2012.3.31「自分の金融資産を守るには」
AIJ投資顧問の年金資産消失問題を見ても、金融市場に資金を預けることには常にリスクを伴うことは確かである。AIJ投資顧問は損失を巧みに隠蔽するなどしており、この問題で一概に金融市場は危険であると決めつけるわけにはいかない。むしろ、年金基金や生命保険金、さらに我々の預貯金などを運用している金融機関の多くは信頼のおけるものであることも確かである。
それでも金融市場での資金運用にはリスクが伴う。自分の金融資産を守るためには、そのリスクを少しでも軽減させる必要がある。そのためにはいくつか必要なことがある。
ひとつはコアとなる資金については極力、安全資産で運用すべきということである。将来の備えなどに必要な資金については元本が毀損する恐れのある物への投資は控えるべきである。そのためには預金保険制度が適用される範囲内での預金などが候補となろう。しかし、それを大きく超える資産を持っている方には、個人向け国債が良い。途中売却できない期間があるため、そこに注意する必要があるが、その期間を超えれば国債でありながら、価格変動リスクも流動リスクもない。いつでも財務省が額面で買い取ってくれる。
しかし、国債は危ないのではないかと信用リスクを気にする人がいるかもしれない。しかし、日本の金融商品の中核にあるのが国債であり、仮に日本国債の信用リスクが毀損すれば、それは日本の金融資産全体に影響を与えるばかりか、国債を保有している金融機関にも影響を与える。日本の信用リスクに関する将来像については見方も分かれるが、その影響を完全に排除するには国外での生活を考える他に手段はない。このあたり、日本国債は暴落するかという問題ではなく、国民としては暴落させてはいけないものであろう。
そしてコアとなり、絶対に元本を失ってはならない資金以外での余裕資金があれば、預貯金や個人向け国債以外の金融商品が数多く存在し、それらに資金を振り向けることも候補に挙がろう。多少のリスクは覚悟の上で、預貯金や国債の利子以上の収益を確保したいという方も多いであろう。その際にまず心がけるべきことは、なるべく原商品を購入するという機会を設けることであろう。つまりは、株式なり債券なりであり、為替投資の機会としては外貨預金などもある。
株や債券などの原商品を購入することにより、実際に価格変動リスクや流動性リスク、そして信用リスクといった基本的なリスクを経験として学ぶことができる。もちろん株や債券を購入する前に、必要最低限度の知識を得ておく必要もある。ただし、投資の際には他人の意見に惑わされることなく、自ら判断する必要がある。証券を発行する企業の財務内容などをチェックするとともに、少なくともチャートの読み方程度はできるようにしておくことも必要であろう。
そして、損失が発生したとしてもこれは貴重な経験と認識することも大事である。大きな損失を発生させたディーラーはちょっとした成功体験を自分の相場観の良さによるものと勘違いし、のちに大きな損失を発生させることが多い。それよりも最初に損失を発生させると、なぜ損をしたのかをしっかりと考えることで、のちの投資に生かせることにもなる。
そのような経験を経た上で、運用をプロが行っている投資信託などに資金を振り向けることも必要か。大手証券出身のAIJの資金運用がどのようなものであったのかを見るまでもなく、金融市場での資金運用は非常に難しい。私のディーラー時代の経験からも確かなのは、安定的に収益を出すことは大変難しいということである。そのことすら、経験がないとわからない。もちろんある程度の安定した収益が出せるようなプロ達も存在するのも確かである。それをどのようにして見分けるのかも重要であるが、それにはある程度、金融市場に関する経験や知識、情報が必要になる。そのためには自らまず原資産の運用をしてみることが、一番良い手段になると思われるのである。

2012.3.30「4月2日からBLOGOSさんからも牛熊メルマガを配信致します」
4月2日から「牛さん熊さんの本日の債券」をBLOGOSさんからも配信させていただきます。「牛さん熊さんの本日の債券」は、さっと読めば当日の金融市場の様子がわかるメルマガです。金融市場関係者のみならず、金融に関心のある方、ぜひこの機会に牛熊メルマガをご購入いただければと思います。
詳しくはこちらのページをご覧ください。
BLOGOSメルマガ「牛さん熊さんの本日の債券」
2012.3.30「日銀は強力な金融緩和を推進し続けるのか」
3月28日に千葉県での宮尾龍蔵審議委員の講演内容が日銀のサイトにアップされた。今回はこの内容について見てみたい。
その前に宮尾審議委員は2010年3月26日に日銀審議委員に就任したので、就任後2年が経過したことになる。その間、2011年10月27日の金融政策決定会合では資産買入等の基金を50兆円程度から55兆円程度に5兆円程度増額することに一人反対していた。この際に宮尾委員は資産買入等の基金を10兆円程度増額する議案が提出していた。また、今年3月14日の決定会合でも資産買入等の基金を5兆円程度増額し、70兆円程度とする議案が提出したが否決された。この際には現状維持との議長提案には賛成票を投じている。
これらの動きから宮尾委員はハト派的なイメージを持たれていると思われる。このため今回は「金融政策運営」に関する部分を中心に見てみたい。
2月14日に日銀は大きな政策変更を行ったが、これについて「強力な金融緩和を推進し
ていくと明言し、積極的な緩和姿勢をより明確にした」と指摘しているが、その効果波及経路については、「金利を通じる経路やポートフォリオ調整を通じる経路の両面から、長めの金利やリスクプレミアムの低下をもたらし」、「借入コスト、株価・為替レートを含む様々な資産価格、銀行貸出などに働きかけ、企業・家計の支出に影響を及ぼして、最終的には景気・物価にプラスの効果を及ぼしていくという経路」を想定しているという。
2月の決定後の状況を振り返ると、「今後の積極的な金融政策運営に対する見通し(根拠を伴って形成される予想)を通じて、長めの金利や人々のリスクテイク意欲に働きかける形で、2 年債金利の低下と円高の修正および株価上昇がみられました」とある。2月14日の日銀の政策変更の効果として、円高修正と株高を上げている。つまりこれは円安と株高の動きを促進させようとの意図があったとみられる。「円高修正・株高の流れが形成されてはいましたが、2月の決定もそういった動きを形成する一因になったとみられます」とも発言している。
「足もとまでの金融環境の改善傾向が、海外経済の改善等とともに続いていけば、それが起点となって、企業収益あるいは慎重な企業経営者のマインドも好転し、前向きな投資支出等が増え、同時に成長力・付加価値創造力が高まることが期待されます。円高修正や株高の動きは、消費者心理の改善や外国人観光客の増加などにもつながり、国内需要を一層刺激する可能性もあります。そして、こうした動きは景気の持続的回復と物価の緩やかな上昇をもたらす方向に働くでしょう」
上記の発言を見る限り、日銀による実質的なインフレ目標の導入と追加緩和の目的が、円安や株高の後押しであり、それにより景気回復に繋げようとしたことが伺える。過去にも日銀は今回と同様に円高や株安を意識して、金融緩和を行ったことがある。プラザ合意後の急激な円高への対策は、日銀の金融政策に押し付けられ、これがバブルを加速させたとも指摘されている。
今回も日銀は、この宮尾委員の指摘を見る限り、円高対策が大きな目的であり、さらに1%の物価上昇率を目指し、それが見通せるようになるまで金融緩和を強力に推進するという形でコミットメント(約束)をより明確にしたことにより、今後、さらなる追加緩和を行ってくる可能性が高い。
もちろんこれには「潜在的な副作用に対する適切な目配り」もしてくるであろうが、少なくとも物価が上昇してこない限りは、強力な金融緩和を推進してこよう。となれば、いずれ日銀の金融政策が脱デフレを成功させることも考えられるが、それが景気回復以上に資産価格の上昇を招きバブルの温床となる可能性もある。またデフレ脱却は現在の日本経済にとり悪いことではないものの、長期間、デフレに慣らされた日本経済にとって物価の上昇は、各所に大きな衝撃を与える可能性もある。
2月の日銀の政策変更は市場の動向を見る限りにおいて成功を収めたといえる。しかし、中央銀行による金融政策頼みの対策はいずれその副作用を招くことが予想される。日銀はこの先、アクセルをさらに踏み込むことはあっても、よほどのことがない限りブレーキを踏むことはできなくなる可能性がある。それによる先々への懸念も今回の宮尾委員の発言から感じた次第である。

2012.3.29「消費増税の動向に鈍感な国債市場」
民主党執行部は消費税率を引き上げるための法案の事前審査で、前原政策調査会長は追加増税を削除するなど新たな修正案を示したうえで、今後の対応について一任を求め、28日未明に議論を打ち切った。
これに対し消費税率の引き上げに慎重な議員らは「議論は尽くされていない」などとして強く反発している。政府は民主党の了承を経て、30日に閣議決定し国会に提出する方針だが、民主党内での造反リスクも高まっているという(28日日経新聞)。
野田総理は消費増税に対して政治声明をかけると表明しているが、民主党内でも大きな壁が存在し、また連立を組む国民新党も反対している。もし衆院本会議での採決で、党内から50人あまりが造反すれば法案は否決されることとなる。自民党の行方も注目されるが、現在のところでは法案が成立する見込みは立っていないように思われる。
日本の長期金利が低位安定している、つまり国債価格が安定している理由のひとつに、将来の増税の余地があるためとの見方がある。もしそうであれば、この消費増税を巡る動きは国債の売り要因となってもおかしくはないが、国債市場はほとんどこれを材料視していない。
日本国債の需給が安定していることが価格安定の最大の要因であることも確かであろうが、消費増税の行方にここまで鈍感となっているというのも腑に落ちない。消費増税は間違いなく実施されるであろうとの楽観的な見方が市場を支配しているわけでもないはずである。むしろ、財政再建の先送りは今に始まったことではなく、もし今回、消費増税法案がたとえ廃案となろうが、それで国債を売ってもまた買い戻せざるを得ないとの認識であろうか。
ユーロ圏の国では、ギリシャ発の信用不安により各国とも財政再建に向けた動きに神経質になっている。少しでも財政再建が遅れるような兆しがあると、当該国の国債が売られたりする。しかし、日本の場合には国債が長期にわたり安定消化され続けており、そう簡単には需給バランスが崩れることは想定しづらいため、思惑などによる売りは損失をもたらす結果になる可能性は確かに高い。つまり日本の場合には財政再建の遅れに対して、国債市場が警鐘を鳴らすようなことにはなっていない。だから消費増税反対派も強気の姿勢で臨める面もあるのかもしれない。

2012.3.28「積極的な金融政策の効果と限界」
白川日銀総裁の「Federal Reserve Board と International Journal of Central Bankingによる共催コンファレンス」での講演内容が日銀のサイトにアップされた。今回はこの中から、「積極的な金融政策の効果と限界」に関する部分を見てみたい。
白川総裁は金融危機後の積極的な金融政策による副作用や限界に関し、十分な注意が払われていなかった側面として4点、指摘している。
第1にあげたのは「バランスシート修復の重み」である。「金融緩和はバランスシート修復に伴う痛みの緩和剤でしかない。しかも、この緩和剤は長く服用すれば、過剰債務の削減インセンティブを低下させ、最終的に必要なバランスシート修復の達成時期の遅れというコストを伴う側面もある」と総裁は指摘している。
日銀は1999年2月にゼロ金利政策を行い、2000年8月にいったん解除したものの、2001年3月に量的緩和政策を実施。これも2006年3月に解除され、2007年2月に政策金利を0.5%まで引き上げたが、2008年にはそれは0.1%まで引き下げられ、2010年10月に包括緩和策として実質的なゼロ金利政策を再開した。つまり一時的に政策金利が少しだけ上昇した時期はあれど、1999年から現在に至るまで、政策金利はほぼゼロに近い水準で推移し続けたことになる。
総裁は「もちろん、低金利の効果はバランスシートの毀損していない経済主体にも及ぶ」としているが、これは日本経済全体にもかなり影響を与えているはずである。つまり、超低金利に適応した経済となってしまっており、それは今後、もし仮に物価が上昇した際には大きな影響をもたらす可能性を秘めている。さらに総裁は過剰債務の削減インセンティブの低下についても指摘していた。
第2として「金融緩和によって誘発される需要が、異例の低金利下によってのみ採算が合う投資案件である場合には、資源配分が非効率になり、経済全体の生産性や潜在成長率への悪影響も無視できなくなる」点をあげている。低金利の継続が経済全体の生産性に影響を与え、潜在成長率を下押しするリスクも認識しておく必要はあろう。
第3として金融仲介機能への影響をあげており、「中央銀行の行う金融政策と支出を行う企業や家計との間には、両者を繋ぐ銀行や金融市場が存在し、これらの仲介機関が適切に機能しなくなると、金融緩和の効果も期待できなくなる。」としている、緩和度合いがある臨界点を超えると、逆に利鞘の低下をもたらし、金融仲介機能も弱まり得るとの指摘は、現在の日本の状況そのものではなかろうか。
第4としてあげているのが、金融緩和の国際的波及と自国経済へのフィードバック効果で「自国経済がバランスシート調整下にある場合、金融緩和は自国の民間経済主体の支出増加を促すというより、グローバル投資家の利回り追求や為替レートの減価圧力を通じて効果を発揮する傾向が強まる。」と指摘している。つまり国際商品市況の不安定化や、通貨安競争を生むことになる。今年2月、日銀は実質的なインフレ目標政策を導入し、追加緩和も実施したが、これには円高調整の後押しも意識されていたものと推測される。つまりは、金融緩和の国際的波及による自国経済へのフィードバック効果がひとつの狙いであったのではなかろうか。


2012.3.27「平清盛と貨幣経済」
日銀の森本審議委員は3月22日に兵庫県で講演したが、その際に神戸にゆかりのある平清盛について下記のように触れている。
「平清盛は、幕末の神戸開港に先駆けること約700年前に、大輪田泊(神戸市兵庫区)を修築して宋との貿易を活発化させました。また、物価安定には苦労したようですが、大量に輸入した宋銭を流通させ、現在へとつながるわが国の貨幣経済発展の道筋をつけるなど、中世の日本経済で大きな役割を果たしたと言われています。」
平安時代の中期に皇朝十二銭は鋳造が取りやめとなり、それまでの貨幣は粗悪で使われなくなったことで貨幣は交換手段として利用されなかった。その後、価値基準として使われたのが米や絹であった。しかし、平安時代の末期から農業生産力が向上し、商品流通の拡大などを背景として貨幣に対する需要が高まった。また、中国との貿易などにより大量の銅銭が輸入されるようになり、「渡来銭」と呼ばれた銅銭が貨幣として使われるようになった。
この中国からの銅銭の購入に使われたのは奥州などで産出された「金」であった。当時の日本は東アジア地域有数の金の産出国であり、大量の金が中国向けに輸出され、それがマルコ・ポーロの「東方見聞録」における 黄金の国「ジパング」伝説に繋がったのである。
渡来銭はその後、室町時代中期あたりまで国内に流入し、江戸時代前期まで国内貨幣として広く流通することになるが、ここには平清盛が大きな役割を果たすこととなる。平清盛は南宋との貿易で大量の銅銭を輸入し、朝廷に働きかけて銅銭の流通の許しを得て渡来銭を決済手段とし、これにより絶大な経済力と権力を手中にした。大量の銭が流通することにより貨幣経済も急速に進んだのである。
百練抄という歴史書には、「銭の病」という記述があるとか。1179年6月に流行したお多福風邪らしき疫病が「銭の病」と呼ばれたとされているそうである。しかし、この「銭の病」の正体は、インフレであるという学説もある。また、平安時代の末から大量の渡来銭が輸入されて貨幣経済の発達とともに、富裕な僧侶などが延暦寺など有力寺社の保護のもと、銭を貸して高利の利息をとる専門の金融業者が現れた。つまり多額の債務者が発生したことで、銭の病と呼ばれたとの見方もある。貨幣経済の発展の初期段階でインフレやデフレ、さらに債務問題等がすでに発生していたとみられ、なかなか興味深い。このあたり興味のある方は、「経営者・平清盛の失敗 会計士が書いた歴史と経済の教科書(山田真哉著)」なども参考になるのではなかろうか。
平家が壇ノ浦で滅亡し、源頼朝が開いた鎌倉幕府は中国からの銭の輸入を行わなかった。その後一時的に銅銭の流通を認めたものの、貨幣経済が混乱するとの理由から、再び銅銭の流通を否定した。しかし、貨幣経済の進展により、1226年に鎌倉幕府も渡来銭の利用を公式に認めるようになったのである。海外からの輸入に頼り、国内での貨幣の鋳造が行われなかったのは、当時の政府には地方で産出される銅から貨幣を生産するほどの力が存在していなかったことも要因として指摘されている。


2012.3.24「日本国債の保有者、海外シェアがさらにアップ」
23日に日銀は昨年10〜12月期の資金循環統計を発表した。これによると2011年12月末時点の家計の金融資産は1483兆4822億円、金融資産・負債差額は1126兆6471億円となっていた。家計の金融資産は9月末より増加していたが、1500兆円近くでの頭打ち状態は続いている格好に。また、民間の非金融法人企業の現金・預金は204兆8121億円となっていた。これに対して一般政府の金融資産は473兆6671億円、金融資産・負債差額はマイナス625兆4282億円となっており、負債総額は1099兆953億円となっていた。
この資金循環統計を基に、2011年12月末時点の国債保有者別の割合を算出してみた(国債・財融債のみ、国庫短期証券は含まず)。
昨年12月末の国債(国債・財融債のみ)の残高は755兆3903億円と9月末から7兆1985億円増加した(速報ベース)。国庫短期証券を含むと920兆円規模となる。参考までに日銀の資金循環統計の数値は額面ベースではなく時価ベースとなっている。
日本国債の最大の保有者は銀行など民間預金取扱機関となり、金額で274兆2246億円、全体に占める割合は36.3%となった。次に民間の保険・年金が198兆5191億円の26.3%、そして、公的年金が69兆7122億円の9.2%、日本銀行が67兆6307億円で9.0%、海外が50兆9099億円の6.7%、投信など金融仲介機関が36兆1849億円の4.8%、家計が28兆4541億円の3.8%、財政融資資金が7559億円の0.1%、その他28兆9989億円の3.8%となっていた。
前回の2011年9月末に比べて残高が大きく増加していたのが民間の保険・年金で13兆906億円増(速報ベースの比較)となっていた。続いて日銀の4兆141億円増(同)、海外の3兆5059億円増と続く。これにより海外のシェアは6.3%から6.7%に上昇した。
これに対して大きく減少していたのが、銀行など民間預金取扱機関で10兆497億円の減少となっていた。また、投信など金融仲介機関が3兆6288億円減、家計が1兆375億円の減となった。銀行などの売りに対して、保険や年金などが買い向かった構図となっていたようである。家計については5年固定利付きの個人向け国債の償還を迎え、この時期の個人向け国債の販売額そのものは回復してものの、その一部は預貯金等に流れたため残高そのものは減少したものとみられる。
海外投資家の残高・シェアともに拡大しており、欧州の信用危機により日本国債への資金シフトを続けていたことが、この数字からも伺える。国庫短期証券を含んだ数字でみると、海外は全体の8.5%のシェアとなり(日銀の参考図より表)、これまで最高だった2008年9月末の8.5%に並ぶ水準となったようである。

2012.3.23「1月の米国債国別保有残高」
米財務省が発表した2012年1月の米国債国別保有残高(MAJOR FOREIGN HOLDERS OF TREASURY SECURITIES、http://www.ustreas.gov/tic/mfh.txt)によると、日本の米国債(短期債含む)保有残高は1兆790億ドルとなり、昨年12月の1兆582億ドルから増加した。
これに対してトップの中国も1兆1595億ドルと昨年12月の1兆1519億円から増加した。中国による米国債保有額はここにきて減少傾向となっていたが、1月は久しぶりの増加となった。
上位10か国は次の通り(単位、10億ドル)。中国(China, Mainland)1159.5 、日本(Japan)1079.0、石油輸出国(Oil Exporters) 258.8、ブラジル(Brazil)229.1、カリブ海の金融センター(Carib Bnkng Ctrs)227.8、台湾(Taiwan)177.9、スイス(Switzerland)145.4、ロシア(Russia)142.5、英国(United Kingdom) 142.3、ルクセンブルグ(Luxembourg)138.7。
米国債保有国の上位陣の動向を見る限り、昨年12月から1月にかけては残高をやや増やすか現状維持となり、やや減少が目立ったのはルクセンブルグ(150.6→138.7)ぐらいであった。
外為市場でのユーロの動きをみると1月半ばあたりから、徐々にユーロが買い戻されるなど、この動きを見る限り欧州の信用不安は後退しつつあった。欧州の信用不安により安全資産として米国債も買い進まれていたが、1月にその反動売りも入った。
ところが1月25日のFOMCでは、事実上のゼロ金利政策を解除する時期を、これまで公表してきた来年の半ばから1年余り先延ばしし、物価に対して特定の長期的な目標(goal)としてPCEの物価指数での2%に置くことを決定した。これをきっかけに一時崩れかけていた米国債は再び買われ、1月末に米国10年債利回りは1.8%近辺に低下したのである。
その後の米国債の動きを見ると、3月13日のFOMCまでは高値圏での推移が続くことになる。結局、FOMCの時間軸の長期化なども手伝って、1月の米国債国別保有残高についても大きな動きはなかったものと思われる。



2012.3.22「2月の日銀の追加緩和による債券市場への影響」
21日に日本証券業協会が発表した2月の公社債投資家別売買高(短期証券を除く)によると、都市銀行は6155億円の買越しとなっていた。都市銀行は2011年3月以降、売り越しと買い越しが交互に繰り返されていたが、ついにそのパターンが崩れた。また、同時に発表された国債の投資家別売買高をみると、長期債を6024億円買越しており、久しぶりに長期債主体に購入したようである。
日銀は2月14日に追加緩和を実施しており、資産買入等の基金をこれまでの55兆円程度から65兆円程度に10兆円増額し、その増額対象は長期国債(期間1〜2年)とすることを決定した。しかし、すでに中期債の利回りはかなり低水準にあったことで、都市銀行はそれよりもやや期間の長い国債主体に買いを入れてきたものと思われる。
地方銀行は差し引きではあまり動きはなく、都市銀行と同様に中期国債もそれほど大きく増加させていない。これに対して信託銀行は差し引きで7975億円の買越しとなっており、国債の売買から見ると中期債3908億円、超長期債を1344億円、長期債1413億円と中期債主体であった。しかし、金額そのものはそれほど大きくはなかった。農林系金融機関は6904億円の買越しとなり、この月も超長期国債を5799億円買越しており、中長期債はあまり変化はなかった。
生損保は7122億円の買越し。こちらも農林系金融機関同様に超長期国債を5920億円の買越しに。1月の生損保による超長期債の購入額が大きく落ち込んでいたが、2月はやや回復している。
そして海外投資家は5374億円の買越しに。国債でみると中期債を6245億円買越しているが、1月の4715億円の買越し額と比べて極端に大きくなっているわけではなく、海外投資家は引き続き淡々と中短期債を購入しているようである。
このように公社債投資家別の売買高を見る限り、2月14日の日銀による追加緩和の影響は限定的であったとみられ、都市銀行がやや長めの国債を少し購入した程度であった。日銀の追加緩和はむしろ円安や株高の動きを加速させることとなり、それは3月13日あたりからの債券の大幅調整を招く要因のひとつとなった。ただし、3月の債券相場の調整の要因としては米債相場の下落が大きかったのも確かである。この相場の調整過程での投資家の押し目買い動向を探る意味でも、来月に発表される3月の公社債投資家別売買高も注目したい。



2012.3.21「日銀が実質的なインフレ目標を導入した理由」
2月13日から14日に開催された日銀の金融政策決定会合の議事要旨が発表された。この会合では、中長期的に持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率として「中長期的な物価安定の目途」を示すことにすることを決定した。日銀はこれより、デフレ脱却に向けてより能動的に対処する姿勢を強めるなど、2月14日は日銀の金融政策が大きく変わったが、何故にこのタイミングであったのか。それについては、議事要旨で次のような記述があった。
「当面の金融政策運営を検討するに当たって、委員は、金融政策運営に関する情報発信については、かねてから、より良いあり方を模索する不断の検討が必要との認識が委員間で共有されてきたこと、そうした中、前回会合では、米国FRBにおいて情報発信のあり方を巡る検討が進められていることを踏まえ、何人かの委員から改めて、中長期的な 物価安定の理解や、それに基づく時間軸の示し方について、検討していく必要があるとの問題提起があったこと、実際に 、米国FRBが物価安定に関する長期的な目標(longer-run goal)を示したことを契機に、中央銀行の物価安定に対する姿勢について関心が改めて高まっていること、等を踏まえ、金融政策運営に関する情報発信のあり方について議論することにした。」
1月23日・24日の議事要旨を確認してみると、確かに次のような記述があった。つまり1月25日のFOMCでの情報発信の方法をかなり注視していたことが伺える。
「何人かの委員は、こうした時間軸の示し方は、現下の日本経済の情勢等を踏まえると、金融政策の透明性や有効性の観点から適切であるが、米国FRBがコミュニケーション政策を見直していることもあり、情報発信のあり方については不断に点検を続けていくことが重要であると付け加えた」
1月25日のFOMCでは「長期目標と政策戦略」という声明文において、FRBは物価に対して特定の長期的な目標(goal)を置くこととし、それをPCEの物価指数(PCEデフレーター)の2%とした。これについてバーナンキFRB議長は、数値目標に縛られるようなインフレ・ターゲットとは異なるとの見解を示していたが、大枠としてはいわゆるインフレ目標政策を導入したということになろう。
このFRBの動きが要因となり、日銀も同じ方向に舵をきることを2月14日に決定したものと思われる。この背景には政治からの緩和圧力が以前にも増して強まっていたことや、円安・株高の動きに対してさらなる押し上げ効果も意識されたのではないかと予想される。
日銀の目指すべき物価上昇率については、政策委員の間からはいろいろと意見も出たようで、複数の委員からは、「1〜2%」という表現にしてはどうかとの意見があったり、長期的には主要国の多くと共通の物価上昇率を目指す必要があり、現状、それは「2%」であるとの意見も出ていた。日本の現状を踏まえれば1%程度までの上昇もかなり厳しい状況にあることで、「当面」としては1%とし、 より長い目でみて「2%以下のプラスの領域にある」と幅を持って表現したことは適切であったかと思う。
そしてその目標については、「中長期的な物価安定の目途」と呼ぶとし、 その英語表 現については 「The Price Stability Goal in the Medium to Long Term」とすること が相応しいとの認識を共有したと、記事要旨にはわざわざ記されている。英語表現まで強調するあたり、FRBの政策変更を日銀がかなり意識していたことが伺える。
ただし、FRBとの差別化を図ることとともに、日銀のデフレ脱却に向けた能動的な姿勢への変化を印象づけるため、日銀は基金の増額も行った。それについは以下の記述が議事要旨にあった。
「資産買入等の基金について、大方の委員は、日本銀行の政策姿勢の明確化を行動で裏付ける観点から、10兆円程度という思い切った規模の増額を行うことが適当との見解を示した。」
日銀は実質的な政策変更の明確化を行動で示し、これは結局、市場にもインパクトを与えることになり、その後の円安・株高を加速させることになったのである。
2012.3.19「消えたフレーズ、貯蓄から投資へ」
拙著「図解入門ビジネス 最新金融の基本とカラクリがよ〜くわかる本[第2版]」がまもなく発売される。これは2006年12月に出した「最新金融の基本とカラクリがよーくわかる本」の改訂版となる。
この本の改訂にあたり、古くなった部分を最新のものに修正する作業を行ったのだが、その中で「貯蓄から投資へ」というフレーズをどうしたら良いものかと悩んだ。2006年当時は、個人の貯蓄中心となっていた金融資産の一部を投資に振り向けようとの動きが続いていたのである。
このような動きは過去にも例があった。高度成長により証券市場も成長した結果、1961年に投資信託の残高が4年前のおよそ10倍の1兆円を突破した。このとき流行ったフレーズが、「銀行よさようなら、証券よこんにちは」というものであった。しかし、1964年、つまり昭和39年に東京オリンピックが終了したあと、40年不況を迎え、1965年5月には山一證券への日銀特融も実施されたのである。
2006年当時はまだ「貯蓄から投資へ」というフレーズは残っていたのだが、その後「銀行よさようなら、証券よこんにちは」というフレーズが流行したあと起きたような金融ショックが日本を覆うことになる。しかし、これは40年不況のように内生的なものではなく、海外で発生しそれが日本にも波及したものである。
サブプライム問題やリーマン・ショックにより、証券化などを含めて複雑な金融商品への問題点が浮き彫りになり、その後の欧州の信用不安により、リスク回避の動きがさらに強まった。国内では歴史的な円高進行もあり、株の低迷に加え、投資信託などにも大きく影響した結果、個人による投資意欲は後退し、むしろ安全資産として貯蓄に回避するような事態になったのである。
しかし、この動きも2012年に入り流れが変わってきた。急激な円高と、それも影響しての株安の流れが変わり、円高調整と株価の反発が生じた結果、日経平均は1万円台を回復してきたのである。
これにより再び「貯蓄から投資へ」のキャッチフレーズが登場することは考えづらいが、過度に安全資産に資金が集中してしまった反動は起こりうる。昭和40年不況のあとで証券市場が再度活況を呈したように、日経平均が上昇圧力を強め投資信託などに資金が向かうことも十分に考えられる。今度は別にあらたなキャッチフレーズが登場するのかもしれない。
「銀行よさようなら、証券よこんにちは」というフレーズが過去のものとなったように「貯蓄から投資へ」というフレーズも過去のものとなろう。金融の本質は変わらないものの、このような歴史が何度も繰り返されるのが金融の世界でもある。証券投資をする際の基本は安いところで買って高いところで売るということである。つまりはこのようなキャッチフレーズが忘れ去られたようなとき、つまり証券投資が下火になったときに買い、「証券よこんにちは」とか「貯蓄から投資へ」といった新たフレーズが出てきたころにはそろそろ手放すことを考えるのが必要なのかもしれない。
2012.3.16「国債が売られた理由」
昔、こんな文章を書いたことがあった。
「上がったものは下がるし、下がったものは上がるというのが相場である。・・・価格という面から見れば、バブル期の株のように国債の価格は上昇を続けている。この国債相場に対して懸念する声も強い。また国債の価格の上昇による売買益などは無視して、国債が急落したらどれだけ損失が発生するのかといった見方しかできないようにすら思える記事なども見受けられる。1%金利が上昇したら銀行保有の国債はどれだけ損失が発生するのか計算するのは簡単である。しかし、それ以前に1%金利が上昇するという根拠を述べてほしい。買われたものは確かにいずれは売られる。上がったものは下がる。けれど、上がるには上がるだけの理由がある。」
これを書いたのが2003年6月4日である。私は「債券ディーリングルーム」というホームページの更新を1996年あたりから続けており、ほぼ毎営業日更新している。過去のものもコラムや市況などはほぼすべてそのまま置いてあり、いつでも閲覧が可能となっている。上記の文章もそこからコピー・ペーストしたものである。
2003年6月に何か起きたのか。ある程度ベテランの市場参加者であれば、ピンとくると思う。この文章を書いたときの長期金利は0.5%を割り込んでいた。数日後の6月11日に日本の長期金利は0.430%まで低下して、日本というか世界の歴史の上でもたぶん最低の長期金利を記録したのである。しかしその後、債券相場はその反動が来る。これはのちにVARショックとも呼ばれた。そして、実際に長期金利は「1%」も上昇することとなる。
そして、2012年3月12日にこのコラムで、「円安株高となっても債券が売られない理由」とするものを書いた。そこでは私はこんな指摘をしていた。
「金利を低位で抑え、積極的な資金供給とともにデフレ脱却に向けてこれまで以上に能動的な姿勢を見せてきた日銀に対し、市場はそれを好感し円安や株高の動きを加速させた。この日銀の動きは当面、金利の抑制圧力となり、実際にデフレ脱却の目処が見えるようにならなければ、長期金利そのものは上昇することは考えづらい。つまり現状の円安株高、そして長期金利の低位安定という状況がこれにより生まれている。」
これについては、円高・株安というトレンドが大きく変化したにもかかわらず、すぐには債券のトレンドが変化しなかったのかという理由にはなっていると思う。
「もしデフレ脱却が見える前に債券が大きく売られる、つまり長期金利が上昇してくるとなれば、それは日銀の金融政策やファンダメンタルズとは別な要因が働いた場合となろう。何かしらの需給要因、もしくは何かしらのリスクプレミアムがオンされるような場合が想定される。そういった動きは現状、見出せず、当面の債券相場は高値圏でのもみ合い小動きが続くことが予想される。」
しかし、この文章については反省すべき点がある。およそ9年前と同じように、本来であれば高所恐怖症になっていてしかるべきところが、あまりに長期間低いボラティリティの中での高値安定相場に慣れしてしまい、そのターニングポイントが実は近づきつつあったことを見逃してしまっていた。
「当面の債券相場は高値圏でのもみ合い」は続かずに、日本の債券相場は3月13日から14日にかけて大幅に下落した。13日に0.965%まで低下していた長期金利は15日には1.060%まで上昇し、債券先物も13日に142円69銭まで買われたが、15日には140円99銭まで下落したのである。
今回のこの債券相場の変動の背景には、VARショック時と同様に長期間にわたり低いボラティリティの中、相場が高値圏で安定し続けていたことの反動が大きかったと思われる。それが何故、14日以降に起きたのかといえば、日米の中央銀行の金融政策がひとつのきっかけになったと予想される。
日本では12日から13日にかけて日銀の金融政策決定会合が開催された。2月14日に追加緩和があったことで、その効果を見定めたいとして現状維持との見方は強かったものの、一部には追加緩和期待もあった。このため、まずはこの結果を見定めたいという市場参加者も多かったものと思われる。
さらに米国では13日にFOMCが開催された。こちらも予想されたように現状維持となったが、声明で景気認識を前回からやや引き上げ、金融市場の緊張が緩和している、との見解が示された。つまりこちらも一部にあったQE3への期待が大きく後退した。これをきっかけに米債は大きく下落し、この米債安を受けて14日に日本の債券市場も急落したのである。
つまり14日から15日にかけての日本の債券市場の急落は、金融政策への期待感の後退をきっかけとして、これまでの相場の反動といった面が大きいとみられ、2003年6月の暴落のミニ版とも言えるのではなかろうか。ただし、2003年のように長期金利が1%も上昇するようなことは考えづらい。消費増税の行方など気になる要因はあるものの、いまのところ何かしらのリスクプレミアムがオンされているわけでもない。ある程度調整が入れば、別な要因が出ない限り、いずれかのタイミングで下げ止まるものと予想される。
相場の読みは難しい。そして、相場にはいくつもの格言も存在する。その中に「もうはまだなり、まだはもうなり」というものがある。今回は「まだはもうなり」というのが当てはまりそうな債券相場であった。



2012.3.16「日銀とアップルに見る市場との対話」
中央銀行にとって市場との対話はたいへん重要である。しかし、2012年2月14日の日銀の政策変更は、これまで築きあげてきた市場とのコミュニケーションに変化が生じるとの見方がある。
FRB、ECB、BOEそして日銀などはこれまで市場との対話を重視し、金融政策の変更を事前に織り込ませるように施策をとってきた。事前の会合での言葉尻で次回の会合での政策変更を示唆したり、講演や会見の内容などから事前に示唆したり、マスコミが事前に報じたりするなどいろいろな織り込み方法がとられてきた。
2月14日の日銀による実質的なインフレ目標導入という市場関係者にとっては大変大きな政策変更については、マスコミのみならず市場関係者も事前予測はほとんど出ていなかった。これはむしろ極めて異例でもあったと言える。ただし、FRBの1月25日の政策変更や政治家からの発言などから判断し、インフレ目標に近いような施策をとるであろうとの可能性を指摘する見方は一部にあり、私もそれは感じていた次第である。
しかし、2月14日に日銀は一部の期待を上回り、実質的なインフレ目標を導入しただけでなく追加緩和まで行ってきたのである。これはまさにサプライズとなり、その後の円安・株高に拍車を掛ける要因となった。
結果から言えば、今回の日銀のサプライズ政策は効果があったと言えよう。市場は白川総裁のコメントに以前より重きを置くようになり、その影響力が強まったとの見方もできる。これは市場への影響度という側面からみれば、むしろうまく対話を行ったとも言えまいか。
はるか昔、公定歩合というものがあり、その上げ下げについては嘘を言っても良いという決まりみたいなものがあった。つまりこれは市場の対話を一切無視しても良いというものであったろうが、裏返せばサプライズ効果を意識したものでもあった。
ここからは私の持論となるが、中央銀行の金融政策において引き締めの際には、市場との対話を重視し、それを事前に織り込ませることが必要であるが、緩和の際には市場への影響力を強めるため、むしろサプライズ効果を意識しても良いのではないかと思う。
アップルが新製品を発表する際には米国だけでなく、世界中の注目が集まる。そして、事前に新商品に対していろいろと憶測が流れる。アップルの守秘義務は徹底しているが、それでも新製品の機能等については事前にリークされてしまうものもあるし、当日、明らかにされるものもある。それでもアップルは市場の注目度を高めるため、いろいろな手を打っている。今回の新型iPadもその性能はほぼ事前に予測されていた通りのものではあったが、肝心のネーミングについては事前に言われていたものではなかった。それはそれで大きな話題ともなり、世間の関心を高め、売り上げ向上に結びつくことにもなる。
日銀も2月14日の決定については、全員一致であることからも明らかなように、事前にそれなりの根回しも進められていたとみられる。しかし、その動きが漏れるようなことはなかった。まるでアップル社の守秘義務が日銀にも徹底されていたかのようである。それが結局、サプライズ効果を演出することになった。そして、それは量的緩和や包括緩和の発表などに比べても、市場に良い意味で大きな影響力を与えることになった。
このため、今後の日銀の金融政策決定会合への注目度がより高まることともなろう。実際に3月13日の決定会合の日には結果発表前に市場でかなりの動きが生じたぐらいである。これは乱高下を招くとの見方になるかもしれないが、日銀の政策そのものへの注目度が上がったとの見方もできよう。
今後の日銀の追加緩和についても、今回のように事前に何らかの示唆があったりするようなことはないのかもしれない。それはそれで、日銀ウォッチャーは違う角度から政策変更の動きを探る必要性が出てこよう。アップルの新製品についても、少なくともアップルの役員に直接聞いても答えは得られないため、新製品ウォッチャーがいろいろなところから探っているように、日銀ウォッチャーも、いろいろな角度から今後の政策変更内容を探る必要が出てくるのかもしれない。



2012.3.15「日銀による成長基盤強化支援の拡充策について」
3月13日の日銀金融政策決定会合では、政策金利や資産買い入れ基金の規模の変更はなく現状維持としたが、成長基盤強化を支援するための資金供給(成長支援資金供給)を拡充することを決定した。
2010年6月に日銀は成長支援資金供給を導入した。これは成長分野への投資促進に向け、民間金融機関に政策金利の0.1%で貸し出すものである。この貸付総額の残高上限は3兆円としていたが、新規貸付の受付期限を2014年3月末まで2年延長するとともに、貸付枠も3.5兆円に5千億円増額することとした。
また、昨年6月に出資や動産・債権担保融資など、不動産担保や人的保証に依存しないABLと呼ばれる融資を対象に、5000億円を上限として、年0.1%の金利で原則2年とし1回の借り換えを可能とした最長4年の貸し付けを行う新しい枠組みを導入していたが、これについても、5000億円の貸付枠のもとで、新規貸付の受付期限を 2014年3月末まで2年延長することとした。
さらに成長支援資金供給では対象としていない小口の投融資を対象に、新たに5000億円の貸付枠(小口特則)を導入することも決定した。対象となるのは、日本経済の成長に資すると認められる1件当たり100万円以上1000万円未満の投融資。対象先金融機関は成長支援資金供給の対象先金融機関。有担保貸し付けで、貸付期間は1年とし3回の借り換えを可能とする(最長4年)。貸付利率は貸付実行日における誘導目標金利、つまり現行では年0.1%となる。
そして、成長に資する外貨建て投融資を対象に、日銀が保有する米ドル資金を使い、新たに1兆円の貸付枠(米ドル特則)を導入することも決定した。対象先金融機関は、成長支援資金供給の対象先金融機関のうち、ニューヨーク連邦準備銀行に米ドル口座を保有する先および同行に口座を保有する先へ米ドル決済を委託している金融機関。米ドル資金の有担保貸し付けとなり、貸付期間は1年、こちらも3回の借り換えを可能とする(最長4年)。貸付利率は市場金利となる。
ちなみに、この米ドル特則は、日本企業のM&A(合併・買収)などを支援するのが目的とみられる(日経新聞)
被災地金融機関を支援するための資金供給オペレーションについても、現行1兆円の貸付枠のもとで、貸付の受付期限を 2013年4月末まで1年延長し、被災地企業等にかかる担保要件の緩和措置についても、その適用期限を2014年4月末まで1年延長することを決定した。
これらの融資については、デフレ脱却に向けての成長支援であり、今回、追加緩和は見送られたものの、日銀がデフレ脱却に向けての積極的な姿勢を示したといえよう。基金の増額は、どちらかといえばアナウンスメント効果が意識されたものといえる。もちろんそれにより、より長めの金利の低下に働きかけ、それによる効果もあろうが、実際にはこのような融資枠の拡大のほうが、直接的な効果があるように思われる。もちろんこれは、金融機関の自主的な取り組みを進めるうえでの「呼び水」としての役割としての期待もあろうが、政府の積極的な取り組みに対する「呼び水」としても意識されたものと思われる。

2012.3.14「日銀のブラックアウトというルール」
日銀にはいろいろな自主ルール、つまり日銀内部の取り決めが存在する。もちろん銀行としての内規みたいなものもあろうが、それとは別に金融政策に関する日銀内部の取り決めが存在している。
そのひとつに日銀券ルールがある。日銀が保有する長期国債の保有残高を日銀券発行残高以内に抑えるというものである。ただし、これは資産買入等の基金による国債保有額には適用されない。
そしてもうひとつ有名な自主ルールとして、ブラックアウトという期間を設けている。これは「金融政策に関する対外発言についての申し合わせ」事項であり、その内容は次の通りである。
「各金融政策決定会合の2営業日前(会合が2営業日以上にわたる場合には会合開始日の2営業日前)から会合終了当日の総裁記者会見終了時刻までの期間は、国会において発言する場合等を除き、金融政策及び金融経済情勢に関し、外部に対して発言しない。」(日銀のサイトより)
これは「政策委員会議事規則等」に含まれているものであり、このルールに縛られるのは金融政策を決定する立場にある政策委員、つまり日銀の総裁、副総裁、そして審議委員と思われる。ちなみに米国のFRBは、FOMCが開催される前の週の火曜日から開催週の金曜日までがブラック・アウト期間と呼ばれ、関係者は一切の発言を禁じられている。
また、日銀の金融政策決定会合に際しては携帯電話の持ち込み禁止など細かな自主ルールなども設けられているようである。
ただし、これはあくまで日銀の内規であるため、日銀関係者以外には適用されないことになる。しかし、そうはいってもブラックアウトルールは事前に金融政策の動向を明らかにさせないためのものであり、また携帯電話の持ち込み禁止も議事の進行状況などが外部に漏れないようにするためのもと思われ、たとえ外部の人間であっても、そのルールを守ることが求められるはずである。
日銀の金融政策決定会合には、日本銀行法第19条により財務大臣および経済財政政策担当大臣(経済財政政策担当大臣が置かれていないときは、内閣総理大臣)、またはそれぞれの指名する職員の出席が認められている。つまり政府関係者が出席している。
この政府からの出席者は議決権を有しないが、必要に応じ、会合で意見を述べること、金融調節事項に関する議案を提出すること、次回会合まで金融調節事項に関する議決を延期することを求めることができる。特に最後の部分は議決延期請求権と呼ばれ、2000年8月のゼロ金利解除の際に一度行使されている。
政府からの出席者としては大臣が出席することは希で、副大臣などが出席することが多い。前回2月14日の会合には藤田幸久財務副大臣と石田勝之内閣府副大臣が出席している。
金融政策についてのブラック・アウトや細かな内規などについては、日銀関係者のみならず、政府関係者も遵守すべきものであると思われる。このため決定会合に参加しうる立場にある政府関係者も少なくともブラックアウト期間中には、金融政策についてはなるべくコメントを控えるようにしてほしいと思う。



2012.3.14「日銀の株が上がる」
昨日の日銀の動向と外為市場の動向は興味深い。
昨日の日銀の金融政策決定会合は、いつもより終了時間が遅かった。
2月14日に大きなバレンタイン・プレゼントをしたことで、
そのバレンタイン効果を見定めるであろうと、今回の追加緩和期待はさほどなかったかに思えた。
しかし、前回もインフレ目標設定はさておき、追加緩和までの予想は少ないところに追加があった。
このため、今回もやや疑心暗鬼になったのか、我慢しきれずに
円売りや債券先物買いを入れた投機筋があった模様である。
ドル円は82円半ばあたりまで上昇したが、
決定会合の結果は、現状維持で、すぐさまドル円は売られ82円割れに。
ところが、ここからドル円は切り返してきた。
しかも、日銀総裁の会見内容が伝わると、ドル円は82円80銭近辺に上昇したのである。
バーナンキ議長の発言で、ドルが大きく動くことはあるものの、
日銀総裁の会見内容を好感して、円がこれほど売られるというのはあまり見たことがない。
ちなみに白川総裁は、会見でデフレ脱却に向けて強い姿勢を示したようである。
2月14日に日銀はどのように変わったのか、それを一言で示せば「能動的」になったことである。
実質的なインフレ目標を設定したということは、デフレ脱却に向けて日銀が前のめりになったということである。
日銀総裁のコメントにも能動的という表現が用いられているように、日銀はアグレッシブな対応に変化している。
これが現在の円安・株高の促進剤となっていることは、今回の動きを見ても確かであろう。
つまり市場参加者からみて、まさに日銀の株は上がったと思われる。
これは言葉の上だけではなく、実際の日銀の株価も2月以降、上昇しているのである。
まさに日銀の株は上がっている。
その日銀は今後、どのような対応を示すのかも興味深い。
昨日の会合では、宮尾委員が動きを見せているが、このあたりも注意深く見ておく必要がありそうである。


2012.3.13「円安株高となっても債券が売られない理由」
3月9日に日経平均は一時1万円台を回復し、12日の日経平均も1万円台でのスタートとなった。また外為市場ではドル円は82円台を回復するなど、歴史的な円高局面はここにきて後退しつつある。
この円安・株高の背景には、ギリシャの債務問題を中心とした欧州の信用不安が後退してきたことが大きい。市場心理を計る具体的な指標はないが、昨年から今年にかけて、市場参加者の心理は悲観から楽観へと変化していたものと思われる。
この背景としては、ギリシャの債務問題をなんとか解決しようとしている欧州諸国の努力もあるが、市場では日欧米の中央銀行による積極的な金融緩和策が功を奏しているとの認識である。
欧州ではECBによる3年物の資金供給オペ(LTRO)の効果が発揮されている。ECBは二度に渡る3年物資金供給オペで総額1兆ユーロに上る流動性を供給した。これによりユーロ圏内の銀行の資金繰りが楽になり、金融システム不安が後退するとともに、その資金が周辺国の国債にも向かうであろうとの期待もあり、イタリアやスペインの国債利回りが低下した。それが欧州の信用不安の後退を印象づけた格好となった。
米国では1月25日のFOMCにおいてFRBは物価に対して特定の長期的な目標(ゴール)を置くこととし、それをPCEの物価指数(PCEデフレーター)の2%とした。これはFRBが実質的なインフレ目標を採用したこととなり、大きな政策変換であったと思われる。
このあたりターゲットではなくゴールとの表現など、過去にバーナンキ氏が議長就任前に持論であったインフレ・ターゲットをそのまま採用したというものでもない。大枠として物価を目標とすることではあるが、かなりフレキシブルな政策の余地を残すものであり、これはバーナンキ氏が学者ではなく現場のトップとしてこの選択を行ったことは適切なものであったかと思う。
そして、このFRBの政策変更は日銀にも大きな影響を与えたと思われる。米国の動きにうまく便乗し、それにより政治的な圧力にも対応することにもなった。それにしても白川日銀はなかなか思い切った政策変換を2月14日に行ってきた。さらに資産買入等の基金をこれまでの55兆円程度から65兆円程度に10兆円増額することも決定し、緩和効果(心理的なものを含め)を強めることとなった。
日銀が2月の会合で買入を決定した対象は長期国債(期間1〜2年)であった。つまりこれにより、2年債あたりまでの金利が0.1%に張り付くこととなり、それが5年債あたりまでの金利低下も招き、5年債利回りは0.3%近辺に低下した。
日銀が今後、物価のゴールに対して能動的な金融政策を行うとなれば、今後いずれ国債の買入などを増額してくる可能性がある。そして、日銀は物価安定の領域として「消費者物価の前年比上昇率で2%以下のプラス」としたうえで、「当面は1%を目途とする」ことを明確にした。つまり現在のコアCPIは前年比マイナスであり、それがプラス1%に達するまではそれなりの期間も要するとの認識が市場で強まれば、いわゆる時間軸効果により、より長い期間の国債の利回りの低下圧力ともなる。
金利を低位で抑え、積極的な資金供給とともにデフレ脱却に向けてこれまで以上に能動的な姿勢を見せてきた日銀に対し、市場はそれを好感し円安や株高の動きを加速させた。この日銀の動きは当面、金利の抑制圧力となり、実際にデフレ脱却の目処が見えるようにならなければ、長期金利そのものは上昇することは考えづらい。つまり現状の円安株高、そして長期金利の低位安定という状況がこれにより生まれている。
もしデフレ脱却が見える前に債券が大きく売られる、つまり長期金利が上昇してくるとなれば、それは日銀の金融政策やファンダメンタルズとは別な要因が働いた場合となろう。何かしらの需給要因、もしくは何かしらのリスクプレミアムがオンされるような場合が想定される。そういった動きは現状、見出せず、当面の債券相場は高値圏でのもみ合い小動きが続くことが予想される。



2012.3.12「日銀による追加緩和の可能性」
3月8日のECB理事会では、主要政策金利であるリファイナンス金利を1.00%に据え置くとともに、下限金利の中銀預金金利も0.25%に、上限金利の限界貸出金利も1.75%に、それぞれ据え置いた。
理事会後の記者会見でドラギ総裁は、ECBが実施した2月末の3年物資金供給5300億ユーロのオペに関し、オペが成功したことに疑問の余地はないとし、リスク環境は大幅に改善したとコメントした。
8日にはイングランド銀行のMPCも開催されたが、こちらも政策金利は据え置き。総額3250億ポンドの量的緩和策についても、現状維持となった。
そして13日にはFOMCが開催される。今後のFRBの金融政策について、WSJはFRBの当局者の話として、「景気てこ入れへ新たな措置が必要と数カ月先に判断される場合に備え、将来のインフレに対する懸念を抑える形で債券購入を行う新たな種類のプログラムを検討している」と伝えている。
これはFRBの長期債購入で供給された資金に対し、リバースレポを実施することで実質的に縛りをかけるとか。QEが将来のインフレにつながる懸念を和らげることが目的だそうである。
FRBは現在、ツイストオペを実施しているが、買うものは市場にかなり存在していても、売るものについてはFRBの保有分に限られる。このため今後は、長期国債を購入し、それで市場に流出した資金を吸い上げるというECBのような政策を考慮に入れているように思われる。このあたりについて13日のFOMCで何らかの示唆があるかもしれない。
そして12日から13日にかけて日銀の金融政策決定会合も開催される。日銀は前回の会合において、実質的なインフレ目標を設定した。さらに緩和強化をはかるため、基金の増額も行った。 資産買入等の基金をこれまでの55兆円程度から65兆円程度に10兆円増額し、その増額対象は長期国債(期間1〜2年)とすることを決定した。資産買入の中での長期国債の買入額は従来の9兆円から19兆円に増額された。
これにより2年債の利回りは0.1%近辺に低下した。超過準備につく金利が0.1%であり、2年債の利回り低下は限界にきている。また日銀が基金オペで残存1〜2年の国債を吸い上げるにも市場で流通しているものには限度もあろう。このため、基金オペの買入対象となる国債の期間を長期化するのではとの見方もある。
いずれその可能性はあると思われるが、今回の決定会合ではそのような追加的な政策は決定されず、今回は現状維持となると思われる。前回で決定した追加緩和の効果を見極める必要があるためである。期末ということはあるが、特にここで追加緩和をしなくてはならないような状況にあるわけでもない。ただし、成長基盤強化を支援するための資金供給の期間の延長などを行ってくる可能性はある。
日銀が実質的なインフレ目標を採用したものの、消費者物価指数は前年比マイナスの状態にある。この状況下、いずれ日銀は追加緩和を行う可能性は高い。それでも、基金オペの買入対象となる国債の期間の長期化については、通常の国債買入にある日銀券ルールのような歯止めがない分、慎重になってくることも予想される。このあたり、どのように判断してくるのかも見極めたい。
また、日銀については4月4日が任期満了となる中村清次審議委員と亀崎英敏審議委員の後任人事についても気になるところである。


2012.3.9「単月での経常収支の赤字の影響は限定的か」
財務省は3月8日に1月の国際収支(速報)を発表した。これによると経常収支は、4373億円の赤字となった。単月の経常収支の赤字は、リーマン・ショック後の2009年1月以来となり、単月での経常収支の赤字幅としては過去最大となった。
これは貿易赤字の増加が影響しており、海外景気の下ぶれ等を受けて輸出減少し、原発事故による影響から液化天然ガスなどの輸入が増えたことで、貿易赤字は1兆3816億円の赤字となったことが大きい。サービス収支も930億円の赤字となっていた。所得収支は1兆1326億円の黒字となったものの、貿易収支の赤字はカバーできず、その結果、経常収支が赤字となった。
日本の経常収支の赤字転落の縮小傾向は気になるものの、これは一時的との見方も強いことで、それほど気にする必要はないとみられる。以前に経常収支と国債の関係についてみたように、海外諸国の事例を見ても、経常収支と国債需給にそれほど因果関係がなく、経常収支の動向だけを見て、国債市場に大きな影響が出るということは考えづらい。
国際収支の発表には、付表として対外・対内直接投資、対外・対内証券投資も発表されている。このうち1月の対外・対内証券投資を確認してみたい。
この中で主要国・地域ソブリン債への対外証券投資を見てみると、米国のソブリン債への投資は、1月はネットで1兆1167億円の取得増となっている。ちなみに昨年12月は4370億円の増加、11月は1兆3887億円の減少、10月は9143億円の増加となっていた。
ユーロ圏の国債についてみてみると、ドイツのソブリン債への投資はネットで1月は4538億円の増加となった。12月は1162億円の減少、11月は1641億円の増加となっている。
フランスへのソブリン債の投資を見ると、ネットで1月は1572億円の増加となった。12月は80億円の増加、11月は4880億円の減少となっていた。S&Pは1月13日に、フランスを含むユーロ圏9か国の格付けを一斉に引き下げたが、これによる日本の投資家への影響は限定的であったようである。
そしてイタリアへのソブリン債の投資については、ネットで1月は664億円の減少となっていた。12月は12億円の増加、11月は5102億円の減少となっていた。S&Pは1月13日に、イタリアの格付けを2段階引き下げたが、やはり影響は限定的であったように思われる。
これに対して、日本の国債に対する対内証券投資を見てみると、1月はネットで4169億円の増加となっていた。このうち短期債が4447億円の増加。昨年12月はネットで1兆8716億円の増加、このうち短期債が1兆8838億円の増加。11月はネットで2兆2967億円の増加、このうち短期債が2兆9405億円の増加となっていたように、日本の国債に対する対内海外からの投資は、ここにきて減少傾向にある。
対内証券投資の地域別内訳を見ると、目立つのが英国からの動きである。1月は5兆3758億円の買越しとなり、12月が5兆7121億円の買越し額とそれほど変化はなかった。ちなみに11月は7兆5965億円の増加、10月5兆1453億円増となっていた。
1月の日本の短期債からの資金流出が大きかったのは米国の1兆2155億円の減少(12月は1305億円減)、フランスの1兆1474億円の減少(12月は9714億円減)、ルクセンブルグ5161億円の減(12月は7905億円減)。
英国からの日本の短期債への資金流入そのものの勢いはあまり衰えてはいなかったが、米国などからのネットでの売り越しにより、全体では短期債への買越額が減少していた。欧州の信用不安の高まりにより、リスク回避の資金が海外から日本の短期債に流入する動きは、とりあえず今年に入りブレーキが掛かった格好か。



2012.3.8「西村日銀副総裁によるボルカー・ルールに関する発言より」
日銀の西村副総裁がワシントンで行った講演の内容が日銀のサイトにアップされた。この中でボルカー・ルールについてのコメントがあった。
ボルカー・ルールとは、2010年7月に米国で成立した米金融改革法(ドッド・フランク法)の柱となるルールのことである。施行は今年7月の予定となっている。これは1933年銀行法、いわゆるグラス・スティーガル法に比肩する包括的な金融規制改革とも評されている。
これについて西村副総裁は、ボルカー・ルールの背景にある基本的な考え方については、大いに賛同しているとしているが、下記の注意点を指摘している。
「ユーロ圏危機が続く下では、各国の政策当局者は新たなルールを導入する際、これがもたらし得る意図せざる影響については、特に現在の局面において海外ソブリン債市場に及ぼす影響という側面からも、十分に注意することが求められます。加えて、中央銀行にとって、ソブリン債市場は金融政策の主要なトランスミッション・メカニズムの中核であり、その流動性の問題には留意することが求められます。 」
つまりはこの規制により、ソブリン債、つまりは国債などの流動性に影響を与える可能性への影響を指摘し、それはつまり国債が中央銀行の金融政策の中核的な役割を担っているため、こちらにも影響を与えかねないと指摘している。
ボルカー・ルールは「銀行による、短期の利得獲得を狙った自己勘定でのトレーディングを制限することを狙い」としているが、「どのように関連規則が書かれ、どのように運用されるかによって、このルールは、マーケットメイク活動や市場流動性に重大な影響を及ぼし得ます。」と西村副総裁は危惧している。
「現時点での規制案によれば、米国債および多くの米国エージェンシー債はこのルールの適用から除外されています。このことは、明らかに米国当局が、これらの債券の円滑な取引の確保、およびそのためのマーケットメイク活動の重要性を、十分認識しておられることを示しているように思います。」
これはつまり、このルールの規制案で米国債を除外したのは、国債の流動性等が非常に重要なものであり、それに支障が出ると金融システムそのものにも影響を与えかねないためであろう。
「市場の流動性は、言うまでもなく、米国債以外の国債にとっても重要です。しかしながら、現状の規制案は、日本やカナダ、欧州諸国などの国債は適用除外としていません。したがって、仮にボルカー・ルールが字句通り厳格に施行されれば、海外ソブリン債市場の流動性を損なう可能性もあると考えられます。」
もし日本国債も除外されなければ、日本国債を保有する米国の金融機関に影響を与えかねず、それは日本の国債市場にも大きな影響を与えかねない。これは日本だけでなく、カナダや欧州諸国も同じ危惧を抱いていると思われる。
もう一つの問題として、西村副総裁は短期の為替スワップへの規制の可能性についても次のように危惧している。
「短期の為替スワップが、現状の規制案ではボルカー・ルールの適用対象となり得ることも挙げられます。このことは、為替スワップを通じた金融機関の外貨流動性調達が、より困難となるリスクを孕んでいます。このことも、とりわけ外貨流動性の調達環境が世界的にタイト化している状況では、多くの金融機関にとっての関心事となり得ます。 」
西村総裁は「市場参加者の一部は、ボルカー・ルールがどのようにソブリン債市場や資金調達環境に影響を及ぼすのかについて、不確実性を払拭しきれていないように伺われます。」とコメントしているが、市場にとってこれはかなりの不安材料にもなりかねない。
「とりわけ、欧州ソブリン債市場の緊張が高まっている中、ドッド=フランク法の施行が、海外のソブリン債市場や金融機関の資金調達に及ぼす影響を、十分慎重に見極めることが重要です。」(西村日銀副総裁)
日本だけでなくカナダや欧州にも大きな影響を及ぼしかねないことから、適用除外の対象を日本国債などにも拡大することが求められる。ただし、もし拡大されるとしても、その適用対象のラインをどこにするのかといった問題も残り、今後の行方についても注目しておく必要がありそうである。



2012.3.7「経常収支と国債の関係」
3月6日付けの日経新聞の経済教室では、早稲田大学の谷内満教授が経常収支問題を考えるとして「赤字転落を嘆く必要なし」との論文を寄稿している。この中で、経常収支と国債に関するコメントがあり、今回はこの論文を元に特に経常収支と国債の関係を見てみたい。
まず貯蓄と投資とのバランスの部分をチェックしてみたい。谷内教授は「家計貯蓄は1980年代以降、高齢化を反映して趨勢(すいせい)的な低下傾向にある。財政赤字が拡大し家計貯蓄が減れば、日本の経常収支黒字は減少しそうだが、GDP比でみると90年代の平均2.4%から2000年代平均では3.3%に拡大している」
その理由として、「その背景には企業部門の大きな変化がある。企業貯蓄が増加する一方、企業の投資が減少傾向にあるので、企業の貯蓄・投資差がプラスで拡大している」点を指摘している。
つまり企業活力の低下により、家計に代わり企業が日本の経常収支の黒字を支えてきたということになる。このため谷内教授は、「先行きの展望が開けない中での企業の投資行動も大きく変わらず、企業利益を支える低金利も続くと思われるので、近い将来経常収支が赤字化する可能性は低いだろう」と指摘している。
ただ、将来たとえば「財政再建がいつまでも先延ばしされて大幅な財政赤字が続き、一方で企業部門では、国債利回り上昇に伴う企業の借入金上昇で利子支払いが増加したり、本業の利益が減少したりして、企業貯蓄が減少する場合」には、経常収支が赤字となる可能性があるとしている。
そして経常収支と国債の関係について、通説的な見方として経常収支黒字は巨額の国債の国内消化に不可欠との見方について異を唱えている。
「例えば、ドイツは経常収支黒字が大幅で、かつ家計貯蓄率もかなり高いが、国債の約半分が外国保有である」ことを谷内教授は指摘している。
ドイツの場合はユーロ圏に属し、圏内諸国からの為替リスクなしのドイツ国債への投資もあるため、一概に比較はできない部分もあろうが、それでも経常収支と海外からの国債投資の関係に何らかの方程式が存在しているわけではないのも確かと思われる。
このため谷内教授は「国内投資家の国債投資意欲が減退するかどうかは、今後も巨額の国債増発が続くかどうかにかかっている。財政悪化が続けば、経常収支黒字でも国債の国内保有が大きく減少することは十分にありうる」としている。
これについては、国内投資家の国債保有そのものが大きく減少することは、現在の日本の金融システムの中に存在している国内金融機関の投資行動を見る限り考えづらい。一部の資産を海外に向けることはあっても、国債についてはせいぜいデュレーションを短期化する程度ではないかと推測されるのだが。それでも国内投資家にとり、「今後も巨額の国債増発が続くかどうか」ということは、かなり注目しているポイントであることは確かであろう。
海外諸国の事例を見ても、経常収支と国債需給にそれほど因果関係がなく、経常収支の動向だけを見て、国債市場に大きな影響が出るということは考えづらい。ただし、今後も財政悪化が続くとなれば、いずれそれが国債市場に影響をもたらす可能性はある。つまり大事なことは「経常収支動向の背景にある財政悪化、高齢化、企業の活力低下、日本経済の低成長といった問題に正面から取り組むことだ」との谷内教授の指摘は正論であろう。

2012.3.6「個人向け復興国債が他の個人向け債券より優れているポイント」
3月5日から個人向け復興国債と個人向け復興応援国債の募集が開始された(3月30日まで)。昨日の日経新聞にも一面広告が出ていたが、今回は金額に応じて金貨や銀貨がもらえる復興応援国債も募集されることで注目が集まるものと予想される。
今回は個人向け復興(応援)国債と他の個人向け債券と比較することで、個人向け国債の魅力について探ってみたい。
その前に個人向け復興国債と個人向け復興応援国債は、名称がたいへん似ているため、購入する際には注意が必要である。特に10年変動タイプを購入される方は、通常の個人向け国債である個人向け「復興国債」か、金額に応じて金貨・銀貨がもらえる個人向け「復興応援国債」であるのか、そのあたり金融機関の窓口ではっきり指摘する必要がある。
個人向け復興国債の概要、さらに個人向け復興応援国債はどのような条件で金貨、銀貨がもらえるのかについては、下記の財務省のサイトにて確認していただきたい。また、取り扱っている金融機関の窓口でも教えてくれるはずである。
「財務省サイト内の個人向け国債に関するページ」
http://www.mof.go.jp/jgbs/individual/kojinmuke/index.html
まず、個人向け復興国債と他の個人向け債券との違いについて最も注目すべきポイントは、リターンとリスクの比較であると思われる。リターンとはたとえば利率である。これについては、条件決定のタイミングが同じ時期で同じ償還期間のものであれば、通常は個人向け復興国債より他の個人向け債券の方が高いはずである。特に個人向け劣後債などはかなり高めの設定となっている。
ただし、個人向けの劣後債は個人向け復興債と発行量が大きく異なり、販売する証券会社なども限られ、人気化したものなどはなかなか購入が難しいケースもある。そして、額面金額も大きいなど注意すべき点がある。これについては私のブログ(牛さん熊さんブログ)にアップした「金融機関発行の個人向け劣後債を購入する際の注意点」を参照していただきたい。
個人向け復興国債の長所としては、債券のリスクのうち「価格変動リスク」と「流動性リスク」が極力抑えられている点が大きい。1年間の途中売却ができない期間が存在しているため、流動性リスクが全くないとは言えないが、その1年を過ぎればいつでも財務省が額面で買い取ってくれる。つまり発行後1年を過ぎれば、価格変動リスクと流動性リスクはなくなることになる。これは他の債券にはない大きな魅力と言える。
そして債券のリスクとして、もうひとつ存在する信用リスクについてであるが、国債についてはソブリンリスクが存在するのは確かである。しかし、少なくとも国内金融商品の中にあって国債は最も安全性が優れているというのが、それを運用している金融機関の認識となっている。国債以外の債券は同年限の国債の利回りが基準になり、その上乗せ金利の幅などで信用力が計られる。つまりは、個人向けを含む国債の信用リスクについては、他の個人向け債券よりも信用力は高いとの認識で良いかと思う。
このようにリスク面を考慮すれば、個人向け復興国債は非常に有利なものとなっている。ただしその分、他の個人向け債券と比較して利率等がやや不利となっている。しかし、現在の超低金利下にあってはその差は限定的であるのも確かである。個人向け劣後債など利率が高く設定されているものもあるが、それについては購入そのものの難しさとともに、途中売却時のリスク、また信用リスクなどのリスクが存在しており、そのあたりはしっかりチェックしておく必要がある。
最後に10年変動タイプでの個人向け復興国債と個人向け復興応援国債の選択に関しては、利率のみを考えれば個人向け復興国債の方がたぶん有利であろうと思われる。しかし、少なくとも3年間、1000万円を置いておけるのであれば記念金貨を入手できる(銀貨ならば100万円)個人向け復興応援国債も選択肢としてはありかなと思う。復興記念硬貨には金や銀の価値等だけでは判断できない価値、たとえば復興への思いを含めたものも含まれているように思う。このあたりは購入される方の判断にお任せしたいところである。



2012.3.5「金融機関発行の個人向け劣後債を購入する際の注意点」
銀行が発行する個人向けの劣後債に関するマスコミの取材を過去に何度か受けたことがあり、今回も同様の取材があった。このため、ここで銀行などの金融機関が発行する個人向けの劣後債とはそもそも何であるのか。そして、購入する際に何を注意すべきであるのかをまとめてみた。
まず劣後債とは、劣後特約のついた社債のことである。劣後特約とは社債に付けられた特約条項のことである。その特約条項の内容は通常、劣後債を発行した企業が倒産した場合、劣後特約のついた社債の返済は一般債権者への支払いが全て完了した後に行うという内容となっている。デフォルト時の元利金の支払い順位が一般債務よりも低くなっており、もし発行した企業が経営破たんした場合には、株式と同じく紙切れ同然になるリスクがある。劣後債のリスクは、一般に普通社債と株式の間くらいとの認識のようであるが、その分、普通社債よりも利率は高く設定されている債券である。
そして劣後債の発行体をみると、金融機関が非常に多い。金融機関は法律で一定以上の自己資本比率の維持を義務付けられている。劣後債は、会計上は負債に分類されるものの、銀行経営の健全性を維持するための国際ルールであるBIS規制では、自己資本の補完的項目(Tier2)への算入が一定限度まで認められている。このため、株主の権利を希薄化させずに、金融機関は自己資本を高められるというメリットがあるため、金融機関は劣後債を発行しているのである。以前は、劣後債の大半は機関投資家向けとなっていたが、リーマン・ショック以降は一時、機関投資家向けの社債の発行ができなくなるなどしたことで、個人向け劣後債の発行も多くなった。個人投資家にしても、金融市場の混乱と円高進行などから、円建てでより安全とみられる商品へのニーズが強まったことで人気化したのである。
金融機関の発行する劣後債には、満期前に繰上償還される「期限前償還(コーラブル)条項」が付いているものが比較的多い。劣後債の期限前償還条項とは、発行体が債券の繰上償還をするかどうかは決めることができるもので、いつ償還となるか事前には確定していない。しかし、劣後債を自己資本とみなすルールには、劣後債の償還まであと5年以上残っていなければならない、というルールが存在する。残存期間が5年を切ると年率20%で累積的に減価しなければならないのである。このため、実際には残存5年のタイミングで繰上償還となるケースが大半となっている。劣後債は、BIS規制において自己資本に算入可能であるため、金融機関には残存5年のタイミングで繰上償還し、再度劣後調達を行うインセンティブが働くのである。
ただし、絶対にコールがかかるというわけではない。これまで大手金融機関が発行した劣後債で、繰上償還が見送られた事例は少ない。しかし、発行体の財務内容が大幅に悪化し繰上償還するだけの余裕がなかったり、金利の上昇などにより再調達コストが大幅に上昇した場合などでは、期限前償還が見送られる可能性があることにも注意が必要である。
参考までにバーゼル3では劣後債を自己資本に算入するには、実質破綻に陥った際、元本の返済免除か普通株に転換することを条件としている点とともに、従来型は2013年以降、毎年残高の10%が自己資本から差し引かれていくことになるという。バーゼル3とは、国際的に業務を展開している銀行の健全性を維持するための新たな自己資本規制のことであり、バーゼル2(新BIS規制)をさらに規制強化したものであり、2012年から2019年にかけて段階的に適用されていくとされている。バーゼル3準拠の劣後債はこのあたりに注意する必要がある。
そして、個人投資家にとって劣後債を買い付ける際には、上記の劣後債そのものの性質とともに、買付金額の大きさ、そのタイミングの難しさ、さらに途中売却の難しさも意識する必要がある。
金融機関の発行する劣後債の最低単位は100万円とか250万円と通常の個人向け債券よりも大きくなっている。(ちなみに個人向け国債は1万円単位で購入が可能)。さらに利率が比較的高いことなどもあって人気化しているものなどは、なかなか入手が難しく、ある程度取引やつきあいのある証券会社などからの情報が得られないと購入そのものも難しいケースも多い。
さらに、劣後債は売りたい時に必ず売れるとは限らず、その流動性の低さに注意が必要である。個人向け国債は途中売却の際に財務省が買い取るが、劣後債は発行する銀行側が買い戻す義務はない。ただし、販売した証券会社が買い取ることは考えられるが、流動性がない分、購入価格よりもかなり安い値段で買い取ることも考えられるため、できる限り途中売却は避け、基本的には購入したら償還まで持ちきることを前提に購入する必要がある。



2012.3.3「個人向けの復興国債と復興応援国債」
3月1日の10年国債の入札結果を元に、3月5日から3月30日にかけて募集される個人向け復興国債の発行条件が決定された。今回は個人向け復興応援国債も募集されることで、関心も高いものとみられ、ここで条件等を整理してみたい。
まず個人向け復興国債の発行条件だが、四半期毎に発行される固定利付5年(26回債)のクーポンは年率0.27%(税引後0.216%)となり、前回1月募集の0.33%よりも低くなった。これは2月14日の日銀の追加緩和などにより、中期ゾーンの金利が低下したためである。
これも四半期毎に発行される変動利付10年(38回債)の初回利子は年率0.64%(税引後 0.512%)となった。10年変動の適用利率は半年毎に見直される。前回1月発行の初回利子は0.72%であり、こちらも前回から低下している。
ちなみに毎月発行されている固定利付3年の3月募集物(24回債)の利率は年率0.12%(税引後0.096%)となる。
今回はこれらに加えて、個人向け復興応援国債(801回債)が発行される。個人向け復興国債に「応援」がついただけだが、商品性が異なることに注意が必要となる。
以前にも紹介したが、復興「応援」国債は変動金利型の10年債であるが、当初3年間の金利は年0.05%(税引後0.04%)と通常の変動金利型より低い変わりに、購入から3年間に中途換金しなければ金額に応じて復興記念の金貨や銀貨がもらえるというものである。4年目からの適用利率は「基準金利×0.66(下限は0.05%)」として通常型の変動利付10年と同じ金利になる。
いよいよ条件も出揃って、来週5日からの募集開始を待つことになるが、前回1月発行の個人向け復興国債が人気化したことに加え、今回から個人向け復興応援国債の募集も始まることで、その売れ行き動向にも注目が集まりそうである。
条件そのものは1月発行分に比べて利率は低下しているものの、その要因は日銀が追加緩和を行ったことに加え、物価安定の目処を設定したことも大きい。これは裏を返せば、低金利がかなり長期化する可能性を強めることになり、個人向け国債の利率は預貯金金利と比べれば比較的高いこともあり、この条件がそれほど不利に働くことは考えづらい。
また、これまで個人向け国債の販売額は設定利率による影響が大きかったとみられたが、個人向け復興国債と名称が変わって販売額が急速に伸びるなど、個人投資家は利率の条件だけでなく、復興支援という意味でも購入意欲を強めている。これは今回も同様であろう。
今回特に注目されるのは復興応援国債の販売状況であろうか。財務省が2月24日の国債トップリテーラー会議で配布した資料(財務省サイトにアップ)を見ると、興味深いデータがある。「個人向け復興国債の年代別販売状況」というグラフで、10月に募集した60歳代の1件あたりの平均販売額が1千万円に届いていたことである。全体の平均でも10月債は6.3百万円、1月債は5.2百万とあった。
復興応援国債で復興記念の金貨を1枚入手するには、最低1000万円の復興応援国債を購入し、少なくとも3年間は中途換金をしないことが条件となる。これはなかなかハードルが高いかなと思ったが、データを見る限り、個人向け国債の購入の中心層とみられる60歳代では、それほどハードルが高いとは思えない。あとはプレミアム金貨と利息との比較であろうが、ここにも震災復興のためと購入する個人投資家はいるのではないかと予想される。
財務省の資料には「個人向け復興国債(1月債及び2月債)販売上位機関」も掲載されていたが、今回も大手証券や都市銀行などを主体に積極的に販売姿勢を強めることも予想される。ここにきて円高の調整が入り、株価も戻しつつあるが、安全資産としての日本国債への個人投資家の投資ニーズはあると見ている。



2012.3.2「日銀は能動的な金融政策に」
日銀の白川総裁は2月17日の講演で、2月14日に決定した政策について、次のように述べている。
「今回、日本銀行のデフレ脱却に向けた政策姿勢をより明確にするという観点から、2つの点で見直しを図りました。第1に、時間軸の条件として、中長期的な物価安定の目途で示した当面の目途である1%という物価上昇率に明確に結びつけることとしました。第2に、具体的な政策運営指針については、実質的なゼロ金利の継続だけでなく、それ以外にも実際に行ってきた政策措置を踏まえて、より能動的な表現とすることが適当と判断しました。この結果、新しい時間軸政策として、次のような方針を採用しました。すなわち、当面、消費者物価の前年比上昇率1%を目指して、それが見通せるようになるまで、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等の措置により、強力に金融緩和を推進していく、というものです」
以前にこのコラムでは「物価に対する理解・目途・目標の違い」としてこの白川総裁の講演内容を紹介したが、この講演の議事要旨を見て気になっていたのが「能動的な」という表現であった。
2月14日の日銀の金融政策決定会合では、中長期的に持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率として「中長期的な物価安定の目途(Goal)」を示すことにすることを決定した。「中長期的な物価安定の目途」とは、消費者物価指数の前年比上昇率で2%以下のプラス領域にあるとして、ある程度幅を持って示すこととした。その上で、「当面は1%を目処」として、金融政策運営において目指す物価上昇率を明確にしたのである。
2月14日の政策変更において注意すべきは、政策姿勢をより明確にするとした「明確」という表現とともに、もうひとつ、総裁が「能動的」という単語を使ったことにある。つまり、これまでの日銀の姿勢はどちらかといえば「受動的」とみられていた。しかし、2月14日の政策変換により、その姿勢を180度転換し「受動的」から「能動的」な政策に変更したと思われるためである。
これについて新たな証言が2月29日の衆議院財務金融委員会であったようである。白川総裁は衆議院財務金融委員会での質問を受け、今回の政策について「物価上昇率を引き上げるという要素を内に秘めた能動的な政策だ」と説明、「景気が良くなっていっても物価上昇率1%が見通せない時は、ゼロ金利を続け、資産買い入れを行っていくことを約束するものだ」と明言した(ロイター)。
今回の日銀の政策変更については、さすがにマーケットはかなり意識したとみられ、それが円安の動きを加速させ、株高の一因となった。円安株高にも関わらず、長期金利が低位安定していたのは、日銀による時間軸の強化とともに、より能動的な政策に変わったとの認識も働いたためではなかろうか。ただし、長期金利が低位安定しているのは日本ばかりでなく、米国やドイツ、英国でも同様であるが。
日銀の心構えが変わったとしても、それを行動で示す必要もある。そのために表現の変更だけでなく、資産買入等の基金をこれまでの55兆円程度から65兆円程度に10兆円増額し、その増額対象は長期国債(期間1〜2年)とすることを決定したとみられる。
つまり、今後もし金融政策の効果、つまり物価上昇の兆候が見られなければ、いずれ日銀は追加緩和を行う可能性があるということになる。それには今回と同様に国債を主体とした基金の増額を行ってくる可能性がある。そして、緩和効果をより高めるため、買い入れ対象の国債の残存期間の延長もいずれ視野に入る可能性がある。
ただし、緩和効果はすぐに現れるわけではない。あくまで今回の目途も中長期的な期間を意識したものであり、緩和効果などを確認するためにもある程度の時間は置く必要がある。たとえば次回会合(3月12日から13日)での追加緩和を期待するというのは早計であろう。


2012.3.1「この5年間で金融は何が変わったのか」
2006年12月に出した「最新金融の基本とカラクリがよーくわかる本」の改訂版を出させていただくことになり、当時の原稿をあらためてチェックする作業を続けていた。
当時の原稿の「まえがき」を読むと、「これから投資の勉強もしたいと言っている中学3年、中学1年、そして小学校6年の三人の娘たちにもこの本を捧げたいと思います」とあったが、その長女は今年4月に大学3年生となる。
2006年12月から約5年経過したわけだが、その間、世界の金融市場は大きく揺れ動いた。2007年には米国でサブプライム問題が発生し、それをきっかけに2008年9月にリーマン・ショックが起きた。2009年10月の政権交代によりギリシャの粉飾財政が表面化し、2010年初頭からギリシャの債務悪化が問題視され、それがユーロ圏の信用不安を招くことになった。
その間に金融の世界が様変わりしたのかといえば、金融のシステムそのものにはさほど大きな変化はなかったと思う。あらたな金融商品が生み出されたりするようなことはなく、このあたりは元の原稿に手を入れるところはあまりなかった。
原稿を大きく修正する必要があったのは、特に「日本銀行の役割」とか「政府の役割」の部分であった。リーマン・ショックと欧州の信用不安に対しては、日米欧の中央銀行が積極的に対応策を講じたが、それはこれまでの伝統的手段ではなく、非伝統的な手段となった。そして、政府は積極的に財政政策を打ったことで、その反動として財政悪化を招くことにもなった。
また、リーマン・ショックやギリシャ・ショックが直接影響したわけではないが、取引所のグローバル化が進み、また国内においても東証と大証が経営統合を発表するなど規模の拡大が進んだ。株価そのものは低迷していたが、その処理速度は速まるばかりであった。
また、市場参加者である銀行や証券会社そのものもリーマン・ショックにより変化があった。さらにサブプライム問題やリーマン・ショックにより、証券化などを含めて複雑な金融商品への問題点が浮き彫りになり、その後の欧州の信用不安により、リスク回避の動きがさらに強まった。国内では歴史的な円高進行もあり、株の低迷に加え、投資信託などにも大きく影響した結果、「貯蓄から投資へ」という表現は修正しなければならなかった。
この5年間で何が変わったかといえば、金融というシステムそのものに変化はあまりなく、むしろ金融がある程度成熟化してしまい、そこに内在された問題があらためてリスクとして浮き彫りになったということではなかったろうか。



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