はじめに
バブル全盛の頃は株式投資など経験したこともない主婦や学生までもがいきなり証券会社の店頭で株式を購入するといった事が頻繁に見られ国民総投機家のような様相を呈しました。それまでは土地も株式も上昇をし続け誰がどこで何を買っても儲かるという状況でした。 しかしバブルが弾けるとこの反動で多くの者が多大な損失を被りました。プロ中のプロの投資家とも言うべき銀行ですらあのような不良債権を抱える始末ですから、一般の方はさもありなんという状態です。バブルというのは数十年に一回あるかないかの事態かも知れません。しかしこれを相場の例外とするわけにはいきません。規模は違っても相場には乱高下はつきものなのです。そこで利益を稼ぎ出すのは容易な事ではないのです。株式や債券、為替の動きをコンピューターに入力してシステマチックに売買益を得ようとする試みは数多く行われていました。元NASAの技術者や物理・数学の専門家も含めて現代の錬金術に挑戦しましたが、これを完成したという話は残念ながら聞きません。そうは言いましても工夫次第ではこの相場の世界に長く生き残り安定収益を稼ぎ出すことは可能です。それにはまず経験と努力、そして自分を制御できる精神力が必要です。これから相場に生き残りそして収益を獲得するためのノウハウのいくつかを紹介してみたいと思います。
第1章.プロも一般人
私はこれまで10年以上相場の世界で仕事をします。いろいろな相場の参加者を直接・間接に見てきました。日々動いている相場という世界では常に生き残りをかけてサバイバル戦が演じられていると言えます。会社の資金で相場を張るディーラーなどは収益を揚げられないと「異動」という形で姿を消すだけですが、自らの資金で投資を行う個人投資家などはまさに死活問題といえます(死活問題となるほど相場にのめり込むのもどうかと思いますが)。
この世界で生き続けてゆくのは容易な事ではありません。ディーラーにもほんの一部ながら長島や羽生のような「相場の天才」がおり、毎年毎年、多大なる収益を稼いでいます。しかしこのような相場に対し天性の分がある者は、ディーラーという専門職のなかでも百人に一人いるかいないかです。大多数の相場参加者は私も含めて「一般」の人間といえます。この一般の人間が相場の世界で生き残っていくためにはそれ相応の努力や創意工夫が必要なのです。そして、努力工夫次第では安定的な収益を揚げる事も可能になります。
ディーラーにも様々なタイプの人間がいます。何事にも向き不向きというものもあります。まず、こういうタイプは相場には向かないといったタイプをいくつかあげてみたいと思います。良く相場は博打と同じといった見方がされます。相場で収益を稼ごうとするディーラーにとって取引所は大義の公営ギャンブル場と言っても良いかもしれません。投資と投機は違うと良くいわれますが目的は相場で利益を得るということであれば同意と言っても良いと私は考えます。ところで丁半博打ではありませんが、相場も売るか買うかの二つに一つに勝負をかけます。現物投資では通常は買いからしか入れませんが今は先物とかオプションとかのデリバティブが日本でも発達しつつあります。デリバティブでしたら売りからでも入れます。ここでは売りからも入れるという事を前提にしてお話します。
勝率だけから言うと相場に入り儲かるかどうかの確率は五分五分といえます。問題はこの五割という確率にあるといえるのです。もし、余程ひどい相場勘をもっているディーラーがいてかなりの確率で損をするならこの人間こそ別な意味で「天才」であり、他の人間はその者の逆をやれば良いと言えます。大和銀行事件の当事者、井口氏もその著書で勝率は20%程度だったとか述べていましたが、通常こういう状態はありえません。余程異常な状態で相場を張っていたことが伺い知れます。しかし、もし彼の相場の逆を張ることができたら、いったいいくら儲けられたでしょうね。
どのような人間でも五割の確率で儲かるということは言えるのです。そして儲かった時にそれを確率の問題ではなく自分の才能であると勘違いしてしまうタイプの人間がいるのです。天性の勘をもつものはほんの小数です。その他の者は何らかの努力が必要とされます。この思い上がりタイプのディーラーは一様に自滅してしまう事が多いようです。儲かった自分を過信してしまうため損切りすべきときにせずに不必要なナンピン(買い下がりや売り上がりのこと)を繰り返してポジションを大きく膨らせてしまいます。それは結局リスクをより大きく高める事になるのです。こういったディーラーは儲かった分の掃き出しにすまされずいずれ大きな損失を発生させてしまいます。意外とこのタイプのディーラーは見受けられるのです。
逆バリという売買手法があります。自分でレンジを想定して大きく下がってレンジの下値に来たと思ったときに買い逆に上昇し上値レンジにきた時に売ろうとする方法です。これは相場は安い時に買い高い時に売るのが常識であるためにあたりまえの手法と思われますが、問題はレンジの上下を自分で決めつけてしまう事にあります。コンピュータを駆使しても具体的なレンジを想定することは不可能に近いのに高値や安値を適格に判断するのには無理があると思われます。しかし自分のレンジを信じきってしまうとそのレンジをさらに下回ったり上回ったりした時にやはり切るチャンスを逃すどころかポジションを余計膨らましてリスクをさらに高めてしまう可能性もあるのです。もしトレンドが変化したときなどこのレンジを想定しての売買は非常に危険なものとなってしまいます。安いところで買って高いところで売るというのは理想ではありますが実はたいへん難しい方法でもあるのです。
日本のディーラーとかファンドマネージャーとかは主としてサラリーマンです。横並び意識も強いようです。このために損失をしても身銭がなくなるわけではなく、自社内もしくは他社の人間より多少でも儲かっていれば良いと考えてしまいがちです。典型的な例として、株式で言うと日経平均のパフォーマンスさえ上回っていれば、たとえ損失を被ってもいたしかたがないと認識してしまうような風潮があります。生き残りをかけての相場の世界なのです。相場がどうあれ損失を出さないことが一番重要であることを忘れてはならないと思われます。人より損失が少ないからいいやと傷をなめあっているディーラーもいずれ消え去る運命といえます。
以上のようにいくつか相場に不向きなタイプをあげてきたましたが、このなかでも最悪のディーラーは上司とか周りの目を気にしたり社内の自分の立場を守ろうとして損の責任を他に押し付けたり損失を他に付け替えをするとか粉飾したりする人間であるといえます。もしあなたがディーラーでしたら周りにもそのようなタイプの人間が一人二人見受けられると思います。極端になると以前の大和銀行やベアリング、そして住友商事のような事件となってしまうのです。このような事件はディーラーとしては最悪の人間が行ったものとも言えます。もちろん管理体制にも問題はあったのですが、会社の人間が適正を見抜けなかったことも大きな問題といえます。
しかしどのようなタイプの人間が相場にむいているか判断はむずかしい事も確かです。血液型が人間の性格を決定するとは言えませんが、大相場の時、例えばバブル真っ盛りのような時は0型のタイプ、つまり多少おおざっぱでも、いいやいいや買ってしまえといったタイプが儲かったと言われました。しかしこのタイプはバブルの消滅とともに姿を消しました。そして恐竜の絶滅の後に出現した哺乳類のように、O型のタイプにとって変わって出て来たのが堅実なA型タイプでした。地道だがこつこつ儲けるというタイプです。どうやら相場に生き残っていくのはある意味で地道なタイプではないかとも考えられます。
第2章.やはり勝率が重要
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1991 |
-5,760 |
108 |
134 |
45% |
3.40 |
119 |
117 |
50% |
1992 |
-7,540 |
114 |
129 |
47% |
2.06 |
114 |
124 |
8% |
1993 |
-2,710 |
108 |
130 |
45% |
4.32 |
136 |
104 |
57% |
1994 |
1,070 |
116 |
118 |
50% |
-4.35 |
114 |
126 |
48% |
1995 |
-1,580 |
113 |
131 |
46% |
5.22 |
138 |
103 |
57% |
1996 |
-3,180 |
121 |
119 |
50% |
4.86 |
121 |
118 |
51% |
上の表を見ていただきたい。この表は日経225先物と債券先物そしてユーロ円金融先物をそれぞれ毎日、寄付で買って引けで売ったとして一年間の収益と勝率を出したものです。注目していただきたいのは勝率と収益の相関関係です。勝率が55%以上のものは買いから入った場合に100%収益を揚げているといえます。また勝率が45%以下のものも売りから入れば同様に100%稼いでいます。これはほんの一例ですが、勝率が高ければ収益が上がるという事はこれからもおわかりいただけると思います。あたりまえだとおっしゃる方もいるかもしれません。しかし実際相場に入ると「一発儲けりゃ良い」といった事を言われる方も多いのです。では伺います、もしいったん大きく儲かったらそこで止められますか。
日々、売買を繰り返すディーラーはもちろんの事、年に何度か売買を行う投資家も勝率を高める事によって安定した収益を揚げる事ができると思われます。もちろん先程のように一度大儲けしてやめれば良いという方もいるかもしれませんが、そんなにタイミング良く儲けられる方などほどんどいないでしょう。特に恒常的に売買を繰り返す者にとっては勝率をアップすることをまず念頭に置く必要があるのです。これは相場を職業とするディーラーなどはもちろんですが、それほど頻繁に売買を繰り替えさない方にも言える事と思われます。
上の表の損益には必要経費が含まれておりません。このために経費を抜くと収益がマイナスとなる恐れもあります。そこで勝率もできれば60%程度まで引き上げておけば、そこそこの利益は揚がると思われます。ここでギャンブルの例を出すのもどうかと思われますが、麻雀でも勝っていくためには9勝6敗の勝率が必要と麻雀放浪記などに書かれておりました。やはり相場でも同様の事が言えるのではないでしょうか。例え大きな損失を出したとしても勝率さえしっかりしていれば年間で利益を出すことができるはずです。もし勝率など関係ないと言われる方があれば御自分の儲かった年の勝率を算出してみると良いと思います。おそらく勝率も高いものとなっているはずです。
資格試験
資格を取るという事が一時ブームになりました。資格を取るには資格試験というものがあります。英語検定とか勉強されている方も多いのではないでしょうか。証券界には証券アナリスト検定試験というものがあります。この資格を取るための勉強法が相場にも生かされるのではないかと思われるのです。資格試験は入学試験などとは異なり一定割合の点数を取れば合格となるものが多いのです。6割とか7割とか取れば合格する形式になっています。そうとなると自ずと勉強法も入学試験とは多少違ったものとなります。つまりピンポイント攻撃が有効となるのです。過去の問題を遡り出そうな所を重点的に勉強しポイントを絞った学習が必要となるのです。理屈はとにかく要するにAならばBとなることをまず丸暗記することが必要となります。重点を絞っていけばなんとなく理屈もわかるようになってきます。試験で勉強しなかった問題が出題されたとしてもその部分は捨てる覚悟で望めば良く重点を置いて勉強した所さえしっかりできれは3割や4割はできなくとも合格できるのです。
相場の世界でも同様の事が言えます。マーケットで生き続けるには勝率を重視すべきしてきましたが、そこでこの資格試験の勉強法が生きて来るのです。実際に相場を張っているうちに得意なパターンが掴めてきます。大半のディーラーは順張り型(前述の逆張り型と反対で上がれば買い下がれば売る)であるために大きく動いた時に儲けられるという者が多いのです。自分に得意なパターンが出た時にしっかり儲けられるようにすれば良いのです。自分が負けるパターンという物も認識する事によって不得意な相場の時は早めに手を引くなり相場を休むなりして勝率を上げるよう努力することによって自ずから収益は上がってきます。
このパターン分析は大変重要です。チャートと呼ばれる相場の居所を示すグラフがありますが、このチャートを見ても全く同じ値動きをしているものはありません。どのような投資対象についてもこれは言えます。そうは言いましても人間がやっている以上、似通ったパターンは随所に見られるのです。江戸時代からの米相場や為替・株・債券・商品市況など対象物は異なってもみな似通ったチャートを作る事が良くあります。この習性を掴む事によって勝率を上げる事が可能となります。しかしそれにはある程度の経験が必要となります。こういった形のチャートの時は休むに限るという事がわかっているだけでも勝率は上がるのです。
相場においても常に勝率ということを念頭に置いて4割程度は負けてもしょうがないということを認識すれば良いのです。つい意地や過信から切るものも切れずのままにしてしまう場合がありますが負けは負けとして早く処理することが大事なのです。得意な相場で勝ち越して、乗り切れないもしくは自分の考えと相場の方向が逆の時は自棄を起こさずにポジションを軽くして自分のパターンを待つだけの余裕が必要となるのです。
勝率を上げる方法として相場の達人を見つけその手法を盗み取るというものもあります。ディーラーもひとつの職人芸に近いものがありまして親方のやり方を見よう見まねで盗んで仕事を覚えていきます。しかし実損益が直接からむため自社内の人間で儲けているディーラーほどあまりそのノウハウを明らかにしません。教えようとしてもある程度勘にたよる部分が強いために具体的に口に表せないという事もあります。その点コミュニケーションが取り易いのは自分の損益が直接影響しない他社・他行の同業者であると言えます。一つ間違うと愚痴のこぼし合いとなってしまいますが、付き合い方次第では彼らのポジションとかこれから入るタイミングとかを明らかにしてくれる事があります。会話を交わしているうちに相手が相場の動きを掴むのがうまいとわかったらしめたものです。儲かっているディーラーの動きが直接に学び取れるわけです。もちろん口だけの方もいますが相場はシビアーです。こういった方はすぐにボロが出てしまいます。このように達人を見つけ彼らのスタンスとか考え方とかを学んで自分のディーリングの参考にする事は大変良い方法であると思われます。
それでは回りにそのような達人がいない場合はどうしたら良いのでしょうか。例えば個人投資家などの場合です。まず避けなければならない事は他人の言いなりにならない事です。勧める人が相場の天才か勝率が高い投資家であれば良いのですがその人が5割程度の勝率しかない、つまり一般人ならば大きく損失する可能性が強いのです。何故ならば安心して人に勧められる物はチャートなどから一目見て上がっている事が多くなるはずです。結局、高値を買うはめになる確率が高くなります。勝率は5割でも益は少なく損は多いという結果になりかねないのです。こういった事を避けるためには株式なら自分で購入したい銘柄をいくつか選定し、チャートをつけて下から上放れたような銘柄を買うといった防衛手段を取れば上値掴みとなる可能性は少なくなります。「あなただけに教えますが」といったインサイダー情報など簡単に手に入るはずもなく仮に入ったとしてもそれを元に売買すると罰せられます。そんな事より日々の値動きを睨みながら今後の動きを推測してゆく方が早道と言わざるを得ません。従ってチャートの見方を学んだり評論家ではない実際に相場の世界にいる達人の書いた相場に関する本など読み漁るのも一考と思われます(この本とか?)。そして毎日値動きには注意してください。経験を積むと上がりそうなパターンとか切らなければならないパターンとかが出てくるのです。個人の方が株式を購入されるのは通常は投資であり例え下がっても持ち続ければ良いというのも考え物です。頻繁に売買する事はありませんが自分で損切りルールを作る必要があります。繰り返すようですが相場には努力と自制心が必要なのです。
第3章.相場に立ち向かうためには
パターン
ここではまず相場の分析手法について見ていきたいと思います。ディーリングに携わっている我々が最も重視しているのが「パターン分析」です。まずこのパターン分析について見ていきます。1995年はケインズ没後50年ということで久しぶりにこの天才経済学者が脚光を浴びました。ケインズ政策についてはすでに時代錯誤との見方もありますがケインズ経済学の考え方はまだまだ通じる物があると言われます。そのケインズの著書の中でよく相場において引用されるものに「相場は美人投票である」という考え方があります。もちろんケインズは経済学者としても多大な功績を残していますが株式相場や商品取引でも財をなしたと言われています。このためかなかなか相場の心理面を言い当てている言葉かと思われます。この「美人投票」とは美人コンテストでは自分が美人であると思う女性に投票するのではなく他の人達がこの人こそ最も美人であると考えるであろう女性を選出するという事です。相場も同様です。自分は上がると思っていても他の多くの人が下がると考えていれば「売り」に一票投じなければ儲からないという事なのです。
相場を動かす材料に対する反応は相場に携わっている人達の心理状態が大きく影響します。「材料出尽し」という表現がよく使われる事があります。ある企業がどんなに好決算となってもすでに相場が好決算を織り込んですでに買われている時など好決算の数値が出ても株は利食い売りで急落するようなケースです。こういったケースは相場では頻繁に起こります。相場は多くの参加者が先行きをどう読んでどのような行動を取るかによって動くのです。相場参加者の心理が強気弱気に傾いている時には材料によっては過剰反応する事もあります。同じような材料なのに相場の心理状態により反応が異なるケースもあるのです。
相場に一時方程式はあてはまらないと言われます。各種の関数を織り込んで行かなければならすその比重も状況により異なります。相場の推測がどんなにすごい演算処理能力を持ったコンピューターでも無理なのは当然扱くと言えます。最近では生物進化の秘密が徐々に明らかにされていますが生物は進化する上でその場その場の状況に応じた遺伝子組み替えを行うと言われています。相場も同様にいろいろな要素が絡み合い価格を形成しています。一部の要素の変化により大きく状況も変化したりします。ただ単純に為替がいくら動くと株がこれだけ動くという方程式はないのです。その場その場の状況に応じて価格が決定される以上これをアルゴリズム化するのは難しそうです。しかし生物はそれをひとりでにこなしています。遺伝子の働きがよりはっきりしてくると意外に相場に対する新しい分析手法が出て来るかも知れません。
話は飛んでしまいましたが、我々ディーラーや投資家はこのような相場変動に対して収益を上げてゆかねばならないのです。新しい理論がまだ発見されてない現在ではどうやって相場を分析するのが良いのでしょう。ここでもう一度考えてもらいたいのは、相場は人間の推測で動くということです。つまり人間の行動は社会学や心理学を持出すまでもなくある一定のパターンを描くことが確認されています。相場もしかりです。収益をあげているディーラーは実はこのパターン分析に優れていると言われます。天才型ディーラーはこれを自然に身につけていますが一般のディーラーはこれを取得するためにはある程度の経験が必要となります。毎日毎日、値動きをウォッチして自分が直接相場に関わっていくうちにこのパターンは自然に身についてくいてきます。また四本値やポイントアンドフィギュア、ストキャスティックスなどといった相場分析ツールをみてゆくうちにこれらの動きのくせなども見えてくるのです。
「相場は相場に聞け」という名言(迷言)がありますが、この言葉はまさに相場の心理面を言い当てていると言えます。ファンダメンタルズ分析は過去の数値を基としている点も注意する必要があります。景気を示す指標も数ヵ月遅れとなっています。相場は先をみて動く生き物である以上、過去の数値は参考にはなりますが相場変動の一要素にすぎないということを認識しておかねばなりません。そうは言いましても、無論、チャート等を基にするテクニカル分析が絶対に良いというわけでもありません。しかし、相場という生き物の行動パターンを分析するほうが勝率を高める上では手っ取り早くそして有効であることは疑いのない事実と思われます。
感性
司馬遼太郎氏の代表作に「坂の上の雲」があります。このなかで主人公の一人秋山真之が「海戦をするのに本を見ながらはできない」と話をしている場面がありました。市場という戦場のなかでディーリングを行うにも当然ながらいちいちテキストなど読んでいる暇はありません。戦況はつねに変化します。そしてこの戦況が変化した時に適格に対応するには日頃の鍛練と経験が必要となります。最後にはこの経験に基づいた勘が働くかどうかが勝敗を分けるといえます。瞬時の判断が常に求められるディーラーはこの勘を磨き上げて、感性(この場合勘性というべきか)と言われるものを身に付けなければいけないのです。
この感性は訓練とか練習とかでは身につかないものです。シミュレーションで売買を行うのと実際に売買を行うには気持ちの持ちようが異なります。実際に数千万円の損が発生するのと計算上の損失とは当然ながら心理的に大きく異なるものなのです。大きな損失が発生したときなど心理的に追い込まれたとき適切に判断が下されるかどうか実際の経験から学んでゆかざるをえないのです。損失がでたときにそれを取り戻そうとあせるとますます深みにはまるという事も良くあります。私自身もこの心理的に不安定となる状態は年中経験しています。そのために日計りでもロスカットルールを作り一定額の損失が出た時にはひとまず損切りをして冷却期間を設けるようにしています。
また、相場に臨むにあたってポジションを持っている状態と持っていない状態でも相場に対する見方が異なる事も注意しなければなりません。ポジションを持つと人からの意見にしろ通信社からの情報にしろ自分のポジションを正当化する情報にばかり目がいくようになってしまいます。これでは普段の冷静な見方が出来なくなる恐れが強くなります。ポジションに左右されない冷静な目を養う必要性があるのですがなかなかそれができないのも事実ではありますが。
ではその冷静さを保つにはどうしたらよいでしょうか。もちろん自分の相場勘が当たり評価益が膨らんでいる状態では、利食いゾーンを模索するため冷静さは保てるのですが、問題は評価損が膨らんでいる場合です。ここで必要なのはやはり先ほども述べましたが損切り、つまりロスカットルールを設けることだと思います。これはディーラーばかりではなく一般の投資家の方にも適用できるかと思います。
ロスカット
それではそのロスカットルールはどういう基準で設けるべきでしょうか。相場に生き残りたいならばロスカットをするべきというのが私の信条とも言えます。勝率を上げたうえで損失額を限定させれば自然と収益は揚がるはずです。また前述のようにポジションを切ることによってポジションを持ったことを正当化しようとする意識がなくなり自分の思い込みから開放され冷静な目で相場を見る事ができるのです。
私は国債のディーラーです。国債の中で最も流動性が高いのが債券先物です。債券先物は1銭刻みで動きますが、私自身日計りで10銭程度のロスカット・ルールーを設けています。目先の流れを追うデイトレードでは10銭以上逆にいった場合に相場の流れを読み違えたと考えているためです。むろんスタンスをもう少し長めにする時、例えばオーバー・ナイト(1日以上持つ事)などの場合などはロスカットを1円程度としています。もっと長い期間を想定して相場を張る投資家の方などはもう少しレンジを大きくしていらっしゃるとは思いますが、ロスカットルールを持つこと自体は絶対に必要です。損失を限定するという作用はむろんですがあせりなどから日頃の冷静さが欠けた状態で相場を張っても儲かるはずがありません。特にナンピン(買い乗せ売り乗せすること)はリスクを増大させるだけで心理状態を改善させる処置ではありません。
相場はだれでも入ることは確かにできます。しかし最終的に相場の世界で生き残る事を考えると最後は切り方そして利食い方がポイントとなります。どんなに信念を持って相場に望んでも状況は変化します。こんな事はこれまでなかったといった言い訳は通用しません。自分の意見に固執しないためにも機械的に切ることは重要であり相場に生き残るには必要不可欠であると認識する必要があります。「多少やられてもいずれは戻るよ」と悠長にかまえているのはいいですがトレンドが完全に変化してしまったり、戻ることはもどってもそれまでに時間がかかり途中の収益チャンスを逸脱したりするなとろくなことはないはずです。
この世界から消えてしまったディーラーの多くは一時的に稼いだ自分を信用するあまりやられたときに損切りのチャンスをなくしてずるずると損失を膨らましてしまいそのため自滅してしまったケースが多いとも言われます。損を出すことは確かに誰でも嫌です。しかし何度も言うようですが仮に勝率6割で優秀なディーラーであるということは4割は負けることを意味しているのです。負けた時の損失をいかに押さえるかそれが大変重要な課題なのです。
勢い
自宅のビデオデッキが壊れたことがありました。特売日に買った安売り商品でしたが日本を代表するAV機器メーカーの物だっただけにまさか壊れるとは思ってもみませんでした。結局初期不良らしく交換してもらいました。別にこのメーカーを非難するわけでないのですがビデオデッキが壊れたときの自分の対応が問題だったのです。
何故かテープを入れるとすぐに戻ってしまうと奥方にいわれ3人娘をおとなしくさせる「最終兵器」を修理すべく自称ホームエンジニアの私がデッキに向かったのです。しかし何度電源スイッチを入れ直してみても、何度テープを押し込んでも無駄でした。メカ好きの末娘がテープの代わりに煎餅でも入れたかと思ったのでしたがデッキの中には何も入っていませんでした。壊れたというより壊したと思っていたため押せるスイッチをすべて押してみたりしました。結局前述のごとく交換してもらったわけですが、考えてみれば昔の電気製品と異なり最近のメカは叩くなどしてはずみで直ることはほとんどないと思います。同じスイッチを何度押しても同じことです。(これってわかっていてもやってしまうんですよね)あとで冷静になると、自分は何していたのか!ということになります。できないことは何度繰り返してもできないのです。
相場においても同じような事が言えます。相場に「流れ」つまり勢いがついたときに自分の相場感が逆だった場合、やられてもやられても自分の相場感を信じるあまり流れに逆らう商いをしてしまうケースがあります。相場の「勢」を早く見切って無理に逆らう事なく流れに乗れば楽して儲けることが出来ます。「善く戦う者は、これを勢に求めて、人に責めず」孫子の言葉です。まさに「勢」を利用すれば楽して利は得られるのです。
相場の「勢」には、短期的なものと長期的なものがあります。大きなトレンドを意識しながらディーラーは短期のトレンドを掴んで儲けてゆかねばなりません。例えば買いたい時にできそうな指し値を入れても出来ずさらに上に指し値しても出来ない、さらに上に指し値しても出来ないという時には相場は本当に強い。早く気付いて成り行きにしなければならないのですが買った時はすでにかなり上昇してしまい儲かるどころかそこから反落してしまうこともよくあります。
また買いなら買いで10銭程度の損失が繰り替えされた時など相場の方向性、つまり流れを読み違えていると考えられます。すぐに方向転換するか自分の頭がついていけない時や納得できないときは休んで冷静にならなければいけません。流れを見方にするなり流れを早く見きって相場を張ればおのずと利が出てきます。しかしなかなかそうもいかないことも確かです。ビデオの例で言えば、カチカチとスイッチを押してる間に壊れてしまう事すらあるのです。妻子の前で格好つけようとするあまりに冷静さを失っている自分を深く反省しなければなりません。
運
朝、駅の改札は一番左を通る。ここのキオスクで新聞は買わない。青いネクタイは締めない。
相場の世界に従事するものは験(げん)を担いでいる人が多いのではないかと思います。スポーツの世界でもあるプロ野球の監督のように勝っているときは下着を変えないという方もいらっしゃるようです。傍から見れば何を馬鹿らしいとおっしゃるかもしれませんが当人は真剣なのだと思います。実際験を担いでいるものを何かのはずみで破ってしまった時など気が気でないことは確かです。これがプレッシャーになるのか実際損してしまう場合も多いような気もします。
最後は当人の気の持ちようなのであろうかと思われますが、カラスが頭の上を通過したり黒猫が自分の前を横切るようなことがあると本日の損失はこのせいだと思い込んだりしてしまいます。んな時でももし儲かった時は実力が優ったのよとかってに解釈してしまうようですが。
相場にも運がからんでいることも確かであると思います。調子が良いときは運も見方する時が多いようです。安値近辺で買えたり高値で売れたり、また何気なく持ったポジションに突然の良い材料が出て大きく儲けられたりする事もあります。逆につきがない時は自分の指し値の一歩手前で止まったり持ってしまったポジションに対して悪い材料が出てしまったりするのです。
以前読んだギャンブルの本に「運というのは人それぞれ平等にある」という文章がありました。そういう事もあるのかなと相場に長く接していると漠然と思ったりします。要はその運をどう生かすかどうかであると思います。調子が良く運も見方につけている時こそ儲けを大きく膨らませるチャンスです。ここを逃すわけには行きません。勝率6割で充分儲かると力説している私ではありますが、やはり年に何回か大きく取れる時があります。それをうまく掴まないと年を通じてそれなりに大きく儲けることはやはりむずかしいと思われます。逆にスランプに陥っている時つまり運に見放された時にいかに損失を限定するかという事も重要になります。運を生かすも殺すもやはり最後は当人次第ということになるのです。
しかし、言うまでもないことですが運だけに頼ってはいけない事は無論です。運任せに相場を張っても勝率は5割にしかなりません。切ったり利食ったりするタイミングの悪さから儲けが続く事はないことは確かです。日頃の努力の上に立って最後に運命の女神に委ねる必要がある2です。これは相場に限ったことではないと思われます。他力本願では決して益は出ないことを常に胆に命ずる必要があります。
スランプ
さて次はスランプの話です。またまた野球選手の話となりますがスランプといえば私の世代では現役当時の王選手が良く引合いに出されます。あれだけのホームランバッターと言えど何度もスランプに陥っていたようです。必死に素振りをする王選手の姿がテレビに写し出されていたりしました。スランプを乗りこえるにはとにかくバットを振る事と考えておられていたようでこれも有効なスランプ脱出法の一つであると思われます。
何にせよある程度経験を積んでいくとどこかで壁にぶち当たることは良くあります。ただあくまでこれはそれなりの経験を積み実績を持った方の話です。都合の悪い事はすべてスランプとしてしまう方もいらっしゃいますがそれとこれとは違います。それなりの実績を積んでいたのに突如、原因もわからないまま成績がダウンしてしまう事がスランプと言えるのです。
ディーリングにおいても大きく損失を出してこれが数日間続くという時があります。相場の流れが変わったにも関わらず頭を切り替えるのが遅れ、相場を見るのにも自分で勝手にフィルターをかけて見ている。このような時は熱くなって売買高を増やすことは禁物です。利食える時に勝手に収益を頭に描いてしまい、もう少しもう少しと見ているうちにずるずると逆方向にいってしまう。また切るべき時に損失額が気になって切れず取り返しのつかない額の損失がでる恐れも多分にあります。自分で「はまったな」と思ったら手を出さない事が第一でしょう。しかしディーラーという仕事は相場の世界で売買することにあります。特別な事情がない限り売買は行わなければなりません。ずっと新聞ばかり読んでいるわけにもいきませんしある程度は相場に接していないと次の流れを掴む事ができなくなってしまいます。そしてディーリングはあくまでトレーディングの補完業務でもあるわけで当然ながら顧客の注文にも対応しなければなりません。
スランプに陥った時は何をやっても反対に行ってしまいがちです。だからスランプなんでしょうがこういった場合には極力売買高を絞るなり顧客の対応玉にフルヘッジするなりの対処が必要となります。また神社仏閣に御参りに行くというのも良い方法かも知れません。決して神の御加護を願うわけではないが気分転換にはなると思います。私もスランプに陥るとあのアントラーズで有名な鹿島神宮に行ってみたりしています。
とにかく冷静になり相場の流れをしっかり見つめる事が必要となるのです。ディーラーにとってスランプの大きな原因はこの切り替えの悪さによる所が大きそうです。年を取ると切り替えが遅くなります。特に最近では流行り廃りのテンポが非常に早くなっておりそんな事も影響しているような気がします。時代の流れの早さは加速し続けるのでしょうか。スランプから抜け出すには 第三者の目で相場が見ることができるようにする必要があると思われます。そうすると何となく相場が見えてきたりします。相場に入り気持ちがそわそわしている段階では手をださずに冷静さが出て来るまで本格的なディールはやめた方が良いと思われます。スランプの時期に大痛手を食うと取り返すのが容易ではありません。無心のままバットを振る王選手の姿を真似るのもやはり一考かとも思われます。
パニック
「パニック」というとよく引き合いに出されるものにオーソン・ウェルズが演出したラジオドラマがあります。私の年代の方でも知らない方が多いのではと思います。まだテレビもなくラジオ全盛の時代の話です。これはオーソン・ウェルズの演出力の素晴らしさとともに群衆心理などの研究材料としても良く引き合いに出されています。このドラマは「火星人来襲」という題でH・G・ウェルズ原作の「宇宙戦争」をラジオドラマ化した物です。あのタコのような火星人が出て来る小説です。ドラマはいきなりラジオアナウンサーが「宇宙からの物体が全米各地に飛来している」とのアナウンスでスタートします。まるで実況中継のようなドラマであったようです。当時は前述のようにメディアはラジオが主体でテレビなどない時代でありウェルズの卓越した演出力も手伝い真実と思い込んだ人が全米各地に続出したことでパニックを引き起こしたと言われています。
当時、火星人を信じていた人がそんなにいたのかと見なすのは早計であると思われます。あまりにリアリティある演出だったために、もしかすると「ありえる」と考えてとりあえず逃げ出すという人が出たようです。するとその様子をみて隣人たちも逃げる算段をする。みなしの情報に次第に状況証拠が揃う事で真実性が加わって来るのです。テレビ局や警察に電話をかければ、当然、皆かけてくるので繋がらない。ますます不安感がつのり「火星人」など存在する訳ないだろうと言っていた人もこりゃ大変と荷物をまとめ始める。そしてバニック状態が広がっていったと思われます。
これは前述のようにパニックにおける群集心理の実験台(と言うと少し語弊があるかも)として昔から取り上げられています。 現在のように多種多様な情報が流れている状態にあってはこのようなことは起こり得ないと考えるのは早計であろうと思います。むしろ情報過多の状態にあって人は常に新鮮な情報を欲しておりまた自分は肝心な情報から取り残されているのではとの恐怖心を常にいだいているとも言われています。
実際、情報が生命線である相場の世界ではこのパニックは大なり小なり頻繁に発生しています。チャートで言うと大陽線や大陰線が出た時、また寄り付きから大きく上放れ、下放れした時などパニック的な売買が行われたと言えます。急騰する際の最たる源動力は売り方の買い戻し、いわゆる踏み上げといわれる物です。また急落の際は当然投げ売りとなります。損失を膨らませたくないためにポジションを整理しようとする動きが一斉に発生するのです。もちろんロスカットルールが適用されるという事もあるでしょう。相場の撹乱要因とみなされているシステム系の売買も入ります。これは一部の投資家やディーラーは相場を機械的に張っているためある一定線を超すと一斉に順ばり型の売買が入りやすくなるのです。
ではこのパニック相場に巻き込まれないようするためには、またあわよくばこれを利用して儲けるにはどうしたらよいのでしょうか。突発的な材料が出た時は確かに回避は不可能であるといえます。夜中に材料が出て朝方に売り気配や買い気配でスタートしてしまうととりあえず寄付で手仕舞う他に手だてはありません。しかしザラ場中にずるずると下げていくうちに加速されパニック的な売りが出るような時は手の施しようがあると思われます。
例えば外部環境などは良いはずなのに妙な安寄りをしたような時などは要注意です。その後大きく下げる場合があるのです。この時に思ったより安寄りしたからといって安易に手を出すと痛い目にあいます。また前にも述べましたが差し値を下げても下げても売れない時なども要注意です。ラジオドラマの例ではないのですが皆荷物をまとめ始めている時であるといえます。早く逃げないと間に合いません。また単純にチャートの下値抵抗線を割り込んでなお下値を切り下げている時なども同様に危険な兆候であると言えます。値段かまわず売って来ている者がいるのです。本当に「火星人」が攻めて来た恐れがあります。もちろんこの場合の火星人とは日銀の金融政策の変更であったり海外での大きなニュースであったりします。兆候は状況によりいろいろな形で出て来るでしょうがディーリングを多少経験すれば何となくこの兆候が見えて来るケースも多く、これがいわゆる経験から培った勘と言えるのかもしれません。
ただ、注意すべきは流れの方向と逆のポジションを持っていた時の対処です。このような時は目の前にフィルターがあるがごとく、いつもの冷静な目を失うことがありますので注意が必要です。ディーリングは勘と度胸と言いますが切る度胸をつけておかないと予想外の損失を招きます。玉(ぎょく=建て玉の事)を持っていない時、もしくは流れに添うポジションを持っていた時にパニック売りの前兆が見えたらしめたものです。まさに儲け時であると言えます。ここで儲けずしていつ儲けるのでしょうか。他人の不幸を犠牲にしての儲けは気がひけるかも知れませんがこれは大きなチャンスと見るべきでしょう。ディーラーの多くは順張りと言われるスタンスを取っています。つまり上がったら買い下がったら売る。そして相場がそれ以上にその方向に加速した時に反対売買で儲けるという形です。そうなると実はパニック相場こそディーラーの手腕が問われる場であるとも言えます。ただし投資家にとってはこういった状況はたまったものではないでしょうが。
固定観念
ディーラー35才定年説というのがあります。瞬時に変化する相場に対し臨機応変に対応するには若くなければやってられないという事でしょうか。私もすでに40代。言うなれば定年後の御隠居の年となってしまいました。ではなぜ経験豊富なディーラーが儲けられなくなってゆくというのでしょうか。
一番の原因はその経験に基づく「固定観念」が形成されてしまうためと考えられます。時代は移り変わります、そしてその流れは加速しつつあると言えます。安定した業務においては経験がものを言う事は確かでしょう。業務の生き字引といった方はどの会社にも何人かいらっしゃると思います。しかし今日のようにこれだけ技術革新の進歩が速まると安定した業種などは衰退する運命にあるといえます。金融界にもいよいよビックバンがスタートしています。最も保守的な業種である金融機関にも当然ながら時代の波は押し寄せるて来るのです。すこし遅かったような気もしますが。
固定観と言えば私も以前にこのような経験をしました。私はディーリングに携わる前に事務(バックオフィース)の仕事をしたことがあります。そろばんができずに(小学校時代に取ったそろばん三級ではしょうがないようです)、女子社員に白い目で見られた経験があります。当時、電卓はあったものの高くて会社には少なかったのです。これはわずか十数年前の話しです。そして電卓が入っても機械をあ当てに出来ないとかでそろばんで検算を入れられました。そのうちパソコンが導入されやっと私の時代だと使い方を伝授し業務の効率化に勤めたものの今度は電卓でチェックを入れられたような始末です。機械は信じられないとの「固定観念」が働いているのでしょうが、効率性を高めようとして余計な仕事を増やしているといった典型的な事例です。
相場においても同じようなことがいえます。変に相場の方向性を決めつけてはいけません。「こんなときは売られるよ」といった固定観念を持ったりするとろくなことがありません。相場もいろいろな要因で動いています。そしてその要素にはいろいろな物があり、また要素に対する比重も刻々と変化します。動物の細胞は良く出来ていてどのような環境にも適応できるように(限度はあるようですが)適切な遺伝子の組み替えといった事が随時行われていますが、相場においても同様に自分の感覚の中で遺伝子でいう組み替えを行わなければなりません。儲けるディーラーは切り替えが速いとも言われる由縁です。売りと騒いでいたかと思うと「えっ、まだ売っているのもう買いだよ」とすでにポジションが変化しています、まさに切り替えがうまく働けば相場に生き残るチャンスが増えると思われます。
また、気持ちの切り替えも大事です。仕事が終わるやいなや、もう商いやポジションのことは忘れているというような切り替えのうまさが必要となります。そうでもしないとストレスが溜まる一方となりストレスは相場を張る際に弊害となります。あとで思い悩んでもしょうがありません。悪いことは早く忘れる事も必要です。良く相場の夢をみるというディーラーがいらっしゃいますが何もそこまで思い込まなくてもと私など思うのですが。
この切り替えという事はやはり若い方が有利であろう事は確かだとは思います。先入観などないため切るのも容易となりまた会社のためうんぬんで必要のないポジションを取ったりする事も少ないはずです。利食いも月々の利益などに追い込まれていないためじっくり構えられるのでその分利益も上がるとも思われます。ベテランは場数を踏んでいるだけにいろいろ思い悩んでいるうちにチャンスを逃がしてしまうどころか損失を拡大してしまうことも多いのです。
別にディーラーに限らず、人は常にこの「固定観念」という邪魔者を取り除くように努力する必要があります。革新が安定すると衰退に繋がります。常に新鮮な心持ちで望まねばなりません。「固定観念」を打破したとき新しい発想も生まれるのです。ビールはラガーでなければ売れない、という固定観念を打ち破ってスーパードライが生まれました。そしてアサヒはガリバーであったキリンを抜きました。株や土地は上がる物との固定観念がバブルを生んだのです。貧弱な通信網のインターネットの普及には限度があるという固定観念を抱いたがためにあのビル・ゲイツですらインターネットに乗り遅れました。例をあげればきりがありません。もしあなたがこんな「固定観念」に縛られだしたと感じたらすぐに状況を再認識しなければなりません。相場の世界も含め常に世の中は新しいものを求めているのです。おかげで人間の世界はまだ前進しているともいえるのでしょう。
視点
スピルバーク監督の代表作にETという映画があります。この映画の撮影は、子供の視点の高さで行われたということを知っている方も多いと思います。子供の時には大人が大きく見えたり、地面の虫や草花が良く目についたりしました。子供の気持ちに近づくために はまず視点を下げることが必要とも言われます。たとえば、幼稚園の保母さんが立ち膝で子供と会話をしている光景も良く目にします。このように視点を変えることでこれまで見えなかったものが見えたり、見えるものが見えなかったりします。物事も視点を変えること で思わぬ発見をする時があります。これまで事業などで成功をおさめた人々も他の人と違う視点で「もの」をみることができたことが成功の大きなひとつ理由と思われます。もちろん、そこにはタイミングという重要な要素も含まれていますが。
相場においても、この視点の切り替えは重要であると思われます。例えばディーラーなら投資家の立場で相場を見る目が必要となり、投資家もディーラーが何故右往左往しているのかといったことを見極めておく必要があると思います。相場は結局市場参加者がつくるものです。ケインズの美人投票ではありませんが自分が票を投じる時は市場参加者が売り買いどちらに投じたがっているのかを見極めて投票しなければなりません。相場には絶対ということがありません。美人にも絶対というのがあるんでしょうか。
また、相場参加者が何に注目しているかも常に把握していなければなりません。あとで考えるととんでもない視点から相場を見ていたというケースもままあります。昔の話しになりますが、ミシシッピー川の水位が低下しているというだけで、日本の債券が売られたということが実際にありました。当時、円債は米国債の動向と非常に連動性が高かった事がまず第一の原因です。そして、その米国債は非常にインフレに敏感になっておりそのインフレを示す代表的な指標としてCRBという指標が注目されていました。そのCRBインデックスは穀物相場に比重が大きくかけられていたのです。穀物相場は当然、天候等に左右されやすい。アメリカの穀倉地帯はミシシッピー沿岸です。そのミシシッピー川の水位が低下しているということは、雨が降らずに水不足ということを示しています。そのために穀物の収穫量が落ちる、そしてCRBインデックスが上昇、米国債が売られ、日本の債券も売られるといった、まさに風が吹けば桶屋が儲かる的な発想でした。今考えるとなんでそんなものを注目していたんだと思うことでも、当時はみな真剣にミシシッピーの水位を気にしていたのです。
また、テクニカル指標にもはやりすたりがあります。一目均衡表というテクニカル分析が流行ったこともありました。そういう時はねこも杓子も均衡表ではうんぬんといったコメントをだされていました。雲を抜けたとかで売り買いを行っていた方も多いと思います。テクニカル指標などはこれで相場が当たると評判が立てばみな注目することによって実際に相場参加者が疑心暗鬼ながら売買に使用するよ うになります。そうなれば一時的にせよ当たるようになることも事実です。するとまた評判が高まるといった循環を繰り返すのですが、残念ながらテクニカル指標にも絶対的なものはなく、いづれみなの視点はちがうものに移っていきます。そういえば占星術が流行ったこともありました。一時的にせよ当たると信仰者が増えます。私も糸川英夫氏の占星術の本のデーターで分析を試みようとしたこともありました。非常に短期的にものをみるにはこういった、はやりすたりの視点を気にする必要がります。しかし、木見て森を見ずのたとえではありませんが、もう少し高い視点で相場見ていく必要があるのも確かです。例えば先程のように投資家の視点を持つ必要もあるし、状況によっては政治家の視点に立つ必要もあります。また、ヘッジファンドの視点も今は必要でしょう。相場をいろいろな視点、観点からみるべきことはいうまでもなく相場に勝つ上で重要な要素となると思われます。
反射神経
ディーラーと呼ばれる人種は常に情報端末のディスプレーとにらめっこしています。ロイター、テレレート、時事、ブルムバーグ、クイック等の端末。そして円債関係者は、東証先物端末と日本相互証券の端末等々。特に相場が動いている時など、神経を張り詰めながら端末のディスプレーを見ています。プレイステーションとかのゲーム機で夢中になり徹夜している状態と言えばわかっていただけるかと思います。このため、仕事が終わると目が痛みます。帰りの電車でぼろぼろと涙を流しているのもしばしばです。他の人がみたら、「あら、リストラかしら」「きっと不倫がばれたのよ」「社内いじめよ、きっと」とあらぬ想像をかきたてられてしまっているかもしれません。
なぜ、これほど集中して見ているのかと言いますと、値動きを追っているということもありますが相場の動向にからんだニュースが流れてはいないかと、各通信社のニュースを虎視耽々と睨んでいるわけです。たとえば日銀の資金調節や、日銀短観、鉱工業生産指数とかマネーサプライといった各種経済指標の発表などが即座にこれら端末で発表されるからです。また、日銀総裁や蔵相、政府首脳の発言などもこれらの端末から流れます。
定例とか、発表時間があらかじめわかっているものはとにかくとして、突然、流れてくるものも当然あります。「現在の株価は、経済実態に対して高すぎる」といったコメントが政府要人から突如流れると、株式相場は突然、急落したりします。こういったコメントが流れた時は、まさに反射神経がものをいいます。見た瞬間に売買注文を押さなければなりません。しかし、えてしてこういったときは、トイレに行ってたりするのですが。
ただし実際にその場で注文を執行しても、売り気配などに巻き込まれるケースも多く、反射神経だけでなんとかなるものではないことも確かです。しかし、早めに気がつけば対処できることもあります。かなり昔になりますが、公定歩合が上がる可能性が強まっていたとき、時事メインのスポットニュースで「公」という字がでただけで、ショートして大きく儲けたこともありました。しかし、こういったことはまれであることも事実です。特に円債ディーラーは(私を含め)英語に弱い。英語で重大ニュースが流れても反応せず、皆が辞書を片手に訳し終わったころ?動きだしたり、日本語になってから動くいうのも多いのです。本当ですよ。
だからといって反射神経を磨けというわけではありません。むろん、ないよりあった方がよい事も確かですが。問題はこういった非常事態にどう対応するかであると思います。現在の相場の居所、マインドがどちらに傾いているか。経済状態を相場がどう認識しているかなどを常に頭にたたきこんでおかねばなりません。突然流れたニュースが、それ自体はそれ程影響を及ぼすとは思えないものの、相場の流れを変えるきっかけとなることもあるからです。なんでこんなに反応するのか相場がおかしいんだ、と思う前に相場の状況を良く認識する必要があります。そうすればこのような材料でで下がるのはおかしいと勝手に決め込んで切るのをためらい、さらに損失を大きくするということもなくなるはずです。しっかりした状況判断と反射神経。両方兼ね備えられれば、相場に勝ち残るのは容易になると思われます。
沈着冷静
自分の感情を抑制し冷静に状況判断を行う。人間的な魅力には欠けるものの、非常事態でも乗りきってしまう。確かにかっこいいのですが、実際にこんな人物が存在するかといえば、やはり物語だけのような気もします。やはり人間ですからうれしい時には笑い、悲しい時には泣いてもいいではないかと思います。相場が、思った方向に動いたら、○○買い!!と声を出し、反対に動いたら机を蹴飛ばす。やりすぎは問題ですが。実際にディーラーには奇声を発したり、物にあたったりする人間が多いようです。ポジションを持つだけでストレスがいっきに溜まるため、なにかで発散しようとする行為なのでしょう。できれば、他の者に迷惑をかけない程度でお願いしたいと思いまいが。自分と反対のポジションを持つディーラーが大喜びしている時、コノヤローと心のなかでさけんでいるのは私だけではないと思います。
ただ、注意したいのは、表情・表現はとにかく、相場に対してはなるべく冷静沈着に対処するように努力する必要があると思われます。熱くなっては当然負けます。少しで済む損失を雪だるま式に増やさぬためには自分を押さえる能力が必要です。この能力が欠如している方はどうか相場には参加しないでください。6割の勝率なんて無理ですよ。このように必要なときにこの自制心をもてるかどうかが、最終的にディーラー等の資質を決めるといって過言ではないと思います。このためにはやはり経験を積むしかないと思います。若いうちは、ざら場中に大騒ぎしても、「活気があって良い」となりますが、ベテランが騒いでいると「年甲斐もなく」となってしまいます。経験を重ね、波に揉まれると、いざという時に冷静に対処できるようになるはずです。人間味をもちながら、肝心なときに冷静沈着となれる。言うのは易いのですが、実際には確かに難しいことではあります。しかし、なるべくそうできるように努力しなければなりません。
右往左往
昔、カップヌードルのCMで、原始人が恐竜に追われて、右・左にドタドタと動きまわるのものがありました。外国で外人の俳優を使って撮影したとのことですが、なかなか特撮もすぐれ良く出きたCMでした。しかし、この右往左往はなにも原始人に限ったことではありません。現代人の行動にも良くみられると思います。相場においてもこれは良くある現象です。するすると買われて、あわてて買いを入れると、突然止まって今度は、するすると下げ始めるたりする。今度はあわててみな売ってくる。特に瞬時に売買をすることを生業とするディーラーにおいてはこの現象は顕著であると言えます。「相場は相場に聞け」という名言(迷言?)がありますが、まさに相場の動きを信じるあまり、その動きで右往左往してしまうのです。東証とかの板を目の前にしていると、つい目先の動きに囚 われがちです。この動きをうまく掴んで、ちゃっかりと日々の値鞘稼ぎをするディーラーもいるようです。いや、わざと相場を振らさせてひと稼ぎしようとする輩も実際多いようで、板(売りものと買いものが掲示されている)に見せ玉といわれる大口の指し値を入れて、相場参加者に動揺を与えようとしたりするのです。これも何度もやっていると、さすがに見破られます。まあ、これはテクニックというより、自分のポジションの方向に動いてくれないための苦肉の策ということでしょうか。私などはこういった事は労多くして益少なしと思うのですが。
しかし、相場は心理戦です。日銀総裁が同じことを言っても、その時々の相場環境で捉え方は大きく異なってしまいます。前述の原始人の例でも、一番前を走るひとから、恐竜に踏まれそうになっている人まで長い列ができています。如何に適切に判断できるかがこの原始人達の生死を分けます。反射神経のところでも述べましたが、相場でも実際に値が動いてから対処していては遅い場合が多いのです。画面に出ている注文は、すでに数秒前に出されたもので、それを見て動こうとする参加者が一斉に注文を出すのです。適時に反応できた参加者は、その後の群集のおかげでゆうゆうと利食いが出せます。しかし、この時点でもまだ判断しかねている参加者もいるのです。確かに目先の利鞘稼ぎだけが相場ではありません。むしろ、機関投資家など長期のスタンスで動いている投資家は、そう年中、右往左往していては経費だけでもかさんでしまいます。ただ、大きくトレンドが変わるような材料には適切に対応しないといけません。相手は相場です。目先の動きの積み重ねが結局、大渦を巻き起こします。カオスの理論ではありませんが、アメリカの蝶の羽ばたきが太平洋に台風を起こすのです。もう少し、もう少しといっている間に恐竜に食われてたということにもなりかねないのです。
朝令暮改
相場の世界は一寸先は闇です。明日の相場もわからない以上、長期予想などは無意味と私は常々考えています。確かに予想は予想であり現状をとらえその延長上に先行きの見通しを建てる事は必要かもしれません。むしろ、その予想の組み立ての仕様が必要になる場合もあります。しかし、相場参加者が必要としているのは、あくまで当たる予測です。もし1ヵ月先の相場が正確にわかれば、一生遊んで暮らせるというより相場自体なくなってしまうでしょう。その不確定要素が相場という場を与えているともいえそうです。このため、どうあがいても予測は困難です。
実際に相場に参加していない限り、相場の恐さはわからないであろうと思います。相場参加者も当然ながら、予想・予測は常に行っています。いきあたりばったりの者はいないはずです。相場に入っていることによって、その相場に内在する力やベクトルのようなものを肌で感じ、その予測を状況に応じて適時に変更しているはずです。
しかし、その時々で多少の軌道修正はするにしろ、基本的なトレンドをどこかで意識していることも確かです。その、拠り所としているのは人によってファンダメンタルであったり、チャートであったり、また場合によってはエコノミストの見方であったりすると思います。ただ、その予測が外れた時の責任はすべて売買している当人に帰するのです。したがって、あの人が言ったからと、かチャートがおかしいとかの言い訳は効きません。売買損益という数値ではっきりと示されてしまうのです。その点、第三者はいいですよね。今回は特別とか、異常事態とかで言葉を濁すだけでよいのですから。相場は異常事態の連続であるといっても過言ではないともいえるのですが。そういうわけで、相場参加者はえてして朝令暮改どころか、一分前に言っていたことと実際にやっていることは異なる場合も多々あります。いや、むしろその方が多いかもしれません。
リーク
相場には一定のルールがあります。取引所で行っているものは時間が制限されています。また、相場操縦なども禁止されています。しかし、相場参加者は誰しも利益を稼ぐために血眼になっています。このためルールやぶりに似た行為も行われることもありました。相場を張る上で情報は生命線です。相場参加者に限らず人間誰しも他人の知らない情報を得たいという願望を持っていることも確かです。それがステイタスを示すからと考えている者もあれば、それで一攫千金を狙おうとしている者もいます。人間、他の人が知らない情報を持つとその瞬間に優越感に浸れることも確かです。ただ、この優越感を実感として感じとるために他の者に「ここだけの話しだが・・・」と伝えてしまうこともままあります。「えっ、何で知っているの」と聞かれ、「ちょっとね。・・」となるのです。何がちょっとでしょうか、俺はお前と違うんだと本当は言いたいのでしょう。
いくら情報開示だ、ディスクロージャーだといっても、肝心な情報ほど見えてこないものです。銀行も倒産して初めて不良債権の額がはっきりしたりします。もちろんプライベートな情報など開示してもらっては困るというものも多いことも確かです。ただ、情報を秘匿することで立場を擁護しようとする習慣が人間にはあります。米国などの軍事関係者など階級に応じて接する事のできる情報が異なるようです(トム・クランシーなどの読み過ぎか?)。偉くなりたいということは、むろん金銭的な欲求からもあるでしょうが、他の者が接することのできない情報を得ることができるためということも強く影響していると思われます。
結局、資本主義とか民主主義は不公平の上になりたっているといえます。ビル・ゲイツの資産と私の資産を比べれば明らかです。あまり年は違わないのに。しかし、ビル・ゲイツなどは確かに自分の才覚と時代の流れを適格に見る目そして、得たチャンスを最大限生かせる能力でここまでのし上がって来たと思います。DOSをIBM用に提供できたのも、たまたま入ってきたチャンスをタイミングよく利用できたことが原因と彼自身の著作などで述べられています。このチャンスというものは万人に公平にあるといっても良いと思います。公平なゲームでの勝ち負けに関しては誰しも文句はいえません。問題は不公平な状況におけるゲームなのです。
株式市場ではインサイダー取引は禁じられています。株式取引というゲームを公平化するためです。一般的に国債の売買などではインサイダー取引は存在しないと言われます。しかし、本当にインサイダー取引というものは存在しないのでしょうか。昔、日銀短観や鉱工業生産指数など発表前に流れた噂がなんと実際の数値とピタリ一致したのです。景気動向指数など前もってある程度計算が可能なものならとにかく、短観などはアンケート集計であり、正確な数値を掴むには内部情報が漏れたとしか言い様がありません。かなり昔ですが短観のコピーそのものが流れたことも実際にあったのです。日銀はリークがあったことは絶対に認めませんでしたが、短観の発表日や発表時間を繰り上げるといった対策をとりました。しかし、今後もこういったことは十分に起こり得ると考えてもよいのではないでしょうか。
ただ、この情報を握ったものは何故、前もって噂として流してしまったのでしょうか。そっとポジションを作って儲けりゃ良いと思えるのですが。確かに数値発表前に相場に与える影響を押さえるため、当局自ら流したという説もありえないことではありませんが、もしそれが本当ならは、それこそ言語道断と思われます。むしろ、最初にも述べたのですが、優越感に浸りたいがために他の者につい流してしまったからとみるべきではないかと私は思います。
それはともかく、リーク自体すでにルール破りであることは確かです。情報を流した者は例えその者の立場から知り得たといえど守秘義務を担っているはずです。このため、株式市場におけるインサイダー取引同様の処罰を帰するべきであろうと私は思います。鉱工業生産速報値では、リークの存在を隠蔽するためか、相場を撹乱し一儲けしようとしたのか知らないが、わざと異なる数値をうわさとして流した気配もありました。多分、もう今後は警戒してリークした数値は流しては来ないとは思いますが、依然としてリーク自体は続くことは十分に考えらます。これでは一部の者が自分の才覚など関係なく、何等努力せずに売買益を揚げる結果は続いてしまいます。どうかこういった事態は早急になくしていただきたい。神経をすり減らしながら相場に参加している者がばかをみてしまいます。楽して儲けることなどできないことを是非示していただきたいものです。
複雑系
複雑系という考え方が一時ブームになりました。多くの複雑系に関する書籍も出たようです。この複雑系というのは簡単にいうと「たくさんの要素がつながりあっていて思いがけないことが起こること」(複雑系からみた経済、西山賢一氏)です。常に進化している生物の生態と経済とかを同様の土俵で考えてみようとするのが複雑系の考え方です。「特別の原因がなくても複雑系としての経済に内在する仕組みから、為替も株価もまれに大きな変化を示し、ひんぱんに小さな変化を示すこととなる」(西山氏)。ちょっとした誤差が後に大きな違を生み出すのがカオスの考え方です。複雑にからみあった要素の一部の変化が大きな変化を生み出し、相場でいう「予想外」といった現象を生み出したりしているのです。
たとえば病気にしても原因がはっきりしているものもありますが、ストレスとか言うようなものは原因がはっきりしていません。単純な分析では無理があり、総合的な分析が必要となります。また、同様の遺伝子をもった細胞がどのように手となったり脳となったり筋肉となったりするのでしょうか。免疫の仕組みも徐々に解明されているといってもまだまだ未知の部分が多く、新たな考え方が求められたりしています。ランダムのようでなんかしらの規則性が見出せるもの、そういったものを分析しようとするのが複雑系という考え方といえましょう。車の渋滞、鳥の群れの動き、そして相場と言われるもの。個々をみると単純な動きなのであるがそれが集合すると大変複雑な動きとなります。米国サンタフェ研究所ではかなり前からこの複雑系という考え方の研究を行っているといるそうです。その研究のひとつに経済、なかでも相場の動きといったものも入っているようです。ノーベル賞授賞者級の方々の研究に、私のようなしろうとがどうのこうのと口出しはできないと思いながらも、とらえにくい相場の動きに対して新しい観点からの分析が可能になるのではとこの複雑系に対しては期待しています。
ここでなぜ相場において価格の形成が行われているのか改めて考えてみたいと思います。まず最初に、相場参加者は何故、リスクがある取引を行っているのでしょうか。もちろん主眼は利益を上げるためです。当然、損をするために相場を張っている人はいないはずです。結果として、そうなってしまうことはままあるのですが・・・。上がると思ってたから買うのですし下がると思ったから売るのです。 ただ、立場とか性格とかの違いで相場に入るタイミングが異なります。債券先物とかは非常に流動性が高く値が瞬時に変化してゆきます。債券の相場も基本は最終投資家と呼ばれる大手投資家の動向が大きな流れを決定しています。しかし、この日々の細かな動きを演出しているのはディーラーと呼ばれる相場参加者です。米国ではフロアー・トレーダーとかスカルパーとか呼ばれている参加者が流動性を高めているといわれます。これらの相場参加者は売買を行っても、すぐに反対売買をし鞘取りをしようとしています。すぐに、というのは人や状況によって異なります。数秒、数分、数時間?。益がでればすぐに手仕舞うし、損がでてがまんしきれなくなると投げたり踏んだり(買いから入って売るのが投げ、売りから入って買い戻すのが踏みと呼ばれます)するのです。
債券先物の日中足というのがあります。最近の情報端末はずいぶん発達しついた値をすべてグラフ化してくれます。昔は、自分で瞬間の動きをポイント&フィギュアでつけていたり私の知り合いのディーラーは全部の値をパソコンに入力していました(良く売買する時間があったと思いますが)。この日中足をみると予想以上に値動きが激しいことがわかります。
これらディーラー(日計り中心に売買する市場参加者)が売買の目安としているのは、例えばこの瞬間の動きを示すグラフや、各種ニュース端末、そしてディーラー間の情報交換です。むろん、直接投資家の動向がつかめた時は、その投資家動向が最重要視されます。しかし、この投資家動向は通常は噂というかたちの口コミで広がります。受けた業者も当然守秘義務があります。○○が売ってきたよ、などと他社にもらすことならもう注文はこないであろうことは確かです。しかし、結局、どこからか漏れてきます。
ディーラーはこういった情報をもとに売り買いを繰り返しています。口コミには確かにタイムラグがありますが、しかし情報端末などは皆ほぼ同じものを使っています。大きなニュース等がでたときには一方通行となる場合がありますが、これは非常にまれであり通常はバラバラの波といった動きをしています。ディーラーは多少でも経験をつむと、だいたい同様な相場の見方が形成されると思います。それでもこのうねりが何故形成されるのでしょうか。やはり個々人の性格や相場の経験度、ポジションの状況、上司が近くにいたといった状況?とかの要素で売買のタイミングが違ってくるのでしょう。
しかし、こういった個別の要素が相場というものに集約されるとまるで生き物のような動きをするのです。もしこの動きが解明されれば現代の錬金術を解き明かした事になるとも思われます。過去にも多くの者がこれを解明せんとがんばってきました。しかし、これで絶対儲けられるという物を作ったものはいません。しかし、なんとかこれにアプローチできないでしょうか。複雑系という考え方がここに役にたつような気もするのですが。
以上話があちこちとんでしまいましたが、相場に臨むにあたって是非目を通していただ きたいことをいくつか羅列させていただきました。もちろん、これを読めば儲かるなとどというものは存在しません。ただ、やり方次第では相場という荒波のなかで利益を確保することは可能と思われます。確かに運用スタイルが異なれば当然、マーケットに接する方法も異なってくると思われます。銀行でも投資勘定と商品勘定では運用方法は違うでしょうし、生保や年金運用、信託、官公庁、事業会社、外人、個人などなど立場かわれば相場に対するスタイルは大きく変ります。しかし、すべてにおいて「儲ける」という目的に変わりはないはずです。「運用利回りをアップする」というのも結局、相場に勝つことに相違ありません。相場に勝つことを目標とするならばこのサバイバル術が有効に働くこともあるのではないかと考えています。特に「勝率6割をめざせ」ということはやはり念頭に置いておく必要があるのではないかと思います。なかでもプロ同士の駆け引きの場となっている債券相場など勝率アップこそ相場参加者の生き残るすべと考えています。最後に以前に生じた巨額の損失事件について見ていきます。特に住友商事の事件を事例研究としてコメントします。
巨額損失事件
1996年6月14日に発覚した住友商事の銅取引における不正取引は、英国ベアリングズ証券や大和銀行の事件などにひき続き、ついに日本を代表する商社でも、ディーリングにおいて巨額の損失を出すという事件が起こったことで国内外に大きなショックを与えました。
この住友商事の例は金額からも史上最高の損失額であったようです。しかし、浜中氏も井口氏もニック・リーソン氏も長い期間にわたって、よくもだまし通したものだと思います。あらためて、リスク管理の甘さが痛感させられます。ディーラーは熱くなるとなにをしでかすかわかりません。トイレの壁を壊す程度ならいいのですが(実際あった話です)、損を取り戻そうとかっとなって相場を張って儲かるはずがありません。自制心を取り戻すためにもロスカットルールなり、ポジションの限度額が設けられているはずで、これを徹底させる仕組みがつくられているのが当然といえます。また、回りにもディーラーの善し悪しを判別しうるベテランのディーラーなりいたはずでしょうが、見抜けなかったようです。
実際、住商の浜中氏の近くにいたディーラーに間接的ながら話しを聞いても、少しも損失を被っているようなそぶりはみせなかったとの話です。実は私もこれら事件の前に発生した東京証券の外債における損失事件の当事者と何度か顔を合わせたこともありましたが、あの人がそれほど損失をだしていたとはまったく想像できませんでした。
新聞等の報道からみると、浜中氏は少なくとも10年前から損を出していたとか。損失額は約18億ドルと報道されていましたが、腕利きディーラーにみせるために少なからず益も計上していたはずで実際の損失はこれよりは少ないとは思いますが、信じられない額の損失であることにはかわりありません。損失を取り戻すために商いが増え続けついにミスターファイブなどと呼ばれる程になり、また見せかけのために多大な犠牲を会社に強いたことは確かです。
憶測ではありますが、彼らは、当初ある程度儲けを出したのではないかと思います。どのディーラーも50%の勝率はあり、たまたま、勝ったにもかかわらず自分の実力と過信してしまった可能性が強いと思われます。まわりでもちやほやされ、また、業界内でも名がでてくると余計にうぬぼれて一時的に損を被ってもいずれ取り戻せると思い込み、ポジションを次第次第に膨らませて、結局、多額の損失を被ってしまう。こういうことは大なり小なり多く見受けられます。元大和銀行行員の井口氏もやはり米国債の取引では名うてのディーラーと思われていたようです。通常はこういったことは、早期に発覚され配置転換等させられ、相場から遠ざけられるのが普通ですが、たまたま、隠しおおせたためこのような結果となったてしまったと思われます。
しかし、ただのディーラーが良くここまで過大評価されたものです。浜中氏は温厚でソフトなイメージの紳士だそうですが、日本を代表する商社ですらその人間の適応性等の適切な評価ができないようです。世界的に有名だというので、住友商事の社長まで会いに行ったとか。大和銀行の井口氏も嘱託の身ながら本社の重要な会議に出席したりしたようです。人事のむずかしさが痛感させられます。
相場というのは特殊な環境であることは確かです。商社にしろ銀行にしろ相場に携わる者はほんの一部であると思われます。また、大手企業ほど配置転換は頻繁に行われています。やっとディーリングに慣れてきたら異動というケースも多いと思われます。これでは確かに人も育ちません。事件を起こした人間達はたまたま同じ業務を何年も続けられる立場にいたことも事件を大きくさせる原因となっています。良い悪いは別にして結果的に相場という特殊業務の専門家となり他の者の信頼を大きく得ることができたと思われます。もし、本当に儲かっていたのならこれほど頼もしい存在はありません。しかし、実際にはあせりだけで相場をはっていた最悪の相場師であったわけです。
この事件では業務に対する管理上の問題にあります。しかし、人間を管理する上で信頼という2文字に特に日本人は比重を置きがちです。これでは同様の事件はなくならないでしょう。特に相場に携わる者は厳重な管理を必要とされます。そして、ディーラー等を時間をかけて育てあげなければなりません。それには相場のベテランも必要となります。相場の恐さに精通し利益の上げることのむずかしさを知っている者が必要でしょう。
昔、債券相場が本格的なディーリング相場の様相を呈した時代がありました。10年国債の89回債が指標のころの話です。この時は大手証券を中心としたグループが債券相場でまるで仕手戦のような買い仕掛けをしていました。しかし、この債券バブルも長くは続かずタテホショックなどを生み出しました。多くのディーラーが多大な損失をだして消えてゆきました。しかし、この異常相場のなかで、慎重にリスク管理をしていたところがあったのです。一見、大きく仕掛けをしているようにみえて、実はうまくポジションを減らしながら利益を出していたのです。そして、最後の大きな下落の際には大きな痛手は免れました。リスク管理に失敗したところは、ほんとうに悲劇的なこともあったようです。このように相場に精通しリスクをしっかり掴んでいる者がいることはたいへんに重要なことです。
巨額損失事件、そして銀行の不良債権処理問題。これらはすべて相場にからんだ事件です。特に日本人はみんなで渡ればこわくないといった意識が強く、銀行当事者も相場が悪かったと相場のせいにしている気配もありますが、相場ではなく相場感が欠如していたことが数兆円もの不良債権を生み出してしまったのです。
相場は確かに恐いものですが、やり方次第では富を生み出します。これを読んでいただいた方がもしマーケット・サバイバルに際して多少でも得るところがあったならば幸いです。私自身は、派手なディーラーではありません。しかし、これまで相場の世界で生き残ることができました。これを読んでいただいた方が一人でも多く儲けていただき、この非常におもしろい相場という世界で生き残ってほしいと思います。
とりあえず、これでこのマーケット・サバイバルはいったん終了とします。ここまでつたない文章ながらつきあっていただいた方には大変感謝します。もし、御意見・感想等いただければ幸いです。1997年3月吉日