれたようだな。格付けについてはかなり批判も出ているように、ことソブリン格付けについては、私もやや懐疑的だ。これについては時間があれば、のちほど皆で議論したい。またCDSも市場への影響度を考えれば、市場でつけられた利回りの方が信用度は高いと言える。このため、今回、国債の信用度については、利回りをベースにして考えてみたいが、どうだろう。

(小川)そうですね。他に適切なものがないとなれば、国債利回りの変化で信用度の変化を見るという前提で良いのではないでしょうか。つまりそれは、いわゆる信用リスクプレミアムと呼ばれているものですね。ファンダメンタルズに変化はないのに国債利回りが上昇するようなことを想定した上で、その利回りの居所から国債の信用度の変化を確認し、さらにそれによる影響を考えていきたいですね。これはユーロ圏の信用不安の際の金利上昇も参考になりそうです。

(沢)国債の利回りと信用度の関係について見るとなれば、もう少し具体的な利回りの水準との関係を見る必要もあると思います。たとえばユーロで言えば、イタリア国債の利回り上昇の際に騒がれた長期金利の7%とか。

(糸川)このあたりは市場関係者の話を聞く必要がありそうだな。どうやら、宮間君は知り合いに市場関係者がいるようなので、その人から話しを聞くなりしてもらうと良いかもしれない。また、他の人も特に日本国債について、この利回り水準が何かしらの目処になっているといった話を聞いてきてほしい。それを次回のゼミにて発表してほしい。いくつかの目安をつけて、それを基にそれぞれのケースで起こりうることを、皆で議論し合うということでどうだろう。

(小川)了解しました。それでは時間も来たので今日のところはここで終了します。

続く




2012.2.7「FRBの金融政策の方針と日銀の物価安定の理解の違い(山口副総裁の会見より)」

 2月3日の日銀の山口副総裁記者会見において、1月にFRBが出している方針と、日銀が既に出している物価安定の理解がどう違うのか、改めて確認させて頂きたいとの質問に対し、山口副総裁は下記のように答えている。

 「私どもは、消費者物価でいえば前年比で2%以下のプラスの領域、中心値としては 1%程度になることが中長期的にみての物価の安定である──物価が安定した状態である──という理解をしています。米国は、ロングランのゴールとして、すなわち長い目でみた目標として 2%という数値を出しているので、相違点の1つは、当然、この数値上の違いです。」

 実はこの数値の違いに関して、もう少し踏み込んだ説明がほしかった気がする。イングランド銀行はインフレ率がインフレ目標値の消費者物価指数で2%の上下1%を越えると、公開書簡を財務相に送って説明することが義務づけられている。 またECBも物価の目標水準は2%を若干下回る水準としている。これに対して日銀は1%としており、欧米中銀との1%程度の開きは日本のデフレ圧力の強まり等が意識されているのかどうか、そのあたりももう少し明確にしてほしい気がする。

 「一方で、類似点も実は結構あります。1つは、彼らは物価の目標だけを掲げて政策運営を行うのではなく、いわゆるデュアルマンデートのもとで、雇用にも目配りしながら物価の安定も図っていくという立場であることを、バーナンキ議長自身が明確に語っています。私どもも、中長期的にみて物価が安定している状態について明確に表現すると同時に、金融的な不均衡その他のリスク要因を抱え込むことがないかどうかをチェックしながら、物価の安定を図っていくという考え方を示しています。」

 つまりFRBが今回導入したコミュニケーションの方法と、日銀の「中長期的な物価の安定の理解」を示しながら政策の構えを示す方法は、考え方において基本的に変わりはないと指摘している。

 FRBは物価と雇用という2つの目標を掲げているため、目標を一方に絞り込んで金融政策を行うのではなく、雇用等、つまり景気等を含めて、全体的なバランス等を意識しながら政策運営を行うことで、日銀の政策に近い。これについては形式的にインフレ目標を採用しているイングランド銀行も同様であろうし、もちろんECBはそれとともにユーロ域内の信用不安にも目配りしなければならない状況にある。現在の中央銀行は、物価だけを意識して金融政策を行うことはできず、最終的に物価の安定を目指すが、そのためには景気動向などを含めて視野を広げて政策を行う必要がある。

 さらに山口副総裁はFRBの時間軸の強化に関して、次のように述べている。

「米国についても、経済状況その他について条件付けをしながら時期を明らかにしているということであり、2014年の遅くというのは、何があってもそこまで今の極めて低い金利水準を必ず続けるという約束ではないということです。」

 日銀の場合には時期を明定せず、中長期的にみた物価の安定が展望できる情勢になったと判断できるまでとしているが、米国についても2014年まで絶対に超低金利政策を行うとしているわけではなく、あくまでの委員の現在の予測にすぎない。経済環境の変化により、それ以前に仮に利上げを行ったとしても公約違反に問われるようなことはないことは確かである。




2012.2.6「日本国債のケースD、第一回」

 日本国債に関する関心が再び強まりつつある。このため、現在の日本国債を取り巻く状況を前提に、今後、日本国債の市場からの信用度が変化した場合にどのようなことが想定できるのかを考えてみたい。今回は様式をあらため、某大学のゼミでこの問題を取り上げて議論を行うという会話形式で進行するようにしてみた。タイトルからもおわかりの方もいるかと思うが、これは糸川英夫氏が執筆に関わったベストセラー「見えない洪水、ケースD」を意識したものでもある。

「日本国債のケースD」

 それではゼミを始める。課題としておいた日本国債に関する信用度の変化による影響について、今日は皆と一緒に議論していきたい。それではまず助手の小川君に日本国債の現状について発表してもらいたい。

(小川助手)それでは、先ほど配った資料を見てほしい。2011年度の日本の国債発行総額は169.6兆円、このうち新規国債は44.3兆円、復興債11.6兆円、財投債14兆円、借換債111.3兆円となっている。いまさらそれぞれの国債については説明はいらないと思うが、もしわからない者がいたら、参考文献にしておいた久保田博幸氏の「国債の基本とカラクリがよ〜くわかる本」でチェックしておくように。これだけ多くの国債が発行されているが、たとえば10年国債の昨年4月から12月の応札倍率の平均は約3倍程度となるなど、順調に消化されており、札割れも生じていない。

(ゼミ生、岡野)札割れと言えば、昨年ドイツの国債入札で札割れが発生したときには、結構、市場では大騒ぎになったと聞いていますが、どんな状況だったのでしょうか。

(小川)札割れというのは、国債の発行予定額に対し、入札された額が届かなかったことを言うが、その国々によって国債の入札の仕方には違いがあり、たとえばドイツの場合には国債入札において、札割れそのものは珍しいものではない。ただし、昨年11月のドイツの10年債入札では足りなかった割合が39%とかなり高くなっていることが市場では嫌気され、それがドイツ国債の売り要因となり、日本の国債市場にも影響を与えた。しかし、結果としてその影響は一時的なものであった。

(糸川教授)日本でもたしか2002年9月に、10年国債で初めて国債入札での札割れが発生した。このとき日本の国債相場も急落したが、影響はやはり一時的であった。ただし、今後、札割れが頻発するような事態がもし日本国債で発生すると、市場ではかなり不安感が強まる可能性はある。

(小川)しかし教授、日本でも米国のプライマリー・ディーラー制度といえる国債市場特別参加者制度が機能していることで、何かしらの影響で一時的な札割れが起きるとしても何回も続くなんてことは考えづらいのではないでしょうか。

(糸川)その特別参加者は無理矢理国債を引き受けているわけではない。もし日本国債に対する懸念が強まった際に、国債市場を機能させるため、多少無理しても札を入れることはあるかもしれないが、投資家のニーズがないところに大量に国債を落札することはリスクを抱え込むことになるため、やはり避けるだろう。このあたりのことについては、もう少しあとで議論したいので、小川君、現状に関する説明を続けてくれたまえ。

(小川)はい。今度は国債の残高について確認しておくと、ひとつの目安の数字として、2011年度末として普通国債667兆円、財投債114兆円、政府短期証券156兆円となっている。また、国債の保有者としては国庫短期証券は含まずの数字では、銀行などが38.0%、民間の保険・年金24.8%、公的年金9.4%、日本銀行8.5%、海外6.3%、投信など金融仲介機関が5.3%、家計が3.9%、財政融資資金0.1%、その他が3.6%となっている。ちなみに、海外については国庫短期証券を含むと8.2%に膨らむ。

(ゼミ生、森岡)日本国債の場合の特徴のひとつに海外投資家による保有が少ないことが挙げられますが、それでもここにきて海外投資家の保有が増加していますが、これは良い兆候と捉えても良いのでしょうか。

(糸川)日本国債の海外保有が少ないということは、それだけ巨額の国債を消化するだけの資金が国内に存在しているということにもなり、それが今後の日本国債の安全性をはかる上でのキーポイントにもなる。さらに海外からの国債保有額が増えれば、今後の国債需給には良いニュースではある。しかし、昨年の海外からの日本国債への投資は、どちらかといえば、欧州の信用不安によりリスク回避の資金が逃げてきただけだと思われる。これはユーロ圏の債務危機の強まりにより、米国債やドイツ国債、英国債が買われていたり、また外為市場で円が買われていたことからも、その解釈で正しいと思われる。

続く




2012.2.5「ユーロという通貨統合の仕組みの弱点、山口日銀副総裁の講演より」

 日銀の山口副総裁は2月2日の講演で、欧州の債務問題について触れており、特にユーロについて「通貨統合の仕組みに弱点があったために、過大な政府債務が蓄積されたという問題」について指摘している。

 「ユーロ圏では、単一の金融政策、すなわち単一の政策金利のもとで、通貨が統一された一方、国としては言うまでもなく別々です。したがって、それぞれの国の間で競争力の格差が拡大すれば、競争力の強い国は貿易収支の黒字がたまり、逆に弱い国は赤字が蓄積していきます。」

 つまり、為替相場の変動を通じて、貿易面での不均衡の問題は和らぐという為替市場の力を期待することはできず、また、それぞれの国が経済状況に応じて別々の金融政策を運営することもできない。このため、ドイツなどの競争力の強い国と、ギリシャなどの弱い国の格差は拡大し、貿易面での不均衡が膨らむと山口副総裁は指摘している。

 さらに「他国の金融機関や投資家は、ユーロという単一通貨のもとで為替変動のリスクを気にする必要がなくなったこともあり、ギリシャなどの国債を低金利で購入し続けてきました。結果的に、赤字国は身の丈以上に外国からの借り入れを増やしてしまい、それに早い段階で歯止めをかけることはできませんでした。ギリシャの場合、こうして過大に発行された国債が結局は返済しきれなくなり、今回の債務問題として表面化しました。」

 ただし、ギリシャについては国債発行増というよりも、債務そのものを隠蔽したことで、市場からの信認を失い、それがギリシャ国債の暴落を招いた面も強かったのは事実である。また、イタリアについてはむしろ財政再建を進め、信認を強めたからこそユーロ域内の他の国からのイタリア国債の購入が増加した面もあった。

 さらに山口副総裁は、「世界的な信用バブルの崩壊による財政状況の悪化という、他の先進国にも共通する側面」についても言及している。

 「一般に、財政の立て直し、すなわち政府債務を減らしていくには、歳入や歳出といった財政そのものへの切り込みに加えて、債務返済の原資である税収を確保していくために経済成長力を強化していくことが必要です。例えば、ポルトガルやイタリアの場合は、財政の状況もさることながら、むしろ成長力の弱さに市場は懸念を持っています。」

 ユーロ圏でのいわゆる南北格差の問題ではあるが、ポルトガルやイタリアの場合は格付け会社による格下げの影響も見逃せない。この格付け会社の影響について、山口副総裁はあまり指摘していない。無視しているわけではなく、何故か指摘を避けているようにも見られ、このあたりやや疑問を感じる部分でもあった。

 「そもそもリーマン・ショック以前の世界の経済成長は、信用バブルによってかさ上げされたものであり、今となっては、そうした経済に再び戻ることはできません。財政の立て直しを着実に進めていくうえでも、リーマン・ショック後の経済構造の変化に対応した新しい成長モデルを構築し、将来に亘って成長力を強化していくことが必要です。この点は、欧州、米国、そしてわが国に共通する非常に重たい課題として存在しています。」

 信用バブルのかさ上げだけではなく、新興国の経済成長にも影響された面も大きいと思うが、特に米国ではリーマン・ショック後には金融が経済を支配していたような構図からかなり変化も見られるのも事実である。そして、低成長、そしてデフレに苦しむ日本にとって、将来に亘って成長力を強化していくことは財政再建にとっても最重要となる。

 欧州債務問題の解決に向けた方策については、山口副総裁は、次のように発言している。

「第1に、繰り返しになりますが、問題国が財政の健全化と成長力の強化に取り組むことです。第2に、こうした問題国の取り組みを支援するとともに、金融システムを立て直すため、資金面で十分な体制を整備することです。第3に、問題の再発を防ぐため、財政や競争力に対して十分な規律が働くよう、ユーロ圏内の統治の仕組みを強化することです。第4に、リーマン・ショックのような金融危機を回避することです。」

 これについては、ユーロ圏において、1と2については徐々にではあるが進められていると思う。3についても協議が進められている。しかし、4についてははっきり言えば無理であろう。金融危機は歴史上、何度も繰り返されている。これは巨大地震と同様に、金融というシステムにある種の一方的な力が働くことは避けられず、これは金融というシステムそのものに内在するリスクであり、それが一気に爆発することは止められない。このため、ショックが生じた際にいかに適切な処置が可能なのか。このあたりは中央銀行にも課せられた大きな責務であると思われる。




2012.2.4「物価連動国債の再発行に向けた動き」

 2月3日付けの日経新聞によると、財務省は物価連動債の再発行に向けて、発行条件を見直す方向で検討を始めたようである。デフレが長期化しても価値が目減りしないように元本保証を付け、早ければ2012年度の発行を目指すそうである。

 物価連動債はインフレ連動債とも呼ばれ、物価上昇率(インフレ率)に応じて、元本が調整される債券のことである。イギリスで1981年に発行が開始されて以降、欧米諸国を中心に発行されている。ちなみに米国の物価連動国債は「Treasury Inflation Protection Securities」、略してTIPSと呼ばれている。

 通常の固定利付国債は発行時の元金額が償還時まで不変で、利率も全ての利払いにおいて同一となる。つまり発行後にもし物価が上昇すると、名目ではなく実質ベースでみた通常の固定利付国債の債券価値は低下してしまうが、物価連動債の場合、クーポン利率は固定であるものの、物価上昇に連動して元本が増加するため、インフレの際にも実質的な価値が低下しない債券となる。

 これまで発行されていた日本の物価連動国債について、財務省のサイトにある「物価連動国債の商品設計」では次のような説明がある。

 「物価連動国債の発行後に物価が上昇すれば、その上昇率に応じて元金額が増加します(以下、増減後の元金額を想定元金額といいます。)。償還額は、償還時点での想定元金額となります。利払いは年2回で、利子の額は各利払時の想定元金額に表面利率を乗じて算出します。表面利率は発行時に固定し、全利払いを通じて同一です。従って、物価上昇により想定元金額が増加すれば利子の額も増加します。」

「物価連動国債の商品設計」  http://www.mof.go.jp/jgbs/topics/bond/10year_inflation-indexed/syouhinsekkei.htm

 これまでの日本の物価連動国債の商品設計としては、満期10年、連動する物価指数は全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)、物価が下落した場合の元本保証は設けない等となっていた。

 2004年3月から日本でも発行された物価連動国債の購入者は、主にヘッジファンドなどの海外投資家であった。国内投資家が物価連動国債の購入に慎重になっていたのは、そもそも国内投資家がインフレに連動する負債を持っていないことに加え、元本が保証されていないことにより満期保有ができないという商品性によるところが大きかった。

 ところが海外投資家がサブプライム問題などによる金融市場の混乱により、保有していた物価連動国債を売却したことにより、価格が急落し、買い手が不在となったことで流動性そのものが欠如する状況となり、財務省は2008年9月以降、物価連動国債の新規発行を凍結するという事態となったのである。

 米国やドイツ、フランス、イタリアなどでは価格下落時に元本を保証するというフロアの設定といった元本保証を導入している。市場参加者からは元本保証など商品性を変更した上での発行再開を望む声も強かった。このため財務省は米国などと同様に元本保証を付けた上で、早期の発行再開を目指して準備を進めている。2月10日には、市場関係者を交えて具体的な商品性や発行方法等に係る実務的な検討を進めるための「物価連動債の発行再開に関するワーキング・グループ」を開催するそうである。

 これまでの物価連動国債は個人は購入することができなかったが、個人向けの物価連動国債を要望する声もある。いずれ個人向けの物価連動国債が検討される可能性もありそうである。




2012.2.3「あまり知られていない国債の決済の仕組み」

 1月31日に財務省は「国債の入札から発行・買入までの期間を短縮します」との報道発表を行った。これによると「国債の流通市場において決済期間の短縮化が行われることを踏まえ、流通市場と同様に、平成24年4月23日以降の入札より、原則T(入札日)+2とします。国庫短期証券についても、同様に、入札から発行までの期間を原則T(入札日)+2とします。」とある。

報道発表 http://www.mof.go.jp/jgbs/topics/press_release/240131.html

 ちなみにT+1のTとは「Trade date」のことで証券の売買が成約された日、つまり約定日を意味する。慣行上、T+2は「ティ・プラスに」、T+3は「ティ・プラスさん」といった呼び方をしている。

 ここで少し国債の決済について確認してみたい。決済とは売買の約定したのち、代金と証券のやりとりを行うことである。国債の決済に関しては、1995年時点ですでにアメリカ、イギリスなどは約定日から起算して2営業日目(T+1)つまり翌日決済を行っていたが、日本ではまだ特定日決済の5・10日決済をおこなっていた。特定日決済とはある期間に約定された取引の決済をすべて特定の日に行う決済である。これに対して取引を常に約定日から一定期間経過後に決済するのはローリング決済と呼ばれる。

 その後、日本でも1996年9月19日の売買分より、約定日から起算して8営業日目(T+7)に決済を行うローリング決済に移行した。そして、1997年4月21日売買分からは約定日から起算して4営業日目(T+3)に決済を行うことになり、現在に至る。さらに、2012年4月23日約定分からは3営業日目(T+2)に決済を行う予定となっている。

 国債の入札に関しても、入札した業者は、その金額を日銀の口座に振り込むことになるが、入札から発行日(払い込み日)までは、通常の国債(2年国債を除く)は、現在は4営業日後となっている。ただし、2年国債については原則として、入札された翌月の15日(休日の際は翌営業日)となる。一部国庫短期証券で入札日が重なった際など5営業日渡しになるものがある。また、原則4営業日の5年国債と10年国債、それと20年国債、30年国債、40年国債については(リ・オープンを除き)、3月、6月、9月、12月の利払い月に限り、それぞれの利払い日(原則20日、休日の場合はそのあとの営業日)が発行日(払い込み日)となっている。

 これが4月23日から、2年債及び2年債以外の利付国債の3、6、9、12月における発行日は上記どおりのままであるが、それ以外で4営業日後となっているものについては、3営業日目の決済となる。ただし、財務省によると、個人向け国債や新型窓販の募集および個人向け国債の中途換金については、現行どおりとなり、国債の入札から発行等の期間については、入札スケジュール等の関係上、T+3等となることもあるとか。また、買入消却入札に係るフェイル時の取扱いについても現行どおりとなるようである。

 国債など金融商品の決済期間の短縮は、未決済残高を減少させ、結果として決済リスクを削減するための有力な手段となる。たとえば急激な相場変動が起きた際にも決済不履行などの事故が生じる決済リスクを軽減させられる。

 国債の決済は1988年に稼働した「日銀ネット」を通じて行われている。金融機関同士が行う資金取引の決済や国債など証券取引の代金の決済や、民間決済システムの最終的な決済に、日銀の当座預金での振替が利用されている。日銀が金融機関との間で行っているオペレーションや貸出し、国庫金の受払い、国債の発行・償還に伴う資金の受払いなどについても、日銀の当座預金を介して決済が行われている。日銀はこうした資金や国債の決済が安全かつ効率的に行われるようにするために、コンピュータ・ネットワークシステムを構築し、これが日銀ネットと呼ばれる日銀金融ネットワークシステムである。これは日本の金融そのものを支えている基盤とも言えるものである。




2012.2.2「日銀議事録にみる同時多発テロの際の対応」

 日銀は2001年7月から12月にかけて開催された日銀の金融政策決定会合の議事録を発表した。今回発表された議事録の中で、2001年9月18日開催の際は9月11日の米国での同時多発テロ後の会合であり、かなり注目度も高かったことで、この議事録の内容を確認したい。その前に、ここでも当時の様子を私のメモから追ってみたい。

 9月11日の米国同時テロによって米国の金融システムの中心地が大きな被害を受けた。崩壊した世界貿易センターには数多くの金融機関のオフィスがあり、金融システムも一時機能不全に陥っていた。しかし、米国の金融機関のバックアップシステムは完備しておりFEDなどの懸命の対応により米国債の取引は13日に再開された。かろうじて1万円台をキープしていた日経平均はついにこの大台を割り込んだ。中間期末も迫り、金融機関の保有する株式の含み損はさらに膨らむ懸念もある。こういったことから18〜19日に実施される日銀の金融政策決定会合において追加緩和策が打ち出される可能性も強まってきた。(9月13日)

 FRBは株式市場の開始前に緊急利下げを実施した。またFRBに促されるように欧州中央銀行やカナダも利下げを決定した。日銀も本日の決定会合において追加緩和を決定する。実際にはグリーンスパン議長が半ば強引に金融緩和を勧めたとの見方もあった。緩和策に消極的な連銀メンバーを説得し、いったんは緩和を見送った欧州にも協力を要請したと思われる。日銀も動くだろうと見られていたが、朝方、速水総裁は「金融政策、今日は決めない」と消極姿勢。しかし実際には決定会合が開始されてから「今日中に議事を終了させることになった」と日銀はコメント。(9月18日)

(以上は「債券ディーリングルーム」の「若き知」より)

 さて、9月18日の日銀金融政策決定会合記事録では、2時の開会の際、速水総裁(当時)から、「今回の会合では日本銀行としてできるだけ速やかに金融政策運営を決定して公表する必要があると考える。そこで今回の会合は、本日中に金融市場調節方針の決定を行って公表することを目指して議事を進めたい」との発言があった。

 この開始時間までには、18日から19日にかけての開催予定を1日に短縮し、18日当日に金融政策を決めることを事前に打ち合わせたと思われるが、この日の朝方に「今日は決めない」と言った速水総裁の意見が変わったのは何故か。このあたりは議事録からは読み取れない。ただし、この会合には企画室審議役として白川方明氏(現日銀総裁)が参加している。昨年8月の金融政策決定会合では、やはり日程を短縮して追加の金融緩和策を決定したが、これには2001年9月18日の会合の経験なども生かされたのではないかと思われる。

 議事録に戻ると、「金融経済動向についての執行部からの報告」では、主に同時多発テロによる金融市場の動向などの説明とともに、日銀がこれを受けて13日に既往最大の2兆円のオペを実施したことなどが説明された。その後、議長がECBの利下げについての補足説明を求められた平野国際局長が次のような発言をしていた。

 「ECBの公表文から見ると・・・ユーロエリアの景気の状況で、いつ下げてもおかしくなかった状況なので、そうした状況を見ながら、加えて米国の動きを見ながら機動的に判断したのではないかと思う」との説明であった。

 これだけではFRBとECBがどのような連絡を取り合ったのか、そして日銀にはどのような連絡があったのかはわからないが、「判断したのではないかと思う」という言葉からは、この際には協調態勢がしっかりと確立されていたわけではなさそうである。






2012.2.2「10年以上前に指摘されていた為替介入の非不胎化議論の意味のなさ」

 日銀は2001年7月から12月にかけて開催された日銀の金融政策決定会合の議事録を発表した。今回発表された議事録の中で、2001年9月18日開催の際は9月11日の米国での同時多発テロ後の会合であり、かなり注目度も高かったことで、この議事録の内容を確認してみた。その前に、当時の様子を私のメモからご覧いただきたい。

 財務省は2000年4月3日以来の為替介入を実施したが、介入に際して「介入資金も利用して、潤沢な資金供給に努めていく方針」と日銀はコメント。非不胎化を匂わしながらも「市場調節方針を実現するため介入資金も含め全体としての資金供給額を決定している」とも発言。そもそも介入資金を非不胎化しようがしまいが日銀はどちらにしても毎日大量の資金供給を実施している。どの部分が介入の非不胎化によるものなのかはっきり区別もつけづらい。それでも今日の非不胎化に関するコメントが相場に多少なりインパクトも与えたようである。」 (「債券ディーリングルーム」2001年9月14日のコラムより)

 2001年9月18日に開催された日銀の金融政策決定会合の議事録の最後に以下のような興味深いやりとりがあった。

 財務省の代表として出席していた村上財務副大臣から次のような発言があった。
「総裁すみません。ちょっと厚かましいが、記者会見でお願いしたいのは例の非不胎化について、うちのほとんどが介入資金を回収せずと言っているので、記者会見では一つよろしくお願いする。誠に厚かましいお願いだが。」

 これに対して、三木委員(当時)からは、
「それはやはりそうあるべきだと思う。実際にこの段階では余り意味のない議論だが必要だと思う。」

 中原伸之委員(当時)
「だけど外国は凄く注目している」

 植田委員(当時)
「ただ言える表現は、介入資金も利用して円滑な資金供給を行っていく方針ということであろう」

 介入の際の非不胎化論議に関しては、いまだにマスコミなどで取り上げられることがあるが、このやりとりを見てもあまり意味のないことであるのがおわかりであろう。非不胎化うんぬんはあくまで日々の日銀の資金調整に紛れてしまうものであり、そもそも意味のない議論なのだが、何故か外国、いやマスコミなどが「凄く」注目していることで、「介入資金も利用して円滑な資金供給を行っている」との表現で、いかにも非不胎化を行っているかの如く発言が、いまだに行われているというのもどうかと思うのだが。






2012.2.1「そもそも為替介入とは何か」

 何を今更と言われそうだが、そもそも為替介入とは何であるのか。それを調べるには、日銀のサイトにまとめがあった。

「日本銀行における外国為替市場介入事務の概要」 http://www.boj.or.jp/intl_finance/outline/expkainyu.htm/

 「日本経済は、変動相場制度へ移行した1973年2月以来、趨勢的な円高基調の中でしばしば為替相場の大幅な変動を経験してきました。これに対応して、わが国では、そうした為替相場変動がもたらす実体経済への悪影響を緩和するために、しばしば外国為替市場への介入(「外国為替平衡操作」とも言われます。以下、「為替介入」ないし単に「介入」と呼ぶことにします)が行なわれてきています。」

 当然ながらドル円が360円に固定されていた時代には為替介入などは存在していなかった。1971年のニクソン・ショックを経て1973年2月に変動相場制に移行し、それ以降の為替相場の変動の際に介入が実施された。

 介入の定義・法的位置付けとしては次のようにある。

 「為替介入とは、一般に、通貨当局が外国為替市場において、外国為替相場に影響を与えることを目的に外国為替の売買を行なうことを言います。わが国では、財務大臣が円相場の安定を実現するために用いる手段として位置付けられており、為替介入は財務大臣の権限において実施されます。日本銀行は、その際に財務大臣の代理人として、財務大臣の指示に基づいて為替介入の実務を遂行しています。」

 何で日銀ではなく、財務大臣が指示を出すのか。このあたりは米国や欧州の例と比較があるので、そちらを確認してみる。

 米国の場合には、政府<財務省>及び連邦準備制度理事会に決定権があるが、ただし、政府に優先権がある。
 ユーロエリアでは、欧州中央銀行(ECB)に決定権がある。
 英国の場合には、政府<大蔵省>及びイングランド銀行(BOE)に決定権があるが、BOEの介入は金融政策目標達成に必要な場合に限定。

 為替介入というのは当然ながら相手国がある行為であり、かなり政治的な配慮も必要とされるこのため日本では、財務大臣が売買指示を出すことにしたと思われる。 ただし、これは優先権ではなく決定権である。それはつまりFRBなどと異なり、日本の中央銀行である日銀には一切、介入の決定権はない。

 外国為替資金特別会計法は昭和26年3月30日に施行されているようだが、為替が変動相場制に移行して以降の介入に関して、どのような取り決めがあったのは、このあたりはのちほどもう少し調べてみたい。




2012.2.1「今後の新規国債発行額の予測と金利変化の影響」

 財務省は「平成24年度予算の後年度歳出・歳入の影響試算」という資料を発表した。

http://www.mof.go.jp/budget/topics/outlook/sy2401a.htm

 これはいくつかの前提条件の元に機械的に出したものであり、現実の数値とは乖離してくる可能性があるが、今後の国債発行額の行方などを見る上で、ひとつの判断材料ともなる。

 今回の試算では「社会保障・税一体改革素案」及び「中期財政フレーム(平成24年度〜平成26年度)」を前提とした上で、2012年度予算が2015年度までの歳出・歳入に与える影響を機械的に試算したもの(試算1-1)、その前提なしに、平成24年度予算における制度・施策を前提とした後年度負担額推計等に基づき、平成24年度予算が平成27年度までの歳出・歳入に与える影響を機械的に試算したもの(試算1-2)。また、それぞれのファンダメンタルズの条件を変化させたもの(試算1-1と1-2は名目経済成長率1%台半ばを前提、試算2-1と2-2は同3%程度を前提)に分かれている。

 試算1では長期金利の前提は2.0%として計算されたものであり、ここでは現状のファンダメンタルズに近いこの試算1で、今後の国債発行の行方などについて見てみたい。

 試算1-1(消費税引き上げ込み、名目経済成長率1%台半ば)での、予算の総額は2012年度90.3兆円、2013年度91.9兆円、2014年度98.2兆円、2015年度101.4兆円となっている。税収は2012年度42.3兆円、2013年度42.7兆円、2014年度49.7兆円、2015年度52.8兆円。

 その他収入を差し引いた差額は、2012年度44.2兆円、2013年度45.7兆円、2014年度45.3兆円、2015年度45.4兆円。

 この差額がそのまま新規国債の発行額となるわけではないが、新規国債発行額の目安となる数字であることは確かである。

 この差額分は試算1-2(消費税引き上げ織り込まず、名目経済成長率1%台半ば)では、2012年度44.2兆円、2013年度47.2兆円、2014年度49.1兆円、2015年度50.8兆円となる。

 これを基礎的財政収支(プライマリーバランス)でみると、試算1-1は、2012年度22.3兆円、2013年度22.3兆円、2014年度19.8兆円、2015年度18.2兆円。試算1-2は2012年度22.3兆円、2013年度23.7兆円、2014年度23.6兆円、2015年度23.5兆円となり、この差額、つまり収支改善額は、2013年度1.4兆円、2014年度6.5兆円、2015年度8.1兆円となる。

 このように消費税の引き上げにより、プライマリーバランスが改善されることは確かであるが、今後の国債発行額を見る限り、消費税の引き上げを加味してもなお毎年度45兆円規模の新規国債が発行される計算となる。ちなみに名目経済成長率3%程度を前提とし消費税の引き上げを加味した試算でも、差額部分は2012年度44.2兆円、2013年度45.4兆円、2014年度44.6兆円、2015年度44.3兆円と44兆円以上の規模が続くものとなっている。当然ながら新規国債の発行増により日本政府の債務そのものは増加する。それに対して国内資金で賄える額には限度があることも事実であろう。

 そしてもうひとつ気にすべき数値もある。2013年度以降、長期金利が変化した場合の国債費の増減額である。そもそも今回の試算は長期金利の2.0%がひとつの基準となっている。それに対し実際の長期金利は1.0%以下となっており、1.0%程度の余裕を持った試算であり、デフレの状況、さらに日本国債への信任が継続する限りにおいて、2.0%でも高く見積もりすぎとなるかもしれない。しかし、欧州の信用不安のようなことが日本でも絶対起きないとは言えず、ある程度の長期金利の上昇を前提とした数値も抑えておく必要もあろう。なんといっても国債残高が膨らんでいることで、その分、長期金利の上昇の影響を受けやすくなっていることも確かである。

 これについては前提からの変化幅がプラス1%の場合、国債費の増加は2013年度が1.0兆円、2014年度2.4兆円、2015年度4.1兆円。そしてプラス2%の場合、国債費の増加は2013年度が2.0兆円、2014年度4.9兆円、2015年度8.3兆円となる。反対にマイナス1%の場合には、2013年度が-1.0兆円、2014年度-2.4兆円、2015年度-4.1兆円となる。

 ギリシャやポルトガルはさておき、昨年のイタリアの長期金利の上昇を見ても、いったん上がり出すと一気に上昇することがわかる。日本の長期金利の場合には、この試算の前提にある2.0%が実は大きな節目ともなっており、ここを超えてくるようであれば金利上昇のピッチが早まる懸念もある。その際にわずか1%の金利上昇でも、これだけ影響があるということを、念のためチェックしておく必要があろう。






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